説明

物理量センサ

【課題】本発明は、角速度、加速度等の物理量を検出する検出素子に外部から伝搬する振動等の影響を排除して、角速度、加速度等の物理量を高精度にて検出できる物理量センサを提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明は角速度、加速度等の物理量を検出する検出素子21を、前記検出素子の特性を測定するためのケースに電気的に接続するためのワイヤ63の剛性のみで空間に保持し、接着剤による接着応力などの影響を除去したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角速度、加速度などを検知する物理量センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5(a)は従来の物理量センサの一つである角速度センサの検出素子の上面図、図5(b)は図5(a)の検出素子をX軸に沿って切った断面図を示す(特許文献1参照)。
【0003】
図5(a)(b)において、1はXY平面に平行に配置されたシリコン等からなる基板であり、該基板1の底面側をエッチング処理して薄肉の円環状の可撓部2を形成することにより、前記薄肉の円環状の可撓部2に囲まれた質量部3と、前記薄肉の円環状の可撓部2を取り囲むように配置した固定部4とが形成されている。また前記基板1の表面側には下部電極5、圧電膜6を形成するとともに、該圧電膜6上には上部電極7A,7B,7C,7D,7Eを形成している。前記上部電極7A,7B,7C,7DはXYZ座標系の原点Oを中心とした円弧に沿った帯状をしており、X軸あるいはY軸に関して線対称な形状をしている。また、前記上部電極7Eは原点Oを中心とした円環状をしている。
【0004】
前記上部電極7Eと下部電極5間に交流信号を印加すると、圧電効果により質量部3はZ方向に単振動する。この状態で、検出素子がX軸の周りに回転するとY軸方向にコリオリ力が働き前記質量部3はY軸方向に振り子振動し、前記薄肉の円環状の可撓部2が歪む。この歪により上部電極7C,7Dに発生する電荷からX軸周りの角速度が検出できる。同様にして、質量部3をZ軸方向に単振動させた状態で角速度センサがY軸の周りに回転すると、X軸方向にコリオリ力が働き前記質量部3はX軸方向に振り子振動し、前記薄肉の円環状の可撓部2が歪む。この歪により上部電極7A,7Bに発生する電荷からY軸周りの角速度が検出できるものである。
【0005】
図6は図5に示した角速度センサ等の検出素子をケース8に実装した状態を示す断面図である。図6において、9は検出素子の固定部をケース8に固定するための接着剤である。また検出素子の下部電極5および上部電極7A,7B,7C,7D,7Eは前記ケース8の入出力端子10とワイヤ11にて電気的及び機械的に接続する。なお、図6では煩雑さを避けるために上部電極7A,7Bのみを入出力端子10にワイヤ11にて接続している。
【0006】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−94661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の物理量センサにおいては、検出素子の固定部4をケース8に接着剤9で接着固定を行なっているため、質量部3の振動が接着剤9、ケース8を介して外部に漏れたり、外部からの振動がケース8、接着剤9を介して質量部3に伝搬したりすることにより、あるいは接着剤9の硬化収縮時に発生する応力が検出素子に作用することにより、検出素子の特性に影響を与えてしまう場合がある。これにより、物体に働く物理量を高精度で測定することができないという課題を有していた。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、角速度センサ等の検出素子とケース間を機械的に絶縁することにより、物体に働く物理量を高精度で測定できる物理量センサを提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有する。
【0011】
請求項1に記載の発明は、入出力電極を有し角速度または加速度を検出する検出素子と、入出力端子を有し前記検出素子の特性を測定するためのケースとを備え、前記入出力電極と入出力端子とをワイヤで電気的、機械的に接続するとともに前記検出素子は前記ワイヤのみと機械的接触を持つようにしたもので、この構成によれば、検出素子はワイヤのみで電気的、機械的接続を行なうため、検出素子とケースとを機械的に絶縁でき、これにより、前記検出素子の振動がケースを介して外部に漏れることがないとともに、外部からの振動が検出素子に伝搬することがなく、また検出素子に接着剤の接着応力等が加わることもないため、角速度、加速度等の物理量を高精度にて検出できるという作用効果を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明の物理量センサは、入出力電極を有し角速度または加速度を検出する検出素子と、入出力端子を有し前記検出素子の特性を測定するためのケースとを備え、前記入出力電極と入出力端子とをワイヤで電気的、機械的に接続するとともに前記検出素子は前記ワイヤのみと機械的接触を持つようにしているため、検出素子とケース間を機械的に絶縁することができ、これにより、角速度、加速度等の物理量を高精度にて検出できるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)(b)本発明の実施の形態における検出素子の上面図および、同検出素子の断面図
【図2】同検出素子をケースに実装した状態を示す断面図
【図3】同検出素子をケースに実装した状態における同検出素子の駆動電圧の雰囲気温度に対する変動を示す図
【図4】(a)(b)同検出素子をケースに実装するための方法を示す断面図
【図5】(a)(b)従来の物理量センサの検出素子の上面図および、同検出素子の断面図
【図6】従来の物理量センサの検出素子をケースに実装した状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1(a)は本発明の実施の形態における検出素子21の上面図、図1(b)は図1(a)の検出素子をX軸に沿ったA−A線で切った断面図を示す。この図1において、22はXY平面に平行に配置されたシリコン等の半導体ウェハからなる基板であり、該基板22にはエッチング処理して薄肉の円筒状に形成された固定部23と、該固定部23の内側に配され、環状の薄肉部24によって振動可能とされた円柱状の質量部25、とが一体的に形成されている。前記検出素子21の外形寸法は大略直径2mm、厚み0.4mmであり、前記環状の薄肉部24の厚さは約5μmとしている。
【0015】
前記基板22の表面側で環状の薄肉部24上には中心側に圧電/電歪素子からなる円弧状の第1、第2、第3、第4の検出部31,32,33,34が、外周側には圧電/電歪素子からなる円弧状の第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38が、Z軸の周りにほぼ90゜間隔で形成されている。また、前記基板22の表面側で環状の薄肉部24上には、前記第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38と隣接して振動モニター部(図示せず)がZ軸の周りにほぼ90゜間隔で形成されている。さらに、前記基板22の表面側で前記固定部23に対応する位置には、前記第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38および、第1、第2、第3、第4の検出部31,32,33,34と信号ライン(図示せず)で接続された入出力電極45,46,47,48,49,50,51,52が形成されている。
【0016】
図2は前記検出素子21をケース61に実装した状態を示す断面図である。図2において、前記検出素子21の入出力電極45,46,47,48,49,50,51,52は前記ケース61の入出力端子62とワイヤ63にて電気的及び機械的に接続するとともに、ワイヤ63の剛性を用いて前記検出素子21はケース61と接触せず前記ワイヤ63のみと機械的接触を持つように構成している。なお、図2では煩雑さを避けるために入出力電極47,50のみを入出力端子62にワイヤ63にて接続している。
【0017】
前記第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38に正弦波駆動電圧を印加すると、第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38が面内方向に伸縮することにより、質量部25はZ軸方向に上下運動を行なう。すなわち、前記第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38がともに面内方向に伸びると環状の薄肉部24が撓むために、質量部25はZ軸の正方向に移動する。次に前記第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38がともに面内方向に縮むと環状の薄肉部24が前と逆方向に撓むために、質量部25はZ軸の負方向に移動する。こうして質量部25はZ軸方向に上下振動を行なう。ここで環状の薄肉部24に発生する歪は前記振動モニター部において電気信号に変換され、AGC回路にて基準電圧と比較された後、駆動回路を経て前記第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38にフィードバックされる。これにより、環状の薄肉部24に発生する歪を一定の値に維持することで、質量部25の振動振幅を一定にしている。
【0018】
この時、前記検出素子21にY軸周りの角速度ωyが加えられると、質量部25はZ軸方向に振動しているため、質量部25の質量をm、Z軸方向の速度をVzとするとX軸方向のコリオリ力Rx=−2mωyzが発生して質量部25はX軸方向に振動する。このように質量部25がX軸方向に振動することにより環状の薄肉部24に発生する歪を前記検出部31,33で電気信号に変換する。この検出信号から前記第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38に加える駆動信号を分離することでY軸周りの角速度が検出できる。
【0019】
また、前記検出素子21にX軸周りの角速度ωxが加えられると、質量部25はZ軸方向に振動しているため、Y軸方向のコリオリ力RYが発生して質量部25はY軸方向に振動する。質量部25がY軸方向に振動することにより前記検出部32,34には検出信号が発生する。この検出信号から前記第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38に加える駆動信号を分離することでX軸周りの角速度が検出できる。こうして前記検出素子21はX軸、Y軸の周りの角速度を検出することができるものである。
【0020】
図3は検出素子21を図2に示したようにケース61に実装した状態で、検出素子21の駆動電圧が雰囲気温度に対してどのように変動するかを示す図である。なお、図3には比較のために、検出素子21の固定部23をケース61に種々の接着剤を用いて接着固定した場合に、検出素子21の駆動電圧が雰囲気温度に対してどのように変動するかを併せて示している。この図3において、Aは本発明の検出素子21を図2に示したようにケース61に実装した場合に、検出素子21の駆動電圧の雰囲気温度に対する変動を示すデータであり、雰囲気温度に関わらず検出素子21の質量部25の振動振幅を一定に維持するために第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38に印加される駆動電圧はほぼ0.25Vrmsの低い値に留まっている。一方、図3において、Bは検出素子21の固定部23をケース61にせん断弾性率の大きいエポキシ樹脂(常温でのせん断弾性率:約3GPa)で接着固定した場合に、検出素子21の駆動電圧の雰囲気温度に対する変動を示すデータである。この時、検出素子21の質量部25の振動振幅を一定に維持するために第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38に印加される駆動電圧は−40℃〜85℃の範囲で大きく変動することはないものの、ほぼ0.75〜1Vrmsという、Aの場合に比較して大きな値を示す。これはエポキシ系接着剤の硬化収縮時の応力が検出素子21に加わるとともに、硬化後の接着剤硬度が大きいため検出素子21の質量部25の振動が外部に漏れるためと考えられる。また、図3において、Cは検出素子21の固定部23をケース61にせん断弾性率の小さいシリコ−ン樹脂(常温でのせん断弾性率:約0.01GPa)で接着固定した場合に、検出素子21の駆動電圧の雰囲気温度に対する変動を示すデータであり、雰囲気温度が低下するにつれて検出素子21の質量部25の振動振幅を一定に維持するために第1、第2、第3、第4の駆動部35,36,37,38に印加される駆動電圧が急速に上昇していることが分かる。これは検出素子21の質量部25の振動がシリコ−ン樹脂に吸収、ダンピングされる程度が温度低下とともに増大するためと考えられる。
【0021】
図3のデータから明らかなように、検出素子21を図2に示したようにケース61に実装した場合には、検出素子21の振動がケース61を介して外部に漏れることがないとともに、外部からの振動が検出素子21に伝搬することがなく、また検出素子21に接着剤の接着応力等が加わることもないため、角速度、加速度等の物理量を高精度に検出することができるものである。
【0022】
図4(a)(b)は本発明の実施の形態における検出素子21をケース61に実装するための方法を示す断面図である。最初に図4(a)に示すように、検出素子21の固定部23をケース61にワックス64にて接着固定する。
【0023】
次に、前記検出素子21の入出力電極45,46,47,48,49,50,51,52と、前記ケース61の入出力端子62とをワイヤ63にて電気的及び機械的に接続する。なお、図4(a)では煩雑さを避けるために入出力電極47,50のみを入出力端子62にワイヤ63にて接続している。
【0024】
次に、前記検出素子21を加熱雰囲気中に置いてワックス64を蒸散させ、ケース61から剥離させるとともに、ワイヤ63の剛性を用いて前記検出素子21を空間に保持することにより図4(b)に示す物理量センサを得ることができる。
【0025】
なお、前記ワックス64に代えて、検出素子21の固定部23をケース61にシリコーン系またはシアノアクリレート系の接着剤にて接着固定することもできる。この時、シリコーン系接着剤を用いる場合には、接着力が小さいため前記検出素子21をケース61から容易に剥離することができる。また、シアノアクリレート系接着剤を用いる場合には、ホットプレートなどで100℃程度の熱を加えて接着剤を熱劣化させれば前記検出素子21をケース61から容易に剥離することができる。これにより、前記入出力電極と入出力端子とをワイヤで電気的、機械的に接続するとともに前記検出素子は前記ワイヤのみと機械的接触を持つようにしているため、検出素子とケース間を機械的に絶縁することができ、これにより、角速度、加速度等の物理量を高精度に検出できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る物理量センサの特性評価方法は、入出力電極を有し角速度または加速度を検出する検出素子と、入出力端子を有し前記検出素子の特性を測定するためのケースとを備え、前記入出力電極と入出力端子とをワイヤで電気的、機械的に接続するとともに前記検出素子は前記ワイヤのみと機械的接触を持つようにしているため、検出素子とケース間を機械的に絶縁することができ、これにより、角速度、加速度等の物理量を高精度に検出できるという効果を有するものであり、ために、特に、車両等の移動体の姿勢制御やナビゲーション等、各種電子機器に用いてこれらの機器に働く加速度や角速度を検出する物理量センサとして有用なものである。
【符号の説明】
【0027】
21 検出素子
47,50 入出力電極
61 ケース
62 入出力端子
63 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入出力電極を有し角速度、加速度等の物理量を検出する検出素子と、入出力端子を有し前記検出素子の特性を測定するためのケースとを備え、前記入出力電極と入出力端子とをワイヤで電気的、機械的に接続するとともに前記検出素子は前記ワイヤのみと機械的接触を持つようにした物理量センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−242143(P2011−242143A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111722(P2010−111722)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】