説明

珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末、該粒子粉末を用いた含塩素樹脂安定剤及び含塩素樹脂組成物

【課題】 樹脂より脱離した塩素イオンによるハイドロタルサイト類化合物粒子表面の攻撃を抑制する。
【解決手段】 Mg−Al系、Mg−Zn−Al系ハイドロタルサイト類化合物粒子表面に、ハイドロタルサイト類化合物に対してSiO換算0.25〜25wt%の珪酸が被覆させ、且つ該粒子を105〜150℃にて乾燥したハイドロタルサイト類化合物粒子、並びに該粒子を150〜350℃にて熱処理したハイドロタルサイト類化合物粒子を含塩素樹脂組成物の安定剤として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工温度の高い含塩素樹脂組成物においてもハイドロタルサイト類化合物由来の発泡を抑制でき、且つ、優れた含塩素樹脂の安定性、着色性を付与する。
【背景技術】
【0002】
近年、含塩素樹脂の安定化剤としてPbやSnから、無毒な金属石鹸類とハイドロタルサイト類化合物の組合せに軟質樹脂組成物だけではなく硬質樹脂組成物ともに変わりつつある。
【0003】
含塩素樹脂を用いた硬質材料は、建材やパイプなど様々な用途で利用されているが、軟質材料とは異なり加工温度が高い。
【0004】
ハイドロタルサイト類化合物はその構造中に水分子及び水酸基並びに炭酸根等のアニオンを多量に持っており、加熱することでこれらがガス化して最終的には酸化物となり、元の57wt%弱の重量にまでなってしまう。水分子の脱離は100℃前後から始まって、続いて水酸基や炭酸根等のアニオンが250℃付近から脱離する。
【0005】
そのため、硬質材料を加工時に、ハイドロタルサイト類化合物から放出される水(水蒸気)や炭酸ガスが場合によっては樹脂中で泡を作り、製品としての見栄えの悪さや、耐久性の劣化、強度の劣化など諸問題が起きやすくなる。
【0006】
発泡を抑制するためにハイドロタルサイト類化合物粒子を熱処理することで脱離しやすい水を予め除去しておくことが行われてきたが、樹脂から脱離した塩素イオンをハイドロタルサイト類化合物粒子が捕捉するために必要な水分が少ないために樹脂の劣化・炭化が早くなるばかりではなく、塩素イオン捕捉速度が遅くなるためにハイドロタルサイト類化合物粒子表面が脱離した塩素イオンによって攻撃されて溶解したMgやAl,Zn等の金属錯体による樹脂の着色が激しく起きる。このため、加工に許される時間は極端に短い。また、樹脂組成物中の使用できる金属石鹸類量の幅は極度に狭くなるので、用途や製品が限られてしまい、無毒化対応の一つの壁でもあった。
【0007】
これまで塩素含有樹脂の安定剤としてハイドロタルサイト類化合物粒子を用いることが知られており(特許文献1〜3)、ハイドロタルサイト類化合物粒子に対してケイ素化合物による表面処理を行うことも知られている(特許文献2、3)。
【0008】
【特許文献1】国際公開第99/01509号公報
【特許文献2】特開2000−290451号公報
【特許文献3】特開2003−231778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1乃至3に記載されたハイドロタルサイト類化合物粒子では、ケイ素化合物による表面被覆が十分とは言い難く、含塩素樹脂組成物の安定剤として優れた機能を有するとは言い難いものであった。
【0010】
そこで、本発明は、樹脂より脱離した塩素イオンによるハイドロタルサイト類化合物粒子表面の攻撃に対する耐性を向上させたハイドロタルサイト類化合物粒子を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0012】
即ち、本発明は、Mg−Al系又はMg−Zn−Al系ハイドロタルサイト類化合物粒子の粒子表面に、ハイドロタルサイト類化合物に対してSiO換算0.25〜15wt%の珪酸(酸化珪素、[SiO(OH)4−2x化合物を指す)が被覆された珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末であって、該珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末の比表面積が10〜100m/gであり、該粒子を200℃にて1h熱処理する前後での平均細孔径の差は(熱処理前−熱処理後)表記で0〜25Åであることを特徴とする珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末である(本発明1)。
【0013】
また、本発明は、珪酸被覆前後の比表面積の差は、(被覆後−被覆前)表記で0〜20m/gであることを特徴とする本発明1の珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末である(本発明2)。
【0014】
また、本発明は、本発明1の珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末は、105〜150℃の温度範囲で乾燥して得られることを特徴とする珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末である(本発明3)。
【0015】
また、本発明は、本発明1乃至3のいずれかに記載の珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末を150〜350℃にて熱処理することを特徴とする珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末である(本発明4)。
【0016】
また、本発明は、本発明1乃至4のいずれかに記載の珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末を用いた含塩素樹脂組成物を安定化させるための含塩素樹脂安定剤である(本発明5)。
【0017】
また、本発明は、本発明1乃至4のいずれかに記載の珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末を塩素含有樹脂中に含有することを特徴とする含塩素樹脂組成物である(本発明6)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末を用いることにより、含塩素樹脂より脱離した塩素イオンによるハイドロタルサイト類化合物粒子表面の攻撃を抑制し、樹脂組成物の安定化・着色抑制ができる。
また、該粒子を適度に熱処理することで樹脂加工時の発泡を抑制することもできる。
【0019】
本発明に係る樹脂組成物は、着色が抑制され高い安定性を有し、殊に、加工温度が高い硬質の樹脂組成物であっても前記特性を維持できるので、含塩素樹脂組成物として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
先ず、本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末について述べる。
【0021】
本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末において、芯となるハイドロタルサイト類化合物粒子はMg,Al,Znなどから構成されており、俗にMg−Al系やMg−Zn−Al系と表記されるものである。
【0022】
本発明におけるハイドロタルサイト類化合物の組成は特に限定されるものではないが、例えば、一般に知られているようなMg/Alモル比は1.0〜3.5が好ましく、Mg-Al−Zn系での亜鉛はMg及びAlの合計モル数に対してモル比で0.0010〜0.20が好ましい。
【0023】
ハイドロタルサイト類化合物粒子の粒子表面に被覆させる珪酸(酸化珪素、[SiO(OH)4−2x化合物を指す)は、ハイドロタルサイト類化合物粒子に対してSiO換算0.25〜15wt%である。0.25wt%未満では被覆量が不十分である。15wt%を超えるとハイドロタルサイト類化合物粒子の粒子表面だけではなく粒子外に珪酸粒子が析出してしまい、樹脂混練が難しくなる。好ましくは0.25〜13wt%、より好ましくは0.3〜12wt%である。
【0024】
本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末の比表面積は10〜100m/gである。10m/g未満の珪酸被覆されたハイドロタルサイト類化合物粒子は工業的に得られにくい。100m/gを超えると珪酸はハイドロタルサイト類化合物粒子外にも析出してしまう。好ましくは10〜50m/g、より好ましくは10〜30m/gである。
【0025】
さらに、本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末において、200℃にて1h熱処理をする前後での平均細孔径の差は、200℃による(熱処理前−熱処理後)表記で0〜25Åである。0Å未満ではハイドロタルサイト粒子外での珪酸粒子析出が起きている。25Åを超えるとハイドロタルサイト類化合物粒子の珪酸の被覆が不足し、含塩素樹脂組成物の加工時の安定性や着色抑制が悪くなる。好ましくは0〜20Å、より好ましくは0.5〜14.8Åである。
【0026】
本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末を200℃にて1h熱処理をする前の平均細孔径は120〜160Åが好ましい。120Å未満では珪酸がハイドロタルサイト類化合物粒子外に析出している。160Åを超えるとハイドロタルサイト類化合物粒子の珪酸の被覆が不足し、含塩素樹脂組成物の加工時の安定性や着色抑制が悪くなる。好ましくは120〜155Å、より好ましくは125〜150Åである。
【0027】
本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末を200℃にて1h熱処理をした後での平均細孔径は120〜170Åが好ましい。120Å未満では珪酸がハイドロタルサイト類化合物粒子外に析出している。170Åを超えるとハイドロタルサイト類化合物粒子の珪酸の被覆が不足し、含塩素樹脂組成物の加工時の安定性や着色抑制が悪くなる。好ましくは120〜160Å、より好ましくは120〜150Åである。
【0028】
本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末の平均板面径は0.08〜0.5μmが好ましい。
【0029】
次に、本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子の製造法について述べる。
【0030】
本発明におけるハイドロタルサイト類化合物粒子は、常圧での芯粒子に対する成長反応(特開2002−293535号公報)や、オートクレーブを用いて105〜350℃にて生成されたものを用いることが望ましい。これらは、例えば、Mg,Al,Znについては硫酸塩金属、硝酸塩金属、塩化物塩金属、金属酸化物などの原料と、苛性ソーダや水酸化カリウムなどのアルカリ、炭酸ソーダや塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カリウムなどのアニオン源原料から作製すればよい。
【0031】
珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子を作製するには、目標とするハイドロタルサイト類化合物粒子を生成し、その反応懸濁液に対して十分薄めた珪酸ソーダ溶液を滴下しながら、同時に酸を加えpH調整を行う必要がある。酸としては、硫酸、酢酸、蓚酸、塩酸などを用いることができる。反応懸濁液のpHは8.5〜10に調節することが好ましく、より好ましくは8.5〜9.5である。珪酸ソーダと酸を同時に滴下してpH調整する時間は特に限定されないが0.5〜3hで行う。0.5h未満ではハイドロタルサイト類化合物粒子外に珪酸粒子が生成してしまう。3hを超える場合にはハイドロタルサイト類化合物の層間に珪酸イオンがインターカレートしてしまい含塩素樹脂組成物の安定性を劣化させる。好ましくは0.5〜2h、より好ましくは0.75〜1.5hである。
なお、反応懸濁液が上記のpH範囲でない場合には、珪酸ソーダ溶液を滴下する前に、酸でpH調整する必要がある。
珪酸ソーダ溶液と酸を同時に滴下した後、0.5〜2hのエージングを行う。0.5h未満では珪酸ソーダ溶液の濃度が高く、滴下時間が短い場合にハイドロタルサイト類化合物粒子外に珪酸粒子が析出してしまう。2hを超えた場合にはハイドロタルサイト類化合物の層間に珪酸イオンがインターカレートしてしまい含塩素樹脂組成物の安定性を劣化させる。好ましくは0.5〜1.75h、より好ましくは0.5〜1.5hである。
【0032】
十分に薄めた珪酸ソーダ溶液の濃度はSiO換算で1〜100g/Lである。1g/L未満では反応の全容量が多くなりすぎて現実的ではない。100g/Lを超える場合にはハイドロタルサイト類化合物粒子外に珪酸粒子が生成してしまう。好ましくは5〜75g/L、より好ましくは10〜50g/Lである。
【0033】
珪酸ソーダ溶液と酸を同時に反応懸濁液に滴下するときの温度は50〜100℃である。50℃未満ではハイドロタルサイト類化合物粒子外に珪酸粒子が生成してしまう。100℃を超える場合にはオートクレーブなどの圧力釜が必要になり、さらにハイドロタルサイト類化合物の層間に珪酸イオンがインターカレートしてしまい含塩素樹脂組成物の安定性を劣化させる。好ましくは60〜90℃、より好ましくは70〜90℃である。
【0034】
上記のようにして得られた珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子は、基本的には105〜150℃にて乾燥を行うことが好ましい。105℃未満では珪酸に含まれる水分が多いので樹脂中で発泡が起きやすく、また乾燥させために長時間必要となり経済的ではない。150℃を超える場合は、軟質〜半硬質含塩素樹脂組成物の安定剤用途としては樹脂の劣化抑制の働きが低下する傾向にある。軟質〜半硬質含塩素樹脂組成物の安定剤用途として、好ましくは105〜130℃である。乾燥時間は乾燥量や乾燥方法によって必要な時間行えばよい。好ましくは3〜24hである。
【0035】
本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子は、珪酸による被覆前後の比表面積の差は(被覆後−被覆前)表記において、0〜20m/gであることが好ましい。被覆前後の比表面積の差は、珪酸を被覆することによって被覆前よりも小さな比表面積値にはならないので0m/g未満はあり得ない。20m/gを超える場合には、ハイドロタルサイト粒子外での珪酸粒子の析出が起きる。好ましくは0〜18m/g、より好ましくは2〜15m/gである。樹脂への混練を施す場合には小さな比表面積のものがよく、且つ、珪酸被覆前後での比表面積差が大きなもの方がより好ましい。
【0036】
本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子を150〜350℃において熱処理することで、含塩素樹脂組成物の加工時のより一層の安定性や着色抑制並びに発泡抑制が可能となる。150℃未満の熱処理では半硬質〜硬質含塩素樹脂組成物のより一層の安定性や着色抑制並びに発泡抑制の特性には到らない。350℃を超える熱処理ではハイドロタルサイト類化合物からの水や炭酸根などのアニオンが脱離しすぎるために、含塩素樹脂組成物の安定性が大きく劣化する。半硬質〜硬質含塩素樹脂組成物の安定剤用途として、好ましくは160〜330℃、より好ましくは170〜300℃である。
なお、珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子では、ハイドロタルサイト類化合物粒子だけを熱処理するときよりも熱処理温度は高め、熱処理時間は長めにすることが必要である。熱処理時間は特に限定しないが、工業的な面も含めて0.5〜5h、好ましくは0.5〜4h、より好ましくは1〜3hが理想である。熱処理時の雰囲気は特に限定されないが空気が望ましい。
【0037】
次に、本発明に係る含塩素樹脂安定剤及び含塩素樹脂組成物について述べる。
【0038】
本発明1乃至4のいずれかの珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子を含塩素樹脂安定剤として含塩素樹脂組成物に添加して用いることができる。
【0039】
本発明に係る含塩素樹脂組成物は、樹脂100重量部に対して、前記珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末を0.1〜10重量部含有することが好ましい。ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末の含有量が0.1重量部未満の場合には、安定剤としての効果が低い。10重量部を超える場合には、効果が飽和するため必要以上に添加する意味がない。また、ハイドロタルサイト型粒子粉末を必要以上に多量に添加すると、発泡が起こりやすく、外観不良や初期着色等の悪影響を及ぼす場合がある。
【0040】
また、必要に応じて、樹脂中に可塑剤、その他安定剤及び添加剤を含有してもよい。
【0041】
可塑剤としては、トリオクチルトリメリテート(TOTM)、トリ−n−オクチル−n−デシルトリメリテート等のトリメトリット酸エステル系可塑剤、フタル酸ジイロデシル(DIDP)、ジイソノニル・フタレート(DINP)、ジ−2−エチルヘキシル・フタレート(DOP)等のフタル酸エステル系可塑剤、ポリプロピレン・アジペート、ポリプロピレン・セバケート等のポリエステル系可塑剤等が好ましい。
【0042】
その他安定剤としては、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛等の亜鉛化合物、ジベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、デヒドロ酢酸等のβ−ジケトン類、アルキルアリルフォスフェート、トリアルキルフォスフェート等のフォスファイト類、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール系化合物、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸、エポキシ化アマニ油、エポキシ化大豆油等のエポキシ系化合物等が好ましい。
【0043】
その他の添加剤としては、フェノール系化合物、アミン系化合物、りん酸系化合物等の酸化防止剤、ポリエステルの末端をOH基に変えたもの、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、メタクリル酸メチルスチレンコポリマー等のゲル化促進剤、炭酸カルシウム、シリカ、ガラスビーズ、マイカ、ガラス繊維等の増量剤、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、ほう酸亜鉛等の無機難燃剤、含臭素有機系難燃剤、含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤等の難燃剤、ステアリン酸、ポリエチレンワックス、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム等の滑剤、トリクロサン、オーソサイド、サンアイゾール100、サンアイゾール300等防カビ剤等が使用される。
【0044】
本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子を含塩素樹脂組成物として用いる場合、該粒子が高級脂肪酸やアニオン系界面活性剤、高級脂肪酸リン酸エステル、カップリング剤及び多価アルコールエステル類から選ばれる少なくとも一種の表面処理を施すことが好ましい。表面処理を施すことでより一層の含塩素樹脂組成物の安定性を付与することができる。
【0045】
高級脂肪酸としては、例えば、ラウリル酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸などであり、高級脂肪酸リン酸エステルとしては、例えば、ステアリルエーテルリン酸、オレイルエーテルリン酸、ラウリルエーテルリン酸などであり、多価アルコールエステルとしては、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ステアリン酸モノグリセライドなどが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ひまし油カリウムなどの塩類などが挙げられる。
カップリング剤としては、シラン系、アルミニウム系、チタン系、ジルコニウム系カップリング剤などを使用できる。
【0046】
表面処理剤の処理方法は、特に限定されないが、珪酸をハイドロタルサイト類化合物粒子表面に被覆した後に湿式反応によって行ってもよい。あるいは、珪酸粒子をハイドロタルサイト類化合物粒子表面に被覆し、ヘンシェルミキサー等によって乾式表面処理してもよい。または、単純に該ハイドロタルサイト類化合物粒子と表面処理剤を混合するだけでもよい。乾式表面処理あるいは混合する場合には、先に150〜350℃において熱処理した珪酸粒子を被覆したハイドロタルサイト類化合物粒子を用いて上記同様に処理してもよい。必要があれば表面処理後に250℃までの熱処理を施してもよい。
【0047】
本発明に係る含塩素樹脂組成物は、可塑剤が全く含まれない硬質材料の場合には、本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子を用いれば、
含塩素樹脂(重合度1000)
大洋塩ビ株式会社製 大洋PVC TH1000 100重量部
本発明ハイドロタルサイト類化合物粒子(210℃熱処理) 1重量部
ステアリン酸亜鉛(一般試薬) 0.1〜0.3重量部
なる含塩素樹脂組成物において、
ステアリン酸亜鉛が0.3重量部では、後述する着色レベルにおいて、レベル7の時間が40分以上、あるいは、ステアリン酸亜鉛が0.1〜0.2重量部では、後述する着色レベルにおいて、レベル4の時間が30分以上である。
【0048】
また、可塑剤が少量含まれる半硬質材料の場合では、
含塩素樹脂(重合度1000)
大洋塩ビ株式会社製 大洋PVC TH1000 100重量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(大八化学製 DOP) 25重量部
本発明ハイドロタルサイト類化合物粒子(210℃熱処理) 1重量部
ステアリン酸亜鉛(一般試薬) 0.1〜0.35重量部
なる含塩素樹脂組成物において、ステアリン酸亜鉛0.3重量部では、後述する着色レベルにおいて、レベル7の時間が25分以上、あるいは、ステアリン酸亜鉛0.1重量部では、後述する着色レベルにおいて、レベル4の時間が20分以上である。
【0049】
また、可塑剤が含まれる軟質〜半硬質材料の場合では、
含塩素樹脂(重合度1000)
大洋塩ビ株式会社製 大洋PVC TH1000 100重量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(大八化学製 DOP) 35重量部
本発明ハイドロタルサイト類化合物粒子(120℃乾燥) 2〜3重量部
ステアリン酸亜鉛(一般試薬) 0.4重量部
なる含塩素樹脂組成物において、後述する着色レベルにおいて、レベル7の時間が30分以上で、あるいは、レベル5の時間が20分以上である。
【0050】
次に、本発明に係る含塩素樹脂組成物の製造法について述べる。
【0051】
本発明に係る含塩素樹脂組成物は通常の製造法によって得ることができるが、例えば、練り込みシートを得る場合には、樹脂、珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末及び上記各種安定剤、添加剤を所定量混合し、該混合物を熱間ロールで練り込み、練り込みシートを得た後、熱間プレスで加圧処理することによって得られる。熱間ロールの練り込み温度は用いる樹脂や樹脂組成物によって異なるが、140〜300℃が好ましい。熱間プレスのプレス温度は145〜320℃が好ましい。
【0052】
<作用>
本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子を用いることにより、含塩素樹脂より脱離した塩素イオンによるハイドロタルサイト類化合物粒子表面の攻撃を抑制し、含塩素樹脂組成物の安定化・着色抑制ができる。
即ち、含塩素樹脂から脱離した塩素イオンはハイドロタルサイト類化合物粒子の粒子表面を攻撃し、ハイドロタルサイト類化合物粒子を構成するMg、Zn又はAl元素を溶解し、樹脂組成物を構成する有機物あるいはこれらが分解して生成した有機物と錯体を形成するために、樹脂組成物の着色が起きてしまう。同時に、ハイドロタルサイト類化合物粒子も溶解するために元来の含塩素樹脂組成物の安定化が劣化してしまう。本発明に係る珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子では、脱離した塩素イオンはハイドロタルサイト類化合物粒子を被覆している珪酸に攻撃を加えることになり、珪酸による被覆層は塩素イオンに対する耐性をより向上させることができたため、ハイドロタルサイト類化合物粒子を構成するMg、Zn又はAlは溶解しにくくなり、樹脂組成物の安定化・着色抑制ができる。
また、該粒子を適度な熱処理することで樹脂加工時の発泡を抑制することもできる。
【実施例】
【0053】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0054】
粒子の形状、サイズの確認は、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社、JEM−1200EXII)を用いて測定した。
【0055】
元素の含有量は、試料を酸で溶解し、プラズマ発光分光分析装置(サーモエレクトロン株式会社製、iCAP6500)でイットリウムを内部標準として用いて分析して求めた。
【0056】
構成相同定は粉末X線回折装置(株式会社リガク製、RINT−2500)で行った。回折角2θが3〜80°、ステップ角0.03°、FT0.3secの条件で測定した。線源種はCuを使用した。
【0057】
比表面積値は、窒素を用いたB.E.T.法により測定した。
【0058】
樹脂のロール混練は、6インチ2本タイプを用いて、樹脂組成物に合わせて温度を140〜190℃に調整した。混練時間は5分にて行った。
【0059】
上記ロール混練したシートを、200×200×1〜1.5mmの圧縮成型体にした。圧縮成形体を作製する装置は加熱プレスが70トン自動プレス(ラム面積210cm)、冷却プレスが30トン手動プレス(ラム面積180cm)とした。圧縮成型条件は、140〜190℃にて、予熱(無圧)にて3分、加圧(6.3MPa)にて2分、冷却(3.1MPa)にて3分の手順で行った。
【0060】
熱安定性試験はギヤー老化式試験機(株式会社安田精機製作所製、102−SHF−77S)にて行った。上記プレスしたシートを30×30mm角に切り出し、ガラス板上にこの試験片を置いて、180℃で80分間試験をしながら、10分毎に試験片を2枚/1サンプルずつ取り出して、記録紙に貼り付けた。
【0061】
上記のプレスシートなどの測色は測色器(x−rite,Inc.製、X−Rite939)にてL、a、bを求めた。
【0062】
プレスシート及び熱安定性試験片の着色レベルは次のような1〜7のレベルに定義した。
レベル1 ほとんど着色がない
レベル2 若干、赤味及び/又は黄味の着色が認められる
レベル3 淡い褐色
レベル4 褐色
レベル5 濃い褐色
レベル6 一部が炭化・黒化
レベル7 全体が炭化・黒化
【0063】
次に実施の形態を述べる。
【0064】
実施例1
(ハイドロタルサイト類化合物粒子の作製)
硫酸マグネシウム7水塩結晶272.43gと硫酸アルミニウム8水塩結晶95.98gを秤量し、純水で溶解して全量1Lとした。別に、炭酸ソーダ結晶50.20gを500mlになるよう純水で溶解し、さらに苛性ソーダ(12N)254.6mlと純水を加え、全量で2Lとなるようにした。このアルカリ溶液を50℃に昇温し、先のマグネシウムとアルミニウムの混合水溶液をアルカリ溶液に投入し、70℃にて4h撹拌した。これをオートクレーブに移して135℃にて10h撹拌しながらエージングした。得られたハイドロタルサイト類化合物粒子は、比表面積13.0m/gであった。
【0065】
(珪酸被覆されたハイドロタルサイト類化合物粒子の作製)
続いて、この反応懸濁液を撹拌しながら67℃にして、硫酸でpHを9.3に調整した。この状態に20g/L−SiOの珪酸ソーダ溶液169.5mlと0.5N硫酸とを同時に1.2hで滴下しながら反応懸濁液をpH9.3に保持した。これを0.75hエージングした。濾過後、水洗し、125℃で8h乾燥を行った。
得られた試料の比表面積は15.5m/gであり、珪酸による被覆処理前後のBET比表面積値の差(被覆後−被覆前)は、2.5m/gであった。Mg/Al比、ハイドロタルサイト類化合物粒子に対する珪酸被覆量(SiO量)は分析の結果、ほぼ仕込み通りそれぞれ2.78、3.0wt%であり、平均細孔径は142.0Åであった。また、XRDでは確認できない非晶質系の珪酸であった。
【0066】
得られたハイドロタルサイト類化合物粒子の一部を200℃にて1h熱処理した。平均細孔径は132.4Åであった。
【0067】
念のため、上記で得られた珪酸被覆されたハイドロタルサイト類化合物粒子のみを、硫酸水溶液を用いてpHを3に調節して溶解させ、珪酸の状態を確認した。珪酸は元となるハイドロタルサイト類化合物粒子の形状・サイズのホロー型粒子のみで、系外に粒子は存在しなかった。このことから、添加した全ての珪素原料はXRDでは確認できない非晶質系の珪酸として析出しており、ハイドロタルサイト類化合物粒子の粒子表面に付着し被覆化していたことが確認された。
【0068】
(含塩素樹脂組成物の作製及び評価)
上記珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子を210℃にて1h熱処理した。その後、ステアリン酸を該ハイドロタルサイト粒子重量対比3wt%表面処理した。この熱処理を行った試料を用いて以下の含塩素樹脂組成物とした(半硬質組成)。
含塩素樹脂組成物 100phr
DOP 25phr
ステアリン酸亜鉛 0.3phr
上記試料 1.5phr
178℃にて5分ロール混練し、178℃にて圧縮成形プレス処理を行った。得られたシートには発泡は確認されなかった。得られたシートのbは40.8で、レベル4の時間は25min、レベル7の時間は40minであった。
【0069】
実施例2
実施例1記載の珪酸被覆し210℃にて1h熱処理したハイドロタルサイト類化合物粒子を用いた。その後、ステアリン酸を該ハイドロタルサイト粒子重量対比3wt%表面処理した。この表面処理を行った試料を用いて以下の含塩素樹脂組成物とした(硬質組成)。
含塩素樹脂組成物 100phr
ステアリン酸亜鉛 0.2phr
上記試料 1phr
180℃にて5分ロール混練し、180℃にて圧縮成形プレス処理を行った。得られたシートには発泡は確認されなかった。得られたシートのbは39.4で、レベル4の時間は30min、レベル7の時間は70minであった。
【0070】
実施例3
硝酸マグネシウム6水塩結晶315.02gと硝酸アルミニウム9水塩結晶214.36gを秤量し、純水で溶解して全量1Lとした。別に、炭酸ソーダ結晶72.67gを500mlになるよう純水で溶解し、さらに苛性ソーダ(12N)278.1mlと純水を加え、全量で2Lとなるようにした。このアルカリ溶液を50℃に昇温し、先のマグネシウムとアルミニウムの混合水溶液をアルカリ溶液に投入し、70℃にて4h撹拌した。これをオートクレーブに移して160℃にて8h撹拌しながらエージングした。得られたハイドロタルサイト類化合物粒子は、比表面積12.5m/gであった。
【0071】
続いて、この反応懸濁液を撹拌しながら82℃にして、硫酸でpHを8.8に調整した。この状態に43g/L−SiOの珪酸ソーダ溶液379.5mlと0.5N硫酸とを同時に2hで滴下しながらpH8.8を保持した。これを0.5hエージングした。濾過後、水洗し、130℃で13h乾燥を行った。
得られた試料の比表面積は21.3m/gであり、珪酸による被覆処理前後のBET比表面積値の差(被覆後−被覆前)は、8.8m/gであった。Mg/Al比、ハイドロタルサイト類化合物粒子に対するSiO量は分析の結果、ほぼ仕込み通りそれぞれ2.15、11.8wt%であり、平均細孔径は141.9Åであった。また、XRDでは確認できない非晶質系の珪酸であった。
【0072】
念のため、上記で得られた珪酸被覆されたハイドロタルサイト類化合物粒子のみを、硫酸水溶液を用いてpHを3に調節して溶解させ、珪酸の状態を確認した。珪酸は元となるハイドロタルサイト類化合物粒子の形状・サイズのホロー型粒子のみで、系外粒子は存在しなかった。このことから、添加した全ての珪素原料はXRDでは確認できない非晶質系の珪酸として析出しており、ハイドロタルサイト類化合物粒子の粒子表面に付着し被覆化していたことがわかった。
【0073】
得られたハイドロタルサイト類化合物粒子の一部を200℃にて1h熱処理した。平均細孔径は127.7Åであった。
【0074】
上記珪酸被覆したハイドロタルサイト類化合物粒子を210℃にて1h熱処理した。その後、ステアリン酸を該ハイドロタルサイト粒子重量対比3wt%表面処理した。この熱処理を行った試料を用いて以下の含塩素樹脂組成物とした(硬質組成)。
含塩素樹脂組成物 100phr
ステアリン酸亜鉛 0.1phr
上記試料 1phr
182℃にて5分ロール混練し、182℃にて圧縮成形プレス処理を行った。得られたシートには発泡は確認されなかった。得られたシートのbは45.2で、レベル4の時間は35min、レベル7の時間は65minであった。
【0075】
実施例4
硫酸マグネシウム7水塩結晶169.71gと硫酸アルミニウム8水塩結晶95.66g、硫酸亜鉛7水塩結晶33.94gを秤量し、純水で溶解して全量1Lとした。別に、炭酸ソーダ結晶66.72gを500mlになるよう純水で溶解し、さらに苛性ソーダ(12N)176.9mlと純水を加え、全量で2Lとなるようにした。このアルカリ溶液を50℃に昇温し、先のマグネシウムとアルミニウムの混合水溶液をアルカリ溶液に投入し、70℃にて4h撹拌した。これをオートクレーブに移して150℃にて12h撹拌しながらエージングした。得られたハイドロタルサイト類化合物粒子は、比表面積10.1m/gであった。
【0076】
続いて、この反応懸濁液を撹拌しながら85℃にして、硫酸でpHを8.7に調整した。この状態に35g/L−SiOの珪酸ソーダ溶液195.0mlと0.5N硫酸とを同時に2hで滴下しながらpH8.7を保持した。これを1hエージングした。濾過後、水洗し、120℃で15h乾燥を行った。
得られた試料の比表面積は16.3m/gであり、珪酸による被覆処理前後のBET比表面積値の差(被覆後−被覆前)は、6.2m/gであった。Mg/Al比、Zn/Al比、ハイドロタルサイト類化合物粒子に対するSiO量は分析の結果、ほぼ仕込み通りそれぞれ1.57、0.3、7.5wt%であり、平均細孔径は146.4Åであった。また、XRDでは確認できない非晶質系の珪酸であった。
【0077】
念のため、上記で得られた珪酸被覆されたハイドロタルサイト類化合物粒子のみを硫酸水溶液を用いてpHを3に調節して溶解させ、珪酸の状態を確認した。珪酸は元となるハイドロタルサイト類化合物粒子の形状・サイズのホロー型粒子のみで、系外粒子は存在しなかった。このことから、添加した全ての珪素原料はXRDでは確認できない非晶質系の珪酸として析出しており、ハイドロタルサイト類化合物粒子の粒子表面に付着し被覆化していたことがわかった。
【0078】
得られたハイドロタルサイト類化合物粒子の一部を200℃にて1h熱処理した。平均細孔径は138.9Åであった。
【0079】
上記珪酸被覆したハイドロタルサイト類化合物粒子を210℃にて1h熱処理した。その後、ステアリン酸を該ハイドロタルサイト粒子重量対比3wt%表面処理した。この熱処理を行った試料を用いて以下の含塩素樹脂組成物とした(硬質組成)。
含塩素樹脂組成物 100phr
ステアリン酸亜鉛 0.1phr
上記試料 1phr
180℃にて5分ロール混練し、180℃にて圧縮成形プレス処理を行った。得られたシートには発泡は確認されなかった。得られたシートのbは41.2で、レベル4の時間は40min、レベル7の時間は55minであった。
【0080】
実施例5
硫酸マグネシウム7水塩結晶332.75gと硫酸アルミニウム8水塩結晶109.42gを秤量し、純水で溶解して全量0.7Lとした。別に、炭酸ソーダ結晶41.73gを500mlになるよう純水で溶解し、さらに苛性ソーダ(12N)754.1mlと純水を加え、全量で1.7Lとなるようにした。このアルカリ溶液を50℃に昇温し、先のマグネシウムとアルミニウムの混合水溶液をアルカリ溶液に投入し、95℃にて8h撹拌した。次いで、別途用意しておいた、硫酸マグネシウム7水塩結晶78.5gと硫酸アルミニウム8水塩結晶38.72gとを溶解させた混合溶液0.3Lを、上記95℃の反応懸濁液に滴下して、95℃で6hエージングを行った。得られたハイドロタルサイト類化合物粒子は、比表面積14.1m/gであった。
【0081】
続いて、この反応懸濁液を撹拌しながら80℃にして、硫酸でpHを9.4に調整した。この状態に50g/L−SiOの珪酸ソーダ溶液344.0mlと0.5N硫酸とを同時に0.5hで滴下しながらpH9.4を保持した。これを1hエージングした。濾過後、水洗し、120℃で10h乾燥を行った。
得られた試料の比表面積は21.2m/gであり、珪酸による被覆処理前後のBET比表面積値の差(被覆後−被覆前)は、7.1m/gであった。Mg/Al比、ハイドロタルサイト類化合物粒子に対するSiO量は分析の結果、ほぼ仕込み通りそれぞれ2.83、9.9wt%であり、平均細孔径は134.9Åであった。また、XRDでは確認できない非晶質系の珪酸であった。
【0082】
念のため、上記で得られた珪酸被覆されたハイドロタルサイト類化合物粒子のみを硫酸水溶液を用いてpHを3に調節して溶解させ、珪酸の状態を確認した。珪酸は元となるハイドロタルサイト類化合物粒子の形状・サイズのホロー型粒子のみで、系外粒子は存在しなかった。このことから、添加した全ての珪素原料はXRDでは確認できない非晶質系の珪酸として析出しており、ハイドロタルサイト類化合物粒子表面に付着し被覆化していたことがわかった。
【0083】
得られたハイドロタルサイト類化合物粒子の一部を200℃にて1h熱処理した。平均細孔径は130.4Åであった。
【0084】
上記珪酸被覆したハイドロタルサイト類化合物粒子にステアリン酸を該ハイドロタルサイト粒子重量対比3wt%表面処理した。この試料を用いて以下の含塩素樹脂組成物とした(軟質〜半硬質組成)。
含塩素樹脂組成物 100phr
DOP 32.5phr
ステアリン酸亜鉛 0.4phr
上記試料 2.3phr
173℃にて5分ロール混練し、173℃にて圧縮成形プレス処理を行った。得られたシートには発泡は確認されなかった。得られたシートのbは63.3で、レベル5の時間は25min、レベル7の時間は40minであった。
【0085】
実施例6
硫酸マグネシウム7水塩結晶338.03gと硫酸アルミニウム8水塩結晶133.38gを秤量し、純水で溶解して全量650mlとした。別に、炭酸ソーダ結晶110.11gを500mlになるよう純水で溶解し、さらに苛性ソーダ(12N)411.4mlと純水を加え、全量で1.65Lとなるようにした。このアルカリ溶液を70℃に昇温し、先のマグネシウムとアルミニウムの混合水溶液をアルカリ溶液に投入し、95℃にて4h撹拌した。さらに、硫酸マグネシウム7水塩結晶84.51gと硫酸アルミニウム8水塩結晶33.34gを秤量し、純水で溶解して全量350mlとして、上記した反応懸濁液に95℃において1hで滴下し、2hエージングした。これをオートクレーブに移して148℃にて8h撹拌しながらエージングした。得られたハイドロタルサイト類化合物粒子は、比表面積11.5m/gであった。
【0086】
続いて、この反応懸濁液を撹拌しながら77℃にして、硫酸でpHを9.1に調整した。この状態に30g/L−SiOの珪酸ソーダ溶液182.0mlと0.5N硫酸とを同時に1hで滴下しながらpH9.1を保持した。これを1hエージングした。濾過後、水洗し、120℃で12h乾燥を行った。
得られた試料の比表面積は14.1m/gであり、珪酸による被覆処理前後のBET比表面積値の差(被覆後−被覆前)は、2.6m/gであった。Mg/Al比、ハイドロタルサイト類化合物粒子に対するSiO量は分析の結果、ほぼ仕込み通りそれぞれ2.50、3.0wt%であり、平均細孔径は149.6Åであった。また、XRDでは確認できない非晶質系の珪酸であった。
【0087】
念のため、上記で得られた珪酸被覆されたハイドロタルサイト類化合物粒子のみを硫酸水溶液を用いてpHを3に調節して溶解させ、珪酸の状態を確認した。珪酸は元となるハイドロタルサイト類化合物粒子の形状・サイズのホロー型粒子のみで、系外粒子は存在しなかった。このことから、添加した全ての珪素原料はXRDでは確認できない非晶質系の珪酸として析出しており、ハイドロタルサイト類化合物粒子表面に付着し被覆化していたことがわかった。
【0088】
得られたハイドロタルサイト類化合物粒子の一部を200℃にて1h熱処理した。平均細孔径は148.1Åであった。
【0089】
上記珪酸被覆したハイドロタルサイト類化合物粒子を205℃にて1h熱処理した。その後、ステアリン酸を該ハイドロタルサイト粒子重量対比3wt%表面処理した。この熱処理を行った試料を用いて以下の含塩素樹脂組成物とした(硬質組成)。
含塩素樹脂組成物 100phr
ステアリン酸亜鉛 0.28phr
上記試料 1phr
180℃にて5分ロール混練し、180℃にて圧縮成形プレス処理を行った。得られたシートには発泡は確認されなかった。得られたシートのbは46.3で、レベル4の時間は35min、レベル7の時間は65minであった。
【0090】
比較例1
硫酸マグネシウム7水塩結晶315.02gと硫酸アルミニウム8水塩結晶214.36gを秤量し、純水で溶解して全量1Lとした。別に、炭酸ソーダ結晶72.67gを500mlになるよう純水で溶解し、さらに苛性ソーダ(12N)278.10mlと純水を加え、全量で2Lとなるようにした。このアルカリ溶液を50℃に昇温し、先のマグネシウムとアルミニウムの混合水溶液をアルカリ溶液に投入し、70℃にて4h撹拌した。これをオートクレーブに移して160℃にて8h撹拌しながらエージングした。
【0091】
濾過後、水洗し、130℃で13h乾燥を行った。得られた試料の比表面積は12.4/gで、Mg/Al比は分析の結果、ほぼ仕込み通りそれぞれ2.15であり、平均細孔径は151.3Åであった。
【0092】
この試料の一部を200℃にて1h熱処理した。平均細孔径は135.2Åであった。
【0093】
上記ハイドロタルサイト類化合物粒子を210℃にて2h熱処理した。その後、ステアリン酸を該ハイドロタルサイト粒子重量対比3wt%表面処理した。この熱処理を行った試料を用いて以下の含塩素樹脂組成物とした(硬質組成)。
含塩素樹脂組成物 100phr
ステアリン酸亜鉛 0.1phr
上記試料 1phr
183℃にて5分ロール混練し、183℃にて圧縮成形プレス処理を行った。上記ハイドロタルサイトには一部で樹脂中にて分散不良が認められた。得られたシートのbは55.7で、レベル4の時間は20min、レベル7の時間は60minであった。
【0094】
比較例2
硫酸マグネシウム7水塩結晶332.75gと硫酸アルミニウム8水塩結晶109.42gを秤量し、純水で溶解して全量1Lとした。別に、炭酸ソーダ結晶41.73gを500mlになるよう純水で溶解し、さらに苛性ソーダ(12N)754.1mlと純水を加え、全量で2Lとなるようにした。このアルカリ溶液を50℃に昇温し、先のマグネシウムとアルミニウムの混合水溶液をアルカリ溶液に投入し、95℃にて6h撹拌した。得られたハイドロタルサイト類化合物粒子は、比表面積15.8m/gであった。
【0095】
続いて、この反応懸濁液を撹拌しながら85℃にした。この状態に40g/L−SiOの珪酸ソーダ溶液505.8mlを投入した後、0.5N硫酸を0.25hで滴下しpH9.0とした。これを0.5hエージングした。濾過後、水洗し、60℃で3h乾燥を行った。得られた試料の比表面積は24.2m/gであり、珪酸による被覆処理前後のBET比表面積値の差(被覆後−被覆前)は、8.4m/gであった。Mg/Al比、ハイドロタルサイト類化合物粒子に対するSiO量は分析の結果、ほぼ仕込み通りそれぞれ3.02、16.5wt%であり、平均細孔径は135.8Åであった。また、XRDでは確認できない非晶質系の珪酸であった。
念のため、上記で得られた珪酸被覆されたハイドロタルサイト類化合物粒子のみを硫酸水溶液を用いてpHを3に調節して溶解させ、珪酸の状態を確認した。珪酸は元となるハイドロタルサイト類化合物粒子の形状・サイズのホロー型粒子、及び、ハイドロタルサイト粒子外に非晶質凝集粒子が存在していた。おおよその相対量としてはホロー型粒子が1〜2割であった。
【0096】
この試料の一部を200℃にて1h熱処理した。平均細孔径は136.6Åであった。
【0097】
上記ハイドロタルサイト類化合物粒子にステアリン酸を該ハイドロタルサイト粒子重量対比3wt%表面処理した。この試料を用いて以下の含塩素樹脂組成物とした(軟質〜半硬質組成)。
含塩素樹脂組成物 100phr
DOP 35phr
ステアリン酸亜鉛 0.4phr
上記試料 3phr
168℃にて5分ロール混練し、168℃にて圧縮成形プレス処理を行った。シート試料には僅かながら発泡が確認された。得られたシートのbは65.7で、レベル4の時間は5min、レベル7の時間は35minであった。
【0098】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る珪酸被覆されたハイドロタルサイト粒子を用いることで硬質、半硬質、軟質含塩素樹脂組成物材料と幅広い用途において、樹脂組成物の着色及び発泡を抑制しながら、且つ、安定性を従来技術よりも大きく向上させることができる。このため、より多くのアプリケーションへの展開が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg−Al系又はMg−Zn−Al系ハイドロタルサイト類化合物粒子の粒子表面に、ハイドロタルサイト類化合物に対してSiO換算0.25〜15wt%の珪酸が被覆された珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末であって、該珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末の比表面積が10〜100m/gであり、該粒子を200℃にて1h熱処理する前後での平均細孔径の差は(熱処理前−熱処理後)表記で0〜25Åであることを特徴とする珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末。
【請求項2】
珪酸被覆前後の比表面積の差は、(被覆後−被覆前)表記で0〜20m/gであることを特徴とする請求項1記載の珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末。
【請求項3】
請求項1記載の珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末は、105〜150℃の温度範囲で乾燥して得られることを特徴とする珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末を150〜350℃にて熱処理することを特徴とする珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末を用いた含塩素樹脂組成物を安定化させるための含塩素樹脂安定剤。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の珪酸被覆ハイドロタルサイト類化合物粒子粉末を塩素含有樹脂中に含有することを特徴とする含塩素樹脂組成物。


【公開番号】特開2008−56506(P2008−56506A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232641(P2006−232641)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】