説明

現金自動取引装置

【課題】
紙葉類の倒れ込みを防止して整然と整列した状態で紙葉類を収納することが可能で、且つ、利用者の取引時に障害になることなく、異物等が混入されない入出金口を有する現金自動取引装置を提供することである。
【解決手段】
利用者が出金紙幣の取出しを行う紙幣放出口と、前記紙幣放出口内に前記出金紙幣を1枚ずつ収納する収納空間と、前記収納空間に収納される際に前記出金紙幣を案内する案内部材と、前記収納空間を構成する側壁とを有する現金自動取引装置において、前記案内部材は、前記出金紙幣を前記収納空間へ集積する際には前記側壁から突出し、前記出金紙幣を放出する際には前記側壁内に収納されるようにしたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送路から送り出された紙幣を集積する集積機構と利用者が取引を行う為の入出金口とを有する現金自動取引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、現金自動取引装置に関し、設置場所の多様化やメンテナンス性向上を目的とした機構の小型化や紙幣の収納可能枚数の増加化が進んでいる。また、小型化や低コスト化のための機構の簡素化も開発の重要項目の一つである。
【0003】
その一方で世界各国の紙幣を取り扱うことも必要となっている。世界各国の紙幣は金種毎に寸法が小さいものから大きいものまで様々である。また世界各国の紙幣の中には、流通回数が多くなった結果、紙幣の折れやしわが増大し、紙幣束の厚さ方向の高さが増大してしまっている紙幣も存在する。そのような寸法が異なる紙幣や厚さ方向の高さが増大してしまった紙幣を、一括して整然と集積し収納することも現金自動取引装置に関して重要な開発項目となっている。
【0004】
現金自動取引装置の中には、利用者が紙幣の取引を行う入出金口と呼ばれるユニットがある。このユニットは、利用者が入金した紙幣を一枚ずつ現金自動取引装置内に送るための分離機構と、出金のために金庫内から一枚ずつ送られた紙幣を収納するための集積機構を有している。
【0005】
ところで、集積機構の中には、機構の小型化や簡素化のために取扱う紙幣を立位状態で集積する機構(以下、立位集積機構と呼ぶ)がある。
【0006】
この立位集積機構は、紙幣の下端を自重により床面に突き当てることで整列性を向上させることができるといったメリットがある。更に利用者が取り易い姿勢である立位状態で集積した紙幣をそのまま利用者に受け渡すことができるため、特に利用者との受け渡しを行う入出金口で利用することにおいて大きなメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−185860号公報
【特許文献2】特開2000−187752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現金自動取引装置の入出金口における集積機構には、例えば特許文献1のようなものがある。これは、送られてきた紙幣を羽根車(以下、シートローラという)の弾性羽根(以下、シートという)で奥に押し込むことにより集積空間を確保し、紙幣を立位状態で整然と集積することが可能な機構である。このシートはシートローラの外周に放射状に複数枚取り付けられたものであり、シートローラの回転によって紙幣の下方を叩くことによって、紙幣を押し込んでいる。
【0009】
しかしながら、上述したように特に海外紙幣の場合、金種ごとの紙幣寸法が多種あることから、最も寸法が小さい紙幣の下方をシートが叩いた場合、紙幣の下方だけが押し込まれてしまい、紙幣の上部が集積口の方向に倒れ込んでしまう場合がある。集積口を紙幣が塞いでしまうと後続紙幣の進行に障害を生じさせてしまう。
【0010】
それに対し、特許文献2のように、紙幣上部も叩くことで上記問題を解決している集積機構も存在する。この構成を図21に示す。この機構では、紙幣の上端と下端を別々のシートローラ51で叩き、上述の倒れ込みを防止している。
【0011】
ところが、この方式を入出金口の集積機構に適用する場合、多種寸法(小さい寸法の紙幣から大きい寸法の紙幣まで)を同時に取り扱う必要があるので、特に上端を叩くシートローラを大きくする必要がある(例えば、発明者らの経験では直径40mm以上のローラが必要)。そのようなシートローラを用いる場合、独立した駆動源を備える必要が有る等、機構が複雑化するといった問題がある。またこの構造は上端を叩く羽根車51を搭載するために側壁13に切欠部を設ける必要がある。
【0012】
そのため、図22に示すように上板23が開口する時に、切欠部が外部に露出してしまう。このような状態であると、利用者が紙幣の投入位置を誤解する(切欠部に紙幣を投入してしまう等)可能性や、装置内に異物が混入される可能性がある。
【0013】
本発明の目的は、紙幣の倒れ込みを防止して整然と整列した状態で紙幣を収納することが可能で、且つ、利用者の取引時に障害になることなく、異物等が混入されない入出金口を有する現金自動取引装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、利用者が出金紙幣の取出しを行う紙幣放出口と、この紙幣放出口内に前記出金紙幣を1枚ずつ収納する収納空間と、この収納空間に収納される際に前記出金紙幣を案内する案内部材と、前記収納空間を構成する側壁とを有する現金自動取引装置において、前記案内部材は、前記出金紙幣を前記収納空間へ集積する際には前記側壁から突出し、前記出金紙幣を放出する際には前記側壁内に収納されることにより達成される。
【0015】
また上記目的は、前記側壁の待機位置が、前記出金紙幣を前記収納空間へ集積する際と、前記出金紙幣を放出する際とで異なる様に前記側壁を駆動することで、前記案内部材の突出と収納が行われることが好ましい。
【0016】
また上記目的は、前記案内部材はバネ部材で支持されており、前記バネ部材のバネ力によって突出と収納が行われることが好ましい。
【0017】
また上記目的は、紙幣を1枚ずつ搬送する搬送路と、この搬送路から搬入された紙幣を底板上に立位状態で収納する収納空間と、前記紙幣を前記収納空間へ収納するため前記搬送路から前記収納空間の方向へ押出力を付与するための羽根を備えた羽根車とを有する紙幣処理機構を備えた現金自動取引装置において、収納時の前記紙幣が前記羽根車より受ける押出力の作用方向へ、収納空間内に収納済みの紙幣を支持する支持部材を有し、この支持部材が紙幣の収納中に紙幣を支持する方向とは反対方向へ退避することにより達成される。
【0018】
また上記目的は、前記支持部材はバネ部材で支持されており、前記支持部材の退避時にバネ力が作用することが好ましい。
【0019】
また上記目的は、前記羽根車が複数設けられており、前記羽根車の軸方向に対し、前記支持部材が前記羽根車間に配置されていることが好ましい。
【0020】
また上記目的は、立位状態で収納されている紙幣の高さ方向であって、対象とする紙幣の高さよりも低く、且つ対象とする紙幣の重心位置よりも高い位置で前記支持部材と収納済みの紙幣とが接触するように前記支持部材が設けられていることが好ましい。
【0021】
また上記目的は、立位状態で収納されている紙幣の高さ方向であって、前記羽根車は紙幣の下端を叩く構成であり、前記支持部材は前記羽根車の上部に位置するにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、紙幣の倒れ込みを防止して整然と整列した状態で紙幣を収納することが可能で、且つ、利用者の取引時に障害になることなく、異物等が混入されない入出金口を有する現金自動取引装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例による入出金口の側面図である。
【図2】本発明の一実施例による入出金口内の集積機構の側面図である。
【図3】本発明の一実施例による入出金口内の集積機構の上面図である。
【図4(a)】本発明の一実施例により紙幣を集積する間の動作を説明する側面図である。
【図4(b)】本発明の一実施例により紙幣を集積する間の動作を説明する側面図である。
【図4(c)】本発明の一実施例により紙幣を集積する間の動作を説明する側面図である。
【図4(d)】本発明の一実施例により紙幣を集積する間の動作を説明する側面図である。
【図4(e)】本発明の一実施例により紙幣を集積する間の動作を説明する側面図である。
【図5】本発明の一実施例により紙幣を集積した後の動作を説明する側面図である。
【図6】集積済み紙幣Psと突入する紙幣Pの接触の状態を示す概略図である。
【図7】接触角θと接触力Fの関係を表したグラフ図である。
【図8】集積機構に突入した際の紙幣Pの変形状態を表した図である。
【図9】集積リブ11の配置を示すための集積機構の正面図である。
【図10】紙幣Pが突入した際の、集積機構の側面図である。
【図11】厚さが増大した紙幣を取り扱う場合の様子を示した側面図である。
【図12】本発明の一実施例による入出金口の入金取引時の状態を表す側面図である。
【図13】本発明の一実施例による入出金口の紙幣分離動作を表す側面図である。
【図14】本発明の一実施例による入出金口の紙幣集積動作を表す側面図である。
【図15】本発明の一実施例による入出金口の出金取引時の状態を表す側面図である。
【図16】本発明の一実施例による入出金口の回収動作時の状態を表す側面図である。
【図17】一般的な現金自動取引装置の外観を示す斜視図である。
【図18】一般的な紙幣取扱機構の構成を示した断面図である。
【図19】従来の紙幣集積機構を表す概略図である。
【図20】従来の紙幣集積機構の課題を表す概略図である。
【図21】紙幣上部を叩く従来方式の紙幣集積機構を表す概略図である。
【図22】紙幣上部を叩く従来方式の紙幣集積機構の課題を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本発明の現金自動取引装置で使用される紙幣集積機構の概要ついて図19、図20を使って説明する。
【0025】
図19は従来の紙幣集積機構の概略構成図である。
【0026】
図20は従来の紙幣集積機構が有する問題点を説明する図である。
【0027】
図19において、本図はユーロ紙幣のように寸法が大きく異なる紙幣を同時に扱うことが可能な紙幣集積機構の例を示したものである。これは、ループシートローラ16を集積ガイド17とオーバラップする回転位相で停止させておき、収納空間1に図中Aの方向に進入した紙幣Pをオーバラップ部の接触抵抗力で停止させ、その後、停止した紙幣をループシートローラ16で所定量回転させることにより、接触抵抗力を解除するとともに紙幣下端を叩いて移動させて集積するといった方法で紙幣を集積する機構である。この機構は、集積動作に必要な、進入してきた紙幣の停止と停止後の紙幣の移動を一つのループシートローラ16で行うため、簡素な機構であると言える。
【0028】
しかしながら、この機構は図20に示すように、ループシートローラ16が紙幣の下端を叩く構成であるため、集積済み紙幣Psが集積口の方向へ倒れ込んでしまう可能性がある。集積済み紙幣Psが集積口方向に倒れてしまうと、図中Aの方向に進入してくる後続紙幣の集積の障害となる恐れがある。
【0029】
以下、本発明の実施例を図にしたがって説明するが、実施例を説明する前に一般的な現金自動取引装置の概略とその内部に備えられている紙幣取扱機構の構成を、図17、図18を用い説明する。
【0030】
図17は一般的な現金自動取引装置の外観を示す斜視図である。
図17において、装置の外郭を形成する本体筐体1001の上部正面板1001aにはカードスロット1002aと連通し利用者のカードを処理し、取引明細票を印字して放出するカード・明細票処理機構1002と、通帳スロット1003aと連通し利用者の通帳を処理する通帳処理機構1003とを備えている。
【0031】
筐体1001の下部には紙幣を処理する紙幣取扱機構1006を備えており、図示はしないが紙幣を金種別に格納するカセットや金種混合で収納するカセット、又は識別不能と判定された紙幣や損券紙幣若しくは取り忘れ紙幣などを格納するためのリジェクトカセット等を備えている。筐体1001の中間部には、取引の内容を表示及び入力のための顧客操作・表示部1005を備えている。また、紙幣の入出金を行う紙幣入出金口1004を備えており、これらの機構は制御部1007により制御される。
【0032】
図18は紙幣取扱機構の構成を示したものである。
図18において、紙幣取扱機構は入出金口2001、一時保管庫2002、紙幣鑑別機2003、装填回収庫2004、入金庫2005、紙幣収納放出庫2006で構成される。
【0033】
次に、紙幣取扱機構の動作について説明する。入金取引時には、入出金口2001に投入された紙幣を一枚ずつに分離し、紙幣判別部2003で紙幣の金種、真偽を判定し、一時保管庫2002に一旦収納する。この時、紙幣判別部2003で判別できなかった紙幣や、傾きや間隔が異常となった紙幣は、直接入出金口2001に搬送し、利用者に返却する。入金取引の成立後は、紙幣を一時保管庫2002から搬出し、再び紙幣判別部2003にて紙幣の状態を確認した後、該当する紙幣収納放出庫2006に収納する。
【0034】
出金取引時には、該当する紙幣収納放出庫2006から出金紙幣を所定の枚数だけ繰り出し、紙幣判別部2003で判別し、入出金口2001へ搬送することで利用者に支払う。出金動作中、使用不能な紙幣を発見した場合は、その紙幣を一旦一時保管庫2002に収納し、それに代わる紙幣を新たに紙幣収納放出庫2006から繰り出す。その後、使用不能な紙幣を一時保管庫2002から搬出し、使用不能な紙幣を収納する入金庫2005に搬送、収納する。
【0035】
以下、本発明の具体的な現金自動取引装置の一実施例を図にしたがって説明する。
【実施例1】
【0036】
図1は本発明の一実施例による入出金口の側面図を表したものである。
図1において、入出金口の動作には、入金取引時に利用者が投入した複数枚の紙幣を一枚ずつ機構の中に取り入れる紙幣分離動作、出金取引時に紙幣収納放出庫内から一枚ずつ送られて来た紙幣を収納する紙幣集積動作がある。
【0037】
まず、分離動作に必要な機構を説明する。
分離動作のため、利用者が投入した複数枚の紙幣を最上部から一枚ずつ繰り出すための送出ローラ32と、この送出ローラ32に対向して複数枚の紙幣の繰り出しを防止するための抵抗ローラ30と、送出ローラ32と抵抗ローラ30からなる紙幣繰り出し部分に紙幣を送り込むための繰出ローラ31と、紙幣を支持し繰出ローラ31に押し付けるための動作板14と、紙幣の搬送方向への移動を規制するための底板15が備えられている。この機構によって、入金空間3に存在する紙幣を図中Bの方向に沿って機構内に取り込むことが可能となっている。
【0038】
次に、集積動作に必要な機構を説明する。
図2は本発明の一実施例による入出金口内の集積機構の側面図である。
図3は本発明の一実施例による入出金口内の集積機構の上面図である。
図2、図3の立位集積機構において、紙幣は図中Aの方向に搬送され収納空間1に収納される。本集積機構は、紙幣を搬送するために駆動手段(図示せず)を備えている。この駆動手段によって常時回転する駆動ローラ19があり、この駆動ローラ19と圧接して従動回転する従動ローラ18を備えている。通過センサ22は搬送路21中に設けられ、紙幣が搬送路21を通過することを検出するものである。また、駆動手段(図示せず)により独立して駆動するループシートローラ16が従動ローラ18と同軸に複数個設けられている。そして、ループシートローラ16と対向して互いにオーバラップして配置される集積ガイド17が設けられている。
【0039】
紙幣は搬送路21を通過して集積ガイド17に導かれ、収納空間1内に集積される。この収納空間1は側壁13と動作板14と上板23とで形成されている。この収納空間1は紙幣の集積枚数に応じて動作板14を図示せぬ駆動手段によって動かすことで、空間を拡大できるようになっている。収納空間1の底板15は紙幣の端部を支持するようになっている。上板23は収納空間1の上部を覆うものである。
【0040】
ループシートローラ16は弾性部材(例えば、ゴムやプラスチック材)で形成されていることが望ましい。また、ループシートローラ16は、進入する紙幣にブレーキ力を作用させ停止させる役割を持つループ部161と、紙幣を収納空間へ移動させるシート部162とを具備している。なお本実施例では、このループ部161とシート部162の組み合わせ(以下、ループシートという)を120゜間隔で計3つ備えている。
【0041】
ここでループシートローラ16と集積ガイド17とがオーバラップする量(図中δ)はループシートローラ軸16pに備えられている位相板(図示せず)により管理されている。そのため、ループシートローラ16は紙幣が集積機構へ進入する際に必ず所定の位置で停止する(以下、このループシートローラ16の停止位置を集積待機位置と呼ぶ)。本実施例においては、紙幣が集積機構へ進入する度に120゜ずつ回転して3つのループシートのうちいずれかが集積待機位置に存在する構成となっている。
【0042】
また側壁13には、回転支点11pを中心に独立した回転動作が可能な集積リブ11が備えられている。この集積リブ11は集積中の紙幣を案内する案内部材、集積後に紙幣を支える支持部材としての機能を持っている。
【0043】
この集積リブ11は接触部11cを介して退避機構12と接触している。その退避機構12は押圧バネ12sと連結しており、図中X方向に移動が可能である。また集積リブ11は回転支点11pを中心として回転力を作用させる捩りバネ11sを有しており、図中Y方向において反時計回りの力が発生する様になっている。その捩りバネ11sの力によって、集積リブ11は接触部11cを通して退避機構に押し当てられている。そのため、集積リブ11は退避機構12と連動して動くことが可能となっている。したがって、退避機構12が図中Xの方向に動くのと同期し、集積リブ11は図中Y方向に揺動可能となっている。
【0044】
次に図4、図5を用いて上記構成により複数の紙幣が連続で集積される際の動作を説明する。以下では、集積される紙幣を進入する順にP、P、P…とする。
【0045】
図4(a)〜(e)は本発明の一実施例により紙幣を所定枚数(ここではN枚とする)集積する間の動作を説明する図である。
図5は本発明の一実施例の実施例により紙幣を所定枚数(N枚)集積した後の動作を説明する図である。
【0046】
図4(a)に示すような状態で、ループシートローラ16は初期状態において集積待機位置で停止している。ここで示す例において、3つのループシートのうち、初期の状態で集積ガイド17とオーバラップしているものをループシートaとし、このループシートaを基準に図中反時計周りにループシートb,ループシートcとする。
【0047】
まず始めに、図4(a)のように、1枚目の紙幣Pが搬送路21を通り、集積機構内へ進入する。その後、図4(b)のように、駆動ローラ19の搬送力によって、1枚目の紙幣Pが、ループシートaのループ部161aを撓ませることによりループ部161aと集積ガイド17との間に突入する。ここでループ部161aはその摩擦係数が十分低く、紙幣は座屈することは無い。そして、駆動ローラ19と従動ローラ18の挟持点からその下端が抜けた時、1枚目の紙幣Pは停止しているループ部161aと集積ガイド17から受ける搬送抵抗力によって停止する。また、この時1枚目の紙幣Pの先端部は集積リブ11に接触し案内される。本実施例においては、この集積リブ11は紙幣Pと接触する位置に配置しているが必ずしも接触する必要は無い。
【0048】
続いて、図4(c)のように、2枚目の紙幣Pが搬送路21を通り、集積機構へ進入する。この際、通過センサ22により2枚目の紙幣Pの先端が検知される。紙幣先端を検知した瞬間に、ループシートローラ16は図中ω方向に回転し、ループシートbが集積待機位置へ来たところで停止する。その際、ループシートbのシート部162bが1枚目の紙幣Pの下端に接触し、1枚目の紙幣Pは図中Z方向へ移動する。
【0049】
その後、図4(d)のように、2枚目の紙幣Pはループ部161bと集積ガイド17との間に突入し、ループ部161bと集積ガイド17挟持されて停止する。その際、集積済みの1枚目の紙幣Pと集積リブ11との接触点において、2枚目の紙幣Pの先端が、1枚目の紙幣Pと接触する。そして集積済みの1枚目の紙幣Pが微動することで、2枚目の紙幣Pの先端が集積リブ11と集積済みの1枚目の紙幣Pとの間に入り込む。
【0050】
続いて図4(e)のように、3枚目の紙幣Pが搬送路21を通り集積機構へ進入する。この際、3枚目紙幣Pの先端が通過センサ22により検知される。検知した瞬間、ループシートローラ16は図中ω方向に回転する。その際、ループシートcのシート部162cが2枚目の紙幣Pの下端に接触し、2枚目の紙幣Pは図中Z方向へ移動する。その後、3枚目の紙幣P3がP、Pと同様の手順で集積される以上の動作をN枚収納するまで、繰り返し行う。
【0051】
図5は紙幣を所定枚数(N枚)集積した後の様子を示した図である。
図5において、集積空間を確保するために、動作板14は集積空間を広げる方向(図中α方向)へ所定量移動する。この動作によって集積紙幣枚数に合わせた適正な集積空間を確保することが可能となっている。この動作は紙幣が所定枚数集積される毎に行われ、毎回一定量動作する。適正な集積空間が確保された後、上述の集積動作が再開される。
【0052】
以上の動作により、必要な枚数だけ紙幣を集積する。その間集積リブ11には集積済み紙幣による倒れ込力Flが作用するが、退避機構12に設けられている押圧バネ12sによるバネ力は倒れ込力Flよりも大きいため、紙幣の倒れ込みに関しては、集積リブ11は初期位置から不動である。そのため、集積中の紙幣の上部が集積口の方向に倒れ込むことは無く、集積口を紙幣が塞いでしまう問題は回避される。
【0053】
次に集積リブ11の効果について説明する。
図6は、集積済み紙幣Psと突入する紙幣Pの接触の状態を表した図である。
ここで、集積済み紙幣Psと突入する紙幣Pの接触角をθとし、特に集積リブ11が無い場合の接触角をθ1とする。また、突入する紙幣Pの突入角(底板15からの仰角)をψとする。
【0054】
図6において、突入角ψは集積ガイド17の傾斜角によって決定され、集積リブ11の有無には関係なく一定の値を持つ。それに対し接触角θは集積リブ11の存在によって変化し、集積リブ11が有る場合の方が無い場合と比べ小さい値となる。また、集積済み紙幣Psと突入する紙幣Pとの間で発生する接触力をFとし、特に集積リブ11が無い場合の接触力をF1とする。紙幣間で発生する接触力Fは集積済み紙幣の姿勢を悪化させる、若しくは突入する紙幣が座屈する原因となるため、その値は小さい程良い。
【0055】
図7は発明者らが調査した、接触角θと接触力Fの関係を表すグラフである。
図7において、この結果より、集積リブ11によって集積済み紙幣Psと突入する紙幣Pとの間の接触角θを低減することによって、紙幣間で発生する接触力を低下させることができることが解った。
【0056】
次に上記効果を得るために適した集積リブ11の構成を図8,図9で説明する。
図8は集積機構に突入した際の紙幣Pの変形状態を表した図であり、図9は、集積リブ11の位置を示すための集積機構の正面図である。
図8に示す様に、紙幣Pはその長手方向(図中横方向)に関して、ループシートローラ16の位置で凸になるように波型変形する。集積時に集積リブ11は紙幣Pの突入の際に抵抗にならないことが望ましい。紙幣Pの突入の抵抗とならないためには、集積リブ11は紙幣Pの波型変形を可能な限り崩さない位置にある必要がある。そのため、集積リブ11は紙幣が変形したときの凸部の頂点付近では無く、凸部の頂点間に存在することが望ましい。即ち、図9中斜線部で示すループシートローラ16間の領域Bに集積リブ11があることが望ましい。
【0057】
図10は紙幣の集積中に、紙幣Pが突入した際の集積機構の側面図を示したものである。
図10において、ここでhrは底板15から集積済みの紙幣Psと集積リブ11の接触点(ここでは集積リブ11の頂点)までの高さを示し、集積時に許容する紙幣の倒れ込み角度をφとする。対象紙幣の中で最小サイズの紙幣の立位方向(短手方向)の長さをLとすると、このhrの値が
Lcosφ>hr>Lcosφ/2
であることが望ましい。
【0058】
接触点の高さhrが上記範囲であれば、必ず集積済み紙幣Psを支えることができる。また、その接触位置が集積済み紙幣Psの重心高さ(Lcosφ/2)よりも高い位置にあることにより、集積済み紙幣Psには、突入紙幣Pからの接触力Fとその自重Wの間で図8中M方向の回転モーメントが発生する。そのため、集積済みの紙幣Psの先端が微動することで、突入紙幣Pの先端が集積リブ11と集積済みの紙幣Psの間に入り込み易い。
【0059】
ところで、紙幣はその状態が環境や流通回数によって大きく変化する。例えば、流通回数が多い紙幣などは、その厚さが増大し集積空間を大きく占めてしまう。そのような紙幣を扱う場合、取扱可能な紙幣の枚数が減少する。特に集積リブ11が存在すると、その集積リブ11の突出量だけ集積空間が減少してしまうため、対策が必要である。
【0060】
図11はそのような厚さが増大した紙幣を取り扱う場合の様子を示した図である。
図11において、紙幣は集積機構に収納される時、厚さ方向に圧縮され収納される。そのため、集積リブ11は集積済み紙幣Psから圧縮力Fcを受ける。ここで集積リブ11は上述のように退避機構12を通し図中Y方向に揺動可能となっている。そのため、集積済紙幣Psの圧縮力Fcにより集積リブ11が退避することが可能である。その結果、集積リブ11が退避する量だけ集積空間を増加させることができ、取扱可能な紙幣の枚数を増加させることが可能である。
【0061】
また、集積リブ11は退避時に退避限界ストッパ20が接触する位置(図中Yc)だけ移動するが、集積リブ11を側壁13で完全に隠さず、適量突出させた状態を維持することが好ましい。これは突入紙幣Pの突入の際に、側壁13から受ける摩擦抵抗力の低減を図るためである。
【0062】
次に集積リブ11に作用する退避機構12の押圧バネ12sが発生する力について説明する。この押圧バネ12sによって集積リブ11の先端に発生する力は、集積済み紙幣の倒れ込み力Flよりも強く、厚さが増大した紙幣が発生する圧縮力FPよりも弱いことが望ましい。これは、集積済み紙幣Psの倒れ込みを防止し、且つ厚さが増大した紙幣を取り扱うことを可能とするためである。
【0063】
以上説明した紙幣集積機構を有する紙幣処理機構であれば、紙幣の倒れ込みを防止し、且つ紙幣束の厚さ方向の高さが増大してしまっている紙幣であっても取扱い可能枚数を減らすことが無く整然と整列した状態で紙幣を収納することが可能である。
【0064】
次に入出金口の動作について説明する。
図12は本発明の一実施例による入出金口の入金取引時の状態を示したものである。
図12において、利用者が入金する際には、各ローラは露出しない方が良い。そのため、前板33が、前板回転軸33pを中心に図示せぬ回転バネによって図12中γ方向に回転し、底板15と接触する位置で停止することによって、繰出ローラ31と送出ローラ32と抵抗ローラ30とを覆い隠している。
【0065】
また同様に、側壁13は集積動作時の待機位置よりも図中β方向に移動し、所定の位置で待機する(この位置を紙幣投入位置と呼ぶ)ことで、搬送ローラ19と従動ローラ18とループシートローラ16とを覆い隠している。この時、集積リブ11は捩りバネ11sの力によって退避限界ストッパ20と接触する位置まで側壁13内に退避し収納される。集積リブ11を側壁13内へ収納することで、利用者が紙幣Psを投入する際に集積リブ11が障害になることは無い。
【0066】
更に動作板14は側壁13と隙間が無い状態で接触しており、利用者は間違えることなく、入金空間3に紙幣を投入することが可能となっている。
【0067】
図13は本発明の一実施例による入出金口の紙幣分離動作を示した図である。
図13において、利用者が紙幣を投入したことを確認した後に上板23が閉じる。その後、前板33が図12中γ方向に退避することで繰出ローラ31と送出ローラ32と抵抗ローラ30が露出される。そして動作板14が繰出ローラ31に投入済み紙幣Psを押し当て分離動作が開始される。
【0068】
次に出金取引時の動作について説明する。
図14は本発明の一実施例による入出金口の紙幣集積動作を示したものである。
図14において、この時、集積リブ11は接触部11cを介して押圧バネ12sを有する退避機構12に接触する位置(この位置を紙幣集積位置と呼ぶ)で待機するため、集積リブ11は退避機構12によって押し出され、側壁13より突出した状態となる。この状態であれば上述のごとき集積動作が可能である。
【0069】
図15は本発明の一実施例による入出金口の出金取引時の状態を示したものである。
図15において、必要な枚数だけ紙幣を集積した後、側壁13が図15中βの方向に動き、所定の位置で待機する(この位置を紙幣放出位置と呼ぶ)ことで、集積された紙幣Psを押出し圧縮する。その状態で上板23を開けることにより、利用者が紙幣を取出すことが可能である。この時退避機構12は側壁13の動作には追従せず、その場に留まる。そのため、集積リブ11には退避機構12の押圧バネ12sの力が作用しない。そして、集積リブ11は捩りバネ11sの力によって退避限界ストッパ20が接触する位置まで側壁13内に退避する。以上の動作のように、集積リブ11が側壁13内へ収納されるため、利用者が紙幣Psを取出す際に集積リブ11が障害になることは無い。
【0070】
図16は本発明の一実施例による入出金口の回収動作時の状態を示したものである。
図16において、回収動作は、利用者が出金の際に紙幣を取り忘れた時に実施する。この時、動作板14が退避し、側壁13が紙幣Psを繰出ローラ31に押し付け、その状態でこの繰出ローラ31が回転することで紙幣が繰出され、装置内に収納される。この時、集積リブ11は捩りバネ11sの力によって退避限界ストッパ20が接触する位置まで側壁13内に退避している状態となっている。そのため、紙幣Psの分離動作の障害となることは無い。
【0071】
以上のごとく本発明によれば、利用者の取引時に障害になることなく、異物等が混入されない入出金口を有する現金自動取引装置を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1・・・集積空間、11・・・集積リブ、11p・・・回転支点、11s・・・捩りバネ、11c・・・接触部、12・・・退避機構、12s・・・押圧バネ、13・・・側壁、14・・・動作板、15・・・底板、16・・・ループシートローラ、161・・・ループ部、162・・・シート部、17・・・集積ガイド、18・・・従動ローラ、19・・・駆動ローラ、20・・・退避限界ストッパ、21・・・搬送路、22・・・通過センサ、23・・・上板、24・・・退避規制部材、1001・・・筐体、1002・・・カード・明細票処理機構、1003・・・通帳処理機構、1004・・・紙幣入出金口、1005・・・顧客操作・表示部、1006・・・紙幣取扱機構、1007・・・制御部、2001・・・入出金口、2002・・・一時保管庫、2003・・・紙幣鑑別機、2004・・・装填回収庫、2005・・・入金庫、2006・・・紙幣収納放出庫。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者が出金紙幣の取出しを行う紙幣放出口と、この紙幣放出口内に前記出金紙幣を1枚ずつ収納する収納空間と、この収納空間に収納される際に前記出金紙幣を案内する案内部材と、前記収納空間を構成する側壁とを有する現金自動取引装置において、
前記案内部材は、前記出金紙幣を前記収納空間へ集積する際には前記側壁から突出し、前記出金紙幣を放出する際には前記側壁内に収納されることを特徴とする現金自動取引装置。
【請求項2】
請求項1記載の現金自動取引装置において、
前記側壁の待機位置が、前記出金紙幣を前記収納空間へ集積する際と、前記出金紙幣を放出する際とで異なる様に前記側壁を駆動することで、前記案内部材の突出と収納が行われることを特徴とする現金自動取引装置。
【請求項3】
請求項1記載の現金自動取引装置において、
前記案内部材はバネ部材で支持されており、
前記バネ部材のバネ力によって突出と収納が行われることを特徴とする現金自動取引装置。
【請求項4】
紙幣を1枚ずつ搬送する搬送路と、この搬送路から搬入された紙幣を底板上に立位状態で収納する収納空間と、前記紙幣を前記収納空間へ収納するため前記搬送路から前記収納空間の方向へ押出力を付与するための羽根を備えた羽根車とを有する紙幣処理機構を備えた現金自動取引装置において、
収納時の前記紙幣が前記羽根車より受ける押出力の作用方向へ、収納空間内に収納済みの紙幣を支持する支持部材を有し、この支持部材が紙幣の収納中に紙幣を支持する方向とは反対方向へ退避することを特徴とする現金自動取引装置。
【請求項5】
請求項4記載の紙幣処理機構を備えた現金自動取引装置において、
前記支持部材はバネ部材で支持されており、
前記支持部材の退避時にバネ力が作用することを特徴とする現金自動取引装置。
【請求項6】
請求項4記載の紙幣処理機構を備えた現金自動取引装置において、
前記羽根車が複数設けられており、
前記羽根車の軸方向に対し、前記支持部材が前記羽根車間に配置されていることを特徴とする現金自動取引装置。
【請求項7】
請求項4記載の紙幣処理機構を備えた現金自動取引装置において、
立位状態で収納されている紙幣の高さ方向であって、
対象とする紙幣の高さよりも低く、且つ対象とする紙幣の重心位置よりも高い位置で前記支持部材と収納済みの紙幣とが接触するように前記支持部材が設けられていることを特徴とする現金自動取引装置。
【請求項8】
請求項4記載の紙幣処理機構を備えた現金自動取引装置において、
立位状態で収納されている紙幣の高さ方向であって、
前記羽根車は紙幣の下端を叩く構成であり、前記支持部材は前記羽根車の上部に位置することを特徴とする現金自動取引装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【図4(d)】
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【図4(e)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−73875(P2012−73875A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218947(P2010−218947)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】