説明

生体物質検出装置および生体物質検出方法

【課題】反応効率及び検出感度の高い生体物質検出装置を得る。
【解決手段】ターゲットとプローブをハイブリダイゼーションさせるための複数のチャンバー1011と、チャンバー1011間に設けられた流路1012とを備え、流路1012は、試料溶液が移動する方向に垂直な断面の面積がチャンバー1011の断面積よりも小さく形成され、チャンバー1011の内壁の全面にプローブ固定領域1013が設けられている。1つのチャンバー1011には1種類のプローブを固定し、ハイブリダイゼーション工程では、チャンバー1011および流路1012内でポンプ102を用いて試料溶液を往復移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の塩基配列を有する核酸分子などの生体物質を検出するための、生体物質検出装置および生体物質検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液や組織細胞などの検体中に、疾患に由来する特定の遺伝子が存在するか否かを検査する手法の一つにDNAマイクロアレイがある。DNAマイクロアレイは、基板上に固定化されたプローブ遺伝子と検体中の遺伝子とを反応(ハイブリダイゼーション)させることにより、目標の遺伝子の有無を検出する。従来、検体中に含まれる特定の遺伝子の検出精度をあげるため、検体中の特定の遺伝子とプローブ遺伝子との反応効率を高くする工夫がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、プローブが固定された基板と板状部材との間に試料溶液を満たし、基板と板状部材との間の相対運動をおこすことによって、試料溶液を攪拌し、反応効率を高める方法が開示されている。
また、特許文献2には、試料溶液中に微粒子を分散させて攪拌することにより、反応効率を高める方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献1や特許文献2に開示された方法では、DNAマイクロアレイを回転させたりすることにより試料溶液を攪拌しているが、マイクロアレイを動かす機構を用いずに反応効率を高める方法の例として、特許文献3には、核酸検出用のプローブと試料を反応させるためのチャンバー内の流体の流れが制御されるように、流路断面積を減少させる流体抵抗部を備えた生化学反応カセットが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3746756号公報
【特許文献2】特許第3557419号公報
【特許文献3】特開2007−40969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に開示された生化学反応カセットでは、複数種類のプローブを用いて検出を行う場合には、1つのチャンバー内に複数のプローブが配置されることになる。プローブと反応した物質を検出する主な方法には、蛍光標識剤を用いる方法と、化学発光物質を用いる方法がある。蛍光標識剤を用いる方法では、蛍光標識剤が検出される物質に結合している。一方、化学発光物質を用いる方法は、検出される物質に結合している酵素が触媒となって、発光物質が生成される。このため、化学発光物質を用いた方法では、生成された発光物質が1つのチャンバー内で混ざり合ってしまうため、どのプローブによって検出されたものなのか区別がつかなくなってしまう。一方、蛍光標識剤を用いる方法では、標識剤同士が混ざってしまう問題がない。このため、特許文献3に記載された方法では、ハイブリダイゼーション後の検出には蛍光標識剤を用いる事が前提になる。しかし、化学発光物質を用いる方法は、蛍光標識剤を用いる方法に比べ、より低コストで高感度な検出が可能であるため、検出方法には化学発光物質による方式を用いるのが望ましい。
【0007】
そこで、本発明の目的は、反応効率及び検出感度の高い生体物質検出装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る生体物質検出装置は、試料溶液に含まれる特定の生体物質を検出するためのプローブを固定する領域を各々有し、前記生体物質と前記プローブを反応させるための複数のチャンバーと、前記複数のチャンバー間に設けられた流路と、前記チャンバーおよび前記流路内で前記試料溶液を往復移動させるためのポンプと、を備え、前記流路は、前記試料溶液が移動する方向に垂直な断面の面積が前記チャンバーの断面積よりも小さいことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、流路で繋がれた複数のチャンバーを備えたので、各々のチャンバーに、それぞれ異なる1種類のプローブを固定することにより、1度に複数種類のターゲットの検出を行うことができる。また、1つのチャンバー内では1種類のプローブのみを用いれば、反応結果の検出を、発光物質が溶液中に浮遊する化学発光物質を用いて行っても、発光物質が混ざり合ってどのプローブとの反応結果なのか区別がつかなくなる問題がない。
【0010】
さらに、本発明によれば、流路の試料溶液が移動する方向に垂直な断面の面積がチャンバーの断面積よりも小さく形成されている。このため、断面積の小さな流路から大きなチャンバーへ試料溶液が流入することによって、液体の流れが変化し、チャンバー内の試料溶液を攪拌する効果がある。チャンバー内の試料溶液が攪拌されることによって、プローブに短い時間でより多くのターゲットとなる生体物質が接することになるので、反応効率が向上する。
【0011】
また、ポンプを用いてチャンバーおよび流路内で試料溶液を往復移動させるようにしたので、プローブにより多くのターゲットとなる生体物質が接するようになるので、反応効率が向上する。
【0012】
また、前記プローブを固定する領域が、前記チャンバーの内壁の全面に設けられていることが望ましい。
これにより、チャンバーの内壁の全ての面でプローブとターゲットとなる生体物質が接することが可能となり、反応効率が向上する。
【0013】
また、前記チャンバーおよび前記流路は、透明基板で形成されていることが望ましい。
これにより、チャンバーの外側からチャンバー内の観測を行うことができるので、反応処理と検出処理を同一の装置で行うことができ、装置の小型化および処理の効率化を図ることができる。
【0014】
また、前記チャンバーの外壁にレンズ状に形成された領域を設けるようにしてもよい。
これにより、チャンバー内から射出される光が集光され、反応結果の検出する際、より検出感度を高めることができる。
【0015】
本発明に係る生体物質検出方法は、流路を介して繋がった複数のチャンバー内に試料溶液を供給し、前記試料溶液に含まれる特定の生体物質と、前記チャンバー内に固定され、前記生体物質を検出するためのプローブとを反応させる反応工程と、前記プローブと反応した前記生体物質を検出する検出工程と、を備え、前記反応工程では、前記チャンバーおよび前記流路内で前記試料溶液を往復移動させ、前記流路は、前記試料溶液が移動する方向に垂直な断面の面積が前記チャンバーの断面積よりも小さいことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、流路の試料溶液が移動する方向に垂直な断面の面積がチャンバーの断面積よりも小さく形成されている。このため、断面積の小さな流路から大きなチャンバーへ試料溶液が流入することによって、液体の流れが変化し、チャンバー内の試料溶液を攪拌する効果がある。チャンバー内の試料溶液が攪拌されることによって、プローブに短い時間でより多くのターゲットとなる生体物質が接することになるので、反応効率が向上する。
【0017】
また、ポンプを用いてチャンバーおよび流路内で試料溶液を往復移動させるようにしたので、プローブにより多くのターゲットとなる生体物質が接するようになるので、反応効率が向上する。
【0018】
また、1つの前記チャンバーには、1種類の前記プローブが固定されていることが望ましい。
本発明によれば、各々のチャンバーに、それぞれ異なる1種類のプローブを固定することにより、1度に複数種類のターゲットの検出を行うことができる。また、1つのチャンバー内では1種類のプローブのみを用いれば、反応結果の検出を、発光物質が溶液中に浮遊する化学発光物質を用いて行っても、発光物質が混ざり合ってどのプローブとの反応結果なのか区別がつかなくなる問題がない。
【0019】
また、前記プローブは、前記チャンバーの内壁の全面に固定されていることが望ましい。
これにより、チャンバーの内壁の全ての面でプローブとターゲットとなる生体物質が接することが可能となり、反応効率が向上する。
【0020】
また、前記検出工程では、化学発光物質を用いた方法により、前記プローブと反応した前記生体物質の検出を行うことが望ましい。
一般に、化学発光物質を用いた方法では、発光物質の産出量を加える基質の量を増やすことにより増加させることができるので、検出感度を高めることが容易である。
【0021】
また、前記チャンバーおよび前記流路は透明基板で形成されており、前記検出工程では、前記チャンバーを通して発光を測定することが望ましい。
これにより、反応処理と検出処理を同一の装置で行うことができ、装置の小型化および処理の効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による核酸検出装置(生体物質検出装置)10の構成を示す斜視図である。図に示すように、核酸検出装置10は、検出カートリッジ101、ポンプ102、試料容器103、ステージ104、CCDカメラ105を備えている。
【0023】
図2は、検出カートリッジ101の上面図、図3(A)は図2のA−A断面の一部、図3(B)は図2のB−B断面の一部、図3(C)は、図2のC−C断面の一部を示す図である。図に示すように、検出カートリッジ101は、複数のチャンバー1011と、チャンバー1011間を繋ぐように設けられた流路1012を備えている。また、両端部の流路1012a,1012bは、それぞれポンプ102、試料容器103に接続されている。
【0024】
図3(A)〜(C)に示すように、検出カートリッジ101は、2枚の透明基板101a、101bを貼りあせて構成されており、透明基板101a、101bそれぞれに、チャンバー1011および流路1012の一部となる凹部が形成されており、透明基板101aと101bを貼り合わせることによって、立体的なチャンバー1011および流路1012が形成される。透明基板101a、101bは例えばガラスにより形成することができる。
【0025】
チャンバー1011および流路1012の寸法は、図3(A)〜(C)に示すように、例えばチャンバー1011の試料溶液が流れる方向の長さを200μm、深さを150〜200μm、流路1012の試料溶液が流れる方向の長さを200μm、幅を100μm、深さを50〜100μmとすることができる。流路1012の試料溶液が流れる方向に垂直な断面(図3(C)に示す断面)の面積は、チャンバー1011の試料溶液が流れる方向に垂直な断面(図3(B)に示す断面)よりも小さく形成されている。
【0026】
チャンバー1011の形状は、図2に示す円形に限られず、例えば楕円形や、四角形の角を丸めた形状など、チャンバー1011内に気泡がたまりにくい形状であればよい。また、流路1012の試料溶液が流れる方向に垂直な断面の形状は、図3(C)に示す形状に限られず、円形など流路1012内に気泡がたまりにくい形状であればよい。
【0027】
各々のチャンバー1011は、内壁上にプローブ固定領域1013を有している。プローブ固定領域1013は、プローブを塗布するための領域であり、チャンバー1011の内壁の全面に設けられている。これにより、チャンバー1013の内壁の全ての面でプローブとターゲットが接することが可能となり、反応効率が向上する。
【0028】
プローブには、例えば血液、尿、唾液、髄液のような検体試料に含まれる標的物質(ターゲット)を捕捉し得る物質を用いることができる。例えば、ターゲットがDNAやRNAのような核酸である場合には、プローブとしては、これらの核酸とハイブリダイゼーション(相補的に結合)する核酸やヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)等を用いることができる。このような核酸としては、例えばcDNAやPCR産物等が用いられる。
【0029】
なお、ターゲットは核酸に限られず、例えば特定のタンパク質であってもよい。この場合には、プローブとしては、このタンパク質を特異的に捕捉(例えば、吸着、結合等)するもの等が用いられる。具体的には、抗原、抗体、レセプター、酵素等のタンパク質、ペプチド(オリゴペプチド)等である。
【0030】
プローブ固定領域1013へのプローブの塗布は、非接触あるいは接触式スポッター等を用いて行うことができる。本実施形態では、各々のチャンバー1011には、それぞれ異なる1種類のプローブが固定されている。これにより、1度に複数種類のターゲットの検出が可能である。
【0031】
なお、プローブ固定領域1013には、必要に応じて、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、プローブをプローブ固定領域1013の表面に確実に固定するための処理(固相化処理)等が挙げられる。
【0032】
固相化処理としては、プローブと共有結合又はイオン結合する官能基、例えばチオール基、アミノ基、イソシアネート基、クロライド基、エポキシ基等を導入する処理等が挙げられる。
透明基板101a、101bがガラス基板である場合には、前記官能基はこれを有するカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等)で処理することにより導入することができる。
【0033】
その他、固相化処理としては、プローブが核酸やヌクレオチドの場合、ポリ−L−リジンの被着、プラズマ重合膜の形成等の方法を用いるようにしてもよい。また、活性化エステルを基板に被着させる表面処理を行うとともに、プローブの末端(例えば、二重鎖DNA断片のセンス鎖末端)をアミノ化するようにしてもよい。これにより、活性化エステルとアミノ基の共有結合を介してプローブがプローブ固定領域1013に強固に固定される。
【0034】
一方、プローブがタンパク質やペプチドである場合、タンパク質とアミド結合を形成する活性基を、プローブ固定領域1013の表面に導入する表面処理等を行う。これにより、プローブをプローブ固定領域1013に強固に固定することができる。活性基としては、カルボニルイミダゾール基、エポキシ基等が挙げられる。
【0035】
ポンプ102は、例えばシリンジポンプやマイクロポンプを用いることができる。ポンプ102は、一端に設けられた流路1012aに、フッ素樹脂、ポリエーテルケトン(PEEK)樹脂、シリコーン樹脂等からなるキャピラリーチューブを介して接続されており、全てのチャンバー1011と流路1012を通しての試料溶液の往復送液が可能である。
【0036】
試料容器103は、検体試料溶液を収容するための容器である。試料容器103は、ポンプ102が接続された流路1012aとは反対側の一端に設けられた流路1012bにフッ素樹脂、ポリエーテルケトン(PEEK)樹脂、シリコーン樹脂等からなるキャピラリーチューブを介して接続されており、チャンバー1011内へは、この試料容器103から、流路1012bを介して試料溶液が供給される。また、ポンプ102を用いて試料溶液の往復送液を行う際、流路1012bから溢れた試料溶液が、試料容器103に流入し、また、流路1012b内へ戻っていく。
【0037】
ステージ104は、検出カートリッジ101を固定するためのステージである。
CCDカメラ105は、ハイブリダイゼーション反応の検出処理の際、産出された化学発光物質の発光強度を測定するために用いる。CCDカメラ105は、検出カートリッジ101から射出される光の検出可能な位置に設置されている。
【0038】
次に、本実施形態による核酸検出装置10を用いた、ターゲット(核酸)とプローブとのハイブリダイゼーション処理(反応工程)およびハイブリダイゼーションの検出処理(検出工程)について説明する。
【0039】
まず、プローブ固定領域1013にプローブが固定された検出カートリッジ101内(チャンバー1011と流路1012で形成される空間)に、ポンプ102を用いてブロッキング液を充填し、充填したブロッキング液を検出カートリッジ101内で往復送液することにより、プローブが固定化されていない領域をブロッキングする。ブロッキングは約10分行う。
【0040】
次に、ポンプ102を用いてブロッキング液を排出した後、ポンプ102を用いて検出カートリッジ101内に洗浄液を充填し、充填した洗浄液を検出カートリッジ101内で往復送液することにより、チャンバー1011および流路1012内部を十分に洗浄する。
【0041】
次に、検出カートリッジ101内に、ビオチン標識した試料溶液を充填する。具体的には、ポンプ102を駆動することにより、試料容器103に収容された試料溶液が流路1012bを通って、検出カートリッジ101内に供給される。
【0042】
ビオチン標識した試料溶液の調整方法について説明する。
試料溶液は、例えば血液、尿、唾液、髄液のような生体サンプルを含む。必要に応じて、PCR法を用いて、ターゲットとなる核酸の増幅処理を行っておく。
具体的には、まず、試料中に第1及び第2のプライマーを加え、温度サイクルをかける。第1のプライマーはターゲットとなる核酸の一部と特異的に結合し、第2のプライマーはターゲット核酸と相補的な核酸の一部と特異的に結合する。ターゲット核酸を含む二本鎖核酸と第1及び第2のプライマーが結合すると伸長反応によってターゲット核酸を含む二本鎖核酸が増幅される。十分に標的核酸を含む二本鎖核酸が増幅された後に、試料中に第3のプライマーを加えて温度サイクルをかける。第3のプライマーは、伸長反応時にビオチンの取込みが可能であり、ターゲット核酸と相補的な核酸の一部と特異的に結合する。ターゲット核酸に相補的な核酸と、第3のプライマーが結合すると伸長反応によってビオチンで標識されたターゲット核酸が増幅される。結果として、試料中にターゲット核酸が含まれている場合は標識されたターゲット核酸が生成され、試料中にターゲット核酸が含まれない場合は標識されたターゲット核酸は生成されない。なお、ここでは、標識物質はビオチンとしたが、他の酵素や、蛍光物質、等でも良い。
【0043】
次に、充填したビオチン標識した試料溶液を検出カートリッジ101内で往復送液し、プローブ固定領域1013に固定されているプローブと反応(ハイブリダイセーション)させる。ハイブリダイセーションは1〜3時間行うのが望ましい。
【0044】
本実施形態に係る検出カートリッジ101は、流路1012の試料溶液が流れる方向に垂直な断面の面積がチャンバー1011の断面積よりも小さく形成されている。断面積の小さな流路1012から大きなチャンバー1011へ試料溶液が流入することによって、液体の流れが変化し、チャンバー1011内の試料溶液を攪拌する効果がある。チャンバー1011内の試料溶液が攪拌されることによって、プローブ固定領域1013のプローブに短い時間でより多くのターゲット核酸が接することになるので、ハイブリダイゼーションの効率が向上する。
【0045】
次に、ポンプ102を用いてビオチン標識した試料溶液を排出した後、ポンプ102を用いて検出カートリッジ101内に洗浄液を充填し、充填した洗浄液を検出カートリッジ101内で往復送液することにより、チャンバー1011および流路1012内部を十分に洗浄する。
【0046】
次に、ポンプ102を用いて検出カートリッジ101内にストレプトアビジン標識した化学発光用酵素(HRP)液を充填し、検出カートリッジ101内で約5分間往復送液する。
次に、HRP液を排出した後、検出カートリッジ101内に洗浄液を充填し、充填した洗浄液を検出カートリッジ101内で往復送液することにより、チャンバー1011および流路1012内部を十分に洗浄する。
【0047】
次に、ポンプ102を用いて検出カートリッジ101内に化学発光基質(ルミノール)と過酸化水素を含む溶液を充填する。充填したら、往復送液操作は行わずに約10〜30秒静止させ、化学発光物質の産出を待つ。
【0048】
化学発光物質が産出されたら、CCDカメラ105を用いて発光強度を測定し、ハイブリダイゼーション反応の有無を確認する。
【0049】
図4(A)は、化学発光物質を用いた検出方法の原理を説明する図である。図4(A)に示すように、化学発光物質を用いた検出方法では、ターゲット核酸に結合したビオチンとストレプトアビジン標識済みの化学発光用酵素(HRP)が結合し、そこへ化学発光基質液(ルミノール、過酸化水素)を加えることにより、HRPがルミノールと過酸化水素と反応して発光物質を産出することにより発光する。発光物質の産出量はルミノールと過酸化水素を増やすことにより増加させることができるので、検出感度を高めることが容易である。
【0050】
図4(B)は、蛍光標識剤を用いた検出方法の原理を説明する図である。蛍光標識剤を用いた方法では、ターゲット核酸に結合した蛍光標識剤が、励起光を照射することにより発光する。発光強度は、ターゲット核酸に結合している蛍光標識剤の量に依存するため、化学発光物質を用いた検出方法に比べると、検出感度を高めることが難しい。
【0051】
このため、検出感度を向上させるためには、化学発光物質による方法を用いた方がよい。なお、蛍光標識剤を用いた方法では、発光体である蛍光標識剤が、ターゲット核酸に結合した状態であるため、発光体の位置が動かない。このため、1つのチャンバー内で複数のプローブを用いたハーブリダイゼーションを行う場合でも、どのプローブとの反応結果なのかの区別がつきやすい。一方、化学発光物質を用いた方法では、生成された発光物質が1つのチャンバー内で混ざり合ってしまうため、1つのチャンバー内で複数のプローブを用いた場合には、どのプローブによって検出されたものなのか区別がつかなくなってしまう。しかし、本発明による核酸検出装置10では、各々のチャンバー1011にはそれぞれ異なる1種類のプローブが固定されている。これにより、化学発光物質を用いた検出方法でも、発光物質が混ざり合ってどのプローブとの反応結果なのか区別がつかなくなる問題がなく、1度に複数種類のターゲットの検出が可能である。なお、化学発光物質を用いた検出に用いる酵素や基質等は、上記に示すものに限られない。
【0052】
以上のように、実施の形態1によれば、流路1012で繋がれた各々のチャンバー1011に、それぞれ異なる1種類のプローブを固定することにより、1度に複数種類のターゲットの検出を行うことができる。また、1つのチャンバー内では1種類のプローブのみを用いるようにすれば、ハイブリダーゼーション結果の検出を化学発光物質による方法で行っても、発光物質が混ざり合ってどのプローブとの反応結果なのか区別がつかなくなるという問題がない。
【0053】
さらに、本実施形態では、流路1012の、試料溶液が移動する方向に垂直な断面の面積がチャンバー1011の断面積よりも小さく形成されているため、流路1012とチャンバー1011の境界で流れの変化が発生し、チャンバー1011内の試料溶液を攪拌する効果がある。チャンバー1011内の試料溶液が攪拌されることによって、短い時間でより多くのターゲットとプローブが接することになるので、反応効率が向上する。
【0054】
また、本実施形態によれば、ポンプ102を用いてチャンバー1011および流路1012内で試料溶液を往復移動させるようにしたので、プローブにより多くのターゲットが接するようになり、反応効率が向上する。
【0055】
また、本実施形態によれば、プローブ固定領域1013をチャンバー1011の内壁の全面に設けるようにしたので、チャンバー1011の内壁の全ての面でプローブとターゲットが接することが可能となり、反応効率が向上する。
【0056】
また、チャンバー1011および流路1012を透明基板101a、101bで形成しているため、チャンバー1011の外側からチャンバー1011内の観測を行うことができるので、反応工程と検出工程を同一の装置で行うことができ、装置の小型化および処理の効率化を図ることができる。
【0057】
(変形例1)
図5は、本発明の変形例1による核酸検出装置10の検出カートリッジ101の構成を示す断面図である。図5(A)は図2に示すA−A断面の一部、図5(B)は図2に示すB−B断面の一部を示している。図に示すように、変形例1では、上側の透明基板101aのチャンバー1011の外壁にあたる部分に、レンズ形状部1014を設けている。これにより、発光物質から射出される光が集光され、CCDカメラ105で発光を検出する際、より検出感度を高めることができる。
【0058】
(変形例2)
図6は、本発明の変形例2による核酸検出装置10の検出カートリッジ101の構成を示す断面図である。図6は、図2に示すA−A断面の一部を示したものである。図に示すように、変形例による核酸検出装置10の検出カートリッジ101では、プローブ固定領域1013がチャンバー1011の内壁ではなく、流路1012の内壁に設けられている。このような構成でも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態1による核酸検出装置の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1による検出カートリッジの上面図である。
【図3】図3(A)は図2のA−A断面の一部を示す図、図3(B)は図2のB−B断面の一部を示す図、図3(C)は、図2のC−C断面の一部を示す図である。
【図4】図4(A)は化学発光物質を用いた検出方法の原理を説明する図、図4(B)は蛍光標識剤を用いた検出方法の原理を説明する図である。
【図5】本発明の変形例1による検出カートリッジの断面図である。
【図6】本発明の変形例2による検出カートリッジの断面図である。
【符号の説明】
【0060】
10 核酸検出装置、101 検出カートリッジ、102 ポンプ、103 試料容器、104 ステージ、105 CCDカメラ、1011 チャンバー、1012 流路、101a,101b 透明基板、1013 プローブ固定領域、1014 レンズ形状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液に含まれる特定の生体物質を検出するためのプローブを固定する領域を各々有し、前記生体物質と前記プローブを反応させるための複数のチャンバーと、
前記複数のチャンバー間に設けられた流路と、
前記チャンバーおよび前記流路内で前記試料溶液を往復移動させるためのポンプと、を備え、
前記流路は、前記試料溶液が移動する方向に垂直な断面の面積が前記チャンバーの断面積よりも小さいことを特徴とする生体物質検出装置。
【請求項2】
前記プローブを固定する領域が、前記チャンバーの内壁の全面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の生体物質検出装置。
【請求項3】
前記チャンバーおよび前記流路は、透明基板で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の生体物質検出装置。
【請求項4】
前記チャンバーの外壁にレンズ状に形成された領域を設けたことを特徴とする請求項3に記載の生体物質検出装置。
【請求項5】
流路を介して繋がった複数のチャンバー内に試料溶液を供給し、前記試料溶液に含まれる特定の生体物質と、前記チャンバー内に固定され、前記生体物質を検出するためのプローブとを反応させる反応工程と、
前記プローブと反応した前記生体物質を検出する検出工程と、を備え、
前記反応工程では、前記チャンバーおよび前記流路内で前記試料溶液を往復移動させ、
前記流路は、前記試料溶液が移動する方向に垂直な断面の面積が前記チャンバーの断面積よりも小さいことを特徴とする生体物質検出方法。
【請求項6】
1つの前記チャンバーには、1種類の前記プローブが固定されていることを特徴とする請求項5に記載の生体物質検出方法。
【請求項7】
前記プローブは、前記チャンバーの内壁の全面に固定されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の生体物質検出方法。
【請求項8】
前記検出工程では、化学発光物質を用いた方法により、前記プローブと反応した前記生体物質の検出を行うことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の生体物質検出方法。
【請求項9】
前記チャンバーおよび前記流路は透明基板で形成されており、
前記検出工程では、前記チャンバーを通して発光を測定することを特徴とする請求項8に記載の生体物質検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−109222(P2009−109222A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279095(P2007−279095)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】