説明

生体組織機能状態測定装置及びその方法

【課題】皮膚表面からの感性評価だけでは難しい、皮膚の創傷部の定量的評価を可能にする。
【解決手段】光源20、プローブ30及びデータ処理部100を備えて構成される。光源は、入力光を生成する。プローブは、入力光を生体表面に照射する照射部32aと、入力光の、生体内部における散乱光を受光するための受光部34aとを有する。データ処理部は、測定対象部位の光強度を、基準部位の光強度で補正することにより、個体差の影響なく生体内部を測定した波長ごとの光の吸収散乱特性を検出する。ここで、プローブは、照射部と受光部の間隔が異なる複数の組を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光の吸収散乱特性を用いた生体組織の機能状態測定装置及び機能状態測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケロイド、熱傷、皮膚硬化症、強皮症、尋常性乾癬、アトピーなどの皮膚の創傷部が、治癒に向かう過程には、それぞれ疾患別の特徴の他、個体差がある。
【0003】
特に、ケロイドが発症した創傷部では、皮膚表面が、赤く、固く、盛り上がる。治癒過程において、創傷部が、やや白く、柔らかく、扁平になるが、治療の効果を客観的に評価する方法がない。また、熱傷等については皮膚のどの層まで損傷が及んでいるかによって、その重症度が異なるが、視覚のみでその判断をするのは困難である。皮膚硬化症、強皮症、尋常性乾癬、アトピーなどを評価する上でも、皮膚表面の状態は視覚で判断できるものの、その内部の状態は現段階では測定する方法がない。
【0004】
従来、治癒状態の評価は、医師による視診、触診などの感性評価により行われている。また、患者に説明する際には、デジタルカメラで撮影した写真などが用いられている。
【0005】
しかし、感性評価は、客観的あるいは定量的な数値などで示すのが難しい。また、写真の撮影においては、外部からの光の影響などにより、同じ条件で撮影することが難しい。
【0006】
ここで、皮膚に光を入射させ、皮膚の表面から微小循環系までの領域の内部散乱光を検出し、光学的特性を求めることにより、皮膚の表面状態を測定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、皮膚の表面状態を測定するにあたり、血流中の酸素加(酸化型)ヘモグロビン濃度、脱酸素(還元型)ヘモグロビン濃度、及び酸素加ヘモグロビン濃度と脱酸素ヘモグロビン濃度との比率を求めている。
【0007】
また、皮膚の創傷部の客観的評価を行う技術として、紫外光蛍光分光、可視光蛍光分光あるいは赤外光吸収分光を用いる技術がある(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に開示されている技術では、壊死している細胞と、生きている細胞を分光学的に判別される。
【0008】
更に皮膚中の成分を測定する方法として、メラニン、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンの量を測定する技術がある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3365227号公報
【特許文献2】特表平10−505768号公報
【特許文献3】特許第3727807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この出願に係る発明者らが皮膚等の創傷の光学的研究を行ったところ、治癒過程において、波長特性に特定の変化があることを見出した。
【0011】
特許文献1に開示の技術は、皮膚の表面状態を測定するものであり、生体内部の状態を測定するものではない。また、ケロイドの場合は、細胞は生きており、血流が止まっている状態ではない。このため、特許文献2に開示の技術では、ケロイドの治癒過程を評価できない。
【0012】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、波長特性の特定の変化を測定することにより、ケロイド、熱傷、皮膚硬化症、強皮症、尋常性乾癬、アトピーなど、皮膚表面からの感性評価だけでは難しい、皮膚の創傷部の客観的評価を可能にする装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するために、この発明の生体組織機能状態測定装置は、光源、プローブ及びデータ処理部を備えて構成される。光源は、入力光を生成する。プローブは、入力光を生体表面に照射する照射部と、入力光の、生体内部における散乱光を受光する、照射部からの距離が異なる複数の受光部とを有する。データ処理部は、測定対象部位で測定された光強度を、基準部位で測定された光強度で補正することにより、個体差の影響なく生体内部を測定した波長ごとの光の吸収散乱特性を検出する。ここで、プローブは、照射部と受光部の間隔が異なる複数の組を有している。
【0014】
このとき、入力光が、第1〜3の波長帯域の光を含むのが良い。
【0015】
ここで、第1及び第2の波長帯域の光は、500〜700nmの範囲内であって、酸素加ヘモグロビンの双峰性の吸光特性のピーク波長をそれぞれ含んでいる。また、第3の波長帯域の光は、第1及び第2の波長帯域の間の波長帯域である。
【0016】
あるいは、第1の波長帯域を543±5nmとし、第2の波長帯域を577±5nmとし、第3の波長帯域を559±5nmとしても良い。
【0017】
また、上述した目的を達成するために、この発明の生体組織機能状態測定方法は、以下の過程を備えている。先ず、入力光を生体表面の測定対象部位と基準部位とにそれぞれ照射して、入力光の、生体内部における散乱光を受光する。基準部位とは、測定対象部位近辺の疾患等に罹患していない部位、または、測定対象部位と対称となる部位にするのが良い。次に、測定対象部位で測定された光強度を、基準部位で測定された光強度で補正することにより、個体差の影響を低減して生体内部を測定した波長ごとの光の吸収散乱特性を検出する。
【発明の効果】
【0018】
この発明の生体組織機能状態測定装置及び方法によれば、皮膚表面からの感性評価だけでは難しい、皮膚の創傷部の客観的評価が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】酸素加ヘモグロビンと脱酸素ヘモグロビンの吸光係数を示す図である。
【図2】この発明の一実施形態に係る生体組織機能状態測定装置を概略的に示すブロック図である。
【図3】プローブの構成例について説明する模式図である。
【図4】測定対象部位であるケロイドの病変部と、基準部位である正常部の、各波長における光強度を示す図である。
【図5】測定対象部位の表層部と深層部について、各波長における補正後の光強度比の時期的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0021】
先ず、酸素加ヘモグロビンと脱酸素ヘモグロビンの吸光係数について説明する。図1は、酸素加ヘモグロビンと脱酸素ヘモグロビンの吸光係数を示す図である。図1では、横軸に波長(nm)を取って示し、縦軸に吸光係数(×10/mol・cm)を取って示している。また、図1中、酸素加ヘモグロビンの吸光係数を曲線Iで示し、脱酸素ヘモグロビンの吸光係数を曲線IIで示し、及び、メラニンの吸光係数を曲線IIIで示している。酸素加ヘモグロビンは、500〜700nmの範囲内に特徴的な双峰性のピーク(i、ii)を有する。また、脱酸素ヘモグロビンは、酸素加ヘモグロビンの双峰性のピークの谷に対応する部分(iii)に単峰性のピークを有している。
【0022】
次に、この発明の生体組織機能状態測定装置及び生体組織機能状態測定方法の実施形態について説明する。図2は、この発明の一実施形態に係る生体組織機能状態測定装置を概略的に示すブロック図である。
【0023】
生体組織機能状態測定装置10は、光源20、プローブ30、分光器40及びデータ処理部100を備えて構成される。生体組織機能状態測定装置10は、光源20で生成された入力光を、プローブ30を介して生体表面に照射し、生体内部で散乱した散乱光の波長ごとの光強度を測定し、生体組織の機能状態の評価を可能にする。
【0024】
光源20は、第1〜3の波長帯域の光を含む入力光を生成する。ここで、第1及び第2の波長帯域の光は、500〜700nmの範囲内であって、酸素加ヘモグロビンの双峰性の吸光特性のピーク波長(i、ii)をそれぞれ含んでいる。また、第3の波長帯域の光は、第1及び第2の波長帯域の間の波長帯域である。なお、この第3の波長帯域には、脱酸素ヘモグロビンの単峰性の吸光特性のピーク波長が含まれている。
【0025】
また、皮膚に含まれるメラニンなどの影響を補正するために、入力光が、酸素加ヘモグロビンの吸光係数と、脱酸素ヘモグロビンの吸光係数がほぼ等しい波長の光を含むのが良い。
【0026】
光源20としては、例えば、従来周知のハロゲン光源を用いることができる。
【0027】
プローブ30は、生体表面に接触させる接触面30aに、互いに離間して設けられた、照射部32aと受光部34aとを有している。光源20で生成された入力光は、プローブ30の照射部32aを経て、生体表面に照射される。プローブ30の受光部34aは、照射部32aを経て照射された入力光に対し、生体内部で散乱した散乱光を受光する。
【0028】
受光部34aは、生体内部で散乱した散乱光だけでなく、生体表面で反射した反射光も受光することもあり得る。しかし、プローブ30の接触面30aを生体表面に接触させた状態で入力光の照射を行う場合、受光部34aは、主に生体内部での散乱光を受光する。
【0029】
プローブ30は、複数の光ファイバを束ねて構成することができる。複数の光ファイバの一部が照射用光ファイバ32として用いられ、残りが受光用光ファイバ34として用いられる。照射用光ファイバ32の一端が、照射部32aとなる。照射用光ファイバ32の他端は、光源20に接続される。同様に、受光用光ファイバ34の一端が、受光部34aとなる。受光用光ファイバ34の他端は、分光器40に接続される。なお、光源20とプローブ30の間、及び、プローブ30と分光器の40は、他の光ファイバを介して接続されても良い。
【0030】
ここで、ケロイド、熱傷、皮膚硬化症、強皮症、尋常性乾癬、アトピー等では、病変部の治癒は、生体表面だけでなく、生体内部で起こりうる。また、生体内部のどのくらいの深度で治癒が起こるのかは、疾患の種類やその重症度等によって異なる。そこで、生体内部で起こっている変化を、異なる深度で測定するのが好ましい。このため、照射部と受光部との間隔が異なる状態で測定可能なプローブを用いるのが良い。
【0031】
図3を参照して、プローブの他の構成例について説明する。図3(A)〜(C)は、プローブの構成例を説明するための模式図である。図3(A)は、プローブを側面から見た図であり、図3(B)及び図3(C)は、先端部を接触面側から見た図である。
【0032】
このプローブ90は、2に分岐された先端部60及び70を有している。各先端部60及び70に、それぞれ照射部62a及び72aと受光部64a及び74aが設けられている。一方の先端部(第1先端部)60における照射部(第1照射部)62aと受光部(第1受光部)64aの間隔d1は、他方の先端部(第2先端部)70における照射部(第2照射部)72aと受光部(第2受光部)74aの間隔d2よりも狭い。ここでは、第1照射部62aと第1受光部64aの間隔d1を0.2mmとし、第2照射部72aと第2受光部74aの間隔d2を2mmとしている。
【0033】
第1照射部62a及び第2照射部72aは、光源20と光学的に接続されていて、第1受光部64aと第2受光部74aは、分光器40と光学的に接続されている。プローブ90は、第1状態と第2状態を切り換えるスイッチ(図示を省略する。)を備えている。第1状態では、第2照射部72a及び第2受光部74aを覆い、第1照射部62aから照射された入力光に対する散乱光を第1受光部64aにおいて受光する。一方、第2状態では、第1照射部62a及び第1受光部64aを覆い、第2照射部72aから照射された入力光に対する散乱光を第2受光部74aにおいて受光する。
【0034】
この結果、第1状態では、照射部と受光部の間隔が狭い状態での測定となるので、生体内部の比較的浅い部分での散乱光を受光する。一方、第2状態では、照射部と受光部の間隔が広い状態での測定となるので、比較的深い部分での散乱光を受光する。このように、1つの部位について、第1状態と第2状態の両者で測定を行うことで、深さ方向の分布を取得することができる。
【0035】
ここでは、プローブ90が第1先端部60及び第2先端部70の2つの先端部を有する構成について説明したが、これに限定されず、3つ以上の先端部を有していても良い。また、1つの先端部に、それぞれ間隔が異なる照射部と受光部の複数の組を備えていても良い。なお、測定時間を短時間とするためには、1つのプローブで深さ方向の分布を取得できるのが好ましいが、間隔が異なる照射部と受光部を有する先端部を複数用意しておき、先端部を交換して、測定する構成にしても良い。
【0036】
また、生体内部における散乱光を測定するためには、照射部から生体表面に入力される入力光が、生体表面に斜めに入射するのが良い。このためには、照射用光ファイバ32、62、72を接触面30a、60a及び70aに対して斜めに設ければよい。
【0037】
分光器40は、プローブ30が受光した光を分光して、波長ごとの光強度を示すデータを生成し、データ処理部100に送る。分光器40として、例えば、マルチチャンネル分光器(USB−4000:Ocean Optics社製)を用いることができる。
【0038】
データ処理部100は、例えば、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)110、記憶手段としてのROM(Read Only Memory)120及びRAM(Random Access Memory)122を備えて構成される。CPU110は、ROM120に格納されたプログラムを読み出して実行することにより、後述する各機能手段を実現する。また、各機能手段の処理結果は、随時RAM122に格納される。
【0039】
また、データ処理部100は、分光器40の出力を受け取るI/F124、キーボードやマウスなどの入力手段126、ディスプレイやプリンタなどの出力手段128、HDD(Hard Disk Drive)などの補助記憶手段130を備えている。このデータ処理部100は、任意好適な従来周知のパーソナルコンピュータを用いて構成することができる。
【0040】
この実施形態では、データ処理部100には、分光器40の出力として、生体組織機能状態を評価する対象である測定対象部位と、生体組織機能状態の評価を行う際の基準となる基準部位の2ヶ所の測定結果が送られる。測定対象部位は、例えば、ケロイド、熱傷、皮膚硬化症、強皮症、尋常性乾癬、アトピー等の病変部である。基準部位は、病変部ではない、いわゆる正常部であり、病変部の近辺の部位、あるいは、病変部の対称となる部位を選択するのが良い。病変部の対称となる部位とは、例えば、病変部が左腕にある場合、右腕の病変部に対応する部位である。
【0041】
また、異なる深度についての測定が可能なプローブを用いる場合、各部位について、異なる深度で測定されたデータが送られる。
【0042】
データ取得手段112は、同じ深度で測定された、測定対象部位と基準部位のデータを、分光器40から受け取り、RAM122あるいは補助記憶手段130(以下、補助記憶手段等)に格納する。
【0043】
補正手段114は、測定対象部位で測定されたデータを、基準部位で測定されたデータを用いて補正する。測定データは、メラニンなどによる吸光の影響を受けている。そこで、酸素加ヘモグロビンの吸光係数と、脱酸素ヘモグロビンの吸光係数が等しい波長の光強度を用いて、補正を行う。酸素加ヘモグロビンの吸光係数と、脱酸素ヘモグロビンの吸光係数は、800nm付近の波長において、ほぼ等しくなるので、例えば、800nm付近の波長(図1中、ivで示す。)を用いる。この補正により、個体差の影響を抑えることができる。
【0044】
具体的には、例えば、測定対象部位の各波長における光強度を、基準部位のそれぞれ同じ波長の光強度で除算し、波長805nmにおける光強度比を1に規格化する。測定対象部位に疾患等がない状態であれば、全ての波長に対して、その値はほぼ一定となり、その値は約1となることが想定される。これに対し、測定対象部位が病変部である場合、その値は一定とはならず、正常部である基準部位とは異なる傾向を示す。後述する実施例によれば、特に、500nm〜700nmにおいて、基準部位とは異なる傾向が示されている。
【0045】
そこで、この生体機能状態測定装置10では、この500nm〜700nmの波長を用いて、機能状態の判定を行うことができる。
【0046】
データ表示手段116は、出力手段128を介して、データの表示を行う。この生体機能状態測定装置10の補助記憶手段等には、治癒の進行に応じて、時期を変えて複数回測定したデータが格納されている。データ表示手段116は、新たに取得したデータを過去に測定したデータと、重ねあわせて表示することができる。このように表示すると、光強度の時期的変化から治癒の進行状態を客観的に把握することができる。特にケロイドの場合、ケロイド表層から薬を投与するため、 ケロイド表層は正常に近い状態になっていても、その深部では活動性のあるケロイド細胞が残っている場合がある。この場合、生体表面から感性評価を行っても、生体内部での様子は分からない。これに対し、この生体機能状態測定装置は、生体内部での治癒の進行を客観的に出力することができる。
【0047】
また、同じ部位について深さの異なるデータを1つの画面に表示することで、表層部と深層部との治癒の進行状態の違いを客観的に表示する構成にしても良い。
【実施例1】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0049】
日本医科大学武蔵小杉病院形成外科を受診した複数のケロイド疾患患者に対して、インフォームドコンセントを行い、患者の同意を得たのち、図2を参照して説明した生体機能状態測定装置を用いて、ケロイド及び正常皮膚のそれぞれについて、表層部と深層部の測定を行った。ここでは、プローブとして図3を参照して説明した2つの先端部を有するものを用いた。
【0050】
測定したデータの代表例として、同一患者の同一部位について、治療の経過ごとの診断結果と、分光学的に測定した結果を説明する。
【0051】
【表1】

【0052】
表1は、従来の方法で診断した結果を示している。なお、ケロイドの診断は、隆起、硬さ、色の3指標に基づいて医師の主観に基づく感性評価により、治癒の度合いを測っている。この診断結果では、ケロイド部分が隆起しているか、していないかを判定し、隆起がなくなれば治癒したと判断している。硬さは、「とても硬い」、「硬い」、「柔らかい」の3段階で評価し、正常部の皮膚と同程度の柔らかさに戻ったときに治癒したと判断している。色は、赤、濃いピンク、薄いピンク、茶、白の5段階で評価している。赤から段々色が薄くなっていく傾向にあるが、治癒しても本来の肌の色には戻らないことが多い。
【0053】
図4及び図5は、生体機能状態測定装置を用いて行った、分光学的な測定結果を示す図である。図4(A)及び(B)は、測定対象部位であるケロイドの病変部と、基準部位である正常部の、各波長における光強度を示している。ここでは、生体内部のうち、生体表面に近い表層部と、深い位置である深層部について測定を行った。図4(A)は、表層部のデータであり、図4(B)は深層部のデータである。また、図4(A)及び(B)は、横軸に波長を取って示し、縦軸に、光強度を任意単位(a.u.)で取って示している。図4(A)及び(B)では、測定対象部位であるケロイドの病変部のデータを曲線Iで示し、基準部位である正常部のデータを曲線IIで示している。
【0054】
皮膚疾患の場合、メラニンの量や血流量等の個人差によって、病変部のみの評価が難しい。そこで、測定対象部位のデータを、基準部位のデータを用いて補正し、病変部である測定対象部位のみを客観的に評価することが望まれる。
【0055】
この実施例では、測定対象部位の光強度を基準部位の光強度で割り、ヘモグロビンやメラニン等の影響が少ない805nmの波長における光強度比が1になるように数値を補正した。
【0056】
補正後のデータを図5に示す。
【0057】
図5(A)及び(B)は、測定対象部位について、表層部と深層部について、各波長における補正後の光強度比の時期的変化を示している。ここでは、生体内部のうち、生体表面に近い表層部と、深い位置である深層部について測定を行った。図5(A)は、表層部のデータであり、図5(B)は深層部のデータである。また、図5(A)及び(B)は、横軸に波長を取って示し、縦軸に、光強度比を波長805nmの光強度比を1に規格化して示している。図5(A)及び(B)では、表1の診察日に対応して、初回測定日を曲線Iで示し、25日目を曲線IIで示し、60日目を曲線IIIで示し、91日目を曲線IVで示している。
【0058】
皮膚疾患の場合、メラニンの量や血流量等の個人差によって、病変部のみの評価が難しい。そこで、測定対象部位である病変部のデータを、基準部位のデータを用いて補正し、病変部のみを客観的に評価することが望まれる。
【0059】
実施例1のケロイドに関しては、生体表面より生体深層部に変化が大きく起こっているため、その治療の効果が顕著にデータに表れていると考えられる。
【0060】
今回の数値は、基準部位の光強度をもとに補正を行っているため、基準部位と同じ光強度を持つほど、1に近づく。
【0061】
治療開始日には、530−580nm付近に特徴的な双峰性の光強度を有していた病変部の光強度が、治療と共に同じ波長付近で光強度が弱まり、治癒が進むと正常部に近づくという特徴的な推移が見られた。
【0062】
これらの推移は、今回測定を行った56例の多くで見られた特徴的な推移である。
【0063】
このため、ケロイド、熱傷、皮膚硬化症、強皮症、尋常性乾癬、アトピーなどのような生体表面及び生体深層部で変化がみられる疾患においては、全てこの波長付近で変化がみられると推測される。
【実施例2】
【0064】
530−580nmm付近の特徴的な双峰性をさらに詳細に分析を行った。今回試験を行った56例のうち、89%でこの付近で特徴的な双峰性が得られた。残りの11%については、蛍光灯の波長が入る等、測定にノイズが入ったもの、それ以外のものについては、治癒が起こった部位とは異なる深度のデータを測定してしまったことから、530−580nm付近の特徴的な双峰性を感知することができなかったと考えられる。
【0065】
このため、この双峰性を正確に測定するために、530−580nmの何処に特徴が有るのか、分析を行った結果、双峰性の第1の波長は543±5nm、第2の波長特性が559±5nm、第3の波長特性が577±5nmにピークがあることが分かった。
【符号の説明】
【0066】
10 生体組織機能状態測定装置
20 光源
30、90 プローブ
30a、60a、70a 接触面
32、62、72 照射用光ファイバ
32a、62a、72a 照射部
34、64、74 受光用光ファイバ
34a、64a、74a 受光部
40 分光器
60、70 先端部
100 データ処理部
110 CPU
112 データ取得手段
114 補正手段
116 データ表示手段
120 ROM
122 RAM
124 I/F
126 入力手段
128 出力手段
130 補助記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力光を生成する光源、
前記入力光を生体表面に照射する照射部と、前記入力光の、生体内部における散乱光を受光する受光部とを有するプローブ、及び
測定対象部位で測定された光強度を、基準部位で測定された光強度で補正することにより、個体差の影響を低減して生体内部を測定した波長ごとの光の吸収散乱特性を検出するデータ処理部
を備え、
前記プローブは、前記照射部と前記受光部の間隔が異なる複数の組を有する
ことを特徴とする生体組織機能状態測定装置。
【請求項2】
前記入力光が、
500〜700nmの範囲内であって、酸素加ヘモグロビンの双峰性の吸光特性のピーク波長をそれぞれ含む第1及び第2の波長帯域の光と、
前記第1及び第2の波長帯域の間の波長帯域である第3の波長帯域の光と
を含むことを特徴とする請求項1に記載の生体組織機能状態測定装置。
【請求項3】
前記入力光が、第1〜3の波長帯域の光を含み、
前記第1の波長帯域が543±5nmであり、前記第2の波長帯域が577±5nmであり、前記第3の波長帯域が559±5nmである
ことを特徴とする請求項1に記載の生体組織機能状態測定装置。
【請求項4】
入力光を生体表面の測定対象部位と基準部位とに照射して、前記入力光の、生体内部における散乱光をそれぞれ受光する過程と、
前記測定対象部位で測定された光強度を、前記基準部位で測定された光強度で補正することにより、個体差の影響を低減して生体内部を測定した波長ごとの光の吸収散乱特性を検出する過程と
を備えることを特徴とする生体組織機能状態測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−50376(P2013−50376A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188382(P2011−188382)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000152871)株式会社日本システム研究所 (5)
【出願人】(500557048)学校法人日本医科大学 (20)
【Fターム(参考)】