説明

物質間の相互作用検出部と該検出部を用いるバイオアッセイ用基板、装置及び方法

【課題】 バックグラウンドノイズを低減し、S/N比の向上を達成できる新規技術を提供すること。
【解決手段】 プローブ分子Xとターゲット分子Yとの間の特異的又は相補的な相互作用を、蛍光物質からの蛍光シグナルに基づいて検出する際に用いられる検出部であって、前記相互作用の場を提供する反応領域Rと、該反応領域Rに臨む検出表面Dと、を少なくとも備え、前記検出表面Dが、表面プラズモンを励起する金属又は合金から形成された相互作用検出部1、該検出部1を用いる基板、装置、方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質間の相互作用を蛍光検出する際のS/Nを向上するための新規技術に関する。より詳しくは、基板表面に非特異的に吸着した蛍光物質から発せられる蛍光を消光してバックグラウンドノイズを低減することにより、高精度の相互作用検出を達成するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロアレイ技術によって所定のDNAが微細配列された、いわゆるDNAチップ又はDNAマイクロアレイ(以下、本願では「DNAチップ」と総称。)と呼ばれるバイオアッセイ用の集積基板が、遺伝子の変異解析、SNPs(一塩基多型)分析、遺伝子発現頻度解析等に利用されるようになり、創薬、臨床診断、薬理ジェノミクス、進化の研究、法医学その他の分野において広範囲に活用され始めている。
【0003】
この「DNAチップ」は、ガラス基板やシリコン基板上に多種・多数のDNAオリゴ鎖やcDNA(complementary DNA)等のヌクレオチド鎖が集積されていることから、ハイブリダイゼーションの網羅的解析が可能となる点が特徴とされている。
【0004】
ここで、前記ハイブリダイゼーションの検出は、一般には、どのプローブが試料中のヌクレオチド鎖と二本鎖を形成したかを示す蛍光シグナルを発する基板上の位置を光学的に検出する。前記蛍光シグナルは、通常、資料中のヌクレオチド鎖に標識された蛍光物質を励起することにより得られる。近年では、二本鎖核酸の塩基対部分に特異的に吸着する蛍光発色性のインターカレーターが提案されている。
【0005】
DNAチップを用いたハイブリダイゼーションの検出の精度は、いまだ改善の余地が多い。改善のためのアプローチは、いくつかあるが、中でも前記蛍光シグナルのS/N比の向上が重要である。即ち、検出される蛍光シグナルから、本質的にハイブリダイゼーションとは無関係のノイズ(バックグラウンド蛍光)をどれだけ排除できるかということが、ハイブリダイゼーション検出の精度の向上に直結する。この点、ハイブリダイゼーション以外の分子間相互作用を蛍光検出する技術においても共通である。
【0006】
特許文献1は、DNAチップ(DNAマイクロアレイ)を用いた蛍光検出におけるバックグラウンドノイズを低減するために、消光剤を用いる技術が開示されている。特許文献2には、プローブDNAがループ構造を形成してその解放末端側が基板側にあるようにすることによって、バックグラウンドノイズを低減しようとする技術が開示されている。特許文献3には、コロナ放電処理を利用して担体表面の親水性を制御し、該担体表面への埃の付着を抑制することによって、蛍光分析に際してのバックグランドノイズを低くする技術が開示されている。
【0007】
このように、蛍光分析に際してバックグラウンドノイズを低減するためのアプローチとして、他の薬剤を用いる方法(特許文献1)、プローブDNAの構造を工夫する方法(特許文献2)、担体(基板)表面に対する処理を施す方法(特許文献3)などが知られている。さらには、バックグラウンドノイズの原因となる物質を、検出領域から洗浄除去した後に、蛍光検出を行う技術も広く採用されている。
【0008】
また、特許文献4は、基板表面にコーティングされた金薄膜に自己組織化単分子膜を吸着させ、この自己組織化単分子膜にプローブDNAを固定した上で、ハイブリダイゼーションを進行させる技術が開示されている。検出には、前記金薄膜の表面プラズモン共鳴を利用する。
【特許文献1】特開2003−84002号公報(特に、請求項1参照)。
【特許文献2】特開2003−329676号公報。
【特許文献3】特開2003−028867号公報。
【特許文献4】特開2002−51774号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ハイブリダイゼーションなどの物質間の相互作用を蛍光検出する技術に関して、バックグラウンドノイズを低減し、S/N比の向上を達成できる新規技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、まず、プローブ分子とターゲット分子との間の特異的又は相補的な相互作用を、蛍光物質からの蛍光シグナルに基づいて検出する際に用いられる検出部であって、前記相互作用の場を提供する反応領域と、該反応領域に臨む検出表面と、を少なくとも備え、前記検出表面が、表面プラズモンを励起する金属又は合金から形成された相互作用検出部、該検出部を基板上に備えるバイオアッセイ用基板、並びに該検出部を検出対象部位とする相互作用検出装置を提供する。前記表面を構成する金属又は合金に利用される金属は、表面プラズモンを励起する金属であれば特に限定されないが、例えば、特に、金、銀、酸化銀などから選択することができる。
【0011】
上記構成の相互作用検出部は、反応領域に臨む検出表面に対して非特異的に吸着した蛍光物質から発せられるバックグラウンドノイズとなる蛍光(以下「ノイズ蛍光」と称する。)を、該表面を構成する金属の表面プラズモン共鳴によるダイポールの相互作用によりエネルギー移動して、消光するという機能を有する。
【0012】
ノイズ蛍光の発生源と想定される物質は、相互作用に寄与しなかったターゲット分子に標識されている蛍光色素やハイブリダイゼーション(相互作用の一例)により生成した二本鎖核酸に結合する蛍光インターカレーターなどである。これらの蛍光物質が反応領域に臨む検出表面に非特異的に吸着した場合、反応領域に入射される蛍光励起光によって励起されてしまうため、検出時のノイズ蛍光が発生する。本発明は、このノイズ蛍光を消光することを目的とする。
【0013】
本発明では、反応領域に臨む検出表面に前記プローブ分子を固定し、この固定化されたプローブ分子とターゲット分子との間の特異的又は相補的な相互作用を、該反応領域に貯留又は保持された液相中で進行させるように工夫する。
【0014】
液相中で相互作用を進行させる構成を採用すると、該相互作用により生成した物質(以下「生成物質」という。)が検出表面に横臥するように付着してしまうのを防止できる。この結果、生成物質(例えば、二本鎖核酸)から発せられる正規蛍光(相互作用検出に有用な蛍光)に対する表面プラズモンの影響を排除し、正規蛍光を消光してしまうのを有効に防止することができる。
【0015】
本発明では、反応領域を挟むように、少なくとも一対の対向電極を設けるようにしてもよく、この場合、金属や合金で形成された前記検出表面を、該対向電極の一方の電極として機能させるようにしてもよい。
【0016】
この対向電極に対して通電し、反応領域に交流電界などの電界を印加すれば、誘電泳動などの電気力学的効果により、生成物質を伸張等させることが可能となる。このため、該生成物質の検出表面に対する付着をより有効に防止し、正規蛍光の消光をさらに確実に防止することができる。なお、前記検出表面に凹凸形状を形成することによって、凸部エッジ部分などに電界を集中させて不均一電界を形成できるので、前記誘電泳動の効果を確実に得ることができる。
【0017】
ここで、本発明に係るバイオアッセイ用基板は、上記構成の相互作用検出部が基板上に形成又は配設されたものであり、例えば、検出対象の相互作用がハイブリダイゼーションである場合は、DNAチップ(又はDNAマイクロアレイ)として利用でき、検出対象の相互作用にタンパク質が関与する場合は、プロテインチップとして利用できる。
【0018】
また、本発明に係る相互作用検出装置は、上記構成を備える相互作用検出部の前記反応領域に向けて蛍光励起光を照射する光照射手段と、励起された蛍光を受光して検出する蛍光検出手段と、検出された蛍光シグナルに基づいて前記相互作用の状態を解析する相互作用解析手段と、を少なくとも備える。相互作用検出部に対向電極が設けられている構成では、光照射手段、蛍光検出手段、相互作用解析手段に加えて、該対向電極に通電して、前記反応領域に電界を印加する電界印加手段を少なくとも備える。
【0019】
上記した相互作用検出部、バイオアッセイ用基板、相互作用検出装置は、いずれも、プローブ分子とターゲット分子との間の特異的又は相補的な相互作用を蛍光物質からの蛍光シグナルに基づいて検出する方法に利用されるものである。
【0020】
本発明は、前記方法において、プローブ分子とターゲット分子との間の特異的又は相補的な相互作用を、表面プラズモンを励起する金属又は合金から形成された検出表面に臨む反応領域で進行させて、該検出表面に非特異的に吸着した蛍光物質から発せられる蛍光を、前記表面プラズモンにより消光するノイズ蛍光低減方法を提供する。
【0021】
ここで、本発明に関連する主たる技術用語について説明する。
【0022】
「プローブ分子」とは、反応領域に貯留又は保持された媒質中に存在し、当該分子と特異的に相互作用するターゲット分子を検出するための探り針(検出子)として機能する分子である。例えば、DNAプローブなどのオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドが代表的である。
【0023】
「核酸」とは、プリンまたはピリミジン塩基と糖がグリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステルの重合体(ヌクレオチド鎖)を意味し、プローブDNAを含むオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、プリンヌクレオチドとピリミジンヌクレオチオドが重合したDNA(全長あるいはその断片)、逆転写により得られるcDNA(cプローブDNA)、RNA、ポリアミドヌクレオチド誘導体(PNA)等を広く含む。
【0024】
「相互作用」とは、物質間の非共有結合、共有結合、水素結合を含む化学的結合あるいは解離を広く意味し、例えば、核酸分子間のハイブリダイゼーション、タンパク質間の相互作用、抗原抗体反応などの物質間の化学的結合あるいは解離を広く含む。なお、「ハイブリダイゼーション」は、相補的な塩基配列構造を備える間の相補鎖(二本鎖)形成反応を意味する。
【0025】
「検出表面」は、物資間の相互作用情報を得るために利用される表面であって、反応領域と固体の臨界表面層を意味する。例えば、基板表面や合成樹脂ビーズなどの粒子表面などを挙げることができる。
【0026】
「表面プラズモン」は、金属や合金の表面に局在する電子密度波であって、電磁波と相互作用して共鳴(表面プラズモン共鳴)状態を形成する。
【0027】
「反応領域」は、ハイブリダイゼーションなどの相互作用の場を提供できる領域であり、一例を挙げるなら、液相やゲルなどを貯留できるウエル形状を有する反応場である。
【0028】
「ノイズ蛍光」は、蛍光検出において、バックグラウンドノイズとなる蛍光を意味する。
【0029】
「蛍光インターカレーター」は、二本鎖核酸に挿入結合等する蛍光性物質であり、ハイブリダイゼーション検出に用いられる物質である。例えば、POPO−1やTOTO−3、SYBR(登録商標)GreenIなどを挙げることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、プローブ分子とターゲット分子との間の特異的又は相補的な相互作用を蛍光物質からの蛍光シグナルに基づいて検出する技術において、前記相互作用が進行する反応領域に臨む表面で発生するノイズ蛍光を消失させることができるため、前記相互作用を、良好なS/Nに基づいて、定量検出することができる。また、ハイブリダイゼーション等の相互作用を進行させた後に、ノイズ蛍光の発生原因となる物質を除去するための水溶液洗浄作業を省略することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる物や方法の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0032】
まず、図1は、プローブ分子とターゲット分子との間の特異的又は相補的な相互作用を蛍光物質からの蛍光シグナルに基づいて検出する技術の一例に係わる概念を説明するための図、図2は、同技術の別の例に係わる概念を説明するための図である。なお、これらの技術は、本発明に直接関与する技術である。
【0033】
まず、図1、図2には、プローブ分子の代表例の一つである一本鎖のプローブ核酸Xと、該プローブ核酸Xにハイブリダイゼーションしたターゲット核酸Yと、が示されている。なお、ハイブリダイゼーションは、本発明において検出対象とする相互作用の一例にすぎない。
【0034】
図1、図2の双方において、一本鎖のプローブ核酸X(例えば、オリゴDNA)は、その末端部位が検出表面Dに対して、カップリング反応等の化学結合により固定されている。
【0035】
検出表面Dには、例えば、アミノ基、チオール基、カルボキシル基等の官能基(活性基)を有する物質やシステアミン、ストレプトアビジン等をコートしてもよい。ストレプトアビジンによって表面処理された検出表面の場合には、ビオチン化されたプローブ分子末端の固定に適している。あるいは、チオール(SH)基によって表面処理された検出表面の場合には、チオール基が末端に修飾されたプローブ分子等をジスルフィド結合(−S−S−結合)により固定することに適している。
【0036】
ここで、検出表面Dは、表面プラズモンを励起する金属又は合金から形成された薄膜層、あるいは前記金属又は合金の微粒子を散在させた層である。この検出表面Dは、例えば、30nmの厚みに形成することができる。また、この検出表面Dに利用される金属の例としては、金、銀、酸化銀などを挙げることができる。
【0037】
この検出表面Dは、例えば、所定波長の光を透過するケイ素、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレン等の合成樹脂などで形成された基板層11の上に積層されており、また、この検出表面Dは、プローブ分子Xとターゲット分子Yの相互作用が進行する場となる反応領域Rに、臨んでいる(面している)。
【0038】
図1の例では、ターゲット核酸Yの一端に蛍光色素f(例えば、市販のCy3など)が標識(ラベル)されており、この蛍光色素fに対して蛍光励起光Pを照射することにより、蛍光を励起する。この蛍光Fを図示しない光学系で受光、検出し、蛍光強度を解析することによって、一本鎖核酸プローブXとターゲット核酸Yとの間のハイブリダイゼーションを測定する。
【0039】
一方の図2で示された例では、ターゲット核酸Yには蛍光色素fが標識されていない。この例では、二本鎖核酸の相補結合部位に特異的に結合する蛍光インターカレーターIを用いて、ハイブリダイゼーションを検出する。
【0040】
即ち、ハイブリダイゼーションの生成物である二本鎖核酸に結合した蛍光インターカレーターIに蛍光励起光Pを照射し、これにより励起された蛍光Fを、図示しない光学系で受光、検出し、蛍光強度を測定することによって、一本鎖核酸プローブXとターゲット核酸Yとの間のハイブリダイゼーションを測定する。
【0041】
本発明に係る相互作用検出部1は、上記した例のように、プローブ分子Xとターゲット分子Yとの間の特異的又は相補的な相互作用を、蛍光物質からの蛍光シグナルに基づいて検出する技術に好適に利用される。
【0042】
しかし、この目的で利用される相互作用検出部では、反応領域Rに臨む検出表面Dに対して、ハイブリダイゼーションに関与しなかった(出来なかった)ターゲット核酸Ya(図1参照)、あるいは余剰の蛍光インターカレーターIa(図2参照)が、非特異的に吸着するという問題が起こる。
【0043】
検出表面Dに対して非特異的に吸着したターゲット核酸Yaや蛍光インターカレーターIaは、蛍光励起光Pの照射によって励起されてしまうため、ハイブリダイゼーション検出の際のバックグラウンドノイズとなり、検出精度を低下させる原因となる。
【0044】
この問題を解決するため、本発明に係る相互作用検出部1は、相互作用の場を提供する反応領域Rと、該反応領域Rに臨む検出表面Dと、を少なくとも備えた構成において、前記検出表面Dを、上記したように、表面プラズモンを励起する金属又は合金から形成する。一例を挙げると、検出表面Dは、金薄膜を電気鍍金やPVD等の公知の方法で成膜することにより形成できる。
【0045】
このような構成の検出表面Dは、これらの蛍光物質(f又はI)から発せられるバックグラウンドノイズとなる蛍光(以下「ノイズ蛍光」と称する。)を、該検出表面Dを構成する金属の表面プラズモン共鳴によるダイポールの相互作用によりエネルギー移動して、消光するという機能を発揮する。
【0046】
図3は、本発明に係る相互作用検出部1の最も基本的な実施形態の一例を示す要部断面図である。
【0047】
図3に示された相互作用検出部1(以下、単に「検出部1」と称する。)では、基板層11に積層された検出表面Dの更に上層に、反応領域形成層12が積層されている。前記基板層11は、光透過性を有するので、基板層11の下方側(裏面側)からの蛍光励起光Pの照射によって、反応領域R内の蛍光検出作業等を実施できる。なお、基板層11の光透過性は、蛍光励起光Pと励起された蛍光Fを少なくとも透過する性質を意味し、さらには、反応領域の位置を検出するための光や焦点を合せるための光を透過する性質までを有するものを含む。
【0048】
なお、基板層11の下方側(裏面側)からの光照射によって反応領域R内の蛍光検出作業を実施する構成を採用すると、検出部1が形成された基板の周辺に、必要な装置群の配置設計を行う場合、該基板の上方側には、試料溶液などの滴下又は注入に係わる装置を配置し、基板の下方側には、検出(読み取り)用の光学的装置群をまとめて配置することができるという利点がある。
【0049】
次に、反応領域形成層12は、例えば、SiOや感光性ポリイミド樹脂層などの合成樹脂などから形成する。この反応領域形成層12を感光性ポリイミド樹脂で形成する場合、公知の光ディスクマスタリング技術によって、ハイブリダイゼーションなどの相互作用の場を提供する役割を果たす反応領域R、例えば、ウエル状の反応領域R(図3参照)を容易に形成することができる。
【0050】
反応領域形成層12の上層には、符号13で示す蓋材層を設けることによって、反応領域R内の媒質の乾燥、蛍光反射層、送液路形成などに役立てる。この蓋材層13には、後述するように、対向電極を構成する一方の電極層(導体層)や絶縁層などを形成してもよい。
【0051】
このような検出部1を、所定形状の基板上に多数配列しておくことによって、物質間の相互作用を網羅的に検出できるバイオアッセイ用基板を提供することができる。図4には、本発明に係るバイオアッセイ用基板の好適な一実施形態の外観が示されている。なお、本発明に係るバイオアッセイ用基板の形状は、図4に示されたものに狭く限定されない。
【0052】
図4に示されたバイオアッセイ用基板100は、CD(Compact Disc)、DVD(Degital Versatile Disc)、MD(Mini Disc)等の光情報記録媒体と同様に円盤状の形態をなし、該基板100上に、多数の検出部1が放射状列をなすように形成されている。なお、図4中の符号101は、基板100を支持したり、回転させたりするためのチャッキング部材、あるいは検出部1に電界を印加するために利用される通電部材が挿着される孔である。
【0053】
以下、図5〜図12を参照して、本発明に係る検出部1の実施形態や該検出部1の機能を検証した実施例について、詳しく説明する。なお、以下の実施形態及び実施例では、反応領域Rに対して滴下等されて貯留又は保持される媒質が、水溶液溶媒である例を代表例として説明する。
【0054】
検出部1に設けられ、一本鎖のプローブ核酸Xが検出表面Dに固定された状態にある反応領域Rに対して、ターゲット核酸Yを含有する水溶液溶媒Mを供給する。水溶液溶媒Mの供給は、公知のインクジェットノズルN、あるいはメカニカルスポット等の滴下手段を用いて実施することができる(以下、同様)。図5に示された例では、一本鎖のターゲット核酸Yの末端に、例えば、Cy3などの蛍光色素fが予め標識してある。
【0055】
この反応領域R内で、所定の温度、pH等の条件でハイブリダイゼーションを進行させた後、例えば、2×SSC/0.1%SDS溶液中で浸透しながら5分間×2回洗浄、40℃に温めた0.2×SSC/0.1%SDS溶液中で浸透しながら5分間×2回洗浄、0.2×SSC溶液中でリンスの順で基板を洗浄する。
【0056】
この洗浄作業により、余剰なターゲット核酸Yを検出表面D上から除去し、ハイブリダイゼーションしたターゲット核酸Yを検出表面D上に残すようにする。この場合、検出表面D上に残ったターゲット核酸Yに標識されているCy3などの蛍光色素fの蛍光強度を検出測定することにより、ハイブリダイゼーションを検出することができる。
【0057】
ただし、ハイブリダイゼーション後に洗浄を実施して、余剰なターゲット核酸Yを除去する固定を行ったとしても、検出表面D上には、図5に示すように、非特異的に吸着したターゲット核酸Yaが残留する場合がある。検出表面Dに非特異的に吸着したターゲット核酸Yaは、蛍光色素fが標識されているので、この蛍光色素fからの発光分がバックグラウンドノイズとなり、検出信号のS/Nを悪化させる。
【0058】
しかしながら、本実施形態では、プローブ核酸Xが固定されている検出表面Dが、蛍光消光効果を持つ金薄膜により形成されているので、検出表面Dに非特異的に吸着したターゲット核酸Yaに標識された蛍光色素fからの発光を消光することができる。金は、表面プラズモンを励起する金属であることから、表面に吸着した蛍光色素は、表面プラズモン共鳴によるダイポールの相互作用で蛍光しないものにエネルギー移動し消光される。
【0059】
なお、蛍光強度を測定する際は、検出表面Dが乾燥した状態であると、ハイブリダイゼーションにより形成された二本鎖核酸Wが検出表面Dに横臥したような状態となり易く、二本鎖核酸Wを構成するターゲット核酸Yに標識されている蛍光色素Fも検出表面Dに付着することが予想される。この場合、二本鎖核酸Wを構成するターゲット核酸Yの有用な正規蛍光も消光されてしまう。
【0060】
従って、蛍光強度を測定する際において、検出表面Dの上方領域が、水溶液溶媒M(例えば、バッファー溶液)で満たされていることが望ましい。つまり、図5に示すように、ハイブリダイゼーションにより形成された二本鎖核酸Wが溶媒M中で立ち上がって浮遊している状態とすることにより、蛍光色素fを検出表面Dから離れた位置に存在させて、検出すべき正規蛍光の消光を防ぐようにする。
【0061】
次に説明する実施例は、15mer同士の核酸(DNA)間でハイブリダイゼーションを実施し、上記した手順に従った洗浄作業後に、検出表面Dが乾燥した状態(Dry)とバッファー溶液で満たされている場合(Wet)のそれぞれの状態において、ターゲットDNAに標識された蛍光色素Cy3からの蛍光発光強度を、実際に測定し、比較している。
【0062】
その結果を、図6の図面代用グラフに示す。なお、本実施例では、前記洗浄作業を経ているので、検出表面D上には、一本鎖ターゲットDNAには殆ど存在しないと考えられる。
【0063】
この図6を見ればわかるように、検出表面Dが乾燥した状態では、明らかに蛍光色素Cy3の消光が起こり、蛍光強度が顕著に低下していることがわかる。この結果から、二本鎖核酸Wを構成するターゲットDNAに標識された蛍光色素Cy3は、乾燥した検出表面Dの条件では、該検出表面Dの消光効果を受けてしまうことが明らかである。これは、前記ターゲットDNAの蛍光色素が検出表面Dに付着しているか、極めて近接した位置に存在することを示している。
【0064】
一方、検出表面D上をバッファー溶液で満たした場合では、二本鎖核酸Wを構成するターゲットDNAに標識された蛍光色素Cy3は、検出表面Dの消光効果を受け難く、検出に有用な正規蛍光の強度を低下させないことがわかる。
【0065】
これは、検出表面D上が溶液で満たされていると、ハイブリダイゼーションにより形成された二本鎖核酸Wが溶媒M中で立ち上がって浮遊している状態となり、蛍光色素fが検出表面から離れるので、消光されなくなることを示している。
【0066】
この実施例の結果から、金で形成された検出表面Dは、該検出表面Dに付着等した蛍光色素の消光効果を発揮するため、バックグラウンドノイズを減らすことに役立てることができること、また、二本鎖を形成したターゲット核酸Yの蛍光色素fから発せられる正規蛍光の強度を低下させないためには、検出表面D上を水溶液溶媒で満たす条件が好適であること、を検証できた。
【0067】
次に、図7には、ハイブリダイゼーション検出に蛍光インターカレーターIを利用した場合の実施形態を具体的に示している。この実施形態では、図5に示された実施形態と同様に、金薄膜からなる検出表面D上にプローブ核酸(DNA)Xが固定されている状態で、ターゲット核酸(DNA)Yを含有する溶液を供給し、所定条件でハイブリダイゼーションを進行させる。
【0068】
この図7に示された実施形態では、ターゲット核酸(DNA)Yは、例えばCy3のような蛍光色素による標識がなされていない。代わりに、ハイブリダイゼーションに続く洗浄作業後の工程で、二本鎖核酸Wの相補塩基対部分に対して特異的に結合する蛍光インターカレーターI(例えば、市販のSYBR GreenI)が反応領域Rへ供給されている。
【0069】
そして、ハイブリダイゼーションにより形成された二本鎖核酸Wに結合した蛍光インターカレーターIの蛍光発光強度を測定することによって、ハイブリダイゼーションを検出する。
【0070】
この蛍光インターカレーターIは、二本鎖核酸Wに取り込まれることによって蛍光を発する特性を持つ。しかし、検出表面Dに非特異的に吸着した場合にも幾分かの蛍光を発し、バックグランドノイズを増やす要因となる。従って、本発明では、検出表面Dを金薄膜などで形成することによって、その表面プラズモンに由来する消光効果により、前記バックグランドノイズを減らすようにする。このような蛍光インターカレーターIを用いた実施形態においても、検出対象の正規蛍光を消光させないために、検出表面D上は、水溶液溶媒で満たすことが望ましい。
【0071】
なお、蛍光インターカレーターIは、二本鎖核酸Wに特異的に取り込まれて発光する特性を利用するので、前記したようなハイブリダイゼーション後の洗浄作業を省略することも可能である。特に、検出表面Dの消光効果を利用すれば、前記洗浄作業を省略しても、満足できるS/Nを得ることができる。
【0072】
次に、図8は、本発明の他の実施形態を示す図である。この実施形態では、消光効果を発揮する検出表面Dを有することに加え、反応領域Rを挟むように配設された対向電極E−Eを用いることが特徴である。
【0073】
対向電極E−Eの一方(例えば、E)は、基板13上に積層された金薄膜からなる検出表面Dを利用し、他方の電極(例えば、E)は、例えば、光透過性のITO(インジウム−スズ−オキサイド)で形成する。このような構成では、ITO電極E側から反応領域Rへ蛍光励起光Pを照射することができる(図8参照)。この場合、ITO電極Eを設ける上方基板14は、蛍光励起光Pや蛍光Fなどを透過するガラスや合成樹脂で形成する必要がある。
【0074】
なお、ITO電極Eの反応領域Rに望む表面Eaは、その表面上でのイオン溶液による電気化学的な反応を防止するために、SiO、SiN、SiOC、SiC、SiOF、TiOなどのような絶縁膜15で覆う構成が望ましい。
【0075】
ここで、対向電極E−E間は、図8に示されたスイッチSをオン/オフすることで、電源Vにより電圧を印加することができる。既述した実施形態と同様に、電極Eであり、かつ検出表面Dでもある金薄膜表面には、プローブ核酸Xが固定された状態とし、この状態でターゲット核酸Yを含有する溶液を反応領域Rへ供給し、ハイブリダイゼーションを進行させる。
【0076】
そのとき、図8に示されたスイッチSをオンにし、電源Vによって対向電極E−E間に、例えば高周波電界を印加する。このときの電界の条件としては、例えば、約1×10V/m、1MHzサイン波を選択できる。
【0077】
この電界の作用、特に核酸分子などの場合では誘電泳動の作用によって、ハイブリダイゼーションにより生成した二本鎖核酸Wは、電界方向に沿って伸張する。この場合、予めターゲット核酸Yの末端に修飾された蛍光色素fは、図8に示すように、伸張された二本鎖核酸Wの一端に位置することになる。
【0078】
なお、「誘電泳動」とは、電界が一様でない場において、分子が電界の強い方へ駆動する現象であり、交流電圧をかけた場合も、かけた電圧の極性の反転につれて分極の極性も反転するので、直流の場合と同様に駆動効果が得られる(監修・林 輝、「マイクロマシンと材料技術(シーエムシー発行)」、P37〜P46・第5章・細胞およびDNAのマニピュレーション参照)。
【0079】
例えば、核酸分子は、液相中において電界の作用を受けると伸長又は移動することが知られている。その原理は、骨格をなすリン酸イオン(陰電荷)とその周辺にある水がイオン化した水素原子(陽電荷)とによってイオン曇を作っていると考えられ、これらの陰電荷及び陽電荷により生じる分極ベクトル(双極子)が、高周波高電圧の印加により全体として一方向を向き、その結果として伸長し、加えて、不均一電界が印加された場合、電気力線が集中する部位に向かって移動する(Seiichi Suzuki,Takeshi Yamanashi,Shin-ichiTazawa,Osamu Kurosawa and Masao Washizu:“Quantitative analysis on electrostatic orientation of DNA in stationary AC electric field using fluorescence anisotropy”,IEEE Transaction on Industrial Applications,Vol.34,No.1,P75-83(1998))。
【0080】
この電界の作用によって、二本鎖核酸Wを構成するターゲット核酸Yの蛍光色素fは、消光効果を発揮する検出表面Dから離れているため、該検出表面Dの影響を受けることなく、蛍光を発光することが可能となる。
【0081】
一方、検出表面D、即ち電極E上に非特異的に吸着したターゲット核酸Yaの蛍光色素fは、検出表面Dの消光効果により発光しなくなる。本発明では、この状態で蛍光発光強度を測定することにより、ハイブリダイゼーション検出を行う。
【0082】
既述したように、検出表面D上を水溶液溶媒で満たすことによって、二本鎖核酸Wを溶液中に浮遊させて、蛍光色素fを検出表面Dから離なすことによって、検出対象の正規蛍光の消光を防ぐことができる。
【0083】
しかし、二本鎖核酸Wの他端(固定されている側の逆側の末端)は、溶液中をブラウン運動等によって動くことができる状態であるため、場合によっては、検出表面Dに蛍光色素fが接近して、これを消光してしまう可能性も否定できない。
【0084】
しかしながら、対向電極E−Eを用いる本実施形態(図8参照)では、二本鎖核酸Wを、誘電泳動などの電気力学的効果によって強制的に伸張させておくことが可能となる。このため、二本鎖核酸Wを構成するターゲット核酸Yの蛍光色素Yを、消光効果を発揮する検出表面Dから強制的に離すことが可能となる。この結果、よりS/Nの高いハイブリダイズ信号が得られる。
【0085】
図9は、対向電極E−Eを備える検出部1において、ハイブリダイゼーションにより生成した二本鎖核酸Wに特異的に結合する蛍光インターカレーターIを用いて、ハイブリダイゼーションを検出する例を示している。なお、電界印加の操作や作用効果は、図8に示した実施形態と同様であるので、説明を割愛する。
【0086】
図8や図9で示す実施形態では、電界印加を利用することで、以下のような利点が得られる。まず、検出部1の反応領域R中に、ブラウン運動によりランダムに分散して存在しているターゲット核酸Yを、電界に沿った方向に伸張させ、直鎖状とすることができる。
【0087】
さらに、電界の電気力学的作用によって、ターゲット核酸Yは、プローブ核酸Xが固定された検出表面D(電極E)上へ電気泳動あるいは誘電泳動の効果によって集まり、ハイブリダイゼーション反応を効率よく進行させることもできる。
【0088】
このように、電気泳動あるいは誘電泳動の効果を用いて、ターゲット核酸Yを短時間で検出表面D(電極E)上へ移動させ、プローブ核酸X周辺領域におけるターゲット核酸Yの濃度を高めることにより、プローブ核酸Xとターゲット核酸Yとの間のハイブリダイゼーション時間を短縮することができる。
【0089】
さらには、核酸分子の電界による伸張効果により、立体障害によるハイブリダイゼーション反応の阻害およびミスハイブリダイゼーションを低減することが可能となる。
【0090】
なお、電界による誘電泳動の効果をより効果的に得るために、図10に示す変形形態のように、プローブ核酸Xを固定する側の電極E(検出表面D)の表面積を、他方の電極Eの表面積よりもより狭小にして、電極E(検出表面D)表面近傍に電界を集中させるように工夫してもよい。なお、図10における符号eは、電界を模式的に示している。
【0091】
ここで、プローブ核酸Xを固定する側の電極E(検出表面D)に電界を集中させて、不均一電界を形成するための工夫として、図11に示す変形形態のように、電極E(検出表面D)に凹凸形状を形成してもよい。
【0092】
この構成では、凸部Daの角部、あるいは凹部Dbの屈曲部などに、特に電界を集中させることができるので、電極E(検出表面D)の近傍領域において、誘電泳動の作用や効果をより確実に利用できる。
【0093】
図12に示す別の変形形態では、一方の基板16そのものを、SUS(ステンレススチール)やNiなどの金属板、あるいは、nやpが高ドープされた0.1Ωcm程度以下のシリコン基板で作製し、電極Eとして用いることも可能である。このように一方の基板16を導電性の材料で作製することにより、高周波電源とのワイヤリングがどの部位でも可能となり、電極取り出し部の扱いが格段に容易になる。
【0094】
このような構成では、他方の電極Eを、検出表面Dと別体で、ITOなどの透明電極で形成することによって、透明基板層11の裏面側から蛍光励起光Pを照射することができる(図12参照)。
【0095】
また、本実施形態では、図12に示されているように、金薄膜などからなる検出表面DをITO電極Eに積層された絶縁膜15上に形成することもできる。この場合では、透明基板層11の裏面側から照射される蛍光励起光Pは、透明基板層11、ITO電極E1、絶縁膜15、検出表面Dを順番に通過して、反応領域王Rへ入射されることになる。
【0096】
よって、光透過率をできるだけ高くするために、検出表面Dを構成する金薄膜の厚みは、極力薄くしなければならない。例えば、金薄膜の厚みは、5〜10nmの厚みが好適である。この点、蛍光励起光Pなどを、検出表面Dを透過させる実施形態においては、すべて同様である。
【0097】
なお、図12に示す実施形態では、基板16の表面161にも蛍光色素が吸着し、ノイズを増やす原因に成り得るため、該基板16の表面161にも、表面プラズモンを励起する金属や合金によって薄膜を形成しておいてもよい。
【0098】
以上の説明において、検出表面Dを形成する材料として、主に金を採り上げてきたが、本発明では、表面プラズモンを励起する金属あるいは合金であれば、適宜採用できる。また、局在プラズモンを励起する金属粒子からなる金属層あるいは合金層、もしくは、局在プラズモンを励起する突起を有する金属膜あるいは合金膜からなる金属あるいは合金でもよい。検出表面Dを形成する材料としては、金、銀、酸化銀等が、その代表例である。
【0099】
蛍光色素についても、例示したCy3やSYBR GreenIに限定されない。また、上記説明した各実施形態における反応領域Rは、目的のアッセイに適切なサイズや形状を選択すればよい。さらに、図8〜図12に示す実施形態においては、電界強度、周波数、サイン波や三角波などの波形について特に限定されず、これらは、分子種、核酸分子等の長さなどによって、目的に応じて選定すればよい。
【0100】
以上説明した検出部1を利用する相互作用検出装置Uの構成について、図13に基づいて、以下説明する。なお、この図13に示された検出部1は、代表例としての扱いで図12に相当する検出部を示しているが、本装置Uを適用できる検出部は、これに限定されない。
【0101】
本装置Uは、検出部1に設けられた反応領域Rに向けて、蛍光励起光Pを照射する光照射手段を備える。光照射手段は、例えば、符号Tで示されたレーザダイオードなどのレーザ出射装置を利用できる。なお、光照射手段は、蛍光励起光Pを出射する役割を担うもの以外に、検出部1の位置を検出ときに用いるトラッキングサーボ光を出射するものなどを、他に設けておいてもよい。
【0102】
また、本装置Uは、反応領域Rから戻ってくる、励起された蛍光Fを受光して検出する蛍光検出手段(例えば、光ディテクタ)Zと、蛍光検出手段Zで検出された蛍光シグナルに基づいて、ハイブリダイゼーションなどの相互作用の状態を解析する手段(例えば、コンピュータ)Qと、を備えている。
【0103】
なお、図13中に示された符号Lは、蛍光励起光Pを絞り込んだり、蛍光Fを平行光に変換したりするためのレンズ、符号Lは、蛍光Fを蛍光検出手段(例えば、光ディテクタ)Zに向けて絞り込むためのレンズを示している。基板裏面近傍に配置されるレンズLは、図示しないアクチュエーターによって保持し、スライド移動可能とする。
【0104】
また、本装置Uは、検出部1に対向電極E−Eが設けられている実施形態(図13参照)では、上記各手段T、Z、Qに加えて、前記対向電極E−Eに通電して、前記反応領域に電界を印加する電界印加手段Gを備えている。なお、電界印加手段Gは、電源Gと、スイッチS、さらに対向電極E−Eに導通する給電線などから構成されている。
【0105】
その他、基板に多数配設された検出部1の位置を検出するためのトラッキングサーボ機構(基板に形成されたアドレスピットを用いる)やフォーカシング機構を備え、また、図4に示すような円盤状のバイオアッセイ用基板100を用いる場合は、該基板100を保持し、さらにこれを回転させる手段を設ける。また、本装置Uに、プローブ分子Xやターゲット分子Yなどのサンプルを滴下等する手段(例えば、インクジェットプリンティング装置群)を一体化してもよい。
【0106】
以上の検出部1、基板100、あるいは装置Uを用いることによって、プローブ分子Xとターゲット分子Yとの間の特異的又は相補的な相互作用を蛍光物質からの蛍光シグナルに基づいて検出する方法において、前記相互作用を、表面プラズモンを励起する金属又は合金から形成された検出表面Dに臨む反応領域Rで進行させ、かつ、該検出表面Dに非特異的に吸着した蛍光物質f(又は蛍光インタカレーターI)から発せられる蛍光を、前記表面プラズモンの作用により消光できるので、これにより、ノイズ蛍光低減をしながら、高精度の相互作用検出を実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、プローブ分子とターゲット分子との間の特異的又は相補的な相互作用を蛍光物質からの蛍光シグナルに基づいて検出する技術に利用できる。特に、前記技術において、ノイズ蛍光を、効率よく短時間で、消失させ、S/Nを向上させる技術として利用できる。また、従来採用されているノイズ蛍光原因分子を水溶液洗浄する工程を行わなくてもよい相互作用検出技術、即ち、洗浄フリーの相互作用検出技術としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】プローブ分子(X)とターゲット分子(Y)との間の特異的又は相補的な相互作用を蛍光物質からの蛍光シグナルに基づいて検出する技術の一例に係わる概念を説明するための図である。
【図2】同技術の別の例(蛍光インターカレーターを用いる例)に係わる概念を説明するための図である。
【図3】本発明に係る相互作用検出部(1)の最も基本的な実施形態の一例を示す要部断面図である。
【図4】本発明に係るバイオアッセイ用基板(100)の好適な一実施形態の外観を示す図である。
【図5】ターゲット核酸(Y)に蛍光色素(f)を標識して行う場合の検出部1における検出表面(D)領域を拡大して示す図である。
【図6】実施例の結果を示す図面代用グラフである。
【図7】ハイブリダイゼーション検出に蛍光インターカーレーター(I)を利用する実施形態を示す図である。
【図8】本発明に係る検出部(1)の他の実施形態(対向電極を用いる実施形態)を示す図である。
【図9】対向電極(E−E)を備える検出部(1)で、ハイブリダイゼーションにより生成した二本鎖核酸(W)に特異的に結合する蛍光インターカレーター(I)を用いて、ハイブリダイゼーションを検出する実施形態を示す図である。
【図10】対向電極の一方の表面積をより狭小にした実施形態を示す図である。
【図11】電極(E)として機能する検出表面(D)が凹凸形状を有するように形成された実施形態を説明するための図である。
【図12】検出表面(D)が積層された基板層(11)にITO電極が形成された実施形態を示す図である。
【図13】本発明に係る検出部1を利用する相互作用検出装置Uの構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0109】
1 相互作用検出部
D 検出表面
F 蛍光
f 蛍光色素
I 蛍光インターカレーター
M 水溶液溶媒
P 検出用の蛍光励起光
R 反応領域
U 相互作用検出装置
W 二本鎖核酸
X プローブ分子(その一種であるプローブ核酸分子)
Y ターゲット分子(その一種であるターゲット核酸分子)
Ya 検出表面に吸着したターゲット核酸分子
Z 蛍光検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブ分子とターゲット分子との間の特異的又は相補的な相互作用を、蛍光物質からの蛍光シグナルに基づいて検出する際に用いられる検出部であって、前記相互作用の場を提供する反応領域と、該反応領域に臨む検出表面と、を少なくとも備え、前記検出表面が、表面プラズモンを励起する金属又は合金から形成された相互作用検出部。
【請求項2】
前記検出表面には、前記プローブ分子が固定されていることを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項3】
前記相互作用は、前記反応領域の液相で進行することを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項4】
前記表面は、金、銀、酸化銀のいずれかから選択される金属から形成されていることを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項5】
前記蛍光物質は、前記ターゲット分子に標識された蛍光色素であることを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項6】
前記相互作用は、ハイブリダイゼーションであることを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項7】
前記蛍光物質は、二本鎖核酸に結合する蛍光インターカレーターであることを特徴とする請求項6記載の相互作用検出部。
【請求項8】
前記反応領域を挟むように形成された少なくとも一対の対向電極を備えており、前記検出表面が該対向電極の一方の電極として機能することを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項9】
前記対向電極によって前記反応領域に交流電界を印加することを特徴とする請求項8記載の相互作用検出部。
【請求項10】
前記検出表面は、凹凸形状を有することを特徴とする請求項8記載の相互作用検出部。
【請求項11】
請求項1記載の相互作用検出部が基板上に設けられたことを特徴とするバイオアッセイ用基板。
【請求項12】
請求項1記載の相互作用検出部の前記反応領域に向けて蛍光励起光を照射する光照射手段と、
励起された蛍光を受光して検出する蛍光検出手段と、
検出された蛍光シグナルに基づいて前記相互作用の状態を解析する手段と、
を少なくとも備える相互作用検出装置。
【請求項13】
請求項8記載の相互作用検出部の前記反応領域に向けて蛍光励起光を照射する光照射手段と、
励起された蛍光を受光して検出する蛍光検出手段と、
検出された蛍光シグナルに基づいて前記相互作用の状態を解析する手段と、
前記対向電極に通電して、前記反応領域に電界を印加する電界印加手段と、
を少なくとも備える相互作用検出装置。
【請求項14】
プローブ分子とターゲット分子との間の特異的又は相補的な相互作用を蛍光物質からの蛍光シグナルに基づいて検出する方法において、
前記相互作用を、表面プラズモンを励起する金属又は合金から形成された検出表面に臨む反応領域で進行させ、該検出表面に非特異的に吸着した蛍光物質から発せられる蛍光を、前記表面プラズモンの作用により消光することを特徴とするノイズ蛍光低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−177725(P2006−177725A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369976(P2004−369976)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】