特性定量方法
【課題】骨のようなネットワーク構造体の特性を定量する。
【解決手段】ネットワーク構造体を所定の大きさのメッシュに分割し、構造体が連続するメッシュの重心同士を接続することで、連結パスを形成する。そして、得られた連結パスについて、メッシュ毎に構造体の特性値に対応する電気抵抗値を割り当て、対応する電気回路を得、得られた電気回路の回路特性を調べることによって、ネットワーク構造体の特性を定量する。
【解決手段】ネットワーク構造体を所定の大きさのメッシュに分割し、構造体が連続するメッシュの重心同士を接続することで、連結パスを形成する。そして、得られた連結パスについて、メッシュ毎に構造体の特性値に対応する電気抵抗値を割り当て、対応する電気回路を得、得られた電気回路の回路特性を調べることによって、ネットワーク構造体の特性を定量する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワーク構造体の特性定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
椎体は、海綿骨とこれを取り囲む皮質骨から形成されている。健康な椎体海綿骨は上下、左右、前後に伸びた板状骨による蜂の巣状ネットワーク構造をしているが、骨粗鬆症が進行すると板状骨は断裂し棒状へ変化し、X線透視像では上下方向に海綿骨が際立つことが知られている。圧縮方向の海綿骨の減少は骨髄内に極所的な骨の無い空隙を生じさせ、回りの海綿骨に応力の集中をもたらす。MDCT(Multi−row Detector Computed Tomography)画像を用い、骨粗鬆症の進展による海綿骨の構造変化を骨形態計測で定量することが行われている(非特許文献1)。また、非荷重方向の骨梁減少は皮質骨の変形をもたらし骨折の誘因となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Masako Ito, Masahiko Nishiguchi, et al. Multi-Detector Row CT Imaging of Vertebral Microstructure for Evaluation of Fracture Risk. Journal of Bone and Mineral Research 2005; VOL 20, No. 10: 1828 - 1836
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
骨梁減少による骨の力学的脆弱性を定量することは圧迫骨折を予測する上で重要である。そこで、皮質骨を含む、骨の強度についての定量が望まれる。さらに、蜂の巣状のネットワーク構造は、他にもあり、例えば多孔質フィルタの通路などが挙げられる。このフィルタのようなネットワーク構造体についてもその物理的特性を定量することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ネットワーク構造体の特性定量方法であって、前記ネットワーク構造体を所定の大きさのメッシュに分割し、構造体が連続するメッシュの重心同士を接続することで、連結パスを形成し、得られた連結パスについて、メッシュ毎に構造体の特性値に対応する電気抵抗値を割り当て、対応する電気回路を得、得られた電気回路の回路特性を調べることによって、ネットワーク構造体の特性を定量することを特徴とする。
【0006】
また、前記ネットワーク構造体は、骨であって、前記構造体の特性値はBMDであることが好適である。
【0007】
また、前記電気抵抗値は、抵抗率が1/BMD3に比例する値として設定することが好適である。
【0008】
また、パイプ状の皮質骨について、軸方向の切り込みを入れて、板状に展開してからメッシュに分割し、重心同士を接続することで、パイプ状に復元することが好適である。
【0009】
また、前記ネットワーク構造体は、多孔質フィルタであって、前記構造体の特性値は通路の流体抵抗であることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、皮質骨のような面状の構造体と、海綿骨のような枝上の構造体を含むネットワーク構造体の特性(強度)などを効果的に定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】2Dスケルトンを示す図である。
【図1B】2Dスケルトンのメッシュ分割を示す図である。
【図1C】2Dメッシュの3Dへの拡張を示す図である。
【図1D】円筒体のメッシュ分割を示す図である。
【図1E】メッシュを接続した連結パスを示す図である。
【図2A】椎体の構成および対応する連結パスの構成を示す図である。
【図2B】海綿骨+皮質骨の等価回路および対応構成を示す図である。
【図3A】検体Aの連結パスを示す図である。
【図3B】検体Bの連結パスを示す図である。
【図4A】検体Aの3D像および連結バスメッシュを示す図である。
【図4B】検体Bの3D像および連結バスメッシュを示す図である。
【図5】検体A,Bの変形に対抗して発生するパワーの大きさを示す図である。
【図6A】解析に用いた検体Aの海綿骨+皮質骨モデルメッシュ分割を示す図である。
【図6B】図6Aに対応する連結パススケルトンを示す図である。
【図7A】検体AのBMD画像である。
【図7B】検体BのBMD画像である。
【図8】海綿骨モデル及び海綿骨+皮質骨モデル用いた連結パス解析の結果を示す図である。
【図9A】検体Aについての連結パスの枝毎の発生する抗力値を表示した図である。
【図9B】検体Bについての連結パスの枝毎の発生する抗力値を表示した図である。
【図10】FEM応力解析シミュレーションの結果を示す図である。
【図11】連結パス解析による抗力Iと同一モデルを使用したFEM応力シミュレーションにより得られた骨折荷重をプロットした図である。
【図12】連結パス解析により得られた海綿骨(TB)モデルの抗力と皮質骨(CB)モデル抗力と皮質骨を含む全骨モデル(TB+CB)により得られた抗力のグラフである。
【図13】図12について年齢を横軸にして海綿骨のモデル抗力をプロットしたものである。
【図14】図12について年齢を横軸にして皮質骨のモデル抗力をプロットしたものである。
【図15】皮質骨を含む全骨モデルを海綿骨と皮質骨に分けてみた時の抗力の寄与度を%で表す図であり、海綿骨の寄与度を示す図である。
【図16】皮質骨を含む全骨モデルを海綿骨と皮質骨に分けてみた時の抗力の寄与度を%で表す図であり、皮質骨の寄与度を示す図である。
【図17】フィルタの模式図である。
【図18】フィルタの通路の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態におけるデータ処理は、基本的に汎用のコンピュータにアプリケーションプログラムをインストールして入力データを処理することによって行う。
【0013】
まず、人の腰椎部分を対象物とした骨の特性を評価することについて説明する。この場合、特願2008−119312号において示したように、まずCT装置によって、対象物(例えばヒトの腰椎部分)についてCT画像を得る。そして、得られた画像を画像解析ソフトで解析し、骨のサイズ(長さ、断面積)および骨密度(BMD(Bone Mineral Density)を検出する。次に、対象となる骨を電気回路網と見なし、抵抗の分布、所定の電圧印加に応じた電流値を算出し、各部の抗力を算出するとともに、骨をそれと等価な弾性値を持つ1本の柱としての応答を算出する。
【0014】
ここで、椎体海綿骨については、画像処理によって、骨梁の骨格線ネットワークを作成することが可能である。しかし、骨には、その外縁を形成する皮質骨がある。皮質骨は、パイプ状の形状をしており、皮質骨から骨格線ネットワークを作成すると線分ではなく、2次元曲面となる。本実施形態では、このような2次元曲面の解析を可能とするため、対象物をメッシュに分割する。
【0015】
「メッシュ分割」
(1−1) 板状骨のメッシュ分割方法
(i)2次元骨格面(2D Skelton)の作成
厚みを持つ板状骨の厚さ方向を縮退させ2次元骨格面を作成する。すなわち、板状骨は、厚みを持つため、そのままでは取り扱いが困難である。そこで、板状骨の内側に内接する球を仮定し、この球の中心点が描く軌跡を2次元骨格面とする。
【0016】
これによって、図1Aに示すような2次元骨格面が得られる。
【0017】
(ii)2D Skeleton上の2次元メッシュ(2Dメッシュ)の作成
このようにして、2次元骨格面が形成された場合には、これを図1Bに示すように、幅が一定のメッシュに分割し、2Dメッシュを得る。
【0018】
(iii)2Dメッシュの3次元メッシュ(3Dメッシュ)への拡張
さらに、得られた2Dメッシュを2次元骨格面の直交方向に3Dメッシュ方向を定義する。すなわち、2Dメッシュを2Dメッシュ方向に同一幅の3Dメッシュへ拡張し、図1Cに示すような6面体3Dメッシュを生成する。そのとき、端点は骨内に収まるように垂直方向の長さは制限する。
【0019】
このようにして、板状骨について、6面体3Dメッシュが形成される。各メッシュは、2次元骨格面を有することになる。
【0020】
(1−2)皮質骨のメッシュ分割
ここで、皮質骨はパイプ(管)状であり、このままではメッシュに分割できない。そこで、まず皮質骨の管軸方向に切り込み線を入れ、これにより板状に展開する。そして、展開された板状のものについて、上述の板状骨と同じようにして3Dメッシュを生成し、その後切り込み線の部分を再度閉じる。これによって、皮脂骨と等価な3Dメッシュを生成する。このようにして得た、皮脂骨の3Dメッシュを図1Dに示す。
【0021】
(1−3)連結パスネットワーク
皮質骨を含む対象物を上記6面体メッシュに分割し、メッシュの断面を通り重心間を結ぶ枝のネットワークを生成し、連結パスを得る。
【0022】
すなわち、皮質骨については、メッシュに2DSkeltonの部分が入っているが、皮脂骨については、隣接するメッシュの重心間を接続する連結パスに置き換える。また、海綿骨についても、その長手方向についてメッシュに分割し、重心間の連結パスに置き換える。皮脂骨と接続される海綿骨については、接続される皮脂骨のメッシュと海綿骨のメッシュ同士の連結パスに置き換える。このようにして、メッシュに分割後に、各メッシュの重心間を連結して連結パスを形成する。
【0023】
なお、メッシュ分割の長さは外部より設定可能である。海綿骨枝の幅を考慮し、Voxel長で指定する。指定長より長い骨や広い幅は指定長で分割し、短い骨は骨の長さにあった短い枝を発生する。狭い幅の骨についても同様に制限する。
【0024】
このようにして得た、連結パスについて図1Eに示す。皮質骨のメッシュの一部に海綿骨のメッシュが接続されている。いずれにしても、各メッシュの重心同士が接続されて、連結パスが構成される。
【0025】
(2−1)回路方程式
本実施形態において、対象となる椎体にかかる外部負荷は、上下終板より作用し、中間の皮質骨及び海綿骨の連結パスにより伝達される。連結パス解析はこの作用をモデル化したものである。すなわち、上述のように、皮質骨、海綿骨をメッシュに分割し、各メッシュの重心間を連結する枝(パス)により連結パスを定義する。上述のように、皮質骨と海綿骨間もメッシュの重心間を接続する枝で接続される。
【0026】
次に、加重点と終端間で定義される皮質骨を含む連結パスの枝ごとに体積抵抗率ρを定義する。このとき用いる体積抵抗率ρは、枝のBMD(骨密度)値より算出する。各メッシュに対応する骨の骨密度を別途計測しておき、各メッシュについてBMDを割り付けておき、体積抵抗率ρ=1/(BMD)-3により、体積抵抗率を決定する。そして、この体積抵抗率ρに基づいて各枝の電気抵抗Rが決定される。
【0027】
これにより、メッシュ分割された椎体から、連結パスを構成し、各枝の電気抵抗が割り付けられて椎体電気回路モデルを得ることができる。
【0028】
図2A左には、錐体モデルの模式図が示されている。このように、円筒(パイプ)状の皮脂骨と、その内側に位置する複数の海綿骨からなっている。なお、図においては、海綿骨を独立して示したが、海綿骨同士も連結されるし、また海綿骨と皮質骨も接続される。この例では、上部終板から外部負荷が印加され、これが下部終板に伝達される。
【0029】
このような、錐体モデルを電気回路モデルに置き換えたものが図2A右である。このように、全体が連結パスに置き換えられ、各パスが上述のような電気抵抗に置き換えられ、錐体電気回路が得られる。
【0030】
このような椎体電気回路に1Vの電圧を負荷した場合に回路に流入する全電流ILが算出できる。この全電流ILを連結パス抗力と呼ぶ。この連結パス抗力の値は、回路方程式より直接求まる。また、そのとき、1本の枝毎に流れる電流も求まる。
【0031】
また、連結パス全体としては、椎体電気回路に流入する全電流IL(A)が流れるものであり、椎体電気回路を1本の抵抗REで置き換えた等価回路(図2B左)が得られる。
【0032】
この1本の抵抗REは、電圧が1Vであり、RE=1/IL(Ω)で定義される。そして、この抵抗REより、等価な骨断面積SEを次の式で定義する。
SE=rLE/RE
【0033】
ここで、rは骨の体積抵抗率の平均(各枝の体積抵抗率ρの平均)、LEは対象となる皮質骨+海綿骨の長さ(上下終板間距離)である。
【0034】
このように、SEは椎体骨の終板間を連結する骨の等価な断面積を意味する(図2B右)。また、力の伝達に寄与している骨の連なりを連結パスネットワークと呼ぶ。計測方向の椎体断面積をSTとおくと、残存骨量の割合SBR(survival bone rate:SBR)は、次式で定義される。
SBR≡SE/ST
【0035】
これは、実効的に外力に対し抗力を発生する連結パスの等価断面積と椎体断面積の比である。SBRが小さいほど、骨が脆いことになる。
【0036】
(2−2)電気回路モデルと力学モデルの対応
(i)外部荷重による変形に対し椎体の発生する抗力と連結パス電気回路モデルとの関係
外部荷重によって骨梁枝1本に働く抗力fはYoung率の定義より次の式で与えられる。
f=E(S/L)d (式1)
【0037】
ここで、Eはヤング率、Lは骨梁長さ、Sは断面積、dは伸び量である。椎体はバネでできたネットワークと考えることができる。一方、骨片を体積抵抗率rでできた抵抗素子による電気回路と考えた場合、骨片の抵抗R、両端点間の電位差V、骨片を流れる電流Iの関係は、次のように表される。
R=rL/S、
I=V/R=1/r・S/LV (式2)
【0038】
従って、(式1)と(式2)より力学系と電気回路系は次のように対応する。
f≡I,E≡1/r,d≡V
【0039】
これにより、体積抵抗率rは、次のようになる。
r=1/E (式3)
【0040】
すなわち、体積抵抗率rは、Young率の逆数で与えられる。
【0041】
(ii)BMD値とYoung率の関係
骨片のBMD値を基にYoung率を算出し、このYoung率を用いることで、式(3)により連結パス1本毎の体積抵抗率rを求めることが可能である。
E/Ec=ε-0.06(ρ/ρc)3
【0042】
ここで、ρは測定点密度(mg/cm3)、ρcは緻密骨密度(mg/cm3)(ρc=1800mg/cm3)、Ecは緻密骨のYoung率(Ec=22.1GPa)、εは負荷スピードで与えられる。
【0043】
なお、Young率は重量密度の3乗に比例するといわれている(Dennis R. Carter 他 「The Compressive Behavior of Bone as Two−Phase PorousStructure」 The Journal of Bone and Joint Surgery VOL. 59−A No. 7, October 1977)。
【0044】
(iii)BMD値によるYoung率の簡易算出
上述したCarter等の関係式により、Young率をBMD値の3乗に相関させ、その逆数として、体積抵抗率を求める。
【0045】
これより、骨の体積抵抗率rを、次のよう算出した。
(a)海綿骨低密度の場合のBMD値120(mg/cm3)であり、この時の体積抵抗率R=3.933(Ωm)となった。
(b)海綿骨高密度の場合のBMD値500(mg/cm3)であり、この時の体積抵抗率2.15(Ωm)となった。
(c)緻密骨の場合のBMD値1200(mg/cm3)であり、この時の体積抵抗率1(Ωm)となった。
【0046】
「実施例」
[実験1 骨粗鬆症女性と健康男性の椎体比較]
(1)検体とCTスキャン骨抽出
検体A:圧迫骨折を有する70歳女性
検体B:骨折のない57歳男性
クリニカルCT画像 第3腰椎
CT装置:シーメンス社、16列、MDCT
撮影条件:120kV、207mA、スライス厚0.6mm スキャン
再構成:FOV100mm、画像断層厚0.2mm
フィルタ:骨条件
【0047】
(2)方法
骨画像より緻密骨CT値をもとめ、そのBMD値を1200mg/cm3、低密度の海綿骨CT値を求め、そのBMD値を120mg/cm3と与え、リニアに補間しCT値をBMD値に換算する検量線を作成した。
【0048】
検体A,検体Bとも同一検量線を用い、CT値をBMD値に換算した。これをBMD画像と呼ぶ。
【0049】
骨抽出、骨はBMD値150mg/cm3で抽出した。上側終板を荷重面とし、下側終板を固定面とし、連結パス解析を行った。海綿骨、皮質骨、上下終板全てを含む連結パス6面体メッシュを生成した。
【0050】
図3A〜図3Bは、0.4mm以下で分割した詳細メッシュであり、皮質骨、海綿骨を含む連結パスネットワークを示している。図3A上は検体Aの皮質骨および海綿骨、図3B上は検体Bの皮質ことおよび海綿骨について作成された連結パスネットワークを示し、図3A下は図3A上の拡大像、図3B下は図3B上の拡大像である。これより、皮質骨、海面骨間を含む骨全体が連結パスにより接続されていることがわかる。また、皮質骨、海綿骨間に差異はつけず、海綿骨、皮質骨のそれぞれにおけるBMD値の違いが反映されている。すなわち、低密度の骨である検体Bにおいて、空間が大きくなっていることがわかる。
【0051】
図4A〜図4Dは、解析に用いた連結パスネットワークを示す。検体Aの骨3D像(図4A)と連結パスメッシュ(図4B)、検体Bの骨3D像(図4C)と連結パスメッシュ(図4D)である。メッシュの長さは2mm以下で分割した。3D解析ソフトTRI/3DBON(RATOC)により終板間に加わる外部負荷に対し椎体海綿骨・皮質骨連結パスが発生する抗力を算出した。
【0052】
(3)結果
図5は、骨が外部負荷による変形に対抗して発生するパワーの大きさを示す。回路方程式では電圧・電流の積に当る量である。図はモノクロであり、識別が困難であるが、赤が大、青が小である。左はSagital方向により見た断面像、右は正面よりみた3D像である。検体Aでは、上下方向の中間部において、赤色の部分が広く存在しており、検体Bでは中間部において、小さな赤い部分が散在するだけである。これより、本形跡によって検体Aにおいて、連結パスネットワークが粗であることに起因して、大きな力が掛かる部分が存在することがわかる。また、検体Aにおいて、皮質骨の多くの部分が赤くなっており、皮質骨に大きな力が掛かっていることがわかる。検体Bにおいても、皮質骨に比較的大きな力が加わっている。
【0053】
さらに、いずれの検体においても終板は青くなっており、エネルギーの消費が少ない。また、終板は面で外力を受けているため、力が分散されていることがわかる。
【0054】
(4)考察
このように、検出結果から、検体Aは海綿骨の欠けた空洞の周りで強い抗力を発生する部位と抗力に寄与しない骨が混在している。皮質骨は強い抗力を発生していることがわかる。
【0055】
検体Bは、上下終板直下では強い抗力を発生し中央部位では抗力は弱く負荷が分散されていることが分かった。検体Bの抗力分布は、椎体の上、中、下3層に分かれ解剖学的な海綿骨構造の特徴を示している。一方、検体Aは、中央部の海綿骨の断裂により本来持っていた構造が失われていることが伺える。
【0056】
「実験2 皮質骨の作用」
(1)検体、CTスキャン
実験1と同じ検体CT画像
【0057】
(2)方法
椎体の上下方向中央の高さ10mmを切り取り、椎体の海綿骨のみのモデル及び海綿骨+皮質骨のモデルについて連結パス解析と応力シミュレーションを行う。連結パスのメッシュ分割は2mm以下で分割した。
【0058】
図6Aは、解析に用いた検体Aの海綿骨+皮質骨モデルメッシュ分割を示し、図6Bは連結パススケルトンを示す。
【0059】
皮質骨だけではなく海綿骨も構造を保ったまま、厚さを反映したメッシュに分割されている。皮質骨厚さは2mm以下の部分がほとんどであるため、前後の揺らぎはあるものの皮質骨は1層のメッシュで分割されている。
【0060】
「FEM 解析条件」
FEM応力解析シミュレーションは次の条件で行った。
【0061】
FEMメッシュ:1片の長さ0.2mmの6面体メッシュ、すなわち1ボクセルで1メッシュを作成した。
固定面:下終板側
荷重面:上終板側
荷重:分布荷重上から下側へ500N
骨折判定:荷重を増やしていった時、8面体せん断応力τoctが2Mpaを超える部位の体積が1%以上となった時の荷重値
FEMソルバー:TRI/3D−FEM(RATOC,Tokyo,Japan)
【0062】
(3)結果
(i)連結パス解析結果
図7A、図7Bは、検体のBMD画像である。図はモノクロであり、識別が不能であるが、赤は1200mg/cm3、青は150mg/cm3として、荷重に応じた表示を行っている。図7Aは検体A、図7Bは検体Bのものである。
【0063】
図8は海綿骨モデル及び海綿骨+皮質骨モデル用いた連結パス解析の結果である。図において、縦軸は、椎体電気回路モデルの全電流であるI値、即ち力学的変位に対し、骨が発生する抗力の合計を意味する(以下、抗力Iとして説明する)。この値が大きいほど外部負荷に対し抵抗力が大きいことを意味する。(a)は検体A、(b)は検体Bの値である。左側の棒は海綿骨のみのモデル(TB)による解析結果。右側の棒は皮質骨を含む骨モデルの解析結果である。検体AのTBおよびTB+CBは、検体BのTB、TB+CBの1/2倍以下である。
【0064】
(ii)連結パス枝の抗力
図9A、図9Bは、検体A、Bについての連結パスの枝毎の発生する抗力値を擬似カラーで表示したものである。図では識別できないが、赤は大、青は小である。これは、海綿骨モデル(TB)と海綿骨+皮質骨モデル(TB+CB)の連結パストータル抗力変位を与えた時に発生する抗力に相当する。図はモノクロであり、識別が不可能であるが、検体Aでは、皮質骨の一部に赤の部分が散在するだけであるが、検体Bでは多くの皮質骨の部分が赤であり、海綿骨にも赤の部分が点在する。このように、解析結果から検体Bが検体Aに比べ大きな抗力を持つことが理解される。
【0065】
図10には、FEM応力解析シミュレーションの結果を示す。縦軸は骨折荷重(Fracture Load(N))の値である。骨折荷重値が大は骨が強いことを意味する。検体Bの骨が強いことがわかる。
【0066】
(4)考察
図7A、図7BのBMD画像より、検体Aは全体的にBMD値が低い。特に、皮質骨において顕著であることがわかった。一方、検体Bは皮質骨のBMD値が海綿骨より著しく高い。
【0067】
BMD値よりYoung’s modulusを算出し、その逆数として、体積抵抗率を求め、椎体電気回路モデルを作成する。本モデルは、骨片に対し、断面積、長さの形状要素とBMD値を反映させている。これらの終端間を接続する枝の連鎖により、モデル全体の抗力が算出される。BMDの高い部位は低い部位に比し、強い抗力を発生する。
【0068】
図9A、9Bより検体Bは皮質骨において、強い抗力を発生する連結パスで囲まれてことがわかる。これは主にBMD値の高いことを反映したものと思える。一方、検体Aは各部位とも抗力の発生が弱い。更に皮質骨に抗力が弱い部位、海綿骨に抗力の強い部位が散見される。皮質骨の脆弱性とともに、海綿骨の消失の影響があり、海綿骨で負荷を受ける割合が増えているものと思われる。
【0069】
図10より、検体Aは、FEM応力シミュレーションにおいて、皮質骨だけでなく海綿骨にも強い応力がかかっていることが分かる。これは海綿骨の消失と皮質骨の変位量が大きく、海綿骨の応力緩和ができない状態を反映したものと思える。皮質骨にかかる応力の分布は皮質骨のBMD値パターン、連結海綿骨量を反映しており、骨強度を考える上で皮質骨BMD値分布と連結海綿骨が重要であることを示すものと推察できる。検体BのTBモデルの骨折荷重の割合が47%と低い理由の検討海綿骨+皮質骨(TB+CB)の抗力から海面骨(TB)の値を引いた値が近似的に皮質骨の抗力である。この関係を図8、図10を用い計算すると海綿骨の椎体強度に締める割合は連結パス抗力では検体Aが57%、検体B56%であった。皮質骨よりもいずれも海綿骨の割合が高い値を示した。
【0070】
一方、FEMシミュレーションによる骨折荷重による比較では検体Aは55%とほぼ連結パス抗力の値と同じ値を示したが、検体Bでは47%と連結パス抗力より低い値を示した。
【0071】
椎体Bの皮質骨のBMD値は海綿骨に比べ、著しく高い値を持っていることから検体BのTB+CBモデルの骨折荷重がTBモデルに比し相対値が大きくなったものと推定された。即ちFEM応力シミュレーションでは変形による応力緩和を反映しえるが、連結パス抗力は形状から計算するため、変形は考慮しない。この結果、前者では皮質骨を含むモデルの海綿骨の骨折が少なくなり、骨折荷重は高くなる。
【0072】
「実験3連結パス解析による抗力とFEM応力シミュレーション骨折荷重との相関計測」
(1)検体CTスキャン骨粗鬆症患者のMDCT画像、撮影条件、BMD画像作成条件は実験2と同一である。
検体数:10、平均年齢:70.6歳であった。
【0073】
(2)方法
連結パス解析条件:メッシュ生成条件等:実験2海綿骨連結パス解析と同一
FEM応力シミュレーション条件:実験2海綿骨応力シミュレーションと同一
骨折判定条件:実験2応力シミュレーションの骨折判定条件と同一
【0074】
(3)結果
図11は連結パス解析による抗力Iと同一モデルを使用したFEM応力シミュレーションにより得られた骨折荷重をプロットしたものである。縦軸は骨折荷重、横軸は抗力Iである。両者はPearsonの相関係数R2=0.962(p<0.01)で相関した。
【0075】
連結パスによる抗力計測は皮質骨、海綿骨を6面体メッシュで近似し、連結パスを得る。そのときのメッシュサイズは骨幅小の箇所は細かく、幅大の箇所は制限幅のメッシュを複数用い、発生するメッシュ数を最適化する。一方、FEM応力シミュレーションはVoxelサイズの6面体を用いる。
【0076】
連結パス解析で用いるメッシュの作成条件はFEM解析で用いるVoxelメッシュより自由度高く数を減らし、計算負荷を低減させることが可能である。連結パスモデルは負荷方向の連結パス形状を測定するものであるが、そこで得られる連結パス抗力はFEM応力シミュレーション解析による骨折荷重と正の相関を示すので、骨強度を反映した指標になっていると言える。
【0077】
「実験4 海綿骨と皮質骨の椎体強度に占める割合と年齢依存性」
(1)検体、CTスキャン、骨粗鬆症患者のMDCT画像、撮影条件、画像処理条件は、実験2と同一である。
検体数:10点、年齢64〜77才骨粗鬆症患者、平均年齢70.3歳であった。
【0078】
(2)方法
海綿骨(TB)のみのモデルと皮質骨(CB)のみのモデル、皮質骨を含む全骨(TB+CB)モデルを用い、連結パス解析を行い比較した。
【0079】
(3)結果
(i)各モデルの抗力比較
図12は連結パス解析により得られた海綿骨(TB)モデルの抗力(青)と皮質骨(CB)モデル抗力(赤)と皮質骨を含む全骨モデル(TB+CB)により得られた抗力(黄色)のグラフである。
【0080】
横軸は年齢順に並べてある。縦軸は外部負荷に対して、骨モデルが発生する合計の抗力である。
【0081】
(ii)年齢との相関
図13、図14は、図12について年齢を横軸にして抗力をプロットしたものである。図13は海面骨(TB)モデルの抗力、図14は皮質骨(CB)モデルの抗力である。海綿骨は年齢に対し有意ではないものの負の相関傾向を持っていることが分かる。皮質骨には年齢との相関は見られない。
【0082】
(iii)海綿骨、皮質骨の抗力の全骨抗力における寄与度
図15、図16は、皮質骨を含む全骨モデルを海綿骨と皮質骨に分けてみた時の抗力の寄与度を%で表す。横軸は年齢である。図15海面骨の寄与度、図16は皮質骨の寄与度である。
【0083】
このように、年齢により皮質骨の寄与度は増加傾向にある。加齢により海綿骨が減少し、連結パス抗力を低下させていることが分かる。一方、皮質骨は年齢による相関は見出せなかった。
【0084】
(4)考察
図11より、海綿骨、皮質骨、両方合成したモデルをそれぞれシミュレーションした場合、両方合成したモデルの抗力は近似的に数%の差で各モデルの抗力の和に等しい値となる。このことは海綿骨と皮質骨の接合部に考慮を必要とすることがある可能性を示す。
【0085】
図15は加齢による海綿骨の減少を示している。骨強度に対する寄与度が年齢により海綿骨で減少し、皮質骨で増加するのは主に海綿骨の減少によりもたらされると推察できる。
【0086】
海綿骨の椎体強度に対する寄与度は70歳でも60%以上ある。椎体皮質骨はBMD値は海綿骨より高いものの幅が細く、海綿骨の加齢による減少は構造的に皮質骨の負担を高め、皮質骨BMD値の低下は皮質骨の骨折の危険度を更に高めているものと推察できる。
【0087】
「まとめ」
1.本実施形態では、連結パス強度測定法(ConnPath法)により骨の強度を測定することができる。本手法では、海綿骨連結パス、皮質骨連結パス及びそれらのBMD値を反映した椎体の力学強度を形状より求め、終板間にかかる外部負荷に対する椎体の強度を測定する。
【0088】
2.骨粗鬆症疾患者9例のMDCT画像を用い、連結パス解析で求めた海綿骨抗力とFEM応力シミュレーションで求めた骨折荷重との相関を調べた。
【0089】
両者はPearsonの相関係数R2=0.96(p<0.00)で正の相関を示した。ConnPath解析で求める抗力は骨強度を反映した指標となっているものと考えられた。本手法によって海綿骨、皮質骨の接合部位を含めた構造変化と強度の解析が可能と考えられた。
【0090】
3.本手法を用い、骨折を有する骨粗鬆症の70歳女性と骨折のない57歳男性の第3腰椎を測定した。椎体全体の測定においては57歳男性の椎体は解剖学的構造を反映した抗力分布が得られた。70歳女性の椎体解析においては、海綿骨の欠けた空洞の周りでは強い抗力を発生する海面骨の連結パスが存在し、骨粗鬆症化による海綿骨構造の変化を反映しているものと推察できた。
【0091】
4.更に両検体を用い、椎体中央部の10mmの高さを海綿骨、皮質骨+海面骨両モデルで測定し、また、同一モデルを用いFEM応力シミュレーションを行い、椎体中央部における海綿骨の椎体強度に寄与する割合を調べた。
【0092】
ConnPath法とFEMシミュレーションでは海綿骨の椎体強度に締める割合は検体Aで前者は57%、後者は55%とほぼ一致。検体Bでは56%と47%と食い違った。この原因は皮質骨BMD強度の差と考察できた。
【0093】
5.64〜77歳の骨粗鬆症患者10例のMDCT画像を用い、椎体中央部10mm幅の連結パス解析を行い、年齢による連結パス強度の変化と海綿骨、皮質骨の骨強度に対する寄与度の変化を求めた。
(ア)海綿骨は加齢により連結パス強度は減少し、皮質骨は加齢と無相関であった。
(イ)海綿骨部分の骨強度に対する寄与度は65%程度、加齢に伴い、海綿骨の寄与度は減少傾向を示した。皮質骨部分の骨強度に対する寄与度は平均35%程度であった。加齢とともに寄与度は上昇する傾向を示した。これは加齢による海綿骨の減少を反映したものと推察された。
【0094】
6.以上よりConnPath解析法は椎体の連結形状によって得られる力学強度を反映しており、形状、変形による椎体の脆弱性の指標として有効であると考えられた。
【0095】
「フィルタについての適用」
上述の例では、骨の評価を行った。評価の対象をフィルタにすることも可能である。この場合ネットワークは、フィルタ本体中に形成される通路である。フィルタには、各種のものがあるが、フィルタ本体に開口があり、この開口を通過できるものと、通過できないものをろ別するのが基本的な作用である。
【0096】
図17には、フィルタの模式図が示されている。フィルタ100は、その内部にフィルタ本体102を貫通する多数の通路104が存在し、原水がこの一方側から他方側へと通過する。この際に、フィルタ100の内部において所定の遅延が発生する。これは、通路の性状と、対象物体の性状に起因する。例えば、燃料電池においては、核燃料電池セルの内部に、MEA膜/電極接合体 (Membrane Electrode Assembly, MEA)と呼ばれる部材が配置される。このMEAの高分子電解膜の両側に配置される電極には、カーボンブラック担体上に白金触媒を担持したものなどが用いられるが、これらは基本的に連通する通路を有する多孔質材料である。そして、その通路の特性によって、必要とする物質の通過特性が決定される。
【0097】
図18には、この通路102の状態が示されており、通路102は、複数の枝が接続された構成になっている。このような構造体(フィルタ)におけるプロトン(H+)や、酸素の移動は、通路の形状により決定されるため、この評価が重要となる。
【0098】
本実施形態では、このような通路について、メッシュに分割して、そのメッシュの重心間を結ぶ連結パスに変換する。
【0099】
そして、得られた連結パスについて、上述のように回路方程式を立て、これを解くことで、フィルタにおける抵抗を評価することができる。すなわち、回路における抵抗値がフィルタ全体としての抵抗に該当する。
【0100】
「その他」
なお、上述の例では、一方側の面から、他方側の面に向けてのネットワーク構造体を対象とした。しかし、メッシュのネットワーク構造体を利用することにより、任意の点や面から他の点や面へのネットワーク構造体を定義することによって、同様の方法で、その特性を評価することが可能である。
【符号の説明】
【0101】
100 フィルタ、102 通路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワーク構造体の特性定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
椎体は、海綿骨とこれを取り囲む皮質骨から形成されている。健康な椎体海綿骨は上下、左右、前後に伸びた板状骨による蜂の巣状ネットワーク構造をしているが、骨粗鬆症が進行すると板状骨は断裂し棒状へ変化し、X線透視像では上下方向に海綿骨が際立つことが知られている。圧縮方向の海綿骨の減少は骨髄内に極所的な骨の無い空隙を生じさせ、回りの海綿骨に応力の集中をもたらす。MDCT(Multi−row Detector Computed Tomography)画像を用い、骨粗鬆症の進展による海綿骨の構造変化を骨形態計測で定量することが行われている(非特許文献1)。また、非荷重方向の骨梁減少は皮質骨の変形をもたらし骨折の誘因となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Masako Ito, Masahiko Nishiguchi, et al. Multi-Detector Row CT Imaging of Vertebral Microstructure for Evaluation of Fracture Risk. Journal of Bone and Mineral Research 2005; VOL 20, No. 10: 1828 - 1836
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
骨梁減少による骨の力学的脆弱性を定量することは圧迫骨折を予測する上で重要である。そこで、皮質骨を含む、骨の強度についての定量が望まれる。さらに、蜂の巣状のネットワーク構造は、他にもあり、例えば多孔質フィルタの通路などが挙げられる。このフィルタのようなネットワーク構造体についてもその物理的特性を定量することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ネットワーク構造体の特性定量方法であって、前記ネットワーク構造体を所定の大きさのメッシュに分割し、構造体が連続するメッシュの重心同士を接続することで、連結パスを形成し、得られた連結パスについて、メッシュ毎に構造体の特性値に対応する電気抵抗値を割り当て、対応する電気回路を得、得られた電気回路の回路特性を調べることによって、ネットワーク構造体の特性を定量することを特徴とする。
【0006】
また、前記ネットワーク構造体は、骨であって、前記構造体の特性値はBMDであることが好適である。
【0007】
また、前記電気抵抗値は、抵抗率が1/BMD3に比例する値として設定することが好適である。
【0008】
また、パイプ状の皮質骨について、軸方向の切り込みを入れて、板状に展開してからメッシュに分割し、重心同士を接続することで、パイプ状に復元することが好適である。
【0009】
また、前記ネットワーク構造体は、多孔質フィルタであって、前記構造体の特性値は通路の流体抵抗であることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、皮質骨のような面状の構造体と、海綿骨のような枝上の構造体を含むネットワーク構造体の特性(強度)などを効果的に定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】2Dスケルトンを示す図である。
【図1B】2Dスケルトンのメッシュ分割を示す図である。
【図1C】2Dメッシュの3Dへの拡張を示す図である。
【図1D】円筒体のメッシュ分割を示す図である。
【図1E】メッシュを接続した連結パスを示す図である。
【図2A】椎体の構成および対応する連結パスの構成を示す図である。
【図2B】海綿骨+皮質骨の等価回路および対応構成を示す図である。
【図3A】検体Aの連結パスを示す図である。
【図3B】検体Bの連結パスを示す図である。
【図4A】検体Aの3D像および連結バスメッシュを示す図である。
【図4B】検体Bの3D像および連結バスメッシュを示す図である。
【図5】検体A,Bの変形に対抗して発生するパワーの大きさを示す図である。
【図6A】解析に用いた検体Aの海綿骨+皮質骨モデルメッシュ分割を示す図である。
【図6B】図6Aに対応する連結パススケルトンを示す図である。
【図7A】検体AのBMD画像である。
【図7B】検体BのBMD画像である。
【図8】海綿骨モデル及び海綿骨+皮質骨モデル用いた連結パス解析の結果を示す図である。
【図9A】検体Aについての連結パスの枝毎の発生する抗力値を表示した図である。
【図9B】検体Bについての連結パスの枝毎の発生する抗力値を表示した図である。
【図10】FEM応力解析シミュレーションの結果を示す図である。
【図11】連結パス解析による抗力Iと同一モデルを使用したFEM応力シミュレーションにより得られた骨折荷重をプロットした図である。
【図12】連結パス解析により得られた海綿骨(TB)モデルの抗力と皮質骨(CB)モデル抗力と皮質骨を含む全骨モデル(TB+CB)により得られた抗力のグラフである。
【図13】図12について年齢を横軸にして海綿骨のモデル抗力をプロットしたものである。
【図14】図12について年齢を横軸にして皮質骨のモデル抗力をプロットしたものである。
【図15】皮質骨を含む全骨モデルを海綿骨と皮質骨に分けてみた時の抗力の寄与度を%で表す図であり、海綿骨の寄与度を示す図である。
【図16】皮質骨を含む全骨モデルを海綿骨と皮質骨に分けてみた時の抗力の寄与度を%で表す図であり、皮質骨の寄与度を示す図である。
【図17】フィルタの模式図である。
【図18】フィルタの通路の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態におけるデータ処理は、基本的に汎用のコンピュータにアプリケーションプログラムをインストールして入力データを処理することによって行う。
【0013】
まず、人の腰椎部分を対象物とした骨の特性を評価することについて説明する。この場合、特願2008−119312号において示したように、まずCT装置によって、対象物(例えばヒトの腰椎部分)についてCT画像を得る。そして、得られた画像を画像解析ソフトで解析し、骨のサイズ(長さ、断面積)および骨密度(BMD(Bone Mineral Density)を検出する。次に、対象となる骨を電気回路網と見なし、抵抗の分布、所定の電圧印加に応じた電流値を算出し、各部の抗力を算出するとともに、骨をそれと等価な弾性値を持つ1本の柱としての応答を算出する。
【0014】
ここで、椎体海綿骨については、画像処理によって、骨梁の骨格線ネットワークを作成することが可能である。しかし、骨には、その外縁を形成する皮質骨がある。皮質骨は、パイプ状の形状をしており、皮質骨から骨格線ネットワークを作成すると線分ではなく、2次元曲面となる。本実施形態では、このような2次元曲面の解析を可能とするため、対象物をメッシュに分割する。
【0015】
「メッシュ分割」
(1−1) 板状骨のメッシュ分割方法
(i)2次元骨格面(2D Skelton)の作成
厚みを持つ板状骨の厚さ方向を縮退させ2次元骨格面を作成する。すなわち、板状骨は、厚みを持つため、そのままでは取り扱いが困難である。そこで、板状骨の内側に内接する球を仮定し、この球の中心点が描く軌跡を2次元骨格面とする。
【0016】
これによって、図1Aに示すような2次元骨格面が得られる。
【0017】
(ii)2D Skeleton上の2次元メッシュ(2Dメッシュ)の作成
このようにして、2次元骨格面が形成された場合には、これを図1Bに示すように、幅が一定のメッシュに分割し、2Dメッシュを得る。
【0018】
(iii)2Dメッシュの3次元メッシュ(3Dメッシュ)への拡張
さらに、得られた2Dメッシュを2次元骨格面の直交方向に3Dメッシュ方向を定義する。すなわち、2Dメッシュを2Dメッシュ方向に同一幅の3Dメッシュへ拡張し、図1Cに示すような6面体3Dメッシュを生成する。そのとき、端点は骨内に収まるように垂直方向の長さは制限する。
【0019】
このようにして、板状骨について、6面体3Dメッシュが形成される。各メッシュは、2次元骨格面を有することになる。
【0020】
(1−2)皮質骨のメッシュ分割
ここで、皮質骨はパイプ(管)状であり、このままではメッシュに分割できない。そこで、まず皮質骨の管軸方向に切り込み線を入れ、これにより板状に展開する。そして、展開された板状のものについて、上述の板状骨と同じようにして3Dメッシュを生成し、その後切り込み線の部分を再度閉じる。これによって、皮脂骨と等価な3Dメッシュを生成する。このようにして得た、皮脂骨の3Dメッシュを図1Dに示す。
【0021】
(1−3)連結パスネットワーク
皮質骨を含む対象物を上記6面体メッシュに分割し、メッシュの断面を通り重心間を結ぶ枝のネットワークを生成し、連結パスを得る。
【0022】
すなわち、皮質骨については、メッシュに2DSkeltonの部分が入っているが、皮脂骨については、隣接するメッシュの重心間を接続する連結パスに置き換える。また、海綿骨についても、その長手方向についてメッシュに分割し、重心間の連結パスに置き換える。皮脂骨と接続される海綿骨については、接続される皮脂骨のメッシュと海綿骨のメッシュ同士の連結パスに置き換える。このようにして、メッシュに分割後に、各メッシュの重心間を連結して連結パスを形成する。
【0023】
なお、メッシュ分割の長さは外部より設定可能である。海綿骨枝の幅を考慮し、Voxel長で指定する。指定長より長い骨や広い幅は指定長で分割し、短い骨は骨の長さにあった短い枝を発生する。狭い幅の骨についても同様に制限する。
【0024】
このようにして得た、連結パスについて図1Eに示す。皮質骨のメッシュの一部に海綿骨のメッシュが接続されている。いずれにしても、各メッシュの重心同士が接続されて、連結パスが構成される。
【0025】
(2−1)回路方程式
本実施形態において、対象となる椎体にかかる外部負荷は、上下終板より作用し、中間の皮質骨及び海綿骨の連結パスにより伝達される。連結パス解析はこの作用をモデル化したものである。すなわち、上述のように、皮質骨、海綿骨をメッシュに分割し、各メッシュの重心間を連結する枝(パス)により連結パスを定義する。上述のように、皮質骨と海綿骨間もメッシュの重心間を接続する枝で接続される。
【0026】
次に、加重点と終端間で定義される皮質骨を含む連結パスの枝ごとに体積抵抗率ρを定義する。このとき用いる体積抵抗率ρは、枝のBMD(骨密度)値より算出する。各メッシュに対応する骨の骨密度を別途計測しておき、各メッシュについてBMDを割り付けておき、体積抵抗率ρ=1/(BMD)-3により、体積抵抗率を決定する。そして、この体積抵抗率ρに基づいて各枝の電気抵抗Rが決定される。
【0027】
これにより、メッシュ分割された椎体から、連結パスを構成し、各枝の電気抵抗が割り付けられて椎体電気回路モデルを得ることができる。
【0028】
図2A左には、錐体モデルの模式図が示されている。このように、円筒(パイプ)状の皮脂骨と、その内側に位置する複数の海綿骨からなっている。なお、図においては、海綿骨を独立して示したが、海綿骨同士も連結されるし、また海綿骨と皮質骨も接続される。この例では、上部終板から外部負荷が印加され、これが下部終板に伝達される。
【0029】
このような、錐体モデルを電気回路モデルに置き換えたものが図2A右である。このように、全体が連結パスに置き換えられ、各パスが上述のような電気抵抗に置き換えられ、錐体電気回路が得られる。
【0030】
このような椎体電気回路に1Vの電圧を負荷した場合に回路に流入する全電流ILが算出できる。この全電流ILを連結パス抗力と呼ぶ。この連結パス抗力の値は、回路方程式より直接求まる。また、そのとき、1本の枝毎に流れる電流も求まる。
【0031】
また、連結パス全体としては、椎体電気回路に流入する全電流IL(A)が流れるものであり、椎体電気回路を1本の抵抗REで置き換えた等価回路(図2B左)が得られる。
【0032】
この1本の抵抗REは、電圧が1Vであり、RE=1/IL(Ω)で定義される。そして、この抵抗REより、等価な骨断面積SEを次の式で定義する。
SE=rLE/RE
【0033】
ここで、rは骨の体積抵抗率の平均(各枝の体積抵抗率ρの平均)、LEは対象となる皮質骨+海綿骨の長さ(上下終板間距離)である。
【0034】
このように、SEは椎体骨の終板間を連結する骨の等価な断面積を意味する(図2B右)。また、力の伝達に寄与している骨の連なりを連結パスネットワークと呼ぶ。計測方向の椎体断面積をSTとおくと、残存骨量の割合SBR(survival bone rate:SBR)は、次式で定義される。
SBR≡SE/ST
【0035】
これは、実効的に外力に対し抗力を発生する連結パスの等価断面積と椎体断面積の比である。SBRが小さいほど、骨が脆いことになる。
【0036】
(2−2)電気回路モデルと力学モデルの対応
(i)外部荷重による変形に対し椎体の発生する抗力と連結パス電気回路モデルとの関係
外部荷重によって骨梁枝1本に働く抗力fはYoung率の定義より次の式で与えられる。
f=E(S/L)d (式1)
【0037】
ここで、Eはヤング率、Lは骨梁長さ、Sは断面積、dは伸び量である。椎体はバネでできたネットワークと考えることができる。一方、骨片を体積抵抗率rでできた抵抗素子による電気回路と考えた場合、骨片の抵抗R、両端点間の電位差V、骨片を流れる電流Iの関係は、次のように表される。
R=rL/S、
I=V/R=1/r・S/LV (式2)
【0038】
従って、(式1)と(式2)より力学系と電気回路系は次のように対応する。
f≡I,E≡1/r,d≡V
【0039】
これにより、体積抵抗率rは、次のようになる。
r=1/E (式3)
【0040】
すなわち、体積抵抗率rは、Young率の逆数で与えられる。
【0041】
(ii)BMD値とYoung率の関係
骨片のBMD値を基にYoung率を算出し、このYoung率を用いることで、式(3)により連結パス1本毎の体積抵抗率rを求めることが可能である。
E/Ec=ε-0.06(ρ/ρc)3
【0042】
ここで、ρは測定点密度(mg/cm3)、ρcは緻密骨密度(mg/cm3)(ρc=1800mg/cm3)、Ecは緻密骨のYoung率(Ec=22.1GPa)、εは負荷スピードで与えられる。
【0043】
なお、Young率は重量密度の3乗に比例するといわれている(Dennis R. Carter 他 「The Compressive Behavior of Bone as Two−Phase PorousStructure」 The Journal of Bone and Joint Surgery VOL. 59−A No. 7, October 1977)。
【0044】
(iii)BMD値によるYoung率の簡易算出
上述したCarter等の関係式により、Young率をBMD値の3乗に相関させ、その逆数として、体積抵抗率を求める。
【0045】
これより、骨の体積抵抗率rを、次のよう算出した。
(a)海綿骨低密度の場合のBMD値120(mg/cm3)であり、この時の体積抵抗率R=3.933(Ωm)となった。
(b)海綿骨高密度の場合のBMD値500(mg/cm3)であり、この時の体積抵抗率2.15(Ωm)となった。
(c)緻密骨の場合のBMD値1200(mg/cm3)であり、この時の体積抵抗率1(Ωm)となった。
【0046】
「実施例」
[実験1 骨粗鬆症女性と健康男性の椎体比較]
(1)検体とCTスキャン骨抽出
検体A:圧迫骨折を有する70歳女性
検体B:骨折のない57歳男性
クリニカルCT画像 第3腰椎
CT装置:シーメンス社、16列、MDCT
撮影条件:120kV、207mA、スライス厚0.6mm スキャン
再構成:FOV100mm、画像断層厚0.2mm
フィルタ:骨条件
【0047】
(2)方法
骨画像より緻密骨CT値をもとめ、そのBMD値を1200mg/cm3、低密度の海綿骨CT値を求め、そのBMD値を120mg/cm3と与え、リニアに補間しCT値をBMD値に換算する検量線を作成した。
【0048】
検体A,検体Bとも同一検量線を用い、CT値をBMD値に換算した。これをBMD画像と呼ぶ。
【0049】
骨抽出、骨はBMD値150mg/cm3で抽出した。上側終板を荷重面とし、下側終板を固定面とし、連結パス解析を行った。海綿骨、皮質骨、上下終板全てを含む連結パス6面体メッシュを生成した。
【0050】
図3A〜図3Bは、0.4mm以下で分割した詳細メッシュであり、皮質骨、海綿骨を含む連結パスネットワークを示している。図3A上は検体Aの皮質骨および海綿骨、図3B上は検体Bの皮質ことおよび海綿骨について作成された連結パスネットワークを示し、図3A下は図3A上の拡大像、図3B下は図3B上の拡大像である。これより、皮質骨、海面骨間を含む骨全体が連結パスにより接続されていることがわかる。また、皮質骨、海綿骨間に差異はつけず、海綿骨、皮質骨のそれぞれにおけるBMD値の違いが反映されている。すなわち、低密度の骨である検体Bにおいて、空間が大きくなっていることがわかる。
【0051】
図4A〜図4Dは、解析に用いた連結パスネットワークを示す。検体Aの骨3D像(図4A)と連結パスメッシュ(図4B)、検体Bの骨3D像(図4C)と連結パスメッシュ(図4D)である。メッシュの長さは2mm以下で分割した。3D解析ソフトTRI/3DBON(RATOC)により終板間に加わる外部負荷に対し椎体海綿骨・皮質骨連結パスが発生する抗力を算出した。
【0052】
(3)結果
図5は、骨が外部負荷による変形に対抗して発生するパワーの大きさを示す。回路方程式では電圧・電流の積に当る量である。図はモノクロであり、識別が困難であるが、赤が大、青が小である。左はSagital方向により見た断面像、右は正面よりみた3D像である。検体Aでは、上下方向の中間部において、赤色の部分が広く存在しており、検体Bでは中間部において、小さな赤い部分が散在するだけである。これより、本形跡によって検体Aにおいて、連結パスネットワークが粗であることに起因して、大きな力が掛かる部分が存在することがわかる。また、検体Aにおいて、皮質骨の多くの部分が赤くなっており、皮質骨に大きな力が掛かっていることがわかる。検体Bにおいても、皮質骨に比較的大きな力が加わっている。
【0053】
さらに、いずれの検体においても終板は青くなっており、エネルギーの消費が少ない。また、終板は面で外力を受けているため、力が分散されていることがわかる。
【0054】
(4)考察
このように、検出結果から、検体Aは海綿骨の欠けた空洞の周りで強い抗力を発生する部位と抗力に寄与しない骨が混在している。皮質骨は強い抗力を発生していることがわかる。
【0055】
検体Bは、上下終板直下では強い抗力を発生し中央部位では抗力は弱く負荷が分散されていることが分かった。検体Bの抗力分布は、椎体の上、中、下3層に分かれ解剖学的な海綿骨構造の特徴を示している。一方、検体Aは、中央部の海綿骨の断裂により本来持っていた構造が失われていることが伺える。
【0056】
「実験2 皮質骨の作用」
(1)検体、CTスキャン
実験1と同じ検体CT画像
【0057】
(2)方法
椎体の上下方向中央の高さ10mmを切り取り、椎体の海綿骨のみのモデル及び海綿骨+皮質骨のモデルについて連結パス解析と応力シミュレーションを行う。連結パスのメッシュ分割は2mm以下で分割した。
【0058】
図6Aは、解析に用いた検体Aの海綿骨+皮質骨モデルメッシュ分割を示し、図6Bは連結パススケルトンを示す。
【0059】
皮質骨だけではなく海綿骨も構造を保ったまま、厚さを反映したメッシュに分割されている。皮質骨厚さは2mm以下の部分がほとんどであるため、前後の揺らぎはあるものの皮質骨は1層のメッシュで分割されている。
【0060】
「FEM 解析条件」
FEM応力解析シミュレーションは次の条件で行った。
【0061】
FEMメッシュ:1片の長さ0.2mmの6面体メッシュ、すなわち1ボクセルで1メッシュを作成した。
固定面:下終板側
荷重面:上終板側
荷重:分布荷重上から下側へ500N
骨折判定:荷重を増やしていった時、8面体せん断応力τoctが2Mpaを超える部位の体積が1%以上となった時の荷重値
FEMソルバー:TRI/3D−FEM(RATOC,Tokyo,Japan)
【0062】
(3)結果
(i)連結パス解析結果
図7A、図7Bは、検体のBMD画像である。図はモノクロであり、識別が不能であるが、赤は1200mg/cm3、青は150mg/cm3として、荷重に応じた表示を行っている。図7Aは検体A、図7Bは検体Bのものである。
【0063】
図8は海綿骨モデル及び海綿骨+皮質骨モデル用いた連結パス解析の結果である。図において、縦軸は、椎体電気回路モデルの全電流であるI値、即ち力学的変位に対し、骨が発生する抗力の合計を意味する(以下、抗力Iとして説明する)。この値が大きいほど外部負荷に対し抵抗力が大きいことを意味する。(a)は検体A、(b)は検体Bの値である。左側の棒は海綿骨のみのモデル(TB)による解析結果。右側の棒は皮質骨を含む骨モデルの解析結果である。検体AのTBおよびTB+CBは、検体BのTB、TB+CBの1/2倍以下である。
【0064】
(ii)連結パス枝の抗力
図9A、図9Bは、検体A、Bについての連結パスの枝毎の発生する抗力値を擬似カラーで表示したものである。図では識別できないが、赤は大、青は小である。これは、海綿骨モデル(TB)と海綿骨+皮質骨モデル(TB+CB)の連結パストータル抗力変位を与えた時に発生する抗力に相当する。図はモノクロであり、識別が不可能であるが、検体Aでは、皮質骨の一部に赤の部分が散在するだけであるが、検体Bでは多くの皮質骨の部分が赤であり、海綿骨にも赤の部分が点在する。このように、解析結果から検体Bが検体Aに比べ大きな抗力を持つことが理解される。
【0065】
図10には、FEM応力解析シミュレーションの結果を示す。縦軸は骨折荷重(Fracture Load(N))の値である。骨折荷重値が大は骨が強いことを意味する。検体Bの骨が強いことがわかる。
【0066】
(4)考察
図7A、図7BのBMD画像より、検体Aは全体的にBMD値が低い。特に、皮質骨において顕著であることがわかった。一方、検体Bは皮質骨のBMD値が海綿骨より著しく高い。
【0067】
BMD値よりYoung’s modulusを算出し、その逆数として、体積抵抗率を求め、椎体電気回路モデルを作成する。本モデルは、骨片に対し、断面積、長さの形状要素とBMD値を反映させている。これらの終端間を接続する枝の連鎖により、モデル全体の抗力が算出される。BMDの高い部位は低い部位に比し、強い抗力を発生する。
【0068】
図9A、9Bより検体Bは皮質骨において、強い抗力を発生する連結パスで囲まれてことがわかる。これは主にBMD値の高いことを反映したものと思える。一方、検体Aは各部位とも抗力の発生が弱い。更に皮質骨に抗力が弱い部位、海綿骨に抗力の強い部位が散見される。皮質骨の脆弱性とともに、海綿骨の消失の影響があり、海綿骨で負荷を受ける割合が増えているものと思われる。
【0069】
図10より、検体Aは、FEM応力シミュレーションにおいて、皮質骨だけでなく海綿骨にも強い応力がかかっていることが分かる。これは海綿骨の消失と皮質骨の変位量が大きく、海綿骨の応力緩和ができない状態を反映したものと思える。皮質骨にかかる応力の分布は皮質骨のBMD値パターン、連結海綿骨量を反映しており、骨強度を考える上で皮質骨BMD値分布と連結海綿骨が重要であることを示すものと推察できる。検体BのTBモデルの骨折荷重の割合が47%と低い理由の検討海綿骨+皮質骨(TB+CB)の抗力から海面骨(TB)の値を引いた値が近似的に皮質骨の抗力である。この関係を図8、図10を用い計算すると海綿骨の椎体強度に締める割合は連結パス抗力では検体Aが57%、検体B56%であった。皮質骨よりもいずれも海綿骨の割合が高い値を示した。
【0070】
一方、FEMシミュレーションによる骨折荷重による比較では検体Aは55%とほぼ連結パス抗力の値と同じ値を示したが、検体Bでは47%と連結パス抗力より低い値を示した。
【0071】
椎体Bの皮質骨のBMD値は海綿骨に比べ、著しく高い値を持っていることから検体BのTB+CBモデルの骨折荷重がTBモデルに比し相対値が大きくなったものと推定された。即ちFEM応力シミュレーションでは変形による応力緩和を反映しえるが、連結パス抗力は形状から計算するため、変形は考慮しない。この結果、前者では皮質骨を含むモデルの海綿骨の骨折が少なくなり、骨折荷重は高くなる。
【0072】
「実験3連結パス解析による抗力とFEM応力シミュレーション骨折荷重との相関計測」
(1)検体CTスキャン骨粗鬆症患者のMDCT画像、撮影条件、BMD画像作成条件は実験2と同一である。
検体数:10、平均年齢:70.6歳であった。
【0073】
(2)方法
連結パス解析条件:メッシュ生成条件等:実験2海綿骨連結パス解析と同一
FEM応力シミュレーション条件:実験2海綿骨応力シミュレーションと同一
骨折判定条件:実験2応力シミュレーションの骨折判定条件と同一
【0074】
(3)結果
図11は連結パス解析による抗力Iと同一モデルを使用したFEM応力シミュレーションにより得られた骨折荷重をプロットしたものである。縦軸は骨折荷重、横軸は抗力Iである。両者はPearsonの相関係数R2=0.962(p<0.01)で相関した。
【0075】
連結パスによる抗力計測は皮質骨、海綿骨を6面体メッシュで近似し、連結パスを得る。そのときのメッシュサイズは骨幅小の箇所は細かく、幅大の箇所は制限幅のメッシュを複数用い、発生するメッシュ数を最適化する。一方、FEM応力シミュレーションはVoxelサイズの6面体を用いる。
【0076】
連結パス解析で用いるメッシュの作成条件はFEM解析で用いるVoxelメッシュより自由度高く数を減らし、計算負荷を低減させることが可能である。連結パスモデルは負荷方向の連結パス形状を測定するものであるが、そこで得られる連結パス抗力はFEM応力シミュレーション解析による骨折荷重と正の相関を示すので、骨強度を反映した指標になっていると言える。
【0077】
「実験4 海綿骨と皮質骨の椎体強度に占める割合と年齢依存性」
(1)検体、CTスキャン、骨粗鬆症患者のMDCT画像、撮影条件、画像処理条件は、実験2と同一である。
検体数:10点、年齢64〜77才骨粗鬆症患者、平均年齢70.3歳であった。
【0078】
(2)方法
海綿骨(TB)のみのモデルと皮質骨(CB)のみのモデル、皮質骨を含む全骨(TB+CB)モデルを用い、連結パス解析を行い比較した。
【0079】
(3)結果
(i)各モデルの抗力比較
図12は連結パス解析により得られた海綿骨(TB)モデルの抗力(青)と皮質骨(CB)モデル抗力(赤)と皮質骨を含む全骨モデル(TB+CB)により得られた抗力(黄色)のグラフである。
【0080】
横軸は年齢順に並べてある。縦軸は外部負荷に対して、骨モデルが発生する合計の抗力である。
【0081】
(ii)年齢との相関
図13、図14は、図12について年齢を横軸にして抗力をプロットしたものである。図13は海面骨(TB)モデルの抗力、図14は皮質骨(CB)モデルの抗力である。海綿骨は年齢に対し有意ではないものの負の相関傾向を持っていることが分かる。皮質骨には年齢との相関は見られない。
【0082】
(iii)海綿骨、皮質骨の抗力の全骨抗力における寄与度
図15、図16は、皮質骨を含む全骨モデルを海綿骨と皮質骨に分けてみた時の抗力の寄与度を%で表す。横軸は年齢である。図15海面骨の寄与度、図16は皮質骨の寄与度である。
【0083】
このように、年齢により皮質骨の寄与度は増加傾向にある。加齢により海綿骨が減少し、連結パス抗力を低下させていることが分かる。一方、皮質骨は年齢による相関は見出せなかった。
【0084】
(4)考察
図11より、海綿骨、皮質骨、両方合成したモデルをそれぞれシミュレーションした場合、両方合成したモデルの抗力は近似的に数%の差で各モデルの抗力の和に等しい値となる。このことは海綿骨と皮質骨の接合部に考慮を必要とすることがある可能性を示す。
【0085】
図15は加齢による海綿骨の減少を示している。骨強度に対する寄与度が年齢により海綿骨で減少し、皮質骨で増加するのは主に海綿骨の減少によりもたらされると推察できる。
【0086】
海綿骨の椎体強度に対する寄与度は70歳でも60%以上ある。椎体皮質骨はBMD値は海綿骨より高いものの幅が細く、海綿骨の加齢による減少は構造的に皮質骨の負担を高め、皮質骨BMD値の低下は皮質骨の骨折の危険度を更に高めているものと推察できる。
【0087】
「まとめ」
1.本実施形態では、連結パス強度測定法(ConnPath法)により骨の強度を測定することができる。本手法では、海綿骨連結パス、皮質骨連結パス及びそれらのBMD値を反映した椎体の力学強度を形状より求め、終板間にかかる外部負荷に対する椎体の強度を測定する。
【0088】
2.骨粗鬆症疾患者9例のMDCT画像を用い、連結パス解析で求めた海綿骨抗力とFEM応力シミュレーションで求めた骨折荷重との相関を調べた。
【0089】
両者はPearsonの相関係数R2=0.96(p<0.00)で正の相関を示した。ConnPath解析で求める抗力は骨強度を反映した指標となっているものと考えられた。本手法によって海綿骨、皮質骨の接合部位を含めた構造変化と強度の解析が可能と考えられた。
【0090】
3.本手法を用い、骨折を有する骨粗鬆症の70歳女性と骨折のない57歳男性の第3腰椎を測定した。椎体全体の測定においては57歳男性の椎体は解剖学的構造を反映した抗力分布が得られた。70歳女性の椎体解析においては、海綿骨の欠けた空洞の周りでは強い抗力を発生する海面骨の連結パスが存在し、骨粗鬆症化による海綿骨構造の変化を反映しているものと推察できた。
【0091】
4.更に両検体を用い、椎体中央部の10mmの高さを海綿骨、皮質骨+海面骨両モデルで測定し、また、同一モデルを用いFEM応力シミュレーションを行い、椎体中央部における海綿骨の椎体強度に寄与する割合を調べた。
【0092】
ConnPath法とFEMシミュレーションでは海綿骨の椎体強度に締める割合は検体Aで前者は57%、後者は55%とほぼ一致。検体Bでは56%と47%と食い違った。この原因は皮質骨BMD強度の差と考察できた。
【0093】
5.64〜77歳の骨粗鬆症患者10例のMDCT画像を用い、椎体中央部10mm幅の連結パス解析を行い、年齢による連結パス強度の変化と海綿骨、皮質骨の骨強度に対する寄与度の変化を求めた。
(ア)海綿骨は加齢により連結パス強度は減少し、皮質骨は加齢と無相関であった。
(イ)海綿骨部分の骨強度に対する寄与度は65%程度、加齢に伴い、海綿骨の寄与度は減少傾向を示した。皮質骨部分の骨強度に対する寄与度は平均35%程度であった。加齢とともに寄与度は上昇する傾向を示した。これは加齢による海綿骨の減少を反映したものと推察された。
【0094】
6.以上よりConnPath解析法は椎体の連結形状によって得られる力学強度を反映しており、形状、変形による椎体の脆弱性の指標として有効であると考えられた。
【0095】
「フィルタについての適用」
上述の例では、骨の評価を行った。評価の対象をフィルタにすることも可能である。この場合ネットワークは、フィルタ本体中に形成される通路である。フィルタには、各種のものがあるが、フィルタ本体に開口があり、この開口を通過できるものと、通過できないものをろ別するのが基本的な作用である。
【0096】
図17には、フィルタの模式図が示されている。フィルタ100は、その内部にフィルタ本体102を貫通する多数の通路104が存在し、原水がこの一方側から他方側へと通過する。この際に、フィルタ100の内部において所定の遅延が発生する。これは、通路の性状と、対象物体の性状に起因する。例えば、燃料電池においては、核燃料電池セルの内部に、MEA膜/電極接合体 (Membrane Electrode Assembly, MEA)と呼ばれる部材が配置される。このMEAの高分子電解膜の両側に配置される電極には、カーボンブラック担体上に白金触媒を担持したものなどが用いられるが、これらは基本的に連通する通路を有する多孔質材料である。そして、その通路の特性によって、必要とする物質の通過特性が決定される。
【0097】
図18には、この通路102の状態が示されており、通路102は、複数の枝が接続された構成になっている。このような構造体(フィルタ)におけるプロトン(H+)や、酸素の移動は、通路の形状により決定されるため、この評価が重要となる。
【0098】
本実施形態では、このような通路について、メッシュに分割して、そのメッシュの重心間を結ぶ連結パスに変換する。
【0099】
そして、得られた連結パスについて、上述のように回路方程式を立て、これを解くことで、フィルタにおける抵抗を評価することができる。すなわち、回路における抵抗値がフィルタ全体としての抵抗に該当する。
【0100】
「その他」
なお、上述の例では、一方側の面から、他方側の面に向けてのネットワーク構造体を対象とした。しかし、メッシュのネットワーク構造体を利用することにより、任意の点や面から他の点や面へのネットワーク構造体を定義することによって、同様の方法で、その特性を評価することが可能である。
【符号の説明】
【0101】
100 フィルタ、102 通路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワーク構造体の特性定量方法であって、
前記ネットワーク構造体を所定の大きさのメッシュに分割し、
構造体が連続するメッシュの重心同士を接続することで、連結パスを形成し、
得られた連結パスについて、メッシュ毎に構造体の特性値に対応する電気抵抗値を割り当て、対応する電気回路を得、
得られた電気回路の回路特性を調べることによって、ネットワーク構造体の特性を定量することを特徴とする特性定量方法。
【請求項2】
請求項1に記載の特性定量方法であって、
前記ネットワーク構造体は、骨であって、前記構造体の特性値はBMDであることを特徴とする特性定量方法。
【請求項3】
請求項2に記載の特性定量方法であって、
前記電気抵抗値は、抵抗率が1/BMD3に比例する値として設定することを特徴とする特性定量方法。
【請求項4】
請求項2に記載の特性定量方法であって、
パイプ状の皮質骨について、
軸方向の切り込みを入れて、板状に展開してからメッシュに分割し、重心同士を接続することで、パイプ状に復元することを特徴とする特性定量方法。
【請求項5】
請求項1に記載の特性定量方法であって、
前記ネットワーク構造体は、多孔質フィルタであって、前記構造体の特性値は通路の流体抵抗であることを特徴とする特性定量方法。
【請求項1】
ネットワーク構造体の特性定量方法であって、
前記ネットワーク構造体を所定の大きさのメッシュに分割し、
構造体が連続するメッシュの重心同士を接続することで、連結パスを形成し、
得られた連結パスについて、メッシュ毎に構造体の特性値に対応する電気抵抗値を割り当て、対応する電気回路を得、
得られた電気回路の回路特性を調べることによって、ネットワーク構造体の特性を定量することを特徴とする特性定量方法。
【請求項2】
請求項1に記載の特性定量方法であって、
前記ネットワーク構造体は、骨であって、前記構造体の特性値はBMDであることを特徴とする特性定量方法。
【請求項3】
請求項2に記載の特性定量方法であって、
前記電気抵抗値は、抵抗率が1/BMD3に比例する値として設定することを特徴とする特性定量方法。
【請求項4】
請求項2に記載の特性定量方法であって、
パイプ状の皮質骨について、
軸方向の切り込みを入れて、板状に展開してからメッシュに分割し、重心同士を接続することで、パイプ状に復元することを特徴とする特性定量方法。
【請求項5】
請求項1に記載の特性定量方法であって、
前記ネットワーク構造体は、多孔質フィルタであって、前記構造体の特性値は通路の流体抵抗であることを特徴とする特性定量方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−125418(P2011−125418A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284827(P2009−284827)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(591150498)ラトックシステムエンジニアリング株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(591150498)ラトックシステムエンジニアリング株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]