説明

環状オレフィン系付加重合体の製造方法

【解決手段】本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法は、環状オレフィン系化合物を含む単量体を、ニッケル化合物またはパラジウム化合物を含む触媒を用いて、分子量調節剤の存在下に付加重合する方法であって、単量体の総量の、80重量%以下の量の単量体を使用して重合反応を開始させる工程と、その重合反応中に単量体の残余を反応系に供給する工程とを含むことを特徴としている。
【効果】本発明によれば、分子量分布が狭く、分子量が制御され、加工性と機械的強度のバランスに優れた均質な環状オレフィン系付加重合体を、高い重合転化率で製造することができ、温度制御性に優れ、工業生産性に優れた環状オレフィン系付加重合体の製造方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系付加重合体の製造方法に関する。詳しくは、本発明は、分子量分布が狭く、分子量が制御された環状オレフィン系付加重合体を、高い重合転化率で達成することができ、工業生産に適した環状オレフィン系付加重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主に環状オレフィン系化合物に由来する構造単位から形成される重合体は、ニッケル、パラジウムなど第10族金属化合物成分を含む触媒を用いて製造でき、優れた耐熱性と透明性を示す樹脂として知られている。特にパラジウム化合物を含む特定の触媒を用いることで、高い重合活性を示すとともに優れた透明性、耐熱性、機械的強度を有する環状オレフィン系付加重合体を製造できることが報告されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0003】
また、特許文献4には加水分解性シリル基含有環状オレフィンを有し、パラジウム化合物を含む触媒を用いて得られる環状オレフィン系共重合体の架橋体が優れた耐熱性、機械強度、寸法安定性などを示すことが開示されている。ここで、かかる性能を発現するには当該環状オレフィン系共重合体の組成分布が充分に低減されていることが求められ、加水分解性シリル基含有環状オレフィンの一部を重合反応中に導入する方法および連続重合法が提案されている。しかしながら当該技術は分子量分布の狭い重合体を得る方法およびその効果に関して、あるいは重合温度を容易に制御する方法に関しては記載も示唆もしていない。また当該技術は加水分解性シリル基含有環状オレフィンの共重合体に関してのみに限定されている。
【0004】
ここで、環状オレフィン系共重合体の分子量は、溶媒への溶解性、溶液粘度、溶融挙動、機械強度などに大きく影響するため、用途や成形方法に対して最適に調節することが重要である。分子量調節方法としては、例えば1−アルケン、芳香族ビニル化合物を分子量調節剤として添加する方法が開示されており、金属−炭素結合へ二重結合の挿入と、それに続くβ−水素脱離による機構が提案されている(特許文献2、特許文献5、特許文献6)。一方、環状オレフィン系共重合体の分子量分布に関しては、従来は大きな関心が払われておらず、しばしば低分子量の成分が多く生成することがあった。重合体に含まれる低分子量成分は、機械強度や耐熱性の低下を招く事があるため、充分な低減が望まれることが多い。分子量分布に着目した例として、環状非共役ポリエンの添加による、分子量および分子量分布の制御されたノルボルネン系環状オレフィン付加重合体の製造方法が開示されている(特許文献7)。しかしながら環状非共役ポリエンは遷移金属化合物へと強固に配位し、その結果、重合活性の低下を招くことがある。
【0005】
一方、重合温度は反応速度、活性種の寿命、重合体の性質に大きく影響する。例えば重合温度が高くなりすぎると触媒が失活して充分な転化率が得られないことがあり、低すぎると生産性が極端に低下することがある。また、温度変化とともに分子量などが変化することがあり、制御幅が大きい場合には重合体の均質性が損なわれることとなる。反応温度を制御するにあたり、反応器の容量の増加による比表面積の低下は、重合系の冷却効率悪化を招くため、効果的な除熱と発熱量の抑制が重要な課題となる。工業生産における経済性および製品の品質維持のため、温度制御性に優れた環状オレフィン系付加共重合体の製造方法が望まれていた。
【0006】
しかしながら、狭い分子量分布を達成することができ、かつ、重合温度の制御が容易である、特に工業生産に適した環状オレフィン付加共重合体の製造方法の出現が望まれるが、現在までには報告されていない。
【0007】
そして、従来の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、特に高転化率とした場合に低分子量成分が多く生じるという問題があった。
【特許文献1】特開2006−52347号公報
【特許文献2】特開2005−162990号公報
【特許文献3】特開2005−213435号公報
【特許文献4】特開2005−48060号公報
【特許文献5】特表平9−508649号公報
【特許文献6】特開2003−40929号公報
【特許文献7】特開2002−212209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、特に高転化率とした場合に低分子量成分が多く生じるという問題があった。本発明者はこのような状況において鋭意検討した結果、環状オレフィン系付加重合体に含まれる低分子量成分は、環状オレフィン化合物と、分子量調節剤との反応性の差に起因するものであり、単量体に比して分子量調節剤の反応速度が極端に遅いため、消費されなかった分子量調節剤が重合後期において系中に過剰に存在してしまうためであることを見出した。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するものであって、分子量分布が狭く、分子量が制御され、加工性と機械的強度のバランスに優れた均質な環状オレフィン系付加重合体を、高い重合転化率で達成することができ、温度制御性に優れ、工業生産性に優れた環状オレフィン系付加重合体の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法は、
下記式(1)で表される環状オレフィン系化合物を含む単量体を、ニッケル化合物またはパラジウム化合物を含む触媒を用いて、分子量調節剤の存在下に付加重合する方法であって、
単量体の総量の、80重量%以下の量の単量体を使用して重合反応を開始させる工程と、
その重合反応中に単量体の残余を反応系に供給する工程と
を含むことを特徴としている。
【0011】
【化1】

【0012】
(式(1)中、A1〜A4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、あるいは炭素数1〜20の酸素原子あるいは窒素原子を含む炭化水素基、炭素数3〜12のトリアルキルシリル基、炭素数0〜12の加水分解性シリル基から選ばれた置換基であり、mは0または1である。)
また、本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、重合反応が連続重合法により行われ、重合転化率が97%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、分子量調節剤が1−アルケン化合物であることが好ましい。
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、単量体が、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンおよび炭素数1〜12のアルキル基を有する5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンよりなる群より選ばれる1種以上を合計90モル%以上含むことが好ましい。また、本発明の環状オレフィン系重合体の製造方法では、単量体が、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、および、5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンよりなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0014】
本発明の環状オレフィン系重合体の製造方法では、触媒が、下記(a)、(b)および(d)を用いて得られる触媒、あるいは、下記(c)および(d)を用いて得られる触媒であることが好ましい。
【0015】
(a)パラジウムの有機酸塩またはパラジウムのβ−ジケトネート化合物、
(b)下記式(b)で表されるホスフィン化合物、
P(R12(R2) …(b)
(式(b)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基、イソプロピル基より選ばれる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表す。)
(c)下記式(c)で表される2価パラジウムのホスフィン錯体、
Pd[P(R12(R2)]n2 …(c)
(式(c)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基、イソプロピル基より選ばれる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表し、Xは有機酸アニオンあるいはβ−ジケトネートアニオンであり、nは1または2を示す。)
(d)イオン性のホウ素化合物
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、前記ホスフィン化合物(b)が、トリシクロペンチルホスフィンまたはトリシクロヘキシルホスフィンであることが好ましい。
【0016】
本発明の環状オレフィン系付加共重合体の製造方法では、前記2価パラジウムのホスフィン錯体(c)が、パラジウムとトリシクロペンチルホスフィンとの錯体、あるいはパラジウムとトリシクロヘキシルホスフィンとの錯体であることが好ましい。
【0017】
本発明の環状オレフィン系付加共重合体の製造方法では、前記イオン性のホウ素化合物(d)が、カチオンがカルベニウムカチオンであり、アニオンがテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンまたはテトラキス(パーフルオロアルキルフェニル)ボレートアニオンである、イオン性のホウ素化合物であることが好ましい。
【0018】
また本発明の環状オレフィン系樹下重合体の製造方法では、全単量体に対して20重量%以上の割合で用いられる全ての単量体成分を、重合反応を開始させる工程と、残余をその重合反応中に供給する工程とに振り分けて供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、分子量分布が狭く、分子量が制御され、加工性と機械的強度のバランスに優れた均質な環状オレフィン系付加重合体を、高い重合転化率で達成することができ、温度制御性に優れ、工業生産性に優れた環状オレフィン系付加重合体の製造方法を提供することができる。本発明の製造方法により得られる環状オレフィン系付加重合体は、優れた透明性および耐熱性を有し、各種光学材料、電機・電子部品、医療用基材などの用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明において、重合とは、重合あるいは共重合を表し、また、単量体とは、一種の化合物からなる単量体あるいは複数の化合物からなる単量体組成物を表す。
【0021】
<単量体>
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法において用いられる単量体は、上記式(1)で表される化合物を少なくとも1種含む。上記式(1)で表される環状オレフィン化合物の具体例としては以下のものを挙げることができる。
【0022】
無置換あるいは炭化水素基置換環状オレフィン
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−オクチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ドデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5,6−ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メチル−6−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−シクロヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ベンジルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−インダニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ビニリデンビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−(1−ブテニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン、
3−メチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン、
トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン、
5,6−ベンゾビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−プロピルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−ブチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン
など。
【0023】
酸素原子あるいは窒素原子を含む炭化水素基置換環状オレフィン
5−メトキシビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−エトキシビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸エチル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸エチル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸イソプロピル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ブチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸t−ブチル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸エチル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9エン−4−カルボン酸t−ブチル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9エン−4−カルボン酸t−ブチル。
酢酸[ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イル]、
酢酸[ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−メチル−2−イル]、
プロピオン酸[ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イル]、
プロピオン酸[ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−メチル−2−イル]、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9エン−4,5−ジカルボン酸無水物、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−N−シクロヘキシル−2,3−カルボンイミド、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−N−フェニル−2,3−カルボンイミド、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−スピロ−N−シクロヘキシルスクシンイミド、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−スピロ−N−フェニルスクシンイミド。
5−[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−[(3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−[(3−オキセタニル)メトキシメチル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸(3−エチル−3−オキセタニル)メチル
など。
【0024】
トリアルキルシリル基置換環状オレフィン
5−トリメチルシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−トリエチルシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−トリイソプロピルシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン
など。
【0025】
加水分解性のシリル基置換環状オレフィン
2−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン、
2−トリエトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン、
2−メチルジメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン、
2−メチルジエトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン、
2−メチルジクロロシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン、
4−トリメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン、4−トリエトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン、4−メチルジメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン、
2−[1’ −メチル−2’,5’−ジオキサ−1’−シラシクロペンチル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン、
2−[1’,3’,4’−トリメチル−2’,5’−ジオキサ−1’−シラシクロペンチル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン、
2−[1’,4’,4’−トリメチル−2’,6’−ジオキサ−1’−シラシクロヘキシル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン
など。
【0026】
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
上記の単量体の中でも、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンおよび炭素数1〜12のアルキル基を有する5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンからなる群より選ばれる1種以上(以下「特定単量体(1)」とする)を用いることで、得られる環状オレフィン系重合体のガラス転移温度、柔軟性などを目的に応じて制御できる。また、全単量体に対する特定単量体(1)の割合を高くすることで、重合活性が向上され、その結果、脱灰工程や未反応単量体の除去工程を必ずしも必要としなくすることが可能であるため好ましく、90モル%以上とすることが特に好ましい。
【0027】
また、特定単量体(1)のなかでも5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることで、得られる環状オレフィン付加重合体が優れた成形加工性および透明性を示すものとなり、あるいは溶融成形可能なものとなるため好ましい。
【0028】
一方、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、酸無水物基、オキセタニル基、加水分解性シリル基から選ばれた官能基を有する環状オレフィンを用いることにより、得られる環状オレフィン系付加共重合体に接着性を付与し、あるいは架橋基を導入することができる。これらの官能基を有する環状オレフィン化合物の割合が高いと、重合活性が低下し生産性が悪化する場合があるため、その範囲は、全単量体に対して10モル%以下、好ましくは7モル%以下、さらに好ましくは4モル%以下に設定されることが望ましい。
【0029】
<重合触媒>
本発明で用いられる重合触媒は、上記単量体を付加共重合し得るものであれば特に限定されるものではないが、ニッケル化合物またはパラジウム化合物を含むことが好ましい。
【0030】
触媒を構成するニッケル化合物またはパラジウム化合物の具体例としては、まず、
酢酸ニッケル、プロピオン酸ニッケル、2−エチルヘキサン酸ニッケル、3,5,5−トリメチルヘキサン酸ニッケル、オクタン酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、ネオデカン酸ニッケル、ニッケル(アセテート)(ヘキサフルオロアンチモネート)、ニッケル(プロピオネート)(ヘキサフルオロアンチモネート)、ニッケル(2−エチルヘキサノエート)(ヘキサフルオロアンチモネート)、ニッケル(オクタノエート)(ヘキサフルオロアンチモネート)、ニッケル(ネオデカノエート)(ヘキサフルオロアンチモネート)、酢酸パラジウム、クロロ酢酸パラジウム、フルオロ酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸パラジウム、酪酸パラジウム、3−メチル酪酸パラジウム、ペンタン酸パラジウム、ヘキサン酸パラジウム、2−エチルヘキサン酸パラジウム、オクタン酸パラジウム、ドデカン酸パラジウム、ナフテン酸パラジウム、ネオデカン酸パラジウム、シクロヘキサンカルボン酸パラジウム、安息香酸パラジウム、2−メチル安息香酸パラジウム、4−メチル安息香酸パラジウム、ナフタレンカルボン酸パラジウムなどのカルボン酸塩;
メタンスルホン酸ニッケル、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル、p−トルエンスルホン酸ニッケル、ベンゼンスルホン酸ニッケル、ドデシルベンゼンスルホン酸ニッケル、メタンスルホン酸パラジウム、トリフルオロメタンスルホン酸パラジウム、p−トルエンスルホン酸パラジウム、ベンゼンスルホン酸パラジウム、ナフタレンスルホン酸パラジウム、ドデシルベンゼンスルホン酸パラジウムなどの炭素数1〜20の有機スルホン酸塩;
ニッケルビス(アセチルアセトネート)、ニッケルビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート、パラジウムビス(アセチルアセトネート)、パラジウムビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネートなどの炭素数5〜15のβ−ジケトネート化合物が挙げられる。
【0031】
また本発明で用いる重合触媒としては、下記式(c)で表される2価パラジウムのホスフィン錯体(c)を含むものも好適に使用することができる。
Pd[P(R12(R2)]n2 …(c)
(式(c)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基、イソプロピル基より選ばれる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表し、Xは有機酸アニオンあるいはβ−ジケトネートアニオンであり、nは1または2を示す。)
このような2価パラジウムのホスフィン錯体(c)の具体例としては、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)、
[ビス(トリシクロペンチルホスフィン)]パラジウムジ(アセテート)、
[ジシクロペンチル(t−ブチル)ホスフィン]パラジウムジ(アセテート)、
[ジシクロペンチル(シクロヘキシル)ホスフィン]パラジウムジ(アセテート)、
[ジシクロペンチル(2−メチルフェニル)ホスフィン]パラジウムジ(アセテート)、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
ビス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
[ジシクロペンチル(シクロヘキシル)ホスフィン]パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(プロピオネート)、
ビス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(プロピオネート)、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(2−エチルヘキサノエート)、
ビス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(2−エチルヘキサノエート)、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
ビス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
[ジシクロペンチル(シクロヘキシル)ホスフィン]パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロメタンスルホネート)、
ビス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロメタンスルホネート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)、
[ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)]パラジウムジ(アセテート)、
[ジシクロヘキシル(t−ブチル)ホスフィン]パラジウムジ(アセテート)、
[ジシクロヘキシル(シクロペンチル)ホスフィン]パラジウムジ(アセテート)、
[ジシクロヘキシル(2−メチルフェニル)ホスフィン]パラジウムジ(アセテート)、(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
[ジシクロヘキシル(シクロペンチル)ホスフィン]パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(プロピオネート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(プロピオネート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(2−エチルヘキサノエート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(2−エチルヘキサノエート)、(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
[ジシクロヘキシル(シクロペンチル)ホスフィン]パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロメタンスルホネート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロメタンスルホネート)などを挙げることができる。
【0032】
また、重合触媒に含まれるニッケル化合物あるいはパラジウム化合物の具体例としては、さらに、
ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロライド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジブロマイド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ニッケルジクロライド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ニッケルジブロマイド、ビス(トリシクロペンチルホスフィン)ニッケルジクロライド、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロライド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジクロライド、ビス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジクロライド、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケルジクロライド、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウムジクロライド、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウムメチルクロライドなどのハロゲン化物塩のホスフィン錯体;
[テトラキス(アセトニトリル)パラジウム]テトラフルオロボレート、テトラキス(ベンゾニトリル)パラジウムヘキサフルオロアンチモネートなどのニトリル化合物との錯体;
[(η3-クロチル)(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム]テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[(η3-クロチル)(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム]テトラフルオロボレート、[(η3-アリル)(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム]トリフルオロアセテート、[(η3-アリル)(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム]テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、(メチル)(1,5−シクロオクタジエン)(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムクロライド、[(メチル)(1,5−シクロオクタジエン)(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム]テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、[(η3-クロチル)(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル]テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[(η3-クロチル)(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル]テトラフルオロボレート、(η6−ベンゼン)ビス(ペンタフルオロフェニル)ニッケル、(η6−トルエン)ビス(ペンタフルオロフェニル)ニッケル、(η6−ベンゼン)ビス(トリクロロシリル)ニッケル、(η6−トルエン)ビス(トリクロロシリル)ニッケル、[6−メトキシノルボルネン−2−イル−5−パラジウム(シクロオクタジエン)]ヘキサフルオロホスフェートなど、炭素とのσ−あるいはπ−結合を有する錯体;などを挙げることもできる。
【0033】
本発明の製造方法で用いる重合触媒は、上記のニッケル化合物あるいはパラジウム化合物とともに、さらに他の触媒成分を組み合わせて用いたものであることが好ましい。組み合わされる触媒成分は用いるニッケルあるいはパラジウム化合物によって適宜選択されるが、重合触媒が、下記(a)、(b)および(d)を用いて得られる触媒、あるいは、下記(c)および(d)を用いて得られる触媒であることが好ましい。
【0034】
(a)パラジウムの有機酸塩またはパラジウムのβ−ジケトネート化合物、
(b)下記式(b)で表されるホスフィン化合物、
P(R12(R2) …(b)
(式(b)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基、イソプロピル基より選ばれる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表す。)
(c)下記式(c)で表される2価パラジウムのホスフィン錯体、
Pd[P(R12(R2)]n2 …(c)
(式(c)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基、イソプロピル基より選ばれる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表し、Xは有機酸アニオンあるいはβ−ジケトネートアニオンであり、nは1または2を示す。)
(d)イオン性のホウ素化合物。
【0035】
ここで、触媒成分(a)としては先に挙げた化合物群のうちでパラジウムのカルボン酸塩、パラジウムの有機スルホン酸塩、パラジウムのβ−ジケトネート化合物が用いられ、中でも酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、2−エチルヘキサン酸パラジウム、パラジウムビス(アセチルアセトネート)が好ましく、酢酸パラジウムが最も好ましい。
【0036】
触媒成分(b)は、上記式(b)で表されるホスフィン化合物であり、具体例としては、トリシクロペンチルホスフィン、ジシクロペンチル(シクロヘキシル)ホスフィン、ジシクロペンチル(3−メチルシクロヘキシル)ホスフィン、ジシクロペンチル(イソプロピル)ホスフィン、ジシクロペンチル(s−ブチル)ホスフィン、ジシクロペンチル(t−ブチル)ホスフィン、ジシクロペンチル(2−メチルフェニル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシル(シクロペンチル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(3−メチルシクロヘキシル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(イソプロピル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(2−メチルフェニル)ホスフィン、トリイソプロピルホスフィンなどが挙げられる。これらの触媒成分(b)の中では、トリシクロペンチルホスフィンあるいはトリシクロヘキシルホスフィンが好ましく用いられる。
【0037】
触媒成分(c)としては、先に挙げた化合物群のうちで上記式(c)で表される2価パラジウムのホスフィン錯体が用いられ、パラジウムとトリシクロペンチルホスフィンとの錯体、あるいはパラジウムとトリシクロヘキシルホスフィンとの錯体が特に好ましい。中でも(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)、(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)、(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)が最も好ましい。触媒成分(c)は活性種の生成効率が高く、誘導期間がほとんどみられないことなどにおいても有利であり好ましい。触媒成分(c)として用いられる2価パラジウムのホスフィン錯体の合成には公知の方法を適宜もちいてよく、精製あるいは単離して用いてもよいし、合成後に単離することなく用いてもよい。
【0038】
触媒成分(c)の合成方法としては、たとえば、適切なパラジウム化合物と触媒成分(b)のホスフィン化合物とを、芳香族炭化水素溶媒またはハロゲン化炭化水素溶媒中で、0〜70℃の温度範囲で反応させる方法が挙げられる。
【0039】
触媒成分(d)は、イオン性のホウ素化合物であり、カチオンとホウ素含有アニオンとから形成される化合物を用いることができる。好ましいイオン性のホウ素化合物(d)としては、下記式(d)で表される化合物が挙げられる。
【0040】
[R3+[M(R44- …(d)
(式(d)中、R3はカルベニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオンまたはアニリニウムカチオンから選ばれた炭素数4〜25の有機カチオンを示し、Mはホウ素原子あるいはアルミニウム原子を示し、R4はフッ素原子置換またはフッ化アルキル置換のフェニル基を示す。)
このようなイオン性のホウ素化合物(d)としては、具体的には、
トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリ(p−トリル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリフェニルカルベニウムテトラキス〔3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕ボレート、
トリ(p−トリル)カルベニウムテトラキス〔3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕ボレート、
トリフェニルカルベニウムテトラキス(2,4,6−トリフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ジフェニルホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリブチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート
などを挙げることができる。
【0041】
これらの中でもカチオンがカルベニウムカチオンであり、アニオンがテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンまたはテトラキス(パーフルオロアルキルフェニル)ボレートアニオンであるイオン性ホウ素化合物が好ましく、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートおよびトリフェニルカルベニウムテトラキス〔3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕ボレートが最も好ましい。
【0042】
上記触媒成分(a)のパラジウムの有機酸塩またはパラジウムのβ−ジケトネート化合物、あるいは触媒成分(c)の2価パラジウムのホスフィン錯体は、単量体1モル当たり、パラジウム原子として0.0005〜0.02ミリモル、好ましくは0.001〜0.01ミリモル、さらに好ましくは0.001〜0.005ミリモルの範囲で用いることができる。本発明に係る付加重合においては、このような少量の触媒成分(a)あるいは(c)を用いるのみにて高い転化率を獲得できるため、高い経済性および生産性を示す。また、付加重合体中に残留する金属成分を低く抑えられるため、着色が少なく透明性に優れた成形体を得ることが可能であり、脱灰工程の省略をできることもある。また、触媒成分(b)のホスフィン化合物は、触媒成分(a)に含まれるパラジウム原子1モルに対して、通常0.1〜5モル、好ましくは0.5〜2モルの範囲で使用することが、高重合活性のために最適である。
【0043】
また、上記触媒成分(d)のイオン性のホウ素化合物は、触媒成分(a)または触媒成分(c)に含まれるパラジウム原子1モルに対して、通常0.5〜10モル、好ましくは0.7〜5.0モル、さらに好ましくは1.0〜2.0モルの範囲で用いられる。
【0044】
上記(a)〜(d)の各触媒成分に関し、本発明においては添加順序等の調整法や使用法に特に制限はなく、重合反応の反応系に同時に、または逐次的に添加してもよい。
<分子量調節剤>
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法においては、得られる付加重合体の用途に応じて分子量を制御する目的で、分子量調節剤の存在下にて付加重合を行うことが好ましい。分子量調節剤としては、好ましくはエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、トリメチルビニルシラン、トリメトキシビニルシランなどの1−アルケン化合物または置換1−アルケン化合物、シクロペンテンなどの単環モノオレフィン化合物、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物などが用いられる。これらの分子量調節剤のうちでも、1−アルケン化合物を用いることが好ましく、中でもエチレンが最も好ましい。分子量調節剤の使用量は、環状オレフィン系付加共重合体の目標とする分子量、触媒成分の選択、重合温度条件の選択などによって変わるため一概には言えないが、全単量体に対しモル比で0.001〜0.5倍の量を用いることが好ましい。また、これらの分子量調節剤は1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0045】
<重合方法>
従来の重合方法では、環状オレフィン系付加重合体を製造する際に、低分子量の成分が多く生成し機械強度や耐熱性の低下を招く事があった。係る低分子量成分の生成は、環状オレフィン化合物と分子量調節剤との反応性の差に起因することが明らかとなった。すなわち分子量調節剤が単量体に比して極端に遅い反応速度を示し、その結果、重合後期において系中に過剰に存在することとなるため、特に高転化率において低分子量成分を生成する。かかる現象を抑制する手段の一つとして低い転化率で重合を停止することが挙げられるが、経済性および生産性の点から望ましくない。
【0046】
これに対して本発明では、重合工程が、反応終了までに使用する単量体の総量の、80重量%以下の量の単量体を使用して重合反応を開始させる工程と、残余をその重合反応中に供給する工程とを含むものとすることで、高転化率であっても低分子成分の生成を抑制することができる。すなわち従来の方法にあっては反応の進行に伴って系中の分子量調節剤と単量体との存在比が著しく変化するのに対し、本発明の方法によっては適宜単量体を追加供給することでその変化を低減できる。重合反応を開始させる工程において使用される単量体は、全単量体に対する割合で好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは30〜75重量%、特に好ましくは30〜70重量%である。80重量%を超えると、高転化率と低分子量体生成抑制の十分な効果が得られない。また、残余の環状オレフィン化合物は1回で導入してもよいが、2回以上の分割あるいは連続的な重合系への導入が、重合系中の単量体濃度の変動を抑え、より均質な重合体が得られるため好ましい。また、残余の単量体の添加時期としては、単量体の総量に対する転化率が20%以上になった後、反応系に供給することが好ましい。
【0047】
本発明の製造方法においては、単量体が2種以上の環状オレフィン化合物を単量体成分として含む場合には、その少なくとも1種を、重合反応を開始させる工程と、重合反応中に単量体の残余を反応系に供給する工程とに振り分けて供給すればよいが、好ましくは全単量体に対して20重量%以上の割合で用いられる全ての単量体成分を、重合反応を開始させる工程と、残余をその重合反応中に供給する工程とに振り分けて供給することが望ましい。全単量体に対して20重量%以下の割合で用いられる環状オレフィン化合物については、分子量分布や発熱に対する影響が比較的軽微であるため、必ずしも両工程に振り分ける必要はないが、より好ましくは、全単量体に対して10重量%以上の割合で用いられる全ての単量体成分を、さらに好ましくは、全単量体に対して5重量%以上の割合で用いられる全ての単量体成分を、特に好ましくは全ての単量体成分を、両工程に振り分けて供給することが望ましい。ここで、特開2005−48060号公報には、特定の単量体のみを両工程に振り分けて導入する方法が開示されているが、当該先行技術の効果は環状オレフィン系共重合体の組成分布を低減することに止まるため、本発明の製造方法と同等の効果は得られない。また、両工程に振り分ける割合および反応中の導入回数は、全ての単量体成分である環状オレフィン化合物について同一である必要はなく、用途や共重合反応性比などによって適宜設定してよい。
【0048】
また、本発明では、単量体、触媒、溶媒、その他の必要原料を連続的に反応器へと導入し、同時に連続的に抜き出して行う連続重合法によっても、制御された分子量、狭い分子量分布および高い重合転化率とが達成できる。重合反応が連続重合法によって行われる場合、反応器は槽型であっても管型であってもよく、また二基以上の反応器を接続して用いてもよいが、反応初期の系内組成や反応器内温度を安定的にコントロールするためには一基目には槽型反応器を用いることが好ましい。但し槽型反応器一基では高い転化率を得ることが困難であるため、後続に管型反応器または回分式反応器を連結するか、もしくは槽型反応器のみであれば二基以上、さらに好ましくは三基以上連結することが望ましい。各原料の導入方法に特に制限はなく、用いる反応器の形状や各単量体成分の反応性比などによって適宜設定してよい。反応器を二基以上連結し、二基目以降の反応器の少なくとも一基以上に単量体の一部を導入することで、より均質な重合体を得ることができるため好ましい。
【0049】
また、本発明の製造方法によれば単量体濃度の変化をより抑制できるため、特に重合初期の多大な発熱によって触媒が失活したり、分子量が許容範囲を超えて変化したりするなどの悪影響を防ぐことができる。さらには冷却系の負荷を低減できる。
【0050】
重合反応は、必要なら窒素またはアルゴン雰囲気下にて行なわれるが、空気中であってもよい。反応温度は0〜150℃、より好ましくは10〜100℃、より好ましくは20〜80℃の範囲にて行なわれる。また温度によって、生成する重合体の分子量などが変化するため、反応温度の範囲は極力狭く設定されるべきであり、転化率0〜90%の期間における反応温度の変化幅は20℃以内、好ましくは15℃以内であることが好ましい。用いられる溶媒は特に限定されないが、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタンなどの脂環式炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロべンゼンなどのハロゲン化炭化水素溶媒を1種単独で、または2種以上を組み合わせることができる。これらのうちでも脂環式炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒が好ましい。これらの溶媒は、全単量体100重量部に対し、通常は0〜2,000重量部の範囲で用いられる。
【0051】
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法は、優れた均質性を高い転化率において得る事ができる。また前記触媒成分(a)、(b)および(d)を含むパラジウム系触媒、あるいは前記触媒成分(c)および(d)を含むパラジウム系触媒が用いられた付加重合の場合には、優れた重合活性が得られるため少量の触媒を用いるのみで高い転化率を達成する事ができる。本発明の製造方法は、転化率を好ましくは96%以上、さらに好ましくは99%以上とすることができ、その結果、未反応単量体や残留金属成分の除去工程を必ずしも必要としない。必要に応じて単量体や金属成分の除去を行う場合は公知の方法を適宜用いてよく、例えば、重合反応溶液を乳酸、グリコール酸、オキシプロピオン酸、オキシ酪酸などのオキシカルボン酸やトリエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、エチレンジアミンテトラ酢酸塩などの水溶液、メタノール溶液およびエタノール溶液から選ばれた溶液を用いた抽出、珪藻土、シリカ、アルミナ、活性炭、セライトなどを用いた吸着、フィルターを用いたろ過などにて金属成分を除去できる。あるいは、重合反応溶液を、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類やアセトン、メチルエチルケトンなどのケトンを用いて凝固することもできる。本発明に係る環状オレフィン系付加共重合体に含まれる金属成分は、原子換算で好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下にすることができる。
【0052】
重合反応溶液からはさらに脱溶工程を経て環状オレフィン系付加重合体が得られる。脱溶方法は特には限定されないが、例えば溶液を減圧下にて加熱濃縮したり、スチームを導入するなどしてよく、押出機などを用いて乾燥およびペレット化してもよい。また重合反応溶液をそのままキャストすることでフィルムに成形してもよい。
【0053】
<付加重合体の特性>
本発明で得られる環状オレフィン系付加重合体は、好ましくは、その分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)で20,000〜200,000、より好ましくは30,000〜100,000、さらに好ましくは30,000〜50,000である。数平均分子量が20,000未満では、成形体の機械強度が低下し、脆いものとなる場合がある。一方、その数平均分子量が200,000を超えると溶融粘度が高くなりすぎるため成形が困難になり、あるいは成形体の平坦性が損なわれることが多い。
【0054】
環状オレフィン系付加共重合体の分子量は、適切な分子量調節剤の存在下で重合を行うことによって調節することができる。また、本発明の製造方法によって得られる環状オレフィン系重合体の分子量分布は、触媒および単量体、目標分子量などによって大きく異なるため一概にはいえないが、通常、Mw/Mnで表した値が好ましくは4.3以下、さらに好ましくは4.0以下、もっとも好ましくは3.5以下である。
【0055】
本発明の製造方法にて得られる環状オレフィン系付加重合体は、透明性に優れ、膜厚100μmのフィルムで測定される全光線透過率が通常85%以上、好ましくは88%以上であり、ヘイズ値は通常2.0%以下、好ましくは1.0%以下である。
【0056】
<添加剤>
本発明の方法で得られる環状オレフィン系付加重合体には、必要に応じて種々の添加剤を配合することができる。例えば、酸化安定性を向上させ着色や劣化を防ぐため、フェノール系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤およびイオウ系酸化防止剤から選ばれた酸化防止剤を該付加重合体100重量部当たり0.001〜5重量部の割合で配合することができる。酸化防止剤の具体例としては、
1)2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチル−フェニル)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアレート、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネートなどのフェノール系酸化防止剤またはヒドロキノン系酸化防止剤、
2)ビス (2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)4,4'−ビフェニレンジホスホナイト、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート−ジエチルエステル、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどのリン系2次酸化防止剤
3)ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンズイミダゾールなどのイオウ系2次酸化防止剤などを挙げることができる。
【0057】
また本発明の方法によって得られる環状オレフィン系付加重合体には難燃剤を配合することもできる。難燃剤としては公知のものを使用することができ、例えばハロゲン系難燃剤、アンチモン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、金属水酸化物などを挙げることができる。これらの中でも少量の配合で効果を示し、吸水性、低誘電性、透明性の悪化を最小限にできるリン酸エステル系難燃剤が好ましく、1,3−ビス(フェニルホスホリル)ベンゼン、1,3−ビス(ジフェニルホスホリル)ベンゼン、1,3−ビス[ジ(アルキルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,3−ビス[ジ(2’,6'−ジメチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,3−ビス[ジ(2’,6'−ジエチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,3−ビス[ジ(2’,6’−ジイソプロピルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,3−ビス[ジ(2’,6’−ジブチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,3−ビス[ジ(2’−t−ブチルフェニル)ホスフホリル]ベンゼン、1,3−ビス[ジ(2’−イソプロピルフェニル)ホスホリル]ベンゼン1,3−ビス[ジ(2’−メチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,4−ビス(ジフェニルホスホリル)ベンゼン、1,4−ビス[ジ(2’,6’−ジメチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,4−ビス[ジ(2’,6’−ジエチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,4−ビス[ジ(2’,6’−ジイソプロピルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,4−ビス[ジ(2’−t−ブチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,4−ビス[ジ(2’−イソプロピルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,4−ビス[ジ(2’−メチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、4,4’−ビス[ジ(2”,6”−ジメチルフェニル)ホスホリルフェニル]ジメチルメタンなどの縮合型リン酸エステル系難燃剤がさらに好ましい。配合量は難燃剤の選択や要求される難燃性の程度によって決まるが、環状オレフィン共重合体100重量部に対し0.5〜40重量部が好ましく、2〜30重量部がさらに好ましく、4〜20重量部が最も好ましい。0.5重量部より少ない場合には効果が不充分であり、一方、40重量部を超えて使用すると透明性が損なわれたり、誘電率などの電気特性が悪化したり、吸水率が増大したり、耐熱性が悪化する場合がある。
【0058】
本発明の方法によって得られる環状オレフィン系付加重合体には、さらに必要に応じて公知の滑剤、紫外線吸収剤等、レベリング剤、染料などを配合することもできる。
<成形体>
本発明の方法によって得られる環状オレフィン系付加重合体は射出成形法、押出成形法、圧縮成形法などの方法で成形することができる。また、適当な溶媒に溶解し、キャストすることでフィルム、シートなどの形状に成形することもできる。
【0059】
また、本発明の環状オレフィン系付加共重合体の成形体には、必要に応じてITO、ポリチオフェン、ポリアニリンなどの導電性膜、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウムなどのバリアー膜、その他公知のハードコート層、反射防止層、防汚層、赤外線フィルター層、紫外線フィルター層、粘着剤層などを形成してもよい。これらの形成の手段としては塗布、貼合による方法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法など挙げられる。
【0060】
<用途>
本発明の方法によって得られる環状オレフィン系付加重合体は、優れた透明性および耐熱性、低い吸水性と誘電率を有し、光学材料、電気・電子部品、医療用器材などに好適に用いることができる。
【0061】
光学材料としては、液晶表示素子、有機EL素子、プラズマディスプレイおよび電子ペーパー、ディスプレイ用カラーフィルター基板、ナノインプリント基板、光導波路、ITOや導電性樹脂層を積層した透明導電フィルムおよび透明導電膜、タッチパネル、導光板、保護フィルム、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、近赤外線カットフィルム、光拡散フィルム、反射防止フィルム、高反射フィルム、半透過半反射フィルム、NDフィルター、ダイクロイックフィルター、電磁波シールドフィルム、ビームスプリッター、光通信用フィルター、フレネルレンズ、カメラレンズ、ピックアップレンズ、F−θレンズ、プリズム、MD、CD、DVDなどの光学記録基板などに用いることができる。医療用器材としては薬品用パッケージ材料、滅菌容器、シリンジ、パイプ、チューブ、アンプルなどに用いられる。電子・電気部品としては容器、トレイ、キャリアテープ、セパレーションフィルム、絶縁フィルム、プリント基板用材料などに用いられる。
【0062】
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、環状オレフィン系付加共重合体の分子量、ガラス転移温度、フィルムの透明性、強度などの各種性状は、下記の方法で求めた。
【0063】
(1)分子量
東ソー製Hタイプカラムを装備したウォーターズ製150C型ゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)を用い、o−ジクロロベンゼンを溶媒として120℃で測定した。得られた分子量は標準ポリスチレン換算値である。
【0064】
(2)共重合体組成
重合反応溶液の一部を採取し、過剰のイソプロパノールで重合体を凝固した上澄みをキャピラリーカラム(膜厚1μm、内径0.25mm、長さ60m)を装備したガスクロマトグラム(島津製作所製GC−14B)装置にて残留単量体を定量することで組成を算出した。
【0065】
(3)全光線透過率およびヘイズ
膜厚100μmのフィルムについて、Haze−Gard plus (BYK−Gardner製)を用いASTM−D1003に準じて全光線透過率を、JIS K7105に準じてヘイズ値を測定した。
【0066】
(4)破断強度および伸び
JIS K7113に準じて試験片を引っ張り速度3mm/minで測定した。
[実施例1]
ジャケットを装備した容量20Lのステンレス製オートクレーブを充分に窒素で置換し、トルエンを8.9kg、トルエン溶液としたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを875g(9.30mol)、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを1.07kg(7.13mol)を仕込み、0.05MPaとなるまで窒素で加圧した。撹拌しながらエチレンを0.0065MPaの分圧となるまで導入し、50℃に加熱した。
【0067】
0.05mmolの(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)および、0.05mmolのトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをそれぞれトルエン溶液として添加して重合を開始した。内温が上昇し始めるのを確認してから冷却水を通じ、50±5℃の範囲でコントロールした。転化率は適宜サンプリングして求め、表1に示した転化率において追加の単量体を導入した。合計で6時間反応を継続した結果、転化率99.8%で共重合体Aの溶液を得た。共重合体AにおけるMnは70,000、Mwは213,000であった。
【0068】
トルエンを加えて固形分含量を22%に調整し、固形分100重量部に対してペンタエリスリチルテトキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、およびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ0.3重量部を添加した。この溶液をPETフィルム上にてキャストし、続いて窒素下180℃で90分乾燥させ、厚さ100μmのフィルムAを得た。フィルムAの評価結果を表6に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
[比較例1]
ジャケットを装備した容量20Lのステンレス製オートクレーブを充分に窒素で置換し、トルエンを8.9kg、トルエン溶液としたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを1.46kg(15.5mol)、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを1.43kg(9.50mol)を仕込み、0.05MPaとなるまで窒素で加圧した。撹拌しながらエチレンを0.0090MPaの分圧となるまで導入し、50℃に加熱した。
【0071】
0.05mmolの(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)および、0.05mmolのトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをそれぞれトルエン溶液として添加して重合を開始した。内温の上昇を確認してから冷却水を通じたところ、最高で63℃にまで到達し、開始60分後に50℃に冷却できた。単量体を追加せずに6時間重合を実施したところ転化率は98%であり、残留する単量体はすべて5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンであった。反応をさらに2時間継続した結果、転化率99.5%で白濁した共重合体Bの溶液を得た。共重合体BにおけるMnは49,000、Mwは220,000であった。また、表2に示したように、重合の進行に伴って各平均分子量が低下すると分子量分布は広がったことから、重合後期における低分子量成分の生成が明らかである。
【0072】
実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムBを得た。フィルムBの評価結果を表6に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
[比較例2]
ジャケットを装備した容量20Lのステンレス製オートクレーブを充分に窒素で置換し、トルエンを8.9kg、トルエン溶液としたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを1220g(13.0mol)、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを1427g(9.51mol)を仕込み、0.05MPaとなるまで窒素で加圧した。撹拌しながらエチレンを0.0085MPaの分圧となるまで導入し、50℃に加熱した。
【0075】
0.05mmolの(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)および、0.05mmolのトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをそれぞれトルエン溶液として添加して重合を開始した。内温の上昇を確認してから冷却水を通じたところ、最高で59℃にまで到達し、開始45分後に50℃に冷却できた。追加の単量体を導入した際の転化率および量を表3に示す。合計で6時間反応を継続した結果、転化率99.8%で共重合体Cの溶液を得た。共重合体CにおけるMnは59,000、Mwは221,000であった。
【0076】
実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムCを得た。表6に示した評価結果より明らかな通り、反応中に供給する単量体の割合が少ない場合、得られるフィルムは強度に劣るものとなった。
【0077】
【表3】

【0078】
[実施例2]
ジャケットを装備した容量20Lのステンレス製オートクレーブを充分に窒素で置換し、トルエンを8.7kg、トルエン溶液としたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを902g(9.59mol)、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを600g(3.99mol)を仕込み、0.05MPaとなるまで窒素で加圧した。撹拌しながらエチレンを0.0085MPaの分圧となるまで導入し、50℃に加熱した。
【0079】
0.053mmolの(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)および、0.053mmolのトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをそれぞれトルエン溶液として添加して重合を開始した。内温が上昇し始めるのを確認してから冷却水を通じ、50±5℃の範囲でコントロールした。転化率は適宜サンプリングして求め、表4に示した転化率において追加の単量体を導入した。合計で6時間反応を継続した結果、転化率99.9%で共重合体Dの溶液を得た。共重合体DにおけるMnは66,000、Mwは208,000であった。
【0080】
トルエンを加えて固形分含量を19%に調整し、固形分100重量部に対してペンタエリスリチルテトキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、およびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ0.3重量部を添加した。この溶液をPETフィルム上にてキャストし、続いて窒素下200℃で90分乾燥させ、厚さ100μmのフィルムDを得た。フィルムDの評価結果を表6に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
[比較例3]
ジャケットを装備した容量20Lのステンレス製オートクレーブを充分に窒素で置換し、トルエンを8.9kg、トルエン溶液としたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを1.88kg(20.0mol)、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを1.00kg(6.65mol)を仕込み、0.05MPaとなるまで窒素で加圧した。撹拌しながらエチレンを0.0110MPaの分圧となるまで導入し、50℃に加熱した。
【0083】
0.053mmolの(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)および、0.053mmolのトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをそれぞれトルエン溶液として添加して重合を開始した。内温の上昇を確認してから冷却水を通じたところ、最高で65℃にまで到達し、開始70分後に50℃に冷却できた。単量体を追加せずに6時間重合を実施したところ99.6%の転化率で共重合体Eの溶液を得た。共重合体EにおけるMnは44,000、Mwは205,000であった。
【0084】
実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムEを得た。フィルムEの評価結果を表6に示す。
[実施例3]
ジャケットを装備した容量20Lのステンレス製オートクレーブを充分に窒素で置換し、トルエンを8.7kg、トルエン溶液としたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを915g(9.72mol)、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを527g(3.51mol)、2−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エンを83.3g(0.39mol)を仕込み、0.05MPaとなるまで窒素で加圧した。撹拌しながらエチレンを0.0085MPaの分圧となるまで導入し、50℃に加熱した。
【0085】
0.054mmolの(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)および、0.054mmolのトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをそれぞれトルエン溶液として添加して重合を開始した。内温が上昇し始めるのを確認してから冷却水を通じ、50±5℃の範囲でコントロールし、表5に示した転化率において追加の単量体を導入した。合計で6時間反応を継続した結果、転化率99.9%で共重合体Fの溶液を得た。共重合体FにおけるMnは66,000、Mwは212,000であった。
【0086】
トルエンを加えて固形分含量を19%に調整し、固形分100重量部に対してペンタエリスリチルテトキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、およびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ0.3重量部を添加した。この溶液をPETフィルム上にてキャストし、続いて水蒸気存在下で200℃で90分乾燥させ、厚さ100μmのフィルムFを得た。フィルムFの評価結果を表6に示す。
【0087】
【表5】

【0088】
[実施例4]
撹拌翼およびジャケットを装備した内容積20リットルのステンレス製槽型反応容器を直列に2基接続し、第1反応器にビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンのトルエン溶液(75重量%)を毎時0.81L、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを毎時0.47L、トルエンを毎時3.47L、エチレンを毎時0.90NL、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)のトルエン溶液(0.001mol/L)を毎時18ミリリットル、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートのトルエン溶液(0.001mol/L)を毎時18ミリリットルでそれぞれ連続的に供給し、第2反応器にビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンのトルエン溶液(75重量%)を毎時0.10Lで供給した。両容器内温度を50℃に保持し、共重合を行った。安定するまで充分に反応を続行した後、第2反応容器より連続的に排出される重合溶液の一部(転化率97〜98%)をガラスフラスコに採取し、50℃で2時間静置したところ、転化率99.8%で共重合体Gの溶液を得た。共重合体GにおけるMnは80,000、Mwは202,000であった。
【0089】
実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムGを得た。フィルムGの評価結果を表6に示す。
【0090】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法によれば、光学材料、電気・電子部品、医療用器材などへの使用に好適な環状オレフィン系付加重合体を製造できる。
当該光学材料としては、液晶表示素子、有機EL素子、プラズマディスプレイおよび電子ペーパー、ディスプレイ用カラーフィルター基板、ナノインプリント基板、ITOや導電性樹脂層を積層した透明導電フィルムおよび透明導電膜、タッチパネル、導光板、保護フィルム、偏向フィルム、位相差フィルム、近赤外線カットフィルム、光拡散フィルム、反射防止フィルム、高反射フィルム、半透過半反射フィルム、NDフィルター、ダイクロイックフィルター、電磁波シールドフィルム、ビームスプリッター、光通信用フィルター、カメラレンズ、ピックアップレンズ、F−θレンズなどの光学レンズおよびプリズム類、MD、CD、DVDなどの光学記録基板などに用いることができる。医療用器材としては薬品用パッケージ材料、滅菌容器、シリンジ、パイプ、チューブ、アンプルなどに用いられる。電子・電気部品としては容器、トレイ、キャリアテープ、セパレーションフィルム、OA機器の絶縁材料、フレキシブルプリント基板の絶縁層材料などに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される環状オレフィン系化合物を含む単量体を、ニッケル化合物またはパラジウム化合物を含む触媒を用いて、分子量調節剤の存在下に付加重合する方法であって、
単量体の総量の、80重量%以下の量の単量体を使用して重合反応を開始させる工程と、
その重合反応中に単量体の残余を反応系に供給する工程と
を含むことを特徴とする環状オレフィン系付加重合体の製造方法。
【化1】

(式(1)中、A1〜A4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、あるいは炭素数1〜20の酸素原子あるいは窒素原子を含む炭化水素基、炭素数3〜12のトリアルキルシリル基、炭素数0〜12の加水分解性シリル基から選ばれた置換基であり、mは0または1である。)
【請求項2】
重合反応が連続重合法により行われ、重合転化率が97%以上であることを特徴とする請求項1に記載の環状オレフィン系付加重合体の製造方法。
【請求項3】
分子量調節剤が1−アルケン化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の環状オレフィン系付加重合体の製造方法。
【請求項4】
単量体が、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンおよび炭素数1〜12のアルキル基を有する5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンよりなる群より選ばれる1種以上を合計90モル%以上含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の環状オレフィン系重合体の製造方法。
【請求項5】
単量体が、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、および、5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンよりなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の環状オレフィン系重合体の製造方法。
【請求項6】
触媒が、下記(a)、(b)および(d)を用いて得られる触媒、あるいは、下記(c)および(d)を用いて得られる触媒であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の環状オレフィン系重合体の製造方法;
(a)パラジウムの有機酸塩またはパラジウムのβ−ジケトネート化合物、
(b)下記式(b)で表されるホスフィン化合物、
P(R12(R2) …(b)
(式(b)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基、イソプロピル基より選ば
れる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表す。)
(c)下記式(c)で表される2価パラジウムのホスフィン錯体、
Pd[P(R12(R2)]n2 …(c)
(式(c)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基、イソプロピル基より選ば
れる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表し、Xは有機酸アニオンある
いはβ−ジケトネートアニオンであり、nは1または2を示す。)
(d)イオン性のホウ素化合物。
【請求項7】
前記ホスフィン化合物(b)が、トリシクロペンチルホスフィンまたはトリシクロヘキシルホスフィンであることを特徴とする請求項6に記載の環状オレフィン系付加共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記2価パラジウムのホスフィン錯体(c)が、パラジウムとトリシクロペンチルホスフィンとの錯体、あるいはパラジウムとトリシクロヘキシルホスフィンとの錯体であることを特徴とする請求項6または7に記載の環状オレフィン系付加共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記イオン性のホウ素化合物(d)が、カチオンがカルベニウムカチオンであり、アニオンがテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンまたはテトラキス(パーフルオロアルキルフェニル)ボレートアニオンである、イオン性のホウ素化合物であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の環状オレフィン系付加重合体の製造方法。
【請求項10】
全単量体に対して20重量%以上の割合で用いられる全ての単量体成分を、重合反応を開始させる工程と、残余をその重合反応中に供給する工程とに振り分けて供給することを特長とする請求項1〜9のいずれかに記載の環状オレフィン系付加重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−115379(P2008−115379A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264435(P2007−264435)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】