球形インスリン微小粒子の肺送達
本出願では、肺施用の可能性が向上している球形インスリン粒子組成物と、このような組成物を形成および使用する方法とが開示される。30名のヒトの健常男性対象を用いた一臨床試験では、インスリン用量6.5mgの球形インスリン粒子の単回肺投与の際、投薬後10時間にわたる間も、咳は観察されなかった。一実施形態において、本発明は、ある用量のインスリンを含む粉末を含む、粉末ディスペンサーを介してインスリンを肺送達するための組成物を提供し、ここで、該粉末は固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になり、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、小球形インスリン粒子の使用によるインスリンの肺送達に関する。
【背景技術】
【0002】
生体高分子のナノ粒子および微小粒子の製造には、これまでいくつかの手法が使用されてきた。従来の手法としては、粒子形成のための噴霧乾燥および粉砕が挙げられ、そのような手法を用いて5μm以下のサイズの粒子を作製できる。
【0003】
標準的な作製方法により作製される微小粒子は、多くの場合、粒子サイズ分布が広く、均一性に欠け、適切な放出動態をもたらすことができず、作製するには困難で高価である。多くの場合、このようなミクロスフェアを調製するために使用されるポリマーは主に有機溶媒中で溶解するため、有機溶媒を扱うように設計された特別な設備を使用する必要がある。有機溶媒は、ミクロスフェア中に含有されるタンパク質またはペプチドを変性させる恐れがあり、環境にとっても有毒で炎症を引き起こす原因となる可能性があり、同様に、ヒトまたは動物に投与した際に有毒である可能性もある。加えて、微小粒子は大きいことがあり凝集塊を形成しがちであるため、注入または吸入により患者に投与するには大きすぎると考えられる粒子を除去するためのサイズ選別プロセスが必要となる。これにはふるい分けが必要であり、その結果、製品ロスが生じる。
【0004】
参照によりその開示内容全体が本明細書に組み込まれる特許文献1、特許文献2および特許文献3には、タンパク質の等電点またはその付近のpHの水溶液中で巨大分子(タンパク質またはペプチドなど)と高分子とを合わせることにより形成されるミクロスフェアについての記載がある。この溶液を加熱して、タンパク質含有量が40%を上回るミクロスフェアを調製する。このようにして形成されたミクロスフェアは、実質的に均質なタンパク質のマトリックスと、水性媒体を入り込ませてミクロスフェアの成分を可溶化させる多様な量のポリマーとを含む。ミクロスフェアは、短期または長期の放出動態を呈するように設計されることで、急速放出または持続放出いずれかの特徴をもつことができる。
【0005】
特許文献4は、タンパク質の液状溶液を霧状にしてからその液滴を乾燥させ、その結果得られる粒子を回収することにより生体タンパク質の粉末を調製するプロセスに関する。このプロセスにおいて使用できると報告されている生体タンパク質としては、インスリンおよびカルシトニンが挙げられる。
【0006】
微小粒子、ミクロスフェアおよび微小カプセルは、直径が1ミリメートル未満、より好ましくは100ミクロン未満、最も好ましくは10ミクロン未満の固体または半固体の粒子であり、そのような粒子は、タンパク質、合成ポリマー、多糖およびそれらの組合せなど様々な材料で形成できる。ミクロスフェアは、多くの異なる用途、主に、分離、診断および薬物送達において使用されている。
【0007】
分離手法において使用されるミクロスフェアの最もよく知られた例は、ポリアクリルアミド、ヒドロキシアパタイトまたはアガロースなど合成または天然源いずれかのポリマーから形成されるものである。薬物の制御送達分野においては、分子は多くの場合、小球形粒子中に組み込まれるか、もしくはその内部に封入され、または、後から放出されるように、一体化したマトリックス中に組み込まれる。合成ポリマー、天然ポリマー、タンパク質および多糖からこのようなミクロスフェアを作製するには、相分離、溶媒蒸発、コアセルベーション、乳化および噴霧乾燥などいくつかの異なる手法が慣例的に使用される。一般に、ポリマーは、このようなミクロスフェアの支持構造を形成し、関心薬物は、このポリマー構造中に組み込まれる。
【0008】
標的薬物を封入するために脂質を使用して調製される粒子は、広く入手できる。リポソームは、単一もしくは複数のリン脂質および/またはコレステロール二重層から構成される球形粒子である。リポソームは、サイズが100ナノメートル以上であり、様々な水溶性または脂溶性の薬物を保持できる。例えば、Sinil Kimに交付された特許文献5に記載のように、複数の水性区画を取り囲む二重層膜の形で並んで粒子を形成する脂質を使用して、後で放出するための水溶性薬物を封入してもよい。
【0009】
インスリンの肺送達は、いくつかの試験において使用されている。肺送達は、多数のクラスの医薬を送達するための優れたアプローチである。集合体である肺表面が拡張することから、送達された医薬の血流への急速で有効な輸送にとって、肺組織は理想的である。しかしながら、医薬の肺送達には必ず欠点が伴う。最近、糖尿病の肺合併症が報告された。この疾患は肺炎および吸引のリスク増加を伴うこと、自律神経障害は睡眠中の呼吸障害だけでなく呼吸困難に対する知覚の低下を伴うこと、ならびに、糖尿病に罹患している人の肺には、コラーゲンおよびエラスチンの増加または異常が原因で構造的異常がある場合があることが述べられているが、全て特徴的に、潜在性の肺機能不全につながっている。(Hsiaら、Symposium:Pulmonary delivery of insulin.American Diabetes Associationの第63回Scientific Sessionsのプログラムおよび抄録、2003年6月13〜17日、New Orleans、Louisiana)。加えて、高血糖の対象においては、膜拡散能がとりわけ低下していることが示されている。2型糖尿病においては、初期の肺機能は正常に見えるが拡散能は低下しており、このことは、運動時にとりわけ明白である。様々な試験から、吸入用のインスリンは、抗原性であり、抗体を増やし、CD4T細胞応答を低下させ、1型糖尿病モデルにおいては抗糖尿病原性のCD8γ−δT細胞につながる場合があることが示された。これまでに提案されてきたインスリン肺送達法に伴うこのような合併症は、息切れ、咳の原因となり、ひいては患者コンプライアンスの低さの原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,981,719号明細書
【特許文献2】米国特許第5,849,884号明細書
【特許文献3】米国特許第6,090,925号明細書
【特許文献4】米国特許第6,051,256号明細書
【特許文献5】米国特許第5,422,120号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、インスリンベースの微小粒子、とりわけ、肺用の薬物送達系における使用に適応できるものを作製するための新しい方法の開発には、明確な必要性がある。有用性の観点から最も望ましいインスリン粒子は、以下の特徴を有する小球形粒子であると考えられる:狭いサイズ分布、実質的に球形、実質的に賦形剤を含まない(例えば、活性剤のみからなる)、インスリンの生化学的な完全性および生物学的活性の保持、ならびに、高いバイオアベイラビリティおよび生物効力。この粒子は、コーティングまたは微小カプセル化により、粒子をさらに安定化させると考えられる適当な固体となるべきである。さらに、この小球形粒子の作製の方法は、以下の望ましい特徴を有すると考えられる:作製が簡単であること、本質的に水性のプロセス、高収率、および、後でふるい分けする必要がないこと。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書には、肺施用の可能性が向上しているインスリン粒子組成物と、そのような組成物を形成および使用する方法とが記載される。このような組成物をヒトの健常男性対象において使用すると、インスリン用量6.5mgの球形インスリン粒子の単回肺投与の際、投与直後も、投薬後10時間にわたる間も、いずれも咳は観察されなかった。
【0013】
本出願中の例では、ある用量のインスリンを含む粉末を含む、粉末ディスペンサーを介してインスリンを肺送達するための組成物であって、該粉末は固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になり、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有する組成物を記載する。
【0014】
いくつかの例では、この固体で小球形のインスリン微小粒子の密度は、約0.50から約1.5g/cm3である。
【0015】
いくつかの例では、この固体で小球形のインスリン微小粒子の密度は、0.75g/cm3超である。
【0016】
さらに他の例では、この固体で小球形のインスリン微小粒子の密度は、0.85g/cm3超である。
【0017】
特定の実施形態では、この固体で小球形の微小粒子が、該固体で小球形の粒子の安定性を高め、該固体で小球形の粒子の制御放出をもたらし、または該固体で小球形の粒子の生体組織を通る透過を高めるための賦形剤をさらに含み、該賦形剤が該微小粒子中に5重量%未満存在している組成物が提供される。
【0018】
いくつかの例では、賦形剤は、炭水化物、陽イオン、陰イオン、アミノ酸、脂質、脂肪酸、界面活性剤、トリグリセリド、胆汁酸またはその塩、脂肪酸エステルおよびポリマーからなる群より選択される。
【0019】
ある態様では、陽イオンは、Zn2+、Mg2+およびCa2+からなる群より選択される。陽イオンは、Mn2+、Na+、Ba2+、K+、Co2+、Cu2+、Fe2+、Fe3+、Al3+およびLi+など別の無機陽イオンであってもよい。
【0020】
いくつかの例では、この小球形の微小粒子の少なくとも90%は、約0.01μmから約5μmの間のサイズを有する。
【0021】
他の例では、この小球形の微小粒子の少なくとも90%は、約0.1μmから約5μmの間のサイズを有する。さらに他の例では、この小球形の微小粒子の少なくとも90%は、約1μmから約3μmの間のサイズを有する。
【0022】
本明細書に記載の組成物では、狭いサイズ分布は、この小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径(volume diameter)対10パーセンタイルの体積粒径の比率が約5.0以下であることを含む。
【0023】
特定の例では、インスリンは、微小粒子の質量の約95%から約100%を形成できる。他の例では、この微小粒子は、インスリンを約99重量%超含むミクロスフェアである。
【0024】
この小球形粒子は、半晶質でも非晶質でもよい。
【0025】
特定の組成物は、中に界面活性剤を含まないことが企図される。
【0026】
他の組成物では、組成物は、賦形剤を含まず、インスリンミクロスフェアのみを含有することを特徴とする。
【0027】
粉末ディスペンサーと接続して使用するための保持部材を備える粉末ディスペンサーを介してインスリンを肺送達するための組成物であって、該保持部材は、固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になる粉末を保持し、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有する組成物も記載される。
【0028】
そのような組成物では、この固体で小球形のインスリン微小粒子の密度は、約0.50から約1.5g/cm3である。
【0029】
好ましくは、この固体で小球形のインスリン微小粒子の密度は、0.75g/cm3超である。
【0030】
いくつかの例では、この固体で小球形のインスリン微小粒子の密度は、0.85g/cm3超である。
【0031】
いくつかの例では、この固体で小球形の微小粒子が、該固体で小球形の粒子の安定性を高め、該固体で小球形の粒子の制御放出をもたらし、または該固体で小球形の粒子の生体組織を通る透過を高めるための賦形剤をさらに含み、該賦形剤が該微小粒子中に5重量%未満存在していることが企図される。
【0032】
別の例では、この組成物は、炭水化物、陽イオン、陰イオン、アミノ酸、脂質、脂肪酸、界面活性剤、トリグリセリド、胆汁酸またはその塩、脂肪酸エステルおよびポリマーからなる群より選択される賦形剤を含むようなものである。
【0033】
陽イオンは、Zn2+、Mg2+およびCa2+からなる群より選択される。陽イオンは、Mn2+、Na+、Ba2+、K+、Co2+、Cu2+、Fe2+、Fe3+、Al3+およびLi+などの別の無機陽イオンであってもよい。
【0034】
ある例では、この小球形の微小粒子の少なくとも90%は、約0.01μmから約5μmの間のサイズを有する。
【0035】
他の例では、この小球形の微小粒子の少なくとも90%は、約0.1μmから約5μmの間のサイズを有する。
【0036】
さらに他の例では、この小球形の微小粒子の少なくとも90%は、約1μmから約3μmの間のサイズを有する。
【0037】
この組成物が、小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径対10パーセンタイルの体積粒径の比率が約5.0以下であることを含む狭いサイズ分布を有するいくつかの例がある。
【0038】
いくつかの例では、インスリンは、微小粒子の約95重量%から約100重量%である。いくつかの例では、この微小粒子は、インスリンを約99重量%超含むミクロスフェアである。
【0039】
この小球形粒子は、半晶質または非晶質であってもよいことが企図される。固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になる粉末ディスペンサー用の特定の組成物において、この組成物は界面活性剤を含まない。他の実施形態では、この組成物は、賦形剤を含まず、インスリンミクロスフェアのみを含有する。
【0040】
さらに、インスリンを対象の肺系に投与する方法であって、対象の血清インスリンレベルまたは対象の血清グルコースレベルまたはその両方において変化を生じさせるのに有効な量の請求項1に記載の組成物を肺系に投与することを含み、該組成物の投与が、吸入時に対象において咳を生じさせない方法も企図される。
【0041】
別の例は、ある用量のインスリンを含む粉末を含む、インスリンを肺送達するための組成物であって、該粉末は固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になり、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有し、インスリン用量6.5mgでの肺投与の際に健常男性対象において咳を生じさせない組成物を指向している。
【0042】
さらに、インスリンを対象の肺系に投与する方法であって、治療を必要とする対象の気道に有効量の請求項1に記載の組成物を投与することを含み、該組成物の該投与が、吸入時に対象において息切れを生じさせない方法も企図される。
【0043】
そのような方法においては、該投与は、好ましくは、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも10%の、インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす。
【0044】
そのような方法における他の例では、該投与は、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも10%の、インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす。他の例では、該投与は、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも12%の、インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす。さらに他の例では、そのような方法においては、該投与は、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも15%の、インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす。
【0045】
他の態様では、本出願は、本明細書に記載の組成物を対象の肺系に投与することを含む、対象においてインスリンの肺深部堆積を達成することを企図する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1a】インスリン出発材料の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を示す図である。
【図1b】小球形インスリン粒子のSEMを示す図である(実施例4)。
【図2】インスリンを小球形粒子に調製した場合の全体的な化学的安定性の維持を示すHPLC分析を示す図である。
【図3】バッチごとの再現性を実証する図である。
【図4】バッチごとの再現性を実証する図である。
【図5】実施例3における小球形インスリン粒子を作製するためのプロセスを通した連続流の概略図を示す図である。
【図6】実施例3におけるプロセスを通した連続流によって生成される小球形インスリン粒子の走査型電子顕微鏡写真(10Kvおよび倍率6260×)を示す図である。
【図7】実施例3におけるプロセスを通した連続流によって調製された、溶解した小球形インスリン粒子のHPLCクロマトグラフを示す図である。
【図8A】インスリンの溶解性に対する塩化ナトリウムの効果を実証する図である。
【図8B】インスリンの溶解性に対する塩化ナトリウムの効果を実証する図である。
【図8C】インスリンの溶解性に対する塩化ナトリウムの効果を実証する図である。
【図8D】インスリンの溶解性に対する塩化ナトリウムの効果を実証する図である。
【図8E】インスリンの溶解性に対する様々な塩の効果を実証する図である。
【図8F】インスリンの溶解性に対する様々な塩の効果を実証する図である。
【図8G】インスリンの溶解性に対する様々な塩の効果を実証する図である。
【図8H】インスリンの溶解性に対する様々な塩の効果を実証する図である。
【図8I】原材料のインスリン、小球形粒子から放出されたインスリン、および小球形粒子におけるインスリンのラマンスペクトルを示す図である。
【図9】実施例10の放射標識したインスリンに対するAnderson Cascade Impactorの結果を示す図である。
【図10】実施例8に対するP/I比の棒グラフを示す図である。
【図11】実施例8からの肺のシンチグラフィー画像を示す図である。
【図12】TSI Corporation Aerosizerの粒子サイズデータのプロットを示す図である。
【図13】HFA−134aにおけるインスリンの安定性データを示すチャートである。
【図14】3つの吸入装置を用いたインスリンの空気力学的性能を比べるチャートを示す図である。
【図15】25℃および37℃で貯蔵したインスリン出発材料に比べた、小球形インスリン粒子の安定性データのチャートを示す図である。
【図16】25℃および37℃で貯蔵したインスリン出発材料に比べた、小球形インスリン粒子の安定性データのチャートを示す図である。
【図17】25℃および37℃で貯蔵したインスリン出発材料に比べた、小球形インスリン粒子の安定性データのチャートを示す図である。
【図18】25℃および37℃で貯蔵したインスリン出発材料に比べた、小球形インスリン粒子の安定性データのチャートを示す図である。
【図19】25℃および37℃で貯蔵したインスリン出発材料に比べた、小球形インスリン粒子の安定性データのチャートを示す図である。
【図20】25℃および37℃で貯蔵したインスリン出発材料に比べた、小球形インスリン粒子の安定性データのチャートを示す図である。
【図21】Cyclohaler DPIを用いたインスリンの空気力学的安定性の棒グラフを示す図である。
【図22】連続的な乳化リアクターの略図を示す図であり、図22Aは、表面の有効化合物を乳化前に連続相または分散相に加えた場合の連続的な乳化リアクターの略図であり、図22Bは、表面の有効化合物を乳化後に加えた場合の連続的な乳化リアクターの略図である。
【図23】PLGAカプセル化した小球形インスリン粒子のIVRプロファイルに対する連続相のpHの影響を説明する図である(実施例14)。
【図24】カプセル化したINSmsにおけるINSダイマーの形成に対する微小カプセル化の変数(連続相およびマトリックス材料のpH)の効果を説明する図である(実施例15)。
【図25】カプセル化したINSmsにおけるHMW種の形成に対する微小カプセル化の変数(連続相およびマトリックス材料のpH)の効果を説明する図である(実施例15)。
【図26】ラットにおける、非カプセル化の、およびカプセル化した、予め作製した小球形インスリン粒子からの組換えヒトインスリンのin vivoの放出を説明する図である(実施例16)。
【図27】レーザー光散乱Coutler LS230によって測定した粒子サイズを示す図である。インスリンミクロスフェアの95%は0.95ミクロンと1.20ミクロンの間である。
【図28】TSI Aerosizer(Model322500、St.Paul、Minn)を用いて測定した空気力学的直径を示す図である。
【図29】Aerolizer DPI(JM032701C)から送達されたインスリン10mgでのAndersen Cascade Impactor試験を示す図である。
【図30】HFA P134aおよびHFA P227を含むバイアルから送達されたインスリンでのin vitroのAndersen Cascadeインパクション試験を示す図である。
【図31】SCラットにおけるインスリンミクロスフェアのSC注射後のグルコース抑制を示す図である。
【図32】インスリンミクロスフェアの気管内注入後のグルコース抑制を示す図である。
【図33】懸濁液の安定性を比較する図である。
【図34】イヌの肺におけるTC−99mインスリンの肺分布を示す図である。
【図35】含量および関連物質に対するアッセイ(USP)を示す図である。
【図36】充填後1週間および4ヶ月のMDI活性の比較を示す図である。
【図37】DPIによるイヌへのインスリンミクロスフェアの投与を示す図である。
【図38】MDIからのインスリンミクロスフェアの排出投与量のパーセントを示す図である。
【図39】HFA P134aにおけるインスリン安定性を示す図である。
【図40】ヒト対象における組換えヒトインスリンの、吸入と皮下投与の間のグルコース注入速度プロファイルを平滑化したものの平均を示す図である。
【図41】Actrapid(登録商標)投与と比べたRHIIP投与の薬物動態のプロファイルを示す図であり、RHIIPは、Actrapid(登録商標)皮下投与に比べて活性の開始が早く、吸収の持続期間が同様であることを実証している。
【図42】Actrapid(登録商標)投与と比べたRHIIP投与の薬力学的プロファイルを示す図である。
【図43】実施例33においてそのチャンバーに配置した透明カプセル(Vcaps(商標)、サイズ3)と用いたCyclohaler(商標)DPI装置を示す図である。カプセル(白色固体)に充填した球形インスリン粒子が明瞭に見える。
【図44】25℃、相対湿度60%の密封容器中に貯蔵した、A−21デスアミドインスリンのピーク面積%、およびPROMAXXインスリンミクロスフェアの高分子量生成物(ほとんどがインスリンのダイマー)のピークを示す図である。
【図45】水分含量を様々なレベルに維持した、様々な温度で8ヶ月間貯蔵したPROMAXXインスリンミクロスフェアの排出投与量の平均%を示す図である。
【図46】実施例34に記載する処置後に由来するビーグル犬における経時の血清インスリンレベルを示す図である。
【図47】実施例34に記載する処置に起因するビーグル犬における経時の血清グルコースレベルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
吸入用インスリンは、特別に開発された吸入器を用いて通常送達されるが、吸入器は多くの場合相当に大きく、取扱いが常に容易とは限らない。本出願では、本明細書で開示する組換えヒトインスリンの吸入用粉末(RHIIP)を用いてヒトを治療できることを実証する。本出願は、比較的小さい市販の乾燥粉末吸入器(DPI)を用いて投与できる均一なインスリンミクロスフェアの形成を開示するものである。
【0048】
本明細書に記載の試験において使用するインスリンの吸入用粉末は、他者がこれまで実施してきた肺投与試験とは異なり、製剤を投与された対象において吸入直後に咳または息切れを生じさせないことを示した。事実、この吸入用インスリンは、さらに、RHIIPを最初に吸入した後10時間にわたるモニターの間、咳または息切れのいずれも生じさせなかった。文献中で報告される他の吸入用インスリン粉末の臨床使用は、投薬時の咳の発生に妨げられてきた。この事象は望ましくなく、その理由は、吸入中または吸入直後の咳(激しい呼気)は、粉末が肺深部に達する前に用量の一部が吐き出される原因となりかねないからである。インスリンの場合、この結果、薬物の過少投与となる。咳事象は、任意の粉末の吸入の結果である望ましくない副作用として一般に受け取られている。驚くべきことに、本明細書で開示する臨床試験の結果は、咳応答を誘発する可能性が低下している吸入用インスリン粉末製品を作製することが可能であることを示唆する。送達されたインスリン粉末の質量は他の試験と同様であったことから、咳が生じないことが粉末の質量のみで説明されるとは思われない。以下の説明に限定されることを望むものではないが、1つの説明は、本明細書で開示する球形インスリン粒子は、他の調製物が含有する増量剤(マンニトールなど)、または賦形剤のマトリックスを含有せず、咳を引き起こすのはインスリン以外の原料である可能性があるのではないかということである。別の説明は、本明細書で開示する球形インスリン粒子は、肺表面と接触すると非常に速やかに溶解すると考えられるため、咳応答が誘発されないのではないかということである。
【0049】
本明細書で開示する球形インスリン粒子の別の特徴は、哺乳動物対象(例えば、ヒトおよびイヌ)にこれらの粒子を投与する結果、対象において驚くほど高いバイオアベイラビリティがもたらされることである。吸入用インスリンのバイオアベイラビリティは、皮下用量の10%を超えないと一般には考えられる。本明細書で開示する臨床試験においては、観察されたバイオアベイラビリティは、乾燥粉末吸入器から標的用量を摂取した対象については驚くほど高かった。ヒトにおいては30%前後のバイオアベイラビリティが観察され、平均のバイオアベイラビリティは10%超であった。他の哺乳動物(例えばイヌ)においても、これに匹敵するバイオアベイラビリティが観察された。特定の実施形態では、本明細書で開示する組成物により、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%またはそれを超える、対象におけるインスリンのバイオアベイラビリティがもたらされる。本明細書に記載の例は、このような特定の整数の間の任意の範囲を企図する。この球形インスリン粒子は、賦形剤マトリックスを含まず、投与されると速やかに溶解するが、そのいずれの特徴も、肺胞膜を通過する、より効率的なインスリン輸送にとって好都合である。加えて、本明細書で開示する球形インスリン粒子の空気力学的特性も、溶解したインスリンが容易に吸収される主要な部位である肺深部への高率(%)の放出用量の到達にとって好都合である。
【0050】
さらに、本明細書で開示する吸入用インスリン組成物を使用した場合の、肺深部中での球形インスリン粒子の堆積濃度は予想より実際に高かったことが見出される。文献では、肺深部への最適な送達は、幾何学的直径は大きいがMMADはほぼ1μmである低密度の粒子の場合に生じると述べられている。高密度の小さな粒子は互いに貼り付き、DPIから分散するには非現実的に高いエネルギーを必要とすると考えられることから、ほぼ1の幾何学的直径を有する密度が高めの粒子は、送達効率に乏しいと思われる。このバイオアベイラビリティデータは、本出願の球形インスリン粒子の肺深部への送達が、文献中で報告される他の設計された粒子調製物と少なくとも同程度に効率的であったことを示唆するものであり、これは驚くべきことである。以下の説明に限定されることを望むものではないが、1つの説明は、本明細書で開示する球形インスリン粒子はわずかに接着性の表面のみを有していて凝集しない傾向があり、低エネルギーの簡単な乾燥粉末吸入器具により1ミクロン前後の主要な球形インスリン粒子が容易に分散されるのではないかということである。簡単な器具からの有効な分散に加え、本明細書で開示する球形インスリン粒子は、ヒトの肺の環境中でより効率的な空気力学的特徴を有することが可能と考えられる。
【0051】
本明細書に記載のインスリンミクロスフェアは、さらに、周囲温度での改善された予想外の保存安定性も呈する。本明細書で開示する球形インスリン粒子組成物は、先行技術において提案された肺用タンパク質製剤、特に、薬物の組込みを界面活性剤およびエマルション法に頼ってきた製剤と比較して顕著に改善された特徴を呈する。加えて、本明細書で開示する球形インスリン粒子は、噴霧乾燥または製粉のプロセスを必要とせずに調製される。
【0052】
一例では、タンパク質またはポリペプチド(「タンパク質」と総称される)を含有する複数の微小粒子(例えばミクロスフェア)と、噴射剤(例えば、ヒドロフルオロアルカン(HFA)噴射剤)とを含む微小粒子組成物が提供される。この組成物の微細粒子率は、25%から100%の範囲である。とりわけ好ましい実施形態では、この微小粒子は、タンパク質含有量がミクロスフェアの総質量の20から100%の範囲であるミクロスフェアである。一般に、治療用のタンパク質またはペプチドの肺への肺送達に有用な微小粒子(例えばミクロスフェア)の直径は、約0.lμから約10μの範囲(いくつかの用途の場合は0.lμから5μ、他の用途の場合は0.1μから3μ)であり、密度は約0.6gm/ccから約2.5gm/cc(より好ましくは0.6gm/ccから1.8gm/cc、最も好ましくは1.2gm/ccから1.7gm/cc)の範囲である。いくつかの好ましい実施形態では、ミクロスフェアのタンパク質含有量は、ミクロスフェアの少なくとも40重量%(より好ましくは、少なくとも50%、60%、70%または80%、最も好ましくは、少なくとも90%、95%または100%)である。
【0053】
本明細書で使用する場合、用語「微小粒子」は、幾何学的直径または空気力学的直径が100ミクロン未満、より好ましくは10ミクロン未満であり、合成ポリマー、タンパク質および多糖など様々な材料から形成できる固体または半固体の粒子である微小粒子、ミクロスフェアおよび微小カプセルを指す。合成ポリマー、天然ポリマー、タンパク質および多糖からこのような微小粒子を作製するには、相分離、溶媒蒸発、乳化および噴霧乾燥を含め、いくつかの異なる手法が慣用的に用いられる。ミクロスフェアの形成に使用される例示的なポリマーとしては、Ruizに交付された米国特許第5,213,812号、Reidらに交付された米国特許第5,417,986号、Ticeらに交付された米国特許第4,530,840号、Ticeらに交付された米国特許第4,897,268号、Ticeらに交付された米国特許第5,075,109号、Singhらに交付された米国特許第5,102,872号、Boyesらに交付された米国特許第5,384,133号、Ticeらに交付された米国特許第5,360,610号およびSouthern Research Instituteに交付された欧州特許出願公開第248,531号に記載のような、乳酸とグリコール酸とのホモポリマーおよびコポリマー(PLGA);Iliumに交付された米国特許第4,904,479号に記載のようなテトロニック908およびポロキサマー407などのブロックコポリマー;およびCohenらに交付された米国特許第5,149,543号に記載のようなポリホスファゼンが挙げられる。
【0054】
本明細書で使用する場合、用語「ミクロスフェア」は、形状が実質的に球形であり寸法が一般に直径約0.1ミクロンから10.0ミクロンの間の微小粒子を指す。本明細書で開示するミクロスフェアは、狭いサイズ分布を典型的に呈し、不連続な粒子として形成される。ミクロスフェアを形成する例証的な方法を追って記載する。
【0055】
本明細書で使用する場合、「水溶液」は、水のみの溶液、または、エタノール、DMSO、アセトンN−メチルピロリドンおよび2−ピロリドンなど1つまたは複数の水混和性の溶媒と混合された水溶液を指すが、好ましい水溶液は、検出可能な有機溶媒を含有しない。
【0056】
特定の実施形態では、小球形インスリン粒子組成物の作製方法および使用方法が本明細書で開示される。この作製方法によれば、溶解された相分離促進剤を含有する溶媒中に原材料(例えばZn−インスリン結晶)を溶解させて、単一液体の連続相である溶液を形成する。この溶媒は、好ましくは水性または水混和性の溶媒である。次に、例えば溶液の温度を下げることによってこの溶液を相転移に供し、これにより、溶解されたインスリンは液体−固体相分離を経て、相分離促進剤が連続相中に残っている間に、不連続相を構成する小球形インスリン粒子の懸濁液を形成する。
【0057】
相:
連続相:小球形インスリン粒子を調製する方法は、単一液相中の第1の溶媒中に活性剤と相分離促進剤とが溶解している溶液を供給することから始まる。この溶液は、有機溶媒、または、混和性の有機溶媒の混合物を含む有機系であってもよい。この溶液は、さらに、水性媒体、または、水混和性の有機溶媒、または、水混和性の有機溶媒の混合物、またはそれらの組合せを含む水ベースの溶液であってもよい。水性媒体は、水、普通の生理食塩水、緩衝溶液、緩衝生理食塩水などであってもよい。
【0058】
適当な水混和性の有機溶媒としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:N−メチル−2−ピロリジノン(N−メチル−2−ピロリドン)、2−ピロリジノン(2−ピロリドン)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、酢酸、乳酸、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、3−ペンタノール、n−プロパノール、ベンジルアルコール、グリセロール、テトラヒドロフラン(THF)、PEG−4、PEG−8、PEG−9、PEG−12、PEG−14、PEG−16、PEG−120、PEG−75、PEG−150、ポリエチレングリコールエステル、ジラウリン酸PEG−4、ジラウリン酸PEG−20、イソステアリン酸PEG−6、パルミトステアリン酸PEG−8、パルミトステアリン酸PEG−150、ポリエチレングリコールソルビタン、イソステアリン酸PEG−20ソルビタン、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、PEG−3ジメチルエーテル、PEG−4ジメチルエーテル、ポリプロピレングリコール(PPG)、アルギン酸ポリプロピレン、PPG−10ブタンジオール、PPG−10メチルグルコースエーテル、PPG−20メチルグルコースエーテル、PPG−15ステアリルエーテル、プロピレングリコールジカプリレート/ジカプレート、ラウリン酸プロピレングリコールおよびグリコフロール(テトラヒドロフルフリルアルコールポリエチレングリコールエーテル)、またはその組合せ。
【0059】
この単一連続相は、第1の溶媒中で溶解性であるか該溶媒と混和性であるかいずれかの相分離促進剤の溶液をまず供給することにより調製できる。これに続き、この溶液にインスリンを加える。インスリン結晶もしくは他のインスリン固体を溶液に直接加えてもよく、または、インスリンの結晶もしくは他の固体を第2の溶媒中でまず溶解させてから、溶液に一緒に加えてもよい。第2の溶媒は、第1の溶媒と同じ溶媒であってもよく、または、上のリストから選択され、この溶液と混和性の別の溶媒であってもよい。インスリンの結晶または他の固体を周囲温度以下または上昇した温度の溶液に加えてもよいが、ただし、インスリンはあまり分解せずに溶液中で溶解されることが好ましい。「周囲温度」が意味するのは、約20℃から約40℃の室温前後の温度である。
【0060】
相分離促進剤:相分離促進剤(PSEA)は、溶液を相分離に供したときに溶液からの活性剤の液体−固体相分離を促進または誘発するものであり、相分離においては、相分離促進剤が連続相中に溶解された状態で残っている間に、溶解された活性剤分子が集合して、不連続相としての小球形インスリン粒子の懸濁液を形成する。相分離促進剤は、溶液が相分離条件に供されると、溶解された活性剤を難溶化する。適当な相分離促進剤としては、当該溶液と溶解性または混和性であるポリマーまたはポリマー混合物が挙げられるが、これらに限定されない。適当なポリマーの例としては、直鎖状または分枝状のポリマーが挙げられる。このようなポリマーは、水溶性、半水溶性、水混和性または難溶性であってもよい。
【0061】
使用できる水溶性または水混和性のポリマーの種類としては、炭水化物ベースのポリマー、多価脂肪族アルコール、ポリ(ビニル)ポリマー、ポリアクリル酸、ポリ有機酸、ポリアミノ酸、コポリマーおよびブロックコポリマー(例えば、Pluronics F127またはF68などのポロキサマー)、ターポリマー、ポリエーテル、天然に存在するポリマー、ポリイミド、ポリマー界面活性剤、ポリエステル、分枝状ポリマー、環状ポリマーおよびポリアルデヒドが挙げられる。
【0062】
好ましいポリマーは、多様な分子量のポリエチレングリコール(PEG)(PEG200、PEG300、PEG3350、PEG8000、PEG10000、PEG20000など)、Pluronics F127またはPluronics F68などのポロキサマー、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシエチルデンプン、および他の両親媒性ポリマーなど、単独で、または、その2つ以上の組合せで使用される、意図した経路で活性剤粒子を投与するための医薬品添加物として許容されるものである。相分離促進剤は、プロピレングリコールとエタノールとの混合物などの非ポリマーであってもよい。
【0063】
液体−固体相分離:溶液中の溶解された活性剤の液体−固体相分離は、温度変化、圧力変化、pH変化、溶液のイオン強度変化、溶解された活性剤の濃度変化、相分離促進剤の濃度変化、溶液のオスモル濃度変化、これらのうち2つ以上の組合せなど、当技術分野で公知の任意の方法により誘発させることができる。
【0064】
好ましい一実施形態では、相転移は、活性剤の球形粒子が形成されて溶液中に懸濁可能に分散されるように溶液の温度を下げることによる温度誘発型の相転移である。用語「溶液中に懸濁可能に分散される」は、微小粒子は形成されたばかりのときは懸濁液中にあるが、容器(バッチプロセス)の底に容易に沈む(数分以内)ことを表すために本明細書で使用する。しかし、微小粒子は、中程度の機械力(例えば振ること)で簡単に再懸濁させることができる。したがって、このような粒子は、溶液中に懸濁可能に分散されているとして本明細書に記載される。
【0065】
このポリサーマルプロセスでは、冷却速度を制御して、微小粒子のサイズおよび形状を制御できる。典型的な冷却速度は、0.01℃/分から600℃/分(0.05℃/分、0.1℃/分、0.2℃/分、0.5℃/分、1℃/分、5℃/分、10℃/分、20℃/分、30℃/分、40℃/分、50℃/分、60℃/分、70℃/分、80℃/分、85℃/分、90℃/分、95℃/分、100℃/分、150℃/分、200℃/分、250℃/分、300℃/分、350℃/分、400℃/分、450℃/分、500℃/分など)、または、このような任意の値の間の範囲で制御される。変化の速度は、一定または線形の速度、非線形速度、断続的な、またはプログラム化された速度(多段階のサイクルを有する)であってもよい。
【0066】
この微小粒子は、追って論ずるように、溶液中でPSEAから分離してから、洗浄により精製できる。
【0067】
凝固点が比較的高いか、または、微小粒子が形成される前に凝固が生じる溶液の場合、そのような溶液は、系の凝固点を下げることで系を凝固させることなく系中の相転移を可能にする、プロピレングリコール、ショ糖、エチレングリコール、アルコール(例えば、エタノール、メタノール)などの凝固点降下剤、または、凝固点降下剤の水性混合物を含んでもよい。このプロセスは、温度が系の凝固点未満に低下するように実施することもできる。
【0068】
任意選択的な賦形剤:本出願の微小粒子は、活性剤を分散させるマトリックスを形成しない量で1つまたは複数の賦形剤を含んでもよい。賦形剤は、粒子もしくは活性剤の安定性向上、粒子からの活性剤の制御放出、または活性剤の生体組織通過性改良などの追加的な特徴を、活性剤または粒子にもたせてもよい。適当な賦形剤としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:炭水化物(例えば、トレハロース、ショ糖、マンニトール)、陽イオン(例えば、Zn2+、Mg2+、Ca2+)、陰イオン(例えばSO42−)、アミノ酸(例えばグリシン)、脂質、リン脂質、脂肪酸、界面活性剤、トリグリセリド、胆汁酸またはその塩(例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸またはその塩などの、コール酸またはその塩)、脂肪酸エステル、および、例えばPSEA’sとして機能する濃度未満で溶液中に存在するポリマー。
【0069】
粒子の分離および洗浄:本出願の好ましい一実施形態では、小球形粒子は、溶液中で相分離促進剤から分離することにより回収される。さらに別の好ましい実施形態では、分離の方法は、小球形粒子を含有する懸濁可能な分散物を、その中では活性剤粒子は溶解性ではないが相分離促進剤は溶解性である液体媒体で洗浄することによる。洗浄のいくつかの方法は、ダイアフィルトレーションまたは遠心分離によるものであってもよい。この液体媒体は、水性媒体または有機溶媒であってもよい。水溶性が低い活性剤粒子の場合、液体媒体は、二価陽イオンなど、活性剤粒子の水溶性を低下させる作用剤を場合により含有する水性媒体であってもよい。水溶性の高い活性剤の場合は、硫酸アンモニウムなどの沈殿剤を含有する有機溶媒または水性溶媒を使用してもよい。
【0070】
液体媒体としての使用に適した有機溶媒の例としては、限定するものではないが、連続相に適したものとして上に具体的に示した有機溶媒、より好ましくは、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、ペンタンなどが挙げられる。
【0071】
このような溶媒のいずれかの混合物を使用することも企図される。好ましい1つのブレンドは、塩化メチレンとアセトンとの1:1混合物である。液体媒体は、例えば、凍結乾燥、蒸発または乾燥による簡単な除去のために沸点が低いことが好ましい。
【0072】
液体媒体は、液体二酸化炭素などの超臨界流体、または、その超臨界点に近い流体であってもよい。超臨界流体は、相分離促進剤(とりわけいくつかのポリマー)に適した溶媒であることがあるが、球形タンパク質粒子にとっては非溶媒である。超臨界流体は、単独で、または共溶媒と一緒に使用できる。以下の超臨界流体を使用できる:液体CO2、エタンまたはキセノン。可能性のある共溶媒は、アセトニトリル、ジクロロメタン、エタノール、メタノール、水または2−プロパノールであってもよい。
【0073】
本明細書に記載のPSEAから小球形粒子を分離するために使用される液体媒体は、液体媒体中の活性剤の溶解性を低下させる作用剤を含有してもよい。球形粒子の収率を最大化するために、球形粒子は液体媒体中で最小の溶解性を呈することが望ましい。インスリンおよびヒト成長ホルモンなどいくつかのタンパク質の場合は、溶解性の低下はZn2+などの二価陽イオンを球形タンパク質粒子に加えることにより達成できる。他のイオンとしては、Ca2+、Cu2+、Fe2+、Fe3+などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
球形インスリン粒子の溶解性は、水溶液中でのダイアフィルトレーションが可能なだけ十分に低くてもよい。
【0075】
液体媒体は1つまたは複数の賦形剤を含有してもよく、そのような賦形剤は、先に論じたように、粒子および/または活性剤の安定性向上、粒子からの活性剤の制御放出、または活性剤の生体組織通過性改良などの追加的な特徴を活性剤または粒子にもたせてもよい。
【0076】
別の例では、小球形粒子は、PSEAを含有する溶液から分離されない。
【0077】
水ベースのプロセス:別の好ましい実施形態では、溶液の溶媒および液体洗浄媒体は全て、水性または水混和性である。適当な水性または水混和性の溶媒の例としては、連続相用に上に特定したものが挙げられるが、これらに限定されない。水ベースのプロセスを用いる1つの利点は、媒体を緩衝液化でき、その媒体が、タンパク質などの活性剤に生化学的な安定化をもたらす賦形剤を場合により含有できることである。
【0078】
活性剤:活性剤としては薬学的活性剤が挙げられ、そのような活性剤は、治療剤、診断剤、化粧品、栄養補助食品または殺虫薬であってもよい。
【0079】
治療剤は、生物学的なものであってもよく、そのような治療剤としては、タンパク質、ポリペプチド、炭水化物、ポリヌクレオチドおよび核酸が挙げられるが、これらに限定されない。タンパク質は抗体であってもよく、抗体はポリクローナルでもモノクローナルでもよい。治療薬は、低分子量の分子であってもよい。加えて、治療剤は、以下のものなど様々な公知の医薬品から選択できるが、これらに限定されない:鎮痛薬、麻酔薬、興奮薬、アドレナリン作用剤、アドレナリン遮断剤、抗アドレナリン薬、アドレノコルチコイド、アドレナリン模倣薬、抗コリン剤、抗コリンエステラーゼ薬、抗痙攣薬、アルキル化剤、アルカロイド、アロステリック阻害薬、アナボリックステロイド、食欲抑制薬、制酸薬、止瀉薬、解毒薬、抗葉酸薬、解熱薬、抗リウマチ剤、精神治療剤、神経遮断剤、抗炎症剤、駆虫薬、抗不整脈剤、抗生物質、抗凝血薬、抗鬱薬、抗糖尿病剤、抗てんかん薬、抗真菌薬、抗ヒスタミン薬、降圧剤、抗ムスカリン剤、抗ミコバクテリア剤、抗マラリア薬、消毒薬、抗悪性腫瘍剤、抗原虫剤、免疫抑制薬、免疫刺激薬、抗甲状腺剤、抗ウイルス剤、抗不安鎮静薬、収斂薬、βアドレノセプター遮断剤、造影剤、コルチコステロイド、咳抑制薬、診断剤、診断用画像化剤、利尿薬、ドパミン作動薬、止血薬、血液作用剤、ヘモグロビン修飾因子、ホルモン、催眠薬、免疫学的薬剤、抗高脂血症薬および他の脂質調節剤、ムスカリン作用剤、筋弛緩薬、副交感神経模倣薬、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、プロスタグランジン、放射性医薬品、鎮静薬、性ホルモン、抗アレルギー剤、刺激薬、交感神経模倣薬、甲状腺剤、血管拡張薬、ワクチン、ビタミンおよびキサンチン。抗悪性腫瘍薬または抗癌剤としては、パクリタキセルおよび誘導体化合物、ならびに、アルカロイド、代謝拮抗薬、酵素阻害薬、アルキル化剤および抗生物質からなる群より選択される他の抗悪性腫瘍薬が挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
化粧剤は、化粧品活性を有する可能性のある任意の活性原料である。このような活性原料の例は、とりわけ、皮膚軟化剤、湿潤剤、フリーラジカル阻害剤、抗炎症薬、ビタミン、脱色剤、抗にきび剤、抗脂漏症薬、角質溶解薬、痩身剤、皮膚着色剤および日焼け止め剤、ならびに、とりわけ、リノール酸、レチノール、レチノイン酸、アスコルビン酸アルキルエステル、多価値不飽和脂肪酸、ニコチン酸エステル、ニコチン酸トコフェロール、米、大豆またはシアの不けん化物、セラミド、グリコール酸などのヒドロキシ酸、セレン誘導体、抗酸化剤、βカロテン、γオリザノールおよびグリセリン酸ステアリルであってもよい。化粧品は、市販のものであるか、および/または、当技術分野で公知の手法により調製できる。
【0081】
栄養補助食品の例としては、タンパク質、炭水化物、水溶性ビタミン(例えば、ビタミンC、ビタミンB複合体など)、脂溶性ビタミン(例えば、ビタミンA、D、E、Kなど)、およびハーブエキスが挙げられるが、これらに限定されない。栄養補助食品は、市販のものであるか、および/または、当技術分野で公知の手法により調製できる。
【0082】
用語「殺虫薬」は、除草薬、殺虫剤、ダニ駆除薬、殺線虫薬、外部寄生虫駆除薬および殺真菌薬を包含することは理解される。化合物クラスの例としては、尿素、トリアジン、トリアゾール、カルバメート、リン酸エステル、ジニトロアニリン、モルホリン、アシルアラニン、ピレトロイド、ベンジル酸エステル、ジフェニルエーテルおよび多環式ハロゲン化炭化水素が挙げられる。このようなクラスの各々における殺虫薬の具体例は、Pesticide Manual、第9版、British Crop Protection Councilに掲載されている。殺虫薬は、市販のものであるか、および/または、当技術分野で公知の手法により調製できる。
【0083】
好ましい一実施形態では、活性剤は、タンパク質、ポリペプチド、炭水化物、ポリヌクレオチド、ウイルスまたは核酸などの巨大分子である。核酸としては、DNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプチマー(aptimer)、RNAおよびSiRNAが挙げられる。巨大分子は、天然のものでも合成のものでもよい。タンパク質は、抗体であってもよく、抗体はモノクローナルでもポリクローナルでもよい。タンパク質は、天然源から単離された任意の公知の治療用タンパク質であってもよく、または、合成法もしくは組換法により作製してもよい。治療用タンパク質の例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:血液凝固カスケードのタンパク質(例えば、第VII因子、第VIII因子、第IX因子など)、サブチリシン、卵白アルブミン、α−1−抗トリプシン(AAT)、DNA分解酵素、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、リゾチーム、リボヌクレアーゼ、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、成長ホルモン、エリトロポエチン、インスリン様成長因子またはその類似体、インターフェロン、グラチラマー、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、抗体、ペグ化されたタンパク質、グリコシル化された、または極度にグリコシル化されたタンパク質、デスモプレシン、LHRH作動薬(ロイプロリド、ゴセレリン、ナファレリン、ブセレリンなど)、LHRH拮抗薬、バソプレシン、シクロスポリン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモンペプチドおよびインスリン。好ましい治療用タンパク質は、インスリン、α−1抗トリプシン、LHRH作動薬および成長ホルモンである。
【0084】
低分子量の治療用分子の例としては、ステロイド、β作動薬、抗微生物薬、抗真菌薬、タキサン(抗有糸分裂剤および抗微小管剤)、アミノ酸、脂肪族化合物、芳香族化合物および尿素化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
好ましい一実施形態では、活性剤は、肺障害治療用の治療剤である。そのような薬剤の例としては、ステロイド、β作動薬、抗真菌薬、抗微生物化合物、気管支ダイアレーター(dialator)、抗喘息剤、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDS)、α−1抗トリプシン薬、および、嚢胞性線維症を治療するための薬剤が挙げられるが、これらに限定されない。ステロイドの例としては、ベクロメタゾン(二プロピオン酸ベクロメタゾンなど)、フルチカゾン(プロピオン酸フルチカゾンなど)、ブデソニド、エストラジオール、フルドロコルチゾン、フルシノニド(flucinonide)、トリアムシノロン(トリアムシノロンアセトニドなど)、およびフルニソリドが挙げられるが、これらに限定されない。β作動薬の例としては、キシナホ酸サルメテロール、フマル酸ホルモテロール、レボアルブテロール、バムブテロールおよびツロブテロールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
抗真菌剤の例としては、イトラコナゾール、フルコナゾールおよびアンホテリシンBが挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
診断剤としては、X線画像化剤および造影剤が挙げられる。X線画像化剤の例としては、以下が挙げられる:ジアトラゾ酸(diatrazoic acid)のエチルエステル(EEDA)としても知られるWIN−8883(エチル3,5−ジアセトアミド−2,4,6−トリヨードベンゾエート)、WIN67722、すなわち、(6−エトキシ−6−オキソヘキシル−3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾエート;エチル−2−(3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾイルオキシ)ブチレート(WIN16318);エチルジアトリゾキシアセテート(WIN12901);エチル2−(3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾイルオキシ)プロピオネート(WIN16923);N−エチル2−(3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾイルオキシアセトアミド(WIN65312);イソプロピル2−(3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾイルオキシ)アセトアミド(WIN12855);ジエチル2−(3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾイルオキシマロネート(WIN67721);エチル2−(3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾイルオキシ)フェニルアセテート(WIN67585);プロパン二酸、[[3,5−ビス(アセチルアミノ)−2,4,5−トリオドベンゾイル(triodobenzoyl)]オキシ]ビス(1−メチル)エステル(WIN68165);および安息香酸、3,5−ビス(アセチルアミノ)−2,4,6−トリオド−4−(エチル−3−エトキシ−2−ブテノエート)エステル(WIN68209)。好ましい造影剤としては、生理的条件下で比較的急速に崩壊することにより、粒子に関連する一切の炎症応答を最小限にすることが期待されるものが挙げられる。崩壊は、酵素的加水分解、生理的pHでのカルボン酸の可溶化または他の機序により生じると考えられる。したがって、ヨージパミド、ジアトリゾ酸およびメトリゾ酸など溶解性に乏しいヨウ化カルボン酸を、WIN67721、WIN12901、WIN68165およびWIN68209など加水分解的に不安定なヨウ化種と共に用いることが好ましいと考えられる。
【0088】
活性剤を多数組み合わせることが望ましい場合があり、そのような組合せとしては、例えば、ステロイドとβ作動薬との組合せ(例えば、プロピオン酸フルチカゾンとサルメテロールとの、ブデソニドとホルメテロールとの組合せなど)が挙げられる。
【0089】
炭水化物の例は、デキストラン、ヘタスターチ、シクロデキストリン、アルギネート、キトサン、コンドロイチン、ヘパリン、それ以外に他の文脈中で本明細書において開示するものなどである。
【0090】
小球形粒子:本出願の小球形粒子の平均の幾何学的粒子サイズは、動的光散乱法(例えば、光相関分光法、レーザー回折法、低角レーザー光散乱法(LALLS)、中角レーザー光散乱法(MALLS))、光遮蔽法(例えばCoulter分析法)、または、レオロジーもしくは顕微鏡法(光学または電子)など他の方法により測定した場合、約0.01μmから約200μm、より好ましくは0.1μmから10μm、さらにより好ましくは約0.5μmから約5μm、最も好ましくは約0.5μmから約3μmである。肺送達用の球形粒子の空気力学的粒子サイズは、飛行時間型の測定法(例えばAerosizer)、Next Generation ImpactorsまたはAndersen Cascade Impactorの測定法により定量したものである。
【0091】
この小球形粒子は、実質的に球形である。「実質的に球形の」が意味するのは、粒子断面の最長の垂直軸対最短の垂直軸の長さ比が1.5以下だということである。実質的に球形であるには、対称軸は必要ではない。さらに、粒子は、全体的な粒子サイズと比較した場合に規模が小さい線またはへこみまたは隆起などの表面テクスチャリングを有しているが実質的に球形を保っているものであってもよい。より球形の粒子は、最長の軸と最短の軸との間の長さ比が1.33以下である。最も球形の粒子は、最長の軸と最短の軸との間の長さ比が1.25以下である。表面接触は、実質的に球形なミクロスフェアにおいて最小となっており、これにより、粒子の望ましくない凝集が最低限になる。多くの結晶または薄片または不規則粒子は、イオン性または非イオン性の相互作用により凝集が生じる可能性のある大きな表面接触面積をもたらす可能性のある平らな表面を有する。球がもたらすのは、はるかに小さい面積にわたる接触である。
【0092】
例示的な一組成物における小球形粒子は、実質的に同じ粒子サイズ、すなわち単分散サイズ分布を有し、これにより、肺胞など、肺中の特定区域への活性剤の送達が可能になる。別の組成物においては、比較的大きい粒子と小さい粒子との両方が存在する多分散サイズ分布を有する微小粒子は、活性剤を肺の一部ではなくその全区域へ送達することを可能にする。「単分散サイズ分布」が意味するのは、好ましい粒子サイズ分布は、小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径対10パーセンタイルの体積粒径の比率が5以下であると考えられることである。より好ましくは、粒子サイズ分布は、小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径対10パーセンタイルの体積粒径の比率が3以下であると考えられる。最も好ましくは、粒子サイズ分布は、小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径対10パーセンタイルの体積粒径の比率が2以下であると考えられる。
【0093】
幾何標準偏差(GSD)も、粒子サイズ分布の多分散度を示すために用いることができる。GSDの計算は、15.9%未満および84.1%未満の累計パーセントでの有効カットオフ直径(ECD)を定量することを含んでいた。GSDは、84.17%未満のECD対15.9%未満のECDの比率の平方根に等しい。この小球形粒子組成物は、GSDが<2.5、より好ましくは1.8未満であるとき、単分散サイズ分布を有する。
【0094】
別の例では、この小球形粒子中の活性剤は、半晶質または非晶質である。
【0095】
典型的には、この出願におけるプロセスにより作製される小球形粒子は、実質的に非多孔質であり、0.5g/cm3超、より好ましくは0.75g/cm3超、最も好ましくは約0.85g/cm3超の密度を有する。密度について好ましい範囲は、約0.5から約2g/cm3、より好ましくは約0.75から約1.75g/cm3、さらにより好ましくは約0.85g/cm3から約1.5g/cm3である。
【0096】
本出願の小球形粒子は、高含有量の活性剤を有する。他の多くの粒子調製法で必要とされる相当な量の増量剤または類似の賦形剤は必要ない。例えば、小球形インスリン粒子のインスリン含有量は、粒子の90重量%以上または93重量%以上または95重量%以上である。しかし、増量剤または賦形剤は、小球形粒子中に含まれていてもよいが、活性剤を分散させるマトリックスを形成しない、典型的に粒子の20重量%未満または10重量%以下で含まれる。好ましくは、活性剤は、小球形粒子の95重量%超、最大100重量%存在する。本明細書中で範囲について言及するときは、一切の範囲またはその中の範囲の組合せを包含することを意図している。
【0097】
本明細書で開示する小球形粒子中に組み込まれる活性剤は、賦形剤が含まれていてもいなくても、その生化学的な完全性およびその生物学的活性を保持する。
【0098】
小球形粒子のin vivo送達:本出願における小球形活性剤粒子は、注射可能な経路、局所、経口、経直腸、経鼻、経肺、経膣、経頬側口腔、舌下、経皮、経粘膜、経耳、眼内または経眼など適当な経路による対象へのin vivo送達に適している。この小球形粒子は、安定な液体懸濁液もしくは懸濁可能な分散物として送達し、または、乾燥粉末、錠剤、カプレット、カプセルなどの固体剤形として製剤することができる。好ましい送達経路は注射可能な経路であり、そのような経路としては、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、くも膜下腔内、硬膜外、動脈内、関節内などが挙げられる。別の好ましい送達経路は肺吸入であり、これは経口でも経鼻でもよい。この送達経路では、小球形粒子は、肺深部へ、上気道中に、または、気道中の任意の場所に堆積させてもよい。この小球形粒子は、乾燥粉末吸入器により乾燥粉末として送達してもよく、または、定量噴霧式吸入器もしくはネブライザーにより製剤および送達してもよい。
【0099】
インスリンなど全身的に機能することが意図される薬物は、血流中への薬物吸収を可能にする非常に大きな表面積がある肺胞中に堆積されるのが望ましい。肺内のある領域への薬物堆積を標的化するとき、粒子の空気力学的直径は、形状、密度および粒子サイズなど粒子の基礎的な物理的特徴を操作することにより最適範囲に調節できる。
【0100】
先行技術の製剤における吸入用薬物粒子の肺到達率を許容されるものとするには、粒子の各々の中に組み込むか薬物粒子と混合するかいずれかの形で賦形剤を添加することが典型的に必要である。例えば、微小化された薬物粒子(約5μm)の分散性改善は、トレハロース、乳糖またはマルトデキストリンなど不活性な担体粒子の、より大きな(30〜90μm)粒子とブレンドすることにより達成される。より大きな賦形剤粒子は、薬力学的効果の向上と相関する粉末流動性を向上させる。さらなる改良では、エアロゾルの性能、ならびに、タンパク質薬の安定性の潜在的な向上を達成するために、小球形粒子中に賦形剤を直接組み込む。一般に、乳糖、または、アルブミンおよびDL−.α.−ホスファチジルコリンジパルミトイル(DPPC)など肺に内在する有機分子など、吸入用としてこれまでにFDA認可されている賦形剤を選ぶ。望ましい物理的および化学的特徴を有する粒子を設計するために、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)など他の賦形剤が使用されている。しかし、FDAで認可された賦形剤を用いた吸入経験の多くは、気管気管支領域中に望ましくは堆積し、肺深部へはあまり浸透しない大きな空気力学的粒子サイズを有する喘息薬を用いたものであった。肺深部へ送達される吸入用のタンパク質またはペプチドの治療薬の場合は、免疫応答によるものであるか、または、肺胞領域に送達された際に賦形剤により引き起こされると考えられる、炎症および過敏などの望ましくない長期的な副作用が生じかねない懸念がある。
【0101】
肺深部吸入用の治療薬の有害な副作用の可能性を最低限にするためには、送達すべき薬物により実質的に構成される吸入用粒子を作製することが有利と考えられる。この戦略は、賦形剤への肺胞の曝露を最小限にし、各用量に伴い肺胞表面上に堆積される粒子の総質量用量を減らし、吸入用治療剤の慢性的な使用の間の刺激作用を最小限にする可能性があると考えられる。本明細書で開示するものなど、治療用のタンパク質またはペプチドから本質的に全体が構成される肺深部堆積に適した空気力学的特性を有する小球形粒子は、慢性的な治療薬投薬が肺の肺胞膜に及ぼす効果および対象への活性剤の全身送達の効果について切り離した試験にとってとりわけ有用であると考えられる。さらに、小球形粒子形態のタンパク質またはペプチドを吸入により全身送達する効果を、会合した賦形剤により持ち込まれる複雑な因子がない状態で試験できると考えられる。
【0102】
吸入により肺深部へ粒子を送達する要件は、粒子の平均の空気力学的直径が0.5〜10μmと小さく、単分散サイズ分布を有することである。本出願は、さらに、例えば、肺組織への活性剤の局所送達にとって望ましい多分散粒子サイズ分布を有する組成物を得るために、粒子サイズ範囲の異なる多様なバッチの小球形粒子を一緒に混合することも企図する。本明細書で開示するプロセスにより、上述の特徴を有する小球形粒子の作製が可能になる。
【0103】
本明細書に記載の空気力学的直径を有する粒子を形成するには2つの主要なアプローチがある。第1のアプローチは、比較的大きいが非常に多孔度の高い(または孔の開いた)微小粒子を作製することである。空気力学的直径(D空気力学的)と幾何学的直径(D幾何学的)との間の関係は、D空気力学的は粒子の密度の平方根を乗じたD幾何学的に等しいので、質量密度が非常に低い(0.1g/cm3前後)粒子は、幾何学的直径が比較的大きくても(5から10ミクロン)、小さい空気力学的直径(0.5から3ミクロン)を呈することがある。
【0104】
代替的なアプローチは、多孔度が比較的低い粒子を作製することであり、本出願の場合は、粒子の密度は、上の範囲に記載してあるが、より一般的には1g/cm3に近い。したがって、そのような非多孔質で密度の高い粒子の空気力学的直径は、その幾何学的直径に近い。
【0105】
上に記載の粒子形成の本方法は、賦形剤を含む、または含まない小球形粒子を提供する。
【0106】
添加物を含まない溶解されたタンパク質そのものから小球形タンパク質粒子を作製すると、同じ体積の固体中での薬物負荷量を増やし、安全性を高め、必要な吸入数を減少させるための選択肢が得られる。
【0107】
予め作製された小球形粒子の微小カプセル化:本出願の小球形粒子は、壁形成材料のマトリックス(賦形剤のマトリックスより典型的に水溶性が低い)内に封入されて、微小カプセル化粒子を形成する。微小カプセル化は、当技術分野で公知の任意のプロセスにより達成できる。好ましい一実施形態では、本出願の小球形粒子の微小カプセル化は、下に記載の乳化/溶媒抽出プロセスにより達成される。このマトリックスは、活性剤に持続放出特性を賦与することができ、その結果、所望の治療用途により分から時間、数日または数週間持続する放出速度が得られる。微小カプセル化粒子は、予め作製された小球形粒子の遅延放出製剤も作製することができる。好ましい一実施形態では、予め作製された小球形粒子は、球形インスリン粒子である。
【0108】
乳化/溶媒抽出プロセスでは、乳化は、非混和性の2つの相、すなわち連続相と不連続相(分散相としても知られる)とを混合してエマルションを形成することにより得られる。好ましい一実施形態では、水中油(O/W)エマルションを形成するためには、連続相は水性相(または水相)であり、不連続相は有機相(または油相)である。不連続相は、油中固体(S/O)相を形成する微細懸濁液または微細分散物のいずれかとして存在する固体粒子の分散物をさらに含有してもよい。有機相は、好ましくは水非混和性または部分的に水混和性の有機溶媒である。有機相対水性相の質量比は、約1:99から約99:1、より好ましくは1:99から約40:60、最も好ましくは約2:98から約1:3、または、その中の任意の範囲、もしくは範囲の組合せである。好ましい一実施形態では、有機相対水性相の比率は、約1:3である。本出願は、油相が連続相を形成し水相が不連続相を形成する逆エマルションまたは油中水エマルション(W/O)を利用することをさらに企図する。本出願は、油中水中油エマルション(O/W/O)または水中油中水エマルション(W/O/W)など、3つ以上の相を有するエマルションを利用することをさらに企図する。
【0109】
好ましい一実施形態では、乳化/溶媒抽出プロセスを用いた微小カプセル化のプロセスは、先に記載の方法により予め作製された小球形粒子と、壁形成材料を含有する有機相とを調製することから始める。予め作製された小球形粒子は、壁形成材料の有機相中に分散されて、予め作製された小球形粒子の分散物を油相中に含有する油中固体(S/O)相を形成する。好ましい一実施形態では、この分散物は、小球形粒子と有機相との混合物をホモジナイズすることにより達成される。水性媒体は、連続相を形成することになる。この場合、S/O相を水性相で乳化することにより形成されるエマルション系は、水中油中固体(S/O/W)エマルション系である。
【0110】
壁形成材料は、個々に、または組み合わされてマトリックスの構造実体を形成する能力がある材料を指す。生分解性の壁形成材料は、特に注射剤用途にとって好ましい。そのような材料の例としては、ポリラクチド/ポリグリコリドポリマー(PLGA系)、ポリエチレングリコールコンジュゲート化されたPLGA系(PLGA−PEG系)の系統およびトリグリセリドが挙げられるが、これらに限定されない。PLGAまたはPLGA−PEGを使用する実施形態では、PLGAのポリラクチド対ポリグリコリドの比率は、好ましくは100:0から0:100、より好ましくは約90:10から約15:85、最も好ましくは約50:50である。一般に、ポリマー中でのポリラクチドに対するポリグリコリドの比率が高いほど、微小カプセル化粒子の親水性は高くなり、その結果、水和が速くなり、分解が速くなる。多様な分子量のPLGAを使用してもよい。一般に、ポリマー中のポリグリコリドとポリラクチドとが同じ比率である場合、PLGAの分子量が高いほど、活性剤の放出は遅くなり、微小カプセル化粒子のサイズ分布は広くなる。
【0111】
水中油(O/W)または水中油中固体(S/O/W)エマルションの有機相(油相)中の有機溶媒は、水非混和性または部分的に水非混和性であってもよい。用語「水非混和性の溶媒」が意味するのは、水溶液と1:1比で合わせたとき界面メニスカスを形成する溶媒である(O/W)。適当な水非混和性の溶媒としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:炭素数が5以上の、置換された、もしくは置換されていない、直鎖状、分枝状もしくは環状のアルカン、炭素数が5以上の、置換された、もしくは置換されていない、直鎖状、分枝状もしくは環状のアルケン、炭素数が5以上の、置換された、もしくは置換されていない、直鎖状、分枝状もしくは環状のアルキン;芳香族炭化水素、完全もしくは部分的にハロゲン化された炭化水素、エーテル、エステル、ケトン、モノグリセリド、ジグリセリドもしくはトリグリセリド、天然油、アルコール、アルデヒド、酸、アミン、直鎖状もしくは環状のシリコーン、ヘキサメチルジシロキサン、または、これら溶媒の任意の組合せ。ハロゲン化溶媒としては、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、トリクロロエタン、ヒドロフルオロカーボン、塩化ベンゼン(モノ、ジ、トリ)、トリクロロフルオロメタンが挙げられるが、これらに限定されない。とりわけ適当な溶媒は、塩化メチレン、クロロホルム、ジエチルエーテル、トルエン、キシレンおよび酢酸エチルである。「部分的に水混和性の溶媒」が意味するのは、ある濃度では水非混和性であり、より低い別の濃度では水混和性である溶媒である。このような溶媒は、限られた水混和性を有し、自発的なエマルション形成の能力がある。部分的に水混和性の溶媒の例は、テトラヒドロフラン(THF)、炭酸プロピレン、ベンジルアルコールおよび酢酸エチルである。
【0112】
表面活性化合物を、例えば、有機相のぬれ特性を増加させるために加えてもよい。表面活性化合物は、乳化プロセス前に水性相に、有機相に、水性媒体および有機溶液の両方に、または、乳化プロセス後にエマルションに加えてもよい。表面活性化合物を使用すると、封入されていないか、または部分的に封入されていない小球形粒子の数を減らすことができ、その結果、放出中の活性剤の初期バーストを減らすことができる。表面活性化合物は、有機相もしくは水性相に、または、有機相および水性相の両方に、該化合物の溶解性に応じて加えることができる。
【0113】
用語「表面活性化合物」が意味するのは、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤または生体表面活性分子などの化合物である。表面活性化合物は、どのような場合であっても、水性相または有機相またはエマルションの約0.01重量%未満から約30重量%、より好ましくは約0.01重量%から約10重量%、または、その中の任意の範囲もしくは範囲の組合せの量で存在すべきである。
【0114】
適当な陰イオン界面活性剤としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:ラウリン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、硫酸アルキルポリオキシエチレン、アルギン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸およびその塩、グリセリルエステル、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、コール酸および他の胆汁酸(例えば、コール酸、デオキシコール酸、グリココール酸、タウロコール酸、グリコデオキシコール酸)およびその塩(例えばデオキシコール酸ナトリウムなど)。
【0115】
適当な陽イオン界面活性剤としては、塩化ベンザルコニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウムなどの四級アンモニウム化合物、塩酸アシルカルニチンまたはハロゲン化アルキルピリジニウムが挙げられるが、これらに限定されない。陰イオン界面活性剤として、リン脂質を使用してもよい。適当なリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リソリン脂質、卵もしくは大豆のリン脂質、またはその組合せが挙げられる。リン脂質は、塩処理もしくは脱塩処理された、水素化もしくは部分的に水素化された、または、天然、半合成もしくは合成のものであってもよい。
【0116】
適当な非イオン界面活性剤としては以下が挙げられる:ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル(MacrogolおよびBrij)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Polysorbate)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(Myrj)、ソルビタンエステル(Span)、モノステアリン酸グリセロール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、アリールアルキルポリエーテルアルコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマー(ポロキソマー(poloxomer))、ポラキサミン(polaxamine)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ならびに、多糖(ヒドロキシエチルデンプン(HES)などのデンプンおよびデンプン誘導体、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよび非晶質セルロースなど)。一例では、非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンとのコポリマー、および、好ましくはプロピレングリコールとエチレングリコールとのブロックコポリマーである。そのようなポリマーは、POLOXAMERの商品名で(時にPLURONIC(登録商標)とも呼ばれる)販売され、Spectrum ChemicalおよびRugerなどいくつかの供給者により販売されている。ポリオキシエチレン脂肪酸エステルの中には、短アルキル鎖を有するものも包含される。そのような界面活性剤の一例は、BASF Aktiengesellschaft製のSOLUTOL(登録商標)HS15、ポリエチレン−660−ヒドロキシステアレートである。
【0117】
表面活性生体分子としては、アルブミン、カゼイン、ヘパリン、ヒルジン、ヘタスターチまたは他の適切な生体適合剤などの分子が挙げられる。
【0118】
好ましい一例では、水性相は、表面活性化合物としてタンパク質を含む。好ましいタンパク質はアルブミンである。タンパク質は、賦形剤として機能してもよい。タンパク質が表面活性化合物でない実施形態では、乳化プロセスの前または後のいずれかで加える形で、エマルション中に他の賦形剤を含ませてもよい。適当な賦形剤としては、糖類、二糖および糖アルコールが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい二糖はショ糖であり、好ましい糖アルコールはマンニトールである。
【0119】
加えて、ポリエチレングリコール(PEG)などのチャネリング剤を使用すると、最終製品の水通過速度を増加させることができ、その結果、マトリックスからの活性剤の初期放出動態、ならびに、水和速度を変化させることによるマトリックスの分解速度および分解依存性の放出動態の変化がもたらされる。カプセル化中にチャネリング剤としてPEGを使用することは、PEGを相分離促進剤として使用する小球形粒子の作製中の洗浄プロセスの一部が除かれるという点で有利な場合がある。加えて、緩衝液の使用により連続相のpHを変化させると、粒子表面と有機相との間のぬれ過程を著しく増加させることができ、それにより、結果として、微小カプセル化粒子のマトリックスからの封入された治療剤の初期バーストが著しく減少する。連続相の特性は、例えば、NaClなどの塩を加えて2相の混和性を低下させることでその塩分を増加させることによっても変化させることができる。
【0120】
小球形粒子を有機相(油相)中に分散させた後、次いで、例えば、ホモジナイズまたは超音波処理により水性媒体の連続相(水相)を有機相の不連続相と激しく混合して、未成熟な微小カプセル化粒子の乳化液滴を含有するエマルションを形成する。乳化液滴からの有機溶媒の急速な抽出を最低限にするために、水性相と有機相との混合に先立ち、有機相中で使用する有機溶媒で連続水性相を飽和させてもよい。乳化プロセスは、混合物がその液体特性を維持できる任意の温度で実施できる。エマルションの安定性は、有機相中もしくは水性相中の、または、乳化プロセス後に表面活性化合物をエマルションに加える場合にはエマルション中の表面活性化合物の濃度の関数である。これは、エマルション系(未成熟な微小カプセル化粒子)の液滴サイズ、ならびに、微小カプセル化粒子のサイズおよびサイズ分布を決定する因子の1つである。微小カプセル化粒子のサイズ分布に影響する他の因子は、連続相の粘稠性、不連続相の粘稠性、乳化中のせん断力、表面活性化合物の種類および濃度、ならびに油/水比率である。
【0121】
乳化後、次にエマルションを硬化媒体中に移す。硬化媒体は、未成熟な微小カプセル化粒子から不連続相中の溶媒を抽出し、その結果、乳化液滴の近傍内の予め作製された小球形粒子周囲に固体のポリマーマトリックスを有する固体の微小カプセル化粒子が形成される。O/W系またはS/O/W系の実施形態では、硬化媒体は水性媒体であり、これは表面活性化合物または増粘剤または他の賦形剤を含有してもよい。微小カプセル化粒子は、好ましくは球形であり、粒子サイズは約0.6から約300μm、より好ましくは約0.8から約60μmである。加えて、この微小カプセル化粒子は、好ましくは狭い粒子サイズ分布を有する。不連続相の抽出時間を短縮するために、硬化媒体を加熱または減圧してもよい。未成熟な微小カプセル化粒子からの不連続相の抽出速度は、最終的な固体の微小カプセル化粒子中の多孔度における重要な因子であり、これは、例えば、蒸発(沸騰効果)により不連続相を急速に除去すると、結果としてマトリックスの連続性が破壊されるためである。
【0122】
好ましい一実施形態では、乳化プロセスは、バッチプロセスではなく連続した形で実施する。図22は、連続式乳化反応器のデザインを示すものである。
【0123】
別の好ましい実施形態では、活性剤の小球形粒子を封入している硬化した壁形成ポリマーマトリックスを、遠心分離および/またはろ過(ダイアフィルトレーションなど)によりさらに回収し、水で洗浄する。残った液相は、凍結乾燥または蒸発などのプロセスによりさらに除去できる。
【0124】
肺送達用のインスリン製剤:好ましい例示的な実施形態
インスリンまたはインスリン類似体(天然に存在する、合成の、半合成の、および組換えのものを含む)は、本出願の方法および組成物による使用にとってとりわけ好ましいタンパク質である。本明細書で使用する場合、「インスリン」は、ウシ、ブタまたはヒトのインスリンなど、その配列および構造が当技術分野で公知の哺乳動物のインスリンおよびその固体(例えば、ナトリウムインスリン、亜鉛インスリン)を指す。ヒトインスリンのアミノ酸配列および空間構造は周知である。ヒトインスリンは、ジスルフィド結合により架橋された21個のアミノ酸のA鎖と30個のアミノ酸のB鎖とで構成されている。正しく架橋されたヒトインスリンは、3つのジスルフィド橋を含有する:1つはA鎖の7位とB鎖の7位との間、2番目はA鎖の20位とB鎖の19位との間、3番目はA鎖の6位と11位との間。
【0125】
用語「インスリン類似体」は、ヒトインスリンのA鎖およびB鎖とそれぞれ実質的に同じアミノ酸配列を有するA鎖およびB鎖を有するが、インスリン類似体のインスリン活性を壊さない、1つもしくは複数のアミノ酸欠失、1つもしくは複数のアミノ酸置換、および/または1つもしくは複数のアミノ酸付加を有する点で、ヒトインスリンのA鎖およびB鎖とは異なるタンパク質を意味する。
【0126】
インスリン類似体の一種「モノマーインスリン類似体」は、当技術分野では周知である。報告によれば、これらは速効性のヒトインスリン類似体であり、このような類似体としては、例えば、a)B28位のアミノ酸残基がAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaで置換されており、B29位のアミノ酸残基がLysまたはProである;b)B28位、B29位およびB30位のアミノ酸残基が欠失している;またはc)B27位のアミノ酸残基が欠失している、モノマーインスリン類似体が挙げられる。好ましいモノマーインスリン類似体は、ASpBB28である。さらにより好ましいモノマーインスリン類似体は、LysB28ProB29である。
【0127】
モノマーインスリン類似体は、Chanceら、米国特許第5,514,646号;Chanceら、米国特許出願第08/255,297号;Bremsら、ProteinEngineering、5巻、527〜533頁(1992);Brangeら、EPO公開第214,826号(1987年3月18日公開);およびBrangeら、CurrentOpinion in Structural Biology、1巻、934〜940頁(1991)において開示されている。これらの開示内容は、モノマーインスリン類似体を説明するために、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0128】
インスリン類似体は、アミド化されたアミノ酸が酸性形態のもので置換されていてもよい。例えば、AsnがAspまたはGluで置換されていてもよい。同様に、GlnがAspまたはGluで置換されていてもよい。とりわけ、Asn(A18)、Asn(A21)もしくはAsp(B3)、またはそれら残基の任意の組合せが、AspまたはGluで置換されていてもよい。さらに、Gln(A15)またはGln(B4)またはその両方が、AspまたはGluのいずれかで置換されていてもよい。
【0129】
好ましくは、このインスリンミクロスフェアは、該ミクロスフェアの少なくとも約90重量%のインスリン、少なくとも約91重量%、少なくとも約92重量%、少なくとも約93重量%、少なくとも約94重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約96重量%、少なくとも約97重量%、少なくとも約98重量%のインスリン、または少なくとも約99%および最大100%を含む。特に好ましい実施形態では、このインスリンミクロスフェアから放出されるインスリンは、溶液中で溶解された出発段階のインスリン(そのような溶解されたインスリンの例は、上で論じてきた)と区別できない構造(例えば、化学的および/または立体配座的な)および/または機能(例えば生物活性)を有する。
【0130】
ミクロスフェアを構成するタンパク質とは異なる分子を、当業者に公知の方法により該ミクロスフェアの外表面に付着させて、ミクロスフェアを「コーティング」または「装飾」してもよい。ミクロスフェアは、その外表面に付着される分子を有することができる。このような分子は、標的化を容易にする、受容体の媒介を促進する、および、エンドサイトーシスまたは破壊から逃れることを可能にする、および、その放出動態を変えるなどの目的のために付着させる。例えば、循環中での分解を防止し、および/または生体膜との相互作用、エンドソームによるエンドサイトーシスを促進または阻害するために、リン脂質などの生体分子をミクロスフェアの表面に付着させてもよく;体の所望の器官、組織または細胞へのミクロスフェアの標的化を促進または容易にするために、受容体、抗体またはホルモンを表面に付着させてもよく;ならびに、マクロファージによる取込を促進または回避するために、グルカンなどの多糖、または、ポリビニルピロリドンおよびPEGなど他のポリマーをミクロスフェアの外表面に付着させてもよい。
【0131】
加えて、1つまたは複数の切断可能な、侵食性の、または溶解性の分子をミクロスフェアの外表面または内部に付着させてもよい。切断可能な分子は、ミクロスフェアが適切な生物学的条件下で所定の部位にまず標的化されてから、pH変化などの生物学的条件の変化にさらされた際に、該分子が切断されることにより標的部位からのミクロスフェアの放出がもたらされるように設計される。このようにして、ミクロスフェアの表面に付着した分子の存在により、ミクロスフェアは細胞に付着するか、細胞により取り込まれる。この分子が切断されると、ミクロスフェアは、細胞の細胞質または核内など所望の位置に留まり、遊離状態になって、ミクロスフェアを構成するタンパク質を放出する。このことは、治療を必要とする特定の部位に標的化される薬物をミクロスフェアが含有する場合の薬物送達にとってとりわけ有用であり、薬物を当該部位でゆっくり放出することができる。
【0132】
加えて、このインスリンミクロスフェアは、脂肪酸、脂質またはポリマーなどの化合物で共有結合的または非共有結合的にコーティングできる。このコーティングは、可溶化したコーティング物質中での浸漬、該物質でのミクロスフェアの噴霧、または、当業者に周知の他の方法によりミクロスフェアに施用してもよい。
【0133】
例示的な肺用組成物は、インスリン微小粒子(例えばインスリンミクロスフェア)を噴射剤(例えばヒドロフルオロアルカン噴射剤)と接触させて懸濁液を形成し、その後、噴射剤中に微小粒子を懸濁させるのに十分な時間をかけて懸濁液を撹拌することにより調製される。好ましくは、この組成物は、インスリンミクロスフェアが撹拌後、懸濁液中に最低10秒から10分、好ましくは少なくとも1から10時間、より好ましくは少なくとも1から7日留まることを特徴とする。
【0134】
好ましい実施形態では、この肺用組成物のρ微小粒子対ρ噴射剤の密度比は、0.05から30の範囲、より好ましくは0.5から3.0の範囲である。この密度比については、追ってさらに詳細に記載する。この実施形態は、界面活性剤を場合により含有する。好ましくは、噴射剤は、HFA P134a、HFA P227などのHFA(ヒドロフルオロアルカン)噴射剤、または、様々な噴射剤のブレンドである。
【0135】
本明細書で開示する肺用製剤中には界面活性剤が含まれないことが好ましいが、必要に応じ界面活性剤を加えることができる。本明細書で使用する場合、界面活性剤は、水と有機ポリマー溶液との間の界面、水/空気の界面、有機溶媒/空気の界面、または微小粒子/噴射剤の界面など、非混和性の2つの相の間の界面に優先的に吸着する作用剤を指す専門用語である。
【0136】
界面活性剤は、ミクロスフェアへの吸収時に、同じようにコーティングされた粒子を引き付けない部分を外部環境へ提示する傾向を有することで粒子凝集を減らすような、親水性部分および親油性部分を一般に有する。界面活性剤は、治療剤または診断剤の吸収を促進し、薬剤のバイオアベイラビリティを高めることもできる。
【0137】
当技術分野で公知の、合成の、または天然に存在する界面活性剤としては、ホスホグリセリドが挙げられる。例示的なホスホグリセリドとしては、天然に存在する界面活性剤であるL−αホスファチジルコリンジパルミトイル(「DPPC」)などのホスファチジルコリンが挙げられる。肺に内在する界面活性剤を使用すると、非生理学的な界面活性剤を使用する必要性を回避できる。他の例示的な界面活性剤としては、ジホスファチジルグリセロール(DPPG);ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリエチレングリコール(PEG)およびその誘導体;ポリビニルピロリドン(PVP)およびその誘導体;ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル;パルミチン酸またはオレイン酸などの表面活性脂肪酸;三オレイン酸ソルビタン(Span85);グリココレート;サーファクチン;ポロキサマー;三オレイン酸ソルビタンなどのソルビタン脂肪酸エステル;チロキサポールおよびリン脂質;および、オクチルグルコシドなどのアルキル化糖が挙げられる。
【0138】
インスリン微小粒子の肺用調製物を調製する一方法は、以下を含む:1)公知の密度ρ噴射剤(例えばρヒドロフルオロアルカン)を有するヒドロフルオロアルカン噴射剤などの噴射剤を選択すること、2)微小粒子密度ρ微小粒子(例えばρミクロスフェア)を有するインスリン微小粒子(例えばインスリンミクロスフェア)を、ρ微小粒子対ρ噴射剤の比率が0.05から30の範囲、より好ましくは0.5から3.0の範囲であるように選択すること、および3)複数のミクロスフェアを噴射剤と接触させて、肺用調製物を形成すること。好ましくは、噴射剤は、HFA P134a、HFA P227などのHFA噴射剤、または、これらの噴射剤のブレンドである。様々な実施形態では、この組成物は、好ましくは界面活性剤を含まない。
【0139】
本明細書で使用する場合、用語「ρ噴射剤」は、噴射剤の密度を指す。一般に、このような市販の作用剤については、そのような密度は公表されている。同様に、語句「ミクロスフェア密度、ρミクロスフェア」は、ミクロスフェアの密度を指す。ミクロスフェア密度の値は、市販のミクロスフェアについては公表されており、および/または、当業者に公知の標準的な方法により定量できる。したがって、ミクロスフェアの密度は、上で規定した範囲内に収まる比率を有するように、上で論じた要領で選択される。好ましくは、ヒドロフルオロアルカン噴射剤は、HFA P134a、HFA P227などのHFAρ噴射剤、または、これらの噴射剤のブレンドである。ある好ましい実施形態では、この組成物は界面活性剤を含まない。
【0140】
小球形インスリン粒子組成物を対象の肺系に投与する方法が提供される。この方法は、治療を必要とする対象の気道に、病態を治療するための有効量の組成物を投与することを含む。
【0141】
好ましい一実施形態では、球形インスリン粒子は、循環インスリンタンパク質濃度を増加させるため、および/または、循環グルコースレベルを下げるための用量的に有効な様式で、吸入により投与する。そのような投与は、糖尿病または高血糖症などの障害を治療するために有効である可能性がある。インスリンの有効用量を達成することは、約0.5μg/kg超から約500μg/kgのインスリン、好ましくは約3μg/kgから約50μg/kg、最も好ましくは約7μg/kgから約25μg/kgの吸入用量の投与が必要である。治療上有効量は知識の豊富な専門医が決定でき、そのような専門医であれば、インスリンレベル、血糖値、患者の身体状態、患者の肺状態などを含む要因を考慮するであろう。
【0142】
球形インスリン粒子を吸入により送達して、このタンパク質の、急速な溶解および吸収、または持続放出による緩慢な吸収のいずれかまたは両方を達成する。吸入による投与の結果、インスリンの皮下投与に匹敵するか、またはそれに勝る薬物動態をもたらすことができる。本明細書で開示する球形インスリン粒子の吸入により、循環インスリンレベルの急速な上昇と、それに次ぐ血糖値の急速な降下がもたらされる。同様の粒子サイズおよび同様の肺堆積濃度を比較した場合、吸入器具が異なっても、同様の薬物動態が典型的にもたらされる。
【0143】
球形インスリン粒子は、吸入による治療剤投与用の当技術分野で公知の様々な吸入器具のいずれかにより送達させることができる。このような器具としては、定量噴霧式吸入器、ネブライザー、乾燥粉末発生器、噴霧器などが挙げられる。球形インスリン粒子を投与するための吸入器具には、いくつか望ましい特徴がある。例えば、吸入器具による送達は、有利なことに、信頼性があり、再現性があり、正確である。吸入器具は、良好に呼吸できるように、例えば約10μm未満、好ましくは約0.2〜5μmの小さなミクロスフェアを送達しなければならない。市販の吸入器具のいくつかの具体例は、Turbuhaler(商標)(Astra、Wilmington、Del.)、Rotahaler(登録商標)(Glaxo、Research Triangle Park、N.C.)、Diskus(登録商標)(Glaxo、Research Triangle Park、N.C.)、Spiros(商標)吸入器(Dura、San Diego、Calif.)、Inhale Therapeuticsにより販売されている器具(San Carlos、Calif.)、AERx(商標)(Aradigm、Hayward、Calif.)、Ultravent(登録商標)ネブライザー(Mallinckrodt、Hazelwood、Mo.)、Acorn II(登録商標)ネブライザー(Marquest Medical Products、Totowa、N.J.)、Ventolin(登録商標)定量噴霧式吸入器(Glaxo、Research Triangle Park、N.C.)、Spinhaler(登録商標)粉末吸入器(Aventis、Bridgewater、N.J.)、および、Bespak(London、UK)、3M(Minneapolis、Minn.)、Valois(フランス)により供給されている定量噴霧式吸入器などである。
【0144】
吸入器具により送達される製剤中のインスリンミクロスフェアは、全身投与に向けてタンパク質が肺中、好ましくは下気道または肺胞の中に進む能力に影響する。好ましくは、インスリンミクロスフェアは、送達されるインスリンの少なくとも約10%から40%、好ましくは約40%から約50%または超、より好ましくは70%から80%または超が肺中に堆積されるように製剤される。口で呼吸するヒトにとっての肺堆積の最大効率は、空気力学的直径が約0.1μmから約10μmの粒子の場合に得られることが知られている。空気力学的直径が約5μmを超える場合、肺堆積は実質的に減少する。したがって、吸入により送達されるインスリンのミクロスフェアの空気力学的直径は、好ましくは約10μm未満、より好ましくは約0.1μmから約5μmの範囲、最も好ましくは約0.1μmから約3μmの範囲である。インスリンミクロスフェアの製剤は、選んだ吸入器具において所望の空気力学的直径が得られるように選択する。
【0145】
吸入により投与するためのインスリン製剤は、本明細書で開示するインスリンミクロスフェア、および、場合により、増量剤、界面活性剤、担体、賦形剤、別の添加物などを典型的に含む。添加物は、例えば、吸入による送達のために必要に応じてミクロスフェアを希釈するため、製剤の加工を容易にするため、製剤に有利な特性を与えるため、吸入器具からの製剤の分散を容易にするため、製剤を安定化させるため(例えば、抗酸化剤または緩衝液)、製剤に味を付けるためなどに、インスリンミクロスフェア製剤中に含ませることができる。このインスリンミクロスフェアは、分子レベルで添加物と混合でき、または、固体製剤は、添加物の粒子と混合された、または該粒子上にコーティングされたインスリンミクロスフェアを含むことができる。典型的な添加物としては、単糖、二糖および多糖;例えば、乳糖、グルコース、ラフィノース、メレチトース、ラクチトール、マルチトール、トレハロース、ショ糖、マンニトール、デンプン、またはその組合せなどの糖アルコールおよび他のポリオール;ソルビトール、ジホスファチジルコリンまたはレシチンなどの界面活性剤などが挙げられる。製剤中で使用する場合、添加物は、上述の目的にとって有効な量で、多くの場合、製剤の約0.1重量%から約90重量%の量で存在する。タンパク質製剤用の当技術分野で公知の添加剤を製剤中に含ませてもよい。
【0146】
吸入によるインスリンミクロスフェア製剤の投与は、糖尿病の治療にとって好ましい方法である。本出願の方法では、このインスリンミクロスフェア組成物は経口吸入により送達でき、咳または息切れを生じさせないことが見出されている。加えて、この方法および組成物により送達されるインスリンのバイオアベイラビリティは、他の方法により見られるものより高い。31%もの高いバイオアベイラビリティが観察され、平均のバイオアベイラビリティは12%であった。特定の理論または作用機序に拘束されているものではないが、本発明において製剤された小球形インスリン粒子組成物の空気力学的特性は、溶解されたインスリンが容易に吸収される主要な部位である肺深部へのより高率(%)の粉末質量の到達にとって好都合であると考えられる。さらに、この組成物の肺投与に伴う肺中への球形インスリン粒子の堆積率は、予想より高かった。
【0147】
インスリンミクロスフェアを含むスプレーは、噴射剤または他の液体懸濁化剤中に懸濁させたインスリンミクロスフェアの懸濁液を、圧力下でノズルを通して押し出すことにより作製できる。ノズルのサイズおよび構成、加えられる圧力および液体送出速度は、当業者に公知の任意の吸入器具を用いて所望の出力および液滴サイズを達成するように選ぶことができる。例えば、毛細管またはノズルの供給口と連結した電場により、電気スプレーまたは圧電スプレーを作製できる。有利には、噴霧器により送達されるインスリンミクロスフェアの粒子サイズは、約10μm未満、好ましくは約0.1μmから約5μmの範囲、最も好ましくは約0.1μmから約3μmである。
【0148】
ネブライザーを用いた使用に適したインスリンミクロスフェア製剤は、懸濁液1ml当たりインスリン約1mgから約20mgの濃度のミクロスフェアの水性懸濁液を典型的に含む。この製剤は、賦形剤、緩衝液、等張剤、保存剤、界面活性剤、ポリマー(例えばポリエチレングリコール)、および、亜鉛またはカルシウムなどの金属のイオンなどの作用剤を含んでもよい。さらに、この製剤は、賦形剤、または、ミクロスフェアおよび/またはその中のインスリンを安定化させるための作用剤(緩衝液、還元剤、バルクタンパク質または炭水化物など)を含んでもよい。インスリンを製剤するうえで有用なバルクタンパク質としては、アルブミン、プロタミンなどが挙げられる。インスリンを製剤するうえで有用な典型的な炭水化物としては、ショ糖、マンニトール、乳糖、トレハロース、グルコースなどが挙げられる。一般に、このインスリンミクロスフェア製剤は界面活性剤を含有しないが、その理由は、このインスリンミクロスフェアは凝集する傾向がないからである。
【0149】
インスリンミクロスフェアは、ジェットネブライザーまたは超音波ネブライザーなどのネブライザーにより投与できる。典型的に、ジェットネブライザーでは、圧縮された空気源を用いて、開口部を通して高速の空気ジェットを作り出す。ガスがノズルを超えて膨張すると低圧領域が作り出され、これにより、液体貯留部に接続された毛細管を通してインスリンミクロスフェアの懸濁液が引き込まれる.毛細管からの液体の流れは、管を出る際にせん断されて不安定な細糸および液滴となり、エアロゾルが作り出される。所与のジェットネブライザーから所望の性能特徴を得られるように、様々な構成、流速および整流装置の種類を採用できる。超音波ネブライザーでは、典型的には圧電変換器の採用により、高周波電気エネルギーを用いて機械的振動エネルギーを作り出す。このエネルギーが、直接か、またはカップリング流体を介するかのいずれかでインスリンミクロスフェア製剤に伝わり、インスリンミクロスフェアを含むエアロゾルが作り出される。有利には、ネブライザーにより送達されるインスリンミクロスフェアの粒子サイズは、約10μm未満、好ましくは約0.1μmから約5μmの範囲、最も好ましくは約0.1μmから約3μmである。
【0150】
ジェット式または超音波式いずれかのネブライザーを用いた使用に適したインスリンミクロスフェア製剤は、懸濁液中にインスリンミクロスフェアを、懸濁液1ml当たりインスリン約1mgから約20mgの濃度で典型的に含む。この製剤は、上述のもの(例えば、賦形剤、緩衝液他)などの添加剤を含んでもよい。
【0151】
定量噴霧式吸入器(MDI)では、噴射剤、インスリンミクロスフェアおよび任意の賦形剤または他の添加物が、液化圧縮ガスを含む混合物として小容器中に含有される。計量弁が作動すると、約10μm未満、好ましくは約0.1μmから約5μm、最も好ましくは約0.1μmから約3μmのサイズ範囲のミクロスフェアを好ましくは含有するエアロゾルとしてのこの混合物が放出される。所望のミクロスフェアサイズは、本明細書で開示する方法により作製されるインスリン製剤を採用することによって得ることができる。好ましい定量噴霧式吸入器としては、Bespak、Valois、3MまたはGlaxoにより製造され噴射剤を採用しているものが挙げられる。
【0152】
定量噴霧式吸入器具を用いて使用するためのインスリンミクロスフェア製剤は、一般には、非水性媒体中の懸濁液として(例えば噴射剤中に懸濁されて)ミクロスフェアを含むことになろう。一般に界面活性剤は必要ではないが、その理由は、本明細書で開示するインスリンミクロスフェアは一定のサイズを有しており、凝集する傾向がないからである。噴射剤は、トリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタノールなどのクロロフルオロカーボン;および、HFA P134a(1,1,1,2−テトラフルオロエタン)、HFA P227(1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン−227)などのヒドロフルオロアルカン;または有用な他の任意の噴射剤など、この目的のために採用される従来の任意の材料であってもよい。好ましくは、噴射剤はヒドロフルオロアルカンである。インスリンなどのタンパク質製剤用の当技術分野で公知の添加剤を製剤中に含んでもよい。
【0153】
本明細書で開示する小球形粒子と共に使用するための乾燥粉末ディスペンサーとしては、単位用量乾燥粉末吸入器(UDPI)、貯留部式乾燥粉末吸入器(RDPI)、および複数回用量式乾燥粉末吸入器(MDPI)が挙げられる。UDPIでは、粉末が充填された保持部材の各単位が、決まった単回用量の粉末を、含有するか、または他の形で保持する。RDPIでは、貯留部が複数回(未計量の)用量の粉末を、含有するか、または他の形で保持し、作動時に貯留部から用量分の粉末を計量するための手段を備える。計量手段としては、例えば、貯留部から送られる粉末をカップに充填する第1の位置から、計量された用量の粉末が分配される第2の位置へ移動可能な計量カップが挙げられる。MDPIでは、粉末が充填された保持部材の各単位が、複数回分の決まった用量の粉末を、含有するか、または他の形で保持する。
【0154】
DPIは、患者コンプライアンスを向上させた最初の呼吸作動式吸入器である。DPIは、作動と吸入との連動を容易にし、それにより吸入療法においてMDIに勝る代替品となっている。DPI器具の共通の特徴としては、充填された保持部材を開封する(例えば、穿刺する、カットする、穴を開ける、またははがす)ための手段、充填された保持部材を置くための空間(例えば、カップが移動するため、またはカップをしっかり固定するための場所を有する隙間または室)、対象がそれを通して吸入するマウスピース、および、場合により、保持部材が吸入されるのを防止するための格子が挙げられる。簡単なDPIは、肺中の作用部位および/または吸収部位への活性剤の送達において有効であることが示されている。単独のDPI器具の非限定的な例としては、Spinhaler(登録商標)(Fisons、UK)、Cyclohaler(商標)(Pharmachemie、Haarlem、オランダ)、Handihaler(登録商標)(Boehringer Ingelheim)、Floradil(登録商標)DPI(Novatis)などの穿刺型、カット型、Flowcaps(登録商標)(Hovione)およびEclipse(商標)(Aventis)、ならびに、Rotohaler(登録商標)(GSK)などの加圧型が挙げられる。
【0155】
DPIを用いた使用に適した小球形粒子製剤は、本明細書で開示するものなど、球形インスリン粒子を含有する流動性および分散性の粉末を典型的に含む。この粉末製剤は、DPI器具の作動時に保持部材から粉末を出させるメカニズムを備えたDPI器具の筺体中に配置されるように設計された1つまたは複数の保持部材中に入れられる。保持部材の非限定的な例としては、カプセル、ブリスター、カートリッジ、または、プリント、ペイントおよび真空閉鎖など適当な任意のプロセスにより粉末がその上に施用される基板が挙げられ、このような保持部材は、単独で、または、複数回分が小分けされたものがマガジンもしくはカートリッジもしくはアレイもしくは他のパッケージ(例えば、細片もしくはテープのような細長い形態、または、円盤型の基板上の円のような曲線状の形態)中に入った状態で供給される。好ましい保持部材は、穿刺され、カットされ、穴を開けられ、またははがされ、または他の形で、脱落片を生じることなく、開口部は再度閉じたり妨害されたりすることなく開口されたままの状態できれいに開封し、粘着および摩擦帯電により最低限の保持力で粉末をきれいに空け、充填された粉末との最低限の相互作用を有し、水分レベルの変化に耐え(特に、10%から5%またはさらには1%以下に至る低い水分レベルを有する)、および/または、充填された粉末に対し水分バリアとして機能し、微生物の侵入および増殖を防ぎ(例えば、成型中の紫外線照射により)、および、厳格な重量公差を有する(例えば、ミリグラム単位で1桁台)ことができ、および/または、充填における変動を減らすように、充填された粉末より軽いものであってもよい。
【0156】
成型により典型的に形成されるカプセルの非限定的な例としては、穿刺またはカットされることでその中身を放出できる2ピース型(本体とカップとを有する)のハードカプセルが挙げられる。このカプセルは、透明、半透明、不透明または色の着いたものであってもよい。粘稠性があり柔軟で透明なプラスチック、または、脆いフィルムタイプの材料(例えば箔紙)のいずれかで作られた空洞を有し、それを覆って脆いフィルムタイプの材料(例えば箔紙)をラミネートする熱成型により典型的に形成されるブリスターの非限定的な例としては、箔の空洞を覆って箔で密封されたもの、および、プラスチックの空洞を覆って箔で密封されたものが挙げられる。非限定的な天然または合成の材料としては、以下が挙げられる:ゼラチンブレンド(典型的に水および着色料を伴う)、セルロース、セルロースベースのポリマー(例えば、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、要するにヒプロメロース)、エステル化されたHPMC、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS))、ビニルポリマー(例えば、酢酸フタル酸ポリビニル(PVAP)、Aclar(登録商標)、PVC(登録商標))、アクリルポリマー(例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸のコポリマー)、ヒプロメロース。低含水量の保持部材としては、HPMCおよびその誘導体で作製されたもの(例えば、Capsugel製のVcaps(商標)およびシオノギクオリカプス製のQuali−V(登録商標))など、含水量が5〜8%または4〜6%以下のものが挙げられる。
【0157】
当業者には、本明細書で開示する使用の方法は、本明細書に記載されない他の適当な器具によるインスリンミクロスフェアの肺投与によって達成できることは理解されよう。
【0158】
一方法は、本明細書で開示する治療上有効量のインスリンミクロスフェア組成物を含有する1回または複数回分の治療用量を肺送達器具中に分散させることを含む。本明細書で使用する場合、「治療上有効量」は、治療対象の特定の病態の発症を遅らせ、その進行を阻害し、またはそれを緩和するために必要な活性剤の当該量を指す。一般に、治療上有効量は、対象の年齢、病態および性別、ならびに、対象における疾患の性質および程度に伴って変化すると考えられるが、それらは全て当業者により決定できる。投薬量は、とりわけ、何らかの合併症の事象がある場合には、個々の医師または獣医により調節してもよい。活性剤の治療上有効量は、典型的には、毎日、1日または複数日間、週1回、月1回、2または3ヶ月ごとなどでの1回または複数回分の用量投与で1pg/kgから約1000mg/kg、好ましくは約1μg/kgから約200mg/kg、最も好ましくは約0.1mg/kgから約20mg/kgと、様々である。
【0159】
このインスリンミクロスフェアは、単独で、または、医薬組成物の一部として他の薬物療法と組み合わせて投与してもよい。そのような医薬組成物は、生理学上および/または薬学上許容される当技術分野で公知の標準的な任意の担体と組み合わせてインスリンミクロスフェアを含んでいてもよい。このような組成物は、滅菌されていてもよく、治療上有効量のミクロスフェアを、患者への投与に適した重量または体積の単位で含有してもよい。用語「薬学上許容される担体」は、本明細書で使用する場合、ヒトまたは他の動物の体内への投与に適した1つまたは複数の適合性の固体または液体充填剤、希釈剤またはカプセル化物質を意味する。用語「担体」は、有機または無機の原料、天然または合成のものを表し、施用を容易にするために活性原料をこのような担体と組み合わせる。医薬組成物の成分は、所望の薬学上の有効性を実質的に損なうと考えられる相互作用が存在しないような様式で、本明細書で開示する分子と共に、およびそうした成分同士で混合することもできる。薬学上許容される、とは、細胞、細胞培養物、組織または生物などの生体系と適合性の非毒性材料をさらに意味する。担体の特徴は、投与経路に依存することになる。生理学上および薬学上許容される担体としては、希釈剤、充填剤、塩、緩衝液、安定化剤、乾燥剤、増量剤、噴射剤、酸性化剤、コーティング剤、可溶化剤および当技術分野で周知の他の材料が挙げられる。経口、皮下、静脈内、筋肉内などの投与に適した担体の製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co.、Easton、Pa.で見つけることができる。
【0160】
本明細書では、1回または複数回分の用量のインスリンミクロスフェアを含有する容器を備える多様な医薬組成物が提供される。単回用量中のミクロスフェアの数は、各ミクロスフェア中に存在する活性剤の量、および、放出にかけることが望ましい期間に依存する。好ましくは、単回用量は、所望の放出プロファイルを有し、0.1時間から96時間の期間にわたる活性剤の放出の持続時間を達成するように選択される。
【0161】
一方法は、肺送達器具を用いて使用するためのパッケージ中に、本明細書で開示する治療上有効量のインスリンミクロスフェアを含有する1回または複数回分の治療用インスリン用量を分散させることを含む。
【0162】
パッケージは、哺乳動物、好ましくはヒトの肺中へのin vivoでの活性剤の放出により例えば糖尿病を治療するための、1回または2回または3回以上から最大500回分の間の治療用量のインスリンミクロスフェアを好ましくは含有する。単回用量中に存在するミクロスフェアの数は、活性剤の種類および活性に依存する。好ましくは、単回用量は、特定の病状を治療するために最適化されている期間にわたる放出が達成されるように選択される。
【0163】
パッケージは、その中身を肺送達器具に送達するための容器の使用についての説明書、および、場合により、製造者の説明書による吸入器具の使用についての追加的な説明書を好ましくは備える。
【0164】
この肺用インスリン医薬組成物は、便利なように単位剤形(例えばカプセル)の形で提供されてもよく、製薬分野で周知の方法のいずれかにより調製してもよい。全ての方法は、ミクロスフェアを、1つまたは複数の副原料を構成する担体と会合させるステップを含んでも含まなくてもよい。この組成物は、ミクロスフェアを、液体担体、細かく分割された固体担体、またはその両方と均一および密接に会合させてから、必要に応じて製品を成形することにより調製してもよい。
【実施例】
【0165】
A.小球形インスリン粒子
(実施例1)
小球形インスリン粒子の一般的な調製方法
16.67%PEG3350を含む、pH5.65(酢酸ナトリウム緩衝液0.033M)に緩衝した溶液を調製した。撹拌しながら、この溶液に結晶性インスリン亜鉛の濃縮スラリーを加えた。最終溶液におけるインスリンレベルは0.83mg/mLであった。溶液を約85℃から90℃に加熱した。インスリン結晶は、5分以内にこの温度範囲において完全に溶解した。溶液の温度を制御した速度で低下させると、約60℃で小球形インスリン粒子が形成し始めた。PEG濃度が上昇すると収率は増大した。このプロセスにより、平均1.4μmの様々なサイズ分布を有する小球形粒子が生じる。
【0166】
小球形粒子が溶解しない条件下でダイアフィルトレーションによってミクロスフェアを洗浄することによって、形成した小球形インスリン粒子を、PEGから分離した。小球形インスリン粒子を、Zn2+を含む水溶液を用いて懸濁液から洗い出した。Zn2+イオンは、インスリンの溶解性を低下させ、収率を低下させ、小球形粒子の凝集をもたらす溶解を防ぐ。
【0167】
(実施例2)小球形インスリン粒子を作製するための非撹拌バッチプロセス
結晶性インスリン亜鉛20.2mgを室温で脱イオン水1mLに懸濁した。0.5N HCl50μLをインスリンに加えた。脱イオン水1mLを加えて、結晶性インスリン亜鉛溶液10mg/mLを形成した。ポリエチレングリコール3350(Sigma)12.5gおよびポリビニルピロリドン(Sigma)12.5gを、100ミリモルの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.7)50mLに溶解した。ポリマー溶液の体積を、酢酸ナトリウム緩衝液で100mLに調整した。エッペンドルフチューブ中ポリマー溶液800μLに、10mg/mLインスリン溶液400μLを加えた。インスリン/ポリマー溶液は混合時に濁った。ポリマー溶液の代わりに水を用いて対照を調製した。エッペンドルフチューブを、90℃の水浴中30分間、混合または撹拌しないで加熱し、次いで取り出し、氷上に10分間配置した。インスリン/ポリマー溶液は90℃の水浴から取り出したときは澄明であったが、冷却すると濁り始めた。ポリマーなしの対照は、実験を通して澄明なままであった。粒子を、インスリン/ポリマーのチューブから遠心分離によって回収し、その後2回洗浄してポリマーを除去した。最終の水中懸濁液を凍結乾燥して乾燥粉末を得た。インスリン/ポリマーのチューブからの凍結乾燥粒子をSEM分析すると、直径約1μmの小球形粒子の均一な分布が示された。粒子のCoulter光散乱粒子サイズ分析により、平均粒子サイズ1.413μm、95%信頼限界0.941〜1.88μm、標準偏差0.241μmの、狭いサイズ分布が示された。ポリマーまたは洗浄のステップがないが他の点では同じ様式で処理加工および凍結乾燥したインスリンの対照では、SEM下では、タンパク質の凍結乾燥の後、典型的に得られたものと外観において同様である、薄片だけ(粒子なし)が示された。
【0168】
(実施例3)小球形インスリン粒子を作製するためのプロセスを通した連続流
インスリン36.5mgを量り、脱イオン水3mLに懸濁した。1N HCl30μLを加えてインスリンを溶解した。溶液の最終体積を、脱イオン水で3.65mLに調整した。次いで、PEG/PVP溶液7.3mL(25%PEG/PVP、100mM NaOAc緩衝液中pH5.6)をインスリン溶液に加えて、インスリン溶液の最終合計体積を10.95mLとした。次いで、溶液をボルテックスにかけて、インスリンおよびPEG/PVPの均質な懸濁液が生じた。
【0169】
インスリン懸濁液を、Teflon(登録商標)管(TFE{フラクション(1/32)}”内径の弾性管)を通して0.4mL/分の速度で運転しているBioRad蠕動ポンプに連結した。ポンプからの管を、90℃に維持している水浴中に沈め、その後氷に浸漬している回収チューブ中に挿入した。インスリン溶液の温度を水浴中約90℃から氷中の回収チューブ中約4℃に低下させると、小球形インスリン粒子が形成された。図5は、このプロセスの模式図である。プロセスに対する運転時間の合計は、体積10.95mLに対して35分であった。小球形粒子を回収した後、回収チューブをBeckmanJ6B遠心分離機において3000rpmで20分間遠心した。2回目の水洗を完了し、小球形粒子のペレットを2600rpmで15分間遠心した。最終の水洗浄液を、1500rpmで15分間遠心した。アリコートを粒子サイズ分析用に取り除いた。小球形粒子を−80℃で凍結し、2日間凍結乾燥した。
【0170】
粒子サイズは、Beckman Coulter LS230粒子計数器によって測定して、体積によって1.397μm、表面積によって1.119μm、および数によって0.691μmであると決定した。走査型電子顕微鏡は、均一サイズの非凝集の小球形インスリン粒子を示していた(図6)。
【0171】
短時間インスリン溶液を90℃に曝露するプロセスを通して連続流を使用すると、小球形粒子の生成が可能になった。この方法により、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定してタンパク質90%である最終組成物が生じた(図7)。HPLC分析は、溶出した小球形インスリン粒子の溶出時間は約4.74分であり、インスリン標準または天然のインスリン出発材料の溶出時間と大幅に違わないことも示しており、小球形粒子に作製した後もインスリンの生化学的な完全性は保存されることを示していた。
【0172】
(実施例4)小球形インスリン粒子を作製するための熱交換体バッチプロセス
ヒト結晶性インスリン亜鉛を、最小量の脱イオン水中に懸濁し、確実に完全に分散させるために超音波処理した。インスリン懸濁液を、最終溶質濃度が0.1M酢酸ナトリウム緩衝液中0.83%結晶性インスリン亜鉛、18.5%ポリエチレングリコール3350、0.7%塩化ナトリウムであるように、予め77℃に加熱した、撹拌し緩衝したポリマー溶液(25℃でpH5.65)に加えた。最初濁っていた混合液は、結晶性インスリンを溶解して3分以内に澄明になった。澄明になった直後、溶液を、熱交換器として用いたウォータージャケット付きガラス製のクロマトグラフィーカラム(カラム内径:25mm、長さ:600mm、Ace Glass Incorporated、Vineland、N.J.)に移した。ガラスカラムを垂直に位置づけ、熱交換体の液体はカラム底部の水ジャケットに入り、上部で出た。このシステムの熱交換の特性を記載するために、熱電対(Type J、Cole Parmer)を、カラム上部および底部のインスリン製剤液の中央に位置づけ、予備的な試運転の間、冷却温度のプロファイルを得た。熱電対を、外来の表面変数を導入しないように、この実験に対して行った6つのバッチの間、除去した。
【0173】
熱交換器を65℃に予め加熱し、インスリン−緩衝ポリマー溶液を、溶液温度が65℃未満に低下せず、気泡が溶液中に導入されないようなやり方で移した。澄明な溶液を4分間、熱交換器において65℃に平衡にした後、熱交換器の溶液を65℃の供給から15℃の供給に切り換えた。熱交換器におけるインスリンの形成を、20分間かけて15℃に平衡にした。温度が60℃から55℃に低下するときに小球形インスリン粒子が形成し、均一な、安定な、クリーム状の白色懸濁液がもたらされた。
【0174】
小球形インスリン粒子を、5容積の0.16%酢酸ナトリウム−0.026%塩化亜鉛緩衝液、pH7.0に対してダイアフィルトレーション(A/G Technologies、750,000MWCO限外ろ過カートリッジ)によってポリエチレングリコールから分離し、次いで元の体積の5分の1に濃縮した。小球形インスリン粒子の懸濁液を、5体積の脱イオン水に対してダイアフィルトレーションすることによってさらに洗浄し、その後凍結乾燥して水を除去した。ダイアフィルトレーションの間(膜表面上の粒子の極性の充填から)、および凍結乾燥の間(凍結前の小球形粒子の沈降から)小球形粒子の凝集を防ぐよう注意を払った。乾燥した小球形粒子は自由に流動し、すぐに使用でき、再凝集はなく、またはふるい分けを必要としなかった。
【0175】
小型球状インスリン粒子:上記したプロセスにより、賦形剤を添加せずに結晶性インスリン亜鉛から均一なサイズの球状インスリン粒子が生成される。本プロセスによって調製される小球形インスリン粒子は、飛行時間型測定装置(Aerosizer(商標))およびAndersen Cascade Impactorにより測定して優れた空気力学的特性があり、肺到達率が高く、単純な、広く用いられている乾燥粉末吸入薬(Cyclohaler(商標))から送達される場合、肺深部への送達を示す。モデルタンパク質としてインスリンを用いることにより、本発明者らは、確立されているU.S.P.の方法を用いてタンパク質の化学的な完全性に対するプロセスの効果を試験することもできる。
【0176】
乾燥粉末小球形インスリン粒子を、偏光顕微鏡(Leica EPISTAR(登録商標)、Buffalo、N.Y.)によって、および走査型電子顕微鏡(AMRAY1000、Bedford、Mass)で画像化した。粒子サイズの分析を、装置に粉末を導入するためのModel3230Aero−Disperser(登録商標)Dry Powder Disperser(TSI Incorporated、St.Paul、Minn)を含めたAerosizer(登録商標)Model3292 Particle Sizing Systemを用いて行った。個々の粒子サイズを、Aerosizerの結果を電子顕微鏡と比べることによって確認した。
【0177】
プロセス前後のインスリンの化学的な完全性を、ヒトインスリンに対するUSPのモノグラフ(USP26)に従ってHPLCによって測定した。インスリンおよび高分子量タンパク質の含量を、イソクラティックSEC HPLC法を用いて276nmのUV検出で測定した。インスリン、A−21デスアミドインスリン、および他のインスリン関連物質を測定するために、USPグラジエント逆相HPLC法を用いて試料を分析した。インスリン含量は214nmのUV検出を用いて測定する。高分子量タンパク質、デスアミドインスリン、および他のインスリン関連物質をアッセイして、プロセスによってもたらされるあらゆる化学的分解を定量した。
【0178】
小球形インスリン粒子の空気力学的特徴を、Aerosizer(登録商標)装置を用いて試験した。インスリン乾燥粉末に対するサイズ分布測定を、低度のずり応力、中程度の送出速度、および通常のデアグロメレーションで、AeroDisperserアタッチメントを用いて行った。装置のソフトウエアにより、飛行時間データがサイズに変換され、それが対数的に間隔をあけた範囲中に配置される。各サイズのビンにおいて検出された粒子数、および各サイズのビンにおいて検出された粒子の合計体積を統計学的分析に用いた。体積の分布は、大型の粒子が数の分布を超え、したがって非分散の粒子および大型の粒子の凝集を検出するのにより感度が高いことを強調するものである。
【0179】
Andersen Cascade Impacterの組み立て体は、プレセパレーター、9個のステージ、8個の回収プレート、およびバックアップフィルターからなっていた。ステージは、−1、−0、1、2、3、4、5、6、およびFと番号付けられている。ステージ−1は開口部ステージのみである。ステージFは、ステージ6に対する回収プレートおよびバックアップフィルターを含んでいる。ステンレススチール製回収プレートは、粒子の「跳ね返り」を防ぐために、食品グレードのシリコーンの薄層でコーティングされていた。サンプラーを通した試料の流れの空気流速度60LPMを分析に用いた。約10mgの試料サイズを正確に重量測定し、各デンプンカプセル(Vendor)中に量り入れ、粉末は4秒でCyclohalerからエアロゾルとして送達された。各プレート上に堆積したインスリン粉末の量を、ヒトインスリン用のUSP26のアッセイに従って、214nmの逆相HPLC検出によって測定した。
【0180】
空気動力学的粒径質量中央値(MMAD)を、累積の質量パーセント未満対有効なカットオフ直径(ECD)のプロビットの適合を用いてSigma Plotソフトウエアによって計算した。放出用量(ED)を、カスケードインパクター中に堆積したインスリンの観察された質量の合計として測定した。これは、Cyclohalerカプセル中に充填された小球形インスリン粒子の塊のパーセント値として表される。
【0181】
結果は、相転移の製剤と組み合わせてプロセスのパラメータを注意深く制御することにより、1)直径約2μmの、主に球形のインスリン粒子、2)単分散のサイズ分布、3)バッチごとの再現性ある空気力学的特性、および4)残留の水分を排除して95%以上のヒトインスリンから構成される小球形粒子が生成できることを実証している。本発明者らは、結晶性インスリン亜鉛の溶解性は、溶液の温度、pH、ポリマー濃度、およびイオン強度によって制御することができると決定した。本発明者らは、また、冷却速度を制御することで、狭いサイズ範囲内で主に球形のインスリン粒子を形成できることも見出した。
【0182】
出発のヒト結晶性インスリン亜鉛原材料のSEMは、不均一なサイズ、および粒子サイズ約5μmから40μmの結晶の形状を示すが、この実施例からのバッチの1つを撮影したSEM写真は、球形の形状および均一なサイズの小球形インスリン粒子を示している(図1b)。SEMが図示する粒子の形状およびサイズは、本実施例用に調製した他の5つのバッチの代表である。
【0183】
ダイアフィルトレーション洗浄および脱イオン水懸濁液からの凍結乾燥によって緩衝ポリマーから分離した後、乾燥粉末の小球形インスリン粒子は比較的自由に流動し、重量測定および取扱いが容易である。出発の結晶性インスリン亜鉛の原材料の水分含量が12%であるのに比べて、小球形インスリン粒子の水分含量は2.1%から4.4%の水分の範囲であった。HPLCによる小球形インスリン粒子の化学分析は、プロセスによるインスリンの化学的分解は非常に少なく(図2)、高分子量化合物の増大がないことを示していた。直径%、A21デスアミドインスリン%、後期溶出ピーク%、および他の化合物の%において(出発のインスリン原材料を凌ぐ)増大があったが、6個のバッチ全てに対する結果はUSP限界以内であった。インスリン効力の保持は、出発原材料に対する28.7IU/mgに比べて、28.3から29.9IU/mgであった。プロセスにおいて用いられたポリマー(ポリエチレングリコール)の残留レベルは、0.13%未満から検出不能であり、ポリマーは小球形インスリン粒子の重要な構成成分ではないことを示している。
【0184】
小球形インスリン粒子に対する空気力学的特性のバッチ間再現性
AerosizerおよびAndersen Cascade Impactorのデータが実証するように、生成された小球形インスリン粒子の6個の別々のバッチ間には、空気力学的特性に対して優れた再現性が存在した。6個のバッチ全てに対して、Aerosizerのデータは、粒子の99.5%を超えて0.63μmから3.4μmのサイズ範囲内に入り、最低の60%の小球形粒子が1.6μmから2.5μmの狭いサイズ範囲内に入ることを示していた(図3)。統計学的に、このデータは、生成された小球形インスリン粒子のバッチの少なくとも99%が0.63μmから3.4μmのサイズ範囲における粒子の少なくとも96.52%であることに95%信頼性があり得ることを示している(2μmの目標直径の−68.5%から70%)。
【0185】
Andersen Cascade Impactorのデータは、Cyclohalerに由来する投与量の平均17.6%が装置のマウスおよびプレセパレーター/喉部に堆積した以外は、Aerosizerのデータと良好に相関していた(図8)。データは、Aerosizerの粉末の分散の有効性はCyclohaler装置の有効性よりも大きいことを示唆している。しかし、6個のバッチに対する放出用量の平均は、Cyclohalerから71.4%であり、放出用量の72.8%はインパクターのステージ3上に堆積した。肺深部の送達に対する肺到達率が、1.1ミクロンと3.3ミクロンの間のECDでの肺到達率であると推定される場合、吸入された小球形インスリン粒子の平均60.1%が肺深部の送達およびその後の全身性の吸収に利用可能であり得る。プロセスに対する優れた再現性を表1に示すが、この場合6個の別々のバッチに対するMMADおよびGSDの平均に対する標準偏差値はとりわけ低い。これは、プロセスの変数が厳格な対照下にあり、空気力学的特性に対するバッチごとの均一性をもたらすことを示している。
【0186】
【表1】
表1は小球形インスリン粒子の空気力学的特性を示す。結果(平均+/−SD)は、Andersen Cascade Impactor上の別々の小球形インスリン粒子のバッチ(N=6)の分析から計算した。NMADおよびGSDに対するとりわけ低い標準偏差によって、プロセスに対する非常に良好な再現性が実証される。
【0187】
この冷却プロセスによって生成された小球形インスリン粒子は、表1における空気力学的データによって明らかなように、凝集の傾向がほとんどなかったことを示していた。
【0188】
(実施例5)小球形インスリン粒子を作製するための撹拌容器プロセス
緩衝ポリマー溶液(2℃の0.1M酢酸ナトリウム緩衝液、pH5.65中、18.5%ポリエチレングリコール3350、0.7%塩化ナトリウム)2880mLを、ガラス製の3Lのウォータージャケット付き撹拌容器に加え、75℃に予め加熱した。ヒト結晶性インスリン亜鉛2.4グラムを、緩衝ポリマー溶液80mL中に懸濁し、確実に完全に分散するように超音波処理した。撹拌した、予め加熱した緩衝ポリマー溶液にインスリン懸濁液を加え、さらなる5分間撹拌した。混合液はこの時間の間に澄明になり、結晶性インスリン亜鉛が溶解したことを示していた。10℃に設定した冷却機からの水を、インスリンポリマー溶液が15〜20℃に低下するまで、容器のジャケットを通して汲み上げた。得られた懸濁液を、5体積の0.16%酢酸ナトリウム−0.026%塩化亜鉛緩衝液、pH7.0、その後5体積の脱イオン水に対してダイアフィルトレーションし、その後凍結乾燥して水を除去した。凍結乾燥粉末のSEM分析により、TSI Aerosizer飛行時間型分析によって、空気力学的な平均直径が1.433μmの均一な小球形粒子が示された。Andersen cascade impacotor分析により、放出用量の73%がステージ3からフィルター上に、2.2がMMAD、および1.6がGSDに堆積するという結果になり、全て粉末の空気力学的特性が優れていることの指標であった。
【0189】
(実施例6)小球形粒子生成性の製剤のイオン強度を調節することによるインスリン分解生成物の形成の低減
インスリンは、時間の延長なしで、または酸性の環境なしで75℃などの初期温度のより低い溶液にも溶解することができるが、溶液にNaClを加えることによって著しい凝集がもたらされる。
【0190】
以下の技術を用いて、小球形インスリン粒子の作製プロセスの改良を達成した。結晶性インスリン亜鉛の濃縮スラリーを(室温で)、約85℃から90℃に予め加温した0.1M酢酸ナトリウム、pH5.65中16.7%ポリエチレングリコール溶液に(撹拌しながら)加えた。インスリン結晶は、この温度範囲において5分以内に完全に溶解した。小球形インスリン粒子は、溶液の温度を低下させると形成した。
【0191】
化学反応によるA21デスアミドインスリンおよびインスリンダイマーの著しい形成は、温度の上昇によって、85〜90℃の初期温度で生じた。しかし、これは75℃では時間の延長を必要とした。時間の延長は、また、著しいインスリンの分解をもたらした。酸性の環境においてインスリンを予め溶解することにより、大きなパーセント値のインスリンの、A21デスアミドインスリン分解生成物への望ましくない変換ももたらされた。
【0192】
一実験において、化学的手段によってインスリンダイマーの形成を低減しようと、緩衝ポリマー反応混合液に塩化ナトリウムを加えた。塩化ナトリウムを加えても、デスアミドまたはダイマーのインスリン分解生成物の形成は大幅には低減しなかったが、塩化ナトリウムを加えるとオリゴマーの形成は大幅に低減された(高分子量インスリン生成物)(表2)。
【0193】
【表2】
さらに、結晶性インスリン亜鉛はNaClの存在下で、NaClなしの対照よりも非常に速やかに溶解した。これは、塩化ナトリウムを加えることによりインスリンの溶解速度が改善され、最初にインスリン亜結晶鉛を溶解するのに用いた温度を低下させることができることを示唆していた。この仮定は、0.7%NaClを製剤に加えると、先にNaCl添加なしで必要とされた87℃よりも著しく低い温度である75℃で5分以内に結晶性インスリン亜鉛の原材料を溶解させることができることを実証した実験において確認された。75℃でNaClの非存在下では、インスリンは13分後に完全に溶解しなかった。
【0194】
一連の実験により、塩化ナトリウム濃度を増大すると(2.5mg/ml、5.0mg/ml、10.0mg/ml、および20.0mg/ml)インスリン結晶が溶解する温度がさらに低下し、小球形粒子が形成し始める温度も低下することが実証された(図8a〜d)。さらに、製剤のNaCl濃度が増大すると、より高濃度の結晶性インスリン亜鉛を速やかに溶解することが測定された。したがって、所与の温度におけるインスリンの溶解性は、開始の連続相の塩化ナトリウムレベルを調節することによって注意深く制御し得ることが確認された。これにより、分解生成物の形成に対して伝導性の低い温度でプロセスを行うことができる。
【0195】
塩化ナトリウムに、インスリンを溶解する温度を低下させることができる独特の化学的特性があるか否かを決定するために、等モル濃度の塩化アンモニウムおよび硫酸ナトリウムを、塩化ナトリウムを有する対照と比較した。NH4ClおよびNa2SO4は両方とも、結晶性インスリン亜鉛の原材料を溶解するのに必要とされる温度を同様に低下させた。イオン強度が高いほど、溶液温度を低減するとともに小球形粒子を形成する能力に影響を及ぼさずに、ミクロスフェア形成性の製剤におけるインスリンの溶解性を増大すると思われる。
【0196】
(実施例7)収率およびインスリンレベルおよび小球形インスリン粒子のサイズに対するPEG濃度の試験
ポリエチレングリコール(3350)滴定のデータは、PEG−3350を増大すると小球形粒子の収率も増大することを示している。しかし、PEG濃度が非常に高い場合、粒子はその球形の形状を失い、収率におけるわずかな改善が相殺される。
【0197】
インスリンレベルのデータは、PEGに反対の傾向を示しており、インスリンレベルを増大すると小球形粒子の収率における低減がもたらされる。
【0198】
本発明者らは、インスリンレベルが高いほど、直径の大きな小球形粒子が生じる一般的な傾向を観察している。この実験において、濃度が高いほど、非球形粒子の小球形粒子との混合ももたらされた。
【0199】
(実施例8)イヌでの小球形インスリン粒子の試験
この実験研究の目的は、ビーグル犬の肺におけるエアロゾル化したインスリン粉末の堆積に対する定量および視覚化実験を行うことであった。99mTc標識したインスリン粒子を、本明細書に開示する方法に従って作製した。エアロゾル化したインスリンの肺の堆積を、ガンマシンチグラフィーを用いて評価した。
【0200】
この試験ではビーグル犬5頭を用い、各動物に99mTc放射標識したインスリン粒子のエアロゾルの投与を施した。イヌの識別番号は、101、102、103、104、および105であった。
【0201】
エアロゾル投与の前に、動物を麻酔用の注入ラインによってプロポフォールで麻酔し、エアロゾル送達用に各動物に気管内チューブを配置した。
【0202】
放射標識したエアロゾルの吸入用に、各々のイヌを「スパングラー(Spangler)ボックス」のチャンバーに配置した。放射標識したエアロゾルを投与した直後、胸部前部および後部に対してガンマカメラコンピュータ画像を獲得した。
【0203】
99mTc放射標識したインスリン粉末の安定性を確立するために、1つは最初の動物(101)にエアロゾルを投与する前、およびやはり最後の動物(105)を曝露した後の、2つのin vitroのcascade impactor回収物を評価した。
【0204】
結果を図9に図示する。両方の場合においてcascade impactor回収物は、単峰性の分布を示した。
【0205】
図10は、全動物に対するP/I比の計算に対する結果を示す。P/I比は、肺の末梢部位、すなわち肺深部に堆積している99mTcインスリン粉末の割合の尺度である。典型的なP/I比はおそらく約0.7である。P/I比が0.7を超えると、肺中部または気管支部分に比べて肺末梢部において著しい堆積を示す。
【0206】
図11におけるシンチグラフィー画像は、インスリン堆積位置が呼吸器系内であることを示しており、P/Iデータと一致する(図10)。イヌ101に対するシンチグラフィー画像は、本試験におけるイヌ全5頭を代表している。
【0207】
イヌ101に対するシンチグラフィー画像は、気管または気管支に堆積はほとんどなく、肺末梢部における堆積が明らかに増大していることを示している。肺の外部の放射能は、エアロゾル化した粉末の肺深部の堆積から99mTcが速やかに吸収されたためである。
【0208】
P/I比および画像データは、99mTc放射標識したインスリンが主に肺深部に堆積したことを示している。肺末梢部中に堆積した放射標識したインスリンの量は、粒子の凝集が低レベルであることを指摘するものであった。
【0209】
(実施例9)小球形インスリン粒子からポリマーを除去するための、亜鉛含有緩衝液に対するダイアフィルトレーション
PSEA溶液において小球形インスリン粒子を作製した後は、懸濁液からPSEAを全て除去した後凍結乾燥することが望ましかった。PSEAの残留が数パーセントでも、小球形粒子の、脆くない凝集塊を形成するバインダーとして作用し得る。この凝集は放出用量、およびDPI装置から送達される粉末の空気力学的特性に有害に影響を及ぼす。さらに、肺組織をPSEAの反復投与量に曝露すると、毒性学上の問題を起こし得る。
【0210】
凍結乾燥前にPSEAから小球形粒子を分離するために3つの技術が考えられた。粒子を少量回収するのには、ろ過を用いることができた。しかし、より大量の小球形粒子がろ過媒体の穴を速やかに塞ぎ、数ミリグラムを超える粒子の洗浄および回収を非実用的なものにした。
【0211】
粒子を回収するために遠心分離し、その後洗浄溶媒への再懸濁および再遠心分離を伴う数回の洗浄サイクルを用いて、上首尾にPSEAを除去した。小球形インスリン粒子は容易に溶解せず、PSEAが溶液中に残留したので、脱イオン水を洗浄溶媒として用いた。遠心分離の1つの短所は、粒子をスピンダウンするのに必要とされる高いg力によって小球形粒子がペレットに圧縮されたことであった。各々の連続的な洗浄で、ペレットを再懸濁して別々の粒子にするのはますます困難になった。インスリン粒子の凝集は遠心分離プロセスの望ましくない副作用であることが多かった。
【0212】
中空ファイバーカートリッジを用いたダイアフィルトレーションを、小球形インスリン粒子を洗浄するための遠心分離の代替として用いた。ダイアフィルトレーション装置の慣例的な構成において、緩衝PSEA/インスリン粒子懸濁液を密封容器に配置し、懸濁液を、中空ファイバーメンブレンを超えて通過させるろ過をもたらすのに十分な背圧でファイバーを通して再循環させた。再循環速度および背圧を、膜の孔の遮断(偏り)を防ぐように最適化した。懸濁液から除去されたろ液の体積を、洗浄溶媒を撹拌した密封容器中に吸い上げることによって、継続的に補充した。ダイアフィルトレーションプロセスの間、懸濁液中のPSEAの濃度を徐々に低下させ、懸濁液の元の体積の5倍から7倍をほぼ1時間にわたって洗浄溶媒と交換した後、小球形インスリン粒子懸濁液は本質的にPSEAフリーであった。
【0213】
ダイアフィルトレーションプロセスは、ポリマーを除去するのに非常に効率的であり、市販の量へのスケールアップが非常に容易であるが、小球形インスリン粒子はもともと洗浄溶媒として用いられた脱イオン水にゆっくりと溶解した。実験により、インスリンはろ液中から徐々に失われ、懸濁液の元の体積の20倍に等しい脱イオン水が交換された後、インスリン粒子は完全に溶解することと確定された。小球形インスリン粒子は脱イオン水にやや溶けにくいことが見出されていたが、効率の高いダイアフィルトレーションプロセスにより可溶性インスリン、およびおそらく亜鉛イオンが懸濁液から継続的に除去された。したがって、所与の体積の脱イオン水における不溶性インスリンレベルおよび可溶性インスリンレベル間の平衡は、インスリンの溶解に好ましい条件であるダイアフィルトレーションでは生じなかった。
【0214】
表3は可能な洗浄媒体として評価された様々な溶液を示す。乾燥小球形インスリン粒子10ミリグラムを各溶液1mLに懸濁し、室温で48時間穏やかに混合した。可溶性インスリンのパーセント値を24時間目および48時間目に測定した。インスリンは脱イオン水にやや溶けにくく、24時間未満で可溶性であるインスリンの全重量の1%を少々下回って平衡に達することが見出されていた。しかし、先に記載したように、効率の高いダイアフィルトレーションにより可溶性インスリン(および亜鉛)が継続的に除去され、したがってこの平衡は決して達成されることなく、小球形インスリン粒子は溶解し続ける。したがって、理想的な洗浄溶液へのインスリンの溶解性は、水への溶解性よりも低い。インスリンはその等電点付近では溶けにくいので、2つのモル濃度およびpH5.65の酢酸緩衝液を試験した。インスリンの溶解性は緩衝液のモル濃度に依存し、低いモル濃度では水に匹敵することが見出された。エタノールは、ほぼ無水の濃度でのみ、インスリンの溶解性を大幅に低減した。インスリンの溶解性は、水溶液と混合したエタノールをダイアフィルトレーションの初期段階においてPSEA/小球形インスリン粒子懸濁液において用いた場合に実際に増大する。
【0215】
【表3】
市販の注射用結晶性インスリン亜鉛懸濁液において用いられる緩衝溶液は、溶液中にやはり亜鉛を含んでいる。これら2つの溶液を小球形インスリン粒子で試験し、脱イオン水に比べてインスリンの溶解性を大幅に低減することが見出された。文献によると結晶性インスリン亜鉛は、インスリン6量体各々に結合しているZnイオン2個から4個を有さなければならない。様々な結晶性インスリン亜鉛調製物に対して、6量体当たり1.93個から2.46個の範囲の亜鉛イオンが、小球形インスリン粒子を作製するための原材料として用いられた。これは、原材料の結晶性インスリン亜鉛の所与の重量当たり、0.36%から0.46%亜鉛に相当した。小球形インスリン粒子の形成および脱イオン水に対するダイアフィルトレーションの後、亜鉛の58%から74%が処理加工中に失われた。インスリン粒子から亜鉛が喪失すると、インスリンの溶解性の増大およびダイアフィルトレーション中の喪失がもたらされる。
【0216】
0.16%酢酸ナトリウム−0.027%ZnCl2、pH7.0に対して小球形インスリン粒子をダイアフィルトレーションすると、ろ液におけるインスリン喪失は事実上排除された。しかし、驚くべきことに、小球形インスリン粒子の亜鉛含量は、出発の結晶性インスリン亜鉛の原材料に対して測定された0.46%を優に上回って、ほぼ2%に増大した。亜鉛含有緩衝液に対するダイアフィルトレーションの別の予想外の結果は、Cyclohaler DPI装置から観察された放出用量における劇的な改善(脱イオン水に対するダイアフィルトレーションの68%対亜鉛緩衝液ダイアフィルトレーション後の84から90%)、およびAndersen Cascade Impactorの喉部に堆積するインスリン粒子の量における減少であった。亜鉛緩衝液ダイアフィルトレーションは、小球形インスリン粒子乾燥粉末の分散性を改善し、粒子の凝集を低減し、より低いMMAD、およびインパクターのより低いステージ上のより高い堆積をもたらした。これは、亜鉛緩衝液ダイアフィルトレーションおよび小球形インスリン粒子におけるより高い亜鉛含量は、肺深部において堆積する投与量のパーセント値を改善し得ることを示唆していた。
【0217】
MDI適用で用いるための賦形剤を添加することなく噴霧剤のHFA−134a中に懸濁した場合、亜鉛緩衝液が洗浄する小球形インスリン粒子の見かけの不可逆性の凝集は存在しなかった。インスリン粒子は、1分未満に懸濁液から凝結し出されたが、使用直前に振盪すると容易に再懸濁した。使用直前にMDI容器を振盪することは、通常あらゆるMDI製品を用いるために与えられる指示の一部分である。実際、粒子は沈降してMDI加圧容器の底部上に高密度に充填された層にならないので、MDI容器の底部上に沈降するゆるやかに凝結した粒子は、(これらが球形の形状であるため接触が最小であることの他に)インスリン粒子の長期の凝集化を実際に阻害することができる。したがって、小球形インスリン粒子の亜鉛緩衝液ダイアフィルトレーションによってもたらされる特性により、長期間の貯蔵期間、ならびにインスリンおよび他の亜鉛結合性化合物に対するMDI調製物の分散性が改善することがある。
【0218】
小球形インスリン粒子はXRPD分析によって非結晶であることが見出されたので、亜鉛の結合性は6量体を形成するためのインスリンモノマーの亜鉛イオンの配位に関連しなかった。したがって、非特異的なイオンの結合および得られる潜在的な利点は亜鉛以外のイオンの結合性を拡張し得る。亜鉛に結合しない様々なタンパク質は、ダイアフィルトレーションプロセスにおける溶解性を低減し、同様の有益な効果を与える他のイオンと結合し得る。
【0219】
小球形粒子を、10mg/mLの濃度のヒドロフルオロアルカン(HFA)134a噴射剤に懸濁した。HFA134a中に貯蔵した後のインスリンの化学的安定性を、時間0および1ヶ月に評価した。図13に示すデータは、モノマーのインスリン、インスリンダイマー、インスリンオリゴマー、インスリンの主要ピーク、およびA21−デスアミンド(desamindo)インスリンに関して、インスリンミクロスフェアの保存を示す。
【0220】
以下の試験において、実施例4の方法に従って調製した小球形インスリン粒子を、Andersen Cascade Impactor法を用いて3つの異なる吸入装置におけるその性能に関して比較した。Cyclohaler装置は市販の乾燥粉末吸入器(DPI)であり、Disphalerは別の乾燥粉末吸入器であり、定量噴霧式吸入器(MDI)は、ミクロスフェアを本実施例において記載したHFA134aに懸濁し、100μLまたは他のサイズの絞り弁を通して噴射する装置である。図14における結果は、小球形粒子はステージ3およびステージ4上に堆積したAndersen Cascade Impactor装置のステージに衝撃を与えることを明確に示している。これは、吸入器として用いられる装置に関わらず、小球形粒子の性能は非常に再現性があることを指摘している。DPI装置とMDI装置の間の唯一の主な違いは、MDIを用いるとAndersen Cascade Impactorの喉部分に著しく大量の小球形粒子が堆積することである。MDI装置が、Andersen Impactorの喉部に対して小球形粒子を噴射するのが高速度であることは、DPI装置に比べて高比率のインスリンミクロスフェアが堆積することを説明している。当業者であれば、出口速度を減弱または改変したMDI装置を用いて、喉部に堆積する小球形粒子の数を低減することができることが推定できる。さらなる手段は、MDIの終端のスペーサー装置の使用であり得る。
【0221】
小球形インスリン粒子(ロット番号YQ010302)を、本実施例に記載する方法に従って凍結乾燥したインスリン出発材料から作製した。小球形インスリン粒子に対する1年間の貯蔵安定性を、25℃および37℃の凍結乾燥したインスリン出発材料と比較した。インスリンの安定性を、関連のインスリン化合物全体(Total Related Insulin Compounds)、インスリンダイマーおよびオリゴマー、ならびにA21−デスアミドインスリンを試験することによって比較した。
【0222】
図15〜20は、1年間にわたって、小球形インスリン粒子は、同じ条件下で貯蔵したインスリン出発材料に比べると、著しく低い量のインスリンダイマーおよびオリゴマー、A21−デスアミドインスリン、および関連のインスリン化合物全体を示したことを示している。これはミクロスフェアの形態のインスリンが、出発材料よりも化学的変化に対して著しく安定であることを指摘するものである。
【0223】
小球形インスリン粒子を、製造後、時間0および10ヶ月にAndersen Cascade Impactor試験において試験した。Cyclohaler DPI装置を用いて、長期間貯蔵後の空気力学的安定性を測定した。図21は、空気力学的性能は、10ヶ月貯蔵後も著しく一定のままであることを示している。
【0224】
ラマン分光法の調査を行って、非加工のインスリン試料と本実施例において調製した小球形粒子におけるインスリンとの間の構造的相違を解明した。小球形粒子におけるインスリンは、その親の非加工のインスリン試料よりも、実質的に高いβ−シート含量および実質的に低いα−ヘリックス含量を有することが示された。これらの所見は、小球形粒子における凝集したミクロフィブリル構造の形成と一致する。しかし、水性媒体に溶解すると、スペクトルから非加工のミクロスフェアまたはインスリンいずれかに起因する本質的に同一のタンパク質構造が明らかになり、ミクロスフェアにおけるあらゆる構造的変化は溶解時に完全に可逆的であることを示している。
【0225】
ラマン分光法を用いて2バッチのインスリンを試験した:A)非加工のインスリンUSP(Intergen、カタログ番号N.4502−10、ロット#XDH1350110)およびB)小球形粒子におけるインスリン(JKPL072502−2NB32:P.64)。粉末試料またはインスリン溶液(0.01M HCl中約15mg/mL)を、ラマン分析用に標準ガラスキャピラリー中に充填し12℃にサーモスタットで調節した。典型的には、2〜15μLのアリコートが、レーザー光線に曝露される試料キャピラリーの部分を充填するのに十分であった。スペクトルを、アルゴンレーザー(Coherent Innova70−4Argon Ion Laser、Coherent Inc.、Santa Clara、Calif.)で514.5nmで励起し、光子計数検出器(Model R928P、Hamamatsu、Middlesex、N.J.)を有するスキャニングダブル分光器(Ramalog V/VI、Spex Industries、Edison、N.J.)上で記録した。1.0cm−1間隔のデータを、積分時間1.5sおよびスペクトルのスリットの広さ8cm−1で収集した。試料を繰返しスキャンし、個々のスキャンをディスプレイおよび試験した後、平均化した。典型的には、各サンプル少なくとも4スキャンを収集した。分光器をインデンおよび四塩化炭素でキャリブレーションした。スペクトルを、SpectraCalcおよびGRAMS/AI Version7ソフトウエア(Thermo Galactic、Salem、N.H.)を用いてデジタル差法によって比較した。スペクトルを(ある場合は)溶媒およびバックグラウンドの寄与に対して補正した。溶液のスペクトルを、同一の条件下で0.01M HClスペクトルを獲得することによって補正し、勾配のバックグラウンド上に位置する一連の5つの重複するGaussian−Lorentzian分画と適合させた[S.-D. Yeo、P.G. Debenedetti、S.Y. Patro、T.M. Przybycien、J. Pharm. Sci.、1994年、83巻、1651〜1656頁]。適合は、1500〜1800cm−1の領域において行った。
【0226】
ラマンスペクトルを、粉末インスリン試料およびこれらそれぞれの溶液の両方に対して得た(図8i)。非加工の試料のスペクトルは、先に記載した市販のインスリン試料のスペクトルと非常に良好に相関する[S.-D. Yeo、P.G. Debenedetti、S.Y. Patro、T.M. Przybycien、J. Pharm. Sci.、1994年、83巻、1651〜1656頁;J.L.Lippert、D. Tyminski、P.J. Desmueles、J. Amer. Chem. Soc.、1976年、98巻、7075〜7080頁]。小球形粒子の試料は、アミドIモードにおいて深い(約+10から+15cm−1)シフトを表し、タンパク質の2次構造における著しいかく乱を示していた。しかし、とりわけ、市販の粉末および小球形粒子のスペクトルは、試料を水性媒体に溶解した場合は実質的に同一であり、加工時の2次構造における変化は完全に可逆的であったことを示していた。
【0227】
蛍光および芳香性のバックグラウンドの平滑化、減算を含めた計算のアルゴリズム、ならびにアミドIバンドの逆重畳積分を用いて、2次構造のパラメータを推定した。指数関数的に減衰する蛍光は、本質的に他に記載されるように減算された[S.-D. Yeo、P.G. Debenedetti、S.Y. Patro、T.M. Przybycien、J. Pharm. Sci.、1994年、83巻、1651〜1656頁]。推定される構造上のパラメータを表4に収集する。
【0228】
【表4】
(実施例10)等温方法によるヒトインスリンの小球形粒子の調製
ヒトインスリンUSP(Intergen)をNaClおよびPEG(MW3350、Spectrum、ロット#RP0741)溶液中に懸濁し、インスリン最終濃度0.86mg/mL、ならびにNaCl濃度0.7重量%およびPEG濃度8.3重量%とした。微量の氷酢酸および1M NaOH溶液を加えることによって、pHを5.65に調節した。T1=77℃に加熱後、澄明なタンパク質溶液が得られ、インスリンレベルCeqがもたらされた。次いで、予め決定した速度で温度T2=37℃まで溶液を冷却した。T2において、タンパク質の沈殿が観察された。沈殿物を遠心分離によって除去し(13,000×g、3分)、再び37℃の温度で、得られた上清におけるインスリンレベル(C*)をビシンコニン酸タンパク質アッセイによって0.45mg/mLと決定した。37℃で維持するこのように調製したインスリン溶液を溶液Aと呼ぶ。
【0229】
ヒトインスリンを0.7重量%NaCl/8.3重量%PEGに溶解し(HClを加えることによってpHを約2.1にする)、インスリンレベル2mg/mLをもたらすことによって溶液Bを調製した。溶液を7時間撹拌しながら37℃でインキュベートし、引き続き2分間超音波処理した。得られた溶液Bのアリコートを溶液Aに加えると、1mg/mLの全インスリンレベルがもたらされた。得られた混合液を37℃で激しく撹拌しながら一夜維持すると、インスリン沈殿物がもたらされ、メンブランフィルター(有効孔径0.22μm)を用いることによってこの沈殿物を液体から穏やかに取り除いた。次いで、得られたタンパク質微小粒子を液体窒素中で瞬間冷凍し、凍結乾燥した。
【0230】
予め作製した小球形粒子の微小カプセル化
(実施例11)PLGAカプセル化した予め作製した小球形インスリン粒子の調製
a)ポリラクチド−コ−グリコリド(PLGA、MW35k)1600mgを塩化メチレンに溶解することによって20%(w/v)のポリマー溶液(8ml)を調製した。この溶液に小球形インスリン粒子(INSms)100mgを加え、11krpmのローター/ステーターホモジナイザーを用いて媒体を激しく混合することによって均質な懸濁液を得た。0.02%メチルセルロース水溶液(24ml)からなる連続相を塩化メチレンで飽和させた。連続相を同じホモジナイザーを用いて11krpmで混合し、記載した懸濁液を徐々に媒体に注入して、有機相の未成熟な微小カプセル化粒子を生じた。このエマルションのO/W比は1:3である。乳化を5分間続けた。次に、エマルションを、脱イオン(DI)水150mlからなる硬化媒体中に直ちに移し、媒体を400rpmで撹拌した。有機溶媒を−0.7バールの減圧下で1時間にわたって抽出した。硬化した微小カプセル化粒子をろ過によって回収し、水で洗浄した。洗浄した微小カプセル化粒子を凍結乾燥して過剰の水を除去した。得られた微小カプセル化粒子の平均粒子サイズは約30μmであり、粒子の集合の大多数は90μm未満であり、インスリン5.7%(w/w)を含んでいた。
【0231】
b)50:50ポリラクチド−コ−グリコリド(PLGA、MW35k)1200mgを塩化メチレンに溶解することによって30%(w/v)ポリマー溶液(4ml)を調製した。次に、記載したポリマー溶液中INSms100mgの懸濁液を、ホモジナイザーを用いて調製した。この懸濁液を用いて、実施例11に記載した、0.02%メチルセルロース水溶液12ml中O/Wエマルション(W/O比=1:3)を得た。実施例11と同じ手順を続けて、最終の微小カプセル化粒子を調製する。形成した微小カプセル化粒子の平均粒子サイズは25μmであり、0.8μmから60μmの範囲であった。これら微小カプセル化粒子のインスリン含量は8.8%(w/w)であった。
【0232】
あるいは、ポリマーの10%(w/v)溶液を用いて、記載したのと同じ条件下で微小カプセル化プロセスを行った。このプロセスにより、ほとんどの粒子が50μm未満であり、インスリン充填が21.1%(w/w)の、平均粒子サイズ約12μmの微小カプセル化した粒子がもたらされた。
【0233】
in vitro放出に対する方法:微小カプセル化した粒子からのインスリンのin vitro放出(IVR)を、37℃でインキュベートしたカプセル化したインスリン3mg等量を含むガラスバイアル中に放出緩衝液(10mM Tris、0.05%Brij35、0.9%NaCl、pH7.4)10mlを加えることによって実現する。指定された時間間隔でIVR媒体400μLを微量遠心管中に移し、13krpmで2分間遠心分離する。上清の上部300μLを除去し、分析まで−80℃で貯蔵する。採取した体積を新鮮な媒体300μLで置き換え、これを残存する上清(100μL)と一緒にペレットを再構成するのに用いた。懸濁液を、対応するin vitroの放出媒体に戻す。
【0234】
(実施例12)PLGA/PLA合金マトリックス系における予め作製した小球形インスリン粒子の微小カプセル化に対する手順
塩化メチレン(4ml)中PLGA/PLA合金の30%(w/v)溶液を調製した。合金は、50:50PLGA(MW35k)、D,L−ポリ乳酸(PLA、MW19k)、およびポリL−PLA(PLLA、MW180k)、それぞれ40%、54%、および6%(0.48g、0.68g、および0.07g)からなっていた。実施例11bと同じ手順に従って、最終の微小カプセル化粒子を調製した。微小カプセル化粒子の例の粒子サイズの範囲は0.8〜120μmで、平均40μmであり、ほとんどの粒子集団は90μmより小さかった。
【0235】
(実施例13)連続相および不連続相両方におけるPEGを用いた、PLGAマトリックス系における予め作製した小球形インスリン粒子の微小カプセル化に対する手順
塩化メチレン中10%50:50PLGA(0.4g)および25%ポリエチレングリコール(PEG、MW8k)4mlの溶液を調製した。ローター/ステーターホモジナイザーを用いて、INSms100mgを、この溶液中11krpmで懸濁した。連続相は、0.02%(w/v)メチルセルロースおよび25%PEG(MW8k)の塩化メチレンで飽和させた水溶液(12ml)からなる。連続相を同じホモジナイザーを用いて11krpmで混合し、記載した懸濁液を媒体に徐々に注入して、有機相の未成熟な微小カプセル化粒子を得た。このエマルションのO/W比は1:3である。乳化を5分間続けた。次いで、エマルションをDI−水150mlからなる硬化媒体中にすぐに移し、媒体は400rpmで撹拌した。有機溶媒を、−0.7バールの減圧下、1時間にわたって抽出した。硬化した微小カプセル化粒子をろ過によって回収し、水で洗浄した。洗浄した微小カプセル化粒子を凍結乾燥して過剰の水を除去した。本実施例の微小カプセル化粒子の平均粒子サイズは30μmであり、2μmから90μmの範囲であり、粒子の集合の大多数は70μmより小さかった。これらのミクロスフェアのインスリン含量は16.0%(w/w)であった。
【0236】
(実施例14)リン酸緩衝液を用いた様々なPhの連続相のPLGAマトリックス系における、予め作製した小球形インスリン粒子の微小カプセル化のための手順
塩化メチレン中20%50:50 35kD PLGA(0.8g)4mlの溶液を調製した。ローター/ステーターホモジナイザーを用いて、INSms100mgを、この溶液中11krpmで懸濁した。連続相は、0.1%(w/v)メチルセルロース水溶液、ならびにpH2.5、5.4、および7.8の50mMリン酸緩衝液からなっていた。連続的なセットアップを用いて微小カプセル化を行った(図22A)。連続相を11krpmで混合し、12m/分で乳化チャンバー中に供給した。分散相を2.7ml/分でチャンバー中に注入して、未成熟な微小カプセル化粒子を得た。生成したエマルションをチャンバーから除去し、連続した形で硬化浴中に移した。硬化媒体を400rpmで撹拌した。有機溶媒を、−0.4バールの減圧下で1時間かけて抽出した。硬化した微小カプセル化粒子をろ過によって回収し、水で洗浄した。洗浄した微小カプセル化粒子を凍結乾燥して過剰の水分を除去した。
【0237】
pH2.5、5.4、および7.8で調製した得られた微小カプセル化粒子のインスリン含量は、それぞれ12.5、11.5、および10.9であると推定された。微小カプセル化粒子のサイズ分布分析の結果を表5にまとめる。
【0238】
【表5】
in vitro放出のための方法:微小カプセル化粒子からのインスリンのin vitroの放出を、37℃でインキュベートした、カプセル化したインスリン3mg等量を含むガラスバイアル中に放出緩衝液(10mM Tris、0.05%Brij35、0.9%NaCl、pH7.4)10mlを添加することによって実現した。指定した時間間隔でIVR媒体400μLを微量遠心管中に移し、13krpmで2分間遠心した。上清の上部300μLを取り除き、分析まで−80℃で貯蔵した。採取した体積を新鮮な媒体300μLで置き換え、これを残余の上清(100μL)と一緒にパレット(pallet)を再構成するのに用いた。懸濁液を対応するin vitroの放出媒体に戻した。
【0239】
上記の調製物のin vitro放出(IVR)の結果を図23に示し、製剤からのインスリンの放出動態に対する連続相のpHの著しい効果を示す。
【0240】
(実施例15)予め作製した微小カプセル化小球形インスリン粒子の完全性の測定
カプセル化した予め作製した小球形インスリン粒子の完全性に対する微小カプセル化プロセスの効果を評価するために、予め作製したINSmsを含むポリマー性の微小カプセル化粒子を、二相の二重抽出法を用いてデフォーミュレート(deformulate)した。カプセル化したINSms試料の重量を量り、塩化メチレン中に懸濁し、穏やかに混合してポリマーのマトリックスを溶解した。タンパク質を抽出するために、0.01N HClを加え、2つの相を混合してエマルションを作製した。次いで、2相を分離し、水相を除去し、同じ溶液で再生し、抽出プロセスを繰り返した。抽出したインスリンの完全性を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定した。この方法によって、抽出した媒体におけるINSのモノマー、ダイマー、および高分子量(HMW)種の程度を同定する。好適な対照を用いて、INSの完全性に対するデフォーミュレーション(deformulation)プロセスの効果を同定する。結果は、このプロセスはINSの完全性に対して著しい効果がなかったことを示していた。
【0241】
カプセル化したINSmsは、元のINSms(非カプセル化)におけるモノマー含量99.13%に比べて、微小カプセル化のプロセスの条件および含量に応じて、97.5〜98.94%のモノマーのタンパク質を含んでいた。カプセル化したINSmsにおけるダイマー種の含量は、元のINSmsにおける0.85%に比べて、1.04%から1.99%の範囲であった。カプセル化したINSmsのHMW含量は、元のINSmsにおける0.02%に対して、0.02%から0.06%までの範囲であった。結果を表6にまとめる。ポリマーマトリックスの効果を、図24および25に図示する。
【0242】
【表6】
(実施例16)微小カプセル化した予め作製した小球形インスリン粒子からのインスリンのin vivoの放出
予め作製した小球形インスリン粒子の微小カプセル化粒子からのインスリンのin vivoの放出を、Sprague Dawley(SD)ラットにおいて調べた。動物に、非カプセル化の、またはカプセル化した予め作製した小球形インスリン粒子1IU/kgの開始の皮下用量を与えた。ELISAを用いて、回収した試料における組換えヒトインスリン(rhINS)血清レベルを測定した。結果を図26に図示する。
【0243】
(実施例17)1.5mL微量遠心管におけるインスリンの肺性ミクロスフェアの生成のための方法
10mg/mlインスリン溶液1mlを調製した(この溶液は使用直前に調製する)。溶液1mL当たりインスリン(Zn)10mgを、脱ガスした脱イオン水0.99mLに混合した。懸濁液は濁るであろう。溶液1mL当たり1N HClを10μL加え、混合した。溶液は混合とともに澄明になる。溶液が澄明でなかった場合は、インスリンが溶解するまで、小体積の1N HClを加えた。0.1M酢酸ナトリウム、pH5.65中PEG/PVP(0.1M酢酸ナトリウム中12.5%/12.5%PVP、pH5.65)0.8mlをインスリン溶液0.40mLに加え、1.5mLポリプロピレン製微量遠心管中で穏やかに混合した。溶液は濁った。
【0244】
微量遠心管を、30分間、90℃の水浴中に入れた。微量遠心管を水浴から取り出し、30分間、室温のベンチ上で冷却した。微量遠心管を微量遠心器で10分間、8000RPMで遠心した。上清をデカントした。脱イオン水を加え、ペレットを再懸濁した。微量遠心管を微量遠心器で10分間、6000RPMで遠心した。上清をデカントした。脱イオン水を加え、ペレットを再懸濁し、繰り返した。ミクロスフェアのペレットを脱イオン水5mL中に再懸濁し、ペレットを凍結乾燥した。得られた凍結乾燥した球体は、レーザー光散乱によって1ミクロンサイズのインスリン球体をもたらし、アッセイすると>95%wt/wtインスリンであった。
【0245】
(実施例18)連続流スルーによるインスリン肺性ミクロスフェアを作製するための方法
10mg/mlのインスリン溶液を10ml調製した(この溶液は使用直前に調製した)。溶液1mL当たりインスリン(Zn)100mgを、脱ガスした脱イオン水9.8mL中混合した。懸濁液は濁る。溶液1mL当たり1N HClを100μLを加え、混合した。溶液は混合とともに澄明になる。溶液が澄明でなかった場合は、インスリンが溶解するまで、小体積の1N HClを加えた。0.1M酢酸ナトリウム中PEG/PVP(12.5%/12.5%)、pH5.65、20mlをインスリン溶液10mLに加え、穏やかに混合した。溶液は濁る。
【0246】
作製器具のセットアップ:外径1/8インチ、8フィート({フラクション(3/32)})内径)のポリプロピレン製の管を準備した。入口をRainin蠕動ポンプに、出口が空の回収容器に連結し、確実に、直径約6インチのループにおいて4フィートが水浴中に浸漬しているようにした。水浴と回収容器の間に3フィートの冷却ループを通した。水浴を90℃に加熱した。注意:ポンプ溶液が管を通り始めた後はいかなる空気も管に入れないことが重要である。気泡は凝集および目詰まりを起こすことがある。
【0247】
ミクロスフェア生成手順:Rainin蠕動ポンプのスピードを、流速約1mL/分である設定に設定した。運転開始直前に希釈し、脱ガスしたポリマー溶液(PEG/PVP(12.5%/12.5%)2部に対して脱イオン水1部を0.1M酢酸ナトリウム、pH5.65にポンプで送り込んだ)約10mLを、管を通して冷却ゾーンの温度と平衡にした。ポンプを一瞬停止して泡が管中に引き込まれるのを防いだ。管の入口側を、インスリン/ポリマーの原材料懸濁液に注意深く移した。インスリンミクロスフェアが管を出る前に回収容器を空の容器に切り替えた。最初のインスリンミクロスフェアは、層流によりポンプの実際の流速から予想されるよりもずっと速く管を出た。インスリン原材料の懸濁液の細線が、チューブに予め充填されたポリマー溶液を通して流れ、これが管の内径を徐々に広げたのが観察された。小さい気泡を出させ、次いで、脱イオン水で3分の1(1:3)に希釈してあるポリマー/緩衝液溶液を、インスリン−PEG/PVP溶液の後に管を通して汲み出した。ミクロスフェアの回収が完了した後、さらなる処理加工用に回収容器を取り出した。
【0248】
ミクロスフェア洗浄手順:懸濁液の粘度を低減するために、ミクロスフェア懸濁液をおよそ等しい体積の脱イオン水で希釈した。50mLのポリプロピレン製遠心管を用いて、ミクロスフェア懸濁液を15分間、3500×gで回転させた。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、管中の元の体積に等しい脱イオン水で再懸濁し、次いでペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液を15分間、3000×gで遠心した。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを管中の元の体積に等しい脱イオン水で再懸濁し、次いでペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液を15分間、3000×gで遠心した。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、管の体積の2/3に等しい脱イオン水で再懸濁し、次いでペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液をホモジナイザーでホモジナイズし(例えば、スピード設定3のIKAホモジナイザーで2分間)、15分間、3000×gで遠心した。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、最小体積の脱イオン水で再懸濁し、次いでペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液をスピード設定3のIKAホモジナイザーで2分間、または同等でホモジナイズした。ミクロスフェアを好適な滅菌容器に移し、ダイアフィルトレーションを行って遊離のポリマー全てが除去されるまでミクロスフェアを洗浄した。ミクロスフェアの懸濁液を、中空ファイバーカートリッジ系を用いて濃縮した後、凍結乾燥した。ミクロスフェアは衛生的な条件下で凍結乾燥されたバルクであり、充填の準備ができるまで乾燥で貯蔵した。
【0249】
(実施例19)長さ2フィート(60mL)のクロマトグラフィーガラスカラムでインスリン肺性ミクロスフェアを生成するための方法(一般的なバッチ的手順)
ウォータージャケット付きクロマトグラフィーカラムを90℃に予め加熱した。インスリン溶液10mg/mLを、実施例1に記載したように脱ガスした脱イオン水中で調製した。0.1M酢酸ナトリウム緩衝液中12.5%PEG(3350)、12.5%PVP(K12)を調製した。インスリン溶液20mLをポリマー溶液40mLと混合した(最終のインスリンレベルは3.33mg/mLであった)。これらの懸濁液は、最初は約25℃の室温であった。インスリン/ポリマー懸濁液を予め加熱したクロマトグラフィーカラム中に汲み入れた。次いで、90℃で30分間インキュベートした。温度を1.5時間かけて25℃に勾配的に低下させた。懸濁液をカラムから回収容器中に汲み出した。脱イオン水を加えた。
【0250】
ミクロスフェア洗浄手順:懸濁液の粘度を低減するために、ミクロスフェア懸濁液をおよそ等しい体積の脱イオン水で希釈した。50mLのポリプロピレン製遠心管を用いて、ミクロスフェア懸濁液を15分間、3500×gで回転させた。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、管中の元の体積に等しい脱イオン水で再懸濁し、ペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液を15分間、3000×gで遠心した。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、管中の元の体積に等しい脱イオン水で再懸濁し、ペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液を15分間、3000×gで遠心した。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、管の体積の2/3に等しい脱イオン水で再懸濁し、次いでペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液をスピード設定6のIKAホモジナイザーで2分間ホモジナイズし、次いで15分間、3000×gで遠心した。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、最小体積の脱イオン水で再懸濁し、ペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液をスピード設定6のIKAホモジナイザーで2分間ホモジナイズした。ミクロスフェアを好適な滅菌容器に移し、ダイアフィルトレーションを行って遊離のポリマーが全て除去されるまでミクロスフェアを洗浄した。ミクロスフェアの懸濁液を、中空ファイバーカートリッジ系を用いて濃縮した後、凍結乾燥した。ミクロスフェアは衛生的な条件下で凍結乾燥されたバルクであり、充填の準備ができるまで乾燥で貯蔵した。
【0251】
(実施例20)MDI(計量噴霧式吸入器)容器充填プロセス
衛生的な条件下、撹拌している加圧容器に好適な重量のミクロスフェアを加え、加圧容器に好適な体積のHFA噴射剤を充填した。HFA噴射剤は、必要な場合、本明細書で有用である、単独または組合せの、P134a、P227、もしくは2つのブレンド、またはあらゆる他の(1つまたは複数の)噴射剤であってよい。加圧容器がHFAを撹拌する間、均一の、単分散の懸濁液が実現するまでHFAミクロスフェア懸濁液を均質化ループを通過させた。Pamasolまたは類似のエアロゾル充填ラインを用いて、滅菌の、予め圧着されている計量噴霧式吸入器の缶またはバイアルに、単分散のミクロスフェア懸濁液を充填した。
【0252】
(実施例21)DPI(乾燥粉末吸入器)充填プロセス
特定の生成物に応じて、ミクロスフェアは、カプセル、ブリスターパック、または他の適切な容器におけるオーガー充填または他の適切な粉末充填技術に適する易流動性のミクロスフェアとして提供される。ミクロスフェアを、増量剤と一緒に、またはそれなしで加える。以下の増量剤を用いる:塩化ナトリウム、ラクトース、トレハロース、ショ糖、および/または当業者には知られているその他のもの。
【0253】
(実施例22)ミクロスフェアの粒子サイズの測定
光散乱およびTSI Aerosizer測定によって粒子サイズを決定した。インスリンミクロスフェアは単分散であり、直径約1〜1.5ミクロンである。結果は、数、表面積、および体積によって、95%が直径0.95ミクロンと1.20ミクロンの間であるミクロスフェアの均質の分布を典型的に示している(図27)。空気力学的直径は、図28に見られるように直径1.47ミクロンであることが示されている。
【0254】
(実施例23)in vitroのAndersen cascadeインパクション試験
インスリンミクロスフェアでの試験により、ミクロスフェアの高い「微細粒子率」(FPF)は、乾燥粉末吸入器から(>50〜60%)(図29)、またはHFAから(約40%)(図30)送達されたことを示していた。これらは、肺深部に浸透することが予想される粒子サイズの分画を表すものである。これらの微細粒子率は、低分子量の化合物に対しても、とりわけ高い。これらはMDIから送達されるあらゆるタンパク質薬物に対して以前に観察されている可能性はない。
【0255】
「微細粒子率(FPF)」は、試験される薬物に好適な粒子サイズ範囲以内のAndersen cascadeインパクション試験におけるステージ上に堆積する薬物の合計量を、吸入器のマウスピースからインパクター中へ送達される薬物の合計量によって除したものを意味する技術用語である。MDIに対するFPFおよび4.7μm以下の粒子;DPIに対するFPFおよび4.4μm以下の粒子:
乾燥粉末吸入器:DPI(60lpm)に対して、≦4.4μmの粒子サイズ範囲の乾燥粉末微細粒子率(4.4)を、直径4.4ミクロン以下の粒子の質量の合計を、装置および装置のマウスピースからの放出用量の合計で除したもののパーセント値と定義する。
【0256】
【数1】
計量噴霧式吸入器:MDI(28.3lpm)に対して、≦4.7μmの粒子サイズ範囲の計量噴霧式吸入器微細粒子率(4.7)を、直径4.7ミクロン以下の粒子の質量の合計を、装置および装置のマウスピースからの放出用量の合計で除したもののパーセント値と定義する。
【0257】
【数2】
慣例に従って、FPFはパーセント値で表される。
【0258】
幾何標準偏差(GSD)
サイズ範囲未満の累積パーセント対有効なカットオフ直径のグラフをプロットする。これから84.13%および15.37%での直径を決定する。GSDは以下のように計算する。
GSD=(直径84.13%/直径15.87%)1/2
空気力学的な質量中央径(MMAD)
MMAD=上記のグラフから50%での粒子直径
ステージ番号−−ステージ上のF/σ薬物
(実施例24)
インスリンミクロスフェアにおけるインスリンの生物学的活性を、水溶液に懸濁したインスリンミクロスフェアを注射することによって実証した。図31は、インスリン注射後の正常Fisherラットにおける血糖抑制を比べている。結果を、リン酸緩衝食塩水(PBS)だけの注射を施した対照のラットの血糖と比べて表す。図31は、対照の動物は5時間の実験にわたって正常な血糖濃度を維持したことを示す。HClに溶解したミクロスフェア(グラフ2およびグラフ3)は、0.5単位(U)の投与量および2Uの投与量でPBSに懸濁したそのままのインスリンミクロスフェアに類似の様式で血糖パターンを抑制した(グラフ4およびグラフ5)。
【0259】
(実施例25)
Fisherラットの肺中にこれらの製剤を気管内に直接注入することによって、インスリンミクロスフェアは、溶液として、およびミクロスフェアとして送達された。図32は、類似のグルコース抑制パターンが、インスリン溶液、および懸濁液として送達されたインスリンミクロスフェアの両方に対して観察されたことを示している(MS YQ051401)。
【0260】
(実施例26)計量噴霧式吸入器試験
適用において記載した技術によって調合したインスリンミクロスフェアを、次いで計量噴霧式吸入器(MDI)において用いるためのCFCフリーの噴射剤中に調合した。
【0261】
インスリンミクロスフェアを、2mg/mlから10mg/dlまでの範囲のいくつかの濃度のHFA P134aに加えた。インスリンミクロスフェアの懸濁液を、市販の、HFA P134a中のProventilアルブテロールと比べた。
【0262】
インスリン約20mgを20mLガラス製バイアル中に量り、これを、ヒドロフルオロアルカン(HFA)噴射剤P134aおよびP227を分配するのに適するバルブで密封した。図33に見られるように、HFAを加えることにより、HFA P134aおよびHFA P227中のインスリンミクロスフェアの安定な懸濁液の調合がもたらされた。対照のバイアルは、HFA P134a中に、市販の、およびFDA認可のProventilアルブテロールを含んでいる。60秒後、対照のバイアルはバイアルの底部に完全に沈殿した。当業者であれば、これは非均質の懸濁剤で処置した患者に対して再現不可能性な投与量の源を表すことを認める。これとは対照的に、HFA P134aおよびHFA P227中に懸濁したインスリンを含む2本のバイアルは、数分の間、安定な均質な懸濁液のままであった。これは、HFA噴射剤からインスリンなどの薬物の再現性ある投与量を分配するための重要な特性を表している。in vivoにおけるグルコース抑制によって評価するHFA P134a中のインスリンミクロスフェアの安定性を図31に示す。4ヶ月のMDA製剤の生理活性は、時間0と同じであった。
【0263】
(実施例27)
インスリンミクロスフェアをTc−99m放射性同位元素で標識した。次いで、Tc−99mインスリンを、ビーグル犬の肺に送達した。γカメラを用いて、イヌの肺におけるTc−99m標識したインスリンの分布を視覚化した。図34は、肺の肺にわたるインスリンミクロスフェアの均質な分布を示している。これは、ミクロスフェアの肺への送達を指摘するものである。
【0264】
(実施例28)
135日間HFA P227噴射剤中に懸濁したインスリンミクロスフェアの生化学的な完全性および安定性を、図35においてHPLCによって示した。図36は、7日間および130日間HFA中に貯蔵したインスリンミクロスフェアの生物学的活性を示す。インスリンをMDI装置から噴出し、PBS中に再懸濁し、インスリンの量に対してアッセイした。次いで、各々の貯蔵時間の0.5Uおよび2Uを、Fisherラット中に気管内に注入した。図36は、in vivoにおける生物学的活性の維持を実証している。
【0265】
(実施例29)
生物学的に活性なミクロスフェアの投与を、イヌにおいて実証した。ビーグル犬を麻酔し、鉄の肺中に配置した。呼吸速度を麻酔前の呼吸数の75%に維持した。インスリンミクロスフェア5mgを、Aerolizer乾燥粉末吸入器を用いてイヌに送達した。図37は、インスリンを肺投与した後10分から15分以内に血糖の著しい低減が観察されたことを示している。イヌに経口の炭水化物の餌を投与する前に、低血糖性のグルコースレベルが3時間にわたって維持された。
【0266】
(実施例30)
MDI6個を25℃での安定性にかけた。室温で5日間の開始条件付け時間の後、試料を転倒して、Andersenカスケードインパクターおよび28lpmのDUSA(投与量単位サンプリング装置)によってアッセイした。送達されることが予想される投与量中どのくらいの量が実際に装置によって送達されたかを決定するために、DUSA実験を行った。Andersenの結果は、大多数のインスリンミクロスフェアは1ミクロンから3ミクロンのサイズのステージにあるとアッセイされたことを表すことを、1ヶ月貯蔵後のデータは示していた。
【0267】
DUSAの結果は、最初の時間点で回収された投与量は予想した投与量の117±4.7%、1ヶ月で回収された投与量は予想した投与量の106%と測定されたことを示していた。
【0268】
図38は、HFA P134a中でインスリンミクロスフェアを貯蔵して1ヶ月後、インスリンミクロスフェアはフィルターに対してステージ3上に、およびAndersenカスケードインパクター装置上のフィルターに対して4上に類似の様式で堆積したことを示している。これは、インスリンミクロスフェアの空気力学的特性は、HFA中1ヶ月の貯蔵後も依然として安定であると思われることを示している。最初の時間点は6バイアルの平均であり、1ヶ月の時間点は単一のバイアルからの値である。
【0269】
(実施例31)
ミクロスフェアがMDI型の装置において生化学的に安定なままであり、噴射剤がMDIベースのインスリン送達系の重要な成分であるように、ミクロスフェアを調合する。HFA中1ヶ月間貯蔵したインスリンミクロスフェアの生化学的安定性を比較した結果は、インスリンモノマー、ダイマー、およびオリゴマーは、主要ピークおよび1ヶ月後のデスアミドインスリン形成とともに、匹敵するものであったことを示していた(図39)。
【0270】
(実施例32)小型球状インスリン粒子の調製
0.56%(w/w)塩化ナトリウム(USP)、および0.54%(w/w)酢酸(USP)を含む、22.4%(w/w)ポリエチレングリコール(PEG3350、NF)溶液は、溶質全てを完全に可溶化させて調製した。溶液を、50%水酸化ナトリウム溶液でpH5.65±0.05にし、撹拌槽中75℃に加熱した。USP純水中組換えヒトインスリン(USP;亜鉛インスリン)4gを含む懸濁液をPEG溶液に加えた。内容物を6分間混合して亜鉛インスリンを溶解させた。この温溶液を、0.2μmフィルターを通過させた後、予め加熱したSS容器に分配した。加熱したUSP純水でラインを追跡し、ポンプ乾燥した。得られた溶液は(全てw/wで)16.1%PEG、0.048%インスリン、0.386%酢酸、0.404%NaClからなる。
【0271】
溶液をさらなる3分間、50rpmで混合して確実に均質な溶液とした。次いで、これを冷却速度10℃/分で5分かけて70℃から20℃に冷却し、インスリンの球形粒子懸濁液を得た。この冷却は、内部コイルおよび容器ジャケットを通して冷却剤(すなわち、2℃の水)を送り込むことによって実現された。
【0272】
塩化亜鉛緩衝液2リットル(0.026%塩化亜鉛/0.16%酢酸、pH7.0±0.05)を、得られたミクロスフェア懸濁液に加えた。約4000秒−1のせん断速度の蠕動ポンプによって、750KD限外ろ過中空ファイバーカートリッジを通して容器からの懸濁液を再循環することによって、一定体積の洗浄を行った。7体積の交換を行って、懸濁液からポリエチレングリコール(PEG)を除去した。次いで、PEGを低減した懸濁液を5リットルに濃縮し、USP純水での別の一定体積の(5×)洗浄ステップを行ってあらゆる残留のPEGおよび残留の塩を除去した。
【0273】
PEGフリーの懸濁液を2回濃縮して1.5リットルとして、次いでこれを回収ボトル中に排出した。このミクロスフェア懸濁液を、上部にフィルターを載せたSS凍結乾燥トレイ中に注ぎ、凍結乾燥した。凍結−乾燥サイクルを完了したとき、凍結乾燥した球状インスリン粒子を回収し、バルクで貯蔵した後、吸入器に充填した。
【0274】
乾燥インスリンミクロスフェアの平均インスリン含量(w/w)は94.7%(93.3%から95.8%までの範囲)であり、平均水分含量(w/w)は3.6%(2.4%から4.9%までの範囲)であり、平均亜鉛含量(w/w)は1.4%(1.1%から1.8%までの範囲)であった。ミクロスフェアの間では、集団の50%の粒子サイズは1.7±0.1ミクロン以下であり、集団の95%の粒子サイズは2.6±0.3ミクロン以下であった。インスリンミクロスフェアのA−21デスアミドピーク面積%の2%もしくはそれ未満、および/または高分子量生成物のピーク面積%の2%もしくはそれ未満を安定であるとみなす基準を用いると、25℃および相対湿度60%で貯蔵した密封バイアル中に保持したインスリンミクロスフェアは、95%信頼区間で少なくとも72週間から82週間安定であると予測された(図44)。インスリンミクロスフェアは、水分含量を5%以下に維持するのであれば、その空気力学的特性を著しく低下させずに(例えば、8ヶ月の貯蔵の終わりに放出用量70%以上)、長期間(例えば8ヶ月)にわたって37℃以下で(例えば、25℃、5℃)貯蔵することができた(図45)。水分含量が5%を超えるインスリンミクロスフェアは、水分含量におけるさらなる増大の非存在下では、空気力学的特性を保持するために(例えば、8ヶ月の貯蔵の終わりに放出用量70%以上)、より低い温度で(例えば、25℃、5℃)貯蔵される(図45)。
【0275】
(実施例33)ヒト対象における組換えヒトインスリン吸入粉末(RHIIP)の肺送達
実施例32に述べた方法に従ってRHIIPを調製した。
【0276】
ヒト対象は、年齢18〜40歳の健常男性志願者であり、肺機能は正常、体重指数は18kg/m2と27kg/m2の間、体重60kgから90kgの間、Cyclohaler(商標)乾燥粉末吸入器(Pharmachemie、Haarlem、オランダ)を通して目標吸入流速90±30L/分を達成する能力があった。対象が以下のあらゆる徴候を表す場合は試験から除外した:活動性または慢性の肺疾患、糖尿病の病歴、耐糖能障害または空腹時血糖障害、空腹時血漿グルコース>100mg/dL、空腹時HbA1c>6.0%、インスリンまたは製剤のあらゆる成分に対する既知のアレルギーまたはアレルギーの疑い、ポジティブの抗インスリン抗体>10U/ml。
【0277】
上記の基準を満たす、健常男性対象30人(30±1.1歳(平均±SEM)、BMI24.2±0.3kg/m2)を、一施設非盲検無作為化、実薬対照、二元配置交差試験に含め、対照としてヒトインスリン10IUを皮下注射によって(SC、Novo Nordisk、デンマークによるActrapid(登録商標))、およびHPMCカプセル中(Capsugel、Bornem、ベルギーによるサイズ3のVcaps(登録商標)、図43b〜cを参照されたい)に含まれている6.5mg(単回投与量)のRHIIP(187IU)が投与され、正常血糖クランプの条件下(クランプレベル5mmol/L、0.15mU/kg/分の継続的なインスリンiv注入、クランプ継続時間は投薬後10時間)、肺の上気道に薬物を送達するようにデザインされている市販のDPI(Pharmachemie、Haarlem、オランダによるCyclohaler(商標)、図43a〜cを参照されたい)によって送達された。対象を、クランプ実験前に、RHIIPを吸入流速90±30L/分で吸入するよう訓練した。
【0278】
以下の表は試験で用いられたRHIIP組成物の例示的な製品放出データを示す。
【0279】
【数3】
投薬のための各来所は、各々最短期間の12時間の診療所への拘束であり、この間、対象をあらゆる有害効果についてモニターした。2つの投与量の投与の間には、72時間から14日の間隔があった。試験後、第2の投薬の来所後3日から14日以内に健康診断を行った。
【0280】
薬物動態のパラメータの決定:ベースの静脈内インスリン注入に対する調節あり、またはそれなしでの血清インスリンプロファイルから、以下の薬物動態のパラメータを計算した:AUC1〜10時間;AUC0〜1.5時間;AUC0〜3時間;Cmax、Tmax、T10%AUC(1〜10時間)、T90%AUC(0〜10時間)、インスリン出現の持続時間、および相対的バイオアベイラビリティ。
【0281】
薬力学的のパラメータの決定:ベースライン調節したGIRプロファイルから以下の薬力学的パラメータを計算した:AUCGIR(0〜10時間);AUCGIR(0〜1.5時間);AUCGIR(0〜3時間);GIRmax、TmaxGIR;初期および後期T50、T10%incGIRmax、T10%decGIRmax、T10%AUCGIR(1〜10時間)、T90%AUCGIR(0〜10時間)、インスリン作用持続時間、0から10時間までに投与したグルコースの合計量、ならびに相対的生物効力。
【0282】
安全なスクリーニングのために、対象に、各試験来所時に、あらゆる有害効果の出現、およびあらゆる併用薬物の使用についてルーチン的に質問した。肺機能検査(PRT)および血液学用血液試料を、スクリーニングの来所時、および試験後の健康診断の来所時、ならびに各処置の前および後(PFTのみ)に得た。バイタルサインを、投薬前および後の特定の時間点に測定した。心電図、血清生化学試験、および尿検査をスクリーニングの来所時および試験後の健康診断時に行った。
【0283】
各試験期間の間、血糖が所定のレベルに維持され、外因性に加えられたインスリンの薬力学的効果に対する代用マーカーとしても作用することを確実にするために、正常血糖クランプ法を用いた。インスリンおよびC−ペプチド濃度を測定するために、試験期間の経過の間の特定の時間点で血液試料を採取した。吸入のプロファイルをRHIIP投与の間に得、安全性試験をモニターした。安全性をモニターするために、バイタルサイン(呼吸、脈拍、体温、および血圧)、心電図、肺機能検査、血液学、および臨床化学を、試験の経過の間の特定の時間点に測定した。試験の間中、有害事象および併用薬物を記録した。
【0284】
RHIIPの吸入の耐容性は驚くほど良好であった。特に、RHIIPでの投薬の間、咳または息切れの発作は1回も起こらなかった。RHIIPは、皮下投与よりも速い作用の開始を示した(グルコース注入速度(GIR)曲線下の合計面積の10%に到達する時間は73±2分対95±3分であり、GIR−tmaxは173±13分対218±9分、p<0.0001であった)。作用の持続時間(371±11分対366±7分)および全体の代謝効果(GIR−AUC0〜1時間は2734±274mg/kg対2482±155mg/kgであった)は匹敵するものであった(図40)。薬物動態の結果はこれら薬力学的所見と一致していた:RHIIPはより速やかに吸収され(血清インスリンレベル(INS)曲線下の合計面積の10%に到達する時間は44±3分対66±3分、p<0.0001であった)、SCに比べて速やかに最大血清インスリンレベルに到達した(86±10分対141±12分、p=0.002)。RHIIPの相対的バイオアベイラビリティは12±2%であり、相対的生物効力は6±1%であった。
【0285】
以下の表は本試験において決定した薬物動態のパラメータの概要を表している。データは、無作為化した対象全てに対する、処置によるベースライン調整した薬物動態のパラメータ(平均±SE)を示す。薬物動態のデータを図41に図示するが、これはRHIIPで達成された血清インスリンレベルは、Actrapid(登録商標)SC投与で達成したものよりも高く、10時間のモニター期間を通して高いままであったことを示している。これらのデータは、RHIIP経口吸入投与はActrapid(登録商標)皮下投与と比べると、開始はより早く、吸収の持続時間は同様であることを示している。
【0286】
【数4】
以下の表は、本試験において決定した薬力学的のパラメータの概要を表す。データは、無作為化した対象全てに対する処置によって、ベースライン調整した薬力学的パラメータ(平均±SE)を示す。薬力学的データを図42にさらに図示する。
【0287】
【数5】
試験を通して、処置した対象に対して有害事象をモニターし、以下の表に処置−出現した有害事象を概要する。
【0288】
【数6】
本明細書に開示した球状インスリン粒子の、上気道への薬物送達用にデザインされた在庫品のDPIでの肺深部への送達は安全で効果的であった。RHIIPは、作用の開始が速く、とりわけデザインされた装置を用いて他の吸入インスリン製剤に対して報告されているものに匹敵するバイオアベイラビリティを示した。吸入インスリン投与では、吸入直後、または投薬後10時間のモニター期間を通して、咳または息切れいずれかの発生の報告はなかった。最も一般的な有害の発生は静脈炎であり、これはActrapid(登録商標)を投与した対象において見られ、RHIIPでは見られなかった。
【0289】
単回の6.5mg用量のRHIIPの経口吸入(実施例32に従って調製したもの)に対するベースライン調整した相対的バイオアベイラビリティは、単回10IUの皮下投与したインスリンの投薬に対して12%であると推定された。さらに、インスリン作用の持続期間はActrapid(登録商標)の皮下投与とRHIIPの肺投与の間では類似していたが、インスリン作用の開始はActrapid(登録商標)よりRHIIPが早かった。
【0290】
(実施例34)ビーグル犬におけるインスリン微小粒子の単回投与量吸入
インスリンミクロスフェアの薬物動態および相対的バイオアベイラビリティを、オスビーグル犬6頭における単回投与の顔面手技の吸入または皮下投与の後に評価した。乾燥粉末インスリンミクロスフェアを、動物1頭当たり0.6mgおよび動物1頭当たり1.6mgの投与量レベルの吸入によって投与し、Humulin(登録商標)インスリンを動物1頭当たり0.15mg(0.35U/kg)の皮下注射によって投与した。血清インスリンレベルを、Homeらが報告した等式1を用いてC−ペプチド補正した(Eur. J. Clin. Pharmacol.、55巻(1999年)、199〜203頁)。C−ペプチド補正されたインスリンデータにおけるあらゆる負の数を、WinNonlinPro(登録商標)バージョン4.1(Pharsight Corp.、Mountain View、CA)とともにノンコンパートメントモデルを用いる薬物動態の分析に対して0として扱った。
【0291】
両投与量の吸入投与により、血清インスリンレベルは10〜20分間増大した(図46)。その後血清濃度は低下し、見かけの二重指数関数的な濃度時間曲線がもたらされた。両投与量グループにおける血清インスリンの、見かけの分布体積および平均滞留時間は同様であった。図47は、投薬後10分から15分以内に血糖における著しい低下が観察されたことを示している。低血糖性のグルコースレベルは4時間維持された。
【0292】
投薬における3倍の増大とともに、投与量1.6mgにより、投与後13±5分(tmax)に24±10ng/mlの平均ピーク血清インスリンレベル(Cmax)がもたらされ、これは投与量0.6mgの濃度(投薬後12±4分に5±1.8ng/ml)より5倍大きく、0から無限大までの血清インスリンレベル時間曲線下の平均面積(AUC0〜∞)は1504±544ng/分/mlであり、これは投与量0.6mgの平均面積(411±93ng/分/ml)より4倍大きかった。これは、インスリンミクロスフェアの吸入後のインスリンへの全身的な曝露における増大の度合いは、投与した投与量における増大の度合いよりも大きかったことを示していた。投与量1.6mgでは、平均残留時間(MRT)は77±22分、見かけの排出半減期(t1/2)は67±22分であり、投与量0.6mgのもの(それぞれ94±22分および67±13分)に匹敵した。皮下インスリンと比べた、投与量1.6mgの相対的バイオアベイラビリティは40%に近く(39%)、投与量0.6mgの相対的バイオアベイラビリティは30%に近かった(29%)。相対的に、皮下注射はCmax3.8±1.0ng/ml、tmax58±26分、およびt1/232±6分をもたらした。これは、インスリンミクロスフェア吸入製剤は、皮下投与に比べて、インスリンを身体に送達する点で速く(tmaxが短く)、インスリンを身体により長く留まらせる(t1/2が長い)ことを示していた。
【図1A】
【図1B】
【技術分野】
【0001】
本出願は、小球形インスリン粒子の使用によるインスリンの肺送達に関する。
【背景技術】
【0002】
生体高分子のナノ粒子および微小粒子の製造には、これまでいくつかの手法が使用されてきた。従来の手法としては、粒子形成のための噴霧乾燥および粉砕が挙げられ、そのような手法を用いて5μm以下のサイズの粒子を作製できる。
【0003】
標準的な作製方法により作製される微小粒子は、多くの場合、粒子サイズ分布が広く、均一性に欠け、適切な放出動態をもたらすことができず、作製するには困難で高価である。多くの場合、このようなミクロスフェアを調製するために使用されるポリマーは主に有機溶媒中で溶解するため、有機溶媒を扱うように設計された特別な設備を使用する必要がある。有機溶媒は、ミクロスフェア中に含有されるタンパク質またはペプチドを変性させる恐れがあり、環境にとっても有毒で炎症を引き起こす原因となる可能性があり、同様に、ヒトまたは動物に投与した際に有毒である可能性もある。加えて、微小粒子は大きいことがあり凝集塊を形成しがちであるため、注入または吸入により患者に投与するには大きすぎると考えられる粒子を除去するためのサイズ選別プロセスが必要となる。これにはふるい分けが必要であり、その結果、製品ロスが生じる。
【0004】
参照によりその開示内容全体が本明細書に組み込まれる特許文献1、特許文献2および特許文献3には、タンパク質の等電点またはその付近のpHの水溶液中で巨大分子(タンパク質またはペプチドなど)と高分子とを合わせることにより形成されるミクロスフェアについての記載がある。この溶液を加熱して、タンパク質含有量が40%を上回るミクロスフェアを調製する。このようにして形成されたミクロスフェアは、実質的に均質なタンパク質のマトリックスと、水性媒体を入り込ませてミクロスフェアの成分を可溶化させる多様な量のポリマーとを含む。ミクロスフェアは、短期または長期の放出動態を呈するように設計されることで、急速放出または持続放出いずれかの特徴をもつことができる。
【0005】
特許文献4は、タンパク質の液状溶液を霧状にしてからその液滴を乾燥させ、その結果得られる粒子を回収することにより生体タンパク質の粉末を調製するプロセスに関する。このプロセスにおいて使用できると報告されている生体タンパク質としては、インスリンおよびカルシトニンが挙げられる。
【0006】
微小粒子、ミクロスフェアおよび微小カプセルは、直径が1ミリメートル未満、より好ましくは100ミクロン未満、最も好ましくは10ミクロン未満の固体または半固体の粒子であり、そのような粒子は、タンパク質、合成ポリマー、多糖およびそれらの組合せなど様々な材料で形成できる。ミクロスフェアは、多くの異なる用途、主に、分離、診断および薬物送達において使用されている。
【0007】
分離手法において使用されるミクロスフェアの最もよく知られた例は、ポリアクリルアミド、ヒドロキシアパタイトまたはアガロースなど合成または天然源いずれかのポリマーから形成されるものである。薬物の制御送達分野においては、分子は多くの場合、小球形粒子中に組み込まれるか、もしくはその内部に封入され、または、後から放出されるように、一体化したマトリックス中に組み込まれる。合成ポリマー、天然ポリマー、タンパク質および多糖からこのようなミクロスフェアを作製するには、相分離、溶媒蒸発、コアセルベーション、乳化および噴霧乾燥などいくつかの異なる手法が慣例的に使用される。一般に、ポリマーは、このようなミクロスフェアの支持構造を形成し、関心薬物は、このポリマー構造中に組み込まれる。
【0008】
標的薬物を封入するために脂質を使用して調製される粒子は、広く入手できる。リポソームは、単一もしくは複数のリン脂質および/またはコレステロール二重層から構成される球形粒子である。リポソームは、サイズが100ナノメートル以上であり、様々な水溶性または脂溶性の薬物を保持できる。例えば、Sinil Kimに交付された特許文献5に記載のように、複数の水性区画を取り囲む二重層膜の形で並んで粒子を形成する脂質を使用して、後で放出するための水溶性薬物を封入してもよい。
【0009】
インスリンの肺送達は、いくつかの試験において使用されている。肺送達は、多数のクラスの医薬を送達するための優れたアプローチである。集合体である肺表面が拡張することから、送達された医薬の血流への急速で有効な輸送にとって、肺組織は理想的である。しかしながら、医薬の肺送達には必ず欠点が伴う。最近、糖尿病の肺合併症が報告された。この疾患は肺炎および吸引のリスク増加を伴うこと、自律神経障害は睡眠中の呼吸障害だけでなく呼吸困難に対する知覚の低下を伴うこと、ならびに、糖尿病に罹患している人の肺には、コラーゲンおよびエラスチンの増加または異常が原因で構造的異常がある場合があることが述べられているが、全て特徴的に、潜在性の肺機能不全につながっている。(Hsiaら、Symposium:Pulmonary delivery of insulin.American Diabetes Associationの第63回Scientific Sessionsのプログラムおよび抄録、2003年6月13〜17日、New Orleans、Louisiana)。加えて、高血糖の対象においては、膜拡散能がとりわけ低下していることが示されている。2型糖尿病においては、初期の肺機能は正常に見えるが拡散能は低下しており、このことは、運動時にとりわけ明白である。様々な試験から、吸入用のインスリンは、抗原性であり、抗体を増やし、CD4T細胞応答を低下させ、1型糖尿病モデルにおいては抗糖尿病原性のCD8γ−δT細胞につながる場合があることが示された。これまでに提案されてきたインスリン肺送達法に伴うこのような合併症は、息切れ、咳の原因となり、ひいては患者コンプライアンスの低さの原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,981,719号明細書
【特許文献2】米国特許第5,849,884号明細書
【特許文献3】米国特許第6,090,925号明細書
【特許文献4】米国特許第6,051,256号明細書
【特許文献5】米国特許第5,422,120号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、インスリンベースの微小粒子、とりわけ、肺用の薬物送達系における使用に適応できるものを作製するための新しい方法の開発には、明確な必要性がある。有用性の観点から最も望ましいインスリン粒子は、以下の特徴を有する小球形粒子であると考えられる:狭いサイズ分布、実質的に球形、実質的に賦形剤を含まない(例えば、活性剤のみからなる)、インスリンの生化学的な完全性および生物学的活性の保持、ならびに、高いバイオアベイラビリティおよび生物効力。この粒子は、コーティングまたは微小カプセル化により、粒子をさらに安定化させると考えられる適当な固体となるべきである。さらに、この小球形粒子の作製の方法は、以下の望ましい特徴を有すると考えられる:作製が簡単であること、本質的に水性のプロセス、高収率、および、後でふるい分けする必要がないこと。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書には、肺施用の可能性が向上しているインスリン粒子組成物と、そのような組成物を形成および使用する方法とが記載される。このような組成物をヒトの健常男性対象において使用すると、インスリン用量6.5mgの球形インスリン粒子の単回肺投与の際、投与直後も、投薬後10時間にわたる間も、いずれも咳は観察されなかった。
【0013】
本出願中の例では、ある用量のインスリンを含む粉末を含む、粉末ディスペンサーを介してインスリンを肺送達するための組成物であって、該粉末は固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になり、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有する組成物を記載する。
【0014】
いくつかの例では、この固体で小球形のインスリン微小粒子の密度は、約0.50から約1.5g/cm3である。
【0015】
いくつかの例では、この固体で小球形のインスリン微小粒子の密度は、0.75g/cm3超である。
【0016】
さらに他の例では、この固体で小球形のインスリン微小粒子の密度は、0.85g/cm3超である。
【0017】
特定の実施形態では、この固体で小球形の微小粒子が、該固体で小球形の粒子の安定性を高め、該固体で小球形の粒子の制御放出をもたらし、または該固体で小球形の粒子の生体組織を通る透過を高めるための賦形剤をさらに含み、該賦形剤が該微小粒子中に5重量%未満存在している組成物が提供される。
【0018】
いくつかの例では、賦形剤は、炭水化物、陽イオン、陰イオン、アミノ酸、脂質、脂肪酸、界面活性剤、トリグリセリド、胆汁酸またはその塩、脂肪酸エステルおよびポリマーからなる群より選択される。
【0019】
ある態様では、陽イオンは、Zn2+、Mg2+およびCa2+からなる群より選択される。陽イオンは、Mn2+、Na+、Ba2+、K+、Co2+、Cu2+、Fe2+、Fe3+、Al3+およびLi+など別の無機陽イオンであってもよい。
【0020】
いくつかの例では、この小球形の微小粒子の少なくとも90%は、約0.01μmから約5μmの間のサイズを有する。
【0021】
他の例では、この小球形の微小粒子の少なくとも90%は、約0.1μmから約5μmの間のサイズを有する。さらに他の例では、この小球形の微小粒子の少なくとも90%は、約1μmから約3μmの間のサイズを有する。
【0022】
本明細書に記載の組成物では、狭いサイズ分布は、この小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径(volume diameter)対10パーセンタイルの体積粒径の比率が約5.0以下であることを含む。
【0023】
特定の例では、インスリンは、微小粒子の質量の約95%から約100%を形成できる。他の例では、この微小粒子は、インスリンを約99重量%超含むミクロスフェアである。
【0024】
この小球形粒子は、半晶質でも非晶質でもよい。
【0025】
特定の組成物は、中に界面活性剤を含まないことが企図される。
【0026】
他の組成物では、組成物は、賦形剤を含まず、インスリンミクロスフェアのみを含有することを特徴とする。
【0027】
粉末ディスペンサーと接続して使用するための保持部材を備える粉末ディスペンサーを介してインスリンを肺送達するための組成物であって、該保持部材は、固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になる粉末を保持し、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有する組成物も記載される。
【0028】
そのような組成物では、この固体で小球形のインスリン微小粒子の密度は、約0.50から約1.5g/cm3である。
【0029】
好ましくは、この固体で小球形のインスリン微小粒子の密度は、0.75g/cm3超である。
【0030】
いくつかの例では、この固体で小球形のインスリン微小粒子の密度は、0.85g/cm3超である。
【0031】
いくつかの例では、この固体で小球形の微小粒子が、該固体で小球形の粒子の安定性を高め、該固体で小球形の粒子の制御放出をもたらし、または該固体で小球形の粒子の生体組織を通る透過を高めるための賦形剤をさらに含み、該賦形剤が該微小粒子中に5重量%未満存在していることが企図される。
【0032】
別の例では、この組成物は、炭水化物、陽イオン、陰イオン、アミノ酸、脂質、脂肪酸、界面活性剤、トリグリセリド、胆汁酸またはその塩、脂肪酸エステルおよびポリマーからなる群より選択される賦形剤を含むようなものである。
【0033】
陽イオンは、Zn2+、Mg2+およびCa2+からなる群より選択される。陽イオンは、Mn2+、Na+、Ba2+、K+、Co2+、Cu2+、Fe2+、Fe3+、Al3+およびLi+などの別の無機陽イオンであってもよい。
【0034】
ある例では、この小球形の微小粒子の少なくとも90%は、約0.01μmから約5μmの間のサイズを有する。
【0035】
他の例では、この小球形の微小粒子の少なくとも90%は、約0.1μmから約5μmの間のサイズを有する。
【0036】
さらに他の例では、この小球形の微小粒子の少なくとも90%は、約1μmから約3μmの間のサイズを有する。
【0037】
この組成物が、小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径対10パーセンタイルの体積粒径の比率が約5.0以下であることを含む狭いサイズ分布を有するいくつかの例がある。
【0038】
いくつかの例では、インスリンは、微小粒子の約95重量%から約100重量%である。いくつかの例では、この微小粒子は、インスリンを約99重量%超含むミクロスフェアである。
【0039】
この小球形粒子は、半晶質または非晶質であってもよいことが企図される。固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になる粉末ディスペンサー用の特定の組成物において、この組成物は界面活性剤を含まない。他の実施形態では、この組成物は、賦形剤を含まず、インスリンミクロスフェアのみを含有する。
【0040】
さらに、インスリンを対象の肺系に投与する方法であって、対象の血清インスリンレベルまたは対象の血清グルコースレベルまたはその両方において変化を生じさせるのに有効な量の請求項1に記載の組成物を肺系に投与することを含み、該組成物の投与が、吸入時に対象において咳を生じさせない方法も企図される。
【0041】
別の例は、ある用量のインスリンを含む粉末を含む、インスリンを肺送達するための組成物であって、該粉末は固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になり、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有し、インスリン用量6.5mgでの肺投与の際に健常男性対象において咳を生じさせない組成物を指向している。
【0042】
さらに、インスリンを対象の肺系に投与する方法であって、治療を必要とする対象の気道に有効量の請求項1に記載の組成物を投与することを含み、該組成物の該投与が、吸入時に対象において息切れを生じさせない方法も企図される。
【0043】
そのような方法においては、該投与は、好ましくは、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも10%の、インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす。
【0044】
そのような方法における他の例では、該投与は、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも10%の、インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす。他の例では、該投与は、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも12%の、インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす。さらに他の例では、そのような方法においては、該投与は、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも15%の、インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす。
【0045】
他の態様では、本出願は、本明細書に記載の組成物を対象の肺系に投与することを含む、対象においてインスリンの肺深部堆積を達成することを企図する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1a】インスリン出発材料の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を示す図である。
【図1b】小球形インスリン粒子のSEMを示す図である(実施例4)。
【図2】インスリンを小球形粒子に調製した場合の全体的な化学的安定性の維持を示すHPLC分析を示す図である。
【図3】バッチごとの再現性を実証する図である。
【図4】バッチごとの再現性を実証する図である。
【図5】実施例3における小球形インスリン粒子を作製するためのプロセスを通した連続流の概略図を示す図である。
【図6】実施例3におけるプロセスを通した連続流によって生成される小球形インスリン粒子の走査型電子顕微鏡写真(10Kvおよび倍率6260×)を示す図である。
【図7】実施例3におけるプロセスを通した連続流によって調製された、溶解した小球形インスリン粒子のHPLCクロマトグラフを示す図である。
【図8A】インスリンの溶解性に対する塩化ナトリウムの効果を実証する図である。
【図8B】インスリンの溶解性に対する塩化ナトリウムの効果を実証する図である。
【図8C】インスリンの溶解性に対する塩化ナトリウムの効果を実証する図である。
【図8D】インスリンの溶解性に対する塩化ナトリウムの効果を実証する図である。
【図8E】インスリンの溶解性に対する様々な塩の効果を実証する図である。
【図8F】インスリンの溶解性に対する様々な塩の効果を実証する図である。
【図8G】インスリンの溶解性に対する様々な塩の効果を実証する図である。
【図8H】インスリンの溶解性に対する様々な塩の効果を実証する図である。
【図8I】原材料のインスリン、小球形粒子から放出されたインスリン、および小球形粒子におけるインスリンのラマンスペクトルを示す図である。
【図9】実施例10の放射標識したインスリンに対するAnderson Cascade Impactorの結果を示す図である。
【図10】実施例8に対するP/I比の棒グラフを示す図である。
【図11】実施例8からの肺のシンチグラフィー画像を示す図である。
【図12】TSI Corporation Aerosizerの粒子サイズデータのプロットを示す図である。
【図13】HFA−134aにおけるインスリンの安定性データを示すチャートである。
【図14】3つの吸入装置を用いたインスリンの空気力学的性能を比べるチャートを示す図である。
【図15】25℃および37℃で貯蔵したインスリン出発材料に比べた、小球形インスリン粒子の安定性データのチャートを示す図である。
【図16】25℃および37℃で貯蔵したインスリン出発材料に比べた、小球形インスリン粒子の安定性データのチャートを示す図である。
【図17】25℃および37℃で貯蔵したインスリン出発材料に比べた、小球形インスリン粒子の安定性データのチャートを示す図である。
【図18】25℃および37℃で貯蔵したインスリン出発材料に比べた、小球形インスリン粒子の安定性データのチャートを示す図である。
【図19】25℃および37℃で貯蔵したインスリン出発材料に比べた、小球形インスリン粒子の安定性データのチャートを示す図である。
【図20】25℃および37℃で貯蔵したインスリン出発材料に比べた、小球形インスリン粒子の安定性データのチャートを示す図である。
【図21】Cyclohaler DPIを用いたインスリンの空気力学的安定性の棒グラフを示す図である。
【図22】連続的な乳化リアクターの略図を示す図であり、図22Aは、表面の有効化合物を乳化前に連続相または分散相に加えた場合の連続的な乳化リアクターの略図であり、図22Bは、表面の有効化合物を乳化後に加えた場合の連続的な乳化リアクターの略図である。
【図23】PLGAカプセル化した小球形インスリン粒子のIVRプロファイルに対する連続相のpHの影響を説明する図である(実施例14)。
【図24】カプセル化したINSmsにおけるINSダイマーの形成に対する微小カプセル化の変数(連続相およびマトリックス材料のpH)の効果を説明する図である(実施例15)。
【図25】カプセル化したINSmsにおけるHMW種の形成に対する微小カプセル化の変数(連続相およびマトリックス材料のpH)の効果を説明する図である(実施例15)。
【図26】ラットにおける、非カプセル化の、およびカプセル化した、予め作製した小球形インスリン粒子からの組換えヒトインスリンのin vivoの放出を説明する図である(実施例16)。
【図27】レーザー光散乱Coutler LS230によって測定した粒子サイズを示す図である。インスリンミクロスフェアの95%は0.95ミクロンと1.20ミクロンの間である。
【図28】TSI Aerosizer(Model322500、St.Paul、Minn)を用いて測定した空気力学的直径を示す図である。
【図29】Aerolizer DPI(JM032701C)から送達されたインスリン10mgでのAndersen Cascade Impactor試験を示す図である。
【図30】HFA P134aおよびHFA P227を含むバイアルから送達されたインスリンでのin vitroのAndersen Cascadeインパクション試験を示す図である。
【図31】SCラットにおけるインスリンミクロスフェアのSC注射後のグルコース抑制を示す図である。
【図32】インスリンミクロスフェアの気管内注入後のグルコース抑制を示す図である。
【図33】懸濁液の安定性を比較する図である。
【図34】イヌの肺におけるTC−99mインスリンの肺分布を示す図である。
【図35】含量および関連物質に対するアッセイ(USP)を示す図である。
【図36】充填後1週間および4ヶ月のMDI活性の比較を示す図である。
【図37】DPIによるイヌへのインスリンミクロスフェアの投与を示す図である。
【図38】MDIからのインスリンミクロスフェアの排出投与量のパーセントを示す図である。
【図39】HFA P134aにおけるインスリン安定性を示す図である。
【図40】ヒト対象における組換えヒトインスリンの、吸入と皮下投与の間のグルコース注入速度プロファイルを平滑化したものの平均を示す図である。
【図41】Actrapid(登録商標)投与と比べたRHIIP投与の薬物動態のプロファイルを示す図であり、RHIIPは、Actrapid(登録商標)皮下投与に比べて活性の開始が早く、吸収の持続期間が同様であることを実証している。
【図42】Actrapid(登録商標)投与と比べたRHIIP投与の薬力学的プロファイルを示す図である。
【図43】実施例33においてそのチャンバーに配置した透明カプセル(Vcaps(商標)、サイズ3)と用いたCyclohaler(商標)DPI装置を示す図である。カプセル(白色固体)に充填した球形インスリン粒子が明瞭に見える。
【図44】25℃、相対湿度60%の密封容器中に貯蔵した、A−21デスアミドインスリンのピーク面積%、およびPROMAXXインスリンミクロスフェアの高分子量生成物(ほとんどがインスリンのダイマー)のピークを示す図である。
【図45】水分含量を様々なレベルに維持した、様々な温度で8ヶ月間貯蔵したPROMAXXインスリンミクロスフェアの排出投与量の平均%を示す図である。
【図46】実施例34に記載する処置後に由来するビーグル犬における経時の血清インスリンレベルを示す図である。
【図47】実施例34に記載する処置に起因するビーグル犬における経時の血清グルコースレベルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
吸入用インスリンは、特別に開発された吸入器を用いて通常送達されるが、吸入器は多くの場合相当に大きく、取扱いが常に容易とは限らない。本出願では、本明細書で開示する組換えヒトインスリンの吸入用粉末(RHIIP)を用いてヒトを治療できることを実証する。本出願は、比較的小さい市販の乾燥粉末吸入器(DPI)を用いて投与できる均一なインスリンミクロスフェアの形成を開示するものである。
【0048】
本明細書に記載の試験において使用するインスリンの吸入用粉末は、他者がこれまで実施してきた肺投与試験とは異なり、製剤を投与された対象において吸入直後に咳または息切れを生じさせないことを示した。事実、この吸入用インスリンは、さらに、RHIIPを最初に吸入した後10時間にわたるモニターの間、咳または息切れのいずれも生じさせなかった。文献中で報告される他の吸入用インスリン粉末の臨床使用は、投薬時の咳の発生に妨げられてきた。この事象は望ましくなく、その理由は、吸入中または吸入直後の咳(激しい呼気)は、粉末が肺深部に達する前に用量の一部が吐き出される原因となりかねないからである。インスリンの場合、この結果、薬物の過少投与となる。咳事象は、任意の粉末の吸入の結果である望ましくない副作用として一般に受け取られている。驚くべきことに、本明細書で開示する臨床試験の結果は、咳応答を誘発する可能性が低下している吸入用インスリン粉末製品を作製することが可能であることを示唆する。送達されたインスリン粉末の質量は他の試験と同様であったことから、咳が生じないことが粉末の質量のみで説明されるとは思われない。以下の説明に限定されることを望むものではないが、1つの説明は、本明細書で開示する球形インスリン粒子は、他の調製物が含有する増量剤(マンニトールなど)、または賦形剤のマトリックスを含有せず、咳を引き起こすのはインスリン以外の原料である可能性があるのではないかということである。別の説明は、本明細書で開示する球形インスリン粒子は、肺表面と接触すると非常に速やかに溶解すると考えられるため、咳応答が誘発されないのではないかということである。
【0049】
本明細書で開示する球形インスリン粒子の別の特徴は、哺乳動物対象(例えば、ヒトおよびイヌ)にこれらの粒子を投与する結果、対象において驚くほど高いバイオアベイラビリティがもたらされることである。吸入用インスリンのバイオアベイラビリティは、皮下用量の10%を超えないと一般には考えられる。本明細書で開示する臨床試験においては、観察されたバイオアベイラビリティは、乾燥粉末吸入器から標的用量を摂取した対象については驚くほど高かった。ヒトにおいては30%前後のバイオアベイラビリティが観察され、平均のバイオアベイラビリティは10%超であった。他の哺乳動物(例えばイヌ)においても、これに匹敵するバイオアベイラビリティが観察された。特定の実施形態では、本明細書で開示する組成物により、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%またはそれを超える、対象におけるインスリンのバイオアベイラビリティがもたらされる。本明細書に記載の例は、このような特定の整数の間の任意の範囲を企図する。この球形インスリン粒子は、賦形剤マトリックスを含まず、投与されると速やかに溶解するが、そのいずれの特徴も、肺胞膜を通過する、より効率的なインスリン輸送にとって好都合である。加えて、本明細書で開示する球形インスリン粒子の空気力学的特性も、溶解したインスリンが容易に吸収される主要な部位である肺深部への高率(%)の放出用量の到達にとって好都合である。
【0050】
さらに、本明細書で開示する吸入用インスリン組成物を使用した場合の、肺深部中での球形インスリン粒子の堆積濃度は予想より実際に高かったことが見出される。文献では、肺深部への最適な送達は、幾何学的直径は大きいがMMADはほぼ1μmである低密度の粒子の場合に生じると述べられている。高密度の小さな粒子は互いに貼り付き、DPIから分散するには非現実的に高いエネルギーを必要とすると考えられることから、ほぼ1の幾何学的直径を有する密度が高めの粒子は、送達効率に乏しいと思われる。このバイオアベイラビリティデータは、本出願の球形インスリン粒子の肺深部への送達が、文献中で報告される他の設計された粒子調製物と少なくとも同程度に効率的であったことを示唆するものであり、これは驚くべきことである。以下の説明に限定されることを望むものではないが、1つの説明は、本明細書で開示する球形インスリン粒子はわずかに接着性の表面のみを有していて凝集しない傾向があり、低エネルギーの簡単な乾燥粉末吸入器具により1ミクロン前後の主要な球形インスリン粒子が容易に分散されるのではないかということである。簡単な器具からの有効な分散に加え、本明細書で開示する球形インスリン粒子は、ヒトの肺の環境中でより効率的な空気力学的特徴を有することが可能と考えられる。
【0051】
本明細書に記載のインスリンミクロスフェアは、さらに、周囲温度での改善された予想外の保存安定性も呈する。本明細書で開示する球形インスリン粒子組成物は、先行技術において提案された肺用タンパク質製剤、特に、薬物の組込みを界面活性剤およびエマルション法に頼ってきた製剤と比較して顕著に改善された特徴を呈する。加えて、本明細書で開示する球形インスリン粒子は、噴霧乾燥または製粉のプロセスを必要とせずに調製される。
【0052】
一例では、タンパク質またはポリペプチド(「タンパク質」と総称される)を含有する複数の微小粒子(例えばミクロスフェア)と、噴射剤(例えば、ヒドロフルオロアルカン(HFA)噴射剤)とを含む微小粒子組成物が提供される。この組成物の微細粒子率は、25%から100%の範囲である。とりわけ好ましい実施形態では、この微小粒子は、タンパク質含有量がミクロスフェアの総質量の20から100%の範囲であるミクロスフェアである。一般に、治療用のタンパク質またはペプチドの肺への肺送達に有用な微小粒子(例えばミクロスフェア)の直径は、約0.lμから約10μの範囲(いくつかの用途の場合は0.lμから5μ、他の用途の場合は0.1μから3μ)であり、密度は約0.6gm/ccから約2.5gm/cc(より好ましくは0.6gm/ccから1.8gm/cc、最も好ましくは1.2gm/ccから1.7gm/cc)の範囲である。いくつかの好ましい実施形態では、ミクロスフェアのタンパク質含有量は、ミクロスフェアの少なくとも40重量%(より好ましくは、少なくとも50%、60%、70%または80%、最も好ましくは、少なくとも90%、95%または100%)である。
【0053】
本明細書で使用する場合、用語「微小粒子」は、幾何学的直径または空気力学的直径が100ミクロン未満、より好ましくは10ミクロン未満であり、合成ポリマー、タンパク質および多糖など様々な材料から形成できる固体または半固体の粒子である微小粒子、ミクロスフェアおよび微小カプセルを指す。合成ポリマー、天然ポリマー、タンパク質および多糖からこのような微小粒子を作製するには、相分離、溶媒蒸発、乳化および噴霧乾燥を含め、いくつかの異なる手法が慣用的に用いられる。ミクロスフェアの形成に使用される例示的なポリマーとしては、Ruizに交付された米国特許第5,213,812号、Reidらに交付された米国特許第5,417,986号、Ticeらに交付された米国特許第4,530,840号、Ticeらに交付された米国特許第4,897,268号、Ticeらに交付された米国特許第5,075,109号、Singhらに交付された米国特許第5,102,872号、Boyesらに交付された米国特許第5,384,133号、Ticeらに交付された米国特許第5,360,610号およびSouthern Research Instituteに交付された欧州特許出願公開第248,531号に記載のような、乳酸とグリコール酸とのホモポリマーおよびコポリマー(PLGA);Iliumに交付された米国特許第4,904,479号に記載のようなテトロニック908およびポロキサマー407などのブロックコポリマー;およびCohenらに交付された米国特許第5,149,543号に記載のようなポリホスファゼンが挙げられる。
【0054】
本明細書で使用する場合、用語「ミクロスフェア」は、形状が実質的に球形であり寸法が一般に直径約0.1ミクロンから10.0ミクロンの間の微小粒子を指す。本明細書で開示するミクロスフェアは、狭いサイズ分布を典型的に呈し、不連続な粒子として形成される。ミクロスフェアを形成する例証的な方法を追って記載する。
【0055】
本明細書で使用する場合、「水溶液」は、水のみの溶液、または、エタノール、DMSO、アセトンN−メチルピロリドンおよび2−ピロリドンなど1つまたは複数の水混和性の溶媒と混合された水溶液を指すが、好ましい水溶液は、検出可能な有機溶媒を含有しない。
【0056】
特定の実施形態では、小球形インスリン粒子組成物の作製方法および使用方法が本明細書で開示される。この作製方法によれば、溶解された相分離促進剤を含有する溶媒中に原材料(例えばZn−インスリン結晶)を溶解させて、単一液体の連続相である溶液を形成する。この溶媒は、好ましくは水性または水混和性の溶媒である。次に、例えば溶液の温度を下げることによってこの溶液を相転移に供し、これにより、溶解されたインスリンは液体−固体相分離を経て、相分離促進剤が連続相中に残っている間に、不連続相を構成する小球形インスリン粒子の懸濁液を形成する。
【0057】
相:
連続相:小球形インスリン粒子を調製する方法は、単一液相中の第1の溶媒中に活性剤と相分離促進剤とが溶解している溶液を供給することから始まる。この溶液は、有機溶媒、または、混和性の有機溶媒の混合物を含む有機系であってもよい。この溶液は、さらに、水性媒体、または、水混和性の有機溶媒、または、水混和性の有機溶媒の混合物、またはそれらの組合せを含む水ベースの溶液であってもよい。水性媒体は、水、普通の生理食塩水、緩衝溶液、緩衝生理食塩水などであってもよい。
【0058】
適当な水混和性の有機溶媒としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:N−メチル−2−ピロリジノン(N−メチル−2−ピロリドン)、2−ピロリジノン(2−ピロリドン)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、酢酸、乳酸、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、3−ペンタノール、n−プロパノール、ベンジルアルコール、グリセロール、テトラヒドロフラン(THF)、PEG−4、PEG−8、PEG−9、PEG−12、PEG−14、PEG−16、PEG−120、PEG−75、PEG−150、ポリエチレングリコールエステル、ジラウリン酸PEG−4、ジラウリン酸PEG−20、イソステアリン酸PEG−6、パルミトステアリン酸PEG−8、パルミトステアリン酸PEG−150、ポリエチレングリコールソルビタン、イソステアリン酸PEG−20ソルビタン、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、PEG−3ジメチルエーテル、PEG−4ジメチルエーテル、ポリプロピレングリコール(PPG)、アルギン酸ポリプロピレン、PPG−10ブタンジオール、PPG−10メチルグルコースエーテル、PPG−20メチルグルコースエーテル、PPG−15ステアリルエーテル、プロピレングリコールジカプリレート/ジカプレート、ラウリン酸プロピレングリコールおよびグリコフロール(テトラヒドロフルフリルアルコールポリエチレングリコールエーテル)、またはその組合せ。
【0059】
この単一連続相は、第1の溶媒中で溶解性であるか該溶媒と混和性であるかいずれかの相分離促進剤の溶液をまず供給することにより調製できる。これに続き、この溶液にインスリンを加える。インスリン結晶もしくは他のインスリン固体を溶液に直接加えてもよく、または、インスリンの結晶もしくは他の固体を第2の溶媒中でまず溶解させてから、溶液に一緒に加えてもよい。第2の溶媒は、第1の溶媒と同じ溶媒であってもよく、または、上のリストから選択され、この溶液と混和性の別の溶媒であってもよい。インスリンの結晶または他の固体を周囲温度以下または上昇した温度の溶液に加えてもよいが、ただし、インスリンはあまり分解せずに溶液中で溶解されることが好ましい。「周囲温度」が意味するのは、約20℃から約40℃の室温前後の温度である。
【0060】
相分離促進剤:相分離促進剤(PSEA)は、溶液を相分離に供したときに溶液からの活性剤の液体−固体相分離を促進または誘発するものであり、相分離においては、相分離促進剤が連続相中に溶解された状態で残っている間に、溶解された活性剤分子が集合して、不連続相としての小球形インスリン粒子の懸濁液を形成する。相分離促進剤は、溶液が相分離条件に供されると、溶解された活性剤を難溶化する。適当な相分離促進剤としては、当該溶液と溶解性または混和性であるポリマーまたはポリマー混合物が挙げられるが、これらに限定されない。適当なポリマーの例としては、直鎖状または分枝状のポリマーが挙げられる。このようなポリマーは、水溶性、半水溶性、水混和性または難溶性であってもよい。
【0061】
使用できる水溶性または水混和性のポリマーの種類としては、炭水化物ベースのポリマー、多価脂肪族アルコール、ポリ(ビニル)ポリマー、ポリアクリル酸、ポリ有機酸、ポリアミノ酸、コポリマーおよびブロックコポリマー(例えば、Pluronics F127またはF68などのポロキサマー)、ターポリマー、ポリエーテル、天然に存在するポリマー、ポリイミド、ポリマー界面活性剤、ポリエステル、分枝状ポリマー、環状ポリマーおよびポリアルデヒドが挙げられる。
【0062】
好ましいポリマーは、多様な分子量のポリエチレングリコール(PEG)(PEG200、PEG300、PEG3350、PEG8000、PEG10000、PEG20000など)、Pluronics F127またはPluronics F68などのポロキサマー、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシエチルデンプン、および他の両親媒性ポリマーなど、単独で、または、その2つ以上の組合せで使用される、意図した経路で活性剤粒子を投与するための医薬品添加物として許容されるものである。相分離促進剤は、プロピレングリコールとエタノールとの混合物などの非ポリマーであってもよい。
【0063】
液体−固体相分離:溶液中の溶解された活性剤の液体−固体相分離は、温度変化、圧力変化、pH変化、溶液のイオン強度変化、溶解された活性剤の濃度変化、相分離促進剤の濃度変化、溶液のオスモル濃度変化、これらのうち2つ以上の組合せなど、当技術分野で公知の任意の方法により誘発させることができる。
【0064】
好ましい一実施形態では、相転移は、活性剤の球形粒子が形成されて溶液中に懸濁可能に分散されるように溶液の温度を下げることによる温度誘発型の相転移である。用語「溶液中に懸濁可能に分散される」は、微小粒子は形成されたばかりのときは懸濁液中にあるが、容器(バッチプロセス)の底に容易に沈む(数分以内)ことを表すために本明細書で使用する。しかし、微小粒子は、中程度の機械力(例えば振ること)で簡単に再懸濁させることができる。したがって、このような粒子は、溶液中に懸濁可能に分散されているとして本明細書に記載される。
【0065】
このポリサーマルプロセスでは、冷却速度を制御して、微小粒子のサイズおよび形状を制御できる。典型的な冷却速度は、0.01℃/分から600℃/分(0.05℃/分、0.1℃/分、0.2℃/分、0.5℃/分、1℃/分、5℃/分、10℃/分、20℃/分、30℃/分、40℃/分、50℃/分、60℃/分、70℃/分、80℃/分、85℃/分、90℃/分、95℃/分、100℃/分、150℃/分、200℃/分、250℃/分、300℃/分、350℃/分、400℃/分、450℃/分、500℃/分など)、または、このような任意の値の間の範囲で制御される。変化の速度は、一定または線形の速度、非線形速度、断続的な、またはプログラム化された速度(多段階のサイクルを有する)であってもよい。
【0066】
この微小粒子は、追って論ずるように、溶液中でPSEAから分離してから、洗浄により精製できる。
【0067】
凝固点が比較的高いか、または、微小粒子が形成される前に凝固が生じる溶液の場合、そのような溶液は、系の凝固点を下げることで系を凝固させることなく系中の相転移を可能にする、プロピレングリコール、ショ糖、エチレングリコール、アルコール(例えば、エタノール、メタノール)などの凝固点降下剤、または、凝固点降下剤の水性混合物を含んでもよい。このプロセスは、温度が系の凝固点未満に低下するように実施することもできる。
【0068】
任意選択的な賦形剤:本出願の微小粒子は、活性剤を分散させるマトリックスを形成しない量で1つまたは複数の賦形剤を含んでもよい。賦形剤は、粒子もしくは活性剤の安定性向上、粒子からの活性剤の制御放出、または活性剤の生体組織通過性改良などの追加的な特徴を、活性剤または粒子にもたせてもよい。適当な賦形剤としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:炭水化物(例えば、トレハロース、ショ糖、マンニトール)、陽イオン(例えば、Zn2+、Mg2+、Ca2+)、陰イオン(例えばSO42−)、アミノ酸(例えばグリシン)、脂質、リン脂質、脂肪酸、界面活性剤、トリグリセリド、胆汁酸またはその塩(例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸またはその塩などの、コール酸またはその塩)、脂肪酸エステル、および、例えばPSEA’sとして機能する濃度未満で溶液中に存在するポリマー。
【0069】
粒子の分離および洗浄:本出願の好ましい一実施形態では、小球形粒子は、溶液中で相分離促進剤から分離することにより回収される。さらに別の好ましい実施形態では、分離の方法は、小球形粒子を含有する懸濁可能な分散物を、その中では活性剤粒子は溶解性ではないが相分離促進剤は溶解性である液体媒体で洗浄することによる。洗浄のいくつかの方法は、ダイアフィルトレーションまたは遠心分離によるものであってもよい。この液体媒体は、水性媒体または有機溶媒であってもよい。水溶性が低い活性剤粒子の場合、液体媒体は、二価陽イオンなど、活性剤粒子の水溶性を低下させる作用剤を場合により含有する水性媒体であってもよい。水溶性の高い活性剤の場合は、硫酸アンモニウムなどの沈殿剤を含有する有機溶媒または水性溶媒を使用してもよい。
【0070】
液体媒体としての使用に適した有機溶媒の例としては、限定するものではないが、連続相に適したものとして上に具体的に示した有機溶媒、より好ましくは、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、ペンタンなどが挙げられる。
【0071】
このような溶媒のいずれかの混合物を使用することも企図される。好ましい1つのブレンドは、塩化メチレンとアセトンとの1:1混合物である。液体媒体は、例えば、凍結乾燥、蒸発または乾燥による簡単な除去のために沸点が低いことが好ましい。
【0072】
液体媒体は、液体二酸化炭素などの超臨界流体、または、その超臨界点に近い流体であってもよい。超臨界流体は、相分離促進剤(とりわけいくつかのポリマー)に適した溶媒であることがあるが、球形タンパク質粒子にとっては非溶媒である。超臨界流体は、単独で、または共溶媒と一緒に使用できる。以下の超臨界流体を使用できる:液体CO2、エタンまたはキセノン。可能性のある共溶媒は、アセトニトリル、ジクロロメタン、エタノール、メタノール、水または2−プロパノールであってもよい。
【0073】
本明細書に記載のPSEAから小球形粒子を分離するために使用される液体媒体は、液体媒体中の活性剤の溶解性を低下させる作用剤を含有してもよい。球形粒子の収率を最大化するために、球形粒子は液体媒体中で最小の溶解性を呈することが望ましい。インスリンおよびヒト成長ホルモンなどいくつかのタンパク質の場合は、溶解性の低下はZn2+などの二価陽イオンを球形タンパク質粒子に加えることにより達成できる。他のイオンとしては、Ca2+、Cu2+、Fe2+、Fe3+などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
球形インスリン粒子の溶解性は、水溶液中でのダイアフィルトレーションが可能なだけ十分に低くてもよい。
【0075】
液体媒体は1つまたは複数の賦形剤を含有してもよく、そのような賦形剤は、先に論じたように、粒子および/または活性剤の安定性向上、粒子からの活性剤の制御放出、または活性剤の生体組織通過性改良などの追加的な特徴を活性剤または粒子にもたせてもよい。
【0076】
別の例では、小球形粒子は、PSEAを含有する溶液から分離されない。
【0077】
水ベースのプロセス:別の好ましい実施形態では、溶液の溶媒および液体洗浄媒体は全て、水性または水混和性である。適当な水性または水混和性の溶媒の例としては、連続相用に上に特定したものが挙げられるが、これらに限定されない。水ベースのプロセスを用いる1つの利点は、媒体を緩衝液化でき、その媒体が、タンパク質などの活性剤に生化学的な安定化をもたらす賦形剤を場合により含有できることである。
【0078】
活性剤:活性剤としては薬学的活性剤が挙げられ、そのような活性剤は、治療剤、診断剤、化粧品、栄養補助食品または殺虫薬であってもよい。
【0079】
治療剤は、生物学的なものであってもよく、そのような治療剤としては、タンパク質、ポリペプチド、炭水化物、ポリヌクレオチドおよび核酸が挙げられるが、これらに限定されない。タンパク質は抗体であってもよく、抗体はポリクローナルでもモノクローナルでもよい。治療薬は、低分子量の分子であってもよい。加えて、治療剤は、以下のものなど様々な公知の医薬品から選択できるが、これらに限定されない:鎮痛薬、麻酔薬、興奮薬、アドレナリン作用剤、アドレナリン遮断剤、抗アドレナリン薬、アドレノコルチコイド、アドレナリン模倣薬、抗コリン剤、抗コリンエステラーゼ薬、抗痙攣薬、アルキル化剤、アルカロイド、アロステリック阻害薬、アナボリックステロイド、食欲抑制薬、制酸薬、止瀉薬、解毒薬、抗葉酸薬、解熱薬、抗リウマチ剤、精神治療剤、神経遮断剤、抗炎症剤、駆虫薬、抗不整脈剤、抗生物質、抗凝血薬、抗鬱薬、抗糖尿病剤、抗てんかん薬、抗真菌薬、抗ヒスタミン薬、降圧剤、抗ムスカリン剤、抗ミコバクテリア剤、抗マラリア薬、消毒薬、抗悪性腫瘍剤、抗原虫剤、免疫抑制薬、免疫刺激薬、抗甲状腺剤、抗ウイルス剤、抗不安鎮静薬、収斂薬、βアドレノセプター遮断剤、造影剤、コルチコステロイド、咳抑制薬、診断剤、診断用画像化剤、利尿薬、ドパミン作動薬、止血薬、血液作用剤、ヘモグロビン修飾因子、ホルモン、催眠薬、免疫学的薬剤、抗高脂血症薬および他の脂質調節剤、ムスカリン作用剤、筋弛緩薬、副交感神経模倣薬、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、プロスタグランジン、放射性医薬品、鎮静薬、性ホルモン、抗アレルギー剤、刺激薬、交感神経模倣薬、甲状腺剤、血管拡張薬、ワクチン、ビタミンおよびキサンチン。抗悪性腫瘍薬または抗癌剤としては、パクリタキセルおよび誘導体化合物、ならびに、アルカロイド、代謝拮抗薬、酵素阻害薬、アルキル化剤および抗生物質からなる群より選択される他の抗悪性腫瘍薬が挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
化粧剤は、化粧品活性を有する可能性のある任意の活性原料である。このような活性原料の例は、とりわけ、皮膚軟化剤、湿潤剤、フリーラジカル阻害剤、抗炎症薬、ビタミン、脱色剤、抗にきび剤、抗脂漏症薬、角質溶解薬、痩身剤、皮膚着色剤および日焼け止め剤、ならびに、とりわけ、リノール酸、レチノール、レチノイン酸、アスコルビン酸アルキルエステル、多価値不飽和脂肪酸、ニコチン酸エステル、ニコチン酸トコフェロール、米、大豆またはシアの不けん化物、セラミド、グリコール酸などのヒドロキシ酸、セレン誘導体、抗酸化剤、βカロテン、γオリザノールおよびグリセリン酸ステアリルであってもよい。化粧品は、市販のものであるか、および/または、当技術分野で公知の手法により調製できる。
【0081】
栄養補助食品の例としては、タンパク質、炭水化物、水溶性ビタミン(例えば、ビタミンC、ビタミンB複合体など)、脂溶性ビタミン(例えば、ビタミンA、D、E、Kなど)、およびハーブエキスが挙げられるが、これらに限定されない。栄養補助食品は、市販のものであるか、および/または、当技術分野で公知の手法により調製できる。
【0082】
用語「殺虫薬」は、除草薬、殺虫剤、ダニ駆除薬、殺線虫薬、外部寄生虫駆除薬および殺真菌薬を包含することは理解される。化合物クラスの例としては、尿素、トリアジン、トリアゾール、カルバメート、リン酸エステル、ジニトロアニリン、モルホリン、アシルアラニン、ピレトロイド、ベンジル酸エステル、ジフェニルエーテルおよび多環式ハロゲン化炭化水素が挙げられる。このようなクラスの各々における殺虫薬の具体例は、Pesticide Manual、第9版、British Crop Protection Councilに掲載されている。殺虫薬は、市販のものであるか、および/または、当技術分野で公知の手法により調製できる。
【0083】
好ましい一実施形態では、活性剤は、タンパク質、ポリペプチド、炭水化物、ポリヌクレオチド、ウイルスまたは核酸などの巨大分子である。核酸としては、DNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプチマー(aptimer)、RNAおよびSiRNAが挙げられる。巨大分子は、天然のものでも合成のものでもよい。タンパク質は、抗体であってもよく、抗体はモノクローナルでもポリクローナルでもよい。タンパク質は、天然源から単離された任意の公知の治療用タンパク質であってもよく、または、合成法もしくは組換法により作製してもよい。治療用タンパク質の例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:血液凝固カスケードのタンパク質(例えば、第VII因子、第VIII因子、第IX因子など)、サブチリシン、卵白アルブミン、α−1−抗トリプシン(AAT)、DNA分解酵素、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、リゾチーム、リボヌクレアーゼ、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、成長ホルモン、エリトロポエチン、インスリン様成長因子またはその類似体、インターフェロン、グラチラマー、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、抗体、ペグ化されたタンパク質、グリコシル化された、または極度にグリコシル化されたタンパク質、デスモプレシン、LHRH作動薬(ロイプロリド、ゴセレリン、ナファレリン、ブセレリンなど)、LHRH拮抗薬、バソプレシン、シクロスポリン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモンペプチドおよびインスリン。好ましい治療用タンパク質は、インスリン、α−1抗トリプシン、LHRH作動薬および成長ホルモンである。
【0084】
低分子量の治療用分子の例としては、ステロイド、β作動薬、抗微生物薬、抗真菌薬、タキサン(抗有糸分裂剤および抗微小管剤)、アミノ酸、脂肪族化合物、芳香族化合物および尿素化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
好ましい一実施形態では、活性剤は、肺障害治療用の治療剤である。そのような薬剤の例としては、ステロイド、β作動薬、抗真菌薬、抗微生物化合物、気管支ダイアレーター(dialator)、抗喘息剤、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDS)、α−1抗トリプシン薬、および、嚢胞性線維症を治療するための薬剤が挙げられるが、これらに限定されない。ステロイドの例としては、ベクロメタゾン(二プロピオン酸ベクロメタゾンなど)、フルチカゾン(プロピオン酸フルチカゾンなど)、ブデソニド、エストラジオール、フルドロコルチゾン、フルシノニド(flucinonide)、トリアムシノロン(トリアムシノロンアセトニドなど)、およびフルニソリドが挙げられるが、これらに限定されない。β作動薬の例としては、キシナホ酸サルメテロール、フマル酸ホルモテロール、レボアルブテロール、バムブテロールおよびツロブテロールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
抗真菌剤の例としては、イトラコナゾール、フルコナゾールおよびアンホテリシンBが挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
診断剤としては、X線画像化剤および造影剤が挙げられる。X線画像化剤の例としては、以下が挙げられる:ジアトラゾ酸(diatrazoic acid)のエチルエステル(EEDA)としても知られるWIN−8883(エチル3,5−ジアセトアミド−2,4,6−トリヨードベンゾエート)、WIN67722、すなわち、(6−エトキシ−6−オキソヘキシル−3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾエート;エチル−2−(3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾイルオキシ)ブチレート(WIN16318);エチルジアトリゾキシアセテート(WIN12901);エチル2−(3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾイルオキシ)プロピオネート(WIN16923);N−エチル2−(3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾイルオキシアセトアミド(WIN65312);イソプロピル2−(3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾイルオキシ)アセトアミド(WIN12855);ジエチル2−(3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾイルオキシマロネート(WIN67721);エチル2−(3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨードベンゾイルオキシ)フェニルアセテート(WIN67585);プロパン二酸、[[3,5−ビス(アセチルアミノ)−2,4,5−トリオドベンゾイル(triodobenzoyl)]オキシ]ビス(1−メチル)エステル(WIN68165);および安息香酸、3,5−ビス(アセチルアミノ)−2,4,6−トリオド−4−(エチル−3−エトキシ−2−ブテノエート)エステル(WIN68209)。好ましい造影剤としては、生理的条件下で比較的急速に崩壊することにより、粒子に関連する一切の炎症応答を最小限にすることが期待されるものが挙げられる。崩壊は、酵素的加水分解、生理的pHでのカルボン酸の可溶化または他の機序により生じると考えられる。したがって、ヨージパミド、ジアトリゾ酸およびメトリゾ酸など溶解性に乏しいヨウ化カルボン酸を、WIN67721、WIN12901、WIN68165およびWIN68209など加水分解的に不安定なヨウ化種と共に用いることが好ましいと考えられる。
【0088】
活性剤を多数組み合わせることが望ましい場合があり、そのような組合せとしては、例えば、ステロイドとβ作動薬との組合せ(例えば、プロピオン酸フルチカゾンとサルメテロールとの、ブデソニドとホルメテロールとの組合せなど)が挙げられる。
【0089】
炭水化物の例は、デキストラン、ヘタスターチ、シクロデキストリン、アルギネート、キトサン、コンドロイチン、ヘパリン、それ以外に他の文脈中で本明細書において開示するものなどである。
【0090】
小球形粒子:本出願の小球形粒子の平均の幾何学的粒子サイズは、動的光散乱法(例えば、光相関分光法、レーザー回折法、低角レーザー光散乱法(LALLS)、中角レーザー光散乱法(MALLS))、光遮蔽法(例えばCoulter分析法)、または、レオロジーもしくは顕微鏡法(光学または電子)など他の方法により測定した場合、約0.01μmから約200μm、より好ましくは0.1μmから10μm、さらにより好ましくは約0.5μmから約5μm、最も好ましくは約0.5μmから約3μmである。肺送達用の球形粒子の空気力学的粒子サイズは、飛行時間型の測定法(例えばAerosizer)、Next Generation ImpactorsまたはAndersen Cascade Impactorの測定法により定量したものである。
【0091】
この小球形粒子は、実質的に球形である。「実質的に球形の」が意味するのは、粒子断面の最長の垂直軸対最短の垂直軸の長さ比が1.5以下だということである。実質的に球形であるには、対称軸は必要ではない。さらに、粒子は、全体的な粒子サイズと比較した場合に規模が小さい線またはへこみまたは隆起などの表面テクスチャリングを有しているが実質的に球形を保っているものであってもよい。より球形の粒子は、最長の軸と最短の軸との間の長さ比が1.33以下である。最も球形の粒子は、最長の軸と最短の軸との間の長さ比が1.25以下である。表面接触は、実質的に球形なミクロスフェアにおいて最小となっており、これにより、粒子の望ましくない凝集が最低限になる。多くの結晶または薄片または不規則粒子は、イオン性または非イオン性の相互作用により凝集が生じる可能性のある大きな表面接触面積をもたらす可能性のある平らな表面を有する。球がもたらすのは、はるかに小さい面積にわたる接触である。
【0092】
例示的な一組成物における小球形粒子は、実質的に同じ粒子サイズ、すなわち単分散サイズ分布を有し、これにより、肺胞など、肺中の特定区域への活性剤の送達が可能になる。別の組成物においては、比較的大きい粒子と小さい粒子との両方が存在する多分散サイズ分布を有する微小粒子は、活性剤を肺の一部ではなくその全区域へ送達することを可能にする。「単分散サイズ分布」が意味するのは、好ましい粒子サイズ分布は、小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径対10パーセンタイルの体積粒径の比率が5以下であると考えられることである。より好ましくは、粒子サイズ分布は、小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径対10パーセンタイルの体積粒径の比率が3以下であると考えられる。最も好ましくは、粒子サイズ分布は、小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径対10パーセンタイルの体積粒径の比率が2以下であると考えられる。
【0093】
幾何標準偏差(GSD)も、粒子サイズ分布の多分散度を示すために用いることができる。GSDの計算は、15.9%未満および84.1%未満の累計パーセントでの有効カットオフ直径(ECD)を定量することを含んでいた。GSDは、84.17%未満のECD対15.9%未満のECDの比率の平方根に等しい。この小球形粒子組成物は、GSDが<2.5、より好ましくは1.8未満であるとき、単分散サイズ分布を有する。
【0094】
別の例では、この小球形粒子中の活性剤は、半晶質または非晶質である。
【0095】
典型的には、この出願におけるプロセスにより作製される小球形粒子は、実質的に非多孔質であり、0.5g/cm3超、より好ましくは0.75g/cm3超、最も好ましくは約0.85g/cm3超の密度を有する。密度について好ましい範囲は、約0.5から約2g/cm3、より好ましくは約0.75から約1.75g/cm3、さらにより好ましくは約0.85g/cm3から約1.5g/cm3である。
【0096】
本出願の小球形粒子は、高含有量の活性剤を有する。他の多くの粒子調製法で必要とされる相当な量の増量剤または類似の賦形剤は必要ない。例えば、小球形インスリン粒子のインスリン含有量は、粒子の90重量%以上または93重量%以上または95重量%以上である。しかし、増量剤または賦形剤は、小球形粒子中に含まれていてもよいが、活性剤を分散させるマトリックスを形成しない、典型的に粒子の20重量%未満または10重量%以下で含まれる。好ましくは、活性剤は、小球形粒子の95重量%超、最大100重量%存在する。本明細書中で範囲について言及するときは、一切の範囲またはその中の範囲の組合せを包含することを意図している。
【0097】
本明細書で開示する小球形粒子中に組み込まれる活性剤は、賦形剤が含まれていてもいなくても、その生化学的な完全性およびその生物学的活性を保持する。
【0098】
小球形粒子のin vivo送達:本出願における小球形活性剤粒子は、注射可能な経路、局所、経口、経直腸、経鼻、経肺、経膣、経頬側口腔、舌下、経皮、経粘膜、経耳、眼内または経眼など適当な経路による対象へのin vivo送達に適している。この小球形粒子は、安定な液体懸濁液もしくは懸濁可能な分散物として送達し、または、乾燥粉末、錠剤、カプレット、カプセルなどの固体剤形として製剤することができる。好ましい送達経路は注射可能な経路であり、そのような経路としては、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、くも膜下腔内、硬膜外、動脈内、関節内などが挙げられる。別の好ましい送達経路は肺吸入であり、これは経口でも経鼻でもよい。この送達経路では、小球形粒子は、肺深部へ、上気道中に、または、気道中の任意の場所に堆積させてもよい。この小球形粒子は、乾燥粉末吸入器により乾燥粉末として送達してもよく、または、定量噴霧式吸入器もしくはネブライザーにより製剤および送達してもよい。
【0099】
インスリンなど全身的に機能することが意図される薬物は、血流中への薬物吸収を可能にする非常に大きな表面積がある肺胞中に堆積されるのが望ましい。肺内のある領域への薬物堆積を標的化するとき、粒子の空気力学的直径は、形状、密度および粒子サイズなど粒子の基礎的な物理的特徴を操作することにより最適範囲に調節できる。
【0100】
先行技術の製剤における吸入用薬物粒子の肺到達率を許容されるものとするには、粒子の各々の中に組み込むか薬物粒子と混合するかいずれかの形で賦形剤を添加することが典型的に必要である。例えば、微小化された薬物粒子(約5μm)の分散性改善は、トレハロース、乳糖またはマルトデキストリンなど不活性な担体粒子の、より大きな(30〜90μm)粒子とブレンドすることにより達成される。より大きな賦形剤粒子は、薬力学的効果の向上と相関する粉末流動性を向上させる。さらなる改良では、エアロゾルの性能、ならびに、タンパク質薬の安定性の潜在的な向上を達成するために、小球形粒子中に賦形剤を直接組み込む。一般に、乳糖、または、アルブミンおよびDL−.α.−ホスファチジルコリンジパルミトイル(DPPC)など肺に内在する有機分子など、吸入用としてこれまでにFDA認可されている賦形剤を選ぶ。望ましい物理的および化学的特徴を有する粒子を設計するために、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)など他の賦形剤が使用されている。しかし、FDAで認可された賦形剤を用いた吸入経験の多くは、気管気管支領域中に望ましくは堆積し、肺深部へはあまり浸透しない大きな空気力学的粒子サイズを有する喘息薬を用いたものであった。肺深部へ送達される吸入用のタンパク質またはペプチドの治療薬の場合は、免疫応答によるものであるか、または、肺胞領域に送達された際に賦形剤により引き起こされると考えられる、炎症および過敏などの望ましくない長期的な副作用が生じかねない懸念がある。
【0101】
肺深部吸入用の治療薬の有害な副作用の可能性を最低限にするためには、送達すべき薬物により実質的に構成される吸入用粒子を作製することが有利と考えられる。この戦略は、賦形剤への肺胞の曝露を最小限にし、各用量に伴い肺胞表面上に堆積される粒子の総質量用量を減らし、吸入用治療剤の慢性的な使用の間の刺激作用を最小限にする可能性があると考えられる。本明細書で開示するものなど、治療用のタンパク質またはペプチドから本質的に全体が構成される肺深部堆積に適した空気力学的特性を有する小球形粒子は、慢性的な治療薬投薬が肺の肺胞膜に及ぼす効果および対象への活性剤の全身送達の効果について切り離した試験にとってとりわけ有用であると考えられる。さらに、小球形粒子形態のタンパク質またはペプチドを吸入により全身送達する効果を、会合した賦形剤により持ち込まれる複雑な因子がない状態で試験できると考えられる。
【0102】
吸入により肺深部へ粒子を送達する要件は、粒子の平均の空気力学的直径が0.5〜10μmと小さく、単分散サイズ分布を有することである。本出願は、さらに、例えば、肺組織への活性剤の局所送達にとって望ましい多分散粒子サイズ分布を有する組成物を得るために、粒子サイズ範囲の異なる多様なバッチの小球形粒子を一緒に混合することも企図する。本明細書で開示するプロセスにより、上述の特徴を有する小球形粒子の作製が可能になる。
【0103】
本明細書に記載の空気力学的直径を有する粒子を形成するには2つの主要なアプローチがある。第1のアプローチは、比較的大きいが非常に多孔度の高い(または孔の開いた)微小粒子を作製することである。空気力学的直径(D空気力学的)と幾何学的直径(D幾何学的)との間の関係は、D空気力学的は粒子の密度の平方根を乗じたD幾何学的に等しいので、質量密度が非常に低い(0.1g/cm3前後)粒子は、幾何学的直径が比較的大きくても(5から10ミクロン)、小さい空気力学的直径(0.5から3ミクロン)を呈することがある。
【0104】
代替的なアプローチは、多孔度が比較的低い粒子を作製することであり、本出願の場合は、粒子の密度は、上の範囲に記載してあるが、より一般的には1g/cm3に近い。したがって、そのような非多孔質で密度の高い粒子の空気力学的直径は、その幾何学的直径に近い。
【0105】
上に記載の粒子形成の本方法は、賦形剤を含む、または含まない小球形粒子を提供する。
【0106】
添加物を含まない溶解されたタンパク質そのものから小球形タンパク質粒子を作製すると、同じ体積の固体中での薬物負荷量を増やし、安全性を高め、必要な吸入数を減少させるための選択肢が得られる。
【0107】
予め作製された小球形粒子の微小カプセル化:本出願の小球形粒子は、壁形成材料のマトリックス(賦形剤のマトリックスより典型的に水溶性が低い)内に封入されて、微小カプセル化粒子を形成する。微小カプセル化は、当技術分野で公知の任意のプロセスにより達成できる。好ましい一実施形態では、本出願の小球形粒子の微小カプセル化は、下に記載の乳化/溶媒抽出プロセスにより達成される。このマトリックスは、活性剤に持続放出特性を賦与することができ、その結果、所望の治療用途により分から時間、数日または数週間持続する放出速度が得られる。微小カプセル化粒子は、予め作製された小球形粒子の遅延放出製剤も作製することができる。好ましい一実施形態では、予め作製された小球形粒子は、球形インスリン粒子である。
【0108】
乳化/溶媒抽出プロセスでは、乳化は、非混和性の2つの相、すなわち連続相と不連続相(分散相としても知られる)とを混合してエマルションを形成することにより得られる。好ましい一実施形態では、水中油(O/W)エマルションを形成するためには、連続相は水性相(または水相)であり、不連続相は有機相(または油相)である。不連続相は、油中固体(S/O)相を形成する微細懸濁液または微細分散物のいずれかとして存在する固体粒子の分散物をさらに含有してもよい。有機相は、好ましくは水非混和性または部分的に水混和性の有機溶媒である。有機相対水性相の質量比は、約1:99から約99:1、より好ましくは1:99から約40:60、最も好ましくは約2:98から約1:3、または、その中の任意の範囲、もしくは範囲の組合せである。好ましい一実施形態では、有機相対水性相の比率は、約1:3である。本出願は、油相が連続相を形成し水相が不連続相を形成する逆エマルションまたは油中水エマルション(W/O)を利用することをさらに企図する。本出願は、油中水中油エマルション(O/W/O)または水中油中水エマルション(W/O/W)など、3つ以上の相を有するエマルションを利用することをさらに企図する。
【0109】
好ましい一実施形態では、乳化/溶媒抽出プロセスを用いた微小カプセル化のプロセスは、先に記載の方法により予め作製された小球形粒子と、壁形成材料を含有する有機相とを調製することから始める。予め作製された小球形粒子は、壁形成材料の有機相中に分散されて、予め作製された小球形粒子の分散物を油相中に含有する油中固体(S/O)相を形成する。好ましい一実施形態では、この分散物は、小球形粒子と有機相との混合物をホモジナイズすることにより達成される。水性媒体は、連続相を形成することになる。この場合、S/O相を水性相で乳化することにより形成されるエマルション系は、水中油中固体(S/O/W)エマルション系である。
【0110】
壁形成材料は、個々に、または組み合わされてマトリックスの構造実体を形成する能力がある材料を指す。生分解性の壁形成材料は、特に注射剤用途にとって好ましい。そのような材料の例としては、ポリラクチド/ポリグリコリドポリマー(PLGA系)、ポリエチレングリコールコンジュゲート化されたPLGA系(PLGA−PEG系)の系統およびトリグリセリドが挙げられるが、これらに限定されない。PLGAまたはPLGA−PEGを使用する実施形態では、PLGAのポリラクチド対ポリグリコリドの比率は、好ましくは100:0から0:100、より好ましくは約90:10から約15:85、最も好ましくは約50:50である。一般に、ポリマー中でのポリラクチドに対するポリグリコリドの比率が高いほど、微小カプセル化粒子の親水性は高くなり、その結果、水和が速くなり、分解が速くなる。多様な分子量のPLGAを使用してもよい。一般に、ポリマー中のポリグリコリドとポリラクチドとが同じ比率である場合、PLGAの分子量が高いほど、活性剤の放出は遅くなり、微小カプセル化粒子のサイズ分布は広くなる。
【0111】
水中油(O/W)または水中油中固体(S/O/W)エマルションの有機相(油相)中の有機溶媒は、水非混和性または部分的に水非混和性であってもよい。用語「水非混和性の溶媒」が意味するのは、水溶液と1:1比で合わせたとき界面メニスカスを形成する溶媒である(O/W)。適当な水非混和性の溶媒としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:炭素数が5以上の、置換された、もしくは置換されていない、直鎖状、分枝状もしくは環状のアルカン、炭素数が5以上の、置換された、もしくは置換されていない、直鎖状、分枝状もしくは環状のアルケン、炭素数が5以上の、置換された、もしくは置換されていない、直鎖状、分枝状もしくは環状のアルキン;芳香族炭化水素、完全もしくは部分的にハロゲン化された炭化水素、エーテル、エステル、ケトン、モノグリセリド、ジグリセリドもしくはトリグリセリド、天然油、アルコール、アルデヒド、酸、アミン、直鎖状もしくは環状のシリコーン、ヘキサメチルジシロキサン、または、これら溶媒の任意の組合せ。ハロゲン化溶媒としては、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、トリクロロエタン、ヒドロフルオロカーボン、塩化ベンゼン(モノ、ジ、トリ)、トリクロロフルオロメタンが挙げられるが、これらに限定されない。とりわけ適当な溶媒は、塩化メチレン、クロロホルム、ジエチルエーテル、トルエン、キシレンおよび酢酸エチルである。「部分的に水混和性の溶媒」が意味するのは、ある濃度では水非混和性であり、より低い別の濃度では水混和性である溶媒である。このような溶媒は、限られた水混和性を有し、自発的なエマルション形成の能力がある。部分的に水混和性の溶媒の例は、テトラヒドロフラン(THF)、炭酸プロピレン、ベンジルアルコールおよび酢酸エチルである。
【0112】
表面活性化合物を、例えば、有機相のぬれ特性を増加させるために加えてもよい。表面活性化合物は、乳化プロセス前に水性相に、有機相に、水性媒体および有機溶液の両方に、または、乳化プロセス後にエマルションに加えてもよい。表面活性化合物を使用すると、封入されていないか、または部分的に封入されていない小球形粒子の数を減らすことができ、その結果、放出中の活性剤の初期バーストを減らすことができる。表面活性化合物は、有機相もしくは水性相に、または、有機相および水性相の両方に、該化合物の溶解性に応じて加えることができる。
【0113】
用語「表面活性化合物」が意味するのは、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤または生体表面活性分子などの化合物である。表面活性化合物は、どのような場合であっても、水性相または有機相またはエマルションの約0.01重量%未満から約30重量%、より好ましくは約0.01重量%から約10重量%、または、その中の任意の範囲もしくは範囲の組合せの量で存在すべきである。
【0114】
適当な陰イオン界面活性剤としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:ラウリン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、硫酸アルキルポリオキシエチレン、アルギン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸およびその塩、グリセリルエステル、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、コール酸および他の胆汁酸(例えば、コール酸、デオキシコール酸、グリココール酸、タウロコール酸、グリコデオキシコール酸)およびその塩(例えばデオキシコール酸ナトリウムなど)。
【0115】
適当な陽イオン界面活性剤としては、塩化ベンザルコニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウムなどの四級アンモニウム化合物、塩酸アシルカルニチンまたはハロゲン化アルキルピリジニウムが挙げられるが、これらに限定されない。陰イオン界面活性剤として、リン脂質を使用してもよい。適当なリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リソリン脂質、卵もしくは大豆のリン脂質、またはその組合せが挙げられる。リン脂質は、塩処理もしくは脱塩処理された、水素化もしくは部分的に水素化された、または、天然、半合成もしくは合成のものであってもよい。
【0116】
適当な非イオン界面活性剤としては以下が挙げられる:ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル(MacrogolおよびBrij)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Polysorbate)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(Myrj)、ソルビタンエステル(Span)、モノステアリン酸グリセロール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、アリールアルキルポリエーテルアルコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマー(ポロキソマー(poloxomer))、ポラキサミン(polaxamine)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ならびに、多糖(ヒドロキシエチルデンプン(HES)などのデンプンおよびデンプン誘導体、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよび非晶質セルロースなど)。一例では、非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンとのコポリマー、および、好ましくはプロピレングリコールとエチレングリコールとのブロックコポリマーである。そのようなポリマーは、POLOXAMERの商品名で(時にPLURONIC(登録商標)とも呼ばれる)販売され、Spectrum ChemicalおよびRugerなどいくつかの供給者により販売されている。ポリオキシエチレン脂肪酸エステルの中には、短アルキル鎖を有するものも包含される。そのような界面活性剤の一例は、BASF Aktiengesellschaft製のSOLUTOL(登録商標)HS15、ポリエチレン−660−ヒドロキシステアレートである。
【0117】
表面活性生体分子としては、アルブミン、カゼイン、ヘパリン、ヒルジン、ヘタスターチまたは他の適切な生体適合剤などの分子が挙げられる。
【0118】
好ましい一例では、水性相は、表面活性化合物としてタンパク質を含む。好ましいタンパク質はアルブミンである。タンパク質は、賦形剤として機能してもよい。タンパク質が表面活性化合物でない実施形態では、乳化プロセスの前または後のいずれかで加える形で、エマルション中に他の賦形剤を含ませてもよい。適当な賦形剤としては、糖類、二糖および糖アルコールが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい二糖はショ糖であり、好ましい糖アルコールはマンニトールである。
【0119】
加えて、ポリエチレングリコール(PEG)などのチャネリング剤を使用すると、最終製品の水通過速度を増加させることができ、その結果、マトリックスからの活性剤の初期放出動態、ならびに、水和速度を変化させることによるマトリックスの分解速度および分解依存性の放出動態の変化がもたらされる。カプセル化中にチャネリング剤としてPEGを使用することは、PEGを相分離促進剤として使用する小球形粒子の作製中の洗浄プロセスの一部が除かれるという点で有利な場合がある。加えて、緩衝液の使用により連続相のpHを変化させると、粒子表面と有機相との間のぬれ過程を著しく増加させることができ、それにより、結果として、微小カプセル化粒子のマトリックスからの封入された治療剤の初期バーストが著しく減少する。連続相の特性は、例えば、NaClなどの塩を加えて2相の混和性を低下させることでその塩分を増加させることによっても変化させることができる。
【0120】
小球形粒子を有機相(油相)中に分散させた後、次いで、例えば、ホモジナイズまたは超音波処理により水性媒体の連続相(水相)を有機相の不連続相と激しく混合して、未成熟な微小カプセル化粒子の乳化液滴を含有するエマルションを形成する。乳化液滴からの有機溶媒の急速な抽出を最低限にするために、水性相と有機相との混合に先立ち、有機相中で使用する有機溶媒で連続水性相を飽和させてもよい。乳化プロセスは、混合物がその液体特性を維持できる任意の温度で実施できる。エマルションの安定性は、有機相中もしくは水性相中の、または、乳化プロセス後に表面活性化合物をエマルションに加える場合にはエマルション中の表面活性化合物の濃度の関数である。これは、エマルション系(未成熟な微小カプセル化粒子)の液滴サイズ、ならびに、微小カプセル化粒子のサイズおよびサイズ分布を決定する因子の1つである。微小カプセル化粒子のサイズ分布に影響する他の因子は、連続相の粘稠性、不連続相の粘稠性、乳化中のせん断力、表面活性化合物の種類および濃度、ならびに油/水比率である。
【0121】
乳化後、次にエマルションを硬化媒体中に移す。硬化媒体は、未成熟な微小カプセル化粒子から不連続相中の溶媒を抽出し、その結果、乳化液滴の近傍内の予め作製された小球形粒子周囲に固体のポリマーマトリックスを有する固体の微小カプセル化粒子が形成される。O/W系またはS/O/W系の実施形態では、硬化媒体は水性媒体であり、これは表面活性化合物または増粘剤または他の賦形剤を含有してもよい。微小カプセル化粒子は、好ましくは球形であり、粒子サイズは約0.6から約300μm、より好ましくは約0.8から約60μmである。加えて、この微小カプセル化粒子は、好ましくは狭い粒子サイズ分布を有する。不連続相の抽出時間を短縮するために、硬化媒体を加熱または減圧してもよい。未成熟な微小カプセル化粒子からの不連続相の抽出速度は、最終的な固体の微小カプセル化粒子中の多孔度における重要な因子であり、これは、例えば、蒸発(沸騰効果)により不連続相を急速に除去すると、結果としてマトリックスの連続性が破壊されるためである。
【0122】
好ましい一実施形態では、乳化プロセスは、バッチプロセスではなく連続した形で実施する。図22は、連続式乳化反応器のデザインを示すものである。
【0123】
別の好ましい実施形態では、活性剤の小球形粒子を封入している硬化した壁形成ポリマーマトリックスを、遠心分離および/またはろ過(ダイアフィルトレーションなど)によりさらに回収し、水で洗浄する。残った液相は、凍結乾燥または蒸発などのプロセスによりさらに除去できる。
【0124】
肺送達用のインスリン製剤:好ましい例示的な実施形態
インスリンまたはインスリン類似体(天然に存在する、合成の、半合成の、および組換えのものを含む)は、本出願の方法および組成物による使用にとってとりわけ好ましいタンパク質である。本明細書で使用する場合、「インスリン」は、ウシ、ブタまたはヒトのインスリンなど、その配列および構造が当技術分野で公知の哺乳動物のインスリンおよびその固体(例えば、ナトリウムインスリン、亜鉛インスリン)を指す。ヒトインスリンのアミノ酸配列および空間構造は周知である。ヒトインスリンは、ジスルフィド結合により架橋された21個のアミノ酸のA鎖と30個のアミノ酸のB鎖とで構成されている。正しく架橋されたヒトインスリンは、3つのジスルフィド橋を含有する:1つはA鎖の7位とB鎖の7位との間、2番目はA鎖の20位とB鎖の19位との間、3番目はA鎖の6位と11位との間。
【0125】
用語「インスリン類似体」は、ヒトインスリンのA鎖およびB鎖とそれぞれ実質的に同じアミノ酸配列を有するA鎖およびB鎖を有するが、インスリン類似体のインスリン活性を壊さない、1つもしくは複数のアミノ酸欠失、1つもしくは複数のアミノ酸置換、および/または1つもしくは複数のアミノ酸付加を有する点で、ヒトインスリンのA鎖およびB鎖とは異なるタンパク質を意味する。
【0126】
インスリン類似体の一種「モノマーインスリン類似体」は、当技術分野では周知である。報告によれば、これらは速効性のヒトインスリン類似体であり、このような類似体としては、例えば、a)B28位のアミノ酸残基がAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaで置換されており、B29位のアミノ酸残基がLysまたはProである;b)B28位、B29位およびB30位のアミノ酸残基が欠失している;またはc)B27位のアミノ酸残基が欠失している、モノマーインスリン類似体が挙げられる。好ましいモノマーインスリン類似体は、ASpBB28である。さらにより好ましいモノマーインスリン類似体は、LysB28ProB29である。
【0127】
モノマーインスリン類似体は、Chanceら、米国特許第5,514,646号;Chanceら、米国特許出願第08/255,297号;Bremsら、ProteinEngineering、5巻、527〜533頁(1992);Brangeら、EPO公開第214,826号(1987年3月18日公開);およびBrangeら、CurrentOpinion in Structural Biology、1巻、934〜940頁(1991)において開示されている。これらの開示内容は、モノマーインスリン類似体を説明するために、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0128】
インスリン類似体は、アミド化されたアミノ酸が酸性形態のもので置換されていてもよい。例えば、AsnがAspまたはGluで置換されていてもよい。同様に、GlnがAspまたはGluで置換されていてもよい。とりわけ、Asn(A18)、Asn(A21)もしくはAsp(B3)、またはそれら残基の任意の組合せが、AspまたはGluで置換されていてもよい。さらに、Gln(A15)またはGln(B4)またはその両方が、AspまたはGluのいずれかで置換されていてもよい。
【0129】
好ましくは、このインスリンミクロスフェアは、該ミクロスフェアの少なくとも約90重量%のインスリン、少なくとも約91重量%、少なくとも約92重量%、少なくとも約93重量%、少なくとも約94重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約96重量%、少なくとも約97重量%、少なくとも約98重量%のインスリン、または少なくとも約99%および最大100%を含む。特に好ましい実施形態では、このインスリンミクロスフェアから放出されるインスリンは、溶液中で溶解された出発段階のインスリン(そのような溶解されたインスリンの例は、上で論じてきた)と区別できない構造(例えば、化学的および/または立体配座的な)および/または機能(例えば生物活性)を有する。
【0130】
ミクロスフェアを構成するタンパク質とは異なる分子を、当業者に公知の方法により該ミクロスフェアの外表面に付着させて、ミクロスフェアを「コーティング」または「装飾」してもよい。ミクロスフェアは、その外表面に付着される分子を有することができる。このような分子は、標的化を容易にする、受容体の媒介を促進する、および、エンドサイトーシスまたは破壊から逃れることを可能にする、および、その放出動態を変えるなどの目的のために付着させる。例えば、循環中での分解を防止し、および/または生体膜との相互作用、エンドソームによるエンドサイトーシスを促進または阻害するために、リン脂質などの生体分子をミクロスフェアの表面に付着させてもよく;体の所望の器官、組織または細胞へのミクロスフェアの標的化を促進または容易にするために、受容体、抗体またはホルモンを表面に付着させてもよく;ならびに、マクロファージによる取込を促進または回避するために、グルカンなどの多糖、または、ポリビニルピロリドンおよびPEGなど他のポリマーをミクロスフェアの外表面に付着させてもよい。
【0131】
加えて、1つまたは複数の切断可能な、侵食性の、または溶解性の分子をミクロスフェアの外表面または内部に付着させてもよい。切断可能な分子は、ミクロスフェアが適切な生物学的条件下で所定の部位にまず標的化されてから、pH変化などの生物学的条件の変化にさらされた際に、該分子が切断されることにより標的部位からのミクロスフェアの放出がもたらされるように設計される。このようにして、ミクロスフェアの表面に付着した分子の存在により、ミクロスフェアは細胞に付着するか、細胞により取り込まれる。この分子が切断されると、ミクロスフェアは、細胞の細胞質または核内など所望の位置に留まり、遊離状態になって、ミクロスフェアを構成するタンパク質を放出する。このことは、治療を必要とする特定の部位に標的化される薬物をミクロスフェアが含有する場合の薬物送達にとってとりわけ有用であり、薬物を当該部位でゆっくり放出することができる。
【0132】
加えて、このインスリンミクロスフェアは、脂肪酸、脂質またはポリマーなどの化合物で共有結合的または非共有結合的にコーティングできる。このコーティングは、可溶化したコーティング物質中での浸漬、該物質でのミクロスフェアの噴霧、または、当業者に周知の他の方法によりミクロスフェアに施用してもよい。
【0133】
例示的な肺用組成物は、インスリン微小粒子(例えばインスリンミクロスフェア)を噴射剤(例えばヒドロフルオロアルカン噴射剤)と接触させて懸濁液を形成し、その後、噴射剤中に微小粒子を懸濁させるのに十分な時間をかけて懸濁液を撹拌することにより調製される。好ましくは、この組成物は、インスリンミクロスフェアが撹拌後、懸濁液中に最低10秒から10分、好ましくは少なくとも1から10時間、より好ましくは少なくとも1から7日留まることを特徴とする。
【0134】
好ましい実施形態では、この肺用組成物のρ微小粒子対ρ噴射剤の密度比は、0.05から30の範囲、より好ましくは0.5から3.0の範囲である。この密度比については、追ってさらに詳細に記載する。この実施形態は、界面活性剤を場合により含有する。好ましくは、噴射剤は、HFA P134a、HFA P227などのHFA(ヒドロフルオロアルカン)噴射剤、または、様々な噴射剤のブレンドである。
【0135】
本明細書で開示する肺用製剤中には界面活性剤が含まれないことが好ましいが、必要に応じ界面活性剤を加えることができる。本明細書で使用する場合、界面活性剤は、水と有機ポリマー溶液との間の界面、水/空気の界面、有機溶媒/空気の界面、または微小粒子/噴射剤の界面など、非混和性の2つの相の間の界面に優先的に吸着する作用剤を指す専門用語である。
【0136】
界面活性剤は、ミクロスフェアへの吸収時に、同じようにコーティングされた粒子を引き付けない部分を外部環境へ提示する傾向を有することで粒子凝集を減らすような、親水性部分および親油性部分を一般に有する。界面活性剤は、治療剤または診断剤の吸収を促進し、薬剤のバイオアベイラビリティを高めることもできる。
【0137】
当技術分野で公知の、合成の、または天然に存在する界面活性剤としては、ホスホグリセリドが挙げられる。例示的なホスホグリセリドとしては、天然に存在する界面活性剤であるL−αホスファチジルコリンジパルミトイル(「DPPC」)などのホスファチジルコリンが挙げられる。肺に内在する界面活性剤を使用すると、非生理学的な界面活性剤を使用する必要性を回避できる。他の例示的な界面活性剤としては、ジホスファチジルグリセロール(DPPG);ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリエチレングリコール(PEG)およびその誘導体;ポリビニルピロリドン(PVP)およびその誘導体;ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル;パルミチン酸またはオレイン酸などの表面活性脂肪酸;三オレイン酸ソルビタン(Span85);グリココレート;サーファクチン;ポロキサマー;三オレイン酸ソルビタンなどのソルビタン脂肪酸エステル;チロキサポールおよびリン脂質;および、オクチルグルコシドなどのアルキル化糖が挙げられる。
【0138】
インスリン微小粒子の肺用調製物を調製する一方法は、以下を含む:1)公知の密度ρ噴射剤(例えばρヒドロフルオロアルカン)を有するヒドロフルオロアルカン噴射剤などの噴射剤を選択すること、2)微小粒子密度ρ微小粒子(例えばρミクロスフェア)を有するインスリン微小粒子(例えばインスリンミクロスフェア)を、ρ微小粒子対ρ噴射剤の比率が0.05から30の範囲、より好ましくは0.5から3.0の範囲であるように選択すること、および3)複数のミクロスフェアを噴射剤と接触させて、肺用調製物を形成すること。好ましくは、噴射剤は、HFA P134a、HFA P227などのHFA噴射剤、または、これらの噴射剤のブレンドである。様々な実施形態では、この組成物は、好ましくは界面活性剤を含まない。
【0139】
本明細書で使用する場合、用語「ρ噴射剤」は、噴射剤の密度を指す。一般に、このような市販の作用剤については、そのような密度は公表されている。同様に、語句「ミクロスフェア密度、ρミクロスフェア」は、ミクロスフェアの密度を指す。ミクロスフェア密度の値は、市販のミクロスフェアについては公表されており、および/または、当業者に公知の標準的な方法により定量できる。したがって、ミクロスフェアの密度は、上で規定した範囲内に収まる比率を有するように、上で論じた要領で選択される。好ましくは、ヒドロフルオロアルカン噴射剤は、HFA P134a、HFA P227などのHFAρ噴射剤、または、これらの噴射剤のブレンドである。ある好ましい実施形態では、この組成物は界面活性剤を含まない。
【0140】
小球形インスリン粒子組成物を対象の肺系に投与する方法が提供される。この方法は、治療を必要とする対象の気道に、病態を治療するための有効量の組成物を投与することを含む。
【0141】
好ましい一実施形態では、球形インスリン粒子は、循環インスリンタンパク質濃度を増加させるため、および/または、循環グルコースレベルを下げるための用量的に有効な様式で、吸入により投与する。そのような投与は、糖尿病または高血糖症などの障害を治療するために有効である可能性がある。インスリンの有効用量を達成することは、約0.5μg/kg超から約500μg/kgのインスリン、好ましくは約3μg/kgから約50μg/kg、最も好ましくは約7μg/kgから約25μg/kgの吸入用量の投与が必要である。治療上有効量は知識の豊富な専門医が決定でき、そのような専門医であれば、インスリンレベル、血糖値、患者の身体状態、患者の肺状態などを含む要因を考慮するであろう。
【0142】
球形インスリン粒子を吸入により送達して、このタンパク質の、急速な溶解および吸収、または持続放出による緩慢な吸収のいずれかまたは両方を達成する。吸入による投与の結果、インスリンの皮下投与に匹敵するか、またはそれに勝る薬物動態をもたらすことができる。本明細書で開示する球形インスリン粒子の吸入により、循環インスリンレベルの急速な上昇と、それに次ぐ血糖値の急速な降下がもたらされる。同様の粒子サイズおよび同様の肺堆積濃度を比較した場合、吸入器具が異なっても、同様の薬物動態が典型的にもたらされる。
【0143】
球形インスリン粒子は、吸入による治療剤投与用の当技術分野で公知の様々な吸入器具のいずれかにより送達させることができる。このような器具としては、定量噴霧式吸入器、ネブライザー、乾燥粉末発生器、噴霧器などが挙げられる。球形インスリン粒子を投与するための吸入器具には、いくつか望ましい特徴がある。例えば、吸入器具による送達は、有利なことに、信頼性があり、再現性があり、正確である。吸入器具は、良好に呼吸できるように、例えば約10μm未満、好ましくは約0.2〜5μmの小さなミクロスフェアを送達しなければならない。市販の吸入器具のいくつかの具体例は、Turbuhaler(商標)(Astra、Wilmington、Del.)、Rotahaler(登録商標)(Glaxo、Research Triangle Park、N.C.)、Diskus(登録商標)(Glaxo、Research Triangle Park、N.C.)、Spiros(商標)吸入器(Dura、San Diego、Calif.)、Inhale Therapeuticsにより販売されている器具(San Carlos、Calif.)、AERx(商標)(Aradigm、Hayward、Calif.)、Ultravent(登録商標)ネブライザー(Mallinckrodt、Hazelwood、Mo.)、Acorn II(登録商標)ネブライザー(Marquest Medical Products、Totowa、N.J.)、Ventolin(登録商標)定量噴霧式吸入器(Glaxo、Research Triangle Park、N.C.)、Spinhaler(登録商標)粉末吸入器(Aventis、Bridgewater、N.J.)、および、Bespak(London、UK)、3M(Minneapolis、Minn.)、Valois(フランス)により供給されている定量噴霧式吸入器などである。
【0144】
吸入器具により送達される製剤中のインスリンミクロスフェアは、全身投与に向けてタンパク質が肺中、好ましくは下気道または肺胞の中に進む能力に影響する。好ましくは、インスリンミクロスフェアは、送達されるインスリンの少なくとも約10%から40%、好ましくは約40%から約50%または超、より好ましくは70%から80%または超が肺中に堆積されるように製剤される。口で呼吸するヒトにとっての肺堆積の最大効率は、空気力学的直径が約0.1μmから約10μmの粒子の場合に得られることが知られている。空気力学的直径が約5μmを超える場合、肺堆積は実質的に減少する。したがって、吸入により送達されるインスリンのミクロスフェアの空気力学的直径は、好ましくは約10μm未満、より好ましくは約0.1μmから約5μmの範囲、最も好ましくは約0.1μmから約3μmの範囲である。インスリンミクロスフェアの製剤は、選んだ吸入器具において所望の空気力学的直径が得られるように選択する。
【0145】
吸入により投与するためのインスリン製剤は、本明細書で開示するインスリンミクロスフェア、および、場合により、増量剤、界面活性剤、担体、賦形剤、別の添加物などを典型的に含む。添加物は、例えば、吸入による送達のために必要に応じてミクロスフェアを希釈するため、製剤の加工を容易にするため、製剤に有利な特性を与えるため、吸入器具からの製剤の分散を容易にするため、製剤を安定化させるため(例えば、抗酸化剤または緩衝液)、製剤に味を付けるためなどに、インスリンミクロスフェア製剤中に含ませることができる。このインスリンミクロスフェアは、分子レベルで添加物と混合でき、または、固体製剤は、添加物の粒子と混合された、または該粒子上にコーティングされたインスリンミクロスフェアを含むことができる。典型的な添加物としては、単糖、二糖および多糖;例えば、乳糖、グルコース、ラフィノース、メレチトース、ラクチトール、マルチトール、トレハロース、ショ糖、マンニトール、デンプン、またはその組合せなどの糖アルコールおよび他のポリオール;ソルビトール、ジホスファチジルコリンまたはレシチンなどの界面活性剤などが挙げられる。製剤中で使用する場合、添加物は、上述の目的にとって有効な量で、多くの場合、製剤の約0.1重量%から約90重量%の量で存在する。タンパク質製剤用の当技術分野で公知の添加剤を製剤中に含ませてもよい。
【0146】
吸入によるインスリンミクロスフェア製剤の投与は、糖尿病の治療にとって好ましい方法である。本出願の方法では、このインスリンミクロスフェア組成物は経口吸入により送達でき、咳または息切れを生じさせないことが見出されている。加えて、この方法および組成物により送達されるインスリンのバイオアベイラビリティは、他の方法により見られるものより高い。31%もの高いバイオアベイラビリティが観察され、平均のバイオアベイラビリティは12%であった。特定の理論または作用機序に拘束されているものではないが、本発明において製剤された小球形インスリン粒子組成物の空気力学的特性は、溶解されたインスリンが容易に吸収される主要な部位である肺深部へのより高率(%)の粉末質量の到達にとって好都合であると考えられる。さらに、この組成物の肺投与に伴う肺中への球形インスリン粒子の堆積率は、予想より高かった。
【0147】
インスリンミクロスフェアを含むスプレーは、噴射剤または他の液体懸濁化剤中に懸濁させたインスリンミクロスフェアの懸濁液を、圧力下でノズルを通して押し出すことにより作製できる。ノズルのサイズおよび構成、加えられる圧力および液体送出速度は、当業者に公知の任意の吸入器具を用いて所望の出力および液滴サイズを達成するように選ぶことができる。例えば、毛細管またはノズルの供給口と連結した電場により、電気スプレーまたは圧電スプレーを作製できる。有利には、噴霧器により送達されるインスリンミクロスフェアの粒子サイズは、約10μm未満、好ましくは約0.1μmから約5μmの範囲、最も好ましくは約0.1μmから約3μmである。
【0148】
ネブライザーを用いた使用に適したインスリンミクロスフェア製剤は、懸濁液1ml当たりインスリン約1mgから約20mgの濃度のミクロスフェアの水性懸濁液を典型的に含む。この製剤は、賦形剤、緩衝液、等張剤、保存剤、界面活性剤、ポリマー(例えばポリエチレングリコール)、および、亜鉛またはカルシウムなどの金属のイオンなどの作用剤を含んでもよい。さらに、この製剤は、賦形剤、または、ミクロスフェアおよび/またはその中のインスリンを安定化させるための作用剤(緩衝液、還元剤、バルクタンパク質または炭水化物など)を含んでもよい。インスリンを製剤するうえで有用なバルクタンパク質としては、アルブミン、プロタミンなどが挙げられる。インスリンを製剤するうえで有用な典型的な炭水化物としては、ショ糖、マンニトール、乳糖、トレハロース、グルコースなどが挙げられる。一般に、このインスリンミクロスフェア製剤は界面活性剤を含有しないが、その理由は、このインスリンミクロスフェアは凝集する傾向がないからである。
【0149】
インスリンミクロスフェアは、ジェットネブライザーまたは超音波ネブライザーなどのネブライザーにより投与できる。典型的に、ジェットネブライザーでは、圧縮された空気源を用いて、開口部を通して高速の空気ジェットを作り出す。ガスがノズルを超えて膨張すると低圧領域が作り出され、これにより、液体貯留部に接続された毛細管を通してインスリンミクロスフェアの懸濁液が引き込まれる.毛細管からの液体の流れは、管を出る際にせん断されて不安定な細糸および液滴となり、エアロゾルが作り出される。所与のジェットネブライザーから所望の性能特徴を得られるように、様々な構成、流速および整流装置の種類を採用できる。超音波ネブライザーでは、典型的には圧電変換器の採用により、高周波電気エネルギーを用いて機械的振動エネルギーを作り出す。このエネルギーが、直接か、またはカップリング流体を介するかのいずれかでインスリンミクロスフェア製剤に伝わり、インスリンミクロスフェアを含むエアロゾルが作り出される。有利には、ネブライザーにより送達されるインスリンミクロスフェアの粒子サイズは、約10μm未満、好ましくは約0.1μmから約5μmの範囲、最も好ましくは約0.1μmから約3μmである。
【0150】
ジェット式または超音波式いずれかのネブライザーを用いた使用に適したインスリンミクロスフェア製剤は、懸濁液中にインスリンミクロスフェアを、懸濁液1ml当たりインスリン約1mgから約20mgの濃度で典型的に含む。この製剤は、上述のもの(例えば、賦形剤、緩衝液他)などの添加剤を含んでもよい。
【0151】
定量噴霧式吸入器(MDI)では、噴射剤、インスリンミクロスフェアおよび任意の賦形剤または他の添加物が、液化圧縮ガスを含む混合物として小容器中に含有される。計量弁が作動すると、約10μm未満、好ましくは約0.1μmから約5μm、最も好ましくは約0.1μmから約3μmのサイズ範囲のミクロスフェアを好ましくは含有するエアロゾルとしてのこの混合物が放出される。所望のミクロスフェアサイズは、本明細書で開示する方法により作製されるインスリン製剤を採用することによって得ることができる。好ましい定量噴霧式吸入器としては、Bespak、Valois、3MまたはGlaxoにより製造され噴射剤を採用しているものが挙げられる。
【0152】
定量噴霧式吸入器具を用いて使用するためのインスリンミクロスフェア製剤は、一般には、非水性媒体中の懸濁液として(例えば噴射剤中に懸濁されて)ミクロスフェアを含むことになろう。一般に界面活性剤は必要ではないが、その理由は、本明細書で開示するインスリンミクロスフェアは一定のサイズを有しており、凝集する傾向がないからである。噴射剤は、トリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタノールなどのクロロフルオロカーボン;および、HFA P134a(1,1,1,2−テトラフルオロエタン)、HFA P227(1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン−227)などのヒドロフルオロアルカン;または有用な他の任意の噴射剤など、この目的のために採用される従来の任意の材料であってもよい。好ましくは、噴射剤はヒドロフルオロアルカンである。インスリンなどのタンパク質製剤用の当技術分野で公知の添加剤を製剤中に含んでもよい。
【0153】
本明細書で開示する小球形粒子と共に使用するための乾燥粉末ディスペンサーとしては、単位用量乾燥粉末吸入器(UDPI)、貯留部式乾燥粉末吸入器(RDPI)、および複数回用量式乾燥粉末吸入器(MDPI)が挙げられる。UDPIでは、粉末が充填された保持部材の各単位が、決まった単回用量の粉末を、含有するか、または他の形で保持する。RDPIでは、貯留部が複数回(未計量の)用量の粉末を、含有するか、または他の形で保持し、作動時に貯留部から用量分の粉末を計量するための手段を備える。計量手段としては、例えば、貯留部から送られる粉末をカップに充填する第1の位置から、計量された用量の粉末が分配される第2の位置へ移動可能な計量カップが挙げられる。MDPIでは、粉末が充填された保持部材の各単位が、複数回分の決まった用量の粉末を、含有するか、または他の形で保持する。
【0154】
DPIは、患者コンプライアンスを向上させた最初の呼吸作動式吸入器である。DPIは、作動と吸入との連動を容易にし、それにより吸入療法においてMDIに勝る代替品となっている。DPI器具の共通の特徴としては、充填された保持部材を開封する(例えば、穿刺する、カットする、穴を開ける、またははがす)ための手段、充填された保持部材を置くための空間(例えば、カップが移動するため、またはカップをしっかり固定するための場所を有する隙間または室)、対象がそれを通して吸入するマウスピース、および、場合により、保持部材が吸入されるのを防止するための格子が挙げられる。簡単なDPIは、肺中の作用部位および/または吸収部位への活性剤の送達において有効であることが示されている。単独のDPI器具の非限定的な例としては、Spinhaler(登録商標)(Fisons、UK)、Cyclohaler(商標)(Pharmachemie、Haarlem、オランダ)、Handihaler(登録商標)(Boehringer Ingelheim)、Floradil(登録商標)DPI(Novatis)などの穿刺型、カット型、Flowcaps(登録商標)(Hovione)およびEclipse(商標)(Aventis)、ならびに、Rotohaler(登録商標)(GSK)などの加圧型が挙げられる。
【0155】
DPIを用いた使用に適した小球形粒子製剤は、本明細書で開示するものなど、球形インスリン粒子を含有する流動性および分散性の粉末を典型的に含む。この粉末製剤は、DPI器具の作動時に保持部材から粉末を出させるメカニズムを備えたDPI器具の筺体中に配置されるように設計された1つまたは複数の保持部材中に入れられる。保持部材の非限定的な例としては、カプセル、ブリスター、カートリッジ、または、プリント、ペイントおよび真空閉鎖など適当な任意のプロセスにより粉末がその上に施用される基板が挙げられ、このような保持部材は、単独で、または、複数回分が小分けされたものがマガジンもしくはカートリッジもしくはアレイもしくは他のパッケージ(例えば、細片もしくはテープのような細長い形態、または、円盤型の基板上の円のような曲線状の形態)中に入った状態で供給される。好ましい保持部材は、穿刺され、カットされ、穴を開けられ、またははがされ、または他の形で、脱落片を生じることなく、開口部は再度閉じたり妨害されたりすることなく開口されたままの状態できれいに開封し、粘着および摩擦帯電により最低限の保持力で粉末をきれいに空け、充填された粉末との最低限の相互作用を有し、水分レベルの変化に耐え(特に、10%から5%またはさらには1%以下に至る低い水分レベルを有する)、および/または、充填された粉末に対し水分バリアとして機能し、微生物の侵入および増殖を防ぎ(例えば、成型中の紫外線照射により)、および、厳格な重量公差を有する(例えば、ミリグラム単位で1桁台)ことができ、および/または、充填における変動を減らすように、充填された粉末より軽いものであってもよい。
【0156】
成型により典型的に形成されるカプセルの非限定的な例としては、穿刺またはカットされることでその中身を放出できる2ピース型(本体とカップとを有する)のハードカプセルが挙げられる。このカプセルは、透明、半透明、不透明または色の着いたものであってもよい。粘稠性があり柔軟で透明なプラスチック、または、脆いフィルムタイプの材料(例えば箔紙)のいずれかで作られた空洞を有し、それを覆って脆いフィルムタイプの材料(例えば箔紙)をラミネートする熱成型により典型的に形成されるブリスターの非限定的な例としては、箔の空洞を覆って箔で密封されたもの、および、プラスチックの空洞を覆って箔で密封されたものが挙げられる。非限定的な天然または合成の材料としては、以下が挙げられる:ゼラチンブレンド(典型的に水および着色料を伴う)、セルロース、セルロースベースのポリマー(例えば、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、要するにヒプロメロース)、エステル化されたHPMC、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS))、ビニルポリマー(例えば、酢酸フタル酸ポリビニル(PVAP)、Aclar(登録商標)、PVC(登録商標))、アクリルポリマー(例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸のコポリマー)、ヒプロメロース。低含水量の保持部材としては、HPMCおよびその誘導体で作製されたもの(例えば、Capsugel製のVcaps(商標)およびシオノギクオリカプス製のQuali−V(登録商標))など、含水量が5〜8%または4〜6%以下のものが挙げられる。
【0157】
当業者には、本明細書で開示する使用の方法は、本明細書に記載されない他の適当な器具によるインスリンミクロスフェアの肺投与によって達成できることは理解されよう。
【0158】
一方法は、本明細書で開示する治療上有効量のインスリンミクロスフェア組成物を含有する1回または複数回分の治療用量を肺送達器具中に分散させることを含む。本明細書で使用する場合、「治療上有効量」は、治療対象の特定の病態の発症を遅らせ、その進行を阻害し、またはそれを緩和するために必要な活性剤の当該量を指す。一般に、治療上有効量は、対象の年齢、病態および性別、ならびに、対象における疾患の性質および程度に伴って変化すると考えられるが、それらは全て当業者により決定できる。投薬量は、とりわけ、何らかの合併症の事象がある場合には、個々の医師または獣医により調節してもよい。活性剤の治療上有効量は、典型的には、毎日、1日または複数日間、週1回、月1回、2または3ヶ月ごとなどでの1回または複数回分の用量投与で1pg/kgから約1000mg/kg、好ましくは約1μg/kgから約200mg/kg、最も好ましくは約0.1mg/kgから約20mg/kgと、様々である。
【0159】
このインスリンミクロスフェアは、単独で、または、医薬組成物の一部として他の薬物療法と組み合わせて投与してもよい。そのような医薬組成物は、生理学上および/または薬学上許容される当技術分野で公知の標準的な任意の担体と組み合わせてインスリンミクロスフェアを含んでいてもよい。このような組成物は、滅菌されていてもよく、治療上有効量のミクロスフェアを、患者への投与に適した重量または体積の単位で含有してもよい。用語「薬学上許容される担体」は、本明細書で使用する場合、ヒトまたは他の動物の体内への投与に適した1つまたは複数の適合性の固体または液体充填剤、希釈剤またはカプセル化物質を意味する。用語「担体」は、有機または無機の原料、天然または合成のものを表し、施用を容易にするために活性原料をこのような担体と組み合わせる。医薬組成物の成分は、所望の薬学上の有効性を実質的に損なうと考えられる相互作用が存在しないような様式で、本明細書で開示する分子と共に、およびそうした成分同士で混合することもできる。薬学上許容される、とは、細胞、細胞培養物、組織または生物などの生体系と適合性の非毒性材料をさらに意味する。担体の特徴は、投与経路に依存することになる。生理学上および薬学上許容される担体としては、希釈剤、充填剤、塩、緩衝液、安定化剤、乾燥剤、増量剤、噴射剤、酸性化剤、コーティング剤、可溶化剤および当技術分野で周知の他の材料が挙げられる。経口、皮下、静脈内、筋肉内などの投与に適した担体の製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co.、Easton、Pa.で見つけることができる。
【0160】
本明細書では、1回または複数回分の用量のインスリンミクロスフェアを含有する容器を備える多様な医薬組成物が提供される。単回用量中のミクロスフェアの数は、各ミクロスフェア中に存在する活性剤の量、および、放出にかけることが望ましい期間に依存する。好ましくは、単回用量は、所望の放出プロファイルを有し、0.1時間から96時間の期間にわたる活性剤の放出の持続時間を達成するように選択される。
【0161】
一方法は、肺送達器具を用いて使用するためのパッケージ中に、本明細書で開示する治療上有効量のインスリンミクロスフェアを含有する1回または複数回分の治療用インスリン用量を分散させることを含む。
【0162】
パッケージは、哺乳動物、好ましくはヒトの肺中へのin vivoでの活性剤の放出により例えば糖尿病を治療するための、1回または2回または3回以上から最大500回分の間の治療用量のインスリンミクロスフェアを好ましくは含有する。単回用量中に存在するミクロスフェアの数は、活性剤の種類および活性に依存する。好ましくは、単回用量は、特定の病状を治療するために最適化されている期間にわたる放出が達成されるように選択される。
【0163】
パッケージは、その中身を肺送達器具に送達するための容器の使用についての説明書、および、場合により、製造者の説明書による吸入器具の使用についての追加的な説明書を好ましくは備える。
【0164】
この肺用インスリン医薬組成物は、便利なように単位剤形(例えばカプセル)の形で提供されてもよく、製薬分野で周知の方法のいずれかにより調製してもよい。全ての方法は、ミクロスフェアを、1つまたは複数の副原料を構成する担体と会合させるステップを含んでも含まなくてもよい。この組成物は、ミクロスフェアを、液体担体、細かく分割された固体担体、またはその両方と均一および密接に会合させてから、必要に応じて製品を成形することにより調製してもよい。
【実施例】
【0165】
A.小球形インスリン粒子
(実施例1)
小球形インスリン粒子の一般的な調製方法
16.67%PEG3350を含む、pH5.65(酢酸ナトリウム緩衝液0.033M)に緩衝した溶液を調製した。撹拌しながら、この溶液に結晶性インスリン亜鉛の濃縮スラリーを加えた。最終溶液におけるインスリンレベルは0.83mg/mLであった。溶液を約85℃から90℃に加熱した。インスリン結晶は、5分以内にこの温度範囲において完全に溶解した。溶液の温度を制御した速度で低下させると、約60℃で小球形インスリン粒子が形成し始めた。PEG濃度が上昇すると収率は増大した。このプロセスにより、平均1.4μmの様々なサイズ分布を有する小球形粒子が生じる。
【0166】
小球形粒子が溶解しない条件下でダイアフィルトレーションによってミクロスフェアを洗浄することによって、形成した小球形インスリン粒子を、PEGから分離した。小球形インスリン粒子を、Zn2+を含む水溶液を用いて懸濁液から洗い出した。Zn2+イオンは、インスリンの溶解性を低下させ、収率を低下させ、小球形粒子の凝集をもたらす溶解を防ぐ。
【0167】
(実施例2)小球形インスリン粒子を作製するための非撹拌バッチプロセス
結晶性インスリン亜鉛20.2mgを室温で脱イオン水1mLに懸濁した。0.5N HCl50μLをインスリンに加えた。脱イオン水1mLを加えて、結晶性インスリン亜鉛溶液10mg/mLを形成した。ポリエチレングリコール3350(Sigma)12.5gおよびポリビニルピロリドン(Sigma)12.5gを、100ミリモルの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.7)50mLに溶解した。ポリマー溶液の体積を、酢酸ナトリウム緩衝液で100mLに調整した。エッペンドルフチューブ中ポリマー溶液800μLに、10mg/mLインスリン溶液400μLを加えた。インスリン/ポリマー溶液は混合時に濁った。ポリマー溶液の代わりに水を用いて対照を調製した。エッペンドルフチューブを、90℃の水浴中30分間、混合または撹拌しないで加熱し、次いで取り出し、氷上に10分間配置した。インスリン/ポリマー溶液は90℃の水浴から取り出したときは澄明であったが、冷却すると濁り始めた。ポリマーなしの対照は、実験を通して澄明なままであった。粒子を、インスリン/ポリマーのチューブから遠心分離によって回収し、その後2回洗浄してポリマーを除去した。最終の水中懸濁液を凍結乾燥して乾燥粉末を得た。インスリン/ポリマーのチューブからの凍結乾燥粒子をSEM分析すると、直径約1μmの小球形粒子の均一な分布が示された。粒子のCoulter光散乱粒子サイズ分析により、平均粒子サイズ1.413μm、95%信頼限界0.941〜1.88μm、標準偏差0.241μmの、狭いサイズ分布が示された。ポリマーまたは洗浄のステップがないが他の点では同じ様式で処理加工および凍結乾燥したインスリンの対照では、SEM下では、タンパク質の凍結乾燥の後、典型的に得られたものと外観において同様である、薄片だけ(粒子なし)が示された。
【0168】
(実施例3)小球形インスリン粒子を作製するためのプロセスを通した連続流
インスリン36.5mgを量り、脱イオン水3mLに懸濁した。1N HCl30μLを加えてインスリンを溶解した。溶液の最終体積を、脱イオン水で3.65mLに調整した。次いで、PEG/PVP溶液7.3mL(25%PEG/PVP、100mM NaOAc緩衝液中pH5.6)をインスリン溶液に加えて、インスリン溶液の最終合計体積を10.95mLとした。次いで、溶液をボルテックスにかけて、インスリンおよびPEG/PVPの均質な懸濁液が生じた。
【0169】
インスリン懸濁液を、Teflon(登録商標)管(TFE{フラクション(1/32)}”内径の弾性管)を通して0.4mL/分の速度で運転しているBioRad蠕動ポンプに連結した。ポンプからの管を、90℃に維持している水浴中に沈め、その後氷に浸漬している回収チューブ中に挿入した。インスリン溶液の温度を水浴中約90℃から氷中の回収チューブ中約4℃に低下させると、小球形インスリン粒子が形成された。図5は、このプロセスの模式図である。プロセスに対する運転時間の合計は、体積10.95mLに対して35分であった。小球形粒子を回収した後、回収チューブをBeckmanJ6B遠心分離機において3000rpmで20分間遠心した。2回目の水洗を完了し、小球形粒子のペレットを2600rpmで15分間遠心した。最終の水洗浄液を、1500rpmで15分間遠心した。アリコートを粒子サイズ分析用に取り除いた。小球形粒子を−80℃で凍結し、2日間凍結乾燥した。
【0170】
粒子サイズは、Beckman Coulter LS230粒子計数器によって測定して、体積によって1.397μm、表面積によって1.119μm、および数によって0.691μmであると決定した。走査型電子顕微鏡は、均一サイズの非凝集の小球形インスリン粒子を示していた(図6)。
【0171】
短時間インスリン溶液を90℃に曝露するプロセスを通して連続流を使用すると、小球形粒子の生成が可能になった。この方法により、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定してタンパク質90%である最終組成物が生じた(図7)。HPLC分析は、溶出した小球形インスリン粒子の溶出時間は約4.74分であり、インスリン標準または天然のインスリン出発材料の溶出時間と大幅に違わないことも示しており、小球形粒子に作製した後もインスリンの生化学的な完全性は保存されることを示していた。
【0172】
(実施例4)小球形インスリン粒子を作製するための熱交換体バッチプロセス
ヒト結晶性インスリン亜鉛を、最小量の脱イオン水中に懸濁し、確実に完全に分散させるために超音波処理した。インスリン懸濁液を、最終溶質濃度が0.1M酢酸ナトリウム緩衝液中0.83%結晶性インスリン亜鉛、18.5%ポリエチレングリコール3350、0.7%塩化ナトリウムであるように、予め77℃に加熱した、撹拌し緩衝したポリマー溶液(25℃でpH5.65)に加えた。最初濁っていた混合液は、結晶性インスリンを溶解して3分以内に澄明になった。澄明になった直後、溶液を、熱交換器として用いたウォータージャケット付きガラス製のクロマトグラフィーカラム(カラム内径:25mm、長さ:600mm、Ace Glass Incorporated、Vineland、N.J.)に移した。ガラスカラムを垂直に位置づけ、熱交換体の液体はカラム底部の水ジャケットに入り、上部で出た。このシステムの熱交換の特性を記載するために、熱電対(Type J、Cole Parmer)を、カラム上部および底部のインスリン製剤液の中央に位置づけ、予備的な試運転の間、冷却温度のプロファイルを得た。熱電対を、外来の表面変数を導入しないように、この実験に対して行った6つのバッチの間、除去した。
【0173】
熱交換器を65℃に予め加熱し、インスリン−緩衝ポリマー溶液を、溶液温度が65℃未満に低下せず、気泡が溶液中に導入されないようなやり方で移した。澄明な溶液を4分間、熱交換器において65℃に平衡にした後、熱交換器の溶液を65℃の供給から15℃の供給に切り換えた。熱交換器におけるインスリンの形成を、20分間かけて15℃に平衡にした。温度が60℃から55℃に低下するときに小球形インスリン粒子が形成し、均一な、安定な、クリーム状の白色懸濁液がもたらされた。
【0174】
小球形インスリン粒子を、5容積の0.16%酢酸ナトリウム−0.026%塩化亜鉛緩衝液、pH7.0に対してダイアフィルトレーション(A/G Technologies、750,000MWCO限外ろ過カートリッジ)によってポリエチレングリコールから分離し、次いで元の体積の5分の1に濃縮した。小球形インスリン粒子の懸濁液を、5体積の脱イオン水に対してダイアフィルトレーションすることによってさらに洗浄し、その後凍結乾燥して水を除去した。ダイアフィルトレーションの間(膜表面上の粒子の極性の充填から)、および凍結乾燥の間(凍結前の小球形粒子の沈降から)小球形粒子の凝集を防ぐよう注意を払った。乾燥した小球形粒子は自由に流動し、すぐに使用でき、再凝集はなく、またはふるい分けを必要としなかった。
【0175】
小型球状インスリン粒子:上記したプロセスにより、賦形剤を添加せずに結晶性インスリン亜鉛から均一なサイズの球状インスリン粒子が生成される。本プロセスによって調製される小球形インスリン粒子は、飛行時間型測定装置(Aerosizer(商標))およびAndersen Cascade Impactorにより測定して優れた空気力学的特性があり、肺到達率が高く、単純な、広く用いられている乾燥粉末吸入薬(Cyclohaler(商標))から送達される場合、肺深部への送達を示す。モデルタンパク質としてインスリンを用いることにより、本発明者らは、確立されているU.S.P.の方法を用いてタンパク質の化学的な完全性に対するプロセスの効果を試験することもできる。
【0176】
乾燥粉末小球形インスリン粒子を、偏光顕微鏡(Leica EPISTAR(登録商標)、Buffalo、N.Y.)によって、および走査型電子顕微鏡(AMRAY1000、Bedford、Mass)で画像化した。粒子サイズの分析を、装置に粉末を導入するためのModel3230Aero−Disperser(登録商標)Dry Powder Disperser(TSI Incorporated、St.Paul、Minn)を含めたAerosizer(登録商標)Model3292 Particle Sizing Systemを用いて行った。個々の粒子サイズを、Aerosizerの結果を電子顕微鏡と比べることによって確認した。
【0177】
プロセス前後のインスリンの化学的な完全性を、ヒトインスリンに対するUSPのモノグラフ(USP26)に従ってHPLCによって測定した。インスリンおよび高分子量タンパク質の含量を、イソクラティックSEC HPLC法を用いて276nmのUV検出で測定した。インスリン、A−21デスアミドインスリン、および他のインスリン関連物質を測定するために、USPグラジエント逆相HPLC法を用いて試料を分析した。インスリン含量は214nmのUV検出を用いて測定する。高分子量タンパク質、デスアミドインスリン、および他のインスリン関連物質をアッセイして、プロセスによってもたらされるあらゆる化学的分解を定量した。
【0178】
小球形インスリン粒子の空気力学的特徴を、Aerosizer(登録商標)装置を用いて試験した。インスリン乾燥粉末に対するサイズ分布測定を、低度のずり応力、中程度の送出速度、および通常のデアグロメレーションで、AeroDisperserアタッチメントを用いて行った。装置のソフトウエアにより、飛行時間データがサイズに変換され、それが対数的に間隔をあけた範囲中に配置される。各サイズのビンにおいて検出された粒子数、および各サイズのビンにおいて検出された粒子の合計体積を統計学的分析に用いた。体積の分布は、大型の粒子が数の分布を超え、したがって非分散の粒子および大型の粒子の凝集を検出するのにより感度が高いことを強調するものである。
【0179】
Andersen Cascade Impacterの組み立て体は、プレセパレーター、9個のステージ、8個の回収プレート、およびバックアップフィルターからなっていた。ステージは、−1、−0、1、2、3、4、5、6、およびFと番号付けられている。ステージ−1は開口部ステージのみである。ステージFは、ステージ6に対する回収プレートおよびバックアップフィルターを含んでいる。ステンレススチール製回収プレートは、粒子の「跳ね返り」を防ぐために、食品グレードのシリコーンの薄層でコーティングされていた。サンプラーを通した試料の流れの空気流速度60LPMを分析に用いた。約10mgの試料サイズを正確に重量測定し、各デンプンカプセル(Vendor)中に量り入れ、粉末は4秒でCyclohalerからエアロゾルとして送達された。各プレート上に堆積したインスリン粉末の量を、ヒトインスリン用のUSP26のアッセイに従って、214nmの逆相HPLC検出によって測定した。
【0180】
空気動力学的粒径質量中央値(MMAD)を、累積の質量パーセント未満対有効なカットオフ直径(ECD)のプロビットの適合を用いてSigma Plotソフトウエアによって計算した。放出用量(ED)を、カスケードインパクター中に堆積したインスリンの観察された質量の合計として測定した。これは、Cyclohalerカプセル中に充填された小球形インスリン粒子の塊のパーセント値として表される。
【0181】
結果は、相転移の製剤と組み合わせてプロセスのパラメータを注意深く制御することにより、1)直径約2μmの、主に球形のインスリン粒子、2)単分散のサイズ分布、3)バッチごとの再現性ある空気力学的特性、および4)残留の水分を排除して95%以上のヒトインスリンから構成される小球形粒子が生成できることを実証している。本発明者らは、結晶性インスリン亜鉛の溶解性は、溶液の温度、pH、ポリマー濃度、およびイオン強度によって制御することができると決定した。本発明者らは、また、冷却速度を制御することで、狭いサイズ範囲内で主に球形のインスリン粒子を形成できることも見出した。
【0182】
出発のヒト結晶性インスリン亜鉛原材料のSEMは、不均一なサイズ、および粒子サイズ約5μmから40μmの結晶の形状を示すが、この実施例からのバッチの1つを撮影したSEM写真は、球形の形状および均一なサイズの小球形インスリン粒子を示している(図1b)。SEMが図示する粒子の形状およびサイズは、本実施例用に調製した他の5つのバッチの代表である。
【0183】
ダイアフィルトレーション洗浄および脱イオン水懸濁液からの凍結乾燥によって緩衝ポリマーから分離した後、乾燥粉末の小球形インスリン粒子は比較的自由に流動し、重量測定および取扱いが容易である。出発の結晶性インスリン亜鉛の原材料の水分含量が12%であるのに比べて、小球形インスリン粒子の水分含量は2.1%から4.4%の水分の範囲であった。HPLCによる小球形インスリン粒子の化学分析は、プロセスによるインスリンの化学的分解は非常に少なく(図2)、高分子量化合物の増大がないことを示していた。直径%、A21デスアミドインスリン%、後期溶出ピーク%、および他の化合物の%において(出発のインスリン原材料を凌ぐ)増大があったが、6個のバッチ全てに対する結果はUSP限界以内であった。インスリン効力の保持は、出発原材料に対する28.7IU/mgに比べて、28.3から29.9IU/mgであった。プロセスにおいて用いられたポリマー(ポリエチレングリコール)の残留レベルは、0.13%未満から検出不能であり、ポリマーは小球形インスリン粒子の重要な構成成分ではないことを示している。
【0184】
小球形インスリン粒子に対する空気力学的特性のバッチ間再現性
AerosizerおよびAndersen Cascade Impactorのデータが実証するように、生成された小球形インスリン粒子の6個の別々のバッチ間には、空気力学的特性に対して優れた再現性が存在した。6個のバッチ全てに対して、Aerosizerのデータは、粒子の99.5%を超えて0.63μmから3.4μmのサイズ範囲内に入り、最低の60%の小球形粒子が1.6μmから2.5μmの狭いサイズ範囲内に入ることを示していた(図3)。統計学的に、このデータは、生成された小球形インスリン粒子のバッチの少なくとも99%が0.63μmから3.4μmのサイズ範囲における粒子の少なくとも96.52%であることに95%信頼性があり得ることを示している(2μmの目標直径の−68.5%から70%)。
【0185】
Andersen Cascade Impactorのデータは、Cyclohalerに由来する投与量の平均17.6%が装置のマウスおよびプレセパレーター/喉部に堆積した以外は、Aerosizerのデータと良好に相関していた(図8)。データは、Aerosizerの粉末の分散の有効性はCyclohaler装置の有効性よりも大きいことを示唆している。しかし、6個のバッチに対する放出用量の平均は、Cyclohalerから71.4%であり、放出用量の72.8%はインパクターのステージ3上に堆積した。肺深部の送達に対する肺到達率が、1.1ミクロンと3.3ミクロンの間のECDでの肺到達率であると推定される場合、吸入された小球形インスリン粒子の平均60.1%が肺深部の送達およびその後の全身性の吸収に利用可能であり得る。プロセスに対する優れた再現性を表1に示すが、この場合6個の別々のバッチに対するMMADおよびGSDの平均に対する標準偏差値はとりわけ低い。これは、プロセスの変数が厳格な対照下にあり、空気力学的特性に対するバッチごとの均一性をもたらすことを示している。
【0186】
【表1】
表1は小球形インスリン粒子の空気力学的特性を示す。結果(平均+/−SD)は、Andersen Cascade Impactor上の別々の小球形インスリン粒子のバッチ(N=6)の分析から計算した。NMADおよびGSDに対するとりわけ低い標準偏差によって、プロセスに対する非常に良好な再現性が実証される。
【0187】
この冷却プロセスによって生成された小球形インスリン粒子は、表1における空気力学的データによって明らかなように、凝集の傾向がほとんどなかったことを示していた。
【0188】
(実施例5)小球形インスリン粒子を作製するための撹拌容器プロセス
緩衝ポリマー溶液(2℃の0.1M酢酸ナトリウム緩衝液、pH5.65中、18.5%ポリエチレングリコール3350、0.7%塩化ナトリウム)2880mLを、ガラス製の3Lのウォータージャケット付き撹拌容器に加え、75℃に予め加熱した。ヒト結晶性インスリン亜鉛2.4グラムを、緩衝ポリマー溶液80mL中に懸濁し、確実に完全に分散するように超音波処理した。撹拌した、予め加熱した緩衝ポリマー溶液にインスリン懸濁液を加え、さらなる5分間撹拌した。混合液はこの時間の間に澄明になり、結晶性インスリン亜鉛が溶解したことを示していた。10℃に設定した冷却機からの水を、インスリンポリマー溶液が15〜20℃に低下するまで、容器のジャケットを通して汲み上げた。得られた懸濁液を、5体積の0.16%酢酸ナトリウム−0.026%塩化亜鉛緩衝液、pH7.0、その後5体積の脱イオン水に対してダイアフィルトレーションし、その後凍結乾燥して水を除去した。凍結乾燥粉末のSEM分析により、TSI Aerosizer飛行時間型分析によって、空気力学的な平均直径が1.433μmの均一な小球形粒子が示された。Andersen cascade impacotor分析により、放出用量の73%がステージ3からフィルター上に、2.2がMMAD、および1.6がGSDに堆積するという結果になり、全て粉末の空気力学的特性が優れていることの指標であった。
【0189】
(実施例6)小球形粒子生成性の製剤のイオン強度を調節することによるインスリン分解生成物の形成の低減
インスリンは、時間の延長なしで、または酸性の環境なしで75℃などの初期温度のより低い溶液にも溶解することができるが、溶液にNaClを加えることによって著しい凝集がもたらされる。
【0190】
以下の技術を用いて、小球形インスリン粒子の作製プロセスの改良を達成した。結晶性インスリン亜鉛の濃縮スラリーを(室温で)、約85℃から90℃に予め加温した0.1M酢酸ナトリウム、pH5.65中16.7%ポリエチレングリコール溶液に(撹拌しながら)加えた。インスリン結晶は、この温度範囲において5分以内に完全に溶解した。小球形インスリン粒子は、溶液の温度を低下させると形成した。
【0191】
化学反応によるA21デスアミドインスリンおよびインスリンダイマーの著しい形成は、温度の上昇によって、85〜90℃の初期温度で生じた。しかし、これは75℃では時間の延長を必要とした。時間の延長は、また、著しいインスリンの分解をもたらした。酸性の環境においてインスリンを予め溶解することにより、大きなパーセント値のインスリンの、A21デスアミドインスリン分解生成物への望ましくない変換ももたらされた。
【0192】
一実験において、化学的手段によってインスリンダイマーの形成を低減しようと、緩衝ポリマー反応混合液に塩化ナトリウムを加えた。塩化ナトリウムを加えても、デスアミドまたはダイマーのインスリン分解生成物の形成は大幅には低減しなかったが、塩化ナトリウムを加えるとオリゴマーの形成は大幅に低減された(高分子量インスリン生成物)(表2)。
【0193】
【表2】
さらに、結晶性インスリン亜鉛はNaClの存在下で、NaClなしの対照よりも非常に速やかに溶解した。これは、塩化ナトリウムを加えることによりインスリンの溶解速度が改善され、最初にインスリン亜結晶鉛を溶解するのに用いた温度を低下させることができることを示唆していた。この仮定は、0.7%NaClを製剤に加えると、先にNaCl添加なしで必要とされた87℃よりも著しく低い温度である75℃で5分以内に結晶性インスリン亜鉛の原材料を溶解させることができることを実証した実験において確認された。75℃でNaClの非存在下では、インスリンは13分後に完全に溶解しなかった。
【0194】
一連の実験により、塩化ナトリウム濃度を増大すると(2.5mg/ml、5.0mg/ml、10.0mg/ml、および20.0mg/ml)インスリン結晶が溶解する温度がさらに低下し、小球形粒子が形成し始める温度も低下することが実証された(図8a〜d)。さらに、製剤のNaCl濃度が増大すると、より高濃度の結晶性インスリン亜鉛を速やかに溶解することが測定された。したがって、所与の温度におけるインスリンの溶解性は、開始の連続相の塩化ナトリウムレベルを調節することによって注意深く制御し得ることが確認された。これにより、分解生成物の形成に対して伝導性の低い温度でプロセスを行うことができる。
【0195】
塩化ナトリウムに、インスリンを溶解する温度を低下させることができる独特の化学的特性があるか否かを決定するために、等モル濃度の塩化アンモニウムおよび硫酸ナトリウムを、塩化ナトリウムを有する対照と比較した。NH4ClおよびNa2SO4は両方とも、結晶性インスリン亜鉛の原材料を溶解するのに必要とされる温度を同様に低下させた。イオン強度が高いほど、溶液温度を低減するとともに小球形粒子を形成する能力に影響を及ぼさずに、ミクロスフェア形成性の製剤におけるインスリンの溶解性を増大すると思われる。
【0196】
(実施例7)収率およびインスリンレベルおよび小球形インスリン粒子のサイズに対するPEG濃度の試験
ポリエチレングリコール(3350)滴定のデータは、PEG−3350を増大すると小球形粒子の収率も増大することを示している。しかし、PEG濃度が非常に高い場合、粒子はその球形の形状を失い、収率におけるわずかな改善が相殺される。
【0197】
インスリンレベルのデータは、PEGに反対の傾向を示しており、インスリンレベルを増大すると小球形粒子の収率における低減がもたらされる。
【0198】
本発明者らは、インスリンレベルが高いほど、直径の大きな小球形粒子が生じる一般的な傾向を観察している。この実験において、濃度が高いほど、非球形粒子の小球形粒子との混合ももたらされた。
【0199】
(実施例8)イヌでの小球形インスリン粒子の試験
この実験研究の目的は、ビーグル犬の肺におけるエアロゾル化したインスリン粉末の堆積に対する定量および視覚化実験を行うことであった。99mTc標識したインスリン粒子を、本明細書に開示する方法に従って作製した。エアロゾル化したインスリンの肺の堆積を、ガンマシンチグラフィーを用いて評価した。
【0200】
この試験ではビーグル犬5頭を用い、各動物に99mTc放射標識したインスリン粒子のエアロゾルの投与を施した。イヌの識別番号は、101、102、103、104、および105であった。
【0201】
エアロゾル投与の前に、動物を麻酔用の注入ラインによってプロポフォールで麻酔し、エアロゾル送達用に各動物に気管内チューブを配置した。
【0202】
放射標識したエアロゾルの吸入用に、各々のイヌを「スパングラー(Spangler)ボックス」のチャンバーに配置した。放射標識したエアロゾルを投与した直後、胸部前部および後部に対してガンマカメラコンピュータ画像を獲得した。
【0203】
99mTc放射標識したインスリン粉末の安定性を確立するために、1つは最初の動物(101)にエアロゾルを投与する前、およびやはり最後の動物(105)を曝露した後の、2つのin vitroのcascade impactor回収物を評価した。
【0204】
結果を図9に図示する。両方の場合においてcascade impactor回収物は、単峰性の分布を示した。
【0205】
図10は、全動物に対するP/I比の計算に対する結果を示す。P/I比は、肺の末梢部位、すなわち肺深部に堆積している99mTcインスリン粉末の割合の尺度である。典型的なP/I比はおそらく約0.7である。P/I比が0.7を超えると、肺中部または気管支部分に比べて肺末梢部において著しい堆積を示す。
【0206】
図11におけるシンチグラフィー画像は、インスリン堆積位置が呼吸器系内であることを示しており、P/Iデータと一致する(図10)。イヌ101に対するシンチグラフィー画像は、本試験におけるイヌ全5頭を代表している。
【0207】
イヌ101に対するシンチグラフィー画像は、気管または気管支に堆積はほとんどなく、肺末梢部における堆積が明らかに増大していることを示している。肺の外部の放射能は、エアロゾル化した粉末の肺深部の堆積から99mTcが速やかに吸収されたためである。
【0208】
P/I比および画像データは、99mTc放射標識したインスリンが主に肺深部に堆積したことを示している。肺末梢部中に堆積した放射標識したインスリンの量は、粒子の凝集が低レベルであることを指摘するものであった。
【0209】
(実施例9)小球形インスリン粒子からポリマーを除去するための、亜鉛含有緩衝液に対するダイアフィルトレーション
PSEA溶液において小球形インスリン粒子を作製した後は、懸濁液からPSEAを全て除去した後凍結乾燥することが望ましかった。PSEAの残留が数パーセントでも、小球形粒子の、脆くない凝集塊を形成するバインダーとして作用し得る。この凝集は放出用量、およびDPI装置から送達される粉末の空気力学的特性に有害に影響を及ぼす。さらに、肺組織をPSEAの反復投与量に曝露すると、毒性学上の問題を起こし得る。
【0210】
凍結乾燥前にPSEAから小球形粒子を分離するために3つの技術が考えられた。粒子を少量回収するのには、ろ過を用いることができた。しかし、より大量の小球形粒子がろ過媒体の穴を速やかに塞ぎ、数ミリグラムを超える粒子の洗浄および回収を非実用的なものにした。
【0211】
粒子を回収するために遠心分離し、その後洗浄溶媒への再懸濁および再遠心分離を伴う数回の洗浄サイクルを用いて、上首尾にPSEAを除去した。小球形インスリン粒子は容易に溶解せず、PSEAが溶液中に残留したので、脱イオン水を洗浄溶媒として用いた。遠心分離の1つの短所は、粒子をスピンダウンするのに必要とされる高いg力によって小球形粒子がペレットに圧縮されたことであった。各々の連続的な洗浄で、ペレットを再懸濁して別々の粒子にするのはますます困難になった。インスリン粒子の凝集は遠心分離プロセスの望ましくない副作用であることが多かった。
【0212】
中空ファイバーカートリッジを用いたダイアフィルトレーションを、小球形インスリン粒子を洗浄するための遠心分離の代替として用いた。ダイアフィルトレーション装置の慣例的な構成において、緩衝PSEA/インスリン粒子懸濁液を密封容器に配置し、懸濁液を、中空ファイバーメンブレンを超えて通過させるろ過をもたらすのに十分な背圧でファイバーを通して再循環させた。再循環速度および背圧を、膜の孔の遮断(偏り)を防ぐように最適化した。懸濁液から除去されたろ液の体積を、洗浄溶媒を撹拌した密封容器中に吸い上げることによって、継続的に補充した。ダイアフィルトレーションプロセスの間、懸濁液中のPSEAの濃度を徐々に低下させ、懸濁液の元の体積の5倍から7倍をほぼ1時間にわたって洗浄溶媒と交換した後、小球形インスリン粒子懸濁液は本質的にPSEAフリーであった。
【0213】
ダイアフィルトレーションプロセスは、ポリマーを除去するのに非常に効率的であり、市販の量へのスケールアップが非常に容易であるが、小球形インスリン粒子はもともと洗浄溶媒として用いられた脱イオン水にゆっくりと溶解した。実験により、インスリンはろ液中から徐々に失われ、懸濁液の元の体積の20倍に等しい脱イオン水が交換された後、インスリン粒子は完全に溶解することと確定された。小球形インスリン粒子は脱イオン水にやや溶けにくいことが見出されていたが、効率の高いダイアフィルトレーションプロセスにより可溶性インスリン、およびおそらく亜鉛イオンが懸濁液から継続的に除去された。したがって、所与の体積の脱イオン水における不溶性インスリンレベルおよび可溶性インスリンレベル間の平衡は、インスリンの溶解に好ましい条件であるダイアフィルトレーションでは生じなかった。
【0214】
表3は可能な洗浄媒体として評価された様々な溶液を示す。乾燥小球形インスリン粒子10ミリグラムを各溶液1mLに懸濁し、室温で48時間穏やかに混合した。可溶性インスリンのパーセント値を24時間目および48時間目に測定した。インスリンは脱イオン水にやや溶けにくく、24時間未満で可溶性であるインスリンの全重量の1%を少々下回って平衡に達することが見出されていた。しかし、先に記載したように、効率の高いダイアフィルトレーションにより可溶性インスリン(および亜鉛)が継続的に除去され、したがってこの平衡は決して達成されることなく、小球形インスリン粒子は溶解し続ける。したがって、理想的な洗浄溶液へのインスリンの溶解性は、水への溶解性よりも低い。インスリンはその等電点付近では溶けにくいので、2つのモル濃度およびpH5.65の酢酸緩衝液を試験した。インスリンの溶解性は緩衝液のモル濃度に依存し、低いモル濃度では水に匹敵することが見出された。エタノールは、ほぼ無水の濃度でのみ、インスリンの溶解性を大幅に低減した。インスリンの溶解性は、水溶液と混合したエタノールをダイアフィルトレーションの初期段階においてPSEA/小球形インスリン粒子懸濁液において用いた場合に実際に増大する。
【0215】
【表3】
市販の注射用結晶性インスリン亜鉛懸濁液において用いられる緩衝溶液は、溶液中にやはり亜鉛を含んでいる。これら2つの溶液を小球形インスリン粒子で試験し、脱イオン水に比べてインスリンの溶解性を大幅に低減することが見出された。文献によると結晶性インスリン亜鉛は、インスリン6量体各々に結合しているZnイオン2個から4個を有さなければならない。様々な結晶性インスリン亜鉛調製物に対して、6量体当たり1.93個から2.46個の範囲の亜鉛イオンが、小球形インスリン粒子を作製するための原材料として用いられた。これは、原材料の結晶性インスリン亜鉛の所与の重量当たり、0.36%から0.46%亜鉛に相当した。小球形インスリン粒子の形成および脱イオン水に対するダイアフィルトレーションの後、亜鉛の58%から74%が処理加工中に失われた。インスリン粒子から亜鉛が喪失すると、インスリンの溶解性の増大およびダイアフィルトレーション中の喪失がもたらされる。
【0216】
0.16%酢酸ナトリウム−0.027%ZnCl2、pH7.0に対して小球形インスリン粒子をダイアフィルトレーションすると、ろ液におけるインスリン喪失は事実上排除された。しかし、驚くべきことに、小球形インスリン粒子の亜鉛含量は、出発の結晶性インスリン亜鉛の原材料に対して測定された0.46%を優に上回って、ほぼ2%に増大した。亜鉛含有緩衝液に対するダイアフィルトレーションの別の予想外の結果は、Cyclohaler DPI装置から観察された放出用量における劇的な改善(脱イオン水に対するダイアフィルトレーションの68%対亜鉛緩衝液ダイアフィルトレーション後の84から90%)、およびAndersen Cascade Impactorの喉部に堆積するインスリン粒子の量における減少であった。亜鉛緩衝液ダイアフィルトレーションは、小球形インスリン粒子乾燥粉末の分散性を改善し、粒子の凝集を低減し、より低いMMAD、およびインパクターのより低いステージ上のより高い堆積をもたらした。これは、亜鉛緩衝液ダイアフィルトレーションおよび小球形インスリン粒子におけるより高い亜鉛含量は、肺深部において堆積する投与量のパーセント値を改善し得ることを示唆していた。
【0217】
MDI適用で用いるための賦形剤を添加することなく噴霧剤のHFA−134a中に懸濁した場合、亜鉛緩衝液が洗浄する小球形インスリン粒子の見かけの不可逆性の凝集は存在しなかった。インスリン粒子は、1分未満に懸濁液から凝結し出されたが、使用直前に振盪すると容易に再懸濁した。使用直前にMDI容器を振盪することは、通常あらゆるMDI製品を用いるために与えられる指示の一部分である。実際、粒子は沈降してMDI加圧容器の底部上に高密度に充填された層にならないので、MDI容器の底部上に沈降するゆるやかに凝結した粒子は、(これらが球形の形状であるため接触が最小であることの他に)インスリン粒子の長期の凝集化を実際に阻害することができる。したがって、小球形インスリン粒子の亜鉛緩衝液ダイアフィルトレーションによってもたらされる特性により、長期間の貯蔵期間、ならびにインスリンおよび他の亜鉛結合性化合物に対するMDI調製物の分散性が改善することがある。
【0218】
小球形インスリン粒子はXRPD分析によって非結晶であることが見出されたので、亜鉛の結合性は6量体を形成するためのインスリンモノマーの亜鉛イオンの配位に関連しなかった。したがって、非特異的なイオンの結合および得られる潜在的な利点は亜鉛以外のイオンの結合性を拡張し得る。亜鉛に結合しない様々なタンパク質は、ダイアフィルトレーションプロセスにおける溶解性を低減し、同様の有益な効果を与える他のイオンと結合し得る。
【0219】
小球形粒子を、10mg/mLの濃度のヒドロフルオロアルカン(HFA)134a噴射剤に懸濁した。HFA134a中に貯蔵した後のインスリンの化学的安定性を、時間0および1ヶ月に評価した。図13に示すデータは、モノマーのインスリン、インスリンダイマー、インスリンオリゴマー、インスリンの主要ピーク、およびA21−デスアミンド(desamindo)インスリンに関して、インスリンミクロスフェアの保存を示す。
【0220】
以下の試験において、実施例4の方法に従って調製した小球形インスリン粒子を、Andersen Cascade Impactor法を用いて3つの異なる吸入装置におけるその性能に関して比較した。Cyclohaler装置は市販の乾燥粉末吸入器(DPI)であり、Disphalerは別の乾燥粉末吸入器であり、定量噴霧式吸入器(MDI)は、ミクロスフェアを本実施例において記載したHFA134aに懸濁し、100μLまたは他のサイズの絞り弁を通して噴射する装置である。図14における結果は、小球形粒子はステージ3およびステージ4上に堆積したAndersen Cascade Impactor装置のステージに衝撃を与えることを明確に示している。これは、吸入器として用いられる装置に関わらず、小球形粒子の性能は非常に再現性があることを指摘している。DPI装置とMDI装置の間の唯一の主な違いは、MDIを用いるとAndersen Cascade Impactorの喉部分に著しく大量の小球形粒子が堆積することである。MDI装置が、Andersen Impactorの喉部に対して小球形粒子を噴射するのが高速度であることは、DPI装置に比べて高比率のインスリンミクロスフェアが堆積することを説明している。当業者であれば、出口速度を減弱または改変したMDI装置を用いて、喉部に堆積する小球形粒子の数を低減することができることが推定できる。さらなる手段は、MDIの終端のスペーサー装置の使用であり得る。
【0221】
小球形インスリン粒子(ロット番号YQ010302)を、本実施例に記載する方法に従って凍結乾燥したインスリン出発材料から作製した。小球形インスリン粒子に対する1年間の貯蔵安定性を、25℃および37℃の凍結乾燥したインスリン出発材料と比較した。インスリンの安定性を、関連のインスリン化合物全体(Total Related Insulin Compounds)、インスリンダイマーおよびオリゴマー、ならびにA21−デスアミドインスリンを試験することによって比較した。
【0222】
図15〜20は、1年間にわたって、小球形インスリン粒子は、同じ条件下で貯蔵したインスリン出発材料に比べると、著しく低い量のインスリンダイマーおよびオリゴマー、A21−デスアミドインスリン、および関連のインスリン化合物全体を示したことを示している。これはミクロスフェアの形態のインスリンが、出発材料よりも化学的変化に対して著しく安定であることを指摘するものである。
【0223】
小球形インスリン粒子を、製造後、時間0および10ヶ月にAndersen Cascade Impactor試験において試験した。Cyclohaler DPI装置を用いて、長期間貯蔵後の空気力学的安定性を測定した。図21は、空気力学的性能は、10ヶ月貯蔵後も著しく一定のままであることを示している。
【0224】
ラマン分光法の調査を行って、非加工のインスリン試料と本実施例において調製した小球形粒子におけるインスリンとの間の構造的相違を解明した。小球形粒子におけるインスリンは、その親の非加工のインスリン試料よりも、実質的に高いβ−シート含量および実質的に低いα−ヘリックス含量を有することが示された。これらの所見は、小球形粒子における凝集したミクロフィブリル構造の形成と一致する。しかし、水性媒体に溶解すると、スペクトルから非加工のミクロスフェアまたはインスリンいずれかに起因する本質的に同一のタンパク質構造が明らかになり、ミクロスフェアにおけるあらゆる構造的変化は溶解時に完全に可逆的であることを示している。
【0225】
ラマン分光法を用いて2バッチのインスリンを試験した:A)非加工のインスリンUSP(Intergen、カタログ番号N.4502−10、ロット#XDH1350110)およびB)小球形粒子におけるインスリン(JKPL072502−2NB32:P.64)。粉末試料またはインスリン溶液(0.01M HCl中約15mg/mL)を、ラマン分析用に標準ガラスキャピラリー中に充填し12℃にサーモスタットで調節した。典型的には、2〜15μLのアリコートが、レーザー光線に曝露される試料キャピラリーの部分を充填するのに十分であった。スペクトルを、アルゴンレーザー(Coherent Innova70−4Argon Ion Laser、Coherent Inc.、Santa Clara、Calif.)で514.5nmで励起し、光子計数検出器(Model R928P、Hamamatsu、Middlesex、N.J.)を有するスキャニングダブル分光器(Ramalog V/VI、Spex Industries、Edison、N.J.)上で記録した。1.0cm−1間隔のデータを、積分時間1.5sおよびスペクトルのスリットの広さ8cm−1で収集した。試料を繰返しスキャンし、個々のスキャンをディスプレイおよび試験した後、平均化した。典型的には、各サンプル少なくとも4スキャンを収集した。分光器をインデンおよび四塩化炭素でキャリブレーションした。スペクトルを、SpectraCalcおよびGRAMS/AI Version7ソフトウエア(Thermo Galactic、Salem、N.H.)を用いてデジタル差法によって比較した。スペクトルを(ある場合は)溶媒およびバックグラウンドの寄与に対して補正した。溶液のスペクトルを、同一の条件下で0.01M HClスペクトルを獲得することによって補正し、勾配のバックグラウンド上に位置する一連の5つの重複するGaussian−Lorentzian分画と適合させた[S.-D. Yeo、P.G. Debenedetti、S.Y. Patro、T.M. Przybycien、J. Pharm. Sci.、1994年、83巻、1651〜1656頁]。適合は、1500〜1800cm−1の領域において行った。
【0226】
ラマンスペクトルを、粉末インスリン試料およびこれらそれぞれの溶液の両方に対して得た(図8i)。非加工の試料のスペクトルは、先に記載した市販のインスリン試料のスペクトルと非常に良好に相関する[S.-D. Yeo、P.G. Debenedetti、S.Y. Patro、T.M. Przybycien、J. Pharm. Sci.、1994年、83巻、1651〜1656頁;J.L.Lippert、D. Tyminski、P.J. Desmueles、J. Amer. Chem. Soc.、1976年、98巻、7075〜7080頁]。小球形粒子の試料は、アミドIモードにおいて深い(約+10から+15cm−1)シフトを表し、タンパク質の2次構造における著しいかく乱を示していた。しかし、とりわけ、市販の粉末および小球形粒子のスペクトルは、試料を水性媒体に溶解した場合は実質的に同一であり、加工時の2次構造における変化は完全に可逆的であったことを示していた。
【0227】
蛍光および芳香性のバックグラウンドの平滑化、減算を含めた計算のアルゴリズム、ならびにアミドIバンドの逆重畳積分を用いて、2次構造のパラメータを推定した。指数関数的に減衰する蛍光は、本質的に他に記載されるように減算された[S.-D. Yeo、P.G. Debenedetti、S.Y. Patro、T.M. Przybycien、J. Pharm. Sci.、1994年、83巻、1651〜1656頁]。推定される構造上のパラメータを表4に収集する。
【0228】
【表4】
(実施例10)等温方法によるヒトインスリンの小球形粒子の調製
ヒトインスリンUSP(Intergen)をNaClおよびPEG(MW3350、Spectrum、ロット#RP0741)溶液中に懸濁し、インスリン最終濃度0.86mg/mL、ならびにNaCl濃度0.7重量%およびPEG濃度8.3重量%とした。微量の氷酢酸および1M NaOH溶液を加えることによって、pHを5.65に調節した。T1=77℃に加熱後、澄明なタンパク質溶液が得られ、インスリンレベルCeqがもたらされた。次いで、予め決定した速度で温度T2=37℃まで溶液を冷却した。T2において、タンパク質の沈殿が観察された。沈殿物を遠心分離によって除去し(13,000×g、3分)、再び37℃の温度で、得られた上清におけるインスリンレベル(C*)をビシンコニン酸タンパク質アッセイによって0.45mg/mLと決定した。37℃で維持するこのように調製したインスリン溶液を溶液Aと呼ぶ。
【0229】
ヒトインスリンを0.7重量%NaCl/8.3重量%PEGに溶解し(HClを加えることによってpHを約2.1にする)、インスリンレベル2mg/mLをもたらすことによって溶液Bを調製した。溶液を7時間撹拌しながら37℃でインキュベートし、引き続き2分間超音波処理した。得られた溶液Bのアリコートを溶液Aに加えると、1mg/mLの全インスリンレベルがもたらされた。得られた混合液を37℃で激しく撹拌しながら一夜維持すると、インスリン沈殿物がもたらされ、メンブランフィルター(有効孔径0.22μm)を用いることによってこの沈殿物を液体から穏やかに取り除いた。次いで、得られたタンパク質微小粒子を液体窒素中で瞬間冷凍し、凍結乾燥した。
【0230】
予め作製した小球形粒子の微小カプセル化
(実施例11)PLGAカプセル化した予め作製した小球形インスリン粒子の調製
a)ポリラクチド−コ−グリコリド(PLGA、MW35k)1600mgを塩化メチレンに溶解することによって20%(w/v)のポリマー溶液(8ml)を調製した。この溶液に小球形インスリン粒子(INSms)100mgを加え、11krpmのローター/ステーターホモジナイザーを用いて媒体を激しく混合することによって均質な懸濁液を得た。0.02%メチルセルロース水溶液(24ml)からなる連続相を塩化メチレンで飽和させた。連続相を同じホモジナイザーを用いて11krpmで混合し、記載した懸濁液を徐々に媒体に注入して、有機相の未成熟な微小カプセル化粒子を生じた。このエマルションのO/W比は1:3である。乳化を5分間続けた。次に、エマルションを、脱イオン(DI)水150mlからなる硬化媒体中に直ちに移し、媒体を400rpmで撹拌した。有機溶媒を−0.7バールの減圧下で1時間にわたって抽出した。硬化した微小カプセル化粒子をろ過によって回収し、水で洗浄した。洗浄した微小カプセル化粒子を凍結乾燥して過剰の水を除去した。得られた微小カプセル化粒子の平均粒子サイズは約30μmであり、粒子の集合の大多数は90μm未満であり、インスリン5.7%(w/w)を含んでいた。
【0231】
b)50:50ポリラクチド−コ−グリコリド(PLGA、MW35k)1200mgを塩化メチレンに溶解することによって30%(w/v)ポリマー溶液(4ml)を調製した。次に、記載したポリマー溶液中INSms100mgの懸濁液を、ホモジナイザーを用いて調製した。この懸濁液を用いて、実施例11に記載した、0.02%メチルセルロース水溶液12ml中O/Wエマルション(W/O比=1:3)を得た。実施例11と同じ手順を続けて、最終の微小カプセル化粒子を調製する。形成した微小カプセル化粒子の平均粒子サイズは25μmであり、0.8μmから60μmの範囲であった。これら微小カプセル化粒子のインスリン含量は8.8%(w/w)であった。
【0232】
あるいは、ポリマーの10%(w/v)溶液を用いて、記載したのと同じ条件下で微小カプセル化プロセスを行った。このプロセスにより、ほとんどの粒子が50μm未満であり、インスリン充填が21.1%(w/w)の、平均粒子サイズ約12μmの微小カプセル化した粒子がもたらされた。
【0233】
in vitro放出に対する方法:微小カプセル化した粒子からのインスリンのin vitro放出(IVR)を、37℃でインキュベートしたカプセル化したインスリン3mg等量を含むガラスバイアル中に放出緩衝液(10mM Tris、0.05%Brij35、0.9%NaCl、pH7.4)10mlを加えることによって実現する。指定された時間間隔でIVR媒体400μLを微量遠心管中に移し、13krpmで2分間遠心分離する。上清の上部300μLを除去し、分析まで−80℃で貯蔵する。採取した体積を新鮮な媒体300μLで置き換え、これを残存する上清(100μL)と一緒にペレットを再構成するのに用いた。懸濁液を、対応するin vitroの放出媒体に戻す。
【0234】
(実施例12)PLGA/PLA合金マトリックス系における予め作製した小球形インスリン粒子の微小カプセル化に対する手順
塩化メチレン(4ml)中PLGA/PLA合金の30%(w/v)溶液を調製した。合金は、50:50PLGA(MW35k)、D,L−ポリ乳酸(PLA、MW19k)、およびポリL−PLA(PLLA、MW180k)、それぞれ40%、54%、および6%(0.48g、0.68g、および0.07g)からなっていた。実施例11bと同じ手順に従って、最終の微小カプセル化粒子を調製した。微小カプセル化粒子の例の粒子サイズの範囲は0.8〜120μmで、平均40μmであり、ほとんどの粒子集団は90μmより小さかった。
【0235】
(実施例13)連続相および不連続相両方におけるPEGを用いた、PLGAマトリックス系における予め作製した小球形インスリン粒子の微小カプセル化に対する手順
塩化メチレン中10%50:50PLGA(0.4g)および25%ポリエチレングリコール(PEG、MW8k)4mlの溶液を調製した。ローター/ステーターホモジナイザーを用いて、INSms100mgを、この溶液中11krpmで懸濁した。連続相は、0.02%(w/v)メチルセルロースおよび25%PEG(MW8k)の塩化メチレンで飽和させた水溶液(12ml)からなる。連続相を同じホモジナイザーを用いて11krpmで混合し、記載した懸濁液を媒体に徐々に注入して、有機相の未成熟な微小カプセル化粒子を得た。このエマルションのO/W比は1:3である。乳化を5分間続けた。次いで、エマルションをDI−水150mlからなる硬化媒体中にすぐに移し、媒体は400rpmで撹拌した。有機溶媒を、−0.7バールの減圧下、1時間にわたって抽出した。硬化した微小カプセル化粒子をろ過によって回収し、水で洗浄した。洗浄した微小カプセル化粒子を凍結乾燥して過剰の水を除去した。本実施例の微小カプセル化粒子の平均粒子サイズは30μmであり、2μmから90μmの範囲であり、粒子の集合の大多数は70μmより小さかった。これらのミクロスフェアのインスリン含量は16.0%(w/w)であった。
【0236】
(実施例14)リン酸緩衝液を用いた様々なPhの連続相のPLGAマトリックス系における、予め作製した小球形インスリン粒子の微小カプセル化のための手順
塩化メチレン中20%50:50 35kD PLGA(0.8g)4mlの溶液を調製した。ローター/ステーターホモジナイザーを用いて、INSms100mgを、この溶液中11krpmで懸濁した。連続相は、0.1%(w/v)メチルセルロース水溶液、ならびにpH2.5、5.4、および7.8の50mMリン酸緩衝液からなっていた。連続的なセットアップを用いて微小カプセル化を行った(図22A)。連続相を11krpmで混合し、12m/分で乳化チャンバー中に供給した。分散相を2.7ml/分でチャンバー中に注入して、未成熟な微小カプセル化粒子を得た。生成したエマルションをチャンバーから除去し、連続した形で硬化浴中に移した。硬化媒体を400rpmで撹拌した。有機溶媒を、−0.4バールの減圧下で1時間かけて抽出した。硬化した微小カプセル化粒子をろ過によって回収し、水で洗浄した。洗浄した微小カプセル化粒子を凍結乾燥して過剰の水分を除去した。
【0237】
pH2.5、5.4、および7.8で調製した得られた微小カプセル化粒子のインスリン含量は、それぞれ12.5、11.5、および10.9であると推定された。微小カプセル化粒子のサイズ分布分析の結果を表5にまとめる。
【0238】
【表5】
in vitro放出のための方法:微小カプセル化粒子からのインスリンのin vitroの放出を、37℃でインキュベートした、カプセル化したインスリン3mg等量を含むガラスバイアル中に放出緩衝液(10mM Tris、0.05%Brij35、0.9%NaCl、pH7.4)10mlを添加することによって実現した。指定した時間間隔でIVR媒体400μLを微量遠心管中に移し、13krpmで2分間遠心した。上清の上部300μLを取り除き、分析まで−80℃で貯蔵した。採取した体積を新鮮な媒体300μLで置き換え、これを残余の上清(100μL)と一緒にパレット(pallet)を再構成するのに用いた。懸濁液を対応するin vitroの放出媒体に戻した。
【0239】
上記の調製物のin vitro放出(IVR)の結果を図23に示し、製剤からのインスリンの放出動態に対する連続相のpHの著しい効果を示す。
【0240】
(実施例15)予め作製した微小カプセル化小球形インスリン粒子の完全性の測定
カプセル化した予め作製した小球形インスリン粒子の完全性に対する微小カプセル化プロセスの効果を評価するために、予め作製したINSmsを含むポリマー性の微小カプセル化粒子を、二相の二重抽出法を用いてデフォーミュレート(deformulate)した。カプセル化したINSms試料の重量を量り、塩化メチレン中に懸濁し、穏やかに混合してポリマーのマトリックスを溶解した。タンパク質を抽出するために、0.01N HClを加え、2つの相を混合してエマルションを作製した。次いで、2相を分離し、水相を除去し、同じ溶液で再生し、抽出プロセスを繰り返した。抽出したインスリンの完全性を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定した。この方法によって、抽出した媒体におけるINSのモノマー、ダイマー、および高分子量(HMW)種の程度を同定する。好適な対照を用いて、INSの完全性に対するデフォーミュレーション(deformulation)プロセスの効果を同定する。結果は、このプロセスはINSの完全性に対して著しい効果がなかったことを示していた。
【0241】
カプセル化したINSmsは、元のINSms(非カプセル化)におけるモノマー含量99.13%に比べて、微小カプセル化のプロセスの条件および含量に応じて、97.5〜98.94%のモノマーのタンパク質を含んでいた。カプセル化したINSmsにおけるダイマー種の含量は、元のINSmsにおける0.85%に比べて、1.04%から1.99%の範囲であった。カプセル化したINSmsのHMW含量は、元のINSmsにおける0.02%に対して、0.02%から0.06%までの範囲であった。結果を表6にまとめる。ポリマーマトリックスの効果を、図24および25に図示する。
【0242】
【表6】
(実施例16)微小カプセル化した予め作製した小球形インスリン粒子からのインスリンのin vivoの放出
予め作製した小球形インスリン粒子の微小カプセル化粒子からのインスリンのin vivoの放出を、Sprague Dawley(SD)ラットにおいて調べた。動物に、非カプセル化の、またはカプセル化した予め作製した小球形インスリン粒子1IU/kgの開始の皮下用量を与えた。ELISAを用いて、回収した試料における組換えヒトインスリン(rhINS)血清レベルを測定した。結果を図26に図示する。
【0243】
(実施例17)1.5mL微量遠心管におけるインスリンの肺性ミクロスフェアの生成のための方法
10mg/mlインスリン溶液1mlを調製した(この溶液は使用直前に調製する)。溶液1mL当たりインスリン(Zn)10mgを、脱ガスした脱イオン水0.99mLに混合した。懸濁液は濁るであろう。溶液1mL当たり1N HClを10μL加え、混合した。溶液は混合とともに澄明になる。溶液が澄明でなかった場合は、インスリンが溶解するまで、小体積の1N HClを加えた。0.1M酢酸ナトリウム、pH5.65中PEG/PVP(0.1M酢酸ナトリウム中12.5%/12.5%PVP、pH5.65)0.8mlをインスリン溶液0.40mLに加え、1.5mLポリプロピレン製微量遠心管中で穏やかに混合した。溶液は濁った。
【0244】
微量遠心管を、30分間、90℃の水浴中に入れた。微量遠心管を水浴から取り出し、30分間、室温のベンチ上で冷却した。微量遠心管を微量遠心器で10分間、8000RPMで遠心した。上清をデカントした。脱イオン水を加え、ペレットを再懸濁した。微量遠心管を微量遠心器で10分間、6000RPMで遠心した。上清をデカントした。脱イオン水を加え、ペレットを再懸濁し、繰り返した。ミクロスフェアのペレットを脱イオン水5mL中に再懸濁し、ペレットを凍結乾燥した。得られた凍結乾燥した球体は、レーザー光散乱によって1ミクロンサイズのインスリン球体をもたらし、アッセイすると>95%wt/wtインスリンであった。
【0245】
(実施例18)連続流スルーによるインスリン肺性ミクロスフェアを作製するための方法
10mg/mlのインスリン溶液を10ml調製した(この溶液は使用直前に調製した)。溶液1mL当たりインスリン(Zn)100mgを、脱ガスした脱イオン水9.8mL中混合した。懸濁液は濁る。溶液1mL当たり1N HClを100μLを加え、混合した。溶液は混合とともに澄明になる。溶液が澄明でなかった場合は、インスリンが溶解するまで、小体積の1N HClを加えた。0.1M酢酸ナトリウム中PEG/PVP(12.5%/12.5%)、pH5.65、20mlをインスリン溶液10mLに加え、穏やかに混合した。溶液は濁る。
【0246】
作製器具のセットアップ:外径1/8インチ、8フィート({フラクション(3/32)})内径)のポリプロピレン製の管を準備した。入口をRainin蠕動ポンプに、出口が空の回収容器に連結し、確実に、直径約6インチのループにおいて4フィートが水浴中に浸漬しているようにした。水浴と回収容器の間に3フィートの冷却ループを通した。水浴を90℃に加熱した。注意:ポンプ溶液が管を通り始めた後はいかなる空気も管に入れないことが重要である。気泡は凝集および目詰まりを起こすことがある。
【0247】
ミクロスフェア生成手順:Rainin蠕動ポンプのスピードを、流速約1mL/分である設定に設定した。運転開始直前に希釈し、脱ガスしたポリマー溶液(PEG/PVP(12.5%/12.5%)2部に対して脱イオン水1部を0.1M酢酸ナトリウム、pH5.65にポンプで送り込んだ)約10mLを、管を通して冷却ゾーンの温度と平衡にした。ポンプを一瞬停止して泡が管中に引き込まれるのを防いだ。管の入口側を、インスリン/ポリマーの原材料懸濁液に注意深く移した。インスリンミクロスフェアが管を出る前に回収容器を空の容器に切り替えた。最初のインスリンミクロスフェアは、層流によりポンプの実際の流速から予想されるよりもずっと速く管を出た。インスリン原材料の懸濁液の細線が、チューブに予め充填されたポリマー溶液を通して流れ、これが管の内径を徐々に広げたのが観察された。小さい気泡を出させ、次いで、脱イオン水で3分の1(1:3)に希釈してあるポリマー/緩衝液溶液を、インスリン−PEG/PVP溶液の後に管を通して汲み出した。ミクロスフェアの回収が完了した後、さらなる処理加工用に回収容器を取り出した。
【0248】
ミクロスフェア洗浄手順:懸濁液の粘度を低減するために、ミクロスフェア懸濁液をおよそ等しい体積の脱イオン水で希釈した。50mLのポリプロピレン製遠心管を用いて、ミクロスフェア懸濁液を15分間、3500×gで回転させた。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、管中の元の体積に等しい脱イオン水で再懸濁し、次いでペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液を15分間、3000×gで遠心した。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを管中の元の体積に等しい脱イオン水で再懸濁し、次いでペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液を15分間、3000×gで遠心した。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、管の体積の2/3に等しい脱イオン水で再懸濁し、次いでペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液をホモジナイザーでホモジナイズし(例えば、スピード設定3のIKAホモジナイザーで2分間)、15分間、3000×gで遠心した。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、最小体積の脱イオン水で再懸濁し、次いでペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液をスピード設定3のIKAホモジナイザーで2分間、または同等でホモジナイズした。ミクロスフェアを好適な滅菌容器に移し、ダイアフィルトレーションを行って遊離のポリマー全てが除去されるまでミクロスフェアを洗浄した。ミクロスフェアの懸濁液を、中空ファイバーカートリッジ系を用いて濃縮した後、凍結乾燥した。ミクロスフェアは衛生的な条件下で凍結乾燥されたバルクであり、充填の準備ができるまで乾燥で貯蔵した。
【0249】
(実施例19)長さ2フィート(60mL)のクロマトグラフィーガラスカラムでインスリン肺性ミクロスフェアを生成するための方法(一般的なバッチ的手順)
ウォータージャケット付きクロマトグラフィーカラムを90℃に予め加熱した。インスリン溶液10mg/mLを、実施例1に記載したように脱ガスした脱イオン水中で調製した。0.1M酢酸ナトリウム緩衝液中12.5%PEG(3350)、12.5%PVP(K12)を調製した。インスリン溶液20mLをポリマー溶液40mLと混合した(最終のインスリンレベルは3.33mg/mLであった)。これらの懸濁液は、最初は約25℃の室温であった。インスリン/ポリマー懸濁液を予め加熱したクロマトグラフィーカラム中に汲み入れた。次いで、90℃で30分間インキュベートした。温度を1.5時間かけて25℃に勾配的に低下させた。懸濁液をカラムから回収容器中に汲み出した。脱イオン水を加えた。
【0250】
ミクロスフェア洗浄手順:懸濁液の粘度を低減するために、ミクロスフェア懸濁液をおよそ等しい体積の脱イオン水で希釈した。50mLのポリプロピレン製遠心管を用いて、ミクロスフェア懸濁液を15分間、3500×gで回転させた。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、管中の元の体積に等しい脱イオン水で再懸濁し、ペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液を15分間、3000×gで遠心した。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、管中の元の体積に等しい脱イオン水で再懸濁し、ペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液を15分間、3000×gで遠心した。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、管の体積の2/3に等しい脱イオン水で再懸濁し、次いでペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液をスピード設定6のIKAホモジナイザーで2分間ホモジナイズし、次いで15分間、3000×gで遠心した。上清をペレットから注意深くデカントした。各管中のペレットを、最小体積の脱イオン水で再懸濁し、ペレットが全て完全に再懸濁するまでボルテックスにかけた。懸濁液をスピード設定6のIKAホモジナイザーで2分間ホモジナイズした。ミクロスフェアを好適な滅菌容器に移し、ダイアフィルトレーションを行って遊離のポリマーが全て除去されるまでミクロスフェアを洗浄した。ミクロスフェアの懸濁液を、中空ファイバーカートリッジ系を用いて濃縮した後、凍結乾燥した。ミクロスフェアは衛生的な条件下で凍結乾燥されたバルクであり、充填の準備ができるまで乾燥で貯蔵した。
【0251】
(実施例20)MDI(計量噴霧式吸入器)容器充填プロセス
衛生的な条件下、撹拌している加圧容器に好適な重量のミクロスフェアを加え、加圧容器に好適な体積のHFA噴射剤を充填した。HFA噴射剤は、必要な場合、本明細書で有用である、単独または組合せの、P134a、P227、もしくは2つのブレンド、またはあらゆる他の(1つまたは複数の)噴射剤であってよい。加圧容器がHFAを撹拌する間、均一の、単分散の懸濁液が実現するまでHFAミクロスフェア懸濁液を均質化ループを通過させた。Pamasolまたは類似のエアロゾル充填ラインを用いて、滅菌の、予め圧着されている計量噴霧式吸入器の缶またはバイアルに、単分散のミクロスフェア懸濁液を充填した。
【0252】
(実施例21)DPI(乾燥粉末吸入器)充填プロセス
特定の生成物に応じて、ミクロスフェアは、カプセル、ブリスターパック、または他の適切な容器におけるオーガー充填または他の適切な粉末充填技術に適する易流動性のミクロスフェアとして提供される。ミクロスフェアを、増量剤と一緒に、またはそれなしで加える。以下の増量剤を用いる:塩化ナトリウム、ラクトース、トレハロース、ショ糖、および/または当業者には知られているその他のもの。
【0253】
(実施例22)ミクロスフェアの粒子サイズの測定
光散乱およびTSI Aerosizer測定によって粒子サイズを決定した。インスリンミクロスフェアは単分散であり、直径約1〜1.5ミクロンである。結果は、数、表面積、および体積によって、95%が直径0.95ミクロンと1.20ミクロンの間であるミクロスフェアの均質の分布を典型的に示している(図27)。空気力学的直径は、図28に見られるように直径1.47ミクロンであることが示されている。
【0254】
(実施例23)in vitroのAndersen cascadeインパクション試験
インスリンミクロスフェアでの試験により、ミクロスフェアの高い「微細粒子率」(FPF)は、乾燥粉末吸入器から(>50〜60%)(図29)、またはHFAから(約40%)(図30)送達されたことを示していた。これらは、肺深部に浸透することが予想される粒子サイズの分画を表すものである。これらの微細粒子率は、低分子量の化合物に対しても、とりわけ高い。これらはMDIから送達されるあらゆるタンパク質薬物に対して以前に観察されている可能性はない。
【0255】
「微細粒子率(FPF)」は、試験される薬物に好適な粒子サイズ範囲以内のAndersen cascadeインパクション試験におけるステージ上に堆積する薬物の合計量を、吸入器のマウスピースからインパクター中へ送達される薬物の合計量によって除したものを意味する技術用語である。MDIに対するFPFおよび4.7μm以下の粒子;DPIに対するFPFおよび4.4μm以下の粒子:
乾燥粉末吸入器:DPI(60lpm)に対して、≦4.4μmの粒子サイズ範囲の乾燥粉末微細粒子率(4.4)を、直径4.4ミクロン以下の粒子の質量の合計を、装置および装置のマウスピースからの放出用量の合計で除したもののパーセント値と定義する。
【0256】
【数1】
計量噴霧式吸入器:MDI(28.3lpm)に対して、≦4.7μmの粒子サイズ範囲の計量噴霧式吸入器微細粒子率(4.7)を、直径4.7ミクロン以下の粒子の質量の合計を、装置および装置のマウスピースからの放出用量の合計で除したもののパーセント値と定義する。
【0257】
【数2】
慣例に従って、FPFはパーセント値で表される。
【0258】
幾何標準偏差(GSD)
サイズ範囲未満の累積パーセント対有効なカットオフ直径のグラフをプロットする。これから84.13%および15.37%での直径を決定する。GSDは以下のように計算する。
GSD=(直径84.13%/直径15.87%)1/2
空気力学的な質量中央径(MMAD)
MMAD=上記のグラフから50%での粒子直径
ステージ番号−−ステージ上のF/σ薬物
(実施例24)
インスリンミクロスフェアにおけるインスリンの生物学的活性を、水溶液に懸濁したインスリンミクロスフェアを注射することによって実証した。図31は、インスリン注射後の正常Fisherラットにおける血糖抑制を比べている。結果を、リン酸緩衝食塩水(PBS)だけの注射を施した対照のラットの血糖と比べて表す。図31は、対照の動物は5時間の実験にわたって正常な血糖濃度を維持したことを示す。HClに溶解したミクロスフェア(グラフ2およびグラフ3)は、0.5単位(U)の投与量および2Uの投与量でPBSに懸濁したそのままのインスリンミクロスフェアに類似の様式で血糖パターンを抑制した(グラフ4およびグラフ5)。
【0259】
(実施例25)
Fisherラットの肺中にこれらの製剤を気管内に直接注入することによって、インスリンミクロスフェアは、溶液として、およびミクロスフェアとして送達された。図32は、類似のグルコース抑制パターンが、インスリン溶液、および懸濁液として送達されたインスリンミクロスフェアの両方に対して観察されたことを示している(MS YQ051401)。
【0260】
(実施例26)計量噴霧式吸入器試験
適用において記載した技術によって調合したインスリンミクロスフェアを、次いで計量噴霧式吸入器(MDI)において用いるためのCFCフリーの噴射剤中に調合した。
【0261】
インスリンミクロスフェアを、2mg/mlから10mg/dlまでの範囲のいくつかの濃度のHFA P134aに加えた。インスリンミクロスフェアの懸濁液を、市販の、HFA P134a中のProventilアルブテロールと比べた。
【0262】
インスリン約20mgを20mLガラス製バイアル中に量り、これを、ヒドロフルオロアルカン(HFA)噴射剤P134aおよびP227を分配するのに適するバルブで密封した。図33に見られるように、HFAを加えることにより、HFA P134aおよびHFA P227中のインスリンミクロスフェアの安定な懸濁液の調合がもたらされた。対照のバイアルは、HFA P134a中に、市販の、およびFDA認可のProventilアルブテロールを含んでいる。60秒後、対照のバイアルはバイアルの底部に完全に沈殿した。当業者であれば、これは非均質の懸濁剤で処置した患者に対して再現不可能性な投与量の源を表すことを認める。これとは対照的に、HFA P134aおよびHFA P227中に懸濁したインスリンを含む2本のバイアルは、数分の間、安定な均質な懸濁液のままであった。これは、HFA噴射剤からインスリンなどの薬物の再現性ある投与量を分配するための重要な特性を表している。in vivoにおけるグルコース抑制によって評価するHFA P134a中のインスリンミクロスフェアの安定性を図31に示す。4ヶ月のMDA製剤の生理活性は、時間0と同じであった。
【0263】
(実施例27)
インスリンミクロスフェアをTc−99m放射性同位元素で標識した。次いで、Tc−99mインスリンを、ビーグル犬の肺に送達した。γカメラを用いて、イヌの肺におけるTc−99m標識したインスリンの分布を視覚化した。図34は、肺の肺にわたるインスリンミクロスフェアの均質な分布を示している。これは、ミクロスフェアの肺への送達を指摘するものである。
【0264】
(実施例28)
135日間HFA P227噴射剤中に懸濁したインスリンミクロスフェアの生化学的な完全性および安定性を、図35においてHPLCによって示した。図36は、7日間および130日間HFA中に貯蔵したインスリンミクロスフェアの生物学的活性を示す。インスリンをMDI装置から噴出し、PBS中に再懸濁し、インスリンの量に対してアッセイした。次いで、各々の貯蔵時間の0.5Uおよび2Uを、Fisherラット中に気管内に注入した。図36は、in vivoにおける生物学的活性の維持を実証している。
【0265】
(実施例29)
生物学的に活性なミクロスフェアの投与を、イヌにおいて実証した。ビーグル犬を麻酔し、鉄の肺中に配置した。呼吸速度を麻酔前の呼吸数の75%に維持した。インスリンミクロスフェア5mgを、Aerolizer乾燥粉末吸入器を用いてイヌに送達した。図37は、インスリンを肺投与した後10分から15分以内に血糖の著しい低減が観察されたことを示している。イヌに経口の炭水化物の餌を投与する前に、低血糖性のグルコースレベルが3時間にわたって維持された。
【0266】
(実施例30)
MDI6個を25℃での安定性にかけた。室温で5日間の開始条件付け時間の後、試料を転倒して、Andersenカスケードインパクターおよび28lpmのDUSA(投与量単位サンプリング装置)によってアッセイした。送達されることが予想される投与量中どのくらいの量が実際に装置によって送達されたかを決定するために、DUSA実験を行った。Andersenの結果は、大多数のインスリンミクロスフェアは1ミクロンから3ミクロンのサイズのステージにあるとアッセイされたことを表すことを、1ヶ月貯蔵後のデータは示していた。
【0267】
DUSAの結果は、最初の時間点で回収された投与量は予想した投与量の117±4.7%、1ヶ月で回収された投与量は予想した投与量の106%と測定されたことを示していた。
【0268】
図38は、HFA P134a中でインスリンミクロスフェアを貯蔵して1ヶ月後、インスリンミクロスフェアはフィルターに対してステージ3上に、およびAndersenカスケードインパクター装置上のフィルターに対して4上に類似の様式で堆積したことを示している。これは、インスリンミクロスフェアの空気力学的特性は、HFA中1ヶ月の貯蔵後も依然として安定であると思われることを示している。最初の時間点は6バイアルの平均であり、1ヶ月の時間点は単一のバイアルからの値である。
【0269】
(実施例31)
ミクロスフェアがMDI型の装置において生化学的に安定なままであり、噴射剤がMDIベースのインスリン送達系の重要な成分であるように、ミクロスフェアを調合する。HFA中1ヶ月間貯蔵したインスリンミクロスフェアの生化学的安定性を比較した結果は、インスリンモノマー、ダイマー、およびオリゴマーは、主要ピークおよび1ヶ月後のデスアミドインスリン形成とともに、匹敵するものであったことを示していた(図39)。
【0270】
(実施例32)小型球状インスリン粒子の調製
0.56%(w/w)塩化ナトリウム(USP)、および0.54%(w/w)酢酸(USP)を含む、22.4%(w/w)ポリエチレングリコール(PEG3350、NF)溶液は、溶質全てを完全に可溶化させて調製した。溶液を、50%水酸化ナトリウム溶液でpH5.65±0.05にし、撹拌槽中75℃に加熱した。USP純水中組換えヒトインスリン(USP;亜鉛インスリン)4gを含む懸濁液をPEG溶液に加えた。内容物を6分間混合して亜鉛インスリンを溶解させた。この温溶液を、0.2μmフィルターを通過させた後、予め加熱したSS容器に分配した。加熱したUSP純水でラインを追跡し、ポンプ乾燥した。得られた溶液は(全てw/wで)16.1%PEG、0.048%インスリン、0.386%酢酸、0.404%NaClからなる。
【0271】
溶液をさらなる3分間、50rpmで混合して確実に均質な溶液とした。次いで、これを冷却速度10℃/分で5分かけて70℃から20℃に冷却し、インスリンの球形粒子懸濁液を得た。この冷却は、内部コイルおよび容器ジャケットを通して冷却剤(すなわち、2℃の水)を送り込むことによって実現された。
【0272】
塩化亜鉛緩衝液2リットル(0.026%塩化亜鉛/0.16%酢酸、pH7.0±0.05)を、得られたミクロスフェア懸濁液に加えた。約4000秒−1のせん断速度の蠕動ポンプによって、750KD限外ろ過中空ファイバーカートリッジを通して容器からの懸濁液を再循環することによって、一定体積の洗浄を行った。7体積の交換を行って、懸濁液からポリエチレングリコール(PEG)を除去した。次いで、PEGを低減した懸濁液を5リットルに濃縮し、USP純水での別の一定体積の(5×)洗浄ステップを行ってあらゆる残留のPEGおよび残留の塩を除去した。
【0273】
PEGフリーの懸濁液を2回濃縮して1.5リットルとして、次いでこれを回収ボトル中に排出した。このミクロスフェア懸濁液を、上部にフィルターを載せたSS凍結乾燥トレイ中に注ぎ、凍結乾燥した。凍結−乾燥サイクルを完了したとき、凍結乾燥した球状インスリン粒子を回収し、バルクで貯蔵した後、吸入器に充填した。
【0274】
乾燥インスリンミクロスフェアの平均インスリン含量(w/w)は94.7%(93.3%から95.8%までの範囲)であり、平均水分含量(w/w)は3.6%(2.4%から4.9%までの範囲)であり、平均亜鉛含量(w/w)は1.4%(1.1%から1.8%までの範囲)であった。ミクロスフェアの間では、集団の50%の粒子サイズは1.7±0.1ミクロン以下であり、集団の95%の粒子サイズは2.6±0.3ミクロン以下であった。インスリンミクロスフェアのA−21デスアミドピーク面積%の2%もしくはそれ未満、および/または高分子量生成物のピーク面積%の2%もしくはそれ未満を安定であるとみなす基準を用いると、25℃および相対湿度60%で貯蔵した密封バイアル中に保持したインスリンミクロスフェアは、95%信頼区間で少なくとも72週間から82週間安定であると予測された(図44)。インスリンミクロスフェアは、水分含量を5%以下に維持するのであれば、その空気力学的特性を著しく低下させずに(例えば、8ヶ月の貯蔵の終わりに放出用量70%以上)、長期間(例えば8ヶ月)にわたって37℃以下で(例えば、25℃、5℃)貯蔵することができた(図45)。水分含量が5%を超えるインスリンミクロスフェアは、水分含量におけるさらなる増大の非存在下では、空気力学的特性を保持するために(例えば、8ヶ月の貯蔵の終わりに放出用量70%以上)、より低い温度で(例えば、25℃、5℃)貯蔵される(図45)。
【0275】
(実施例33)ヒト対象における組換えヒトインスリン吸入粉末(RHIIP)の肺送達
実施例32に述べた方法に従ってRHIIPを調製した。
【0276】
ヒト対象は、年齢18〜40歳の健常男性志願者であり、肺機能は正常、体重指数は18kg/m2と27kg/m2の間、体重60kgから90kgの間、Cyclohaler(商標)乾燥粉末吸入器(Pharmachemie、Haarlem、オランダ)を通して目標吸入流速90±30L/分を達成する能力があった。対象が以下のあらゆる徴候を表す場合は試験から除外した:活動性または慢性の肺疾患、糖尿病の病歴、耐糖能障害または空腹時血糖障害、空腹時血漿グルコース>100mg/dL、空腹時HbA1c>6.0%、インスリンまたは製剤のあらゆる成分に対する既知のアレルギーまたはアレルギーの疑い、ポジティブの抗インスリン抗体>10U/ml。
【0277】
上記の基準を満たす、健常男性対象30人(30±1.1歳(平均±SEM)、BMI24.2±0.3kg/m2)を、一施設非盲検無作為化、実薬対照、二元配置交差試験に含め、対照としてヒトインスリン10IUを皮下注射によって(SC、Novo Nordisk、デンマークによるActrapid(登録商標))、およびHPMCカプセル中(Capsugel、Bornem、ベルギーによるサイズ3のVcaps(登録商標)、図43b〜cを参照されたい)に含まれている6.5mg(単回投与量)のRHIIP(187IU)が投与され、正常血糖クランプの条件下(クランプレベル5mmol/L、0.15mU/kg/分の継続的なインスリンiv注入、クランプ継続時間は投薬後10時間)、肺の上気道に薬物を送達するようにデザインされている市販のDPI(Pharmachemie、Haarlem、オランダによるCyclohaler(商標)、図43a〜cを参照されたい)によって送達された。対象を、クランプ実験前に、RHIIPを吸入流速90±30L/分で吸入するよう訓練した。
【0278】
以下の表は試験で用いられたRHIIP組成物の例示的な製品放出データを示す。
【0279】
【数3】
投薬のための各来所は、各々最短期間の12時間の診療所への拘束であり、この間、対象をあらゆる有害効果についてモニターした。2つの投与量の投与の間には、72時間から14日の間隔があった。試験後、第2の投薬の来所後3日から14日以内に健康診断を行った。
【0280】
薬物動態のパラメータの決定:ベースの静脈内インスリン注入に対する調節あり、またはそれなしでの血清インスリンプロファイルから、以下の薬物動態のパラメータを計算した:AUC1〜10時間;AUC0〜1.5時間;AUC0〜3時間;Cmax、Tmax、T10%AUC(1〜10時間)、T90%AUC(0〜10時間)、インスリン出現の持続時間、および相対的バイオアベイラビリティ。
【0281】
薬力学的のパラメータの決定:ベースライン調節したGIRプロファイルから以下の薬力学的パラメータを計算した:AUCGIR(0〜10時間);AUCGIR(0〜1.5時間);AUCGIR(0〜3時間);GIRmax、TmaxGIR;初期および後期T50、T10%incGIRmax、T10%decGIRmax、T10%AUCGIR(1〜10時間)、T90%AUCGIR(0〜10時間)、インスリン作用持続時間、0から10時間までに投与したグルコースの合計量、ならびに相対的生物効力。
【0282】
安全なスクリーニングのために、対象に、各試験来所時に、あらゆる有害効果の出現、およびあらゆる併用薬物の使用についてルーチン的に質問した。肺機能検査(PRT)および血液学用血液試料を、スクリーニングの来所時、および試験後の健康診断の来所時、ならびに各処置の前および後(PFTのみ)に得た。バイタルサインを、投薬前および後の特定の時間点に測定した。心電図、血清生化学試験、および尿検査をスクリーニングの来所時および試験後の健康診断時に行った。
【0283】
各試験期間の間、血糖が所定のレベルに維持され、外因性に加えられたインスリンの薬力学的効果に対する代用マーカーとしても作用することを確実にするために、正常血糖クランプ法を用いた。インスリンおよびC−ペプチド濃度を測定するために、試験期間の経過の間の特定の時間点で血液試料を採取した。吸入のプロファイルをRHIIP投与の間に得、安全性試験をモニターした。安全性をモニターするために、バイタルサイン(呼吸、脈拍、体温、および血圧)、心電図、肺機能検査、血液学、および臨床化学を、試験の経過の間の特定の時間点に測定した。試験の間中、有害事象および併用薬物を記録した。
【0284】
RHIIPの吸入の耐容性は驚くほど良好であった。特に、RHIIPでの投薬の間、咳または息切れの発作は1回も起こらなかった。RHIIPは、皮下投与よりも速い作用の開始を示した(グルコース注入速度(GIR)曲線下の合計面積の10%に到達する時間は73±2分対95±3分であり、GIR−tmaxは173±13分対218±9分、p<0.0001であった)。作用の持続時間(371±11分対366±7分)および全体の代謝効果(GIR−AUC0〜1時間は2734±274mg/kg対2482±155mg/kgであった)は匹敵するものであった(図40)。薬物動態の結果はこれら薬力学的所見と一致していた:RHIIPはより速やかに吸収され(血清インスリンレベル(INS)曲線下の合計面積の10%に到達する時間は44±3分対66±3分、p<0.0001であった)、SCに比べて速やかに最大血清インスリンレベルに到達した(86±10分対141±12分、p=0.002)。RHIIPの相対的バイオアベイラビリティは12±2%であり、相対的生物効力は6±1%であった。
【0285】
以下の表は本試験において決定した薬物動態のパラメータの概要を表している。データは、無作為化した対象全てに対する、処置によるベースライン調整した薬物動態のパラメータ(平均±SE)を示す。薬物動態のデータを図41に図示するが、これはRHIIPで達成された血清インスリンレベルは、Actrapid(登録商標)SC投与で達成したものよりも高く、10時間のモニター期間を通して高いままであったことを示している。これらのデータは、RHIIP経口吸入投与はActrapid(登録商標)皮下投与と比べると、開始はより早く、吸収の持続時間は同様であることを示している。
【0286】
【数4】
以下の表は、本試験において決定した薬力学的のパラメータの概要を表す。データは、無作為化した対象全てに対する処置によって、ベースライン調整した薬力学的パラメータ(平均±SE)を示す。薬力学的データを図42にさらに図示する。
【0287】
【数5】
試験を通して、処置した対象に対して有害事象をモニターし、以下の表に処置−出現した有害事象を概要する。
【0288】
【数6】
本明細書に開示した球状インスリン粒子の、上気道への薬物送達用にデザインされた在庫品のDPIでの肺深部への送達は安全で効果的であった。RHIIPは、作用の開始が速く、とりわけデザインされた装置を用いて他の吸入インスリン製剤に対して報告されているものに匹敵するバイオアベイラビリティを示した。吸入インスリン投与では、吸入直後、または投薬後10時間のモニター期間を通して、咳または息切れいずれかの発生の報告はなかった。最も一般的な有害の発生は静脈炎であり、これはActrapid(登録商標)を投与した対象において見られ、RHIIPでは見られなかった。
【0289】
単回の6.5mg用量のRHIIPの経口吸入(実施例32に従って調製したもの)に対するベースライン調整した相対的バイオアベイラビリティは、単回10IUの皮下投与したインスリンの投薬に対して12%であると推定された。さらに、インスリン作用の持続期間はActrapid(登録商標)の皮下投与とRHIIPの肺投与の間では類似していたが、インスリン作用の開始はActrapid(登録商標)よりRHIIPが早かった。
【0290】
(実施例34)ビーグル犬におけるインスリン微小粒子の単回投与量吸入
インスリンミクロスフェアの薬物動態および相対的バイオアベイラビリティを、オスビーグル犬6頭における単回投与の顔面手技の吸入または皮下投与の後に評価した。乾燥粉末インスリンミクロスフェアを、動物1頭当たり0.6mgおよび動物1頭当たり1.6mgの投与量レベルの吸入によって投与し、Humulin(登録商標)インスリンを動物1頭当たり0.15mg(0.35U/kg)の皮下注射によって投与した。血清インスリンレベルを、Homeらが報告した等式1を用いてC−ペプチド補正した(Eur. J. Clin. Pharmacol.、55巻(1999年)、199〜203頁)。C−ペプチド補正されたインスリンデータにおけるあらゆる負の数を、WinNonlinPro(登録商標)バージョン4.1(Pharsight Corp.、Mountain View、CA)とともにノンコンパートメントモデルを用いる薬物動態の分析に対して0として扱った。
【0291】
両投与量の吸入投与により、血清インスリンレベルは10〜20分間増大した(図46)。その後血清濃度は低下し、見かけの二重指数関数的な濃度時間曲線がもたらされた。両投与量グループにおける血清インスリンの、見かけの分布体積および平均滞留時間は同様であった。図47は、投薬後10分から15分以内に血糖における著しい低下が観察されたことを示している。低血糖性のグルコースレベルは4時間維持された。
【0292】
投薬における3倍の増大とともに、投与量1.6mgにより、投与後13±5分(tmax)に24±10ng/mlの平均ピーク血清インスリンレベル(Cmax)がもたらされ、これは投与量0.6mgの濃度(投薬後12±4分に5±1.8ng/ml)より5倍大きく、0から無限大までの血清インスリンレベル時間曲線下の平均面積(AUC0〜∞)は1504±544ng/分/mlであり、これは投与量0.6mgの平均面積(411±93ng/分/ml)より4倍大きかった。これは、インスリンミクロスフェアの吸入後のインスリンへの全身的な曝露における増大の度合いは、投与した投与量における増大の度合いよりも大きかったことを示していた。投与量1.6mgでは、平均残留時間(MRT)は77±22分、見かけの排出半減期(t1/2)は67±22分であり、投与量0.6mgのもの(それぞれ94±22分および67±13分)に匹敵した。皮下インスリンと比べた、投与量1.6mgの相対的バイオアベイラビリティは40%に近く(39%)、投与量0.6mgの相対的バイオアベイラビリティは30%に近かった(29%)。相対的に、皮下注射はCmax3.8±1.0ng/ml、tmax58±26分、およびt1/232±6分をもたらした。これは、インスリンミクロスフェア吸入製剤は、皮下投与に比べて、インスリンを身体に送達する点で速く(tmaxが短く)、インスリンを身体により長く留まらせる(t1/2が長い)ことを示していた。
【図1A】
【図1B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある用量のインスリンを含む粉末を含む、粉末ディスペンサーを介してインスリンを肺送達するための組成物であって、該粉末は固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になり、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有する組成物。
【請求項2】
前記固体で小球形のインスリン微小粒子の密度が約0.50から約1.5g/cm3である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記固体で小球形のインスリン微小粒子の密度が0.75g/cm3超である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記固体で小球形のインスリン微小粒子の密度が0.85g/cm3超である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記固体で小球形の微小粒子が、該固体で小球形の粒子の安定性を高め、該固体で小球形の粒子の制御放出をもたらし、または該固体で小球形の粒子の生体組織を通る透過を高めるための賦形剤をさらに含み、該賦形剤が該微小粒子中に5重量%未満存在している、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記賦形剤が、炭水化物、陽イオン、陰イオン、アミノ酸、脂質、脂肪酸、界面活性剤、トリグリセリド、胆汁酸またはその塩、脂肪酸エステルおよびポリマーからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記陽イオンが、Zn2+、Mg2+およびCa2+からなる群より選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記小球形の微小粒子の90%が、約0.01μmから約5μmの間のサイズを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記小球形の微小粒子の90%が、約0.1μmから約5μmの間のサイズを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記小球形の微小粒子の90%が、約1μmから約3μmの間のサイズを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
狭いサイズ分布が、前記小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径対10パーセンタイルの体積粒径の比率が約5.0以下であることを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記インスリンが、前記微小粒子の約95重量%から約100重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記小球形粒子が半晶質または非晶質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記微小粒子が、インスリンを約99重量%超含むミクロスフェアである、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
界面活性剤を含まない、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
賦形剤を含まず、前記インスリンミクロスフェアのみを含有する、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
粉末ディスペンサーと接続して使用するための保持部材を備える粉末ディスペンサーを介してインスリンを肺送達するための組成物であって、該保持部材は固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になる粉末を保持し、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有する、組成物。
【請求項18】
前記固体で小球形のインスリン微小粒子の密度が約0.50から約1.5g/cm3である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記固体で小球形のインスリン微小粒子の密度が0.75g/cm3超である、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記固体で小球形のインスリン微小粒子の密度が0.85g/cm3超である、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
前記固体で小球形の微小粒子が、該固体で小球形の粒子の安定性を高め、該固体で小球形の粒子の制御放出をもたらし、または該固体で小球形の粒子の生体組織を通る透過を高めるための賦形剤をさらに含み、該賦形剤が該微小粒子中に5重量%未満存在している、請求項17に記載の組成物。
【請求項22】
前記賦形剤が、炭水化物、陽イオン、陰イオン、アミノ酸、脂質、脂肪酸、界面活性剤、トリグリセリド、胆汁酸またはその塩、脂肪酸エステルおよびポリマーからなる群より選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項23】
前記陽イオンが、Zn2+、Mg2+およびCa2+からなる群より選択される、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記小球形の微小粒子の90%が、約0.01μmから約5μmの間のサイズを有する、請求項17に記載の組成物。
【請求項25】
前記小球形の微小粒子の90%が、約0.1μmから約5μmの間のサイズを有する、請求項17に記載の組成物。
【請求項26】
前記小球形の微小粒子の90%が、約1μmから約3μmの間のサイズを有する、請求項17に記載の組成物。
【請求項27】
狭いサイズ分布が、前記小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径対10パーセンタイルの体積粒径の比率が約5.0以下であることを含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項28】
前記インスリンが、前記微小粒子の約95重量%から約100重量%である、請求項17に記載の組成物。
【請求項29】
前記小球形粒子が半晶質または非晶質である、請求項17に記載の組成物。
【請求項30】
前記微小粒子が、インスリンを約99重量%超含むミクロスフェアである、請求項17に記載の組成物。
【請求項31】
界面活性剤を含まない、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
賦形剤を含まず、前記インスリンミクロスフェアのみを含有する、請求項30に記載の組成物。
【請求項33】
インスリンを対象の肺系に投与する方法であって、該対象の血清インスリンレベルまたは該対象の血清グルコースレベルまたはその両方において変化を生じさせるのに有効な量の請求項1に記載の組成物を該肺系に投与することを含み、該組成物の該投与が、吸入時に該対象において咳を生じさせない、方法。
【請求項34】
ある用量のインスリンを含む粉末を含む、インスリンを肺送達するための組成物であって、該粉末は固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になり、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有し、該組成物は、インスリン用量6.5mgでの肺投与の際に健常男性対象において咳を生じさせない、組成物。
【請求項35】
インスリンを対象の肺系に投与する方法であって、該方法は、治療を必要とする対象の気道に有効量の請求項1に記載の組成物を投与することを含み、該組成物の該投与が、吸入時に該対象において息切れを生じさせない、方法。
【請求項36】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも10%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも10%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも10%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも12%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも12%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項34に記載の方法。
【請求項41】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも12%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも15%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項33に記載の方法。
【請求項43】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも15%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項34に記載の方法。
【請求項44】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも15%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項35に記載の方法。
【請求項45】
対象においてインスリンの肺深部堆積を達成する方法であって、請求項1に記載の組成物を該対象の肺系に投与することを含む方法。
【請求項1】
ある用量のインスリンを含む粉末を含む、粉末ディスペンサーを介してインスリンを肺送達するための組成物であって、該粉末は固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になり、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有する組成物。
【請求項2】
前記固体で小球形のインスリン微小粒子の密度が約0.50から約1.5g/cm3である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記固体で小球形のインスリン微小粒子の密度が0.75g/cm3超である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記固体で小球形のインスリン微小粒子の密度が0.85g/cm3超である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記固体で小球形の微小粒子が、該固体で小球形の粒子の安定性を高め、該固体で小球形の粒子の制御放出をもたらし、または該固体で小球形の粒子の生体組織を通る透過を高めるための賦形剤をさらに含み、該賦形剤が該微小粒子中に5重量%未満存在している、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記賦形剤が、炭水化物、陽イオン、陰イオン、アミノ酸、脂質、脂肪酸、界面活性剤、トリグリセリド、胆汁酸またはその塩、脂肪酸エステルおよびポリマーからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記陽イオンが、Zn2+、Mg2+およびCa2+からなる群より選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記小球形の微小粒子の90%が、約0.01μmから約5μmの間のサイズを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記小球形の微小粒子の90%が、約0.1μmから約5μmの間のサイズを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記小球形の微小粒子の90%が、約1μmから約3μmの間のサイズを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
狭いサイズ分布が、前記小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径対10パーセンタイルの体積粒径の比率が約5.0以下であることを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記インスリンが、前記微小粒子の約95重量%から約100重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記小球形粒子が半晶質または非晶質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記微小粒子が、インスリンを約99重量%超含むミクロスフェアである、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
界面活性剤を含まない、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
賦形剤を含まず、前記インスリンミクロスフェアのみを含有する、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
粉末ディスペンサーと接続して使用するための保持部材を備える粉末ディスペンサーを介してインスリンを肺送達するための組成物であって、該保持部材は固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になる粉末を保持し、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有する、組成物。
【請求項18】
前記固体で小球形のインスリン微小粒子の密度が約0.50から約1.5g/cm3である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記固体で小球形のインスリン微小粒子の密度が0.75g/cm3超である、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記固体で小球形のインスリン微小粒子の密度が0.85g/cm3超である、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
前記固体で小球形の微小粒子が、該固体で小球形の粒子の安定性を高め、該固体で小球形の粒子の制御放出をもたらし、または該固体で小球形の粒子の生体組織を通る透過を高めるための賦形剤をさらに含み、該賦形剤が該微小粒子中に5重量%未満存在している、請求項17に記載の組成物。
【請求項22】
前記賦形剤が、炭水化物、陽イオン、陰イオン、アミノ酸、脂質、脂肪酸、界面活性剤、トリグリセリド、胆汁酸またはその塩、脂肪酸エステルおよびポリマーからなる群より選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項23】
前記陽イオンが、Zn2+、Mg2+およびCa2+からなる群より選択される、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記小球形の微小粒子の90%が、約0.01μmから約5μmの間のサイズを有する、請求項17に記載の組成物。
【請求項25】
前記小球形の微小粒子の90%が、約0.1μmから約5μmの間のサイズを有する、請求項17に記載の組成物。
【請求項26】
前記小球形の微小粒子の90%が、約1μmから約3μmの間のサイズを有する、請求項17に記載の組成物。
【請求項27】
狭いサイズ分布が、前記小球形粒子の90パーセンタイルの体積粒径対10パーセンタイルの体積粒径の比率が約5.0以下であることを含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項28】
前記インスリンが、前記微小粒子の約95重量%から約100重量%である、請求項17に記載の組成物。
【請求項29】
前記小球形粒子が半晶質または非晶質である、請求項17に記載の組成物。
【請求項30】
前記微小粒子が、インスリンを約99重量%超含むミクロスフェアである、請求項17に記載の組成物。
【請求項31】
界面活性剤を含まない、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
賦形剤を含まず、前記インスリンミクロスフェアのみを含有する、請求項30に記載の組成物。
【請求項33】
インスリンを対象の肺系に投与する方法であって、該対象の血清インスリンレベルまたは該対象の血清グルコースレベルまたはその両方において変化を生じさせるのに有効な量の請求項1に記載の組成物を該肺系に投与することを含み、該組成物の該投与が、吸入時に該対象において咳を生じさせない、方法。
【請求項34】
ある用量のインスリンを含む粉末を含む、インスリンを肺送達するための組成物であって、該粉末は固体で実質的に球形のインスリン粒子から本質的になり、該インスリン粒子はin−vivo送達に適したインスリンを少なくとも90重量%含み、約0.50から約2.00g/cm3の密度を有し、該組成物は、インスリン用量6.5mgでの肺投与の際に健常男性対象において咳を生じさせない、組成物。
【請求項35】
インスリンを対象の肺系に投与する方法であって、該方法は、治療を必要とする対象の気道に有効量の請求項1に記載の組成物を投与することを含み、該組成物の該投与が、吸入時に該対象において息切れを生じさせない、方法。
【請求項36】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも10%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも10%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも10%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも12%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも12%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項34に記載の方法。
【請求項41】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも12%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも15%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項33に記載の方法。
【請求項43】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも15%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項34に記載の方法。
【請求項44】
前記投与が、皮下用量により生成されるバイオアベイラビリティの少なくとも15%の、前記インスリンのバイオアベイラビリティをもたらす、請求項35に記載の方法。
【請求項45】
対象においてインスリンの肺深部堆積を達成する方法であって、請求項1に記載の組成物を該対象の肺系に投与することを含む方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図8G】
【図8H】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43A】
【図43B】
【図43C】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図8I】
【図24】
【図25】
【図33】
【図34】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図8G】
【図8H】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43A】
【図43B】
【図43C】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図8I】
【図24】
【図25】
【図33】
【図34】
【公表番号】特表2010−524948(P2010−524948A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504150(P2010−504150)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/059094
【国際公開番号】WO2008/130803
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/059094
【国際公開番号】WO2008/130803
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】
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