説明

生体情報取得方法及び生体情報取得装置、並びに生理活性物質測定方法及び生理活性物質測定装置

【課題】簡便かつ低侵襲に、常時、生体から生理活性物質を採取することができ、正確な生体情報を取得することが可能な生体情報取得方法の提供。
【解決手段】生体に由来する生理活性物質の定量値に基づいて、生体に関する情報を取得する生体情報取得方法において、生理活性物質を生体の体表表面から取得する手順を含むことを特徴とする生体情報取得方法を提供する。この生体情報取得方法において、体表表面は、指又は掌の皮膚表面とすることができる。生体の体表表面から生理活性物質を取得することにより、簡便かつ低侵襲に生理活性物質を採取することができ、また常時生体から生理活性物質を採取することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報取得方法及び生体情報取得装置に関する。また、本発明は、生理活性物質測定方法及び生理活性物質測定装置に関する。より詳しくは、生体の体表表面から取得される生理活性物質の定量値に基づいて、該生体に関する情報を取得する生体情報取得方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
生体のストレスや情動、月経周期等に関する情報(以下、「生体に関する情報」もしくは「生体情報」という)を取得するための方法として、従来、問診や官能アンケート等による心理学的評価や、脳波や筋電等による生理学的検査、作業成績等による行動計測などに基づく生体情報取得方法が知られている。例えば、特許文献1には、心拍数に基づいて月経周期を判定するための技術が開示されている。また、特許文献2には、体温変動や心拍数をモニターする生活活性度モニターシステムが開示されている。
【0003】
さらに、近年では、より簡便な手法として、血液や尿、唾液中に含まれる生理活性物質を指標として、生体に関する情報を取得する技術が開発されてきている。例えば、特許文献3には、唾液における副腎皮質ステロイド及び/又はその代謝産物の濃度を指標とするストレスの定量方法が開示されている。また、特許文献4には、血液等に含まれるβ−エンドルフィンやドーパミン、免疫グロブリンA、プラスタグランジンD2などを指標として、ストレスを快と不快の両面で把握する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−94969号公報
【特許文献2】特許第2582957号公報
【特許文献3】特開平11−38004号公報
【特許文献4】特開2000−131318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血液や尿、唾液中に含まれる生理活性物質を指標とした生体情報取得方法は、心理学的評価や生理学的検査、行動計測等による方法に比べ、簡便であり、大型の装置を必要としないという利点がある。
【0006】
一方で、これらの方法では、生理活性物質の定量のため、採血や尿及び唾液を採取する作業が必須となる。このため、例えば、血液を用いる場合には、採血によって被験者に精神的・肉体的負荷が生じるという問題がある。加えて、採血に伴う精神的・肉体的負荷そのものがストレスとなって、被験者のストレスや情動等に変化が生じ、正確な生体情報を取得できない可能性があった。
【0007】
また、尿や唾液を用いる場合には、採血において問題となる医療行為性を回避して、被験者に対する精神的・肉体的負荷についても軽減を図ることが可能である。しかしながら、経時的な採取もしくは常時採取が難しく、また尿や唾液の採取時とこれらに含まれる生理活性物質の生体内代謝時とにずれが存在するため、生体情報をリアルタイムに取得することが難しいという問題がある。また、尿や唾液の採取は、精神的・肉体的負荷は低いものの、被験者に採取作業を強く意識させるため、やはり正確な生体情報を取得できないおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、簡便かつ低侵襲に、常時、生体から生理活性物質を採取することができ、正確な生体情報を取得することが可能な生体情報取得方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本発明は、生体に由来する生理活性物質の定量値に基づいて、生体に関する情報を取得する生体情報取得方法において、生理活性物質を生体の体表表面から取得する手順を含む生体情報取得方法を提供する。
この生体情報取得方法において、体表表面は、指又は掌の皮膚表面とすることができる。
生体の体表表面から生理活性物質を取得することにより、簡便かつ低侵襲に生理活性物質を採取することができ、また、常時、生体から生理活性物質を採取することが可能となる。
この生体情報取得方法において、生理活性物質は、体表表面に接触させた溶媒中から取得することができる。
この生体情報取得方法では、例えば、生理活性物質をコルチゾール類とし、生体情報として生体のストレスに関する情報を取得することができる。あるいは、生理活性物質をモノアミン類とし、生体情報として生体の情動に関する情報を取得することができる。また、生理活性物質をエストロゲン類とし、生体情報として生体の月経周期に関する情報を取得することもできる。さらに、生理活性物質を成長ホルモンとし、生体情報として生体における運動の効果に関する情報を取得することもできる。
加えて、本発明は、生体の体表表面から該生体に由来する生理活性物質を取得し、該生理活性物質を定量する生理活性物質測定方法をも提供する。
この生理活性物質測定方法において、生理活性物質は、例えば、コルチゾール類、モノアミン類、エストロゲン類又は成長ホルモンから選択される1以上とされる。
【0010】
また、本発明は、生体に由来する生理活性物質の定量値に基づいて、生体に関する情報を取得する生体情報取得装置であって、生体の体表表面に当接され、体表表面から生理活性物質を取得する採取部を備えることを特徴とする生体情報取得装置を提供する。
この生体情報取得装置は、採取部へ溶媒を送液する送液手段を備え、送液手段により送液された溶媒を体表表面に接触させる開口部が採取部に設けられた構成とすることが好ましい。
さらに、この生体情報取得装置は、体表表面に負圧を与える吸引手段を備え、吸引手段より吸引された生体表面が密着して閉塞する凹部が上記開口部に周設された構成とすることが好ましい。
この生体情報取得装置の採取部は、流体が送流される第一の流路が形成された第一の部材と、この第一の部材に摺接して挿設され、第一の流路と連通され得る第二の流路が形成された第二の部材と、が、第二の部材の挿設方向において相対的に移動し得るように配設
されてなり、第一の部材と第二の部材とが相対的に移動することによって、第一の流路と第二の流路とが連通する連通状態と、該連通状態が解除された非連通状態と、を切換え可能とされ、かつ、第一の部材の上面には、前記非連通状態にある第二の流路と連通し得る開口部が穿設されたものとして構成され得る。
加えて、本発明は、生体の体表表面に当接され、体表表面から生体に由来する生理活性物質を取得する採取部を備える生理活性物質測定装置をも提供する。
【0011】
本発明において、「生体に関する情報」とは、ストレスや情動、月経周期、運動の効果等に関する情報の他、例えば、眠気(覚醒レベル)や健康状態、概日リズム(生体リズム)などが挙げられる。また、「情動」には、興奮や恐怖、怒り、攻撃性、快感、不安などが含まれる。
【0012】
また、「生体に由来する生理活性物質」には、生体内に存在する物質であって、生体に対して生理作用ないしは薬理作用を有することにより、生体のストレスや情動、月経周期、代謝等の変化に関与する物質が広く包含されるものとする。具体的には、コルチゾールやエストラジオールなどのステロイドホルモンや、アドレナリンやドーパミンなどのカテコールアミン、オキシトシンやエンドルフィンなどの生理活性ペプチド等が含まれる(後掲「表1」参照)。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、生体から簡便かつ低侵襲に、常時、生理活性物質を採取することができ、正確な生体情報を取得することが可能な生体情報取得方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】指の皮膚表面から生理活性物質を取得するための方法を説明する図である。
【図2】本発明に係る生体情報取得装置の構成を示すブロック図である。
【図3】第一実施形態に係る採取部1の構成を示す模式図(断面図)である。
【図4】第二実施形態に係る採取部1の構成を示す模式図(断面図)である。
【図5】第三実施形態に係る採取部1の構成を示す模式図(断面図)である。
【図6】生体表面を吸引する凹部を開口部に周設した採取部1の構成を示す模式図である。
【図7】第四実施形態に係る採取部1Aの連通状態の構成を示す模式図(断面図)である。
【図8】第四実施形態に係る採取部1Aの非連通状態の構成を示す模式図(断面図)である。
【図9】第五実施形態に係る採取部1Bの連通状態の構成を示す模式図(断面図)である。
【図10】第五実施形態に係る採取部1Bの非連通状態の構成を示す模式図(断面図)である。
【図11】第五実施形態に係る採取部1Bの再連通状態の構成を示す模式図(断面図)である。
【図12】採取部1Bにおいて、第一の流路103bへ気体を導入する実施形態を説明する図である。
【図13】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、1名の被験者についてコルチゾール量を測定した結果(実施例1)を示す図である。
【図14】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、6名の被験者についてコルチゾール量を測定した結果(実施例1)を示す図である。
【図15】標準品コルチゾール溶液について得られたSPRカーブを示す図である(実施例1)。
【図16】標準品コルチゾール溶液について得られたSPRシフトのプロットと検量線を示す図である(実施例1)。
【図17】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、ノルエピネフリン量及びL−ドーパ量を測定した結果(実施例2)を示す図である。
【図18】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、セロトニン量を測定した結果(実施例3)を示す図である。
【図19】酵素免疫測定法(ELISA)を用い、エストラジオール量を測定した結果(実施例4)を示す図である。
【図20】酵素免疫測定法(ELISA)を用い、成長ホルモン量を測定した結果(実施例5)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序で行う。

<生体情報取得方法>
1.概要
2.生体情報と生理活性物質
3.生理活性物質の取得と測定
<生体情報取得装置>
1.生体情報取得装置の構成概略
2.採取部の具体的構成
(1)第一実施形態
(2)第二実施形態
(3)第三実施形態
(4)第四実施形態
(5)第五実施形態
3.定量部の具体的構成
4.解析部及び出力部の具体的構成

【0016】
<生体情報取得方法>
1.概要
本発明者らは、生体情報を精度良くセンシングすることを目的とし、生体からの生理活性物質の採取手法について鋭意検討を行った。その結果、実施例において詳説するように、指や掌などの体表表面から生理活性物質を取得し得ることを初めて見出した。
【0017】
従来、生理活性物質については、血液や尿、唾液等からの取得が技術常識となっている。本発明者らの知る限り、これまでに、生体の体表表面から生理活性物質を取得できたとの報告はなされていない。
【0018】
体表表面から生理活性物質が取得される機序について、その詳細は不明であるが、例えば、汗や皮脂中に分泌された生理活性物質が体表表面に存在している可能性が考える。もしくは、血中の生理活性物質が体表表面の細胞を透過して体表表面に存在している可能性も考えられる。生理活性物質の多くは、脂溶性及び細胞膜透過性を有していることから、皮脂中への分泌又は細胞透過によって体表表面に存在する生理活性物質が取得されている可能性が高いと考えられる。
【0019】
本発明は、以上のような新規知見に基づきなされたものであり、生体に由来する生理活性物質の定量値に基づいて、生体に関する情報を取得する生体情報取得方法において、生理活性物質を生体の体表表面から取得する手順を含むことを特徴とする生体情報取得方法を提供するものである。
【0020】
この生体情報取得方法では、指や掌などの体表表面から生理活性物質を取得することにより、従来の血液や尿、唾液中に含まれる生理活性物質を指標とした方法に比べ、より簡便かつ低侵襲に生体情報を取得できる。また、体表表面に存在する生理活性物質を取得することで、血液や尿、唾液等とは異なり、被験者に採取作業を強く意識させることなく、生理活性物質を取得できる。従って、本発明に係る生体情報取得方法によれば、被験者においてストレスや情動等の変化を引き起こすことなく、正確な生体情報を取得することが可能となる。
【0021】
さらに、本生体情報取得方法では、体表表面に分泌又は透過される生理活性物質を取得するため、生理活性物質を経時的にもしくは常時採取することができる。また、体表表面に分泌又は透過される生理活性物質を指標とすることで、生理活性物質の取得時と、生理活性物質の生体内代謝時と、を一致させることができる。従って、本発明に係る生体情報取得方法によれば、被験者の生体情報を経時的にもしくは常時取得し、リアルタイムにセンシングすることが可能となる。
【0022】
2.生体情報と生理活性物質
本発明において取得される生体情報には、ストレスや情動、月経周期、運動の効果等に関する情報の他、例えば、眠気(覚醒レベル)や健康状態、概日リズム(生体リズム)などが挙げられる。
【0023】
このうち、ストレスに関しては、生体へのストレス負荷量と、コルチゾール、コルチコステロン及びコルチゾン(以下、これらを総称して「コルチゾール類」という)の分泌量との間に相関があることが良く知られている(上記特許文献3及び特許文献4参照)。なお、ここで「分泌量」は、血中への分泌量、すなわち「血中濃度」と同義に用いるものとする。
【0024】
興奮や恐怖、怒り、攻撃性、快感、不安、悲哀などの情動については、ノルエピネフリンやエピネフリン、ドーパミン及びこれらの前駆物質となるL−ドーパ(以下、これらを総称して「カテコールアミン類」という)の分泌量との相関が知られている。また、カテコールアミン類とともにモノアミン類として分類されるセロトニンの分泌量についても、情動との相関が明らかにされている。
【0025】
例えば、被験者に不安や恐怖を抱かせるような心理社会的テストを行わせた場合、その前後において唾液中ノルアドレナリン量が変化することが報告されている(”Study of salivary catecholamines using fully automated column-switching high-performance liquid chromatography.” Journal of Chromatography. B, Biomedical Sciences and Applications,. 1997 Jul 4;694(2):305-16参照)。
【0026】
さらに、良く知られているように、エステロン(E1)、エストラジオール(E2)及びエストリオール(E3)(以下、これらを総称して「エストロゲン類」という)は生体の月経周期を制御し、月経周期と相関して分泌量が変化する。
【0027】
また、効果的な運動を行うことで成長ホルモンの分泌が促進されることが知られている。成長ホルモンの分泌は筋肉や骨の成長を促進し、体脂肪動員を促して脂肪燃焼効率を高めるため、筋肉増強やダイエット等の運動による効果は成長ホルモンの分泌量に相関すると考えられる。
【0028】
従って、例えば、コルチゾール類の定量値に基づけば、生体に負荷されるストレスに関する情報を得ることができる。具体的には、例えば、多数の健常者のコルチゾール類分泌量を測定し、測定結果から標準的なコルチゾール類濃度の変化範囲を規定する標準変化曲線を算出する。そして、被験者のコルチゾール類分泌量を測定し、この標準変化曲線と比較する。比較の結果、例えば標準変化曲線を逸脱している場合には、当該被験者が慢性ストレスを有していると判定できる。
【0029】
また、例えば、被験者の平常時のコルチゾール類分泌量を測定し、この測定結果から標準変化曲線を算出して、ある時点における当該被検者のコルチゾール類分泌量と比較することにより、その時点における当該被験者のストレス状態もしくはリラックス状態を判定できる。
【0030】
コルチゾール類、モノアミン類、エストロゲン類及び成長ホルモンの他、指標とされる生理活性物質及び生体情報の組合せとしては、「表1」に示す組合せが公知である。本発明に係る生体情報取得方法においても、これらの組合せを採用し、生理活性物質の定量値と生体情報との正又は負の相関に基づいて、生体情報に関する情報を得ることができる。
【0031】
【表1】

【0032】
なお、「表1」に示す生理活性物質は例示であって、この他にも、カテコールアミン類では、例えば、メタネフリンやノルメタネフリン、3−メトキシ−4ヒドロキシマンデル酸、3−メトキシ−4ヒドロキシフェニルグリコール、3,4−ジヒドキシマンデル酸、3,4−ジヒドキシフェニルグリコール、3,4−ジヒドキシフェニル酢酸、3−メトキシチラミン、ホモバニリン酸、5−ヒドロキシインドール酢酸、バニリルマンデル酸などが生体情報の指標となり得る。また、ステロイドホルモンでは、例えば、アルドステロンやデオキシコルチステロン、アンドロステンジオン、プロゲステロン、11−デオキシコルチコステロン、プレグネノロン、11−デオキシコルチゾール、17−ヒドロキシプロゲステロン、17−ヒドロキシプレグネノロン、コレカルシフェロール(ビタミンD)などが生体情報の指標となり得る。
【0033】
さらに、生体情報の指標となり得る生理活性物質として以下が挙げられる。向下垂体ホルモンとして、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)や成長ホルモン放出ホルモン(GRH)、ソマトスタチン(成長ホルモン分泌抑制ホルモン)、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)、プロラクチン放出ホルモン(PRH)、プロラクチン抑制ホルモン(PIH)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)など。甲状腺ホルモンとして、サイロキシンやトリヨードサイロキシンなど。クロモグラニンAや副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、黄体形成ホルモン(LH)、インスリン様成長因子I(IGF-I)、プロラクチン、プロオピオメラノコルチン(POMC)、オキシトシン、α-メラニン細胞刺激ホルモン(α-MSH)、グルカゴン、グレリン、ガラニン、モチリン、レプチン、ガストリン、コレシストキニン、セレクチン、アクチビン、インヒビン、ニューロテンシン、ボンベシン、サブスタンスP、アンギオテンシンI,II、エンケファリン、オレキシンA,B、アナンダミド、アセチルコリン、ヒスタミン、グルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸、ピリミジン、アデノシン、アデノシン3リン酸(ATP)、GABA、FMRFアミド、ペプチドYY、アグーチ関連ペプチド(AGRP)、コカイン-アンフェタミン調節性転写産物(CART)、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、グルカゴン様ペプチド1,2(GLP-1, 2)、血管作動性小腸ペプチド(VIP)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、メラニン凝集ホルモン(MCH)などの各種ホルモン及び神経伝達物質。
【0034】
また、これらの生理活性物質と生体情報の対応もここに示すものに限られず、例えば、セロトニンは情動の他に、統合失調症や不眠症の指標ともなり得るし、エストロゲン類は月経周期の他に、不妊症や更年期症状、躁鬱状態の指標ともなり得る。この他にも、生理活性物質と対応生体情報の組み合わせは、現在までに明らかにされている全ての組み合わせが適用され得る。
【0035】
3.生理活性物質測定方法
続いて、体表表面から生理活性物質を取得及び測定する手順、すなわち本発明に係る生理活性物質測定方法について説明する。
【0036】
体表表面に分泌又は透過されて存在する生理活性物質は、例えば、体表表面に溶媒を接触させることにより、溶媒中に回収することができる。使用する溶媒は、水や各種有機溶媒であってよく、例えば、エタノール水を用いることができる。溶媒を接触させる体表表面は特に限定されないが、指や掌などの皮膚表面が簡便である。
【0037】
体表表面から生理活性物質を取得する手順の好適な具体例として、図1を参照しながら、指の皮膚表面から生理活性物質を取得するための方法について説明する。
【0038】
図1(A)は、マイクロチューブを用いて人差し指の皮膚表面から生理活性物質を取得する手順を示す図である。
【0039】
エタノール水等の溶媒が入ったマイクロチューブの上部開口を人差し指の指先に当て、マイクロチューブの下端を親指で保持する。人差し指と親指でマイクロチューブを挟持した状態で、マイクロチューブを逆さにして、人差し指の皮膚表面に溶媒を接触させる。これにより、マイクロチューブ内の溶媒中に、人差し指の皮膚表面に存在する生理活性物質を回収することができる。
【0040】
図1(B)は、シリンジを用いて人差し指の皮膚表面から生理活性物質を取得する手順を示す図である。
【0041】
シリンジの先端にエタノール水等の溶媒を充填し、シリンジを人差し指の指先に当てた状態で、シリンジを親指と中指で保持した。右手でシリンジのピストンを引っ張ってシリンジ内を陰圧とし、皮膚表面にシリンジを吸い付け、人差し指の皮膚表面に溶媒を1分間接触させた。この方法によれば、図1(A)に示したマイクロチューブによる採取に比べ、皮膚表面に接触させた溶媒を、シリンジ内の陰圧に基づいて高収率に回収することが可能である。
【0042】
図1では、生理活性物質を体表表面に直接接触させた溶媒中に回収する手順を説明したが、溶媒中への生理活性物質の回収は以下のようにして行うことも可能である。すなわち、例えば、まず体表表面にプラスチック板等を押圧し、体表表面に存在する生理活性物質をプラスチック板等の表面に付着させる。そして、プラスチック板等の表面に溶媒を滴下し、付着した生理活性物質を溶媒中に溶解させ回収させる。
【0043】
また、体表表面から生理活性物質を取得するためには、必ずしも溶媒を使用しなくてもよい場合がある。まず、生理活性物質を固体表面に付着させる。その後、固体表面に対し窒素ガス等を吹きつけたり、固体を超音波振動又は加温したりすることによって、付着した生理活性物質を固体表面から遊離させ、ガス等を利用して回収を行う。
【0044】
生理活性物質の定量は、例えば、液体クロマトグラフィー(HPLC)、酵素免疫測定法、放射免疫測定法等の公知手法を用いて行うことができる。また、次の「生体情報取得装置」の説明において詳しく述べるように、表面プラズモンセンサー(SPR)や水晶発振子マイクロバランスセンサー(QCM)等により定量を行うこともできる。
【0045】
以上の生理活性物質測定方法によれば、指や掌などの体表表面から生理活性物質を取得することにより、簡便かつ低侵襲に生理活性物質を定量できる。従って、この方法は、例えば「表1」に示したような生理活性物質を指標として生体の健康状態を知り、各種疾患の診断や予防、予後観察を行うために活用できる。具体的には、例えば、コルチゾール類の測定を行うことにより、慢性ストレスの有無を診断して、慢性ストレスの予防や予後観察に役立てることができる。また、例えば、カテコールアミン類の測定によりカルチノイド腫瘍の有無を診断等したり、セロトニンの測定により統合失調や不眠症、内因性欝、ダンピング症候群、偏頭痛の診断等を行ったりすることも考えられる。さらに、エストロゲン類の測定を行えば、月経周期を簡便に診断できる他、不妊症や、乳癌・子宮筋腫・子宮内膜症等のエストロゲン依存性疾患、更年期症状などの診断等に役立てることもできる。
【0046】
また、成長ホルモンは、加齢に伴って分泌量が低下することが知られており、炭水化物、タンパク質及び脂質の代謝に機能して糖尿病や高血圧症、高脂血症等の生活習慣病の発症にも関与することが知られている。この他、成長ホルモン関連疾患として、成長ホルモンの分泌量減少を伴う成長ホルモン分泌不全性低身長症や下垂体機能低下症、甲状腺機能低下症、肥満症、成長ホルモンの分泌量増加を伴う巨人症や末端肥大症、異所性成長ホルモン生産腫瘍、神経性食欲不振症等の極度の低栄養、慢性腎不全などの疾患がある。従って、本発明に係る生理活性物質測定方法を用いて成長ホルモンの測定を行うことにより、老化の程度の判定や、生活習慣病や成長ホルモン関連疾患の診断等を行うことができる。
【0047】
<生体情報取得装置>
次に、本発明に係る生体情報取得装置について説明する。この生体情報取得装置は、上記で説明した生体情報取得方法を実現可能な構成を有するものであれば特に限定されないが、好適な実施形態について以下に説明する。
【0048】
1.生体情報取得装置の構成概略
図2は、本発明に係る生体情報取得装置の構成を示すブロック図である。生体情報取得装置は、体表表面に当接され、体表表面から生理活性物質を取得する採取部1を備えている。また、図2中、符号2は採取部1により取得された生理活性物質を定量するための定量部、符号3は定量値に基づいて生体情報を取得するための解析部、符号4は生体情報の判定結果を出力する出力部である。なお、本発明に係る生理活性物質測定装置は、採取部1と定量部2、出力部4とから構成でき、解析部3は必須の構成とはならない。
【0049】
2.採取部の具体的構成
図3〜図12は、採取部1の構成を示す模式図(断面図)である。採取部1は、体表表面S(図では指先)が当接される開口部11を有している。さらに、採取部1は、開口部11に当接された体表表面Sに対し溶媒を送液し接触させる送液手段(不図示)を有している。
【0050】
(1)第一実施形態
図3を参照して、採取部1の第一実施形態の構成を具体的に説明する。図3中、矢印は、送液手段による溶媒の送流方向を示している。溶媒は、図中左から右へ送流され、開口部11において体表表面Sに接触した後、定量部2へ送液されている。これにより、体表表面Sに存在する生理活性物質は溶媒中に回収され、定量部2における測定に供されることとなる。この構成によれば、体表表面の生理活性物質を継続的に定量部2に送液して、常時生理活性物質の定量を行うことができる。なお、送液手段は、通常使用されるポンプ等により構成すればよい。
【0051】
(2)第二実施形態
採取部1は、図4に示す構成とすることもできる。図4中、符号12及び13はそれぞれ開閉可能な弁を表している。図4(A)では、開口部11に設けられた弁12が開き、定量部2への連通部に設けられた弁13が閉じている。この状態では、図中矢印に従って送液手段により送流される溶媒は、開口部11に当接された体表表面Sに接触した状態となる。この際、開口部11からの溶媒の漏出を防止するため、溶媒の送流圧が一定圧を超えた場合、送液手段による溶媒の送液が停止するよう構成することが望ましい。
【0052】
続く図4(B)では、開口部11に設けられた弁12が閉じ、定量部2への連通部に設けられた弁13が開く。これにより、開口部11において体表表面Sに接触していた溶媒が、定量部2へ送液される。従って、弁12, 13の開閉を繰り返すことにより、断続的に体表表面から生理活性物質を取得して定量部12に送液することが可能となる。
【0053】
(3)第三実施形態
図3及び図4では、採取部1において溶媒を直接体表表面に接触させ、溶媒中に生理活性物質を回収する構成を説明したが、採取部1は以下のように構成することもできる。すなわち、図5に示す採取部1では、開口部11に、上下に反転可能とされた接触板14が設けられている。
【0054】
図5(A)に示すように体表表面Sを接触板14に押圧すると、体表表面に存在する生理活性物質が接触板14の表面に付着する。その後、接触板14が、図5(B)に示すように上下に反転すると、接触板14の表面に付着した生理活性物質が、送液手段によって送流される溶媒中に溶解され、定量部2に送液される。従って、接触板14を繰り返し上下に反転させることにより、断続的に体表表面から生理活性物質を取得して定量部2に送液することが可能となる。
【0055】
開口部11からの溶媒の漏出を防止するため、採取部1の開口部11には、体表表面Sを吸引して開口部11に密着させるための凹部111を周設することが好ましい。図6に、凹部111を周設した採取部1の構成を模式的に示す。図6(A)は、凹部111を周設した採取部1の上面模式図、(B)は(A)中P-P断面における断面模式図、(C)は(A)中Q-Q断面における断面模式図である。
【0056】
凹部111は、開口部11を取り囲む上面視円周形状の溝として形成されている(図6(A)参照)。凹部111の底面の一箇所には、図示しない吸引手段が接続される排気孔112が穿設されている。吸引手段は、排気孔112から凹部111内の空気を吸引して排出し(図6(B)中矢印V参照)、採取部1に当接された体表表面Sに負圧を与える。体表表面Sは、この負圧によって凹部111に対して密着され、凹部111を気密に閉塞する(図6(C)参照)。これにより、凹部111の中央に位置する開口部11についても、体表表面Sが密着し、気密に閉塞することとなり、開口部11からの溶媒の漏出が効果的に防止される。体表表面Sとの密着性を高めるため、凹部111及び開口部11の体表表面Sとの接触部分には、ゴムやシリコン等の弾性体を配置してもよい。ただし、弾性体は、溶媒への成分の溶出がなく、定量部2における生理活性物質の測定に影響を与えない材質のものを用いる。なお、吸引手段は通常使用される減圧ポンプ等により構成できる。減圧ポンプは、体表表面Sに付与される負圧を測定して溶媒の漏出を検知し得るものが好適である。
【0057】
(4)第四実施形態
図7及び図8は、第四実施形態に係る採取部1Aの構成を示す模式図である。(A)は上面図であり、(B)及び(C)はそれぞれ(A)中P−P断面及びQ−Q断面に対応する断面図である。
【0058】
図中、符号1Aで示す採取部は、流体が送流される第一の流路103、103が形成された第一の部材101と、この第一の部材101に摺接して挿設され、第一の流路103、103と連通され得る第二の流路106が形成された第二の部材と102、とからなっている。図中、符号11は、第一の部材101の表面に穿設された開口部を示す。
【0059】
採取部1Aにおいて、第一の部材101と第二の部材102は、第二の部材102の挿設方向(図中ブロック矢印F1及びF2参照)に相対的に移動し得るように配設されている。これにより、第一の部材101と第二の部材102とが相対的に移動することによって、図7に示す第一の流路103、103と第二の流路106とが連通する連通状態と、図8に示す非連通状態と、を切換え可能とされている。
【0060】
図7に示す連通状態では、第一の部材101に形成された第一の流路103、103と第二の部材102に形成された第二の流路106とが連通し、ひとつの連通流路を形成している。図7中、符号104は第一の流路103への流体導入口を、符号105は第一の流路103から定量部2への流体排出口を示す。流体導入口104には、不図示の送液手段が接続される。また、流体排出口105は定量部2に接続されている。この連通状態においては、流体導入口104から第一の流路103に導入された溶媒は、第二の流路106を通流され、流体排出口105から定量部2へ送液される。
【0061】
連通状態にある採取部1Aにおいて、第二の部材102を、第一の部材101に対して挿設方向F1に相対移動させると、図8に示すように、第一の流路103、103と第二の流路106との連通状態が解除され、非連通状態となる。
【0062】
図8に示す非連通状態では、第一の部材101と第二の部材102との摺接面107、107によって、流体導入口104から第一の流路103に導入される溶媒の流れが堰き止められ、停止される(図8(B)参照)。このとき、挿設方向F1に移動された第二の部材102の第二の流路106内には、連通状態において通流していた溶媒が、摺接面107、107によって切り取られるかたちで保持される(図8(C)参照)。
【0063】
第一の部材101の上面には、この非連通状態にある第二の流路106と連通し得る開口部11が穿設されている。第二の部材102が、第一の部材101に対して挿設方向F1に相対移動されて、第二の流路106が開口部11に対応する位置にまで移動すると、第二の流路106が開口部11を介して外部と連絡する。これによって、第二の流路106内に保持された溶媒が、開口部11から外部に露出するようになる。
【0064】
そして、この状態において、図3等に示したように体表表面Sを開口部11に当接させると、第二の流路106内に保持された溶媒が体表表面Sに接触し、体表表面Sに存在する生理活性物質が溶媒中に回収される。
【0065】
生理活性物質を第二の流路106内の溶媒中に十分に回収するため、体表表面Sを所定時間開口部11に当接させた後、第二の部材102を挿設方向F2に相対移動させて、再度、図7に示す連通状態とする。これにより、流体導入口104から第一の流路103に導入された溶媒によって、第二の流路106内に保持された生理活性物質を含む溶媒が、第一の流路103から定量部2へ送液される。
【0066】
このように、採取部1Aでは、連通状態において第二の流路106内に所定体積の溶媒を通流させる工程と、非連通状態において第二の流路106内保持された溶媒中に生理活性物質を回収する工程と、再度連通状態を形成して第二の流路106内保持された生理活性物質を含む溶媒を定量部2へ送液する工程を、第一の部材101と第二の部材102とを相対移動させることによって行うことができる。
【0067】
この採取部1Aによれば、これらの工程を繰り返すことによって、簡便な操作で、断続的に体表表面Sから生理活性物質を取得して、測定することが可能となる。各工程の反復は、第一の部材101と第二の部材102とを相対移動を自動制御して行うことができる。
【0068】
(5)第五実施形態
図9〜図11は、第五実施形態に係る採取部1Bの構成を示す模式図である。(A)は上面図であり、(B)〜(D)はそれぞれ(A)中P−P断面及びQ−Q断面、R−R断面に対応する断面図である。
【0069】
図中、符号1Bで示す採取部は、第一の部材101において、二組の第一の流路103a、103a及び103b、103bが平行して配設されている点で、上述の採取部1Aと異なる、また、開口部11が、第二の部材102の挿設方向(図中ブロック矢印F1及びF2参照)において、これら二組の第一の流路の間に穿設されている点でも、採取部1Aと異なっている。
【0070】
採取部1Bは、流体が送流される第一の流路103a、103a及び103b、103bが形成された第一の部材101と、この第一の部材101に摺接して挿設され、第一の流路103a、103a又は103b、103bのいずれかに連通され得る第二の流路106が形成された第二の部材と102、とからなっている。
【0071】
採取部1Bにおいては、第一の部材101と第二の部材102を、挿設方向(図中ブロック矢印F1及びF2参照)に相対移動させることにより、図9に示す第一の流路103a、103aと第二の流路106とが連通する連通状態と、図10に示す非連通状態と、図11に示す第一の流路103b、103bと第二の流路106とが連通する再連通状態と、を切換え可能とされている。
【0072】
図9に示す連通状態では、第一の部材101に形成された第一の流路103a、103aと第二の部材102に形成された第二の流路106とが連通し、ひとつの連通流路を形成している。図9中、符号104aは第一の流路103aへの流体導入口を、符号105aは第一の流路103aからの流体排出口を示す。流体導入口104aには、不図示の送液手段が接続される。この連通状態においては、流体導入口104から第一の流路103aに導入された溶媒は、第二の流路106を通流され、流体排出口105 aから装置外部へ排出される。
【0073】
連通状態にある採取部1Bにおいて、第二の部材102を、第一の部材101に対して挿設方向F1に相対移動させると、図10に示すように、第一の流路103a、103aと第二の流路106との連通状態が解除され、非連通状態となる。
【0074】
図10に示す非連通状態では、第一の部材101と第二の部材102との摺接面107、107によって、流体導入口104aから第一の流路103aに導入される溶媒の
流れが堰き止められ、停止される(図10(B)参照)。このとき、挿設方向F1に移動された第二の部材102の第二の流路106内には、連通状態において通流していた溶媒が、摺接面107、107によって切り取られるかたちで保持される(図10(C)参照)。
【0075】
第一の部材101の上面には、この非連通状態にある第二の流路106と連通し得る開口部11が穿設されている。第二の部材102が、第一の部材101に対して挿設方向F1に相対移動されて、第二の流路106が開口部11に対応する位置にまで移動すると、第二の流路106が開口部11を介して外部と連絡する。これによって、第二の流路106内に保持された溶媒が、開口部11から外部に露出するようになる。
【0076】
そして、この状態において、図3等に示したように体表表面Sを開口部11に当接させると、第二の流路106内に保持された溶媒が体表表面Sに接触し、体表表面Sに存在する生理活性物質が溶媒中に回収される。
【0077】
生理活性物質を第二の流路106内の溶媒中に十分に回収するため、体表表面Sを所定時間開口部11に当接させた後、第二の部材102をさらに挿設方向F1に相対移動させると、図11に示すように、第二の流路106は第一の流路103b、103bと連通する再連通状態とされる。
【0078】
流体導入口104bには不図示の送液手段が接続され、流体排出口105bには定量部2が接続されている。この再連通状態においては、流体導入口104bから第一の流路103bに導入された溶媒によって、第二の流路106内に保持された生理活性物質を含む溶媒が、第一の流路103bから定量部2へ送液される。
【0079】
ここで、送液手段によって流体導入口104bに送液される溶媒は、流体導入口104aから送液される溶媒と同様に、生理活性物質採取のために使用する溶媒とすることができる。また、流体導入口104bに送液される溶媒は、生理活性物質採取用溶媒に替えて、例えば、定量部2として採用されるHPLCやSPR、QCMに応じて、適切な溶媒(平衡化バッファー等)や、測定に必要な試薬(抗体等)を含有する溶媒としてもよい。
【0080】
さらに、流体導入口104bから第一の流路103bへは、流体として気体(空気等)を導入してもよい。これにより、第二の流路106内に保持された生理活性物質を含む溶媒を、希釈することなく定量部2へ送液することができる。
【0081】
流体導入口104bから第一の流路103bへ気体を導入する実施形態について、図12に基づいて具体的に説明する。まず、図12(A)に示すように、第一の流路103a、103aと第二の流路106との連通状態(図9も参照)においては、図中矢印f1方向に溶媒が送流され、第二の流路106内にはその流路容積に応じて所定体積の溶媒が通流されている。
【0082】
続いて、図12(B)に示すように、第二の流路106が非連通状態(図10も参照)とされると、上記所定体積の溶媒が摺接面107、107によって切り取られて、第二の流路106内に保持される。生理活性物質は、先に説明したように、開口部11を介して体表表面Sを第二の流路106内に保持された溶媒に接触させることにより、所定体積の溶媒中に回収される。
【0083】
その後、図12(C)に示すように、第二の流路106を第一の流路103b、103bと連通させて、第一の流路103bへ気体を導入すると、導入された気体によって第二の流路106内に保持された生理活性物質を含む溶媒が定量部2へ送液される。これにより、第二の流路106内に保持された生理活性物質を含む溶媒を、希釈されることなく所定体積のまま定量部2へ送液することができる。その結果、定量部2における生理活性物質の定量を高感度に行うことができ、かつ、サンプル容積を一定として正確な定量を行うことが可能となる。
【0084】
上述した採取部1A及び1Bは、いわゆるマイクロチップとして構成することができる。第一の部材101、第二の部材102の材質としては、石英又はホウ珪酸ガラス等のガラス材料やポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコンゴムあるいはポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂などが使用可能である。各部材に配設される流路の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、機械加工によって行うことができる。
【0085】
3.定量部の具体的構成
定量部2は、液体クロマトグラフィー(HPLC)、表面プラズモンセンサー(SPR)や水晶発振子マイクロバランスセンサー(QCM)等により構成され、採取部1により取得された生理活性物質の定量を行う。この他、定量部2は、酵素免疫測定法、放射免疫測定法等の公知手法に基づいて生理活性物質の測定を行う構成とすることもできる。また、定量部2には、HPLCやSPR, QCMを採用することもできる。HPLCやSPR, QCMによれば、酵素免疫測定法や放射免疫測定法で必要とされる標識化(ラベリング)の工程を省くことができるため、定量部2の構成を簡略化できる。
【0086】
加えて、測定精度の観点から、SPR又はQCMを採用することがさらに望ましい。HPLCでは、クロマトグラフ上のピークとして生理活性物質を検出しているため、ピーク強度に夾雑物のシグナルやノイズが入ると、測定精度が低下する場合がある。これに対して、SPR又はQCMでは、センサ表面に固相化した抗体により生理活性物質を検出するため、抗体の特異性に基づいて高い測定精度を得ることができる。また、SPR及びQCMでは、HPLCに比して、スループットが高く、定量部2を小型化できるという利点もある。
【0087】
以下、定量部2をSPRとして構成した場合を例として説明を行う。
【0088】
SPRでは、検出対象物質に対する抗体をセンサ表面に固相化し、検出対象物質の抗体への結合量を、SPR角のシフトによって定量している。しかし、生理活性物質の多くは誘電率の変化が小さく、SPR角のシフトを検出することが難しく、この方法では精度良く定量することができない。そこで、定量部2には、いわゆる間接競合SPRを採用することが望ましい。
【0089】
間接競合SPRでは、まず、センサ表面に生理活性物質を固相化する。次いで、定量対象とする生理活性物質を含む試料と、該生理活性物質に対する一定量の抗体を混合し、センサに送液する。このとき、抗体は、反応溶液中の生理活性物質と、センサ表面に固相化された生理活性物質とに対し競合的に結合する。抗体が、センサ表面に固相化された生理活性物質に結合すると、SPR角のシフトが生じる。間接競合SPRでは、試料中に多量の生理活性物質が含まれる程、センサ表面に固相化された生理活性物質に結合する抗体量が少なくなり、SPR角のシフトが小さくなる。逆に、試料中の生理活性物質が少ない程、SPR角のシフトが大きくなる。従って、この抗体結合によるSPR角のシフトに基づけば、通常のSRPでは測定できない生理活性物質を定量することができる。また、試料と混合する抗体量を設定することで、測定のダイナミックレンジを任意に制御することができる。
【0090】
センサ表面への生理活性物質の固相化は、通常使用される方法に従って行うことができる。例えば、アビジンビオチン反応を用いて、アビジンコートされたセンサへ、ビオチン化を行った生理活性物質を固定する。また、生理活性物質の官能基から伸ばしたリンカー末端をアミノ化し、センサにカルボン酸修飾を施して、アミノ基−カルボン酸基間のアミド結合を利用して、生理活性物質を固定することもできる。さらに、リンカー末端をチオール(−SH)化し、貴金属とチオール基との結合を利用して、貴金属表面に直接結合させることも可能である。この他、リンカー末端に所定のタンパク質を結合させ、金表面や疎水性プラスチック、無機材料表面等のタンパク質が吸着しやすい表面に対し物理吸着させることもできる。
【0091】
なお、リンカー付加官能基やリンカー鎖長、固定化密度等は、生理活性物質の抗体に対する抗原性を維持するような条件に設定される必要がある。
【0092】
4.解析部及び出力部の具体的構成
解析部3及び出力部4は、通常のHPLCやSPR, QCMに用いられる解析処理装置や表示装置により構成することができる。解析部3では、定量部2による定量値を指標として、生体情報の取得を行う。具体的には、例えば、多数の健常者の一日の所定時間範囲にわたる生理活性物質量を測定し、測定結果より標準的な生理活性物質量濃度の変化範囲を規定する標準変化曲線を算出する。そして、被験者の生理活性物質量をこの標準変化曲線と比較し、生体情報の判定を行う。得られた判定結果は、出力部4に出力され、画面等に表示される。
【実施例】
【0093】
<実施例1:コルチゾール類の定量>
1.皮膚表面からのコルチゾールの取得
6名の被験者について、1日3回(10時、14時、18時)、4日間、以下の2通りの方法により、指の皮膚表面からコルチゾールを取得した。
【0094】
(1)マイクロチューブによる採取
エタノールを含ませたペーパータオルで人差し指の指先を軽く拭いた。1%エタノール水50μLが入ったマイクロチューブの上部開口を人差し指の指先に当て、マイクロチューブの下端を親指で保持した(図1(A)参照)。人差し指と親指でマイクロチューブを挟持した状態で、マイクロチューブを逆さにして、人差し指の皮膚表面に1%エタノール水を1分間接触させた。ここで、始めにペーパータオルで指先を拭く目的は、皮膚表面に存在する夾雑物を取り除くことの他、皮膚表面にコルチゾールが蓄積している可能性を想定し、これを取り除くことを目的としている。
(2)シリンジによる採取
エタノールを含ませたペーパータオルで人差し指の指先を軽く拭いた。シリンジの先端に1%エタノール水50μLを充填し、シリンジを人差し指の指先に当てた状態で、シリンジを親指と中指で保持した(図1(B)参照)。右手でシリンジのピストンを引っ張ってシリンジ内を陰圧とし、皮膚表面にシリンジを吸い付け、人差し指の皮膚表面に1%エタノール水を1分間接触させた。この方法によれば、(1)のマイクロチューブによる採取に比べ、皮膚表面に接触させた1%エタノール水を、シリンジ内の陰圧に基づいて高収率に回収することが可能である。
【0095】
2.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いたコルチゾールの定量
皮膚表面に接触させた1%エタノール水(以下、単に「サンプル」という)40μLをバイアルに回収した。このサンプル30uLを、高速液体クロマトグラフィー(NANOSPACE SI-2、SHISEIDO)を用いた分析に供した。
【0096】
前処理カラムにはCAPCELLPAK MF Ph-1(カラムサイズ1.5mmID×35mm、カラム温度35℃、SHISEIDO)を用い、2.5%アセトニトリル水を流速100uL/minで送液した。また、分析カラムにはCAPCELLPAK C18 UG120(カラムサイズ1.5mmID×250mm、カラム温度35℃、SHISEIDO)を用い、10mM Phosphate buffer(pH 6.8)/CH3CN = 78/22を流速100uL/minで送液した。検出は紫外線吸光度検出器(波長242nmUV)にて行い、測定時間は50minとした。
【0097】
始めに、標準品コルチゾール(和光純薬)を0.5uMコルチゾール/コルチゾン水溶液とし
て調製し、予備検討を行った。この予備検討により、前処理カラムから分析カラムへのバルブ切換え時間(測定開始後2.7-4.4分)及びコルチゾールの流出時間(同36-38分)を確認した。
【0098】
図13に、1名の被験者において1日3回(10時、14時、18時)採取を行ったサンプルについて、コルチゾール量を測定した結果を示す。図中、符号pで示す標準品のピークに一致して、各時刻のサンプル(符号s10, s14, s18参照)でコルチゾールのピークが確認できる(ブロック矢印参照)。なお、図中、符号nは、皮膚に接触させていない1%エタノール水の測定結果を示している。
【0099】
ベースラインに基づきピーク面積を算出し、検量線を用いて算出されたコルチゾール量(pg)を、図14に示す。図は、6名の被験者(被験者A〜F)について、4日間測定を行った結果を示している。個人差及び測定時刻間での差は見られるものの、少ない場合で数pg、多い場合には300pgのコルチゾールが皮膚表面から採取できることが確認された。
【0100】
3.表面プラズモンセンサー(SPR)を用いたコルチゾールの定量
実施例1で説明した方法(シリンジによる採取)により調製したサンプルについて、表面プラズモンセンサー(BiacoreX、ビアコア株式会社)を用いた間接競合SPRにより分析を行った。分析は以下の手順に従った。
【0101】
(1)SPRセンサ表面へのコルチゾールの固相化
SPRセンサには、予め表面にストレプトアビジンが固相化されたSA Chip (ビアコア株式会社)を用いた。標準品コルチゾールをビオチン化した。得られたビオチン化コルチゾールをAcetate 4.0 (ビアコア株式会社)に溶解し、流速10 μL/minで100 μLインジェクションを行い、アビジンビオチン反応によってSPRセンサ表面にコルチゾールを固相化した。固相化するコルチゾールは、約150 RUとした。
【0102】
(2)検量線の作成
始めに、10 mM DMSO(Dimethyl sulfoxide)溶液とした標準品コルチゾールを、1%エタノール水を用いて段階希釈し、コルチゾール濃度100, 50, 25, 12.5, 6.25, 3.13, 1.56, 0.78 nMの標準溶液を作製した。各濃度の標準溶液40 μLを、5 ng/mL抗コルチゾール抗体溶液40 μLと十分混合し、結合反応を行なわせた。結合反応後の標準サンプル溶液25 μLを、10 μL/min、25℃でインジェクションした。なお、抗コルチゾール抗体にはAbcam社マウスモノクローナル抗体(XM210)を、ランニングバッファーにはHBS-EPバッファー(ビアコア株式会社)を用いた。
【0103】
各濃度のコルチゾール溶液について得られたSPRカーブを、図15に示す。図中、0secで生じている約850 RU(Resonace Unit)のピークシフトは、ランニングバッファーから標準サンプル溶液への切換えに伴うバルク効果である。このバルク効果は、標準サンプル溶液からランニングバッファーへの切換えにより、150 secで消失している。
【0104】
0〜150secでは、センサ基板表面に固相化されたコルチゾールへの抗コルチゾール抗体の結合により、RUの経時的な増加が観察されている。RUの増加量は、高濃度の標準品コルチゾール溶液ほど小さく、低濃度の標準品コルチゾール溶液ほど大きくなっていることが確認される。これは、間接競合SPRの測定原理が機能していることを示している。
【0105】
図16(A)は、インジェクション終了後60secのRUを、ベースラインとの比較により算出して得たプロットを示す。
【0106】
(3)サンプルの測定
実施例1調製したサンプル40 μLを、抗コルチゾール抗体溶液40 μLと十分混合し、結合反応を行なわせた。結合反応後の標準サンプル溶液40 μLを、20μL/min、25℃でインジェクションした。同様の条件で作成した検量線を、図16(B)に示す。
【0107】
8名の被験者(被験者a〜h)について、検量線を用いて算出されたコルチゾール量(pg)を、「表2」に示す。各被験者において、数十pgのコルチゾールを検出することができた。
【0108】
【表2】

【0109】
<実施例2:カテコールアミン類の定量>
1.皮膚表面からのノルエピネフリン及びL−ドーパの取得
実施例1の「1.皮膚表面からのコルチゾールの取得」中、「(1)マイクロチューブによる採取」に記載の方法に従って、皮膚表面からノルエピネフリン及びL−ドーパを採取した。ただし、本実施例では、溶媒には水を使用し、皮膚表面に対する接触時間を3分間とした。
【0110】
2.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いたコルチゾールの定量
皮膚表面に接触させた水(以下、単に「サンプル」という)40μLをバイアルに回収した。このサンプル30uLを、高速液体クロマトグラフィー(NANOSPACE SI-2、SHISEIDO)を用いた分析に供した。
【0111】
前処理カラムにはCAPCELLPAK MF Ph-1(カラムサイズ1.5mmID×35mm、カラム温度35℃、SHISEIDO)を用い、2.5%アセトニトリル水を流速100uL/minで送液した。また、分析カラムにはCAPCELLPAK C18 MGII S5(カラムサイズ2.0mmI.D.×250mm、カラム温度40℃、SHISEIDO)を用いた。また、移動相は、A/B=90/10((A)1.0mM オクタンスルホン酸ナトリウム、0.02mM EDTA-2Na、10mM KH2PO4、0.05vol% H3PO4、(B)CH3CN)とし、流速200uL/minで送液した。検出は電気化学検出器(ECD OX 800mV)にて行い、測定時間は30minとした。インジェクション量は2uL又は5uLとした。
【0112】
測定結果を、図17に示す。「Sample-1」は、上記サンプルの濃縮液で得られたクロマトグラムを、「Sample-2」及び「Sample-3」は濃縮しないサンプルで得られたクロマトグラムを示す。また「STD」は、標準品溶液(ノルエピネフリン、エピネフリン、L−ドーパ、ドーパミン、セロトニンを含む溶液)で得られたクロマトグラムを示す。
【0113】
Sample-1〜3のクロマトグラムにおいて、ノルエピネフリン及びL−ドーパに対応するピークが検出されている。一方、エピネフリン、ドーパミン及びセロトニンに対応するピークは検出されなかった。
【0114】
ベースラインに基づきピーク面積を算出し、検量線を用いて算出されたノルエピネフリン量及びL−ドーパ量(pg)を、「表3」に示す。
【0115】
【表3】

【0116】
ノルエピネフリンは、サンプルの濃縮を行っていないSample-2及びSample-3では、検出限界未満(N.D.)となったが、濃縮したSample-1では数〜数十pg程度であった。また、L−ドーパは、Sample-1〜3の全てで数〜数十pg程度と定量された。この結果から、皮膚表面から数〜数十pg程度のノルエピネフリン及びL−ドーパの採取が可能であることが確認できた。
【0117】
<実施例3:セロトニンの定量>
1.皮膚表面からのセロトニンの取得
実施例2と同様の方法に従って、皮膚表面からセロトニンを採取した。
【0118】
2.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いたセロトニンの定量
皮膚表面に接触させた水(以下、単に「サンプル」という)100 μLをバイアルに回収した。このサンプル100 uLを、高速液体クロマトグラフィー(NANOSPACE SI-2、SHISEIDO)を用いた分析に供した。
【0119】
前処理カラムにはCAPCELL PAK C18 MGII S5(カラムサイズ2.0mmID×35mm、カラム温度40℃、SHISEIDO)を用いた。また、分析カラムにはCAPCELLPAK C18 UG120 S3(カラムサイズ1.5mmID×250mm、カラム温度40℃、SHISEIDO)を用いた。また、移動相は、A/B=87/13((A)4mM Sodium 1-Octanesulfonate、0.02mM EDTA-2Na、5mM KH2PO4(pH3.4)、(B)CH3CN)とし、流速100uL/minで送液した。検出は電気化学検出器(ECD OX 750mV(Ag/AgCl))にて行い、測定時間は40minとした。インジェクション量は1uLとした。
【0120】
測定結果を、図18に示す。「Sample」は、上記サンプルの100 倍濃縮液で得られたクロマトグラムを、「Standard」は、標準品セロトニン(和光純薬)の0.1μM溶液で得られたクロマトグラムを示す。
【0121】
サンプル及び標準品セロトニンのクロマトグラムにおいて、溶出時間36〜38分にピークが検出されている。クロマトグラムの面積からセロトニン濃度を算出したところ、サンプルの100 倍濃縮液のセロトニン濃度は約4.4ng/mLであり、人差し指の皮膚表面から約0.044 ng/mLのセロトニンが採取できた。
【0122】
<実施例4:エストラジオールの定量>
1.皮膚表面からのエストラジオールの取得
実施例2と同様の方法に従って、皮膚表面からエストラジオールを採取した。エストラジオールの採取は、8名の被験者から行った。
【0123】
2.酵素免疫測定法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay:ELIZA)を用いたエストラジオールの定量
皮膚表面に接触させた水(以下、単に「サンプル」という)100 μLをバイアルに回収した。このサンプル100 uLを、市販のELISAキット(High Sensitivity SALIVARY 17β-ESTRADIOL ENZYME IMMNOASSAY KIT、SALIMETRICS社)を用いた分析に供した。
【0124】
キット添付の標準品エストラジオールの測定により検量線を作成し、サンプル中のエストラジオール濃度を算出した結果を図19に示す。各サンプル中のエストラジオール濃度は、2〜23pg/ml程度であった。この結果から、人差し指の皮膚表面から数〜数十pg程度のエストラジオールの採取が可能であることが確認できた。
【0125】
<実施例5:成長ホルモンの定量>
1.皮膚表面からの成長ホルモンの取得
実施例2と同様の方法に従って、皮膚表面から成長ホルモンを採取した。ただし、ここでの採取は、親指の皮膚表面から行った。成長ホルモンの採取は、3名の被験者から行った。
【0126】
2.酵素免疫測定法(ELIZA)を用いた成長ホルモンの定量
サンプル100μLをバイアルに回収し、市販のELISAキット(hGH ELISA、Roche社)を用いた分析に供した。
【0127】
キット添付の標準品成長ホルモンの測定により検量線を作成し、サンプル中の成長ホルモン濃度を算出した結果を図20に示す。図中、s1はサンプルの10倍濃縮液、s2は25倍濃縮液である。親指の皮膚表面から0.29〜0.51pg/mLの成長ホルモンを採取することができた。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明に係る生体情報取得方法及び生体情報取得装置によれば、生体から簡便かつ低侵襲に、常時、生理活性物質を採取することができ、正確な生体情報を取得することが可能であるため、例えば、家庭におけるヘルスケア分野やゲームなどのエンタテイメント分野における生体情報センシングに応用できる。
【符号の説明】
【0129】
S 体表表面
1、1A、1B 採取部
101 第一の部材
102 第二の部材
103、103a、103b 第一の流路
104、104a、104b 流体導入口
105、105a、105b 流体排出口
106 第二の流路
107 摺接面
11 開口部
111 凹部
112 排気孔
12,13 弁
14 接触板
2 定量部
3 解析部
4 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に由来する生理活性物質の定量値に基づいて、該生体に関する情報を取得する生体情報取得方法において、
前記生理活性物質を前記生体の体表表面から取得する手順を含む生体情報取得方法。
【請求項2】
前記体表表面は、指又は掌の皮膚表面である請求項1記載の生体情報取得方法。
【請求項3】
前記生理活性物質を、前記体表表面に接触させた溶媒中から取得する請求項2記載の生体情報取得方法。
【請求項4】
前記生理活性物質をコルチゾール類とし、前記情報として前記生体のストレスに関する情報を取得する請求項3記載の生体情報取得方法。
【請求項5】
前記生理活性物質をモノアミン類とし、前記情報として前記生体の情動に関する情報を取得する請求項3記載の生体情報取得方法。
【請求項6】
前記生理活性物質をエストロゲン類とし、前記情報として前記生体の月経周期に関する情報を取得する請求項3記載の生体情報取得方法。
【請求項7】
前記生理活性物質を成長ホルモンとし、前記情報として前記生体における運動の効果に関する情報を取得する請求項3記載の生体情報取得方法。
【請求項8】
生体の体表表面から該生体に由来する生理活性物質を取得し、該生理活性物質を定量する生理活性物質測定方法。
【請求項9】
前記生理活性物質は、コルチゾール類、モノアミン類、エストロゲン類又は成長ホルモンから選択される1以上である請求項8記載の生理活性物質測定方法。
【請求項10】
生体に由来する生理活性物質の定量値に基づいて、該生体に関する情報を取得する生体情報取得装置であって、
前記生体の体表表面に当接され、該体表表面から前記生理活性物質を取得する採取部を備える生体情報取得装置。
【請求項11】
前記採取部へ溶媒を送液する送液手段を備え、
前記送液手段により送液された前記溶媒を前記体表表面に接触させる開口部が前記採取部に設けられている請求項10記載の生体情報取得装置。
【請求項12】
前記体表表面に負圧を与える吸引手段を備え、
該吸引手段より吸引された前記生体表面が密着して閉塞する凹部が前記開口部に周設されている請求項11記載の生体情報取得装置。
【請求項13】
流体が送流される第一の流路が形成された第一の部材と、
この第一の部材に摺接して挿設され、第一の流路と連通され得る第二の流路が形成された第二の部材と、
が、第二の部材の挿設方向において相対的に移動し得るように配設されてなり、
第一の部材と第二の部材とが相対的に移動することによって、
第一の流路と第二の流路とが連通する連通状態と、該連通状態が解除された非連通状態と、を切換え可能とされ、かつ、
第一の部材の上面には、前記非連通状態にある第二の流路と連通し得る前記開口部が穿設された、
前記採取部を備える請求項11又は12記載の生体情報取得装置。
【請求項14】
生体の体表表面に当接され、該体表表面から該生体に由来する生理活性物質を取得する採取部を備える生理活性物質測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−266203(P2010−266203A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111993(P2009−111993)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】