説明

特定のキナ酸誘導体を含有する経口用組成物

【課題】 ジカフェオイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸誘導体、トリカフェオイルキナ酸、及びトリカフェオイルキナ酸誘導体の新たな用途を提供するとともに、好ましい他の素材との組合せを提供して、それら物質の利用範囲を拡大させる。
【解決手段】 本発明の経口用組成物は、ジカフェオイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸誘導体、トリカフェオイルキナ酸、およびトリカフェオイルキナ酸誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類を含む原料、糖アルコール、グァバ葉加工物、および水溶性食物繊維を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のキナ酸誘導体を含む原料、糖アルコール、グァバ葉加工物、および水溶性食物繊維を含有する経口用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジカフェオイルキナ酸またはトリカフェオイルキナ酸は、キナ酸1分子に、カフェ酸2分子または3分子が結合した結合体である。このような結合体としては、例えば、3,4−ジカフェオイルキナ酸、4,5−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸、3,4,5−トリカフェオイルキナ酸などが挙げられる。これら物質は、抗酸化作用などの様々な生理作用が知られている(特許文献1)。
【0003】
上記物質の多くは、医薬分野で使用されているが、医薬以外の分野、例えば食品分野などでの用途については、明らかにされていない。すなわち、これらの物質は、有用な物質であるにもかかわらず、十分に利用されていない。したがって、これらの物質の新たな用途、例えば食品分野などでの用途が望まれている。
【特許文献1】特開平6−166681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ジカフェオイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸誘導体、トリカフェオイルキナ酸、およびトリカフェオイルキナ酸誘導体の新たな用途を提供するとともに、好ましい他の素材との組合せを提供して、これらの物質の利用範囲を拡大させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、ジカフェオイルキナ酸、トリカフェオイルキナ酸、およびこれらの成分を含有する甘藷の茎または葉に、優れた血糖値の低下作用などの抗糖尿病作用があることを既に見出している。さらに、それらの成分が有する作用をより効果的に発揮させるための食品原料および医薬品原料の組合せを見出した。
【0006】
本発明は、ジカフェオイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸誘導体、トリカフェオイルキナ酸、およびトリカフェオイルキナ酸誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類を含む原料、糖アルコール、グァバ葉加工物、および水溶性食物繊維を含有する、経口用組成物を提供する。
【0007】
好ましい実施態様においては、上記糖アルコールは、還元麦芽糖である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の経口用組成物は、食品、医薬品、医薬部外品などに配合することにより、ジカフェオイルキナ酸、トリカフェオイルキナ酸などが有する作用をより増強し、優れた血糖値上昇抑制効果などの抗糖尿病効果、抗肥満効果などを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の経口用組成物は、ジカフェオイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸誘導体、トリカフェオイルキナ酸、およびトリカフェオイルキナ酸誘導体(以下、「特定のキナ酸誘導体」という場合がある)からなる群より選択される少なくとも1種類を含む原料、糖アルコール、グァバ葉加工物、および水溶性食物繊維を含有する。以下、本発明の経口用組成物の構成要素について個別に説明する。なお、本発明は、下記実施形態により限定して解釈されるべきでなく、特許請求の範囲の記載における範囲内において、種々の変更が可能である。
【0010】
(1)特定のキナ酸誘導体を含む原料
本発明に用いられる特定のキナ酸誘導体を含む原料は、上述のようにジカフェオイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸誘導体、トリカフェオイルキナ酸、およびトリカフェオイルキナ酸誘導体の少なくとも1種類を含む。これらの特定のキナ酸誘導体は、ポリフェノールの1種である。
【0011】
本明細書において「ジカフェオイルキナ酸」とは、キナ酸またはキナ酸誘導体1分子にカフェ酸またはカフェ酸誘導体2分子が結合した化合物をいう。例えば、キナ酸またはキナ酸誘導体1分子とカフェ酸またはカフェ酸誘導体2分子とのエステルが挙げられる。ジカフェオイルキナ酸としては、例えば、3,4−ジカフェオイルキナ酸(3,4−dicaffeoylquinic acid)、3,5−ジカフェオイルキナ酸(3,5−dicaffeoylquinic acid)、4,5−ジカフェオイルキナ酸(3,5−dicaffeoylquinic acid)などが挙げられる。
【0012】
3,5−ジカフェオイルキナ酸の構造式を以下の式(A)に、3,4−ジカフェオイルキナ酸の構造式を以下の式(B)に、そして4,5−ジカフェオイルキナ酸の構造式を以下の式(C)にそれぞれ示す。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
本明細書において「トリカフェオイルキナ酸」とは、キナ酸またはキナ酸誘導体1分子にカフェ酸またはカフェ酸誘導体3分子が結合した化合物をいう。例えば、キナ酸またはキナ酸誘導体1分子とカフェ酸またはカフェ酸誘導体3分子とのエステルが挙げられる。トリカフェオイルキナ酸としては、例えば、3,4,5−トリカフェオイルキナ酸(3,4,5−tricaffeoylquinic acid)などが挙げられる。3,4,5−トリカフェオイルキナ酸の構造式を以下の式(D)に示す。
【0017】
【化4】

【0018】
ジカフェオイルキナ酸誘導体およびトリカフェオイルキナ酸誘導体としては、例えば、ジカフェオイルキナ酸およびトリカフェオイルキナ酸の配糖体、塩、エステル、スクシニル基が結合した化合物などが挙げられ、具体例としては、3,5−ジカフェオイル−4−スクシニルキナ酸などが挙げられる。
【0019】
ジカフェオイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸誘導体、トリカフェオイルキナ酸、およびトリカフェオイルキナ酸誘導体は、例えば、甘藷の茎または葉(以下、「甘藷茎葉」という場合がある)、ヤーコン茎葉、コーヒー豆、ヨモギの茎葉、トマトの果実、シュンギクの茎葉などの植物体に含まれる。これらの植物体の中でも、特に甘藷茎葉は、ジカフェオイルキナ酸およびトリカフェオイルキナ酸を他の植物よりも多く含有する。例えば、甘藷の葉は、1mg/100g〜300mg/100gのトリカフェオイルキナ酸を含有する、あるいは甘藷茎葉に含まれるポリフェノール中には、上記の特定のキナ酸誘導体が、他の植物体に比べて多く含まれる。
【0020】
したがって、本発明に用いられる特定のキナ酸誘導体を含む原料としては、好ましくは甘藷茎葉、ヤーコン茎葉、コーヒー豆、ヨモギの茎葉、トマトの果実、シュンギクの茎葉など植物体からの乾燥粉末、搾汁、搾汁を乾燥粉末化したエキス末、抽出物、またはこれらから分離精製した物質が挙げられる。これらの植物体の中でも、特に甘藷茎葉は、上記のようにジカフェオイルキナ酸およびトリカフェオイルキナ酸の両方を含み、さらに植物体の収量も比較的多いため、より好ましく用いられる。甘藷茎葉は、植物体の乾燥質量あたりの特定のキナ酸誘導体の含有量が高いので、そのまま乾燥粉末として用いることが可能であり、特定のキナ酸誘導体が有する作用(例えば、抗糖尿病作用など)が十分に発揮され得る。
【0021】
以下、本発明に用いられる特定のキナ酸誘導体を含む原料について、甘藷茎葉を例に挙げて具体的に説明する。
【0022】
本明細書において、「甘藷茎葉」とは、栽培した甘藷の地上部に出た茎および葉の少なくとも一部をいう。したがって、本発明においては、甘藷茎葉として、地上部の甘藷の茎のみを用いてもよく、甘藷の葉のみを用いてもよく、あるいは甘藷の茎および葉の両方を用いてもよい。
【0023】
甘藷茎葉は、甘藷の栽培時に、地上部に出ている茎または葉を用いることが好ましい。特に、地上から10cm以上、好ましくは30cm以上に成長した甘藷茎葉がよい。さらに、甘藷の茎が地中から外に出ている位置から甘藷茎葉の先端までの長さを測定した場合に、その長さが300cm以下、好ましくは200cm以下、より好ましくは150cm以下である甘藷茎葉を用いるのがよい。300cmを超えると、甘藷茎葉の先端部が地面に接し、害虫などの害を受けやすくなるので、十分な量の茎葉が得られなくなる場合がある。得られた甘藷茎葉は、好ましくは付着した泥などを水で洗浄した後に加工などが施される。
【0024】
上記甘藷茎葉としては、甘藷茎葉の先端部分であって、かつ他の茎葉に比べて、緑色を保持している状態の甘藷茎葉を回収して用いることがさらに好ましい。この甘藷茎葉の先端部分を、特に「甘藷の若茎葉」と記載する。甘藷の若茎葉としては、甘藷茎葉の先端から40cm以内の部位の茎葉(以下、「特定部位の甘藷茎葉」という場合がある)が、特定のキナ酸誘導体を多く含有するために好ましく用いられる。
【0025】
甘藷の若茎葉および特定部位の甘藷茎葉は、植物体自身がやわらかいため加工がしやすい。これらをそのまま乾燥粉末とした場合は、舌触りがよいため、様々な食品に利用しやすくなる。
【0026】
上記甘藷茎葉は、収穫後、そのまま乾燥して乾燥粉末にされ得る。あるいは、甘藷茎葉は、必要に応じて加工され得る。加工は、加熱処理、圧搾、抽出、乾燥、および粉末化処理からなる群より選択される少なくとも1種の方法によって行われる。
【0027】
(加熱処理)
加熱処理は、甘藷茎葉中の酵素の失活による品質の安定化、および甘藷茎葉の褪色を防ぐ目的で行われる。加熱処理としては、例えば、ブランチング処理(湯通し)、乾熱処理、マイクロウェーブ処理、赤外線および遠赤外線処理、水蒸気処理などの処理が挙げられる。これら加熱処理のうち、ブランチング処理および水蒸気処理が好ましく用いられる。さらに、処理工程の便宜上、必要に応じて、甘藷茎葉を長径10〜30cm程度に裁断してから、各処理を行ってもよい。
【0028】
(圧搾)
圧搾は、例えば、圧搾機などを用いて行われる。これによって甘藷茎葉の搾汁が得られる。得られた搾汁をそのまま飲料などの食品に用いる場合は、80℃〜130℃で加熱殺菌を行うことが好ましい。
【0029】
(乾燥および粉末化処理)
乾燥は、甘藷茎葉をそのまま、または上記の加熱処理もしくは圧搾して搾汁、ペースト状などにした後、当業者が通常用いる任意の乾燥方法を用いて行われる。乾燥処理を行うことによって、抽出などの加工を施す前に植物体(甘藷茎葉)の保存が可能となるので、乾燥処理を行うことは、好ましい。
【0030】
乾燥は、乾燥方法に応じた乾燥機、例えば、熱風乾燥機、高圧蒸気乾燥機、電磁波乾燥機、凍結乾燥機、減圧濃縮機、噴霧乾燥機、直火式加熱機、回転式通風乾燥機などを用いて行われる。
【0031】
この中でも、甘藷茎葉の乾燥には、製造コストや乾燥の効率の面から、熱風乾燥機、直火式加熱機、回転式通風乾燥機が好ましく用いられる。
【0032】
エキス末を得る場合は、減圧濃縮機および噴霧乾燥機を用いることが好ましい。噴霧乾燥は、甘藷茎葉の搾汁をエキス末とする方法として好適である。例えば、搾汁は、スプレードライヤーなどの噴霧乾燥機を用いて粉末化される。噴霧乾燥を行う場合は、回収率を上げるために、必要に応じてデキストリン、シクロデキストリン、デンプン、マルトースのような賦形剤が添加される。好適にはデキストリンが用いられ、搾汁とデキストリンとの比は、デキストリン添加により粉末化を容易にするため、質量比で1:10〜5:1が好ましい。
【0033】
常圧での乾燥は、60℃〜150℃、好ましくは70〜100℃で行うことが、風味が良く、色鮮やかな甘藷茎乾燥粉末が得られる点で好ましい。減圧下での乾燥は60℃以下、好ましくは甘藷茎葉、そのペーストまたは搾汁が凍結する温度以上でかつ60℃以下で行うことが、栄養成分の損失を少なくすることができる点で好ましい。
【0034】
乾燥は、乾燥物またはエキス末中の水分含量が5質量%以下となるように行うことが好ましい。
【0035】
甘藷茎葉をそのまま乾燥させる場合は、2段階で乾燥を行うことが好ましい。2段乾燥は、例えば、熱風乾燥機などを用いて行う。2段階乾燥では、まず、甘藷茎葉の水分含有量が25質量%以下となるまで、60〜80℃の温度で一次乾燥させる。次いで、一次乾燥した甘藷茎葉の水分含有量が5質量%以下となるまで、一次乾燥よりも高い温度で二次乾燥させる。このとき、一次乾燥の乾燥温度が60℃未満の場合は、乾燥速度が遅くなる。
【0036】
二次乾燥の温度は、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、さらに好ましくは約80℃である。約80℃に調節することにより、特定のキナ酸誘導体の含有量が高く、かつ色鮮やかな甘藷茎葉粉末を得ることができる。二次乾燥の乾燥温度が100℃を超える場合は、焦げを生じることがある。
【0037】
なお、一次乾燥と二次乾燥との温度差は、約5〜15℃であることが好ましく、約10℃であることがより好ましい。例えば、90℃で二次乾燥する場合、一次乾燥の温度は、75〜85℃であることが好ましく、約80℃であることがより好ましい。
【0038】
この2段階の乾燥工程を行うことにより、乾燥時間が短縮されると同時に、甘藷茎葉の緑色および風味が維持される。上記のように温度差を一定範囲に設定することにより、乾燥工程における緑葉の水分管理が容易になり、効率的に乾燥が行われる。
【0039】
上記乾燥により得られた甘藷茎葉は、必要に応じて粉砕され得る。特に、抽出物(後述)を得るための原料とする場合、抽出効率を上げる点から、甘藷茎葉を粉砕することが好ましい。例えば、乾燥した甘藷茎葉を、カッター、スライサー、ダイサーなどの当業者が通常用いる装置または器具を用いて粉砕する。粉砕された甘藷茎葉の大きさは、長径が20mm以下であり、好ましくは0.1〜10mmである。このようにして、甘藷茎葉の乾燥粉末を得ることができる。
【0040】
均一に加熱して殺菌する目的で、加熱処理を行ってもよい。この加熱処理により、粗粉砕した甘藷茎葉加工物を均一に加熱することができ、甘藷茎葉の香味を良好にしつつ、効率のよい殺菌を行うことができる。この加熱処理は、110℃以上で行い、高圧殺菌機、加熱殺菌機、加圧蒸気殺菌機などを用いることができる。この加熱処理は、甘藷茎葉より得られたエキス末を同様に処理することによっても同様の効果を得ることができるため、エキス末を加熱処理してもよい。
【0041】
上記甘藷茎葉の乾燥粉末は、さらに微粉砕することが好ましい。微粉砕の工程は、90質量%が200メッシュ区分を通過するように、微粉砕される。微粉砕は、例えば、クラッシャー、ミル、ブレンダー、石臼などの当業者が通常用いる装置または器具を用いて行われる。微粉砕することにより食感がよくなる。好ましくは、粗粉砕、加熱、および微粉砕の工程を順に経ることにより、食品へ添加した場合に均一に混ざりやすくなる。
【0042】
(抽出)
抽出は、上記甘藷茎葉または甘藷茎葉の乾燥粉末に、所定の溶媒を加え、10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間保持することによって行われる。抽出温度は、4℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは25℃以上、最も好ましくは40℃以上であり、130℃以下、好ましくは100℃以下である。
【0043】
抽出に用い得る溶媒としては、水、有機溶媒、含水有機溶媒などが挙げられる。本明細書において「含水有機溶媒」とは、水を含む有機溶媒であり、水と有機溶媒とが混合した状態でも、分離した状態でもよい。抽出に用い得る溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエテンなどの有機溶媒;およびこれらの有機溶媒に水を含んだ含水有機溶媒が挙げられる。この中でも、水、エタノール、メタノールなどの極性有機溶媒、および含水アルコール(含水エタノールおよび含水メタノール)などの含水有機溶媒を用いることが好ましい。
【0044】
特に、水または含水極性有機溶媒(含水アルコール、特に含水エタノールや含水メタノール)が、特定のキナ酸誘導体を効率よく抽出できる点で好ましい。トリカフェオイルキナ酸を効率よく抽出する場合は、エタノールを80容量%〜10容量%の割合で含有する含水エタノールを用いることがさらに好ましい。より具体的には、水またはエタノール含有量を80容量%以下の割合で含有する含水エタノールを甘藷茎葉1質量部に対し、0.5質量部〜100質量部、好ましくは0.5質量部〜50質量部に添加して、10℃〜100℃で10分〜48時間、好ましくは30分〜48時間抽出することで抽出物が得られる。短時間で抽出を行う場合、例えば30分以下で行う場合は、甘藷茎葉の乾燥粉末またはエキス末を用いて抽出することが好ましい。
【0045】
例えば、甘藷茎葉の乾燥粉末1kgに対し、水または80容量%の含水エタノールを10L添加し、60℃〜100℃で1時間〜24時間、加熱還流する。そして、ろ過により、抽出物を得ることができる。
【0046】
このようにして得られた抽出物は、さらに乾燥粉末化してもよく、あるいは抽出物中の特定のキナ酸誘導体の含有量を高めるために、精製してもよい。精製の方法としては、例えば、抽出物中のエタノールを減圧濃縮して除去した後、合成吸着剤(例えば、ダイアイオンHP20、セパビーズ、XAD4など)に吸着させ、含水エタノール(例えば、10〜80容量%の含水エタノール)で合成吸着剤より回収する方法が挙げられる。このような抽出物中には、精製前の乾燥質量換算で、0.01質量%以上のトリカフェオイルキナ酸および0.1質量%以上のジカフェオイルキナ酸が含有される。
【0047】
また、トマトなどのような水分を30質量%以上の割合で含む植物体を用いる場合、植物体をマスコロイダーなどで破砕し、必要に応じて加水した後に圧搾して搾汁とすることによって抽出物を得ることができる。このようにして得られた抽出物中には、特定のキナ酸誘導体以外にも、植物体の可溶化成分が含まれているため、必要に応じて合成吸着剤(ダイアイオンHP20、セファビースSP825、アンバーライトXAD4、MCIgelCHP20Pなど)、デキストラン樹脂(セファデックスLH−20など)など、当業者が通常用いる分離方法で精製することが好ましい。
【0048】
(2)糖アルコール
本発明において糖アルコールとは、糖分子のカルボニル基を還元して得られる多価アルコールをいう。本発明の組成物に用いられる糖アルコールとしては、例えば、エリスリトール、ペンチトール、ヘキシトール、キシリトール、ソルビトール、還元パラチノース、還元麦芽糖(マルチトール)、ラクチトール、マンニトールなどが挙げられる。これらの中で、水溶性の糖アルコールが好ましく、還元麦芽糖がより好ましい。
【0049】
還元麦芽糖は、デンプンから作られる水溶性の糖アルコールである。摂取しても血糖値が上昇しにくく、カロリーが砂糖より低いため、糖尿病療養食用の甘味料などとして用いられている。
【0050】
本発明の経口用組成物は、糖アルコールを含有しているため、造粒物とすることが容易であり、安定性および嗜好性も向上する。
【0051】
(3)グァバ葉加工物
本発明の経口用組成物に用いられるグァバ葉加工物は、フトモモ科の植物であるグァバの葉の加工品であり、糖質の消化吸収抑制成分であるポリフェノール類を多く含有する。本発明の経口用組成物に用いられるグァバ葉加工物としては、グァバ葉の乾燥粉末、搾汁、搾汁を乾燥物して得るエキス末、およびグァバ葉抽出物が挙げられる。これらの中で、グァバ葉抽出物が好ましい。
【0052】
(4)水溶性食物繊維
本発明の経口用組成物に用いられる水溶性食物繊維としては、ペクチン、グアガム、サイリウム、ガラクトマンナン、キシログルカン、ローカストビーンガム、グルコマンナン、アルギン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、低分子アルギン酸、低分子グアガム、難消化性デキストリン、プルラン、ファイパロン、コンドロイチン硫酸などが挙げられる。これらの中で、難消化性デキストリンが好ましい。
【0053】
難消化性デキストリンは、デンプンから得られる難消化性の多糖類であり、例えば、デンプンを加熱により加水分解した後、アミラーゼにより加水分解して得られる。その難消化性は、デンプンが有するα−1,4結合に由来する。難消化性デキストリンには、食後の血糖上昇抑制作用のほか、血中脂質の改善作用および整腸作用を有する。難消化性デキストリンは、粉末、細粒、顆粒などの形態で市販されており、本発明においては、いずれの形態のものも使用可能である。難消化性デキストリンは水溶性であるため、水溶液の形態のものを用いてもよい。
【0054】
(5)経口用組成物
本発明の経口用組成物は、特定のキナ酸誘導体を含む原料、糖アルコール、グァバ葉加工物、および水溶性食物繊維を含有するため、優れた抗糖尿病作用を有する。これは、(1)特定のキナ酸誘導体を含む原料によるインスリンの分泌促進作用およびインスリンの感受性増強作用と、(2)グァバ葉加工物および水溶性食物繊維による糖の消化吸収抑制作用との相乗的な効果であると考えられる。本発明の組成物は、糖の吸収抑制作用を有する複数の成分を単に組合せた物よりも優れた効果を示す。さらに、本発明の経口用組成物は、その摂取により抗肥満効果が得られる。本発明の組成物は、食物繊維をさらに含有してもよく、それにより便秘改善効果も期待できる。
【0055】
本発明の組成物中の特定のキナ酸誘導体を含む原料の摂取量は特に制限はないが、成人1日あたりの摂取量は、特定のキナ酸誘導体の合計量として0.1mg〜3000mg、好ましくは1mg〜1000mgである。甘藷茎葉の乾燥粉末を用いる場合、摂取量が0.1g〜50g、好ましくは0.1〜30gとなるように配合すればよい。
【0056】
本発明の経口用組成物中の特定のキナ酸誘導体を含む原料の配合量は、その原料の形態および剤形によって異なり、適宜調整され得る。植物体の乾燥粉末またはエキス末の場合は、経口用組成物100質量部中に、好ましくは0.0001質量部〜50質量部、より好ましくは0.001質量部〜30質量部となるように含まれる。甘藷茎葉の乾燥粉末を用いる場合は、好ましくは0.01質量部〜80質量部、より好ましくは0.01質量部〜50質量部となるように含まれる。
【0057】
本発明の経口用組成物中の糖アルコールの配合量は、特に限定されない。造粒性および嗜好性の観点から、糖アルコールの配合量は、特定のキナ酸誘導体を含む原料の乾燥質量100質量部に対して、好ましくは50質量部〜200質量部、より好ましくは70質量部〜120質量部である。
【0058】
本発明の経口用組成物中のグァバ葉加工物の配合量は、特に限定されない。例えば、特定のキナ酸誘導体を含む原料の乾燥質量100質量部に対して、グァバ葉加工物(乾燥質量)を、好ましくは5質量部〜100質量部、より好ましくは10質量部〜50質量部となるように配合する。
【0059】
本発明の経口用組成物中の水溶性食物繊維の配合量は、特に限定されない。造粒性および嗜好性の観点から、特定のキナ酸誘導体を含む原料の乾燥質量100質量部に対して、水溶性食物繊維(乾燥質量)を、好ましくは50質量部〜200質量部、より好ましくは70質量部〜120質量部となるように配合する。
【0060】
本発明の経口用組成物は、必要に応じて、その他の食品原料と混合し、用途に応じて(例えば、食品、医薬品、または医薬部外品として)、顆粒、錠剤などの形態に成形してもよい。
【0061】
その他の食品原料としては、例えば、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料や他の食品原料、調味料、医薬品原料などが挙げられる。具体例としては、ローヤルゼリー、プロポリス、ビタミン類(A、C、D、E、K、葉酸、パントテン酸、ビオチン、これらの誘導体など)、ミネラル(鉄、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、セレンなど)、キチン・キトサン、レシチン、ポリフェノール(フラボノイド類、これらの誘導体など)、カロテノイド(リコピン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ルテインなど)、キサンチン誘導体(カフェインなど)、脂肪酸、タンパク質(コラーゲン、エラスチンなど)、ムコ多糖類(ヒアルロン酸、コンドロイチン、デルマタン、ヘパラン、ヘパリン、ケタラン、これらの塩など)、アミノ糖(グルコサミン、アセチルグルコサミン、ガラクトサミン、アセチルガラクトサミン、ノイラミン酸、アセチルノイラミン酸、ヘキソサミン、それらの塩など)、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、環状オリゴ糖など)リン脂質およびその誘導体(フォスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、セラミドなど)、含硫化合物(アリイン、セパエン、タウリン、グルタチオン、メチルスルホニルメタンなど)、糖アルコール、リグナン類(セサミンなど)、これらを含有する動植物抽出物、根菜類(ウコン、ショウガなど)、麦若葉末などのイネ科植物の緑葉、ケールなどのアブラナ科植物の緑葉などが挙げられる。
【0062】
本発明の経口用組成物は、さらに上記その他の食品原料を含む飲料、例えば、植物発酵ジュース、野菜ジュース(例えば、人参ジュース)、植物抽出物、果汁などにも利用され得る。特定のキナ酸誘導体を含む本発明の組成物を含有させることにより、これらの飲料の嗜好性が良くなり、機能性または栄養価を高めることができる。これらの飲料は、糖液、糖アルコール、調味料などを加えて、甘味を強くすることもできる。
【0063】
本発明の経口用組成物および本発明の経口用組成物を含む食品の形態については、特に限定はないが、必要に応じて、ハードカプセル、ソフトカプセルなどのカプセル剤、錠剤、もしくは丸剤などに、あるいは粉末状、顆粒状、茶状、ティーバッグ状、もしくは飴状などの形態であってもよく、そのまま飲料の形態でもよい。これらの形状または好みに応じて、本発明の経口用組成物、または本発明の経口用組成物を含む食品は、そのまま食してもよく、あるいは水、湯、牛乳などに溶いて飲んでも良い。例えば、粉末化してティーバッグ状とし、成分を浸出させてから飲んでも良い。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、この実施例は本発明を制限することを意図しない。
【0065】
(調製例1)
特定のキナ酸誘導体を含む原料として、甘藷茎葉微粉末を調製した。
【0066】
甘藷茎葉1kgを、pH8.0に調整した熱水(97℃)に1分間浸漬し、ブランチング処理を行った。ブランチング処理後、直ちに20℃の水へ浸漬して冷却した。冷却後、熱風乾燥を行い、ダイサーで長径が1mm程度になるように粉砕し、加圧蒸気殺菌機で殺菌後、ハンマーミルを用いて粉砕し、80gの微粉末(甘藷茎葉微粉末)を得た。
【0067】
得られた甘藷茎葉微粉末に含まれるポリフェノール量を、フォーリンチオカルト法で測定したところ、1g当たり10mgのポリフェノール(1質量%)を含むことが分かった。
【0068】
(製造例1:食品の調製)
調製例1で得られた甘藷茎葉微粉末(特定のキナ酸誘導体を含む原料)、糖アルコール、グァバ葉加工物、および水溶性食物繊維を混合して、食品(食品1〜4、粉末)を調製した。糖アルコールとしては還元麦芽糖、グァバ葉加工物としてはグァバ葉抽出物(商品名:グアバフェノン、備前化成社株式会社)、および水溶性食物繊維としては難消化性デキストリン(商品名:パインファイバー、松谷化学工業株式会社)を用いた。食品1〜4の処方を、表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
(参考例1:抗糖尿病効果の評価)
上記製造例1で得られた食品1〜3について、以下の方法によって抗糖尿病効果を評価した。抗糖尿病効果は、血糖値上昇抑制効果をもとに評価した。
【0071】
6週齢の雄性のSDラット(九動株式会社)25匹を、標準飼料(MF、オリエンタル酵母工業株式会社)で1週間馴化した。馴化後、ストレプトゾトシンを30mg/kg体重となるように尾静脈から投与した。投与の4日後に眼窩静脈より採血し、摂食時における血糖値を測定した。血糖値が200mg/dL以上である20匹を選定し、I型糖尿病モデルとした。さらにこの20匹を、血糖値の平均値が同等(431〜433mg/dL)になるように4群に分けた。このうち3群(試験群1〜3とする)には、各食品を1000mg/kg体重で7日間にわたり1日1回、強制経口投与した。経口投与を行う際の媒体として0.5v/v%Tween生理食塩水を適量用いた。残りの1群(対照群とする)のラットには、媒体のみを投与した。試験期間中、試験群1〜3および対照群のラットには、標準飼料および水を自由摂取させた。試験開始から7日後、再度摂食時の血液を採取し、血液中の血糖値(mg/dL)を測定した。その結果(平均値および標準偏差)を、表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2の結果から、ジカフェオイルキナ酸等を有する原料とグァバ葉抽出物もしくは難消化性デキストリンとを含有する食品(食品1および食品2)は、グァバ葉抽出物と難消化性デキストリンのみを組合せた食品(食品3)および対照群よりも、優れた血糖値上昇抑制効果、すなわち抗糖尿病効果を有することが分かった。
【0074】
(実施例1:ダイエット効果の評価)
上記製造例1で調製した食品2および食品4について、以下の方法によってダイエット効果を評価した。
【0075】
これまでダイエットを試みて失敗経験があるボランティア10人を、ランダムに1群5名の計2群に分け、そして各ボランティアの体重を測定した。次いで、1群のボランティアには、食品2(3g)を70℃の温水200mLに溶解させた溶液を摂取させ、そして残りの1群のボランティアには、食品4(3g)を70℃の温水200mLに溶解させた溶液を摂取させた。各ボランティアに、その飲料を、1日3回の割合で8週間にわたって摂取させた。ボランティアには、これまで摂取していた食事を制限する必要がないことを伝え、試験を行った。
【0076】
摂取期間終了後の翌日に各ボランティアの体重を測定し、体重減少量を下記の式により計算した。その計算結果について、平均値および標準偏差を求めた。その結果を表3に示す。
【0077】
体重減少量(kg)=摂取前の体重(kg)−摂取8週間後の体重(kg)
【0078】
【表3】

【0079】
表3に示すように、食品2と食品4とを比較すると、本発明の経口用組成物である食品4の方が、ボランティアの体重がより減少していた。すなわち、食品4は、優れた抗肥満作用(ダイエット効果)を有することが分かる。
【0080】
また、食品4を摂取した被験者10名のうち8名は、「便通が良くなった」という体調の変化を訴えていることから、これらの食品は、便通改善効果にも優れていることが分かった。
【0081】
(調製例2:甘藷茎葉抽出物の製造方法)
甘藷茎葉1kgをそのまま80℃で熱風乾燥し、乾燥した甘藷茎葉をボールミルで粗粉砕した。次いで、粗粉砕した甘藷茎葉に水10L加えて、80℃で24時間、加熱還流を行い、ろ過して抽出液を得た。次いで、50℃で減圧濃縮を行い、20gの抽出粉末を得た。
【0082】
この抽出粉末中のポリフェノール量を調製例1と同様に測定したところ、抽出粉末中に4質量%のポリフェノールを含有することがわかった。
【0083】
(製造例2)
下記の原料を用いて、錠剤(一錠当たり200mg)を製造した。
【0084】
<錠剤の成分> 配合量(質量%)
調製例2で得られた甘藷茎葉乾燥粉末 2
グァバ葉抽出物 2
大豆ペプチド 40
キトサン 20
結晶セルロース 10
ショ糖エステル 4
トレハロース 11
還元麦芽糖 10
二酸化ケイ素 1
【0085】
(製造例3)
以下の配合比にて、顆粒を製造した。上記製造例1の食品4と同じ配合比であるが、顆粒への造粒性に優れていた。
【0086】
<顆粒の成分> 配合量(質量%)
調製例1で得られた甘藷茎葉乾燥粉末 30
還元麦芽糖 29.8
グァバ葉抽出物 10
難消化性デキストリン 30
ビタミンB1 0.2
【0087】
(実施例2)
上記製造例3で得られた顆粒について、以下の方法によって血糖値上昇抑制効果を評価した。
【0088】
6週齢の雄性のSDラット(九動株式会社)15匹を、標準飼料(MF、オリエンタル酵母工業株式会社)で1週間馴化した。馴化後、ストレプトゾトシンを30mg/kg体重となるように尾静脈から投与した。投与の4日後に眼窩静脈より採血し、摂食時における血糖値を測定した。血糖値が200mg/dL以上である10匹を選定し、I型糖尿病モデルとした。さらにこの10匹を、血糖値の平均値が同等(431〜433mg/dL)になるように2群に分けた。このうち1群(試験群とする)には、上記製造例5で得られた顆粒を1000mg/kg体重で7日間にわたり1日1回、強制経口投与した。経口投与を行う際の媒体として0.5v/v%Tween生理食塩水を適量用いた。残りの1群(対照群とする)のラットには、媒体のみを投与した。試験期間中、試験群および対照群のラットには、標準飼料および水を自由摂取させた。試験開始から7日後、再度摂食時の血液を採取し、血液中の血糖値(mg/dL)を測定した。その結果(平均値および標準偏差)を、表4に示す。
【0089】
【表4】

【0090】
表4に示すように、特定のキナ酸誘導体を含む原料(甘藷茎葉乾燥粉末)、糖アルコール(還元麦芽糖)、グァバ葉加工物(グァバ葉抽出物)、および水溶性食物繊維(難消化性デキストリン)を含有する顆粒を投与した試験群のラットの血糖値は、対照群のラットの血糖値よりも低かった。また、直接比較はできないが、参考例1の結果と比べて、十分な血糖値低下効果が見られた。したがって、本発明の経口用組成物(顆粒)は、優れた血糖値上昇抑制効果、すなわち抗糖尿病効果を発揮することが分かる。さらに、本発明の経口用組成物(顆粒)は、水溶性食物繊維(難消化性デキストリン)を含有しているため、便通改善効果も期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の経口用組成物は、ダイエット効果および血糖値上昇抑制効果を示す。したがって、特定のキナ酸誘導体、特に甘藷茎葉についての新たな用途が提供される。他の素材と組合せることにより、より優れたダイエット効果および血糖値上昇抑制効果が得られるので、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカフェオイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸誘導体、トリカフェオイルキナ酸、およびトリカフェオイルキナ酸誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類を含む原料、糖アルコール、グァバ葉加工物、および水溶性食物繊維を含有する、経口用組成物。
【請求項2】
前記糖アルコールが、還元麦芽糖である、請求項1に記載の経口用組成物。

【公開番号】特開2006−45213(P2006−45213A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196531(P2005−196531)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】