説明

生体材料、それを含む注射可能なインプラント、その調製方法およびその使用

本発明は、ポリサッカリドがスクシノキトサングルタメートでよい、注射可能な生体吸収性のポリサッカリド組成物を含む生体材料に関する。本発明は、また、吸収性の粒子が懸濁状態であってもよく、注射可能な生体吸収性のポリサッカリド組成物を含む生体材料、本質的に、いずれの付加的な製剤変性剤を必要としなくてよいキチン及び/またはキトサンを含むかそれからなっている前記粒子、並びにそれの製造方法にも関する。本発明は、また、前記生体材料を含む医療器具及びヒトの顔または身体の空洞の充填材を含む修復あるいは治療方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2006年2月24日に出願されたFR 06 01657に対する優先権の利益を享受し、よってFR 06 01657の内容は参考としてここに組み込まれる。
【0002】
本発明はヒトまたは動物の身体への埋め込みのための生体材料の分野に関する。より詳細には、本発明はキチン及び/またはキトサンを含んでよい、埋め込み可能な生体材料に関する。本発明の生体材料はゲル形態であってもよく、インプラントを形成するために、特に皮下または皮内の経路で注射されてもよい。このインプラントは生体に吸収可能であるという利点を有する。
【背景技術】
【0003】
前記分野の当業者は、種々の注射可能なインプラントに精通している。例えば、シリコーンゲル(またはシリコーンオイル)はよく知られているが、これらのゲルは生体分解性でないという不都合を有する。更に、シリコーンは多くの場合、慢性炎症、肉芽腫の形成および遅延アレルギー反応の原因にまでもなる。コラーゲン懸濁液もまた、過去10年間にわたり、非常に広汎に使用されてきた。しかしながら、一般的にコラーゲンはウシ亜科を起源としており、健康にとって望ましくなく、一般的に付加的な規制要求の対象となっている。患者自身から取り除かれた脂肪細胞を再移植する試みもまた報告されている。しかし、その充填効果の持続時間は、一般的に患者が所望するよりも短い。
【0004】
直径20から40 μmのポリメチルメタクリレート(PMMA)ミクロスフェアを懸濁状態で含むゼラチンまたはコラーゲン溶液からなる他のインプラントも使用されているが、PMMAは生体分解性ではなく、そのゼラチンまたはコラーゲン溶液は一般的にウシ亜科から由来している。
【0005】
EP 0 969 883はカルボキシルメチルセルロースゲル(CMC)内に懸濁状態にある直径20から40 μmのL-PLA(ポリ乳酸)ミクロスフェアを含む、埋め込み可能なゲルを記載している。このゲルは注射可能で、無菌の注射器に補充することができる。この製品は許容可能な効力を示しているが、不十分な注射可能性(要求される小径の針に詰まることが見うけられるかもしれない)及び所望される適用のいくつかにとって、緩慢すぎるというような生体分解性を示すかもしれない。また、粒子は梱包材料内、特に注射器内で凝集する傾向を有し、よって注射が困難になり、一貫性がない結果を導く。注入領域内での粒子の非同質な分布は、実際に患者内でも観察されうる。よって、期待された審美的な結果は達成されず、粒子が過多な領域が、時に粒子のない領域に隣接して現れる。(高分子量の)PLAの非常に長い吸収時間は数年に及ぶことがあり、それがまた長期において炎症反応の原因となるかもしれない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、従来技術の欠点を有さない新規な生体材料、とりわけ即時の充填材料として有用で、線維の生成が可能で、また長期において慢性の炎症反応または拒絶反応を回避して吸収されることが可能な生体材料に対する真の必要性が存在するのである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの必要性を満たす生体材料、例えば、好ましくは組成物内に懸濁状態にある粒子を含み、前記粒子がキチン及び/またはキトサンから構成されるようなスクシノキトサングルタメートゲルのような、好ましくはキチンまたはキトサンのゲルの形態で、注射可能な組成物を含む、生体材料を発見した。本発明の生体材料は、生体吸収性であり、粒子が懸濁状態にあるときもそれらは生体吸収性である。前記ゲルの吸収時間は粒子の吸収時間によって、異なっていてもよい。
【0008】
本発明によると、本発明の生体材料は注射された組成物の体積から由来する充填効果を生じる。本発明の生体材料の重要な目的は、線維と組織、とりわけ新規な組織(皮膚)の生成を誘導することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の組成物及び本発明の生体材料内に存在する粒子によって、線維が生体材料により誘導される。生体材料が注入されると、それは異質の物体と認められ、コラーゲンから発達する線維芽細胞の増殖(新コラーゲン生成)を伴う結合組織過形成により、身体はこの攻撃に対して反応する。本発明の生体材料の注射により誘導された線維症反応は、注射後15日から3週間後の間に起こりうる。
【0010】
本発明の生体材料の注入による線維の誘発は、吸収された際に生体材料を置換する、自然な充填組織を生成することを目的としている。よって、線維症の誘導の主な原因として考えられるかもしれない前記粒子が、線維症を誘導する機能をもはや実現しなくなったならば、好ましくは1ないし6ヶ月間以内に吸収されることが望ましい。
【0011】
よって、本発明に記載の生体材料は、一部にはその組成物の性質により、また一部には粒子の存在により、埋め込み可能な充填物質を必要とする患者に対して技術的な解法を提案し、その生体材料の製品の生体分解および吸収時間は、例えば組成物内の粒子量を調節することによって、患者固有の要求に適合させてもよく、よって従来技術の製品の欠点を回避することができる。
【0012】
本発明の生体材料を多量に1度の注射によって注入することは、組織(例えば、皮膚)の増強が1度の注射で注入された生体材料の量に依存しないであろうことから、前記の生体材料を必要としている患者の治療の最適の方法とはいえないかもしれない。つまり、例えば2ヶ月というような数週間の間隔であってもよい、複数回の注射を遂行することが好ましいかもしれない。この実施態様は、生体材料を、新たな生体材料の注射前に、ほとんど完全に吸収させるという目的を有する。
【0013】
本発明において、注射可能性とは、前記生体材料の注射の容易さを意味している。つまり、注射可能性とは一般的に、生体材料の粘性及び他の流動特性、生体材料内に含まれる粒子の寸法、及び注射針の直径の関数であってもよい。キチンとは、β-1.4-結合N-アセチル-D-グルコサミンの直鎖状のポリサッカリドを意味している。キトサンとは、ランダムに分布したβ-1.4-結合N-アセチル-D-グルコサミン(アセチル化単位)とD-グルコサミン(脱アセチル化単位)が結合したものから構成される直鎖状のポリサッカリドを意味している。キトサンの脱アセチル化の度合はNMR分光測定により決定されてよい。
【0014】
キトサン誘導体とは、キトサン塩または酸誘導キトサン、キトサングリコレート、キトサンラクテート、キトサンスクシネート、ヒドロキシアルキルキトサン、キトサンアセテート、キトサングルタメート及びさらに好ましくはスクシノキトサングルタメートのいずれかを意味する。
【0015】
本発明の好ましい実施態様によると、本発明の生体材料は、好ましくはゲルの形態で、組成物内に吸収可能な粒子を懸濁状態で含み、前記粒子がキチン及び/またはキトサンを含む注射可能な生体吸収性のポリサッカリド組成物を含むかまたはそれからなる。
【0016】
一つの実施態様では、前記ポリサッカリドはキトサンまたはそれの誘導体であり、約30から約95 %の脱アルキル化の度合を有することが好ましく、その度合は約70から約90 %であることが好ましく、約75から約85 %であればより好ましく、約80から約85 %であればよりいっそう好ましく、約85 %であれば最も好ましい。
【0017】
前記ゲル組成物の、あるいはキチンもしくはキトサン粒子を形成するために使用される、キトサンまたはキトサン誘導物の分子量は、約10000から約500000 Dであることが都合がよく、約30000から約100000 Dであれば好ましく、約50000から約80000 Dであればより好ましい。
【0018】
ある実施態様によると、前記生体材料はその組成物中に、約0.1から約20%のキトサンまたはキトサン誘導体であるポリサッカリドを含み、それが約1から約20 % w/wであれば好ましく、約1から約12 % w/wであればより好ましく、約1から約10 % w/wであればよりいっそう好ましく、約1から5 % w/wであることが最も好ましい。ある特定の実施態様では、前記ポリサッカリドがキトサン誘導体である場合、生体材料の組成物は約0.1から約20 %のポリサッカリドを含んでよい。特に好ましい実施態様によると、前記キトサン誘導体はスクシノキトサングルタメートである。
【0019】
ある実施態様によると、本発明の生体材料は注射可能な生体吸収性のポリサッカリド組成物を含み、そのポリサッカリドとはスクシノキトサングルタメートである。前記スクシノキトサングルタメートは、約30から約95 %の脱アセチル化の度合を有すれば都合が良く、その度合が約70から約90 %であれば好ましく、約75から約85 %であればより好ましく、約80から約85 %であればよりいっそう好ましく、そして約85 %であれば最も好ましい。ある実施態様によると、前記スクシノキトサングルタメートは、約10000から約500000 Dの分子量を有し、それが約30000から約100000 Dであれば好ましく、約50000から約80000 Dであればより好ましい。ある実施形態によると、前記組成物は組成物全体の重量の約0.1から20 % w/wのスクシノキトサングルタメートから構成され、それが1から10 % w/wであれば好ましく、1から5 % w/wであればより好ましい。本発明の生体材料はゲルであることが都合が良い。前記スクシノキトサングルタメートは、動物または植物を起源とするキトサンから誘導されてよい。本発明の生体材料を製造するために使用されるスクシノキトサングルタメートは、GMPグレードのキトサンから誘導されれば都合が良い。
【0020】
本発明のもう一つの好ましい特徴点では、前記生体材料はキチン粒子を含むキトサンまたはキトサン誘導ゲルである。
【0021】
本発明の最も好ましい実施態様では、前記生体材料がキチン粒子をゲル内に懸濁状態で含む、スクシノキトサングルタメートのゲルである。
【0022】
ある実施態様によると、本発明の生体材料を製造するために使用されるキトサンは動物または植物のいずれかを起源としてよい。動物を起源とする、より詳細には甲殻類(エビの殻)またはイカのキトサンの使用は、経済的に有益である。植物を起源とする、より詳細には菌類のキトサンは、一般的に消費者により高く評価される。よって、ある好ましい実施態様によると、本発明の生体材料に使用されるキトサンは、例えばMucoralean 株、Mucor racemosus及びCunninghamella elegans、Gongronella butleri、Aspergillus niger、Rhizopus oryzae、Lentinus edodes、Pleurotus sajo-caju、より好ましくはAgaricus bisporusのような菌類から抽出される。別の実施態様によると、前記キトサンは、例えばZygosaccharomyces rouxii及びCandida albicansのような、二つの酵母菌から生産される。
【0023】
本発明のある特定の実施態様によると、本発明の生体材料内に含まれる粒子は、動物もしくは植物のいずれかを起源とするキチン及び/またはキトサンを含むか、あるいはそれから本質的になる。また、前記粒子はキチン及びキトサンの混合物から形成されるか、またはそれを含んでもよい。ある実施態様によると、これらの粒子はキチンのみまたはキトサンのみからなってもよい。ある実施形態によると、前記粒子を形成するために使用されるキトサンは、約30から約95 %の脱アセチル化の度合を有してもよく、その度合が約70から約90 %であれば好ましく、約75から約85 %であればより好ましく、約80から約85 %であればよりいっそう好ましく、約85 %であれば最も好ましい。本発明の粒子を形成するために使用されるキトサンはGMPグレードのものであれば都合が良い。ある好ましい実施態様によると、前記粒子はGMPグレードのキトサンの脱アセチル化から得られたキチンである。ある好ましい実施態様によると、本発明の生体材料は本質的に内毒素を含まない。別の実施態様によると、前記生体材料は本質的に内毒素を含まないタンパク質を除去したキチン粒子を含む。
【0024】
ある実施態様によると、本発明の生体材料内に含まれる粒子は、1から6ヶ月間の生体吸収時間を有する。ある実施態様によると、キチンのみの粒子は1から3ヶ月の生体吸収時間を有し、キトサンのみの粒子は1から4ヶ月の生体吸収時間を有する。
【0025】
別の実施態様によると、本発明の生体材料内の粒子量は、約0.1から約10 % w/wであってもよく、その粒子量が1から5 % w/wであれば好ましく、1から2 % w/wであればより好ましい。
【0026】
本発明の生体材料に含まれる粒子量は、その生体材料の最終適用及び所望される効果に依存してもよい。
【0027】
ある好ましい実施態様によると、本発明の生体材料は、1から5 %のキトサン粒子もしくは1から5 %のキチン粒子を含む、キトサンまたはキトサン誘導ゲルである。別の実施態様によると、本発明の生体材料は、1から2 %のキチン粒子を含む、キトサン誘導ゲルである。ある特に好ましい実施態様では、本発明の生体材料は、ゲル内にキチン及び/またはキトサン粒子を懸濁状態で有し、そのゲルが本質的に、可塑剤、界面活性剤、粘度調節剤等のような、他のいずれの製剤化向上薬剤を含まない、本質的にキトサン誘導体と水からなるゲルである。
【0028】
本発明の別の実施態様によると、本発明の生体材料内に含まれている粒子は3から150μmの平均直径を有し、その平均直径が5から40 μmであれば好ましい。ある実施態様によると、前記粒子の平均直径は3から12 μmであり、その平均直径が5から10 μmであれば好ましい。別の実施態様では前記粒子の平均直径は10から32 μmである。前記粒子はミクロスフェアであることが好ましい。
【0029】
更に、本発明の生体材料内に懸濁状態にあるこれらの生体吸収性の粒子は、27 G(または30 G)の針を使用した製品の注射可能性が十分であり続けられるような直径を有するべきである。
【0030】
ある実施態様によると、キチン及び/またはキトサン粒子は、最初200から300 μmの平均粒度を有するキチンまたはキトサン結晶から得られる。前記粒度は、例えば、しかしこれに制限されないが、任意に2度以上繰り返すスプレー乾燥または微粒化のような、当業者に既知のいずれの適当な技法によって、前記粒子の粒子寸法を低下して減少される。そして、これらの粒子は、微粒化された微粒子の完全性を損なうことがある寒微粒化を回避しながら、連続的に微粒化に供してもよい。続いて、ふるい分けによって、大きすぎるかまたは小さすぎるかいずれかの粒度を有する粒子を除去する。
【0031】
ある実施態様によると、本発明の粒子はポリメタクリル酸及び/またはヒドロキシル基、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ-N-ビニル-2-ピロリドン、ポリビニルアルコールを含むそれのエステル誘導体を含まない。
【0032】
別の実施態様によると、前記粒子は複合体ではなく、好ましくはキチンのような、単一の成分で形成される。
【0033】
ある有利な実施態様によると、本発明の生体材料は皮膚科の使用に適合性があるpHを有し、それが6.5から7.5の間のpHであれば好ましく、6.8から7.2の間であることが理想的である。
【0034】
本発明の別の実施態様によると、本発明の生体材料の濃度は前記粒子の濃度と同等であり、その濃度が0.95から1.20であれば好ましく、1.00から1.10の間であることが理想的である。
【0035】
前記粒子は、粒子含有ゲルの粘性、キチン及びキトサンの自然な界面活性効果、並びに粒子が小寸法であること、並びにそれらの濃度がゲルの濃度とおおむね同等であるという事実から、懸濁状態を維持してよい。この濃度の均一性、キチン及びキトサンの界面活性特性及び小粒子寸法により、ゲルの満足な均一性が確保され、細い針をつまらせる凝集塊の生成を回避し、可塑剤、界面活性剤、及び粘度調節剤のような付加的な製剤変性剤の必要を回避することができる。
【0036】
本発明はまた、吸収性のキチン及びキトサン粒子を懸濁状態で含む注射可能な生体吸収性のポリサッカリド組成物を含む生体材料を製造する方法に関し、前記方法は、約30から約95 %の、好ましくは約70から約90 %の、より好ましくは約75から85 %の、よりいっそう好ましくは約80から85%の、そして最も好ましくは約85%の脱アセチル化の度合を有するキトサンまたはキトサン誘導体が溶解する工程、並びにその後のグルタミン酸及び無水コハク酸の連続添加、及び中和工程を含む。キチン及び/またはキトサンを含む粒子の攪拌しながらの添加は、前記方法のいくつかの工程、例えば、グルタミン酸添加の前もしくは後、または最終工程で行われてよい。
【0037】
前記中和工程の最中に、この生体材料のpHは6.5から7.5のどこかに、理想的には6.8から7.2の間で、水酸化ナトリウムまたはトリエタノールアミンのような塩基を添加して調節される。
【0038】
結果として生ずる生体材料は、pHまたは温度のいずれにも影響されなくてよい。後者、つまり温度は、生成物が室温で保存された場合安定を保つということを意味するため、特に重要である。
【0039】
本発明に記載の製造方法は、例えば照射または蒸気滅菌を伴う工程のような、滅菌工程を含むこともまた好ましい。
【0040】
本発明のある実施態様によると、本発明の生体材料の製造に使用されるキチン及びキトサン及び/または前記粒子は、一つの起源、好ましくはGMPグレードのキトサンからのものである。別の実施態様によると、前記生体材料内に懸濁状態にあるキチン粒子の製造方法は、GMPグレードのキトサンの再アセチル化によって得られたキチンを使用する。本発明のある実施態様によると、前記組成物及び/または粒子の製造方法で使用されたキチンは本質的にタンパク質を含まない。
【0041】
本発明はまた、前記生体材料を含む医療器具にも関する。前記医療器具のある特定の実施態様によると、前記生体材料は無菌の注射器中ですぐに使用できる。
【0042】
本発明の別の特徴点は、前記生体材料がヒトまたは動物のいずれかの顔もしくは身体の空洞を埋めるために皮下または皮内経路を介して注射される、審美的な修復治療のための方法に関する。より詳細には、本発明の主な適用の一つは脂肪萎縮症を患っている患者、特にHIVウイルスを患う患者のための顔面再構成である。
【0043】
脂肪萎縮症は皮下の脂肪組織の破壊に特徴付けられる。顔面においては、頬の脂肪肉球の破壊がこの非常に特徴的な形態的な変化をひき起こす。これらの脂肪肉球は頬の中央部分に、脂肪組織のかなり目立った破壊に影響されうる顔面部分の多方面に広がって位置する。その主な滅損は、側頭部の特徴的な陥没も非常に頻繁に起こるが、特に、顔面に非常にくぼんだ印象をあたえるくぼみの拡大に見られるであろう。この萎縮症はまた、眼窩後方の脂肪組織の破壊を非常に頻繁に伴い、顔面の退廃を更に悪化させる眼球陥没をひき起こす。脂肪萎縮症は、逆説的なことに、申し分のない免疫性及びウイルス状態を有する傾向がある患者に、非常に自尊心を傷つけるような、加減の悪いまたは疾患性の身体的様相をもたらす。
【0044】
この理由により、三段治療の効力を忘れがちな患者たちは、自分の身体的様相の破壊的な体裁のみを注視するかもしれず、治療を適切に受けることを怠るかまたは最小に見て相当の憂慮及び絶望をもって治療を受け、その治療の危険性を再考することはないかもしれない。
【0045】
本発明のもう一つの目的は、前記生体材料を注射可能なインプラントとして、しわ、小じわ、肌の陥没、ざそうの傷あと及び他の傷を埋めるための、審美的な治療に使用することである。
【0046】
本発明のもう一つの主題は、特に脂肪萎縮症の場合、各注射後に注射領域上の肌の表面マッサージを行って前記生体材料の複数の連続注射を行うことを伴ってもよい、ヒトの顔または身体の陥没を埋めるための審美的治療方法である。
【0047】
本発明のもう一つの主題は、前記生体材料を歯肉の陥没を埋めるためにまたは歯肉の充填材として使用することである。
【0048】
本発明のもう一つの主題は、ストレス尿失禁のみまたは他の形態の失禁と併せて患う人に埋め込むことを目的とした医療装置の製造に前記生体材料を使用することである。よって、前記生体材料は尿失禁症を患う活動的な女性の10から15 %に起こる尿道括約筋欠損を埋めるために使用される。現在では、満足な治療法が全く存在しないため、この粒子ゲルは、現在使用できる外科的方法と比較して、非常に非侵襲的な治療法として、特別な役割を果たすだろう。この方法は非攻撃的で、再生的で、副作用がなく、且つ局所的麻酔後に、膣壁または尿道と恥骨の間の尿道より上位部から粒子ゲルを傍尿道注射することのみ(約1から4 ccの注射)を伴う。
【0049】
本発明は、本発明の特定の実施態様を制限しない意味で説明される、以下に詳説する実施例を読むことでよりよく理解されるだろう。
【実施例】
【0050】
実施例1
4 %のキトサン(w/w)を含むゲル
GMPグレードで甲殻類源、脱アセチル化度85%、内因性粘性のキトサン約150 cps(1 %の酢酸溶液中)を精製水に溶解させた。化学量のグルタミン酸をその溶液中に加えると、15から20分後にキトサングルタメートが生産された。その後、無水コハク酸を加えると(グルタミン酸と同量)スクシノキトサングルタメートの形態でゲルが生じた。そのゲルのpHは水酸化ナトリウムで6.8-7.2に調節した。その後、ゲルを160μmのフィルターで濾過し、非所望の粒子を可能な限り除去した。そして、精製水を加えると、濃度4 %の純粋キトサンがゲル中に得られた。得られたゲルは約2500 cpsの粘度を有し、30ゲージの針で容易に注射できた。前記ゲルはpHまたは温度に対し不安定ではなかった。
【0051】
実施例2
1 %のキチンミクロスフェア(w/w)を懸濁状態で有する2 %のキトサンを含むゲル
ゲルは実施例1と同様に調製した。ただし、2 %の純粋キトサン濃度(w/w)に調節したことを除く。同時に、キトサンを1 %の酢酸に溶解させ、エタノールを最終溶液の30 %の割合で加えた。Buchiタイプのスプレードライヤーを使用し、粒度5から13μmのキトサンミクロスフェアを得た。これらのミクロスフェアを、酢酸溶液(ポリマーの25から30 %を再アセチル化し、50 %より大きい最終アセチル化を得るために、DDAで計算された化学量の酢酸)に注いだ。結果として生じたキチンミクロスフェアを1 %のミクロスフェア(w/w)を有するように前記ゲルに混ぜた。最終コロイド状懸濁液は約3500 cpsの粘性を有し、そのため27ゲージの針を通して容易に注射することができ、pHまたは温度に対して不安定ではなかった。
【0052】
実施例3
1 %のキチン微粉粒子(w/w)を懸濁状態で有する、5%のキトサンを含むゲル
ゲルは実施例1と同様に調製した。ただし、5 %の純粋キトサン濃度(w/w)に調節したことを除く。GMPキトサン供給者から純粋キチンを得た。この粉末の粘度は200-300μmだった。その粉末を微粉化してふるいにかけ、5から32 μmの粒度の粉末を得た。その後、キチン粒子をゲル内で1 %の懸濁状態になるようにゲルに混ぜた。最終懸濁液は約4500 cpsの粘度を有したが、なお27ゲージの針を通して注射可能であった。最終生産物はpHまたは温度に対して不安定ではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、1%のキチン粒子を含むスクシノキトサングルタメートゲルのキチン粒子の分布を示す写真である。OLYMPUS(登録商標)光学顕微鏡を使用して撮影された本発明による生体材料の写真は、付加的な界面活性剤を必要とせず、キトサンの界面活性特性により自然に懸濁状態を保って、粒子がゲル中に均質に分布していることを確認している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくは注射可能な生体吸収性のポリサッカリドを含むゲルの形態で、さらに前記ゲル中に吸収性の粒子を懸濁状態で含み、前記粒子がキチン及び/またはキトサンを含む、組成物。
【請求項2】
前記ポリサッカリドが、約30から約95 %、好ましくは約70から約90 %、よりこのましくは約75から約85 %、よりいっそう好ましくは約80から約85 %、最も好ましくは約85 %の脱アセチル化の度合を有する、キトサンまたはそれの誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記注射可能な生体吸収性のポリサッカリドが、スクシノキトサングルタメートである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリサッカリド組成物が、約0.1から約20 %w/w、好ましくは1から10 %w/w、より好ましくは1から5% w/wのキトサンまたはそれの誘導体を、注射可能な生体吸収性のポリサッカリドとして含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリサッカリドが、植物を起源とするキトサンまたはキトサン誘導体である、請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリサッカリドが、動物を起源とするキトサンまたはキトサン誘導体である、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリサッカリドが、キトサンまたはキトサン誘導体で、前記注射可能な生体吸収性のポリサッカリド及び/または前記粒子のキトサンもしくはキトサン誘導体もしくはキチンがGMPグレードのキトサンから由来する、請求項1から6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物中の吸収性の粒子の量が、組成物の総重量のうち約0.1から約10 %の間、好ましくは約1から約5%の間で、より好ましくは約1から約2 %の間の重量である、請求項1から7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記吸収性の粒子が、本質的にキチンからなる、請求項1から8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記吸収性の粒子がミクロスフェアである、請求項1から9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
粒子が約3から約150 μm、好ましくは5から40 μmの平均直径を有する、請求項1から10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、本質的にいずれの付加的な製剤変性剤も含まない、請求項1から11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記吸収性の粒子が、1から6ヶ月の生体吸収時間を有する、請求項1から12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物の濃度が、前記粒子の濃度と同等である、請求項1から13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
約70から90 %の脱アセチル化の度合を有するキトサンを溶解し、その後グルタミン酸及び無水コハク酸を連続添加し、中和し、グルタミン酸添加の前もしくは後、または最終工程に行われるキチン及び/またはキトサンを含む粒子の攪拌しながらの添加、そして任意の滅菌の工程を含む、請求項1から14のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項16】
請求項1から14のいずれか1項に記載の組成物を含む、医療器具。
【請求項17】
前記組成物が無菌の注射器中ですぐに使用できる、請求項16に記載の医療器具。
【請求項18】
請求項1から14のいずれか1項に記載の組成物が、ヒトまたは動物のいずれかの顔または身体の空洞を埋めるために、皮下または皮内経路を介して注射される、審美的治療方法。
【請求項19】
埋めようとする空洞が、しわ、小じわ、肌の陥没、ざそうの傷あとまたは他の傷から起こった皮膚領域の空洞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
複数の連続注射が行われる、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記空洞が脂肪萎縮症の結果である、請求項18から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記治療が歯肉の陥没を埋めるためである、請求項18から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
ストレス尿失禁のみまたは他の形態の失禁と併せて患う人に埋め込むことを目的とした、薬剤または医療装置の製造のための、請求項1から14のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項24】
ポリサッカリドがスクシノキトサングルタメートである、注射可能な生体吸収性のポリサッカリド組成物を含む、組成物。
【請求項25】
前記スクシノキトサングルタメートが、約30から約95 %、好ましくは約70から約90 %、より好ましくは約75から約85 %、よりいっそう好ましくは約80から約85 %、最も好ましくは約85 %の脱アセチル化の度合を有する、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記組成物が、組成物の総重量の約0.1から約20 %w/w、好ましくは約0.1から約20 %w/w、より好ましくは約1から約12 %w/w、よりいっそう好ましくは約1から約10 %w/w、最も好ましくは約1から約5 %w/wの重量のスクシノキトサングルタメートを含む、請求項24または25に記載の組成物。
【請求項27】
前記スクシノキトサングルタメートが、動物または植物を起源とする、請求項24から26のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項28】
前記スクシノキトサングルタメートが、GMPグレードのキトサンから由来する、請求項24から27のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項29】
注射可能な、請求項24から28のいずれか1項に記載の組成物。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2009−527311(P2009−527311A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555893(P2008−555893)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【国際出願番号】PCT/IB2007/000422
【国際公開番号】WO2007/096748
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(508256684)バイオファーメックス・ホールディング・エス・アー (1)
【Fターム(参考)】