説明

物性測定装置

【課題】
フェムト秒レーザなどの高額な装置を追加することなく、テラヘルツ周波数を用いた物性測定の高速化を図る。
【解決手段】
フェムト秒レーザ1からのレーザはポンプ光3とプローブ光4に分け、ポンプ光3でテラヘルツ波発生素子6を照射する一方、プローブ光4はビームスプリッタ16a、16b、16cで4本に分岐し、夫々時間遅延ステージ13a、13b、13c、13dを介して複数のテラヘルツ波検出素子10a〜10dを照射する。テラヘルツ波検出素子10a〜10dは、プローブ光が照射された瞬間のテラヘルツ波受信強度に応じた電流を出力するので、プローブ光4a〜4dに波形測定範囲の4分の1ずつ遅れ時間を持たせることにより、
測定範囲を4分割して並行処理可能とし、物性測定の高速化を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物性測定装置に係り、特にテラヘルツ周波数を用いて分光測定を行う物性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に0.1から10テラヘルツ程度の周波数を持つ、光と電波の境界領域にある電磁波をテラヘルツ波と呼んでいる。この領域は、従来の遠赤外線からミリ波にかけての電磁波領域と重なり、電磁波の発生と検出が難しく産業上はほとんど利用されてこなかった。近年、極超短パルスのフェムト秒レーザと光導電スイッチ型のテラヘルツ波発生素子、検出素子を用いる方法が考案され、また時間領域分光法の進展により、テラヘルツ領域の光の分光ができるようになった。
【0003】
テラヘルツ波を使った時間領域分光法は、例えば、非特許文献1に記載されているように、テラヘルツパルス波をサンプルに入射させ、サンプルを透過、あるいは反射した後のテラヘルツパルス波を時間分解計測し電場波形を得て、その波形をフーリエ変換することにより、周波数毎の振幅と位相を得て、物質の物性測定する方法である。
【0004】
テラヘルツの電場波形は次のようにして得ることができる。励起光となるフェムト秒レーザから発射された超短パルスをテラヘルツ波発生素子に照射するとテラヘルツ波が空中に放射され、放物面鏡などによってテラヘルツ波検出素子に集光される。テラヘルツ波検出素子は、テラヘルツ波発生素子と同じ構造となっており、超短パルスが照射された時のみ、受光したテラヘルツ電磁波の強度に応じた電流が流れる。したがって、励起光をビームスプリッタで分け、一方をテラヘルツ波発生素子に照射(以下ポンプ光と称す)し、他方を時間遅延を与えながらテラヘルツ波検出素子に照射(以下プローブ光と称す)し、テラヘルツ波検出素子から出力される電流値をサンプリングすれば、テラヘルツ波の電場波形が得られる。
【0005】
周波数毎の振幅や位相は、電場波形の持つ情報量に依存するため、精度を上げるためには、細かく時間遅延しながら電流値のサンプリングをする必要があり、1つの電場波形を取得するために多大な時間が必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】西澤潤一著、「テラヘルツ波の基礎と応用」工業調査会、2005年4月1日発行、p232〜243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景技術による方法では、1つの物性を測定するために多大な時間を要することになることから、スループットを重視する産業向けでは大きな課題となり、測定の高速化が急務になると考えられる。
【0008】
そこで本発明の主な目的とするところは、物質の物性測定を高速化することができ、産業一般への応用を促進することの出来る物性測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、フェムト秒レーザをポンプ光とプローブ光に分け、前記ポンプ光をテラヘルツ波発生素子に照射し、前記プローブ光をテラヘルツ波検出素子に照射すると共に、前記テラヘルツ波発生素子からのテラヘルツ波をサンプルに向けて照射し、該サンプルからの透過又は反射波を前記テラヘルツ波検出素子で受光し、前記プローブ光と同期した電気信号に変換して前記サンプルの物性を測定する物性測定装置において、その特徴とするところは、前記テラヘルツ波検出素子を複数個設け、この複数個のテラヘルツ波検出素子を夫々照射する各々のプローブ光を夫々異なる時間に遅延する手段を備えることにより、測定範囲を分割し、ポンプ光の一サイクル相当の波形処理を時間分割して並行処理することを可能にしたところにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、装置でコスト負担の大きいフェムト秒レーザを変更、追加することなく、物質の物性測定を高速化することができるので、産業一般への今後の応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】時間領域分光法を用いたテラヘルツ分光分析装置の構成図。
【図2】時間領域分光法での時間波形整形の説明図。
【図3】本発明の一実施例に係る物性測定装置の構成図。
【図4】図3に示した一実施例の放物面鏡の構成図。
【図5】図3に示した一実施例の時間波形整形の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図示する一実施例を用いて本発明の実施の形態を説明する。
先ず、図1を用いて、時間領域分光法を用いたテラヘルツ波分光分析装置の構成及び動作を説明する。
【0013】
一次光源であるフェムト秒レーザ1から一定周期で発射される超短パルスレーザは、ビームスプリッタ2でポンプ光3とプローブ光4に分かれる。ポンプ光3が、ミラー5で方向転換され、電源7で電圧が印加されているテラヘルツ波発生素子6に照射されると、照射面の反対側からパルス状のテラヘルツ波14が放射される。テラヘルツ波14は放物面鏡8によって集光され、サンプル9を透過し、サンプルの物性情報を含んだテラヘルツ波15は、再度放物面鏡8を通して集光され、テラヘルツ波検出素子10に到達する。
【0014】
一方、プローブ光4は、時間遅延ステージ13を通って、テラヘルツ波検出素子10に電流測定トリガとして照射される。ポンプ光3とプローブ光4の光路長が同じ場合には、テラヘルツ波15とプローブ光4がテラヘルツ波検出素子10に到達する時間は同じである。時間遅延ステージ13は、可動ステージにミラーが取り付けられており、このミラーの位置をプローブ光の光路長が長くなる方向に動かすことによって、プローブ光4がテラヘルツ波検出素子10に到達する時間を遅らせることができる。時間遅延ステージ13はコンピュータ12によって制御されており、遅延させる時間に応じて、可動ステージを動作させている。
【0015】
テラヘルツ波検出素子10は、プローブ光が照射された瞬間のテラヘルツ波受信強度に応じた電流を出力する。この電流値を、アンプ11で信号増幅し、コンピュータ12に波形情報として取り込み波形整形する。
【0016】
次に、図2を用いてテラヘルツ波の波形整形方法について説明する。21はテラヘルツ波検出素子10からの電流出力波形、22はプローブ光4のフェムト秒レーザ超短パルス波形である。前記のように、テラヘルツ波は、一次光源であるフェムト秒レーザ1から一定周期で発射される超短パルスレーザに同期して一定周期で放射されるため、テラヘルツ波検出素子10から出力される電流出力波形21も一定周期で出力される。また、プローブ光4のパルス波形22は、一次光源であるフェムト秒レーザ1から発射される超短パルスレーザをビームスプリッタ2で分岐させたものであるから、電流出力波形21に同期してテラヘルツ波検出素子10の電流測定トリガとして照射される。
【0017】
まず、ポンプ光3とプローブ光4の光路長が同一の場合、電流測定トリガとなるプローブ光のパルス波形波22は、テラヘルツ波の発生と同時にテラヘルツ波検出素子10に到達するので、電流出力波形21のa点の電流値がコンピュータ12に取り込まれる。次に、時間遅延ステージ13をプローブ光4の光路長が伸びる方向に移動させると、電流測定トリガとなるパルス波形22はテラヘルツ波発生の瞬間より少し遅れてテラヘルツ波検出素子10に到達するため、電流出力波形21のb点の電流値がコンピュータ12に取り込まれる。
【0018】
同様に、時間遅延ステージ10をプローブ光4の光路長が伸びる方向に移動させながら、電流出力波形21のc点からf点の電流値をコンピュータ12に取り込み、これらの電流値から時間波形23を整形する。時間波形23の再現性は、時間遅延ステージ10の移動量と位置精度に依存するから、精度の良い時間波形を再現しようとすると、時間遅延ステージを細かく移動しながら、多点をサンプリングする必要があり、1回の測定に多大な時間を要し、産業分野に応用するには、時間波形取得の高速化が必要となる。
【0019】
そこで、本発明の物性測定装置の一実施例について図3及び図4を用いて説明する。図において、前記図1と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。一次光源であるフェムト秒レーザ1から一定周期で発射される超短パルスレーザは、前記の一般的なテラヘルツ波分光分析装置と同様にサンプル9を透過して放物面鏡8で並行光になる。放物面鏡8は、本実施例では4面に分割されており、テラヘルツ波検出素子10a〜10dにそれぞれ集光するように配置されている。
【0020】
図4に4分割した放物面鏡の構造を示す。放物面鏡41は、4分割された放物面が各々角度調整できる機能を有しており、テラヘルツ並行光15を4分割した放物面で受け、各分割面からテラヘルツ波検出素子10a〜10dに集光することができる。
【0021】
一方、プローブ光4は、ビームスプリッタ16a、16b、16cで4本に分岐され、それぞれ、時間遅延ステージ13a、13b、13c、13dに導入される。時間遅延ステージ13aを通して時間遅延されたプローブ光4aは、テラヘルツ波検出素子10aの電流測定トリガとして照射され、同様に、時間遅延ステージ13bを通ったプローブ光4bはテラヘルツ波検出素子10bの電流測定トリガとして、時間遅延ステージ13cを通ったプローブ光4cはテラヘルツ波検出素子10cの電流測定トリガとして、時間遅延ステージ13dを通ったプローブ光4dはテラヘルツ波検出素子10dの電流測定トリガとして照射される。
【0022】
プローブ光4aに対して、プローブ光4bはテラヘルツ波形測定範囲の4分の1だけ時間遅延するように時間遅延ステージ13bと光路長が調整されており、プローブ光4cは波形測定範囲の4分の1だけプローブ光4bに対して時間遅延するように時間遅延ステージ13cと光路長が調整されており、プローブ光4dは波形測定範囲の4分の1だけプローブ光4cに対して時間遅延するように時間遅延ステージ13dと光路長が調整されている。
【0023】
前記のように、テラヘルツ波検出素子は、プローブ光が照射された瞬間のテラヘルツ波受信強度に応じた電流を出力するので、プローブ光4a〜4dがテラヘルツ波検出素子10a〜10dに波形測定範囲の4分の1ずつ遅れて到達することを利用して、並行して電流値を測定することができる。
【0024】
図5を用いて、時間波形の整形法について説明する。51はテラヘルツ波形全体を示しており、縦軸は電流値、横軸は時系列を表している。52は、プローブ光4aを電流測定トリガとして測定する時間範囲、53は、プローブ光4bを電流測定トリガとして測定する時間範囲、54は、プローブ光4cを電流測定トリガとして測定する時間範囲、55は、プローブ光4dを電流測定トリガとして測定する時間範囲を示す。
【0025】
テラヘルツ波が放射されると、プローブ光4aをトリガにしてテラヘルツ波形51のa点の電流値がアンプ11aで増幅されコンピュータ12に取り込まれる。同様に、プローブ光4bをトリガにしてテラヘルツ波形51のf点、プローブ光4cをトリガにしてテラヘルツ波形51のn点の電流値が、プローブ光4dをトリガにしてテラヘルツ波形51のu点の電流値がコンピュータ12に取り込まれる。
【0026】
次に、時間遅延ステージ13a〜13dを同時にプローブ光の光路長が伸びる方向に移動させ、プローブ光4aをトリガにしてテラヘルツ波形51のb点、プローブ光4bをトリガにしてテラヘルツ波形51のg点、プローブ光4cをトリガにしてテラヘルツ波形51のp点、プローブ光4dをトリガにしてテラヘルツ波形51のw点の電流値をコンピュータ12に取り込む。同様に、時間遅延ステージ13a〜13dを動かして、テラヘルツ波形51のc点、h点、r点、x点の電流値を取り込み、さらに時間遅延ステージ13a〜13dを動かしながら、テラヘルツ波形51のd点、k点、s点、y点、およびe点、m点、t点、z点、の電流値を取り込む。
コンピュータ12に取り込まれたテラヘルツ波形51のa点〜e点、f点〜m点、n点〜t点、u点〜z点の電流値は、時系列的に並んだテラヘルツ波形51の連続した電流変化とみなすことができるので、これらを繋ぎ合わせることによって、波形を再現することが可能である。
【0027】
本実施例では、測定範囲を4分割して高速化を図る方法としたが、放物面鏡の分割数、テラヘルツ波検出素子、プローブ光の経路を増やすことで、更なる高速化を図ることが可能である。
【0028】
また、本実施例では、テラヘルツ波をサンプルに透過させて測定する透過法に関して記載したが、サンプルにテラヘルツ波を照射し、その反射光を測定する反射法であっても同様に実施できる。
【0029】
また、物性測定としては、サンプルの物性そのものの測定に限らず、サンプルに付着する異物等の測定をも可能であり、広い意味での物性の測定に利用できる。
【符号の説明】
【0030】
1・・・フェムト秒レーザ、2・・・ビームスプリッタ、3・・・ポンプ光、4・・・プローブ光、5・・・ミラー、6・・・テラヘルツ波発生素子、7・・・テラヘルツ波発生素子用電源、8・・・放物面鏡、9・・・サンプル(被測定物)、10・・・テラヘルツ波検出素子、11・・・テラヘルツ波検出電流増幅用アンプ、12・・・コンピュータ、13・・・時間遅延ステージ、14・・・サンプル透過前のテラヘルツ波、15・・・サンプル透過後のテラヘルツ波、21・・・テラヘルツ波検出素子からの電流出力波形、22・・・プローブ光パルス波形、41・・・分割型放物面鏡、51・・・テラヘルツ波検出素子からの電流出力波形、52・・・プローブ光4aを電流測定トリガとして測定する時間範囲、53・・・プローブ光4bを電流測定トリガとして測定する時間範囲、54・・・プローブ光4cを電流測定トリガとして測定する時間範囲、55・・・プローブ光4dを電流測定トリガとして測定する時間範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェムト秒レーザをポンプ光とプローブ光に分け、前記ポンプ光をテラヘルツ波発生素子に照射し、前記プローブ光をテラヘルツ波検出素子に照射すると共に、前記テラヘルツ波発生素子からのテラヘルツ波をサンプルに向けて照射し、該サンプルからの透過又は反射波を前記テラヘルツ波検出素子で受光し、前記プローブ光と同期した電気信号に変換して前記サンプルの物性を測定する物性測定装置において、前記テラヘルツ波検出素子を複数個設け、該複数個のテラヘルツ波検出素子を夫々照射する各々のプローブ光を夫々異なる時間に遅延する手段を備えることを特徴とする物性測定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ポンプ波の1サイクルの測定時間をn分割し、前記テラヘルツ波検出素子をn個設けたとき、前記各々のプローブ光の遅延時間は、上記ポンプ波の1サイクルの測定時間の1/nずつ遅延した時間とすることを特徴とする物性測定装置。
【請求項3】
請求項1において、前記サンプルからのテラヘルツ波を分割型の放物面鏡で分散集光し、前記複数個のテラヘルツ波検出素子に照射することを特徴とする物性測定装置。
【請求項4】
請求項1において、プローブ光を前記テラヘルツ波検出素子の数に応じて分岐し、前記時間遅延手段は、各々のプローブ光の光路長を変えて構成することを特徴とする物性測定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの物性測定装置において、前記複数個のテラヘルツ波検出素子の電気信号を繋ぎ合わせて、前記ポンプ波の1サイクル分に相当するサンプルからの透過又は反射波の波形を再現することを特徴とする物性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−122830(P2012−122830A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273371(P2010−273371)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000233549)株式会社日立ハイテクコントロールシステムズ (130)
【Fターム(参考)】