説明

生体組織再生用足場材料およびドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体

【課題】組織再生用足場またはドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体としての架橋蛋白質材料において、低毒性と、比較的長期の生体内安定性を有し、溶解性および分解性をコントロール可能であって、細胞増殖能を保持したものを提供する。
【解決手段】1-100μMのポリフェノール水溶液もしくは95%エタノール溶液によりタンパク質材料を4℃もしくは25℃で1-24時間処理することで、タンパク質分子を架橋し、水中、体液中での安定性を付与する。また、コラーゲナーゼなどの酵素による分解性も抑制することができ、生体内での吸収時間を延長させる。ポリフェノールとして特に適しているのは(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)である。これら組織再生用足場材料およびドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体として適している蛋白質はコラーゲン、ゼラチン及びアルブミンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低毒性かつ、体内での分解吸収期間を延長させることのできる安定剤および架橋剤を使用した蛋白質の組織再生用足場材料、及び、塩基性線維芽細胞増殖因子(b−FGF)などのサイトカイン類の生理活性薬物の徐放用担体に属する。
【背景技術】
【0002】
組織工学用足場材料やドラッグデリバリーシステム用担体など様々な医療用材料としてコラーゲン、ゼラチンあるいはアルブミンなどのゲルやスポンジが研究、臨床の場で用いられている。例えば、骨再生の足場材料として骨芽細胞を増殖させたコラーゲンスポンジを欠損部に埋入することで骨を再生させるなどの試みがなされている。また、血管や神経の欠損部にコラーゲンスポンジで作成したチューブを埋め込むことで血管、神経の再生などが研究・応用されている。また、ゼラチンゲルを塩基性線維芽細胞増殖因子(b−FGF)徐放用担体として研究・応用されている。しかし、コラーゲンスポンジやゼラチンゲルなどは水溶液からの乾燥後でも水に溶解し、たとえ加熱下での脱水により架橋物を作成しても力学的強度に乏しい、生体内で分解が早いなどの問題があり、そのままでは再生が完了するまで足場として、あるいは薬物の必要な徐放期間まで体内に残ることが困難である。
【0003】
そこで、架橋剤による様々な方法で架橋による安定化が試みられている。一般的な化学的架橋剤であるグルタルアルデヒドによる架橋では容易に架橋材が得られ分解性は低く抑えることができるが、毒性が高い、石灰化が起こるといった問題点がある(非特許文献1、2)。一方、EDC(1-ehtyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodimiide hydrochloride)による架橋も、毒性はグルタルアルデヒドよりは少し低いが生体内での分解が早いため、長期間での徐放が求められる用途には適しない。一方、特許文献1(国際公開第94/27630)では、ゼラチン水溶液にオリーブ油を加え攪拌しW/Oエマルジョンとし、グルタルアルデヒド水溶液を添加し架橋ゼラチンを得ているが、ここで未反応のグルタルアルデヒドを除去するためグリシン水溶液で洗浄しているものの、グルタルアルデヒドは完全に除去されていない。
【0004】
また、例えば、血清アルブミンに、ビニル基を導入してから、アクリルアミドと共重合させてハイドロゲル状徐放性製剤用担体とすることも提案されている(特許文献3)。しかし、この場合、製造工程が比較的複雑であるだけでなく、アクリルアミド単位等のビニル基部分の導入により、安全性及びその信頼性に限界があると思われる。
【0005】
組織再生用足場材料としてコラーゲンスポンジ中に細胞を播種し、生体に埋入した場合、細胞の増殖に伴いコラーゲンスポンジが収縮することが問題となっている。皮膚等の組織が再生するまで収縮せず形態をある程度保つスポンジが求められている。また、ゼラチンやアルブミンなどのゲルやスポンジを薬物のDDS用担体として用いた場合、2週間までの徐放には適しているものの、分解性が高いため4週間の長期間の徐放には無理がある。
【0006】
一方、本件発明者の一人は、インシュリン、インターフェロンまたはその他の生理活性ポリペプチドに、エピガロカテキンガレート(EGCG)を作用させて、徐放性の複合体を形成することについて提案している(特許文献4)。しかし、このような複合体は、組織再生用足場材料やDDS用担体に適したものではない。
【0007】
他方、水溶液状態のゼラチンに、プロアントシアニジンを作用させることで、食品用ゼラチンの溶解性を調製することが試みられている(特許文献5)。具体的には、10%ゼラチン水溶液に対して、60℃にて所定量のプロアントシアニジンを水溶液にて添加している。ここで得られる架橋ゼラチンは、可溶性高分子である。
【特許文献1】国際公開WO94/27630
【特許文献2】特開2006−231090
【特許文献3】特開2003−313144
【特許文献4】米国特許7,026,284 B2
【特許文献5】特開2001−8634
【非特許文献1】Isenburg JC, Simionescu DT, Vyavahare NR, “Tannic acid treatment enhances biostability and reduces calcification of glutaraldehyde fixed aortic wall” Biomaterials: 26 (11): 1237-1245 ;2005
【非特許文献2】Weadock K, Olson RM, Silver FH, “Evaluation of collagen crosslinking techniques” Biomaterials Medical Devices and Artificial Organs 11 (4): 293-318 ;1983
【非特許文献3】Tang HR, Covington AD, Hancock RA, “Structure-activity relationships in the hydrophobic interactions of polyphenols with cellulose and collagen”, Biopolymers 70 (3): 403-413; 2003
【非特許文献4】H. Gustavsson: The Chemistry of Tanning Processes (Academic Press, New York 1956)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、コラーゲン、ゼラチンあるいはアルブミンなどの架橋体からなるゲルやスポンジを用いた組織再生用足場材料において、生体内での分解性をコントロールすることができ、しかも毒性が低く、収縮等の問題がないものを提供するものである。また、コラーゲン、ゼラチンあるいはアルブミンなどの架橋体からなる含水ゲルを用いたドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体において、安全性が高く、かつ、2週間を超える長期にわたる徐放性を実現でき、しかも、製造が容易なものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の組織再生用足場材料またはドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体は、コラーゲン、ゼラチンまたはその他の蛋白質分子が、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)またはその他の植物ポリフェノールにより架橋された水不溶性の含水ゲル、またはこれを乾燥して得られるスポンジからなることを特徴とする。ここで、ドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体の場合、平均粒径が50nm〜50μm、特には150nm〜50μmのゲル粒子からなる。
【0010】
本発明の組織再生用足場材料またはドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体の製造方法は、第1の態様において、コラーゲンまたはゼラチンからなる水可溶性のスポンジを、10〜100mMの(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)またはその他の植物ポリフェノール(特にはカテキン類化合物)の水溶液または含水エタノール溶液に1〜20℃にて、好ましくは1〜10℃にて、1〜24時間浸漬して、水不溶性の含水ゲルとした後、過剰のカテキン類化合物を洗浄により除去することを特徴とする。
【0011】
本発明の組織再生用足場材料またはドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体の製造方法は、第2の態様において、緩衝性の塩によりpH5〜9、好ましくは7〜9とした塩基性または中性のゼラチン水溶液に、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)またはその他の植物ポリフェノール(特にはカテキン類化合物)を、10〜100mMとなり、かつ、ゼラチンに対するカテキン類化合物の重量比が0.5〜5重量%となるように添加した後、一旦乾燥させて水不溶性のスポンジを得るか、または、40〜60℃に加温して平均粒径が150nm〜50μmのゲル粒子を得るか、または、ゼラチン水溶液を非溶解性液体中に添加して攪拌することにより平均粒径が20μm以下、好ましくは10μm以下、特に好ましくは1〜10μmのマイクロスフェアを得ることを特徴とする。
【0012】
本発明のドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体の製造方法は、第3の態様において、酸性条件下でアルブミン水溶液に、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)またはその他の植物ポリフェノール(特にはカテキン類化合物)を、アルブミンの濃度が0.1〜0.5wt%、ポリフェノールの濃度が1〜10mMとなるように添加して、平均粒径が500nm未満のゲル粒子を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、ポリフェノールがコラーゲン、ゼラチン及びアルブミン分子を架橋することで、ポリフェノールの酵素活性阻害能によりコラーゲナーゼ等の酵素による分解が抑制され、生体内での吸収時間を延長させることができる。その度合いはポリフェノールの濃度を調節することでコントロールできる。
【0014】
細胞親和性は従来のコラーゲンスポンジやゼラチンゲル及びアルブミンゲルと同等であり、ゲル分率もポリフェノールの濃度を調節することでコントロールできる。これにより組織工学における再生用足場材料として有効に使用できるコラーゲンスポンジを提供することが可能となり、再生医療分野において大きな貢献となる。また、徐放性をコントロールできることから、再生医療におけるサイトカイン類のDDSがより有効に利用可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
茶に含まれているポリフェノールには、抗酸化作用、抗ウィルス作用、抗菌・殺菌作用および細菌毒素阻害作用など多くの生理活性が知られている(非特許文献3,4)。茶の苦味や、渋味の主体はタンニンと呼ばれているが、その主成分はカテキン類である。緑茶に含まれているカテキンは8種類あるが、その主なものは(−)−エピカテキン(EC; 茶葉全カテキン中の比率=10%)、(−)−エピガロカテキン(EGC; 22%)、(−)−エピカテキンガレート(ECG; 11%)、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG; 54%)であり、これらの中でEGCGが主成分である。また、これらカテキンの中でEGCGが最も抗酸化活性が高いと言われている。
【0016】
本発明に応用される生理活性物質はインターロイキン、サイトカイン、生理活性ペプチドなどであるが、具体的には塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、骨増殖因子(BMP)などがあげられる。更に、遺伝子治療用の種々の遺伝子のベクターとしても応用できる。
【0017】
本発明におけるポリフェノールについては、限定されない。カテキン類、タンニン類、プロアントシアニジン又はリスベラトロールが使用され得る。例えば、3,3,4,5,7−フラボペントールで知られるカテキン、3,4−ジヒドロキシフェニル骨格をもつカテコールアミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミン、エピガロカテキンガレート(EGCg)などがある。特に好ましいのは、エピガロカテキンガレートである。エピガロカテキンガレートの純度は90重量%以上が望ましく、98重量%以上がより望ましい。またポリフェノールは、例えば、茶、ワイン、チョコレート、サボテン、海藻、野菜(たまねぎ(最外部の黄褐色の皮)、アロエ抽出物パセリの葉、白色野菜など)、柑橘類(温州みかん、だいたい、ポンカンの皮、夏みかんの皮、グレープフルーツ、レモンなど)、リンゴなどの果実類、穀物(こうりゃん、大豆、そば、小麦など)、ダリアの花などの種々の食品・植物に多く含まれているので、茶抽出物、海草抽出物、果実抽出物、サボテン抽出物又はワイン抽出物などの抽出物でも良い。例えば茶抽出物は、水、エタノール、酢酸エチルなどの溶剤を用いて茶の葉より抽出することで得られ、エピガロカテキンガレートを最も多く含むカテキン類を主成分とする。また、得られた茶抽出物あるいは市販の茶抽出物から、クロロフィルの除去、さらにカラムクロマトグラフ法による精製をすることによって、高純度のエピガロカテキンガレートを得ることが可能である。
【0018】
本発明における組織足場材料やドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体はコラーゲンにとどまらず、ゼラチンやアルブミンのハイドロゲル、スポンジ、マイクロスフィアでもよい。
【実施例】
【0019】
<実験例1>EGCGで架橋したコラーゲンスポンジの作成
ブタ由来コラーゲン水溶液(0.6w/w%、塩酸溶液、pH3.1、新田ゼラチン社製)を凍結乾燥し、コラーゲンスポンジを得た。得られたスポンジを20mMおよび40mMのEGCG(teavigo、Roche社製)溶液(95%エタノール溶液もしくは水溶液)に4℃で16時間浸漬し、吸着させた。次にスポンジをPBSでよく洗浄した後さらに蒸留水で洗浄し、再び凍結乾燥し、EGCG処理コラーゲンスポンジを得た。
【0020】
得られたEGCG処理コラーゲンスポンジの架橋度合いを評価するため、ゲル分率を測定した。また比較例として架橋を行わなかったコラーゲンスポンジと25mMのEDCで架橋を行ったコラーゲンスポンジを作成した。これらのスポンジを37℃の蒸留水に24時間浸漬し、浸漬前後の乾燥重量の比をゲル分率として求めた(図1)。浸漬後の乾燥は100℃で6h行った。
【0021】
ゲル分率(%) = W1 / W0 100 (%)
W0 =浸漬前の乾燥重量 W1 = 浸漬後の乾燥重量
図1より、比較例1の未架橋コラーゲンスポンジはゲル分率が0であることがわかり、EGCG処理コラーゲンスポンジは比較例2のEDCによる架橋コラーゲンスポンジに匹敵する架橋度を持つことがわかった。なお、図1中に示すように各条件の試行サンプル数nは3であり、未架橋品に対する有意差の棄却率は5%未満である。
【0022】
<実験例2>酵素分解抑制作用
EGCG処理したコラーゲンスポンジのコラーゲナーゼによる分解に対する耐性を調べた。EGCG20、40mM溶液(95%エタノール溶液または水溶液)で処理したコラーゲンスポンジおよびEDC25mMで処理したコラーゲンスポンジ、未架橋のコラーゲンスポンジ10mgを10mLのタイプIAコラーゲナーゼ(コラーゲナーゼ活性277U/mg、EC3.4.24.4 シグマ社製)100U/mLの溶液(0.04M CaCl含有0.05MトリスHClバッファー、pH7.4)にそれぞれ浸漬し、37℃で24時間、60rpmの振盪下で反応させた。上清を回収し反応により分解されたアミノ酸をニンヒドリン法により定量した。未架橋コラーゲンにおける分解生成アミノ酸量を100%としてそれぞれの架橋コラーゲンスポンジの分解度合いを比較した。
【0023】
図2に示すようにEDC架橋コラーゲンは80%の分解率であるのに対し、EGCG25mMでは40%、40mMでは20%と有意に低い分解率を示した。なお、図2中に示すように各条件の試行サンプル数nは3であり、未架橋品に対する有意差の棄却率は5%未満である。この結果から、EGCGで架橋することにより得られたスポンジは、EDC架橋コラーゲンスポンジに比べコラーゲナーゼによる分解を抑制することができ、処理濃度によりコントロールも可能であることがわかった。生体内でコラーゲンの分解を遅延させることが可能であると考えられる。
【0024】
<実験例3>細胞親和性実験
EGCG架橋コラーゲンスポンジが細胞親和性を持つかどうかをL929細胞の培養により調べた。直径10mm厚み1mmのEGCG架橋コラーゲンスポンジ、EDC架橋コラーゲンスポンジに、L929細胞を5×105 cells / 200μLの濃度で播種し、500μLのDMEM(1%ペニシリン/ストレプトマイシン、10%ウシ胎児血清含有)を添加し、37℃、95%CO2条件下で3日間培養した。細胞数は乳酸脱水素酵素(LDH)活性測定により行った。すなわち、スポンジをPBSで洗浄後、1mLの2%トライトンX溶液に浸漬し、抽出した上清にNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を加えることで上清中のLDH(乳酸脱水素酵素)がNADHを酸化してNAD(ニコチンアミドヌクレオチド)にする反応により紫外部の吸光度から細胞数を求めた。この時、細胞数と吸光度は比例する事を利用した。結果を図3に示す。EDCで架橋を行ったコラーゲンスポンジは3日後に約4倍に増殖したが、EGCG 25mMで架橋したコラーゲンスポンジは3倍に増殖した。また、EGCG 40mMで架橋したコラーゲンスポンジはEDC架橋スポンジと同じく4倍に増殖していた。この結果から、EGCGを架橋剤として作成したコラーゲンスポンジ上でも細胞増殖性は損なわれることなくEDC架橋スポンジと同等の細胞親和性を示すことがわかり、組織工学における細胞培養用足場として適していることが示唆された。
【0025】
<実験例4>EGCGで架橋したコラーゲン・ゼラチン複合体スポンジの作成
ブタ由来コラーゲン水溶液(0.6w/w%、塩酸溶液、pH3.1、新田ゼラチン社製)と等電点4.9のアルカリ処理ゼラチン(新田ゼラチン社製、重量平均分子量約99,000)10%水溶液を3対1の比率で混合した溶液を凍結乾燥し、コラーゲン・ゼラチン複合体スポンジを得た。得られたスポンジを20mMおよび40mMのEGCG(teavigo、Roche社製)溶液(95%エタノール溶液もしくは水溶液)に4℃で16時間浸漬し、吸着させた。次にスポンジをPBSでよく洗浄した後さらに蒸留水で洗浄し、再び凍結乾燥し、EGCG処理コラーゲン・ゼラチン複合体スポンジを得た。このスポンジ20mgにヒトb-FGF100μg含有水溶液を20mLを滴下しb-FGF静電気結合のスポンジを作成した。このスポンジを免疫不全マウスの皮膚欠損創に移植したところ、移植4日後には細胞の侵入が盛んでスポンジが良好に生着し、真皮、表皮組織の構築が起こり、2週間後には表皮組織が重層化し皮膚組織の再生が認められた。
【0026】
<実験例5>EGCGで架橋したゼラチンゲルの作成
1) ゼラチンのEGCG架橋に及ぼすPHの影響:燐酸バッファーを用いて酸性(pH4.2)、中性(pH7.4)及び塩基性(pH9.2)とした10%ゼラチン溶液(新田ゼラチン社製、重量平均分子量99,000)に1000ppmのEGCG溶液を攪拌下で添加した。
【0027】
・酸性ゼラチン:酸性10%ゼラチン水溶液3mLに1000ppm EGCG水溶液1mLを添加した条件(酸性10%ゼラチン水溶液3mL+1000ppm EGCG水溶液1mL)では、ゲル形成が見られなかった。また、酸性10%ゼラチン水溶液500μL+5000ppm EGCG水溶液500μLでも、ゲル形成を確認できなかった。酸性10%ゼラチン水溶液1mL+5000ppm EGCG水溶液1mLでは、ファイバー状のものが形成されたが、50℃に加温すると溶解した。
【0028】
・中性ゼラチン:中性10%ゼラチン水溶液3mL+1000ppm EGCG水溶液1mLでは、添加直後は液が白濁したがしばらくすると透明に戻りゲルは形成されなっかた。中性10%ゼラチン水溶液500μL+1000ppm EGCG水溶液500μL〜2mLでは、溶液が白濁しナノサイズのゲルが形成された。中性10%ゼラチン水溶液1mL+5000ppm EGCG水溶液1mLでは、塊状のゲルが形成されたが50℃に加温するとナノサイズのゲルが形成された。
【0029】
・塩基性ゼラチン:塩基性10%ゼラチン3mL水溶液+1000ppm EGCG水溶液1mLは、添加後ただちに白濁したがしばらくすると透明になりゲルの形成は認められなかった。塩基性10%ゼラチン500μL水溶液+1000ppm EGCG水溶液500μL〜2mLでは、白濁しナノサイズのゲルが形成された。塩基性10%ゼラチン水溶液1mL+500ppm EGCG水溶液1mLでは、塊状のゲルが形成されたが50℃に加温すると1時間後にナノサイズのゲルが形成された。
【0030】
以上のことから、酸性ゼラチンではEGCGで架橋されずゲルが得られなかったが、中性ゼラチンと塩基性ゼラチンはゲルが得られ、塩基性ゼラチンの場合に、よりゲル形成が容易であることが分かった。
【0031】
2) ゼラチンゲルフイルムの作成:塩基性10%ゼラチン水溶液500μLに1000ppm EGCG 水溶液500μL〜2mLを攪拌下で混合した後、ガラスシャーレーに入れキャスチングし1昼夜空気中で乾燥した。その後、50℃の真空乾燥機中で24時間乾燥した。得られたフイルムを37℃の水中に入れると膨潤し水不溶性のゲルが得られた。更に、このゲルを50℃の水中に1昼夜浸漬しても溶解しなかった。
【0032】
3) ゼラチンゲルマイクロスフェアの作成:等電点4.9のアルカリ処理ゼラチン(新田ゼラチン社製、重量平均分子量約99,000)10%水溶液10mLと1000ppm EGCG 1mLの混合物を、界面活性剤としてTween 80(ポリオキシエチレンソルビタン・オレイン酸エステルの商品名)を2%含有した流動パラフィン10mL中に40℃で加え、ホモジナイザーで激しく攪拌した後、4℃にて24時間静置した。その後、多量のヘキサンで洗浄し、凍結乾燥により平均粒径約8μmの乾燥ゲルを得た。この乾燥ゲルは37℃の水中でも溶解せずゲルが得られた。また、この乾燥ゲル10mgにヒトb-FGF水溶液(25mg/mL、100μL)を滴下してEGCG架橋ゼラチン/b-FGF複合体を作成した。この複合体を37℃の生理食塩水中で放出挙動を調べたところ約2週間の徐放性を認めた。また、この複合体をラット皮下に無菌的に埋植し生分解性と徐放性を調べたところ、2週間でゲルのサイズが約半分に減少し50%のb-FGFがゲル中に残存していたが、4週間後ではその殆どが消失していた。
【0033】
<実験例6>EGCGで架橋したアルブミンナノゲルの作成
燐酸バッファーを用いて酸性、中性及び塩基性の1%アルブミン溶液(和光純薬工業、ウシ血清アルブミン、フラクションV)2〜10mLに1000〜5000ppmのEGCG溶液を0.5〜10mL攪拌下で添加した。
【0034】
酸性条件下(pH5.5)ではすべての濃度域で白色沈殿が生じた。この沈殿を、動的光散乱により粒子径を調べると平均100-400nmの直径をもつアルブミン粒子であることがわかった。
【0035】
詳しくは、図4の右側部分の表に示すように、該アルブミンの濃度が0.667wt%で、EGCGの濃度が0.11wt%(約22mM)の液を、1.00倍、1.22倍、1.44倍、1.67倍、2.00倍、3.33倍及び6.67に希釈した組成の液をそれぞれ調製し、動的光散乱法(大塚電子社DLS-7000、温度25℃)により平均粒径及び粒径分布巾を求めた。この結果を、図4の左側部分のグラフに示す。図4に示すように、希釈率が2倍以上の場合に比較的安定なゲル粒子が得られた。すなわち、アルブミンの濃度が0.33〜0.10wt%であってEGCGの濃度が0.056〜0.017wt%である場合に、3時間後及び24時間後の平均粒子径に有意な差が見られず、粒子径分布も狭くなっていた。
【0036】
なお、図4左端付近の円は、ゲル粒子の粒径が150nmを超える場合、すなわち、白濁状態を長時間維持できずに24時間以内に沈殿が生じる場合を示す。これは、上記希釈率が2倍未満の場合に対応する。
【0037】
一方、中性条件下(pH7.4)およびアルカリ性条件下(pH9.2)では沈殿は生成しなかった。しかし、セルロースメンブレン(分画分子量10000)による透析実験を行うと、アルブミンEGCG共存下ではEGCGの透析が起こりにくかったため、中性、アルカリ性においてもアルブミンとEGCGはコンプレックスを形成していると考えられる。
【0038】
すなわち、酸性条件下ではEGCGを架橋剤としたアルブミンナノゲルが形成され、中性、アルカリ性では溶解状態のEGCG-アルブミン複合体が形成された。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】EGCG処理(20mMおよび40mM)コラーゲンスポンジのゲル分率を、未架橋コラーゲンスポンジ及びEDC架橋コラーゲンスポンジのゲル分率と比較しつつ示す棒グラフである。
【図2】図1の各コラーゲンスポンジについての酵素分解率を示す同様の棒グラフである。
【図3】図1の各架橋コラーゲン上で3日間細胞増殖を行った結果を示す棒グラフである。
【図4】EGCGで架橋したアルブミンナノゲルの平均粒子径と希釈率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲン、ゼラチンまたはその他の蛋白質分子が、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)またはその他のポリフェノールにより架橋された水不溶性の含水ゲル、またはこれを乾燥して得られるスポンジからなる組織再生用足場材料。
【請求項2】
コラーゲン、ゼラチン、アルブミンまたはその他の蛋白質分子が、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)またはその他のポリフェノールにより架橋された水不溶性の含水ゲルであって、平均粒径が50nm〜50μmのゲル粒子からなるドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体。
【請求項3】
コラーゲンまたはゼラチンからなる水可溶性のスポンジを、10〜100mMの(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)またはその他のポリフェノールの水溶液または含水エタノール溶液に1〜20℃にて1〜24時間浸漬して、水不溶性の含水ゲルとした後、過剰のカテキン類化合物を洗浄により除去することを特徴とする組織再生用足場材料の製造方法。
【請求項4】
緩衝性の塩によりpH5〜9とした塩基性または中性のゼラチン水溶液に、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)またはその他のポリフェノールを、10〜100mMとなり、かつ、ゼラチンに対するカテキン類化合物の重量比が0.5〜5重量%となるように添加した後、一旦乾燥させて水不溶性のスポンジを得ることを特徴とする組織再生用足場材料の製造方法。
【請求項5】
緩衝性の塩によりpH5〜9とした塩基性または中性のゼラチン水溶液に、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)またはその他のポリフェノールを、10〜100mMとなり、かつ、ゼラチンに対するカテキン類化合物の重量比が0.5〜5重量%となるように添加した後、40〜60℃に加温して平均粒径が500nm未満のゲル粒子を得るか、または、ゼラチン水溶液を非溶解性液体中に添加して攪拌することにより平均粒径が50μm以下のマイクロスフェアを得ることを特徴とするドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体の製造方法。
【請求項6】
酸性条件下でアルブミン水溶液に、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)またはその他のポリフェノールを、アルブミンの濃度が0.1〜0.5wt%、ポリフェノールの濃度が1〜10mMとなるように添加して、平均粒径が500nm未満のゲル粒子を得ることを特徴とするドラッグデリバリーシステム(DDS)用担体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−125916(P2008−125916A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316324(P2006−316324)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(506224252)株式会社バイオベルデ (12)
【Fターム(参考)】