説明

特有の条件下でのアルケノンのハロゲン化前駆体の製造方法

本発明は、乱流条件下に液体反応媒体中でカルボン酸ハロゲン化物をビニルエーテルと反応させる工程を含む、アルケノンのハロゲン化前駆体の製造方法に関する。本発明はまた、前記前駆体からハロゲン化水素を脱離させてアルケノンを形成することによる、アルケノンの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、この出願の全体内容があらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、2009年7月6日出願の国際出願PCT/EP2009/058525号および2010年1月7日出願の欧州特許第10150229.2号に対する優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、乱流条件下のアルケノンのハロゲン化前駆体の製造方法に関する、およびまたそれによって得られたハロゲン化前駆体からのアルケノンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテノン(ETFBO)などの、ハロゲン化アルケノンエーテルは、例えば、(特許文献1)に開示されているように、化学合成における構成単位である。それらは、前述の米国特許に記載されているように、塩基の存在下に酸塩化物をビニルエーテルと反応させることによって製造することができる。この反応のために、塩基はまた溶媒として過剰に使用されてもよい。
【0004】
(特許文献2)は、オニウム塩の存在下にビニルエーテルと酸ハロゲン化物または酸無水物とからのアルケノンの製造を開示している。エチルビニルエーテルへのトリフルオロ酢酸無水物付加の場合には、トリフルオロ酢酸無水物を含有する反応媒体へのエチルビニルエーテルの添加およびエチルビニルエーテルを含有する反応媒体へのトリフルオロ酢酸無水物の添加の両方が記載されている。
【0005】
(特許文献3)はとりわけ、ビニルエーテルへのカルボン酸ハロゲン化物の付加を含むアルケノンの簡略化製造を開示している。実施例では、トリフルオロアセチルクロリドがエチルビニルエーテルに付加させられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,708,174号明細書
【特許文献2】国際公開第03/066558号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/108647号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アルケノンのハロゲン化前駆体の改良された製造方法を提供することである。本発明の別の目的は、特に製造の選択率および収率に関して、ハロゲン化前駆体からのアルケノンの製造方法であって、それによって、とりわけ、生成物の分離を簡略化することができ、かつ、物質の損失および副生物の廃棄処分の必要性を低減することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、乱流状態にある、液体反応媒体中でカルボン酸ハロゲン化物をビニルエーテルと反応させる工程を含む、アルケノンのハロゲン化前駆体の製造方法に関する。
【0009】
本方法は、式(I)
−C(O)−CH−CHX−OR (I)
(式中、Rは、少なくとも1つのハロゲン原子で場合により置換されているC1〜C10アルキル基を表すかまたはRはCF、CFCl、CFHを表し;Rはアリール、置換アリール、または少なくとも1つのハロゲン原子で場合により置換されているC1〜C10アルキル基を表し、Xはフッ素、塩素または臭素を表す)のハロゲン化アルケノン前駆体を製造するために好ましくは行われ、ここで、式(II):R−C(O)X(II)(式中、Xはフッ素、塩素または臭素を表し、Rは上に与えられた意味を有する)に相当する酸ハロゲン化物が式(III):CH=C(H)−OR(III)(式中、Rは上に与えられた意味を有する)に相当するビニルエーテルと反応させられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
R1は多くの場合フッ素化C1〜C4アルキル基である。R1は好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルまたは少なくとも1個のフッ素原子で置換されたメチル、エチル、n−プロピルもしくはイソプロピルを表す。R1がメチル、エチルまたは少なくとも1個のフッ素原子で置換されたメチルもしくはエチルを表すことがとりわけ好ましい。CF、CFH、CFC1、C、CがR1として特に好ましい。CF、CFClおよびCFHがR1としてより特に好ましい。
【0011】
R2は、アリール、例えば、フェニル、C1〜C4アルキル基、および/またはハロゲン原子で置換されたフェニルから選択することができる。R2は多くの場合C1〜C4アルキル基である。好ましくは、R2は線状または分岐のC1〜C4アルキル基を表し、特に好ましくはR2はメチル、エチル、n−プロピルもしくはイソプロピル、最も好ましくはメチルまたはエチル基を表す。
【0012】
Xは好ましくはフッ素および塩素から選択され、より好ましくはXは塩素である。
【0013】
式(I)のハロゲン化アルケノン前駆体から製造することができるアルケノンは、式(IV)
−C(O)−CH=CH−OR (IV)
(RおよびRは、式(I)におけると同じ意味を有する)
のアルケノンである。
【0014】
用語「乱流」状態は、「層流」状態と区別されるような、とりわけ高い運動量対流および高いレイノルズ(Reynolds)数を示す、流体力学で使用される意味を含むが、この用語はこの意味に限定されない。用語「乱流の」は、反応混合物の非常に効率的な混合を広く意味する。
【0015】
反応媒体の乱流状態は、撹拌、流れ抵抗を通しての反応媒体の通過、例えば不活性気泡などの気泡の導入による反応媒体の混合から選択される操作によって、例えば、達成することができる。別の態様では、反応は、出発原料の少なくとも1つがガス状である圧力および温度の条件下で実施される。その場合、出発原料を液体形態で導入することが有利である。反応媒体中に乱流を提供する気泡は、液化出発原料がガス状態になるときに発生する。さらに、気化は反応媒体から熱を消費し、そのことは非常に有利なことである。カルボン酸ハロゲン化物、特にトリフルオロアセチルクロリドは、この目的のための好適な出発原料である。
【0016】
それ故に、本発明の一態様は、液体反応媒体中でカルボン酸ハロゲン化物をビニルエーテルと反応させる工程を含むアルケノンのハロゲン化前駆体の製造方法であって、カルボン酸ハロゲン化物の少なくとも一部が液体状態で反応媒体中へ導入される方法に関する。好ましくは、ハロゲン化アシルの少なくとも99重量%は、液体状態で反応媒体中へ導入される。
【0017】
本方法の好ましい出発原料は、上記の方法の好ましい出発原料に相当する。式R−C(O)X(式中、RはCF、CFH、CFC1、C、Cである)のアシルクロリドが好ましい。式CH=C(H)−OR(式中、Rはメチル、エチル、n−プロピルまたはイソプロピルを表す)のビニルエーテルが好ましい。好ましい前駆体はCETFBOである。
【0018】
反応媒体における撹拌は、タービンもしくは攪拌機などの内部撹拌を用いて、または反応器の外部の循環パイプを用いて実現されてもよい。
【0019】
流れ抵抗の典型的な例は例えば、ガラスリングおよびラシヒ(Raschig)リングなどの反応器中に置くことができる造形物体である。
【0020】
本方法が連続モードで実施されるときに特に有利である、この特有の実施形態の特定の態様では、ビニルエーテルおよびカルボン酸ハロゲン化物は、内側供給管および外側供給管を有する同心ノズルを通して液体反応媒体中へ導入されてもよい。この態様では、ビニルエーテルは好ましくは内側供給管を通して供給され、カルボン酸ハロゲン化物は好ましくは外側供給管を通して供給される。
【0021】
意外にも、液体反応媒体に乱流状態を生み出すことによって、ホットスポットが前記反応媒体中で実質的に回避され、それによってアルケノンのハロゲン化前駆体のおよびこの前駆体から得られるアルケノンの収率および純度を向上させ得ることが分かった。
【0022】
本発明の目的のためには、用語「ホットスポット」は具体的には、反応が実施される温度より実質的に高い温度を有する反応媒体のゾーンを意味する。「実質的により高い温度」は、液体反応媒体の平均温度より少なくとも5℃、多くの場合少なくとも10℃高い温度と理解される。
【0023】
ホットスポットはハロゲン化水素の脱離を引き起こすことが観察され、ハロゲン化水素は望まれない副反応を引き起こすことが分かった。従って、本発明によれば、付加反応で非常に低いレベルのハロゲン化水素形成を提供すること、好ましくはその形成を全く実質的に回避するが好ましい。「実質的に回避する」は具体的には、1重量%以下の反応媒体中のハロゲン化水素の含有率を維持することを意味する。好ましくは、この含有率は0.5重量%以下に維持される。ハロゲン化水素の形成が実質的に回避されるとき、反応媒体の総重量に対して0.1重量%以上であろうとも、0.01重量%以上の反応媒体中のハロゲン化水素の含有率は許容される。
【0024】
この特有の実施形態による方法は一般に、反応を0℃〜40℃、好ましくは10℃〜30℃、より好ましくは25℃に等しいかまたは約25℃、最も好ましくは20℃に等しいかまたは約20℃の温度で実施する工程を含む。必要ならば、反応はまた、0℃未満、例えば0℃〜−50℃の温度で行うことができるが、反応速度はより低い。0℃〜40℃の温度で操作することが好ましい。
【0025】
この特有の実施形態による方法では、反応は好ましくは連続撹拌タンク型反応器(CSTR)で実施される。
【0026】
特定の態様では前記連続撹拌タンク型反応器はプラグフロー型反応器と組み合わせられる。その場合、一般に、液体反応媒体の少なくとも一部は、連続撹拌タンク型反応器から抜き出され、プラグフロー型反応器でさらなる反応にかけられる。この場合、CSTR反応器は通常乱流状態にあるが、プラグフロー型反応器は乱流または層流状態にあることができる。プラグフロー型反応器では、ハロゲン化アシルが1:1か1:1より低いかのどちらかのハロゲン化アシル:ビニルエーテルのモル比で(すなわち、等モル量のビニルエーテルまたは過剰のビニルエーテルの存在下に)ビニルエーテルと反応させられる場合、反応を層流状態で行うことが好ましい。プラグフロー型反応器が乱流状態で運転される場合、その気泡が反応媒体の成分の混合を強めるので、過剰のハロゲン化アシルを適用することが好ましい。
【0027】
CSTRの特定の実施形態には、1個以上の円筒形または球形タンクからなる反応器であって、液体反応媒体の乱流状態が上記の方法のいずれかによって生み出される反応器が含まれる。2個以上のCSTR反応器、例えば2、3または4個の反応器が使用されるとき、ビニルエーテルを各反応器に供給するためにビニルエーテルの供給物を分けることが有利である。
【0028】
プラグフロー型反応器の特定の実施形態は、供給物が一端で入り、他端で出る円筒形管の形態にある。
【0029】
酸ハロゲン化物とビニルエーテルとの付加反応は発熱である。上述の通り、それは好ましくは0℃〜40℃の温度で行われ、従って、反応媒体は好ましくは冷却される。
【0030】
別の特定の態様では前記連続撹拌タンク型反応器は、熱交換器と組み合わせられる。前記熱交換器は有利には、発熱反応の間ずっと反応器から熱を除去することができる。熱交換器は、CSTRに追加された分離した装置であることができるかまたは熱交換器と反応器とは装置の単一体へ組み合わせることができる。
【0031】
例示の目的で、次の装置:二重ジャケット、外側および内側コイルなどは、CSTRに追加されるときにとりわけ、熱交換器として使用することができる。
【0032】
熱交換器が反応器から分離された装置である場合、反応媒体の一部は、熱交換器または冷却機経由でループを通過させることができる。これは好ましくは連続的に行われる。
【0033】
攪拌機は、単段もしくは多段実施形態、とりわけ接線流成分のみならず、軸流場をも生み出すものであってもよい。好ましい攪拌機は、1つ〜7つの撹拌翼ステージが、好ましくは等距離で、軸方向攪拌機シャフト上に取り付けられたものである。例は、翼、アンカー、羽根車、プファウドラー(Pfaudler)、ディスク、ヘリカル、棒、フィンガープロペラ、シグマ、パドル、傾斜翼および、クロス−アームなどの、同軸攪拌機である。マルチフロー、マルチパルス向流、インターミッグ(Intermig)およびインタープロ(Interpro)攪拌機。好適な反応器は、米国特許第6,428,199号明細書に記載されている。そこに記載されている反応器は、撹拌機構、入ってくるおよび出ていくラインならびに取り外し可能なヘッドを有し、ここで、入ってくるおよび出ていくラインの両方ならびに撹拌機構は反応器床上に設置されている。
【0034】
本発明の方法に使用することができる反応器は、米国特許出願公開第2006/0198771 A1号明細書に記載されている。円筒形垂直撹拌反応器は、底部でのガス(または液体)反応体の注入の手段と、不可欠の部分として、単一の垂直撹拌シャフトに沿って配置された遠心式タービンとを備えていた。このシャフトは、反応器の上か下かのどちらかに多くの場合置かれているギヤ付モータ装置で駆動される。反応器は、カウンターバッフルおよび/または熱交換器を備え付けられてもよい。
【0035】
ここで、アルケノンのハロゲン化前駆体を製造するために使用することができる別の装置が記載される。
【0036】
この装置は、第1手段がボイラー、ラシヒ(Raschig)リングで充填されたパイプ、遠心ポンプ、それぞれパイプを持った管型反応器付き循環システムを含む、2つの手段を含む。生成物は、これらの反応器のそれぞれの前および後に加えるまたは(分析目的のために)取り出すことができる。安全上の理由で、冷却器および冷トラップ付きのさらなる長さのパイプを、循環の後に取り付けることができ;ここで、第2手段は、受器としておよび有機生成物への有機生成物前駆体の、例えば4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−ブタン−2−オン(CETFBO)からETFBOへの熱分解のために使用され、ラシヒリング入りカラムパイプ付きセラミックボイラーと取り出し付き冷却器とを含む。
【0037】
セラミックは本発明の方法の攻撃的条件下に非常に耐性があることが分かったので、少なくとも内壁上をセラミックでコートされている反応器がとりわけ好適である。それ故に、本発明の別の態様は、液体反応媒体中でカルボン酸ハロゲン化物をビニルエーテルと反応させる工程であって、反応がその内壁がセラミックでコートされている反応器で行われる工程を含むアルケノンのハロゲン化前駆体の製造方法に関する。必要ならば、反応器壁はセラミックからなってもよい。反応媒体と接触する反応器の少なくともそれらの部分はセラミックでコートされていることが好ましい。本方法の好ましい出発原料は、上記の本方法の好ましい出発原料に相当する。式R−C(O)X(式中、RはCF、CFH、CFCl、C、Cである)のアシルクロリドが好ましい。式CH=C(H)−OR(式中、Rはメチル、エチル、n−プロピルまたはイソプロピルを表す)のビニルエーテルが好ましい。好ましい前駆体はCETFBOである。
【0038】
アルケノン、特にETFBO、およびハロゲン化前駆体、特にCETFBO(1,1,1−トリフルオロ−4−クロロ−4−エトキシブタン−2−オン)が本発明の方法によるカルボン酸ハロゲン化物とビニルエーテルとの反応用の溶媒として有利に使用できることが分かった。溶媒として使用されるハロゲン化前駆体およびアルケノンは、それぞれ、ハロゲン化前駆体およびその脱ハロゲン化水素されたアルケノンに相当する。
【0039】
好ましい、一実施形態では、前記反応用の液体反応媒体は、アルケノン、特にETFBOを含む。アルケノンは一般に、反応媒体の総重量に対して50〜99重量%、好ましくは60〜99重量%、より好ましくは75〜99重量%のアルケノンの量で使用される。
【0040】
この実施形態は、前記反応を開始するために特に有利である。
【0041】
アルケノンは好ましくは、外部源、例えばアルケノンの前回の回分製造から反応に提供される追加のアルケノンを含む。この実施形態の一態様では、前記反応は、特に製造プロセスの開始中に、カルボン酸ハロゲン化物を前記アルケノン含有液体反応媒体中へ導入することによって実施される。アルケノンおよびカルボン酸ハロゲン化物を含む液体反応媒体へのビニルエーテルの導入後にアルケノンのハロゲン化前駆体が形成されることは一般に、ハロゲン化前駆体とアルケノンとを含有する液体反応媒体を提供するであろう。
【0042】
この実施形態はまた、ビニルエーテルがカルボン酸ハロゲン化物を含有する反応媒体に加えられない、例えば、ビニルエーテルがアルケノン含有反応媒体に溶解され、カルボン酸ハロゲン化物が次にビニルエーテルとアルケノンとを含有する反応媒体に加えられる、上記の反応と同じタイプの反応に適用されてもよいことが理解される。
【0043】
別の実施形態では、カルボン酸ハロゲン化物とビニルエーテルとの反応用の液体反応媒体は、アルケノンのハロゲン化前駆体、特にCETFBOを含む。ハロゲン化前駆体は一般に、反応媒体の総重量に対して50〜99重量%、好ましくは60〜99重量%、より好ましくは75〜99重量%のハロゲン化前駆体の量で使用される。
【0044】
本実施形態の好ましい態様では、本方法は連続モードで実施される。連続プロセスでは、液体反応媒体中のアルケノンのハロゲン化前駆体の含有率は一般に、反応媒体の総重量に対して50〜99重量%の範囲の、好ましくは60〜99重量%の範囲の、より好ましくは75〜99重量%の範囲のハロゲン化前駆体に保たれる。これは、定常状態で、例えば連続撹拌タンク型反応器(CSTR)で運転される連続プロセスにとって特に有利である。
【0045】
好ましい態様では、液体反応媒体の残りはカルボン酸ハロゲン化物を含む。
【0046】
液体反応媒体は一般に、反応媒体の総重量に対して少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%のカルボン酸ハロゲン化物を含有する。好ましくはこの含有率は少なくとも5重量%である。この液体は一般に、反応媒体の総重量に対して約20重量%未満のカルボン酸ハロゲン化物を含有する。好ましくはこの含有率は10重量%未満である。好ましくは、この液体は、反応媒体の総重量に対して5〜10重量%のカルボン酸ハロゲン化物を含有する。この特定の態様はまた、本明細書に記載される本発明による方法の異なる実施形態に適用されてもよい。反応は、追加の溶媒の存在下で実施することができる。用語「追加の溶媒」は、反応体、前記反応の生成物および追加のアルケノンまたはこのアルケノンの前駆体とは異なる溶媒を意味すると理解される。使用されるべき溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエンもしくはキシレンなどの芳香族炭化水素;ペンタンもしくはヘキサンなどの脂肪族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルムもしくは二塩化エチレンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(商標Solkane(登録商標)365mfcでSolvay Fluor GmbHによって商業化されている)などのフッ素化炭化水素などのハロゲン化炭化水素;またはジエチルエーテル、ジブチルエーテルもしくはテトラヒドロフランなどのエーテルであってもよい。それらのうち、芳香族炭化水素が好ましい。ベンゼンもしくはトルエンがそれらのうちで特に好ましい。これらの溶媒は、単独でまたは混合物として組み合わせて使用されてもよい。適切な場合、溶媒は通常、カルボン酸ハロゲン化物の1重量部当たり、1〜35重量部、好ましくは3〜16重量部の量で使用される。しかし、追加の溶媒の実質的な不在または不在下に反応を実施することが好ましい。
【0047】
特定の実施形態では、溶媒は、少なくとも1つのハロエーテル、例えば、クロロアルキル−アルキルエーテル、特にクロロエチル−エチルエーテルなどのクロロエーテルをさらに含む。この場合、液体反応媒体中のハロエーテルの含有率は、液体反応媒体の総重量に対して一般に0.1〜5重量%、多くの場合0.5〜2重量%である。ハロエーテルは、アルケノンのハロゲン化前駆体への高い生産性および選択性を達成しながら、特に示された濃度範囲で、液体反応媒体に組み入れることができる好適な溶媒であることが分かった。連続プロセスでは、ハロエーテルの含有率は好ましくは本明細書で上に示された濃度範囲に維持される。
【0048】
アルケノン、アルケノンのハロゲン化前駆体、カルボン酸ハロゲン化物およびビニルエーテルからなるまたは本質的になる液体反応媒体中で反応を実施することがより特に好ましい。この実施形態は、この実施形態は、例えば熱分解または精製操作などのその後のプロセス工程のために特定の利点を有する。
【0049】
本発明による方法ではおよびそれの特定の実施形態では、酸ハロゲン化物対ビニルエーテルのモル比は好ましくは0.8〜1.2、特に好ましくは0.8:1〜約1である。最も好ましくは、このモル比は約1である。
【0050】
本発明による方法ではおよびそれの特定の実施形態では、ビニルエーテルは一般に、カルボン酸ハロゲン化物の1モル当たり0.01〜2モル/時間の速度で液体反応媒体中へ導入される。好ましくはこの速度は、カルボン酸ハロゲン化物の1モル当たり0.5〜1.5モル/時間である。カルボン酸ハロゲン化物の1モル当たり約1モル/時間の速度が良好な結果を与えた。
【0051】
本発明による方法およびその特定の実施形態は、回分式にまたは連続的に実施することができる。
【0052】
本発明による方法ではおよびその特定の実施形態では、特に連続プロセスでは液体反応媒体中のビニルエーテルの濃度を制御することがとりわけ有益である。一般に、この濃度は、液体反応媒体の総重量に対して5重量%未満である。多くの場合液体反応媒体中のビニルエーテルの濃度は、液体反応媒体の総重量に対して1重量%以下である。好ましくは、この濃度は、液体反応媒体の総重量に対して0.5重量%以下である。一般に、この濃度は、液体反応媒体の総重量に対して少なくとも0.1重量%である。
【0053】
ビニルエーテルの濃度の制御は、クロロエーテルまたはポリマー材料などの副生物の形成を回避するかまたは制御することを可能にし、そして本発明の方法に従って製造されるアルケノン前駆体から製造することができるアルケノンの収率および純度を向上させることが分かった。本発明はその結果また、例えば本明細書で前に開示されたように、液体反応媒体中でカルボン酸ハロゲン化物を連続的にビニルエーテルと反応させる工程を含む、アルケノンのハロゲン化前駆体の製造方法であって、液体反応媒体中のビニルエーテルの濃度が制御され、好ましくは本明細書で前に開示された範囲中に維持される方法に関する。
【0054】
アルケノンのハロゲン化前駆体および、好ましくは、アルケノンの溶媒としての使用は他の望まれない化合物の形成を特に回避し、有機生成物、特にアルケノンのハロゲン化前駆体および、好ましくは、アルケノンの収率および純度を向上させることが分かった。すなわち、アルケノンのハロゲン化前駆体および、好ましくは、アルケノンの溶媒としての使用は、複雑な後処理、例えば、溶媒の蒸留、溶媒によってもたらされる副生物の精製などを回避する。
【0055】
本発明の一実施形態では、本発明の方法に従って得られるアルケノンのハロゲン化前駆体はそのようなものとして使用することができる。例えば、それは溶媒として、例えば本発明に従ってその後に行われるプロセスでの溶媒として使用することができる。
【0056】
本発明の別の実施形態では、本発明による方法で得られるアルケノンのハロゲン化前駆体は、ハロゲン化水素の脱離によって脱ハロゲン化水素されてそれぞれのアルケノンを形成する。それ故に、本発明はさらに、(a)アルケノンまたはそのハロゲン化前駆体を含有する液体反応媒体中でカルボン酸ハロゲン化物をビニルエーテルと反応させてアルケノンのハロゲン化前駆体を形成する工程と、(b)前記前駆体からハロゲン化水素を脱離させてアルケノンを形成する工程とを含む、アルケノンの製造方法に関する。
【0057】
一選択肢によれば、ハロゲン化水素の脱離は、例えば、酸捕捉剤の存在下におよび/またはハロゲン化水素の脱離を熱的に誘導することによって、アルケノンのハロゲン化前駆体の形成中に同時に実施される。使用されるべき酸捕捉剤は、例えば、ピリジン、キノリンもしくはピコリンなどの窒素含有複素環化合物;またはトリエチルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリンもしくは4−ジメチルアミノピリジンなどの第三級塩基であってもよい。それらのうち、ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリンまたは4−ジメチルアミノピリジンが好ましい。それらのうち、ピリジンが特に好ましい。これらの酸捕捉剤は、単独でかまたは混合物として組み合わせて使用されてもよい。適切な場合、この酸捕捉剤は、カルボン酸ハロゲン化物の1モル当たり1当量未満、好ましくは0.8当量未満の量で使用される。
【0058】
必要ならば、追加の溶媒がハロゲン化水素の脱離中に存在してもよい。用語「追加の溶媒」は上に定義されたものと同じ意味を有する。
【0059】
第1の特定の実施形態では、カルボン酸ハロゲン化物は、トリフルオロアセチルクロリドである。好ましくは、トリフルオロアセチルクロリドは、反応媒体中へ液体状態で供給される。
【0060】
第2の特定の実施形態では、カルボン酸ハロゲン化物は、クロロジフルオロアセチルクロリドである。
【0061】
第3の特定の実施形態では、カルボン酸ハロゲン化物は、ジフルオロアセチルクロリドである。
【0062】
第4の特定の実施形態では、カルボン酸ハロゲン化物は、トリフルオロアセチルフルオリドである。
【0063】
第5の特定の実施形態では、カルボン酸ハロゲン化物は、(トリフルオロアセト)アセチルフルオリドである。
【0064】
好ましい、第6の特定の実施形態では、アルケノンのハロゲン化前駆体の製造およびハロゲン化水素の脱離方法は、とりわけ本明細書で前に記載されたようなカルボン酸塩化物が使用されるとき、酸捕捉剤の実質的なまたは完全な不在下に実施される。
【0065】
好ましい、第7の特定の実施形態では、アルケノンのハロゲン化前駆体の製造およびハロゲン化水素の脱離は、追加の溶媒の実質的なまたは完全な不在下に実施される。
【0066】
好ましい、第8の特定の実施形態では、アルケノンのハロゲン化前駆体の製造およびハロゲン化水素の脱離は好ましくは、本明細書で前に記載されたような、酸捕捉剤のおよび追加の溶媒の実質的なまたは完全な不在下に実施される。第6〜第8の、特に第8の特定の実施形態は、第1〜第5の特定の実施形態のいずれかと有利に組み合わせることができる。
【0067】
本発明による方法の第6〜第8の特定の実施形態では、「実質的な不在」は典型的には、反応媒体の総重量に対して1重量%以下、より特に0.5重量%以下の酸捕捉剤および/または溶媒の任意の含有率を意味する。「完全な不在」はこれに関連して典型的には、反応媒体への酸捕捉剤および/または溶媒の任意の添加が全く行われなかったプロセスを意味する。典型的には「完全な不在」は、酸捕捉剤および/または溶媒が反応媒体のGCで全く検出できないことを意味する。
【0068】
特に本発明による方法の第6〜第8の特定の実施形態は、出発原料および反応の生成物とは異なる成分の実質的な不在にもかかわらず、反応が選択的に進行し、分離がこの制限によって容易にされるので、必要ならば、アルケノンのハロゲン化前駆体および特に所望のアルケノンの特に効率的な単離を可能にする。
【0069】
上述の通り、本発明の好ましい実施形態は、(a)アルケノンまたはそのハロゲン化前駆体を含有する液体反応媒体中でカルボン酸ハロゲン化物をビニルエーテルと反応させてアルケノンのハロゲン化前駆体を形成する工程と、(b)前記前駆体からハロゲン化水素を脱離させてアルケノンを形成する工程とを含む、アルケノンの製造方法に関する。
【0070】
本発明による方法の本実施形態およびその特定の実施形態は、工程(a)の反応を第1温度で実施することと工程(b)を第1温度より高い第2温度で実施することとを一般に含む。
【0071】
第1温度は、一般に50℃未満、多くの場合40℃未満、好ましくは30℃以下である。一態様では、この温度は好ましくは約−25℃以下である。第1温度は、一般に少なくとも−50℃、多くの場合−40℃以上、好ましくは−30℃以上である。
【0072】
第2温度は、一般に少なくとも50℃、多くの場合60℃以上、好ましくは70℃以上である。第2温度は、一般に150℃未満、多くの場合100℃未満、好ましくは約80℃以下である。
【0073】
本発明による方法およびその特定の実施形態は、工程(a)の反応を第1圧力で実施形態することと工程(b)を第1圧力より低い第2圧力で実施することとを一般に含む。
【0074】
第1圧力は一般に、反応媒体を液体状態に維持するために選択される。例えば、トリフルオロアセチルクロリドが酸ハロゲン化物として使用される場合、第1圧力は有利には、約−25℃以下の反応温度で大気圧である。第1圧力は有利には、20〜30℃の反応温度で約4バール以上、好ましくは約5バール絶対〜約10バール以下である。
【0075】
第2圧力は好ましくは、反応媒体からの少なくともアルケノンの分別蒸留を可能にするために選択される。典型的な第2圧力は1〜約10−3バール絶対である。
【0076】
本方法が回分式に実施されるときに有利である、本発明による方法の一実施形態およびその特定の実施形態では、工程(a)および(b)は、同じ反応ゾーン、例えば、蒸留塔が上にある容器中で実施される。
【0077】
本方法が回分式または連続的に実施されるときに有利である、本発明による方法の別の実施形態およびその特定の実施形態では、その工程(a)は第1反応ゾーンで実施され、工程(b)は、第1反応ゾーンとは異なる第2反応ゾーンで実施される。
【0078】
第1反応ゾーンは多くの場合、場合により、撹拌されるタンク型反応器であるか、より好ましくは連続的に攪拌されるタンク型反応器である。第2反応ゾーンは、例えば、蒸留塔であることができる。
【0079】
好ましい、第9の特定の実施形態では、本発明による方法は、工程(b)で生成したアルケノンをハロゲン化水素、未反応カルボン酸ハロゲン化物および未反応ハロゲン化前駆体(ならびに微量のポリマー物質)から分離する工程と、場合によりカルボン酸ハロゲン化物を工程(a)におよびハロゲン化前駆体を工程(b)にリサイクルする工程とをさらに含む。
【0080】
蒸留、特に分別蒸留が、特に工程(b)の反応混合物から、アルケノンを分離するための分離技法として好ましい。好ましくは、反応媒体の一部は、工程(a)の反応器から取り出され、ループ中を運ばれ、工程(a)の反応器に戻される。このようなループで、反応媒体の循環部分を冷却することが可能である。これは、反応混合物の温度を所望の範囲に保つのに役立つ。さらに、下で記載されるように、反応混合物の一部を連続的に循環させると、反応媒体の混合を向上させ;生じた反応媒体の乱流状態はホットスポットを回避するのに役立つ。
【0081】
本発明による方法および特にその特定の実施形態は好ましくは、この特有の実施形態による工程(a)の反応を実施することを含む。
【0082】
工程(b)でのハロゲン化水素の脱離は、反応媒体を上に示されたような範囲に暖めることによって行うことができる。本発明の好ましい実施形態は、次の工程:
(a)本明細書で前に開示された方法のいずれかまたはそれらの組み合わせに従ったカルボン酸ハロゲン化物とビニルエーテルとからの製造によってアルケノンのハロゲン化前駆体を提供する工程
(b)瞬間熱分解、真空熱分解および不活性ガスでのストリッピング下の熱分解から選択される熱分解処理によって前記前駆体からハロゲン化水素を脱離させてアルケノンを形成する工程
を含む、アルケノンの製造方法に関する。
【0083】
本発明の目的のためには、用語「瞬間熱分解」は、液体反応媒体が短時間加熱されるプロセスを意味する。瞬間熱分解のための典型的な加熱時間は1時間未満、特に30分未満、好ましくは約15分である。一般に、加熱時間は1秒超、多くの場合15秒超である。
【0084】
本実施形態による方法の特定の態様では、瞬間熱分解は、−20℃〜140℃の範囲の温度および30秒〜1時間の範囲の期間で、好ましくは0℃〜130℃の範囲の温度および30秒〜30分の範囲の期間で、より好ましくは20℃〜120℃の範囲の温度および30秒〜20分の範囲の期間で行われる。
【0085】
熱分解または瞬間熱分解は場合により、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス流れでのストリッピング下に実施することができる。
【0086】
本発明の目的のためには、用語「ストリッピング」は、1つ以上の成分、特にHClがガス流れによって液体反応媒体から除去される物理的分離プロセスを特に意味する。液体およびガス流れは、並流または向流方向を有することができる。
【0087】
適切な場合、ストリッピングは有利には窒素流れで実施される。
【0088】
この実施形態による方法は、熱分解を−20℃〜140℃、好ましくは60〜130℃の温度で、例えば80℃に等しいかまたは約80℃で、より好ましくは120℃に等しいかまたは約120℃で実施する工程を一般に含む。
【0089】
熱分解または瞬間熱分解は減圧下に実施されてもよい。その場合、減圧は好ましくは100〜600ミリバールである。
【0090】
本明細書に開示される異なる方法および実施形態は、アルキルビニルエーテルとトリフルオロ酢酸ハロゲン化物とからの、特にトリフルオロアセチルクロリドとエチルビニルエーテルとからのクロロトリフルオロアルコキシブタノンの製造およびトリフルオロアルコキシブテノン、特にETFBOを形成するためのその後の脱離に最も好ましいやり方で適用されることが理解される。
【0091】
本明細書に開示される異なる方法および実施形態は、アルキルビニルエーテルとジフルオロ酢酸ハロゲン化物とからの、特にジフルオロアセチルクロリドとエチルビニルエーテルとからのクロロジフルオロアルコキシブタノンの製造およびジフルオロアルコキシブテノン、特にEDFBOを形成するためのその後の脱離に最も好ましいやり方で適用されることが理解される。
【0092】
さらに、本発明はまた、アルケノンの製造方法、および例えば上記の装置を使用する、アルケノンのハロゲン化前駆体を製造するための装置にも関する。
【0093】
このような方法では、前に製造された純有機生成物、例えばETFBOが始動するために循環され、場合により冷却機を用いて冷却される。それぞれの標的温度に達したとき、第1反応体(例えばTFAC)が回路(特に乱流回路)中へ、第1反応器の前に、ガスまたは液体形態で先ず第一に供給され、次に第2反応体(例えばEVE)がわずかに化学量論的過剰(例えば、TFAC:EVE=1:1.01モル)で加えられる。循環手段のフラスコ中のレベルは、膜ポンプを操作し、そして第2手段中へ排出することによって一定に保たれる。その場合に、ハロゲン化水素の脱離での有機生成物への有機生成物前駆体の転化、例えばHCl脱離でのETFBOへのCETFBOの転化は、いったん第2手段の受器が一杯になったら回分式に(特に熱分解)によってか、有機生成物前駆体(例えばCETFBO)流れを循環手段から、そのとき任意選択のわずかな減圧下にある、第2手段中へ連続的に供給することによってかのどちらかで行われる。精密蒸留は次に、下流のさらなる蒸留塔で連続的にまたは回分式に実施される。
【0094】
本明細書で以下の実施例は、本発明を例示することを意図されるが、それを限定しない。
【0095】
本明細書で以下の実施例は、本発明を例示することを意図されるが、それを限定しない。
【0096】
これらの実施例ではおよび本明細書の全体にわたって、用いられる省略形は次の通り定義される:TFACはトリフルオロアセチルクロリドであり、EVEはエチルビニルエーテルであり、CETFBOは4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタン−2−オンであり、ETFBOはエトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンである。
【実施例】
【0097】
実施例1:4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンの2工程製造
工程(a)
Pt100内部温度計を備えた、ドライアイス冷却器で囲まれた100mlの3つ口フラスコに、66,24g(0.5モル)のトリフルオロアセチルクロリドを−30℃で凝縮させた。36.06g(0.5モル)のエチルビニルエーテルを1時間にわたって滴加した。滴加後に、さらなる0.5モルのトリフルオロアセチルクロリドを加えた。サンプルのGCは、4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタン−2−オンのほぼ定量的な収率を示した。
【0098】
工程(b)
上記の工程(a)の反応後に、フラスコを室温に温め、減圧下に分別蒸留にかけた。第1留分(B.P.47ミリバールで59.3〜66.4℃)は、4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタン−2−オンと4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンとの混合物を含有し、それを、さらなる4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンを与えるために再蒸留することができた。第2留分(B.P.30ミリバールで66.4〜70℃)は、純エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン(E/Z比98.5:1.5)を含有した。単離収率は、理論収率の97.5%であった。
【0099】
実施例2:乱流条件および溶媒としてのETFBO下の4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタン−2−オンおよび4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンの製造
一般的な手順:前の合成によって得られた、純ETFBOを再循環システムの流れ部分に入れ、チラーを使用して冷却した。この再循環システムは、20Lのフラスコ、別の蒸留塔の上に置かれた10mmガラスラシヒリングを充填した2つの1メートル蒸留塔、循環ポンプ(1500L/時間)、それぞれ3mパス長さ(直径1.5cm)の3つの管型反応器を含む。再循環システムで所望の温度に達したらすぐに、ガス状または液体トリフルオロアセチルクロリド(15kg/時間;113.2モル/時間)を、第1の3m反応器の直前に乱流循環で導入し、次に小モル過剰のエチルビニルエーテル(TFAC/EVE=1:1.01)を第1の3m反応器の後に加えた。リサイクル装置の20Lのフラスコ中のレベルを、膜ポンプを使用して物質を第2装置へポンプ送液することによって一定に保った。4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン(ETFBO)への4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタン−2−オン(CETFBO)の熱分解に役立つこの第2装置は、10mmガラスラシヒリングを充填した3つの1メートル蒸留塔と除去付き冷却器とを持った100LのPfaudlerセラミック容器を含む。ETFBOへのHClを失うCETFBOの転化は、セラミック容器が満ちているときに回分式熱分解によって、またはリサイクル装置からのCETFBO流れの連続供給によってかのどちらかで行われる。精密蒸留を蒸留塔で連続的にかまたは回分式にさらに実施した。
【0100】
実施例2a:
再循環システムを純ETFBOで満たし、10℃の温度に冷却した。一般的な手順に従って、TFACおよびEVEを、それぞれ、12.4モル/時間および12.8モル/時間の速度で導入した。リサイクル装置のトップで毎時採取されたGCサンプルは、TFACとEVEとからの完全な反応を示し、それによってCETFBO濃度はETFBO濃度の低下と共に連続的に増加した。TFACおよびEVEの連続的な導入を8時間の間ずっと実施し、物質を全てセラミック容器に集めた。熱分解を、窒素流れ下に80℃で実施し、これに、分別蒸留が続いて、理論収率の87%の単離収率でおよび98%の純度(シス+トランス異性体)で4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンを与えた。
【0101】
実施例2b:
実施例2aと同じ手順に従ったが、再循環システムを20℃の温度に保った。エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンが理論収率の87%の単離収率でおよび98%の純度(シス+トランス異性体)で得られた。
【0102】
実施例3:熱分解処理によるETFBOへのCETFBOの転化
一般的な手順:実施例1で上に記載されたように、工程(a)の反応後に、還流冷却器を備えたフラスコを、油浴を使用することによって所望の温度に加熱した。熱分解または瞬間熱分解を異なる条件下に:異なる温度で、不活性ガス流れありもしくはなしで、または減圧下に行った。ETFBOへのCETFBOの転化の後にGC分析を行った。反応混合物の組成が一定のままであったとき、生じた反応混合物を減圧での蒸留(70℃、20ミリバール)にさらにかけてエトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンを得た。実験データを表1にまとめる。熱分解時間は、その後に反応混合物の組成が一定のままであった時間を意味する。
【0103】
【表1】

【0104】
実施例4:
反応:
第1段階:4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロブタン−2−オン(CETFBO)の製造
【化1】

第2段階:4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン(ETFBO)の製造
【化2】

【0105】
装入:
【0106】
【表2】

【0107】
119g(0.7モル)ETFBOを、ドライアイス冷却器および磁気攪拌機付き3つ口フラスコに入れ、0℃に冷却した。23.3g(0.175モル)TFACを次に圧力フラスコから導入した。TFACはETFBOに非常に容易に溶解した。次に、12.6g(0.175モル)EVEを全て一度に加えた。第1サンプルを21分後に採取した(GC分析、WLD検出器)。混合物中に依然として2GC%TFACが存在した。60分後にTFACは全て転化した。熱分解を次に、もはやHClが脱離しなくなるまで80℃で1時間実施し、この回分を10−3ミリバールでの減圧で分別精密蒸留した。こうして単離されたETFBO収率は合計97%に達し、純度は99.5%(98.0%トランス異性体、1.5%シス異性体)であった。
【0108】
実施例5:
純ETFBOを循環装置に注入し、温度を+10℃に調節した。TFACを次に12.4モル/時間の速度で、そしてEVEを12.8モル/時間の速度で加えた。循環装置の底部から1時間毎に採取されたGCサンプルは、EVEでのTFACの完全な転化を示した。循環するCETFBOの濃度は連続的に上昇し、一方ETFBO濃度は連続的に低下した。この装置をこれらの条件下に8時間運転し、物質を第2装置に集めた。HClを脱離させるための窒素流れ中80℃でのその後の熱分解、引き続く分別精密蒸留は、理論収率の87%の単離収率および98.0%の純度(シス+トランス異性体)でETFBOを生成した。
【0109】
実施例6:
実験を、温度が+20℃であったことを除いて実施例5に記載された通り繰り返した。選択率および単離収率は、+10℃での実験に匹敵した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乱流状態にある液体反応媒体中でカルボン酸ハロゲン化物をビニルエーテルと反応させる工程を含む、アルケノンのハロゲン化前駆体の製造方法。
【請求項2】
式(I):R1−C(O)−CH2−CH(X)−OR2(I)(式中、Xはフッ素、塩素または臭素を表し、R1は、少なくとも1つのハロゲン原子で場合により置換されているC1〜C10アルキル基を表すか、またはR1はCF3C(O)CH2を表し;R2は、アリール、置換アリール、または少なくとも1つのハロゲン原子で場合により置換されているC1〜C10アルキル基を表す)に相当する前記アルケノンの前記ハロゲン化前駆体の製造のための、請求項1に記載の方法であって、式(II):R1−C(O)X(II)(式中、XおよびR1は上に与えられた意味を有する)に相当する酸ハロゲン化物が式(III):CH2=C(H)−OR2(III)(式中、R2は上に与えられた意味を有する)に相当するビニルエーテルと反応させられる方法。
【請求項3】
R1がフッ素化C1〜C4アルキル基、好ましくはCF基である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
R2がC1〜C4アルキル基、好ましくはメチルまたはエチル基である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記カルボン酸ハロゲン化物がトリフルオロアセチルクロリドであり、好ましくは液体形態で前記反応媒体中へ導入される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
アルケノンの前記ハロゲン化前駆体の製造が酸捕捉剤の実質的な不在下に実施される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記乱流状態が、撹拌、流れ抵抗を通しての前記反応媒体の通過、ガス泡の導入による前記反応媒体の混合から選択される操作によって達成される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ビニルエーテルおよび前記カルボン酸ハロゲン化物が、内部供給管および外部供給管を有する同心ノズルを通して前記液体反応媒体中へ導入され、前記ビニルエーテルが前記内部供給管を通して供給され、前記カルボン酸ハロゲン化物が前記外部供給管を通して供給される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
連続的に実施される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記乱流状態が、ホットスポットの形成を回避するのに十分である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記液体反応媒体が、1重量%から、好ましくは5重量%から約20重量%未満までのカルボン酸ハロゲン化物を含有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ビニルエーテルが、カルボン酸ハロゲン化物の1モル当たり0.01〜2モル/時間の速度で前記液体反応媒体中へ導入される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記反応が0℃〜40℃の温度で実施される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記反応が、連続撹拌タンク型反応器で、好ましくはセラミック内張りの連続撹拌タンク型反応器で実施される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記液体反応媒体の少なくとも一部を抜き出す工程と、前記一部をプラグフロー型反応器でさらに反応させる工程とをさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
液体反応媒体中でカルボン酸ハロゲン化物をビニルエーテルと反応させる工程を含むアルケノンのハロゲン化前駆体の製造方法であって、前記カルボン酸ハロゲン化物の少なくとも一部が液体状態で反応媒体中へ導入される方法。
【請求項17】
(a)請求項1〜16のいずれか一項に従ってカルボン酸ハロゲン化物をビニルエーテルと反応させて前記アルケノンのハロゲン化前駆体を形成する工程と、(b)前記前駆体からハロゲン化水素を脱離させて前記アルケノンを形成する工程とを含む、アルケノンの製造方法。

【公表番号】特表2012−532182(P2012−532182A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518942(P2012−518942)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059549
【国際公開番号】WO2011/003856
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】