説明

物標認識装置

【課題】レーダがオフセット搭載されている場合に、自車両に接近する物標が衝突しないと誤判断するのを防止して物標検出精度を向上する。
【解決手段】衝突判定回避処理部8により、自車両1と物標200との距離がレーダ5の水平方向の検知角と搭載位置のオフセット量とに基づいて設定された所定距離以内になったか否かを判定し、所定距離以内に物標200が接近したときに、物標200が近づくにつれて略自車両1の車幅に設定される衝突判定領域を前記検知角に応じてレーダ5の搭載位置側へ拡大修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の車両中心ラインから車幅方向にずれてオフセット搭載されたレーダにより捕捉して時々刻々検知される前方(または後方)の物標と自車両との衝突可能性を判断する物標認識装置に関し、詳しくは、その物標検出精度の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衝突防止支援機能を備えた車両においては、搭載した物体認識装置により、レーザレーダなどのレーダにより例えば自車両前方の車両等の物標を補足して時々刻々検知し、検知した自車両前方の物標と自車両との走行方向や車速等から衝突可能性を判断する。
【0003】
ところで、前記レーダは、自車両が発生する熱の影響回避や車両デザイン等の都合等に基づき、車両中心ラインから車幅方向(左右方向)にずれて取り付けられてオフセット搭載されることが多く、一般的にはバンパー等の左端部や右端部に搭載される(例えば、特許文献1(要約書、段落[0004]、[0026]、図7等)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−316278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の物体認識装置のように自車両にレーダがオフセット搭載されると、遠方の物標に対してはレーダ搭載位置のオフセットの影響は少ないが、先行車両や対向車両等の物標が先行車両の減速や対向車両の前進走行によって自車両の10m程度まで接近すると、レーダ搭載位置のオフセットの影響が大きくなって、衝突可能性を誤判断する可能性がある。
【0006】
図5は自車両100のレーダ検知範囲111と自車両前方至近距離内の時々刻々接近する車両等の物標200との模式図である。そして、この模式図からも明らかなように、自車両100のレーダ110がフロントバンパーの左端部に搭載されている場合、レーダ検知範囲111のセンター軸は自車両100の車両中心ライン100cより左側にずれている。この場合、物標200が正面から自車両100に近づいているにもかかわらず、物標200は次第に右側が欠けるようになる。そのため、レーダ110が捕捉する物標200は、その幅方向センター(物標200の左右方向の中点)の軌跡の時間変化(矢印実線α)から、レーダ110の搭載位置側(左側)へずれて進むように予測される。このように予測されると、物標200が正面から自車両100に接近しているにもかかわらず、自車両100との衝突予測時には略自車両の車幅に設定される衝突判定領域から物標200がはみ出して衝突しないと誤判断する可能性がある。
【0007】
本発明は、レーダがオフセット搭載されている場合に、自車両に接近する物標が衝突しないと誤判断するのを防止して物標検出精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明の物標認識装置は、自車両に車両中心ラインから車幅方向にずれてオフセット搭載されたレーダにより時々刻々検知された物標との衝突可能性を判断する物標認識装置であって、自車両と物標との距離が前記レーダの水平方向の検知角と搭載位置のオフセット量とに基づいて設定された所定距離以内になったか否かを判定する接近判定手段と、前記接近判定手段の前記所定距離以内の判定により、前記物標が近づくにつれて所定の幅に設定される衝突判定領域を前記検知角に応じて前記レーダの搭載位置側へ拡大修正する判定領域修正手段とを備えたことを特徴としている(請求項1)。
【0009】
また、本発明の物標認識装置は、前記判定領域修正手段により、さらに前記衝突判定領域の前記拡大修正により広がったオフセット搭載位置側と反対側は狭くすることを特徴としている(請求項2)。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る本発明の物標認識装置の場合、物標がレーダの水平方向の検知角と搭載位置のオフセット量とに基づいて設定された所定距離以内に接近すると、接近判定手段の判定に基づき、接近するにしたがって判定領域修正手段が所定の幅に設定される衝突判定領域を前記検知角に応じてレーダの搭載位置側へ拡大修正する。そのため、レーダがオフセット搭載されていて接近する物標がレーダ搭職位置側へずれていくように判断されるときにも、それに応じて衝突判定領域がレーダ搭職位置側に拡大され、衝突しないと誤判断される事態を防止できる。しかも、レーダの水平方向の検知角に応じて衝突判定領域を拡大するので不必要に衝突判定領域を拡大することがない。
【0011】
請求項2に係る本発明の物標認識装置の場合、判定領域修正手段により、衝突判定領域の拡大修正により広がったオフセット搭載位置側と反対側を狭くすため、衝突可能性の判断が不用な部分を削ってその部分での誤った衝突判定を防止して衝突判定精度を一層向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態の物標認識装置のブロック図である。
【図2】図1の衝突判定領域の拡大修正の説明図である。
【図3】図1の衝突判定領域の拡大修正と縮小修正の説明図である。
【図4】図1の動作説明用のフローチャートである。
【図5】従来例の誤判断の可能性の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明をより詳細に説明するため、一実施形態について、図1〜図4を参照して詳述する。
【0014】
図1は自車両1に搭載された本実施形態の物体認識装置を示し、図1において、2は制御モードの切り替え等を操作設定する制御スイッチ、3はワイパー動作に連動するワイパースイッチである。
【0015】
4は自車両1の車速センサ、5は測距用のレーダであり、レーザレーダ、ミリ波レーダ等のスキャン式の種々のレーダからなり、本実施形態の場合、例えばフロントバンパーの左端部にオフセット搭載されて自車両1の前方を左右方向(横幅方向)にスキャンしながら探査する。6、7は舵角センサ、ヨーレートセンサであり、自車両1の挙動の舵角、ヨーレートを検出する。
【0016】
8はマイクロコンピュータ等からなるECUの衝突判定回避処理部であり、予め設定された図2の衝突予測プログラムを実行し、レーダ5の前方探査に基づいて先行車両、対向車両のような車両や障害物等の自車両前方の物標を認識して衝突の可能性を判断し、判断結果に応じて衝突回避の警報、制御の指令等を行なう。
【0017】
9、10は衝突回避処理部8の指令等にしたがって動作する表示警報ユニット、ブレーキ制御ユニットであり、表示警報ユニット9は例えばインストルメントパネルの適当な位置に設けられて衝突の注意報や回避等を表示、警報し、ブレーキ制御ユニット10は制動指令にしたがって自車両1のブレーキ機構を制御する。
【0018】
つぎに、衝突判定回避処理部8が有する主な処理手段について説明する。
【0019】
衝突判定回避処理部8は、ソフトウェア(プログラム)の実行により、データ取得手段、横速度演算手段、衝突予測時間演算手段、予測衝突横位置演算手段、接近判定手段、判定領域修正手段、衝突判定手段、回避支援処理手段等の衝突予測の各種手段を有する。
【0020】
データ取得手段は、スイッチ2、3の接点信号、センサ4、6、7の検知信号および、レーダ5の探査結果を繰り返し取り込む。
【0021】
横速度演算手段は、レーダ5によって捕捉している物標の所定時間内の横位置(レーダ検知範囲内の車幅方向のセンター位置)の変化量から、物標の横方向(車幅方向)の速度(横速度)を求める。
【0022】
衝突予測時間演算手段は、レーダ5によって捕捉している物標のレーダ反射距離から求まる距離(車間距離)と、その変化および車速センサ4の自車速から求められる物標の衝突予測時間を求める。
【0023】
予測衝突横位置演算手段は、衝突予測時間演算手段が求めた衝突予測時間が経過したときの物標の横位置を、元の(現在の)横位置に、横速度演算手段が求めた横速度と、前記衝突予測時間演算手段が求めた衝突予測時間から得られる衝突回避の車間時間(TTC)との積の水平方向の移動距離を加算して求める。
【0024】
接近判定手段は、衝突予測時間演算手段が得た自車両1と物標との距離から、物標が、レーダ5の水平方向の検知角とレーダ5の搭載位置のオフセット量とに基づいて予め設定される所定距離(数メートル程度)以内に自車両1に接近してきたか否かを判定する。
【0025】
判定領域修正手段は、接近判定手段による前記所定距離以内の接近の判定に基づき、前記所定距離以内の物標に対して、少なくとも、物標が近づくにつれて自車両1の前に設定される略自車両1の車幅の衝突判定領域の車両横幅方向の範囲をレーダ5の水平方向の検知角に応じてレーダ5の搭載位置側へ拡大修正する。より具体的には、前記所定距離の時には修正量は0、距離が0mのとき(すなわち衝突時)には衝突判定領域のセンタ位置がレーダ搭載位置になるように接近距離に応じて拡大修正する。
【0026】
図2は前記拡大修正を模式的に示し、レーダ5のオフセット搭載により、図5で説明したように物標200が例えば減速して正面から自車両1に近づいているにもかかわらず、レーダ5が捕捉する物標200の左右方向の中点の軌跡がレーダ5の搭載位置側(左側)へずれて進むようになるので、例えば時刻tn、tn+1、tn+2における物標200の予測進路ベクトルは図中の矢印線a、b、cに示すように、車両センタ位置からレーダ5の搭載側にずれる。そこで、図中の衝突判定領域Wを物標200が近づくにつれて破線に示すようにレーダ5の搭載位置側へ拡大修正する。
【0027】
また、本実施形態の場合、判定領域修正手段は、前記拡大修正を行なうと同時に、さらに衝突判定領域Wの拡大修正により広がったオフセット搭載位置側と反対側は同じ量(長さ)だけ狭く縮小修正する。その部分は衝突判定には不要だからであり、その部分での誤った衝突判定を防止して衝突判定精度を一層向上する。
【0028】
図3は判定領域修正手段による衝突判定領域Wの拡大修正と縮小修正を模式的に示し、自車両1と物標200とが前記所定距離に近づく時刻txには衝突判定領域Wは自車両1の車両センタ位置を中央とする範囲であるが、それから物標200が接近するにしたがって衝突判定領域Wのオフセット搭載位置側(紙面左側)は拡大修正により広がり、同時に、オフセット搭載位置側と反対側は同じ量(長さ)だけ狭く縮小修正される。図中のtyは衝突位置まで接近したタイミングである。
【0029】
衝突判定手段は、時々刻々の物標200の接近の速度ベクトルと上記のように修正される衝突判定領域Wとから周知の手法で衝突の可能性を判定し、衝突の可能性があると衝突フラグをオン(ON)し、衝突の可能性がなければ衝突フラグをオフ(OFF)に保持する。なお、衝突判定領域Wの走行軌跡上の位置や向きは自車両1の舵角センサ6やヨーレートセンサ7による自車の走行姿勢(挙動)によって変わる。
【0030】
回避支援処理手段は、衝突判定手段の衝突フラグのオンの連続時間等に基づき、回数やに基づき判定結果に基づき、表示警報ユニット9に衝突の警報を指令し、さらには、ブレーキ制御ユニット10に自動ブレーキを指令する。
【0031】
図4は衝突判定回避処理部8の前記した衝突判定領域Wの修正および衝突判定の処理の手順を示し、まず、データ取得手段により、レーダ5から物標200の距離、横位置、相対速度などのデータを取り込む(ステップS1)。つぎに、横速度演算手段により物標200の横速度を演算し(ステップS2)、衝突予測時間演算手段により衝突予測時間を求める(ステップS3)。つぎに、予測衝突横位置演算手段により、衝突予測時間演算手段が求めた衝突予測時間が経過したときの物標200の横位置を求める。つぎに、接近判定手段により物標200が所定距離以内に接近してきたか否かを判定し、判定領域修正手段により衝突判定領域Wのレーダ5の搭載位置側への拡大修正および反対側への縮小修正を行って衝突判定手段により衝突可能性を判定する(ステップS5、S6)。
【0032】
そして、衝突可能性があれば衝突フラグをオンし(ステップS7)、衝突の可能性がなければ衝突フラグをオフする(ステップS8)。
【0033】
したがって、前記実施形態の場合、物標200がレーダ5の水平方向の検知角と搭載位置のオフセット量とに基づいて設定された所定距離以内に接近すると、接近判定手段の判定に基づき、物標200が接近するにしたがって判定領域修正手段が所定の幅(本実施形態の場合は略自車両1の車幅)に設定される衝突判定領域Wを前記検知角に応じてレーダ5の搭載位置側へ拡大修正し、レーダ5がオフセット搭載されていることに起因する衝突しないとの誤判断を防止できる。その際、レーダ5の水平方向の検知角に応じて衝突判定領域Wを拡大するので不必要に衝突判定領域Wを拡大することがなく衝突判定制度を不用意に低下させることがない。
【0034】
しかも、判定領域修正手段により、衝突判定領域Wの拡大修正により広がったオフセット搭載位置側と反対側を狭くすため、衝突可能性の判断が不用な部分を削ってその部分での誤った衝突判定を防止し、衝突判定精度を一層向上できる利点もある。
【0035】
そして、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能であり、例えば、衝突判定領域Wにつぎのような修正(補正)も加えて衝突判定精度を一層向上するようにしてもよい。(1)走行路の推定カーブ半径を考慮して衝突判定領域Wをさらに修正(補正)する。具体的には、走行路の推定カーブ半径の絶対値が小さいときに衝突判定領域Wを狭くする。(2)物標200の移動物(トラッキング有り)/停止物を区別して衝突判定領域Wをさらに修正(補正)する。具体的には、停止物であれば物標200が路側物の可能性が高いので、衝突判定領域Wを狭くする。(3)レーダ5の公差(例えばldeg)を考慮(遠距離ではばらつきが大きい)し、物標200の距離に比例した衝突判定領域Wの修正(補正)も加える。例えば、遠距離ではフィルタを重くしたり、横速度変化を抑制する方向へ衝突判定領域Wを修正(補正)する。
【0036】
つぎに、自車両1におけるレーダ5の搭載位置は例えばフロントバンパーの右端部であってもよく、その他の位置であってもよい。また、本発明の「所定の幅」は前記した略自車両1の車幅に限られず、予め好適に設定した幅であってもよい。
【0037】
また、本発明は、レーダ5をリアバンパー等に搭載して後方の車両等の物標と自車両との衝突可能性を判断する物標認識装置にも同様に適用できる。
【0038】
さらに、自車両1は前方や後方を撮影するカメラも搭載し、レーダ5とカメラとのいわゆるセンサフュージョンで物標と自車両との衝突可能性を判断する物標認識装置にも適用できる。
【0039】
そして、本発明は、種々の車両の物標認識装置に適用できる。
【符号の説明】
【0040】
1 自車両
5 レーダ
8 衝突判定回避処理部
200 物標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両に車両中心ラインから車幅方向にずれてオフセット搭載されたレーダにより時々刻々検知された物標との衝突可能性を判断する物標認識装置であって、
自車両と物標との距離が前記レーダの水平方向の検知角と搭載位置のオフセット量とに基づいて設定された所定距離以内になったか否かを判定する接近判定手段と、
前記接近判定手段の前記所定距離以内の判定により、前記物標が近づくにつれて所定の幅に設定される衝突判定領域を前記検知角に応じて前記レーダの搭載位置側へ拡大修正する判定領域修正手段とを備えたことを特徴とする物標認識装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物標認識装置において、
前記判定領域修正手段により、さらに前記衝突判定領域の前記拡大修正により広がった前記オフセット搭載位置側と反対側は狭くすることを特徴とする物標認識装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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