生体活性材料をカプセル化したナノスフェアおよびナノスフェアの製剤化のための方法
生体活性材料を含有するマイクロスフェアを形成するための方法であって、第1の容器中でアルブミンまたはβ−シクロデキストリンなどのポリマーマトリックスを水性媒体に溶解させること;溶解したポリマーマトリックスをグルタルアルデヒドなどの架橋剤と接触させて、ポリマーマトリックスと架橋剤を架橋させること;架橋が実質的に完了した後に残存する全ての余分な架橋剤を硫酸水素ナトリウムで中和すること;第2の容器中で生体活性材料を水溶液に可溶化すること;可溶化した生体活性材料を溶液状態の中和し架橋したポリマーマトリックスと一緒に混合して、混合物を形成すること;および混合物を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成することを含み、生体材料の実質的な生体活性が細胞への取込み時に保持される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照。本出願は、2008年9月29日に、生体活性材料をカプセル化したナノスフェアおよびナノスフェアの製剤化のためのワンステップ法(NANOSPHERES ENCAPSULATING BIOACTIVE MATERIAL AND ONE STEP METHOD FOR FORMULATOIN OF NANOSPHERES)というタイトルで出願され、かつ本出願の出願人に共通に譲渡された同時係属の米国仮特許出願第61/100,886号の利益を主張するものであり、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、カプセル薬送達系に関する。本開示はさらに、生体活性組成物をカプセル化し、細胞への取込み後に実質的な生体活性を保持するナノメートルサイズ範囲の粒子を生成するために抗原性のない生体分解性材料を用いてカプセル薬を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
標的とされる部位や特定の罹患部位への薬物の送達は、患者における副作用の軽減を助け、それにより毒性を防ぐことができる。標的とされない部分への薬物の曝露は悪影響を及ぼすことがある。ナノスフェア(「NS」)製剤中の薬物を用いることにより、罹患していない器官や組織への薬物の曝露を防ぐかまたは実質的に減らすことができる。本開示の目的のために、ナノスフェアサイズの粒子は、約50〜約999ナノメートルの範囲の一般的な平均サイズを有する粒子を意味する。ナノスフェアは、制御された形で薬物を放出し、それによって、薬物を頻繁に投与する必要性を最小限に抑えることもできる。これらのナノスフェアは、カプセル薬がナノサイズであるために、細胞にトランスフェクトするのに効果的に使用することができる。これらのナノスフェアは、そのサイズが小さく、効果的な腸溶性コーティングのおかげで胃の厳しい酸性環境下で分解されることなく、腸のパイエル板にワクチン材料をターゲッティングし、送達することができる。また、そのサイズが小さいために、ナノスフェアは、かなり容易に腫瘍に浸透することができる。
【0004】
生体活性材料のいくつかの例としては、タンパク質、ペプチド、抗体、酵素、化学的実体、薬物が挙げられるが、これらに限定されない。免疫抑制剤(例えば、FK−506)や抗炎症薬(例えば、デキサメタゾンやプレドニソロンなどのステロイド)などの、他の薬物は、移植ドナーの状況にある移植臓器の生存率を変化させるのに有用であることが示される可能性がある。噴霧乾燥により調製されるアルブミンナノスフェアは、オリゴヌクレオチドを送達するための、見込みのある薬物送達方法となり得る。本開示の目的のために、「薬物」は、本明細書に記載の生体活性材料のいずれをも含むと看做される。
【発明の概要】
【0005】
本開示には、本発明のいくつかの例示的な実施形態が記載されている。本開示の一態様は、生体活性材料を含有するマイクロスフェアを形成するための方法であって、第1の容器中で、アルブミンまたはβ−シクロデキストリンなどの、ポリマーマトリックスを水性媒体に溶解させること;溶解したポリマーマトリックスを、グルタルアルデヒドなどの、架橋剤と接触させて、ポリマーマトリックスと架橋剤を架橋すること;架橋が実質的に完了した後、全ての余分な架橋剤を硫酸水素ナトリウムで中和すること;第2の容器中で、生体活性材料を、限定されるものではないが、水、生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水などの、水溶液に可溶化すること;可溶化した生体活性材料を、溶液状態の中和し架橋したポリマーマトリックスと一緒に混合して、混合物を形成すること;ならびに混合物を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成することを含み、生体材料の実質的な生体活性が細胞への取込み時に保持される、方法を提供する。
【0006】
本開示の別の態様は、生体活性材料を含有するマイクロスフェアを形成するための方法であって、第1の容器中でポリマーマトリックスを水性媒体に溶解させること;第2の容器中で生体活性材料を緩衝水溶液に可溶化すること;腸溶性コーティング材料を水性媒体に可溶化すること;可溶化した生体活性材料と可溶化した腸溶性コーティング材料を混合して、溶液を形成すること;および混合物を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成することを含み、生体材料の実質的な生体活性が細胞への取込み時に保持される、方法を提供する。
【0007】
本開示の別の態様は、マクロファージなどの食細胞における生体活性材料の細胞内濃度を高める方法であって、本明細書に開示された方法によって生成されるナノスフェアを準備すること;および導入後に生体活性材料がナノスフェアから放出され、ナノスフェア中の生体活性材料の実質的な生体活性が保持され、生体材料の細胞内濃度が増加するように、ナノスフェアを食細胞に導入することを含む、方法を提供する。
【0008】
本開示の別の態様は、生体活性材料を細胞に送達する方法であって、本明細書に記載の方法によって生成される生体活性材料のナノスフェアを準備すること;ナノスフェアと担体とを混合すること;細胞がナノスフェアを貪食し、生体活性材料が、生体材料の実質的な生体活性が保持されるように細胞内でマイクロスフェアから放出されるように混合物を患者に導入することを含む、方法を提供する。
【0009】
本開示の別の態様は、投与後に免疫を誘導するためのアジュバントを含まないワクチン製剤を送達する方法であって、本明細書に記載の方法によって生成されるワクチン製剤のナノスフェアを準備すること;および細胞がナノスフェアを貪食し、生体活性材料が、ワクチン製剤の実質的な生体活性が保持されるように細胞内でマイクロスフェアから放出されるようにナノスフェアを患者に導入することを含む、方法を提供する。
【0010】
本開示の別の態様は、本明細書に記載の方法によって生成される生体活性材料(単数または複数)を含有する新規のナノスフェアを提供し、この生体活性材料(単数または複数)は、細胞への取込み後に実質的な生体活性を保持する。
【0011】
本開示は、ナノメートル規模のサイズであるがゆえに、非経口投与の適用規模がより大きく、様々な疾患状態および疾患臓器(例えば、腫瘍など)へのより効果的なターゲッティングが可能な、カプセル薬を調製する方法を提供する。
【0012】
本開示はまた、カプセル薬送達系に関する。特に、本開示は、a)体内の薬物レベルを長期間にわたって治療的レベルに持続するように制御された形で薬物を放出することができ;b)アジュバントを使用せずにワクチンを送達する効果的な方法として使用することができ;c)マクロファージなどの食細胞、内皮細胞、クッパー細胞、樹状細胞などをターゲッティングするために使用することができ;d)タンパク質(例えば、インスリンおよびヘパリン)などの生体活性薬物を送達するために使用することができ;かつe)生体分解性コーティングを消化して、無傷の薬物または活性成分を細胞内または疾患部位のいずれかに放出する、罹患臓器(例えば、肝臓、腎臓、肺、心臓、脾臓)または罹患部位(例えば、腫瘍、関節炎の関節)をターゲッティングするために使用することができるカプセル化組成物に対して抗原性のない生体分解性材料を用いるプロセスでカプセル薬を調製する方法に関する。これらの組成物は、疾患の治療および予防に有用である。
【0013】
本開示によるナノスフェアを生成する方法は連続的なプロセスである。本方法は、製造プロセスの間維持することができる実質的に完全な無菌状態を提供する。生体分子を変性させる傾向のある有機溶媒は含まれない。バースト放出はごくわずかであり、ナノスフェアは、ゼータ電位値に基づく優れた懸濁安定性を有する。本方法は、生体活性薬物の構造を変化させない。本方法は、実験室規模の生産から大規模な工業生産への簡単な拡大に適している。
【0014】
本開示の一態様は、スプレードライヤーの使用を伴う方法を用いて、アルブミンやβ−シクロデキストリンナノスフェアに含まれる水溶性化合物をカプセル化するための方法を提供する。
【0015】
本開示に従って形成されるナノスフェアは、制御された薬物送達系としての役割を果たすことができる。
【0016】
本開示のナノスフェア送達系は、NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの一本鎖DNAを細胞にトランスフェクトする効果的な方法としての役割を果たすことができる。
【0017】
本開示のナノスフェア送達系は、腸にターゲッティングされるワクチンを胃の厳しい酸性環境下でワクチンを変性させることなく経口投与経路で送達する効果的な方法としての役割を果たすことができる。
【0018】
本開示のナノスフェア送達系は、黒色腫などの腫瘍に薬物をターゲッティングする効果的な方法としての役割を果たすことができる。
【0019】
本開示のナノスフェア送達系は、腫瘍を同定するための効果的な診断ツールとしての役割を果たすことができる。
【0020】
本開示のナノスフェア送達系は、炎症促進性サイトカインの大部分を産生するマクロファージ/単球などの食細胞をターゲッティングすることができる。この技術は、サイトカインを阻害する化合物、例えば、NF−kBに対するアンチセンスオリゴマー、デキサメタゾン、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、CNI−1493の効力を改善することが示されている。
【0021】
本開示のナノスフェア送達系は、カプセル化形態のゲンタマイシンやバンコマイシンなどの抗生物質を感染臓器や感染細胞に送達することができる。
【0022】
本開示のナノスフェア送達系は、AIDSなどの疾患状態の細胞内に抗HIVウイルス薬を送達することができる。
【0023】
本開示のナノスフェア送達系は、カプセル化形態のカタラーゼやスーパーオキシドジスムターゼなどの薬物を敗血性ショックなどの疾患状態に送達することができる。
【0024】
本開示のナノスフェア送達系は、抗真菌薬のアムホテリシンBを含有するステルスナノスフェアの製剤化と評価の一部であることができる。
【0025】
本開示のナノスフェア送達系は、糖タンパク質薬のナノスフェアである、経口投与ヘパリンを送達することができる。
【0026】
本開示のナノスフェア送達系は、経口投与後、糖尿病状態にインスリンを送達することができる。
【0027】
本開示における「1つの」生体活性材料に対する言及は、1つまたはいくつかの生体活性材料を含むことが意図されることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明の態様を以下の図面で説明する:
【図1】関節炎ラットモデルでの、15日目のラット後肢腫脹に対するカプセル化アンチセンスNF−κBオリゴマーと可溶性アンチセンスNF−κBオリゴマーの効果のグラフである。
【図2】アルブミンナノスフェアの腎取込みを示す4枚1組の顕微鏡写真である。
【図3】エクスビボ腎移植モデルでの研究群間のTNF−αレベルのグラフである。
【図4】エクスビボ腎移植モデルでの研究群間のIL−1βレベルのグラフである。
【図5】エクスビボ腎移植モデルでの研究群間の一酸化窒素(NO)レベルのグラフである。
【図6】インビボ(ラット)敗血性ショックモデルでのIL−1β放出に対するカタラーゼ製剤の効果のグラフである。
【図7】カプセル化されていないヒト結核菌(Mtb)全細胞ライセートおよびブランクBSAナノスフェアの生体活性と比較したときのカプセル化されたMtb全細胞ライセートの生体活性のグラフである。
【図8】試験ラットおよび対照ラットのMtb抗原特異的血清IgGの光学密度のグラフである。
【図9】試験ラットおよび対照ラットにおける全細胞抗原の経口ワクチン接種後の血清IgAレベルのグラフである。
【図10】試験ラットおよび対照ラットにおける様々な体液中のMtb抗原特異的血清IgAの光学密度のグラフである。
【図11】ブランクナノ粒子群、経口ワクチンナノ粒子群および経口ワクチン溶液群における血清IgG応答のグラフである。
【図12】ナノスフェアおよび溶液を投与した後のマクロファージにおけるアンチセンスNF−κBオリゴヌクレオチドの細胞内濃度のグラフである。
【図13】ナノスフェア製剤および溶液製剤でのヒト微小血管内皮細胞内へのNF−κBアンチセンスオリゴヌクレオチドの取込みのグラフである。
【図14】黄色ブドウ球菌感染ラットの予防的バンコマイシン処置後の細菌カウントのグラフである。
【図15】黄色ブドウ球菌感染ラットの同時バンコマイシン処置後の細菌カウントのグラフである。
【図16】黄色ブドウ球菌感染ラットの遅延型バンコマイシン処置後の細菌カウントのグラフである。
【図17】製剤F−1(ポリエチレングリコールなし)およびF−2(ポリエチレングリコールあり)のヒト微小血管内皮細胞(HMEC)への比較取込みのグラフである。
【図18】マクロファージ細胞株(RAW細胞)による製剤F−1(ポリエチレングリコールなし)およびF−2(ポリエチレングリコールあり)の比較取込みのグラフである。
【図19】ナノスフェア製剤を24時間かけて単回経口投与した後の低分子量ヘパリン(LMWH)の血漿抗第Xa因子活性レベルのグラフである。
【図20】ラットにおける静脈内(IV)、皮下(SC)および経口(MS.3)経路後のLMWH溶液の薬物動態プロファイルのグラフである。
【図21】血糖値に対するナノスフェア製剤中のインスリンの経口投与の効果のグラフである。
【図22】ウサギの眼の瞳孔対角膜の長さ比に対する標準アトロピン1%溶液および低力価の硫酸アトロピンカプセル化ナノスフェア(0.66%)の効果の比較のグラフである。
【図23】ブランクナノ粒子の顕微鏡写真(SEM)である。
【図24】不活化ウイルスワクチンの経口ワクチン接種が防御免疫を誘導する結果のグラフである。
【図25】ターゲッティングレクチンの存在下でのNSのCaco2およびM細胞への取込みを示すグラフである。
【図26】腸のパイエル板の微絨毛におけるナノスフェア(緑色の点)分布の顕微鏡写真である。
【図27】黒色腫経口ワクチンの効力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示は、以下のものを提供する:
1)ナノスフェアを調製する方法。
2)薬物を身体に送達する方法。
3)制御され、持続される薬物送達系。
4)腫瘍を同定するための効果的な診断ツールを調製する方法。
5)従来のアジュバントを用いずに、ワクチンを経口投与した後に免疫を誘導するために使用することができる効果的なワクチン製剤を調製し、送達する方法、ならびに
6)従来のアジュバントを使用せずに、ワクチンを吸入および全身投与した後に免疫を誘導するために使用することができる効果的なワクチン製剤を調製し、送達する方法。
【0030】
本開示の一態様では、ナノスフェアを、ミニスプレードライヤーを用いるプロセスを用いて、生体活性材料を目に見えるほどは変性させることなく調製することができる。本開示の一態様では、ポリマーマトリックスをグルタルアルデヒドで事前架橋し、次いで、余分なグルタルアルデヒドを亜硫酸水素ナトリウムで中和し、次いで、事前架橋および中和したマトリックスに生体活性材料を添加する。この後、生体活性マトリックスを含有する架橋したポリマーマトリックスを噴霧乾燥する。ナノスフェアを得るために、限定されるものではないが、入口温度、ポンプフロー、吸引速度および空気圧などの、スプレードライヤーについての様々なパラメータを最適化した。アルブミンをマトリックスとして使用してもよい。グルタルアルデヒドを架橋剤として使用した。グルタルアルデヒド濃度の平均粒径に対する影響を、グルタルアルデヒドの濃度を変化させることにより検討した。アルブミンマトリックスの事前架橋時間、亜硫酸水素ナトリウムによる余分なグルタルアルデヒドの中和の時間、架橋時間および生体活性や平均粒径に影響を及ぼす他の要因を全て検討した。
【0031】
本開示は、生体活性材料を事前架橋および中和したポリマーマトリックスにカプセル化することによってナノスフェアを生成する方法を提供する。
【0032】
本開示の別の態様では、薬物をカプセル化するためのポリマーマトリックスとして(アルブミンの代わりに)β−シクロデキストリンを用いて、ナノスフェアを調製した。
【0033】
本明細書に記載の方法の1つの利点は、費用対効果ベースで工業規模の大規模な無菌製造プロセスに拡大することができるということである。本プロセスを用いれば、薬物が溶液製剤から最終的なナノスフェア形態に直接変換されるので、粒子の形成後に粒子から溶媒を除去するための分離工程が必要なくなる。本発明を用いれば、粒子は乾燥粉末形態に直接変換される。乾燥粉末形態に変換されるので、薬物は非常に安定であり、したがって、薬物の溶液製剤と比較したとき、保存期間がより長いと考えられる。本プロセスを用いれば、水性相を除去するための追加のフリーズドライ工程が必要なくなり、より上質な生成物が得られる。
【0034】
別の利点は、アルブミンポリマーマトリックスの架橋の程度を制御することによって、薬物の放出を非常に効果的に制御および設計することができるという事実である。アルブミンポリマーマトリックスの架橋が多ければ多いほど、ポリマーマトリックスからの薬物の放出は遅くなる。
【0035】
本発明のナノメートルサイズのカプセル化材料の粒径が小さいために、細胞内へのより効果的な取込み、ひいては身体の特定の臓器や疾患部位へのより効果的な全体としてのターゲッティングが可能になる。
【0036】
本発明の態様を、説明のためにのみ示される以下の実施例に関連してさらに説明する。そのような実施例に見られる部分およびパーセンテージは、特に規定されない限り、重量によるものである。
【0037】
実施例1:関節炎でのヌクレオチド化合物、すなわち、NF−kBに対するアンチセンスヌクレオチドのナノスフェアの評価
【0038】
目的
【0039】
本研究の目的は、NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有するナノスフェアが、ラットのアジュバント多発性関節炎で関節炎を改善させるかどうかを明らかにすることであった。
【0040】
方法
【0041】
NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有するナノスフェアを製剤化するための1つの例示的な方法は、以下の工程を含む:
【0042】
a)アルブミンを水に溶解させる;
【0043】
b)溶解したアルブミンをグルタルアルデヒドで4〜24時間事前架橋する;
【0044】
c)架橋が完了した後で余分なグルタルアルデヒドを亜硫酸水素ナトリウムで中和する;
【0045】
d)別の容器中でNF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(オリゴマー)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に可溶化する;
【0046】
e)可溶化したNF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(オリゴマー)を、溶液状態の中和し架橋したアルブミンと一緒に混合する;および
【0047】
f)事前架橋したアルブミンとNF−kBに対するアンチセンスヌクレオチドとを含有する溶液を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成する。スプレードライヤーの設定は、以下の通りである。ポンプ2%、アスピレーター50%、入口温度110℃、エアフロー600psi。
【0048】
生成物を回収し、密封容器中に保存した。平均粒径およびゼータ電位(図1に示す)を、マルバーンゼータサイザーを用いて測定した。
【0049】
【表1】
【0050】
1マイクロメーター未満の所望のサイズ範囲のナノスフェアを、噴霧乾燥の条件を最適化することにより調製した。
【0051】
動物研究:
【0052】
雄のスプラーグ・ドーリーラットの右後肢の足底部に、軽油に懸濁した熱殺菌M.ブチリカム(フロイントの完全アジュバント)を注射した。対測肢に、対照として鉱油のみを注射した。ラットを2つの群に分けた。
【0053】
複数回用量研究:
【0054】
a)ナノスフェア製剤中のアンチセンス(15mg/kgおよび30mg/kg)
【0055】
b)従来の溶液製剤中のアンチセンス(15mg/kgおよび30mg/kg)
【0056】
複数回用量群については、アジュバント注射後4、5、6、8、10、12、14日目に、用量(10mg/kg)を腹腔内投与した。
【0057】
左右の後肢をプレチスモグラフィーにより水銀置換法で測定した。
【0058】
結果
【0059】
図1は、15日目に得られた注射された後肢と注射されていない後肢の両方についての肢容積測定値を示す。図に示すように、従来の溶液製剤の同等の用量と比較したとき、15および30mg/kg用量について陽性対照と比較して右(注射された)肢の容積に有意差が見られた(p<0.05)。同等の溶液群と比較したとき、両方のナノスフェア投与群について、左(注射されていない)肢の容積にも有意差が見られた(p<0.05)。これは、この関節炎ラットモデルで試験したときにより良好な効力を示すカプセル化製剤の有効性を明確に示している。
【0060】
実施例2:腎移植モデルでの腎臓の生存に関するヌクレオチド化合物、すなわち、NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドナノスフェアの評価
【0061】
目的
【0062】
本研究の目的は、NF−kBに対するアンチセンスオリゴマーのナノスフェアが、腎移植モデルでの腎臓の生存に何らかの効果を有するかどうかを明らかにすることであった。
【0063】
序論
【0064】
腎臓などの臓器への血流の遮断は、臓器の機能に深刻な影響を及ぼす虚血性変化をもたらす。虚血性の血流減少の結果である急性腎不全がインビボでの腎臓の機能に影響を及ぼすのに対し、腎臓の移植提供は、レシピエントにおけるこの臓器のその後の機能に影響を及ぼす。核因子κβ(NF−kB)は、臓器移植の急性拒絶の発症に高度に関与する一連のサイトカインおよび接着分子の遺伝子の協調的なトランス活性化において極めて重要な役割を果たす。NF−kB活性の増加は、腎虚血/再灌流傷害で示されている。同様に、虚血/再灌流傷害時の酸化ストレスの増加も、NF−kB活性化の増加を引き起こし得る。移植に伴う温虚血傷害または冷虚血傷害の初期事象は、初期の移植片機能と後期の変化の両方に影響を及ぼし得る。したがって、本発明者らは、ドナーの腎臓中にNF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてNF−kB活性化を阻害することにより、急性拒絶が抑えられ、移植片の生存が延長し、それにより、急性腎拒絶の効果的な治療法が提供されるという仮説を立てた。
【0065】
NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有するナノスフェアを、上記実施例1に記載の方法により調製した。
【0066】
NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドのナノスフェアの腎取込みの評価
【0067】
まずラットを安楽死させ、腎動脈と腎静脈にカニューレを挿入した。腎臓にヘパリン化生理食塩水およびウィスコンシン大学(UW)臓器保存溶液を灌流させた。生理食塩水に懸濁したアルブミンナノスフェア(3mg/ml)を腎動脈に注射した。腎臓を37℃で2時間置き、その後、24時間まで4℃で保存した。腎臓の組織学切片を採取し、蛍光顕微鏡を用いて画像を取得した。
【0068】
NF−kB活性の阻害の評価
【0069】
表2は腎移植モデルでのNF−κB活性の阻害のエクスビボ評価のための研究デザインを示す。腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−1β(IL−1β)および一酸化窒素(NO)をNF−κB活性のマーカーとして用いた。文献に報告されている方法の通りに、腎臓にカニューレを挿入した。リポ多糖(LPS)刺激を伴う研究群については、カニューレ挿入後、腎臓にまずLPS(1μg/ml)1mlを注射した。NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドが充填されたアルブミンナノスフェアを腎臓に注射した。腎臓にUW臓器保存溶液を灌流させることにより、試料を2、4、8および24時間で採取した。灌流液由来のTNF−αおよびIL−1βをELISAで測定すると同時に、一酸化窒素をグリース反応に基づく分光光度アッセイで測定した。
【0070】
【表2】
【0071】
結果:
【0072】
図2は、アルブミンナノスフェアの腎取込みを示す。
【0073】
図3は、エクスビボ腎移植モデルでの研究群間のTNF−αレベルを示す。ラットにヘパリンナトリウム(200U/Kg)を腹腔内(IP)注射した。注射の30分後に、ラットを安楽死させ、腎動脈と腎静脈にすぐにカニューレを挿入した。カニューレを挿入した腎臓に、生理食塩水(0.5ml)、溶液形態およびナノスフェア形態のアンチセンスNF−κB(15mg/Kg)、ならびにブランクナノスフェアを注射した。腎臓を37℃で2時間置き、その後、24時間まで4℃で保存した。摘出した腎臓に2、4、8および24時間でUW臓器保存溶液を灌流させ、灌流液を回収した。TNF−αレベルをELISAで測定した。(平均+S.E.、全ての実験についてn=6)。
【0074】
図4は、エクスビボ腎移植モデルでの研究群間のIL−1βレベルを示す。ラットにヘパリンナトリウム(200U/Kg)をIP注射した。注射の30分後に、ラットを安楽死させ、腎動脈と腎静脈にすぐにカニューレを挿入した。カニューレを挿入した腎臓に、生理食塩水(0.5ml)、溶液形態およびナノスフェア形態のアンチセンスNF−κB(15mg/Kg)、ならびにブランクナノスフェアを注射した。腎臓を37℃で2時間置き、その後、24時間まで4℃で保存した。摘出した腎臓に2、4、8および24時間でUW臓器保存溶液を灌流させ、灌流液を回収した。IL−1βレベルをELISAで測定した。(平均+S.E.、全ての実験についてn=6)。
【0075】
図5は、エクスビボ腎移植モデルでの研究群間の一酸化窒素(NO)レベルを示す。ラットにヘパリンナトリウム(200U/Kg)をIP注射した。注射の30分後に、ラットを安楽死させ、腎動脈と腎静脈にすぐにカニューレを挿入した。カニューレを挿入した腎臓に、生理食塩水(0.5ml)、溶液形態およびナノスフェア形態のアンチセンスNF−κB(15mg/Kg)、ならびにブランクナノスフェアを注射した。腎臓を37℃で2時間置き、その後、24時間まで4℃で保存した。摘出した腎臓に2、4、8および24時間でUW臓器保存溶液を灌流させ、灌流液を回収した。NOレベルをグリース反応に基づく分光光度アッセイで測定した。
【0076】
結論:
【0077】
図2に見られるように、アルブミンナノスフェアが腎細胞に取り込まれたのは明白であり、したがって、微粒子送達ビヒクルを用いて虚血性臓器に薬物を送達することができることを示している。NF−κB活性の阻害を評価するために、LPSに似た既知のサイトカイン産生刺激因子を腎臓に注射した。図3、4、5は、LPS刺激後の研究群におけるそれぞれ2、4、8および24時間でのTNF−α、IL−1βおよびNOのレベルを示す。本発明のナノスフェア製剤中のアンチセンスNF−κBが、溶液形態のアンチセンスNF−κBと比較して、NF−κBの活性化を有意に阻害し、それによりサイトカインの産生を阻害することができるということがデータから明らかに明白である。NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有するナノスフェアは、溶液形態のアンチセンスNF−kBと比較して、NF−κBの活性化を有意に阻害した。
【0078】
免疫抑制薬(例えば、FK−506)、および抗サイトカイン薬(例えば、デキサメタゾン)などの他の薬物は、移植ドナー状況で細胞の生存率を変化させるときに有用であることが示される可能性がある。噴霧乾燥により調製されたアルブミンナノスフェアは、オリゴヌクレオチドを送達するための見込みある薬物送達方法となり得る。
【0079】
実施例3:敗血性ショックモデルにおける生体活性タンパク質、すなわち、カタラーゼを含有するナノスフェアの製剤化
【0080】
序論:
【0081】
敗血性ショックは、病原体感染に対する宿主自然免疫応答または虚血によって開始される細胞事象のカスケードの最終段階である。これらの細胞事象は、主に、内皮細胞と白血球で起こる。これにより、炎症促進性サイトカインの放出が増加する。腫瘍壊死因子α(TNF−α)は、炎症時のアポトーシス性細胞死と細胞増殖とを引き起こす。インターロイキン1β(IL−1β)は、B細胞成熟、炎症および増殖を刺激する。インターロイキン6(IL−6)は、抗菌活性と筋活動を刺激する。スーパーオキシドアニオン(O2)、一酸化窒素(NO)および過酸化水素(H2O2)などの、反応性酸化種(ROS)は、高濃度で細菌や内皮に細胞毒性がある。ROSはまた、核因子κB(NF−kB)を刺激して、炎症促進性遺伝子発現を誘導する。一酸化窒素または内皮由来弛緩因子も、平滑筋弛緩を引き起こす。
【0082】
結果として生じる全身性炎症応答症候群(SIRS)、難治性低血圧および多臓器不全は全て、敗血性ショックの非定型のものである。主に白血球ペリオキシソームで産生される内在性酸化防止物質であるカタラーゼは、NF−kB活性化の増強を含むROSの毒性を軽減するが、敗血性ショックでは押さえ込まれる。
【0083】
カタラーゼの治療的使用の可能性は、その短い静脈内半減期と低い細胞内取込みによって限定されている。カプセル化カタラーゼ製剤(ナノスフェア)は、インビトロでカタラーゼ溶液に優る内皮細胞やマクロファージへの細胞内取込みの増強を示している。血管内皮組織やマクロファージに対する潜在的なカタラーゼ治療は、過剰なROSの毒性や炎症促進性サイトカイン産生を防御し得る。
【0084】
方法:
【0085】
カタラーゼナノスフェアを以下の方法により製剤化した。
【0086】
a.アルブミンを水に溶解させる;
【0087】
b.溶解したアルブミンをグルタルアルデヒドで4〜24時間事前架橋する;
【0088】
c.架橋が完了した後で余分なグルタルアルデヒドを亜硫酸水素ナトリウムで中和する;
【0089】
d.別の容器中でカタラーゼをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(または水もしくは生理食塩水などの他の水性溶媒)に可溶化する;
【0090】
e.可溶化したカタラーゼを、溶液状態の中和し架橋したアルブミンと一緒に混合する;および
【0091】
f.事前架橋したアルブミンとカタラーゼとを含有する溶液を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成する。スプレードライヤーの設定は、以下の通りである。ポンプ2%、アスピレーター50%、入口温度110℃、エアフロー600psi。
【0092】
生成物を回収し、密封容器中に保存した。平均粒径およびゼータ電位を、マルバーンゼータサイザーを用いて測定した。
【0093】
動物研究:
【0094】
大腸菌感染敗血症動物モデル(ラット)で炎症促進性サイトカイン放出に対するカタラーゼ製剤の効果を評価した。3つ全ての群の腹腔内に、カタラーゼ製剤:15mg/kg、次いで、大腸菌LPS 1μg/ml/kgを4時間前処置した。この3つの群は、(1)陽性対照(LPSのみ);(2)カタラーゼ溶液;および(3)カタラーゼナノスフェアであった。24時間で血液試料を採取し、血清をIL−1βについてELISAでアッセイした。
【0095】
結果:
【0096】
溶液製剤と比較したとき、カプセル化製剤は優れた特性を示した。
【0097】
図6は、インビボ(ラット)敗血性ショックモデルでのIL−1β放出に対するカタラーゼ製剤の効果を示す。
【0098】
結論
【0099】
カタラーゼナノスフェアは、インビボ動物モデルでIL−1β放出を阻害した。アルブミンナノスフェアは、敗血性ショックの治療における潜在的治療薬としての内在性抗酸化物質カタラーゼのための潜在的に効果的な送達ビヒクルを提供した。
【0100】
実施例4:ワクチン送達系の例:経口ワクチン:TB抗原に対するナノスフェアを用いたヒト結核菌(TB)に対する粘膜免疫の誘導
【0101】
目的:本実施例で、本発明者らは、経口TBワクチンの製剤化と試験を報告する。
【0102】
序論
【0103】
何十年もの努力と巨額の出費にもかかわらず、結核(TB)は、世界の最も悲惨な疾患の1つであり続けている。また、BCG(カルメット−ゲラン菌)を含むほとんどのワクチンは全身投与され、そのため、強い全身免疫応答を発生させるが、通常、それらは、弱い粘膜免疫しか刺激せず、感染の樹立を効果的に予防することができない。最近、経口経路による抗原の粘膜適用が全身性応答と粘膜応答の両方を誘導することができることが多くの研究者らにより伝えられている。TBに対するワクチンの経口投与にはいくつかの利点があり、それには、投与の容易さ、費用の安さ、および針刺しの回避とそれに伴う病気を移すリスクの低下が含まれる。さらに、経口免疫は、より効果的に粘膜免疫応答を標的とする。モルモットやマウスをM.ボビスBCGで経口免疫すると、脾臓やリンパ節の細胞集団における免疫応答および精製タンパク質誘導体(PPD)特異的な遅延型の過敏症と抗体応答が誘導されることが示されている。高用量のM.ボビスBCGで経口または胃内に免疫したマウスは、皮下経路から免疫したマウスと同じレベルの防御免疫を示し、ヒト結核菌(Mtb)の静脈内投与に対する防御を誘導した。これらの報告は、粘膜免疫が防御的な全身免疫応答を誘導する効果的な手段であり得ることを示唆している。効率的な抗原提示や微生物特異的Tリンパ球によるIFN−γ産生がMtbに対する防御に必要なので、この発見は、BCGワクチン接種の低い効力をさらに説明し得る。それゆえ、効率的な抗原提示能力を有するより効果的な送達系は、疾患と戦うためのより効果的な方法となる可能性がある。
【0104】
以下は、ヒト結核菌死細胞抗原を経口送達するための生体分解性非毒性ナノスフェアの開発を説明したものである。
【0105】
方法
【0106】
ナノスフェア製剤
【0107】
腸溶性コーティング特性を有するヒト結核菌死細胞抗原を含有するナノスフェアを製剤化するための方法の1つの例示的な実施形態は、以下のプロセスを含む:
【0108】
a)アルブミンを水(またはPBSもしくは生理食塩水などの他の水性溶媒)に溶解させる;
【0109】
b)溶解したアルブミンをグルタルアルデヒドで4〜24時間事前架橋する;
【0110】
c)架橋が完了した後で余分なグルタルアルデヒドを亜硫酸水素ナトリウムで中和する;
【0111】
d)別の容器中でヒト結核菌全細胞抗原(ナノスフェアは50%w/wの抗原を含有していた)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に可溶化する;
【0112】
e)限定されるものではないが、メチルメタクリレートなどの腸溶性コーティングポリマーを水に可溶化する;
【0113】
f)可溶化した抗原と可溶化した腸溶性コーティングポリマーとを、溶液状態の中和し架橋したアルブミンと一緒に混合する;および
【0114】
g)事前架橋したアルブミンと抗原とを含有する溶液を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成する。スプレードライヤーの設定は、以下の通りである。ポンプ2%、アスピレーター50%、入口温度110℃、エアフロー600psi。生成物を回収し、密封容器中に保存した。平均粒径およびゼータ電位を、マルバーンゼータサイザーを用いて測定した。
【0115】
使用可能な他のポリマーとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、オイドラギット、それらの組合せおよび混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
表3は、2つの製剤のナノスフェアの生成収率、粒径およびゼータ電位の結果を示す。これらの結果は、生成収率が高かったことを示し、大きな損失を伴わずにこのプロセスを使用することができることを示す。粒径およびゼータ電位は、マクロファージなどの抗原提示細胞による食作用に理想的であることが立証されている範囲内であった。
【0117】
【表3】
【0118】
生体活性研究
【0119】
製剤中の抗原の免疫原性(生体活性)を明らかにするために、Mtb全細胞ライセートをモデル抗原としてナノスフェアの製剤中で使用した。研究は、6匹のラットに対して、ラットへの経口投与のために特別に設計され、メチルメタクリレートで腸溶性コーティングされた、小型カプセル中のカプセル化抗原を経口投与することによって行なわれた。メチルメタクリレートは、pH5.5よりも上で可溶化し、十二指腸での標的薬物送達に有用なpH依存的アニオン性ポリマーである。カプセル1個当たりに充填されたナノスフェアの平均重量は15mgであり、カプセル1個当たりの細胞数は6.525×109個であることが分かった。抗原のブースターは、初回投与後1週目、10週目および12週目に投与した。対照ラットにはブランクナノスフェアのカプセルを3個投与した。
【0120】
150μlの500ng/ml ピロカルピン(シグマ)を腹腔内注射して、唾液の流れを誘導した後に、唾液を採取した。糞試料を回収し、重さを量り、0.1%アジ化ナトリウムを含有するPBSに溶解させた。100mgの糞ペレットを1mlのPBSに懸濁した。10分間ボルテックスして懸濁した後、糞試料を遠心分離し、分析のために上清を回収した。鼻腔を50μlのPBSで3回(合計150μl)洗浄することにより鼻分泌物を回収した。血液試料は尾部採血により回収し、遠心分離後、血清を得た。
【0121】
血清および糞試料は、初回投与の当日、1週目、3週目、7週目および18週目に回収した。唾液および鼻洗浄液は18週目に回収した。酵素連結免疫吸着アッセイを用いて、血清中の抗原特異的IgGと回収した全ての試料中のIgAをプロービングした。
【0122】
図7は、Mtb全細胞ライセート特異的抗体でプロービングしたときの非カプセル化Mtb全細胞ライセート対照、カプセル化Mtb全細胞ライセートおよびBSAブランク対照の光学密度を示す。MtbライセートとMtbナノスフェアは両方とも、ブランクナノスフェアの吸光度とは有意に(p<0.05)異なる吸光度を示した。全細胞ライセート陽性対照の光学密度とカプセル化Mtb全細胞ナノスフェアの光学密度の間には有意差がなかった。Mtb全細胞ライセートとカプセル化Mtb全細胞ライセートナノスフェアは両方ともブランクナノスフェアの吸光度と有意に(p<0.05)異なる吸光度を示した。
【0123】
図7〜10は、試験動物および対照動物における血清および選択された粘膜表面由来の試料中での抗体産生を示す。
【0124】
図7は、抗Mtb全細胞ライセート抗体でプロービングしたときの、非カプセル化Mtb全細胞ライセートおよびブランクBSAナノスフェアの生体活性と比較したカプセル化ヒト結核菌(Mtb)全細胞ライセートの生体活性を示す。
【0125】
血清IgG:図8は、初回免疫後第7週までのおよびナノスフェアのブースター投与5週後の抗原特異的IgGの光学密度を示す。ブースター後2週までは、試験動物と対照の間に有意差は見られなかった。それ以降、抗原特異的IgGレベルは、第7週まで試験動物で有意により高い状態が続いた。
【0126】
図8は、試験ラットおよび対照ラットにおけるMtb抗原特異的血清IgGの光学密度を示す(対照と比較してp<0.05)。
【0127】
血清IgA:図9は、第18週までの抗原特異的IgAの光学密度を示す。第3週およびブースター後2週までは、試験動物と対照との間に有意差は見られなかった。抗原特異的IgAレベルは、第18週まで試験動物で有意により高い状態が続いた。第18週目の試験動物のIgAレベルは、第3および第7週目のIgAレベルよりも有意に高かった(p<0.05)。これは、第10週および第12週目に投与されるブースターの有意な効果を示す。
【0128】
図9は、試験ラットおよび対照ラットにおける全細胞抗原の経口ワクチン接種後の血清IgAレベルを示す。
【0129】
粘膜表面IgA:図10に示す結果は、全ての粘膜表面でのカプセル化ヒト結核菌全細胞抗原に対する抗体の著しい産生を示す。サンプリングした全ての粘膜表面において、試験動物と対照動物の間に有意差があった(p<0.05)。唾液分泌物と鼻洗浄液の両方において、産生されたMtb全細胞抗原特異的IgAの量は、産生された全IgAの大きな割合を形成した(NS鼻洗浄液およびNS唾液分泌物)。鼻洗浄液中の産生された抗原特異的IgAは、産生された全鼻IgAの37.85%であり、一方、唾液分泌物中の産生された抗原特異的IgAは、全唾液IgAの80.97%を形成した。
【0130】
図10は、試験ラットおよび対照ラットにおける様々な体液中のMtb抗原特異的血清IgAの光学密度を示す(対照と比較してp<0.05)。
【0131】
産生されたIgAの有意差は、対照と比較したときに試験試料の糞試料で見られたが、抗体の全般的なレベルは、他の粘膜表面と比較して非常に低かった。
【0132】
結論
【0133】
ほとんどの医薬品の製剤化プロセスは、ほとんどのタンパク質薬のネイティブ構造や立体構造を変化させるのに十分な様々な物理化学的ストレスを伴う。タンパク質薬、特に抗原の製剤化と送達における大きな課題は、その構造完全性、すなわち、その生体活性を、その作用部位に到達するまで保持することである。抗体の力価は、抗原のブースターで増加したが、これはBCGでは示されていないことである。図7〜10に示すように、試験動物と対照の間のIgAとIgGの力価には有意差が見られた。ゼロ時間および初回抗原投与1週後の抗体力価とブースター投与後の抗体力価の間にも有意差があった。
【0134】
これらの結果は、抗原提示細胞によるその取込みを助けることができる方法で調製された場合にカプセル化死細胞が免疫応答を誘導することができることと、マイクロカプセル化が免疫応答用の抗原を提示する理想的な方法であることとを示している。これらの結果は、噴霧乾燥法によるBSAのマイクロカプセル化が、抗原の生体活性に影響を及ぼさなかったことも示している。経口投与も、全身免疫応答と粘膜免疫応答の両方を誘導することができた。
【0135】
実施例5:ワクチン送達系の例:経口腫瘍ワクチン:経口黒色腫ワクチン抗原に対する粘膜免疫の誘導
【0136】
目的:経口黒色腫ワクチン調製物を製剤化し、試験すること
【0137】
序論
【0138】
免疫応答の誘導は、評価のために無傷の免疫系を必要とする複雑でかつ入り組んだプロセスである。そこで、マウス腫瘍モデルを用いて、ナノカプセル化細胞外抗原(MECA)ワクチン調製物を評価した。ワクチンで使用される抗原は、培養で増殖したB16マウス黒色腫細胞から得られた。B16マウス黒色腫細胞と同系のC57BL/6マウスを用いた。これは、予防的腫瘍ワクチンに相当し、この場合には、抗腫瘍応答を誘導するために、マウスに最初にワクチンを接種した。次に、マウス黒色腫の樹立を拒絶する能力を伴って抗腫瘍応答が誘導されたかどうかを明らかにするために、マウスに黒色腫細胞を投与した。
【0139】
方法
【0140】
黒色腫ワクチン調製物の調製:ナノカプセル化ワクチン調製物を、実施例1に記載の方法により調製した。
【0141】
動物研究
【0142】
免疫および腫瘍防御研究
【0143】
MECA(合計80μgのMECA中に20μgのECAを含有する)およびブランクナノ粒子(NP)を、実施例1に記載の噴霧乾燥プロセスにより調製した。最初の研究で使用された等量のナノ粒子(合計80μgのMECA)中の20μgの細胞外抗原の抗腫瘍効果を評価するために、3つの群の雌C57BL/6マウス、8〜12週齢の皮下にワクチンを接種した。これら3つの群に、それぞれ、合計80μgのカプセル化細胞外抗原(MECA)に含まれる20μgの細胞外抗原(ECA)(PBSで総容量100μl中に懸濁されたもの)、PBS中の細胞外抗原溶液(ECA溶液)およびPBS中のブランクナノ粒子(ブランクNP)をワクチン接種した。合計4回注射するために、マウスに3週間毎週ブーストした。最後のブーストの7日後に、マウスの対側部位に7×105個の生きたB16黒色腫細胞を皮下投与した。その後、マウスを腫瘍の発生について60日間観察し、腫瘍サイズと腫瘍発生率を記録した。
【0144】
結果および考察
【0145】
雌C57BL/6マウスの皮下にMECA(80μgの全MECAに含まれる20μgのECA)、ブランクNPまたはECA溶液をワクチン接種した。最初のワクチン接種の後、マウスに、週1回3週間ブーストした。最後のワクチン接種ブーストの7日後、C57BL/6マウスの遠位部位に7×105個の生きた同系B16黒色腫細胞を接種した。その後、マウスを腫瘍の発生についてモニタリングし、腫瘍発生率を記録した(図11)。
【0146】
本研究のMECA群は、60日で80%に腫瘍がない状態であった。これとは反対に、ブランクマイクロ粒子群では40%に腫瘍がなく、ECA溶液群では0%に腫瘍がなかった。
【0147】
マウスの皮下に、4回の注射で合計PBS100マイクロリットルをワクチン接種した。注射は毎週行なった。最後の注射の7日後に、マウスに7×105個の生きた腫瘍細胞(B16)を投与し、MECA群と対照群:ECA溶液(ECA SOLN)およびブランクナノ粒子(ブランクNP)で、腫瘍発生率をモニタリングした。
【0148】
図11は、ブランクマイクロ粒子、経口ワクチンナノ粒子および経口ワクチン溶液群における血清IgG応答を示す。6週まで、マウスに用量50.0mg/0.5mlナノ粒子を毎週投与した。本研究期間中、毎週採血し、ELISAアッセイを用いてIgG応答を解析した。
【0149】
結論
【0150】
インビボ用量応答研究から、80μgの全MECAに含まれる20μgのワクチン用量のECAが本研究で非常によく作用することが明らかになった。この用量のMECAワクチンは、最大で60日の研究期間の間、C57BL/6マウスの80%に腫瘍がない状態をもたらした。これらの研究は、腫瘍抗原のカプセル化が、プロフェッショナルな抗原提示細胞をターゲッティングすることによって免疫を腫瘍誘導するときにアジュバント効果を有し得ることを示唆する。図11は、ブランクナノスフェア投与と比較したときに、IgGのレベルが、ワクチンの経口投与後に有意に高かったことを示す。
【0151】
B16マウス黒色腫腫瘍は非常に厳しい腫瘍モデルである。このため、これは、ヒト状況での癌のより典型的なものである可能性がある。これらの結果は、ナノ粒子がより大きい抗腫瘍効果を誘導することを実際に示すものである。
【0152】
実施例6:細胞トランスフェクション系:NF−kBに対するアンチセンスオリゴマーを用いた細胞へのDNA材料のトランスフェクション
【0153】
目的:ナノスフェアおよび溶液製剤中のアンチセンスNF−kBを用いてDNAの細胞内レベルを明らかにすることによって細胞の全体的なトランスフェクション効率を明らかにすること
【0154】
序論:ナノスフェアは、細胞への遺伝材料のトランスフェクションのための効果的なツールとして使用することができる。現在の細胞トランスフェクション方法の中には、マイクロポレーションなどの、トランスフェクションプロセスの間に、相当な数の細胞死をもたらすものもある。本発明者らの研究で使用されるナノスフェアは、サイズが1ミクロン未満なので、細胞に容易に取り込まれ、ナノスフェア中の薬物/材料を直接細胞に移すことができる。
【0155】
ナノスフェアの製剤化:NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有するナノスフェアを、実施例1に記載の方法により調製した。
【0156】
以下のように2つの異なる細胞株を用いて2つの研究を行なった:
【0157】
研究a:貪食性のRAWマクロファージ細胞株におけるアンチセンスNF−κBオリゴヌクレオチドのトランスフェクション(ナノスフェア対溶液製剤)
【0158】
目的
【0159】
本研究の目的は、ナノスフェア製剤が、マクロファージなどの食細胞でアンチセンスNF−κBオリゴマーの細胞内濃度を高めることができるかどうかを明らかにすることであった。
【0160】
方法
【0161】
取込み研究
【0162】
RAWマクロファージを24ウェル細胞培養プレートに入れた。細胞をインキュベートし、ウェルに2時間接着させ、次に、リポ多糖(1μg/ml)で1時間処置した。次に、細胞を洗浄し、遊離またはカプセル化形態のフルオレセイン標識アンチセンスNF−κBで処置した。所定の時間間隔(1、4、8、24時間)で、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で5回洗浄し、Triton−X(1%)とともに4℃でインキュベートした。次に、蛍光プレートリーダー(フェニックスリサーチプロダクツから入手可能)を用いて、細胞ライセートをフルオレセインについて解析した。
【0163】
例えば、SDSなどの、Triton−X以外の界面活性剤を使用することができる。ただし、それをどのように上記の文に組み込むのかは分からない。
【0164】
結果
【0165】
以下の図14に示すように、アンチセンスNF−κBは、各時点でカプセル化群により高濃度で見られた。ナノスフェア群では、1時間と4時間または8時間と24時間のアンチセンスNF−κB濃度に有意差はなかった。しかしながら、4時間と8時間の濃度には有意な増加があった。溶液群の中では時間依存的なアンチセンスNF−κB濃度の増加があるように見えたが、有意な増加は認められなかった。
【0166】
図12は、ナノスフェアおよび溶液投与後のマクロファージにおけるアンチセンスNF−κBオリゴヌクレオチドの細胞内濃度を示す。
【0167】
研究b:非食細胞、すなわち、ヒト微小血管内皮細胞(HMEC)におけるアンチセンスNF−κBオリゴヌクレオチドの細胞内レベル(ナノスフェア対溶液製剤)
【0168】
目的
【0169】
本研究の目的は、ナノスフェア製剤が、非食細胞、すなわち、内皮細胞においてアンチセンスNF−κBオリゴマーの細胞内濃度を高めることができるかどうかを明らかにすることであった。
【0170】
方法
【0171】
取込み研究
【0172】
HMECを24ウェル細胞培養プレートに入れ、インキュベートし、ウェルに24時間接着させた。細胞を、遊離またはカプセル化形態の1.875μg/mlのフルオレセイン標識アンチセンスNF−κBで処置した(N=3)。所定の時間間隔(1、4、8、24時間)で、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で5回洗浄し、Triton−X100(1%)とともに4℃でインキュベートした。次に、蛍光プレートリーダー(フェニックスリサーチプロダクツ)を用いて、細胞ライセートをフルオレセインについて解析した。
【0173】
結果
【0174】
以下の図13に示すように、アンチセンスNF−κBは、各時点でカプセル化群により高濃度で見られた(溶液と比較してp<0.05)。マイクロスフェア群の中では、どの時点の間にもアンチセンスNF−κB濃度の有意な増加はなかった。溶液群の中では時間依存的な濃度の増加があるように見えたが、有意差は認められなかった。
【0175】
図13は、ナノスフェアおよび溶液製剤でのヒト微小血管内皮細胞におけるNF−κBアンチセンスオリゴヌクレオチドの取込みを示す。
【0176】
実施例7:敗血性ショックでの抗生物質薬、すなわち、ゲンタマイシンおよびバンコマイシンのナノスフェアの評価
【0177】
目的:敗血性ショックで抗生物質薬ゲンタマイシンおよびバンコマイシンを含有するナノスフェアを評価すること。限定されるものではないが、シプロフロキサシリンなどの他の抗生物質薬も、このようにして使用し得る。
【0178】
序論
【0179】
動物における内毒素症は、活性化マクロファージや多形核細胞からのTNF−αやIL−1βなどの多面的サイトカインの放出に関連している。これらのサイトカインの効果を阻害する実験薬、例えば、モノクローナル中和抗体(TNF−αモノクローナル抗体)、受容体アンタゴニスト(IL−1受容体アンタゴニスト)および受容体融合タンパク質が、敗血性ショックでのその効力について、動物および臨床で評価されている。ゲンタマイシンは、グラム陰性細菌に対して効果的である。他方、バンコマイシンは、ほとんどのグラム陽性細菌に対して殺菌性があり、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)の感受性株によって引き起こされる重篤なまたは重度の感染症の治療に適応する。バンコマイシンは細胞外の細菌に対しては効果があるが、細胞内の細菌に対抗するのは依然として課題となっている。細菌性敗血症の原因病原体のほとんどは内皮細胞の中に逃げ込み、それにより、抗微生物剤の効果をかわす。それゆえ、薬物を細胞内コンパートメントにターゲッティングすることが必要である。これは、ナノスフェアなどの微粒子送達系の使用を利用することにより達成することができる。
【0180】
方法:
【0181】
ゲンタマイシンおよびバンコマイシンナノスフェアの調製。
【0182】
ゲンタマイシンおよびバンコマイシンをカプセル薬として使用することを除き、ゲンタマイシンおよびバンコマイシンのナノスフェア製剤を実施例1に従って作製した。
【0183】
動物研究−ゲンタマイシン
【0184】
体内の大腸菌分布を評価するために、溶液およびナノスフェア形態のゲンタマイシンをラットにおいて試験し、また、2つの製剤を敗血性ショックラットモデルでも評価した。
【0185】
第1群.ゲンタマイシンのカプセル化製剤および溶液製剤の効力の決定[事前処置群]
【0186】
動物に大腸菌(腹腔内;1.1×109cfu/mL)を注射する4時間前に、ナノスフェアおよび溶液ゲンタマイシン製剤(15mg/kgを1日2回、3日間)またはブランクナノスフェア(対照)を様々な動物群に注射した。0、4、24、48、96および120時間での細菌カウントを測定するために、血液試料を採取した。
【0187】
第2群.ゲンタマイシンのカプセル化製剤および溶液製剤の効力の決定[同時処置群]
【0188】
この実験セットでは、大腸菌細菌(1.1×109cfu/mL)を腹腔内投与し、同時にNSおよび溶液ゲンタマイシン製剤(15mg/kgを1日2回、3日間)またはブランクナノスフェア(対照)を様々なラット群に皮下注射した。0、4、24、48、9
6および120時間での細菌カウントを測定するために、血液試料を採取した。
【0189】
第3群.ゲンタマイシンのナノスフェアおよび溶液製剤の効力の決定[遅延処置群]
【0190】
この実験セットでは、大腸菌細菌(1.1×109cfu/mL)を様々なラット群に腹腔内投与し、感染4時間後に、NSおよび溶液ゲンタマイシン製剤(15mg/kgを1日2回、3日間)またはブランクナノスフェア(対照)を注射した。0、4、24、48、96および120時間での細菌カウントを測定するために、血液試料を採取した。
【0191】
結果および考察−ゲンタマイシン動物研究
【0192】
第1群
【0193】
ブランクBSAナノスフェアの投与を伴う対照群が血液中のより多くの菌血カウントを示したのに対し、ゲンタマイシン溶液またはナノスフェアで処置した群は、有意により少ない細菌カウントを示した。溶液処置群は菌血の約75%阻害を示したのに対し、ナノスフェア群は、120時間の最後に血液中の細菌増殖の84%阻害を示した(表4)。生存データ(表5)は、ゲンタマイシン溶液処置群の55%および対照群の35%と比較して、ゲンタマイシンナノスフェア処置群の75%というより高い生存率を示している。
【0194】
【表4】
【0195】
【表5】
【0196】
第2群
【0197】
ブランクBSAナノスフェアの投与を伴う対照群が血液中のより多くの菌血カウントを示しているのに対し、ゲンタマイシン溶液またはナノスフェアで処置した群は、有意により少ない細菌カウントを示している。溶液処置群が菌血の約35%阻害を示したのに対し、ナノスフェア群は、120時間の最後に血液中の細菌増殖の80%阻害を示した(表6)。この処置群では全てのラットが生存した。
【0198】
【表6】
【0199】
第3群
【0200】
ブランクBSAナノスフェアの投与を伴う対照群が血液中のより多くの菌血カウントを示しているのに対し、ゲンタマイシン溶液またはナノスフェアで処置した群は、有意により少ない細菌カウントを示している。溶液処置群が菌血の約15%阻害を示したのに対し、ナノスフェア群は、120時間の最後に血液中の細菌増殖の50%阻害を示した(表7)。この処置群では全てのラットが生存した。
【0201】
【表7】
【0202】
まとめおよび結論
【0203】
これらのインビボでの結果は、ゲンタマイシンナノスフェアが、ゲンタマイシン溶液形態と比較して、血液中の細菌カウントを低下させるのにより効果的であり、ゲンタマイシンナノスフェアが、120分の間で、同時群では溶液形態よりも9%効果的に細菌増殖を阻害し、予防群では溶液形態よりも45%効果的であり、遅延群では溶液形態よりも35%効果的であることを示している。これらの結果は、ゲンタマイシンナノスフェアが、従来的な溶液製剤と比較して、より持続的かつ長時間の作用持続時間を提供すること、したがって、これらのナノスフェアを投薬投与の頻度を減らすために使用し、それにより、薬物と関連する毒性を減少させることができることを示している。
【0204】
バンコマイシン動物研究
【0205】
溶液製剤と比較したバンコマイシンナノスフェアの効力を敗血性ショックラットモデルで明らかにした。
【0206】
3つのシナリオを評価した:
【0207】
第1群.バンコマイシンのカプセル化製剤および溶液製剤の効力の決定[事前処置群]
【0208】
動物に黄色ブドウ球菌(腹腔内;1.0×108cfu/mL)を注射する4時間前に、ナノスフェアおよび溶液バンコマイシン製剤(15mg/kgを1日2回、3日間)またはブランクナノスフェア(対照)を様々な動物群に注射した。0、4、24、48、96および120時間での細菌カウントを測定するために、血液試料(0.5mL)を採取した。
【0209】
第2群.バンコマイシンのカプセル化製剤および溶液製剤の効力の決定[同時処置群]
【0210】
この実験セットでは、黄色ブドウ球菌細菌(1.0×108cfu/mL)を腹腔内投与し、同時にNSおよび溶液ゲンタマイシン製剤(15mg/kgを1日2回、3日間)またはブランクナノスフェア(対照)を様々なラット群に皮下注射した。0、4、24、48、96および120時間での細菌カウントを測定するために、血液試料(0.5mL)を採取した。
【0211】
第3群.バンコマイシンのナノスフェアおよび溶液製剤の効力の決定[遅延処置群]
【0212】
この実験セットでは、黄色ブドウ球菌細菌(1.0×108cfu/mL)を様々なラット群に腹腔内投与し、感染4時間後に、NSおよび溶液ゲンタマイシン製剤(15mg/kgを1日2回、3日間)またはブランクナノスフェア(対照)を注射した。0、4、24、48、96および120時間での細菌カウントを測定するために、血液試料(0.5mL)を採取した。
【0213】
結果および考察−バンコマイシン動物研究
【0214】
第1群
【0215】
ブランクBSAナノスフェアの投与を伴う対照群が血液中のより多くの菌血カウントを示したのに対し、バンコマイシン溶液またはナノスフェアで処置した群は、有意により少ない細菌カウントを示した(図14)。生存データ(表8)は、ゲンタマイシン溶液処置群の40%および対照群の25%と比較して、ゲンタマイシンナノスフェア処置群で80%というより高い生存率を示している。
【0216】
【表8】
【0217】
第2群
【0218】
ブランクBSAナノスフェアの投与を伴う対照群が血液中のより多くの菌血カウントを示しているのに対し、バンコマイシン溶液またはナノスフェアで処置した群は、有意により少ない細菌カウントを示している(図15)。この処置群では全てのラットが生存した。
【0219】
第3群
【0220】
ブランクBSAナノスフェアの投与を伴う対照群が血液中のより多くの菌血カウントを示しているのに対し、ゲンタマイシン溶液またはナノスフェアで処置した群は、有意により少ない細菌カウントを示している(図16)。この処置群では全てのラットが生存した。
【0221】
まとめおよび結論
【0222】
これらのインビボでの結果は、バンコマイシンナノスフェアが、溶液製剤と比較して、血液中の細菌カウントを低下させるのにより効果的であったことを示している。さらに、これらの結果は、これらのナノスフェアが、従来的な溶液製剤と比較して、より持続的かつ長時間の作用持続時間を提供したこと、したがって、これらのナノスフェアを投薬投与の頻度を減らすために使用し、それにより、薬物と関連する毒性を減少させることができることを示している。
【0223】
実施例8:抗真菌薬のアムホテリシンBを含有するステルスナノスフェアの製剤化および評価
【0224】
目的:
【0225】
循環中により長い期間滞留し、かつカプセル薬アムホテリシンの持続放出によって全体的な毒性が標準的な溶液製剤よりも低くなるような、ステルス様特性を有するナノスフェアを生成するために、ポリエチレングリコール(PEG)を有する架橋アルブミンナノスフェアの製剤F−2およびポリエチレングリコール(PEG)を有さない架橋アルブミンナノスフェアの製剤F−1を製剤化し、特徴付けること。限定されるものではないが、ケトコナゾールなどの他の抗真菌薬や、他の水溶性抗真菌薬も、このようにして使用し得る。
【0226】
序論:
【0227】
本研究で、本発明者らは、ナノスフェアにステルス特性を与えるために、架橋前にポリエチレングリコールをBSAマトリクスに取り込ませることを利用している。ナノスフェアにステルス特性を与えることによって、これらのナノスフェアは、循環中により長い期間滞留し、それにより、これらが血管の内側にある内皮細胞に取り込まれる機会をより多く与えるか、またはより高い血中薬物濃度を生じさせることができる。様々な研究により、リポソームや薬物分子中でPEGのステルス特性が利用されている。これは、分子にPEGを共有結合させることにより達成され、これによって修飾薬物分子が生じる。これらの薬物分子は、この部分のサイズが大きいために、細胞膜を横断するのが難しい。PEGが(インビボで)PEG−薬物分子連結から加水分解された後、遊離のPEGは、主に腎臓によって速やかに体外に排出される。
【0228】
本発明者らが知る限り、一般に認められる、BSAナノスフェアに対するPEGのステルス効果を評価するための手法を示した報告はない。本研究では、PEGの存在下でBSAを架橋し、その後、本明細書に記載の噴霧乾燥プロセスでナノスフェアを作製することによって、PEGをBSAマトリックスに取り込ませた。このプロセスにより、水溶性PEGが封入され、注射後すぐに水性媒体に溶解することがなくなり、結果としてステルスの延長がもたらされる。限定されるものではないが、ケトコナゾールなどの他の抗真菌薬や他の水溶性抗真菌薬も、このようにして使用し得る。
【0229】
様々な濃度のPEGを、ナノスフェアからの薬物放出について試験し、検討した。ヒト微小血管内皮細胞(HMEC)を用いて、好適な製剤中でのPEGのステルス効果を明らかにした。
【0230】
ヒト微小血管内皮細胞(HMEC)およびマウスマクロファージ細胞株(RAW)へのインビトロ取込みを評価するための実験
【0231】
結果:
【0232】
図17および18は、それぞれ、2つの異なる細胞株、すなわち、内皮細胞(HMEC)およびマクロファージ(RAW)へのPEGを有するおよびPEGを有さない粒子の取込みを示す。
【0233】
図17は、ヒト微小血管内皮細胞(HMEC)への製剤F−1(ポリエチレングリコールなし)およびF−2(ポリエチレングリコールあり)の比較取込みを示す。
【0234】
図18は、マクロファージ細胞株(RAW細胞)による製剤F−1(ポリエチレングリコールなし)およびF−2(ポリエチレングリコールあり)の比較取込みを示す。
【0235】
結論:
【0236】
この実験は、PEGを有する製剤F−2が、HMEC細胞およびRAW細胞によるかなりの貪食を避け、したがって、一定のステルス特性を達成したことを示している。これは、PEG(粒子の周りに水の塊を生成し、それにより粒子にステルス特性を与える)を含有する製剤の取込みが低いことによって示されている。
【0237】
製剤F−1およびF−2ナノスフェアに由来するアムホテリシンBの毒性効果を評価し、それをアムホテリシンBの従来の溶液(SOL)製剤と比較するための実験
【0238】
研究の目的:
【0239】
カリウムは赤血球(RBC)内に高濃度で見られる。膜が何らかの損傷を受けると、カリウムがRBCから漏れ出す。本研究の目的は、SOL、製剤F−1、および製剤F−2に由来するアムホテリシンBの膜結合効果を評価し、したがって、これらの製剤に由来する薬物毒性を示すことである。
【0240】
結果および結論:
【0241】
製剤F−1およびF−2は、どの実験濃度でもカリウムレベルの増加を示さなかった。しかしながら、アムホテリシンBの溶液製剤は、RBCからの最大0.08mg/mlのかなりのカリウム放出を示し、これは、より高い薬物濃度でも同じであった。この研究は、その溶液製剤と比較したとき、アムホテリシンBのカプセル化製剤の優れた性質をはっきりと示している。
【0242】
実施例9:経口投与を用いた、糖タンパク質薬:ヘパリンのナノスフェアの評価
【0243】
目的:経口送達用の低分子量ヘパリン(LMWH)を含有するナノスフェアの簡単な調製方法を開発すること。
【0244】
方法:この実施例ではヘパリンを薬物として使用したことを除き、ナノスフェアを、実施例1に記載の方法により調製した。
【0245】
【表9】
【0246】
結果:
【0247】
図19は、様々な製剤の投与後のヘパリンの吸収を示す。ヘパリンは、60%のアルブミンマトリックス中に、30%の低分子量ヘパリン、10%のパパインを含有する製剤F4の経口投与後によく吸収される。
【0248】
図19は、ラットにおける抗凝固活性について様々なナノスフェア製剤を24時間かけて単回経口投与した後のLMWHの血漿抗第Xa因子活性レベルを示す。
【0249】
図20は、静脈内(IV)、皮下(SC)および経口(MS.3)投与後のLMWH溶液の薬物動態プロファイルを示す。
【0250】
結論:
【0251】
噴霧乾燥の条件を最適化することにより、所望のサイズ範囲のナノスフェアを調製した。製剤F−2が最も優れていた。この例示的方法は、特に、薬物の送達および開発の分野での幅広い用途のために大規模にナノスフェアを調製するために容易に最適化することができる。
【0252】
実施例10:タンパク質ナノスフェア:糖尿病でのカプセル化インスリンの経口送達
【0253】
序論:インスリンは、糖尿病の治療に必要な、内生的に産生されるタンパク質である。投与したインスリンは肝臓/筋肉細胞により取り込まれ、これらの細胞は、後に、グルコースとグリコーゲンを変換する。インスリンは、2つのアミノ酸鎖(A&B)で構成されるタンパク質分子である。これら2つの鎖は51個のアミノ酸を含有し、ジスルフィド結合を介して連結している。
【0254】
経口送達は、最も一般的な薬物送達方法である。しかしながら、タンパク質分子の経口送達では、2つの主な問題が生じる。第1に、インスリンは、消化管(GIS)系(主に胃と、小腸の近位領域)の消化酵素によって不活化される。この不活化は、胃の厳しい環境からインスリンを保護した後に、より好ましいGITの領域に放出することができる担体を設計することによって克服することができる。さらに、薬物製剤中のプロテアーゼ阻害剤が、タンパク質分解酵素によるインスリン分解を防ぐのに役立つ可能性がある。第2の主な障害は、インスリンが大腸の内膜を越えて血流中に輸送されるのが遅いことである。インスリンは、親水性薬物分子の傍細胞輸送機構を守るタイトジャンクションを通過しなければならない。巨大分子をGITを越えて輸送しやすくする吸収増強剤を使用することで、この遅さを克服しようとすることができる。
【0255】
本開示の製剤化方法および送達系においてインスリンの代わりに使用し得る他のタンパク質薬には、限定されるものではないが、通常は胃での分解に感受性のあるモノクローナル抗体、成長ホルモン、および他のタンパク質薬が含まれるが、それは、この方法が、胃内の厳しい酸性環境からタンパク質を保護し、さらに腸内で持続的に薬物を放出するからである。
【0256】
本研究では、本発明者らは、アルブミンポリマーマトリックスにカプセル化した後、インスリンの経口送達を試みている。
【0257】
インスリンを含有するナノスフェアの製剤化のための1つの例示的な方法は、以下のプロセスを含む:
【0258】
a.βシクロデキストリンを水に溶解させる;
【0259】
b.別の容器中でインスリンをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(または水もしくは生理食塩水などの他の水性溶媒)に可溶化する;
【0260】
c.限定されるものではないが、エチルセルロースなどの、腸溶性コーティング材料を水に可溶化する;
【0261】
d.可溶化したインスリンとエチルセルロースをβ−シクロデキストリンと一緒に混合する;および
【0262】
e.溶解したβシクロデキストリンとインスリンを含有する溶液を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成する。スプレードライヤーの設定は、以下の通りである:ポンプ2%、アスピレーター50%、入口温度110℃、エアフロー600psi。
【0263】
動物研究:ラットで糖尿病を誘導し、栄養チューブで経口投与されるインスリンナノスフェアで処置した。ベースライン時点およびその後24時間の様々な時点で血液試料を採取し、グルコメーターを用いて、血糖値を測定した。
【0264】
図21は、血糖値に対するナノスフェア製剤中のインスリン経口投与の効果を示す。
【0265】
結論:図21に見られるように、経口投与されるインスリンナノスフェアの単回投与後4時間にわたって、血糖値は有意に低下した。
【0266】
実施例11.眼送達系:眼送達用のテトラカインおよびアトロピンナノスフェアの調製および特徴付け
【0267】
テトラカインは、白内障の眼科手術の時に使用される。しかしながら、現在、これは1%溶液として市販されている。この溶液を白内障手術に使用する場合、その麻酔作用の持続時間が短いために、薬物を10分ごとに繰り返し投与しなければならない。これは、患者にとって大きな不快感となり、かつ溶液製剤を繰り返し注入しなければならない執刀医にとって大きな障害となる。したがって、テトラカインの持続放出製剤が必要とされている。本研究の目的は、キトサン−アルブミンをカプセル化マトリックスとして用いたナノスフェア製剤中の塩酸テトラカインを調製し、試験することであった。
【0268】
アトロピンは、散瞳作用(すなわち、瞳孔拡大を誘導する)のために眼に対して現在使用されている。しかしながら、これは非常に強力な薬物であり、現在市販されている溶液製剤の投与は、子供の死亡を含む、重大な副作用をもたらす。本研究の目的は、この薬物の投与で見られることが多い毒性を低下させるためにアトロピンの持続放出製剤を調製することである。
【0269】
ポリマーマトリックス中に正の電荷を帯びたキトサンが存在すると、眼内滞留時間がより長くなり、結果として薬物が持続放出され、作用の持続時間がより長くなり、毒性が低くなる。
【0270】
ここに記載する製剤化方法を用いて、眼科用で薬物を持続的に放出させることができる製剤を調製することができる。
【0271】
塩酸テトラカインナノスフェアの調製:
【0272】
どちらの方法、すなわち、溶液架橋と表面架橋のどちらによって、作用の持続時間がより長いナノスフェアが生成されるかを明らかにするために、2つの異なるナノスフェア調製技術を用いた。
【0273】
1)溶液架橋ナノスフェアの調製:
【0274】
a)5%w/vウシ血清アルブミン−キトサン(BSA−CSN)溶液を調製し、上記の0.75%グルタルアルデヒドで架橋した。
【0275】
b)塩酸テトラカインを、架橋したBSA−CSNマトリックスに添加し、10%の薬物充填を達成した。
【0276】
c)ブランクナノスフェアについては、BSA−CSNのみを脱イオン水に溶解させ、上記のように架橋した。
【0277】
d)架橋した溶液を、ビュッヒ191ミニスプレードライヤー(ビュッヒ191、スイスから入手可能)を用いて噴霧乾燥し、化学的に安定なテトラカインHClが充填されたBSA−CSNナノスフェアまたはブランクナノスフェアを得た。
【0278】
スプレードライヤーの様々なパラメータ、すなわち、入口温度、ポンプフロー、吸引速度および空気圧を最適化した。
【0279】
様々な量比のBSAとCSNを用いて、様々な製剤(A、B、C、D、Eなど)を得た。これらのナノスフェアを生成物コレクターから回収して、4℃で保存した。
【0280】
2)表面架橋ナノスフェアの調製:
【0281】
a)5%w/vウシ血清アルブミン−キトサン(BSA−CSN)溶液を架橋せずに調製した。
【0282】
b)塩酸テトラカインをこのBSA−CSN溶液に添加し、10%の薬物充填を達成した。
【0283】
c)ブランクナノスフェアについては、BSA−CSNのみを脱イオン水に溶解させた。
【0284】
d)この溶液を、ビュッヒ191ミニスプレードライヤー(ビュッヒ191、フラウィル、スイス)を用いて噴霧乾燥し、化学的に安定なテトラカインHClが充填されたBSA−CSNナノスフェアを得た。
【0285】
e)これらのナノスフェアを生成物コレクターから回収し、表面を2−ブタノール中の1%グルタルアルデヒドで4時間架橋した。得られた懸濁液を濾紙を用いて濾過した。これらのナノスフェアを乾燥させ、4℃で保存した。
【0286】
ナノスフェアの特徴付け
【0287】
粒径分布
【0288】
レーザー回折粒径分析計(ナノゼータサイザー、マルバーンインスツルメンツ、UKから入手可能)を用いて、BSA−CSNナノスフェアの粒径分布を測定した。この手順のために、0.1% Tween 20を含有する蒸留水(2mg/ml)にナノスフェアを懸濁した。ナノスフェアの粒径を下記の表10に記載する。狭い径分布を有するナノスフェアが得られたことが結果から明らかである。
【0289】
ゼータ電位
【0290】
ゼータ電位測定のために、ナノスフェアを1mM KCl溶液に最終濃度2mg/mlで懸濁し;この懸濁液を光学ウェルに充填し、マルバーンゼータサイザー、ZEN1600を用いてゼータ電位を測定した。ゼータ電位を下記の表10に記載する。
【0291】
【表10】
【0292】
表面形態および収率
【0293】
走査電子顕微鏡(JEOL JSM 5800LV、東京、日本)を用いてナノスフェアの表面特徴を評価した。表面は滑らかであることが分かった。
【0294】
インビトロ放出研究
【0295】
テトラカインHClが充填されたナノスフェアのインビトロ放出研究を、改良されたUSPI型溶出装置中で天然涙液pH7.4(100ml)を用いて37℃で実施した。テトラカインナノスフェア(25mg)を分子量カットオフ12〜14kDaの透析袋内の天然涙液3mlに懸濁した。溶出装置を100rpmに設定し、試料を所定の時間間隔で採取した。これらの試料を310nmでUV/Vis分光光度計により分析した。表面架橋ナノスフェアの放出プロファイルにおいて大量の初期バースト放出があった。しかしながら、溶液架橋の放出プロファイルは、ごくわずかな初期バースト放出しか示さなかった。
【0296】
カプセル化効率
【0297】
テトラカインが充填されたアルブミン−キトサンナノスフェア10mgを 2%トリプシンを含む100mM PBS pH7.4 10mlに懸濁した。等量のブランクナノスフェアを対照として用いた。このナノスフェア懸濁液を37℃で24時間撹拌した。310nmでLambda 4B UV/Vis分光光度計を用いて、得られたPBS懸濁液をテトラカインについて分析した。カプセル化効率は、96%であることが分かった。
【0298】
次に、動物モデルにおけるインビボ効力を評価した。
【0299】
ウサギにおけるインビボでのテトラカインマイクロスフェア製剤の効果の評価
【0300】
本研究では、その全体的な効力を測定し、比較するために、ナノスフェア製剤(試験)および溶液製剤(対照)中のテトラカインを評価した。これは、まばたき反応モデルを用いて行なわれた。このモデルでは、試験溶液または対照溶液のいずれかを2滴、ウサギの眼に注入した。綿棒で触れたときに眼が2回連続してまばたき反応を示すまで様々な時点で動物の眼を注意深く観察した。
【0301】
これらのインビボの結果は、2つのナノスフェア製剤間の作用の発現と標準的な市販薬の作用の発現の間に統計学的な差がないことを示した。しかしながら、テトラカインの作用持続時間は、溶液架橋形態に関する限り、約4倍増加した。表面架橋形態から得られた結果もまた、標準的な市販形態の溶液と比較して、テトラカインの作用の持続時間の約3倍の増加を示した(表11)。
【0302】
【表11】
【0303】
硫酸アトロピンが充填された眼送達用のキトサン−アルブミンナノスフェアの調製および特徴付け
【0304】
目的
【0305】
本研究の目的は、キトサン−アルブミンをカプセル化マトリックスとして用いて、硫酸アトロピンナノスフェアを調製し、特徴付け、かつそれらを粒径、ゼータ電位、%収率、カプセル化効率および表面形態ならびにインビボ効力について特徴付けることであった。
【0306】
ナノスフェアの調製:
【0307】
上記のテトラカインナノスフェアについて上で記載したのと同じように硫酸アトロピンナノスフェアを調製し、特徴付けた。結果を表12に示す。
【0308】
【表12】
【0309】
パーセンテージ収率、カプセル化効率、表面形態および放出パターンは、テトラカインナノスフェアについて得られたものと同様であった。溶液法によって調製された硫酸アトロピンナノスフェアのみをインビボ研究で用いた。
【0310】
次に、本発明者らは、溶液製剤との比較で、製剤化されたアトロピンナノスフェアの効力を評価した。
【0311】
ウサギの眼の瞳孔散大に関するアトロピンナノスフェア製剤の評価および対応するアトロピン溶液製剤との比較。
【0312】
瞳孔対角膜の長さの比を測定することにより、散瞳作用を測定した。この実験では、薬物を眼の角膜に、特定の時点で投与し、ウサギの眼の軸に沿って角膜と瞳孔の長さを測定した。
【0313】
硫酸アトロピンナノスフェア製剤(0.66%)の懸濁液をウサギの眼に適用した(n=12)。各眼に2滴滴下した。1匹の動物において、一方の眼は被験物としての役割を果たし、対側の眼は対照としての役割を果たす。パナソニック30Xデジタルカメラを用いて、各ウサギの眼をビデオ撮影した。図22は、アトロピン溶液製剤(1%)と比較したマイクロスフェア製剤(0.66%)のデータを示す。ここで、硫酸アトロピンナノスフェア懸濁液(0.66%)の強度は、標準的な市販溶液(1%)の強度よりも低いが、低濃度(0.66%)でのナノスフェア製剤の散瞳作用は、標準1%溶液の散瞳作用よりも上であった(図22)。
【0314】
図22は、標準アトロピン1%溶液とより強度の低い硫酸アトロピンカプセル化ナノスフェア(0.66%)のウサギの眼における瞳孔対角膜の長さ比に対する影響の比較を示す。
【0315】
実施例12:HIV感染を予防するためのHIV−1阻害剤カラギーナンを含有するナノスフェアの開発
【0316】
目的:
【0317】
カラギーナンは、マイクロビサイドと呼ばれる一群の化合物に属する。マイクロビサイドは、膣または直腸に適用されたときに、HIVおよび場合によっては、性感染する他の感染症の感染を大幅に低下させることができる。λカラギーナンは、ゲル製剤でインビトロでHIV−1感染を阻止することが示されているカラギーナン中の活性のある薬学的成分である。しかしながら、第3相臨床試験におけるその使用は、HIV−1の性感染を低下させることができなかった。この臨床試験の失敗と関連する考えられる要因は、不適切なゲル使用や、ゲル製剤の短い滞留時間である可能性がある。本発明者らは、水溶性形態でヒトの膣に送達し、持続放出とより長い滞留時間を提供し得るナノスフェア製剤を開発した。他の抗HIV薬物も、このようにカプセル化し、製剤化し、使用し得る。
【0318】
方法:
【0319】
以下の製剤化方法を使用した:
【0320】
a)1%w/vカラギーナンとHPMCとを脱イオン水中で別々に調製し、混合して、1対1の薬物対ポリマー比を得た。
【0321】
b)上記の溶液を、0.75%グルタルアルデヒドで事前架橋した2.5%アルブミン溶液に添加した。
【0322】
c)架橋した薬物ポリマー溶液をビュッヒ191ミニスプレードライヤー(ビュッヒ191、スイスから入手可能)を用いて噴霧乾燥し、化学的に安定化されたナノスフェアを得た。
【0323】
結果:
【0324】
噴霧乾燥したマイクロ粒子の収率は51%〜58%であった。室温での薬物放出は、pH6および7の溶液中で、24時間で完了したが、pH4およびpH5の溶液中での放出は最大96時間までなかった。37℃で、pH4およびpH5の溶液中での薬物放出は、1時間で30%、24時間で40%であった。37℃で、放出は、pH6および7の溶液中で1時間以内に90%完了し、24時間で完全に放出された(表13)。
【0325】
【表13】
【0326】
結論:
【0327】
健常ヒト膣中のpH条件は、通常、4.2〜5のより酸性のpHに向かう傾向がある。これは、乳酸を産生する常在菌である乳酸菌が存在することによる。この酸性環境は、感染や炎症に対する天然のバリアを提供している。膣のpHが変化し、より塩基性になると、それによって天然の防御機構の弱体化が起こる。本発明者らは、様々なpH条件でカラギーナンアルブミン−HPMCナノスフェア製剤のインビトロでの薬物放出を研究した。室温および37℃で検討を行ない、マイクロ粒子生成物の製剤化および保存の基準を得た。pH4〜5/室温でのマイクロ粒子からのカラギーナンの放出は最大96時間観察されなかった。本発明者らの試験結果は、37℃での、1時間から24時間の時点におけるpH6〜7でのカラギーナンの持続放出、およびpH4〜5でのゆっくりとした放出を示した。このカラギーナンマイクロ粒子製剤は、pH4〜5の溶液中で、室温で製剤化し、保存することができた。したがって、カプセル化製剤中のカラギーナンは、HIV感染を予防するためのヒト膣への送達系として使用できる可能性がある。
【0328】
実施例13:ポックスウイルス疾患の治療用のフルオロキノロンなどの抗ウイルス薬ナノスフェアの製剤化および評価
【0329】
目的:
【0330】
天然痘の撲滅は、ポックスウイルス生物学、ウイルス−細胞相互作用、および関連性のある宿主防御の分子細胞特性の研究に必要な分子ツールが限られているときに行なわれた。2001年9月11日に米国本土に対して行なわれたテロ攻撃と(テロ攻撃に続く数週間の間の)意図的な炭疽菌の放出により、天然痘の病原体である、天然痘ウイルスの未廃棄ストックが存在するかも知れないという懸念が高まった。天然痘ウイルスを用いた生物テロの脅威と、他のポックスウイルスによって引き起こされる疾患の罹患率の上昇を理由として、ポックスウイルス感染に対する新しい治療を開発する研究が再び行なわれている。この研究は、フルオロキノロンと呼ばれる、一群の抗生物質と、原型ポックスウイルスであるオルソポックスウイルスワクシニアに対するその効力とを研究するために行なわれた。標準化されたアッセイを開発し、複数のフルオロキノロンと、ワクシニアに対するその効力を試験し、比較した。
【0331】
溶液製剤中のフルオロキノロンは、ポックスウイルスに対する優れたインビトロでの抗ウイルス活性を示し、ポックスウイルス疾患の治療における良い治療薬候補であり得るが、これらには重篤な副作用がある。幼児(動物およびヒト)では、フルオロキノロンは、関節毒性を示す。小児では、関節痛(関節の痛み)、腱障害、異常歩行および関節炎が報告されている。複数の動物種(マウス、ラット、ウサギ、イヌ、およびウマを含む)では、関節病変、プロテオグリカンの損失、および軟骨細胞の異常が示された。
【0332】
それゆえ、本発明者らは、これらの関節毒性のいくつかを軽減または完全に予防するために、フルオロキノロンのカプセル化に関心がある。また、カプセル化は、フルオロキノロン薬をポックスウイルス複製の部位(樹状細胞、マクロファージ、脾臓、肺、肝臓、骨髄)にターゲッティングするとともに、フルオロキノロンの高容量の分布を減らし、かつ薬物を関節軟骨から離れるように改良し;それにより、前述のような若年性関節毒性を低下させるはずである。
【0333】
方法:
【0334】
以下の製剤化方法を使用した:
【0335】
a)表13に記載のフルオロキノロンを、各々脱イオン水に溶解させてカプセル化し、5%w/v溶液を作製した。
【0336】
b)上記の溶液を、0.75%グルタルアルデヒドで事前架橋した2.5%アルブミン溶液に添加した。
【0337】
c)架橋した薬物ポリマー溶液をビュッヒ191ミニスプレードライヤー(ビュッヒ191、スイスから入手可能)を用いて噴霧乾燥し、化学的に安定化されたナノスフェアを得た。
【0338】
結果:
【0339】
複数のフルオロキノロン化合物の効力の決定−ワクシニアに対して最も強力なフルオロキノロン化合物の決定。
【0340】
表13に阻害濃度(IC50)を記載する。クリナフロキサシンとサラフロキサシンが最も強力であり、オフロキサシンやレボフロキサシンよりもほぼ10倍高い抗ポックスウイルス活性を有する。
【0341】
【表14】
【0342】
結論:
【0343】
クリナフロキサシンとサラフロキサシンが最も強力であり、オフロキサシンやレボフロキサシンよりもほぼ10倍高い抗ポックスウイルス活性を有する。
【0344】
したがって、これらの研究は、同等の溶液製剤と比較したときのナノスフェア製剤の効力の増加をはっきりと示している。本開示の製剤化方法は自動化できるプロセスなので、医学における新たな戦略や技術革新を達成するためのナノスフェアやナノテクノロジーの進歩において大いに役立つことができる。
【0345】
代替のポリマーマトリックスならびにタンパク質、ワクチンおよび他の水溶性薬物の経口および経皮送達などの代替の送達方法の開発
【0346】
ワクチン、および薬物のナノ粒子およびマイクロ粒子の経口送達
【0347】
本発明者らの方法で調製されたナノ粒子およびマイクロ粒子を用いた経口薬物送達とワクチン接種を論じる。過去数十年にわたって、油中水型エマルジョンなどの経口インフルエンザワクチンを用いた前臨床動物研究が行なわれてきた。送達ビヒクルとして働く現在市販されているいくつかのアジュバント、例えば、リポソーム、オイルアジュバント、およびフロイントアジュバントは、抗原を免疫担当細胞にターゲッティングするのに役立ち得るが、生産コストが高い(例えば、リポソーム)または重篤な毒性の問題(例えば、フロイントアジュバントおよびオイルアジュバント)などの欠点がある。これまでの臨床研究により、インフルエンザワクチンの経口免疫が安全であること、さらには経口ワクチン接種が、気道における粘膜IgA抗体応答を誘導することができることが示された。より重要なのは、粘膜IgA抗体は、変異体ウイルスとのより大きい交差反応性を示すことが示されているので、経口ワクチン接種によって誘導される粘膜免疫応答により、抗原変異を生じた株に対するより幅広い防御が与えられる可能性があることである。これらの経口免疫は、残念なことに、低レベルでしか血清IgGを誘導しなかったが、粘膜部位ではIgA抗体を誘導した。しかしながら、防御効力は低いおよび/または防御は不十分であった。効果的なインフルエンザ経口ワクチンの開発にはいくつかの課題があり、これには、インフルエンザ抗原安定性の維持、免疫寛容の回避、および強力な防御免疫の誘導が含まれる。
【0348】
経口ワクチン送達は、単純で、簡単で、かつ安全なワクチン接種方法であり、魅力的な免疫方法である。経口免疫は、一般的な粘膜免疫系と、腸のパイエル板での抗原処理とを刺激することによって、免疫応答を誘導することができる。投与のために訓練された医療人員が必要ないので、大量のワクチン接種には、経口免疫が好ましい経路である。また、経口ワクチン接種は、筋肉内注射よりも合併症が少ない。経口ワクチンは自分で投与することができ、かつ経口ポリオワクチン接種が示すように、免疫接種範囲を改善することができる。世界的規模での人々への年1回のインフルエンザワクチン接種は、大きな負担であり、それゆえ、効果的な経口ワクチンの開発は、大衆にとっての大きな健康上の利益となるであろう。
【0349】
本発明者らは、胃の酸性条件下で感受性の生体活性タンパク質、ワクチン抗原および薬物を安定化する新規の方法を開発した。エチルセルロース材料などの腸溶性コーティングを含有するマトリックス中に抗原をカプセル化することにより、感受性の抗原が胃の酸性条件下で分解されないようになることが分かった。さらに、カプセル化によって、カプセル化された材料を持続的に放出することができるナノ粒子およびマイクロ粒子が生成されることになり、さらに、ナノ粒子およびマイクロ粒子は、免疫系に抗原を提示する好ましい形態である、免疫刺激アジュバントとしての役割を果たす。可溶性抗原は、ほとんどの場合、経口免疫後に、免疫寛容を誘導する。対照的に、微粒子性のカプセル化抗原は、免疫寛容を伴わずに所望の免疫応答を誘導する独特な形態の抗原である。これらのカプセル化抗原を、カプセル化ワクチンを取り込んで、免疫を発生させる、樹状細胞、リンパ球および(例えば、M細胞抗体またはリガンドを用いて)腸のパイエル板に存在する貪食M細胞に戦略的にターゲッティングすることができる。
【0350】
本発明者らは、インフルエンザワクチン抗原を使用した。しかしながら、このワクチン投与方法は、本発明者らが試験した他のワクチン、例えば、乳癌抗原、前立腺癌抗原、卵巣癌抗原、黒色腫癌抗原などに適用することができる。試験された他の生体活性薬物としては、インスリン、B型肝炎抗原、腸チフス抗原、およびTB抗原が挙げられる。これらの微粒子形態の抗原は極めて効果的であることが分かった。例えば、死滅インフルエンザによる免疫により誘導された防御免疫応答は、マウスで14カ月間の長きにわたって続いた。さらに、インフルエンザによる単回免疫によって防御免疫が誘導された。このインフルエンザワクチン方式は、高病原性の鳥インフルエンザウイルスまたは豚起源のインフルエンザウイルスの2009A/カリフォルニア流行株に対するワクチン候補を生産するのに容易に適用できる。
【0351】
経口、皮下または経皮用のワクチンまたは薬物の製剤化の方法
【0352】
エチルセルロース(EC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート(HPMCAS)およびシクロデキストリンの組合せを含む持続放出マトリックス製剤を含有する、経口、皮下または経皮投与することができる新規のマイクロ粒子/ナノ粒子のカプセル化製剤を以下で論じる。
【0353】
実施例14:本発明者らは、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート(HPMCAS)およびシクロデキストリンの組合せを含む持続放出マトリックスを含有する製剤を調製した。以下に記載される様々な用途のために、様々な薬物およびタンパク質をナノ粒子およびマイクロ粒子中にカプセル化した:
【0354】
a)ECおよびHPMCASを水に溶解させた(PBS、生理食塩水といった、水性溶媒の1つを使用することもできる)。
【0355】
b)シクロデキストリンを水(またはPBSもしくは生理食塩水などの他の水性溶媒)に溶解させ、上記2つの溶液を混合した。
【0356】
c)様々な薬物、生体活性タンパク質、ワクチン、または他の水溶性化合物を、水(またはPBSもしくは生理食塩水などの他の水性溶媒)に別々に溶解させた。
【0357】
d)これら3つの水性溶媒を混合し、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥した(今回のケースでは、本発明者らは、ビュッヒ191を使用したが、これらの粒子を噴霧乾燥するために、どのスプレードライヤーを使用してもよい)。
【0358】
e)スプレーノズルを冷却循環水または他の水性溶媒中に維持し、ノズルを冷やした状態に保った。これにより、噴霧乾燥される薬物または化合物の分解が抑えられる。
【0359】
f)スプレードライヤーを以下の条件に設定した:入口温度121〜130℃、アスピレーター50〜90%吸入速度、圧縮空気500〜900
【0360】
g)噴霧される材料を回収容器に回収し、材料の性質に応じて4〜85℃で保存した。
【0361】
h)製剤化したナノ粒子/マイクロ粒子製剤を、以下に概要が示されるいくつかの用途および研究に用いた:
【0362】
図23は、ブランクナノ粒子の顕微鏡写真(SEM)である。サイズは、マルバーンゼータサイザーを用いて測定した。サイズ範囲は、45〜85nm(平均68nm)であった。
【0363】
実施例15:インフルエンザウイルスを用いた経口ワクチン接種研究は免疫を与えることができる
【0364】
経口ワクチン接種の概念を証明するものを試験するために、マウス(Balb/c)に不活化PR8ウイルスワクチン(約7.5ug HA)を3回(第0週、第4週、および第8週)経口免疫した。経口免疫したマウスは、ウイルス特異的血清IgG抗体応答を誘導した。粘膜免疫応答は測定中である。免疫血清中の血球凝集阻害(HAI)や中和活性(NA)などの機能性抗体の誘導は、防御免疫応答のより良い指標である。ブースト免疫の後に、相当なレベルのHAIおよびNA力価が検出された(図24A)。防御免疫が経口ワクチン接種によって誘導されるかどうかを明らかにするために、2回目のブースト免疫の10週間後に、免疫したマウスに致死用量(5×LD50)のマウス馴化相同ウイルス(A/PR8)を投与した。免疫していない(ナイーブ)マウスは全て死んだ。免疫したマウスは、一時的な体重減少を経験したものの、100%防御された(図24C)。経口ワクチン接種は、防御免疫を誘導するために高用量の不活化インフルエンザウイルスワクチンを必要とした。それゆえ、経口ワクチン接種によって防御免疫を誘導するのは、極めて実現可能性が高い。しかしながら、経口ワクチン接種による防御効力を改善することが課題として残っている。
【0365】
図24は、不活化ウイルスワクチンの経口ワクチン接種によって防御免疫が誘導されるという結果のグラフを示す。
【0366】
A)経口ワクチン接種によって誘導される血清HAI応答。第1の棒は、ナイーブな、免疫していない対照;第2の棒は、1回目のブースト免疫後の第1の免疫したマウス;第3の棒は、2回目のブースト免疫後の第2の免疫したマウス。
【0367】
B)中和活性。PR8ina、不活化A/PR8ウイルスによる経口ワクチン接種。
【0368】
C)致死量投与による感染後の体重変化。
【0369】
実施例16:マウスにおける黒色腫経口ワクチン試験
【0370】
本研究では、本発明者らは、研究期間中の腫瘍増殖を測定することにより、経口免疫の有効性を評価した。これは、予防的腫瘍ワクチンに相当し、この場合には、抗腫瘍応答を誘導するために、マウスに最初に10週間経口ワクチン接種した。次に、本発明者らは、様々なマウスの群にワクチン製剤を経口投与した。ブースター用量のワクチンを毎隔週投与し、10週間後、生きたB−16黒色腫腫瘍細胞を動物に肩の部分に皮下投与した。
【0371】
経口ワクチンの製剤化
【0372】
B−16黒色腫癌細胞を、サブコンフルエントになるまで、95%CO2インキュベーターにて75cm2組織培養フラスコ中で3日間培養した。細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH7.4で洗浄した。次に、細胞を、インキュベーターにてPBS中で3日間インキュベートした。細胞懸濁液を回収し、100×gで10分間遠心分離した。細胞ペレットを低張緩衝液中でホモジナイズし、1200rpmで5分間遠心分離して、核とその他の破片を除去する。膜断片と細胞質タンパク質とを含有する上清を回収し、ワクチンを調製するために使用した。標準アッセイでタンパク質含有量を測定した。
【0373】
上記のような噴霧乾燥プロセスにより、ワクチン抗原のナノスフェア(NS)を調製した。経口ワクチン製剤は、培養で増殖したB−16黒色腫癌細胞に由来する抗原を含有する。一般的なワクチン製剤化手順は、事前架橋アルブミンを生体分解性ポリマーマトリックスとして使用することを含む。ワクチン材料を胃内の胃酸中での分解から保護するための腸溶性コーティング材料として、エチルセルロースもポリマーマトリックスに取り込ませる。
【0374】
本発明者らは、経口ワクチンがインビトロで実際に腸部分に輸送されることも最初に示すことにする。この場合、ウッシング拡散装置にラット小腸の切片を取り付ける。ワクチンNSを腸組織切片の上(頂端側)にスラリー状で置く。腸を横断するNSを測定するために、試料を下のチャンバーから採取した。
【0375】
予備的研究において、本発明者らは、以下のレクチンターゲッティング剤を試験した:
【0376】
a)コムギ胚芽凝集素(WGA)、
【0377】
b)ユレックス・ユーロパウエス1(UEA−1)、および
【0378】
c)コンカナバリンA(ConA)
【0379】
これらのレクチンは、パイエル板中のM細胞へのターゲッティングを促進することが示されている。
【0380】
試験した3つのうち、コムギ胚芽凝集素(WGA)とユレックス・ユーロパウエス1(UEA−1)がM細胞への優れたターゲッティングを示した(図25)。
【0381】
本発明者らは、ナノスフェアがパイエル板に非常に効率的に取り込まれることも示した(図26)。この研究では、ウッシング拡散装置に取り付けられた小腸の切片を使用する。この場合、ナノスフェアからのワクチン材料の放出と輸送を非常に体系的に評価することができ、これは、腸におけるワクチンナノスフェアの取込みを表す優れたモデルである。ワクチンナノスフェアを腸組織切片の上(腸の内側に相当する頂端側)にスラリー状で置く。試料を、生理食塩水を含む下のチャンバーから採取する。この試料は、腸部分を越えて輸送されるナノ粒子に相当する。
【0382】
図25は、ターゲッティングレクチンの存在下で、NSのCaco2およびM細胞への取込みを示すグラフである。図26は、腸のパイエル板の微絨毛におけるナノスフェア(緑色の点)分布の顕微鏡写真である。
【0383】
この次のインビボ研究で、本発明者らは、研究期間中の腫瘍増殖を測定することにより、経口免疫の有効性を評価した。これは、予防的腫瘍ワクチンに相当し、この場合には、抗腫瘍応答を誘導するために、マウスに最初に10週間経口ワクチン接種した。次に、本発明者らは、様々なマウスの群にワクチン製剤を経口投与した。ブースター用量のワクチンを毎隔週投与し、10週間後、肩の部分に皮下注射される、生きたB−16黒色腫腫瘍細胞を動物に投与した。
【0384】
図27A〜Cは、黒色腫経口ワクチンの効力を示すグラフである。図27A:B16黒色腫細胞を投与した後の平均腫瘍サイズ。図27B:経口免疫したマウスの糞便IgA動力学。図27C:経口免疫したマウスの血清IgGレベル。
【0385】
ノギスを用いて腫瘍サイズを毎週4週間測定した(図27A)。この研究では、固形腫瘍の発生に影響を及ぼす能力とともに、抗腫瘍応答が経口ワクチン接種後に誘導されるかどうかを調べた。経口ワクチン接種群では、腫瘍発生の開始は、対照での6日と比較して、16日であった。腫瘍サイズは、ワクチン接種群で有意により小さかった。図27Bおよび27Cで、IgGとIgAの両方のレベルは、同等の溶液製剤または対照(ブランクマイクロスフェア)と比較したとき、経口ワクチン接種後10週間の研究期間の最後で、および腫瘍投与期間中(第11〜14週)、有意に高かった。要約すると、経口ワクチン接種は、腫瘍の発生と進行を遅延させ、高い抗体力価を生じさせた。
【0386】
経口的および経皮的に試験される他の腫瘍ワクチンおよびB型肝炎ナノ粒子/マイクロ粒子ワクチン
【0387】
実施例17:乳癌ワクチン:
【0388】
乳癌ワクチンについては、B−16黒色腫ワクチン法について記載したワクチン製剤に4T07マウス乳癌抗原を使用し、Balb/cマウスで試験した。ナノ粒子およびマイクロ粒子中にカプセル化した4T07マウス乳癌抗原を8週間にわたって経口または経皮のいずれかでワクチン接種したマウスは、腫瘍を発生させず、カプセル化ワクチンの経口または経皮投与の後に、強い抗体力価(IgAとIgGの両方)を示した。対照動物またはこの癌抗原の溶液製剤で処置した動物は、腫瘍を発生させ、死亡した。
【0389】
実施例18:前立腺癌ワクチン:
【0390】
前立腺癌ワクチンについては、B−16黒色腫ワクチン法について記載したワクチン製剤にTRAMC1前立腺抗原を使用し、C−57b/l6マウスで試験した。ナノ粒子およびマイクロ粒子中にカプセル化したTRAMC1前立腺抗原を8週間にわたって経口または経皮のいずれかでワクチン接種したマウスは、腫瘍を発生させず、経皮投与後の強い抗体IgGおよび経口投与後のIgGとIgAの両方の抗体力価の発生を示した。対照動物またはこの癌抗原の溶液製剤で処置した動物は、腫瘍を発生させ、死亡した。
【0391】
実施例19:卵巣癌ワクチン:
【0392】
卵巣癌ワクチンについては、B−16黒色腫ワクチン法について記載したワクチン製剤に4306卵巣癌細胞から得られた抗原を使用し、Balb/cマウスで試験した。ナノ粒子およびマイクロ粒子中にカプセル化した4306卵巣癌抗原を8週間にわたって経口または経皮のいずれかでワクチン接種したマウスは、腫瘍を発生させず、経皮投与後の強い抗体IgGおよび経口投与後のIgGとIgAの両方の抗体力価の発生によって示されるような強い免疫を示した。対照動物またはこの癌抗原の溶液製剤で処置した動物は、腫瘍を発生させ、死亡した。
【0393】
実施例20:B型肝炎ワクチン:
【0394】
B型肝炎ワクチンについては、B−16黒色腫ワクチン法について記載したワクチン製剤に肝炎プラスミドワクチンを使用し、Balb/cマウスで試験した。ナノ粒子またはマイクロ粒子中にカプセル化したこのプラスミドワクチンを7〜8週間にわたって経口または経皮のいずれかでワクチン接種したマウスは、経皮投与後の強い抗体IgGおよび経口投与後のIgGとIgAの両方の抗体力価の発生によって示されるような強い免疫を示した。
【0395】
本開示は、限定されるものではないが、以下を含む、本発明のいくつかの実施形態を提供する:
【0396】
ナノスフェアを調製する方法、
【0397】
薬物を身体に送達する方法、
【0398】
制御され、持続される薬物送達系、
【0399】
腫瘍を同定するための効果的な診断ツールを調製する方法、
【0400】
従来のアジュバントを用いずに、ワクチンの経口投与後に免疫を誘導するために使用することができる効果的なワクチン製剤を調製し、送達する方法、ならびに
【0401】
従来のアジュバントを用いずに、ワクチンの吸入および全身投与後に免疫を誘導するために使用することができる効果的なワクチン製剤を調製し、送達する方法。
【0402】
本発明のいくつかの例示的な実施例のみが上で詳細に記載されているが、当業者は、本発明の新規の教示や利点から大きく逸脱することなく、多くの修正が、これらの例示的な実施形態において可能であることを容易に理解するであろう。したがって、このような修正は全て、以下の特許請求の範囲で規定される本発明の範囲内に含まれることが意図される。本明細書で参照される任意の特許、出願および刊行物はその全体が参照により本明細書に組み込まれることにもさらに留意すべきである。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照。本出願は、2008年9月29日に、生体活性材料をカプセル化したナノスフェアおよびナノスフェアの製剤化のためのワンステップ法(NANOSPHERES ENCAPSULATING BIOACTIVE MATERIAL AND ONE STEP METHOD FOR FORMULATOIN OF NANOSPHERES)というタイトルで出願され、かつ本出願の出願人に共通に譲渡された同時係属の米国仮特許出願第61/100,886号の利益を主張するものであり、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、カプセル薬送達系に関する。本開示はさらに、生体活性組成物をカプセル化し、細胞への取込み後に実質的な生体活性を保持するナノメートルサイズ範囲の粒子を生成するために抗原性のない生体分解性材料を用いてカプセル薬を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
標的とされる部位や特定の罹患部位への薬物の送達は、患者における副作用の軽減を助け、それにより毒性を防ぐことができる。標的とされない部分への薬物の曝露は悪影響を及ぼすことがある。ナノスフェア(「NS」)製剤中の薬物を用いることにより、罹患していない器官や組織への薬物の曝露を防ぐかまたは実質的に減らすことができる。本開示の目的のために、ナノスフェアサイズの粒子は、約50〜約999ナノメートルの範囲の一般的な平均サイズを有する粒子を意味する。ナノスフェアは、制御された形で薬物を放出し、それによって、薬物を頻繁に投与する必要性を最小限に抑えることもできる。これらのナノスフェアは、カプセル薬がナノサイズであるために、細胞にトランスフェクトするのに効果的に使用することができる。これらのナノスフェアは、そのサイズが小さく、効果的な腸溶性コーティングのおかげで胃の厳しい酸性環境下で分解されることなく、腸のパイエル板にワクチン材料をターゲッティングし、送達することができる。また、そのサイズが小さいために、ナノスフェアは、かなり容易に腫瘍に浸透することができる。
【0004】
生体活性材料のいくつかの例としては、タンパク質、ペプチド、抗体、酵素、化学的実体、薬物が挙げられるが、これらに限定されない。免疫抑制剤(例えば、FK−506)や抗炎症薬(例えば、デキサメタゾンやプレドニソロンなどのステロイド)などの、他の薬物は、移植ドナーの状況にある移植臓器の生存率を変化させるのに有用であることが示される可能性がある。噴霧乾燥により調製されるアルブミンナノスフェアは、オリゴヌクレオチドを送達するための、見込みのある薬物送達方法となり得る。本開示の目的のために、「薬物」は、本明細書に記載の生体活性材料のいずれをも含むと看做される。
【発明の概要】
【0005】
本開示には、本発明のいくつかの例示的な実施形態が記載されている。本開示の一態様は、生体活性材料を含有するマイクロスフェアを形成するための方法であって、第1の容器中で、アルブミンまたはβ−シクロデキストリンなどの、ポリマーマトリックスを水性媒体に溶解させること;溶解したポリマーマトリックスを、グルタルアルデヒドなどの、架橋剤と接触させて、ポリマーマトリックスと架橋剤を架橋すること;架橋が実質的に完了した後、全ての余分な架橋剤を硫酸水素ナトリウムで中和すること;第2の容器中で、生体活性材料を、限定されるものではないが、水、生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水などの、水溶液に可溶化すること;可溶化した生体活性材料を、溶液状態の中和し架橋したポリマーマトリックスと一緒に混合して、混合物を形成すること;ならびに混合物を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成することを含み、生体材料の実質的な生体活性が細胞への取込み時に保持される、方法を提供する。
【0006】
本開示の別の態様は、生体活性材料を含有するマイクロスフェアを形成するための方法であって、第1の容器中でポリマーマトリックスを水性媒体に溶解させること;第2の容器中で生体活性材料を緩衝水溶液に可溶化すること;腸溶性コーティング材料を水性媒体に可溶化すること;可溶化した生体活性材料と可溶化した腸溶性コーティング材料を混合して、溶液を形成すること;および混合物を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成することを含み、生体材料の実質的な生体活性が細胞への取込み時に保持される、方法を提供する。
【0007】
本開示の別の態様は、マクロファージなどの食細胞における生体活性材料の細胞内濃度を高める方法であって、本明細書に開示された方法によって生成されるナノスフェアを準備すること;および導入後に生体活性材料がナノスフェアから放出され、ナノスフェア中の生体活性材料の実質的な生体活性が保持され、生体材料の細胞内濃度が増加するように、ナノスフェアを食細胞に導入することを含む、方法を提供する。
【0008】
本開示の別の態様は、生体活性材料を細胞に送達する方法であって、本明細書に記載の方法によって生成される生体活性材料のナノスフェアを準備すること;ナノスフェアと担体とを混合すること;細胞がナノスフェアを貪食し、生体活性材料が、生体材料の実質的な生体活性が保持されるように細胞内でマイクロスフェアから放出されるように混合物を患者に導入することを含む、方法を提供する。
【0009】
本開示の別の態様は、投与後に免疫を誘導するためのアジュバントを含まないワクチン製剤を送達する方法であって、本明細書に記載の方法によって生成されるワクチン製剤のナノスフェアを準備すること;および細胞がナノスフェアを貪食し、生体活性材料が、ワクチン製剤の実質的な生体活性が保持されるように細胞内でマイクロスフェアから放出されるようにナノスフェアを患者に導入することを含む、方法を提供する。
【0010】
本開示の別の態様は、本明細書に記載の方法によって生成される生体活性材料(単数または複数)を含有する新規のナノスフェアを提供し、この生体活性材料(単数または複数)は、細胞への取込み後に実質的な生体活性を保持する。
【0011】
本開示は、ナノメートル規模のサイズであるがゆえに、非経口投与の適用規模がより大きく、様々な疾患状態および疾患臓器(例えば、腫瘍など)へのより効果的なターゲッティングが可能な、カプセル薬を調製する方法を提供する。
【0012】
本開示はまた、カプセル薬送達系に関する。特に、本開示は、a)体内の薬物レベルを長期間にわたって治療的レベルに持続するように制御された形で薬物を放出することができ;b)アジュバントを使用せずにワクチンを送達する効果的な方法として使用することができ;c)マクロファージなどの食細胞、内皮細胞、クッパー細胞、樹状細胞などをターゲッティングするために使用することができ;d)タンパク質(例えば、インスリンおよびヘパリン)などの生体活性薬物を送達するために使用することができ;かつe)生体分解性コーティングを消化して、無傷の薬物または活性成分を細胞内または疾患部位のいずれかに放出する、罹患臓器(例えば、肝臓、腎臓、肺、心臓、脾臓)または罹患部位(例えば、腫瘍、関節炎の関節)をターゲッティングするために使用することができるカプセル化組成物に対して抗原性のない生体分解性材料を用いるプロセスでカプセル薬を調製する方法に関する。これらの組成物は、疾患の治療および予防に有用である。
【0013】
本開示によるナノスフェアを生成する方法は連続的なプロセスである。本方法は、製造プロセスの間維持することができる実質的に完全な無菌状態を提供する。生体分子を変性させる傾向のある有機溶媒は含まれない。バースト放出はごくわずかであり、ナノスフェアは、ゼータ電位値に基づく優れた懸濁安定性を有する。本方法は、生体活性薬物の構造を変化させない。本方法は、実験室規模の生産から大規模な工業生産への簡単な拡大に適している。
【0014】
本開示の一態様は、スプレードライヤーの使用を伴う方法を用いて、アルブミンやβ−シクロデキストリンナノスフェアに含まれる水溶性化合物をカプセル化するための方法を提供する。
【0015】
本開示に従って形成されるナノスフェアは、制御された薬物送達系としての役割を果たすことができる。
【0016】
本開示のナノスフェア送達系は、NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの一本鎖DNAを細胞にトランスフェクトする効果的な方法としての役割を果たすことができる。
【0017】
本開示のナノスフェア送達系は、腸にターゲッティングされるワクチンを胃の厳しい酸性環境下でワクチンを変性させることなく経口投与経路で送達する効果的な方法としての役割を果たすことができる。
【0018】
本開示のナノスフェア送達系は、黒色腫などの腫瘍に薬物をターゲッティングする効果的な方法としての役割を果たすことができる。
【0019】
本開示のナノスフェア送達系は、腫瘍を同定するための効果的な診断ツールとしての役割を果たすことができる。
【0020】
本開示のナノスフェア送達系は、炎症促進性サイトカインの大部分を産生するマクロファージ/単球などの食細胞をターゲッティングすることができる。この技術は、サイトカインを阻害する化合物、例えば、NF−kBに対するアンチセンスオリゴマー、デキサメタゾン、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、CNI−1493の効力を改善することが示されている。
【0021】
本開示のナノスフェア送達系は、カプセル化形態のゲンタマイシンやバンコマイシンなどの抗生物質を感染臓器や感染細胞に送達することができる。
【0022】
本開示のナノスフェア送達系は、AIDSなどの疾患状態の細胞内に抗HIVウイルス薬を送達することができる。
【0023】
本開示のナノスフェア送達系は、カプセル化形態のカタラーゼやスーパーオキシドジスムターゼなどの薬物を敗血性ショックなどの疾患状態に送達することができる。
【0024】
本開示のナノスフェア送達系は、抗真菌薬のアムホテリシンBを含有するステルスナノスフェアの製剤化と評価の一部であることができる。
【0025】
本開示のナノスフェア送達系は、糖タンパク質薬のナノスフェアである、経口投与ヘパリンを送達することができる。
【0026】
本開示のナノスフェア送達系は、経口投与後、糖尿病状態にインスリンを送達することができる。
【0027】
本開示における「1つの」生体活性材料に対する言及は、1つまたはいくつかの生体活性材料を含むことが意図されることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明の態様を以下の図面で説明する:
【図1】関節炎ラットモデルでの、15日目のラット後肢腫脹に対するカプセル化アンチセンスNF−κBオリゴマーと可溶性アンチセンスNF−κBオリゴマーの効果のグラフである。
【図2】アルブミンナノスフェアの腎取込みを示す4枚1組の顕微鏡写真である。
【図3】エクスビボ腎移植モデルでの研究群間のTNF−αレベルのグラフである。
【図4】エクスビボ腎移植モデルでの研究群間のIL−1βレベルのグラフである。
【図5】エクスビボ腎移植モデルでの研究群間の一酸化窒素(NO)レベルのグラフである。
【図6】インビボ(ラット)敗血性ショックモデルでのIL−1β放出に対するカタラーゼ製剤の効果のグラフである。
【図7】カプセル化されていないヒト結核菌(Mtb)全細胞ライセートおよびブランクBSAナノスフェアの生体活性と比較したときのカプセル化されたMtb全細胞ライセートの生体活性のグラフである。
【図8】試験ラットおよび対照ラットのMtb抗原特異的血清IgGの光学密度のグラフである。
【図9】試験ラットおよび対照ラットにおける全細胞抗原の経口ワクチン接種後の血清IgAレベルのグラフである。
【図10】試験ラットおよび対照ラットにおける様々な体液中のMtb抗原特異的血清IgAの光学密度のグラフである。
【図11】ブランクナノ粒子群、経口ワクチンナノ粒子群および経口ワクチン溶液群における血清IgG応答のグラフである。
【図12】ナノスフェアおよび溶液を投与した後のマクロファージにおけるアンチセンスNF−κBオリゴヌクレオチドの細胞内濃度のグラフである。
【図13】ナノスフェア製剤および溶液製剤でのヒト微小血管内皮細胞内へのNF−κBアンチセンスオリゴヌクレオチドの取込みのグラフである。
【図14】黄色ブドウ球菌感染ラットの予防的バンコマイシン処置後の細菌カウントのグラフである。
【図15】黄色ブドウ球菌感染ラットの同時バンコマイシン処置後の細菌カウントのグラフである。
【図16】黄色ブドウ球菌感染ラットの遅延型バンコマイシン処置後の細菌カウントのグラフである。
【図17】製剤F−1(ポリエチレングリコールなし)およびF−2(ポリエチレングリコールあり)のヒト微小血管内皮細胞(HMEC)への比較取込みのグラフである。
【図18】マクロファージ細胞株(RAW細胞)による製剤F−1(ポリエチレングリコールなし)およびF−2(ポリエチレングリコールあり)の比較取込みのグラフである。
【図19】ナノスフェア製剤を24時間かけて単回経口投与した後の低分子量ヘパリン(LMWH)の血漿抗第Xa因子活性レベルのグラフである。
【図20】ラットにおける静脈内(IV)、皮下(SC)および経口(MS.3)経路後のLMWH溶液の薬物動態プロファイルのグラフである。
【図21】血糖値に対するナノスフェア製剤中のインスリンの経口投与の効果のグラフである。
【図22】ウサギの眼の瞳孔対角膜の長さ比に対する標準アトロピン1%溶液および低力価の硫酸アトロピンカプセル化ナノスフェア(0.66%)の効果の比較のグラフである。
【図23】ブランクナノ粒子の顕微鏡写真(SEM)である。
【図24】不活化ウイルスワクチンの経口ワクチン接種が防御免疫を誘導する結果のグラフである。
【図25】ターゲッティングレクチンの存在下でのNSのCaco2およびM細胞への取込みを示すグラフである。
【図26】腸のパイエル板の微絨毛におけるナノスフェア(緑色の点)分布の顕微鏡写真である。
【図27】黒色腫経口ワクチンの効力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示は、以下のものを提供する:
1)ナノスフェアを調製する方法。
2)薬物を身体に送達する方法。
3)制御され、持続される薬物送達系。
4)腫瘍を同定するための効果的な診断ツールを調製する方法。
5)従来のアジュバントを用いずに、ワクチンを経口投与した後に免疫を誘導するために使用することができる効果的なワクチン製剤を調製し、送達する方法、ならびに
6)従来のアジュバントを使用せずに、ワクチンを吸入および全身投与した後に免疫を誘導するために使用することができる効果的なワクチン製剤を調製し、送達する方法。
【0030】
本開示の一態様では、ナノスフェアを、ミニスプレードライヤーを用いるプロセスを用いて、生体活性材料を目に見えるほどは変性させることなく調製することができる。本開示の一態様では、ポリマーマトリックスをグルタルアルデヒドで事前架橋し、次いで、余分なグルタルアルデヒドを亜硫酸水素ナトリウムで中和し、次いで、事前架橋および中和したマトリックスに生体活性材料を添加する。この後、生体活性マトリックスを含有する架橋したポリマーマトリックスを噴霧乾燥する。ナノスフェアを得るために、限定されるものではないが、入口温度、ポンプフロー、吸引速度および空気圧などの、スプレードライヤーについての様々なパラメータを最適化した。アルブミンをマトリックスとして使用してもよい。グルタルアルデヒドを架橋剤として使用した。グルタルアルデヒド濃度の平均粒径に対する影響を、グルタルアルデヒドの濃度を変化させることにより検討した。アルブミンマトリックスの事前架橋時間、亜硫酸水素ナトリウムによる余分なグルタルアルデヒドの中和の時間、架橋時間および生体活性や平均粒径に影響を及ぼす他の要因を全て検討した。
【0031】
本開示は、生体活性材料を事前架橋および中和したポリマーマトリックスにカプセル化することによってナノスフェアを生成する方法を提供する。
【0032】
本開示の別の態様では、薬物をカプセル化するためのポリマーマトリックスとして(アルブミンの代わりに)β−シクロデキストリンを用いて、ナノスフェアを調製した。
【0033】
本明細書に記載の方法の1つの利点は、費用対効果ベースで工業規模の大規模な無菌製造プロセスに拡大することができるということである。本プロセスを用いれば、薬物が溶液製剤から最終的なナノスフェア形態に直接変換されるので、粒子の形成後に粒子から溶媒を除去するための分離工程が必要なくなる。本発明を用いれば、粒子は乾燥粉末形態に直接変換される。乾燥粉末形態に変換されるので、薬物は非常に安定であり、したがって、薬物の溶液製剤と比較したとき、保存期間がより長いと考えられる。本プロセスを用いれば、水性相を除去するための追加のフリーズドライ工程が必要なくなり、より上質な生成物が得られる。
【0034】
別の利点は、アルブミンポリマーマトリックスの架橋の程度を制御することによって、薬物の放出を非常に効果的に制御および設計することができるという事実である。アルブミンポリマーマトリックスの架橋が多ければ多いほど、ポリマーマトリックスからの薬物の放出は遅くなる。
【0035】
本発明のナノメートルサイズのカプセル化材料の粒径が小さいために、細胞内へのより効果的な取込み、ひいては身体の特定の臓器や疾患部位へのより効果的な全体としてのターゲッティングが可能になる。
【0036】
本発明の態様を、説明のためにのみ示される以下の実施例に関連してさらに説明する。そのような実施例に見られる部分およびパーセンテージは、特に規定されない限り、重量によるものである。
【0037】
実施例1:関節炎でのヌクレオチド化合物、すなわち、NF−kBに対するアンチセンスヌクレオチドのナノスフェアの評価
【0038】
目的
【0039】
本研究の目的は、NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有するナノスフェアが、ラットのアジュバント多発性関節炎で関節炎を改善させるかどうかを明らかにすることであった。
【0040】
方法
【0041】
NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有するナノスフェアを製剤化するための1つの例示的な方法は、以下の工程を含む:
【0042】
a)アルブミンを水に溶解させる;
【0043】
b)溶解したアルブミンをグルタルアルデヒドで4〜24時間事前架橋する;
【0044】
c)架橋が完了した後で余分なグルタルアルデヒドを亜硫酸水素ナトリウムで中和する;
【0045】
d)別の容器中でNF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(オリゴマー)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に可溶化する;
【0046】
e)可溶化したNF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(オリゴマー)を、溶液状態の中和し架橋したアルブミンと一緒に混合する;および
【0047】
f)事前架橋したアルブミンとNF−kBに対するアンチセンスヌクレオチドとを含有する溶液を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成する。スプレードライヤーの設定は、以下の通りである。ポンプ2%、アスピレーター50%、入口温度110℃、エアフロー600psi。
【0048】
生成物を回収し、密封容器中に保存した。平均粒径およびゼータ電位(図1に示す)を、マルバーンゼータサイザーを用いて測定した。
【0049】
【表1】
【0050】
1マイクロメーター未満の所望のサイズ範囲のナノスフェアを、噴霧乾燥の条件を最適化することにより調製した。
【0051】
動物研究:
【0052】
雄のスプラーグ・ドーリーラットの右後肢の足底部に、軽油に懸濁した熱殺菌M.ブチリカム(フロイントの完全アジュバント)を注射した。対測肢に、対照として鉱油のみを注射した。ラットを2つの群に分けた。
【0053】
複数回用量研究:
【0054】
a)ナノスフェア製剤中のアンチセンス(15mg/kgおよび30mg/kg)
【0055】
b)従来の溶液製剤中のアンチセンス(15mg/kgおよび30mg/kg)
【0056】
複数回用量群については、アジュバント注射後4、5、6、8、10、12、14日目に、用量(10mg/kg)を腹腔内投与した。
【0057】
左右の後肢をプレチスモグラフィーにより水銀置換法で測定した。
【0058】
結果
【0059】
図1は、15日目に得られた注射された後肢と注射されていない後肢の両方についての肢容積測定値を示す。図に示すように、従来の溶液製剤の同等の用量と比較したとき、15および30mg/kg用量について陽性対照と比較して右(注射された)肢の容積に有意差が見られた(p<0.05)。同等の溶液群と比較したとき、両方のナノスフェア投与群について、左(注射されていない)肢の容積にも有意差が見られた(p<0.05)。これは、この関節炎ラットモデルで試験したときにより良好な効力を示すカプセル化製剤の有効性を明確に示している。
【0060】
実施例2:腎移植モデルでの腎臓の生存に関するヌクレオチド化合物、すなわち、NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドナノスフェアの評価
【0061】
目的
【0062】
本研究の目的は、NF−kBに対するアンチセンスオリゴマーのナノスフェアが、腎移植モデルでの腎臓の生存に何らかの効果を有するかどうかを明らかにすることであった。
【0063】
序論
【0064】
腎臓などの臓器への血流の遮断は、臓器の機能に深刻な影響を及ぼす虚血性変化をもたらす。虚血性の血流減少の結果である急性腎不全がインビボでの腎臓の機能に影響を及ぼすのに対し、腎臓の移植提供は、レシピエントにおけるこの臓器のその後の機能に影響を及ぼす。核因子κβ(NF−kB)は、臓器移植の急性拒絶の発症に高度に関与する一連のサイトカインおよび接着分子の遺伝子の協調的なトランス活性化において極めて重要な役割を果たす。NF−kB活性の増加は、腎虚血/再灌流傷害で示されている。同様に、虚血/再灌流傷害時の酸化ストレスの増加も、NF−kB活性化の増加を引き起こし得る。移植に伴う温虚血傷害または冷虚血傷害の初期事象は、初期の移植片機能と後期の変化の両方に影響を及ぼし得る。したがって、本発明者らは、ドナーの腎臓中にNF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてNF−kB活性化を阻害することにより、急性拒絶が抑えられ、移植片の生存が延長し、それにより、急性腎拒絶の効果的な治療法が提供されるという仮説を立てた。
【0065】
NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有するナノスフェアを、上記実施例1に記載の方法により調製した。
【0066】
NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドのナノスフェアの腎取込みの評価
【0067】
まずラットを安楽死させ、腎動脈と腎静脈にカニューレを挿入した。腎臓にヘパリン化生理食塩水およびウィスコンシン大学(UW)臓器保存溶液を灌流させた。生理食塩水に懸濁したアルブミンナノスフェア(3mg/ml)を腎動脈に注射した。腎臓を37℃で2時間置き、その後、24時間まで4℃で保存した。腎臓の組織学切片を採取し、蛍光顕微鏡を用いて画像を取得した。
【0068】
NF−kB活性の阻害の評価
【0069】
表2は腎移植モデルでのNF−κB活性の阻害のエクスビボ評価のための研究デザインを示す。腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−1β(IL−1β)および一酸化窒素(NO)をNF−κB活性のマーカーとして用いた。文献に報告されている方法の通りに、腎臓にカニューレを挿入した。リポ多糖(LPS)刺激を伴う研究群については、カニューレ挿入後、腎臓にまずLPS(1μg/ml)1mlを注射した。NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドが充填されたアルブミンナノスフェアを腎臓に注射した。腎臓にUW臓器保存溶液を灌流させることにより、試料を2、4、8および24時間で採取した。灌流液由来のTNF−αおよびIL−1βをELISAで測定すると同時に、一酸化窒素をグリース反応に基づく分光光度アッセイで測定した。
【0070】
【表2】
【0071】
結果:
【0072】
図2は、アルブミンナノスフェアの腎取込みを示す。
【0073】
図3は、エクスビボ腎移植モデルでの研究群間のTNF−αレベルを示す。ラットにヘパリンナトリウム(200U/Kg)を腹腔内(IP)注射した。注射の30分後に、ラットを安楽死させ、腎動脈と腎静脈にすぐにカニューレを挿入した。カニューレを挿入した腎臓に、生理食塩水(0.5ml)、溶液形態およびナノスフェア形態のアンチセンスNF−κB(15mg/Kg)、ならびにブランクナノスフェアを注射した。腎臓を37℃で2時間置き、その後、24時間まで4℃で保存した。摘出した腎臓に2、4、8および24時間でUW臓器保存溶液を灌流させ、灌流液を回収した。TNF−αレベルをELISAで測定した。(平均+S.E.、全ての実験についてn=6)。
【0074】
図4は、エクスビボ腎移植モデルでの研究群間のIL−1βレベルを示す。ラットにヘパリンナトリウム(200U/Kg)をIP注射した。注射の30分後に、ラットを安楽死させ、腎動脈と腎静脈にすぐにカニューレを挿入した。カニューレを挿入した腎臓に、生理食塩水(0.5ml)、溶液形態およびナノスフェア形態のアンチセンスNF−κB(15mg/Kg)、ならびにブランクナノスフェアを注射した。腎臓を37℃で2時間置き、その後、24時間まで4℃で保存した。摘出した腎臓に2、4、8および24時間でUW臓器保存溶液を灌流させ、灌流液を回収した。IL−1βレベルをELISAで測定した。(平均+S.E.、全ての実験についてn=6)。
【0075】
図5は、エクスビボ腎移植モデルでの研究群間の一酸化窒素(NO)レベルを示す。ラットにヘパリンナトリウム(200U/Kg)をIP注射した。注射の30分後に、ラットを安楽死させ、腎動脈と腎静脈にすぐにカニューレを挿入した。カニューレを挿入した腎臓に、生理食塩水(0.5ml)、溶液形態およびナノスフェア形態のアンチセンスNF−κB(15mg/Kg)、ならびにブランクナノスフェアを注射した。腎臓を37℃で2時間置き、その後、24時間まで4℃で保存した。摘出した腎臓に2、4、8および24時間でUW臓器保存溶液を灌流させ、灌流液を回収した。NOレベルをグリース反応に基づく分光光度アッセイで測定した。
【0076】
結論:
【0077】
図2に見られるように、アルブミンナノスフェアが腎細胞に取り込まれたのは明白であり、したがって、微粒子送達ビヒクルを用いて虚血性臓器に薬物を送達することができることを示している。NF−κB活性の阻害を評価するために、LPSに似た既知のサイトカイン産生刺激因子を腎臓に注射した。図3、4、5は、LPS刺激後の研究群におけるそれぞれ2、4、8および24時間でのTNF−α、IL−1βおよびNOのレベルを示す。本発明のナノスフェア製剤中のアンチセンスNF−κBが、溶液形態のアンチセンスNF−κBと比較して、NF−κBの活性化を有意に阻害し、それによりサイトカインの産生を阻害することができるということがデータから明らかに明白である。NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有するナノスフェアは、溶液形態のアンチセンスNF−kBと比較して、NF−κBの活性化を有意に阻害した。
【0078】
免疫抑制薬(例えば、FK−506)、および抗サイトカイン薬(例えば、デキサメタゾン)などの他の薬物は、移植ドナー状況で細胞の生存率を変化させるときに有用であることが示される可能性がある。噴霧乾燥により調製されたアルブミンナノスフェアは、オリゴヌクレオチドを送達するための見込みある薬物送達方法となり得る。
【0079】
実施例3:敗血性ショックモデルにおける生体活性タンパク質、すなわち、カタラーゼを含有するナノスフェアの製剤化
【0080】
序論:
【0081】
敗血性ショックは、病原体感染に対する宿主自然免疫応答または虚血によって開始される細胞事象のカスケードの最終段階である。これらの細胞事象は、主に、内皮細胞と白血球で起こる。これにより、炎症促進性サイトカインの放出が増加する。腫瘍壊死因子α(TNF−α)は、炎症時のアポトーシス性細胞死と細胞増殖とを引き起こす。インターロイキン1β(IL−1β)は、B細胞成熟、炎症および増殖を刺激する。インターロイキン6(IL−6)は、抗菌活性と筋活動を刺激する。スーパーオキシドアニオン(O2)、一酸化窒素(NO)および過酸化水素(H2O2)などの、反応性酸化種(ROS)は、高濃度で細菌や内皮に細胞毒性がある。ROSはまた、核因子κB(NF−kB)を刺激して、炎症促進性遺伝子発現を誘導する。一酸化窒素または内皮由来弛緩因子も、平滑筋弛緩を引き起こす。
【0082】
結果として生じる全身性炎症応答症候群(SIRS)、難治性低血圧および多臓器不全は全て、敗血性ショックの非定型のものである。主に白血球ペリオキシソームで産生される内在性酸化防止物質であるカタラーゼは、NF−kB活性化の増強を含むROSの毒性を軽減するが、敗血性ショックでは押さえ込まれる。
【0083】
カタラーゼの治療的使用の可能性は、その短い静脈内半減期と低い細胞内取込みによって限定されている。カプセル化カタラーゼ製剤(ナノスフェア)は、インビトロでカタラーゼ溶液に優る内皮細胞やマクロファージへの細胞内取込みの増強を示している。血管内皮組織やマクロファージに対する潜在的なカタラーゼ治療は、過剰なROSの毒性や炎症促進性サイトカイン産生を防御し得る。
【0084】
方法:
【0085】
カタラーゼナノスフェアを以下の方法により製剤化した。
【0086】
a.アルブミンを水に溶解させる;
【0087】
b.溶解したアルブミンをグルタルアルデヒドで4〜24時間事前架橋する;
【0088】
c.架橋が完了した後で余分なグルタルアルデヒドを亜硫酸水素ナトリウムで中和する;
【0089】
d.別の容器中でカタラーゼをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(または水もしくは生理食塩水などの他の水性溶媒)に可溶化する;
【0090】
e.可溶化したカタラーゼを、溶液状態の中和し架橋したアルブミンと一緒に混合する;および
【0091】
f.事前架橋したアルブミンとカタラーゼとを含有する溶液を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成する。スプレードライヤーの設定は、以下の通りである。ポンプ2%、アスピレーター50%、入口温度110℃、エアフロー600psi。
【0092】
生成物を回収し、密封容器中に保存した。平均粒径およびゼータ電位を、マルバーンゼータサイザーを用いて測定した。
【0093】
動物研究:
【0094】
大腸菌感染敗血症動物モデル(ラット)で炎症促進性サイトカイン放出に対するカタラーゼ製剤の効果を評価した。3つ全ての群の腹腔内に、カタラーゼ製剤:15mg/kg、次いで、大腸菌LPS 1μg/ml/kgを4時間前処置した。この3つの群は、(1)陽性対照(LPSのみ);(2)カタラーゼ溶液;および(3)カタラーゼナノスフェアであった。24時間で血液試料を採取し、血清をIL−1βについてELISAでアッセイした。
【0095】
結果:
【0096】
溶液製剤と比較したとき、カプセル化製剤は優れた特性を示した。
【0097】
図6は、インビボ(ラット)敗血性ショックモデルでのIL−1β放出に対するカタラーゼ製剤の効果を示す。
【0098】
結論
【0099】
カタラーゼナノスフェアは、インビボ動物モデルでIL−1β放出を阻害した。アルブミンナノスフェアは、敗血性ショックの治療における潜在的治療薬としての内在性抗酸化物質カタラーゼのための潜在的に効果的な送達ビヒクルを提供した。
【0100】
実施例4:ワクチン送達系の例:経口ワクチン:TB抗原に対するナノスフェアを用いたヒト結核菌(TB)に対する粘膜免疫の誘導
【0101】
目的:本実施例で、本発明者らは、経口TBワクチンの製剤化と試験を報告する。
【0102】
序論
【0103】
何十年もの努力と巨額の出費にもかかわらず、結核(TB)は、世界の最も悲惨な疾患の1つであり続けている。また、BCG(カルメット−ゲラン菌)を含むほとんどのワクチンは全身投与され、そのため、強い全身免疫応答を発生させるが、通常、それらは、弱い粘膜免疫しか刺激せず、感染の樹立を効果的に予防することができない。最近、経口経路による抗原の粘膜適用が全身性応答と粘膜応答の両方を誘導することができることが多くの研究者らにより伝えられている。TBに対するワクチンの経口投与にはいくつかの利点があり、それには、投与の容易さ、費用の安さ、および針刺しの回避とそれに伴う病気を移すリスクの低下が含まれる。さらに、経口免疫は、より効果的に粘膜免疫応答を標的とする。モルモットやマウスをM.ボビスBCGで経口免疫すると、脾臓やリンパ節の細胞集団における免疫応答および精製タンパク質誘導体(PPD)特異的な遅延型の過敏症と抗体応答が誘導されることが示されている。高用量のM.ボビスBCGで経口または胃内に免疫したマウスは、皮下経路から免疫したマウスと同じレベルの防御免疫を示し、ヒト結核菌(Mtb)の静脈内投与に対する防御を誘導した。これらの報告は、粘膜免疫が防御的な全身免疫応答を誘導する効果的な手段であり得ることを示唆している。効率的な抗原提示や微生物特異的Tリンパ球によるIFN−γ産生がMtbに対する防御に必要なので、この発見は、BCGワクチン接種の低い効力をさらに説明し得る。それゆえ、効率的な抗原提示能力を有するより効果的な送達系は、疾患と戦うためのより効果的な方法となる可能性がある。
【0104】
以下は、ヒト結核菌死細胞抗原を経口送達するための生体分解性非毒性ナノスフェアの開発を説明したものである。
【0105】
方法
【0106】
ナノスフェア製剤
【0107】
腸溶性コーティング特性を有するヒト結核菌死細胞抗原を含有するナノスフェアを製剤化するための方法の1つの例示的な実施形態は、以下のプロセスを含む:
【0108】
a)アルブミンを水(またはPBSもしくは生理食塩水などの他の水性溶媒)に溶解させる;
【0109】
b)溶解したアルブミンをグルタルアルデヒドで4〜24時間事前架橋する;
【0110】
c)架橋が完了した後で余分なグルタルアルデヒドを亜硫酸水素ナトリウムで中和する;
【0111】
d)別の容器中でヒト結核菌全細胞抗原(ナノスフェアは50%w/wの抗原を含有していた)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に可溶化する;
【0112】
e)限定されるものではないが、メチルメタクリレートなどの腸溶性コーティングポリマーを水に可溶化する;
【0113】
f)可溶化した抗原と可溶化した腸溶性コーティングポリマーとを、溶液状態の中和し架橋したアルブミンと一緒に混合する;および
【0114】
g)事前架橋したアルブミンと抗原とを含有する溶液を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成する。スプレードライヤーの設定は、以下の通りである。ポンプ2%、アスピレーター50%、入口温度110℃、エアフロー600psi。生成物を回収し、密封容器中に保存した。平均粒径およびゼータ電位を、マルバーンゼータサイザーを用いて測定した。
【0115】
使用可能な他のポリマーとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、オイドラギット、それらの組合せおよび混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
表3は、2つの製剤のナノスフェアの生成収率、粒径およびゼータ電位の結果を示す。これらの結果は、生成収率が高かったことを示し、大きな損失を伴わずにこのプロセスを使用することができることを示す。粒径およびゼータ電位は、マクロファージなどの抗原提示細胞による食作用に理想的であることが立証されている範囲内であった。
【0117】
【表3】
【0118】
生体活性研究
【0119】
製剤中の抗原の免疫原性(生体活性)を明らかにするために、Mtb全細胞ライセートをモデル抗原としてナノスフェアの製剤中で使用した。研究は、6匹のラットに対して、ラットへの経口投与のために特別に設計され、メチルメタクリレートで腸溶性コーティングされた、小型カプセル中のカプセル化抗原を経口投与することによって行なわれた。メチルメタクリレートは、pH5.5よりも上で可溶化し、十二指腸での標的薬物送達に有用なpH依存的アニオン性ポリマーである。カプセル1個当たりに充填されたナノスフェアの平均重量は15mgであり、カプセル1個当たりの細胞数は6.525×109個であることが分かった。抗原のブースターは、初回投与後1週目、10週目および12週目に投与した。対照ラットにはブランクナノスフェアのカプセルを3個投与した。
【0120】
150μlの500ng/ml ピロカルピン(シグマ)を腹腔内注射して、唾液の流れを誘導した後に、唾液を採取した。糞試料を回収し、重さを量り、0.1%アジ化ナトリウムを含有するPBSに溶解させた。100mgの糞ペレットを1mlのPBSに懸濁した。10分間ボルテックスして懸濁した後、糞試料を遠心分離し、分析のために上清を回収した。鼻腔を50μlのPBSで3回(合計150μl)洗浄することにより鼻分泌物を回収した。血液試料は尾部採血により回収し、遠心分離後、血清を得た。
【0121】
血清および糞試料は、初回投与の当日、1週目、3週目、7週目および18週目に回収した。唾液および鼻洗浄液は18週目に回収した。酵素連結免疫吸着アッセイを用いて、血清中の抗原特異的IgGと回収した全ての試料中のIgAをプロービングした。
【0122】
図7は、Mtb全細胞ライセート特異的抗体でプロービングしたときの非カプセル化Mtb全細胞ライセート対照、カプセル化Mtb全細胞ライセートおよびBSAブランク対照の光学密度を示す。MtbライセートとMtbナノスフェアは両方とも、ブランクナノスフェアの吸光度とは有意に(p<0.05)異なる吸光度を示した。全細胞ライセート陽性対照の光学密度とカプセル化Mtb全細胞ナノスフェアの光学密度の間には有意差がなかった。Mtb全細胞ライセートとカプセル化Mtb全細胞ライセートナノスフェアは両方ともブランクナノスフェアの吸光度と有意に(p<0.05)異なる吸光度を示した。
【0123】
図7〜10は、試験動物および対照動物における血清および選択された粘膜表面由来の試料中での抗体産生を示す。
【0124】
図7は、抗Mtb全細胞ライセート抗体でプロービングしたときの、非カプセル化Mtb全細胞ライセートおよびブランクBSAナノスフェアの生体活性と比較したカプセル化ヒト結核菌(Mtb)全細胞ライセートの生体活性を示す。
【0125】
血清IgG:図8は、初回免疫後第7週までのおよびナノスフェアのブースター投与5週後の抗原特異的IgGの光学密度を示す。ブースター後2週までは、試験動物と対照の間に有意差は見られなかった。それ以降、抗原特異的IgGレベルは、第7週まで試験動物で有意により高い状態が続いた。
【0126】
図8は、試験ラットおよび対照ラットにおけるMtb抗原特異的血清IgGの光学密度を示す(対照と比較してp<0.05)。
【0127】
血清IgA:図9は、第18週までの抗原特異的IgAの光学密度を示す。第3週およびブースター後2週までは、試験動物と対照との間に有意差は見られなかった。抗原特異的IgAレベルは、第18週まで試験動物で有意により高い状態が続いた。第18週目の試験動物のIgAレベルは、第3および第7週目のIgAレベルよりも有意に高かった(p<0.05)。これは、第10週および第12週目に投与されるブースターの有意な効果を示す。
【0128】
図9は、試験ラットおよび対照ラットにおける全細胞抗原の経口ワクチン接種後の血清IgAレベルを示す。
【0129】
粘膜表面IgA:図10に示す結果は、全ての粘膜表面でのカプセル化ヒト結核菌全細胞抗原に対する抗体の著しい産生を示す。サンプリングした全ての粘膜表面において、試験動物と対照動物の間に有意差があった(p<0.05)。唾液分泌物と鼻洗浄液の両方において、産生されたMtb全細胞抗原特異的IgAの量は、産生された全IgAの大きな割合を形成した(NS鼻洗浄液およびNS唾液分泌物)。鼻洗浄液中の産生された抗原特異的IgAは、産生された全鼻IgAの37.85%であり、一方、唾液分泌物中の産生された抗原特異的IgAは、全唾液IgAの80.97%を形成した。
【0130】
図10は、試験ラットおよび対照ラットにおける様々な体液中のMtb抗原特異的血清IgAの光学密度を示す(対照と比較してp<0.05)。
【0131】
産生されたIgAの有意差は、対照と比較したときに試験試料の糞試料で見られたが、抗体の全般的なレベルは、他の粘膜表面と比較して非常に低かった。
【0132】
結論
【0133】
ほとんどの医薬品の製剤化プロセスは、ほとんどのタンパク質薬のネイティブ構造や立体構造を変化させるのに十分な様々な物理化学的ストレスを伴う。タンパク質薬、特に抗原の製剤化と送達における大きな課題は、その構造完全性、すなわち、その生体活性を、その作用部位に到達するまで保持することである。抗体の力価は、抗原のブースターで増加したが、これはBCGでは示されていないことである。図7〜10に示すように、試験動物と対照の間のIgAとIgGの力価には有意差が見られた。ゼロ時間および初回抗原投与1週後の抗体力価とブースター投与後の抗体力価の間にも有意差があった。
【0134】
これらの結果は、抗原提示細胞によるその取込みを助けることができる方法で調製された場合にカプセル化死細胞が免疫応答を誘導することができることと、マイクロカプセル化が免疫応答用の抗原を提示する理想的な方法であることとを示している。これらの結果は、噴霧乾燥法によるBSAのマイクロカプセル化が、抗原の生体活性に影響を及ぼさなかったことも示している。経口投与も、全身免疫応答と粘膜免疫応答の両方を誘導することができた。
【0135】
実施例5:ワクチン送達系の例:経口腫瘍ワクチン:経口黒色腫ワクチン抗原に対する粘膜免疫の誘導
【0136】
目的:経口黒色腫ワクチン調製物を製剤化し、試験すること
【0137】
序論
【0138】
免疫応答の誘導は、評価のために無傷の免疫系を必要とする複雑でかつ入り組んだプロセスである。そこで、マウス腫瘍モデルを用いて、ナノカプセル化細胞外抗原(MECA)ワクチン調製物を評価した。ワクチンで使用される抗原は、培養で増殖したB16マウス黒色腫細胞から得られた。B16マウス黒色腫細胞と同系のC57BL/6マウスを用いた。これは、予防的腫瘍ワクチンに相当し、この場合には、抗腫瘍応答を誘導するために、マウスに最初にワクチンを接種した。次に、マウス黒色腫の樹立を拒絶する能力を伴って抗腫瘍応答が誘導されたかどうかを明らかにするために、マウスに黒色腫細胞を投与した。
【0139】
方法
【0140】
黒色腫ワクチン調製物の調製:ナノカプセル化ワクチン調製物を、実施例1に記載の方法により調製した。
【0141】
動物研究
【0142】
免疫および腫瘍防御研究
【0143】
MECA(合計80μgのMECA中に20μgのECAを含有する)およびブランクナノ粒子(NP)を、実施例1に記載の噴霧乾燥プロセスにより調製した。最初の研究で使用された等量のナノ粒子(合計80μgのMECA)中の20μgの細胞外抗原の抗腫瘍効果を評価するために、3つの群の雌C57BL/6マウス、8〜12週齢の皮下にワクチンを接種した。これら3つの群に、それぞれ、合計80μgのカプセル化細胞外抗原(MECA)に含まれる20μgの細胞外抗原(ECA)(PBSで総容量100μl中に懸濁されたもの)、PBS中の細胞外抗原溶液(ECA溶液)およびPBS中のブランクナノ粒子(ブランクNP)をワクチン接種した。合計4回注射するために、マウスに3週間毎週ブーストした。最後のブーストの7日後に、マウスの対側部位に7×105個の生きたB16黒色腫細胞を皮下投与した。その後、マウスを腫瘍の発生について60日間観察し、腫瘍サイズと腫瘍発生率を記録した。
【0144】
結果および考察
【0145】
雌C57BL/6マウスの皮下にMECA(80μgの全MECAに含まれる20μgのECA)、ブランクNPまたはECA溶液をワクチン接種した。最初のワクチン接種の後、マウスに、週1回3週間ブーストした。最後のワクチン接種ブーストの7日後、C57BL/6マウスの遠位部位に7×105個の生きた同系B16黒色腫細胞を接種した。その後、マウスを腫瘍の発生についてモニタリングし、腫瘍発生率を記録した(図11)。
【0146】
本研究のMECA群は、60日で80%に腫瘍がない状態であった。これとは反対に、ブランクマイクロ粒子群では40%に腫瘍がなく、ECA溶液群では0%に腫瘍がなかった。
【0147】
マウスの皮下に、4回の注射で合計PBS100マイクロリットルをワクチン接種した。注射は毎週行なった。最後の注射の7日後に、マウスに7×105個の生きた腫瘍細胞(B16)を投与し、MECA群と対照群:ECA溶液(ECA SOLN)およびブランクナノ粒子(ブランクNP)で、腫瘍発生率をモニタリングした。
【0148】
図11は、ブランクマイクロ粒子、経口ワクチンナノ粒子および経口ワクチン溶液群における血清IgG応答を示す。6週まで、マウスに用量50.0mg/0.5mlナノ粒子を毎週投与した。本研究期間中、毎週採血し、ELISAアッセイを用いてIgG応答を解析した。
【0149】
結論
【0150】
インビボ用量応答研究から、80μgの全MECAに含まれる20μgのワクチン用量のECAが本研究で非常によく作用することが明らかになった。この用量のMECAワクチンは、最大で60日の研究期間の間、C57BL/6マウスの80%に腫瘍がない状態をもたらした。これらの研究は、腫瘍抗原のカプセル化が、プロフェッショナルな抗原提示細胞をターゲッティングすることによって免疫を腫瘍誘導するときにアジュバント効果を有し得ることを示唆する。図11は、ブランクナノスフェア投与と比較したときに、IgGのレベルが、ワクチンの経口投与後に有意に高かったことを示す。
【0151】
B16マウス黒色腫腫瘍は非常に厳しい腫瘍モデルである。このため、これは、ヒト状況での癌のより典型的なものである可能性がある。これらの結果は、ナノ粒子がより大きい抗腫瘍効果を誘導することを実際に示すものである。
【0152】
実施例6:細胞トランスフェクション系:NF−kBに対するアンチセンスオリゴマーを用いた細胞へのDNA材料のトランスフェクション
【0153】
目的:ナノスフェアおよび溶液製剤中のアンチセンスNF−kBを用いてDNAの細胞内レベルを明らかにすることによって細胞の全体的なトランスフェクション効率を明らかにすること
【0154】
序論:ナノスフェアは、細胞への遺伝材料のトランスフェクションのための効果的なツールとして使用することができる。現在の細胞トランスフェクション方法の中には、マイクロポレーションなどの、トランスフェクションプロセスの間に、相当な数の細胞死をもたらすものもある。本発明者らの研究で使用されるナノスフェアは、サイズが1ミクロン未満なので、細胞に容易に取り込まれ、ナノスフェア中の薬物/材料を直接細胞に移すことができる。
【0155】
ナノスフェアの製剤化:NF−kBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有するナノスフェアを、実施例1に記載の方法により調製した。
【0156】
以下のように2つの異なる細胞株を用いて2つの研究を行なった:
【0157】
研究a:貪食性のRAWマクロファージ細胞株におけるアンチセンスNF−κBオリゴヌクレオチドのトランスフェクション(ナノスフェア対溶液製剤)
【0158】
目的
【0159】
本研究の目的は、ナノスフェア製剤が、マクロファージなどの食細胞でアンチセンスNF−κBオリゴマーの細胞内濃度を高めることができるかどうかを明らかにすることであった。
【0160】
方法
【0161】
取込み研究
【0162】
RAWマクロファージを24ウェル細胞培養プレートに入れた。細胞をインキュベートし、ウェルに2時間接着させ、次に、リポ多糖(1μg/ml)で1時間処置した。次に、細胞を洗浄し、遊離またはカプセル化形態のフルオレセイン標識アンチセンスNF−κBで処置した。所定の時間間隔(1、4、8、24時間)で、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で5回洗浄し、Triton−X(1%)とともに4℃でインキュベートした。次に、蛍光プレートリーダー(フェニックスリサーチプロダクツから入手可能)を用いて、細胞ライセートをフルオレセインについて解析した。
【0163】
例えば、SDSなどの、Triton−X以外の界面活性剤を使用することができる。ただし、それをどのように上記の文に組み込むのかは分からない。
【0164】
結果
【0165】
以下の図14に示すように、アンチセンスNF−κBは、各時点でカプセル化群により高濃度で見られた。ナノスフェア群では、1時間と4時間または8時間と24時間のアンチセンスNF−κB濃度に有意差はなかった。しかしながら、4時間と8時間の濃度には有意な増加があった。溶液群の中では時間依存的なアンチセンスNF−κB濃度の増加があるように見えたが、有意な増加は認められなかった。
【0166】
図12は、ナノスフェアおよび溶液投与後のマクロファージにおけるアンチセンスNF−κBオリゴヌクレオチドの細胞内濃度を示す。
【0167】
研究b:非食細胞、すなわち、ヒト微小血管内皮細胞(HMEC)におけるアンチセンスNF−κBオリゴヌクレオチドの細胞内レベル(ナノスフェア対溶液製剤)
【0168】
目的
【0169】
本研究の目的は、ナノスフェア製剤が、非食細胞、すなわち、内皮細胞においてアンチセンスNF−κBオリゴマーの細胞内濃度を高めることができるかどうかを明らかにすることであった。
【0170】
方法
【0171】
取込み研究
【0172】
HMECを24ウェル細胞培養プレートに入れ、インキュベートし、ウェルに24時間接着させた。細胞を、遊離またはカプセル化形態の1.875μg/mlのフルオレセイン標識アンチセンスNF−κBで処置した(N=3)。所定の時間間隔(1、4、8、24時間)で、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で5回洗浄し、Triton−X100(1%)とともに4℃でインキュベートした。次に、蛍光プレートリーダー(フェニックスリサーチプロダクツ)を用いて、細胞ライセートをフルオレセインについて解析した。
【0173】
結果
【0174】
以下の図13に示すように、アンチセンスNF−κBは、各時点でカプセル化群により高濃度で見られた(溶液と比較してp<0.05)。マイクロスフェア群の中では、どの時点の間にもアンチセンスNF−κB濃度の有意な増加はなかった。溶液群の中では時間依存的な濃度の増加があるように見えたが、有意差は認められなかった。
【0175】
図13は、ナノスフェアおよび溶液製剤でのヒト微小血管内皮細胞におけるNF−κBアンチセンスオリゴヌクレオチドの取込みを示す。
【0176】
実施例7:敗血性ショックでの抗生物質薬、すなわち、ゲンタマイシンおよびバンコマイシンのナノスフェアの評価
【0177】
目的:敗血性ショックで抗生物質薬ゲンタマイシンおよびバンコマイシンを含有するナノスフェアを評価すること。限定されるものではないが、シプロフロキサシリンなどの他の抗生物質薬も、このようにして使用し得る。
【0178】
序論
【0179】
動物における内毒素症は、活性化マクロファージや多形核細胞からのTNF−αやIL−1βなどの多面的サイトカインの放出に関連している。これらのサイトカインの効果を阻害する実験薬、例えば、モノクローナル中和抗体(TNF−αモノクローナル抗体)、受容体アンタゴニスト(IL−1受容体アンタゴニスト)および受容体融合タンパク質が、敗血性ショックでのその効力について、動物および臨床で評価されている。ゲンタマイシンは、グラム陰性細菌に対して効果的である。他方、バンコマイシンは、ほとんどのグラム陽性細菌に対して殺菌性があり、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)の感受性株によって引き起こされる重篤なまたは重度の感染症の治療に適応する。バンコマイシンは細胞外の細菌に対しては効果があるが、細胞内の細菌に対抗するのは依然として課題となっている。細菌性敗血症の原因病原体のほとんどは内皮細胞の中に逃げ込み、それにより、抗微生物剤の効果をかわす。それゆえ、薬物を細胞内コンパートメントにターゲッティングすることが必要である。これは、ナノスフェアなどの微粒子送達系の使用を利用することにより達成することができる。
【0180】
方法:
【0181】
ゲンタマイシンおよびバンコマイシンナノスフェアの調製。
【0182】
ゲンタマイシンおよびバンコマイシンをカプセル薬として使用することを除き、ゲンタマイシンおよびバンコマイシンのナノスフェア製剤を実施例1に従って作製した。
【0183】
動物研究−ゲンタマイシン
【0184】
体内の大腸菌分布を評価するために、溶液およびナノスフェア形態のゲンタマイシンをラットにおいて試験し、また、2つの製剤を敗血性ショックラットモデルでも評価した。
【0185】
第1群.ゲンタマイシンのカプセル化製剤および溶液製剤の効力の決定[事前処置群]
【0186】
動物に大腸菌(腹腔内;1.1×109cfu/mL)を注射する4時間前に、ナノスフェアおよび溶液ゲンタマイシン製剤(15mg/kgを1日2回、3日間)またはブランクナノスフェア(対照)を様々な動物群に注射した。0、4、24、48、96および120時間での細菌カウントを測定するために、血液試料を採取した。
【0187】
第2群.ゲンタマイシンのカプセル化製剤および溶液製剤の効力の決定[同時処置群]
【0188】
この実験セットでは、大腸菌細菌(1.1×109cfu/mL)を腹腔内投与し、同時にNSおよび溶液ゲンタマイシン製剤(15mg/kgを1日2回、3日間)またはブランクナノスフェア(対照)を様々なラット群に皮下注射した。0、4、24、48、9
6および120時間での細菌カウントを測定するために、血液試料を採取した。
【0189】
第3群.ゲンタマイシンのナノスフェアおよび溶液製剤の効力の決定[遅延処置群]
【0190】
この実験セットでは、大腸菌細菌(1.1×109cfu/mL)を様々なラット群に腹腔内投与し、感染4時間後に、NSおよび溶液ゲンタマイシン製剤(15mg/kgを1日2回、3日間)またはブランクナノスフェア(対照)を注射した。0、4、24、48、96および120時間での細菌カウントを測定するために、血液試料を採取した。
【0191】
結果および考察−ゲンタマイシン動物研究
【0192】
第1群
【0193】
ブランクBSAナノスフェアの投与を伴う対照群が血液中のより多くの菌血カウントを示したのに対し、ゲンタマイシン溶液またはナノスフェアで処置した群は、有意により少ない細菌カウントを示した。溶液処置群は菌血の約75%阻害を示したのに対し、ナノスフェア群は、120時間の最後に血液中の細菌増殖の84%阻害を示した(表4)。生存データ(表5)は、ゲンタマイシン溶液処置群の55%および対照群の35%と比較して、ゲンタマイシンナノスフェア処置群の75%というより高い生存率を示している。
【0194】
【表4】
【0195】
【表5】
【0196】
第2群
【0197】
ブランクBSAナノスフェアの投与を伴う対照群が血液中のより多くの菌血カウントを示しているのに対し、ゲンタマイシン溶液またはナノスフェアで処置した群は、有意により少ない細菌カウントを示している。溶液処置群が菌血の約35%阻害を示したのに対し、ナノスフェア群は、120時間の最後に血液中の細菌増殖の80%阻害を示した(表6)。この処置群では全てのラットが生存した。
【0198】
【表6】
【0199】
第3群
【0200】
ブランクBSAナノスフェアの投与を伴う対照群が血液中のより多くの菌血カウントを示しているのに対し、ゲンタマイシン溶液またはナノスフェアで処置した群は、有意により少ない細菌カウントを示している。溶液処置群が菌血の約15%阻害を示したのに対し、ナノスフェア群は、120時間の最後に血液中の細菌増殖の50%阻害を示した(表7)。この処置群では全てのラットが生存した。
【0201】
【表7】
【0202】
まとめおよび結論
【0203】
これらのインビボでの結果は、ゲンタマイシンナノスフェアが、ゲンタマイシン溶液形態と比較して、血液中の細菌カウントを低下させるのにより効果的であり、ゲンタマイシンナノスフェアが、120分の間で、同時群では溶液形態よりも9%効果的に細菌増殖を阻害し、予防群では溶液形態よりも45%効果的であり、遅延群では溶液形態よりも35%効果的であることを示している。これらの結果は、ゲンタマイシンナノスフェアが、従来的な溶液製剤と比較して、より持続的かつ長時間の作用持続時間を提供すること、したがって、これらのナノスフェアを投薬投与の頻度を減らすために使用し、それにより、薬物と関連する毒性を減少させることができることを示している。
【0204】
バンコマイシン動物研究
【0205】
溶液製剤と比較したバンコマイシンナノスフェアの効力を敗血性ショックラットモデルで明らかにした。
【0206】
3つのシナリオを評価した:
【0207】
第1群.バンコマイシンのカプセル化製剤および溶液製剤の効力の決定[事前処置群]
【0208】
動物に黄色ブドウ球菌(腹腔内;1.0×108cfu/mL)を注射する4時間前に、ナノスフェアおよび溶液バンコマイシン製剤(15mg/kgを1日2回、3日間)またはブランクナノスフェア(対照)を様々な動物群に注射した。0、4、24、48、96および120時間での細菌カウントを測定するために、血液試料(0.5mL)を採取した。
【0209】
第2群.バンコマイシンのカプセル化製剤および溶液製剤の効力の決定[同時処置群]
【0210】
この実験セットでは、黄色ブドウ球菌細菌(1.0×108cfu/mL)を腹腔内投与し、同時にNSおよび溶液ゲンタマイシン製剤(15mg/kgを1日2回、3日間)またはブランクナノスフェア(対照)を様々なラット群に皮下注射した。0、4、24、48、96および120時間での細菌カウントを測定するために、血液試料(0.5mL)を採取した。
【0211】
第3群.バンコマイシンのナノスフェアおよび溶液製剤の効力の決定[遅延処置群]
【0212】
この実験セットでは、黄色ブドウ球菌細菌(1.0×108cfu/mL)を様々なラット群に腹腔内投与し、感染4時間後に、NSおよび溶液ゲンタマイシン製剤(15mg/kgを1日2回、3日間)またはブランクナノスフェア(対照)を注射した。0、4、24、48、96および120時間での細菌カウントを測定するために、血液試料(0.5mL)を採取した。
【0213】
結果および考察−バンコマイシン動物研究
【0214】
第1群
【0215】
ブランクBSAナノスフェアの投与を伴う対照群が血液中のより多くの菌血カウントを示したのに対し、バンコマイシン溶液またはナノスフェアで処置した群は、有意により少ない細菌カウントを示した(図14)。生存データ(表8)は、ゲンタマイシン溶液処置群の40%および対照群の25%と比較して、ゲンタマイシンナノスフェア処置群で80%というより高い生存率を示している。
【0216】
【表8】
【0217】
第2群
【0218】
ブランクBSAナノスフェアの投与を伴う対照群が血液中のより多くの菌血カウントを示しているのに対し、バンコマイシン溶液またはナノスフェアで処置した群は、有意により少ない細菌カウントを示している(図15)。この処置群では全てのラットが生存した。
【0219】
第3群
【0220】
ブランクBSAナノスフェアの投与を伴う対照群が血液中のより多くの菌血カウントを示しているのに対し、ゲンタマイシン溶液またはナノスフェアで処置した群は、有意により少ない細菌カウントを示している(図16)。この処置群では全てのラットが生存した。
【0221】
まとめおよび結論
【0222】
これらのインビボでの結果は、バンコマイシンナノスフェアが、溶液製剤と比較して、血液中の細菌カウントを低下させるのにより効果的であったことを示している。さらに、これらの結果は、これらのナノスフェアが、従来的な溶液製剤と比較して、より持続的かつ長時間の作用持続時間を提供したこと、したがって、これらのナノスフェアを投薬投与の頻度を減らすために使用し、それにより、薬物と関連する毒性を減少させることができることを示している。
【0223】
実施例8:抗真菌薬のアムホテリシンBを含有するステルスナノスフェアの製剤化および評価
【0224】
目的:
【0225】
循環中により長い期間滞留し、かつカプセル薬アムホテリシンの持続放出によって全体的な毒性が標準的な溶液製剤よりも低くなるような、ステルス様特性を有するナノスフェアを生成するために、ポリエチレングリコール(PEG)を有する架橋アルブミンナノスフェアの製剤F−2およびポリエチレングリコール(PEG)を有さない架橋アルブミンナノスフェアの製剤F−1を製剤化し、特徴付けること。限定されるものではないが、ケトコナゾールなどの他の抗真菌薬や、他の水溶性抗真菌薬も、このようにして使用し得る。
【0226】
序論:
【0227】
本研究で、本発明者らは、ナノスフェアにステルス特性を与えるために、架橋前にポリエチレングリコールをBSAマトリクスに取り込ませることを利用している。ナノスフェアにステルス特性を与えることによって、これらのナノスフェアは、循環中により長い期間滞留し、それにより、これらが血管の内側にある内皮細胞に取り込まれる機会をより多く与えるか、またはより高い血中薬物濃度を生じさせることができる。様々な研究により、リポソームや薬物分子中でPEGのステルス特性が利用されている。これは、分子にPEGを共有結合させることにより達成され、これによって修飾薬物分子が生じる。これらの薬物分子は、この部分のサイズが大きいために、細胞膜を横断するのが難しい。PEGが(インビボで)PEG−薬物分子連結から加水分解された後、遊離のPEGは、主に腎臓によって速やかに体外に排出される。
【0228】
本発明者らが知る限り、一般に認められる、BSAナノスフェアに対するPEGのステルス効果を評価するための手法を示した報告はない。本研究では、PEGの存在下でBSAを架橋し、その後、本明細書に記載の噴霧乾燥プロセスでナノスフェアを作製することによって、PEGをBSAマトリックスに取り込ませた。このプロセスにより、水溶性PEGが封入され、注射後すぐに水性媒体に溶解することがなくなり、結果としてステルスの延長がもたらされる。限定されるものではないが、ケトコナゾールなどの他の抗真菌薬や他の水溶性抗真菌薬も、このようにして使用し得る。
【0229】
様々な濃度のPEGを、ナノスフェアからの薬物放出について試験し、検討した。ヒト微小血管内皮細胞(HMEC)を用いて、好適な製剤中でのPEGのステルス効果を明らかにした。
【0230】
ヒト微小血管内皮細胞(HMEC)およびマウスマクロファージ細胞株(RAW)へのインビトロ取込みを評価するための実験
【0231】
結果:
【0232】
図17および18は、それぞれ、2つの異なる細胞株、すなわち、内皮細胞(HMEC)およびマクロファージ(RAW)へのPEGを有するおよびPEGを有さない粒子の取込みを示す。
【0233】
図17は、ヒト微小血管内皮細胞(HMEC)への製剤F−1(ポリエチレングリコールなし)およびF−2(ポリエチレングリコールあり)の比較取込みを示す。
【0234】
図18は、マクロファージ細胞株(RAW細胞)による製剤F−1(ポリエチレングリコールなし)およびF−2(ポリエチレングリコールあり)の比較取込みを示す。
【0235】
結論:
【0236】
この実験は、PEGを有する製剤F−2が、HMEC細胞およびRAW細胞によるかなりの貪食を避け、したがって、一定のステルス特性を達成したことを示している。これは、PEG(粒子の周りに水の塊を生成し、それにより粒子にステルス特性を与える)を含有する製剤の取込みが低いことによって示されている。
【0237】
製剤F−1およびF−2ナノスフェアに由来するアムホテリシンBの毒性効果を評価し、それをアムホテリシンBの従来の溶液(SOL)製剤と比較するための実験
【0238】
研究の目的:
【0239】
カリウムは赤血球(RBC)内に高濃度で見られる。膜が何らかの損傷を受けると、カリウムがRBCから漏れ出す。本研究の目的は、SOL、製剤F−1、および製剤F−2に由来するアムホテリシンBの膜結合効果を評価し、したがって、これらの製剤に由来する薬物毒性を示すことである。
【0240】
結果および結論:
【0241】
製剤F−1およびF−2は、どの実験濃度でもカリウムレベルの増加を示さなかった。しかしながら、アムホテリシンBの溶液製剤は、RBCからの最大0.08mg/mlのかなりのカリウム放出を示し、これは、より高い薬物濃度でも同じであった。この研究は、その溶液製剤と比較したとき、アムホテリシンBのカプセル化製剤の優れた性質をはっきりと示している。
【0242】
実施例9:経口投与を用いた、糖タンパク質薬:ヘパリンのナノスフェアの評価
【0243】
目的:経口送達用の低分子量ヘパリン(LMWH)を含有するナノスフェアの簡単な調製方法を開発すること。
【0244】
方法:この実施例ではヘパリンを薬物として使用したことを除き、ナノスフェアを、実施例1に記載の方法により調製した。
【0245】
【表9】
【0246】
結果:
【0247】
図19は、様々な製剤の投与後のヘパリンの吸収を示す。ヘパリンは、60%のアルブミンマトリックス中に、30%の低分子量ヘパリン、10%のパパインを含有する製剤F4の経口投与後によく吸収される。
【0248】
図19は、ラットにおける抗凝固活性について様々なナノスフェア製剤を24時間かけて単回経口投与した後のLMWHの血漿抗第Xa因子活性レベルを示す。
【0249】
図20は、静脈内(IV)、皮下(SC)および経口(MS.3)投与後のLMWH溶液の薬物動態プロファイルを示す。
【0250】
結論:
【0251】
噴霧乾燥の条件を最適化することにより、所望のサイズ範囲のナノスフェアを調製した。製剤F−2が最も優れていた。この例示的方法は、特に、薬物の送達および開発の分野での幅広い用途のために大規模にナノスフェアを調製するために容易に最適化することができる。
【0252】
実施例10:タンパク質ナノスフェア:糖尿病でのカプセル化インスリンの経口送達
【0253】
序論:インスリンは、糖尿病の治療に必要な、内生的に産生されるタンパク質である。投与したインスリンは肝臓/筋肉細胞により取り込まれ、これらの細胞は、後に、グルコースとグリコーゲンを変換する。インスリンは、2つのアミノ酸鎖(A&B)で構成されるタンパク質分子である。これら2つの鎖は51個のアミノ酸を含有し、ジスルフィド結合を介して連結している。
【0254】
経口送達は、最も一般的な薬物送達方法である。しかしながら、タンパク質分子の経口送達では、2つの主な問題が生じる。第1に、インスリンは、消化管(GIS)系(主に胃と、小腸の近位領域)の消化酵素によって不活化される。この不活化は、胃の厳しい環境からインスリンを保護した後に、より好ましいGITの領域に放出することができる担体を設計することによって克服することができる。さらに、薬物製剤中のプロテアーゼ阻害剤が、タンパク質分解酵素によるインスリン分解を防ぐのに役立つ可能性がある。第2の主な障害は、インスリンが大腸の内膜を越えて血流中に輸送されるのが遅いことである。インスリンは、親水性薬物分子の傍細胞輸送機構を守るタイトジャンクションを通過しなければならない。巨大分子をGITを越えて輸送しやすくする吸収増強剤を使用することで、この遅さを克服しようとすることができる。
【0255】
本開示の製剤化方法および送達系においてインスリンの代わりに使用し得る他のタンパク質薬には、限定されるものではないが、通常は胃での分解に感受性のあるモノクローナル抗体、成長ホルモン、および他のタンパク質薬が含まれるが、それは、この方法が、胃内の厳しい酸性環境からタンパク質を保護し、さらに腸内で持続的に薬物を放出するからである。
【0256】
本研究では、本発明者らは、アルブミンポリマーマトリックスにカプセル化した後、インスリンの経口送達を試みている。
【0257】
インスリンを含有するナノスフェアの製剤化のための1つの例示的な方法は、以下のプロセスを含む:
【0258】
a.βシクロデキストリンを水に溶解させる;
【0259】
b.別の容器中でインスリンをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(または水もしくは生理食塩水などの他の水性溶媒)に可溶化する;
【0260】
c.限定されるものではないが、エチルセルロースなどの、腸溶性コーティング材料を水に可溶化する;
【0261】
d.可溶化したインスリンとエチルセルロースをβ−シクロデキストリンと一緒に混合する;および
【0262】
e.溶解したβシクロデキストリンとインスリンを含有する溶液を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成する。スプレードライヤーの設定は、以下の通りである:ポンプ2%、アスピレーター50%、入口温度110℃、エアフロー600psi。
【0263】
動物研究:ラットで糖尿病を誘導し、栄養チューブで経口投与されるインスリンナノスフェアで処置した。ベースライン時点およびその後24時間の様々な時点で血液試料を採取し、グルコメーターを用いて、血糖値を測定した。
【0264】
図21は、血糖値に対するナノスフェア製剤中のインスリン経口投与の効果を示す。
【0265】
結論:図21に見られるように、経口投与されるインスリンナノスフェアの単回投与後4時間にわたって、血糖値は有意に低下した。
【0266】
実施例11.眼送達系:眼送達用のテトラカインおよびアトロピンナノスフェアの調製および特徴付け
【0267】
テトラカインは、白内障の眼科手術の時に使用される。しかしながら、現在、これは1%溶液として市販されている。この溶液を白内障手術に使用する場合、その麻酔作用の持続時間が短いために、薬物を10分ごとに繰り返し投与しなければならない。これは、患者にとって大きな不快感となり、かつ溶液製剤を繰り返し注入しなければならない執刀医にとって大きな障害となる。したがって、テトラカインの持続放出製剤が必要とされている。本研究の目的は、キトサン−アルブミンをカプセル化マトリックスとして用いたナノスフェア製剤中の塩酸テトラカインを調製し、試験することであった。
【0268】
アトロピンは、散瞳作用(すなわち、瞳孔拡大を誘導する)のために眼に対して現在使用されている。しかしながら、これは非常に強力な薬物であり、現在市販されている溶液製剤の投与は、子供の死亡を含む、重大な副作用をもたらす。本研究の目的は、この薬物の投与で見られることが多い毒性を低下させるためにアトロピンの持続放出製剤を調製することである。
【0269】
ポリマーマトリックス中に正の電荷を帯びたキトサンが存在すると、眼内滞留時間がより長くなり、結果として薬物が持続放出され、作用の持続時間がより長くなり、毒性が低くなる。
【0270】
ここに記載する製剤化方法を用いて、眼科用で薬物を持続的に放出させることができる製剤を調製することができる。
【0271】
塩酸テトラカインナノスフェアの調製:
【0272】
どちらの方法、すなわち、溶液架橋と表面架橋のどちらによって、作用の持続時間がより長いナノスフェアが生成されるかを明らかにするために、2つの異なるナノスフェア調製技術を用いた。
【0273】
1)溶液架橋ナノスフェアの調製:
【0274】
a)5%w/vウシ血清アルブミン−キトサン(BSA−CSN)溶液を調製し、上記の0.75%グルタルアルデヒドで架橋した。
【0275】
b)塩酸テトラカインを、架橋したBSA−CSNマトリックスに添加し、10%の薬物充填を達成した。
【0276】
c)ブランクナノスフェアについては、BSA−CSNのみを脱イオン水に溶解させ、上記のように架橋した。
【0277】
d)架橋した溶液を、ビュッヒ191ミニスプレードライヤー(ビュッヒ191、スイスから入手可能)を用いて噴霧乾燥し、化学的に安定なテトラカインHClが充填されたBSA−CSNナノスフェアまたはブランクナノスフェアを得た。
【0278】
スプレードライヤーの様々なパラメータ、すなわち、入口温度、ポンプフロー、吸引速度および空気圧を最適化した。
【0279】
様々な量比のBSAとCSNを用いて、様々な製剤(A、B、C、D、Eなど)を得た。これらのナノスフェアを生成物コレクターから回収して、4℃で保存した。
【0280】
2)表面架橋ナノスフェアの調製:
【0281】
a)5%w/vウシ血清アルブミン−キトサン(BSA−CSN)溶液を架橋せずに調製した。
【0282】
b)塩酸テトラカインをこのBSA−CSN溶液に添加し、10%の薬物充填を達成した。
【0283】
c)ブランクナノスフェアについては、BSA−CSNのみを脱イオン水に溶解させた。
【0284】
d)この溶液を、ビュッヒ191ミニスプレードライヤー(ビュッヒ191、フラウィル、スイス)を用いて噴霧乾燥し、化学的に安定なテトラカインHClが充填されたBSA−CSNナノスフェアを得た。
【0285】
e)これらのナノスフェアを生成物コレクターから回収し、表面を2−ブタノール中の1%グルタルアルデヒドで4時間架橋した。得られた懸濁液を濾紙を用いて濾過した。これらのナノスフェアを乾燥させ、4℃で保存した。
【0286】
ナノスフェアの特徴付け
【0287】
粒径分布
【0288】
レーザー回折粒径分析計(ナノゼータサイザー、マルバーンインスツルメンツ、UKから入手可能)を用いて、BSA−CSNナノスフェアの粒径分布を測定した。この手順のために、0.1% Tween 20を含有する蒸留水(2mg/ml)にナノスフェアを懸濁した。ナノスフェアの粒径を下記の表10に記載する。狭い径分布を有するナノスフェアが得られたことが結果から明らかである。
【0289】
ゼータ電位
【0290】
ゼータ電位測定のために、ナノスフェアを1mM KCl溶液に最終濃度2mg/mlで懸濁し;この懸濁液を光学ウェルに充填し、マルバーンゼータサイザー、ZEN1600を用いてゼータ電位を測定した。ゼータ電位を下記の表10に記載する。
【0291】
【表10】
【0292】
表面形態および収率
【0293】
走査電子顕微鏡(JEOL JSM 5800LV、東京、日本)を用いてナノスフェアの表面特徴を評価した。表面は滑らかであることが分かった。
【0294】
インビトロ放出研究
【0295】
テトラカインHClが充填されたナノスフェアのインビトロ放出研究を、改良されたUSPI型溶出装置中で天然涙液pH7.4(100ml)を用いて37℃で実施した。テトラカインナノスフェア(25mg)を分子量カットオフ12〜14kDaの透析袋内の天然涙液3mlに懸濁した。溶出装置を100rpmに設定し、試料を所定の時間間隔で採取した。これらの試料を310nmでUV/Vis分光光度計により分析した。表面架橋ナノスフェアの放出プロファイルにおいて大量の初期バースト放出があった。しかしながら、溶液架橋の放出プロファイルは、ごくわずかな初期バースト放出しか示さなかった。
【0296】
カプセル化効率
【0297】
テトラカインが充填されたアルブミン−キトサンナノスフェア10mgを 2%トリプシンを含む100mM PBS pH7.4 10mlに懸濁した。等量のブランクナノスフェアを対照として用いた。このナノスフェア懸濁液を37℃で24時間撹拌した。310nmでLambda 4B UV/Vis分光光度計を用いて、得られたPBS懸濁液をテトラカインについて分析した。カプセル化効率は、96%であることが分かった。
【0298】
次に、動物モデルにおけるインビボ効力を評価した。
【0299】
ウサギにおけるインビボでのテトラカインマイクロスフェア製剤の効果の評価
【0300】
本研究では、その全体的な効力を測定し、比較するために、ナノスフェア製剤(試験)および溶液製剤(対照)中のテトラカインを評価した。これは、まばたき反応モデルを用いて行なわれた。このモデルでは、試験溶液または対照溶液のいずれかを2滴、ウサギの眼に注入した。綿棒で触れたときに眼が2回連続してまばたき反応を示すまで様々な時点で動物の眼を注意深く観察した。
【0301】
これらのインビボの結果は、2つのナノスフェア製剤間の作用の発現と標準的な市販薬の作用の発現の間に統計学的な差がないことを示した。しかしながら、テトラカインの作用持続時間は、溶液架橋形態に関する限り、約4倍増加した。表面架橋形態から得られた結果もまた、標準的な市販形態の溶液と比較して、テトラカインの作用の持続時間の約3倍の増加を示した(表11)。
【0302】
【表11】
【0303】
硫酸アトロピンが充填された眼送達用のキトサン−アルブミンナノスフェアの調製および特徴付け
【0304】
目的
【0305】
本研究の目的は、キトサン−アルブミンをカプセル化マトリックスとして用いて、硫酸アトロピンナノスフェアを調製し、特徴付け、かつそれらを粒径、ゼータ電位、%収率、カプセル化効率および表面形態ならびにインビボ効力について特徴付けることであった。
【0306】
ナノスフェアの調製:
【0307】
上記のテトラカインナノスフェアについて上で記載したのと同じように硫酸アトロピンナノスフェアを調製し、特徴付けた。結果を表12に示す。
【0308】
【表12】
【0309】
パーセンテージ収率、カプセル化効率、表面形態および放出パターンは、テトラカインナノスフェアについて得られたものと同様であった。溶液法によって調製された硫酸アトロピンナノスフェアのみをインビボ研究で用いた。
【0310】
次に、本発明者らは、溶液製剤との比較で、製剤化されたアトロピンナノスフェアの効力を評価した。
【0311】
ウサギの眼の瞳孔散大に関するアトロピンナノスフェア製剤の評価および対応するアトロピン溶液製剤との比較。
【0312】
瞳孔対角膜の長さの比を測定することにより、散瞳作用を測定した。この実験では、薬物を眼の角膜に、特定の時点で投与し、ウサギの眼の軸に沿って角膜と瞳孔の長さを測定した。
【0313】
硫酸アトロピンナノスフェア製剤(0.66%)の懸濁液をウサギの眼に適用した(n=12)。各眼に2滴滴下した。1匹の動物において、一方の眼は被験物としての役割を果たし、対側の眼は対照としての役割を果たす。パナソニック30Xデジタルカメラを用いて、各ウサギの眼をビデオ撮影した。図22は、アトロピン溶液製剤(1%)と比較したマイクロスフェア製剤(0.66%)のデータを示す。ここで、硫酸アトロピンナノスフェア懸濁液(0.66%)の強度は、標準的な市販溶液(1%)の強度よりも低いが、低濃度(0.66%)でのナノスフェア製剤の散瞳作用は、標準1%溶液の散瞳作用よりも上であった(図22)。
【0314】
図22は、標準アトロピン1%溶液とより強度の低い硫酸アトロピンカプセル化ナノスフェア(0.66%)のウサギの眼における瞳孔対角膜の長さ比に対する影響の比較を示す。
【0315】
実施例12:HIV感染を予防するためのHIV−1阻害剤カラギーナンを含有するナノスフェアの開発
【0316】
目的:
【0317】
カラギーナンは、マイクロビサイドと呼ばれる一群の化合物に属する。マイクロビサイドは、膣または直腸に適用されたときに、HIVおよび場合によっては、性感染する他の感染症の感染を大幅に低下させることができる。λカラギーナンは、ゲル製剤でインビトロでHIV−1感染を阻止することが示されているカラギーナン中の活性のある薬学的成分である。しかしながら、第3相臨床試験におけるその使用は、HIV−1の性感染を低下させることができなかった。この臨床試験の失敗と関連する考えられる要因は、不適切なゲル使用や、ゲル製剤の短い滞留時間である可能性がある。本発明者らは、水溶性形態でヒトの膣に送達し、持続放出とより長い滞留時間を提供し得るナノスフェア製剤を開発した。他の抗HIV薬物も、このようにカプセル化し、製剤化し、使用し得る。
【0318】
方法:
【0319】
以下の製剤化方法を使用した:
【0320】
a)1%w/vカラギーナンとHPMCとを脱イオン水中で別々に調製し、混合して、1対1の薬物対ポリマー比を得た。
【0321】
b)上記の溶液を、0.75%グルタルアルデヒドで事前架橋した2.5%アルブミン溶液に添加した。
【0322】
c)架橋した薬物ポリマー溶液をビュッヒ191ミニスプレードライヤー(ビュッヒ191、スイスから入手可能)を用いて噴霧乾燥し、化学的に安定化されたナノスフェアを得た。
【0323】
結果:
【0324】
噴霧乾燥したマイクロ粒子の収率は51%〜58%であった。室温での薬物放出は、pH6および7の溶液中で、24時間で完了したが、pH4およびpH5の溶液中での放出は最大96時間までなかった。37℃で、pH4およびpH5の溶液中での薬物放出は、1時間で30%、24時間で40%であった。37℃で、放出は、pH6および7の溶液中で1時間以内に90%完了し、24時間で完全に放出された(表13)。
【0325】
【表13】
【0326】
結論:
【0327】
健常ヒト膣中のpH条件は、通常、4.2〜5のより酸性のpHに向かう傾向がある。これは、乳酸を産生する常在菌である乳酸菌が存在することによる。この酸性環境は、感染や炎症に対する天然のバリアを提供している。膣のpHが変化し、より塩基性になると、それによって天然の防御機構の弱体化が起こる。本発明者らは、様々なpH条件でカラギーナンアルブミン−HPMCナノスフェア製剤のインビトロでの薬物放出を研究した。室温および37℃で検討を行ない、マイクロ粒子生成物の製剤化および保存の基準を得た。pH4〜5/室温でのマイクロ粒子からのカラギーナンの放出は最大96時間観察されなかった。本発明者らの試験結果は、37℃での、1時間から24時間の時点におけるpH6〜7でのカラギーナンの持続放出、およびpH4〜5でのゆっくりとした放出を示した。このカラギーナンマイクロ粒子製剤は、pH4〜5の溶液中で、室温で製剤化し、保存することができた。したがって、カプセル化製剤中のカラギーナンは、HIV感染を予防するためのヒト膣への送達系として使用できる可能性がある。
【0328】
実施例13:ポックスウイルス疾患の治療用のフルオロキノロンなどの抗ウイルス薬ナノスフェアの製剤化および評価
【0329】
目的:
【0330】
天然痘の撲滅は、ポックスウイルス生物学、ウイルス−細胞相互作用、および関連性のある宿主防御の分子細胞特性の研究に必要な分子ツールが限られているときに行なわれた。2001年9月11日に米国本土に対して行なわれたテロ攻撃と(テロ攻撃に続く数週間の間の)意図的な炭疽菌の放出により、天然痘の病原体である、天然痘ウイルスの未廃棄ストックが存在するかも知れないという懸念が高まった。天然痘ウイルスを用いた生物テロの脅威と、他のポックスウイルスによって引き起こされる疾患の罹患率の上昇を理由として、ポックスウイルス感染に対する新しい治療を開発する研究が再び行なわれている。この研究は、フルオロキノロンと呼ばれる、一群の抗生物質と、原型ポックスウイルスであるオルソポックスウイルスワクシニアに対するその効力とを研究するために行なわれた。標準化されたアッセイを開発し、複数のフルオロキノロンと、ワクシニアに対するその効力を試験し、比較した。
【0331】
溶液製剤中のフルオロキノロンは、ポックスウイルスに対する優れたインビトロでの抗ウイルス活性を示し、ポックスウイルス疾患の治療における良い治療薬候補であり得るが、これらには重篤な副作用がある。幼児(動物およびヒト)では、フルオロキノロンは、関節毒性を示す。小児では、関節痛(関節の痛み)、腱障害、異常歩行および関節炎が報告されている。複数の動物種(マウス、ラット、ウサギ、イヌ、およびウマを含む)では、関節病変、プロテオグリカンの損失、および軟骨細胞の異常が示された。
【0332】
それゆえ、本発明者らは、これらの関節毒性のいくつかを軽減または完全に予防するために、フルオロキノロンのカプセル化に関心がある。また、カプセル化は、フルオロキノロン薬をポックスウイルス複製の部位(樹状細胞、マクロファージ、脾臓、肺、肝臓、骨髄)にターゲッティングするとともに、フルオロキノロンの高容量の分布を減らし、かつ薬物を関節軟骨から離れるように改良し;それにより、前述のような若年性関節毒性を低下させるはずである。
【0333】
方法:
【0334】
以下の製剤化方法を使用した:
【0335】
a)表13に記載のフルオロキノロンを、各々脱イオン水に溶解させてカプセル化し、5%w/v溶液を作製した。
【0336】
b)上記の溶液を、0.75%グルタルアルデヒドで事前架橋した2.5%アルブミン溶液に添加した。
【0337】
c)架橋した薬物ポリマー溶液をビュッヒ191ミニスプレードライヤー(ビュッヒ191、スイスから入手可能)を用いて噴霧乾燥し、化学的に安定化されたナノスフェアを得た。
【0338】
結果:
【0339】
複数のフルオロキノロン化合物の効力の決定−ワクシニアに対して最も強力なフルオロキノロン化合物の決定。
【0340】
表13に阻害濃度(IC50)を記載する。クリナフロキサシンとサラフロキサシンが最も強力であり、オフロキサシンやレボフロキサシンよりもほぼ10倍高い抗ポックスウイルス活性を有する。
【0341】
【表14】
【0342】
結論:
【0343】
クリナフロキサシンとサラフロキサシンが最も強力であり、オフロキサシンやレボフロキサシンよりもほぼ10倍高い抗ポックスウイルス活性を有する。
【0344】
したがって、これらの研究は、同等の溶液製剤と比較したときのナノスフェア製剤の効力の増加をはっきりと示している。本開示の製剤化方法は自動化できるプロセスなので、医学における新たな戦略や技術革新を達成するためのナノスフェアやナノテクノロジーの進歩において大いに役立つことができる。
【0345】
代替のポリマーマトリックスならびにタンパク質、ワクチンおよび他の水溶性薬物の経口および経皮送達などの代替の送達方法の開発
【0346】
ワクチン、および薬物のナノ粒子およびマイクロ粒子の経口送達
【0347】
本発明者らの方法で調製されたナノ粒子およびマイクロ粒子を用いた経口薬物送達とワクチン接種を論じる。過去数十年にわたって、油中水型エマルジョンなどの経口インフルエンザワクチンを用いた前臨床動物研究が行なわれてきた。送達ビヒクルとして働く現在市販されているいくつかのアジュバント、例えば、リポソーム、オイルアジュバント、およびフロイントアジュバントは、抗原を免疫担当細胞にターゲッティングするのに役立ち得るが、生産コストが高い(例えば、リポソーム)または重篤な毒性の問題(例えば、フロイントアジュバントおよびオイルアジュバント)などの欠点がある。これまでの臨床研究により、インフルエンザワクチンの経口免疫が安全であること、さらには経口ワクチン接種が、気道における粘膜IgA抗体応答を誘導することができることが示された。より重要なのは、粘膜IgA抗体は、変異体ウイルスとのより大きい交差反応性を示すことが示されているので、経口ワクチン接種によって誘導される粘膜免疫応答により、抗原変異を生じた株に対するより幅広い防御が与えられる可能性があることである。これらの経口免疫は、残念なことに、低レベルでしか血清IgGを誘導しなかったが、粘膜部位ではIgA抗体を誘導した。しかしながら、防御効力は低いおよび/または防御は不十分であった。効果的なインフルエンザ経口ワクチンの開発にはいくつかの課題があり、これには、インフルエンザ抗原安定性の維持、免疫寛容の回避、および強力な防御免疫の誘導が含まれる。
【0348】
経口ワクチン送達は、単純で、簡単で、かつ安全なワクチン接種方法であり、魅力的な免疫方法である。経口免疫は、一般的な粘膜免疫系と、腸のパイエル板での抗原処理とを刺激することによって、免疫応答を誘導することができる。投与のために訓練された医療人員が必要ないので、大量のワクチン接種には、経口免疫が好ましい経路である。また、経口ワクチン接種は、筋肉内注射よりも合併症が少ない。経口ワクチンは自分で投与することができ、かつ経口ポリオワクチン接種が示すように、免疫接種範囲を改善することができる。世界的規模での人々への年1回のインフルエンザワクチン接種は、大きな負担であり、それゆえ、効果的な経口ワクチンの開発は、大衆にとっての大きな健康上の利益となるであろう。
【0349】
本発明者らは、胃の酸性条件下で感受性の生体活性タンパク質、ワクチン抗原および薬物を安定化する新規の方法を開発した。エチルセルロース材料などの腸溶性コーティングを含有するマトリックス中に抗原をカプセル化することにより、感受性の抗原が胃の酸性条件下で分解されないようになることが分かった。さらに、カプセル化によって、カプセル化された材料を持続的に放出することができるナノ粒子およびマイクロ粒子が生成されることになり、さらに、ナノ粒子およびマイクロ粒子は、免疫系に抗原を提示する好ましい形態である、免疫刺激アジュバントとしての役割を果たす。可溶性抗原は、ほとんどの場合、経口免疫後に、免疫寛容を誘導する。対照的に、微粒子性のカプセル化抗原は、免疫寛容を伴わずに所望の免疫応答を誘導する独特な形態の抗原である。これらのカプセル化抗原を、カプセル化ワクチンを取り込んで、免疫を発生させる、樹状細胞、リンパ球および(例えば、M細胞抗体またはリガンドを用いて)腸のパイエル板に存在する貪食M細胞に戦略的にターゲッティングすることができる。
【0350】
本発明者らは、インフルエンザワクチン抗原を使用した。しかしながら、このワクチン投与方法は、本発明者らが試験した他のワクチン、例えば、乳癌抗原、前立腺癌抗原、卵巣癌抗原、黒色腫癌抗原などに適用することができる。試験された他の生体活性薬物としては、インスリン、B型肝炎抗原、腸チフス抗原、およびTB抗原が挙げられる。これらの微粒子形態の抗原は極めて効果的であることが分かった。例えば、死滅インフルエンザによる免疫により誘導された防御免疫応答は、マウスで14カ月間の長きにわたって続いた。さらに、インフルエンザによる単回免疫によって防御免疫が誘導された。このインフルエンザワクチン方式は、高病原性の鳥インフルエンザウイルスまたは豚起源のインフルエンザウイルスの2009A/カリフォルニア流行株に対するワクチン候補を生産するのに容易に適用できる。
【0351】
経口、皮下または経皮用のワクチンまたは薬物の製剤化の方法
【0352】
エチルセルロース(EC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート(HPMCAS)およびシクロデキストリンの組合せを含む持続放出マトリックス製剤を含有する、経口、皮下または経皮投与することができる新規のマイクロ粒子/ナノ粒子のカプセル化製剤を以下で論じる。
【0353】
実施例14:本発明者らは、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート(HPMCAS)およびシクロデキストリンの組合せを含む持続放出マトリックスを含有する製剤を調製した。以下に記載される様々な用途のために、様々な薬物およびタンパク質をナノ粒子およびマイクロ粒子中にカプセル化した:
【0354】
a)ECおよびHPMCASを水に溶解させた(PBS、生理食塩水といった、水性溶媒の1つを使用することもできる)。
【0355】
b)シクロデキストリンを水(またはPBSもしくは生理食塩水などの他の水性溶媒)に溶解させ、上記2つの溶液を混合した。
【0356】
c)様々な薬物、生体活性タンパク質、ワクチン、または他の水溶性化合物を、水(またはPBSもしくは生理食塩水などの他の水性溶媒)に別々に溶解させた。
【0357】
d)これら3つの水性溶媒を混合し、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥した(今回のケースでは、本発明者らは、ビュッヒ191を使用したが、これらの粒子を噴霧乾燥するために、どのスプレードライヤーを使用してもよい)。
【0358】
e)スプレーノズルを冷却循環水または他の水性溶媒中に維持し、ノズルを冷やした状態に保った。これにより、噴霧乾燥される薬物または化合物の分解が抑えられる。
【0359】
f)スプレードライヤーを以下の条件に設定した:入口温度121〜130℃、アスピレーター50〜90%吸入速度、圧縮空気500〜900
【0360】
g)噴霧される材料を回収容器に回収し、材料の性質に応じて4〜85℃で保存した。
【0361】
h)製剤化したナノ粒子/マイクロ粒子製剤を、以下に概要が示されるいくつかの用途および研究に用いた:
【0362】
図23は、ブランクナノ粒子の顕微鏡写真(SEM)である。サイズは、マルバーンゼータサイザーを用いて測定した。サイズ範囲は、45〜85nm(平均68nm)であった。
【0363】
実施例15:インフルエンザウイルスを用いた経口ワクチン接種研究は免疫を与えることができる
【0364】
経口ワクチン接種の概念を証明するものを試験するために、マウス(Balb/c)に不活化PR8ウイルスワクチン(約7.5ug HA)を3回(第0週、第4週、および第8週)経口免疫した。経口免疫したマウスは、ウイルス特異的血清IgG抗体応答を誘導した。粘膜免疫応答は測定中である。免疫血清中の血球凝集阻害(HAI)や中和活性(NA)などの機能性抗体の誘導は、防御免疫応答のより良い指標である。ブースト免疫の後に、相当なレベルのHAIおよびNA力価が検出された(図24A)。防御免疫が経口ワクチン接種によって誘導されるかどうかを明らかにするために、2回目のブースト免疫の10週間後に、免疫したマウスに致死用量(5×LD50)のマウス馴化相同ウイルス(A/PR8)を投与した。免疫していない(ナイーブ)マウスは全て死んだ。免疫したマウスは、一時的な体重減少を経験したものの、100%防御された(図24C)。経口ワクチン接種は、防御免疫を誘導するために高用量の不活化インフルエンザウイルスワクチンを必要とした。それゆえ、経口ワクチン接種によって防御免疫を誘導するのは、極めて実現可能性が高い。しかしながら、経口ワクチン接種による防御効力を改善することが課題として残っている。
【0365】
図24は、不活化ウイルスワクチンの経口ワクチン接種によって防御免疫が誘導されるという結果のグラフを示す。
【0366】
A)経口ワクチン接種によって誘導される血清HAI応答。第1の棒は、ナイーブな、免疫していない対照;第2の棒は、1回目のブースト免疫後の第1の免疫したマウス;第3の棒は、2回目のブースト免疫後の第2の免疫したマウス。
【0367】
B)中和活性。PR8ina、不活化A/PR8ウイルスによる経口ワクチン接種。
【0368】
C)致死量投与による感染後の体重変化。
【0369】
実施例16:マウスにおける黒色腫経口ワクチン試験
【0370】
本研究では、本発明者らは、研究期間中の腫瘍増殖を測定することにより、経口免疫の有効性を評価した。これは、予防的腫瘍ワクチンに相当し、この場合には、抗腫瘍応答を誘導するために、マウスに最初に10週間経口ワクチン接種した。次に、本発明者らは、様々なマウスの群にワクチン製剤を経口投与した。ブースター用量のワクチンを毎隔週投与し、10週間後、生きたB−16黒色腫腫瘍細胞を動物に肩の部分に皮下投与した。
【0371】
経口ワクチンの製剤化
【0372】
B−16黒色腫癌細胞を、サブコンフルエントになるまで、95%CO2インキュベーターにて75cm2組織培養フラスコ中で3日間培養した。細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH7.4で洗浄した。次に、細胞を、インキュベーターにてPBS中で3日間インキュベートした。細胞懸濁液を回収し、100×gで10分間遠心分離した。細胞ペレットを低張緩衝液中でホモジナイズし、1200rpmで5分間遠心分離して、核とその他の破片を除去する。膜断片と細胞質タンパク質とを含有する上清を回収し、ワクチンを調製するために使用した。標準アッセイでタンパク質含有量を測定した。
【0373】
上記のような噴霧乾燥プロセスにより、ワクチン抗原のナノスフェア(NS)を調製した。経口ワクチン製剤は、培養で増殖したB−16黒色腫癌細胞に由来する抗原を含有する。一般的なワクチン製剤化手順は、事前架橋アルブミンを生体分解性ポリマーマトリックスとして使用することを含む。ワクチン材料を胃内の胃酸中での分解から保護するための腸溶性コーティング材料として、エチルセルロースもポリマーマトリックスに取り込ませる。
【0374】
本発明者らは、経口ワクチンがインビトロで実際に腸部分に輸送されることも最初に示すことにする。この場合、ウッシング拡散装置にラット小腸の切片を取り付ける。ワクチンNSを腸組織切片の上(頂端側)にスラリー状で置く。腸を横断するNSを測定するために、試料を下のチャンバーから採取した。
【0375】
予備的研究において、本発明者らは、以下のレクチンターゲッティング剤を試験した:
【0376】
a)コムギ胚芽凝集素(WGA)、
【0377】
b)ユレックス・ユーロパウエス1(UEA−1)、および
【0378】
c)コンカナバリンA(ConA)
【0379】
これらのレクチンは、パイエル板中のM細胞へのターゲッティングを促進することが示されている。
【0380】
試験した3つのうち、コムギ胚芽凝集素(WGA)とユレックス・ユーロパウエス1(UEA−1)がM細胞への優れたターゲッティングを示した(図25)。
【0381】
本発明者らは、ナノスフェアがパイエル板に非常に効率的に取り込まれることも示した(図26)。この研究では、ウッシング拡散装置に取り付けられた小腸の切片を使用する。この場合、ナノスフェアからのワクチン材料の放出と輸送を非常に体系的に評価することができ、これは、腸におけるワクチンナノスフェアの取込みを表す優れたモデルである。ワクチンナノスフェアを腸組織切片の上(腸の内側に相当する頂端側)にスラリー状で置く。試料を、生理食塩水を含む下のチャンバーから採取する。この試料は、腸部分を越えて輸送されるナノ粒子に相当する。
【0382】
図25は、ターゲッティングレクチンの存在下で、NSのCaco2およびM細胞への取込みを示すグラフである。図26は、腸のパイエル板の微絨毛におけるナノスフェア(緑色の点)分布の顕微鏡写真である。
【0383】
この次のインビボ研究で、本発明者らは、研究期間中の腫瘍増殖を測定することにより、経口免疫の有効性を評価した。これは、予防的腫瘍ワクチンに相当し、この場合には、抗腫瘍応答を誘導するために、マウスに最初に10週間経口ワクチン接種した。次に、本発明者らは、様々なマウスの群にワクチン製剤を経口投与した。ブースター用量のワクチンを毎隔週投与し、10週間後、肩の部分に皮下注射される、生きたB−16黒色腫腫瘍細胞を動物に投与した。
【0384】
図27A〜Cは、黒色腫経口ワクチンの効力を示すグラフである。図27A:B16黒色腫細胞を投与した後の平均腫瘍サイズ。図27B:経口免疫したマウスの糞便IgA動力学。図27C:経口免疫したマウスの血清IgGレベル。
【0385】
ノギスを用いて腫瘍サイズを毎週4週間測定した(図27A)。この研究では、固形腫瘍の発生に影響を及ぼす能力とともに、抗腫瘍応答が経口ワクチン接種後に誘導されるかどうかを調べた。経口ワクチン接種群では、腫瘍発生の開始は、対照での6日と比較して、16日であった。腫瘍サイズは、ワクチン接種群で有意により小さかった。図27Bおよび27Cで、IgGとIgAの両方のレベルは、同等の溶液製剤または対照(ブランクマイクロスフェア)と比較したとき、経口ワクチン接種後10週間の研究期間の最後で、および腫瘍投与期間中(第11〜14週)、有意に高かった。要約すると、経口ワクチン接種は、腫瘍の発生と進行を遅延させ、高い抗体力価を生じさせた。
【0386】
経口的および経皮的に試験される他の腫瘍ワクチンおよびB型肝炎ナノ粒子/マイクロ粒子ワクチン
【0387】
実施例17:乳癌ワクチン:
【0388】
乳癌ワクチンについては、B−16黒色腫ワクチン法について記載したワクチン製剤に4T07マウス乳癌抗原を使用し、Balb/cマウスで試験した。ナノ粒子およびマイクロ粒子中にカプセル化した4T07マウス乳癌抗原を8週間にわたって経口または経皮のいずれかでワクチン接種したマウスは、腫瘍を発生させず、カプセル化ワクチンの経口または経皮投与の後に、強い抗体力価(IgAとIgGの両方)を示した。対照動物またはこの癌抗原の溶液製剤で処置した動物は、腫瘍を発生させ、死亡した。
【0389】
実施例18:前立腺癌ワクチン:
【0390】
前立腺癌ワクチンについては、B−16黒色腫ワクチン法について記載したワクチン製剤にTRAMC1前立腺抗原を使用し、C−57b/l6マウスで試験した。ナノ粒子およびマイクロ粒子中にカプセル化したTRAMC1前立腺抗原を8週間にわたって経口または経皮のいずれかでワクチン接種したマウスは、腫瘍を発生させず、経皮投与後の強い抗体IgGおよび経口投与後のIgGとIgAの両方の抗体力価の発生を示した。対照動物またはこの癌抗原の溶液製剤で処置した動物は、腫瘍を発生させ、死亡した。
【0391】
実施例19:卵巣癌ワクチン:
【0392】
卵巣癌ワクチンについては、B−16黒色腫ワクチン法について記載したワクチン製剤に4306卵巣癌細胞から得られた抗原を使用し、Balb/cマウスで試験した。ナノ粒子およびマイクロ粒子中にカプセル化した4306卵巣癌抗原を8週間にわたって経口または経皮のいずれかでワクチン接種したマウスは、腫瘍を発生させず、経皮投与後の強い抗体IgGおよび経口投与後のIgGとIgAの両方の抗体力価の発生によって示されるような強い免疫を示した。対照動物またはこの癌抗原の溶液製剤で処置した動物は、腫瘍を発生させ、死亡した。
【0393】
実施例20:B型肝炎ワクチン:
【0394】
B型肝炎ワクチンについては、B−16黒色腫ワクチン法について記載したワクチン製剤に肝炎プラスミドワクチンを使用し、Balb/cマウスで試験した。ナノ粒子またはマイクロ粒子中にカプセル化したこのプラスミドワクチンを7〜8週間にわたって経口または経皮のいずれかでワクチン接種したマウスは、経皮投与後の強い抗体IgGおよび経口投与後のIgGとIgAの両方の抗体力価の発生によって示されるような強い免疫を示した。
【0395】
本開示は、限定されるものではないが、以下を含む、本発明のいくつかの実施形態を提供する:
【0396】
ナノスフェアを調製する方法、
【0397】
薬物を身体に送達する方法、
【0398】
制御され、持続される薬物送達系、
【0399】
腫瘍を同定するための効果的な診断ツールを調製する方法、
【0400】
従来のアジュバントを用いずに、ワクチンの経口投与後に免疫を誘導するために使用することができる効果的なワクチン製剤を調製し、送達する方法、ならびに
【0401】
従来のアジュバントを用いずに、ワクチンの吸入および全身投与後に免疫を誘導するために使用することができる効果的なワクチン製剤を調製し、送達する方法。
【0402】
本発明のいくつかの例示的な実施例のみが上で詳細に記載されているが、当業者は、本発明の新規の教示や利点から大きく逸脱することなく、多くの修正が、これらの例示的な実施形態において可能であることを容易に理解するであろう。したがって、このような修正は全て、以下の特許請求の範囲で規定される本発明の範囲内に含まれることが意図される。本明細書で参照される任意の特許、出願および刊行物はその全体が参照により本明細書に組み込まれることにもさらに留意すべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体活性材料を含有するマイクロスフェアを形成するための方法であって、
a)第1の容器中でポリマーマトリックスを水性媒体に溶解させること;
b)前記溶解したアルブミンを架橋剤と接触させて、前記ポリマーマトリックスと前記架橋剤を架橋すること;
c)架橋が実質的に完了した後、前記架橋されたアルブミン−グルタルアルデヒドからの全ての余分な架橋剤を硫酸水素ナトリウムで中和すること;
d)第2の容器中で生体活性材料を水溶液に可溶化すること;
e)工程(d)の前記可溶化した生体活性材料を工程(c)の溶液中の前記中和し架橋したポリマーマトリックスと一緒に混合して、混合物を形成すること;および
f)工程(e)の前記混合物を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成すること
を含み、前記生体材料の実質的な生体活性が細胞への取込み時に保持される、方法。
【請求項2】
生体活性材料を含有するマイクロスフェアを形成するための方法であって、
a)第1の容器中でポリマーマトリックスを水性媒体に溶解させること;
b)第2の容器中で生体活性材料を緩衝水溶液に可溶化すること;
c)腸溶性コーティング材料を水性媒体に可溶化すること;
d)前記可溶化した生体活性材料と前記可溶化した腸溶性コーティング材料を混合して、溶液を形成すること;および
e)工程(d)の前記混合物を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成すること
を含み、前記生体材料の実質的な生体活性が細胞への取込み時に保持される、方法。
【請求項3】
マクロファージなどの食細胞における生体活性材料の細胞内濃度を高める方法であって、
a)請求項1または2に記載の方法によって生成される前記生体活性材料のナノスフェアを準備すること;および
b)導入後に前記生体活性材料が前記ナノスフェアから放出され、前記ナノスフェア中の前記生体活性材料の実質的な生体活性が保持され、前記生体材料の細胞内濃度が増加するように、前記ナノスフェアを食細胞に導入すること
を含む、方法。
【請求項4】
生体活性材料を細胞に送達する方法であって、
a)請求項1または2に記載の方法によって生成される前記生体活性材料のナノスフェアを準備すること;
b)担体を準備すること;および
c)前記担体と前記ナノスフェアを混合すること;
d)細胞が前記ナノスフェアを貪食し、前記生体活性材料が、前記生体材料の実質的な生体活性が保持されるように前記細胞内で前記マイクロスフェアから放出されるように、前記混合物を患者に導入すること
を含む、方法。
【請求項5】
投与後に免疫を誘導するためにアジュバントを含まないワクチン製剤を送達する方法であって、
a)請求項1または2に記載の方法によって生成されるワクチン製剤のナノスフェアを準備すること;および
b)細胞が前記ナノスフェアを貪食し、前記生体活性材料が、前記ワクチン製剤の実質的な生体活性が保持されるように前記細胞内で前記マイクロスフェアから放出されるように、前記ナノスフェアを患者に導入すること
を含む、方法。
【請求項6】
その材料が細胞への取込み後に実質的な生体活性を保持する生体活性材料を含有するナノスフェアであって、請求項1または2に記載の方法によって生成されるナノスフェアを含む、ナノスフェア。
【請求項1】
生体活性材料を含有するマイクロスフェアを形成するための方法であって、
a)第1の容器中でポリマーマトリックスを水性媒体に溶解させること;
b)前記溶解したアルブミンを架橋剤と接触させて、前記ポリマーマトリックスと前記架橋剤を架橋すること;
c)架橋が実質的に完了した後、前記架橋されたアルブミン−グルタルアルデヒドからの全ての余分な架橋剤を硫酸水素ナトリウムで中和すること;
d)第2の容器中で生体活性材料を水溶液に可溶化すること;
e)工程(d)の前記可溶化した生体活性材料を工程(c)の溶液中の前記中和し架橋したポリマーマトリックスと一緒に混合して、混合物を形成すること;および
f)工程(e)の前記混合物を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成すること
を含み、前記生体材料の実質的な生体活性が細胞への取込み時に保持される、方法。
【請求項2】
生体活性材料を含有するマイクロスフェアを形成するための方法であって、
a)第1の容器中でポリマーマトリックスを水性媒体に溶解させること;
b)第2の容器中で生体活性材料を緩衝水溶液に可溶化すること;
c)腸溶性コーティング材料を水性媒体に可溶化すること;
d)前記可溶化した生体活性材料と前記可溶化した腸溶性コーティング材料を混合して、溶液を形成すること;および
e)工程(d)の前記混合物を噴霧乾燥して、ナノスフェアを生成すること
を含み、前記生体材料の実質的な生体活性が細胞への取込み時に保持される、方法。
【請求項3】
マクロファージなどの食細胞における生体活性材料の細胞内濃度を高める方法であって、
a)請求項1または2に記載の方法によって生成される前記生体活性材料のナノスフェアを準備すること;および
b)導入後に前記生体活性材料が前記ナノスフェアから放出され、前記ナノスフェア中の前記生体活性材料の実質的な生体活性が保持され、前記生体材料の細胞内濃度が増加するように、前記ナノスフェアを食細胞に導入すること
を含む、方法。
【請求項4】
生体活性材料を細胞に送達する方法であって、
a)請求項1または2に記載の方法によって生成される前記生体活性材料のナノスフェアを準備すること;
b)担体を準備すること;および
c)前記担体と前記ナノスフェアを混合すること;
d)細胞が前記ナノスフェアを貪食し、前記生体活性材料が、前記生体材料の実質的な生体活性が保持されるように前記細胞内で前記マイクロスフェアから放出されるように、前記混合物を患者に導入すること
を含む、方法。
【請求項5】
投与後に免疫を誘導するためにアジュバントを含まないワクチン製剤を送達する方法であって、
a)請求項1または2に記載の方法によって生成されるワクチン製剤のナノスフェアを準備すること;および
b)細胞が前記ナノスフェアを貪食し、前記生体活性材料が、前記ワクチン製剤の実質的な生体活性が保持されるように前記細胞内で前記マイクロスフェアから放出されるように、前記ナノスフェアを患者に導入すること
を含む、方法。
【請求項6】
その材料が細胞への取込み後に実質的な生体活性を保持する生体活性材料を含有するナノスフェアであって、請求項1または2に記載の方法によって生成されるナノスフェアを含む、ナノスフェア。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公表番号】特表2012−504150(P2012−504150A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529378(P2011−529378)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/058896
【国際公開番号】WO2010/037142
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(505072982)ザ・コーポレーション・オブ・メイサー・ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/058896
【国際公開番号】WO2010/037142
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(505072982)ザ・コーポレーション・オブ・メイサー・ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】
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