説明

環構造含有共重合体、その製造方法及び環構造含有共重合体組成物

【課題】重合時にゲル化しにくく、高濃度の共重合体組成物を得ることができ、優れた耐熱分解性を有する環構造含有共重合体を提供する。
【解決手段】1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含む構成単位を有する環構造含有共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環構造含有共重合体、その製造方法及び環構造含有共重合体組成物に関する。より詳しくは、光学材料、電子材料、レジスト材料、印刷インキ、塗料、相溶化剤等として好適に用いることができる環構造含有共重合体、その製造方法、及び、環構造含有共重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物は、高性能材料又は機能性材料として幅広い分野で用いられている。特に、(メタ)アクリル系モノマーや芳香族ビニルモノマーから得られる重合体は、ラジカル重合法により容易に得られ、モノマーの組み合わせの自由度が高く、また透明性にも優れることから、様々な用途に適用されている。特に光学フィルム等の光学部材や、カラーフィルター用レジスト等のレジスト材料といった電子情報材料用途においては、より優れた耐熱分解性が必要であることから、(メタ)アクリル系モノマーや芳香族ビニルモノマーから得られる重合体鎖中に環構造を導入して耐熱分解性を向上する検討が活発に行われている。
【0003】
(メタ)アクリル系モノマーや芳香族ビニルモノマーから得られる重合体鎖中に環構造を導入する方法としては、例えば、(1)環構造を有さない前駆体重合体を環化処理することにより重合体鎖中に環構造を形成する方法、(2)環構造を有するモノマーを重合する方法、(3)環化重合性モノマーを環化重合させる方法、に分けることができる。
方法(1)の具体例としては、メタクリル酸及びメタクリル酸メチルを重合した後、脱アルコール反応により重合体鎖中に無水グルタル酸構造を導入する方法(例えば、特許文献1参照。)、ポリメタクリル酸メチルにイミド化剤(アミン)を反応させて重合体鎖中にグルタルイミド構造を導入する方法(例えば、特許文献2参照。)、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルを重合した後、脱アルコール反応により重合体鎖中にラクトン環構造を導入する方法(例えば、特許文献3参照。)等が開示されている。
【0004】
方法(2)の具体例としては、N−置換マレイミド類を重合して重合体鎖中にイミド環構造を導入する方法等が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
方法(3)の具体例としては、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルのエーテルダイマーを環化重合させて重合体鎖中にテトラヒドロピラン環を導入する方法等が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
またα−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルのエーテルダイマー以外に環化重合するジエン系モノマーも報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−284816号
【特許文献2】特開2006−131689号
【特許文献3】特開2001−40228号
【特許文献4】特開平5−86252号
【特許文献5】特開2000−178317号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Michio Urushisaki、Toshiyuki Kodaira、Takeji Furuta、Yutaka Yamada、Shoji Oshitani、Macromolecules、1999年、第32巻、p.322−327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、(メタ)アクリル系モノマーや芳香族ビニルモノマーから得られる重合体鎖中に環構造を導入して耐熱分解性を向上する検討がなされている。しかし、方法(1)は、環化が完全に進行しないことにより、未環化部分が重合体鎖間で反応してゲル化する場合や、成形加工時に発泡、シルバー発生が生じる場合があった。また、環化触媒がそのまま残存するため、異物や着色の原因になることがあった。方法(2)は、N−置換マレイミド類が固体で溶媒に対する溶解性が低いため、溶媒を多量に使う、モノマーを加温状態で取り扱う等、生産性や安全性の面で課題があった。方法(3)は、環化率が充分ではないため、高濃度での重合や、高分子量品の製造が困難となる場合があった。
なお、非特許文献1には、上述したようにα−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルのエーテルダイマー以外に環化重合するジエン系モノマーが開示されているが、(メタ)アクリル系モノマーや芳香族ビニルモノマーからなる重合体鎖中に、これらのジエン系モノマー由来の環構造を導入する検討はなされていない。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、重合時にゲル化しにくく、高濃度の共重合体組成物を得ることができ、優れた耐熱分解性を有する、環構造含有共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、方法(3)について種々検討したところ、環化重合性モノマーとして、2位のみがカルボン酸エステルで置換されたジエン系モノマーである、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを用いると、(メタ)アクリル系モノマーや芳香族ビニルモノマーと広い範囲で重合して耐熱分解性に優れた共重合体を生成することを見いだした。また、このようなモノマーを用いれば、重合時にゲル化しにくく、重合により得られる組成物の重合体濃度を高くすることができ、かつ共重合体中の環構造の割合を増やすことができることを見いだし、中でも特に1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーであるアリルオキシメチルアクリル酸エステル類を用いれば、このような効果を更に向上できることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。そして、このような効果は、極性溶媒の存在下で重合すると顕著になることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含む構成単位を有する環構造含有共重合体である。
本発明はまた、上記環構造含有共重合体を必須とする環構造含有共重合体組成物でもある。
本発明は更に、上記環構造含有共重合体を製造する方法であって、該製造方法は、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを必須とする単量体成分を重合溶媒中で環化重合する工程を含む環構造含有共重合体の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
<環構造含有共重合体>
上記環構造含有共重合体は、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含む構成単位を有するものである。すなわち、上記環構造を有する構成単位と、他の重合性モノマーに由来する構成単位と、を有する環構造含有共重合体である。このような環構造含有共重合体は、耐熱分解性が高く、その後の加工、成型といった高温の処理工程での取り扱いを容易にすることができる。
【0012】
本明細書中、「他の重合性モノマー」とは、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー以外の重合性単量体を意味し、「重合性モノマー」とは、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーと、他の重合性モノマーとを含めたものであることを意味する。
また「構成単位」とは、重合体を構成する単位のことであり、一つの重合体中に複数の構成単位が含まれることとなる。また、「1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する構成単位」とは、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーから生成することが可能な構成単位を意味し、「1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造」は、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーが環化重合することにより形成されるものであり、該環構造を有する共重合体は、高い耐熱分解性を有するものとなる。
【0013】
また「1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー」とは、1,6−ジエン系モノマーの2位の原子にカルボン酸エステルの特性基を含む有機基が結合し、2位以外の二重結合原子には置換基を有していない単量体を意味し、「1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー」とは、1,5−ジエン系モノマーの2位の原子にカルボン酸エステルの特性基を含む有機基が結合し、2位以外の二重結合原子には置換基を有していない単量体を意味する。上記1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーは、2位のカルボン酸エステル基により1位の二重結合が共役性となるため重合活性が高く、更に、2位にのみカルボン酸エステル基を有することにより、モノマー濃度が高い条件で重合を行ってもゲル化を抑制できるため、重合速度を速くすることができる。これに対し、例えば、2位にカルボン酸エステル基を有し、更に6位又は5位にも置換基を有する1,6−ジエン系モノマー又は1,5−ジエン系モノマーの場合は、モノマー濃度が高い条件で重合を重合を行うとゲル化を充分に抑制できないおそれがある。
なお、本明細書中で「ジエン系モノマー」とは、2つの炭素−炭素二重結合を有する単量体のことである。
【0014】
上記環構造含有共重合体は、4員環、5員環及び/又は6員環の環構造を有するものであることが好ましい。このような環構造含有共重合体は、その環構造に起因して化学構造の安定性を向上させることができるため、該共重合体の耐熱分解性を向上させることができる。具体的には、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを環化重合して得られる環構造含有共重合体は、5員環及び/又は6員環の環構造を含む構成単位を有するものであることが好ましく、1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを環化重合して得られる環構造含有共重合体では、4員環及び/又は5員環の環構造を含む構成単位を有するものであることが好ましい。
【0015】
上記1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーは、このような構造を有するものである限り特に限定されるものではないが、4位の原子が酸素原子であるものが好ましい。すなわち、上記ジエン系モノマーは、4位の原子が酸素原子の1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーであることが好ましい。4位に酸素原子を有する、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーは、重合時の環化率が高く、耐熱分解性に優れた共重合体を生成することができる。この傾向は、特に、極性溶媒の存在下で重合した場合に顕著である。中でも、4位の原子が酸素原子の1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーが好適であり、より好ましくはアリルオキシメチルアクリル酸エステル類である。
【0016】
本発明における1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーの好ましい形態を化学式で表すと、各々、下記一般式(α)及び(β)で表すことができる。すなわち、上記環構造含有共重合体は、下記一般式(α)及び/又は(β):
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、Rは、同一若しくは異なって、水素原子又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。X、Y、Z、X及びYは、同一若しくは異なって、メチレン基又は酸素原子である。ただし、X、Y及びZのうち少なくとも1つは酸素原子であり、X及びYのうち少なくとも1つは酸素原子である。)で表される1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含む構成単位を有するものであることが好ましい。このようなモノマーを用いることによって、より化学構造が安定した、4員環、5員環及び/又は6員環の環構造を有する環構造含有共重合体とすることができる。このように、上記一般式(α)で表される1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は上記一般式(β)で表される1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含む構成単位を有する環構造含有共重合体は、本発明の好ましい形態の1つである。
【0019】
上記一般式(α)においては、X、Y及びZの中の一つが酸素原子であることが好ましく、より好ましくは、Yが酸素原子であることである。また、上記一般式(β)においては、X及びYの中のいずれかが酸素原子であることが好ましく、より好ましくは、Yが酸素原子であることである。このように、酸素原子を一つ含むジエン系モノマーを用いることによって、環化率が高く、耐熱分解性に優れた共重合体を生成することができる。この傾向は、特に、極性溶媒の存在下で重合した場合に顕著である。Rとして好ましくは、炭素数1〜20の炭化水素基であり、より好ましくは、炭素数1〜6の炭化水素基であり、更に好ましくは、炭素数1又は2の炭化水素基である。
【0020】
上記一般式(α)で表される1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーとしては、アリルオキシメチルアクリル酸エステル類が好適である。具体的には、α−アリルオキシメチルアクリル酸メチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジシクロペンタジエニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸イソボルニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アダマンチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ベンジル等のアリルオキシメチルアクリル酸エステル類が好適である。これらの中でも特に、α−アリルオキシメチルアクリル酸メチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ベンジルが特に好ましい。また、上記一般式(β)で表される1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーとしては、ビニルオキシメチルアクリル酸エステル類が好適である。
これらのモノマーの中でも、本発明においては、アリルオキシメチルアクリル酸エステル類を用いることが好適であり、このように上記環構造含有共重合体が、アリルオキシメチルアクリル酸エステルに由来する環構造を含む構成単位を有する形態は、本発明の好適な形態の1つである。
【0021】
本発明におけるこれらのジエン系モノマーは、単体で用いてもよいし、複数種を併用して用いてもよく、目的とする環構造含有共重合体の特性を考慮して適宜選択することが好ましい。このように、ジエン系モノマーとして複数種を用いることによって、得られる環構造含有共重合体中に複数の構成単位が含まれていてもよい。
なお、一種のジエン系モノマーを用いた場合であっても、得られる環構造含有共重合体が複数種の構成単位を含んでいてもよい。例えば、一種のジエン系モノマーに由来する構成単位が複数種生成される場合には、1本のポリマー鎖中に一種のジエン系モノマーに由来する環構造を有している構成単位と環構造を有していない構成単位との両方が含まれていてもよい。
【0022】
また上記環構造含有共重合体は、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する構成単位を複数種含んでいてもよいし、一種含むものであってもよい。例えば、複数種の1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを用いた場合には、用いたモノマーに対応した複数種の構成単位を有するものであってもよいし、単一種の1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを用いた場合であっても、該1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する構成単位が複数生成される場合には、複数の1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する構成単位を有する環構造含有共重合体であってもよい。また、上記環構造含有共重合体は、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する構成単位を含んでいればよく、例えば、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含有しない構成単位を含んでいてもよい。
【0023】
本発明において、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーと共重合することが好ましい他の重合性モノマーとしては、共重合が可能なモノマーであれば特に限定されない。すなわち、他の重合性モノマーの種類及び他の重合性モノマーに由来する構成単位の構造は特に限定されるものではない。また、上記環構造含有共重合体の形態としても特に限定されるものではなく、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体等のいずれの形態であってもよい。他の重合性モノマーとしては、1種でもよいし、2種以上の重合性モノマーでもよい。
なお、本発明では、他の重合性モノマーに由来する構成単位を含む環構造含有共重合体とすることにより、その重合性モノマーの特性によって種々の特性を環構造含有共重合体に付与することができる。
【0024】
上記他の重合性モノマーとしては、ビニル化合物であることが好ましい。
上記ビニル化合物としては、例えば、(メタ)アクリル系化合物、芳香族ビニル化合物、共役ジエン類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、N−ビニル化合物等が挙げられ、中でも(メタ)アクリル系化合物、芳香族ビニル化合物が好ましい。すなわち、上記環構造含有重合体は、(メタ)アクリル系化合物及び/又は芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を含むことが好ましい。上記ビニル化合物としては、最も好ましくは(メタ)アクリル系化合物である。なお、上記ビニル化合物は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0025】
上記(メタ)アクリル系化合物としては、RC=CR−C(=O)−、又は、RC=CR−CNで表される構造(基)を有する化合物であれば特に限定されるものではない。なお、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。
このような化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸s−アミル、(メタ)アクリル酸t−アミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β−エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、メサコン酸、マレイン酸、フマル酸等の(メタ)アクリル酸類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の多価(メタ)アクリル酸類の酸無水物;メチルマレイミド、エチルマレイミド、イソプロピルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミド、ナフチルマレイミド等のN置換マレイミド類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル酸エステル類、N−置換マレイミド類が好適である。また、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0026】
上記芳香族ビニル化合物としては、RC=CR−Arで表される構造(基)を有する化合物であれば特に限定されるものではない。なお、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族環を表す。このような化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−クロルスチレン、(o,m,p−)メチルスチレン、(o,m,p−)tert−ブチルスチレン、(o,m,p−)クロルスチレン、(o,m,p−)メトキシスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ビニル安息香酸、スチレンスルホン酸等が挙げられる。中でも、スチレン、(o,m,p−)メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N−ビニルカルバゾールが好ましい。また、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0027】
その他のビニル化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルモルフォリン、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニル化合物類;等が挙げられる。
【0028】
上記ビニル化合物としてはまた、上述した(メタ)アクリル系化合物及び芳香族ビニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種以上のビニル化合物を必須として、更にビニル化合物を1種又は2種以上を用いることも好適である。例えば、(メタ)アクリル酸エステル類のうち2種以上を用いたり、(メタ)アクリル酸エステル類のうち1種以上とN−置換マレイミド類のうち1種以上とを用いたり、(メタ)アクリル酸エステル類のうち1種以上と芳香族ビニル化合物のうち1種以上とを用いたり、N−置換マレイミド類のうち1種以上と芳香族ビニル化合物のうち1種以上とを用いたり、(メタ)アクリル酸エステル類のうち1種以上とN−置換マレイミド類のうち1種以上と芳香族ビニル化合物のうち1種以上とを用いたりすることも好ましい。この場合、本発明の環構造含有共重合体は3元系以上の共重合体となるが、用途や目的に合わせて諸物性(耐熱性、屈折率、位相差、相溶性、加熱溶融時の流動特性等)のバランスを取り易くすることができ、好適である。
【0029】
上記重合性モノマーに占める、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーの割合は、重合性モノマーの総量100質量%に対し、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーの合計量が5〜99質量%であることが好適である。この範囲とすることにより、環構造の耐熱分解性向上効果が顕著となってくる。このように、上記環構造含有共重合体が、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを必須として環化重合して得られる環構造含有共重合体であり、該環化重合が、重合性モノマー100質量%に対して、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーの割合が5〜99質量%で重合するものである形態は、本発明の好適な形態の1つである。1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーのより好ましい割合としては、これらの合計量として7〜95質量%であり、更に好ましくは10〜90質量%である。
【0030】
上記環構造含有共重合体は、5%質量減少温度が、200℃以上であることが好ましい。5%質量減少温度が高い、すなわち、耐熱分解性に優れていることで、熱可塑用途のような、高温で使用する用途に好適なものとなる。すなわち上記環構造含有共重合体は、熱可塑用共重合体として特に好ましいものである。また、このように、上記環構造含有共重合体の5%質量減少温度が200℃以上である形態も本発明の好適な形態の一つである。5%質量減少温度としては、より好ましくは230℃以上、更に好ましくは250℃以上である。
上記5%質量減少温度は、例えば、熱重量分析計(TG−DTA 2000SR、Bruker AXS社製)を用いて測定することが好ましい。測定試料としては、重合体(又は重合体組成物)をいったんメチルエチルケトンに溶解又は希釈し、過剰のヘキサンに投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1.33hPa(1mmHg)、60℃、5時間以上)することによって、揮発成分等を除去し、粉末状に精製したものを用いることが好ましい。この粉末状の試料約10mgを昇温速度10℃/分、窒素フロー 100mL/分の条件で、室温(25℃)時に対して、質量が5%減少した温度を5%質量減少温度として用いることができる。
【0031】
上記環構造含有共重合体の重量平均分子量(Mw)は、5000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましく、20000以上であることが更に好ましい。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム、東ソー社製)を用いて、ポリスチレン換算により求めることができる。この場合、展開液としてはクロロホルムを用いることが好ましい。
上記環構造含有共重合体組成物中に含まれる重合体の多分散度(Mw/Mn)は、6.0以下であることが好ましい。より好ましくは、5.0以下であり、更に好ましくは、4.0以下である。ここで、Mnは、数平均分子量である。重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム、東ソー社製)を用いて、ポリスチレン換算により求めることができる。この場合、展開液としてはクロロホルムを用いることが好ましい。
【0032】
上記環構造含有共重合体はまた、試験温度240℃、荷重10kgで測定したメルトフローレート(MFR)が、1〜100g/10分であることが好ましく、より好ましくは3〜100g/10分、更に好ましくは5〜50g/10分である。MFRをこのような範囲とすることにより、上記環構造含有共重合体を熱可塑性樹脂組成物の構成成分として用いた場合に、成型、加工が容易な熱可塑性樹脂組成物とすることができる。
MFRの測定は、JIS K7210(1999年)に記載された方法に従って行うことができる。
【0033】
上記環構造含有共重合体は更に、ガラス転移温度(Tg)が40℃以上であることが好ましい。Tgが40℃以上であると、例えば、熱可塑用樹脂組成物の成分の1つとして好適に用いることが可能になる。
上記ガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量計(DSC−8230、リガク社製)を用いて、白色粉末状の試料約10mg、昇温速度10℃/分、窒素フロー30mL/分の条件で測定を行い求めることができる。なお、このような測定で行う場合、ガラス転移温度は、ASTM−D−3418に従い、中点法により求めることが好ましい。なお、測定を行う白色粉末状の試料としては、重合体(又は重合体組成物)をいったんメチルエチルケトンに溶解又は希釈し、過剰のヘキサンに投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1.33hPa(1mmHg)、60℃、5時間以上)することによって、揮発成分等を除去し、粉末状に精製したものを用いることが好ましい。
【0034】
上記環構造含有共重合体の好ましい形態としては、下記一般式(1)及び/又は(2):
【0035】
【化2】

【0036】
(式中、Rは、同一若しくは異なって、水素原子又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。X、Y及びZは、同一若しくは異なって、メチレン基又は酸素原子である。ただし、X、Y及びZのうち少なくとも1つは酸素原子である。)で表される構成単位を有するものであることである。上記一般式(1)及び(2)で表される構成単位は、上記一般式(α)で表される1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを環化重合させることによって生成することができる。このような環構造含有共重合体は、構成単位中に5員環及び/又は6員環を有しているため、耐熱分解性がより向上したものとなる。
【0037】
上記環構造含有共重合体の好ましい形態としてはまた、下記一般式(3)及び/又は(4):
【0038】
【化3】

【0039】
(式中、Rは、同一若しくは異なって、水素原子又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。X及びY、同一若しくは異なって、メチレン基、又は、酸素原子である。ただし、X及びYのうち少なくとも1つは酸素原子である。)で表される構成単位を有するものであることである。上記一般式(3)及び(4)で表される構成単位は、上記一般式(β)で表される1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを環化重合させることによって生成することができる。このような環構造含有共重合体は、構成単位中に4員環及び/又は5員環を有しているため、耐熱分解性がより向上したものとなる。
【0040】
このように、上記1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含む構成単位が上記式(1)及び/又は(2)で表されるものであり、上記1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含む構成単位が上記式(3)及び/又は(4)で表されるものである形態もまた、本発明の環構造含有共重合体の好ましい形態の1つである。このような形態とすることにより、耐熱分解性に更に優れた環構造含有共重合体となり得る。
【0041】
上記環構造含有共重合体はまた、例えば、下記式:
【0042】
【化4】

【0043】
(式中、R、X、Y及びZは、上記一般式(1)及び(2)について上述したものと各々同様である。)で表される複数種の構成単位を含むものであってもよい。上記一般式(α)で表される1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを用いて重合を行った場合、一般式(1)及び(2)で表される環構造を含む構成単位以外に、一般式(5)で表される環構造非含有の構成単位が形成されることがある。上記一般式(5)で表される構成単位は、環構造を含んでいないため、環構造含有の構成単位と比較して耐熱分解性が低くなり、このような構成単位を多く含む場合には、充分な耐熱分解性が得られないおそれがある。このように、耐熱分解性等の観点からは、上記ジエン系モノマーに由来する構成単位としては、環構造を含有しない構成単位が生成されないことが好ましいが、このような反応では、ジエン系モノマーに由来する全ての構成単位を環構造を含有するものとすることは困難である。
【0044】
ここで、本明細書中では、ジエン系モノマーに由来する全構成単位中の環構造を含有する構成単位の割合を環化率としている。環化率は、例えば、4位に酸素原子を有する1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーであるα−アリルオキシメチルアクリル酸エステルの場合、アリル基転化率(%)からある程度推測することができる。アリル基転化率とは、環構造含有重合体のH−NMRの測定から、反応せずに残存した6位の二重結合の割合を算出し、反応した6位の二重結合の割合(%)を計算したものである。しかし、反応した6位の二重結合には、環化せずに架橋して消失した二重結合も含まれるため、環化率には正確に一致しない場合がある。この場合は、分子量分布や得られた重合体の耐熱分解性評価等を加味すれば、アリル基転化率が環化率にほぼ一致するものであるか、又は、架橋反応の寄与が大きく環化率とは一致しないものであるか、判断することが可能である。なお、アリル基転化率の測定方法について以下に示す。
(アリル基転化率の測定方法)
環構造含有重合体組成物中から重合体のみを抽出した白色粉末状の試料30mgを重クロロホルム1gに溶解し、核磁気共鳴装置(200MHz、Varian社製)で重合体の1H−NMRを測定し、5.8ppmのアリル基のメチンプロトンと3.9ppm付近の酸素に隣接する炭素に結合するプロトンとの強度比から、残存アリル基の量(割合)を定量し、この割合に基づいて、転化したアリル基の割合(アリル基転化率)を決定する。
【0045】
なお、上記一般式(β)で表される1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを反応させて環構造含有共重合体組成物を得る反応では、例えば、下記式:
【0046】
【化5】

【0047】
(式中、R、X及びYは、上記一般式(3)及び(4)について上述したものと各々同様である。)で表されるように、上記一般式(6)で表されるような環構造を含有しない構成単位を含んでいてもよい。
【0048】
上記一般式(α)で表されるジエン系モノマーを用いて、上記一般式(1)及び/又は(2)で表される構成単位を含む環構造含有共重合体を製造する具体例としては、例えば、下記式:
【0049】
【化6】

【0050】
で表されるように、一つの1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーから、3種の構成単位を生成し、これらの構成単位の中から環構造を有する構成単位を少なくとも一つ有するものが挙げられる。上記反応においては、5員環を有する構成単位と、6員環を有する構成単位と、環構造を含有しない構成単位とが生成される。
【0051】
また上記一般式(β)で表されるジエン系モノマーを用いて、上記一般式(3)及び/又は(4)で表される構成単位を含む環構造含有共重合体を製造する具体例としては、例えば、下記式:
【0052】
【化7】

【0053】
で表されるように、一つの1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーから、3種の構成単位を生成し、これらの構成単位の中から環構造を有する構成単位を少なくとも一つ有するものが挙げられる。上記反応においては、4員環を有する構成単位と、5員環を有する構成単位と、環構造を含有しない構成単位とが生成される。
【0054】
本発明の1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含む構成単位を有する環構造含有共重合体は、環構造に由来する優れた耐熱分解性と透明性とを有するものとなる。このような共重合体は、高い温度で使用される用途に適用することが可能となり、例えば、光学部材、電子材料、レジスト材料、印刷インキ、塗料、相溶化剤等に好適に用いることができる。特に上記環構造含有重合体を含む熱可塑性樹脂組成物及びそれを用いて得られる成形体は、光学部材として特に有用であり、このような熱可塑性樹脂組成物、及びそれを用いて得られる成形体もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0055】
<環構造含有共重合体の製造方法>
本発明の環構造含有重合体は、重合溶媒を用いて環化重合して得られるものであることが好ましく、特に極性溶媒の存在下で環化重合して得られるものであることが好ましい。極性溶媒の存在下で重合を行う、すなわち極性溶媒を含む重合溶媒を用いて重合を行うことによって、共重合体中の1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する構成単位の環化率を高いものとすることができる。更に、分子量分布の狭い環構造含有共重合体とすることができる。また、重合により得られる環構造含有共重合体組成物(環構造含有共重合体を必須とする組成物)中の環構造含有共重合体の割合(濃度)をより高くすることができ、環構造含有共重合体の濃度が高まることによって、後の加工、成型といった工程の取り扱いが容易となる。
すなわち、上記環構造含有共重合体を製造する方法であって、該製造方法は、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを必須とする単量体成分を重合溶媒中で環化重合する工程を含む環構造含有共重合体の製造方法もまた、本発明の1つである。この製造方法では、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーと、他の重合性モノマーとを必須とする単量体成分を重合溶媒中で環化重合するものとなるが、特に本発明では、上記環構造含有共重合体が、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーと、他の重合性モノマーと、を極性溶媒を必須とする重合溶媒に溶解させて環化重合したものであることが好適である。
【0056】
上記重合溶媒は、重合を行う原料を溶解させる溶媒であればよく、特に限定されるものではないが、極性溶媒を含むものであることが好ましい。また、極性溶媒の使用量を、重合溶媒中の極性基の総量が、環化重合に供する1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー総量の0.5倍モル量以上となるように設定することが好ましい。したがって、重合溶媒中の極性基の総量(モル数)が1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー総量(モル数)の0.5倍以上となるように、重合溶媒として極性溶媒とともに炭化水素系溶媒のような非極性溶媒を併用する形態も好ましい実施形態の1つである。このように極性溶媒の存在下で1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーの環化重合を行うことにより、得られる重合体中の環化率を著しく高めるという特有の効果が発揮され、これによって耐熱分解性に優れる共重合体を得られ、また高いモノマー濃度で重合することによりモノマーの重合速度や重合転化率が上がり、生産性を向上することができるが、これは、以下のメカニズムによると推測している。
【0057】
図1は、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーの1種であるアリルオキシメチルアクリル酸エステルを用いた場合の反応メカニズムを推測したものである。図1に示すように、アリルオキシメチルアクリル酸エステルは、重合溶媒中で、疎水性部分(アリル基)が内側を、極性部分(角度のついたエーテル結合)が外側を向いた環状の遷移状態1と、疎水性のアリル基が外側に延びた直鎖状の遷移状態2の平衡状態にあり、遷移状態1で重合すると環構造含有重合体が生成し、遷移状態2で重合すると環構造を含有しない重合体が生成すると考えられる。遷移状態2から生成した重合体は側鎖に二重結合がぶら下がった構造となるため、この二重結合が基点となり、架橋・ゲル化し易い。アリルオキシメチルアクリル酸エステルは、非常に環化率が高いモノマーであることから、基本的に、遷移状態1に平衡がかなり偏っており、一部が遷移状態2を取っていると推測される。重合溶媒として極性溶媒を用いた場合、モノマーの周囲が極性雰囲気となり、極性部分(角度のついたエーテル結合)が外側を向いた遷移状態1へ平衡が更に移動して遷移状態2の割合がごく僅かとなるため、環構造の含有割合が非常に高い重合体、すなわち耐熱分解性の高い重合体が得られる。一方、重合溶媒として非極性溶媒を用いた場合、モノマーの周囲が非極性雰囲気となり、疎水性のアリル基が外側に延びた遷移状態2に平衡が移動して遷移状態2の割合が増えるため、環構造の含有割合が低下した重合体、すなわち耐熱分解性が低下した重合体が生成することになる。また、遷移状態2から生成した重合体の側鎖の二重結合が基点となって架橋が起こり易いため、分子量分布が増大する傾向にあり、条件によってはゲル化することもある。
【0058】
上記の反応メカニズムは、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに特有の現象と言える。他のジエン系モノマー、例えば、2位にカルボン酸エステル基を有し、更に6位にもカルボン酸エステル基を有する1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーである、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートのエーテルダイマーの極性溶媒中での重合においては、6位についた極性基(カルボン酸エステル基)の影響により6位の二重結合が外側に伸びたような遷移状態(図1の遷移状態2に相当)を取り易くなるため、架橋し易い。
【0059】
上記極性溶媒とは、極性基を有する溶媒を意味する。このような極性溶媒の極性基としては、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーが、図1の遷移状態1のような構造を取り易くなるような官能基である限り、特に限定されるものではないが、例えば、カルボニル基、水酸基、エステル基、エーテル基、アミド基、シアノ基、スルホキシド基等が好適である。したがって、上記極性溶媒としては、カルボニル基、水酸基、エステル基、エーテル基、アミド基、シアノ基及びスルホキシド基からなる群より選択される少なくとも1種の極性基を有する溶媒であることが好ましい。
【0060】
1種の極性基を有する溶媒としては、具体的には、例えば、カルボニル基を有する極性溶媒として、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソプロピルメチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;水酸基を有する極性溶媒として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;エステル基を有する極性溶媒として、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類;エーテル基を有する極性溶媒として、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン等のエーテル類;アミド基を有する極性溶媒として、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;シアノ基を有する極性溶媒として、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;スルホキシド基を有する極性溶媒として、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0061】
また2種以上の極性基を有する溶媒としては、具体的には、例えば、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のカルボニル基とエステル基を有する極性溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシブタノール等の水酸基とエーテル基とを有する極性溶媒;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート等の水酸基とエステル基とを有する極性溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル基とエーテル基とを有する極性溶媒;が挙げられる。
【0062】
これらの中では、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒が好ましく、特に、少なくとも1種の極性基としてカルボニル基を含む溶媒であるケトン系溶媒が好ましい。これらの極性溶媒は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
上記極性溶媒の使用量は、重合溶媒中の極性基の総量が、環化重合に供する1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー総量の0.5倍モル量以上となるように設定することが好ましく、より好ましくは0.8倍モル量以上、更に好ましくは1.0倍モル量以上、最も好ましくは1.3倍モル量以上である。重合溶媒中の極性基の量をこのように設定することにより、上述したメカニズムによって環化率が高く、耐熱分解性の高い重合体を含有する環構造含有共重合体を生成することができる。なお、重合溶媒中の極性基の総量(モル数)が1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー総量(モル数)の0.5倍以上となるように、重合溶媒として極性溶媒とともに炭化水素系溶媒のような非極性溶媒を併用する形態も好ましい実施形態の1つである。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒と、ケトン系溶媒との混合溶媒、芳香族炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒、芳香族炭化水素系溶媒とエステル系溶媒との混合溶媒、芳香族炭化水素系溶媒とエーテル系溶媒との混合溶媒等を重合溶媒として好ましく用いることができる。
【0063】
上記環化重合は、重合溶媒と重合性モノマーとの合計質量(重合溶媒と、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーと、他の重合性モノマーと、の合計質量)を100質量%とすると、モノマー濃度を15質量%以上として環化重合することが好ましい。これによれば、環構造含有共重合体組成物中の環構造含有共重合体の濃度を高いものとすることができるため、後の加工、成型等の工程での取り扱いが容易となる。モノマー濃度としてより好ましくは20質量%以上であり、更に好ましくは25質量%以上、特に好ましくは30質量%以上である。なお、上記モノマー濃度は、重合溶媒と、該重合溶媒に添加された重合性モノマーとの合計質量を100質量%としたときの、添加された重合性モノマーの質量百分率(質量%)を表す。
【0064】
上記環化重合は、原料となる重合性モノマーを一括して重合溶媒に溶解させた溶液を用いて行ってもよいし、原料となる重合性モノマーを重合溶媒に対して段階的に添加していく方法を用いてもよい。上記環化重合において、重合性モノマーを重合溶媒に対して段階的に添加する形態としては、特に限定されず、連続的に重合性モノマーを添加してもよいし、間欠的に重合性モノマーを添加してもよい。重合性モノマーを一括して重合溶媒に溶解させた溶液を用いて重合を行う場合、上記モノマー濃度は、重合溶媒と、一括して添加された重合性モノマーとの合計質量を100質量%としたときの、一括して添加された重合性モノマーの質量百分率(質量%)となる。段階的に添加していく方法を用いる場合、上記モノマー濃度は、重合溶媒と、段階的に添加された重合性モノマーの合計質量とを合わせたものを100質量%としたときの、段階的に添加された重合性モノマーの質量百分率(質量%)となる。
【0065】
上記環化重合は、重合反応時のゲル化を抑制するために、重合反応中の混合物(重合性モノマー、生成された共重合体、及び、溶媒、並びに必要に応じて加えられるその他の成分の混合物)中の生成した重合体の濃度が、重合反応中の混合物100質量%に対して、60質量%以下となるように制御することが好ましい。ゲル化を抑制する観点からは、重合体の濃度を60質量%以下に制御することが好ましく、50質量%以下に制御することがより好ましい。このように重合反応混合物中の生成した重合体の濃度を制御することによって、重合反応中のゲル化を抑制することができる。
【0066】
上記環化重合において好ましい重合温度や重合時間は、使用する重合性モノマーの種類、使用比率等によって異なるが、重合温度は、好ましくは0〜150℃、より好ましくは50〜140℃、更に好ましくは70〜120℃である。重合時間は、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下であり、更に好ましくは8時間以下である。
【0067】
上記環化重合は、ラジカル重合により行われることが好ましい。上記ラジカル重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。上記ラジカル重合反応時に含まれるラジカル重合開始剤の含有量としては、極性溶媒と、重合性モノマーと、ラジカル重合開始剤との合計を100質量%としたときに、0.001質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以上、特に好ましくは0.01質量%以上である。含有量の上限として好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下である。
【0068】
上記ラジカル重合開始剤としては、ラジカルを発生して上記重合を開始させることができる化合物であれば特に限定されない。具体的には、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1,1’−アゾビス−1−シクロヘプタンニトリル、1,1’−アゾビス−1−フェニルエタン、フェニルアゾトリフェニルメタン、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオン酸メチル、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’アゾビス−2−メチルバレロニトリル等のアゾ系開始剤類;過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化tert−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ラウロイル、過酢酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチル、tert−ブチルヒドロペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーイソノナノエート、t−アミルパーオキシアセテート、t−アミルパーオキシベンゾエート等の過酸化物系開始剤類;等が挙げられる。
【0069】
<環構造含有共重合体組成物>
本発明は更に、上記環構造含有共重合体を含む環構造含有共重合体組成物でもある。
上記環構造含有共重合体組成物は、該共重合体組成物100質量%に対して、環構造含有共重合体の濃度が15質量%以上であることが好ましい。このようにして製造した環構造含有共重合体組成物は、環構造含有共重合体の濃度が15質量%以上と高くとも、共重合体が充分に溶解したものとなり、また、耐熱分解性も向上したものとなる。環構造含有共重合体の濃度として、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、より更に好ましくは30質量%以上である。環構造含有共重合体の濃度は、環構造含有共重合体をヘキサン等の溶媒に再沈殿させる等の方法で単離することによって求めることができる。より具体的には、環構造含有共重合体をメチルエチルケトンに溶解又は希釈し、過剰のヘキサンに投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1.33hPa(1mmHg)、60℃、5時間以上)することによって、揮発成分等を除去して単離することで求めることができる。
【0070】
上記環構造含有共重合体組成物は、複数種の1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は複数種の1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを併用して製造してもよいし、同種の重合性モノマーのみを用いて製造してもよく、特に限定されるものではない。耐熱分解性の観点からは、5員環及び/又は6員環の環構造を有する環構造含有共重合体であることが好ましい。このことから、上記1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを用いて製造されるものであることが好ましい。この場合にも、複数種の1,6−ジエンモノマーを併用して用いてもよい。
【0071】
上記環構造含有共重合体組成物は、上記環構造含有共重合体以外に、重合溶媒やその他の物質を含んでいてもよい。その他の物質としては、例えば、重合せずに残存した重合性モノマー、環構造非含有の共重合体、環構造非含有の単独重合体(単一の構成単位からなる重合体)、連鎖移動剤、重合禁止剤等を含んでいてもよい。
【0072】
上記環構造含有共重合体組成物は、高い耐熱分解性と優れた透明性とを有する環構造含有共重合体を含むものであり、高い温度で使用される用途に適用することが可能である。例えば、光学部材、電子材料、レジスト材料、印刷インキ、塗料、相溶化剤等に好適に用いることができる。特に上記環構造含有重合体を含む熱可塑性樹脂組成物、及び、それを用いて得られる成形体は、光学部材として特に有用であり、このような熱可塑性樹脂組成物、及びそれを用いて得られる成形体もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【発明の効果】
【0073】
本発明の環構造含有共重合体は、耐熱分解性に優れたものであり、光学材料、電子材料、レジスト材料、印刷インキ、塗料、相溶化剤等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の環構造含有共重合体の製造方法に関し、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーの1種であるアリルオキシメチルアクリル酸エステルを用いた場合の反応メカニズムを示した概念図である。
【図2】図2は、実施例1に係る環構造含有共重合体のH−NMRで測定した結果を示すチャート図である。
【図3】図3は、実施例2に係る環構造含有共重合体のH−NMRで測定した結果を示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0076】
まず、環構造含有共重合体の評価方法について説明する。一部の分析は、共重合体(又は共重合体組成物)をいったんメチルエチルケトンに溶解又は希釈し、過剰のヘキサンに投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1.33hPa(1mmHg)、70℃、3時間以上)することによって、揮発成分等を除去し、白色粉末状に精製してから行った。
【0077】
<重合転化率>
重合反応時の反応率、すなわち重合転化率は、得られた重合反応混合物中の未反応単量体の量をガスクロマトグラフ(GC−2010、島津製作所製、キャピラリーカラム DB−17HT L30m×ID0.25mm、DF0.15mm)により測定して求めた。
【0078】
<ガラス転移温度>
示差走査熱量計(DSC−8230、リガク社製)を用いて、白色粉末状の試料約10mg、昇温速度10℃/分、窒素フロー30mL/分の条件で行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に従い、中点法により求めた。
【0079】
<5%質量減少温度>
熱重量分析計(TG−DTA 2000SR、Bruker AXS社製)を用いて、白色粉末状の試料約10mg、昇温速度10℃/分、窒素フロー100mL/分の条件で行った。室温時に対して質量が5%減少した温度を5%質量減少温度とした。
【0080】
<アリル基転化率>
白色粉末状の試料30mgを重クロロホルム1gに溶解し、核磁気共鳴装置(200MHz、Varian社製)で重合体の1H−NMRを測定し、5.8ppmのアリル基のメチンプロトンと3.9ppm付近の酸素に隣接する炭素に結合するプロトンとの強度比から、残存アリル基の量(割合)を定量し、この割合に基づいて、転化したアリル基の割合(アリル基転化率、%)を決定した。
例として実施例1で得られる重合体のアリル基転化率を計算する。
3.0〜4.5ppmの酸素に隣接する炭素に結合するプロトン(AMAのエステル基のメチルプロトン+AMAの酸素原子の両隣のメチレンプロトン+MMAのエステル基のメチルプロトン)のH−NMRの積分値を100とすると、5.8ppmのAMAの残存アリル基のメチンプロトンの積分値は0.61であった。AMAとMMAの転化率より、AMAとMMAの共重合組成比はAMA/MMA=86/87(重量比)である。共重合体中のAMAの割合a(モル%)及びMMAの割合b(モル%)は下記式で計算できる。
【0081】
【数1】

【0082】
上記、3.0〜4.5ppmの酸素に隣接する炭素に結合するプロトンのうち、AMAに由来するプロトン数は7で、MMAに由来するプロトン数は3であるから、AMA1分子中のプロトン1個の強度は以下の式で算出される。
【0083】
【数2】

【0084】
これと5.8ppmのメチンプロトンの強度比から下記式のようにアリル基転化率が算出される。
【0085】
【数3】

【0086】
<重合平均分子量及び分子量分布>
重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム、東ソー社製)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。展開液はクロロホルムを用いた。
【0087】
実施例1
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した反応器に、50部のアリルオキシメチルアクリル酸メチル(AMA)、50部のメタクリル酸メチル(MMA)、重合溶媒として100部の2−ペンタノン(メチルエチルケトン、MEK)を仕込み、これに窒素を通じつつ、70℃まで昇温した後、開始剤として0.2部の1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル(和光純薬製、商品名:V−40)を添加し、重合を開始した。重合反応を6時間行った結果を表1に示す。また、得られた共重合体組成物のH−NMRのチャートを図2に示す。
【0088】
実施例2
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した反応器に、50部のAMA、50部のスチレン(St)、重合溶媒として100部のMEKを仕込み、これに窒素を通じつつ、70℃まで昇温した後、開始剤として0.2部のV−40を添加し、重合を開始した。重合反応を8時間行った結果を表1に示す。また、得られた共重合体組成物のH−NMRのチャートを図3に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1に示すように、実施例1及び2ではともに、5%質量減少温度が310℃以上であり、高い耐熱性を有する環構造含有共重合体が生成されていることがわかる。また、図2及び3で示すH−NMRのチャートから環化率が高く、残存アリル基が殆ど残っていないことが確認された。
【0091】
比較例1
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した反応器に、50部のジメチル−2,2’−[オキシビス(メチレン)]ビス−2−プロペノエート(6位にもカルボン酸エステルを有する1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー)、50部のMMA、重合溶媒として100部のMEKを仕込み、これに窒素を通じつつ、70℃まで昇温した後、開始剤として0.2部のV−40を添加し、重合を開始した。重合反応を30分間行うと、ゲル化した。
【0092】
実施例3〜6
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した反応器に、AMAとMMAとを表2に示す割合で仕込み、重合溶媒として200部の4−メチル−2−ペンタノン(メチルイソブチルケトン、MIBK)を仕込み、これに窒素を通じつつ、100℃まで昇温した後、開始剤として0.1部のV−40を添加し、重合を開始した。重合反応を6時間行った結果を表2に示す。
【0093】
比較例2
モノマーをMMA50部としたこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0094】
参考例1
モノマーをAMA50部としたこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
表2に示すように、実施例3〜6ではAMAとMMAとの配合量比によって、5%質量減少温度を調整することができ、所望の特性を得ることができることがわかる。特に、実施例4〜6では、5%質量減少温度が300℃以上である耐熱分解性の高い環構造含有共重合体が生成されていることが確認された。
また参考例の結果から、AMA単独重合体(ホモポリマー)の耐熱分解性は高いことが分かるが、例えば実施例5〜6のようにMMAとAMAとの共重合体としても、AMAホモポリマーの場合とほぼ同等の耐熱分解性を示すことが分かる。化学分野の技術常識では、ホモポリマーとすれば、それを構成するモノマー由来の作用効果を最大限に発揮できるものの、他のモノマーとの共重合体とすると、当該作用効果は、他のモノマーの含有割合等に比例して低減されると考えるのが通常である。しかし、参考例及び実施例の結果から、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに他の重合性モノマーを共重合させても、これらのジエン系モノマー由来の環構造に起因する耐熱分解性を損なうことなく充分に発揮できたことが確認されたため、当該効果は、従来技術からの予測を遥かに超える有利な効果であるといえる。
【0097】
実施例7
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した反応器に、モノマーとして30部のAMA及び270部のMMA、重合溶媒として250.8部のMEKを仕込み、これに窒素を通じつつ、還流がかかるまで昇温した後、0.045部のt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス575、以下「L575」と略す。)を4.5部のMEKに溶解させたものを添加し、重合を開始した。L575添加5分後に、0.24部のL575と47.8部のMEKの混合物の滴下を開始し、8時間かけて滴下した。L575滴下開始2時間後にMEKの滴下を開始し、4時間かけて滴下した。L575滴下終了2時間後に冷却し、重合反応を終了した。分析結果を表3に示す。
また、再沈殿により得られた共重合体の白色粉末を用い、JIS K7210(1999年)に基づき、試験温度240℃、荷重10kgでメルトフローレート(MFR)を測定したところ、5.6g/10分であった。更に、プレス成形機を用い、共重合体の白色粉末のプレス成形を行い(成形温度250℃)、170μm厚のフィルムを作製した。得られたフィルムは無色透明で可とう性が良好であった。
【0098】
実施例8
モノマーとして30部のAMA、30部のフェニルマレイミド(PMI)、240部のMMAを用いたこと以外は、実施例7と同様にして重合反応を行った。分析結果を表3に示す。
また、再沈殿により得られた共重合体の白色粉末のプレス成形を行い(成形温度250℃)、170μm厚のフィルムを作製した。得られたフィルムは無色透明で可とう性が良好であった。
【0099】
実施例9
モノマーとして30部のAMA、90部のα−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル(MHMA)、180部のMMAを用いたこと以外は、実施例7と同様にして重合反応を行った。重合終了後に、ラクトン環化触媒としてリン酸ステアリル0.6部を添加し3時間還流した。更に、オートクレーブに中身を移し、200℃で1時間加熱し、ラクトン環化を完結させた。分析結果を表3に示す。
また、再沈殿により得られた共重合体の白色粉末のプレス成形を行い(成形温度250℃)、170μm厚のフィルムを作製した。得られたフィルムは微黄色透明で可とう性が良好であった。
【0100】
【表3】

【0101】
表3の実施例7に示すように、AMAとMMAとの組成比を10/90とした場合でも、上述した比較例2で得た重合体(MMA単独重合)よりも、5%質量減少温度を著しく高めることができ、耐熱分解性に優れることが分かる。また、実施例8及び9で得た重合体は、AMA及びMMAに更に他のモノマーを併用させた三元系共重合体であるが、AMAの配合量が同一の場合、実施例7で得たAMAとMMAとの二元系共重合体に比較して更に耐熱分解性を向上させることが可能になることが分かる。
更に実施例7〜9より、本発明の環構造含有重合体を用いるとフィルムへの成形加工が容易であり、しかも得られたフィルムは透明で可とう性が良好であるため、本発明の環構造含有共重合体は、熱可塑用途に特に有用なものであり、光学材料等に好適に適用できることが分かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含む構成単位を有することを特徴とする環構造含有共重合体。
【請求項2】
前記環構造含有共重合体は、(メタ)アクリル系化合物、及び/又は、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を含むことを特徴とする請求項1に記載の環構造含有共重合体。
【請求項3】
前記1,6−ジエン−2,カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含む構成単位は、下記式(1)及び/又は(2):
【化1】

(式中、Rは、同一若しくは異なって、水素原子又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。X、Y及びZは、同一若しくは異なって、メチレン基又は酸素原子である。ただし、X、Y及びZのうち少なくとも1つは酸素原子である。)で表されるものであり、
前記1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含む構成単位は、下記式(3)及び/又は(4):
【化2】

(式中、Rは、同一若しくは異なって、水素原子又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。X及びYは、同一若しくは異なって、メチレン基又は酸素原子である。ただし、X及びYのうち少なくとも1つは酸素原子である。)で表されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の環構造含有共重合体。
【請求項4】
前記環構造含有共重合体は、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを含むジエン系モノマーを必須として環化重合して得られる環構造含有共重合体であり、
該環化重合は、重合性のモノマー100質量%に対して、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーの割合が5〜99質量%で重合するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の環構造含有共重合体。
【請求項5】
前記環構造含有共重合体は、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーと、他の重合性モノマーと、を極性溶媒を必須とする重合溶媒に溶解させて環化重合したものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の環構造含有共重合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の環構造含有共重合体を必須とすることを特徴とする環構造含有共重合体組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の環構造含有共重合体を製造する方法であって、
該製造方法は、1,6−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5−ジエン−2−カルボン酸エステルモノマーを必須とする単量体成分を重合溶媒中で環化重合する工程を含むことを特徴とする環構造含有共重合体の製造方法。






【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−37549(P2010−37549A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157632(P2009−157632)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】