説明

物質移動等を行う装置内の気液接触機構

【課題】個々の液分配器の水平調節を排除し、全体の液分配器の水平設置を確保する技術を提供する。
【解決手段】塔内(20)への組み込みは高さの公差を0近くで作られた複数の水平基準ビーム(101)を先に行い、水平確認後塔に固定する。次に全ての液分配器の部品(40,50,60,61)は、水平基準ビーム(101)に、懸架及び上乗せ固定を行い、部品毎の水平調節を排除し、全体の液分配器の水平度を確保する気液接触機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、規則充填物又は不規則充填物の内部構造を有し、上部に配置された液分配器と下部に配置された液集合器を備え、気体と液体間の物質移動、熱交換または混合を行う装置における気液接触機構に関する。
【背景技術】
【0002】
上部に配置されているトラフ構造の液分配器は塔内のサポートリング上に乗せられ、水平調節は、ライナープレート及びシムプレートを用いトラフ毎に行われていた。
【0003】
水平度を要求されるサポートリングは、水平なフラットバーを材料にするが、ベンディング加工で水平度が損なわれる。塔径が一定以内の場合、大型平削り盤にて矯正水平加工はできる。しかし、塔径がそれ以上になると、矯正加工はできない。
【0004】
水平矯正されたベンディング加工後のサポートリングは、塔壁に溶接され熱歪みにより水平度が損なわれる。塔壁に溶接されたサポートリングを矯正水平加工をする機械は存在しない。
【0005】
液分配器の水平調節は、液分配器の均一液分配だけでなく、装置全体の物質移動等の性能を左右する大変重要な作業である。
【0006】
液分配器の下端と充填物の最上部の間は、空間があり水平調節を妨げない構造となっていた。
【0007】
充填物の最下端と液集合器の間は、気体入り口の為充分な空間が設けられていた
【0008】
装置の処理量を増やすには、液体、気体の投入量を増やす必要がある。特に、気体の投入量を増やすと上昇気体の速度が増える。一定以上の上昇速度になると液体分配器の出口の液滴が上方へ吹き飛ばされる。この速度を運転の限界とされてきた。
【0009】
装置の処理量を増やし、一定以上の気体の上昇速度になると充填物の最下端の液滴は上方へ吹き飛ばされ、即ち、充填物内へ押し戻される。一定の液の重量になるとフラディングを起こし、運転不能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の液分配器の個々の水平調節の問題点にかんがみなされたものであって、水平基準ビームの塔内への水平取り付けを優先し、液分配器の全部品の取り付けは、、液分配器の水平調節を排除し、全体の液分配器の水平設置を確保する技術を提供しようとするものである。
液分配器の下端と充填物の最上部は液分配アダプターで結び、液集合器と充填物の最下端は液集合アダプターで結び、従来の限界を超えて運転が可能になる技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の物質移動等を行う装置内の気液接触装置は、次の構成を有する。
【0012】
構成1
塔内に組み立てられる液分配器の全ての部品は、複数の水平基準ビームに、懸架及び上乗せ構造とし、懸架及び上乗せ部品の水平基準面と液分配器液出口の下端線の製作公差を0に近く作り、塔内への組み込みは高さの公差を0近くで作られた複数の水平基準ビームを先に行い、水平確認後塔に固定する。次に全ての液分配器の部品は、水平基準ビームに、懸架及び上乗せ固定を行い、部品毎の水平調節を排除し、全体の液分配器の水平度を確保することを特徴とする気液接触機構。
【0013】
構成2
通常の規則又は不規則充填物が設置されている、気体と液体間の物質移動、熱交換又は混合を行う装置において、該液分配器の複数の液出口それぞれに1本ずつ懸架された液分配アダプターを該充填物の上面に密着させ、液分配器が水平方向に並列に配置され、これ等複数の液分配器に液を供給する2次液分配器が該複数の液分配器に直角に配置され、該2次液分配器の複数の液出口の幅はそれぞれ下部の液分配器の長さに合わせて下部の各液分配器から均一に液が配分されるように調節され、液の各出口に下部の液分配器に液を供給する懸架ワイヤーを配置し、液集合アダプターの上部を該充填物の下面に密着させその下部を該液集合器に繋ぎ、気体の出口は該液分配器の上部にあり、気体の入り口は該充填物の下端よりも下方にあることを特徴とする気液接触機構。
【0014】
構成3
液分配アダプターを懸架した複数の液分配器は装置の上下方向にそれぞれ段差をなして配置され、各液分配器の水平方向断面に於いては、各液分配器を同一平面に配置した場合に比べて大きい開口率が得られることを特徴とする気液接触機構。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の上記構成1によれば、塔内に組み立てられる液分配器の全ての部品は、複数の水平基準ビームに、懸架及び上乗せ構造とし、懸架及び上乗せ部品の水平基準面と液分配器液出口の下端線の製作公差を0に近く作り、塔内への組み込みは高さの公差を0近くで作られた複数の水平基準ビームを先に行い、水平確認後塔に固定する。次に全ての液分配器の部品は、水平基準ビームに、懸架及び上乗せ固定を行うので、確実な固定さえすれば、全ての液分配器の部品の水平度は、水平基準ビームの水平確認された水平度に一致している、それ故部品毎の水平調節が不要になり、この工程を排除できる。
【0016】
本願発明の上記構成2によれば、該液分配器の複数の液出口それぞれに1本ずつ懸架された液分配アダプターを該充填物の上面に密着させ、液分配器が水平方向に並列に配置され、これ等複数の液分配器に液を供給する2次液分配器が該複数の液分配器に直角に配置され、該2次液分配器の複数の液出口の幅はそれぞれ下部の液分配器の長さに合わせて液が配分されるように調節され、液の各出口に下部の液分配器に液を供給する懸架ワイヤーを配置し、液集合アダプターの上部を該充填物の下面に密着させその下部を該液集合器に繋がれた構造になっている、
即ち、塔上部から、2次液分配器と液分配器が懸架ワイヤーで繋がれ、液分配器と充填物上面は液分配アダプターで繋がれ、充填物の下面と液集合器は液集合アダプターで繋がれた構造ゆえ、装置の処理量を増やすための気体の上昇速度が一定以上に増えても2次液分配器の液は懸架ワイヤーを伝い、液分配器の液は液分配アダプターを伝い充填物の下面の液は液集合アダプターを伝い夫々毛細管の働きで下降し、上方へ吹き飛ばされることはない。従って、処理量を増加の運転が可能になる。
【0017】
本願発明の上記構成3によれば、液分配アダプターを懸架した複数の液分配器は装置の上下方向にそれぞれ段差をなして配置され、各液分配器の水平方向断面に於いては、各液分配器を同一平面に配置した場合に比べて大きい開口率が得られる
構成2の場合、液分配器は水平方向に並列になっている為、水平方向断面に於ける開口率は約50%となり、ここを通過する上昇の気体の速度は他の断面の速度の約2倍即ち100%増加の速度になる。本構成は、これを大きく改善するもので、図示の場合の開口率は、約90%で、気体の上昇速度は、他の断面の約10%増加に留まり、構成2の場合の処理量を大幅に上回る運転が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】液分配器の塔内への組み込み方法を示す実施態様である。
【図2】従来の充填塔を示す断面図である。
【図3】本発明の充填塔を示す断面図である。
【図4】本発明の充填塔を示す断面図と平面図である。
【図5】本発明の詳細を示す断面図である。
【図6】従来の液分配器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1、図3〜図5は本発明にかかる気液接触機構の1実施形態を示すものである。
【0020】
図1は液分配器の塔内への組み込み方法を示す実施態様である。
【0021】
従来の技術に於いては、図6に示すように、液分配器のトラフ31−1,31−2の取り付けは、塔壁10に溶接されているサポートリング15上に載せられ固定される。水平調節はサポートリングの低い方にライナープレート又はシムプレート16,17を挿入し水平調節する方法で行われている。サポートリングは元の水平なフラットバーもベンディング加工で曲げられ水平度は妨げられ、塔壁に強固な溶接を強いられ、熱歪みが発生する。このように、塔壁に溶接されたサポートリングは水平でない為、取り付ける液分配器のトラフ個々の水平調節が余儀なくされる。
この水平調節作業は大変重要で、装置自体の物質移動等の性能に大きな影響を及ぼす。
【0022】
本発明は、上記従来の液分配器の個々の水平調節の問題点にかんがみなされたものであって、水平基準ビームの塔内への水平取り付けを優先し、液分配器の全部品の取り付けは、液分配器の水平調節を排除し、全体の液分配器の水平設置を確保する技術を提供しようとするものである。
【0023】
課題を解決する為の手段は次のとおりである。
【0024】
塔内の全荷重を支える強度材の水平基準ビーム101は、複数本(図示の実施例では2本)を上面、下面及び高さを等しくする為、一括切削機械加工することを基本にする。これらを懸架するLビーム102の下面も切削機械加工とする。
【0025】
塔内の取り付けは、2本のLビーム102を塔壁に溶接固定されているラグ103にボルト104で仮締めをし、複数本の水平基準ビーム101をこれにUボルト105で懸架固定する。
【0026】
水平基準ビーム101に水準器を当て、Lビーム102の長穴とラグ103にて水平調節をし本締めを行う。固定された水平確認済み複数の水平基準ビーム101が、全液分配器40,50,60,61の水平設置を可能にする。
【0027】
水平基準ビーム101に懸架される液分配器60,61の接するのはトラフの上面108であり、液分配器60,61の液出口の下端線107と水平基準面であるトラフ上面108との間隔を製作公差0近くで作ることが求められる。
【0028】
水平基準ビーム101に上乗せされる2次液分配器40,50の接するのはトラフの下面111であり、液出口の下端線110と水平基準面であるトラフ下面111との間隔を製作公差0近くで作ることが求められる。
【0029】
塔内への組み込み、即ち全液分配器の水平基準ビームへの固定は、図示した2本のUボルトとプレートからなる懸架用具112が適している。全液分配器の固定は水平調節などの工程を排除され、Uボルトによる固定だけで、水平固定が得られる。
【0030】
本発明は、液分配器の水平の設置を確実なものにするだけではなく、塔内への組み込み作業も短縮させる
【0031】
図3は本発明の充填塔の塔内断面図である
【0032】
液分配器60の複数の液出口それぞれに1本ずつ懸架された液分配アダプター72を延長し該規則充填物82−1の上面に密着させ、液分配器60が水平方向に並列に配置され、これ等複数の液分配器に液を供給する2次液分配器40が該複数の液分配器60に直角に配置されている。従って、従来の液分配器と規則又は不規則充填物の上部との空間が液分配アダプター72で繋いだ構造になっている。
【0033】
液集合アダプター80の上部を該規則及び不規則充填物82−3の下面に密着させその下部を該液集合器81に繋がれている。従って、従来の規則又は不規則充填物の下部と液集合器81との空間が液集合アダプター80で繋がれた構造になっている。
塔内では液分配器60から液集合器81までを完全に繋がれた構造になり、液体が自由に落下できない構造にしている。
【0034】
気体の出口22は該液分配器40,60の上部にあり、気体の入り口23は該規則充填物82−3の下端よりも下方にある。この構造は処理量の増大による、気体の上昇速度の最大化を可能にしている。
【0035】
図4は液分配器が水平方向に並列に配置された断面図と平面図である。
【0036】
断面図aでは、液分配器60の液出口それぞれに1本ずつ懸架された液分配アダプター72が規則充填物82−1の上面に密着させ繋がれている。
【0037】
平面図bでは、2次液分配器40が液分配器60と直角に配置され、該2次液分配器40の複数の液出口の幅はそれぞれ下部の液分配器60の長さに合わせて下部の各液分配器60から均一に液が配分されるように調節され、液の各出口に下部の液分配器60に液を供給する懸架ワイヤー70を配置している。
最長の液分配器60−3の液分配アダプター72−17〜28は12本懸架されている。
最短の液分配器60−1の液分配アダプター72−1〜6は6本懸架されている。
2次液分配器40のそれぞれへの液出口は40c、40aであり、液出口40cの幅は液出口40aの幅の2倍に設計できる。又それぞれの懸架ワイヤー70−3,70−1も同様に設計できる。この様に塔の全断面に均一な液分配を可能にしたのが本技術である。
【0038】
図5は、液分配アダプター72を懸架した複数の液分配器60は装置の上下方向にそれぞれ段差をなして配置され、各液分配器の水平方向断面に於いては、各液分配器を同一平面に配置した場合に比べて大きい開口率が得られる構造を示す。
【0039】
構成2の場合、液分配器60は水平方向に並列になっている為、水平方向断面に於ける開口率は約50%となり、ここを通過する上昇の気体の速度は他の断面の速度の約2倍即ち約100%増加の速度になる。本構成は、これを大きく改善するもので、図示の場合の開口率は、約90%で、気体の上昇速度は、他の断面の約10%増加に留まり、構成2の場合の処理量を大幅に上回る運転が可能になる。
平面図は液分配器の水平方向に並列配列の場合と同じであるため割愛する。
2次液分配器40の液出口の幅の設計は図4の項で説明した通りであるが、大きな技術の違いは2次液分配器40の懸架ワイヤーが液分配器60の上下の位置に合わせて調整出来ることである。図示の懸架ワイヤー70−5が最長になっているが、2次分配器40から液は懸架ワイヤー70−5を伝い液分配器60−5へ分配される。しかも、本技術は液分配器を段差配列にし最大の上昇気体の速度可能にした構造であり、この最大の気体速度にも液体を上方へ吹き飛ばされずに液分配器60−5へ分配できるのは懸架ワイヤー70−5の持つ毛細管力の強さである。
【符号の説明】
【0040】
20 充填塔
21 液体導入口
22 気体流出口
23 気体導入口
24 液体流出口
40 2次液分配器
50 2次液分配器
60 液分配器
70、71 懸架ワイヤ
72〜75 液分配アダプター
80 液集合アダプター
81 液集合器
82 規則充填物
101 水平基準ビーム
102 Lビーム
103 ラグ
104 ボルト
105 Uボルト
107 液分配器の液出口の下端線
108 水平基準面(懸架トラフの上面)
110 2次液分配器の液出口の下端線
111 水平基準面(上乗せトラフの下面
112 懸架用具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塔内に組み立てられる液分配器の全ての部品は、複数の水平基準ビームに、懸架及び上乗せ構造とし、懸架及び上乗せ部品の水平基準面と液分配器液出口の下端線の製作公差を0に近く作り、塔内への組み込みは高さの公差を0近くで作られた複数の水平基準ビームを先に行い、水平確認後塔に固定し、次に全ての液分配器の部品は、水平基準ビームに、懸架及び上乗せ固定を行い、部品毎の水平調節を排除し、全体の液分配器の水平度を確保することを特徴とする気液接触機構。
【請求項2】
通常の規則又は不規則充填物が設置されている、気体と液体間の物質移動、熱交換又は混合を行う装置において、該液分配器の複数の液出口それぞれに1本ずつ懸架された液分配アダプターを該充填物の上面に密着させ、液分配器が水平方向に並列に配置され、これ等複数の液分配器に液を供給する2次液分配器が該複数の液分配器に直角に配置され、該2次液分配器の複数の液出口の幅はそれぞれ下部の液分配器の長さに合わせて液が配分されるように調節され、液の各出口に下部の液分配器に液を供給する懸架ワイヤーを配置し、液集合アダプターの上部を該充填物の下面に密着させその下部を該液集合器に繋ぎ、気体の出口は該液分配器の上部にあり、気体の入り口は該充填物の下端よりも下方にあることを特徴とする請求項1記載の気液接触機構。
【請求項3】
液分配アダプターを懸架した複数の液分配器は装置の上下方向にそれぞれ段差をなして配置され、各液分配器の水平方向断面に於いては、各液分配器を同一平面に配置した場合に比べて大きい開口率が得られることを特徴とする請求項1及び2記載の気液接触機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−183260(P2011−183260A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48733(P2010−48733)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(395014552)
【Fターム(参考)】