説明

特定のカリックスアレーン、その製造方法およびその使用

本発明は、アルカリ金属イオン(Na、K)に効果的に結合し、そして界面を超えてそれらを輸送するカリックス[4]アレーン、それらの製造およびそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属イオン(Na、K)に効果的に結合し、そして界面を越えてそれらを輸送するカリックス[4]アレーン、それらの製造およびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属イオンの選択的除去は、金属製造業、ポリマー産業、バイオテクノロジー産業および他の産業において、生成物におけるより高い純度およびそれに関連した新規および改善された材料特性の達成を可能にすることによって、生成物の品質を改善し得る。このような分離において、そのpHが変化しないままである酸性または塩基性消化溶液が、高い頻度で存在する。このため、酸または塩基(とりわけ、アンモニア)のいずれも、可能であれば分離すべきでない。
【0003】
カリックス[4]アレーンは、ベンゼン環が互いに架橋したカリックス[n]アレーン〔n=4〕である(Gutsche(1998) Calixarenes Revisited、The Royal Society of Chemistry、ケンブリッジ、英国;Ludwig(2000) Fresenius’J.Analyt.Chem.、367(2)、103〜128頁)。分子骨格上の置換反応の結果として、非常に多くの誘導体が既知である。これらの誘導体の幾つかは、金属イオン、例えば、Pb(II)、Au(III)、Ln(III)またはAm(III)に対して選択性を示す。この選択性は、化学的分離に利用することができる。本明細書は、その分子構造が変化した結果、アルカリ金属イオンNaおよびKを、強アンモニア性溶液からでさえも、液体−液体抽出、吸着または膜技術によって、他の金属イオンを溶液中に完全に残したまま、選択的に除去することができるカリックス[4]アレーンを記載する。本発明者らは、驚くべきことに、本目的は、とりわけ、以下にまとめるこれまでの開発の場合のように、如何なるクラウンエーテル基も有しないカリックスアレーンによって達成できることを見出した。
【0004】
アルカリ金属イオンNaおよびKの化学的除去は、それらの非常に低い錯体形成傾向のため(Powell(2000) The IUPAC Stability Constants Database、Academic Software)、化学における最も困難な分離問題の一つであった。溶液に対する最初の成功したアプローチは、クラウンエーテルの使用を伴うものであった(Pedersen(1970) J.Amer.Chem.Soc.、92(2)、391〜394頁;StrzelbickiおよびBartsch(1981) Analyt.Chem.、53(12)、1894〜1899頁;Hayashita、Goo、Lee、Kim、KrzykawskiおよびBartsch(1990) Analyt.Chem.、62(21)、2283〜2287頁;Bartsch、Hayashita、Lee、KimおよびHankins(1993) Supramol.Chem.、1、305〜311頁;BartschおよびHayashita(1999) ACS Symposium Series 716:Metal−Ion Separation and Preconcentration;Lindner、Toth、Jeney、Horvath、Pungor、Bitterら(1990) Mikrochim.Acta [Vienna]、1、157〜168頁;Imato、Honkawa、KocsisおよびImasaka(1993) Proc.of the East Asia Conference on Chemical Sensors、268〜271頁;Bereczki、AgaiおよびBitter(2003) J.Inclusion Phen.and Macrocyclic Chem.、47、53〜58頁;Izatt、Pawlak、BradshawおよびBruening(1991) Chem.Rev.、91(8)、1721〜2085頁)。
【0005】
しかしながら、クラウンエーテルは、産業用途に不適当である。なぜなら、例えば、それらは、(i)接触することで皮膚に浸透し、皮膚の死を導く、(ii)幾分水溶性であり、したがって、連続方法に比較的不適当である、および(iii)非常に高価である、からである。したがって、この化合物のクラスは、化学的分析および化学的製造分野においてのみ、ある程度の使用が見出されている。
【0006】
したがって、全ての既知の技術は、アルカリ金属イオンの選択的除去に関して満足できない結果か、またはそれに関連した高い費用をもたらす。
【0007】
カリックスアレーンは、原理上、上記の三つの欠点を回避することができる。これまでは、アルカリ金属イオン群のなかでもNaに対する実用化に十分に高い選択性をカリックスアレーンに与えるために、クラウンエーテル基を該分子中に結合させていた(Beer、Drew、KnubleyおよびOgden(1995) J.Chem.Soc.Dalton Trans.(19)、3117〜3124頁;Koh、Araki、Shinkai、AsfariおよびVicens(1995) Tetr.Lett.、36(34)、6095〜6098頁;Scheerder、Duynhoven、EngbersenおよびReinhoudt(1996) Angew Chemie、108(10)、1172〜1175頁;Shibutani、Yoshinaga、Yakabe、ShonoおよびTanaka(1994) J.Inclusion Phen.and Molec.Recognition in Chem.、19、333〜342頁;Yamamoto、SakakiおよびShinkai(1994) Chem.Letters(3)、469〜472頁;YamamotoおよびShinkai(1994) Chem.Letters(6)、1115〜1118頁;Yamamoto、Ueda、Suenaga、SakakiおよびShinkai(1996) Chem.Letters、39〜40頁)。
【0008】
これらの分子構造の幾つかは、分析分野に関して、特許出願されている(YamamotoおよびOgata(1992) 特開平04−339251号、11月16日;YamamotoおよびShinkai(1994) 特開平07−206852号、1995年8月8日;Yamamoto(1995) 特願平7−79787号、3月10日;Yamamoto、SakakiおよびShinkai(1995) 特開平08−291165号、1996年11月5日;YamamotoおよびShinkai(1996) 特開平08−245616号、9月24日)。
【0009】
クラウンエーテル基は、分子中に以下の機能を有する:(i)空間中の所定のわずかに変化可能な位置に官能基が保持されるための構造の硬さ、および(ii)特定の大きさの中空間を形成するための機能。クラウンエーテル基または同様の基(例えば、アザクラウンエーテル基)が広げられる場合、該配位子は、Kに選択的になる(Casnati、Pochini、Ungaro、Bocchi、Ugozzoli、Egberinkら(1996) Chem.Europ.J.、2(4)、436〜445頁;Kim、Shon、Ko、Cho、YuおよびVicens(2000) J.Org.Chem.、65(8)、2386〜2392頁;Shinkai(1994) 特開平6−116261号、4月26日;Wenger、AsfariおよびVicens(1995) J.Inclusion Phen.and Molec.Recognition in Chem.、20、293〜296頁)。
【0010】
【化1】

(1)カリックス[4]アレーン骨格を有するクラウン化カリックスアレーン〔式中、基R=Hであり、中空間を形成するか、またはさらなる置換基および架橋クラウンエーテル環(例えば−(OCHCH−))を形成する〕の図式による描写。
【0011】
また、クラウンエーテル基を使用するこの構造的アプローチ(1)は、Cs−選択的カリックスアレーンの製造にも用いることができる(Dozol、Asfari、HillおよびVicens(1994) 仏国特許FR 2698362、5月27日;Dozol、Rouquette、UngaroおよびCasnati(1994)、国際公開WO9424138、1999年7月20日;Moyer、Sachleben、BonnesenおよびPresley(1999) 国際公開WO 9912878、3月18日)。また、クラウン化カリックスアレーンとして既知であるこの物質群は、非毒性であり、および水に不溶性である。しかしながら、それらの合成は複雑である。なぜなら、(i)所定の長さを有するクラウンエーテル基の段階的製造は複雑であり、したがって高価である、(ii)複数の可能性のある反応経路(架橋形成、架橋形成を伴わない置換)のため、反応収率が低い、および(iii)非架橋の副生成物のため、クロマトグラフィーまたは相間移動による複雑な精製が必要であるからである。クラウン化カリックスアレーンは、アルカリ金属イオンへの最も高い既知の選択性を有するが、それらは、これまで、これらの理由のため、分析方法または放射性核種の特別な分離においてのみ使用されれていた(LudwigおよびNguyen(2002) Sensors、2、397〜416頁)。
【0012】
クラウンエーテル基を含有しないカリックスアレーンは、イオン感受性電極によるアルカリ金属イオンNaおよびKの分析的決定のため、Harrisにより提案されている(Harris、McKervey、SvehlaおよびDiamond(1992) 欧州特許公開EP 0490631 A、米国特許US 5、132、345)。この特許文献中に開示されるカリックスアレーン誘導体(2)の群は非常に幅広いけれども、(2)に示されるような円錐立体構造のために、フェニル環が反対方向を向き、同時にカルボニル基が異なる置換基を有する化合物を含まない。対応する構造(3)は、部分円錐立体構造と呼ばれる。
【0013】
【化2】

(2)欧州特許EP 0490631による。
【0014】
【化3】

構造(3)における部分円錐立体構造(RおよびRは、分子内で変動し得る)。
【0015】
陽イオン交換基を含有しないカリックス[4]アレーンも、同様に、分析目的のため、Harrisらにより提案されている(Cadogan、Diamond、Smyth、Deasy、McKerveyおよびHarris(1989) Analyst、114(12月)、1551〜1554頁)。カリックス[4]アレーンのイオノホア特性の概要は、分冊出版物中に見出すことができる(McKervey、Schwing−WeillおよびArnaud−Neu(1996) Molecular Recognition:Receptors for Cationic Guests.Comprehensive Supramolecular Chemistry、G.W.Gokel編、Pergamon Press、ニューヨーク、オックスフォード、第1巻、537〜603頁)。
【0016】
カリックス[4]アレーンへのただ一つのカルボン酸基の導入は、一合成工程において初めて達成された(Barrett、Boehmer、Ferguson、Gallagher、Harris、Leonardら(1992) J.Chem.Soc.、Perkin Trans.II、(9)、1595〜1601頁;Boehmer、Vogt、Harris、Leonard、Collins、Deasyら(1990) J.Chem.Soc、Perkin Trans.I、(2)、431〜432頁;Owens、McKervey、Boehmer、Vierengel、TabataniおよびFerguson(1991) Workshop on Calixarenes and Related Compounds、Mainz 28.−30.8.、6頁)。ここで問題となる化合物は、円錐立体構造形態のtert−ブチルカリックスアレーンである。この構造を有する化合物は、イオノホア特性を有するさらなる誘導体のための出発材料として役立ち得る(Ludwig、TachimoriおよびYamato(1998) Nukleonika、43(2)、161〜174頁)。
【0017】
Gradyら(Grady、Cadogan、McKittrick、Harris、DiamondおよびMcKervey(1996) Analyt.Chimica Acta、336、1〜12頁)は、tert−ブチルカリックス[4]アレーンのモノカルボキシレートのNa用イオン感受性電極における利用を報告する。また、問題の化合物は、円錐配座異性体である。エステル前駆体に比べたNaに対する選択性の改善は、観察されなかった。
【0018】
同様に、Reinhoudtによる特許方法(Reinhoudt、D.N.、Engbersen、J.F.J.、Peters、F.G.A.(2000) WO 2000029337、5月25日)は、Naに向けられている。ここで、Na選択性が既知である、4個のエステル基(Arnaud−Neu、Collins、Deasy、Ferguson、Harris、Kaitnerら(1989) J.Amer.Chem.Soc.、111(23)、8681〜8691頁;ChangおよびCho(1986) J.Chem.Soc.、Perkin Trans I、(2)、211−214;Kimura、MatsuoおよびShono(1988) Chem.Letters、(4)、615〜616頁)またはCOOH基(Barrettら(1992) J.Chem.Soc.、Perkin Trans.II、(9)、1595〜1601頁;Boehmerら(1990) J.Chem.Soc.、Perkin Trans.I、(2)、431〜432頁)を有するカリックス[4]アレーンは、オランダの温室の循環水から植物に取り込まれないNaを膜方法により除去するために提案されている。その方法は、分配データが示すように、Kに対して選択性を有する植物に有害なNaの除去を目的とする。
【0019】
カリックス[4]アレーンは、重金属イオン(例えば、KおよびCs)とのさらなる相互作用を受け得る。これらの相互作用は、芳香族π系の関与に基づくものであり、およびカチオン−π相互作用と呼ばれる(Casnati(1997) Gazz.Chim.Ital.、127(11)、637〜649頁;Inokuchi、Miyahara、InazuおよびShinkai(1995) Angew.Chemie、107(12)、1459〜1461頁;Iwamoto、ArakiおよびShinkai(1991) J.Org.Chem.、56(16)、4955〜4962頁;Iwamoto、Fujimoto、MatsudaおよびShinkai(1990) Tetr.Lett.、31(49)、7169〜7172頁)。これは、交互または部分円錐立体構造形態の配座異性体について観察される。−COOH基との組合せまたはKを含む化学的分離のための使用については記載されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
以前に提案された上記溶液の欠点を解消すること、(特にアンモニウムイオンに対してよりも)高い選択性でもってKおよびNaの両方共に結合し、これらを抽出すること、およびこれを安価に行うことが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本目的は、驚くべきことに、少なくとも一つの陽イオン交換基を含有する部分円錐立体構造の疎水性カリックス[4]アレーンによって達成される。したがって、本発明は、(i)少なくとも一つの陽イオン交換基(例えば、−COOH)を含有し、(ii)水に完全に不溶で、抽出剤として使用でき、および(iii)非対称立体構造を有するカリックス[4]アレーンを提供する。さらに、α−ハロゲン化カルボン酸基が該分子中に存在し得る。本発明のカリックス[4]アレーンは、アルカリ金属イオンに結合することができ、そして、アンモニウムイオンに対してよりもアルカリ金属イオンに対して選択性を示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の化合物の利点としては、とりわけ、以下の点が挙げられる:
1)クラウン化カリックスアレーンと比べて、短い反応時間および簡単な仕上げの結果として製造時間が節約される。
2)製造および精製において安価な化学薬品を使用することができる結果として、オリゴエチレングリコールジトシレートを必要とするクラウン化カリックスアレーンと比べて費用が顕著に低減される。
3)構造(4)で示される化合物によって、二次構成成分(例えば、KおよびNa)を、主構成成分から分離することができる。対照的に、従来の抽出または吸着方法は、精製工程における主構成成分の分離除去に基づく。したがって、新規方法は、資源を保護する。
本発明のカリックスアレーンは、以下の構造(4):
【0023】
【化4】

〔式中、R=H、アルキル、アリールまたはアリールアルキル、好ましくは分枝状アルキル基、例えば、tert−ブチルまたはtert−オクチル;
、R=H、アルキル、アルキルアリールまたはハロゲン、好ましくは立体的に小さい基、例えば、HまたはF;
ここでRは、Rと同一か、または異なり得、例えば、R=R=HまたはR=Cl、R=H;
=置換または非置換のアルキル、アリール、アルキルアリール、アルケニルまたはアルキニル基、好ましくは立体的に小さい疎水性基、例えば、エチル、メチルまたはプロピル〕
を有する。
図1は、R=tert−オクチル(1,1,3,3−テトラメチルブチル)およびR=R=Hについて、X線構造分析によって決定された構造を示す。図1において、炭素原子を黒色で示し、および酸素原子を灰色で示す;水素原子は示していない。
【0024】
本発明のカリックスアレーンは、過剰のNH/NHが同時に存在する場合でさえも、Naと同時にKを錯化する。
【0025】
これらの特性は、以下の構造的特徴によって、これにより本発明の範囲は限定されないが、説明することができる:
・アルカリ金属イオンNa、Kの直径と同様の中空間径を有するカリックス[4]アレーン骨格
・アルカリ金属イオンの配位数および配位構造を満足するのに十分な数の酸素原子
・NHではなく、非占有d原子軌道を有するKが、陽イオン−π相互作用の安定化をさらに受けることを可能にし、およびこれにより錯体を安定化することを可能にする部分円錐立体構造
・カルボン酸基またはα−ハロゲン化カルボン酸基であり得、および錯化に際してアルカリ金属イオンの電荷とバランスを保つ唯一つの陽イオン交換基
・化学的分離に関して有利である以下の特性を該化合物に与える疎水性分子骨格:(i)水不溶性、(ii)有機希釈剤への溶解性または多孔有機支持材料への良好な接着性、および(iii)抽出または膜方法における良好な相併合。
【0026】
本発明の化合物は、他の化合物、例えば、市販の抽出剤または他のカリックスアレーンに適合性であり、および化学的分離の目的でこれらと組み合わせることができる。
【0027】
構造(4)で示される新規化合物は、驚くべきことに、以下の方法によって簡単に得ることができる。これは、同様に本発明の主題である。
【0028】
本発明のカリックス[4]アレーンの製造方法において、
A)パラ置換フェノール、好ましくはパラ基中に枝を有するもの、好ましくはtert−ブチルフェノールまたはtert−オクチルフェノールを、高沸点不活性溶媒(好ましくは200〜260℃の範囲の沸点を有し、および反応の水と共沸体を形成し得る溶媒、例えば、石油エーテルまたはジフェニルエーテル)中の触媒量のNaOH中、ホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドと縮合して、カリックス[4]アレーンを形成させる(図2)。これらの化合物(以下、「中間体1」と称する)は、基礎科学として数十年間既知である(Gutsche(1989) Calixarenes、(1998) Calixarenes Revisited、The Royal Society of Chemistry、ケンブリッジ、英国;Schwetlick(2001) Organikum、Wiley−VCH)。
B)この中間体を、過剰の塩基(好ましくはpK<3を有する強塩基および特に好ましくは鋳型効果を有する強塩基、例えば、KOアルキル、例えば、KOBuまたはKOBu)の存在下、単ハロゲン化または多ハロゲン化アルキルアセテート、好ましくは1位が塩素化または臭素化されたアルキルアセテートと、以下のクラス(この例示に限定されない)の一つの不活性溶媒中、−10〜+150℃(好ましくは10〜50℃)の温度にて1日間反応させる。溶媒としては、置換および非置換のエーテル、アルカン、シクロアルカン、芳香族化合物、ヘテロ環、カルボキサミド、ニトリル、好ましくは反応体に対して高溶媒能を有する溶媒(例えば、テトラヒドロフラン)を使用することができる。このようにして得られる第一の誘導体は、希塩酸による洗浄によって残留塩を除くことができ、および不活性溶媒(好ましくはアルコール、例えばエタノール)から再結晶化することによって精製することができる。
C)このようにしてBにしたがって製造される誘導体(中間体2)を、不活性有機溶媒(好ましくは出発材料に対して高溶媒能を有する溶媒、例えば、テトラヒドロフラン、アルコール、クロロホルム)中、大過剰の酸(好ましくは強酸、例えば塩酸またはトリフルオロ酢酸)と、−10〜+150℃(好ましくは20〜40℃)の温度にて1日間反応させる。水による洗浄後、構造(4)を有する純生成物を得る。該生成物は、水性溶液から選択的にKおよびNaを除去することができる。該生成物が強酸水相からの除去に使用される場合、R若しくはRまたはRおよびRは、ハロゲン(好ましくはFまたはCl)である。
【0029】
本明細書に記載したカリックス[4]アレーンの場合、該合成は、驚くべきことに、恐らくは鋳型効果の結果として、高反応収率で所望の構造を有する誘導体をもたらす。
これらの鋳型効果は、これにより本発明の範囲は限定されないが、以下のように説明することができる:
・まず、驚くべき鋳型効果は、第一の誘導体形成工程において、恐らく有機可溶性K含有強塩基(例えばKOBu)によってもたらされ、そして該分子を所望の立体構造に固定する。R=tert−オクチルの場合、これは、最初に公開された部分円錐立体構造の構造である。これまで既知のR=tert−ブチルについての反応条件下におけるその製造は、仮にそうした場合、我々自身の予備試験で示されたように、理論の2%未満の反応収率のみが可能である。
・次に、同様に、驚くべき鋳型効果は、第一の合成工程の生成物を約20倍モル過剰の酸と共に加熱する場合に生じる。図1中の結晶構造および核共鳴データ(下記参照)が示すように、三つの隣接エステル基の真ん中の一つのみが、加水分解的に開裂される。それと対照的に、円錐配座異性体の部分加水分解は、当モル量の酸によってさえも達成される(Boehmerら(1990) J.Chem.Soc.、Perkin Trans I、(2)、431〜432頁)。
【0030】
本発明の化合物は、並外れて化学的に安定であり、このことは、核共鳴スペクトルによって示され得るように、それらが分離作用の機能障害を起こすことなく、アルカリ性(pH<11)または酸性条件下の抽出/逆抽出サイクルを、多数回循環することができるという事実に反映される。該化合物は、無毒であり、水相に対して完全に不溶性である。それらは、容易に燃焼されず、および期間を限定せずに保存可能な固体である。
【0031】
使用において、構造(4)を有する化合物を、単独またはさらなる抽出剤または吸着媒体との混合物のいずれかで、化学的に不活性な有機希釈剤(好ましくは低蒸気圧を有するもの、例えば、高沸点脂肪族化合物)中に溶解するか、または、好ましくはマクロ多孔構造(例えば、ポリマー)の表面を占有することによって、多孔支持体に化学的にまたは吸着的に結合する。
【0032】
およびNaに加えて、大過剰の他の金属塩、アンモニウム塩、他の塩基の塩または酸の塩ならびに非荷電有機化合物も含有し得る水溶液との接触において、該化合物は、高度に選択的にアルカリ金属イオンKおよびNaを抽出し、および他の物質を水相中に残す。該アルカリ金属イオンは、該有機相または吸着剤を酸(好ましくは強酸の希釈溶液、例えば、0.1M硫酸)に接触させることによって、温度に関わらず、蓄積された有機相または蓄積された吸着剤から数分以内に除かれる。ここで該抽出剤は、元の非錯化形態に変換され、そして新たなサイクルに利用可能である。
【0033】
このような分離の可能性のある用途としては、以下のものが挙げられる:
1)価値ある材料を含有するプロセス水からのKおよびNaの除去:価値ある材料は、精製された水溶液から沈殿可能であり、および高い純度を有する。
2)KおよびNaが蓄積する製造方法における循環水からのKおよびNaの除去:錯化剤が固体支持体上に固定される場合、またはコポリマーが錯化剤を使用して製造される場合、または錯化剤が固体として直接的に使用される場合、化学的特性は保持され、およびKおよびNaが除去される。
3)少なくとも一つの本発明の化合物と、他の抽出剤または吸着媒体との混合物を使用することによる、水溶液からのKおよびNaを含む全ての所望されない不純物の同時除去:KおよびNaに結合する能力は、驚くべきことに、水相からさらなる物質を除く他の化合物との混合物においてさえも、保持される。
4)少なくとも一つの本発明の化合物をセンサーと併用して使用する場合のアンモニア性溶液中のKおよびNa含量の定量分析的決定:本発明の化合物をセンサーの一部として使用する場合、選択的錯化によって、アルカリ金属イオンKおよびNa含量をアンモニア性溶液中で定量的に決定することが可能になる。センサーは、例えば、イオン感受性電極、修飾電界効果トランジスタまたはオプトードであり得る。
5)水溶液からのNaおよびKの除去およびそれらのマスキング:その結果、所望されない二次効果は、もはや生じ得ない。本発明の化合物は、アンモニウムイオン、他の陽イオン、陰イオンおよび非電荷化合物に対してよりも選択的にKおよびNaを錯化し、およびこれに結合する。この選択性は、液体−液体抽出による除去に関して、十分に引き出され得る。
【0034】
本発明を実施例によって説明するが、本発明は本実施例に限定されない。
【実施例】
【0035】
1.)製造
=tert−オクチル、R=R=HおよびR=Cである(4)の製造のため、以下の合成条件を用いた:
・10gのtert−オクチルカリックス[4]アレーン(Cornforth、D’Arcy Hart、Nicholls、ReesおよびStock(1955) Brit.J.Pharmacol.、10、73〜86頁;Ohto、Yano、Inoue、Yamamoto、Goto、Nakashioら(1995) Analyt.Sciences、11、893〜902頁)を、150mLの乾燥テトラヒドロフラン中の13gのカリウムtert−ブトキシドと共に、還流下、4時間加熱する。次いで、約9mLのエチルブロモアセテートを、攪拌しながら滴下する。該混合物を約1日間攪拌する。
・THFの代わりに、他の不活性溶媒(例えば、石油エーテル)を使用することができる。反応促進添加剤(例えば、KI)を初めに混合することができる。さらにKCO(3g)を初めに添加する場合、円錐異性体が副生成物として約10%の収率で形成され、および主生成物と一緒に晶出される。
・エチルブロモアセテートの代わりに、エチルクロロアセテートを使用することができる。この場合、該反応混合物を、その後、約50℃に加熱する。
・該反応混合物を、50mLの水を添加して急冷し、および25mLのCHClで抽出する。該有機相を、約0.5モルのHClで多数回洗浄し、および約25mLのエタノールを添加することによって結晶化する。
・ろ過および乾燥した沈殿(11g)を、約20mLのCHCl中に溶解し、そして11mLのトリフルオロ酢酸中、攪拌しながら、ゆるやかに12時間加熱する。次いで、該有機相を、中性になるまで水で多数回洗浄する。該溶媒を除き、および該生成物を、わずかに黄色の樹脂状組成物として残す。これは加熱により軟化する。
・CHClの代わりに、別の溶媒(例えば、CHCl、テトラヒドロフランまたはアルコール)も使用することもできる。また、トリフルオロ酢酸の代わりに、別の中程度〜強い非酸化性酸を使用することもできる。有機相中の酸濃度は、十分に高くなければならない。例えば、HCl水溶液を使用する場合、水溶性有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン)を仕上げに使用しなければならない。
【0036】
2.)同定
該生成物を、それらのNMRスペクトル、結晶構造分析(上記参照)、マススペクトルおよびクロマトグラムによって確認した:
【0037】
=tert−オクチル、R=R=H、R=Cであるエステル誘導体:H NMR、δ(ppm、CDCl/TMS)=0.64(s,18H)、0.78(s,9H)、0.81(s,9H)、0.97(s,6H)、1.14(t,9H)、1.28(t,9H)、1.34(t,6H)、1.46(m,10H)、1.72(s,2H)、1.78(s,2H)、3.11(d,2H)、3.85(s,4H)、3.98(q,2H)、4.2−4.34(m,14H)、4.43(d,2H)、4.48(d,2H)、6.45(s,2H)、7.02(s,4H)、7.32(s,2H);
【0038】
13C NMR、δ(ppm、CDCl/TMS)=CCH3およびAr−CH−Ar:13.79、14.04、27.92、30.41−32.59(m)、36.67、37.50、37.66、37.76、CCH2:56.57、57.38、57.58、59.22、59.91、60.28、60.36、67.59、70.13、71.19、CAr:126.25、126.64、128.92、130.88、131.04、131.65、132.92、134.73、143.04、143.18、143.59、152.13、153.83、154.83、CCO:168.87、168.99、170.84;
【0039】
元素分析:C7611212、計算値C75.0%、H9.3%、実測値C74.8%、H9.06%。
融点(Gallenkamp):155℃、DSC(Netzsch DSC 200熱量計、N、10K/分) 149.7℃(43.2J/g);
MS(FAB、3kV、キセノン、マトリックスMNBA) m/e=1218[L+H]、1240[L+Na]
DC(SiO、CHCl/EtOH 9:1) R=0.7(対称用:円錐配座異性体R=0.4、出発材料R=0.95);
【0040】
=tert−オクチル、R=R=H、R=Cである化合物(4):H NMR、δ(ppm、CDCl/TMS)=0.38(s,15H)、0.57(s)および0.62(s)および0.67(s)(21H)、1.0−1.1(m,21H)、1.25−1.45(m,16H)、1.61(s,4H)、3.02(d,2H)、3.47(s,1H)、3.73(d,2H)、3.87−4.07(m,11H)、4.32(s,2H)、4.62(d,2H)、4.70(d,2H)、6.74(s,2H)、6.92(s,2H)、7.02(s,2H)、7.16(s,2H);
元素分析:C7410812、計算値C74.7%、H9.15%、実測値C74.3%、H8.85%。
融点:40℃超で軟化;
MS(FAB、3kV、キセノン、マトリックスMNBA) m/e=1188[L−H];(FAB)m/e=1212[L+Na]
DC(SiO、CHCl/EtOH 9:1) Rf=0。
【0041】
3.)使用
(4)およびR=tert−オクチル、R=R=H、R=Cの場合、液体−液体抽出において、図3に示される分配係数D(D=有機相中の金属濃度/水相中の金属濃度)が得られる。
図3:CHCl中の異なる濃度のR=tert−オクチル、R=R=H、R=Cである(4)を使用する、強度にアンモニウムを含有する溶液からの一段階抽出におけるKの分配係数の対数。塗りつぶし記号:logD、空き記号:Kの抽出率%。
実験条件:クロロホルム中の配位子(4)の溶液、0.5モル/LのNHCl/NH緩衝液(pH10)、抽出前200ppmのK、分析:FES。
抽出率は、配位子濃度を増大させることによって、簡単に増大させることができる。一段階抽出/再抽出におけるK濃度の50%以上の低減は、有効な分離を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、R=tert−オクチル(1,1,3,3−テトラメチルブチル)およびR=R=Hについて、X線構造分析によって決定された構造を示す。図1において、炭素原子を黒色で示し、および酸素原子を灰色で示す;水素原子は示していない。
【図2】図2は、パラ置換フェノール、好ましくはパラ基中に枝を有するもの、好ましくはtert−ブチルフェノールまたはtert−オクチルフェノールを、高沸点不活性溶媒(好ましくは200〜260℃の範囲の沸点を有し、および反応の水と共沸体を形成し得る溶媒、例えば、石油エーテルまたはジフェニルエーテル)中の触媒量のNaOH中、ホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドと縮合して、カリックス[4]アレーンを形成させる工程を示す。
【図3】図3は、CHCl中の異なる濃度のR=tert−オクチル、R=R=H、R=Cである(4)を使用する、強度にアンモニウムを含有する溶液からの一段階抽出におけるKの分配係数の対数を示す。塗りつぶし記号:logD、空き記号:Kの抽出率%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過剰のNHの存在下、KおよびNaに選択的に結合し得るカリックスアレーン。
【請求項2】
式(4):
【化1】

〔式中、Rは、H、またはアルキル、アリールまたはアリールアルキル基であり、
は、H、FまたはClであり、
は、H、FまたはClであり、および
は、置換または非置換のアルキル、アルケニル、アリールまたはアリールアルキル基である〕
で示される構造であることを特徴とする、請求項1に記載のカリックスアレーン。
【請求項3】
構造(4)〔式中、
・R=tert−ブチル、R=R=H、R=C
・R=tert−オクチル、R=R=H、R=C
・R=H、R=R=H、R=C
・R=tert−ブチル、R=R=H、R=CH
・R=tert−オクチル、R=R=H、R=CH
・R=H、R=R=H、R=CH
・R=tert−ブチル、R=R=Cl、R=C
・R=tert−オクチル、R=R=Cl、R=C
・R=H、R=R=Cl、R=C
・R=tert−ブチル、R=H、R=F、R=C
・R=tert−オクチル、R=H、R=F、R=C
・R=H、R=H、R=F、R=C
である〕
で示される化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のカリックス[4]アレーン。
【請求項4】
カリックス[4]アレーンの製造方法であって、式:
【化2】

〔式中、Rは、請求項2と同義である〕
で示される中間体1のカリックス[4]アレーン(1当量)を、OH基を含有しない可溶性強塩基(10当量)を使用して、水非含有有機溶媒中、式:CXRCOOR(式中、X=Br、ClまたはI)で示される試薬(12当量)と反応させ(該反応は、加熱することによって完了する)、
通例の仕上げ後、この反応の生成物を結晶化により精製し、
これを、多くの時間加熱することにより、水性有機媒体中、約20当量の中程度〜強酸と反応させて、請求項2に記載の式(4)で示される化合物を形成し、そして
水で洗浄することにより過剰の酸を除去し、続いて乾燥した後、該生成物は、化学的に純粋であることを特徴とする、方法。
【請求項5】
アルカリ金属イオンKおよびNaを結合するための、請求項2に記載のカリックス[4]アレーンの使用。
【請求項6】
アルカリ金属イオンKおよびNaを抽出するための、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
およびNaを吸着するための、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
他の抽出剤または吸着媒体との混合剤の状態での、請求項5に記載のカリックス[4]アレーンの使用。
【請求項9】
およびNaの含量を決定するための、請求項5に記載のカリックスアレーンの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−510749(P2008−510749A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528689(P2007−528689)
【出願日】平成17年8月16日(2005.8.16)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008865
【国際公開番号】WO2006/021342
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(504109610)バイエル・テクノロジー・サービシーズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (75)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Technology Services GmbH
【出願人】(303036245)バイエル・ベタイリグングスフェアヴァルトゥング・ゴスラー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (18)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Beteiligungsverwaltung Goslar GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78−91, D−38642 Goslar, Germany
【Fターム(参考)】