説明

物性改善したタンパク質組成物及び成形品

【課 題】 簡便で経済的な方法を用いてタンパク質の物性を著しく改善することにより、より広い用途に使用されるタンパク質組成物を提供する。
【解決方法】 ある種のタンパク質溶液に添加し、ある種の塩を適宜物性改善剤とともに添加し、これを乾燥することにより、機械的性質の著しく変化したタンパク質組成物を得る。
【採用図面】 なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性であるタンパク質組成物に関する。すなわち、本発明は極めて簡便で経済的な方法を用いてタンパク質の物性を著しく改善した組成物及び成形品に関する。
さらに詳しくは、本発明は、ある種の塩を可塑剤として特定の条件下でタンパク質溶液に添加し、それを乾燥させて得られるタンパク質組成物であり、従来のタンパク質の物性を著しく改善した組成物とすることにより、その用途を大幅に拡大しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、さまざまなアミノ酸がペプチド結合を形成してなるポリペプチドから構成されるタンパク質は、多種類に及び、その中でも水溶性タンパク質は扱いが容易であるため、食用、化粧品、工業材料等に多く用いられている。
【0003】
しかしながら、これらのタンパク質は、乾燥した固体状態においては、ペプチド結合のN−H基とC=O基とが分子間又は分子内で水素結合を形成しているために、柔軟性等の機械的物性が著しく欠如しているのが知られている。
【0004】
このようなタンパク質の機械的物性の不足を改善するためには、このようなペプチド結合の水素結合の形成を防ぐことが必要である。例えば、グラフト重合(例えば、J. Macromol. Sci. A、Vol.15、No.3、P. 515-525 (1981))等の化学処理によりタンパク質の機械的物性が向上することが知られている。しかしながら、タンパク質を化学処理する前記従来法は、化学反応を必要とすることから、コストが高くなり、不満足のものである。
【0005】
また、タンパク質にグリセロール、ソルビトール等の可塑剤を添加する試みも多く実施されている(例えば、J. Food Sci.、Vol.70、No.3、P. E172-E176 (2005)又はPharm. Ind.、Vol.58、No.10、P. 941-946 (1996)等)。しかしながら、後出の比較例4にも示すように、機械的物性の改善は効果が少なく、不満足である。
【0006】
本発明では、タンパク質に対して可塑剤としてある種の塩を添加することによってタンパク質の機械的物性を大幅に向上させることができ、その用途は大幅に拡大することができる点で、簡便で、かつ経済的な方法を提供することができた。
【0007】
従来から、タンパク質を含む組成物に金属イオン封止剤、ゲル化剤、水分保持剤等を添加することは数多く提案されている。例えば、特許公表2003−521551号公報(特許文献1)、特許公表2004−507581号公報(特許文献2)、特許公開平5−32941号公報(特許文献3)、特許公表2002−512929号公報(特許文献4)などがあるが、これらの添加物を加えることの不利とともに必ずしもタンパク質の機械的物性が満足すべき程度に改善されたとは言えなかった。
【0008】
上述するように、タンパク質の物性改善に金属イオン封止剤、ゲル化剤、水分保持剤等を添加する例はあるが、金属イオン封止剤、ゲル化剤、水分保持剤等に換えて、タンパク質の物性改善に結晶水を持った水溶性無機塩水和物又は結晶水を持った水溶性有機金属塩水和物を添加させることは知られていない。本発明で得られるタンパク質組成物の機械的物性は従来のタンパク質のみの成形品と比較して機械的物性、特に柔軟性において大きく向上することがわかった。
【0009】
以上の観点から、本発明の組成物では優れた機械的物性及び生分解性を有するタンパク質組成物を極めて簡便かつ経済的に提供することが可能となった。
【0010】
【特許文献1】特許公表2003−521551号公報
【特許文献2】特許公表2004−507581号公報
【特許文献3】特許公開平5−32941号公報
【特許文献4】特許公表2002−512929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、極めて簡便で効率が高く、経済的な方法を用いて機械的物性が著しく改善されたタンパク質組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、水に溶けた状態又はスラリー状態にあるタンパク質に、ある種の塩を添加したものを乾燥、固化させることにより、機械的物性が著しく改善されたタンパク質組成物が提供される。
さらに詳しくは、本発明のタンパク質組成物を得るには、タンパク質が水に溶けた状態又は水系エマルジョンの状態にあるとき、水が存在すると結晶水を持った水和物になる性質を有する水溶性無水無機塩又は水溶性無水有機金属塩を添加するか又は結晶水を持った水溶性無機塩水和物又は結晶水を持った水溶性有機金属塩水和物を添加することにより達成される。
【0013】
本発明は、以下の構成を有することを特徴とする。
(1)水溶性であるタンパク質及び結晶水を持った水溶性無機塩又は結晶水を持った水溶性有機金属塩からなるタンパク質組成物。
(2)タンパク質が水に溶けた状態又は水系エマルジョンの状態にあるとき、(A)水が存在すると結晶水を持った水和物になる性質を有する無水無機塩、(B)同上の性質を有する無水有機金属塩、(C)結晶水を持った無機塩水和物又は(D)結晶水を持った有機金属塩水和物のいずれか一つ又は二つ以上を添加した後、乾燥することによって得られることを特徴とする(1)に記載のタンパク質組成物。
(3)前記タンパク質が、ゼラチン、コラーゲン、ケラチン又はセリシンから選ばれた少なくとも一成分であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のタンパク質組成物。
(4)前記塩が、潮解性を有する無機塩であって、MgCl2、CaCl2、AlCl3、Mg(NO3)2、Ca(NO3)2、Al(NO3)3、Na2CO3、Na2SiO3、Na2HPO4、NaH2PO4から選ばれた少なくとも1成分であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質組成物。
(5)前記塩が、潮解性を有する有機金属塩であって、シュウ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩及びそれらの水和物から選ばれた少なくとも1成分であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のタンパク質組成物。
(6)前記塩の添加量が、0.1〜300wt%(タンパク質量基準)である(1)〜(5)のいずれかに記載のタンパク質組成物。
(7)さらに炭酸カルシウム、ガラス繊維、セルロース粒子、セルロース繊維などの無機又は有機の粒子状及び繊維状物質から選択された物性改善剤を添加することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のタンパク質組成物。
(8)前記物性改善助剤が、グルタルアルデヒド、グルオキサール、ヘキサメチレンジイソシアナートなどの多官能基を有する物質から選択されるか又はホルムアルデヒド、無水リン酸、オキシ塩化リン、トリメタリン酸塩、アクロレイン、エピクロルヒドリンなどの架橋剤である(1)〜(7)のいずれかに記載のタンパク質組成物。
(9)前記物性改善助剤の添加量が、0.1〜100wt%(タンパク質量基準)である(1)〜(8)のいずれかに記載のタンパク質組成物。
(10)前記タンパク質組成物を含有する液をゲル化、キャスト、流延、湿式紡糸、乾式紡糸、ゲル紡糸、押し出し成形、射出成形、型成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形又はシート成形のいずれかの方法により、フィルム、シート、糸、繊維、棒状、その他任意の成形品とすることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載のタンパク質組成物。
(11)前記タンパク質組成物を含有する液を材料表面に塗布し、乾燥させることにより、材料表面をタンパク質組成物でコーティングすることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載のタンパク質組成物。
【0014】
本発明では、上記の水溶性無水無機塩又は水溶性無水有機金属塩を添加した場合にも、これらはそれぞれ結晶水を持った無機塩又は結晶水を持った有機金属塩に変化するため、いずれの場合にもタンパク質中に結晶水を持った水和物として取り込まれることが必要要件である。
【0015】
本発明の組成物に使用できるタンパク質としては、水溶性のものであることが必要で、ゼラチン、コラーゲン、ケラチン、セリシン又はそれらの組合せを用いることができる。
【0016】
本発明において添加する塩は、水溶性の無機塩又は有機金属塩で、自体が水和物であるか、あるいは水の存在により水和物になる性質を有する潮解性無機塩又は有機金属塩を用いることができる。これらの潮解性無機塩としては、MgCl2、CaCl2、AlCl3、Mg(NO3)2、Ca(NO3)2、Al(NO3)3、Na2CO3、Na2SiO3、Na2HPO4、NaH2PO4又はそれらの水和物、及びそれらの組合せを好ましく用いることができる。有機金属塩としては、シュウ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩又はそれらの水和物から選ばれた少なくとも1成分を用いることができる。
【0017】
本発明では、タンパク質と塩からなる組成物に対して、必要に応じて物性改善助剤を添加することができる。物性改善助剤の添加により、さらなる物性の向上が可能となる。物性改善助剤として、炭酸カルシウム、ガラス繊維、セルロース粒子、セルロース繊維などの無機又は有機の粒子状及び繊維状物質、又はグルタルアルデヒド、グルオキサール、ヘキサメチレンジイソシアナートなどの多官能基を有する物質等を用いることができる。
【0018】
また、ホルムアルデヒド、無水リン酸、オキシ塩化リン、トリメタリン酸塩、アクロレイン、エピクロルヒドリン等のいわゆる架橋剤を用いることもできる。
【0019】
これらの物性改善助剤の添加により、タンパク質に架橋が生じ、タンパク質の物性を著しく変化させることが可能であり、本発明の上記水溶性無機塩又は有機金属塩の添加による効果と相まって、目的に応じた種々の物性を有するタンパク質の提供に寄与することができる。
【0020】
本発明におけるタンパク質組成物を含有する液を調製するには、任意の濃度に調製されたタンパク質水溶液又はスラリーに、前記水溶性無機塩又は有機金属塩をタンパク質0.1〜300wt%(タンパク質量基準、以下同じ)、好ましくは5〜100wt%添加し、攪拌すればよい。この液を調製するためのタンパク質及び塩の添加順序又は添加形態は重要ではない。上記塩の水溶液にタンパク質自体又はその水溶液を添加してもよいし、タンパク質の水溶液に上記塩自体又は上記塩の水溶液を添加してもよい。また、タンパク質又は塩を水に溶解させる温度は、通常、常温であるが、溶解速度を高めるために、例えば、30〜50℃に加熱することもできる。さらに、物性改善助剤を添加する場合は、タンパク質と塩の混合物に、タンパク質基準で0.1〜100wt%、好ましくは0.25〜50wt%添加し、攪拌すればよい。
【0021】
本発明では、前記タンパク質組成物を含有する液をゲル化、キャスト、流延、湿式紡糸、乾式紡糸、ゲル紡糸、押し出し成形、射出成形、型成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形又はシート成形のいずれかの方法により、成形と同時に又は必要に応じて成形後にも乾燥させてフィルム、シート、糸、繊維、棒状、その他任意の成形品とする。成形又は乾燥温度は、150℃以下、好ましくは100℃以下である。
【0022】
本発明では、前記タンパク質組成物を含有する液を材料表面に塗布し、乾燥させることにより、材料表面をタンパク質組成物でコーティングすることもできる。乾燥温度は、150℃以下、好ましくは100℃以下である。
【0023】
本発明で得られるタンパク質組成物からなる成形品は、タンパク質単独と比較して、柔軟性等の機械的物性が著しく向上する。この柔軟性等の機械的物性を示す指標として、例えば、JIS K6251に規定される「伸び」によって示される。すなわち、本発明のタンパク質組成物の「伸び」がタンパク質単独の3倍以上であることが本発明のタンパク質組成物の特徴である。
【0024】
本発明のタンパク質組成物における柔軟性等の機械的物性が著しく向上する理由としては、乾燥後のタンパク質組成物中に塩が水和物(結晶水を持った状態)として存在することにある。これまでの種々の試験及び分析から、(1)塩水和物は、タンパク質中に極めて微細に均一に分散されている、(2)塩水和物は、タンパク質中で単に物理的に分散されているのではなく、ある種の化学的結合によってタンパク質分子と結び付いている、(3)塩水和物に含まれる結晶水が重要な役割を果たしている、ことが明らかになっている。しかしながら、詳細なメカニズムは未だ解明中である。
【0025】
本発明で使用するタンパク質は、水溶性のものに限られるが、ゼラチンのように可食性のものもあり、食用膜、コーティング等口腔摂取物として利用されることもある。したがって、本発明において、塩として可食性のものを使用すれば、タンパク質組成物は可食性となり、各種口腔摂取物として利用可能となる。このような可食性の塩としては、MgCl2・6H2Oが例示される。
【0026】
本発明のタンパク質組成物は生分解性の材料である。これまでに、タンパク質を用いた多くの生分解性材料が開発されているが、これらはかなり高度の化学的な処理を必要とするため、製造工程が複雑で高コストである。これに対し、本発明のタンパク質組成物は、極めて簡便に低コストで製造することが可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、極めて簡便な方法により柔軟性等の機械的物性を著しく向上させたタンパク質組成物が従来法より高い効率又は極めて低コストで提供される。このタンパク質組成物は、生分解性材料として工業用途の各種成形材料はもちろんのこと、タンパク質及び添加する塩の種類によっては可食性となるため、食品用途として利用することができる。
【0028】
〔実施例〕
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0029】
〔実施例1〕、〔比較例1〕
タンパク質として、ゼラチン(広栄化学工業(株)、JS-110)、コラーゲン、ケラチン、セリシンを選び、添加する塩として塩化マグネシウム6水和物を用いて塩の添加効果について検討した。
5gのタンパク質に濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。このタンパク質溶液に塩化マグネシウム6水和物1.0gを添加し、溶解するまで攪拌した後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機にて約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びを測定した。
結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
〔実施例2〕、〔比較例2〕
潮解性のある無機塩としてMgCl2・6H2O、CaCl2・2H2O、AlCl3・6H2O、Mg(NO3)2・6H2O、Ca(NO3)2・4H2O、Al(NO3)3・9H2Oを選び、タンパク質としてのゼラチンに無機塩を添加することによる機械的物性への効果を検討した。
5gのゼラチンに濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。このゼラチン溶液に無機塩1.0gを添加し、溶解するまで攪拌した後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機にて約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びを測定した。
結果を表2に示す。
【0032】
【表2】


また、表2には示していないが、CO3、SiO3、HPO4、H2PO4基を有するナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム塩においても同様の傾向を示した。
【0033】
〔実施例3〕、〔比較例3〕
有機金属塩としてシュウ酸マグネシウム2水和物、酢酸マグネシウム4水和物、クエン酸マグネシウム9水和物、酒石酸カルシウム4水和物、乳酸カルシウム5水和物、グルコン酸カルシウム1水和物を選び、タンパク質としてのゼラチンに無機塩を添加することによる機械的物性への効果を検討した。
5gのゼラチンに濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。このゼラチン溶液に有機金属塩1.25gを添加し、溶解するまで攪拌した後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機にて約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びを測定した。
結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
〔実施例4〕、〔比較例4〕
可塑剤としてグリセロールを添加した場合のタンパク質組成物の機械的物性を比較した。
5gのゼラチンに濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。このゼラチン溶液にグリセロール0.45g(0.0049mol)を添加し、溶解するまで攪拌した後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機にて約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びを測定した。
結果を表4に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
〔実施例5〕、〔比較例5〕
塩の添加量の効果について検討した。塩としては、塩化マグネシウム6水和物(MgCl2・6H2O)及び酢酸マグネシウム4水和物を用いた。
5gのゼラチンに濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。このゼラチン溶液に所定量の塩を添加し、溶解するまで攪拌した後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機にて約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びを測定した。
結果を表5に示す。
【0038】
【表5】

【0039】
〔実施例6〕、〔比較例6〕
物性改善助剤の添加の効果について検討した。ゼラチンに塩として塩化マグネシウム6水和物を添加したものに、さらに物性改善助剤として、炭酸カルシウム、セルロース微粒子、グルタルアルデヒド、グリオキサールを加えた。
5gのゼラチンに濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。このゼラチン溶液に塩化マグネシウム6水和物1.25gを添加し、溶解するまで攪拌した。さらに、所定量の物性改善助剤を添加し、攪拌した後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機にて約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びを測定した。
結果を表6に示す。
【0040】
【表6】

【0041】
[実施例・比較例の総括]
1)潮解性を有する結晶水を持った無機塩又は有機金属塩の添加により、タンパク質組成物の柔軟性(伸び)等の機械的物性が著しく向上する。
2)塩添加の効果(機械的物性の改善)は、タンパク質の種類によって異なる。
3)実施したいずれの塩においても物性改善効果は見られるが、塩の種類による効果の差は認められる。最大応力と破断伸びのバランスを考慮すると使用目的に応じて塩を選ぶのが好ましい。
4)タンパク質に対する塩の添加量を増加すると、最大応力は低下し、破断伸びは増大する。その傾向は無機塩及び有機金属塩ともに見られる。
5)塩の添加による機械的物性の改善は従来より可塑剤として良く知られているグリセロールよりはるかに優れている。
6)物性改善助剤の添加により、最大応力は増加し、破断伸びは低下する。グルタルアルデヒドのようなアルデヒド系の架橋剤は大きな伸びの低下なしに応力を改善することができる。
7)本発明のタンパク質組成物では最大応力、破断伸びにおいて大幅にすぐれる実施例が多く見られ、従来のタンパク質単独組成物に比べ、より広い用途に使用される可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性であるタンパク質及び結晶水を持った水溶性無機塩又は結晶水を持った水溶性有機金属塩からなるタンパク質組成物。
【請求項2】
タンパク質が水に溶けた状態又は水系エマルジョンの状態にあるとき、(A)水が存在すると結晶水を持った水和物になる性質を有する無水無機塩、(B)同上の性質を有する無水有機金属塩、(C)結晶水を持った無機塩水和物又は(D)結晶水を持った有機金属塩水和物のいずれか一つ又は二つ以上を添加した後、乾燥することによって得られることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質組成物。
【請求項3】
前記タンパク質が、ゼラチン、コラーゲン、ケラチン又はセリシンから選ばれた少なくとも一成分であることを特徴とする請求項1又は2に記載のタンパク質組成物。
【請求項4】
前記塩が、潮解性を有する無機塩であって、MgCl2、CaCl2、AlCl3、Mg(NO3)2、Ca(NO3)2、Al(NO3)3、Na2CO3、Na2SiO3、Na2HPO4、NaH2PO4及びそれらの水和物から選ばれた少なくとも1成分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質組成物。
【請求項5】
前記塩が、潮解性を有する有機金属塩であって、シュウ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩及びそれらの水和物から選ばれた少なくとも1成分であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質組成物。
【請求項6】
前記塩の添加量が、0.1〜300wt%(タンパク質量基準)である請求項1〜5のいずれかに記載のタンパク質組成物。
【請求項7】
さらに炭酸カルシウム、ガラス繊維、セルロース粒子、セルロース繊維などの無機又は有機の粒子状及び繊維状物質から選択された物性改善剤を添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質組成物。
【請求項8】
前記物性改善助剤が、グルタルアルデヒド、グルオキサール、ヘキサメチレンジイソシアナートなどの多官能基を有する物質から選択されるか又はホルムアルデヒド、無水リン酸、オキシ塩化リン、トリメタリン酸塩、アクロレイン、エピクロルヒドリンなどの架橋剤である請求項1〜7のいずれかに記載のタンパク質組成物。
【請求項9】
前記物性改善助剤の添加量が、0.1〜100wt%(タンパク質量基準)である請求項1〜8のいずれかに記載のタンパク質組成物。
【請求項10】
前記タンパク質組成物を含有する液をゲル化、キャスト、流延、湿式紡糸、乾式紡糸、ゲル紡糸、押し出し成形、射出成形、型成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形又はシート成形のいずれかの方法により、フィルム、シート、糸、繊維、棒状、その他任意の成形品とすることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のタンパク質組成物。
【請求項11】
前記タンパク質組成物を含有する液を材料表面に塗布し、乾燥させることにより、材料表面をタンパク質組成物でコーティングすることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のタンパク質組成物。

【公開番号】特開2007−186556(P2007−186556A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4289(P2006−4289)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(592015802)赤穂化成株式会社 (29)
【Fターム(参考)】