説明

物質移動の限界を低減させた燃料電池

この開示は、高分子電解質の部材を有する燃料電池、および、その部品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[001]
本願は、2008年6月23日付けで出願された米国仮出願第61/074,805号の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
[002]
本発明の開示は、高分子電解質膜を有する燃料電池の分野を対象とする。
【背景技術】
【0003】
[003]
典型的な高分子電解質膜(「PEM」)の燃料電池は、その水和レベルに応じてプロトン伝導を補助する電解質として役立つ高分子膜を有する。高分子膜は、2つの表面(または2つの側面)を有する。1つの表面は、陽極の電極触媒層と接触しており、一方で他方の表面は、陰極の電極触媒層と接触している。陽極触媒によって、水素がそれを構成するプロトンとエレクトロンに解離し、そのプロトンは、上記膜を介して陽極側からその陰極側に移動し、そこでそれらは活性化された酸素種と再結合して、陰極触媒の存在下で水を形成する。
【発明の概要】
【0004】
[004]
本発明の開示は、高分子電解質膜を有する燃料電池を提供する。本燃料電池は、陰極、陽極、および、陰極と陽極との間に挟まれた高分子膜を含む電気化学パッケージを含む。本燃料電池はさらに、第一および第二のバイポーラプレート、第一のバイポーラプレートと電気化学パッケージの陽極との間に配置された陽極区画、および、第二のバイポーラプレートと電気化学パッケージの陰極との間に配置された陰極区画を含む。さらに、第一および第二のバイポーラプレートのうち少なくとも一方は、成形された金属板であり、および、陽極および陰極区画のうち少なくとも一方は、多孔質スペーサーを含む。
【0005】
[005]
本明細書において開示されたように、成形された金属板は、平坦ではない幾何学的形状を有する金属板である。成形された金属板は、隆起部および溝部、複数の突起およびへこみ、複数のホールを有していてもよいし、またあるいは流体が通過するためのチャネルを有していてもよい。多孔質スペーサーは、穿孔された金属板、金属発泡体、黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、および、金属線の網から選択されるか、または、このような構成要素が複合的に組み合わされたものである。
【0006】
[006]
さらに本明細書において開示された燃料電池は、その電気化学パッケージの陽極を、成形された金属板と接触した状態で有していてもよいし、さらに、その電気化学パッケージの陰極を、多孔質スペーサーと接触した状態で有していてもよい。本燃料電池はまた、成形された金属板と陽極との間に挟まれた多孔質スペーサーを含んでいてもよい。
【0007】
[007]
加えて本明細書において開示された燃料電池は、その電気化学パッケージの陰極を、成形された金属板と接触した状態で有してもよいし、その電気化学パッケージの陽極を、多孔質スペーサーと接触した状態で有してもよい。本燃料電池はまた、成形された金属板と陰極との間に挟まれた多孔質スペーサーを含んでいてもよい。
【0008】
[008]
また本発明の開示は、燃料電池スタックも提供する。本燃料電池スタックは複数の電気化学パッケージを含み、それぞれ陽極、陰極、陽極と陰極との間に挟まれた高分子膜を含み、加えて複数のバイポーラプレート組立品も含み、ここで電気化学パッケージとバイポーラプレート組立品は、電気化学パッケージが2つのバイポーラプレート組立品の間に挟まれ、さらにバイポーラプレート組立品が2つの電気化学パッケージとの間に(または、電気化学パッケージとエンドプレート組立品との間に)挟まれるように交互に配置される。
【0009】
[009]
本明細書で用いられるように、バイポーラプレート組立品(これは、燃料電池の構成要素の組み合わせである)は、少なくとも1つのバイポーラプレートと、バイポーラプレートに取り付けられた、または、それに隣接する少なくとも1つのその他の構成要素とを含む。具体的な実施態様において、バイポーラプレート組立品は、一方の側に取り付けられた、または、それに隣接する成形された金属板と、他方の側に取り付けられた、または、それに隣接する多孔質スペーサーとを有する平坦なバイポーラプレートを含む。具体的な実施態様において、バイポーラプレート組立品はまた、2つの成形された金属板を含んでいてもよく、この金属板が一緒に積み重ねられて、それらの間に冷却流体通路としての役割を果たす可能性があるスペースが形成される。
【0010】
[0010]
この開示は、さらに、陰極、陽極、および、陰極と陽極との間に挟まれた高分子膜を含む電気化学パッケージ;第一および第二のバイポーラプレート;第一のバイポーラプレートと電気化学パッケージの陽極との間に配置された陽極区画;および、第二のバイポーラプレートと電気化学パッケージの陰極との間に配置された陰極区画を含む燃料電池を提供する。第一および第二のバイポーラプレートはそれぞれ平坦な金属プレートであり、陽極区画および陰極区画のうち少なくとも一方は、多孔質スペーサーを含む。
【0011】
[0011]
この燃料電池の具体的な実施態様において、陽極区画および陰極区画はそれぞれ、穿孔された金属板、金属発泡体、黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、および、金属線の網から選択された、または、このような構成要素が複合的に組み合わされた、少なくとも1つの多孔質スペーサーを含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】[0012] 図1Aは、本開示における成形された金属板の例の概略図である。
【図1B】図1Bは、本開示における成形された金属板の例の概略図である。
【図1C】図1Cは、本開示における成形された金属板の例の概略図である。
【図1D】図1Dは、本開示における成形された金属板の例の概略図である。
【図1E】図1Eは、本開示における成形された金属板の例の概略図である。
【図2A】[0013] 図2Aは、本開示による燃料電池の実施態様の概略図である。
【図2B】図2Bは、電気化学パッケージとの様々な接触パターンの概略図である。
【図2C】図2Cは、電気化学パッケージとの様々な接触パターンの概略図である。
【図2D】図2Dは、電気化学パッケージとの様々な接触パターンの概略図である。
【図3】[0014] 図3は、本開示による燃料電池のその他の実施態様の概略図である。
【図4】[0015] 図4は、本開示によるさらなる燃料電池の実施態様の概略図である。
【図5】[0016] 図5は、所定の燃料電池の構成要素の組み合わせが組み立てられた場合における接触抵抗を示すデータプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0017]
本明細書において開示されたように、膜電極接合体(「MEA」)は、一方の側に陽極触媒、および、その反対側に陰極触媒を有する高分子膜を意味する。ガス拡散層(「GDL」)として知られている導電媒体は、MEAの2つの側の一方または両方に隣接して取り付けてもよいし、または、置いてもよい。ガス拡散層は、カーボンペーパー、黒鉛繊維(graphite cloth)、または、その他の多孔質でフレキシブルな導電性材料、または、それらの複合材料で作製される。
【0014】
[0018]
具体的な実施態様において、電極触媒は、高分子膜の表面に直接適用することができる。追加の実施態様において、電極触媒は、高分子膜に隣接する触媒層に包含させてもよい。あるいは、触媒をガス拡散層に適用して、続いて触媒を高分子膜に隣接して化学的に取り付けてもよいし、機械的に取り付けてもよいし、または、置いてもよく、それにより触媒をガス拡散層と高分子膜との間に挟まれた状態にすることができる。前者のケースにおいて、ガス拡散層は、本燃料電池を作動させるのに必須ではない。本明細書において開示されたように、電気化学パッケージ(electrochemical package,「ECP」)は、両側にガス拡散層が取り付けられたMEA、または、一方の側だけに1つのガス拡散層が取り付けられたMEA、または、ガス拡散層が取り付けられていないMEAを含む構成要素を意味する。従って、ECPの陽極は、ECPの陽極触媒を含む側を意味し、ECPのの陰極は、ECPの陰極触媒を含む側を意味し、これにガス拡散層が取り付けられていてもよいし、または取り付けられていなくてもよい。それゆえに、燃料電池の構成要素が、ECPの電極と直接接触している場合、その構成要素は、触媒、触媒層と直接接触しているか、または、ガス拡散層と直接接触しているかのいずれかであり得る。
【0015】
[0019]
ECPの陽極と、導電性(例えば、黒鉛または金属)ガスバリア、すなわちバイポーラプレートとの間のスペースである陽極区画には、燃料ガス(例えば水素含有ガス)が供給される。ECPの陰極とバイポーラプレートとの間のスペースである陰極区画には、酸化剤ガス(例えば、空気のような酸素含有ガス)が供給される。陽極区画と陰極区画それぞれに流体通路を作るために、スペーサーを用いてもよい。スペーサーは、導電性であり、意図的に流体を通過させるようにした材料から製造することができる。
【0016】
[0020]
具体的な実施態様において、単一の燃料電池は、ECP、陽極区画、陰極区画、2つのバイポーラプレートを含み、さらに任意に、1つまたはそれより多くのスペーサーを含んでいてもよい。「燃料電池スタック」は、連続して電気的に接続された複数の単一の燃料電池を含み、一般的に、一方の燃料電池の陽極区画と他方の燃料電池の陰極区画との間に冷却セルが挟まれている。冷却流体は、ガス状、または、液状、または、多相であり、冷却セルを通過することにより隣接する陽極および陰極区画と熱交換して、そこで温度制御することができる。加えて、または、その代わりに、水性の液体冷却剤が、陽極または陰極区画内部の陽極ガスまたは陰極ガスと混合されても、温度制御を達成することができる。
【0017】
[0021]
本明細書で用いられるように、多孔質構造は、構造材料と接触可能な空隙の両方からなる構造であり、ここで「構造材料」とは、接触不可能な空隙がいくつか混在している固体材料を意味し、ここで「接触可能な空隙」とは、多孔質構造を通る自由な流体の流れを促進するのに役立つ空隙を意味し、ここでこのような構造は「開放」の構造であり、これは、構造中の接触可能な空隙内のどれか2つのポイントが、構造の接触可能な空隙内に全体が包含されている仮想の滑らかな曲線経路によって接続が可能であることを意味し、ここで用語「滑らかな」は、曲線経路が、それに沿ったあらゆるポイントで一義的に定義された接線ベクトルを有することを意味し、ここで成句「自由な流体の流れを促進する」とは、上述したあらゆる曲線経路に関して非干渉基準が満たされていることを意味し、これは、曲線経路上のあらゆるポイントに関して、(a)前記ポイントをその中心とし、(b)前記ポイントにおいて曲線経路の接線ベクトルに垂直な面にあり、および、(c)5ミクロンの半径を有する円がどのような固体材料とも交差しないことを意味し、さらにここで用語「〜内の」とは、燃料電池の立体配置において構造の凸状の外殻が他の構成要素と組み立てられる際に生じる、構造の凸状の外殻の内部を意味する。
【0018】
[0022]
上述したような多孔質構造に基づくスペーサーは、物理的に分かれており、互いに異なる複数の別々の流路を含むスペーサーとは区別される。具体的な実施態様において、1つまたはそれより多くのスペーサーは、燃料電池の陽極および/または陰極区画内に置かれ、ECPとバイポーラプレートとを電気的に接続している。スペーサーは、多孔質構造で製造されていてもよいし、または、非多孔質構造で製造されていてもよい。
【0019】
[0023]
適切な多孔質スペーサーの1種は、穿孔された金属板である。穿孔された金属板は、例えば、円形の穴、六角形の穴、正方形の穴、スロット付きの穴のような穴の配列を有する。穿孔された金属板は、燃料電池区画中のスペーサーとして取り付ける前に、平坦ではない幾何学的形状を形成するために加工してもよい。例えば、穿孔された金属板を型押しして、波状の隆起部と溝部、または、へこみと突起、またはその他の幾何学的形状を形成してもよい。市販されている穿孔された金属板の例は、マクニコルス社(McNichols Co.,フロリダ州タンパ)から得ることができる。穿孔された金属板がバイポーラプレートとECPとの間に取り付けられると、その表面にそって、同様に金属板中の穴を通って流れが通過するようになる。
【0020】
[0024]
その他の適切な多孔質スペーサーは、エキスパンドメタルの網である。エキスパンドメタルの網は、固体金属のシートに一定間隔でスリットを入れて、それを伸長することによって所定の幾何学的形状(例えば菱形)を有する開口部を作ることによって作製される。標準的なエキスパンドメタルにおいて、菱形の開口部の列はそれぞれ次の列とずれており、不均一な構造が形成される。標準的なエキスパンドメタルのシートをロールさせて、平らなエキスパンドメタルを製造することもできる。
【0021】
[0025]
さらなる適切な多孔質スペーサーは金属線の網であり、これは、金属線を織ったり、または、まとめて溶接することによって作製してもよいし、または、穴の開いたシートまたは金属グリッドを単に接着したり、または、互いに隣接させて置くことによって作製してもよい。金属線の網とエキスパンドメタルの網はいずれも市販されており、例えば、メカニカル・メタルズ社(Mechanical Metals,Inc.,ペンシルベニア州ニュータウン)から市販されている。エキスパンドメタルの網および金属線の網は、スペーサーとして用いられる場合、まず加工して平坦ではない幾何学的形状に形成してもよい。
【0022】
[0026]
スペーサーとして、金属発泡体または黒鉛発泡体の部分品を用いてもよい。このような発泡体は、帯(ligament)の相互接続ネットワークを有する網状構造を有する。この独特な構造のために、圧縮されていない状態の発泡材料は、少なくとも75%に達する多孔率を有する可能性があり、このような多孔率は、例えば80%より大きく、85%より大きく、90%より大きく、95%より大きく、および、98%以下である。金属発泡体は市販されており、例えば、ポールベア・アドバンスト・マテリアルズ社(Porvair Advanced Materials,Inc.,ノースカロライナ州ヘンダーソンヴィル)から市販されている。また黒鉛発泡体も市販されており、例えば、ポコグラファイト社(Poco Graphite,Inc.,テキサス州ディケーター)から市販されている。
【0023】
[0027]
スペーサーおよびECPが一緒に圧縮される場合、その接触領域は、ECPの幾何学的表面の面積の合計の75%未満であってもよく、例えば50%未満の領域であり、1%〜35%の範囲の領域、2%〜25%の範囲の領域、および、5%〜15%の範囲の領域である。結果として、ECP表面の大部分が露出しており、陰極または陽極区画において反応物と容易に接触が可能な状態になる。従って、反応物がECPにおける触媒に到達するための物質移動の限界が低減する。結果として、多孔質スペーサーを含む燃料電池は、高い出力密度で稼働が可能であり、例えば少なくとも1.0ワット/cmで稼働が可能である。
【0024】
[0028]
その他の実施態様において、燃料電池は、平坦なバイポーラプレートを含んでもよいし、または、成形された金属板で作製された平坦ではないバイポーラプレートを含んでもよい。本明細書で用いられるように、成形された金属板は、平坦ではない幾何学的形状を有する金属板を意味する。このような金属板は、浮き出し加工された、または、エンボス加工された表面を有していてもよい。このような金属板は、波状の隆起部および溝部を有する波形の金属板であってもよい。またこのような金属板は、不連続のへこみおよび突起を有していてもよい。
【0025】
[0029]
成形された金属板は、金属板形成方法(例えば型押し)で製造することができる。また、例えばエッチングおよびレーザー彫刻で、金属板の厚さが変わるように表面材料の一部を除去することによってチャネルを形成していてもよい。成形された金属板の浮き出し加工された表面と、隣接する平坦な表面(例えばECP)との間に、閉鎖されたチャネルが形成される可能性がある。結果として、成形された金属板の部分品が、燃料電池において、陰極または陽極区画、同様に、陰極または陽極区画内部のスペーサーの境界となるバイポーラプレートとしての役割を果たす可能性がある。
【0026】
[0030]
図1Aは、金属板の一方の側から突き出ている突起の配列を含む、すなわち「片面突起」の成形された金属板の例を示す。図1Bは、図1Aに示す成形された金属板の金属板に垂直な断面図におけるプロファイルを示す。この実施態様において、金属板の一方の側における突起は、反対側ではくぼみに相当する。さらに、突起の基部付近の領域があり、この領域は、実質的に平坦であり、さらに実質的に同レベルの面である。成形された金属板が2つの平坦なプレートの間に挟まれている場合、流路は、突起を有する側とそれに隣接する平坦なプレートとの間にのみ存在する。反対側には流れのチャネルは存在しないが、これはなぜなら、表面の平坦な部分は平坦なプレートで被覆されており、へこみは相互接続されておらず、流路が形成されないためである。
【0027】
[0031]
図1Cは、金属板の両側に突起を含む、すなわち「両側突起」の成形された金属板の例を示す。この実施例において、隣接する突起間に平坦な領域はない。図1Dは、図1Cに示す成形された金属板の金属板に垂直な断面図におけるプロファイルを示す。このような成形された金属板が2つの平坦なプレート間に挟まれている場合、突起が金属板の両側で平坦なプレートと接触して、成形された金属板の両側に流路を形成する。
【0028】
[0032]
図1Eは、両側突起を有し、突起が錐台形である成形された金属板のその他の例を示す。図1B、1Cおよび1Eで説明したように、突起のプロファイルは、曲線からなるプロファイルでもよいし(図1Bおよび1Dで示した通り)、または、直線の節で構成されるプロファイルでもよいし(図1E)、または、直線の節と曲線との両方で構成されるプロファイルでもよい。
【0029】
[0033]
突起の高さ「H」は、成形された金属板を挟む2つの平行な仮想の面(すなわち図1B、1Dおよび1Fにおける面Aと面B)の間の最短距離と定義され、この高さは、0.05〜5.0mmの範囲であり、例えば0.1〜3.0mm、0.2〜2.0mm、0.3〜1.0mm、および、0.4〜0.6mmの範囲である。突起の密度は、成形された金属板1平方センチメートルあたり突起が1〜10,000個の範囲であり、例えば突起が5〜400個/cm、突起が10〜400個/cm、突起が10〜200個/cm、および、突起が20〜200個/cmである。
【0030】
[0034]
突起の配列は、1)六角形(これは、1つの突起が6個の隣接する突起で取り囲まれて、六角形を形成していることを意味する);2)正方形のパターン(これは、4個の隣接する突起が正方形を形成できることを意味する);または、3)その他の幾何学的パターンであってもよく、さらにそれらの組み合わせでもよい。
【0031】
[0035]
成形された金属板の全体にわたる突起の分布は、均一であってもよいし、または、変化してもよい。例えば、成形された金属板の選択された領域(例えば、流体の入り口または出口の付近の領域、または、金属板の中心の周辺の領域)は、成形された金属板の残りの領域よりも高い突起密度を有していてもよい。
【0032】
[0036]
成形された金属板の全体にわたる突起のサイズ、高さおよび形状は、均一であってもよいし、または、変化してもよい。本明細書で用いられるように、突起のサイズは、突起の最も外側の固体表面上における影響を受けた地点をその外縁として有する表面領域と定義される。突起の密度が高い領域では、突起はより小さいサイズを有していてもよいし、または、逆もまた同様である。組み立てられた燃料電池において、成形された金属板中の突起はまた、反応物の入り口または出口近くの領域においては、成形された金属板の他の領域における突起と比較してより小さいサイズを有していてもよい。加えて、突起は、その隣接する突起とは異なるサイズを有していてもよい。突起は、流れ抵抗を減少させるために流れ方向に延長していてもよいし、または、混合を強化するために流れ方向を横切って延長していてもよく、加えて突起は、これらの作用が選択的に強化されるような方式で分布させてもよい。具体的な実施態様において、突起の領域は、0.000025〜1.0cmの範囲であり、例えば0.0005〜0.8cm、0.0001〜0.5cm、および、0.001〜0.2cmの範囲である。
【0033】
[0037]
図2Aにおいて、この開示における実施態様の1つを説明する。本燃料電池は、高分子膜(105)と2つのガス拡散層(104、106)とを有するECPを含む。陽極および陰極触媒(示さず)は、高分子膜と、ガス拡散層(104)および(106)それぞれとの間に存在する。平坦なバイポーラプレート(101)とECPとの間に、両側突起を有する成形された金属板(102)が置かれている。成形された金属板(102)とECPとの間のスペース(113)は、燃料ガスのための流体通路であり、すなわちこれは陽極区画である。成形された金属板(102)とバイポーラプレート(101)と間のスペース(112)は、冷却流体の通路を構成しており、すなわちこれは冷却セルである。
【0034】
[0038]
陰極区画中のスペーサー(103)は、例えば穿孔された金属板、金属または黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、または、金属線の網のような多孔質材料の部分品であってもよい。これは、ECPの陰極とバイポーラプレート(101)とを電気的に接続する。
【0035】
[0039]
図2Aによる実施態様の一形態は、スペーサーまたはバイポーラプレートを変化させることなく、陽極区画を陰極区画として用いることができる実施態様である(逆もまた同様)。これは、例えば、ECPの陰極がスペース(113)との境界となり、および、ECPの陽極をスペーサー(103)と接触させて配置させるようにしてECPを逆転させることで達成することができる。
【0036】
[0040]
図2Aによる実施態様のその他の形態は、成形された金属板(102)とECPとの接触ポイントのパターンと、スペーサー(103)とECPとの接触ポイントのパターンとが異なる実施態様である。例えば、図2Bは、成形された金属板上の突起とECPとの間の接触パターンを説明しており、これは、規則的に並んだドットを含むものである。このようなドットは平均直径「D」を有し、2つの隣接するドット間の典型的な距離は「L」である。このようなサイズパラメーター「D」および「L」は、突起が様々なサイズを有するケース、または、不均一に分布しているケースにおいても同様に定義されるものとする。
【0037】
[0041]
一方で、図2Cは、ECPとスペーサーとの間の接触パターンを説明しており、例えば垂線および水平線を有する格子状の金属の網である。これらのラインの平均的または代表的な幅は「δ」であり、2つの隣接するライン間の典型的な距離は「λ」である。図2Dは、その他の可能性のあるECPとスペーサーとの間の接触パターンを説明しており、例えば金属発泡体の場合である。図2Dによる接触パターンでは、ECPと金属発泡体との接触ポイントは、平均直径「d」、および、平均距離「l」を有する。従って、「L」、「λ」および「l」は、ECP表面付近の流体通路の特徴を示す寸法であり、一方で「D」、「δ」および「d」は、ECPとの接触ポイントの特徴を示す寸法である。
【0038】
[0042]
図2A〜2Dによる実施態様の一形態は、「L/λ」および「L/l」の値が1よりも大きい実施態様であり、例えばこの値が1〜100の範囲、2〜50の範囲、および、35〜30の範囲の実施態様である。具体的な実施態様において、「D/δ」および「D/d」の値も1よりも大きく、例えば1〜2100の範囲、または、2〜1050範囲、または、35〜7530範囲である。
【0039】
[0043]
図2Aに記載の本燃料電池の実施態様のさらなる形態は、本燃料電池が、より大きい特徴を示す寸法を有する区画において、より小さい特徴を示す寸法を有する区画における圧力よりも高い圧力で稼働することができる実施態様である。ECPは軟質の材料で作製されており、陽極と陰極区画との間に圧力差が存在する場合、変形する場合がある。このケースにおいて、圧力差によってECPに力が加わり、ECPがスペーサー(103)を押す。それにもかかわらず、図2Cおよび図2Dで示されるように、スペーサー(103)は多孔質材料、すなわち金属の網または金属発泡体であり、そのECPとの接触ポイントは、ECPの表面全体にわたり分布する。その結果として、ECPに加えられた力はスペーサーによって均一に吸収することができるので、ECPは変形することはない。歪みが生じたとしても、反応物のガスはそれでもなおスペーサーの孔を通過してECPの電極に到達することが可能である。
【0040】
[0044]
図3に、この開示におけるその他の実施態様を説明する。この実施態様による燃料電池において、陽極区画において、スペーサー(107)は成形された金属板(102)とECPとの間に挟まれている。スペーサー(107)は、多孔質材料の部分品であってもよく、例えば穿孔された金属板、金属または黒鉛発泡体、織られた、または、溶接した金属線の網、または、エキスパンドメタルの網の部分品であってもよい。この実施態様において、成形された金属板(102)は、スペーサー(107)と接触している。
【0041】
[0045]
図4に、この開示におけるさらなる実施態様を示す。この実施態様による燃料電池は、平坦なバイポーラプレートを有さない。その代わりに2つの成形された金属板(502)が一緒に積み重ねられており、ここで金属板の突起は対置されているが、互いに接触している。2つの成形された金属板(502)間のスペース(512)は、冷却セルとしての役割を果たすことができる。ECPの一方の側とそれに隣接する成形された金属板との間のスペース、例えば(513)または(514)は、燃料ガス(すなわち陽極区画)、または、陰極ガス(すなわち陰極区画)のいずれかのための流路であってもよい。従って、この実施態様の燃料電池を含む燃料電池スタックは、1つのECPと2つの成形された金属板とを一緒に交互に積み重ねることによって構築することができる。その上、この2つの成形された金属板は、バイポーラプレート組立品として一緒に接着させてもよい。
【0042】
[0046]
図4による実施態様の一形態は、成形された金属板(502)中の隣接する突起が一列に並んでいない場合があるが、組み立てられた燃料電池において2つの成形された金属板間にスペースを維持することができる実施態様である。
【0043】
[0047]
具体的な実施態様において、図4のスペース(513)および(514)は、例えば穿孔された金属板、金属発泡体、黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、および、金属線の網のような多孔質体のスペーサーを1つまたはそれより多くさらに含んでいてもよい。その他の実施態様は、成形された金属板(502)が、構造の幾何学的形状、特徴を示す寸法または材料の点で同一ではない場合がある実施態様である。
【0044】
[0048]
本明細書において開示された実施態様の一形態は、バイポーラプレートとスペーサーとを一緒に接着して、バイポーラプレート組立品を形成することができる実施態様である。例えば、図2に記載の本燃料電池において、スペーサー(103)もしくは成形された金属板(102)、またはその両方を、平坦なバイポーラプレート(101)に接着させてもよい。同様に、図3において、スペーサー(103)、平坦なバイポーラプレート(101)、成形されたシート(102)、および、スペーサー(107)のうち2またはそれより多くの隣接する構成要素を一緒に接着することができる。燃料電池スタックは、ECPとバイポーラプレート組立品とを交互に繰り返し積み重ねることによって構築することができる。
【0045】
[0049]
バイポーラプレート組立品の構築は、加圧、溶接、ろう付け、接着、または、エラストマーによる封止によって達成することができる。また隣接する構成要素間の接着も、クランプ、クリップ、または、スナップのような機械的な固定手段を用いて達成することができる。そうすれば、固定手段を除去すれば、本燃料電池の構成要素にほとんどダメージを与えることなく接着をはがすことができる。
【0046】
[0050]
図5は、本明細書において開示された燃料電池スタックの接触抵抗を示す。図2で示すような燃料電池スタックを、ECP(104、105および106)を除去することによって改変した。続いて残った組立品を圧縮して、その接触抵抗を様々な圧縮圧力で測定した。図5で示されるように、燃料電池におけるスペーサーの抵抗は、22kgf/cmの接触圧力で約18mΩ/cmである。
【0047】
[0051]
当業者であれば、発明の本質から逸脱することなく様々な改変およびバリエーションを製造することができることは明らかであろう。本発明はこのような全ての改変およびバリエーション(ただし、請求項およびそれらと等価なものの範囲内に含まれる)を包含するものである。
【符号の説明】
【0048】
105 高分子膜
104、106 ガス拡散層
101 平坦なバイポーラプレート
102、502 成形された金属板
112、113、512、513、514 スペース
103、107 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜を有する燃料電池であって:
陰極、陽極、および、陰極と陽極との間に挟まれた高分子膜を含む電気化学パッケージ;
第一および第二のバイポーラプレート;
第一のバイポーラプレートと電気化学パッケージの陽極との間に配置された陽極区画;および、
第二のバイポーラプレートと電気化学パッケージの陰極との間に配置された陰極区画、
を含み、
ここで第一のバイポーラプレートおよび第二のバイポーラプレートのうち少なくとも一方は成形された金属板であり、および、
ここで陽極区画および陰極区画のうち少なくとも一方は、多孔質スペーサーを含む、上記燃料電池。
【請求項2】
前記多孔質スペーサーが、穿孔された金属板、金属発泡体、黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、および、金属線の網から選択される、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記第一のバイポーラプレートが、成形された金属板であり、前記陰極区画が、穿孔された金属板、金属発泡体、黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、および、金属線の網から選択される多孔質スペーサーを含む、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記第二のバイポーラプレートが、成形された金属板であり、前記陽極区画が、穿孔された金属板、金属発泡体、黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、および、金属線の網から選択される多孔質スペーサーを含む、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記第一のバイポーラプレートが、電気化学パッケージの陽極と直接接触している、請求項3に記載の燃料電池。
【請求項6】
第一のバイポーラプレートと電気化学パッケージの陽極との間に挟まれた多孔質スペーサーをさらに含み、ここで該多孔質スペーサーは、穿孔された金属板、金属発泡体、黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、および、金属線の網から選択される、請求項3に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記第二のバイポーラプレートが、電気化学パッケージの陰極と直接接触している、請求項4に記載の燃料電池。
【請求項8】
第二のバイポーラプレートと電気化学パッケージの陰極との間に挟まれた多孔質スペーサーをさらに含み、ここで該多孔質スペーサーは、穿孔された金属板、金属発泡体、黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、および、金属線の網から選択される、請求項4に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記電気化学パッケージの陽極が、陽極触媒、および、ガス拡散層を含む、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記電気化学パッケージの陰極が、陰極触媒、および、ガス拡散層を含む、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項11】
前記成形された金属板が、隆起部と溝部とを含む波形の金属板である、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項12】
前記成形された金属板が、複数の突起を含む、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項13】
成形された金属板の平面方向に垂直な断面図における突起のプロファイルが、曲線であるか、複数の直線の線分で構成されるか、または、1つまたはそれより多くの曲線と1つまたはそれより多くの直線の線分とで構成される、請求項12に記載の燃料電池。
【請求項14】
成形された金属板における前記突起の高さが、0.1〜3.0mmの範囲である、請求項12に記載の燃料電池。
【請求項15】
前記成形された金属板における突起の密度が、突起5〜400個/平方センチメートルの範囲である、請求項12に記載の燃料電池。
【請求項16】
前記突起の密度が、成形された金属板の全体にわたり均一である、請求項12に記載の燃料電池。
【請求項17】
前記突起の密度が、成形された金属板の全体にわたり変化している、請求項12に記載の燃料電池。
【請求項18】
前記成形された金属板が、金属板の一方の側に突起を有する、請求項12に記載の燃料電池。
【請求項19】
前記成形された金属板が、金属板の両側に突起を有する、請求項12に記載の燃料電池。
【請求項20】
燃料電池スタックであって:
複数の電気化学パッケージ、ここで各電気化学パッケージは、陽極、陰極、および、陽極と陰極との間に挟まれた高分子膜を含む;並びに
複数のバイポーラプレート組立品、
を含み、
ここで該電気化学パッケージおよびバイポーラプレート組立品は、電気化学パッケージが2つのバイポーラ組立品の間に挟まれ、バイポーラプレート組立品が2つの電気化学パッケージとの間に挟まれるように互いに交互に積み重ねられる、上記燃料電池スタック。
【請求項21】
前記バイポーラ組立品が、一方の側に多孔質スペーサーが取り付けられた平坦なバイポーラプレートと、他方の側に取り付けられた成形された金属板とを含み、ここで該多孔質スペーサーは、穿孔された金属板、金属発泡体、黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、および、金属線の網から選択される、請求項20に記載の燃料電池スタック。
【請求項22】
前記バイポーラプレート組立品が、溶接、ろう付け、接着、および/または、機械的な加圧によって形成される、請求項21に記載の燃料電池スタック。
【請求項23】
前記バイポーラプレート組立品が、互いに取り付けられた2つの成形されたプレートを含む、請求項21に記載の燃料電池スタック。
【請求項24】
高分子電解質膜を有する燃料電池であって:
陰極、陽極、および、陽極と陰極との間に挟まれた高分子膜を含む電気化学パッケージ;
成形された金属板;
多孔質スペーサー、
を含み、
ここで該陽極または陰極は、成形された金属板または多孔質スペーサーと直接接触している、上記燃料電池。
【請求項25】
前記多孔質スペーサーが、穿孔された金属板、金属発泡体、黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、および、金属線の網からなる群より選択される、請求項24に記載の燃料電池。
【請求項26】
前記成形された金属板が、隆起部および溝部、または、突起およびへこみ、または、流路を形成するチャネルを含む、請求項25に記載の燃料電池。
【請求項27】
前記成形された金属板が、電気化学パッケージの陽極と接触している、請求項24に記載の燃料電池。
【請求項28】
前記成形された金属板が、電気化学パッケージの陰極と接触している、請求項24に記載の燃料電池。
【請求項29】
高分子電解質膜を有する燃料電池であって:
陰極、陽極、および、陰極と陽極との間に挟まれた高分子膜を含む電気化学パッケージ;
第一および第二のバイポーラプレート;第一のバイポーラプレートと電気化学パッケージの陽極との間に配置された陽極区画;および、
第二のバイポーラプレートと電気化学パッケージの陰極との間に配置された陰極区画、
を含み、
ここで第一および第二のバイポーラプレートは平坦な金属プレートであり、および、
ここで陽極区画および陰極区画のうち少なくとも一方は、多孔質スペーサーを含む、上記燃料電池。
【請求項30】
前記多孔質スペーサーが、穿孔された金属板、金属発泡体、黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、および、金属線の網から選択される、請求項29に記載の燃料電池。
【請求項31】
前記陽極区画および陰極区画はそれぞれ、穿孔された金属板、金属発泡体、黒鉛発泡体、エキスパンドメタルの網、および、金属線の網から選択される少なくとも1つの多孔質スペーサーを含む、請求項30に記載の燃料電池。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−525693(P2011−525693A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516279(P2011−516279)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/003701
【国際公開番号】WO2009/157981
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(505163578)ヌヴェラ・フュエル・セルズ・インコーポレーテッド (16)
【Fターム(参考)】