環状金属コード、無端金属ベルト及び環状金属コードの製造方法
【課題】継続的な繰り返し負荷に対しても撚り緩みが生じず巻き付けた形状を維持することができる環状金属コード、無端金属ベルト及び環状金属コードの製造方法を提供する。
【解決手段】環状金属コードC1は、コアのない中心を囲むように複数のストランド材1同士を撚り合わせたコードが解撚され、1本のストランド材1が、複数周回環状にされつつ他のストランド材1の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部が嵌め入れられて巻き付けられて環状とされ、ストランド材1の始端部1aと終端部1bとが、環状の円弧の外周側で正結びされている。
【解決手段】環状金属コードC1は、コアのない中心を囲むように複数のストランド材1同士を撚り合わせたコードが解撚され、1本のストランド材1が、複数周回環状にされつつ他のストランド材1の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部が嵌め入れられて巻き付けられて環状とされ、ストランド材1の始端部1aと終端部1bとが、環状の円弧の外周側で正結びされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状金属コード、無端金属ベルト及び環状金属コードの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、環状金属コードを製造する方法として、例えば特許文献1,2に記載されているように、ワイヤーロープを構成する線材の半分を解撚または切除して取り除いた後に、残った線材を一部環状にしつつその周囲に巻き付けてエンドレス加工することが知られている。
【0003】
特許文献1に記載されたワイヤーロープの簡易エンドレス加工法は、まず、設計寸法リングの内周長の2倍強の長さをもった6本の素線が撚り合されて構成されたワイヤーロープを用意する。これを3本の素線の撚り合せ線2本に解き別けて内周長と当該内周長より少し長いより代とを有する基糸を形成する。次に、当該3本素線撚り合せ線からなる基糸の一方を用いて、まず設計寸法の基本となるリング部とその組み合わせ部から延出するストランド部を形成する。そのうえ、当該延出するストランド部をリング部に撚り合せながら巻き付けて2本の基糸(6本の素線)が撚り合された状態のエンドレス加工を行う。その後、基糸の撚り合せ端部をロック止めもしくは半かご差しまたは半かご差しとロック止めの組み合わせ処理のいずれかの端部処理をする。
【0004】
特許文献2に記載されたエンドレススリングは、次のようにして製造されている。まず、所定長さのワイヤーロープの全長にわたって、全本数の1/2のストランドを切除し、ワイヤーロープの全長の1/2の心綱を切除する。残った心綱の両端部を同心に突き合わせたうえ、心綱を切除した側のストランドを、心綱を切除しない側のストランドの切除部に巻き付けて同心状のエンドレスとする。その後、心綱及びストランドの両端部にまたがってスリーブを圧縮加工する。
【0005】
特許文献3に記載されたエンドレスリングは、ワイヤーロープの一部を輪状に交差させて輪状部を形成し、ワイヤーロープを前記輪状部の回りに撚り合わせながら所定の回数周回させた後、ワイヤーロープの残り部分を撚り合わせた部分の内部にロープ心として入れ込んで形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3069796号公報
【特許文献2】特開平5−132881号公報
【特許文献3】特開2007−63677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に記載の環状金属コードは、何れも玉掛け用吊り具であり、所定の曲げや張力などの負荷を繰り返し受けるような使用状況は想定されていないものである。これらの環状金属コードは、ワイヤーロープを横断面でみて円周上の線材の本数を一旦半分にして、残った線材の余長を空いている残り半分のスペースに再巻き付けしているものであるため、隣り合う線材同士の接触抵抗が弱い。そのため、前記のような繰り返し負荷が加わると撚り緩みが生じやすく、そのまま使用を続けていると最後には破断してしまう。
【0008】
さらに、環状に巻き付けた後の端末処理は、特許文献1では端末を撚り合わせた箇所に差し込むかご差しやロック止めであるため、前記のような繰り返し負荷が加わるとこれらの箇所に応力集中が起こり、早期に破断してしまう。また、特許文献2ではスリーブにより両端末を固定するため、その部分だけコード径が太くなり、荷重が環状方向で不均一になる。このように、特許文献1,2に記載の環状金属コードは、継続的な繰り返し負荷に対して耐え得る構造ではない。
【0009】
特許文献3に記載の環状金属コードであるエンドレスリングは、ワイヤーロープを輪状部の回りに撚り合わせながら所定の回数周回させることにより、ワイヤーロープ全体を使用して巻き付けることになるが、この場合巻き付けピッチが一巻き毎にばらついてしまい、コード径が太くなり、環状方向で均一な強度が得られない。また、このエンドレスリングも、荷吊り作業に用いられるものであり、所定の曲げや張力などの負荷を繰り返し受けるような使用状況は想定されていないものである。
【0010】
これらのような環状金属コードを無端金属ベルトに用いると、撚り緩みや端末の結合部などの影響で回転負荷が変動し、比較的短期間で破損してしまうおそれがある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、継続的な繰り返し負荷に対しても撚り緩みが生じず巻き付けた形状を維持することができる環状金属コード、無端金属ベルト及び環状金属コードの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することのできる本発明に係る環状金属コードは、コアのない中心を囲むように複数の側線線材同士を撚り合わせた原コードが解撚され、1本の前記側線線材が、複数周回環状にされつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部が嵌め入れられて巻き付けられて環状とされ、前記側線線材の始端部と終端部とが、環状の円弧の外周側で正結びされていることを特徴とする。
【0013】
このような構成の環状金属コードによれば、原コードから取り出した側線線材における他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に余長部が複数周回にて環状に巻き付けられて嵌め入れられると、側線線材の隣り合う部分同士が密着した状態となる。側線線材同士の接触抵抗が大きく、側線線材の全長に亘って側線線材同士が強く拘束されるため、繰り返し負荷が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、側線線材同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、端末処理を簡素なものにすることができる。
また、コアのない中心を囲むように複数の側線線材同士を撚り合わせた原コードが解撚されて環状とされているので、プーリなどに巻回した際に、断面における側線線材の本数が2〜4本の場合では、プーリの周面に2本の側線線材が安定して接触し、環状金属コード自体の自転がなくされる。また、断面における側線線材の本数が5本以上の場合では、プーリに巻回することにより断面が扁平化し易く、この場合も環状金属コード自体の自転がなくされる。つまり、自転が生じないので、環状の円弧の外周側に多少の突起があってもベルトとしてプーリに巻回して用いることができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、側線線材の始端部と終端部とを正結びにより単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。また、正結びによる接続箇所が環状の円弧の外周側に配置されているので、プーリなどに巻回した際に、プーリの周面への結び目の接触を回避することができる。
なお、この結びを疎かにして適当に結ぶと、結び目の方向が環状方向に対して直角の方向を向くため、引っ掛かりのトラブルが生じたりプーリに食い込んで破断する原因となったりする。
【0014】
また、本発明に係る環状金属コードは、コアの周りに少なくとも5本の側線線材を撚り合わせた原コードが解撚され、1本の前記側線線材が、複数周回環状にされつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部が嵌め入れられて巻き付けられて環状とされ、前記側線線材の始端部と終端部とが、環状の円弧の外周側で正結びされていることを特徴とする。
【0015】
このような構成の環状金属コードによれば、原コードから取り出した側線線材における他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に余長部が複数周回にて環状に巻き付けられて嵌め入れられると、側線線材の隣り合う部分同士が密着した状態となる。側線線材同士の接触抵抗が大きく、側線線材の全長に亘って側線線材同士が強く拘束されるため、繰り返し負荷が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、側線線材同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、端末処理を簡素なものにすることができる。
また、コアの周りに少なくとも5本の側線線材同士を撚り合わせた原コードが解撚されて環状とされているので、プーリなどに巻回することにより断面が扁平化し易く、環状金属コード自体の自転がなくされる。つまり、自転が生じないので、環状の円弧の外周側に多少の突起があってもベルトとしてプーリに巻回して用いることができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、側線線材の始端部と終端部とを正結びにより単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。また、正結びによる接続箇所が環状の円弧の外周側に配置されているので、プーリなどに巻回した際に、プーリの周面への結び目の接触を回避することができる。
【0016】
本発明に係る環状金属コードにおいて、前記原コードが5本以上の前記側線線材同士を撚り合わせたものである場合、前記環状金属コードが環状方向に対する横断面視で扁平化されていることが好ましい。
5本以上の側線線材同士を撚り合わせた原コードを解撚して取り出した1本の側線線材によって得られた環状金属コードが環状方向に対する横断面視で扁平化されている。したがって、ベルトとしてプーリに巻回して用いた際における自転を防止することができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、線材の始端部と終端部とを単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。
【0017】
本発明に係る環状金属コードにおいて、前記側線線材は複数の金属素線同士を撚り合わせた構造であり、前記金属素線同士の撚り方向と前記空隙部に嵌め入れられている巻き付けの螺旋方向とが逆方向であることが好ましい。
線材内の金属素線同士の撚り方向と側線線材の巻き付け方向を逆にすることで、環状金属コードの機械的特性に方向性が生じることを抑制し、環状金属コードを環状方向に沿って回転させて使用する場合でも蛇行しにくくなる。
【0018】
本発明に係る環状金属コードにおいて、焼鈍処理が施されていることが好ましい。
焼鈍処理が施されているので、撚り合わせ時の加工歪を除去することができ、耐久性を高めることができる。
【0019】
本発明に係る環状金属コードにおいて、前記側線線材は、直径が0.06mm以上0.30mm以下の範囲内である複数の金属素線同士を撚り合わせた構造であることが好ましい。
これにより、側線線材に適度な剛性をもたせることができ、側線線材を良好な耐疲労性を有するものとすることができる。その結果、環状金属コードをより耐久性に優れたものにできる。
【0020】
本発明に係る環状金属コードにおいて、互いに巻き付けられた前記側線線材の環状部分における中心軸に対する前記側線線材の巻き付け角度が4.5度以上13.8度以下の範囲内であることが好ましい。
これにより、側線線材の巻き付け作業が容易となるため、環状金属コードをより容易に製造できる。また、適度な伸度を有し、かつ側線線材の巻き緩みがない環状金属コードを得ることができる。
【0021】
また、本発明に係る無端金属ベルトは、上記本発明に係る環状金属コードを備えていることが好ましい。
上述の環状金属コードを用いることによって、継続的な繰り返し負荷に対しても環状金属コードの撚り緩みが生じず形状を維持することができるため、破断強度及び耐疲労性に優れた無端金属ベルトを得ることができる。
【0022】
また、上記課題を解決することのできる本発明に係る環状金属コードの製造方法は、コアのない中心を囲むように複数の側線線材同士を撚り合わせた原コードを解撚し、1本の前記側線線材を、複数周回環状にしつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とし、前記側線線材の始端部と終端部とを、環状の円弧の外周側で正結びすることを特徴とする。
【0023】
このような環状金属コードの製造方法によれば、原コードから取り出した側線線材における他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に余長部を複数周回にて環状に巻き付けて嵌め入れると、側線線材の隣り合う部分同士が密着した状態となる。側線線材同士の接触抵抗が大きく、側線線材の全長に亘って側線線材同士が強く拘束されるため、繰り返し負荷が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、側線線材同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、端末処理を簡素なものにすることができる。
また、コアのない中心を囲むように複数の側線線材同士を撚り合わせた原コードを解撚させて環状とするので、プーリなどに巻回した際に、断面における側線線材の本数が2〜4本の場合では、プーリの周面に2本の側線線材が安定して接触し、環状金属コード自体の自転がなくされる。また、断面における側線線材の本数が5本以上の場合では、プーリに巻回することにより断面が扁平化し易く、この場合も環状金属コード自体の自転がなくされる。つまり、自転が生じないので、環状の円弧の外周側に多少の突起があってもベルトとしてプーリに巻回して用いることができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、側線線材の始端部と終端部とを正結びにより単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。また、正結びによる接続箇所が環状の円弧の外周側に配置されるので、プーリなどに巻回した際に、プーリの周面への結び目の接触を回避することができる。
なお、この結びを疎かにして適当に結ぶと、結び目の方向が環状方向に対して直角の方向を向くため、引っ掛かりのトラブルが生じたりプーリに食い込んで破断する原因となったりする。
【0024】
また、本発明に係る環状金属コードの製造方法は、コアの周りに少なくとも5本の側線線材を撚り合わせた原コードを解撚し、1本の前記側線線材を、複数周回環状にしつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とし、前記側線線材の始端部と終端部とを、環状の円弧の外周側で正結びすることを特徴とする。
【0025】
このような環状金属コードの製造方法によれば、原コードから取り出した線材における他の線材の抜けた螺旋状の空隙部に余長部を複数周回にて環状に巻き付けて嵌め入れると、線材の隣り合う部分同士が密着した状態となる。線材同士の接触抵抗が大きく、線材の全長に亘って線材同士が強く拘束されるため、繰り返し負荷が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、線材同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、端末処理を簡素なものにすることができる。
また、コアの周りに少なくとも5本の側線線材同士を撚り合わせた原コードを解撚させて環状とするので、プーリなどに巻回することにより断面が扁平化し易く、環状金属コード自体の自転がなくされる。つまり、自転が生じないので、環状の円弧の外周側に多少の突起があってもベルトとしてプーリに巻回して用いることができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、線材の始端部と終端部とを正結びにより単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。また、正結びによる接続箇所が環状の円弧の外周側に配置されるので、プーリなどに巻回した際に、プーリの周面への結び目の接触を回避することができる。
【0026】
本発明に係る環状金属コードの製造方法において、5本以上の前記側線線材同士を撚り合わせた前記原コードを、解撚前に横断面視にて扁平化させておくことが好ましい。
5本以上の側線線材同士を撚り合わせた原コードを、解撚前に横断面視にて扁平化させるので、原コードから取り出した1本の側線線材によって得られた環状金属コードも扁平化されたものとなる。したがって、ベルトとしてプーリに巻回して用いた際における自転を防止することができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、線材の始端部と終端部とを単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。
【0027】
本発明に係る環状金属コードの製造方法において、前記側線線材として複数の金属素線同士を撚り合わせた構造の線材を用い、前記金属素線同士の撚り方向と前記空隙部に嵌め入れる巻き付けの螺旋方向とを逆方向とすることが好ましい。
側線線材内の金属素線同士の撚り方向と側線線材の巻き付け方向を逆にすることで、環状金属コードの機械的特性に方向性が生じることを抑制し、環状金属コードを環状方向に沿って回転させて使用する場合でも蛇行しにくくなる。
【0028】
本発明に係る環状金属コードの製造方法において、前記原コードにおける残りの側線線材の1本を、複数周回環状にしつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とすることが好ましい。
また、原コードの内の残りの側線線材によって環状金属コードを製造することができ、経済的である。
【0029】
本発明に係る環状金属コードの製造方法において、焼鈍処理を施すことが好ましい。
焼鈍処理を施すことにより、撚り合わせ時の加工歪を除去することができ、耐久性を高めることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、継続的な繰り返し負荷に対しても撚り緩みが生じず巻き付けた形状を維持することができる環状金属コード、無端金属ベルト及び環状金属コードの製造方法を提供することができる。したがって、本発明の環状金属コード及び無端金属ベルトを産業機械に用いれば、当該産業機械を耐久性に優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に係る環状金属コードの斜視図である。
【図2】環状金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
【図3】(a)は環状金属コードを示す径方向の断面図であり、(b)は環状金属コードの側面図である。
【図4】環状金属コードの一部を示す拡大斜視図である。
【図5】環状金属コードの製造に用いられる金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
【図6】金属コードの扁平化の工程を説明する側面図である。
【図7】図5の金属コードから取り出したストランド材を示す斜視図である。
【図8】図7のストランド材から環状金属コードを形成していく一過程を示す概略図である。
【図9】ストランド材の始端部と終端部との固定の仕方を示す拡大斜視図である。
【図10】ストランド材の始端部と終端部との固定の仕方を示す拡大斜視図である。
【図11】本実施形態に係る無端金属ベルトの使用状態を示す斜視図である。
【図12】他の環状金属コードの製造に用いられる金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
【図13】環状金属コードの耐久試験装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0033】
図1は、本実施形態に係る環状金属コードの斜視図であり、図2は環状金属コードを示す径方向の断面斜視図であり、図3(a)は、環状金属コードC1を示す径方向の断面図であり、同図(b)は、環状金属コードC1の側面図である。
図1から図3に示すように、環状金属コードC1は、側線線材を複数本用いて環状に撚り合わせてなるものであって、側線線材として予め複数の金属素線が撚り合わされたストランド材1を用いている。
【0034】
本実施形態の環状金属コードC1は、予め螺旋状にくせ付けされた1本のストランド材1を用意し、その略1/6分の長さを環状にした状態で、残りの余長部をその環状部分に複数周回(5周)巻き付けて形成されている。巻き付けの撚り方向は、例えばZ撚である。この環状金属コードC1をストランド材1の径方向の断面で見ると、6本のストランド材1が円を扁平させた楕円の周に配置された構造を有している。
【0035】
各ストランド材1は、5本の金属素線10がS撚方向で撚り合わされた(下撚りされた)ものである。金属素線10は、例えば、炭素(C)を0.7質量%以上含む高炭素鋼ワイヤからなるものである。0.70質量%以上のCを含む材料を選定することで、金属素線10をより破断強度に優れた鋼線とすることができる。また、金属素線10の表面には、銅合金(例えば、真鍮)または亜鉛のめっき処理が施されていてもよい。なお、金属素線10の材質は、前記のものに限られず、例えば、ピアノ線でもよい。
【0036】
また、金属素線10の直径は0.06mm以上0.30mm以下の範囲内である。このように、金属素線10の直径が0.06mm以上であるので、ストランド材1の剛性を最低限維持することができ、環状金属コードC1を変形に耐え得るものとすることができる。また、金属素線10の直径が0.30mm以下であるので、ストランド材1の剛性が過度に大きくならずにすむ。したがって、環状金属コードC1は、繰り返し曲げ応力による疲労破断を生じにくくすることができる。
【0037】
つまり、このような径の金属素線10でストランド材1を形成すると、適度な剛性を有するストランド材1を得ることができる。よって、ストランド材1の巻き付けが容易となり、かつ巻き付け後の巻き緩みが生じにくくなる。
さらに、このストランド材1は、例えば、減圧環境下にて、約280℃で10分間、焼鈍処理が施されている。
【0038】
ストランド材1同士は、Z撚、つまりストランド材1を構成する金属素線10の撚り方向とは逆方向に巻き付けられる。一方、ストランド材1自身は金属素線10がS撚された構成であるため、環状金属コードC1はS撚構造とZ巻構造を組み合わせたものとなる。金属素線10の撚り方向と、ストランド材1の巻き付け方向とが逆であると、環状金属コードC1の機械的特性に方向性が生じることが抑制されて捩れにくく、表面外観に凹凸の少ない環状金属コードC1を得ることができる。また、環状金属コードC1を環状方向に沿って回転させて使用する場合でも蛇行しにくくなる。
【0039】
また、ストランド材1は、6本の撚り合わせ中心軸に対して所定の巻き付け角度で巻き付けられている。このため、ストランド材1が乱れなく巻かれ、表面状態が略均一な環状金属コードC1を得ることができる。本実施形態においては、図3(b)に示すように、X方向、すなわち環状金属コードC1の中心軸が延びる方向に対するストランド材1の巻き付け角度θは、4.5度以上13.8度以下となっている。巻き付け角度θを4.5度以上とすることで、ストランド材1の巻き緩みが生じにくくなる。巻き付け角度θを13.8度以下とすることで、ストランド材1の伸度が過度に大きくなることを防ぐことができる。つまり、ストランド材1の巻き付け角度θを4.5度以上13.8度以下とすることで、適度な伸度を有し、かつしなやかな環状金属コードC1を得ることができる。
【0040】
図4に示すように、ストランド材1の巻き付けの始端部1aと巻き付けの終端部1bとは、環状金属コードC1の環状の円弧の外周側で正結びされている。
ここで、この正結びによる結び目11では、その始端部1aと終端部1bとの間に、2本分のストランド材1を介在させた状態にて正結びされている。これにより、始端部1aと終端部1bとが無理なく確実に正結びされ、強固に接続されている。
【0041】
続いて、環状金属コードC1の製造方法について説明する。
図5は、環状金属コードC1を製造するために用意された金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
図5に示すように、金属コード(原コード)20は、上記の金属素線10を、コアのない中心を囲むように5本撚り合わせて(下撚りして)なる6本のストランド材1を撚り合せた(上撚りした)撚線構造を有している。これらストランド材1は、環状金属コードC1を構成するために用いられる線材である。なお、これら6本のストランド材1を撚り合わせる前に、それぞれ螺旋状の型付けを施しておくとよい。
【0042】
このような金属コード20を解撚して、各ストランド材1に分け、これらストランド材1の1本を用いて環状金属コードC1を製造する。
ここで、金属コード20を解撚する前には、図6(a)に示すように、千鳥状に配置させた複数のローラ21間に、金属コード20を通過させ、この金属コード20を扁平化させておく。使用するローラ21の溝形状は、図6(b)の何れか、もしくはそれらの組み合わせでコードの扁平化が可能となる。
【0043】
そして、上記のように扁平化させた金属コード20から取り出した1本のストランド材1は、図7に示すように、他のストランド材1が存在していた箇所に螺旋状の空隙部5が形成されている。この空隙部5は、他の5本のストランド材1の断面積の合計の断面積を有している。
【0044】
次いで、図8に示すように、ストランド材1の長さの略1/6分の長さを環状にして、その環状部分1dにおける螺旋状の空隙部5にストランド材1の余長部1eを嵌め入れて、複数周回(5周)環状に巻き付けていく。ストランド材1における空隙部5は、その断面積が5本のストランド材1の断面積の合計であり、5周環状に巻き付けられるストランド材1の余長部1eが空隙部5に嵌め入れられ、巻き付けられたストランド材1の隣り合う余長部1e同士が径方向に密着された状態となる。これにより、ストランド材1の全長に亘ってストランド材1同士が強く拘束されるため、繰り返し荷重が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、ストランド材1同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、ストランド材1の始端部1aと終端部1bの端末処理を簡素なものにすることができる。このように本実施形態によれば、継続的な繰り返し負荷に対してもストランド材1の撚り緩みが生じず、ストランド材1を巻き付けた形状を維持することができる環状金属コードC1を容易に製造することができる。
【0045】
また、ストランド材1が単線ではなく、複数の金属素線10同士を撚り合わせた線材であるため、ストランド材1表面の凹凸によりストランド材1同士の接触抵抗も大きくなるので、撚り緩みがさらに生じにくくなる。また、環状金属コードC1の柔軟性が向上し、外力に対して均一負荷となりやすいので破断強度の低下を抑制できる。
【0046】
環状に巻き付けを行った後、ストランド材1の始端部1a及び終端部1bを、図9に示すように、2本分のストランド材1をあけて環状の円弧の外周側に引き出す。そして、この引き出した始端部1a及び終端部1bを伸ばして真直状態とし、これら始端部1aと終端部1bとを、図10に示すように、2本分のストランド材1を介在させて環状の円弧の外周側にて正結びする。さらに、その結び目11を、例えば、始端部1aあるいは終端部1bのいずれか一方を固定しておき、他方を引っ張ることによりかしめる。なお、結び目11をつぶすことによってかしめても良い。このようにすると、始端部1a及び終端部1bを強固に固定することができる。
なお、正結び後は、結び目11が解けないようにペンチ等で押さえる等して緩みをなくした後、結び目11の近くにて、始端部1a及び終端部1bの余分な部分を切断して除去する。
【0047】
その後、この環状金属コードC1を、例えば、減圧環境下にて、約280℃で10分間、焼鈍処理を施す。このようにすると、環状金属コードC1の撚り合わせ時(下撚、上撚)に発生する歪を除去することができ、これにより、環状金属コードC1の一層の耐疲労性の向上が期待できる。
【0048】
次に、上述した構成を有する環状金属コードC1を備える無端金属ベルトの一例について説明する。図11は本実施形態に係る無端金属ベルトの使用状態を示す模式的な斜視図である。
【0049】
無端金属ベルトB1は、例えば図11に示されるような、精密機器やその他の産業機械で使用されている減速機30用に用いられる。無端金属ベルトB1は、並行して配列された3本の環状金属コードC1からなり、小径の駆動側プーリ32と大径の被駆動側プーリ34との間の動力伝達を担っている。駆動側プーリ32の回転中心には、駆動用モータ36の駆動軸が接続されている。駆動側プーリ32及び被駆動側プーリ34の外周には各環状金属コードC1を安定的に掛け渡すための円周溝が形成され、無端金属ベルトB1を駆動側プーリ32及び被駆動側プーリ34に掛け渡すことにより、駆動側プーリ32の回転力が無端金属ベルトB1を介して被駆動側プーリ34に伝達される。その際、駆動側プーリ32の回転速度は被駆動側プーリ34にて減速され、駆動側プーリ32のトルクは被駆動側プーリ34にて増大される。被駆動側プーリ34は、例えば図示せぬ他のプーリ等に軸接続され、動力を伝達する。
【0050】
環状金属コードC1は、先に述べたように破断強度が非常に大きい。また、環状金属コードC1は、コアのない中心を囲むように複数のストランド材1同士を撚り合わせた金属コード20が解撚され、1本のストランド材1が複数周回環状にされつつ空隙部5に余長部1eが嵌め入れられて巻き付けられて環状とされているので、断面における線材の本数が5本以上(実施形態では6本)の場合でも、プーリ32,34に巻回することにより断面が扁平化し易く、環状金属コードC1自体の自転がなくされる。つまり、自転が生じないので、環状の円弧の外周側に多少の突起があってもベルトとしてプーリ32,34に巻回して用いることができる。
【0051】
特に、実施形態のように、6本(5本以上)のストランド材1同士を撚り合わせた金属コード20を、解撚前に断面視にて扁平化させると、金属コード20から取り出した1本のストランド材1によって得られた環状金属コードC1を良好に扁平化することができる。したがって、ベルトとしてプーリ32,34に巻回して用いた際における自転を確実に防止することができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、ストランド材1の始端部1aと終端部1bとを単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。
【0052】
そして、始端部1aと終端部1bとを正結びして固定した結び目11が環状の円弧の外周側に配置されているので、プーリ32,34に巻回した際に、プーリ32,34の周面への結び目11の接触を回避することができる。
さらに、焼鈍処理を施しているので、ストランド材1の撚り合わせ時の加工歪を除去することができ、耐久性を高めることができる。
【0053】
また、上記実施形態では、6本のストランド材1の内の1本のストランド材1を用いて環状金属コードC1を製造したが、残りの5本のそれぞれのストランド材1についても同様に、前述したように、複数周回環状にしつつ空隙部5に、余長部1eを嵌め入れて巻き付けて環状金属コードC1を製造することができ、経済性を高めることができる。
【0054】
また、本実施形態の無端金属ベルトB1において、駆動側プーリ32及び被駆動側プーリ34に環状金属コードC1がそれぞれ3本ずつ掛け渡される形態としたが、掛け渡される環状金属コードC1の本数はこれに限られない。求められる駆動力またはベルト張力に応じて、環状金属コードC1の本数を調整することが可能である。
【0055】
また、本実施形態は、環状金属コードを、減速機において動力を伝達する無端金属ベルトに適用したものであるが、本発明の環状金属コードは、減速機以外で使用される無端金属ベルトにも適用することができる。例えば、プリンタをはじめとする印刷機において紙送りローラ間の動力伝達を担う無端金属ベルト、一軸ロボットの直行駆動を担う無端金属ベルト、X−Yテーブル機構の駆動や三次元のキャリッジ駆動を担う無端金属ベルト、光学機器や検査機、あるいは測定器内において精密駆動を担う無端金属ベルト、自動車の無段変速機における駆動側プーリ及び被駆動側プーリの間の動力伝達を担う無端金属ベルト等に適用可能である。
【0056】
なお、上記実施形態では、断面におけるストランド材1の本数が5本以上である6本の場合を例にとって説明したが、断面におけるストランド材1は、複数であれば、6本に限定されない。
例えば、断面におけるストランド材1の本数が2〜4本の場合においても、プーリ32,34の周面に2本のストランド材1が安定して接触し、環状金属コードC1自体の自転がなくされる。
【0057】
ここで、断面におけるストランド材1が3本の環状金属コードC1について説明する。
この3本の環状金属コードC1を作製するには、図12に示すように、コアのない中心を囲むように3本のストランド材1同士を撚り合わせた金属コード20の1本を用いる。ここでは、このストランド材1は、3本の金属素線10がS撚方向で撚り合わされた(下撚りされた)4本の線材10aが、さらに、S撚方向で撚り合わされて(下撚りされて)構成されている。そして、このストランド材1がZ撚方向で撚り合わされて(上撚りされて)金属コード20が構成されている。
【0058】
この金属コード20を解撚し、1本のストランド材1を、3周回環状にしつつ他の2本のストランド材1の抜けた螺旋状の空隙部5に、余長部1eを嵌め入れて巻き付けて環状とする。そして、始端部1aと終端部1bとを、結び目11が環状の円弧の外周側となるように正結びにて強固に接続し、その後、焼鈍処理を施す。
これにより、1本のストランド材1から、断面におけるストランド材1が3本の環状金属コードC1が得られる。
【0059】
そして、この環状金属コードC1においても、破断強度が非常に大きく、繰り返し負荷に対しても緩みが生じない。また、3本のストランド材1同士を撚り合わせた金属コード20が解撚されて環状とされて断面におけるストランド材1が3本とされているので、プーリ32,34に巻回した際に、プーリ34の周面に2本のストランド材1が安定して接触し、環状金属コードC1自体の自転がなくされる。
【0060】
なお、この場合も、残りの2本のそれぞれのストランド材1についても同様に、3周回環状にしつつ空隙部5に、余長部1eを嵌め入れて巻き付けて環状金属コードC1を製造することができ、経済性を高めることができる。
【0061】
また、上記実施形態では、コアのない中心を囲むように複数のストランド材(側線線材)同士を撚り合わせた原コードを解撚させて環状に撚り合わせた環状金属コードについて説明したが、原コードには側線線材同士の撚り合わせ中心にコアがあってもよい。例えば、図5に示した6本のストランド材1の撚り合わせ中心に、コアとなる線材を有する原コードを使用することができる。
このような原コードを解撚して、得られた側線線材の1本を環状に巻き付けることで、上記実施形態と同様に環状金属コードを製造することができる。コアの周りに少なくとも5本の側線線材同士を撚り合わせた原コードを用いてることで、得られた環状金属コードはプーリなどに巻回することにより断面が扁平化し易く、環状金属コード自体の自転がなくされ、環状の円弧の外周側にて、側線線材の始端部と終端部とを正結びにより単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。
【実施例】
【0062】
次に、本発明に係る環状金属コードの実施例について説明する。
周回数の異なる2種類の環状金属コードについて、始端部と終端部との接続方法の違い及び焼鈍処理の有無による耐久性の変化を調べた。
【0063】
(1)環状金属コード
(1−1)3×4×3×0.150の環状金属コード
(ストランド材の作製)
スチールコード用途の直径0.90mmのブラスメッキ鋼線を直径0.15mmまで伸線加工した素線を3リールに巻き取り、バンチャー型撚線機を用いて7.5mmの撚りピッチでS撚りにて撚り合わせる。
さらに、この線材(3×0.150)を4リールに所定量巻き取り、再度サプライしてバンチャー型撚線機を用いて5.0mmの撚りピッチでS/S撚りにて撚り合わせてストランド材を作製し、このストランド材を3リール用意する。
なお、バンチ撚りの場合、プレフォーム装置を使用しなくても93%前後の直径型付け率になるように調整できる。
(金属コードの作製)
上記のストランド材を、3本撚りができるチューブラー型撚線機を用いて7.5mmの撚りピッチでZ撚りにて所定量上撚りして金属コードとする。なお、プレフォーム装置を用いて事前に93%前後の直径型付け率に調整する。
(金属コードの解撚)
上撚りした金属コードを、余長分も含めて環状金属コードの環状径(層心径:D1)の約10倍((D1)π×3)の長さで切断した後、全長にわたって解撚し、各ストランド材毎に分離する。
(環状金属コード化)
分離した3本のストランド材の内の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、2周回移動させて他の2本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んでコード化する。
【0064】
(1−2)6×5×0.150の環状金属コード
(ストランド材の作製)
スチールコード用途の直径0.90mmのブラスメッキ鋼線を直径0.15mmまで伸線加工した素線を5リールに巻き取り、バンチャー型撚線機を用いて5.0mmの撚りピッチでS撚りにて撚り合わせてストランド材とし、このストランド材(5×0.150)を6リールに所定量巻き取る。
なお、バンチ撚りの場合、プレフォーム装置を使用しなくても93%前後の直径型付け率になるように調整できる。
(金属コードの作製)
上記のストランド材を、6本撚りができるチューブラー型撚線機を用いて7.0mmの撚りピッチでZ撚りにて所定量上撚りして金属コードとする。なお、プレフォーム装置を用いて事前に93%前後の直径型付け率に調整する。
なお、6本(5本以上)のストランド材からなる金属コードは断面が円形に近いので、プーリに巻回してベルトとして用いても自転しにくい断面形状が扁平な環状金属コードを作製する場合には、複数のローラ間を通過させて扁平化(扁平率78±3%)しておく。
(金属コードの解撚)
上撚りした金属コードを、余長分も含めて環状金属コードの環状径(層心径:D1)の約20倍((D1)π×6)の長さで切断した後、全長にわたって解撚し、各ストランド材毎に分離する。
(環状金属コード化)
分離した6本のストランド材の内の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の5本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んでコード化する。
【0065】
(2)耐久試験
(2−1)耐久試験装置
図13に耐久試験装置を示す。図13に示すように、耐久性試験装置は、駆動モータ51によって回転される駆動プーリ52と、この駆動プーリ52に対して水平方向へ接離可能に支持された従動プーリ53と、従動プーリ53を駆動プーリ52から離間させる方向へ荷重を付与する張力付加部54とを備える。
駆動プーリ52及び従動プーリ53の直径は、39.3mmとし、環状金属コードを巻回した際のコードの中心を通る径が約40mmとなるようにした。
張力付加部54は、従動プーリ53にロープ55を介して取り付けられた重り56と、ロープ55が掛けられた滑車57とを有し、重り56の荷重によって従動プーリ53が駆動プーリ52から離間される。そして、この張力付加部54では、重り56の重さを調整し、付加張力が8.5kgf(コードの強度の5%前後)とされている。
(2−2)耐久試験方法
上記の耐久性試験装置の駆動プーリ52と従動プーリ53とに、各環状金属コードを巻き掛けて駆動プーリ52を3,500rpmにて回転させ、環状金属コードに繰り返し引っ張り曲げ応力をかけ、環状金属コードの切断、弛み、ワイヤー(素線)の切れ等の不具合の発生の有無及び不具合発生までの耐久回数(換算回数)を調べて評価した。なお、結び目を有する環状金属コードでは、その結び目が環状の円弧の外周側に配置して駆動プーリ52及び従動プーリ53に巻き掛けた。
(2−3)耐久試験結果
耐久試験結果を、表1及び表2に示す。
なお、表1は、3×4×3×0.150の環状金属コードの結果を示し、表2は、6×5×0.150の環状金属コードの結果を示している。
【0066】
【表1】
【0067】
表1から明らかなように、3×4×3×0.150の環状金属コードでは、始端部と終端部とを正結びして接続した実施例1,2は、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が極めて多くなり、特に、焼鈍処理を施した実施例2では切断が認められなかった。
これに対して、始端部と終端部とを金属スリーブにて接続した比較例1、半かご差しとした比較例2,4及び金属スリーブと半かご差しとの組み合わせとした比較例3では、焼鈍処理の有無に関わらず、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
【0068】
【表2】
【0069】
表2から明らかなように、6×5×0.150の環状金属コードでは、始端部と終端部とを正結びして接続した実施例3〜5は、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が極めて多くなり、さらに扁平化した実施例4,5は、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が極めて多くなり、特に、焼鈍処理を施した実施例5では切断が認められなかった。
これに対して、始端部と終端部とを金属スリーブにて接続した比較例5、半かご差しとした比較例6及び金属スリーブと半かご差しとの組み合わせとした比較例7では、焼鈍処理の有無に関わらず、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
【0070】
以上のことから、始端部と終端部とを正結びにて接続することにより、ストランド材の移動を防止でき、撚り緩みが生じず巻き付けた形状を維持することが可能な強固な環状金属コードとすることができることが分かった。特に、焼鈍処理を施すことにより、さらに強度が高められた環状金属コードが得られることが分かった。
【符号の説明】
【0071】
1…ストランド材(側線線材)、1a…始端部、1b…終端部、1d…環状部分、1e…余長部、5…空隙部、10…金属素線、11…結び目、20…金属コード(原コード)、B1…無端金属ベルト、C1…環状金属コード。
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状金属コード、無端金属ベルト及び環状金属コードの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、環状金属コードを製造する方法として、例えば特許文献1,2に記載されているように、ワイヤーロープを構成する線材の半分を解撚または切除して取り除いた後に、残った線材を一部環状にしつつその周囲に巻き付けてエンドレス加工することが知られている。
【0003】
特許文献1に記載されたワイヤーロープの簡易エンドレス加工法は、まず、設計寸法リングの内周長の2倍強の長さをもった6本の素線が撚り合されて構成されたワイヤーロープを用意する。これを3本の素線の撚り合せ線2本に解き別けて内周長と当該内周長より少し長いより代とを有する基糸を形成する。次に、当該3本素線撚り合せ線からなる基糸の一方を用いて、まず設計寸法の基本となるリング部とその組み合わせ部から延出するストランド部を形成する。そのうえ、当該延出するストランド部をリング部に撚り合せながら巻き付けて2本の基糸(6本の素線)が撚り合された状態のエンドレス加工を行う。その後、基糸の撚り合せ端部をロック止めもしくは半かご差しまたは半かご差しとロック止めの組み合わせ処理のいずれかの端部処理をする。
【0004】
特許文献2に記載されたエンドレススリングは、次のようにして製造されている。まず、所定長さのワイヤーロープの全長にわたって、全本数の1/2のストランドを切除し、ワイヤーロープの全長の1/2の心綱を切除する。残った心綱の両端部を同心に突き合わせたうえ、心綱を切除した側のストランドを、心綱を切除しない側のストランドの切除部に巻き付けて同心状のエンドレスとする。その後、心綱及びストランドの両端部にまたがってスリーブを圧縮加工する。
【0005】
特許文献3に記載されたエンドレスリングは、ワイヤーロープの一部を輪状に交差させて輪状部を形成し、ワイヤーロープを前記輪状部の回りに撚り合わせながら所定の回数周回させた後、ワイヤーロープの残り部分を撚り合わせた部分の内部にロープ心として入れ込んで形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3069796号公報
【特許文献2】特開平5−132881号公報
【特許文献3】特開2007−63677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に記載の環状金属コードは、何れも玉掛け用吊り具であり、所定の曲げや張力などの負荷を繰り返し受けるような使用状況は想定されていないものである。これらの環状金属コードは、ワイヤーロープを横断面でみて円周上の線材の本数を一旦半分にして、残った線材の余長を空いている残り半分のスペースに再巻き付けしているものであるため、隣り合う線材同士の接触抵抗が弱い。そのため、前記のような繰り返し負荷が加わると撚り緩みが生じやすく、そのまま使用を続けていると最後には破断してしまう。
【0008】
さらに、環状に巻き付けた後の端末処理は、特許文献1では端末を撚り合わせた箇所に差し込むかご差しやロック止めであるため、前記のような繰り返し負荷が加わるとこれらの箇所に応力集中が起こり、早期に破断してしまう。また、特許文献2ではスリーブにより両端末を固定するため、その部分だけコード径が太くなり、荷重が環状方向で不均一になる。このように、特許文献1,2に記載の環状金属コードは、継続的な繰り返し負荷に対して耐え得る構造ではない。
【0009】
特許文献3に記載の環状金属コードであるエンドレスリングは、ワイヤーロープを輪状部の回りに撚り合わせながら所定の回数周回させることにより、ワイヤーロープ全体を使用して巻き付けることになるが、この場合巻き付けピッチが一巻き毎にばらついてしまい、コード径が太くなり、環状方向で均一な強度が得られない。また、このエンドレスリングも、荷吊り作業に用いられるものであり、所定の曲げや張力などの負荷を繰り返し受けるような使用状況は想定されていないものである。
【0010】
これらのような環状金属コードを無端金属ベルトに用いると、撚り緩みや端末の結合部などの影響で回転負荷が変動し、比較的短期間で破損してしまうおそれがある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、継続的な繰り返し負荷に対しても撚り緩みが生じず巻き付けた形状を維持することができる環状金属コード、無端金属ベルト及び環状金属コードの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することのできる本発明に係る環状金属コードは、コアのない中心を囲むように複数の側線線材同士を撚り合わせた原コードが解撚され、1本の前記側線線材が、複数周回環状にされつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部が嵌め入れられて巻き付けられて環状とされ、前記側線線材の始端部と終端部とが、環状の円弧の外周側で正結びされていることを特徴とする。
【0013】
このような構成の環状金属コードによれば、原コードから取り出した側線線材における他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に余長部が複数周回にて環状に巻き付けられて嵌め入れられると、側線線材の隣り合う部分同士が密着した状態となる。側線線材同士の接触抵抗が大きく、側線線材の全長に亘って側線線材同士が強く拘束されるため、繰り返し負荷が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、側線線材同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、端末処理を簡素なものにすることができる。
また、コアのない中心を囲むように複数の側線線材同士を撚り合わせた原コードが解撚されて環状とされているので、プーリなどに巻回した際に、断面における側線線材の本数が2〜4本の場合では、プーリの周面に2本の側線線材が安定して接触し、環状金属コード自体の自転がなくされる。また、断面における側線線材の本数が5本以上の場合では、プーリに巻回することにより断面が扁平化し易く、この場合も環状金属コード自体の自転がなくされる。つまり、自転が生じないので、環状の円弧の外周側に多少の突起があってもベルトとしてプーリに巻回して用いることができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、側線線材の始端部と終端部とを正結びにより単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。また、正結びによる接続箇所が環状の円弧の外周側に配置されているので、プーリなどに巻回した際に、プーリの周面への結び目の接触を回避することができる。
なお、この結びを疎かにして適当に結ぶと、結び目の方向が環状方向に対して直角の方向を向くため、引っ掛かりのトラブルが生じたりプーリに食い込んで破断する原因となったりする。
【0014】
また、本発明に係る環状金属コードは、コアの周りに少なくとも5本の側線線材を撚り合わせた原コードが解撚され、1本の前記側線線材が、複数周回環状にされつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部が嵌め入れられて巻き付けられて環状とされ、前記側線線材の始端部と終端部とが、環状の円弧の外周側で正結びされていることを特徴とする。
【0015】
このような構成の環状金属コードによれば、原コードから取り出した側線線材における他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に余長部が複数周回にて環状に巻き付けられて嵌め入れられると、側線線材の隣り合う部分同士が密着した状態となる。側線線材同士の接触抵抗が大きく、側線線材の全長に亘って側線線材同士が強く拘束されるため、繰り返し負荷が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、側線線材同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、端末処理を簡素なものにすることができる。
また、コアの周りに少なくとも5本の側線線材同士を撚り合わせた原コードが解撚されて環状とされているので、プーリなどに巻回することにより断面が扁平化し易く、環状金属コード自体の自転がなくされる。つまり、自転が生じないので、環状の円弧の外周側に多少の突起があってもベルトとしてプーリに巻回して用いることができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、側線線材の始端部と終端部とを正結びにより単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。また、正結びによる接続箇所が環状の円弧の外周側に配置されているので、プーリなどに巻回した際に、プーリの周面への結び目の接触を回避することができる。
【0016】
本発明に係る環状金属コードにおいて、前記原コードが5本以上の前記側線線材同士を撚り合わせたものである場合、前記環状金属コードが環状方向に対する横断面視で扁平化されていることが好ましい。
5本以上の側線線材同士を撚り合わせた原コードを解撚して取り出した1本の側線線材によって得られた環状金属コードが環状方向に対する横断面視で扁平化されている。したがって、ベルトとしてプーリに巻回して用いた際における自転を防止することができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、線材の始端部と終端部とを単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。
【0017】
本発明に係る環状金属コードにおいて、前記側線線材は複数の金属素線同士を撚り合わせた構造であり、前記金属素線同士の撚り方向と前記空隙部に嵌め入れられている巻き付けの螺旋方向とが逆方向であることが好ましい。
線材内の金属素線同士の撚り方向と側線線材の巻き付け方向を逆にすることで、環状金属コードの機械的特性に方向性が生じることを抑制し、環状金属コードを環状方向に沿って回転させて使用する場合でも蛇行しにくくなる。
【0018】
本発明に係る環状金属コードにおいて、焼鈍処理が施されていることが好ましい。
焼鈍処理が施されているので、撚り合わせ時の加工歪を除去することができ、耐久性を高めることができる。
【0019】
本発明に係る環状金属コードにおいて、前記側線線材は、直径が0.06mm以上0.30mm以下の範囲内である複数の金属素線同士を撚り合わせた構造であることが好ましい。
これにより、側線線材に適度な剛性をもたせることができ、側線線材を良好な耐疲労性を有するものとすることができる。その結果、環状金属コードをより耐久性に優れたものにできる。
【0020】
本発明に係る環状金属コードにおいて、互いに巻き付けられた前記側線線材の環状部分における中心軸に対する前記側線線材の巻き付け角度が4.5度以上13.8度以下の範囲内であることが好ましい。
これにより、側線線材の巻き付け作業が容易となるため、環状金属コードをより容易に製造できる。また、適度な伸度を有し、かつ側線線材の巻き緩みがない環状金属コードを得ることができる。
【0021】
また、本発明に係る無端金属ベルトは、上記本発明に係る環状金属コードを備えていることが好ましい。
上述の環状金属コードを用いることによって、継続的な繰り返し負荷に対しても環状金属コードの撚り緩みが生じず形状を維持することができるため、破断強度及び耐疲労性に優れた無端金属ベルトを得ることができる。
【0022】
また、上記課題を解決することのできる本発明に係る環状金属コードの製造方法は、コアのない中心を囲むように複数の側線線材同士を撚り合わせた原コードを解撚し、1本の前記側線線材を、複数周回環状にしつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とし、前記側線線材の始端部と終端部とを、環状の円弧の外周側で正結びすることを特徴とする。
【0023】
このような環状金属コードの製造方法によれば、原コードから取り出した側線線材における他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に余長部を複数周回にて環状に巻き付けて嵌め入れると、側線線材の隣り合う部分同士が密着した状態となる。側線線材同士の接触抵抗が大きく、側線線材の全長に亘って側線線材同士が強く拘束されるため、繰り返し負荷が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、側線線材同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、端末処理を簡素なものにすることができる。
また、コアのない中心を囲むように複数の側線線材同士を撚り合わせた原コードを解撚させて環状とするので、プーリなどに巻回した際に、断面における側線線材の本数が2〜4本の場合では、プーリの周面に2本の側線線材が安定して接触し、環状金属コード自体の自転がなくされる。また、断面における側線線材の本数が5本以上の場合では、プーリに巻回することにより断面が扁平化し易く、この場合も環状金属コード自体の自転がなくされる。つまり、自転が生じないので、環状の円弧の外周側に多少の突起があってもベルトとしてプーリに巻回して用いることができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、側線線材の始端部と終端部とを正結びにより単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。また、正結びによる接続箇所が環状の円弧の外周側に配置されるので、プーリなどに巻回した際に、プーリの周面への結び目の接触を回避することができる。
なお、この結びを疎かにして適当に結ぶと、結び目の方向が環状方向に対して直角の方向を向くため、引っ掛かりのトラブルが生じたりプーリに食い込んで破断する原因となったりする。
【0024】
また、本発明に係る環状金属コードの製造方法は、コアの周りに少なくとも5本の側線線材を撚り合わせた原コードを解撚し、1本の前記側線線材を、複数周回環状にしつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とし、前記側線線材の始端部と終端部とを、環状の円弧の外周側で正結びすることを特徴とする。
【0025】
このような環状金属コードの製造方法によれば、原コードから取り出した線材における他の線材の抜けた螺旋状の空隙部に余長部を複数周回にて環状に巻き付けて嵌め入れると、線材の隣り合う部分同士が密着した状態となる。線材同士の接触抵抗が大きく、線材の全長に亘って線材同士が強く拘束されるため、繰り返し負荷が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、線材同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、端末処理を簡素なものにすることができる。
また、コアの周りに少なくとも5本の側線線材同士を撚り合わせた原コードを解撚させて環状とするので、プーリなどに巻回することにより断面が扁平化し易く、環状金属コード自体の自転がなくされる。つまり、自転が生じないので、環状の円弧の外周側に多少の突起があってもベルトとしてプーリに巻回して用いることができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、線材の始端部と終端部とを正結びにより単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。また、正結びによる接続箇所が環状の円弧の外周側に配置されるので、プーリなどに巻回した際に、プーリの周面への結び目の接触を回避することができる。
【0026】
本発明に係る環状金属コードの製造方法において、5本以上の前記側線線材同士を撚り合わせた前記原コードを、解撚前に横断面視にて扁平化させておくことが好ましい。
5本以上の側線線材同士を撚り合わせた原コードを、解撚前に横断面視にて扁平化させるので、原コードから取り出した1本の側線線材によって得られた環状金属コードも扁平化されたものとなる。したがって、ベルトとしてプーリに巻回して用いた際における自転を防止することができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、線材の始端部と終端部とを単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。
【0027】
本発明に係る環状金属コードの製造方法において、前記側線線材として複数の金属素線同士を撚り合わせた構造の線材を用い、前記金属素線同士の撚り方向と前記空隙部に嵌め入れる巻き付けの螺旋方向とを逆方向とすることが好ましい。
側線線材内の金属素線同士の撚り方向と側線線材の巻き付け方向を逆にすることで、環状金属コードの機械的特性に方向性が生じることを抑制し、環状金属コードを環状方向に沿って回転させて使用する場合でも蛇行しにくくなる。
【0028】
本発明に係る環状金属コードの製造方法において、前記原コードにおける残りの側線線材の1本を、複数周回環状にしつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とすることが好ましい。
また、原コードの内の残りの側線線材によって環状金属コードを製造することができ、経済的である。
【0029】
本発明に係る環状金属コードの製造方法において、焼鈍処理を施すことが好ましい。
焼鈍処理を施すことにより、撚り合わせ時の加工歪を除去することができ、耐久性を高めることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、継続的な繰り返し負荷に対しても撚り緩みが生じず巻き付けた形状を維持することができる環状金属コード、無端金属ベルト及び環状金属コードの製造方法を提供することができる。したがって、本発明の環状金属コード及び無端金属ベルトを産業機械に用いれば、当該産業機械を耐久性に優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に係る環状金属コードの斜視図である。
【図2】環状金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
【図3】(a)は環状金属コードを示す径方向の断面図であり、(b)は環状金属コードの側面図である。
【図4】環状金属コードの一部を示す拡大斜視図である。
【図5】環状金属コードの製造に用いられる金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
【図6】金属コードの扁平化の工程を説明する側面図である。
【図7】図5の金属コードから取り出したストランド材を示す斜視図である。
【図8】図7のストランド材から環状金属コードを形成していく一過程を示す概略図である。
【図9】ストランド材の始端部と終端部との固定の仕方を示す拡大斜視図である。
【図10】ストランド材の始端部と終端部との固定の仕方を示す拡大斜視図である。
【図11】本実施形態に係る無端金属ベルトの使用状態を示す斜視図である。
【図12】他の環状金属コードの製造に用いられる金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
【図13】環状金属コードの耐久試験装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0033】
図1は、本実施形態に係る環状金属コードの斜視図であり、図2は環状金属コードを示す径方向の断面斜視図であり、図3(a)は、環状金属コードC1を示す径方向の断面図であり、同図(b)は、環状金属コードC1の側面図である。
図1から図3に示すように、環状金属コードC1は、側線線材を複数本用いて環状に撚り合わせてなるものであって、側線線材として予め複数の金属素線が撚り合わされたストランド材1を用いている。
【0034】
本実施形態の環状金属コードC1は、予め螺旋状にくせ付けされた1本のストランド材1を用意し、その略1/6分の長さを環状にした状態で、残りの余長部をその環状部分に複数周回(5周)巻き付けて形成されている。巻き付けの撚り方向は、例えばZ撚である。この環状金属コードC1をストランド材1の径方向の断面で見ると、6本のストランド材1が円を扁平させた楕円の周に配置された構造を有している。
【0035】
各ストランド材1は、5本の金属素線10がS撚方向で撚り合わされた(下撚りされた)ものである。金属素線10は、例えば、炭素(C)を0.7質量%以上含む高炭素鋼ワイヤからなるものである。0.70質量%以上のCを含む材料を選定することで、金属素線10をより破断強度に優れた鋼線とすることができる。また、金属素線10の表面には、銅合金(例えば、真鍮)または亜鉛のめっき処理が施されていてもよい。なお、金属素線10の材質は、前記のものに限られず、例えば、ピアノ線でもよい。
【0036】
また、金属素線10の直径は0.06mm以上0.30mm以下の範囲内である。このように、金属素線10の直径が0.06mm以上であるので、ストランド材1の剛性を最低限維持することができ、環状金属コードC1を変形に耐え得るものとすることができる。また、金属素線10の直径が0.30mm以下であるので、ストランド材1の剛性が過度に大きくならずにすむ。したがって、環状金属コードC1は、繰り返し曲げ応力による疲労破断を生じにくくすることができる。
【0037】
つまり、このような径の金属素線10でストランド材1を形成すると、適度な剛性を有するストランド材1を得ることができる。よって、ストランド材1の巻き付けが容易となり、かつ巻き付け後の巻き緩みが生じにくくなる。
さらに、このストランド材1は、例えば、減圧環境下にて、約280℃で10分間、焼鈍処理が施されている。
【0038】
ストランド材1同士は、Z撚、つまりストランド材1を構成する金属素線10の撚り方向とは逆方向に巻き付けられる。一方、ストランド材1自身は金属素線10がS撚された構成であるため、環状金属コードC1はS撚構造とZ巻構造を組み合わせたものとなる。金属素線10の撚り方向と、ストランド材1の巻き付け方向とが逆であると、環状金属コードC1の機械的特性に方向性が生じることが抑制されて捩れにくく、表面外観に凹凸の少ない環状金属コードC1を得ることができる。また、環状金属コードC1を環状方向に沿って回転させて使用する場合でも蛇行しにくくなる。
【0039】
また、ストランド材1は、6本の撚り合わせ中心軸に対して所定の巻き付け角度で巻き付けられている。このため、ストランド材1が乱れなく巻かれ、表面状態が略均一な環状金属コードC1を得ることができる。本実施形態においては、図3(b)に示すように、X方向、すなわち環状金属コードC1の中心軸が延びる方向に対するストランド材1の巻き付け角度θは、4.5度以上13.8度以下となっている。巻き付け角度θを4.5度以上とすることで、ストランド材1の巻き緩みが生じにくくなる。巻き付け角度θを13.8度以下とすることで、ストランド材1の伸度が過度に大きくなることを防ぐことができる。つまり、ストランド材1の巻き付け角度θを4.5度以上13.8度以下とすることで、適度な伸度を有し、かつしなやかな環状金属コードC1を得ることができる。
【0040】
図4に示すように、ストランド材1の巻き付けの始端部1aと巻き付けの終端部1bとは、環状金属コードC1の環状の円弧の外周側で正結びされている。
ここで、この正結びによる結び目11では、その始端部1aと終端部1bとの間に、2本分のストランド材1を介在させた状態にて正結びされている。これにより、始端部1aと終端部1bとが無理なく確実に正結びされ、強固に接続されている。
【0041】
続いて、環状金属コードC1の製造方法について説明する。
図5は、環状金属コードC1を製造するために用意された金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
図5に示すように、金属コード(原コード)20は、上記の金属素線10を、コアのない中心を囲むように5本撚り合わせて(下撚りして)なる6本のストランド材1を撚り合せた(上撚りした)撚線構造を有している。これらストランド材1は、環状金属コードC1を構成するために用いられる線材である。なお、これら6本のストランド材1を撚り合わせる前に、それぞれ螺旋状の型付けを施しておくとよい。
【0042】
このような金属コード20を解撚して、各ストランド材1に分け、これらストランド材1の1本を用いて環状金属コードC1を製造する。
ここで、金属コード20を解撚する前には、図6(a)に示すように、千鳥状に配置させた複数のローラ21間に、金属コード20を通過させ、この金属コード20を扁平化させておく。使用するローラ21の溝形状は、図6(b)の何れか、もしくはそれらの組み合わせでコードの扁平化が可能となる。
【0043】
そして、上記のように扁平化させた金属コード20から取り出した1本のストランド材1は、図7に示すように、他のストランド材1が存在していた箇所に螺旋状の空隙部5が形成されている。この空隙部5は、他の5本のストランド材1の断面積の合計の断面積を有している。
【0044】
次いで、図8に示すように、ストランド材1の長さの略1/6分の長さを環状にして、その環状部分1dにおける螺旋状の空隙部5にストランド材1の余長部1eを嵌め入れて、複数周回(5周)環状に巻き付けていく。ストランド材1における空隙部5は、その断面積が5本のストランド材1の断面積の合計であり、5周環状に巻き付けられるストランド材1の余長部1eが空隙部5に嵌め入れられ、巻き付けられたストランド材1の隣り合う余長部1e同士が径方向に密着された状態となる。これにより、ストランド材1の全長に亘ってストランド材1同士が強く拘束されるため、繰り返し荷重が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、ストランド材1同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、ストランド材1の始端部1aと終端部1bの端末処理を簡素なものにすることができる。このように本実施形態によれば、継続的な繰り返し負荷に対してもストランド材1の撚り緩みが生じず、ストランド材1を巻き付けた形状を維持することができる環状金属コードC1を容易に製造することができる。
【0045】
また、ストランド材1が単線ではなく、複数の金属素線10同士を撚り合わせた線材であるため、ストランド材1表面の凹凸によりストランド材1同士の接触抵抗も大きくなるので、撚り緩みがさらに生じにくくなる。また、環状金属コードC1の柔軟性が向上し、外力に対して均一負荷となりやすいので破断強度の低下を抑制できる。
【0046】
環状に巻き付けを行った後、ストランド材1の始端部1a及び終端部1bを、図9に示すように、2本分のストランド材1をあけて環状の円弧の外周側に引き出す。そして、この引き出した始端部1a及び終端部1bを伸ばして真直状態とし、これら始端部1aと終端部1bとを、図10に示すように、2本分のストランド材1を介在させて環状の円弧の外周側にて正結びする。さらに、その結び目11を、例えば、始端部1aあるいは終端部1bのいずれか一方を固定しておき、他方を引っ張ることによりかしめる。なお、結び目11をつぶすことによってかしめても良い。このようにすると、始端部1a及び終端部1bを強固に固定することができる。
なお、正結び後は、結び目11が解けないようにペンチ等で押さえる等して緩みをなくした後、結び目11の近くにて、始端部1a及び終端部1bの余分な部分を切断して除去する。
【0047】
その後、この環状金属コードC1を、例えば、減圧環境下にて、約280℃で10分間、焼鈍処理を施す。このようにすると、環状金属コードC1の撚り合わせ時(下撚、上撚)に発生する歪を除去することができ、これにより、環状金属コードC1の一層の耐疲労性の向上が期待できる。
【0048】
次に、上述した構成を有する環状金属コードC1を備える無端金属ベルトの一例について説明する。図11は本実施形態に係る無端金属ベルトの使用状態を示す模式的な斜視図である。
【0049】
無端金属ベルトB1は、例えば図11に示されるような、精密機器やその他の産業機械で使用されている減速機30用に用いられる。無端金属ベルトB1は、並行して配列された3本の環状金属コードC1からなり、小径の駆動側プーリ32と大径の被駆動側プーリ34との間の動力伝達を担っている。駆動側プーリ32の回転中心には、駆動用モータ36の駆動軸が接続されている。駆動側プーリ32及び被駆動側プーリ34の外周には各環状金属コードC1を安定的に掛け渡すための円周溝が形成され、無端金属ベルトB1を駆動側プーリ32及び被駆動側プーリ34に掛け渡すことにより、駆動側プーリ32の回転力が無端金属ベルトB1を介して被駆動側プーリ34に伝達される。その際、駆動側プーリ32の回転速度は被駆動側プーリ34にて減速され、駆動側プーリ32のトルクは被駆動側プーリ34にて増大される。被駆動側プーリ34は、例えば図示せぬ他のプーリ等に軸接続され、動力を伝達する。
【0050】
環状金属コードC1は、先に述べたように破断強度が非常に大きい。また、環状金属コードC1は、コアのない中心を囲むように複数のストランド材1同士を撚り合わせた金属コード20が解撚され、1本のストランド材1が複数周回環状にされつつ空隙部5に余長部1eが嵌め入れられて巻き付けられて環状とされているので、断面における線材の本数が5本以上(実施形態では6本)の場合でも、プーリ32,34に巻回することにより断面が扁平化し易く、環状金属コードC1自体の自転がなくされる。つまり、自転が生じないので、環状の円弧の外周側に多少の突起があってもベルトとしてプーリ32,34に巻回して用いることができる。
【0051】
特に、実施形態のように、6本(5本以上)のストランド材1同士を撚り合わせた金属コード20を、解撚前に断面視にて扁平化させると、金属コード20から取り出した1本のストランド材1によって得られた環状金属コードC1を良好に扁平化することができる。したがって、ベルトとしてプーリ32,34に巻回して用いた際における自転を確実に防止することができる。これにより、環状の円弧の外周側にて、ストランド材1の始端部1aと終端部1bとを単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。
【0052】
そして、始端部1aと終端部1bとを正結びして固定した結び目11が環状の円弧の外周側に配置されているので、プーリ32,34に巻回した際に、プーリ32,34の周面への結び目11の接触を回避することができる。
さらに、焼鈍処理を施しているので、ストランド材1の撚り合わせ時の加工歪を除去することができ、耐久性を高めることができる。
【0053】
また、上記実施形態では、6本のストランド材1の内の1本のストランド材1を用いて環状金属コードC1を製造したが、残りの5本のそれぞれのストランド材1についても同様に、前述したように、複数周回環状にしつつ空隙部5に、余長部1eを嵌め入れて巻き付けて環状金属コードC1を製造することができ、経済性を高めることができる。
【0054】
また、本実施形態の無端金属ベルトB1において、駆動側プーリ32及び被駆動側プーリ34に環状金属コードC1がそれぞれ3本ずつ掛け渡される形態としたが、掛け渡される環状金属コードC1の本数はこれに限られない。求められる駆動力またはベルト張力に応じて、環状金属コードC1の本数を調整することが可能である。
【0055】
また、本実施形態は、環状金属コードを、減速機において動力を伝達する無端金属ベルトに適用したものであるが、本発明の環状金属コードは、減速機以外で使用される無端金属ベルトにも適用することができる。例えば、プリンタをはじめとする印刷機において紙送りローラ間の動力伝達を担う無端金属ベルト、一軸ロボットの直行駆動を担う無端金属ベルト、X−Yテーブル機構の駆動や三次元のキャリッジ駆動を担う無端金属ベルト、光学機器や検査機、あるいは測定器内において精密駆動を担う無端金属ベルト、自動車の無段変速機における駆動側プーリ及び被駆動側プーリの間の動力伝達を担う無端金属ベルト等に適用可能である。
【0056】
なお、上記実施形態では、断面におけるストランド材1の本数が5本以上である6本の場合を例にとって説明したが、断面におけるストランド材1は、複数であれば、6本に限定されない。
例えば、断面におけるストランド材1の本数が2〜4本の場合においても、プーリ32,34の周面に2本のストランド材1が安定して接触し、環状金属コードC1自体の自転がなくされる。
【0057】
ここで、断面におけるストランド材1が3本の環状金属コードC1について説明する。
この3本の環状金属コードC1を作製するには、図12に示すように、コアのない中心を囲むように3本のストランド材1同士を撚り合わせた金属コード20の1本を用いる。ここでは、このストランド材1は、3本の金属素線10がS撚方向で撚り合わされた(下撚りされた)4本の線材10aが、さらに、S撚方向で撚り合わされて(下撚りされて)構成されている。そして、このストランド材1がZ撚方向で撚り合わされて(上撚りされて)金属コード20が構成されている。
【0058】
この金属コード20を解撚し、1本のストランド材1を、3周回環状にしつつ他の2本のストランド材1の抜けた螺旋状の空隙部5に、余長部1eを嵌め入れて巻き付けて環状とする。そして、始端部1aと終端部1bとを、結び目11が環状の円弧の外周側となるように正結びにて強固に接続し、その後、焼鈍処理を施す。
これにより、1本のストランド材1から、断面におけるストランド材1が3本の環状金属コードC1が得られる。
【0059】
そして、この環状金属コードC1においても、破断強度が非常に大きく、繰り返し負荷に対しても緩みが生じない。また、3本のストランド材1同士を撚り合わせた金属コード20が解撚されて環状とされて断面におけるストランド材1が3本とされているので、プーリ32,34に巻回した際に、プーリ34の周面に2本のストランド材1が安定して接触し、環状金属コードC1自体の自転がなくされる。
【0060】
なお、この場合も、残りの2本のそれぞれのストランド材1についても同様に、3周回環状にしつつ空隙部5に、余長部1eを嵌め入れて巻き付けて環状金属コードC1を製造することができ、経済性を高めることができる。
【0061】
また、上記実施形態では、コアのない中心を囲むように複数のストランド材(側線線材)同士を撚り合わせた原コードを解撚させて環状に撚り合わせた環状金属コードについて説明したが、原コードには側線線材同士の撚り合わせ中心にコアがあってもよい。例えば、図5に示した6本のストランド材1の撚り合わせ中心に、コアとなる線材を有する原コードを使用することができる。
このような原コードを解撚して、得られた側線線材の1本を環状に巻き付けることで、上記実施形態と同様に環状金属コードを製造することができる。コアの周りに少なくとも5本の側線線材同士を撚り合わせた原コードを用いてることで、得られた環状金属コードはプーリなどに巻回することにより断面が扁平化し易く、環状金属コード自体の自転がなくされ、環状の円弧の外周側にて、側線線材の始端部と終端部とを正結びにより単純かつ強固に結んで緩みなく接続することができる。
【実施例】
【0062】
次に、本発明に係る環状金属コードの実施例について説明する。
周回数の異なる2種類の環状金属コードについて、始端部と終端部との接続方法の違い及び焼鈍処理の有無による耐久性の変化を調べた。
【0063】
(1)環状金属コード
(1−1)3×4×3×0.150の環状金属コード
(ストランド材の作製)
スチールコード用途の直径0.90mmのブラスメッキ鋼線を直径0.15mmまで伸線加工した素線を3リールに巻き取り、バンチャー型撚線機を用いて7.5mmの撚りピッチでS撚りにて撚り合わせる。
さらに、この線材(3×0.150)を4リールに所定量巻き取り、再度サプライしてバンチャー型撚線機を用いて5.0mmの撚りピッチでS/S撚りにて撚り合わせてストランド材を作製し、このストランド材を3リール用意する。
なお、バンチ撚りの場合、プレフォーム装置を使用しなくても93%前後の直径型付け率になるように調整できる。
(金属コードの作製)
上記のストランド材を、3本撚りができるチューブラー型撚線機を用いて7.5mmの撚りピッチでZ撚りにて所定量上撚りして金属コードとする。なお、プレフォーム装置を用いて事前に93%前後の直径型付け率に調整する。
(金属コードの解撚)
上撚りした金属コードを、余長分も含めて環状金属コードの環状径(層心径:D1)の約10倍((D1)π×3)の長さで切断した後、全長にわたって解撚し、各ストランド材毎に分離する。
(環状金属コード化)
分離した3本のストランド材の内の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、2周回移動させて他の2本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んでコード化する。
【0064】
(1−2)6×5×0.150の環状金属コード
(ストランド材の作製)
スチールコード用途の直径0.90mmのブラスメッキ鋼線を直径0.15mmまで伸線加工した素線を5リールに巻き取り、バンチャー型撚線機を用いて5.0mmの撚りピッチでS撚りにて撚り合わせてストランド材とし、このストランド材(5×0.150)を6リールに所定量巻き取る。
なお、バンチ撚りの場合、プレフォーム装置を使用しなくても93%前後の直径型付け率になるように調整できる。
(金属コードの作製)
上記のストランド材を、6本撚りができるチューブラー型撚線機を用いて7.0mmの撚りピッチでZ撚りにて所定量上撚りして金属コードとする。なお、プレフォーム装置を用いて事前に93%前後の直径型付け率に調整する。
なお、6本(5本以上)のストランド材からなる金属コードは断面が円形に近いので、プーリに巻回してベルトとして用いても自転しにくい断面形状が扁平な環状金属コードを作製する場合には、複数のローラ間を通過させて扁平化(扁平率78±3%)しておく。
(金属コードの解撚)
上撚りした金属コードを、余長分も含めて環状金属コードの環状径(層心径:D1)の約20倍((D1)π×6)の長さで切断した後、全長にわたって解撚し、各ストランド材毎に分離する。
(環状金属コード化)
分離した6本のストランド材の内の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の5本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んでコード化する。
【0065】
(2)耐久試験
(2−1)耐久試験装置
図13に耐久試験装置を示す。図13に示すように、耐久性試験装置は、駆動モータ51によって回転される駆動プーリ52と、この駆動プーリ52に対して水平方向へ接離可能に支持された従動プーリ53と、従動プーリ53を駆動プーリ52から離間させる方向へ荷重を付与する張力付加部54とを備える。
駆動プーリ52及び従動プーリ53の直径は、39.3mmとし、環状金属コードを巻回した際のコードの中心を通る径が約40mmとなるようにした。
張力付加部54は、従動プーリ53にロープ55を介して取り付けられた重り56と、ロープ55が掛けられた滑車57とを有し、重り56の荷重によって従動プーリ53が駆動プーリ52から離間される。そして、この張力付加部54では、重り56の重さを調整し、付加張力が8.5kgf(コードの強度の5%前後)とされている。
(2−2)耐久試験方法
上記の耐久性試験装置の駆動プーリ52と従動プーリ53とに、各環状金属コードを巻き掛けて駆動プーリ52を3,500rpmにて回転させ、環状金属コードに繰り返し引っ張り曲げ応力をかけ、環状金属コードの切断、弛み、ワイヤー(素線)の切れ等の不具合の発生の有無及び不具合発生までの耐久回数(換算回数)を調べて評価した。なお、結び目を有する環状金属コードでは、その結び目が環状の円弧の外周側に配置して駆動プーリ52及び従動プーリ53に巻き掛けた。
(2−3)耐久試験結果
耐久試験結果を、表1及び表2に示す。
なお、表1は、3×4×3×0.150の環状金属コードの結果を示し、表2は、6×5×0.150の環状金属コードの結果を示している。
【0066】
【表1】
【0067】
表1から明らかなように、3×4×3×0.150の環状金属コードでは、始端部と終端部とを正結びして接続した実施例1,2は、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が極めて多くなり、特に、焼鈍処理を施した実施例2では切断が認められなかった。
これに対して、始端部と終端部とを金属スリーブにて接続した比較例1、半かご差しとした比較例2,4及び金属スリーブと半かご差しとの組み合わせとした比較例3では、焼鈍処理の有無に関わらず、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
【0068】
【表2】
【0069】
表2から明らかなように、6×5×0.150の環状金属コードでは、始端部と終端部とを正結びして接続した実施例3〜5は、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が極めて多くなり、さらに扁平化した実施例4,5は、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が極めて多くなり、特に、焼鈍処理を施した実施例5では切断が認められなかった。
これに対して、始端部と終端部とを金属スリーブにて接続した比較例5、半かご差しとした比較例6及び金属スリーブと半かご差しとの組み合わせとした比較例7では、焼鈍処理の有無に関わらず、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
【0070】
以上のことから、始端部と終端部とを正結びにて接続することにより、ストランド材の移動を防止でき、撚り緩みが生じず巻き付けた形状を維持することが可能な強固な環状金属コードとすることができることが分かった。特に、焼鈍処理を施すことにより、さらに強度が高められた環状金属コードが得られることが分かった。
【符号の説明】
【0071】
1…ストランド材(側線線材)、1a…始端部、1b…終端部、1d…環状部分、1e…余長部、5…空隙部、10…金属素線、11…結び目、20…金属コード(原コード)、B1…無端金属ベルト、C1…環状金属コード。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアのない中心を囲むように複数の側線線材同士を撚り合わせた原コードが解撚され、1本の前記側線線材が、複数周回環状にされつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部が嵌め入れられて巻き付けられて環状とされ、前記側線線材の始端部と終端部とが、環状の円弧の外周側で正結びされていることを特徴とする環状金属コード。
【請求項2】
コアの周りに少なくとも5本の側線線材を撚り合わせた原コードが解撚され、1本の前記側線線材が、複数周回環状にされつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部が嵌め入れられて巻き付けられて環状とされ、前記側線線材の始端部と終端部とが、環状の円弧の外周側で正結びされていることを特徴とする環状金属コード。
【請求項3】
請求項1に記載の環状金属コードであって、
前記原コードが5本以上の前記側線線材同士を撚り合わせたものであり、前記環状金属コードが環状方向に対する横断面視で扁平化されていることを特徴とする環状金属コード。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の環状金属コードであって、
前記側線線材は複数の金属素線同士を撚り合わせた構造であり、前記金属素線同士の撚り方向と前記空隙部に嵌め入れられている巻き付けの螺旋方向とが逆方向であることを特徴とする環状金属コード。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の環状金属コードであって、
焼鈍処理が施されていることを特徴とする環状金属コード。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の環状金属コードであって、
前記側線線材は、直径が0.06mm以上0.30mm以下の範囲内である複数の金属素線同士を撚り合わせた構造であることを特徴とする環状金属コード。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の環状金属コードであって、
互いに巻き付けられた前記側線線材の環状部分における中心軸に対する前記線材の巻き付け角度が4.5度以上13.8度以下の範囲内であることを特徴とする環状金属コード。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の前記環状金属コードを備えていることを特徴とする無端金属ベルト。
【請求項9】
コアのない中心を囲むように複数の側線線材同士を撚り合わせた原コードを解撚し、1本の前記側線線材を、複数周回環状にしつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とし、前記側線線材の始端部と終端部とを、環状の円弧の外周側で正結びすることを特徴とする環状金属コードの製造方法。
【請求項10】
コアの周りに少なくとも5本の側線線材を撚り合わせた原コードを解撚し、1本の前記側線線材を、複数周回環状にしつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とし、前記側線線材の始端部と終端部とを、環状の円弧の外周側で正結びすることを特徴とする環状金属コードの製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の環状金属コードの製造方法であって、
5本以上の前記側線線材同士を撚り合わせた前記原コードを、解撚前に横断面視で扁平化させておくことを特徴とする環状金属コードの製造方法。
【請求項12】
請求項9から11の何れか一項に記載の環状金属コードの製造方法であって、
前記側線線材として複数の金属素線同士を撚り合わせた構造の線材を用い、前記金属素線同士の撚り方向と前記空隙部に嵌め入れる巻き付けの螺旋方向とを逆方向とすることを特徴とする環状金属コードの製造方法。
【請求項13】
請求項9から12の何れか一項に記載の環状金属コードの製造方法であって、
前記原コードにおける残りの側線線材の1本を、複数周回環状にしつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とすることを特徴とする環状金属コードの製造方法。
【請求項14】
請求項9から13の何れか一項に記載の環状金属コードの製造方法であって、
焼鈍処理を施すことを特徴とする環状金属コードの製造方法。
【請求項1】
コアのない中心を囲むように複数の側線線材同士を撚り合わせた原コードが解撚され、1本の前記側線線材が、複数周回環状にされつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部が嵌め入れられて巻き付けられて環状とされ、前記側線線材の始端部と終端部とが、環状の円弧の外周側で正結びされていることを特徴とする環状金属コード。
【請求項2】
コアの周りに少なくとも5本の側線線材を撚り合わせた原コードが解撚され、1本の前記側線線材が、複数周回環状にされつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部が嵌め入れられて巻き付けられて環状とされ、前記側線線材の始端部と終端部とが、環状の円弧の外周側で正結びされていることを特徴とする環状金属コード。
【請求項3】
請求項1に記載の環状金属コードであって、
前記原コードが5本以上の前記側線線材同士を撚り合わせたものであり、前記環状金属コードが環状方向に対する横断面視で扁平化されていることを特徴とする環状金属コード。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の環状金属コードであって、
前記側線線材は複数の金属素線同士を撚り合わせた構造であり、前記金属素線同士の撚り方向と前記空隙部に嵌め入れられている巻き付けの螺旋方向とが逆方向であることを特徴とする環状金属コード。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の環状金属コードであって、
焼鈍処理が施されていることを特徴とする環状金属コード。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の環状金属コードであって、
前記側線線材は、直径が0.06mm以上0.30mm以下の範囲内である複数の金属素線同士を撚り合わせた構造であることを特徴とする環状金属コード。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の環状金属コードであって、
互いに巻き付けられた前記側線線材の環状部分における中心軸に対する前記線材の巻き付け角度が4.5度以上13.8度以下の範囲内であることを特徴とする環状金属コード。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の前記環状金属コードを備えていることを特徴とする無端金属ベルト。
【請求項9】
コアのない中心を囲むように複数の側線線材同士を撚り合わせた原コードを解撚し、1本の前記側線線材を、複数周回環状にしつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とし、前記側線線材の始端部と終端部とを、環状の円弧の外周側で正結びすることを特徴とする環状金属コードの製造方法。
【請求項10】
コアの周りに少なくとも5本の側線線材を撚り合わせた原コードを解撚し、1本の前記側線線材を、複数周回環状にしつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とし、前記側線線材の始端部と終端部とを、環状の円弧の外周側で正結びすることを特徴とする環状金属コードの製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の環状金属コードの製造方法であって、
5本以上の前記側線線材同士を撚り合わせた前記原コードを、解撚前に横断面視で扁平化させておくことを特徴とする環状金属コードの製造方法。
【請求項12】
請求項9から11の何れか一項に記載の環状金属コードの製造方法であって、
前記側線線材として複数の金属素線同士を撚り合わせた構造の線材を用い、前記金属素線同士の撚り方向と前記空隙部に嵌め入れる巻き付けの螺旋方向とを逆方向とすることを特徴とする環状金属コードの製造方法。
【請求項13】
請求項9から12の何れか一項に記載の環状金属コードの製造方法であって、
前記原コードにおける残りの側線線材の1本を、複数周回環状にしつつ他の側線線材の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とすることを特徴とする環状金属コードの製造方法。
【請求項14】
請求項9から13の何れか一項に記載の環状金属コードの製造方法であって、
焼鈍処理を施すことを特徴とする環状金属コードの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−209504(P2010−209504A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186810(P2009−186810)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】
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