説明

環状アルキレンイミンの製造方法

【課題】簡便な製造装置を使用して任意の生産に対応が可能な環状アルキレンイミン、及び重水素化された環状アルキレンイミンの製造方法を提供する。
【解決手段】軽水又は重水溶液中でルテニウム系触媒の存在下に、主鎖を形成しているアルキレン基の炭素数が4〜6であるα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させる環状アルキレンイミンの製造方法、及び、重水溶液中でルテニウム系触媒の存在下に、主鎖を構成するアルキレン基の炭素数が4〜6であるα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させて得られる、重水素化された環状アルキレンイミンが、複素環の主鎖を形成している炭素原子に結合している、水素原子と重水素原子中の重水素原子の割合([重水素原子(原子数)/(水素原子+重水素原子)(原子数)]×100(%))が50%以上であることを特徴とする、環状アルキレンイミンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主鎖を形成しているアルキレン基の炭素数が4〜6であるα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させる環状アルキレンイミン、及び重水素化された環状アルキレンイミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状アルキレンイミン及びその誘導体は、工業原料の他、医薬、農薬合成中間体として有用な化合物である。5員環の環状アルキレンイミンであるピロリジンを脱水素して得られるピロールは、導電性高分子ポリピロールの原料であり、またピロリジンは、化学蒸着する際の助剤としても用いられる。
また、ピロリジン誘導体は、血管攣縮の治療剤、抗腫瘍剤、細菌又はウイルス感染症と関連する神経変性の治療等に研究開発が行われている。6員環であるピペリジン誘導体は、生理活性物質として医薬品等に利用されており、また掻痒抑制作用、タキキニン受容体拮抗作用等を有するものがあることから医薬品等に研究開発が行われている。7員環であるホモピペリジンは、経口投与可能で活性化血液凝固第X因子を良好かつ選択的に阻害する、出血リスクの少ない血液凝固、血栓、塞栓に起因する疾病の治療に有用な化合物及び該化合物を含む医薬組成物等に研究開発が行われている。
【0003】
環状アルキレンイミンの製造方法として、以下の方法が知られている。
下記非特許文献1、2には、テトラヒドロフランとアンモニアとを、それぞれアルミナ触媒、ゼオライト触媒を用いて反応させ、5員環であるピロリジンを製造する方法が開示されている。
下記非特許文献3には、1,5−ペンタンジオールとアンモニアとをγ−アルミナまたはシリカアルミナ触媒を用いて反応させ、6員環であるピペリジンを製造する方法が開示されている。
また、下記特許文献1、2には、テトラヒドロフランとアンモニアとを、それぞれγ−アルミナ触媒、ホウ酸で処理したγ−アルミナ触媒の存在下に過剰のアンモニアを用いてピロリジンを製造する方法が開示されている。
【0004】
特許文献3には、テトラヒドロフランを出発原料としたピロリジンを製造する方法として、テトラヒドロフランとアンモニアとを気相において接触的に反応させてピロリジンを製造するに際し、アルミナに対するシリカモル比が20以上であるペンタシル型の結晶性アルミノシリケートを触媒として用いることが開示されている。
特許文献4には、環状エーテルと、アンモニア又は一級アミンとを固体酸触媒の存在下に気相で反応させて環状アルキレンイミンを製造するに当たり、反応原料と反応生成物の各分圧の合計圧力で0.5kg/cm以上の加圧下でおこなうことが開示されている。特許文献5には1,4−アルカンジオールとアンモニアとを、γ−アルミナ、シリカ−アルミナ、又はゼオライト触媒の存在下に気相接触反応を行う、環状アルキレンイミンの製造方法が開示されている。特許文献6には、1,4−アルカンジオール及び/又は環状エーテルと、アンモニア又はアルキルアミンを、アルミナにチタン及び/又はランタンを坦持した触媒の存在下に気相接触反応を行う、環状アルキレンイミンの製造方法が開示されている。
【0005】
また、環状アルキレンイミンは、例えば医薬、農薬、機能性材料等の原料、合成中間体として有用な化合物であるので、重水素化された環状アルキレンイミンは、化学反応の反応メカニズムの解明、分析用トレーサー、医薬の有効性調査、また生物の物質代謝の調査解明等にも有用である。
【0006】
【特許文献1】米国特許第2,525,584号明細書
【特許文献2】特公昭43−19940号公報
【特許文献3】特開平01−268681号公報
【特許文献4】特開平03−014570号公報
【特許文献5】特開平10−237054号公報
【特許文献6】特開2000−302771号公報
【非特許文献1】Chemical Abstracts, 32巻,1938年,p.548
【非特許文献2】Journal of Catalysis, 35巻,1974年,p.325−329
【非特許文献3】有機合成化学 第37巻,第10号,1997年,p.839−841
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1の方法では、原料テトラヒドロフランの反応転化率と選択率が十分でなく、また非特許文献2の方法は、工業的な製造技術としては反応転化率が十分でなく、非特許文献3の方法は、ピペリジン収率が37%程度であり、工業的な製造技術として十分でない。
特許文献1に記載の方法では、反応転化率と選択率に改良の余地があり、特許文献2に記載の方法では、反応転化率を向上させるために反応温度を上昇させると選択率が低下するという問題がある。特許文献3に記載の方法では、主原料のテトラヒドロフラン(THF)に対し過剰のアンモニア(THFに対し4〜10モル倍)が必要であり、良好な収率を得るには反応温度を425〜450℃程度の高温にすることが必要で、更に気相反応であるのでW/F、NH/THF等の反応条件に制約がある。
【0008】
特許文献4は、気相反応で過剰のアンモニア(THFに対し6〜20モル倍)が必要で反応ゾーンにおける空間速度を一定にしなければならないという制約がある。特許文献5は、気相反応で1,4−ブタンジオールに対し過剰のアンモニア(1,4−ブタンジオールに対し1〜30モル倍)が必要でピロリジンの選択率がそれほど高くないという問題がある。特許文献6は、気相反応で過剰のアンモニア(THFに対し2〜20モル倍)が必要で反応ゾーンにおける空間速度を一定にしなければならないという制約がある。また、上記特許文献4〜6に記載の製造方法は、いずれもアンモニアを使用するので反応後の未反応アンモニア処理が必要であり、また高温加熱(350〜450℃程度)が必要な気相連続反応装置を用意する必要がある。従って、簡便な製造装置を使用して任意の生産量に対応が可能な環状アルキレンイミンの製造方法の確立が望まれている。また、医薬、農薬、分析用トレーサー、機能性材料等の原料、合成中間体として有用な化合物である重水素化された環状アルキレンイミンを得るために、環状アルキレンイミンの複素環の主鎖を形成している炭素原子に結合している水素原子を重水素原子で直接置換することは困難であり、このような位置が重水素化された環状アルキレンイミンの有効な製造方法は報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、比較的簡便な製造装置を使用して、環状アルキレンイミンの工業的な製造技術の確立を目的として鋭意研究を重ねた結果、α,ω−ジアミノアルカンを原料として選択し、また触媒としてルテニウム系触媒を選択し、反応溶媒として軽水、重水溶液を使用して環化反応を行うことにより工業的に効率よくそれぞれ環状アルキレンイミン、重水素化された環状アルキレンイミンを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、軽水又は重水溶液中でルテニウム系触媒の存在下に、主鎖を形成しているアルキレン基の炭素数が4〜6であるα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させる環状アルキレンイミンの製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明においては更に下記(2)ないし(6)に記載の態様とすることができる。
(2)前記ルテニウム系触媒におけるルテニウムが活性炭、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、及びヒドロキシアパタイトから選択された1種又は2種以上からなる担体に担持されている。
(3)前記環化反応において、前記ルテニウム系触媒、並びに助触媒としてアルミニウム、亜鉛、マグネシウム、及びカルシウムから選択された1種又は2種以上を使用する。
(4)前記環化反応が反応温度100〜300℃で行われる。
【0011】
(5)重水溶液中で前記ルテニウム系触媒の存在下に、主鎖を構成するアルキレン基の炭素数が4〜6であるα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させて得られる、重水素化された環状アルキレンイミンが、複素環の主鎖を形成している炭素原子に結合している、水素原子と重水素原子中の重水素原子の割合([重水素原子(原子数)/(水素原子+重水素原子)(原子数)]×100(%))が50%以上である。
(6)重水溶液中で前記ルテニウム系触媒の存在下に、主鎖を構成するアルキレン基の炭素数が5又は6のα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させて得られる、重水素化された環状アルキレンイミンが、イミノ基に対して複素環の主鎖を形成しているα位の炭素原子に結合している水素原子と重水素原子中の重水素原子の割合([重水素原子(原子数)/(水素原子+重水素原子)(原子数)]×100(%))が80%以上であり、前記イミノ基に対して複素環の主鎖を形成しているβ位、又はβ及びγ位の炭素原子に結合している水素原子と重水素原子中の重水素原子の割合([重水素原子(原子数)/(水素原子+重水素原子)(原子数)]×100(%))が60%以上である。
【発明の効果】
【0012】
上記(1)ないし(6)に記載した本発明の環状アルキレンイミンの製造方法は、それぞれ下記(i)ないし(vi)に記載する効果を有する。
(i)上記(1)に記載した発明において、反応溶媒に軽水又は重水溶液を使用してルテニウム系触媒の存在下に環化反応を行うことにより、従来提案されている気相反応と比較してより低温で反応を行うことが可能であり、液相反応であるため反応制御が容易であり、またα,ω−ジアミノアルカンから環状アルキレンイミンを高収率で得ることができる。更に、反応系にアンモニアガス、水素ガス等の添加が不要であり、簡便な回分式の製造装置を使用して工業的に環状アルキレンイミンを任意の量生産することが可能である。
(ii)上記(2)に記載した発明おいて、環化反応に使用する、ルテニウムを担体に担持させたルテニウム系触媒は軽水又は重水溶液中で高い触媒活性を有しているので、ルテニウム系触媒の存在下にα,ω−ジアミノアルカンの環化反応を行うことにより、高い反応転化率及び選択率で環状アルキレンイミンを得ることができる。
又、ルテニウムを担体に担持させた粉末状又は粒状のルテニウム系触媒を使用すると、反応終了後にろ過等により反応生成液から触媒の除去が容易である。
(iii)上記(3)に記載した発明において、環化反応に触媒としてルテニウム系触媒に、更にアルミニウム等の助触媒を使用することにより、同一反応温度においても反応転化率が顕著に向上するので、反応時間を大幅に短縮することが可能になる。
【0013】
(iv)軽水又は重水溶液中でルテニウム系触媒の存在下にα,ω−ジアミノアルカンを環化反応して環状アルキレンイミンを製造する場合には、上記(4)に記載する反応温度100〜300℃で好適に行うことが可能であるので、前記特許文献1〜6で開示された気相での接触反応における反応温度350〜450℃と比較して低温であるので工業的に有利である。
(v)従来、環状アルキレンイミンの複素環を形成している炭素原子に結合している水素原子を重水素原子で置換することは困難であったが、反応溶媒として、重水溶液を使用してルテニウム系触媒の存在下に、α,ω−ジアミノアルカンを環化反応させる、上記(5)に記載した発明により、極めて容易に複素環を形成している炭素原子に結合している水素原子が重水素原子で置換された環状アルキレンイミンを製造することが可能である。
(vi)従来環状アルキレンイミンのイミノ基に対して主鎖を形成しているβ位及びγ位の炭素原子に結合している水素原子を重水素原子で置換するのは困難であったが、上記(6)に記載した製造方法により、前記β位及びγ位の炭素原子に結合している水素原子が重水素原子で置換された環状アルキレンイミンの製造が容易に可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成について詳述する。
本発明の「環状アルキレンイミンの製造方法」は、軽水又は重水溶液中でルテニウム系触媒の存在下に、主鎖を形成しているアルキレン基の炭素数が4〜6であるα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させることを特徴とする。
【0015】
(1)反応物のα,ω−ジアミノアルカン
本発明の「環状アルキレンイミンの製造方法」は、複素環を構成する炭素原子が4〜6である環状アルキレンイミンの製造を目的とするので、出発原料である、反応物に使用するα,ω−ジアミノアルカンは、目的物質である環状アルキレンイミンに対応させた化合物を選択する必要がある。
すなわち、本発明における反応物は、主鎖を構成するアルキレン基の炭素数が4〜6であるα,ω−ジアミノアルカンであればよく、該主鎖を構成するアルキレン基に結合している水素原子が他の原子又はアルキル基等で置換されていない1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、及び1,6−ジアミノヘキサンの他に更に該水素原子が他の原子又はアルキル基等で置換されているもの、又はこれらの混合物のいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
例えば、主鎖を構成するアルキレン基の炭素数が4の場合には、前記置換基は、該アルキレン基においてイミノ基に対して、α位とβ位の炭素原子に結合している水素原子がそれぞれ独立にメチル基又はエチル基で置換されているものを使用することができる。
【0016】
また、主鎖を構成するアルキレン基の炭素数が5又は6の場合には、前記置換基は、該アルキレン基においてイミノ基に対して、α位、β位、及びγ位の炭素原子に結合している水素原子がそれぞれ独立にメチル基又はエチル基で置換されているものを使用することができる。
好ましいα,ω−ジアミノアルカンは、主鎖を形成しているアルキレン基の炭素原子に結合している水素原子が未置換のもの、又は該水素原子の一部がそれぞれ独立にメチル基又はエチル基で置換されているものである。
アルキレン基の炭素原子に結合している水素原子が未置換のもの、又は該水素原子の一部がそれぞれ独立にメチル基又はエチル基で置換されている場合には、副反応を少なくして、比較的短時間で目的の環状アルキレンイミンを高収率で得ることができる。特に好ましいのは、前記主鎖を形成しているアルキレン基の炭素原子に結合している水素原子が未置換のものである。
【0017】
(2)反応生成物の環状アルキレンイミン
反応物として主鎖を構成するアルキレン基の炭素数が4、5、6であるα,ω−ジアミノアルカンを使用すれば、本発明の環化反応で得られる環状アルキレンイミンとして、複素環を構成する炭素数がそれぞれ4、5、6の環状アルキレンイミンが得られる。
本発明において、上記主鎖を構成するアルキレン基には、該アルキレン基の炭素原子に結合している水素原子の一部がアルキル基等で置換されている場合には、得られる反応生成物もこれらのアルキル基等を有する環状アルキレンイミンが得られる。
尚、主鎖を構成するアルキレン基の炭素原子が上記アルキル基等で置換されていない場合には、複素環を構成する炭素数が4、5、6の環状アルキレンイミン名は、それぞれ、5員環のピロリジン(別名:テトラヒドロ-1H-ピロール)、6員環のピペリジン(別名:ヘキサヒドロピリジン、又はペンタメチレンイミン)、7員環のホモピペリジン(別名:ヘキサメチレンイミン)である。上記環状アルキレンイミンの中で商業的に特に重要であるのは、医薬、農薬の原料中間体、及び導電性高分子原料であるピロリジンである。
【0018】
(3)ルテニウム系触媒
本発明の環状アルキレンイミンの製造方法において、α,ω−ジアミノアルカンから環状アルキレンイミンを高収率で得ることを可能にならしめたのは、触媒としてルテニウム系触媒と、反応溶媒として軽水又は重水溶液を選択したことにある。一般に、ルテニウム触媒は高分散性で熱安定性にも優れていることが知られており、カルボニル基の水素化、芳香環や複素環の水素化等に用いられている。
本発明のルテニウム系触媒には、活性炭、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト等から選択された1種又は2種以上からなる担体にルテニウムが担持されている触媒(担持型触媒)、更に金属ルテニウム微粒子を担体に担持させない非担持ルテニウム触媒(非担持型触媒)も含まれるが、前記担持型触媒が好ましい。
ルテニウムの担体への担持方法としては、触媒活性を有するように担持すれば特に制限はなく、例えば、ルテニウム化合物が溶解している水性液に担体を浸漬して攪拌下に溶媒を蒸発させて固定化する蒸発乾固法、イオン交換法などの含浸担持法、乾燥状態担体に触媒活性成分液を噴霧する方法等を用いることができる。前記ルテニウム化合物としては、ルテニウムのハロゲン化物、水酸化物、硝酸塩、更にアセチルアセトナート錯体等が例示される。これらの中でルテニウム(3価)の塩化物又はアセチルアセトナート錯体が好ましい。
【0019】
ルテニウム系触媒において、触媒活性成分としてルテニウム単独以外に他の金属成分を併用することもできる。このような金属成分の例として、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン、銅等が例示できる。金属成分の原料の化合物としては上記したルテニウム化合物の場合と同様である。
本発明においては、上記ルテニウム化合物を含有する水性液とし、これを原料としてルテニウム系触媒を調製することができるが、該水性液には、アルコールが溶媒として一部含有されていてもよい。水性液中のルテニウム化合物の含有量に特に制限はなく、100ppm程度から飽和溶解濃度の範囲とすることができる。
尚、前記非担持型触媒を調製する場合には、上記のルテニウム化合物を含有する水性液を蒸発又は沈殿処理して得る。即ち、水性液の状態で蒸発乾固することもできるが、水性液にアルカリなどを添加混合して、ルテニウム成分を沈殿物として回収することもできる。水性液中にルテニウム以外の助触媒成分である化合物を含有させる場合にも同様の方法が採用される。
【0020】
ルテニウム系触媒において、ルテニウムの担持量は、ルテニウム系触媒中で0.01〜15重量%、好ましくは0.1〜10重量%である。また、前記したルテニウム以外の金属成分は、ルテニウム化合物と同時に担持させてもよいし、予め担持した後にルテニウムを担持してもよいし、予めルテニウムを担持した後に担持してもよい。
上記方法で調製された触媒又は触媒前駆体は必要に応じて還元して活性化することができる。還元方法としては、水素ガス、蟻酸、蟻酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等による化学還元法が用いられる。このうち、好ましいのは水素ガスによる接触還元、又は蟻酸もしくは蟻酸アンモニウムによる還元である。水素ガスによる接触還元を行う場合には水素含有ガス雰囲気下で、150〜500℃程度の温度条件下で前記触媒前駆体を還元により活性化する。
ルテニウム系触媒は、粉末、または水分を50質量%程度含有するウエットペースト等として市販されており、本発明の環化反応にはこれらの市販品も使用することができる。
尚、環状アルキレンイミンの製造の際に反応終了後、ろ過等により容易に反応系から回収され、再使用することが可能である。
【0021】
(4)助触媒
本発明の環状アルキレンイミンの製造方法において、上記したルテニウム系触媒に助触媒を併用することにより、反応転化率及び反応選択率、特に反応転化率を更に向上することができ、その結果反応時間を短縮することが可能になる。
ルテニウム系触媒に併用可能な助触媒として、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム等が例示できる。これらの助触媒の形状はとくに制限はなく、粒子状、リボン状等の形状で反応系に添加することができる。助触媒を粒子状で添加する場合にはその粒径が1〜1000μmの範囲にあるものが好ましい。
反応系に添加された上記助触媒は、軽水又は重水溶液中で高温に加熱されると軽水又は重水と化学反応して、水酸化物を生成すると共に水素又は重水素を発生するので、発生する該水素又は重水素は反応系において、軽水又は重水溶液中に溶解して存在し環化反応を促進させるものと推定される。
【0022】
すなわち、α,ω−ジアミノアルカンとして1,4-ジアミノブタンを使用して、ルテニウム系触媒存在下に軽水溶液中で環化反応を行うと、反応初期に1−ピロリンが相対的に多く生成することが観察されるが、アルミニウム等の助触媒を使用すると、1−ピロリンは反応初期においても観察されない。このことから、反応系においてアルミニウムが軽水又は重水と反応して発生した水素又は重水素が1−ピロリンの水素添加に消費され、ピロリジンを生成しているものと推定される。
また、原料として1,5-ジアミノペンタン、及び1,6-ジアミノヘキサンを使用した場合には、複素環の一部に二重結合が形成された中間体は観察されないか又は極めて少量しか観察されないので、これらの場合にはアルミニウムと、軽水又は重水から発生する水素又は重水素は異なる反応経路において水素添加に消費されている推定される。
上記したように、反応系においてアルミニウム等の助触媒は重水と反応して、重水素が発生し、該重水素は環状アルキレンイミンを生成する反応経路で中間の二重結合に付加することが想定されるので、重水素化された環状アルキレンイミンを製造する際に助触媒を使用すると有利である。
尚、反応に使用した助触媒は、反応終了後に粉末状の金属水酸化物等としてろ過等により反応系から容易に除去可能である。
【0023】
(5)反応溶媒
本発明の環状アルキレンイミンの製造方法において、α,ω−ジアミノアルカンの環化反応は軽水又は重水溶液中で行われるのが特徴である。ルテニウム系触媒は軽水又は重水溶液で活性化される場合があること、及び本発明の環化反応が軽水又は重水溶液中で脱水素、水和、脱水、脱NH等から選択されるいくつかの工程を経て環化反応が選択的に進行していく反応メカニズムが想定されること等から、本発明の環化反応は軽水又は重水溶液中で行なわれることが好ましい。
重水素化されない環状アルキレンイミンの製造目的の場合には、軽水溶液中で環化反応が行なわれ、重水素化される環状アルキレンイミンの製造目的の場合には、重水溶液中で環化反応が行なわれる。尚、軽水を使用する場合に本発明の環化反応に支障をきたさない範囲で炭素数1〜5程度のアルコールを含有させることもできる。
反応溶媒として、軽水又は重水溶液のいずれを選択してもほぼ同じ条件で環化反応を行うことができるが、軽水の蒸気圧は重水の蒸気圧より多少高いので、同一反応温度においても軽水を使用した場合の反応圧は多少高めとなる。
【0024】
(6)反応条件
本発明の環化反応は、軽水又は重水溶液中での液相反応であり、加熱撹拌下に行われるのが望ましい。以下に好ましい反応条件について記載する。
(i)反応溶液中の反応物濃度
環化反応溶液中の反応物であるα,ω−ジアミノアルカンの軽水溶液中の濃度は、特に制限はないが実用性の点から軽水(又は重水)との重量比([α,ω−ジアミノアルカン/軽水(又は重水)](重量比))で1/10〜1/30程度が好ましい。
(ii)反応物に対する触媒量及び助触媒の添加量
反応系における反応物であるα,ω−ジアミノアルカンに対するルテニウム系触媒の添加量は、ルテニウム系触媒中のルテニウムのモル比([ルテニウム/反応物](モル比))で、0.005〜0.2が好ましく、0.01〜0.1がより好ましい。触媒量が前記モル比で0.005未満では反応速度が遅くなり、一方0.2を超える量加えても反応収率等は殆ど改善されない。
反応系における前記反応物に対する助触媒添加量は、モル比([助触媒/反応物](モル比))で1.5〜10が好ましく、2〜5がより好ましい。
前記反応物に対する助触媒の添加量が前記モル比で1.5未満の場合には助触媒添加による反応の促進が十分でなく、10を超えると必要量以上の水素が発生して、反応系の圧力を高くするおそれがある。
【0025】
(iii)反応温度と反応圧
反応温度は100〜300℃が好ましい。反応温度が前記100℃未満では反応速度が遅くなり、その結果反応に長時間要するか又は反応転化率が低下する。一方反応温度が前記300℃を超えると、反応速度は増加するが副反応が増加して反応選択率が低下するおそれがある。より好ましい反応温度は、130〜200℃である。
前記したように気相接触反応による環状アルキレンイミンは反応温度350〜450℃程度の高温で行われるのに対し、本発明はより低温で反応を行うことができるので工業的に有利である。反応圧は、反応温度における溶媒に使用した軽水又は重水の蒸気圧に近い圧力になるが、助触媒を過剰に添加すると、圧力がより高くなる場合がある。
【0026】
(iv)反応時間
好ましい反応時間は、反応物であるα,ω−ジアミノアルカンの主鎖を構成するアルキレン基の炭素数、該アルキレン基の炭素原子に結合している水素原子が置換された他の原子又はアルキル基等、反応温度、反応物に対する触媒、助触媒の添加割合等の因子によって変動する。
例えば、上記アルキレン基の炭素数が4の場合には、該炭素数が5又は6の場合よりもより長い反応時間が必要となる傾向がある。実用上の好ましい環化反応の時間は、反応により生成する環状アルキレンイミンの経時変化をチェックすることにより決定することができるが、α,ω−ジアミノアルカンの主鎖を構成するアルキレン基の炭素原子に結合している水素原子がアルキル基等で置換されていない場合には30〜120分程度が好ましく、主鎖を構成するアルキレン基の炭素原子に結合している水素原子がアルキル基等で置換されている場合にはより長い反応時間が必要になる傾向がある。
【0027】
(7)反応終了後の反応生成物の処理
反応修了後、反応液を冷却し、反応生成液中のルテニウム系触媒、また助触媒を使用した場合には該触媒と助触媒から生成した金属水酸化物からなる固形分をろ過により除去した後に蒸留により精製回収、又は目的物が液体の場合には例えばKCOを飽和濃度まで添加した後に有機溶剤により抽出して回収した後に該溶剤を蒸発除去して環状アルキレンイミンを得ることができる。
【0028】
(8)重水素化された環状アルキレンイミンの製造方法
重水素化された環状アルキレンイミンを製造する場合には、重水素溶液中でルテニウム系触媒の存在下に、主鎖を構成するアルキレン基の炭素数が4〜6であるα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させる。この場合に重水素化された環状アルキレンイミンが生成するのは、環化反応が進行する際に形成される反応中間体と反応溶媒である重水との間で水素原子と重水素原子との交換反応も進行するためと推定される。
尚、重水素化された環状アルキレンイミンを製造する場合に、アルミニウム等の助触媒を使用すると、反応系で重水素が発生するので、アルミニウム等の助触媒の使用は特に好ましい。
反応時間を長くすることにより、重水素原子の置換率は平衡に到達すると推定されるが、必要以上長い時間反応させると、副反応も同時に進行して目的物の収率が低下するおそれがある。
従って、商業的な生産により重水素化された環状アルキレンイミンを製造する場合には、予め反応系における重水素化された環状アルキレンイミンの生成量の経時変化を確認して、最大収率が得られる反応時間を選択することが望ましい。
【0029】
上記したように、重水溶液中でルテニウム系触媒の存在下に、主鎖を構成するアルキレン基の炭素数が4〜6であるα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させて、複素環の主鎖を形成している炭素原子に結合している、水素原子と重水素原子中の重水素原子の割合([重水素原子(原子数)/(水素原子+重水素原子)(原子数)]×100(%))が好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上の重水素化された環状アルキレンイミンを製造することが可能である。
また、上記したように、重水溶液中でルテニウム系触媒の存在下に、主鎖を構成するアルキレン基の炭素数が5又は6のα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させて、環状アルキレンイミンのイミノ基に対してα位の炭素原子に結合している水素原子と重水素原子中の重水素原子の割合([重水素原子(原子数)/(水素原子+重水素原子)(原子数)]×100(%))が好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上であり、前記イミノ基に対してβ位、又はβ及びγ位の炭素原子に結合している水素原子と重水素原子中の重水素原子の割合([重水素原子(原子数)/(水素原子+重水素原子)(原子数)]×100(%))が好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上である重水素化された環状アルキレンイミンを製造することが可能である。
上記重水溶液中でルテニウム系触媒の存在下に、前記α,ω−ジアミノアルカンを環化反応させる場合に、ルテニウム系触媒に前記した助触媒を併用することが好ましく、反応温度は、上記したように100〜300℃が好ましく、130〜200℃がより好ましい。
【実施例】
【0030】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
1.実験装置
内容積約10mlのガラス製耐圧容器を使用した。
2.実施例、比較例で使用した原料、触媒、助触媒、重水等
(1)実施例、比較例で使用したα,ω−ジアミノアルカン
1,4−ジアミノブタン (東京化成工業(株)製、純度98%(GC))
1,5−ジアミノペンタン (東京化成工業(株)製、純度95%(GC))
2−メチル、1,5−ジアミノペンタン (東京化成工業(株)製、純度98%(GC))
1,6−ジアミノヘキサン (東京化成工業(株)製、純度99%(GC))
(2)ルテニウム系触媒
和光純薬工業(株)製、活性炭担持ルテニウム触媒、(ルテニウム担持量:5質量%、)、商品名:ルテニウム‐活性炭素
(3)白金/活性炭触媒
和光純薬工業(株)製、活性炭担持白金触媒(白金担持量:5質量%、)、商品名:白金‐活性炭素
(4)ロジウム/活性炭触媒
和光純薬工業(株)製、活性炭担持ロジウム触媒(ロジウム担持量:5質量%、)、商品名:ロジウム‐活性炭素
(5)助触媒
和光純薬工業(株)製、粉末状アルミニウム(粒径:425μm以下)
(6)重水
純度:99.9質量%
【0031】
3.分析方法
(1)反応溶媒として軽水溶液を使用した場合
反応生成物は、GC法(検出器:fid)、及びGC−MSにより分析した。
(2)反応溶媒として重水溶液を使用した場合
分析用サンプルをCDCl相中に溶解させて、GC法(検出器:fid)、GC−MS、及びNMR(日本電子(株)製、型式:JEOLGSX270核磁気共鳴装置)により分析を行った。
尚、重水素化された環状アルキレンイミンをNMRにより分析を行う場合には、反応で生成した環状アルキレンイミンを予めアセチル化してから分析に供した。該NMRによる重水素化率の測定は、アセチル基中のメチル基のピークを基準値として計算により求めた。
【0032】
4.反応収率等
反応成績、重水素化率等は、下記の計算式による。
反応物であるα,ω−ジアミノアルカンを「DMA」と略記し、反応生成物である環状アルキレンイミンを「CAI」と記載する。
(1)反応溶媒として軽水溶液を使用した実施例1〜8、及び比較例1、2について
(i)反応転化率(%)
[1−(反応生成物中のDMA(モル))/(供給したDMA(モル))]×100
(ii)相対収率(%)
GC分析により、各成分のピーク面積比から算出した。
【0033】
(2)反応溶媒として重水溶液を使用した実施例9〜12について
尚、下記式中、Hは水素原子、Dは重水素原子を示す。
(i)重水素化された環状アルキレンイミンの生成収率(モル%)
[重水素化された反応生成物中のCAI(モル)]/(供給したDMA(モル))]×100
(ii)重水素化率(%)
[1−(重水素化CAI中のC-H結合の水素原子数)/(重水素化CAI中のC-H結合の水素原子数+C-D結合の重水素原子数)]×100
(iii)重水素化CAI中の各結合位(α位、β位、及びγ位)の重水素化率(%)
[1−(各C-H結合位の水素原子数)/(各C-H結合位の水素原子数+各C-D結合位の重水素原子数)]×100
【0034】
[実施例1]
反応物として1,4-ジアミノブタン100mg、ルテニウム/活性炭触媒(以下、Ru/Cと記すことがある)50mg、アルミニウム粉末(以下、Alと記すことがある)30mg、軽水溶媒として水2ml(脱イオンしたもの)、及びフッ素樹脂で被覆された撹拌用のマグネチックスタラーをガラス製耐圧容器に投入した。次に該ガラス製耐圧容器をシールした後、158℃に加熱されたオイルバス中に浸して、マグネチックスタラーで撹拌しながら、158℃で120分間反応を行った。
反応終了後、冷却して、KCOを飽和濃度まで添加し、2.5mlのジエチルエーテルにて反応生成物を抽出し、抽出された有機相をGCとGC−MSにより分析を行った。結果を表1に示す。反応転化率は99%であり、ピロリジンへの相対収率は88%であった。
【0035】
[実施例2]
反応物として1,5-ジアミノペンタン100mgを使用して反応時間を60分とした以外は実施例1に記載したと同様に反応を行った。
反応終了後、実施例1に記載したと同様の処理、及び分析を行った。結果を表1に示す。
反応転化率は99%であり、ピペリジンへの相対収率は98%であった。
【0036】
[実施例3]
反応物として1,6-ジアミノヘキサン100mgを使用して反応時間を30分とした以外は実施例1に記載したと同様に反応を行った。
反応終了後、実施例1に記載したと同様の処理、及び分析を行った。結果を表1に示す。
反応転化率は75%であり、ホモピペリジンへの相対収率は96%であった。
【0037】
[実施例4]
反応物として1,6-ジアミノヘキサン100mgを使用して反応時間を60分とした以外は実施例1に記載したと同様に反応を行った。
反応終了後、実施例1に記載したと同様の処理、及び分析を行った。結果を表1に示す。
反応転化率は99%であり、ホモピペリジンへの相対収率は95%であった。
【0038】
[実施例5]
反応物として1,5-ジアミノ,2-メチルペンタン100mgを使用して反応時間を90分とした以外は実施例1に記載したと同様に反応を行った。
反応終了後、実施例1に記載したと同様の処理、及び分析を行った。結果を表1に示す。
反応転化率は98%であり、2−メチルピペリジンへの相対収率は95%であった。
【0039】
[比較例1]
触媒として白金/活性炭触媒(以下、Pt/Cということがある)50mgを使用した以外は実施例3に記載したと同様に反応を行った。
反応終了後、実施例1に記載したと同様の処理、及び分析を行った。結果を表1に示す。
反応転化率は7%であり、ホモピペリジンへの相対収率は86%であった。
【0040】
[比較例2]
触媒としてロジウム/活性炭触媒(以下、Rh/Cということがある)50mgを使用した以外は実施例3に記載したと同様に反応を行った。
反応終了後、実施例1に記載したと同様の処理、及び分析を行った。結果を表1に示す。
反応転化率は38%であり、ホモピペリジンへの相対収率は92%であった。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から、軽水溶液中で触媒としてRu/C、及び助触媒としてAlを使用して、主鎖を形成しているアルキレン基の炭素数がそれぞれ4、5、6であるα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させると、複素環中に対応する炭素数を有する環状アルキレンイミンが高い反応転化率及び選択率で得られることが分かる。
また、触媒の種類のみを変更して他の条件を同一とした実施例3と比較例1、2を対比すると、触媒としてRu/Cを使用した実施例3は、Pt/Cを使用した比較例1、及びRh/Cを使用した比較例2よりも、反応転化率が顕著に高く、また選択率も優れていることが確認された。
【0043】
[実施例6]
反応物として1,4-ジアミノブタン100mg、Ru/C 50mg、軽水溶媒として水2ml(脱イオンしたもの)、及びフッ素樹脂で被覆された撹拌用のマグネチックスタラーをガラス製耐圧容器に投入した。次に該ガラス製耐圧容器をシールした後、158℃に加熱されたオイルバス中に浸して、マグネチックスタラーで撹拌しながら、158℃で240分間反応を行った。
反応終了後、冷却して、KCOを飽和濃度まで添加し、2.5mlのジエチルエーテルにて反応生成物を抽出し、抽出された有機相をGCとGC−MSにより分析を行った。結果を表2に示す。反応転化率は18%であり、ピロリジンへの相対収率は90%であった。
【0044】
[実施例7]
反応物として1,6-ジアミノヘキサン100mgを使用して反応時間を60分とした以外は実施例6に記載したと同様に反応を行った。
反応終了後、実施例1に記載したと同様の処理、及び分析を行った。結果を表2に示す。
反応転化率は31%であり、ホモピペリジンへの相対収率は89%であった。
【0045】
[実施例8]
反応物として1,6-ジアミノヘキサン100mgを使用して反応時間を240分とした以外は実施例6に記載したと同様に反応を行った。
反応終了後、実施例1に記載したと同様の処理、及び分析を行った。結果を表2に示す。
反応転化率は43%であり、ホモピペリジンへの相対収率は95%であった。
【0046】
【表2】

【0047】
表2から、軽水溶液中で触媒としてRu/Cを使用して、主鎖を形成しているアルキレン基の炭素数がそれぞれ4、5、6であるα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させると、助触媒を使用した実施例1〜5と比較して相対的に高い反応転化率は得られなかったが、環状アルキレンイミンがそれぞれ高い選択率で得られることが確認された。
【0048】
[実施例9]
反応物として1,4-ジアミノブタン100mg、Ru/C 50mg、Al 30mg、及び重水溶媒として重水2ml、及びフッ素樹脂で被覆された撹拌用のマグネチックスタラーをガラス製耐圧容器に投入した。次に該ガラス製耐圧容器をシールした後、150℃に加熱されたオイルバス中に浸して、マグネチックスタラーで撹拌しながら、150℃で2時間反応を行った。
反応終了後、冷却して、KCOを飽和濃度まで添加し、その一部を1mlのCDClにて反応生成物を抽出した。該CDCl抽出溶液に無水酢酸(10モル%過剰)を添加して、15分間撹拌を行った。次に、未反応の前記無水酢酸の除去と生成した酢酸を除去するために、水とNACOを加えた。CDCl相を採取して、NMR分析に供した。
他の分析用サンプルは、反応生成液にKCOを飽和濃度まで添加した後、CDClで反応生成物を抽出し、直接GCとGC−MS分析に供した。
結果を表3に示す。重水素化されたピロリジンの生成収率は46モル%であった。
尚表3中の重水素化率は、NMRによる測定値と、MS法による測定値(カッコ内に示してある。以下同じ。)を併記した。
【0049】
[実施例10]
反応物として1,5-ジアミノペンタン100mgを使用した以外は、実施例9に記載したと同様に反応を行った。反応終了後、実施例9に記載したと同様の処理、及び分析を行った。結果を表3に示す。重水素化されたピペリジンの生成収率は82モル%であった。
【0050】
[実施例11]
反応物として1,6-ジアミノヘキサン100mgを使用した以外は、実施例9に記載したと同様に反応を行った。反応終了後、実施例9に記載したと同様の処理、及び分析を行った。結果を表3に示す。 重水素化されたホモピペリジンの生成収率は66モル%であった。
【0051】
[実施例12]
反応物として1,5-ジアミノ,2-メチルペンタン100mgを使用した以外は、実施例9に記載したと同様に反応を行った。
反応終了後、実施例9に記載したと同様の処理、及び分析を行った。結果を表3に示す。
重水素化された2−メチルピペリジンの生成収率は71モル%であった。
【0052】
【表3】

【0053】
表3から、環状アルキレンイミンのイミノ基に対してα位、β位の炭素原子に結合していた水素原子はいずれも92%以上、88%以上それぞれ重水素原子しで置換されていることから、本発明の環化反応を利用した重水素置換は極めて有効であることが分かる。また、イミノ基に対してγ位の重水素置換は一般に困難であるが、実施例12においてγ位が39%重水素置換されていることは特筆すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽水又は重水溶液中でルテニウム系触媒の存在下に、主鎖を形成しているアルキレン基の炭素数が4〜6であるα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させる環状アルキレンイミンの製造方法。
【請求項2】
前記ルテニウム系触媒におけるルテニウムが活性炭、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、及びヒドロキシアパタイトから選択された1種又は2種以上からなる担体に担持されていることを特徴とする、請求項1に記載の環状アルキレンイミンの製造方法。
【請求項3】
前記環化反応において、前記ルテニウム系触媒、並びに助触媒としてアルミニウム、亜鉛、マグネシウム、及びカルシウムから選択された1種又は2種以上を使用することを特徴とする、請求項1または2に記載の環状アルキレンイミンの製造方法。
【請求項4】
前記環化反応が反応温度100〜300℃で行われることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の環状アルキレンイミンの製造方法。
【請求項5】
重水溶液中で前記ルテニウム系触媒の存在下に、主鎖を構成するアルキレン基の炭素数が4〜6であるα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させて得られる、重水素化された環状アルキレンイミンが、複素環の主鎖を形成している炭素原子に結合している、水素原子と重水素原子中の重水素原子の割合([重水素原子(原子数)/(水素原子+重水素原子)(原子数)]×100(%))が50%以上であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の環状アルキレンイミンの製造方法。
【請求項6】
重水溶液中で前記ルテニウム系触媒の存在下に、主鎖を構成するアルキレン基の炭素数が5又は6のα,ω−ジアミノアルカンを環化反応させて得られる、重水素化された環状アルキレンイミンが、イミノ基に対して複素環の主鎖を形成しているα位の炭素原子に結合している水素原子と重水素原子中の重水素原子の割合([重水素原子(原子数)/(水素原子+重水素原子)(原子数)]×100(%))が80%以上であり、前記イミノ基に対して複素環の主鎖を形成しているβ位、又はβ及びγ位の炭素原子に結合している水素原子と重水素原子中の重水素原子の割合([重水素原子(原子数)/(水素原子+重水素原子)(原子数)]×100(%))が60%以上である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の環状アルキレンイミンの製造方法。

【公開番号】特開2008−280300(P2008−280300A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126618(P2007−126618)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発・省エネルギー技術開発プログラム/革新的マイクロ反応場利用部材技術開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】