説明

生体情報取得装置

【課題】心電信号の計測に関し、特に筋電ノイズが乗った場合にも安定して心電信号が検出できる生体情報取得装置を提供する。
【解決手段】生体情報取得装置は、被検体に接触する複数の電極を備える電極アレイ10と、被検体の腕振りを検知するセンサー22と、電極アレイ10の各電極間の電位を差動検出することによって被検体の心電信号を計測する心電計測手段と、センサー22からの腕振り方向が変化するタイミングを用いて、心電信号の少なくとも一部のデータを間引きする心電間引き手段と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報取得装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の生体情報取得装置としては、上腕部での心電信号の計測に関して開示されている。この発明では心電を取る際の電極と、別途筋肉から発生するノイズを除去するための電極を設け、ECG(心電図)信号の検知が困難な人体の場所からEMG信号を検出して、ECG信号に存在する筋電ノイズを除去することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、複数の加速度センサーにより身体が動いているか判断し、安定している時のみバイタル情報データを記録する装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
さらに、人の動作時において、特に歩行などの際の腕振り切り返し時に筋電ノイズ及び基線変動が大きく現れて心電信号に重畳してしまい、心電R波の検出を困難にすることが実験により判明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−504917号公報
【特許文献2】特開2007−195699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、上記のように検出した筋電ノイズと、ECG信号に重畳している筋電ノイズとが同一のものとは限らず、効果が得られない虞がある。また、特許文献2では、身体全体での動きを総合的に評価しなければならないため、その処理自体も複雑になる虞がある。また、運動中及び安定の判断のみであることから、必要以上に長期間に渡り記録しないデータが出てきてしまう虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]被検体に接触する複数の電極を備える電極アレイと、前記被検体の腕振りを検知するセンサーと、前記電極アレイの各電極間の電位を差動検出することによって前記被検体の心電信号の心電R波を計測する第1心電計測手段と、前記第1心電計測手段による心電R波の計測結果に基づいて、最も大きな振幅でR波を計測した前記電極アレイ内の電極の組合せを特定する心電特定手段と、前記心電特定手段で特定された前記電極アレイ内の電極の組合せによる電位を差動検出することによって前記被検体の心電信号の心電R波を計測する第2心電計測手段と、前記第2心電計測手段による心電R波の計測結果に基づいて、前記センサーからの腕振り方向が変化するタイミングを用いて、前記心電信号の少なくとも一部のデータを間引きする心電間引き手段と、を含むことを特徴とする生体情報取得装置。
【0008】
これによれば、心電信号の検出に関して、動作時において筋電が大きく影響する腕振り時をセンサーで検出して、心電信号の心電R波を精度良く安定して検出できる。具体的には、腕振り動作、特に歩行時などの動作において腕の動き方向(上下、前後、左右など)が変化するタイミングを検知し、そのタイミングの信号を無視(間引き)することで、不必要なノイズ(筋電及び基線)を心電R波と誤検出するのを回避できる。また、動作時において、特に歩行・ランニング時などの腕振り切り返しのタイミングで発生する筋電の影響を最小限にし、心電信号の心電R波を精度良く安定して検出できる。したがって、心電信号の計測に関し、特に筋電ノイズが乗った場合にも安定して心電信号が検出できる生体情報取得装置を提供する。
【0009】
[適用例2]上記生体情報取得装置であって、間引きされた前記データ内に心電R波があるかどうかを判断して、心拍数を算出する心拍算出手段をさらに含むことを特徴とする生体情報取得装置。
【0010】
これによれば、精度の良い心拍数を算出することができる。
【0011】
[適用例3]上記生体情報取得装置であって、前記心拍算出手段は、間引きされた前記データの前後の心拍数及び心電R波から、間引きされた前記データ内に心電R波があるかどうかを判断することを特徴とする生体情報取得装置。
【0012】
これによれば、間引きした区間のデータに心電R波があったかどうかを前後の心拍数及び心電R波から判断し、心拍数を算出することができる。
【0013】
[適用例4]上記生体情報取得装置であって、前記電極アレイの複数の電極は、前記被検体の上腕部の円周上に等間隔で置かれていることを特徴とする生体情報取得装置。
【0014】
これによれば、心電信号の心電R波の検出精度を容易に高めることができる。
【0015】
[適用例5]上記生体情報取得装置であって、2つの入力の電位を差動増幅する差動増幅部をさらに含むことを特徴とする生体情報取得装置。
【0016】
これによれば、差動増幅することで、安定して増幅することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る生体情報取得装置としての心電計測装置のハードウェア構成を示した図。
【図2】本実施形態に係る歩行時の心電測定波形の一例を示す図。
【図3】本実施形態に係る心電計測装置の計測方法を示したフローチャート。
【図4】本実施形態に係る1つの局面による電極アレイの配置場所を示した図。
【図5】本実施形態に係る一般的な心電波形及び間引きされた場合の波形を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本実施形態に係る生体情報取得装置としての心電計測装置のハードウェア構成を示した図である。
【0019】
本実施形態に係る心電計測装置2は、被検体としての被計測者Aに接触する複数の電極からなる電極アレイ10と、最適な2つの電極を選択するマルチプレクサー12と、電極アレイ10のうち2つの入力の電位を差動増幅して心電信号を求める差動増幅部としての計装アンプ14と、心電信号以外の不要な周波数成分を除去するフィルター16と、信号を必要な振幅レベルまで増幅する増幅部18と、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部20と、被計測者Aの腕振りを検知するセンサーとしての腕振り検知センサー22と、計測した信号を元に心拍数の算出、種々の信号処理、演算制御などのアルゴリズムを実行する演算処理部24と、で構成される。
【0020】
電極アレイ10の複数の電極は、心臓の活動に伴う被計測者Aの電位の変化を検知する電極であり、心電波形を得る際に被計測者Aに貼り付けられる電極である。電極アレイ10の複数の電極は、被計測者Aの上腕部Bに貼り付けられている。電極アレイ10の複数の電極は、被計測者Aの上腕部Bの円周上に等間隔で置かれている。これにより、心電信号の心電R波の検出精度を容易に高めることができる。電極アレイ10の複数の電極はマルチプレクサー12に接続されている。
【0021】
マルチプレクサー12は、機械的なスイッチと電子回路とがひとつのシリコン基板に形成されたIC(Integrated Circuit)、即ちMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)である。マルチプレクサー12は計装アンプ14に接続されている。
【0022】
計装アンプ14は、高い入力インピーダンスを持った差動増幅専用のオペアンプである。計装アンプ14は、電極アレイ10の複数の電極のうち2つの入力信号の差分を一定係数(差動利得)で増幅する差動増幅回路である。計装アンプ14のゲインは例えば21である。これにより、差動増幅することで、安定して増幅することができる。計装アンプ14はフィルター16に接続されている。
【0023】
フィルター16は、HPF、LPF、BPF、ノッチなどを組み合わせて使用する。フィルター16は、計装アンプ14から供給された心電信号以外の不要な周波数成分を排除して増幅部18に供給する。フィルター16は増幅部18に接続されている。
【0024】
増幅部18は、入力された心電信号を増幅する電子回路である。増幅部18はA/D変換部20に接続されている。
【0025】
A/D変換部20は、増幅部18で増幅されて出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する回路である。A/D変換部20は、高周波成分が除去された心電信号を所定のサンプリング周波数でデジタル信号に変換して演算処理部24に供給する。A/D変換部20は演算処理部24に接続されている。
【0026】
腕振り検知センサー22は、加速度センサーやジャイロセンサーなどにより構成されている。腕振り検知センサー22は、被計測者Aの腕振りの切り返し(腕振り方向が変化するタイミング)を検知する。歩行やランニングなどの動作において、身体全体の動きは比較的単調であり、この際発生する筋電ノイズ及び基線変動はフィルター処理で大半は除去することができる。しかし、腕振りの切り返し時において、大きなノイズが発生し、心電R波の検出を困難にしている。腕振り検知センサー22は演算処理部24に接続されている。
【0027】
演算処理部24は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えたマイクロコンピューターである。演算処理部24が、ROMに記憶されているプログラムを実行すると、A/D変換部20から入力されるデジタル信号を解析して心電図を表示部26に表示する機能や、求めた心電図を示すデータを生成し、生成したデータを記憶部28に記憶させる機能が実現する。演算処理部24では、取得した心電信号の保存、解析した心電波形の心電R波から心拍数の算出などが行われる。
【0028】
本実施形態において、演算処理部24では第1心電計測手段、心電特定手段、第2心電計測手段、心電間引き手段、及び心拍算出手段が実現される。各手段は、演算処理部24がA/D変換部20からの心電信号を所定のプログラムを処理することで実現される。
【0029】
第1心電計測手段は、電極アレイ10の各電極間の電位を差動検出することによって被計測者Aの心電信号を計測する。
【0030】
心電特定手段は、第1心電計測手段による心電R波の計測結果に基づいて、最も大きな振幅でR波を計測した電極アレイ10内の電極の組合せを特定する。
【0031】
第2心電計測手段は、心電特定手段で特定された電極アレイ10内の電極の組合せによる電位を差動検出することによって被計測者Aの心電信号の心電R波を計測する。
【0032】
心電間引き手段は、第2心電計測手段による心電R波の計測結果に基づいて、腕振り検知センサー22からの腕振り方向が変化するタイミングを用いて、心電信号の少なくとも一部のデータを間引きする。
【0033】
心拍算出手段は、間引きされたデータ内に心電R波があったかどうかを判断して、心拍数を算出する。これにより、精度の良い心拍数を算出することができる。心拍算出手段は、間引きされたデータの前後の心拍数及び心電R波から、間引きされたデータ内に心電R波があったかどうかを判断する。これにより、間引きした区間のデータに心電R波があったかどうかを前後の心拍数及び心電R波から判断し、心拍数を算出することができる。
【0034】
図2は、本実施形態に係る歩行時の心電測定波形の一例を示す図である。加速度の向きが変わる。つまり加速度がゼロになり方向(符号)が変わるところが腕振り切り返し点である。一番上の波形は測定波形、真ん中の波形は歩行動作による基線変動をハイパスフィルター(HPF)により除去した波形、一番下の波形は心電R波のタイミングを知るためにリファレンスとして測定した第一誘導波形である。HPFにより基線変動は取り除くことができるが、依然として大きなノイズがある。これは筋電ノイズが主要因であり、矢印で示す部分のように腕振りの方向が変わるタイミングで筋肉が大きく動くため、ノイズが大きくなる。
【0035】
図3は、本実施形態に係る心電計測装置2の計測方法を示したフローチャートである。先ず、ステップS10で、複数電極の中から最適な心電R波が得られる電極組合せを選択する。ここでその詳細を説明する。本実施形態では以下の手順により電極アレイ10の中から差動検出に好適な2つの電極を選択する。
【0036】
図4は、左腕の正面図であり、本実施形態に係る1つの局面による電極アレイ10の配置場所を示した図である。まず、心電図を計測される被計測者Aの左右どちらかの片腕(図4では左腕)に、電極アレイ10の複数の電極が貼り付けられる。具体的には、上腕部Bには、導電性を有するジェルが塗られ、このジェルを介して電極アレイ10の複数の電極は上腕部Bの肩側に貼り付けられる。また、電極アレイ10の複数の電極は上腕部Bの円周上に等間隔に貼り付けられる。
【0037】
次に、被計測者Aが心臓の計測の開始を指示する操作を操作部30において行う。マルチプレクサー12により選択された電極アレイ10の複数の電極のうちの2つの電極から出力される信号、つまり心臓の活動に伴う電位の変化を示す信号は、計装アンプ14で差動増幅される。計装アンプ14で差動増幅された信号は、フィルター16で心電信号以外の不要な周波数成分が除去された後、増幅部18に入力される。増幅部18で増幅された信号は、A/D変換部20でデジタル信号に変換された後、演算処理部24に入力される。
【0038】
演算処理部24は、A/D変換部20から出力されたデジタル信号を受け取ると、電極アレイ10の複数の電極のうちの2つの電極における電位の変化の波形、即ち心電図を求め、各電極の波形の画像が表示部26に表示されるように表示部26を制御する。なお、演算処理部24は、A/D変換部20から供給されたデジタル信号を記憶部28に記憶させる処理も行う。
【0039】
次に、電極アレイ10の複数の電極で計測された心電波形から、心電R波が最も大きいものを選択する。
【0040】
次に、上記電極選択処理で選択された2つの電極を用いて、その電極間の電位を差動検出することにより、上記同様に心電波形の心電R波を検出する。このとき、マルチプレクサー12は上記で選択された2つの電極の心電信号を計装アンプ14へ出力するように制御される。
これで、複数電極の中から最適な心電R波が得られる電極の組合せが選択されたことになる。
【0041】
次に、ステップS20で、電極アレイ10の複数の電極のうちの2つの電極の選択が完了したら腕振り検知センサー22の検知の開始を指示する操作を操作部30において行う。
【0042】
次に、ステップS30で、電極アレイ10の複数の電極のうち選択された2つの電極で計測される心臓の計測データを一時保存データとして記憶部28に保存する。
【0043】
次に、ステップS40で、腕振り検知センサー22の出力値から腕振り切り返しのタイミングを検知する。例えば加速度センサーの場合なら腕振りの切り返しにより出力値の極性が+から−、−から+へと変化したかどうかの判断を行い、極性の変化から腕振り切り返しのタイミングを検知する。変化した場合はステップS50へ進む。変化しない場合はステップS60へ進む。
【0044】
次に、ステップS50で、腕振り検知センサー22の出力値が変化したタイミングで記憶部28に保存されている一時保存データの間引き処理を行う。
【0045】
次に、ステップS60で、間引き処理されたデータを記録すべき計測データとして記憶部28に保存する。
【0046】
本実施形態によれば、心電信号の検出に関して、動作時において筋電が大きく影響する腕振り時を腕振り検知センサー22で検出して、心電信号の心電R波を精度良く安定して検出できる。具体的には、腕振り動作、特に歩行時などの動作において腕の動き方向(上下、前後、左右など)が変化するタイミングを検知し、そのタイミングの信号を無視(間引き)することで、不必要なノイズ(筋電及び基線)を心電R波と誤検出するのを回避できる。また、動作時において、特に歩行・ランニング時などの腕振り切り返しのタイミングで発生する筋電の影響を最小限にし、心電信号の心電R波を精度良く安定して検出できる。したがって、心電信号の計測に関し、特に筋電ノイズが乗った場合にも安定して心電信号が検出できる心電計測装置2を提供する。
【0047】
図5は、本実施形態に係る一般的な心電波形及び間引きされた場合の心電波形を示す模式図である。本実施形態では、間引きされたデータに心電R波があったかどうかを、前後に測定できている心電R波と心電R波との間隔及びそれまでの心拍数から推定できるので、これに基づいて心拍数を算出する(通常、いきなり心電R波と心電R波との間隔や心拍数が極短時間のうちに大きく変化することはないことによる)。
【0048】
これにより、間引きされた部分のデータに心電R波があったかどうかを前後の心拍数及び心電R波から判断し、心拍数を算出することができる。
【符号の説明】
【0049】
2…心電計測装置(生体情報取得装置) 10…電極アレイ 12…マルチプレクサー 14…計装アンプ(差動増幅部) 16…フィルター 18…増幅部 20…A/D変換部 22…腕振り検知センサー(センサー) 24…演算処理部 26…表示部 28…記憶部 30…操作部 A…被計測者(被検体) B…上腕部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に接触する複数の電極を備える電極アレイと、
前記被検体の腕振りを検知するセンサーと、
前記電極アレイの各電極間の電位を差動検出することによって前記被検体の心電信号の心電R波を計測する第1心電計測手段と、
前記第1心電計測手段による心電R波の計測結果に基づいて、最も大きな振幅でR波を計測した前記電極アレイ内の電極の組合せを特定する心電特定手段と、
前記心電特定手段で特定された前記電極アレイ内の電極の組合せによる電位を差動検出することによって前記被検体の心電信号の心電R波を計測する第2心電計測手段と、
前記第2心電計測手段による心電R波の計測結果に基づいて、前記センサーからの腕振り方向が変化するタイミングを用いて、前記心電信号の少なくとも一部のデータを間引きする心電間引き手段と、
を含むことを特徴とする生体情報取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載の生体情報取得装置において、
間引きされた前記データ内に心電R波があるかどうかを判断して、心拍数を算出する心拍算出手段をさらに含むことを特徴とする生体情報取得装置。
【請求項3】
請求項2に記載の生体情報取得装置において、
前記心拍算出手段は、間引きされた前記データの前後の心拍数及び心電R波から、間引きされた前記データ内に心電R波があるかどうかを判断することを特徴とする生体情報取得装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体情報取得装置において、
前記電極アレイの複数の電極は、前記被検体の上腕部の円周上に等間隔で置かれていることを特徴とする生体情報取得装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の生体情報取得装置において、
2つの入力の電位を差動増幅する差動増幅部をさらに含むことを特徴とする生体情報取得装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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