説明

生体分子検出方法

【課題】磁性微粒子から分離した標識剤を電気化学反応領域に収集し、測定に伴う発光量の減少を抑制することで高感度な検出が可能な検出方法を提供する。
【解決手段】遺伝子サンプルと第1のプローブを結合させた磁性微粒子と第2のプローブを結合させた電気化学発光する標識剤とを互いに結合した複合体を形成する第1のステップと、前記複合体を磁力により収集して前記複合体以外の物質を除去する第2のステップと、前記複合体から前記標識剤を分離する第3のステップと、前記分離した前記標識剤を含む溶液を作製し、第1の電極と第2の電極とをもつ測定基板を用意して前記溶液を前記第1の電極上に配置する第4のステップと、前記第1の電極と前記第2の電極との間に正負の電位を交互に印加して前記標識剤からの発光を測定する第5のステップと、を備える生体分子検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学的試料中に存在する特定の遺伝子配列を検出するための検出方法に関し、特に、磁性微粒子を用いた電気化学的な検出において、電気化学的な信号を高感度に検出するための検出方法に関する。より詳細には、磁性微粒子から分離した標識剤を電位掃印により電極表面に保持し、標識剤からの電気化学発光を高感度に検出するための検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
痰、血液、糞便、精液、唾液、培養細胞、組織細胞のような生化学的試料中に含まれるある特定の配列を有する遺伝子を検出する手法として、核酸のハイブリダイゼーション反応を利用して、特定の核酸に標識剤を結合させ、標識剤の有無により検出を行う手法が、多数提案されている。
【0003】
これらで使用される標識剤としては、放射性同位元素や蛍光色素、電気化学発光物質などが挙げられるが、特に、電気化学発光物質は、電気的に可逆な酸化還元反応時に発光を示すものであり、放射性同位元素のような危険性もなく、また蛍光色素のような励起光の必要性もなく、簡便に検出可能な標識剤として有用である。
【0004】
このような電気化学発光物質を標識剤に用いた手法として、磁性微粒子を用いた手法がある。この手法は、検出すべき遺伝子配列を含む遺伝子サンプルと、遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブを固定した磁性微粒子と、遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブが結合した標識剤とを混合し、遺伝子サンプルを介して磁性微粒子に標識剤が結合した複合体を形成させる。そして、この複合体を磁力で収集し、洗浄することで、未反応の試料および標識剤を除去するB/F(Bound/Free)分離を行う。その後、複合体を電極上に滴下し、磁力で電極表面に複合体を収集する。そして、電極に電圧を印加し、複合体に結合している標識剤からの電気化学的な信号を測定することで、検出すべき遺伝子の存在を検出するものである(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
上記磁性微粒子を用いた手法の特徴は、磁力で複合体を電極表面に収集可能なことである。電気化学反応は、電気化学発光物質と電極との電子の授受により行われ、その反応領域は、電気二重層と呼ばれる電極表面から数nmの領域といった非常に狭い領域である。そのため、高感度な検出には、より多くの電気化学発光物質が電極表面に存在するように、より多くの複合体を電極表面に収集することが必要であり、上記手法のような磁力による複合体の収集は、高感度化に有効な手法である。
【0006】
しかし、磁性微粒子の使用には、問題点もある。それは、電気化学反応に寄与する電気化学発光物質の割合が非常に低いことである。確かに、上記のように磁力によって磁性微粒子を電極表面に収集することは有効な手法ではあるが、収集した磁性微粒子に結合した電気化学発光物質の全てが電気化学反応に寄与するのではないからである。これは、磁性微粒子のサイズはサブミクロンからミクロンオーダーであり、電気化学反応領域に比べ非常に大きいため、磁性微粒子に結合した電気化学発光物質のうち、電気化学反応に寄与する電気化学発光物質は、電極表面と接しているごく一部でしかないことに起因する。
【0007】
さらに、電極表面に収集された磁性微粒子が、発光を阻害する要因となることも問題である。磁石を用いて電極表面に収集された磁性微粒子は、凝集・積層した状態で電極表面に存在しており、電極表面で発生した発光が電極基板の上部にある光検出器に到達するためには、この凝集・積層した磁性微粒子間を通過しなければならない。磁性微粒子は不透明であるため、電極表面で発生した発光は、凝集・積層した磁性微粒子間を通過する間に、大きく減衰してしまう。したがって、電極表面で発生した発光が増加したとしても、検出できるのは僅かでしかなく、電極表面で発生した発光を効率的に検出できない問題がある。
【0008】
そこで、この磁性微粒子による影響を除去する手法として、磁性微粒子から標識剤を分離して検出を行う手法が提案されている(例えば、特許文献3及び特許文献4参照)。
【0009】
この手法は、B/F分離後の複合体から、標識剤を分離し、分離した標識剤を含む溶液について検出を行うものである。
【特許文献1】特表平6−509412号公報
【特許文献2】特開平11−125601号公報
【特許文献3】特開2000−105236号公報
【特許文献4】特開2004−121231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記従来の構成では、標識剤である電気化学発光物質は正に帯電した物質であるので、測定時に正電位の印加を必要とする。ところが、測定を行うことで標識剤は、その極性が電極と同極性なので時間とともに電極表面から離れていく。そのため、測定伴い発光量が減少し、測定感度が低下するという課題を有していた。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、磁性微粒子から分離した標識剤を電気化学反応領域に収集し、測定に伴う発光量の減少を抑制することで高感度な検出が可能な検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために本発明の生体分子検出方法は、遺伝子サンプルと第1のプローブを結合させた磁性微粒子と第2のプローブを結合させた電気化学発光する標識剤とを互いに結合した複合体を形成する第1のステップと、前記複合体を磁力により収集して前記複合体以外の物質を除去する第2のステップと、前記複合体から前記標識剤を分離する第3のステップと、前記分離した前記標識剤を含む溶液を作製し、第1の電極と第2の電極とをもつ測定基板を用意して前記溶液を前記第1の電極上に配置する第4のステップと、前記第1の電極と前記第2の電極との間に正負の電位を交互に印加して前記標識剤からの発光を測定する第5のステップと、を備えたことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の生体分子検出方法によれば、電極に正負の電位を交互に与えることで、磁性微粒子をもたない標識剤を電極表面から離れにくくして、電極上の電気化学反応領域に標識剤を保持することができるため、高感度な発光検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の検出方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
(実施の形態1)
以下に、本発明の検出方法について、詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態1における検出方法の概略図である。まず、図1(a)に示す生化学的試料から遺伝子サンプル1を抽出する。痰、血液、糞便、精液、唾液、培養細胞、組織細胞、その他遺伝子を有する生化学的試料から超音波、振とうなどの物理手段、核酸抽出溶液を用いる化学的手段を用いて必要試料を抽出する。試料中の細胞の破壊は、常法により行うことができ、例えば、振とう、超音波等の物理的作用を外部から加えて行うことができる。また、核酸抽出溶液(例えば、SDS、Triton−X、Tween−20等の界面活性剤、又はサポニン、EDTA、プロテア−ゼ等を含む溶液等)を用いて、細胞から核酸を遊離させることもできる。
【0017】
抽出された長鎖の2本鎖核酸は制限酵素、あるいは超音波などの物理的手段によって任意の長さに切断される。切断された2本鎖核酸は熱処理、あるいはアルカリ変性により1本鎖核酸に分離される。これらの工程により遺伝子サンプルを得る。遺伝子サンプルは、電気泳動による分離等で精製した核酸断片でもよい。
【0018】
次に、検出すべき生体分子と特異的に結合可能な部位を結合させた磁性微粒子として、図1(a)に示す核酸プローブ3を固定化した磁性微粒子2を準備する。核酸プローブ3は、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する1本鎖の核酸であり、生物試料から抽出した核酸を制限酵素で切断し、電気泳動による分離等で精製した核酸、あるいは化学合成で得られた1本鎖の核酸を用いることができる。生物試料から抽出した核酸の場合には、熱処理あるいはアルカリ処理によって、1本鎖の核酸に解離させておくことが好ましい。
【0019】
この核酸プローブ3を磁性微粒子2の表面に固定する。固定化方法としては、公知の方法が用いられる。例えば、磁性微粒子の表面に予めストレプトアビジンをコーティングしておき、ビオチンを標識した核酸プローブと反応させることでアビジンービオチン結合を行う方法がある。また、マイクロアレイで用いられる公知の結合方法(例えばシランカップリング法)を用いることができる。
【0020】
本発明で用いる磁性微粒子としては、医用で一般的に用いられている磁性微粒子が使用可能である。前記磁性微粒子は、電気絶縁材料であるポリスチレンやデキストランのようなポリマーに酸化鉄のような可磁化物質を分散させたものである。前記磁性微粒子の粒径は、10nm〜10μmと幅広く選択可能であり、特に限定されるものではないが、溶液中での分散性および分離、回収性から、300nm〜5μmが好ましい。
【0021】
さらに、図1(a)に示す標識剤6を準備する。本発明で使用される標識剤は、検出すべき生体分子と特異的に結合可能な部位である核酸プローブ5と、電気化学発光物質4に結合しているものである。生体分子と特異的に結合可能な部位としては、前述の磁性微粒子に固定化した核酸プローブと同様、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する1本鎖の核酸である。
【0022】
電気化学発光物質としては、配位子に複素環系化合物を有する金属錯体が挙げられる。そして特に、中心金属がルテニウム、オスニウムである錯体は良好な電気化学発光特性を有し、このような良好な電気化学発光特性を有する物質としては、例えば、ルテニウムビピリジン錯体、ルテニウムフェナントロリン錯体、オスニウムビピリジン錯体、オスニウムフェナントロリン錯体等を挙げることができ、これらは溶液中において、正に帯電する物質である。
【0023】
図1(b)に示すように、前述のようにして得られた遺伝子サンプル1、核酸プローブが固定された磁性微粒子2および標識剤6を、反応容器7で混合し、ハイブリダイズさせる。遺伝子サンプル1中に検出すべき遺伝子配列が存在していると、標識剤6が遺伝子サンプル1を介して磁性微粒子2に結合した複合体8を形成する。なお、ハイブリダイズさせる方法は周知であるため、ここでの説明は省略する。
【0024】
図1(c)に示すように、ハイブリダイズさせた後、結合しなかった非目的サンプルや未反応物質はB/F分離により除去する。B/F分離は、反応容器7の一部に磁石9を配置し、磁力により磁性微粒子2を固定後、溶液を除去することで行う。このB/F分離によって、図1(d)に示すように磁性微粒子に結合した検出すべき遺伝子配列および標識剤を選択的に得ることができる。
【0025】
図1(e)に示すように、B/F分離後、複合体8から標識剤6を分離する。この標識剤の分離は、少なくとも電気化学発光物質を磁性微粒子から分離できればよく、核酸プローブ5は切断、分解された状態であってもよい。また、標識剤の核酸プローブ5や遺伝子サンプル1、磁性微粒子に固定化された核酸プローブ3とともに磁性微粒子から分離されてもよい。このような標識剤を分離する方法としては、アルカリ変性、熱変性、物理破壊、酵素分解などが挙げられる。
【0026】
アルカリ変性は0.1〜1mol/LのNaOH溶液で行われる。より好適には高濃度のアルカリ溶液を用いる。アルカリ変性を行うことで、2本鎖化した核酸が1本鎖となり、標識剤が磁性微粒子から分離される。
【0027】
熱変性は、ビーズの入った溶液を2本鎖核酸の融解温度(Tm値)以上の温度を溶液に与える必要がある。融解温度は2本鎖核酸が1本鎖核酸に乖離する温度である。より好適には98℃まで加熱することで変性が行われる。溶液を加熱することで2本鎖化した核酸が1本鎖となり、標識剤が磁性微粒子から分離される。
【0028】
物理破壊は、外部から物理エネルギーを核酸に与え、核酸を分解させる。物理破壊の方法としては、ビーズが入った溶液をミキシング、あるいは超音波を与える方法がある。より好適には、10KHz〜100MHzの超音波を用いて核酸を切断する方法が用いられる。
【0029】
酵素分解は核酸分解酵素を用いる。核酸分解酵素は、例えば、S1Nuclease、Exonuclease、DNase、RNase等が挙げられる。
【0030】
このようにして標識剤の分離を行った後、図1(f)に示すように、複合体から分離した標識剤を含む溶液12を、測定基板9に滴下する。測定基板9は、ガラスやプラスチック樹脂などの基材の上に、作用極や対極、参照極といった電極パターンを形成したものである。電極の材料としては、例えば、金、白金、白金黒、パラジウム、ロジウムのような貴金属電極や、グラファイト、グラシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンペースト、カーボンファイバーのような炭素電極や、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化鉛のような酸化物電極や、Si、Ge、 ZnO、 CdS、TiO、GaAsのような半導体電極等が挙げられる。なお、測定基板9上には、溶液を保持するための液だめ11が形成されている。液だめ11は、プラスチック樹脂やシリコンゴムシートなどを加工し、接着させたものである。
【0031】
そして、電解液を測定基板9上に滴下後、図1(g)に示すように、測定基板9にポテンショスタット13を接続する。ポテンショスタット13は、制御部14の制御の下、測定基板9に対して電位を印加し、電気化学発光させる。そして、光電子増倍管15により電位印加中の電気化学発光の積算量を測定し、測定値は制御部14に入力され、解析される。ここで、電解液は、支持電解質および還元剤を含む溶液であり、公知のものが使用可能である。支持電解質としては、溶液にイオン導電性を与える物質、例えば、リン酸ナトリウムや塩化ナトリウムのような塩を挙げられる。また、還元剤としては、電気化学的に酸化した電気化学発光物質を還元し、励起状態にする物質、例えば、トリエチルアミンやトリプロピルアミン、シュウ酸などが挙げられる。
【0032】
図1(g)に示す測定基板9を上から見たときの構成を図2に示す。図2(a)は、2極のもので、第1の電極である作用極16と第2の電極である対極が形成され、その上には前述した液だめ11が接着されている。作用極16は標識剤と電気化学反応を起こし標識剤を発光させるため電極として作用し、対極17は標識剤が電気化学反応を起こすために必要な電位を作用極16に与えるための電極として作用をする。図2(b)は、3極のもので、作用極16と対極17、さらに参照極18が形成され、その上には前述した液だめ11が接着されている。作用極16および対極17は、2極のものと同様に作用する。また、参照極18は、この参照極の電位を基準として作用極の電位を測定することができ、作用極に印加する電位を制御するための電極として作用する。
【0033】
以下、電極に印加する電位の掃印方法について説明する。図3に本発明の実施の形態1における作用極に印加する電位の掃印波形の概念を示す。図3において、V0〜V5は、電位掃印波形の各頂点である。V0〜V1の区間は、正電位立ち上がり区間であり、電気化学発光物質および電解液中に含まれる還元剤を酸化させる正電位V1まで掃印する。一般に、電気化学発光物質は、還元剤よりも高い酸化電位を有しているため、正電位V1は電気化学発光物質の酸化電位以上の電位であれば良い。
【0034】
V1〜V2の区間は、正電位印加区間であり、電気化学発光物質および電解液中に含まれる還元剤を酸化させる正電位を印加しつづけ、電気化学発光を発生させる
V2〜V4の区間は、負電位立ち下がり区間であり、正に帯電した電気化学発光物質を電極表面に収集するための負電位V4まで掃印する。ここで、電気化学発光物質を電極表面に収集するための負電位V4は、作用極および対極において電気化学反応が起こらない電位が好ましく、負電位の絶対値を還元剤の酸化電位の絶対値より小さくすることが好ましい。これは、電気化学反応が起こると、対極での還元剤の酸化による電解液の劣化を引き起こし、電気化学発光に悪影響を与えるためである。なお、電気化学反応の有無は、酸化還元電流の有無で確認でき、電極に接続しているポテンショスタットで測定可能である。
【0035】
V4〜V5の区間は、負電位印加区間であり、負電位を印加しつづけ、電気化学発光物質を収集する。V5〜V6の区間は、負電位立ち上がり区間であり、初期状態の0Vまで掃印する。
【0036】
以上のようなV0〜V6までの区間を1サイクルとし、このサイクルを少なくとも2回以上繰り返す。このように、正電位の印加後に負電位の印加を行うことで、正電位印加時に離れた電気化学発光物質を静電的に電極表面に引き寄せることが可能となり、再度、正電位の印加を行うと、減衰していた発光よりも高い発光を得ることができる。そのため、電気化学発光の積算量を増加させることができ、高感度な検出が可能となる。
【0037】
なお、電位の掃印は、上記のように正電位の印加から始まる掃印でも良いが、負電位の印加から始まる掃印でも良い。この場合、V3を起点とする掃印波形となる。
【0038】
以上のように、本発明の実施の形態1によれば、磁性微粒子から分離させた標識剤を、負電位の印加により静電的に電極表面に引き寄せ、収集することが可能となり、電気化学反応領域に標識剤を収集させることができるため、高感度な検出が可能となる。
【0039】
次に本発明の具体的な実施例を詳細に説明する。ただし、実施例に記載した遺伝子サンプルは一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
(1)遺伝子サンプル
遺伝子サンプルには、ヒト由来Cytochrome P−450の遺伝子配列の5’−末端より599−698番目に位置するAATTGAATGA AAACATCAGG ATTGTAAGCA CCCCCTGGAT CCAGATATGC AATAATTTTC CCACTATCAT TGATTATTTC CCGGGAACCC ATAACAAATTの配列を有する100塩基のオリゴデオキシヌクレオチドを使用した。
【0041】
(2)磁性微粒子表面への核酸プローブの固定化
磁性微粒子には、Bangs Laboratories社製のCM01N/5896ストレプトアビジン磁気ビーズを用いた(粒径0.35μm)。核酸プローブには、5’末端よりAATTTGTTAT GGGTTCCCGG GAAATAATCAの遺伝子サンプルと相補的な配列を有し、5’末端のリン酸基を介してビオチンを修飾したものを使用した。
【0042】
まず、磁性微粒子を1mg採取し、TTLバッファー(500mmol/L Tris−HCl(pH8.0):Tween20:2mol/L塩化リチウム:超純水=2:10:5:3の体積比になるよう調製)で洗浄後、20μLのTTLバッファーに置換した。その後、100nmol/Lの核酸プローブを5μL添加し、室温で15分振とうした。
【0043】
この溶液をデカントし、残留した磁性微粒子を0.15mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で洗浄後、TTバッファー(500mmol/L Tris−HCl(pH8.0):Tween20:超純水=1:2:1の体積比になるよう調製)で洗浄した。
【0044】
洗浄後、TTEバッファーに溶液を置換し、80℃で10分間インキュベートすることにより、不安定な結合を除去した。これにより、核酸プローブが固定化された磁性微粒子を得た。
【0045】
(3)標識剤
本実施例では、電気化学発光物質であるルテニウム錯体に、遺伝子サンプルと相補的な配列を有する核酸プローブを結合させた、下記(化1)に示す標識剤を使用した。
【0046】
【化1】

【0047】
ここで用いた核酸プローブは、5’末端からTGCTTACAAT CCTGATGTTT TCATTCAATTの配列を有する30塩基のオリゴデオキシヌクレオチドである。
【0048】
前記(化1)で示される標識剤は、以下のようにして得た。
まず、THF60.0mLに溶解させた4,4’−ジメチル−2,2’ビピリジン2.50g(13.5mmol)溶液を窒素雰囲気の容器に注入した後、リチウムジイソプロピルアミド2mol/L溶液16.9mL(27.0mmol)を滴下し、15℃で30分撹拌した。一方、同様に窒素気流中で乾燥させた容器に、1,3−ジブロモプロパン4.2mL(41.1mmol)とTHF10mLとを加え、15℃で撹拌させた。この容器に、先程の反応液を30分滴下させて2.5時間反応させた。反応溶液は2Nの塩酸で中和し、THFを留去した後、クロロホルムで抽出した。溶媒を留去して得た粗生成物をシリカゲルカラムで精製し、生成物Cを得た(収率47%)。
【0049】
窒素雰囲気の容器に、前記生成物C1.0g(3.28mmol)、フタルイミドカリウム0.67g(3.61mmol)、及びジメチルホルムアミド(脱水)30.0mLを加え、オイルバスで18時間還流した。反応後、クロロホルムで抽出し、0.2N水酸化ナトリウム50mLで蒸留水洗浄した。溶媒を留去して酢酸エチルとヘキサンから再結晶を行い、生成物Dを得た(収率61・5%) 。
【0050】
塩化ルテニウム(III)(2.98g、0.01mol)、及び2,2'−ビピリジン(3.44g、0.022mol)をジメチルホルムアミド(80.0mL)中で6時間還流した後、溶媒を留去した。その後、アセトンを加え、4℃で8時間冷却することで得られた黒色沈殿物を採取し、エタノール水溶液170mL(エタノール:水=1:1)を加え1時間還流を行った。ろ過後、塩化リチウムを20g加え、エタノールを留去し、さらに4℃で8時間冷却した。析出した黒色物質は吸引ろ過で採取し、生成物Eを得た(収率68.2%)。
【0051】
窒素置換した容器に、前記生成物D0.50g(1.35mmol)、前記生成物E0.78g(1.61mmol)、及びエタノール50mLを加えた。9時間窒素雰囲気で還流した後、溶媒を留去し、蒸留水で溶解させ、1.0mol/Lの過塩素酸水溶液で沈殿させた。この沈殿物を採取し、メタノールで再結晶を行い、生成物Fを得た(収率81.6%)。
【0052】
さらに、前記生成物F1.0g(1.02mmol)、及びメタノール70.0mLを1時間還流した。室温まで冷却した後、ヒドラジン一水和物0.21mL(4.21mmol)を加え再び13時間還流した。反応後、蒸留水を15mL加え、メタノールを留去した。
【0053】
次に、濃塩酸を5.0mL加え、2時間還流して得られた反応液を4℃で8時間冷蔵し、不純物を自然ろ過で除去した。これを炭酸水素ナトリウムで中和した後、水を留去し、無機物をアセトニトリルで除去した。溶媒を留去して得た粗生成物をシリカゲルカラムで精製し、生成物Gを得た(収率71.4%)。
【0054】
アルミホイルで遮光した容器に、前記生成物G0.65g(0.76mmol)を加え、アセトニトリル10mLに溶解させた。次に、トリエチルアミン0.23g(2.29mmol)を加えた後、アセトニトリル20mLに溶解したグルタル酸無水物0.87g(7.62mmol)を滴下した。
【0055】
室温で9時間反応させた後、エバポレーターでアセトニトリルを留去して得た粗生成物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製し、下記(化2)に示すルテニウム錯体を得た(収率87.5%)。
【0056】
【化2】

【0057】
表1に、前述のようにして得た(化2)に示す物質の1H-NMRの結果を示す。
【0058】
【表1】

【0059】
次に、オリゴデオキシヌクレオチド786μg(83.4pmol)を蒸留水0.3mLに溶解させ、該オリゴデオキシヌクレオチドの水溶液に、ルテニウム錯体0.5mg(0.12μmol)、N−ヒドロキシスクシンイミド0.3mg(2.5μmol)、WSC1.4mg(7.5μmol)、0.1mol/Lトリエチルアミン2.5μL(0.25μmol)を添加し、48時間室温で反応させた。HPLCで精製後、目的物のフラクションを採取し、溶液を留去して(化1)に示す標識剤を得た(収率74.1%)。
【0060】
前記標識剤を用いることで、ルテニウム錯体から620nmをピーク波長とする電気化学発光を得ることが可能である。
【0061】
(4)ハイブリダイゼーション
前記核酸プローブを固定した磁性微粒子に、2XSSCを14μL加え、そこに5μmol/Lに調製した遺伝子サンプル及び標識剤をそれぞれ4μL添加し、70℃で1時間ハイブリダイゼーション反応を行った。
【0062】
(5)B/F分離
ハイブリダイゼーション反応させた後、磁石で磁性微粒子を収集後、溶液をデカントし、40℃に加温した2XSSCで洗浄してB/F分離を行い、標識剤が遺伝子サンプルを介して磁性微粒子に結合した複合体を得た。
【0063】
(6)標識剤分離
次に、磁性微粒子から標識剤を分離させるために、核酸分解酵素DNase I(タカラバイオ製)を使用した。B/F分離後の複合体に、DNase I処理溶液(10×DNase I Buffer 5μL、DNase I 2μL、DPEC処理水 40μL)を加え、37度で30分間揺動させ、磁性微粒子から標識剤を分離させた。
【0064】
(7)電気化学測定
磁性微粒子から標識剤を分離させた後、磁石で磁性微粒子を収集しながら、上澄み溶液を採取し、測定基板の作用極上に5μL滴下した。その後、電極に電解液として、0.2mol/LのPBS(pH7.4のリン酸ナトリウム緩衝液)を500μL、0.2mol/Lのトリエチルアミンを500μL混合した溶液を75μL滴下した。
【0065】
なお、上記測定基板には、ガラス基板上にスパッタ装置(アルバック製SH−350)によりチタン10nmを下地に金200nmを形成し、フォトリソグラフィ工程により、作用極、参照極、対極のパターンを形成した測定基板を用いた。
【0066】
以上の工程の後、測定基板に電位を印加し、この時に生じた電気化学発光の積算量の測定を行った。電気化学発光量の測定は、光電子増倍管(浜松ホトニクス製H7360−01)を用いて行い、電位印加中の積算発光量を測定した。
【0067】
図4に本発明の実施の形態1における作用極に印加する電位の掃印波形の具体的な一例を示す。なお、電位掃印波形には、本発明の波形と、従来技術の波形の2種類を用いた。
【0068】
本発明の波形は、0.1秒で+1.3Vまで掃印し、2秒間+1.3Vを保持した。次に、0.1秒で−0.4Vまで掃印し、1秒間−0.4V保持した。次に、0.1秒で+1.3Vまで掃印し、2秒間+1.3Vを保持した後、0Vまで掃印したものである。なお、上記波形で印加した負の電位(−0.4V)は、還元剤であるトリエチルアミンの酸化電位(0・8V)より小さい絶対値となるように設定しており、この負の電位印加中に還元剤の酸化電流は観測されない。
【0069】
また、従来技術の波形は、0.1秒で+1.3Vまで掃印し、4秒間+1.3Vを保持したものである。この波形は一例であって、その正負電位の繰り返し回数や電位の値は、電解液や電極形状により最適値を選べば良い。
【0070】
図5に本発明の実施の形態1における電気化学発光量を示す。図5は、図4に示した電位掃印波形により発生した電気化学発光量をプロットしたものである。
【0071】
図5において、従来技術の波形の場合、電気化学発光量は時間とともに減衰していくだけである。一方、本発明の波形の場合は、初期の正の電位印加中は、正の電位のみ印加する波形の場合と同様、電気化学発光量は時間とともに減衰していくが、負の電位の印加を行った後は、再度、高い電気化学発光量が得られている。これは、磁性微粒子から分離させた標識剤を、負電位の印加により静電的に電極表面に引き寄せ、電気化学反応領域に標識剤を収集した結果を示している。
【0072】
図6に本発明の実施の形態1における電気化学発光の積算量を示す。図6は、図5で得られた電気化学発光量を積算したものである。
【0073】
図6において、本発明の波形の場合は、従来技術の波形の場合に比較し、1.6倍高い値を得られている。この差は、負の電位の印加後に増加した電気化学発光量に起因したものであり、本発明が高感度な検出に有効である結果を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明にかかる検出方法は、生化学的試料中の生体分子を高感度に検出することができるので、遺伝子診断、感染症診断、食品検査等の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態1における検出方法の概略を示す図
【図2】本発明の実施の形態1における測定基板の電極の平面図
【図3】本発明の実施の形態1における作用極に印加する電位の掃印波形の概念を示す図
【図4】本発明の実施の形態1における作用極に印加する電位の掃印波形の具体的な一例を示す図
【図5】本発明の実施の形態1における電気化学発光量を示す図
【図6】本発明の実施の形態1における電気化学発光の積算量を示す図
【符号の説明】
【0076】
1 遺伝子サンプル
2 磁性微粒子
3 核酸プローブ
4 電気化学発光物質
5 核酸プローブ
6 標識剤
7 反応容器
8 複合体
9 磁石
10 測定基板
11 液だめ
12 複合体から分離した標識剤を含む溶液
13 ポテンショスタット
14 制御部
15 光電子増倍管
16 作用極
17 対極
18 参照極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子サンプルと第1のプローブを結合させた磁性微粒子と第2のプローブを結合させた電気化学発光する標識剤とを互いに結合した複合体を形成する第1のステップと、
前記複合体を磁力により収集して前記複合体以外の物質を除去する第2のステップと、
前記複合体から前記標識剤を分離する第3のステップと、
前記分離した前記標識剤を含む溶液を作製し、第1の電極と第2の電極とをもつ測定基板を用意して前記溶液を前記第1の電極上に配置する第4のステップと、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に正負の電位を交互に印加して前記標識剤からの発光を測定する第5のステップと、
を備える生体分子検出方法。
【請求項2】
前記第1の電極は前記標識剤を発光させるための作用極として機能し、
前記第2の電極は前記作用極に対して電位を与えるための対極として機能する請求項1に記載の生体分子検出方法。
【請求項3】
前記第2の電極は対極と参照極とに分かれている請求項2に記載の生体分子検出方法。
【請求項4】
前記第5のステップの前記正電位と負電位の印加の繰り返し回数は、少なくとも2回以上とする請求項1記載の生体分子検出方法。
【請求項5】
前記第5のステップの前記負電位の絶対値は、前記電解液中に含まれる還元剤の酸化電位の絶対値より小さい請求項1に記載の生体分子検出方法。
【請求項6】
前記第5のステップの前記正電位は、前記標識剤に含まれる電気化学発光物質の酸化電位以上である請求項1に記載の生体分子検出方法。
【請求項7】
前記第5のステップの発光の測定は、正電位の印加時における発光量を積算して求める請求項1記載の生体分子検出方法。
【請求項8】
前記遺伝子サンプルは、生体分子から抽出された後に一本鎖に変性された核酸である請求項1に記載の生体分子検出方法。
【請求項9】
前記第1のプローブは、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸である請求項8に記載の生体分子検出方法。
【請求項10】
前記第2のプローブは、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有し、かつ前記第1のプローブとは異なる塩基配列を有する一本鎖の核酸である請求項9に記載の生体分子検出方法。
【請求項11】
前記標識剤は、ルテニウム、またはオスニウムを中心金属とする金属錯体を含む請求項1に記載の生体分子検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−68869(P2009−68869A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234944(P2007−234944)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】