説明

物体検知装置

【課題】送信波を送信する送信部と反射波を受信する受信部との位置が離れていても、簡易な構成で、物体の検知精度を高めることができる、物体検知装置の提供を目的とする。
【解決手段】レーダー1とレーダー2とを互いに間隔を空けて備える、物体検知装置であって、レーダー1の送信波とその送信波がターゲットに反射してレーダー1で受信された反射波との関係、並びにレーダー1の送信波がターゲットに反射してレーダー2で受信された反射波とレーダー1の送信波が漏洩してレーダー2で受信された漏洩波との関係、に基づいて、当該ターゲットを検知することを特徴とする、物体検知装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信波とその送信波の反射波を用いて物体を検知する、物体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体の検知が可能なレーダー装置が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1に開示の技術は、送信アンテナ素子と受信アンテナのビーム形状を鋭角・遠距離もしくは広角・近距離に切り換えるものである。特許文献2に開示の技術は、送信アンテナから受信アンテナへの漏洩波の影響を排除するため、受信アンテナからの受信波を送信パルスの幅に相当する時間以上遅延させるものである。
【特許文献1】特開2003−248055号公報
【特許文献2】特開2005−156378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、異なる方向から物体を検知することによってその物体の検知精度を高めることができるので、送信波が物体に反射することによって生じた反射波を複数の異なる位置で受信する場合がある。しかしながら、送信時の送信波の状態と受信時の反射波の状態との比較をすることによって物体を検知するため、送信波を送信する送信部と反射波を受信する受信部との位置が離れていると、当該比較に必要な波の状態を伝送する配線などの構成を送信部と受信部に施さなければ、当該比較をすることができず、物体を検知することができない。
【0004】
そこで、本発明は、送信波を送信する送信部と反射波を受信する受信部との位置が離れていても、簡易な構成で、物体の検知精度を高めることができる、物体検知装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、第1の発明は、
第一のレーダーと一又は二以上の第二のレーダーとを互いに間隔を空けて備える、物体検知装置であって、
前記第一のレーダーの送信波が物体に反射して前記第二のレーダーで受信された反射波と前記第一のレーダーの送信波が漏洩して前記第二のレーダーで受信された漏洩波との関係に基づいて前記物体を検知することを特徴とする。
【0006】
第2の発明は、第1の発明に係る物体検知装置であって、
前記第二のレーダーで受信された反射波と漏洩波との位相差及び前記第一のレーダーと前記第二のレーダーとの離間距離に基づいて、前記物体の位置情報が検出されることを特徴とする。
【0007】
第3の発明は、第1又は第2の発明に係る物体検知装置であって、
前記第一のレーダーの送信波と前記第二のレーダーの送信波の送信形式が互いに異なることを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するため、第4の発明は、
送信波を送信する送信部と前記送信波が物体で反射した反射波を受信する二以上の受信部とを互いに間隔を空けて備える、物体検知装置であって、
前記受信部で受信された反射波と前記送信波が漏洩して前記受信部で受信された漏洩波との関係に基づいて前記物体を検知することを特徴とする。
【0009】
第5の発明は、第4の発明に係る物体検知装置であって、
前記受信部で受信された反射波と漏洩波との位相差及び前記送信部と前記受信部との離間距離とに基づいて、前記物体の位置情報が検出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、送信波を送信する送信部と反射波を受信する受信部との位置が離れていても、簡易な構成で、物体の検知精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【実施例1】
【0012】
実施例1では、本発明に係る実施形態として、ミリ波レーダーを備える車両用ミリ波レーダー装置について説明する。ミリ波レーダーは、送信アンテナと受信アンテナとを備え(又は、送受信アンテナを備え)、送信アンテナからミリ波等の電波を送信し、物体に当たって反射した反射波を受信アンテナで受信し、その送信波と反射波との差分情報に基づいて、物体を検知するためのものである。その差分情報とは、例えば、位相差(時間差)や周波数差などが挙げられる。車両用ミリ波レーダー装置は、車両に搭載され、ミリ波レーダーの検出結果に基づいて、当該車両の周りの所定範囲内の物体の位置情報を検出する。物体の位置情報として、例えば、物体までの距離や物体の存在方向が測定される。また、物体との相対速度の測定も可能である。
【0013】
近年、更なる車両の安全性の向上を目指すため、物体の検知範囲の拡大が検討されている。その実現には、例えば、複数のレーダーを車両に搭載することで対応することができる。この場合、複数のレーダーからのミリ波の照射範囲が重複する範囲内の物体であれば、各レーダーの送信波とそれらの反射波とに基づく検出結果を複合的に利用することで、レーダーが一つの場合よりも精度良く検知することができる。
【0014】
しかしながら、レーダーを複数搭載するのはそもそも検知範囲を広げるための場合が多い。したがって、この場合、複数のミリ波の照射範囲が重なる範囲は狭いため、それ以外の広い範囲では、上述の各レーダーの検出結果を複合的に利用して精度を上げる方法は使用することができない。つまり、一つのレーダーの送信波しか当たらない範囲に存在する物体を検知する場合には、この方法ではその一つのレーダーの検出結果しか利用することができない。
【0015】
一方、送信アンテナから送信波を送信すると、指向性を持たせた方向を中心とするある程度の幅を持った範囲に電波が伝搬する。しかしながら、実際には、その指向性の方向以外の方向にも、ほぼ全周囲に渡って微弱な「漏れ電波」が送信アンテナや電子回路などから伝播している。レーダーを複数搭載した場合には、それらのレーダーがこの漏れ電波をお互いに受信することになる。
【0016】
そこで、本発明は、従来遮断されたり無視されたりすることがほとんどであった漏れ電波を積極的に利用することによって、お互いの送信波の情報をワイヤレスで取得し、その送信波の情報と受信した反射波の情報とを用いることによって、物体の検知精度を上げるものである。
【0017】
図1は、2台のレーダー1,2を車両前部の左右両側に設置した例を示した図である。レーダーは検知すべき方向に応じて車両に搭載され、図1の場合、レーダー1,2は、車両の前方や側方に送信波が送信されるように搭載されている。例えばフロントバンパー部やフロントグリル部やフェンダーに搭載される。図1に示される照射範囲は、レーダーを2台用いることによって広角化し、車両前方の物体を検知するときにはビームを絞って遠くまで検知することを意図した場合の例である。
【0018】
また、各レーダーは、他のレーダーの送信波が物体に当たって反射した反射波及び他のレーダーの送信波の漏れ電波を受信できるように配置される。すなわち、各レーダーの受信アンテナは、他のレーダーによる反射波及び漏れ電波を受信可能な角度範囲(スキャン範囲)に設定される。したがって、それらの電波を受信可能な受信角度範囲は、送信波が送信される送信角度範囲より広くなる。なお、スキャンの方式は、電子スキャンやメカスキャンなど適切なスキャン方式を用いればよい。
【0019】
レーダー1から送信された送信波は、検知対象物体であるターゲットに当たる。その反射波は、レーダー1で受信される一方で、レーダー2でも受信される。また、レーダー1の送信波の送信時にレーダー1から漏れた漏れ電波も、レーダー2で受信される。同様に、レーダー2の照射範囲にターゲットが存在するならば、レーダー2から送信された送信波がターゲットに当たって反射した反射波は、レーダー2で受信される一方で、レーダー1でも受信される。また、レーダー2の送信波の送信時にレーダー2から漏れた漏れ電波も、レーダー1で受信される。
【0020】
また、受信した電波がどのレーダーから送信されたものなのかを判別するために(つまり、レーダー2で受信した反射波がレーダー1から送信された送信波の反射波なのかレーダー2から送信された送信波の反射波なのかを判別するために)、各レーダーの送信波の送信形式(例えば、送信波の送信タイミング、周波数、振幅など)は異なるように設定される。
【0021】
例えば、各レーダーがパルス方式のレーダーの場合、パルス発生回路によって送信パルスが生成され、送信パルスの送信タイミングを各レーダーで異ならせる。例えば所定の時間間隔で各レーダーから順番に送信パルスを送信することによって、受信した反射波の判別をすることができる。なお、当該時間間隔は、レーダーから送信された送信パルスがレーダーの最大検出距離を往復する時間より長い時間に設定されればよい。また、受信した反射波の判別をするために、送信パルスを搬送する搬送波の周波数をレーダー毎に異ならせても良い。例えば、レーダー1の搬送波を76.4GHzと設定し、レーダー2の搬送波を76.6GHzと設定すればよい。これにより、受信した反射波の搬送波の周波数の違いによって、受信側でどのレーダーによる反射波なのかを判別することができる。
【0022】
図2は、ターゲットとレーダー1,2との位置関係を示した図である。図3は、送信波及びその漏れ電波、並びにその送信波の反射波の時間関係を示した図である。レーダー1,2がパルス方式のレーダーの場合、レーダー1から送出された送信パルスが、ターゲットで反射されてレーダー2に届いたとする。レーダー1とターゲットとの距離をr1、ターゲットとレーダー2との距離をr2、r1とr2の和をR、ミリ波の速度をc(=約30万km/s)とすると、レーダー1から送信されてからレーダー2に受信されるまでの送信パルスの遅延時間T1は、
T1=R/c ・・・(1)
と表すことができる。
【0023】
一方、レーダー1から出た漏れ電波は最短距離でレーダー2に伝わり、その距離dはレーダー1の設置点F1とレーダー2の設置点F2との間の設置間隔(つまり、レーダー1の送信アンテナの設置点F1からレーダー2の受信アンテナの設置点F2)であるから既知である。漏れ電波が設置間隔dを伝搬する伝搬時間T2は、
T2=d/c ・・・(2)
と表すことができる。
【0024】
したがって、漏れ電波のパルスと反射波のパルスとをレーダー2で受信した時の時間差△Tは、
△T=T1−T2=(R−d)/c・・・(3)
となる。レーダー2側で実際に計測できるのは△Tであるため、実測した時間差△T並びに既知の定数d及びcに基づいて、式(3)に基づき、Rを算出することができる。したがって、コンピュータ等の演算回路によってRが算出されれば、ターゲットは、レーダー1とレーダー2の設置点F1、F2を焦点とする長径R(=r1+r2)の楕円上に存在することがわかる。
【0025】
一方、送信パルスを送信したレーダー1は、その送信パルスがターゲットに当たって反射し距離(2×r1)を伝搬した反射パルスを受信するので、従来の単独のレーダーと同様に、ターゲットまでの距離r1とターゲットの方向を示す送信角度θ1を測定することができる(図2参照)。
【0026】
したがって、図4に示されるように、レーダー1及びレーダー2による検出範囲のそれぞれには距離や角度等の誤差が含まれているが、レーダー1により検出された距離r1及び送信角度θ1とレーダー2により検出された楕円情報とを組み合わせることによって、レーダー1単独で物体を検知する場合よりも、物体の検知精度を高めることができる。
【0027】
このように、実施例1によれば、レーダー2の送信波が届かない範囲内のターゲットについてもレーダー1とレーダー2の双方で検知でき、双方の結果を組み合わせることでそのターゲットの検知精度を高めることができる。
【0028】
なお、レーダー1の送信パルスの反射パルスの到来方向(すなわち、受信角度θ2)を測定して上述の測定結果と組み合わせることによって、検知精度を更に高めることができる。
【実施例2】
【0029】
実施例2では、本発明に係る実施形態として、送信機11と受信機12a,12bを備える車両用物体検知装置について説明する。なお、実施例2において、実施例1の内容を援用可能な部分については説明を省略又は簡略する。
【0030】
図5は、1台の送信機11を車両前部の中央に設置し2台の受信機12a,12bを車両前部の左右両側に設置した例を示した図である。送信波11は、ミリ波等の送信波を送信する。受信機12aと12bは、送信機11から送信された送信波が物体に当たって反射した反射波を受信する。送信機11と各受信機12とは所定間隔空けて設置され、送信機11の送信波の反射波が受信可能なように各受信機12の受信範囲角度は設定される。このような構成にすることによって、実施例1と同様に、送信機11から送信された送信波と受信機12aで受信した反射波との差分情報、並びに送信機11から送信された送信波と受信機12bで受信した反射波との差分情報に基づいて、物体を検知することができる。送信波がターゲットに当たって反射して反射波を送信機11の設置位置から所定距離離れた受信機12aと12bで受信することによって、異なる方向からターゲットを検知することになり、ターゲットの検知精度を高めることができる。更には、送信機11が「送受信機」であれば、送信波がターゲットに当たって反射した反射波を3箇所(11,12a,12b)で受信することができるので、更にターゲットの検知精度を高めることができる。
【0031】
上述の実施例1と同様に、送信機11から送信された送信波は、検知対象物体であるターゲットに当たる。その反射波は、受信機12aで受信される一方で、受信機12bでも受信される。また、送信波の送信時に送信機11から漏れた漏れ電波も、受信機12aと12bで受信される。
【0032】
送信機11から送信されてから受信機12a,12bに受信されるまでの送信パルスの遅延時間は,上記の式(1)で表すことができる。また、漏れ電波が設置間隔d1,d2を伝搬する伝搬時間は、上記の式(2)で表すことができる。さらに、漏れ電波のパルスと反射波のパルスとを受信機12a,12bで受信した時の時間差は、上記の式(3)で表すことができる。したがって、受信機12aにより検出された楕円情報と受信機12bにより検出された楕円情報とを組み合わせることによって、物体の検知精度を高めることができる。
【0033】
以上、上述の実施例1,2によれば、送信波を送信する送信部と反射波を受信する受信部との位置が離れていても、漏れ電波を利用することによって送信波のタイミングを受信側に通知することができ、簡易な構成で、物体の検知精度を高めることができる。すなわち、漏れ電波を利用することにより、送信部と受信部との間を配線する必要がなくなり、その配線に信号をドライブするドライバなどの回路も必要がなくなるので、搭載性の向上や小型化が可能となる。また、漏れ電波は現状でも出力されているものなので、ハードウェアの変更をすることなく、上述した内容を信号処理のアルゴリズムに反映するのみで実現が可能である。
【0034】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0035】
例えば、レーダーや送信機や受信機は、物体の検知対象範囲に応じて車両に搭載されればよく、車両前方の物体を検知するためには、車両前方に送信波が照射されるようにフロントバンパー部やフロントグリル部などの車両前部に設置されればよく、車両後方の物体を検知するためには、車両後方に送信波が照射されるようにリアバンパー部やバックドア部などの車両後部に設置されればよい。また、検知すべき対象物の高さに応じて、送信波の照射方向を俯角方向や仰角方向に変化させてもよい。
【0036】
また、送信波が物体に当たって反射した反射波を受信可能なレーダーや受信機は、上述の実施例以上の数を設けた構成でも、上述の実施例と同様に考えることができ、同様の効果が得られる。
【0037】
また、物体を検知するための送信波は、ミリ波等の電波に限らず、音波や光波でもよい。また、上述の実施例は、車両に搭載した例であったが、本発明に係る物体検知装置は、車両に限らず任意の適切な場所や建物に設置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】2台のレーダー1,2を車両前部の左右両側に設置した例を示した図である。
【図2】ターゲットとレーダー1,2との位置関係を示した図である。
【図3】送信波及びその漏れ電波、並びにその送信波の反射波の時間関係を示した図である。
【図4】レーダー1とレーダー2の検出範囲を示した図である。
【図5】1台の送信機11を車両前部の中央に2台の受信機12a,12bを車両前部の左右両側に設置した例を示した図である。
【符号の説明】
【0039】
1,2 レーダー
11 送信機
12a,12b 受信機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のレーダーと一又は二以上の第二のレーダーとを互いに間隔を空けて備える、物体検知装置であって、
前記第一のレーダーの送信波が物体に反射して前記第二のレーダーで受信された反射波と前記第一のレーダーの送信波が漏洩して前記第二のレーダーで受信された漏洩波との関係に基づいて前記物体を検知することを特徴とする、物体検知装置。
【請求項2】
前記第二のレーダーで受信された反射波と漏洩波との位相差及び前記第一のレーダーと前記第二のレーダーとの離間距離に基づいて、前記物体の位置情報が検出される、請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項3】
前記第一のレーダーの送信波と前記第二のレーダーの送信波の送信形式が互いに異なる、請求項1又は2に記載の物体検知装置。

【請求項4】
送信波を送信する送信部と前記送信波が物体で反射した反射波を受信する二以上の受信部とを互いに間隔を空けて備える、物体検知装置であって、
前記受信部で受信された反射波と前記送信波が漏洩して前記受信部で受信された漏洩波との関係に基づいて前記物体を検知することを特徴とする、物体検知装置。
【請求項5】
前記受信部で受信された反射波と漏洩波との位相差及び前記送信部と前記受信部との離間距離とに基づいて、前記物体の位置情報が検出される、請求項4に記載の物体検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−309561(P2008−309561A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156356(P2007−156356)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】