説明

特定の気孔形成剤を用いて多孔質支持体に無機多孔質被膜を形成する方法

特定の気孔形成剤を用いて多孔質支持体に無機多孔質被膜を形成する方法及び無機多孔質膜を被膜した多孔質支持体。無機多孔質被膜は、例えば、液体−液体分離、液体−微粒子分離、気体−気体分離、あるいは気体−微粒子分離のための膜として有用である。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は2007年5月31日付け米国仮特許出願第60/932,462号明細書及び2007年7月19日付け米国特許出願第11/880,073号明細書の優先権を主張するものであり、前記引用により前記出願の内容がすべてそのまま本出願に組み込まれたものとする。
【技術分野】
【0002】
本発明は、特定の気孔形成剤を用いて多孔質支持体に無機多孔質被膜を形成する方法及び無機多孔質膜で被膜された多孔質支持体に関するものである。無機多孔質被膜は、例えば、液体−液体分離、液体−微粒子分離、気体−気体分離、あるいは気体−微粒子分離のための膜として有用である。
【背景技術】
【0003】
無機膜は、例えば、多孔質被膜として多孔質セラミック支持体に塗布できる。無機膜は有機膜と比較して幾つかの利点を有している。例えば、無機膜は一般に化学的及び温度的に安定であるため極端なpHや化学環境下において使用できる。また、無機膜は焼入れ等高温処理を施すことによって容易に浄化できる。
【0004】
無機膜は環境、生物学、飲食、半導体、化学、石油化学、ガス及びエネルギーの分野において、濾過及び分離用途に利用できる。かかる分野においては、連続して供給される異なる気体、及び/又は液体/微粒子から成る混合物から浄化されたガス/気体又は液体が必要とされることが多い。具体的な例として、水素ガスの浄化及び分離、二酸化炭素ガスの隔離、油/水混合物の濾過、廃水処理、ワイン及びジュースの濾過、流体流からのバクテリア及びウイルスの濾過、バイオマスからのエタノールの分離、半導体及びマイクロエレクトロニクス分野における高純度ガス及び水の製造等が挙げられる。
【0005】
無機膜は、セラミック支持体のような多孔質支持体上に単層又は多層無機多孔質膜から成る層構造体として塗布できる。一般に、この多孔質被膜層は支持体を懸濁液に浸漬し、その後懸濁液から取り出して乾燥、焼成することによって形成される。
【0006】
この被膜懸濁液は液体に固体粒子を分散したものである。通常、コロイド領域(≦1μm)の微粒子は、比較的大きいファン・デル・ワールス粒子間引力により分散媒において凝集する。従って、Darvan C、Tiron、又はAluminonのような分散剤を添加することにより斥力バリアを形成して懸濁液を安定させる(非特許文献1)。また、一般に被膜懸濁液は、界面活性剤、潤滑剤、可塑剤のような複数のポリマー化合物を含んでいる。これらすべての化合物間の相互作用によって懸濁液の性質、並びに圧密、乾燥、及び焼成時におけるマイクロストラクチャーの成長が決定される(非特許文献2)。
【0007】
特許文献1にはマクロ多孔質管内部に粉砕した凝集アルミナ懸濁液を注入及び排出し、その後被膜を乾燥及び焼成することにより粘着性精密濾過膜を形成する方法が記載されている。この懸濁液は8重量%のアルミナ粉末の他にポリエチレングリコール(PEG)及び0.2%のDarvan C分散剤を含んでいる。この懸濁液は24時間ボールミルで粉砕される。このことは凝集体を粉砕し充分粒子を分散させるために必須であると見られている。
【0008】
特許文献2には多孔質金属に塗布する別の無機被膜懸濁液の製剤方法が記載されている。この懸濁液はアルミナ及びジルコニアのような比較的大きな無機粒子を60〜95重量%含み、残りはそれよりかなり小さな粒子から成っている。大きな粒子の平均サイズは0.5〜50μmの範囲であって、所望サイズの孔を有する膜の形成に応じて選択される。小さな粒子の平均サイズは4nmから最大1μmであるが、大きな粒子の0.1倍以下である。この小さな粒子は焼結助剤として機能しそれによって低い温度で膜が焼結される。小さな粒子の一部は大きな粒子間の孔を実質的に塞ぐほど大きくてはならない。
【0009】
更に、無機膜被膜剤は干割れ、層間剥離、気孔閉鎖のような問題に遭遇することが多い。被膜懸濁液には、PEG、PVP、PVAのような干割れ防止用の有機材料が使用されることが多い。しかし、多くの場合、これらの添加剤は有効ではない。無機膜被膜剤が遭遇する別の問題に孔の構造がある。高流束且つ均一な孔構造及び高空隙率が望ましい。しかし、従来の塗膜方法では、一般に乾燥及び焼成工程における粒子パッキングにより孔構造が形成されるため空隙率が限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第85/01937号パンフレット
【特許文献2】欧州特許第0344961号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「Europ. Ceram. Soc.」 Briscoe, Khan, Luckham, J. 18 (1998) 2141-2147
【非特許文献2】「Fundamentals of Inorganic Science and Technology」Burggraaf and Cot, Elsevier Science B.V., 1996, p 157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記に鑑み、当技術分野において、多孔質支持体に無機粒子から成る多孔質膜を沈着するより良い方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は特定の気孔形成剤(即ち、無機粒子と共に添加され被膜を形成する気孔形成剤)を用いて多孔質支持体に無機多孔質被膜を形成する方法及び無機多孔質膜で被膜された多孔質支持体に関するものである。本発明の方法は第1端部、第2端部、及び多孔質壁によって画成される表面を有し、前記第1端部から第2端部に延びる複数の内部チャンネルを備えた多孔質支持体を提供するステップ、前記支持体の前記内部チャンネル表面に無機粒子と、蛋白質粒子、澱粉粒子、合成高分子粒子、及びこれらの組合せから選択される有機気孔形成材料とから成る被膜を塗布するステップ、及び前記被膜を塗布した支持体を加熱して前記有機気孔形成材料を除去し無機多孔質被膜を残すステップの各ステップを有して成ることを特徴とする方法である。気孔形成材料の1つの例として、前記支持体に塗布される脱脂粉乳の組成である蛋白質が挙げられる。
【0014】
前記及び本発明の実施の形態による更なる特徴を以下の詳細な説明において更に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に有用な多チャンネル多孔質支持体の概略図。
【図2】裸支持体及びプリコート支持体の走査型電子顕微鏡(SEM)像であって、図2aは裸支持体の表面形態を示す図、図2bは支持体上に形成されたプリコートの表面形態を示す図、図2cはプリコート支持体の断面図。
【図3】本発明の有機気孔形成剤を使用しないで形成した2つのアルミナ被膜AA−07(図3a)及びA−16(図3b)の表面形態を示すSEM像。
【図4】図4aは脱脂粉乳を気孔形成剤として用いてプリコートアルミナ支持体上に沈着した多孔質アルミナ膜AA−07の平面SEM像、図4bはその断面SEM像。
【図5】脱脂粉乳を含まない被膜懸濁液(図5a)及び脱脂粉乳を含む被膜懸濁液(図5b)によって形成した多孔質αアルミナ膜の比較図。
【図6】脱脂粉乳を含まない被膜懸濁液(図6a)及び脱脂粉乳を含む被膜懸濁液(図6b)によって形成した多孔質αアルミナ膜の比較図。
【図7】異なるアルミナ材料から成る支持体を持たない3つのアルミナ膜の孔径の分布を示すグラフ。
【図8】アルミナ膜AA−07/AKP30(図8a)及びAA−07/A−16(図8b)のチャンネル表面のSEM像。
【図9】アルミナ膜AKP30(気孔形成剤不使用)及びアルミナ膜AKP30M(気孔形成剤使用)の孔径の分布を示すグラフ。
【図10】AA−07/AKP30Mアルミナ膜で被膜したチャンネル表面のSEM像。
【図11】細孔γアルミナ被膜の下部層としてのAKP30及びAKP30M被膜の断面SEM像。
【図12】室温における各種被膜の純水透過率を示すグラフ。
【図13】室温における各種被膜の濾過効率を示すグラフ。
【図14】本発明の実施の形態に有用な流し塗り工程及び装置の概略図。
【0016】
図に示す実施の形態は説明を意図したものであり、特許請求の範囲に明示する本発明を限定するものではない。また、個々の図の特徴及び本発明について以下の詳細な説明において更に詳述する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の1つの実施の形態は多孔質支持体に無機多孔質膜を形成する方法であって、第1端部、第2端部、及び多孔質壁によって画成される表面を有し、前記第1端部から第2端部に延びる複数の内部チャンネルを備えた多孔質支持体を提供するステップ、前記支持体の前記内部チャンネル表面に無機粒子と、蛋白質粒子、澱粉粒子、合成高分子粒子、及びこれらの組合せから選択される有機気孔形成材料とから成る被膜を塗布するステップ、及び前記被膜を塗布した支持体を加熱して前記有機気孔形成材料を除去し無機多孔質被膜を残すステップの各ステップを有して成ることを特徴とする方法である。
【0018】
例えば、本発明に使用される多孔質支持体はハニカムモノリスであってよい。本発明の方法は径の小さなハニカムチャンネル内に膜を沈着するのに極めて有効である。例えば、ハニカムモノリスのような多孔質支持体のチャンネル密度は1平方インチ(2.54平方センチメートル)当たり50〜600とすることができる。ハニカムモノリスの例が米国特許第3,885,977号明細書および第3,790,654号明細書に開示されている。この引用により前記明細書の内容がすべてそのまま本出願に組み込まれたものとする。
【0019】
例えば、分離用途に使用する場合、支持体を通して流れる流体と被膜支持体との接触性を向上するため、特定の実施の形態において、少なくとも一部のチャンネルを支持体の一端で閉塞し、別のチャンネルを支持体の対向端で閉塞することが好ましい。特定の実施の形態において、閉塞及び/又は非閉塞チャンネルが支持体の夫々の端部において互いに市松模様を形成して成ることが好ましい。特定の実施の形態において、1つのチャンネルが支持体の一端(基準端)で閉塞され対向端で閉塞されていない場合、そのチャンネルに直接隣接している少なくとも幾つかの、例えば、大半のチャンネル(別の特定の実施の形態においてはすべてのチャンネルであることが好ましい)が対向端で閉塞され基準端で閉塞されていないことが好ましい。更に、異なる使用条件下における要求を満足するため、ハニカムのような個別の支持体を重畳又は様々な方法で収容することにより、各種サイズ、使用期限等を有するより大きな支持体を形成することができる。
【0020】
1つの実施の形態において、支持体が無機材料から成っている。好ましい無機多孔質支持体材料にはセラミック、ガラスセラミック、ガラス、金属、粘土、及びこれらの組合せがある。材料の例にはコージライト、ムライト、粘土、酸化マグネシウム、金属酸化物、タルク、ジルコン、ジルコニア、ジルコン酸塩、ジルコニアスピネル、マグネシウムアルミノケイ酸、スピネル、アルミナ、シリカ、ケイ酸塩、ホウ化物、磁器、リチウムアルミノケイ酸、アルミナシリカ、長石、チタニア、溶融石英のようなアルミノケイ酸、窒化物、炭化ケイ素、窒化ケイ素のような炭化物、及びこれらの組合せがある。
【0021】
前記に鑑み、無機多孔質支持体は、コージライトのようなセラミック、アルミナ(例えば、αアルミナ)、ムライト、チタン酸アルミニウム、チタニア、ジルコニア、セリア、又はこれらの組合せであってよい。
【0022】
1つの実施の形態において、多孔質支持体が同時係属中の2006年12月11日付け「αアルミナ無機膜支持体及びその製造方法」という名称の米国仮特許出願第60/874,070号明細書に開示されているαアルミナ支持体である。この引用により前記出願の内容がすべてそのまま本出願に組み込まれたものとする。例えば、前記支持体は次のような方法によって作製できる。即ち、粒径が5μm〜30μmである60重量%〜70重量%のαアルミナ、粒径が7μm〜45μmである30重量%の有機気孔形成剤、10重量%の焼結助剤、及び架橋剤などのその他のバッチ成分を混合してバッチを形成し、そのバッチを混合し8〜16時間湿らせ、押し出し成形によって未焼成体を成形し、未焼成体を少なくとも1500℃の温度で8時間〜16時間加熱することにより焼結する。
【0023】
別の実施の形態において、支持体がフェノール樹脂のような有機材料から成ることができる。いずれにしても、支持構造体は本発明の方法を実施する際の加熱時に有用な形状を維持できる適切な熱安定性を有している必要がある。
【0024】
本発明によって“提供”される多孔質支持体は、裸セラミック支持体のような単一の構造体であってよい。この場合、支持体の内部チャンネルは単一の多孔質セラミック支持体の多孔質壁によって画成される表面を有している。
【0025】
別の実施の形態において、本発明によって“提供”される多孔質支持体は、内部チャンネルの多孔質壁を形成する多孔質材料で既に被膜されたセラミック支持体のような単一の構造体であってよい。このような既存の被膜は、例えば、αアルミナ粒子のような無機粒子から成る1つ以上の被膜であってよい。この場合、提供された支持体の内部チャンネルは無機粒子から成る多孔質被膜によって画成される表面を有している。従って、本実施の形態においては、本発明の方法は被膜支持体から始まり無機粒子から成る更に別の被膜が既存の被膜上に沈着される。このような実施の形態は、例えば、平均径の大きな無機粒子から成る既存の被膜上に平均径の小さな無機粒子から成る被膜を最終的に沈着する場合に実施される。
【0026】
1つの実施の形態において、本発明によって“提供”される多孔質支持体が、内部チャンネルの多孔質壁を成す無機粒子から成る多孔質膜で既に被膜されたセラミックから成っている。このプレコートは単層又は複数層から成っていてよい。プレコートそのものは、裸セラミック支持体に対して行う本発明の方法を含む如何なる方法によって塗布してもよい。
【0027】
前記プレコートそのものは、2007年7月19日付け米国特許出願第11/880,066号明細書に開示されている方法によっても塗布できる。この引用により前記出願の内容がすべてそのまま本出願に組み込まれたものとする。具体的には、プレコートは以下の方法によって塗布できる。即ち、第1端部、第2端部、及び多孔質壁によって画成される表面を有し、前記第1端部から第2端部に延びる複数の内部チャンネルを備えた多孔質支持体を提供するステップ、蛋白質粒子、澱粉粒子、合成高分子粒子、及びこれらの組合せから選択される有機孔充填材から成る組成物を塗布することにより前記支持体の前記内部チャンネル表面を修正するステップ、前記修正した内部チャンネル表面に無機粒子から成る被膜を塗布するステップ、及び前記被膜支持体を加熱して前記有機孔充填材を除去し無機多孔質被膜を残すステップの各ステップを有して成ることを特徴とする方法によって形成できる。
【0028】
更に別の実施の形態において、本発明によって“提供”される多孔質支持体が蛋白質粒子、澱粉粒子、合成高分子粒子、及びこれらの組合せから選択される有機孔充填材から成る組成物の塗布により修正された内部チャンネル表面を有するセラミックから成っている。かかる組成物は蛋白質粒子を供給する脱脂粉乳であってよい。この場合、例えば、孔充填材を塗布し乾燥した修正済み支持体に対し本発明の方法を実施することができる。従って、修正ステップを含めて本発明の方法は、第1端部、第2端部、及び多孔質壁によって画成される表面を有し、前記第1端部から第2端部に延びる複数の内部チャンネルを備えた多孔質支持体を提供するステップ、蛋白質粒子、澱粉粒子、合成高分子粒子、及びこれらの組合せから選択される有機孔充填材から成る組成物を塗布することにより前記支持体の前記内部チャンネル表面を修正するステップ、前記支持体の前記修正した内部チャンネル表面に無機粒子と、蛋白質粒子、澱粉粒子、合成高分子粒子、及びこれらの組合せから選択される有機気孔形成材料とから成る被膜を塗布するステップ、及び前記被膜支持体を加熱して前記有機気孔形成材料及び有機孔充填材を除去し無機多孔質被膜を残すステップの各ステップを有して成る。
【0029】
例として、多チャンネル多孔質支持体10を図1に示す。本実施の形態において、多孔質支持体10は断面全体を通して多孔質壁14によって画成される複数の内部チャンネル12から成る多チャンネル構造、とりわけ円筒構造(長さは示してない)を有している。本実施の形態及び別の実施の形態において、支持体の内部チャンネルが円形を成すことができ、例えば、その平均直径は約0.5〜10mm、又は0.5〜2mmである。支持体の長さは用途に応じて選択できる。例えば、支持体の長さは80mm以上、例えば100mm、150mm、あるいは200mm以上とすることができる。大型支持体の場合、長さは0.5m以上又は1m以上とすることができる。
【0030】
本発明は内部チャンネル表面を画成する多孔質壁に幅広い空隙率及び孔径を有する支持体に適用できる。1つの実施の形態において、支持体の多孔質壁の孔の平均径が0.5〜100μmの範囲、例えば、0.5〜10μmである。
【0031】
無機粒子と、蛋白質粒子、澱粉粒子、合成高分子粒子、及びこれらの組合せから選択される有機気孔形成材料とから成る被膜が支持体の内部チャンネル表面に塗布される。本発明によって最終的に形成される無機多孔質被膜の空隙率及び孔径はこの段階における有機気孔形成剤の添加によって影響を受ける。
【0032】
1つの実施の形態において、有機気孔形成材料が蛋白質粒子から成っている。蛋白質粒子は、例えば、支持体の内部チャンネル表面に蛋白質粒子の水性懸濁液から成る組成物を接触させることによって供給できる。蛋白質粒子の水性懸濁液の1つの例に脱脂粉乳がある。別の実施の形態において、有機孔充填材がアマランス澱粉(例えば、平均直径が1.5μm)、キノア澱粉(例えば、平均直径が1.8μm)、タロイモ澱粉(例えば、平均直径が2.8μm)、又はこれらの組合せのような澱粉粒子から成っている。更に別の実施の形態において、有機気孔形成材料がポリスチレン、ポリアクリレート、オリゴマー、又はこれらの組合せのような合成高分子粒子から成っている。オリゴマーの例には分子量が5000ダルトン以下のポリオレフィンを含んでいるものがある。
【0033】
有機気孔形成材料の粒径は、支持体の孔サイズ又は孔サイズ分布のような特性及び後で塗布される無機粒子の粒径のような特性に応じて選択することができる。例えば、有機気孔形成材料は平均粒子径が0.02〜3μmの粒子を含むことができる。
【0034】
形成する被膜の所望特性に応じて気孔形成材料の粒径分布を選択することもできる。1つの実施の形態において、動的光散乱法で測定した気孔形成材料の粒径分布において、サイズがd90以下の粒子、d50以下の粒子、及びd10以下の粒子がそれぞれ全光強度の90%、50%、及び10%を占めるとき、条件(d90−d10)/d50≦2を満足し、例えば、≦1.6、≦1.5、≦1.2、又は≦1.1である。別の実施の形態において、気孔形成材料が条件(d90−d10)/d50≦1.6を満足する蛋白質粒子から成っている。別の実施の形態において、気孔形成材料が条件(d90−d10)/d50≦1.1を満足する澱粉粒子から成っている。
【0035】
本発明の被膜には、コージライト、アルミナ(例えば、αアルミナ及びγアルミナ)、ムライト、チタン酸アルミニウム、チタニア、ジルコニア、セリア及びこれらの組合せを含みこれに限定されない多種多様な無機粒子を使用することができる。無機粒子のサイズは、例えば、修正された支持体の孔サイズに応じて選択できる。例えば、無機粒子の平均粒径は0.02〜10μmとすることができる。
【0036】
無機粒子と有機気孔形成材料とから成る被膜は、例えば、支持体にそれらを含む組成物を接触させることによって塗布できる。被膜組成は、例えば、0.1〜50重量%の無機粒子を含むことができる。一般に、無機粒子の濃度が高いほど懸濁液が濃く且つ粘性が高くなり、それによって支持体により厚い被膜が形成される。また、被膜組成は、例えば、分散剤、バインダー、干割れ防止剤、消泡剤、又はこれらの組合せを含むことができると共に、水性又は有機担体を含むことができ、スラリー又は懸濁液の形態を成すことができる。
【0037】
無機粒子と有機気孔形成材料とから成る被膜は、例えば、浸漬被覆法、流し塗り法、スリップキャスト法、液浸法、及びこれらの組合せを含む様々な方法によって支持体の内部チャンネル表面に塗布できる。これらの方法により、薄膜材料が液状媒体からチャンネル壁に移送され壁表面に沈着し、液体が排出された後完全な沈着層として残る。
【0038】
1つの実施の形態において、多孔質支持体が同時係属中の2007年3月29日付け「薄膜沈着方法及び装置」という名称の米国特許出願第11/729,732号明細書に記載の図14に示す流し塗り装置内に実装され、被膜が多孔質支持体に被膜懸濁液として沈着される。この引用により前記出願の内容がすべてそのまま本出願に組み込まれたものとする。この手法は薄膜形成材料を含む液状先駆体を支持体に供給し、支持体に圧力差を与えるものである。この圧力差により液状先駆体が貫通チャンネル内を均一に移動し薄膜形成材料がチャンネル壁に沈着することにより薄膜が形成される。この方法に有用な図14に示す装置は、モノリシックなハニカム構造体のようなモノリシック支持体1404に液状先駆体塗布溶液1402を均一に供給する注入口、前記支持体を保持し複数の貫通チャンネル両端の圧力差を維持できるチャンバー1406、及び排出口を有している。
【0039】
沈着される薄膜の厚さ、質感、及び均一性は処理条件によって調整できる。このような薄膜の沈着に実際に用いられる処理条件は、他の条件に加え、薄膜及び液状先駆体の特性に依存することは明白である。例えば、複数の貫通チャンネルを通過する液状先駆体の線速度が液状先駆体の流体力学及び複数の貫通チャンネル壁への移行に影響を与える。1つの実施の形態において、液状先駆体が複数の貫通チャンネルを通して所定の線速度で流れる。
【0040】
次に、前記により被膜された支持体が様々な条件下で乾燥される。例えば、大気又は窒素雰囲気において、室温又は最高120℃の温度で15〜25時間被膜支持体を乾燥させることができる。湿度60〜90%の条件下で乾燥させることもできる。1つの実施の形態において、乾燥ステップが制御ガス環境下で実施される。制御ガス環境というのは酸素及び水の含有量の少なくとも一方が制御される環境である。一般に、制御雰囲気における酸素含有量は最小限に抑制される。
【0041】
次に、被膜支持体を、例えば、焼入れによって加熱することにより有機気孔形成材料が除去され、無機多孔質被膜が多孔質支持体上に残る。同一または別の加熱ステップにおいて、無機多孔質被膜を焼結できる。1つの実施の形態において、制御ガス環境下において、例えば、0.5〜2℃/分の加熱速度により900℃〜1500℃で約0.5〜10時間支持体を焼入れすることができる。別の実施の形態において、大気又は窒素と酸素との混合環境下において、1100℃〜1300℃で20〜45時間焼入れ処理を施すことができる。更に別の実施の形態において、例えば、600℃以上の温度で被膜支持体を加熱することにより有機気孔形成材料をか焼し、更に高い温度で焼入れ処理することにより無機粒子が焼結される。
【0042】
1つの実施の形態において、80mm以上の内部チャンネル長全体を通して、焼結済み無機多孔質被膜の厚さが0.2〜25μmである。追加塗布ステップにおいて、同じサイズの粒子を単純に繰返し塗布することにより被膜を厚くすることができる。
【0043】
例えば、無機多孔質粒子のサイズ、気孔形成材料の種類及びサイズ、並びに焼結条件を適切に選択することにより、無機被膜の孔サイズを限定することができる。1つの実施の形態において、焼結済み無機多孔質被膜の平均孔サイズが0.01〜2μmである。
【0044】
本発明の別の実施の形態は、本発明の方法により多孔質セラミック支持体に形成される無機多孔質被膜である。本発明の更に別の実施の形態は、被膜多孔質支持体である。この被膜多孔質支持体は第1端部、第2端部、及び無機粒子から成る多孔質外部被膜によって画成される表面を有し、前記第1端部から第2端部に延びる複数の内部チャンネルを備えた多孔質支持体から成り、前記無機粒子から成る外部被膜の水銀ポロシメーターによる空隙率が40%以上、例えば、50%以上であり、前記無機粒子から成る多孔質外部被膜の水銀ポロシメーターによる孔サイズの分布において、d90以下のサイズの孔、d50以下のサイズの孔、及びd10以下のサイズの孔がそれぞれ全孔容積の90%、50%、及び10%を占めるとき、条件(d90−d10)/d50≦2を満足し、例えば≦1.5、≦1.2、又は≦1.0であることを特徴とする支持体である。
【0045】
前記被膜支持体の実施の形態において、被膜支持体の22℃の定常状態における純水の透過率が2500L/m/h/bar以上、例えば、4000L/m/h/bar以上、又は4000L/m/h/bar以上である。
【0046】
支持体の被膜は液体濾過及び気体分離用途に適した無機膜として使用できる。液体流又は気体流を被膜支持体のチャンネルに通すことにより所望の分離を行うことができる。また、この被膜は自動車触媒装置及びディーゼル微粒子除去装置にも適用できる。
【0047】
膜濾過及び分離用途として、本発明の方法により、大きな孔を有する多孔質支持体に小さな孔を有する被膜を直接沈着することにより被膜を薄くすることができ、それによってコスト削減が可能であると共に透過流束を増大することができる。触媒用途として、本発明の方法により、触媒材料が支持体の孔に浸透するのを抑制しつつ均一な薄層触媒を多孔質支持体に沈着することができ、触媒の有効利用、貴金属触媒の大幅なコスト削減、及び加熱コストの削減が可能となる。また、被膜支持体は更に膜が沈着される製造過程における中間構造体として利用することもできる。従って、本発明の方法は多種多様な用途の膜を形成することができる。
【実施例1】
【0048】
αアルミナモノリシック支持体に対するプレコート塗布
本実施例における新しい膜塗布手法は多孔質αアルミナモノリシック支持体に関するものである。裸のモノリシック支持体がαアルミナから成り、外径8.7〜10.0mm、長さ80〜150mmであり、断面全体にわたり均一に分布した平均径が0.75mmの19の円形チャンネルを有している。水銀ポロシメーターによる裸支持体の平均孔サイズが8.4〜8.7μm、空隙率が43.5〜50.8%である。
【0049】
まず、プレコート用無機粒子を支持体に塗布した。支持体のチャンネルを脱イオン水で洗浄した。支持体を一晩120℃でオーブン乾燥させた。図14に示す流し塗り装置により、脱脂粉乳(Great Value(商標))を塗布することにより、この支持体を修正した。浸漬時間は20秒であった。周囲条件下において、修正した支持体を23時間乾燥させた。乾燥した支持体を前記流し塗り装置に再度取り付け、30重量%のアルミナ懸濁液AA−3を塗布した。120℃で乾燥及び1400℃で2時間焼き入れした後、形成されたアルミナ膜の特性を走査型電子顕微鏡(SEM)により明らかにした。図2a及び2bはそれぞれ裸支持体のチャンネル表面及びプリコート層表面のSEM像を示している。図2cは断面図であってプリコートの厚さが約40μmであることを示している。平均孔サイズは約800nmである。
【実施例2】
【0050】
気孔形成剤を用いたαアルミナ膜の沈着
無機被膜は干割れ、層間剥離、気孔閉鎖のような問題に遭遇することが多い。PEG、PVP、PVAのような干割れ防止用の有機材料が使用されることが多い。しかし、多くの場合、これらの添加剤は有効ではない。
【0051】
本実施例においては、異なるアルミナ材料を含む一般的処方による被膜溶液を用いた2種類の多孔質αアルミナ膜の沈着について説明する。実施例1と同様のアルミナモノリシック支持体を使用した。
【0052】
PEG及びTironをそれぞれ干割れ防止剤及び分散剤として用い、10重量%の水性アルミナ被膜溶液を2種類用意した。懸濁液の違いは使用したアルミナ原材料のみである。一方の被膜懸濁液(AA−07)には住友化学(株)の平均粒径が0.8〜1.1μmのアルミナ粒子を用い、他方の被膜懸濁液(A−16)にはAlcoa Industrial Chemical社の平均粒径が0.3〜0.4μmのアルミナ粒子を用いた。以下のようにして被膜懸濁液AA−07を調製した。まず、100gの脱イオン水を入れた150mlのプラスチック瓶に0.13gのTironを添加、次いで26gのアルミナAA−07を添加した。プラスチック瓶を暫く振動させた後、周囲を氷に覆われた氷浴に入れた。次に、超音波ホーンを瓶に導入し、10秒オン/30秒オフの超音波処理を30分間施した。超音波処理を施した懸濁液に脱イオン水52.78g、20重量%のPEG38.89g、及び1重量%のDCB2.80gを更に混合した。15〜20時間ボールミル粉砕した後、その懸濁液を細かいスクリーン(開口サイズ0.037mm)を通してフラスコに入れ、真空ポンプにより脱気した。同様の手順により被膜溶液A−16を調製した。
【0053】
図14の流し塗り装置により2種類のアルミナ被膜溶液(AA−07及びA−16)をプリコート支持体(実施例1参照)に塗布した。この塗布は流し塗り装置にモノリシックサンプルを取り付けるステップ、被膜懸濁液を導入して浸漬するステップ、サンプルを取り外すステップ、サンプルを回転させて余分な被膜液を除去するステップを含む同じ手順で実施した。浸漬時間は20秒であり、回転速度を750rpmとし回転時間を60秒とした。欠陥を少なくするため同じ被膜処理を再度実施した。次に、被膜したサンプルを120℃で乾燥させ、流通反応器において1℃/分の加熱速度により1250℃で焼き入れし有機物をすべて除去すると共に被膜層を焼結した。図3a(AA−07)及び3b(A−16)において、干割れ防止剤PEGを添加したにも関わらず、いずれの膜も重大な干割れ及び層間剥離問題を抱えていることをSEM像が示している。
【実施例3】
【0054】
脱脂粉乳の蛋白質を気孔形成剤として用いたαアルミナ膜の沈着
無機被膜は、干割れ及び層間剥離問題の他に、孔の構造に関連した別の問題にも遭遇している。これは高流束且つ均一な孔構造及び高空隙率が必要とされているためである。しかし、従来の塗膜方法では、一般に乾燥及び焼成工程における粒子パッキングにより孔構造が形成されるため空隙率が限定される。
【0055】
本実施例は、脱脂粉乳を気孔形成剤として用いたアルミナ膜塗布実現の可能性を示すものである。Nanotrac Particle Size Analyzerで測定した平均粒径が約0.40μmの脱脂粉乳(Great Value(商標))を17重量%含む2種類の水性被膜溶液を調製した。本実施例における2種類の被膜懸濁液AA−07M及びA−16Mは、実施例2で調製した100gの被膜溶液、即ち10重量%のAA−07及び10重量%のA−16被膜溶液に、大気条件下において、それぞれ20gの脱脂粉乳を混合することにより調製した。
【0056】
実施例2と同様の手順及びパラメータを用いて、AA−07M又はA−16M被膜懸濁液により多孔質αアルミナ膜層を形成した。走査型電子顕微鏡(SEM)による分析によれば、即ち図4aのAA−07Mの平面SEM像及び図4bの断面SEM像によれば、プリコート支持体にかなり多孔質のαアルミナ膜層が形成されたことがわかる。図4bは支持体10、プリコート40、及び外部被膜層50を示している。また、気孔形成剤(脱脂粉乳)が干割れ防止剤及び接着剤として使用できるという別の効果も示している。図5a及び5bにおいて、断面のSEM分析によれば、気孔形成剤を使用しないで形成した被膜(図5a)に層間剥離が生じているが、気孔形成剤を使用して形成した被膜(図5b)には生じていないことを示している。同様に、気孔形成剤を使用しないで形成した図6aに示す被膜に生じている干割れ問題を気孔形成剤の使用により図6bに示すように削減又は除去することができる。
【実施例4】
【0057】
本発明の気孔形成剤不使用による段階的孔構造を有する多孔質αアルミナ膜の沈着
本実施例は段階的孔構造を有する2種類の多孔質αアルミナ膜の沈着である。段階的孔構造を有する多層膜は流れ抵抗が小さく流束が大きい。本被膜の支持体として、実施例1と同様のアルミナプレコートモノリシック支持体を使用した。
【0058】
PEG及びTironをそれぞれ干割れ防止剤及び分散剤として用い、本実施例で使用する5重量%の水性アルミナ被膜溶液を3種類調製した。懸濁液の違いは使用したアルミナ原材料のみである。AA−07、A−16、及びAKP30(住友化学)の平均粒径はそれぞれ0.8〜1.1μm、0.3〜0.4μm、及び0.2〜0.3μmである。以下のAA−07の例と同様の手順で5重量%の水性アルミナ被膜溶液を調製した。
【0059】
まず、100gの脱イオン水を入れた150mlのプラスチック瓶に0.06gのTironを添加、次いで26gのアルミナAA−07を添加した。プラスチック瓶を暫く振動させた後、周囲を氷に覆われた氷浴に入れた。次に、超音波ホーンを瓶に導入し、10秒オン/30秒オフの超音波処理を30分間施した。超音波処理を施した懸濁液に脱イオン水45.3g、20重量%のPEG99.13g、及び1重量%のDCB3.40gを更に混合した。15〜20時間ボールミル粉砕した後、その懸濁液を細かいスクリーンを通してフラスコに入れ、真空ポンプにより脱気した。
【0060】
サイズが徐々に小さくなる粒子を含む異なる懸濁液により2層のアルミナ膜を形成した。AA−07/A−16の膜に関し、5重量%のAA−07の懸濁液により第1層AA−07をプリコート支持体に形成した。実施例2と同様の被膜手順及びパラメータを用いた。120℃で乾燥及び600℃でポリマーを除去した後、同様の手順に従って、5重量%のA−16懸濁液により第2層A−16をAA−07被膜上に形成した。乾燥後、1℃/分の加熱速度により1250℃で15分間2層膜を焼き入れした。同様に、5重量%のAA−07及び5重量%のAKP30により別の膜AA−7/AKP30を形成した。
【0061】
粒子高密度充填理論によれば、大きな粒子によって大きな孔が形成される。図7は、被膜懸濁液AA−07、A−16、及びAKP30により膜形成として同じ乾燥及び焼入れ条件を用いて形成したアルミナ膜の孔径分布の比較を示すグラフである。被膜懸濁液AA−07及びA−16はそれぞれピーク孔径が420及び220nmである狭い単一モード孔径分布を有している。被膜懸濁液AKP30は、14、100、270等幾つかのピークを有する広い孔径分布を有している。図8a及び図8bのSEM像がそれぞれ示すように、膜AA−07/AKP30には目視可能な干割れがないが、膜AA−07/A−16には幾つかの干割れ及び穿通が見られる。
【実施例5】
【0062】
脱脂粉乳の蛋白質粒子を気孔形成剤として用いたαアルミナ膜の沈着
本実施例は脱脂粉乳を気孔形成剤として用いた別の多層αアルミナ膜沈着の説明である。本実施例で使用した2種類の水性アルミナ被膜溶液は5重量%のAA−07及び5重量%のAKP30Mであった。懸濁液AA−07の調製手順は実施例4と同様である。懸濁液AKP30Mは気孔形成剤として機能する17重量%の脱脂粉乳を含んでいる。これには実施例3と同様の脱脂粉乳を使用した。大気条件下において、5重量%の(実施例4と同様の)AKP30を含む100gの被膜溶液に20gの脱脂粉乳を混合することにより、被膜懸濁液AKP30Mを調製した。実施例4で説明したように、モノリシック支持体にAA−07及びAKP30M被膜懸濁液を順次塗布することにより、アルミナ膜AA−07/AKP30Mを形成した。形成した2層被膜を1150℃で2時間焼入れした。
【0063】
図9のグラフは気孔形成剤が形成された多孔質アルミナ構造体の孔径分布に与える影響を示している。図9に示すように、気孔形成剤を添加することにより、孔径が小さくなる。倍率が異なる図10a及び10bが、形成されたAA−07/AKP30M膜構造体の均一で干割れのない表面を示している。図10aは2つのチャンネルの表面60及び多孔質壁62を示している。また、図10bはその2つのチャンネル表面60の一方を更に拡大したものである。図11a及び11bは、より微細な孔を有し、例えば、気体の分離に使用されるγアルミナ被膜の下層として形成したAKP30及びAKP30M被膜をそれぞれ示している。図示のように、AKP30M被膜層の方がAKP30被膜層より多孔質に見える。
【実施例6】
【0064】
被膜の透過及び濾過試験
実験室規模の濾過試験装置により、脱イオン水を用いて前記実施例4及び5で形成した被膜の透過性を測定した。約170cm/sの線速度で脱イオン水を被膜のチャンネル内に通した。流路とモノリシック被膜体外部との間に約25psi(約172413.8Pa)の圧力勾配を維持した。このような圧力を駆動力として脱イオン水が被膜層を横断して流れ、多孔質支持体内に浸透し、モノリシック体外部に流れ出す。図12は3種類の膜構造体、AA−07/A−16、AA−07/AKP30、及びAA−07/AKP30Mの水の透過性を示す図である。透過性の測定は膜構造体の透過率を測定するもので、下記の式によって求められる。
【数1】

【0065】
ここで、Pは透過率(L/m/h/bar)、Vpは試験膜サンプルからの水の透過流速(L/h)、SAは透過流体に接触する全チャンネルの膜表面積(m)、及びTMPは膜横断圧力(bar)である。
【0066】
図12は膜構造体AA−07/A−16及びAA−07/AKP30Mの透過率が膜構造体AA−07/AKP30より大幅に高いことを示している。A−16被膜層はAKP30被膜層と比較してはるかに大きな径の孔を有し、且つ多少干割れも生じているため、AA−07/A−16の透過率がAA−07/AKP30より高いことは予期された。AA−07/AKP30Mの透過率がAA−07/AKP30より高いということは、脱脂粉乳を気孔形成剤として用いた本発明がAKP30より透過率の点で優れていることを証明している。
【0067】
透過率は膜構造体の1つの特性である。もう1つの特性に濾過機能がある。ポリアクリレート/水混合物を用いてクロスフロー濾過によって濾過特性を明らかにした。ポリアクリレート/水混合物は約100〜約500nmサイズのポリアクリレート粒子を含んでいる。この混合物は濁って見え、濁度(ネフェロ分析濁度ユニット、NTU)が約600である。透過試験と同様な方法により濾過試験を行った。膜横断圧力により生じた駆動力により、水が膜を横断して流れ、モノリシック支持体から染み出る一方、ポリアクリレート粒子が被膜によって遮断される。通過物を収集しNTUを測定した。通過物の透明度が膜構造体の濾過効率の直接的な指標である。図13のグラフは通過物のNTUの経時変化をプロットしたものである。AA−07/A−16膜構造体の通過物のNTUは約80であって濾過効率が悪いが、これはAA−07/A−16被膜の孔径が大きく且つ干割れが生じていることに符合している。これに反し、AA−07/AKP30M及びAA−07/AKP30の通過物のNTUは0.5未満であり、濾過性能が優れていることを示している。図13と図12とを比較検討すると、本発明による膜構造体AA−07/AKP30Mは、膜構造体AA−07/AKP30比較して、濾過効率が同等又は僅かに良好であり、透過率が大幅に高いことがわかる。
【0068】
別に定めのない限り、本明細書及び請求項において、成分の重量パーセント、寸法、一部の物理特性などを示す数値は、すべて“約”が付されていると解釈されるものとする。本明細書及び特許請求の範囲における正確な数値は本発明の別の実施の形態を構成するものとする。実施例において開示した数値の正確性に心掛けたが、測定値に関してはそれぞれの測定技術における標準偏差による誤差を本質的に含んでいる可能性がある。
【0069】
また、別に明記しない限り、本明細書における本発明の説明及び特許請求において、不定冠詞“a”及び “an”はその要素を1つ以上含んでおり、“1つのみ”に限定されるものではない。
【0070】
更に、別に明記しない限り、本明細書において、成分の重量%(wt%、weight percent、percent by weight)はその成分を含む組成物又は物品の総重量に基づくものである。
【0071】
以上特定の実施の形態を例にして本発明を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって規定される範囲を逸脱することなく改良及び変更が可能であることは明らかである。具体的には、本明細書において、本発明の特定の態様を好ましい又は特に有益であるとしたが、本発明は必ずしもそれらの好ましい態様に限定されることを意図したものではない。
【符号の説明】
【0072】
10 多孔質支持体
12 内部チャンネル
14 多孔質壁14
40 プリコート
50 外部被膜層
1402 液状先駆体塗布溶液
1404 モノリシック支持体
1406 チャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体に無機多孔質被膜を形成する方法であって、
第1端部、第2端部、及び多孔質壁によって画成される表面を有し、前記第1端部から第2端部に延びる複数の内部チャンネルを備えた多孔質支持体を提供するステップ、
前記支持体の前記内部チャンネル表面に無機粒子と、蛋白質粒子、澱粉粒子、合成高分子粒子、及びこれらの組合せから選択される有機気孔形成材料とから成る被膜を塗布するステップ、及び
前記被膜を塗布した支持体を加熱して前記有機気孔形成材料を除去し無機多孔質被膜を残すステップ
の各ステップを有して成ることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記多孔質支持体がハニカムモノリスであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記多孔質支持体が無機質であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記無機多孔質支持体がセラミックから成り、前記内部チャンネルが該多孔質セラミック支持体の多孔質壁によって画成される表面を有して成ることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記有機気孔形成材料が蛋白質粒子を含んで成ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記有機気孔形成材料が合成高分子粒子を含んで成ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記無機粒子と有機気孔形成材料とから成る被膜が、コージライト粒子、アルミナ粒子、ムライト粒子、チタン酸アルミニウム粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、セリア粒子、又はこれらの組合せを含んで成ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記被膜を塗布した支持体を加熱するステップが、該支持体を焼き入れすることにより前記有機気孔形成材料をか焼し無機多孔質被膜を残すことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記無機多孔質被膜の無機粒子を焼結するステップを更に有して成ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
第1端部、第2端部、及び無機粒子から成る多孔質外部被膜によって画成される表面を有し、前記第1端部から第2端部に延びる複数の内部チャンネルを備えた多孔質支持体から成る被膜多孔質支持体であって、
前記無機粒子から成る外部被膜の水銀ポロシメーターによる空隙率が40%以上であり、
前記無機粒子から成る多孔質外部被膜の水銀ポロシメーターによる孔サイズの分布において、d90以下のサイズの孔、d50以下のサイズの孔、及びd10以下のサイズの孔がそれぞれ全孔容積の90%、50%、及び10%を占めるとき、条件(d90−d10)/d50≦2を満足する
ことを特徴とする支持体。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−528835(P2010−528835A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510346(P2010−510346)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/006819
【国際公開番号】WO2008/153828
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】