説明

牽引治療装置

【課題】
頸椎及び腰椎の各牽引モードを供えた牽引治療装置において、所望の牽引モードと異なるモードが選択され、当該モードにて牽引動作がなされていることを早期に検出し、より安全に牽引治療が行えるようにすること。
【解決手段】
患者の頸椎を牽引する頸椎牽引手段50と、患者の腰椎を牽引する腰椎牽引手段27と、を有する牽引治療装置1において、頸椎牽引モードと腰椎牽引モードのいずれか一方を選択するモード選択手段57と、モード選択手段57による選択信号を受け頸椎牽引手段50又は腰椎牽引手段27の牽引動作を制御する制御部25と、を備え、
制御部25は患者の所望する牽引モードと異なるモードの選択による牽引動作がなされていることを検出した場合に該牽引動作を停止するか又は所望の牽引モードへ変更することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頸椎及び腰椎の牽引モードを備えた牽引治療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、患者身体の脇部又は頸部を上半身吊具2で吊持し、この状態で座席部3を下降させて、座席部3が受ける荷重Wが所定値までに下降すると、座席部3の下降を自動的に停止するようにした腰椎や頸椎の治療を行う健康治療機器が知られている。
【0003】
上記特許文献1の健康治療機器では、用途(使用の目的)に応じて、荷重Wの所定値を増加したり、減少させたりする構成であり、頸椎を牽引しようとした場合に、施療者等が誤って腰椎牽引用の荷重Wを設定してしまう等の事態が想定されるが、この機器には牽引部位に応じて適切な荷重値が設定されているか、それとも誤った設定がされているのかを判断し検出するための検出手段が備えられていない。
【0004】
特に、一般に腰椎牽引用の荷重値(腰椎牽引力値)に比べて小さい荷重(頸椎牽引力値)を設定して牽引を行う頸椎牽引治療において、腰椎牽引力値の設定のまま頸椎牽引を継続することは頸部に過度の負担を及ぼしひいては頸部に損傷を与える可能性が高く、非常に危険であり、より早期に荷重値(牽引力値)の誤設定を検出する必要性があり、その改善が切に望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、頸椎及び腰椎の各牽引モードを備えた牽引治療装置において、所望の牽引モードと異なるモードが選択され、当該モードにて牽引動作がなされていることを早期に検出し、より安全に牽引治療が行えるようにした牽引治療装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、患者の頸椎を牽引する頸椎牽引手段と、患者の腰椎を牽引する腰椎牽引手段と、を有する牽引治療装置において、
頸椎牽引モードと腰椎牽引モードのいずれか一方を選択するモード選択手段と、
該モード選択手段による選択信号を受け前記頸椎牽引手段又は前記腰椎牽引手段の牽引動作を制御する制御部と、を備え、
該制御部は患者の所望する牽引モードと異なるモードの選択による牽引動作がなされていることを検出した場合に該牽引動作を停止するか又は所望の牽引モードに変更することを特徴とする牽引治療装置である。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の牽引治療装置において、
頸椎牽引力値を検出する頸椎牽引力検出手段を備え、
前記制御部は、前記腰椎牽引モードによる牽引動作時に前記頸椎牽引力検出手段により検出した前記頸椎牽引力値が予め設定した設定閾値以上に至ったことを検出すると、前記頸椎牽引モードを選択すべきところを誤って前記腰椎牽引モードを選択し牽引動作が行われていると判断し、該牽引動作を停止するか又は前記腰椎牽引モードを前記頸椎牽引モードに変更することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の牽引治療装置において、
腰椎牽引力値を検出する腰椎牽引力検出手段と、頸椎牽引力値を検出する頸椎牽引力検出手段を備え、
前記制御部は、前記頸椎牽引モードによる牽引動作時に、前記腰椎牽引力値と前記頸椎牽引力値の差の絶対値が予め設定した設定閾値以上に至ったことを検出すると、前記腰椎牽引モードを選択すべきところを誤って前記頸椎牽引モードを選択し牽引動作が行われていると判断し、該牽引動作を停止するか又は前記頸椎牽引モードを前記腰椎牽引モードに変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、頸椎牽引モードと腰椎牽引モードのいずれか一方を選択するモード選択手段と、該モード選択手段による選択信号を受け前記頸椎牽引手段又は前記腰椎牽引手段の牽引動作を制御する制御部と、を備え、該制御部は患者の所望する牽引モードと異なるモードの選択による牽引動作がなされていることを検出した場合に、該牽引動作を停止し、又は、所望の牽引モードに変更する構成であるから、患者が所望しない牽引モードによる牽引動作の持続を防止することができるとともに、人為的な操作ミスを防止し装置の安全性を向上させることができる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、頸椎牽引力値を検出する頸椎牽引力検出手段を備え、制御部は、腰椎牽引モードによる牽引動作時に頸椎牽引力検出手段により検出した頸椎牽引力値が予め設定した設定閾値以上に至ったことを検出すると、頸椎牽引モードを選択すべきところを誤って腰椎牽引モードを選択し牽引動作が行われていると判断し、該牽引動作を停止するか又は腰椎牽引モードを頸椎牽引モードに変更する構成であるから、頸椎牽引を行う際に誤って腰椎牽引モードによる牽引動作を開始した場合であっても、この腰椎牽引モードによる牽引動作を治療時間終了まで継続してしまうという好ましくない事態を早期に検出することができ、さらに、腰椎牽引モードによる牽引動作を治療終了まで持続した結果、腰椎牽引モードで設定されている牽引力(例えば40Kg)を患者の頸椎に作用させてしまい、頸部に過度の負担を及ぼしたり、頸部に損傷を与える可能性はなく、安全性の向上が期待できる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、腰椎牽引力値を検出する腰椎牽引力検出手段と、頸椎牽引力値を検出する頸椎牽引力検出手段を備え、制御部は、頸椎牽引モードによる牽引動作時に、腰椎牽引力値と頸椎牽引力値の差の絶対値が予め設定した設定閾値以上に至ったことを検出すると、腰椎牽引モードを選択すべきところを誤って頸椎牽引モードを選択し牽引動作が行われていると判断し、該牽引動作を停止するか又は頸椎牽引モードを腰椎牽引モードに変更する構成であるから、腰椎牽引を行う際に誤って頸椎牽引モードによる牽引動作を開始した場合であっても、この頸椎牽引モードによる牽引動作を治療時間終了まで継続してしまうという好ましくない事態を早期に検出することができ、腰椎牽引治療が適正に行えることになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る牽引治療装置1を前方から見た斜視図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る牽引治療装置1の背部から見た斜視図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る牽引治療装置1の巻取機構部43を示す斜視図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る牽引治療装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第一の実施形態に係る制御例を示すフローチャート図である。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る制御例を示すフローチャート図である。
【図7】本発明の第二の実施形態に係る制御例を示すフローチャート図である
【図8】本発明の第二の実施形態に係る制御例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至6に第一の実施形態を示す。牽引治療装置1は、床面にアジャスター23を介して載置される基台部21と、基台部21により傾動可能に支持され患者が着座する椅子部3等を主たる構成要素とする椅子型牽引治療装置であり、起立状態の椅子部3に患者を移乗させ、椅子部3を倒伏状態にした後に腰椎又は頸椎の牽引治療を行うものである。
【0015】
図1及び図2に示すように、椅子部3は、患者の下体部を支持する下体シート部4と、患者の上体を支持する背もたれシート部10とを有し、基台部21に支軸24にて軸着され、椅子部傾動手段19としての電動アクチュエータ2の伸縮動作に伴って椅子部3の傾動動作が行われる。
【0016】
電動アクチュエータ2のシリンダ部2aは底面部が基台部21の底板(図示省略)上に軸着されており、ロッド部2b先端は牽引フレーム22に枢着されている。図2において伸長状態のロッド部2bを収縮動作させると椅子部3全体が倒伏する方向(後方向)へ傾動動作する。
【0017】
図2に示すように、椅子部3の背面側には、下体シート部4、背もたれシート部10及び脇装具32等の構成部材をスライド可能に支持する牽引フレーム22が設けられる。この牽引フレーム22の内側には、端面が略C字形状に形成される左右一対の背もたれシートレール11及び脇装具レール34が配設され、更に、牽引フレーム22の下部には、左右一対の座部レール7が牽引フレーム22に対して所定角度をなして配設される。
【0018】
図1に示すように、下体シート部4は、患者の腰部から下肢に及ぶ下半身を支持する座部5と、下肢受け部6と、患者の腰部の裏側から左右側にかけての部位をサポートするよう略U字形状の腰部サポート部材52と、帯状部材29aで形成され患者の腰部に取着する腰装具29を有する。更に、図2に示すように、下体シート部4は、座部支持部材8により支持され、座部支持部材8が牽引フレーム22の下方に設けられた左右一対の座部レール7に沿って移動可能に設けられる。座部支持部材8には、座部レール7内を摺動する座部ローラ9が複数配設されている。
【0019】
図2に示すように、背もたれシート部10を支持する背もたれシート支持部材12側面には背もたれシートローラ13が複数配設され、この背もたれシートローラ13は端面が略C字形状の背もたれシートレール11内に嵌合しており、これにより背もたれシート部10が背もたれシートレール11に移動可能に構成されている。
【0020】
牽引フレーム22の上端中央部には、頸椎牽引治療を行うに際し患者の頭部に装着する頸椎装具36を支持する頸椎装具支持部37が設けられ、頸椎装具支持部37は、頸椎アーム38、滑車40・40、索体42、巻取機構部43、頸椎牽引力検出手段51としての頸椎用ロードセル55等で構成される。頸椎用ロードセル55は頸椎牽引時に頸椎装具36を介して患者の頸椎に加わる牽引力値を検出するものである。
【0021】
頸椎アーム38は、背もたれシート部10後方から患者の頭上前方付近にわたって延在するように基部が牽引フレーム22の中央上端に固設されている。頸椎アーム38には、ベルト状の索体42の繰り出し及び巻取りをガイドする滑車40・40が頸椎アーム38の前後端部に各々配設されるとともに、頸椎アーム38の背面位置には索体42を巻き取る巻取機構部43が頸椎用ロードセル55を介して牽引フレーム22に固定されている。尚、頸椎アーム38は、調節ノブ20の操作によって頸椎アーム38の長さを調整することが可能である。
【0022】
索体42の一端は巻取機構部43の巻取ドラム44に止着され、他端には頸椎牽引用ハンガー41が吊り下げ可能に構成される。図1に示すように、頸椎牽引用ハンガー41には、患者の頭部に装着する頸椎装具36が引っ掛けられる。
【0023】
図3に示すように、巻取機構部43は、巻取ドラム44が巻取ドラム軸48で軸着され、巻取ドラム軸48の一端には、索体42を常時巻き取る方向に巻取ドラム44を付勢するぜんまいバネ45が設けられ、他端には頸椎牽引治療中に巻取ドラム44の回動を固定する巻取固定機構46(具体的には電磁ブレーキ47)が設けられている。頸椎牽引動作中は、基本的に巻取固定機構46により巻取ドラム44の回動は不能になっているが、頸椎牽引治療を行う際に頸椎装具36を患者に装着するために索体42を一定以上の力で引っ張り頸椎牽引力検出手段51がこれを検知した場合には、巻取固定機構46による固定機能が解除され索体42の繰り出し及び巻取りが可能な状態となる。
【0024】
図1及び図2に示すように、下体シート部4の裏側位置には、下体シート部4を座部レール7に沿って往復移動可能にする腰椎牽引手段27としての電動アクチュエータ17や腰椎牽引力検出手段28としての腰椎用ロードセル30等の構成部材が設けられている。
【0025】
牽引フレーム22には電動アクチュエータ17の推力値を検出する腰椎用ロードセル30の一端が固着され、腰椎用ロードセル30の他端には電動アクチュエータ17のシリンダ部17aの底部が軸着される。電動アクチュエータ17のロッド部17bは、座部レール7の延在方向と略平行状に前後方向に延在し、先端部が座部支持部材8に軸着されている。従って、ロッド部17bを伸縮させると、座部ローラ9が座部レール7内周に沿って転動し、座部5が滑らかに往復移動する。
【0026】
また、電動アクチュエータ17は、患者の頭部に頸椎装具36を装着し、巻取固定機構46を機能させて巻取ドラム44の回動を不能にし、患者の腰部を腰装具29で下体シート部4に固定した状態で、下体シート部4を腰装具29と頸椎装具36が離間する方向に移動させることで頸椎牽引治療を行う頸椎牽引手段50としての機能も兼ね備えている。
【0027】
腰椎用ロードセル30は、腰装具29を患者の腰部に装着するとともに脇装具32を脇下に挟み込んだ状態で、下体シート部4を背もたれシート部10から離間する方向へ移動させた際に、腰装具29を介して患者の腰部に作用する腰椎牽引力を検出するものである。また、腰椎用ロードセル30は椅子部3に着座した患者の体重値を検出し、さらには、脇装具32を脇下に当接する位置まで上昇させ、脇装具32で患者の脇下を支持した際に、体重値の変化量を脇装具32に加わる押圧力として検出する。
【0028】
背もたれシート部10の裏面には、腰椎牽引治療の際に用いる脇装具位置制御装置60が設けられ、脇装具位置制御装置60は、左右一対の脇アーム33と、脇アーム33を回動させる脇アーム駆動部61としての電動アクチュエータ59と、脇アーム33の回動をガイド及び制限するガイド部62とで構成される。脇アーム33の先部に患者の脇に当接し脇部位を支持する脇装具32が取着される。脇アーム33の基部は脇アーム支持部材35に軸着される。また、脇アーム33には、ピン64が背もたれシート部10方向に向かって突設され、このピン64は脇アーム支持部材35に穿設される長穴16に挿通されている。
【0029】
図2に示すように、牽引フレーム22には脇アーム33に向かって延在するガイド部62が設けられている。このガイド部62には付勢部材14が設けられ、脇装具32を患者の脇腹の近傍で適宜範囲(具体的には左右脇装具32の間のスペースが350mm前後の位置)に遊動させ、患者が移乗直後に自分の意志や感覚で最適な位置に脇装具32を脇に引き寄せて装着できるように脇アーム33を弾力支持している。
【0030】
脇アーム支持部材35は背もたれシート部10の裏面の位置にあって、脇アーム支持部材35の側面には複数の転動ローラ18が回転可能に設けられており、脇アーム支持部材35は脇装具レール34に沿って移動可能とされている。
【0031】
電動アクチュエータ59のロッド部59b先端は脇アーム支持部材35に軸着され、シリンダ部59aは牽引フレーム22に軸着されている。ロッド部59bを伸縮動作させると、脇アーム33が脇装具レール34に沿って移動するとともに背もたれシート部10の面方向に回動する。
【0032】
牽引治療装置1には、図2に示すように牽引フレーム22右側面の上方位置から右方向へ突出した支持アーム31に対して角度調節自在に支持される操作パネル部26が設けられている。図4に示すように、操作パネル部26には、腰椎牽引モードと頸椎牽引モードのいずれか一方を選択するモード選択手段57としての牽引モード切替設定部39、頸椎牽引力値及び腰椎牽引力値を直接入力し設定する牽引力設定部49、牽引治療時間を設定する治療時間設定部56が設けられている。尚、一般的に頸椎牽引力値としては3〜25kg範囲の値が、腰椎牽引力値としては5〜60kg範囲の値が患者の体重や症状に応じて適宜入力設定される。また、図示及び詳細な説明は省略するが、牽引の持続時間を設定する持続時間設定部、牽引の休止時間を設定する休止時間設定部、牽引治療開始・停止スイッチ等の各種スイッチも操作パネル部26に設けられる。
【0033】
牽引治療装置1の制御部25は、牽引力設定部49にて入力設定された頸椎牽引力値及び腰椎牽引力値をそれぞれ記憶する頸椎牽引力記憶部53及び腰腰椎牽引力記憶部54を有しており、各記憶部に記憶された牽引力値と、腰椎用ロードセル30や頸椎用ロードセル55にて検出された値と逐次比較し、電動アクチュエータ17(腰椎牽引手段27・頸椎牽引手段50)、電動アクチュエータ59(脇アーム駆動部61)等の動作を制御する。
また、制御部25には、施療者等が所望する牽引モードと異なるモードが誤選択され、その誤選択されたモードにて牽引動作が開始されていないかどうかを検出する機能が備えられている。具体的には、頸椎牽引モードで牽引治療を行うべきところを、施療者等が牽引モード切替設定部39の操作を誤り腰椎牽引モードを選択し、牽引治療を開始してしまったり、逆に、腰椎牽引モードで牽引治療を行うべきところを、頸椎牽引モードを選択し、牽引治療を開始してしまうという場合である。
【0034】
そこで、制御部25の比較判断部58にて、腰椎牽引動作が行われている際に、頸椎用ロードセル55にて検出される検出値を頸椎牽引力値として常時監視し、この頸椎牽引力値が設定閾値(例えば、3kg)に至ったことを比較判断部58が認識すると、頸椎牽引モードを選択するところを誤って腰椎牽引モードを選択し腰椎牽引動作を開始した場合と判断し、腰椎牽引動作を停止する。腰椎牽引動作が行われる際は、患者の頭部には頸椎装具36が装着されないため、頸椎用ロードセル55にて頸椎牽引力値は検出されることはないからである。
【0035】
また、比較判断部58は、頸椎牽引動作が行われている際に、腰椎用ロードセル30にて検出される検出値を腰椎牽引力値として常時監視しており、この腰椎牽引力値から頸椎用ロードセル55にて検出した頸椎牽引力値を減算した値が設定閾値(例えば、30kg)に至ったことを比較判断部58が認識すると、腰椎牽引モードを選択するところを誤って頸椎牽引モードを選択し頸椎牽引動作を開始したと判断し、頸椎牽引動作を停止する。脇装具32を脇下に挟み込んだ状態で頸椎牽引を開始すると、頸椎用ロードセル55にて頸椎牽引力値が検出される前(頸椎に牽引力がかかる前)に、患者の脇下が脇装具32によって支持され、この支持状態において電動アクチュエータ17のロッド部17bが伸長し続けることになり腰椎に過度の牽引力がかかり非常に危険な事態が想定されるので、これを防止するためである。
上述した誤った牽引モードでの牽引動作を検出した場合には、牽引動作の停止前に、牽引治療装置1の内部に設けた不図示のスピーカーやブザー等により報知音を鳴動させて施療者等に牽引モードが適切に選択されていない旨を報知する。尚、図1中、63は座部5に取付けられる座部カバー、15は牽引フレーム22に固着された肘置き具である。
【0036】
以下、牽引治療装置1の動作について説明する。最初に患者の頸椎を牽引治療する際の動作を説明する。医師等の施療者は、操作パネル部26の牽引モード切替設定部39を操作し頸椎牽引モードを選択した後、牽引力設定部49にて頸椎牽引力値を、治療時間設定部56にて治療時間を入力設定する。また、頸椎牽引治療の際は、脇装具32は患者の脇下に挟み込まず使用しない。
【0037】
患者の腰部に腰装具29を巻き回し先端部同士を重ね合わせ結合し、患者を下体シート部4へ固定保持する。索体42の先端に頸椎ハンガー41を引掛け、この頸椎ハンガー41に頸椎装具36を吊り下げる。この時、巻取固定機構46が作用しており巻取ドラム44の回動は不能とされているが、頸椎装具36を患者に装着するために索体42を一定以上の力で引っ張り頸椎牽引力検出手段51がこれを検知すると、巻取固定機構46の固定が解除され索体42は繰り出し可能な状態となる。索体42を引き出し、頸椎装具36を患者の頭部に装着する。背もたれシート部10の面と索体42の延在面とのなす仰角が略30°になるように調節ノブ20を操作し頸椎アーム38の長さを適宜調整する。尚、巻取ドラム44は後述する椅子部3の倒伏方向へのリクライニング動作が完了するまでは回動可能な状態に維持されている。
【0038】
施療者は頸椎牽引治療の準備が完了したら、安全を確認した後、不図示の牽引治療開始スイッチを操作して牽引治療を開始する。椅子部3のリクライニング動作に先立って、まず電動アクチュエータ17が収縮動作し下体シート部4が移乗位置から牽引開始位置まで移動し、その後、電動アクチュエータ2のロッド部2bが収縮動作し椅子部3全体が倒伏する。椅子部3が所定倒伏位置に至ると、リクライニング動作が停止する。
【0039】
所定倒伏位置にてリクライニング動作が停止すると、電磁ブレーキ47が機能し自動的に巻取ドラム44の回動が固定され索体42の繰り出し及び巻き取りが不能となる。続いて、制御部25が、電動アクチュエータ17のロッド部17bを伸長動作させ、座部レール7に沿って下体シート部4を背もたれシート部10と離間する方向へ移動させることにより頸椎装具36を介して患者の頸部に牽引力を作用させる。
【0040】
このとき、頸椎用ロードセル55の検出する頸椎牽引力値と腰椎用ロードセル30の検出する腰椎牽引力値は制御部25に入力され(図5のS1)、制御部25は比較判断部58において、腰椎牽引力値から頸椎牽引力値を減算した値が設定閾値(30kg)を超過するか否かを監視している(S2)。頸椎装具36が患者の頭部に装着され、頸椎牽引モードによる頸椎の牽引治療動作が行われている場合は、腰椎牽引力値から頸椎牽引力値を減算した値は設定閾値を超過することはないので、比較判断部58は頸椎牽引モードが適切に選択され頸椎牽引動作が適正に行われていると判断し(S3)、頸椎牽引動作を継続する(S4)。
【0041】
制御部25は、頸椎用ロードセル55の検出する頸椎牽引力値と牽引力設定部49にて入力設定された設定頸椎牽引力値とを逐次比較し、頸椎用ロードセル55の検出する頸椎牽引力値が設定頸椎牽引力値に合致するよう電動アクチュエータ17のロッド部17bの伸長動作に係る制御を行い、頸椎牽引力値が設定頸椎牽引力値に合致すると、ロッド部17bの伸長動作を停止する。
【0042】
また、不図示の持続時間設定部にて設定された持続時間が終了すると、牽引開始位置から牽引位置までの下体シート部4の移動量の略1/2の移動量だけロッド部17bを収縮動作させて下体シート部4を復帰移動させ、この位置にて牽引の休止動作(=弛緩動作)を行う。頸椎牽引治療は、治療時間設定部56により設定された治療時間が経過するまでこの牽引動作と休止動作を繰り返し行う。尚、初回の弛緩動作時には下体シート部4を牽引開始位置まで復帰移動させるとともに電磁ブレーキ47の機能を解除し、ぜんまいバネ45で索体42を巻取ドラムに巻き取ることで索体42の橈みを取り除くようになっている。
【0043】
治療時間が経過し、治療終了時間が到来したことを制御部25が認識すると、ロッド部17bの収縮動作の制御を行い、下体シート部4を牽引開始位置まで復帰移動させるとともに、電子ブレーキ47の機能を解除し巻取ドラム44の回動を許容した後、椅子部3を起立方向へリクライニング動作させて頸椎牽引動作を終了する。
【0044】
頸椎牽引力値が設定閾値を超過した場合は、頸椎牽引モードにて牽引動作を行うところを誤って腰椎牽引モードを選択して牽引動作を開始した、即ち、頸椎装具36を装着した状態で腰椎牽引モードを選択し腰椎牽引を開始したと比較判断部58が判断し(図6のS11)、制御部25は腰椎牽引モードが誤って選択されている旨を施療者や患者に音声でアナウンスした後、電動アクチュエータ17の動作を停止して腰椎牽引動作を停止する(S12)。腰椎牽引動作の停止後、上述したように椅子部3を起立方向へリクライニング動作させて腰椎牽引を終了する。
【0045】
次に、患者の腰椎を牽引治療する際の動作について説明する。施療者は、操作パネル部26の牽引モード切替設定部39を操作し腰椎牽引モードを選択した後、牽引力設定部49にて腰椎牽引力値を、治療時間設定部56にて治療時間を入力設定する。設定が終わった後、患者を椅子部3に移乗させる。この時、脇アーム33はガイド部62に設けられた付勢部材14により弾性支持されており、脇装具32は移乗待機位置において所定範囲に遊動可能な状態にあるので、患者は座部5に着座した後、必要に応じ脇装具32を脇腹の近くに(=体幹と両腕の間に)位置させることができる。
【0046】
患者の腰部に腰装具29を巻き付け、下体シート部4に固定した後、頸椎牽引治療の動作と同様に、電動アクチュエータ2のロッド部2bを収縮動作させて椅子部3を倒伏方向へリクライング動作させる。制御部25は、腰椎牽引治療の開始直前に、電動アクチュエータ59のロッド部59b(脇アーム駆動部61)を収縮制御することにより、患者の脇下に脇装具32が軽く当接するように脇装具32を上昇移動させる。例えば、腰椎用ロードセル30の検出値が所定値(2kg程度)減少するとロッド部59bの収縮作動を停止し、脇装具32のセッティングを完了する。
【0047】
電動アクチュエータ17のロッド部17bを伸長動作させ、座部レール7に沿って下体シート部4を背もたれシート部10と離間する方向へ移動させることにより腰装具29を介して患者の腰部に牽引力を作用させる。
このとき、頸椎用ロードセル55の検出する頸椎牽引力値と腰椎用ロードセル30の検出する腰椎牽引力値は制御部25に入力され(図6のS7)、制御部25は比較判断部58において、頸椎牽引力値が設定閾値(3kg)を超過するか否かを監視する(S8)。腰椎牽引モードが適正に選択され腰椎牽引治療が行われている際は、頸椎装具36が患者の頭部に装着されないため、頸椎用ロードセル55において頸椎牽引力値は検出されず、従って、頸椎牽引力値が設定閾値を超過することはない。このとき、比較判断部58は腰椎牽引モードが適切に選択され腰椎牽引動作が適正に行われていると判断し(S9)、腰椎牽引動作を継続する(S10)。
【0048】
制御部25は、腰椎用ロードセル30の検出する腰椎牽引力値と牽引力設定部49にて入力設定された腰椎牽引力値とを逐次比較し、腰椎用ロードセル30の検出する腰椎牽引力値が設定腰椎牽引力値に合致するよう電動アクチュエータ17のロッド部17bの伸長動作に係る制御を行い、腰椎牽引力値が設定腰椎牽引力値に合致すると、ロッド部17bの伸長動作を停止する。治療時間設定部56により設定された治療時間が経過するまで、腰椎牽引動作と休止動作を繰り返し行い、治療終了時間が到来したことを制御部25が認識すると、ロッド部17bの収縮動作の制御を行い、下体シート部4を牽引開始位置まで復帰移動させ、続いて、電動アクチュエータ59のロッド部59bを伸長動作させて脇アーム33を下方移動させ、脇装具32を初期位置へ戻す。その後、椅子部3を起立方向へリクライニング動作させて腰椎牽引動作を終了する。
【0049】
腰椎牽引力値から頸椎牽引力値を減算した値が設定閾値を超過した場合は、腰椎牽引モードにて牽引動作を行うところを誤って頸椎牽引モードを選択して牽引動作を開始した、即ち、脇装具32を脇下に挟み込んだ状態で頸椎牽引モードを選択し頸椎牽引を開始したと比較判断部58が判断し(図5のS5)、制御部25は頸椎牽引モードが誤って選択されている旨を施療者や患者に音声でアナウンスした後 電動アクチュエータ17の動作を停止して頸椎牽引動作を停止する(S6)。頸椎牽引動作の停止後、上述したように椅子部3を起立方向へリクライニング動作させて頸椎牽引を終了する。
【0050】
次に、図4、図7及び図8を用いて第二の実施形態を説明する。第一の実施形態では、牽引モードが誤って選択されている場合において、牽引モードが誤って選択されている旨を施療者や患者に音声でアナウンスした後、腰椎牽引動作を停止(図6のS12)または、頸椎牽引動作を停止(図5のS6)する構成であったが、第二の実施形態は、この構成を採用せずに、牽引モードが誤って選択されているので適正なモードに変更する旨を施療者や患者に音声でアナウンスした後、誤選択されている牽引モードを患者の所望する適正な牽引モードに自動変更して牽引動作を再開する構成としたものである。
【0051】
図7のS13〜S14において、頸椎牽引モードを選択するところを誤って腰椎牽引モードを選択し腰椎牽引動作を開始した結果、比較判断部58により牽引モードが誤って選択されているとの判断がなされると(S15)、腰椎牽引モードが誤って選択されているので頸椎牽引モードに変更する旨を施療者や患者に音声でアナウンスする。続いて、制御部25は腰椎牽引動作を停止し、下体シート部4を牽引開始位置まで復帰移動させる。その後、制御部25は牽引モード切替設定部39の設定を腰椎牽引モードから頸椎牽引モードに自動変更する(S16)。腰椎牽引モードから頸椎牽引モードに自動変更されると、頸椎牽引力記憶部53に記憶されている頸椎牽引力値が牽引力値として自動設定され、頸椎牽引動作が再開する(S17)。
尚、頸椎牽引モードに自動変更した後、施療者が手動で牽引力設定部49に頸椎牽引力値を直接入力設定してから、頸椎牽引動作を再開するように構成してもよい。
【0052】
また、図8のS20〜S21において、腰椎牽引モードを選択するところを誤って頸椎牽引モードを選択し頸椎牽引動作を開始した結果、比較判断部58により牽引モードが誤って選択されているとの判断がなされると(S22)、頸椎牽引モードが誤って選択されているので腰椎牽引モードに変更する旨を施療者や患者に音声でアナウンスする。続いて、制御部25は頸椎牽引動作を停止し、下体シート部4を牽引開始位置まで復帰移動させる。その後、制御部25は牽引モード切替設定部39の設定を頸椎牽引モードから腰椎牽引モードに自動変更する(S23)。頸椎牽引モードから腰椎牽引モードに自動変更されると、腰椎牽引力記憶部53に記憶されている腰椎牽引力値が牽引力値として自動設定され、腰椎牽引動作が再開する(S24)。
上記と同様に、腰椎牽引モードに自動変更した後、施療者が手動で牽引力設定部49に腰椎牽引力値を直接入力設定してから、腰椎牽引動作を再開するように構成してもよい。
【0053】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更が可能であることは言うまでもない。例えば、図5のS2及び図8のS21では、腰椎牽引力値から頸椎牽引力値を減算し、この値が設定閾値を超過した場合に牽引モードが誤選択されていると比較判断部58が判断する制御例を説明したが、逆に頸椎牽引力値から腰椎牽引力値を減算し、この値の絶対値が設定閾値を超過した場合に牽引モードが誤選択されていると判断するようにしてもよい。また、上述した実施形態においては、頸椎牽引手段50は頸椎装具36で患者の頭部を固定し、腰椎牽引手段27を用いて下体シート部4を移動させる構成としたが、この構成に限らず、頸椎装具36が吊り下げられた索体42を巻取機構部43で直接巻き取るようにして頸椎牽引を行っても本発明の目的を達成できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、頸椎及び腰椎の牽引モードを備えた牽引治療装置に適用できるものであり、産業上の利用可能性は高いものである。
【符号の説明】
【0055】
1 牽引治療装置
3 椅子部
4 下体シート部
10 背もたれシート部
17 電動アクチュエータ
25 制御部
27 腰椎牽引手段
28 腰椎牽引力検出手段
29 腰装具
30 腰椎用ロードセル
36 頸椎装具
39 牽引モード切替設定部
50 頸椎牽引手段
51 頸椎牽引力検出手段
53 頸椎牽引力記憶部
54 腰椎牽引力記憶部
55 頸椎用ロードセル
57 モード選択手段
58 比較判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の頸椎を牽引する頸椎牽引手段と、患者の腰椎を牽引する腰椎牽引手段と、を有する牽引治療装置において、
頸椎牽引モードと腰椎牽引モードのいずれか一方を選択するモード選択手段と、
V該モード選択手段による選択信号を受け前記頸椎牽引手段又は前記腰椎牽引手段の牽引動作を制御する制御部と、を備え、
該制御部は患者の所望する牽引モードと異なるモードの選択による牽引動作がなされていることを検出した場合に、該牽引動作を停止するか又は所望の牽引モードに変更することを特徴とする牽引治療装置。

【請求項2】
請求項1記載の牽引治療装置において、
頸椎牽引力値を検出する頸椎牽引力検出手段を備え、
前記制御部は、前記腰椎牽引モードによる牽引動作時に前記頸椎牽引力検出手段により検出した前記頸椎牽引力値が予め設定した設定閾値以上に至ったことを検出すると、前記頸椎牽引モードを選択すべきところを誤って前記腰椎牽引モードを選択し牽引動作が行われていると判断し、該牽引動作を停止するか又は前記腰椎牽引モードを前記頸椎牽引モードに変更することを特徴とする牽引治療装置。

【請求項3】
請求項1記載の牽引治療装置において、
腰椎牽引力値を検出する腰椎牽引力検出手段と、頸椎牽引力値を検出する頸椎牽引力検出手段を備え、
前記制御部は、前記頸椎牽引モードによる牽引動作時に、前記腰椎牽引力値と前記頸椎牽引力値の差の絶対値が予め設定した設定閾値以上に至ったことを検出すると、前記腰椎牽引モードを選択すべきところを誤って前記頸椎牽引モードを選択し牽引動作が行われていると判断し、該牽引動作を停止するか又は前記頸椎牽引モードを前記腰椎牽引モードに変更することを特徴とする牽引治療装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−160937(P2011−160937A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26037(P2010−26037)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000103471)オージー技研株式会社 (109)
【Fターム(参考)】