球形タンクの制震構造
【課題】 地震や強風、津波などにより球形タンクの支柱が損傷や変形、座屈などするのを防止することができるように、水平方向の揺動荷重を吸収し着脱も簡単容易にできる支持部材を取付けた球形タンクの制震構造を提供する。
【解決手段】 球形タンク1の支柱5より内側位置で、球殻体4とコンクリート基礎8との間に、水平方向の揺動荷重を吸収する低降伏点鋼7を用いて球殻体支持部材の一部に組み込んで形成したことを特徴とする球形タンクの制震構造。
【解決手段】 球形タンク1の支柱5より内側位置で、球殻体4とコンクリート基礎8との間に、水平方向の揺動荷重を吸収する低降伏点鋼7を用いて球殻体支持部材の一部に組み込んで形成したことを特徴とする球形タンクの制震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧縮ガス、液化ガス等を貯蔵する球形タンクの制震構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
球形タンクの球殻体(球殻板から構成される)を支持する脚部構造(支柱及び基礎)について、耐震性を向上させるために改良した従来例の脚部構造がある。
例えば特許文献1(特開平09−142580号公報)「球形タンクの支持構造」の発明には、従来例1の図7に示すように、複数の支持脚2により支持された球形タンク1の側面に、周方向に間隔を空けて第1の高さに複数の第1のワイヤ固定部11が設けられるともに第2の高さに複数の第2のワイヤ固定部21が設けられ、設置面G上に球形タンク1の水平方向外方に対向させて複数の支柱12が立設され、各第1のワイヤ固定部11と各支柱12の上端部との間にそれぞれ第1のワイヤ14が張設されるとともに、各第2のワイヤ固定部21と各支柱12の下端部との間にそれぞれ第2のワイヤ23が張設されている構造が開示されている。
【0003】
特許文献2(特公昭62−8680号公報)「球形タンク防震構造」の発明には、従来例2の図8に示すように、基礎に対して固定した円筒9の規制リング体11と球殻2の下部に同心状に下向きに固定した作動リング体7との間に形成されたリング状空間にクッションリング12が介装され、該クッションリング12が密封状の可撓性チューブ13と該可撓性チューブ13内に充密状に介装された多孔質弾性体の抵抗体14から成る防震構造が開示されている。
【0004】
特許文献3(特開昭56−6872号公報)「球形タンクの耐震装置」の発明には、従来例3の図9に示すように球形タンク10の支柱11より内側の底部下方の地盤2上に、上面に球面凹部3を有する基盤1を固設し、前記基盤の球面凹部3に、軟質金属を介して球面底部を有する突起体5を嵌合固着すると共に、前記突起体5の上部を球形タンク10の底部に結合したユニバーサルジョイント6、8を有する耐震装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献4(特開昭49−35909号公報)「球形タンクにおける耐震用ダンパの取付け装置」の発明には、従来例4の図10に示すように、球形タンク本体6の底部と基礎8との間にダンパ取付部材1、2を用いて適数個のダンパ3を組合せ配設して水平面内の適宜方向の地震に対し作動し得るようにした耐震用ダンパ3の取付け装置が開示されている。
【0006】
さらに、本出願人による特許文献5(特願2011−104135号)「球形タンクの倒壊防止構造及びその形成方法」の発明は、図11に示すように、球形タンク1の支柱5より内側、球殻体4の直下位置に設けたコンクリート基礎7と、このコンクリート基礎7の上面に鍔部で当接しアンカーボルトで固定して立設し、かつ前記球殻体4との上端縁8Aを固着することなく当接して支持するか、または離隔状態に配置した筒体受け部8とで形成し、地震や強風、津波などにより支柱が座屈するのを防止し、タンクの倒壊による被害を防止するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−142580号公報
【特許文献2】特公昭62−8680号公報
【特許文献3】特開昭56−6872号公報
【特許文献4】特開昭49−35909号公報
【特許文献5】特願2011−104135号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1(特開平09−142580号公報)の従来例1、図7のような補強構造は、ワイヤ14、23による引張力によって、支持脚2のせん断や倒壊を防止して球形タンク1の支持構造の耐震性を向上させることができるが、複数の支柱12を立設してワイヤ14、23を張設する構造が大掛かりで複雑となった。
【0009】
特許文献2(特公昭62−8680号公報)の従来例2、図8のような防震構造は、可撓性チューブ13と多孔質弾性体の抵抗体14からなるクッションリング12の作動機能の確保が必要でそれらの部材の劣化が心配となった。
【0010】
また、特許文献3(特開昭56−6872号公報)の従来例3、図9のような球形タンク1の耐震構造は、嵌合固着された球面凹部3と球面底部突起体5からなるユニバーサルジョイント6、8などの作動を適正に確保するメンテナンスが大変である。
【0011】
また、特許文献4(特開昭49−35909号公報)の従来例4、図10のような球形タンク1の耐震用ダンパ構造は、複数個のダンパ3及びダンパ取付部材1、2のメンテナンスが大変で作動の適正確保が必要である。
【0012】
また、特許文献5(特願2011−104135号)の従来例5、図11に示す球形タンク1の支持構造は、耐震性及び制震性に優れているが水平方向の揺動荷重を吸収することに殊に着目した構造ではない。
【0013】
この発明は上述のような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、地震や強風、津波などにより球形タンクの支柱が損傷や変形、座屈などするのを防止することができるように、水平方向の揺動荷重を吸収し着脱も簡単容易にできる支持部材を取付けた球形タンクの制震構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明に係る球形タンクの制震構造は、
球形タンクの支柱より内側直下位置で、球殻体とコンクリート基礎との間に、水平方向の揺動荷重を吸収する低降伏点鋼を用いて球殻体支持部材の一部に組み込んで形成した制震吸収装置を設けたものである。
【0015】
請求項2の発明に係る球形タンクの制震構造は、
上記低降伏点鋼を用いた制震吸収装置は、水平面球殻体の中心から各支柱に向けて立設する複数の平板状の構造体で形成したものである。
【0016】
請求項3の発明に係る球形タンクの制震構造は、
上記低降伏点鋼を用いた制震吸収装置は、筒体状に立設した支持台の中間一部に組み込んで設置する筒体状又は平板状の構造体で形成したものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明に係る球形タンクの制震構造は、球形タンクの支柱より内側直下位置で、球殻体とコンクリート基礎との間に、水平方向の揺動荷重を吸収する低降伏点鋼を用いて球殻体支持部材の一部に組み込んで形成したので、
地震や強風などによる横揺れや津波の衝撃に対して球殻体が水平動をしても、揺動荷重を低降伏点鋼が吸収して水平方向の変位を支柱に伝えないため、支柱が損傷や変形、座屈などすることがない。よって、地震による横揺れや津波の衝撃に強く、支柱への負担を軽減し制震機能が得られる。
【0018】
請求項2の発明に係る球形タンクの制震構造は、上記低降伏点鋼を用いた制震吸収装置は、水平面球殻体の中心から各支柱に向けて立設する複数の平板状の構造体で形成したので、
球殻体の中心下方から支柱方向の揺動荷重に対応して、低降伏点鋼を用いた平板状の構造体に吸収されて水平方向の変位を支柱に伝えないため、この方向の支柱が損傷や変形、座屈などすることがない。また、この平板状の構造体は着脱自在で交換設置を容易に行うことができる。
【0019】
請求項3の発明に係る球形タンクの制震構造は、上記低降伏点鋼を用いた制震吸収装置は、筒体状に立設した支持台の中間一部に組み込んで設置する筒体状又は平板状の構造体で形成したので、
筒体状支持台による耐震性に加えて、低降伏点鋼を用いた筒体状又は平板状の構造体によって水平方向の揺動荷重が吸収され制震機能を有するため、支柱が損傷や変形、座屈などすることがない。また、低降伏点鋼を用いた筒体状又は平板状の構造体は、支持台に固定し易く着脱も容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る球形タンクの制震構造を示す説明図である。
【図2】図1の平面説明図である。
【図3】図1の制震構造の要部と取付部材を示す斜視説明図である。
【図4】取付部材の変化例を示す説明図である。
【図5】他の実施形態例1を示す斜視説明図である。
【図6】他の実施形態例2を示す斜視説明図である。
【図7】従来例1の球形タンクの制震構造を示す説明図である。
【図8】従来例2の球形タンクの制震構造を示す説明図である。
【図9】従来例3の球形タンクの制震構造を示す説明図である。
【図10】従来例4の球形タンクの制震構造を示す説明図である。
【図11】従来例5の球形タンクの制震構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の球形タンクの制震構造の実施形態例について図1から図6を参照しながら説明する。本発明は下記の実施形態にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で下記の実施形態に変更(例えば構成要素の省略または付加、構成要素の形状の変更等)を加えることが出来るのはもちろんである。なお、図は概略を示すもので、複数の支持部のうちの一部のみを描き、ブレーシング等は省略した。また、この球形タンクの倒壊防止構造は、既設の球形タンクに形成する場合を示すが、新規な球形タンクに採用しても良い。
【0022】
図1の側面図に示すように、球形タンク1の球殻体4は、基版2の複数の基礎3と、この基礎3上に設置された複数の支柱5とによって支持されている。
この発明による球形タンクの制震構造の制震吸収装置6は、低降伏点鋼7をこの球殻体支持部材の一部に組み込んで形成する。
【0023】
図2の水平説明図に示すように、低降伏点鋼7を組み込んで形成した制震吸収装置6は、球形タンク1の球殻体4の中心下部から外側の各支柱5に向かう直径方向、略放射状に、支柱5と同数の平板を垂直に立てるように配置する。
【0024】
図3は、制震吸収装置6の拡大側面図である。基版2に打設したコンクリート基礎8から垂直上方の球殻4との間に制震吸収装置6設ける。9は取付部材で複数の長穴部材9Aで取付ける構造とする。長穴部材9Aは図の矢印Oで示す球殻4の中心方向に向けて設け、日常の液量の変化や温度変化などに伴う球殻4の動きに追従し移動可能となるように形成する。この制震吸収装置6の平板状の垂直支持部材の上下の定着板10、10の中間一部に低降伏点鋼7を組み込む。この低降伏点鋼7は、接合プレートに組み込んだ板材で形成し、フランジプレート11、11間に着脱自在に取付ける。
【0025】
この低降伏点鋼7は、パネルなどに組入れて形成し、地震による水平方向の揺動荷重、図の矢印Hで示す変位に対しては、優先的に降伏、座屈変形させることにより、地震エネルギーを吸収して揺れを小さくする。
【0026】
このように、制震吸収装置6は、球形タンク1の球殻体4の中心下部から外側の各支柱5に向かう直径方向、略放射状に、支柱5と同数の平板を垂直に立てるように低降伏点鋼7を配置して形成することにより、垂直方向の荷重は確りと受けて支え、地震時には図の矢印Hで示す水平方向の揺動荷重に伴う変位は吸収し、支柱及び取付け部などの他の部材への地震に伴う変位は伝えないようにしている。
【0027】
図4(a),(b)は、取付部材9の変化例を示す一部を欠除した側面説明図で、定着板10上端部の球殻4への取り付けは、断面U字形状の取付部材9内に緩衝部材9Bを介装して定着板10を弾力的に支持するように形成する。このように緩衝部材9Bを介装した取付部材9の構造は、日常の液量の変化や温度変化などに伴う球殻4の動きに弾力的に追従し、図の矢印Oで示す球殻4の中心方向に移動可能となる。
【0028】
図5に示す制震吸収構造6の実施形態例は、球殻体4の中心下方の直下位置に設ける支持部の中間の一部に低降伏点鋼12を組み込む場合を示す。
この低降伏点鋼12は、筒体状や蛇腹状、枠体状などに形成し、上下の取付け部13,13で着脱自在構造とする。この低降伏点鋼12は、水平方向の荷重に対して、撓んで座屈変形して変位を吸収する。
【0029】
図6に示す制震吸収構造6の実施形態例は、球殻体4の中心下方の直下位置に設ける支持部の中間の一部に低降伏点鋼14を組み込む場合を示す。
この低降伏点鋼14は、複数の薄板体を支柱5方向に向けて垂直に配置し、上下の取付け部13,13で着脱自在構造とする。この薄板体の低降伏点鋼14は、水平方向の揺動荷重に対して、菱形に変形しさらに座屈して変位を吸収する。
【0030】
このように、図5および図6に示す実施形態例は、球形タンク1の重心を安定化させ、支持部により下方向への変位を小さくして座屈強度を向上させる。そして、球殻体4の中心直下位置に設けた制震吸収構造6によって安定的に支持することができる。
また、制震吸収構造6は水平方向の変位に対して制震機能が得られ、かつ必要以上の変動は抑制することができる。このように、強度と安定化の向上によって、地震や強風などによる横揺れや津波の衝撃に対して球殻体4が垂直動や水平動をしても低降伏点鋼12、14によって変位を抑制しかつ吸収して安定性が得られ、制震機能が働いて荷重を支えて倒壊防止を図ることができる。
【0031】
このように低降伏点鋼材12、14を使用することにより、地震等による球殻4と支柱5及び配管等の相互にかかる変位を拘束することなく吸収するため、支柱5や配管等の破損を防止することができる。液面揺動や支柱共振などの影響を減じることができる。そのため、支柱5の損傷や配管の破損、火災発生など二次被害の予防が可能となる。また、万一支柱5が損傷したときには、球殻体4の荷重を筒体支持部で安全に受止めて倒壊防止を図ることができる。
【0032】
本願発明の球形タンクの制震吸収構造6は、荷重支持と横揺れ対策を備えているため、殊に海岸近辺における地震による津波、台風による河川の氾濫、大雨時の増水などに対しても被害を受けることがない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
上記球形タンクの制震吸収構造は、地震や強風などで脚部が損傷した球形タンク、脚部の耐久性改善が望まれる球形タンク、基礎の補強や改善が望まれる球形タンクなど、既設の球形タンクのみならず、制震機能の向上や津波対策、強風対策などが望まれる新規の球形タンク、給水用の高架球形タンク、球形モニュメントなどにも適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 球形タンク
2 基版
3 基礎
4 球殻体
5 支柱
6 制震吸収装置
7 低降伏点鋼
8 コンクリート基礎
9 取付部材
9A 長穴部材
9B 緩衝部材
10 定着板
11 フランジ部
12 低降伏点鋼
13 取付け部
14 低降伏点鋼
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧縮ガス、液化ガス等を貯蔵する球形タンクの制震構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
球形タンクの球殻体(球殻板から構成される)を支持する脚部構造(支柱及び基礎)について、耐震性を向上させるために改良した従来例の脚部構造がある。
例えば特許文献1(特開平09−142580号公報)「球形タンクの支持構造」の発明には、従来例1の図7に示すように、複数の支持脚2により支持された球形タンク1の側面に、周方向に間隔を空けて第1の高さに複数の第1のワイヤ固定部11が設けられるともに第2の高さに複数の第2のワイヤ固定部21が設けられ、設置面G上に球形タンク1の水平方向外方に対向させて複数の支柱12が立設され、各第1のワイヤ固定部11と各支柱12の上端部との間にそれぞれ第1のワイヤ14が張設されるとともに、各第2のワイヤ固定部21と各支柱12の下端部との間にそれぞれ第2のワイヤ23が張設されている構造が開示されている。
【0003】
特許文献2(特公昭62−8680号公報)「球形タンク防震構造」の発明には、従来例2の図8に示すように、基礎に対して固定した円筒9の規制リング体11と球殻2の下部に同心状に下向きに固定した作動リング体7との間に形成されたリング状空間にクッションリング12が介装され、該クッションリング12が密封状の可撓性チューブ13と該可撓性チューブ13内に充密状に介装された多孔質弾性体の抵抗体14から成る防震構造が開示されている。
【0004】
特許文献3(特開昭56−6872号公報)「球形タンクの耐震装置」の発明には、従来例3の図9に示すように球形タンク10の支柱11より内側の底部下方の地盤2上に、上面に球面凹部3を有する基盤1を固設し、前記基盤の球面凹部3に、軟質金属を介して球面底部を有する突起体5を嵌合固着すると共に、前記突起体5の上部を球形タンク10の底部に結合したユニバーサルジョイント6、8を有する耐震装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献4(特開昭49−35909号公報)「球形タンクにおける耐震用ダンパの取付け装置」の発明には、従来例4の図10に示すように、球形タンク本体6の底部と基礎8との間にダンパ取付部材1、2を用いて適数個のダンパ3を組合せ配設して水平面内の適宜方向の地震に対し作動し得るようにした耐震用ダンパ3の取付け装置が開示されている。
【0006】
さらに、本出願人による特許文献5(特願2011−104135号)「球形タンクの倒壊防止構造及びその形成方法」の発明は、図11に示すように、球形タンク1の支柱5より内側、球殻体4の直下位置に設けたコンクリート基礎7と、このコンクリート基礎7の上面に鍔部で当接しアンカーボルトで固定して立設し、かつ前記球殻体4との上端縁8Aを固着することなく当接して支持するか、または離隔状態に配置した筒体受け部8とで形成し、地震や強風、津波などにより支柱が座屈するのを防止し、タンクの倒壊による被害を防止するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−142580号公報
【特許文献2】特公昭62−8680号公報
【特許文献3】特開昭56−6872号公報
【特許文献4】特開昭49−35909号公報
【特許文献5】特願2011−104135号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1(特開平09−142580号公報)の従来例1、図7のような補強構造は、ワイヤ14、23による引張力によって、支持脚2のせん断や倒壊を防止して球形タンク1の支持構造の耐震性を向上させることができるが、複数の支柱12を立設してワイヤ14、23を張設する構造が大掛かりで複雑となった。
【0009】
特許文献2(特公昭62−8680号公報)の従来例2、図8のような防震構造は、可撓性チューブ13と多孔質弾性体の抵抗体14からなるクッションリング12の作動機能の確保が必要でそれらの部材の劣化が心配となった。
【0010】
また、特許文献3(特開昭56−6872号公報)の従来例3、図9のような球形タンク1の耐震構造は、嵌合固着された球面凹部3と球面底部突起体5からなるユニバーサルジョイント6、8などの作動を適正に確保するメンテナンスが大変である。
【0011】
また、特許文献4(特開昭49−35909号公報)の従来例4、図10のような球形タンク1の耐震用ダンパ構造は、複数個のダンパ3及びダンパ取付部材1、2のメンテナンスが大変で作動の適正確保が必要である。
【0012】
また、特許文献5(特願2011−104135号)の従来例5、図11に示す球形タンク1の支持構造は、耐震性及び制震性に優れているが水平方向の揺動荷重を吸収することに殊に着目した構造ではない。
【0013】
この発明は上述のような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、地震や強風、津波などにより球形タンクの支柱が損傷や変形、座屈などするのを防止することができるように、水平方向の揺動荷重を吸収し着脱も簡単容易にできる支持部材を取付けた球形タンクの制震構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明に係る球形タンクの制震構造は、
球形タンクの支柱より内側直下位置で、球殻体とコンクリート基礎との間に、水平方向の揺動荷重を吸収する低降伏点鋼を用いて球殻体支持部材の一部に組み込んで形成した制震吸収装置を設けたものである。
【0015】
請求項2の発明に係る球形タンクの制震構造は、
上記低降伏点鋼を用いた制震吸収装置は、水平面球殻体の中心から各支柱に向けて立設する複数の平板状の構造体で形成したものである。
【0016】
請求項3の発明に係る球形タンクの制震構造は、
上記低降伏点鋼を用いた制震吸収装置は、筒体状に立設した支持台の中間一部に組み込んで設置する筒体状又は平板状の構造体で形成したものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明に係る球形タンクの制震構造は、球形タンクの支柱より内側直下位置で、球殻体とコンクリート基礎との間に、水平方向の揺動荷重を吸収する低降伏点鋼を用いて球殻体支持部材の一部に組み込んで形成したので、
地震や強風などによる横揺れや津波の衝撃に対して球殻体が水平動をしても、揺動荷重を低降伏点鋼が吸収して水平方向の変位を支柱に伝えないため、支柱が損傷や変形、座屈などすることがない。よって、地震による横揺れや津波の衝撃に強く、支柱への負担を軽減し制震機能が得られる。
【0018】
請求項2の発明に係る球形タンクの制震構造は、上記低降伏点鋼を用いた制震吸収装置は、水平面球殻体の中心から各支柱に向けて立設する複数の平板状の構造体で形成したので、
球殻体の中心下方から支柱方向の揺動荷重に対応して、低降伏点鋼を用いた平板状の構造体に吸収されて水平方向の変位を支柱に伝えないため、この方向の支柱が損傷や変形、座屈などすることがない。また、この平板状の構造体は着脱自在で交換設置を容易に行うことができる。
【0019】
請求項3の発明に係る球形タンクの制震構造は、上記低降伏点鋼を用いた制震吸収装置は、筒体状に立設した支持台の中間一部に組み込んで設置する筒体状又は平板状の構造体で形成したので、
筒体状支持台による耐震性に加えて、低降伏点鋼を用いた筒体状又は平板状の構造体によって水平方向の揺動荷重が吸収され制震機能を有するため、支柱が損傷や変形、座屈などすることがない。また、低降伏点鋼を用いた筒体状又は平板状の構造体は、支持台に固定し易く着脱も容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る球形タンクの制震構造を示す説明図である。
【図2】図1の平面説明図である。
【図3】図1の制震構造の要部と取付部材を示す斜視説明図である。
【図4】取付部材の変化例を示す説明図である。
【図5】他の実施形態例1を示す斜視説明図である。
【図6】他の実施形態例2を示す斜視説明図である。
【図7】従来例1の球形タンクの制震構造を示す説明図である。
【図8】従来例2の球形タンクの制震構造を示す説明図である。
【図9】従来例3の球形タンクの制震構造を示す説明図である。
【図10】従来例4の球形タンクの制震構造を示す説明図である。
【図11】従来例5の球形タンクの制震構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の球形タンクの制震構造の実施形態例について図1から図6を参照しながら説明する。本発明は下記の実施形態にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で下記の実施形態に変更(例えば構成要素の省略または付加、構成要素の形状の変更等)を加えることが出来るのはもちろんである。なお、図は概略を示すもので、複数の支持部のうちの一部のみを描き、ブレーシング等は省略した。また、この球形タンクの倒壊防止構造は、既設の球形タンクに形成する場合を示すが、新規な球形タンクに採用しても良い。
【0022】
図1の側面図に示すように、球形タンク1の球殻体4は、基版2の複数の基礎3と、この基礎3上に設置された複数の支柱5とによって支持されている。
この発明による球形タンクの制震構造の制震吸収装置6は、低降伏点鋼7をこの球殻体支持部材の一部に組み込んで形成する。
【0023】
図2の水平説明図に示すように、低降伏点鋼7を組み込んで形成した制震吸収装置6は、球形タンク1の球殻体4の中心下部から外側の各支柱5に向かう直径方向、略放射状に、支柱5と同数の平板を垂直に立てるように配置する。
【0024】
図3は、制震吸収装置6の拡大側面図である。基版2に打設したコンクリート基礎8から垂直上方の球殻4との間に制震吸収装置6設ける。9は取付部材で複数の長穴部材9Aで取付ける構造とする。長穴部材9Aは図の矢印Oで示す球殻4の中心方向に向けて設け、日常の液量の変化や温度変化などに伴う球殻4の動きに追従し移動可能となるように形成する。この制震吸収装置6の平板状の垂直支持部材の上下の定着板10、10の中間一部に低降伏点鋼7を組み込む。この低降伏点鋼7は、接合プレートに組み込んだ板材で形成し、フランジプレート11、11間に着脱自在に取付ける。
【0025】
この低降伏点鋼7は、パネルなどに組入れて形成し、地震による水平方向の揺動荷重、図の矢印Hで示す変位に対しては、優先的に降伏、座屈変形させることにより、地震エネルギーを吸収して揺れを小さくする。
【0026】
このように、制震吸収装置6は、球形タンク1の球殻体4の中心下部から外側の各支柱5に向かう直径方向、略放射状に、支柱5と同数の平板を垂直に立てるように低降伏点鋼7を配置して形成することにより、垂直方向の荷重は確りと受けて支え、地震時には図の矢印Hで示す水平方向の揺動荷重に伴う変位は吸収し、支柱及び取付け部などの他の部材への地震に伴う変位は伝えないようにしている。
【0027】
図4(a),(b)は、取付部材9の変化例を示す一部を欠除した側面説明図で、定着板10上端部の球殻4への取り付けは、断面U字形状の取付部材9内に緩衝部材9Bを介装して定着板10を弾力的に支持するように形成する。このように緩衝部材9Bを介装した取付部材9の構造は、日常の液量の変化や温度変化などに伴う球殻4の動きに弾力的に追従し、図の矢印Oで示す球殻4の中心方向に移動可能となる。
【0028】
図5に示す制震吸収構造6の実施形態例は、球殻体4の中心下方の直下位置に設ける支持部の中間の一部に低降伏点鋼12を組み込む場合を示す。
この低降伏点鋼12は、筒体状や蛇腹状、枠体状などに形成し、上下の取付け部13,13で着脱自在構造とする。この低降伏点鋼12は、水平方向の荷重に対して、撓んで座屈変形して変位を吸収する。
【0029】
図6に示す制震吸収構造6の実施形態例は、球殻体4の中心下方の直下位置に設ける支持部の中間の一部に低降伏点鋼14を組み込む場合を示す。
この低降伏点鋼14は、複数の薄板体を支柱5方向に向けて垂直に配置し、上下の取付け部13,13で着脱自在構造とする。この薄板体の低降伏点鋼14は、水平方向の揺動荷重に対して、菱形に変形しさらに座屈して変位を吸収する。
【0030】
このように、図5および図6に示す実施形態例は、球形タンク1の重心を安定化させ、支持部により下方向への変位を小さくして座屈強度を向上させる。そして、球殻体4の中心直下位置に設けた制震吸収構造6によって安定的に支持することができる。
また、制震吸収構造6は水平方向の変位に対して制震機能が得られ、かつ必要以上の変動は抑制することができる。このように、強度と安定化の向上によって、地震や強風などによる横揺れや津波の衝撃に対して球殻体4が垂直動や水平動をしても低降伏点鋼12、14によって変位を抑制しかつ吸収して安定性が得られ、制震機能が働いて荷重を支えて倒壊防止を図ることができる。
【0031】
このように低降伏点鋼材12、14を使用することにより、地震等による球殻4と支柱5及び配管等の相互にかかる変位を拘束することなく吸収するため、支柱5や配管等の破損を防止することができる。液面揺動や支柱共振などの影響を減じることができる。そのため、支柱5の損傷や配管の破損、火災発生など二次被害の予防が可能となる。また、万一支柱5が損傷したときには、球殻体4の荷重を筒体支持部で安全に受止めて倒壊防止を図ることができる。
【0032】
本願発明の球形タンクの制震吸収構造6は、荷重支持と横揺れ対策を備えているため、殊に海岸近辺における地震による津波、台風による河川の氾濫、大雨時の増水などに対しても被害を受けることがない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
上記球形タンクの制震吸収構造は、地震や強風などで脚部が損傷した球形タンク、脚部の耐久性改善が望まれる球形タンク、基礎の補強や改善が望まれる球形タンクなど、既設の球形タンクのみならず、制震機能の向上や津波対策、強風対策などが望まれる新規の球形タンク、給水用の高架球形タンク、球形モニュメントなどにも適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 球形タンク
2 基版
3 基礎
4 球殻体
5 支柱
6 制震吸収装置
7 低降伏点鋼
8 コンクリート基礎
9 取付部材
9A 長穴部材
9B 緩衝部材
10 定着板
11 フランジ部
12 低降伏点鋼
13 取付け部
14 低降伏点鋼
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球形タンクの支柱より内側位置で、球殻体とコンクリート基礎との間に、水平方向の揺動荷重を吸収する低降伏点鋼を用いて球殻体支持部材の一部に組み込んで形成した制震吸収装置を設けたことを特徴とする球形タンクの制震構造。
【請求項2】
上記低降伏点鋼を用いた制震吸収装置は、水平面球殻体の中心から各支柱に向けて立設する複数の平板状の構造体で形成したことを特徴とする請求項1記載の球形タンクの制震構造。
【請求項3】
上記低降伏点鋼を用いた制震吸収装置は、筒体状に立設した支持台の中間一部に組み込んで設置する筒体状又は平板状の構造体で形成したことを特徴とする請求項1記載の球形タンクの制震構造。
【請求項1】
球形タンクの支柱より内側位置で、球殻体とコンクリート基礎との間に、水平方向の揺動荷重を吸収する低降伏点鋼を用いて球殻体支持部材の一部に組み込んで形成した制震吸収装置を設けたことを特徴とする球形タンクの制震構造。
【請求項2】
上記低降伏点鋼を用いた制震吸収装置は、水平面球殻体の中心から各支柱に向けて立設する複数の平板状の構造体で形成したことを特徴とする請求項1記載の球形タンクの制震構造。
【請求項3】
上記低降伏点鋼を用いた制震吸収装置は、筒体状に立設した支持台の中間一部に組み込んで設置する筒体状又は平板状の構造体で形成したことを特徴とする請求項1記載の球形タンクの制震構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−14882(P2013−14882A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146442(P2011−146442)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000147729)株式会社石井鐵工所 (67)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000147729)株式会社石井鐵工所 (67)
【Fターム(参考)】
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