説明

生乳検査装置及び生乳検査方法

【課題】安価であり、簡便かつ迅速に生乳を検査することが可能な装置を提供する。
【解決手段】界面活性剤が付着した表面を有し、生乳と該界面活性剤とを接触させて該生乳中の体細胞からミエロペルオキシダーゼを放出させる手段(a)と、放出された該ミエロペルオキシダーゼの濃度を測定する手段(b)と、該ミエロペルオキシダーゼの濃度から生乳中の体細胞数を算出する手段(c)とを含む生乳検査装置によって上記課題は解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物、特に乳牛の生乳を検査する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産において、家畜の病気、けがの発見、投与した薬剤の効果の診断など、家畜の状態を早期に詳しく診断するニーズは近年ますます高まっている。特に感染性の疾病においてはそのニーズは高い。哺乳動物、とりわけ牛、羊、山羊など酪農用の家畜の症状診断には家畜の生乳を分析することが重要かつ有効な手段である。
【0003】
けが、炎症、感染性の疾病においては生乳中の体細胞、例えば好中球が増加する場合が多く見られる。とりわけ乳房炎においてはこの傾向は顕著である。
【0004】
乳房炎は、乳用牛の死廃傷病事故のなかで最大の問題になっている。乳房炎は、罹りやすい上に極めて治りにくい病気であるため、世界的に最難治疾病の一つとされている。乳房炎に罹患した乳用牛の生乳中の体細胞数は、正常な乳用牛が通常0.1万〜10万個/mLであるのに対し、30万個/mL以上、なかには300万個/mL以上の慢性乳房炎に至る場合も少なくない。体細胞数の測定は煩雑であり、しかもそれを実現する装置は高価なため、通常生乳の検査は大型タンクに集められて(多くの場合は別の検査機関などに搬送されて)から行われる。そうすると、発覚が遅れて被害量が増えるだけでなく、サンプリングした生乳中の体細胞数が規定値以上であることが発覚した場合、生乳がタンク単位で廃棄されたり酪農家へペナルティ(課徴金)が課されたりする。そのため、乳房炎の早期発見と治療が望まれている。これら乳房炎の発見及び診断においては前記家畜の生乳を分析する方法は非常に有効である。
【0005】
画像識別法は、生乳中の好中球を染色し、カメラによって脂質粒子と好中球を識別、自動計測する方法である。画像識別法においては、脂質粒子による遮光の問題が生じるため、生乳の容量は0.1mL以下とされ、薄い平らな空間に生乳を固定する等して計測を行う。しかしながら、画像識別法による自動細胞数測定機器による体細胞数測定は、極めて高額であるという問題があった。また、光学顕微鏡による塗沫測定では、手間がかかりすぎるという問題があった。また使用するサンプルが少量であるため、測定誤差が生じやすいという問題もあった。
【0006】
そこで、生乳の分析において混入した体細胞から放出される活性酸素量を、ルミノール化学発光法で測定することが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
ルミノール化学発光法は、好中球から放出された活性酸素によってルミノール試薬が励起され、その化学発光量を検出・増幅して、活性酸素量を定量化する方法である。細菌侵入に連動して集まる好中球数を、感染初期の細菌侵入開始段階から、重度乳房炎まで広範囲にわたって、高感度で検出可能な技術である。
【0008】
しかしながら、ルミノール化学発光法による乳房炎診断装置は、装置が高額となり、一定の光量を得るまでに10分以上の時間を必要とするため、実用性に課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−041696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、安価であり、簡便かつ迅速に生乳を検査することが可能な装置を提供することを目的とする。本発明はまた、簡便かつ迅速に低コストで生乳を検査することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、界面活性剤が付着した表面を有し、生乳と該界面活性剤とを接触させて該生乳中の体細胞からミエロペルオキシダーゼを放出させる手段(a)と、
放出された該ミエロペルオキシダーゼの濃度を測定する手段(b)と、
該ミエロペルオキシダーゼの濃度から生乳中の体細胞数を算出する手段(c)と
を含む生乳検査装置である。
【0012】
本発明はまた、生乳と界面活性剤とを接触させて該生乳中の体細胞からミエロペルオキシダーゼを放出させる工程(a)と、
放出された該ミエロペルオキシダーゼの濃度を測定する工程(b)と、
該ミエロペルオキシダーゼの濃度から生乳中の体細胞数を算出する工程(c)と
を含む生乳の検査方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の装置によれば、簡便かつ迅速に生乳を検査可能な装置を安価で提供することができる。本発明の方法によれば、簡便かつ迅速に低コストで生乳を検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の生乳検査装置の一例を示す平面図である。
【図2】図1に示した生乳検査装置を構成するセンサを示す斜視図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】カバープレートを省略したセンサを示す平面図である。
【図5】図1に示した生乳検査装置のブロック図である。
【図6】本発明の生乳検査装置の別の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の生乳検査装置について説明する。本発明の生乳検査装置は、界面活性剤が付着した表面を有し、生乳と該界面活性剤とを接触させて該生乳中の体細胞からミエロペルオキシダーゼ(MPO)を放出させる手段(a)と、放出された該MPOの濃度を測定する手段(b)と、該MPOの濃度から生乳中の体細胞数を算出する手段(c)とを含む。なお、本明細書において、「体細胞」とは、該MPOを多く保有している骨髄系細胞のことであり、特に好中球、単球、マクロファージのことをいい、「体細胞数」とは、これらの数のことをいう。
【0016】
本発明において界面活性剤とは、1分子中に親水性部位と親油性部位を有している化合物のことをいう。生乳中に分散しやすいことから、界面活性剤は、水溶性であることが好ましい。界面活性剤は、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。イオン性界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤が挙げられる。
【0017】
陰イオン性界面活性剤の例としては、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル−N−サルコシン酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム等が挙げられる。
【0018】
陽イオン性界面活性剤の例としては、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルアンモニウムブロミド、ドデシルピリジニウムクロリド、ヘキサデシルピリジニウムクロリド、ヘキサデシルピリジニウムブロミド、1−ラウリルピリジニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンザルコニウムクロリド、ベンザルコニウムブロミド、ベンゼトニウムクロリド等が挙げられる。
【0019】
両性界面活性剤の例としては、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸、パルミトイルリゾレシチン、ドデシル−N−ベタイン、ドデシル−β−アラニン等が挙げられる。
【0020】
非イオン性界面活性剤の例としては、オクチルグルコシド、ヘプチルチオグルコシド、デカノイル−N−メチルグルカミド、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプタメチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトールエステル等が挙げられる。
【0021】
界面活性剤は、生乳中の体細胞からMPOを放出させる能力が高いことから、陽イオン性界面活性剤であることが好ましく、ハロゲンイオンを対イオンとして含む陽イオン性界面活性剤であることがより好ましい。
【0022】
検査の対象となる生乳は、哺乳動物の生乳であり、家畜として飼育される動物(例、乳牛、山羊等)の生乳であることが好ましく、乳牛の生乳であることが需要面からより好ましい。
【0023】
界面活性剤が付着した表面を有し、生乳と該界面活性剤とを接触させて該生乳中の体細胞からMPOを放出させる手段(a)としては、空間部を有し、当該空間部に面して界面活性剤を含む部材が挙げられ、具体的には、界面活性剤が内面に塗布された容器、界面活性剤が内面に塗布された検査スペース(検査室)等が挙げられる。
【0024】
界面活性剤の量としては、空間の体積(容器、検査スペース等の容積)に対して0.05〜10%が好ましい。
【0025】
放出された該MPOの濃度を測定する手段(b)には特に限定はなく、MPOの濃度を直接的に測定する手段であってもよいし、間接的に測定する手段であってもよい。MPOの濃度を間接的に測定する手段として好ましいのは、次亜ハロゲン酸の濃度を測定する手段である。
【0026】
好中球には、MPOが含まれている。生乳中の酸素は、活性化されたNADPHオキシダーゼによりスーパーオキシドアニオンに還元され、スーパーオキシドアニオンは、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)により、過酸化水素に変換される。この過酸化水素とハロゲンイオンから、MPOの作用により、次亜ハロゲン酸が生成する。このとき、生成する次亜ハロゲン酸の濃度は、MPOの濃度に比例する。従って、次亜ハロゲン酸の濃度を測定することにより、MPOの濃度が間接的に求まることとなる。
【0027】
次亜ハロゲン酸の濃度は、好適には、電気化学的に測定することができる。具体的には、生乳に−0.2〜−0.6V程度の電圧を印加すると、次亜ハロゲン酸が還元反応を起こし、次亜ハロゲン酸に特有の還元電流が流れる。この還元電流は、次亜ハロゲン酸イオン濃度に比例するため、還元電流値(又は還元電流を変換した電圧値)より次亜ハロゲン酸の濃度を求めることができる。よって、手段(b)は、例えば、作用極と対極を含む電極、電圧を印加する回路、及び微小電流測定器などから構成される。
【0028】
MPOの濃度から生乳中の体細胞数を算出する手段(c)としては、演算装置が挙げられる。演算装置は、CPU等を有する演算部と、メモリ、ハードディスク等を有する記憶部とを含む。MPOの濃度は、好中球の濃度と相関があるため、体細胞数とも相関がある。従って、MPOの濃度又はMPOの濃度を表すパラメータと、体細胞数との間で検量線を作成することができ、記憶部には、この検量線が記憶され、演算部は、この検量線に基づいて、体細胞数を算出する。MPOの濃度を表すパラメータとしては、例えば、電流値(特に、次亜ハロゲン酸の還元電流値)、電圧値(特に、次亜ハロゲン酸の還元電流を電圧に変換した値)などが挙げられる。
【0029】
生乳検査装置は、体細胞数から家畜の乳房炎感染を判定する手段(d)をさらに含んでいてもよい。体細胞数から家畜の乳房炎感染を判定する手段(d)としては、演算装置が挙げられる。演算装置は、例えば、演算部と記憶部を含み、記憶部に乳房炎感染の基準となる体細胞数の閾値を予め入力することにより、測定した体細胞数から家畜の乳房炎感染を演算部が判定する。当該演算装置は、手段(c)の演算装置をそのまま用いてもよいし、別の演算装置としてもよい。
【0030】
本発明の生乳検査装置は、結果を通知する手段を有することが好ましい。当該手段としては、例えば、モニター、ランプ等の表示部、スピーカーなどが挙げられる。
【0031】
生乳中の次亜ハロゲン酸の濃度はpHに依存する。通常の生乳のpHの範囲内では、pHの影響をほとんど受けずに体細胞数を測定することができるが、本発明の生乳検査装置は、pH測定手段(例、pHメータ)を有していてもよい。
【0032】
本発明の生乳検査装置によれば、簡便かつ迅速に生乳中の体細胞数を検査可能な装置を安価で提供することができる。また装置を小型に構成することができる。
【0033】
本発明は、生乳検査装置であるが、乳房炎診断装置として応用することもできる。
【0034】
本発明はまた、別の側面から、生乳と界面活性剤とを接触させて該生乳中の体細胞からMPOを放出させる工程(a)と、
放出された該MPOの濃度を測定する工程(b)と、
該MPOの濃度から生乳中の体細胞数を算出する工程(c)と
を含む生乳の検査方法である。
【0035】
本発明の生乳検査方法は、好適には、上述の生乳検査装置を用いて実施することができる。
【0036】
工程(a)は、生乳と上述の界面活性剤とを容器、検査室等の中で混合することによって行うことができる。界面活性剤は、容器、検査室等の内面に塗布されていてもよいし、生乳の入った、容器、検査室等に添加してもよい。界面活性剤については、上述の通りである。
【0037】
工程(b)は、MPOの濃度を直接的に測定してもよいし、間接的に測定してもよい。例えば、次亜ハロゲン酸の濃度を測定することにより、MPOの濃度を間接的に測定することができる。次亜ハロゲン酸の濃度は、電気化学的な方法により測定することができる。
【0038】
生乳に対しては、従来方法により体細胞数値と、工程(a)及び工程(b)によりMPOの濃度をそれぞれ求め、検量線を作成することができる。工程(c)では、この検量線に基づいて体細胞数を算出することができる。MPOの濃度として、例えば、電流値(特に、次亜ハロゲン酸の還元電流値)、電圧値(特に、次亜ハロゲン酸の還元電流を電圧に変換した値)などのMPOの濃度を表すパラメータを用いてもよい。
【0039】
本発明の生乳検査方法は、体細胞数から家畜の乳房炎感染を判定する工程(d)をさらに含んでいてもよい。一例として乳牛の生乳を検査する場合、健康な乳牛の生乳中の体細胞数は、0.1万〜10万個/mLであるのに対し、乳房炎に感染した可能性の高い乳牛の生乳中の体細胞数は、30万個/mL以上である。従って、測定された体細胞数が30万個/mL以上である場合には、乳房炎に感染した疑いのある乳牛の生乳であると判定できる。
【0040】
本発明の生乳検査方法によれば、簡便かつ迅速に低コストで生乳を検査することができる。
【0041】
本発明は、生乳の検査方法であるが、乳房炎診断方法として応用することもできる。
【0042】
以下、本発明の生乳検査装置の具体例を示す。
【0043】
図1に、生乳検査装置の具体例を示す。生乳検査装置1Aは、センサ2、コネクタ5及び本体6を含み、センサ2は、コネクタ5において、本体6と着脱自在となっている。センサ2は後述のように電極を含み、センサ2を着脱自在とすることによって、センサ2を交換するだけで容易に測定を繰り返すことができるようになっている。
【0044】
次に、図2〜図4を参照して、センサ2の構成について詳細に説明する。このセンサ2は、生乳を保持するための検査室20を有する略長方形状のプレートタイプのものであり、プレートタイプのセンサは、電極の配置等を容易に最適化することができる。検査室20には毛細管現象により生乳が導入される。検査室20の容積は、0.01〜5mLが好ましく、0.05〜1mLがより好ましい。さらに好ましい検査室20の容積は、0.1〜0.3mLである。
【0045】
具体的に、センサ2は、略長方形状のベースプレート21と、このベースプレート21の一方面(厚み方向の片側の面)21aに支持された、作用極31、参照極32、及び対極33の3つの電極と、これらの電極31〜33を挟んでベースプレート21の一方面21aに固定された略長方形状のカバープレート22とを有している。なお、以下では、説明の便宜のために、ベースプレート21の長手方向の一方(図2では右上方向)を前方、他方(図2では左下方向)を後方というとともに、ベースプレート21の短手方向の一方(図2では右下方向)を右方、他方(図2では左上方向)を左方という。
【0046】
カバープレート22の幅は、ベースプレート21の幅と同じであるが、カバープレート22の長さは、ベースプレート21の一方面21aの後端部を露出させるようにベースプレート21の長さよりも短く設定されている。ベースプレート21のサイズは、例えば、長さ60mm、幅30mm、厚み1mmであり、カバープレート22のサイズは、例えば、長さ50mm、幅30mm、厚み3mmである。
【0047】
ベースプレート21及びカバープレート22の材質は、絶縁性のものであれば特に制限されるものではないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリグリコール酸系樹脂、スチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、メタクリル−スチレン系共重合樹脂(MS樹脂)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合樹脂、スチレン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂等を挙げることができる。ベースプレート21の材質としては、後述する電極材料との接着性を考慮して適宜選択することが好ましく、カバープレート22の材質としては、ベースプレート21との接着性を考慮して適宜選択することが好ましい。
【0048】
カバープレート22には、ベースプレート21に沿ってカバープレート22の端面に開口する溝23が形成されており、溝23とベースプレート21の一方面21aによって検査室20が構成されている。そして、検査室20には、開口23aから毛細管現象により生乳が自動的に充填される。すなわち、溝23の開口23aは、検査室20への導入口を構成している。毛細管現象を利用するには、溝23の幅は1〜50mm、深さは0.05〜5mm、長さは2〜100mmであることが好ましく、より好ましくは、溝23の幅は3〜30mm、深さは、0.1〜3mm、長さは10〜70mmである。例えば、溝23の幅を10mm、深さを0.5mm、長さを40mmとしてもよい。
【0049】
溝23の形成は、機械切削加工や射出成型等により行うことができ、ベースプレート21とカバープレート22との接合は、熱融着、レーザー融着、溶液接着技術等により行うことができる。このような工業生産技術として確立された方法を適用することにより、検査室20の容積の精度、すなわちセンサ2への生乳導入量の精度を高めることができる。これにより、同一生乳であれば検査室20内の好中球の数を一定とすることができ、体細胞数の測定精度を高めることが可能になる。
【0050】
本具体例では、毛細管現象を利用しているため、センサ2の開口23a側の端部を生乳に浸すだけで、短時間で、例えば5秒以内に生乳を検査室20に充填させることができる。なお、センサ2は必ずしも毛細管現象を利用したものである必要はなく、カバープレートを厚み方向に貫通する貫通孔によって検査室が設けられてもよい。このとき、センサ2はスポッティング方式に対応したものとなる。
【0051】
作用極31、参照極32、及び対極33は、左右方向に並んでおり、それぞれがベースプレート21の後端部から所定位置まで前後方向に直線状に延びている。本具体例では、作用極31の先端に円形状の第1電極部(正極部)31aが設けられ、対極33の先端に第1電極部31aよりも大きな円形状の第2電極部(負極部)33aが設けられている。また、参照極32の先端32aも小さな円形状になっている。第1電極部31a及び第2電極部33a並びに参照極32の先端32aは全て検査室20の内部空間に臨んでいる。また、各電極31〜33におけるカバープレート22で覆われていない部分は、幅広の端子部31b〜33bを構成しており、これらの端子部31b〜33bが、センサ2がコネクタ5に差し込まれて取り付けられたときに、コネクタ5の端子(図示せず)と電気的に接続される。
【0052】
第1電極部31aの表面31c上には、界面活性剤4が塗布されている。界面活性剤4は、第1電極部31aの表面31c上以外の検査室20内の場所に塗布されていてもよい。例えば、界面活性剤4は、検査室20内の開口23a付近に塗布されていてもよい。このように、検査室内に面して界面活性剤が塗布されることによって、界面活性剤が付着した表面を有し、生乳と該界面活性剤とを接触させて該生乳中の体細胞からMPOを放出させる手段(a)が構成される。
【0053】
参照極32は、基準極として使用される。作用極31と参照極32との間に、例えば−0.2Vの電圧が印加されると、第1電極部31a上で次亜ハロゲン酸が還元反応を起こし、作用極31と対極33との間に電流が流れる。作用極31と対極33との間に流れる電流量を測定することにより、生乳中のMPO量、ひいては生乳中の体細胞数を測定することが可能となる。なお、還元電流を効率よく検出するために、第2電極部33aの面積は第1電極部31aの面積よりも大きくなっていることが好ましい。ここで、「第2電極部33aの面積」及び「第1電極部31aの面積」とは、第2電極部33a及び第1電極部31aをベースプレート21と直交する方向から見たときの面積をいう。第1電極部31aの面積は、0.7〜500mm2であることが好ましく、4〜250mm2であることがより好ましい。
【0054】
電極31〜33の形成法は、蒸着、スパッタリング、電解メッキ、無電解メッキ、シルクスクリーン印刷、金属ペーストのインジェクション法等を用いることができる。このような工業的に確立された方法を採用することにより、電極31〜33を高精度に形成することが可能となり、大量生産において、測定値の再現性を高めることが可能となる。電極に用いられる導電性材料としては金、銀、塩化銀、白金、銅、アルミニウム、SUS等を挙げることができる。本具体例では、次亜ハロゲン酸の還元に好適なように、作用極31を金、参照極32を銀/塩化銀、対極33を白金で構成している。
【0055】
好ましくは、各電極31〜33の幅は0.05〜20mm、長さは5〜100mm、厚みは0.003〜300μmであり、より好ましくは、各電極31〜33の幅は0.1〜10mm、長さは10〜50mm、厚みは0.02〜200μmである。
【0056】
なお、電極の表面積を増大させるために、例えば、電極部分に凹凸構造等を設けてもよい。
【0057】
次に、図5を参照して、装置本体6の構成について詳細に説明する。装置本体6は、作用極31に電圧を印加したときに流れる電流に基づいて生乳中に含まれる体細胞数を算出するものである。具体的に、装置本体6は、回路を介して電源65と、作用極31と参照極32との間に電圧を印加して、作用極31と対極33の間に流れる電流を検出する電流検出回路62と、検出された電流を電圧に変換する電流電圧変換回路63と、電圧値から体細胞数を算出する演算装置64とを備えており、演算装置64で算出された体細胞数が表示部61に表示される。
【0058】
電源65は、電池やバッテリー等の内部電源であってもよいし、家庭用電源等の外部電源であってもよい。電流検出回路62は、スイッチング素子等で構成されている。電流電圧変換回路63は、電流電圧変換素子や電圧を増幅するオペアンプ等で構成されている。
【0059】
こうして、電極31〜33、電極間に電圧を印加する回路(図示せず)、電流検出回路62、及び電流電圧変換回路63より放出されたMPOの濃度を測定する手段(b)が構成される。
【0060】
演算装置64は、演算部(CPUなど)や記憶部(RAM、ROMなど)等からなっている。演算装置64は、MPOの濃度から生乳中の体細胞数を算出する手段(c)に相当する。記憶部には、電圧値と体細胞数とを関係づける検量線が記憶されており、演算装置64は、電流電圧変換回路63から送られる電圧値に応じた体細胞数を算出する。本具体例では、電流が微小であるため、電流を電圧に変換後増幅して得られる電圧値を用いたが、この電圧値を用いて電流値を求めることができるため、電流値を用いる態様も可能である。演算装置64は、記憶部に乳房炎感染を示す体細胞数の閾値を入力することによって、体細胞数から家畜の乳房炎感染を判定する手段(d)として機能させることもできる。なお、感度の異なる複数種類のセンサ2を使用する場合には、センサ2毎に検量線を記憶部に記憶させておけばよい。
【0061】
次に、生乳検査装置1Aを使用して体細胞数を測定する方法を説明する。生乳のサンプリング容器に配置された各コネクタ5に、センサ2を取り付ける。次に、入ボタン6aを押して、電源スイッチをONにする。搾乳が開始される際には、測定ボタン6cを押して測定可能な状態にしておく。サンプリング容器内に生乳が満たされると、毛細管現象により、センサ2の開口23aから検査室20に生乳が充填される。そうすると、検査室20内の界面活性剤が生乳と接触して生乳中に分散し、生乳中の好中球からMPOが放出される。MPOの作用により次亜ハロゲン酸が生成し、この次亜ハロゲン酸が還元されて流れる電流が装置本体6に送られて、体細胞数が算出される。算出された体細胞数は、表示部61に表示される。なお、装置本体6に予め基準体細胞数を入力しておき、算出した体細胞数が基準体細胞数を超えたときには、ランプを点灯させたり、音声で報知したりすることも可能である。
【0062】
搾乳及び体細胞数の測定が完了すると、ミルカー等と生乳サンプリング容器を洗浄した後、次の測定に備え、測定に使用したセンサ2を新しいセンサ2と交換する。
【0063】
本具体例の生乳検査装置1Aは、バッチ測定に適したものであり、酪農家がサンプリングした生乳、検定協会等に集配された生乳、タンク単位でサンプリングされた生乳等を、検定員等が迅速測定する際に効果を発揮する。生乳検査装置1Aは、携帯性に優れるように、外形寸法を例えば高さ120mm、幅80mmとし、重量を300g程度とすることが可能である。
【0064】
図6に、本発明の生乳検査装置の別の具体例を示す。この生乳検査装置1Bは、乳用牛の分房数に対応した4つのセンサ2と、これらのセンサ2とケーブル71によって接続された装置本体6とからなる。装置本体6には、各センサ2に対応した4つの表示部61と各種の押しボタン6a〜6cが設けられている。
【0065】
この構成は、搾乳と同時に体細胞数を測定する連続測定に適したものであり、一度に複数の生乳について体細胞数を測定することができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0067】
[生乳サンプル中の体細胞数検査法]
2頭の健常牛(a、b)及び3頭の乳房炎に感染した牛(c、d、e)から生乳のサンプリングを実施した。生乳サンプルをセルカウンターへ導入し、一定範囲の体細胞数を数えた結果より、一定体積あたりの生乳サンプル中に存在する体細胞数、より具体的には好中球数を算出した。生乳中の体細胞数は、a:0.5万個/mL、b:2万個/mL、c:33万個/mL、d:58万個/mL、e:96万個/mLであった。
【0068】
[センサの作製]
厚み1mmのアクリル板を長さ60mm、幅30mmに切断し、ベースプレートを形成した。次に、ベースプレートにマスキングを施し、スパッタリング装置(神港精機製、SDH10311型)を用い、作用極(金)、対極(白金)を図4に示すパターンで形成した。具体的には、作用極の直径は6mmであり、対極の直径は8mmである。また、参照極(銀/塩化銀)は、ベースプレートにマスキングを施した後、銀/塩化銀インク(ビー・エー・エス株式会社製)を塗布することで形成した。
【0069】
次に、界面活性剤として5%塩化ベンザルコニウム(BKC)水溶液40μLを作用極上に塗布した。次に、アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を使用し、射出成形法により、長さ40mm、幅10mm、深さ0.5mmの溝を有する、長さ50mm、幅30mm、厚み3mmのカバープレートを形成した。
【0070】
次に、レーザー樹脂溶着機(ミヤチテクノス社製、型式:ML−5220B)を使用し、ベースプレートとカバープレートとを溶着し、センサを得た。このセンサを、電源と電圧印加回路と微小電流測定器とを有する本体と接続した。
【0071】
[生乳中MPO濃度の測定]
前記作製したセンサに、前記a〜eの生乳サンプル2mLを導入し、作用極に−0.2Vの電圧を印加し、作用極と対極の間を流れる電流値の記録を開始した。測定開始5秒後以降の電流値の最大値を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1より、生乳中の体細胞数が多いほど、電流値が高くなることがわかる。電流値は、生乳中の次亜ハロゲン酸が電気的に還元されることによって流れた電流に基づくものであり、次亜ハロゲン酸は、MPOの作用により生成するものであるから、電流値は、MPO濃度の指標となる。そして、MPOは界面活性剤の作用により好中球から放出されたものである。従って、本発明によれば、簡便かつ迅速に生乳中の体細胞数を求めることができ、生乳を検査することが可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、乳房炎に感染した哺乳動物の生乳かどうかの検査に用いられるものであり、哺乳動物の乳房炎の感染の診断に用いることもできる。
【符号の説明】
【0075】
1A,1B 生乳検査装置
2 センサ
20 検査室
21 ベースプレート
21a 表面
22 カバープレート
23 溝
23a 開口
31 作用極
31a 第1電極部
31c 表面
32 参照極
32a 先端
33 対極
33a 第2電極部
4 界面活性剤
5 コネクタ
6 装置本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤が付着した表面を有し、生乳と該界面活性剤とを接触させて該生乳中の体細胞からミエロペルオキシダーゼを放出させる手段(a)と、
放出された該ミエロペルオキシダーゼの濃度を測定する手段(b)と、
該ミエロペルオキシダーゼの濃度から生乳中の体細胞数を算出する手段(c)と
を含む生乳検査装置。
【請求項2】
前記体細胞数から家畜の乳房炎感染を判定する手段(d)をさらに含む請求項1に記載の生乳検査装置。
【請求項3】
前記手段(b)が、次亜ハロゲン酸の濃度を測定する手段である請求項1又は2に記載の生乳検査装置。
【請求項4】
前記次亜ハロゲン酸の濃度を、電気化学的な方法により測定する請求項3に記載の生乳検査装置。
【請求項5】
前記界面活性剤が、ハロゲンイオンを対イオンとして含む陽イオン性界面活性剤である請求項1〜4のいずれか1項に記載の生乳検査装置。
【請求項6】
生乳と界面活性剤とを接触させて該生乳中の体細胞からミエロペルオキシダーゼを放出させる工程(a)と、
放出された該ミエロペルオキシダーゼの濃度を測定する工程(b)と、
該ミエロペルオキシダーゼの濃度から生乳中の体細胞数を算出する工程(c)と
を含む生乳の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−125313(P2011−125313A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289486(P2009−289486)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】