説明

生体情報処理装置および方法、プログラム並びに記録媒体

【課題】推定可能なハイブリダイズ量のダイナミックレンジを十分に確保することができるようにする。
【解決手段】 DNAチップ11に設けられるスポット12を、異なる強度の励起光でスキャンして得られた複数の発現プロファイル画像を処理対象とする場合、作成部81においては、それらの発現プロファイル画像の蛍光強度と、あらかじめ用意される蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式とから、発現プロファイル画像と同じ数のハイブリダイズ量が取得される。取得されたハイブリダイズ量に対しては重み付けがされることによって1つのハイブリダイズ量が求められ、求められたハイブリダイズ量が、スポット12において生じたハイブリダイズ量の推定値とされる。本発明は、DNAチップの蛍光強度を測定する装置に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報処理装置および方法、プログラム並びに記録媒体に関し、特に、推定可能なハイブリダイズ量のダイナミックレンジを十分に確保することができるようにした生体情報処理装置および方法、プログラム並びに記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNA(deoxyribonucleic acid)チップ若しくはDNAマイクロアレイ(以下、本明細書では両者を区別する必要がない場合、まとめて単にDNAチップと称する)の実用化が進んでいる。DNAチップは、多種・多数のDNAオリゴ鎖を、検出用核酸として基板表面に集積して固定したものである。DNAチップを用いて、基板表面のスポットに固定されたプローブと、細胞などから採取したサンプル中のターゲットとのハイブリダイゼーションを検出することにより、採取した細胞内における遺伝子発現を網羅的に解析することができる。
【0003】
DNAチップを用いた遺伝子発現解析におけるハイブリダイゼーション検出技術の向上に伴い、単に、遺伝子発現の有無を検出するだけでなく、遺伝子発現量の定量的な測定が可能になりつつある。例えば、ハイブリダイゼーション検出の際に蛍光強度を定量的に測定することにより、遺伝子発現量を示す定量的な数値を取得する技術は、一部実用化されている。
【0004】
DNAチップなどによって得られた遺伝子発現量の解析方法、補正方法などに関する先行文献として、例えば、特許文献1乃至特許文献3がある。
【特許文献1】特開2002−71688号公報
【特許文献2】特表2002−267668号公報
【特許文献3】特開2003−28862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、スポットで発生したハイブリダイズの量を推定する作業においては、1種類の強度の励起光で得られた発現プロファイル画像のみが用いられていた。ここで、発現プロファイル画像は、DNAチップ上に励起光を照射し、発生した蛍光をスキャンすることによって得られた、ハイブリダイズの状態の観測対象となる画像である。
【0006】
したがって、対象とする発現プロファイル画像の励起光強度によっては、推定可能なハイブリダイズの量のダイナミックレンジを十分に確保することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、推定可能なハイブリダイズ量のダイナミックレンジを十分に確保することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の側面は、基板上に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、第1の生体物質に対してハイブリダイズする第2の生体物質とのハイブリダイズの状態を、励起光を照射したときに第1の生体物質と第2の生体物質がハイブリダイズした部分から発生された蛍光をスキャンして得られた発現プロファイル画像を用いて測定する生体情報処理装置であって、蛍光強度から、反応領域における第1の生体物質と第2の生体物質のハイブリダイズ量が励起光の強度毎に一義的に求められる情報である変換情報を記憶する記憶手段と、異なる強度の励起光により得られた複数の発現プロファイル画像を処理対象とする場合、発現プロファイル画像の取得に用いられたそれぞれの励起光の強度の複数の変換情報に基づいて、複数の発現プロファイル画像にそれぞれ含まれる、対応する反応領域におけるハイブリダイズ量を推定する推定手段とを備える生体情報処理装置である。
【0009】
推定手段は、第1の強度の励起光により得られた発現プロファイル画像により表される第1の反応領域の蛍光強度から、第1の反応領域における第1のハイブリダイズ量を第1の強度の励起光の変換情報を用いて求めるとともに、第2の強度の励起光により得られた発現プロファイル画像により表される第1の反応領域に対応する第2の反応領域の蛍光強度から、第2の反応領域における第2のハイブリダイズ量を第2の強度の励起光の変換情報を用いて求め、求められた第1と第2のハイブリダイズ量に対して重み付けをすることによって、対応する反応領域におけるハイブリダイズ量を推定するようにすることができる。
【0010】
本発明においては、蛍光強度から、反応領域における第1の生体物質と第2の生体物質のハイブリダイズ量が励起光の強度毎に一義的に求められる情報である変換情報が記憶され、異なる強度の励起光により得られた複数の発現プロファイル画像を処理対象とする場合、発現プロファイル画像の取得に用いられたそれぞれの励起光の強度の複数の変換情報に基づいて、複数の発現プロファイル画像にそれぞれ含まれる、対応する反応領域におけるハイブリダイズ量が推定される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、推定可能なハイブリダイズ量のダイナミックレンジを十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、本明細書に記載の発明と、発明の実施の形態との対応関係を例示すると、次のようになる。この記載は、請求項に記載されている発明をサポートする実施の形態が本明細書に記載されていることを確認するためのものである。従って、発明の実施の形態中には記載されているが、発明に対応するものとして、ここには記載されていない実施の形態があったとしても、そのことは、その実施の形態が、その発明に対応するものではないことを意味するものではない。逆に、実施の形態が発明に対応するものとしてここに記載されていたとしても、そのことは、その実施の形態が、その発明以外の発明には対応しないものであることを意味するものでもない。
【0013】
さらに、この記載は、本明細書に記載されている発明の全てを意味するものではない。換言すれば、この記載は、本明細書に記載されている発明であって、この出願では請求されていない発明の存在、すなわち、将来、分割出願されたり、補正により追加される発明の存在を否定するものではない。
【0014】
請求項1に記載の生体情報処理装置は、基板上に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質(例えば、プローブ)と、前記第1の生体物質に対してハイブリダイズする第2の生体物質(例えば、ターゲット)とのハイブリダイズの状態を、励起光を照射したときに前記第1の生体物質と前記第2の生体物質がハイブリダイズした部分から発生された蛍光をスキャンして得られた発現プロファイル画像を用いて測定する生体情報処理装置であって、蛍光強度から、前記反応領域における前記第1の生体物質と前記第2の生体物質のハイブリダイズ量が励起光の強度毎に一義的に求められる情報である変換情報(例えば、蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式)を記憶する記憶手段(例えば、図1の蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部30)と、異なる強度の励起光により得られた複数の前記発現プロファイル画像を処理対象とする場合、前記発現プロファイル画像の取得に用いられたそれぞれの励起光の強度の複数の前記変換情報に基づいて、複数の前記発現プロファイル画像にそれぞれ含まれる、対応する反応領域におけるハイブリダイズ量を推定する推定手段(例えば、図1の作成部81)とを備えることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の生体情報処理方法は、基板上に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質(例えば、プローブ)と、前記第1の生体物質に対してハイブリダイズする第2の生体物質(例えば、ターゲット)とのハイブリダイズの状態を、励起光を照射したときに前記第1の生体物質と前記第2の生体物質がハイブリダイズした部分から発生された蛍光をスキャンして得られた発現プロファイル画像を用いて測定する生体情報処理方法であって、蛍光強度から、前記反応領域における前記第1の生体物質と前記第2の生体物質のハイブリダイズ量が励起光の強度毎に一義的に求められる情報である変換情報(例えば、蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式)を取得する取得ステップ(例えば、図8のステップS41)と、異なる強度の励起光により得られた複数の前記発現プロファイル画像を処理対象とする場合、前記発現プロファイル画像の取得に用いられたそれぞれの励起光の強度の複数の前記変換情報に基づいて、複数の前記発現プロファイル画像にそれぞれ含まれる、対応する反応領域におけるハイブリダイズ量を推定する推定ステップ(例えば、図8のステップS45)とを含むことを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載のプログラム、および請求項5に記載の記録媒体に記録されているプログラムにおいても、各ステップが対応する実施の形態(但し一例)は、請求項3に記載の生体情報処理方法と同様である。
【0017】
ここで、本明細書において使用する用語の意味を説明する。
【0018】
プローブとは、DNAチップなどのバイオアッセイ用の基板に固定された生体物質であって、ターゲットと生体反応するものをいう。
【0019】
ターゲットとは、DNAチップなどのバイオアッセイ用の基板に固定された生体物質に生体反応する生体物質をいう。
【0020】
生体物質とは、蛋白質、核酸、糖などの生体内において生成される物質の他、相互に相補的な塩基配列を有する遺伝子またはそれから派生する物質を含む。
【0021】
生体反応とは、2以上の生体物質が生化学的に反応することをいう。その代表例は、ハイブリダイゼーションである。
【0022】
ハイブリダイゼーションとは、相補的な塩基配列構造を備える核酸間の相補鎖(二本鎖)形成反応をいう。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施形態の生体情報処理装置の構成例を表している。この生体情報処理装置1は、DNAチップ11、ピックアップ部21、蛍光強度取得部22、励起光強度計算部23、ハイブリダイズ量推定部24、発現量計算部25、標準化部26、出力部27、発現プロファイルデータ記憶部28、表示部29Aを有するユーザインターフェース(UI)部29、蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部30、並びに機械的学習部31により構成されている。
【0025】
DNAチップ11は、スポット12とガイド13を有している。図2は、DNAチップ11のより詳細な構成例を表している。
【0026】
DNAチップ11は、その基板11A上に、発現解析用反応槽101と細胞数計数用反応槽102を有している。基板11Aの図中下側の端部には、直線状の開始位置ガイド13Aが設けられ、図中上側の端部には、終了位置ガイド13Bが設けられている。図1のガイド13は、具体的には、この開始位置ガイド13Aと終了位置ガイド13Bにより構成される。
【0027】
発現解析用反応槽101と細胞数計数用反応槽102は、この開始位置ガイド13Aと終了位置ガイド13Bの間に配置されている。
【0028】
発現解析用反応槽101には、反応領域としての複数のスポット12が形成されており、各スポット12には、生体物質(第1の生体物質)としてのハイブリダイズ検証用プローブ111、発現解析用プローブ112、並びに発現標準化用コントロールプローブ113が固定されている。発現解析用反応槽101にサンプルが滴下された場合、ハイブリダイズ検証用プローブ111には、その塩基と相補的構成を有する塩基を有する生体物質(第2の生体物質)としてのターゲット111Aがハイブリダイズする。同様に、発現解析用プローブ112には、その塩基と相補的構成を有する塩基を有する生体物質(第2の生体物質)としてのターゲット112Aがハイブリダイズする。また、発現標準化用コントロールプローブ113には、その塩基と相補的構成の塩基を有する生体物質(第2の生体物質)としてのターゲット113Aがハイブリダイズする。
【0029】
細胞数計数用反応槽102においては、生体物質(第1の生体物質)としてのハイブリダイズ検証用プローブ114と細胞数計数用コントロールプローブ115が、それぞれ反応領域としてのスポット12に取り付けられている。細胞数計数用反応槽102にサンプルが滴下された場合、ハイブリダイズ検証用プローブ114には、その塩基と相補的構成の塩基を有する生体物質(第2の生体物質)としてのターゲット114Aがハイブリダイズし、細胞数計数用コントロールプローブ115には、その塩基と相補的構成の塩基を有する生体物質(第2の生体物質)としてのターゲット115Aがハイブリダイズする。
【0030】
ハイブリダイズした(生体反応した)生体物質としてのプローブとターゲットには、インターカレータ116が結合されている。インターカレータ116は励起光が照射されると蛍光を発生する。
【0031】
図2には、このように、各プローブに対してターゲットがハイブリダイズした状態が示されている。なお、図2には便宜上、1つのスポット12に1つのプローブのみが示されているが、実際には1つのスポット12に対して同一種類の複数のプローブが固定されている。また、各反応槽には同一種類のプローブが固定された任意の数のスポットが、予め定められた所定の位置に配置されている。
【0032】
図1のピックアップ部21は、蛍光強度取得用ピックアップ41、ガイド信号取得用ピックアップ42、コントロール部43、対物座標計算部44、および畳み込み展開部45で構成されている。
【0033】
蛍光強度取得用ピックアップ41は、図2のDNAチップ11の発現解析用反応槽101と細胞数計数用反応槽102の画像を取得するピックアップである。これに対して、ガイド信号取得用ピックアップ42は、開始位置ガイド13Aと終了位置ガイド13Bを読み取るためのピックアップである。
【0034】
蛍光強度取得用ピックアップ41は、対物レンズ51、プリズム52、半導体レーザ53、およびフォトダイオード54を有している。半導体レーザ53より出射されたレーザ光(励起光)は、プリズム52を介して対物レンズ51に入射され、対物レンズ51は、入射されたレーザ光を基板11A(スポット12)上に照射する。対物レンズ51はまた、スポット12からの光をプリズム52を介してフォトダイオード54に入射する。各スポット12には、複数のプローブが固定されており、プローブとターゲットがハイブリダイゼーションした場合、さらに両者にはインターカレータ116が結合される。すなわち、プローブとターゲットがハイブリダイゼーションしていない場合には、両者の間にインターカレータ116は存在せず、ハイブリダイゼーションした場合においてのみ、両者の間にインターカレータ116が存在する。インターカレータ116は、励起光が照射されると蛍光を発生する。対物レンズ51により集光された蛍光はプリズム52により励起光と分離されて、フォトダイオード54に入射される。
【0035】
ハイブリダイゼーションしている量が多ければ、それだけインターカレータ116の量も多く、したがって、そこから発生する蛍光量も多い。したがって、蛍光の強度に基づいて、ハイブリダイゼーションの状態を測定する(ハイブリダイゼーションの情報を得る)ことが可能となる。
【0036】
コントロール部43は、半導体レーザ53の電流制御を行い、その励起光の強度を調整する。また、コントロール部43は、フォトダイオード54の出力(電流量変化)を読み取る。
【0037】
畳み込み展開部45は、フォトダイオード54より出力された電流量変化に基づく信号をコントロール部43から受け取り、ピクセル単位の画像データを生成する。
【0038】
ガイド信号取得用ピックアップ42は、対物レンズ61、プリズム62、半導体レーザ63、およびフォトダイオード64により構成されている。半導体レーザ63は、コントロール部43からの制御に基づいて、レーザ光を発生する(このレーザ光は、ガイド検出光として機能する)。プリズム62は、半導体レーザ63からのレーザ光を対物レンズ61に入射し、対物レンズ61はこのレーザ光を基板11Aに照射する。対物レンズ61は、基板11Aからの反射光を受光し、プリズム62はこの反射光を照射光から分離してフォトダイオード64に出射する。フォトダイオード64は、プリズム62より入射された反射光を光電変換し、ガイド信号としてコントロール部43に出力する。コントロール部43は、フォトダイオード64より入力されたガイド信号を対物座標計算部44に出力する。ガイド13(開始位置ガイド13Aと終了位置ガイド13B)は、基板11Aの他の領域に較べて反射率が高く(または低く)なるように形成されている。対物座標計算部44は、コントロール部43を介して、ガイド信号取得用ピックアップ42より供給されたガイド信号のレベルに基づいて、開始位置ガイド13Aと終了位置ガイド13Bの位置、並びに開始位置ガイド13Aから終了位置ガイド13Bに向けて等速度で移動されるガイド信号取得用ピックアップ42の位置(座標)を計算する。
【0039】
コントロール部43は、対物座標計算部44により計算されたガイド信号取得用ピックアップ42の位置に基づいて、蛍光強度取得用ピックアップ41(対物レンズ51)の位置を制御する。ガイド信号取得用ピックアップ42と蛍光強度取得用ピックアップ41は、相互に所定の位置関係に固定されており、蛍光強度取得用ピックアップ41を図2における開始位置ガイド13Aと終了位置ガイド13Bの間における所定の位置に配置することは、とりもなおさずガイド信号取得用ピックアップ42を開始位置ガイド13Aと終了位置ガイド13Bの間の所定の位置に配置することになる。
【0040】
蛍光強度取得部22は、蛍光強度取得用ピックアップ41のフォトダイオード54が出力した各スポット12(その座標(x,y))からの蛍光強度(pfx,y)の入力を受け、この蛍光強度に関するデータをハイブリダイズ量推定部24の作成部81に出力する。蛍光強度取得部22はまた、蛍光強度取得用ピックアップ41の対物レンズ51の基板11A上の対物座標(x,y)、対物面積半径(r)、並びに励起光強度を制御する制御信号をコントロール部43に出力する。コントロール部43は、この制御信号に基づいて対物レンズ51を制御する。これにより、対物レンズ51が基板11A上の所定の座標(x,y)に配置され、対物レンズ51より出射されるレーザ光の照射範囲の半径(対物面積半径)(r)が所定の値に制御され、そのレーザ光の強度(励起光強度)が所定の値に調整される。
【0041】
蛍光強度取得部22は、コントロール部43から供給された蛍光強度を、励起光強度計算部23に出力する。励起光強度計算部23は、蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部30に記憶されている蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式に基づいて、最適な励起光強度を計算し、その計算して得られた励起光強度を蛍光強度取得部22に出力する。蛍光強度取得部22は、この励起光強度計算部23からの励起光強度に基づいて半導体レーザ53の電流を制御し、所定の強さの励起光を半導体レーザ53より出射させる。
【0042】
ハイブリダイズ量推定部24は、作成部81、画像処理部82、検証部83、並びにハイブリダイズ量計算部84により構成されている。
【0043】
作成部81は蛍光強度取得部22からのデータに基づいて、式hybridize(pf)を作成し、作成した式hybridize(pf)から求められるハイブリダイズ量を、ハイブリダイズ量の推定値とする。
【0044】
後述するように、異なる励起光強度を用いて得られた複数の発現プロファイル画像が処理対象の画像として供給されてきた場合、作成部81においては、それぞれの励起光強度の蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式(それぞれの励起光強度における蛍光強度とハイブリダイズ量の関係を表す式)が蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部30から読み出され、読み出された蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式に基づいて式hybridize(pf)が作成される。作成された式hybridize(pf)から求められたハイブリダイズ量は、蛍光強度取得部22から供給されてきた画像データとともに画像処理部82に出力される。
【0045】
画像処理部82は、作成部81より入力された画像データを処理し、検証部83とユーザインターフェース部29に出力する。ユーザインターフェース部29は、画像処理部82より入力された画像を表示部29Aに表示する。画像処理部82は、ユーザインターフェース部29を介して、ユーザより指示される入力に基づいて、DNAチップ11の画像からデブリ(観測を行う上において障害となる物質)の成分を除去し、スポット12毎の画像へ分解する処理を行う。
【0046】
検証部83は、画像処理部82より入力された画像データのうち、ハイブリダイズ検証用プローブ111,114のスポット12におけるハイブリダイズ量に基づいて、ハイブリダイズが正しく行われていることを検証する。
【0047】
ハイブリダイズ量計算部84は、スポット単位のハイブリダイズ量を推定するとともに、所定の方法でその信頼度を求める。ハイブリダイズ量と信頼度は発現量計算部25に出力される。
【0048】
発現量計算部25は、ハイブリダイズ量計算部84からの出力に基づいて、プローブに対するターゲットの結合強度を求めることで、蛍光強度に対応する発現量を推定する。標準化部26は発現標準化用コントロールプローブ113と細胞数計数用コントロールプローブ115を利用した標準化処理を行う。出力部27は標準化されたデータを発現プロファイルデータ記憶部28に供給する。発現プロファイルデータ記憶部28は、出力部27より供給されたデータを、発現プロファイルデータとして記憶する。発現プロファイルデータ記憶部28に記憶されたデータは、必要に応じて、ユーザインターフェース部29に供給され、表示部29Aに表示される。発現量計算部25より出力されたデータも必要に応じて、表示部29Aに表示される。
【0049】
蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部30は、蛍光強度とそれに対応するハイブリダイズ量との関係を一義的に決定する変換情報としての変換式(必ずしも式を構成せずとも、変換のためのデータであってもよい)をあらかじめ記憶している。
【0050】
図3は、蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部30に記憶されている蛍光強度とハイブリダイズ量の関係を規定する式hybridizee(pf)の例を示す図である。
【0051】
同図に示されるように、蛍光強度が与えられると、対応するハイブリダイズ量は関数(曲線121乃至124)に基づき一義的に決定される。ただし、同図に示されるように、図中最も上側に示される曲線121が、励起光強度のレベルが最も弱い場合の曲線を表し、以下、より下側の曲線122、曲線123と、順次励起光強度のレベルが強くなり、最も下側の曲線124が励起光強度のレベルが最も強い場合の曲線を表している。すなわち、蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部30には、蛍光強度からハイブリダイズ量を一義的に求めることのできる蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式が、励起光強度毎に用意される。
【0052】
曲線121乃至124は、いずれも、点線で示す図中左側の端部の領域の部分121A乃至124Aと、図中右側の端部の領域の部分121B乃至124Bにおいて、蛍光強度のわずかな変化に対して、ハイブリダイズ量が著しく変化しているので、これらの領域においては、蛍光強度に対応するハイブリダイ量を一義的に決定することが困難になる。
【0053】
したがって、これらの部分121A乃至124A、並びに部分121B乃至124Bから蛍光強度を入力として求められるハイブリダイズ量は信頼度が低いといえることから、例えば、このような信頼度の低い区間を除く、中央の実線の区間だけが、蛍光強度に対応するハイブリダイズ量の演算に利用される。
【0054】
図1の説明に戻り、機械的学習部31は、機械的学習の手段としてのSVM(Support Vector Machine)91とスポット除去パターンデータベース92を有している。SVM91は学習モード時、ユーザインターフェース部29と発現プロファイルデータ記憶部28からのデータに基づいて学習を行い、学習結果をスポット除去パターンデータベース92に記憶させる。SVM91はまた、判定モード時、発現プロファイルデータ記憶部28からのデータを、スポット除去パターンデータベース92に記憶されているパターンに基づいて判定し、その判定結果をハイブリダイズ量計算部84に出力する。
【0055】
遺伝子発現量の定量的な測定は、図4に示される実験過程処理装置131により行われる。図1の生体情報処理装置1は、この図4の実験過程処理装置131の一部を構成している。
【0056】
すなわち、実験過程処理装置131は、調整部141、ハイブリダイズ部142、取得部143、発現量推定部144、標準化部145、出力部146、および記憶部147により構成されている。このうち、取得部143、発現量推定部144、標準化部145、出力部146および記憶部147が、生体情報処理装置1により構成されている。具体的には、取得部143は、ピックアップ部21、蛍光強度取得部22、励起光強度計算部23、および蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部30により構成され、発現量推定部144は、ハイブリダイズ量推定部24、発現量計算部25、および機械的学習部31により構成され、標準化部145は標準化部26により構成され、出力部146は出力部27により構成され、記憶部147は発現プロファイルデータ記憶部28により構成される。
【0057】
調整部141はターゲットの調整を行う。ハイブリダイズ部142はプローブとターゲットとのハイブリダイズを行う。取得部143は蛍光強度を取得する。発現量推定部144は発現量の推定処理を行う。標準化部145はデータの標準化を行う。出力部146は発現プロファイルデータを出力する。記憶部147は発現プロファイルデータを記憶する。
【0058】
次に、図4の実験過程処理装置131の処理を、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0059】
最初に、ステップS11において、調整部141はターゲットを調整する。具体的には、細胞が含まれるサンプルが取り出され、その中から蛋白質を変性させて除去する処理が行われ、RNA(ribonucleic acid)の抽出、断片化、並びにDNA(deoxyribonucleic acid)の抽出、断片化によりターゲット(発現解析用プローブ112に対するターゲット112A)が生成される。
【0060】
ステップS12において、ハイブリダイズ部142はハイブリダイズする処理を実行する。具体的には、ステップS11の処理で生成されたターゲットが入った溶液に、さらにハイブリダイズ検証用プローブ111,114に対するターゲット111A,114A、発現標準化用コントロールプローブ113に対するターゲット113A、並びに細胞数計数用コントロールプローブ115に対するターゲット115Aが加えられ、この溶液を発現解析用反応槽101と細胞数計数用反応槽102に滴下することで、ターゲットとプローブとがハイブリダイズされる。そして、インターカレータ116が導入され、ハイブリダイズしたターゲットとプローブに結合され、図2に示されるようなDNAチップ11が得られる。同図に示されるように、発現解析用反応槽101のスポット12では、発現解析用プローブ112に対してターゲット112Aがハイブリダイズしている他、発現標準化用コントロールプローブ113に対してターゲット113Aがハイブリダイズしており、ハイブリダイズ検証用プローブ111に対してターゲット111Aがハイブリダイズしている。そして、それらの2本鎖結合したプローブとターゲットの間にはインターカレータ116が結合している。
【0061】
同様に、細胞数計数用反応槽102のスポット12においても、ハイブリダイズ検証用プローブ114に対してターゲット114Aがハイブリダイズしており、細胞数計数用コントロールプローブ115に対してターゲット115Aがハイブリダイズしている。そして、これらのハイブリダイズしたプローブとターゲットの間にも、インターカレータ116が結合されている。
【0062】
ステップS13において、取得部143は蛍光強度を取得する。この処理において、取得部143を構成する蛍光強度取得部22は、コントロール部43を介して蛍光強度取得用ピックアップ41を駆動し、半導体レーザ53にレーザ光を励起光として出射させる。この励起光は、プリズム52を介して対物レンズ51に入射され、対物レンズ51は、これを基板11A上の発現解析用反応槽101に照射する。
【0063】
インターカレータ116は励起光が照射されると蛍光を発生する。この蛍光が対物レンズ51により集光され、プリズム52を介してフォトダイオード54に入射される。フォトダイオード54は蛍光に対応する電流を出力する。コントロール部43は、この電流に対応する信号を畳み込み展開部45により画像信号に変換させ、変換により生成された蛍光強度に対応する信号を、蛍光強度取得部22に出力する。
【0064】
コントロール部43は、対物レンズ51の位置を開始位置ガイド13Aから終了位置ガイド13Bの方向に向けて移動させる。このとき、ガイド信号取得用ピックアップ42の半導体レーザ63が出射するガイド検出光としてのレーザ光が、プリズム62を介して対物レンズ61に入射され、対物レンズ61がこのガイド検出光を基板11Aに照射する。ガイド検出光の反射光の強度は、開始位置ガイド13Aと終了位置ガイド13Bに照射されたとき強くなる。この反射光が対物レンズ61を介してプリズム62に入射され、プリズム62からフォトダイオード64に入射される。対物座標計算部44はコントロール部43を介してフォトダイオード64からのガイド信号を取得し、この信号に基づいて、ガイド信号取得用ピックアップ42(したがって、それと一体化している蛍光強度取得用ピックアップ41)が基板11Aの開始位置ガイド13Aと終了位置ガイド13Bの間のいずれの位置に位置するのか、その座標を計算する。コントロール部43はその座標に基づいてガイド信号取得用ピックアップ42(蛍光強度取得用ピックアップ41)を開始位置ガイド13Aから終了位置ガイド13Bまで一定の速度で移動させる(走査させる)。
【0065】
このようにして、蛍光強度取得用ピックアップ41が、図2において、開始位置ガイド13Aから終了位置ガイド13Bの位置まで移動されるとともに、さらに、その走査位置が、開始位置ガイド13A(終了位置ガイド13B)と平行な方向(図中x座標方向)に1ピッチ分だけ移動され、新たな移動位置において同様に、開始位置ガイド13Aから終了位置ガイド13Bまで移動される。このようにして、発現解析用反応槽101と細胞数計数用反応槽102の全体が走査され、各座標における画像信号が蛍光強度取得用ピックアップ41より出力される。
【0066】
図6は、蛍光強度取得部22により得られる画像データのフォーマットの例を示す図である。
【0067】
画像データは、スポット毎に、スキャン時の励起光強度、プローブ遺伝子配列を指定するインデックス、1つのスポット全体の画像の縦横のピクセル数、蛍光画像(励起光を照射して撮影した画像)から構成される。このようなフォーマットからなる画像データが蛍光強度取得部22からハイブリダイズ量推定部24に出力され、それに基づいて各種の処理が行われる。例えば、同じDNAチップ11を、異なる強度の励起光を用いてスキャンすることによって取得された図6のフォーマットを有する複数の画像データがハイブリダイズ量推定部24に出力される。
【0068】
同じ過程で得られたDNAチップ11(各スポット12に同じ種類のプローブが同じ量だけ固定されているDNAチップ11)を異なる強度の励起光を用いてスキャンすることによって取得された複数の画像データを比較した場合、対応するスポットのデータに注目したときには(図6に示すような画像データが複数ある状態で、例えば、同じスポットであるスポットS1のデータを比較した場合)、励起光強度と蛍光画像を表すデータのみが異なるデータとなる。なお、上述したように、画像データに現れる蛍光強度の違いは励起光強度の違いによって生じるものであり、同じ過程で得られたDNAチップ11間では対応するスポット12において実際に生じているハイブリダイズの量は同じである。
【0069】
ステップS14において、発現量推定部144は発現量推定処理を実行する。この発現量推定処理については、図7のフローチャートを参照して後述するが、この処理によりハイブリダイズ量と信頼度の計算が行われ、発現量が計算される。
【0070】
ステップS15において、標準化部145(標準化部26)により、データを標準化する処理が行われる。この標準化としては、発現標準化用コントロールプローブ113による標準化と、細胞数計数用コントロールプローブ115による標準化が行われる。発現標準化用コントロールプローブ113による標準化は、次のようにして行われる。
【0071】
すなわち、図2には、発現標準化用コントロールプローブ113が1箇所にのみ図示されているが、実際には、この発現標準化用コントロールプローブ113は、発現解析用反応槽101のあらかじめ定められた所定の複数の位置(例えば、発現解析用反応槽101の4隅と略中央の5ヶ所)に分散して配置されている。そして、この各位置に配置された発現標準化用コントロールプローブ113の蛍光値に基づいて、補正用曲面が、例えば、Bスプライン曲面に基づいて演算され、その補正用曲面によって得られる蛍光値により各ピクセルの蛍光値を割り算することで正規化が行われる。この正規化により、発現解析用反応槽101内のスポット12の位置によるハイブリダイゼーションのばらつきが補正される。
【0072】
また、細胞数計数用コントロールプローブ115による標準化は、細胞数計数用コントロールプローブ115に対するハイブリダイズ量の値(細胞数計数用コントロール115に基づく蛍光値)により、細胞数計数用反応槽102上の各スポット12上のピクセルの蛍光値を割り算することにより行われる。細胞数計算用コントロールプローブ115としては、発現解析用プローブ112を抽出した生体のゲノム中の反覆配列(例えば、人間でいえばAlu配列)が用いられる。この処理により、取得された遺伝子の発現量を一定の細胞数当たりの値に換算することができる。
【0073】
さらに、ステップS16において、出力部146(出力部27)は、発現プロファイルデータを出力する。具体的には、以上のようにして得られた画像データが、記憶部147(発現プロファイルデータ記憶部28)に供給され、記録される。
【0074】
次に、図7のフローチャートを参照して、図5のステップS14において行われる発現量推定処理について説明する。
【0075】
ステップS31において、作成部81は画像情報(画像データ)を入力する。具体的には、蛍光強度取得部22より画像情報が入力される。
【0076】
ステップS32において、作成部81は、入力された画像情報が複数の励起光強度で撮影した画像の画像情報かを判定する。複数の励起光強度で撮影した画像の画像情報である場合には、ステップS33に進み、作成部81は、複数の励起光強度で撮影した画像に基づいて式hybridize(pf)を作成してハイブリダイズ量の推定を行い、得られた推定値を、画像情報とともに画像処理部82に出力する。ステップS33において行われる処理については図8のフローチャートを参照して後述する。
【0077】
ステップS32において、入力された画像データは、複数の励起光強度で撮影した画像の画像データではないと判定された場合には、ステップS33の処理は実行できないのでスキップされる。
【0078】
ステップS34において、画像処理部83は画像処理を行う。この処理により、DNAチップ11の画像からスポット境界を跨ぐデブリ領域が除去され、画像は各スポット毎の画像に分解される。
【0079】
ステップS35において、検証部83は、ハイブリダイズを検証する処理を実行する。具体的には、図2に示されるように、発現解析用反応槽101にはハイブリダイズ検証用プローブ111が、また細胞数計数用反応槽102にはハイブリダイズ検証用プローブ114が、それぞれスポット12に固定されている。ハイブリダイズ検証用プローブ111,114としては、実験対象としている生物種にない遺伝子配列が用いられる。例えば、実験対象が動物である場合(発現解析用プローブ112が動物の遺伝子である場合)には、ハイブリダイズ検証用プローブ111,114として植物の葉緑素遺伝子が用いられ、ターゲット111A,114Aとしては、その相補配列が用いられる。
【0080】
すなわち、このハイブリダイズ検証用プローブ111,114と、ターゲット111A,114Aは、発現解析用プローブ112とそのターゲット112Aのハイブリダイズとは無関係に、確実にハイブリダイズを起こすものが用いられる。しかも、その実験対象とは全く異なる種のものが用いられるため、ハイブリダイズ検証用プローブ111,114が充分ハイブリダイズしている場合には、この実験において(測定において)ハイブリダイズが確実に起きていることを検証することができる。逆に、ハイブリダイズ検証用プローブ111,114が充分ハイブリダイズしていない場合には、この測定は何らかの原因によりハイブリダイズが発生し難い環境になっている可能性がある。そこで、ハイブリダイズ検証用プローブ111,114の蛍光値を測定することで、その蛍光値が、例えばあらかじめ設定されている基準値以上であれば、正しいハイブリダイズ処理が行われていることを検証することができる。
【0081】
ステップS36において、ハイブリダイズ量計算部84は、ハイブリダイズ量と信頼度の計算を行い、得られたハイブリダイズ量と信頼度を発現量計算部25に出力する。また、ハイブリダイズ量計算部84は、例えば、ステップS33においてハイブリダイズ量が推定されている場合には、その推定値の信頼度を計算し、得られた信頼度を、ハイブリダイズ量の推定値とともに発現量計算部25に出力する。
【0082】
ステップS37において、発現量計算部25は、ハイブリダイズ量計算部84から供給されてきたハイブリダイズ量と信頼度に基づいて、発現量を計算する処理を実行する。この処理に基づいて、計算された(取得された)蛍光値に対応する発現量が計算される。
【0083】
次に、図8のフローチャートを参照して、図7のステップS33において行われる式hybridize(pf)の作成処理について説明する。
【0084】
異なる励起光強度により得られた複数の画像データ(複数の発現プロファイル画像のデータ)が供給されてきたとき、ステップS41において、作成部81は、それらの励起光強度の蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式を蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部30から読み出す。
【0085】
この例においては、2つの異なる励起光強度で得られた画像データが作成部81に供給され、処理対象とされているものとする。また、図9の実線で示す曲線のように、曲線124により蛍光強度とハイブリダイズ量の関係が表される式hybridizes(pf)と、曲線122により蛍光強度とハイブリダイズ量の関係が表されるhybridizew(pf)が、蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部30から読み出されたものとする。
【0086】
図9に示すように、式hybridizes(pf)を用いることによって、蛍光強度pfsからハイブリダイズ量hybridizes(pfs)が一義的に求められ、また、式hybridizew(pf)を用いることによって、蛍光強度pfwからハイブリダイズ量hybridizew(pfw)が一義的に求められる。蛍光強度pfs,pfwは、処理対象の画像データにより表される、対応するあるスポット12の蛍光強度である。
【0087】
対応するスポット12で発生しているハイブリダイズの量は同じであるから、本来、ハイブリダイズ量hybridizes(pfs)とハイブリダイズ量hybridizew(pfw)は一致するはずであるが、何らかの要因で図9に示すように異なる量として測定されることがあり、この場合、以降の処理において、2つのハイブリダイズ量hybridizes(pfs),hybridizew(pfw)の合成(重み付け)が行われ、実際に生じていると考えられるハイブリダイズ量が推定される。
【0088】
図8の説明に戻り、ステップS42において、作成部81は、式hybridizes(pf)(曲線124)に設定されている飽和領域との境界点の蛍光強度である蛍光強度uppersとlowersを設定する。また、作成部81は、式hybridizew(pf)(曲線122)に設定されている飽和領域との境界点の蛍光強度である蛍光強度upperwとlowerwを設定する。
【0089】
上述したように、蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式を表す曲線の両端部には、蛍光強度からハイブリダイズ量を正しく決定することができない領域(飽和領域)が設定されている。ここで設定される蛍光強度uppersとlowers、蛍光強度upperwとlowerwを図10に示す。
【0090】
ステップS43において、作成部81は、ステップS42で設定した蛍光強度uppersとlowers、並びに蛍光強度pfsの位置関係から重みWsを選択する。また、作成部81は、ステップS44において、ステップS42で設定した蛍光強度upperwとlowerw、並びに蛍光強度pfwの位置関係から重みWwを選択する。
【0091】
例えば、重みWsとWwは下式(1),(2)によりそれぞれ求められる。
【数1】

【0092】
すなわち、式(1)に示されるように、蛍光強度pfsが蛍光強度lowers未満である場合、重みWsは1とされ、蛍光強度pfsが蛍光強度lowers以上、蛍光強度uppers未満である場合、重みWsは(uppers−pfs)/(uppers−lowers)とされる。また、蛍光強度pfsが蛍光強度uppers以上である場合、重みWsは0とされる。
【0093】
同様に、式(2)に示されるように、蛍光強度pfwが蛍光強度lowerw未満である場合、重みWwは0とされ、蛍光強度pfwが蛍光強度lowerw以上、蛍光強度upperw未満である場合、重みWwは(pfw−lowerw)/(upperw−lowerw)とされる。また、蛍光強度pfwが蛍光強度upperw以上である場合、重みWwは1とされる。
【0094】
ステップS45において、作成部81は、ステップS43とS44で選択した重みWsとWwをそれぞれ下式(3)に代入することによって式hybridize(pf)を作成する。また、作成部81は、代入して得られた値(hybridize(pf))を、2つの画像データから求められたハイブリダイズ量の推定値とする。
【数2】

【0095】
すなわち、図11に示すように、ハイブリダイズ量hybridizes(pfs)に重みWsが、ハイブリダイズ量hybridizew(pfw)に重みWwがそれぞれ作用され、ハイブリダイズ量hybridize(pf)が求められる。式(1),(2)から重みWsとWwが求められることにより、それらの重みWsとWwが作用されて推定されたハイブリダイズ量は、ハイブリダイズ量hybridizes(pfs)とhybridizew(pfw)の間の量となる。ハイブリダイズ量の推定値が求められた後、処理は図7のステップS33に戻り、それ以降の処理が行われる。
【0096】
複数の励起光強度で撮影された画像データから、以上のようにしてそれぞれのスポット12のハイブリダイズ量が推定されるようにすることにより、推定可能なハイブリダイズ量のダイナミックレンジを十分に確保することが可能となる。
【0097】
すなわち、図10の式hybridizes(pf)だけを用いることによってハイブリダイズ量、しかも、信頼できるハイブリダイズ量を測定することができる範囲は、ハイブリダイズ量hybridizes(lowers)からhybridizes(uppers)までの範囲であり、同様に、式hybridizew(pf)だけを用いることによって信頼できるハイブリダイズ量を測定することができる範囲は、ハイブリダイズ量hybridizew(lowerw)からhybridizew(upperw)までの範囲であるところ、この2つの式から求められたハイブリダイズ量を合成することによって、ハイブリダイズ量hybridizes(lowers)からhybridizew(upperw)までの範囲を、信頼できるハイブリダイズ量を推定することができる範囲として確保することが可能になる。
【0098】
また、式(1),(2)に従って重みWsとWwが選択され、それが作用されることにより、求められるハイブリダイズ量の推定値が、飽和領域内の値になることを防止することができ、推定値の信頼度を向上させることができる。
【0099】
以上においては、合成されるハイブリダイズ量が2つである場合について説明したが、当然、2以上の所定の数のハイブリダイズ量が合成され、1つのハイブリダイズ量の推定値が得られるようにしてもよい。
【0100】
以上、DNAチップのハイブリダイゼーションを測定する場合の実施形態を説明したが、本発明はDNAチップに限らず、各種の生体物質が、他の所定の生体物質と生体結合したかどうかを測定する場合に適用することが可能である。
【0101】
上述した一連の処理は、ハードウエアにより実行させることもできるし、ソフトウエアにより実行させることもできる。この場合、例えば、生体情報処理装置1は、図12に示されるようなパーソナルコンピュータにより構成される。
【0102】
図12において、CPU(Central Processing Unit)201は、ROM(Read Only Memory)202に記憶されているプログラム、または記憶部208からRAM(Random Access Memory)203にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。RAM203にはまた、CPU201が各種の処理を実行する上において必要なデータなども適宜記憶される。
【0103】
CPU201、ROM202、およびRAM203は、バス204を介して相互に接続されている。このバス204にはまた、入出力インタフェース205も接続されている。
【0104】
入出力インタフェース205には、キーボード、マウスなどよりなる入力部206、CRT(Cathode Ray Tube)、LCD(Liquid Crystal display)などよりなるディスプレイ、並びにスピーカなどよりなる出力部207、ハードディスクなどより構成される記憶部208、モデムなどより構成される通信部209が接続されている。通信部209は、インターネットを含むネットワークを介しての通信処理を行う。
【0105】
入出力インタフェース205にはまた、必要に応じてドライブ210が接続され、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、あるいは半導体メモリなどのリムーバブルメディア211が適宜装着され、それらから読み出されたコンピュータプログラムが、必要に応じて記憶部208にインストールされる。
【0106】
一連の処理をソフトウエアにより実行させる場合には、そのソフトウエアを構成するプログラムが、専用のハードウエアに組み込まれているコンピュータ、または、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどに、ネットワークや記録媒体からインストールされる。
【0107】
この記録媒体は、図12に示されるように、装置本体とは別に、ユーザにプログラムを提供するために配布される、プログラムが記録されている磁気ディスク(フロッピディスクを含む)、光ディスク(CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory),DVD(Digital Versatile Disk)を含む)、光磁気ディスク(MD(Mini-Disk)を含む)、もしくは半導体メモリなどよりなるリムーバブルメディア211により構成されるだけでなく、装置本体に予め組み込まれた状態でユーザに提供される、プログラムが記録されているROM202や、記憶部208に含まれるハードディスクなどで構成される。
【0108】
なお、本明細書において、記録媒体に記録されるプログラムを記述するステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の実施形態としての生体情報処理装置の構成例を表すブロック図である。
【図2】DNAチップの構成例を表す斜視図である。
【図3】蛍光強度とハイブリダイズ量の関係を表す図である。
【図4】実験過程処理装置の構成例を表すブロック図である。
【図5】実験過程の処理を説明するフローチャートである。
【図6】画像データのフォーマットの例を示す図である。
【図7】発現量推定処理を説明するフローチャートである。
【図8】式hybridize(pf)の作成処理を説明するフローチャートである。
【図9】蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式の例を示す図である。
【図10】蛍光強度uppersとlowers、蛍光強度upperwとlowerwの例を示す図である。
【図11】重み付けの例を示す図である。
【図12】パーソナルコンピュータの構成例を表すブロック図である。
【符号の説明】
【0110】
1 生体情報処理装置, 11 DNAチップ, 21 ピックアップ部, 22 蛍光強度取得部, 23 励起光強度計算部, 24 ハイブリダイズ量推定部, 25 発現量計算部, 28 発現プロファイルデータ記憶部, 29 ユーザインターフェース部, 30 蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部, 81 作成部, 82 画像処理部, 83 検証部, 84 ハイブリダイズ量計算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、前記第1の生体物質に対してハイブリダイズする第2の生体物質とのハイブリダイズの状態を、励起光を照射したときに前記第1の生体物質と前記第2の生体物質がハイブリダイズした部分から発生された蛍光をスキャンして得られた発現プロファイル画像を用いて測定する生体情報処理装置において、
蛍光強度から、前記反応領域における前記第1の生体物質と前記第2の生体物質のハイブリダイズ量が励起光の強度毎に一義的に求められる情報である変換情報を記憶する記憶手段と、
異なる強度の励起光により得られた複数の前記発現プロファイル画像を処理対象とする場合、前記発現プロファイル画像の取得に用いられたそれぞれの励起光の強度の複数の前記変換情報に基づいて、複数の前記発現プロファイル画像にそれぞれ含まれる、対応する反応領域におけるハイブリダイズ量を推定する推定手段と
を備えることを特徴とする生体情報処理装置。
【請求項2】
前記推定手段は、第1の強度の励起光により得られた前記発現プロファイル画像により表される第1の反応領域の蛍光強度から、前記第1の反応領域における第1のハイブリダイズ量を前記第1の強度の励起光の前記変換情報を用いて求めるとともに、第2の強度の励起光により得られた前記発現プロファイル画像により表される前記第1の反応領域に対応する第2の反応領域の蛍光強度から、前記第2の反応領域における第2のハイブリダイズ量を前記第2の強度の励起光の前記変換情報を用いて求め、求められた前記第1と第2のハイブリダイズ量に対して重み付けをすることによって、対応する反応領域におけるハイブリダイズ量を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項3】
基板上に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、前記第1の生体物質に対してハイブリダイズする第2の生体物質とのハイブリダイズの状態を、励起光を照射したときに前記第1の生体物質と前記第2の生体物質がハイブリダイズした部分から発生された蛍光をスキャンして得られた発現プロファイル画像を用いて測定する生体情報処理方法において、
蛍光強度から、前記反応領域における前記第1の生体物質と前記第2の生体物質のハイブリダイズ量が励起光の強度毎に一義的に求められる情報である変換情報を取得する取得ステップと、
異なる強度の励起光により得られた複数の前記発現プロファイル画像を処理対象とする場合、前記発現プロファイル画像の取得に用いられたそれぞれの励起光の強度の複数の前記変換情報に基づいて、複数の前記発現プロファイル画像にそれぞれ含まれる、対応する反応領域におけるハイブリダイズ量を推定する推定ステップと
を含むことを特徴とする生体情報処理方法。
【請求項4】
基板上に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、前記第1の生体物質に対してハイブリダイズする第2の生体物質とのハイブリダイズの状態を、励起光を照射したときに前記第1の生体物質と前記第2の生体物質がハイブリダイズした部分から発生された蛍光をスキャンして得られた発現プロファイル画像を用いて測定する処理をコンピュータに実行させるプログラムにおいて、
蛍光強度から、前記反応領域における前記第1の生体物質と前記第2の生体物質のハイブリダイズ量が励起光の強度毎に一義的に求められる情報である変換情報を取得する取得ステップと、
異なる強度の励起光により得られた複数の前記発現プロファイル画像を処理対象とする場合、前記発現プロファイル画像の取得に用いられたそれぞれの励起光の強度の複数の前記変換情報に基づいて、複数の前記発現プロファイル画像にそれぞれ含まれる、対応する反応領域におけるハイブリダイズ量を推定する推定ステップと
を含むことを特徴とするプログラム。
【請求項5】
請求項4に記載のプログラムが記録されている記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−300798(P2006−300798A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124570(P2005−124570)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】