説明

生体識別装置、及び、生体識別方法

【課題】 撮像した指の画像を用いて個人の識別を行なう生体識別装置において、複数の指が撮像された場合にも、識別時の指の位置や方向によらず、精度の高い識別を行なう。
【解決手段】 指の生体パターンを撮像する撮像部と、登録対象者の生体パターンを特徴付ける登録対象者の特徴量と、指の種類を表す指IDとを対応付けて登録する登録部と、演算部と、を備え、前記演算部は、前記撮像部を用いて識別対象者の指の生体パターンを撮像して得られる画像から、前記識別対象者の特徴量を複数抽出し、前記登録部に登録されている登録対象者の特徴量と、前記識別対象者の特徴量とが類似するか否かを判断し、前記識別対象者の特徴量と類似すると判断された前記登録対象者の特徴量に対応付けられた指IDに応じて、前記識別対象者の指毎のスコアを算出し、前記識別対象者の隣り合う複数の指のスコアの組み合わせに基づいて、前記識別対象者が前記登録対象者であるか否かを識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体識別装置、及び、生体識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
指紋や静脈パターン等の生体的特徴をとらえて個人の認証を行なう生体認証システムが知られている。例えば、指を撮像することで得られる指静脈画像に基づいて認証を行うシステムとして静脈認証装置が開発されている。
【0003】
静脈認証装置を用いて個人の認証を行なう際には、可能なかぎり認証の精度を高くすることが要求される。そのため、撮像時の外部環境が異なる場合でも、それに影響されることなく、最適な品質の指静脈画像を得ることが重要である。例えば、認証装置上に設置されたガイド溝に指を置き、位置を固定した状態で指の撮像を行うことで指静脈画像を取得し、該指静脈画像を用いて個人の認証を行なう方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−155575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法によれば、ガイドを設けることによって、同一の位置・方向で指の撮像を行なうことができるため、安定した品質の指静脈画像を取得して、精度良く認証を行なうことが可能になる。
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、撮像を行なう際に、ユーザーは当該ガイドに合わせて指を沿わせなくてはならない。また、ある特定の指(例えば、人差し指)のみが撮像対象として限定される。一方、実際に認証装置が使用される場面を考慮すると、認証時に決まった指を決まった位置・方向に置かなければならないのでは、ユーザーの利便性が大きく損なわれる。したがって、認証時においては、位置・方向を固定しない状態で不特定の指について高精度な認証を行なえることが望ましい。一方、指の種類(人差し指など)を指定せず、位置や方向も規定せずに認証を行う場合には、指の撮像において複数の指が撮像される場合がある。このような場合に、指の位置関係を考慮せずに認証を行なうと、本来マッチングするべきではない別の指との間でミスマッチを生じて、認証精度が低下するおそれがあった。
ここで、認証とは、登録された画像等と認証時に得られた画像等を照合することによって、認証(識別)対象者が登録者であるか否かを識別し、識別結果に基づいて、例えば電子錠等の制御対象を制御することである。したがって、認証の精度は識別の精度に依存するので、認証における上記の課題は、識別における課題と言える。
【0007】
本発明では、撮像した指の画像を用いて個人の識別を行なう生体識別装置において、複数の指が撮像された場合にも、識別時の指の位置や方向によらず、精度の高い識別を行なうことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための主たる発明は、指の生体パターンを撮像する撮像部と、登録対象者の生体パターンを特徴付ける登録対象者の特徴量と、指の種類を表す指IDとを対応付けて登録する登録部と、演算部と、を備え、前記演算部は、前記撮像部を用いて識別対象者の指の生体パターンを撮像して得られる画像から、前記識別対象者の特徴量を複数抽出し、前記登録部に登録されている登録対象者の特徴量と、前記識別対象者の特徴量とが類似するか否かを判断し、前記識別対象者の特徴量と類似すると判断された前記登録対象者の特徴量に対応付けられた指IDに応じて、前記識別対象者の指毎のスコアを算出し、前記識別対象者の隣り合う複数の指のスコアの組み合わせに基づいて、前記識別対象者が前記登録対象者であるか否かを識別する、生体識別装置である。
【0009】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態における静脈識別装置1のブロック図である。
【図2】図2A及び図2Bは、静脈識別装置1をドアの開錠制御に用いた場合の例を示す図である。
【図3】登録動作のフローを表す図である。
【図4】特徴量抽出処理のフローを表す図である。
【図5】特徴点の一例を表す図である。
【図6】得られた輝度勾配の一例を表す図である。
【図7】輝度勾配のヒストグラムの一例を表す図である。
【図8】基準方向に座標軸を合わせたときの輝度勾配の一例を表す図である。
【図9】静脈パターンから特徴量を抽出する動作について説明する図である。
【図10】識別動作のフローを表す図である。
【図11】照合処理のフローを表す図である。
【図12】12A〜12Cは、識別対象者Xの指静脈パターンを用いて識別動作を行う例について説明する図である。
【図13】13A〜13Cは、識別対象者Yの指静脈パターンを用いて識別動作を行う例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0012】
指の生体パターンを撮像する撮像部と、登録対象者の生体パターンを特徴付ける登録対象者の特徴量と、指の種類を表す指IDとを対応付けて登録する登録部と、演算部と、を備え、前記演算部は、前記撮像部を用いて識別対象者の指の生体パターンを撮像して得られる画像から、前記識別対象者の特徴量を複数抽出し、前記登録部に登録されている登録対象者の特徴量と、前記識別対象者の特徴量とが類似するか否かを判断し、前記識別対象者の特徴量と類似すると判断された前記登録対象者の特徴量に対応付けられた指IDに応じて、前記識別対象者の指毎のスコアを算出し、前記識別対象者の隣り合う複数の指のスコアの組み合わせに基づいて、前記識別対象者が前記登録対象者であるか否かを識別する、生体識別装置。
【0013】
このような生体識別装置によれば、演算部は、登録対象者の生体パターンから登録対象者の特徴量を抽出し、抽出された特徴量を該特徴量が抽出された指の種類を表す指IDと対応付けて登録特徴量として登録部に登録する。また、演算部は、撮像部を用いて識別対象者の指の生体パターンを撮像して得られる画像から複数の特徴量を抽出し、登録対象者の特徴量と比較することで、識別対象者が登録されているユーザーか否かの識別を行う。その際、識別対象者の特徴量と類似する登録特徴量に対応付けられた指IDに基づいて識別対象者のスコアが指毎に算出され、隣り合う複数の指のスコアの組み合わせを考慮することによって、識別が行なわれる。
隣り合う複数の指のスコアを考慮することにより、当該複数の指の全てにおいて本来合致するはずのない特徴量が誤って類似と判定されるミスマッチが発生する可能性が低くなり、偶然のミスマッチによる影響等を相対的に小さくすることができる。すなわち、ミスマッチによる誤ったデータが最終的な識別対象者のスコアに反映されにくくなる。したがって、撮像した指の画像を用いて個人の識別を行なう生体識別装置において、認複数の指が撮像された場合にも、識別時の指の位置や方向によらず、精度の高い識別を行なうことができる。
【0014】
かかる生体識別装置であって、前記撮像部は、前記識別対象者の1本の指の生体パターンの少なくとも一部と、前記1本の指に隣り合う指の生体パターンの少なくとも一部とを撮像することが望ましい。
【0015】
このような生体識別装置によれば、識別対象となるデータとして隣り合う2本分の指の特徴量を登録することが可能となり、識別の精度を高くすることができる。1本の指の生体パターンのみを用いて識別を行なった場合、ノイズ等の影響によって偶然にその指のスコアが高く算出されてしまう場合があり、誤識別の原因となるおそれがある。しかし、隣り合う指についても偶然にスコアが高く算出される等の確立は非常に小さい。そこで、隣り合う2本分の指の生体パターンを登録して、当該データを識別に用いることで、偶然のミスマッチ等による影響を相対的に小さくすることができる。これにより、精度良く識別を行なうことが可能となる。
【0016】
かかる生体識別装置であって、前記演算部は、前記識別対象者の隣り合う複数の指のスコアの合計値を算出し、前記スコアの合計値のうち最大の値が所定の閾値よりも大きい場合に、前記識別対象者が前記登録対象者であると識別することが望ましい。
【0017】
このような生体識別装置によれば、識別精度をより高くすることができる。偶然のミスマッチ等によって或る指についてスコアが高く算出されてしまったような場合でも、他の指について同時にミスマッチが発生する確立は小さい。したがって、隣り合う複数の指のスコアの合計値を算出することで、正確なデータ(指スコア)が多く含まれたデータを得やすくなる。そして、当該合計値の最大値を識別対象者のスコアとして採用することで、ミスマッチの影響が小さく信頼性が高いスコアを算出することができる。このスコアを適当に設定された閾値と比較することで、認証の精度をより高くすることが可能となる。
【0018】
かかる生体識別装置であって、前記演算部は、前記撮像部を用いて登録対象者の指の生体パターンを撮像して得られる画像から、前記登録対象者の特徴量を抽出し、前記登録対象者の特徴量と前記登録対象者の指IDとを対応付けて前記登録特徴量として前記登録部に登録させることが望ましい。
【0019】
このような生体識別装置によれば、特徴量を登録する動作と識別対象者を識別する動作とを1つの生体識別装置で行なうことができるため、ユーザーの利便性を高くすることができる。そして、特徴量の登録を行なう際は、登録対象者の指から抽出される特徴量を、その抽出された指を示す指IDと対応付けて登録することで、識別動作時において指毎に識別を行なうことができ、識別精度を高くすることができる。
【0020】
かかる生体識別装置であって、前記識別対象者の指の生体パターンよりも、前記登録対象者の指の生体パターンの方が、前記撮像部によって撮像される領域が大きいことが望ましい。
【0021】
このような生体識別装置によれば、登録対象者の生体パターンを登録する動作において、より大きな範囲で撮像された生体パターンの画像から抽出されるユーザーの特徴量の数が、識別対象者の生態パターンを識別する動作において抽出される識別対象者の特徴量の数よりも多くなる可能性が高い。つまり、識別を行なう際に用いられる可能性のあるユーザーの特徴量をより多く登録しておくことができるため、照合データの母体が大きくなる。したがって、識別対象者の生体パターンから抽出される特徴量と登録されている特徴量との照合が行ないやすくなり、より精度の高い識別を行なうことができる。
【0022】
かかる生体識別装置であって、前記特徴量が、SIFT(Scale Invariant Feature Transform)を用いて抽出されることが望ましい。
【0023】
このような生体識別装置によれば、SIFTを用いて特徴量を抽出することにより、撮像時の位置変化、回転等に依存しにくい生体パターンの特徴量を抽出することができるようになる。したがって、生体パターンの撮像を行なう際に、撮像を行なうセンサーと被撮像対象(登録対象者または識別対象者の生体パターン)との位置関係が固定されていない場合であっても、生体パターンを特徴付ける特徴量を正確に抽出することが可能となり、撮像時の条件によらずに高精度な識別を行うことができる。
【0024】
また、識別対象者の指の生体パターンを撮像して得られる画像から、前記識別対象者の指の生体パターンを特徴付ける識別対象者の特徴量を複数抽出することと、指の種類を表す指IDに対応付けて登録されている登録者の特徴量と、前記識別対象者の特徴量とが類似するか否かを判断することと、前記識別対象者の特徴量と類似すると判断された前記登録者の特徴量に対応付けられた指IDに応じて、前記識別対象者の指毎のスコアを算出することと、前記識別対象者の隣り合う複数の指のスコアの組み合わせに基づいて前記識別対象者が前記登録対象者であるか否かを識別することと、を有する生体識別方法が明らかとなる。
【0025】
===実施形態===
発明を実施するための生体識別装置の形態として、静脈識別装置1を例に挙げて説明する。
図1は、本実施形態における静脈識別装置1のブロック図である。静脈識別装置1は、演算部10とセンサー部20と光源部30とトリガセンサー40と制御対象50とを備える。センサー部20はインターフェース28を介して演算部10に接続されており、また、光源部30はインターフェース38を介して演算部10に接続されている。また、静脈識別装置1は、インターフェース48とインターフェース58を介してトリガセンサー40と制御対象50に接続されている。
【0026】
演算部10は、演算を行うCPU(Central Processing Unit)12と記憶装置(登録部)としてのRAM(Random Access Memory)14及びEEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)16を含む。CPU12は、EEPROM16に記憶されたプログラムを実行することにより静脈の識別を行う。RAM14には、静脈の識別を行う際に必要な特徴量が演算結果として登録される。演算部10は、静脈識別装置1に、後述する登録動作及び識別動作の2つの動作を行わせることができる。
【0027】
センサー部20は、指の静脈を撮像することに用いるセンサーである。センサー部20は、接近した指を撮像するが、その際に露光時間を調整することができるようになっている。詳細については後述するが、センサー部20は、識別動作時においては、識別対象者の指の一部の静脈パターンについて撮像をすることができればよい。一方、登録動作時においてはなるべく指の広い範囲の静脈パターンを撮像できることが望ましい。したがって、静脈識別装置1は登録動作用と識別動作用との2種類のセンサーを備えていてもよい。
【0028】
光源部30は、撮像する指に所定波長の光を照らすための装置である。ここでは、近赤外線のLED(Light Emitting Diode)光源を含み、700nm〜900nmの波長帯を多く含む光を照射する。この波長帯は「生体の窓」とも呼ばれ、血液のヘモグロビンと水との両方の吸収が低くなり、生体の透過率が高くなる波長帯である。本実施形態では、指に対して700nm〜900nmの波長帯の近赤外線を照射しながら撮像を行なうことで、血液が多く存在する部分、すなわち血管の部分が影となって撮影される。したがって、当該指の内部にある静脈の形状を精度良く表わした画像を得ることが可能になる。
【0029】
トリガセンサー40は、撮像する指の接近を感知し、撮像処理を開始するためのトリガーを演算部10に送る装置である。トリガセンサー40には、例えば、静電容量センサーが用いられる。このトリガセンサー40により、後述するドアなどに静脈識別装置を設けた場合において、指をドアに近づけただけでセンサー部20が自動的に指の撮像処理を開始することができるようになる。
【0030】
制御対象50は、静脈識別装置1による識別結果に応じて制御したい対象物である。例えば、制御対象50がコンピューターであるときには、静脈識別装置1による識別結果に応じて識別対象者に対してコンピューターのアクセス権を付与する。また、制御対象50が後述のようなドアの電子錠である場合には、静脈識別装置1による識別結果に応じてドアの電子錠の開錠制御を行う。以下、制御対象50がドアの電子錠である場合について説明を行う。
【0031】
図2A及び図2Bに、静脈識別装置1をドアの開錠制御に用いた場合の例を示す。図に示されるように、静脈識別装置1はドアのドアノブ部に設けられる。静脈識別装置1の前面にはパネル状のセンサー部20が設けられ(図2Bの斜線部)、センサー部20の両側面には光源部30が設けられる(図2Bの横線部)。センサー部20は、識別対象者がドアノブ部を握った際に、ちょうど撮像対象となる指が置かれるような位置に配置される。
【0032】
識別対象者がドアを開閉するために当該ドアノブ部を握ると、トリガセンサー40が指の接近を感知して当該指の静脈パターンの撮像が開始される。図2Bに示されるように、撮像時には、センサー部20の上に位置する識別対象者の指に対して光源部30から近赤外線を照射することにより、当該指の撮像対象部分について静脈パターン画像が取得される。そして、取得された静脈パターンの画像に基づいて識別対象者が登録対象者(ユーザー)であるか否かが判断される。識別が許可される場合には、制御対象50である電子錠が開錠され、識別が拒否される場合には、電子錠が開錠されない。この識別動作の詳細については後で説明する。
【0033】
なお、識別対象者がドアの開閉を行なう場合、その都度ドアノブの握り方が変わるであろうことから、センサー部20の同じ位置・同じ角度に、毎回同じ指が置かれるとは限らない。すなわち、識別の対象として撮像される静脈パターンの位置や撮像方向はその都度変化するものと考えられる。しかし、後述するように、本実施形態では撮像時の位置や方向、または撮像される指によらず、高い精度で識別を行なえるようになっている。
【0034】
<静脈識別装置1の基本動作>
静脈識別装置1では、登録対象となるユーザー(登録対象者)毎にそれぞれの指についてあらかじめ静脈パターンを登録しておく「登録動作」と、その登録された指毎の静脈パターンデータに基づいて個人の識別を行なう「識別動作」とが行われる。
【0035】
生体パターンに基づく識別対象者の識別(本実施形態では静脈パターンによる識別)を行なうためには、判断基準が必要となる。そのため、まず「登録動作」において、ユーザー(登録対象者)毎に指の静脈パターンが静脈識別装置1の登録部(RAM14)に登録される(登録モードとも呼ぶ)。登録された指毎の静脈パターンは、「識別動作」において、識別対象者の静脈パターンと照合され、両パターンが一致すると判断された場合に登録対象者が識別対象者であるか否かが識別される(識別モードとも呼ぶ)。
【0036】
ただし、基準となるべき登録対象者の指毎の静脈パターンに関するデータが記憶装置等に保存されていて、識別モードにおいて当該データを利用するようにすることもできる。この場合、必ずしも静脈識別装置1において登録動作が行われなくてもよい。すなわち、登録動作と識別動作とは、別の装置で行われてもよい。また、静脈識別装置1は、外部記憶装置等と接続することによって識別に必要なデータを参照してもよい。
【0037】
本実施形態の静脈識別装置1では、通常は識別モードを行なう設定になっており、識別モードと登録モードとの切り替えはユーザーまたは識別対象者がモードを選択することによって行なわれる。以下、各動作についてそれぞれ説明する。
【0038】
===登録動作について===
登録動作では、登録対象者であるユーザーの指の静脈パターンについて、その特徴を表す「特徴量」を抽出する。そして、抽出された該特徴量について各ユーザーの指の種類を表す指IDに対応付けて登録する。本実施形態における特徴量は、位置不変、及び、回転不変なものが採用される。これは、同じ人物の静脈パターンに対しては、撮像範囲が変化(位置変化)した場合でも、撮像方向が回転(回転変化)した場合でも、パターンに対して同じ位置が特定され(位置不変)、その位置周辺の局所領域の特徴を数値化した特徴量と同じ値で得られる(回転不変)という特性を有するものである。
【0039】
<登録動作の流れ>
図3に、登録動作のフローを示す。登録動作は、S101〜S105の各処理を実行することによって行なわれる。
【0040】
登録モードにおいてトリガセンサー40が指の接近を感知すると登録動作が開始され、初めに、撮像パラメータの調整が行なわれる(S101)。センサー部20から入力されてくる指(静脈)の画像をもとに、演算部10によって撮像パラメータが調整され、最も良好な画質で撮像可能なパラメータが設定される。
【0041】
パラメータの調整後、登録対象となるユーザーの静脈画像の撮像が行われる(S102)。指の静脈パターン画像を撮像するにあたり、光源部30から700nm〜900nmの波長帯を多く含む光が照射され、指の静脈が撮像される。静脈パターンの撮像は、静脈識別装置1のセンサー部20を用いて行うこともできるし、他の撮像可能な装置を用いて行うこともできる。
【0042】
登録モードにおける撮像の際には、上述の特徴量がなるべく多く含まれるように、指が撮像される領域を大きくする。識別の精度を高くするためには、識別に用いる可能性のある領域に含まれる特徴量は全て登録しておくことが好ましい。そのため、本実施形態では識別動作において撮像される識別対象者の静脈パターンよりも、登録動作において撮像される登録対象者の静脈パターンの方が、撮像される領域が大きくなるようにする。例えば、登録対象者の複数の指について、それぞれの指全体を撮像する等、広い領域を撮像する。識別動作で撮像される領域よりも広い領域を撮像するために、登録動作において撮像を行なうセンサーと識別動作において撮像を行なうセンサーとを別個に設けてもよい。また、そのような広い領域を撮像するにあたり、一括して撮像を行う必要はなく、いくつかの領域に分割して撮像することとしてもよい。
【0043】
なお、本実施形態においては、複数の指について撮像を行なう際には、1回の撮像で全ての指について静脈パターン画像を取得するのではなく、指の1本1本について別個に撮像を行い、指毎に静脈パターン画像を取得する。例えば、登録対象者の人差し指〜小指の4本の指について撮像を行なう際には、まず人差し指の撮像を行なって、次に中指、薬指、小指と順番に撮像を行ない、4種類の静脈パターン画像を取得する。指の種類毎に別々に撮像を行なうことで、次工程(S103)において指静脈パターン画像から特徴量を抽出する際に、指の種類に対応付けて特徴量を抽出することが容易になる。なお、撮像した指の種類を区別し、IDを付与するには、撮像を行う際に登録対象者等がユーザーインターフェースを介して入力したり、静脈識別装置1が登録対象者に対して指の種類を指示したりした情報を記憶するようにすればよい。
【0044】
次に、撮像された指静脈画像から指毎に特徴量の抽出を行う(S103)。上述のように、指の種類毎に静脈パターン画像を撮像しておくことにより、それぞれの指について特徴量を抽出することができる。特徴量抽出処理(S103)の詳細は後で説明する。
【0045】
指静脈画像について特徴量の抽出が行なわれた後、その抽出された特徴量が適正なものであるか否かが判断される(S104)。本実施形態では、抽出された該特徴量を基準として静脈パターンについての識別が行なわれるので、識別動作において正確な識別を行なうためには十分な量(数)の特徴量が抽出されている必要がある。言い換えると、十分な数の特徴量が抽出されていなければ、識別の基準として採用することはできない。そこで、演算部10は、抽出された特徴量の数が所定数以上あるか否かを判断し、所定数未満である場合(S104がNo)は特徴量が不適正なものとしてS101に戻ってパラメータの調整からやり直して撮像を行なう。
【0046】
抽出された特徴量の数が所定数以上であると判断された場合(S104がYES)には、特徴量が適正なものとして、抽出された特徴量が、指の種類を表す指IDと対応付けられてRAM14に登録される(S105)。
【0047】
以上の処理により、登録動作が完了する。
【0048】
<特徴量の抽出(S103)の詳細>
特徴量抽出処理(S103)の処理内容の詳細について説明する。図4に、特徴量抽出処理(S103)のフローを示す。特徴量の抽出はS131〜S133の各処理を順次実行することにより行なわれる。
【0049】
まず、撮像した静脈画像の画像補正が行われる(S131)。ここで画像補正が行われるのは、主に次の3つの理由からである。(1)指の透過率には個人差があり、取得した画像の全体の輝度がばらつくことがある。(2)指の透過率の個人差により明暗分布が生じてしまうことがある。例えば、指の関節部は明るく画像が取得され、関節と関節との間は暗く画像が取得される。(3)静脈と表皮との間の生体組織により、光が拡散し、撮像した静脈パターンがぼやける場合がある。
【0050】
これらの課題を解決するために、フィルタ処理を行う。上記(1)の課題を解決するためには、正規化が必要であり、そのために平均値(直流成分)を除去する必要がある。また、上記(2)の課題を解決するためには、均一化が必要であり、そのために、緩やかな変動を除去する必要がある。よって、これら(1)と(2)の課題を解決するために、静脈画像に対してハイパスフィルタを適用する。
【0051】
また、上記(3)の課題を解決するためには、シャープネス処理が必要であるから、静脈画像に対してアンシャープマスクを適用し高周波成分を強調する。すなわち、これらハイパスフィルタとアンシャープマスクを統合したフィルタを作成し適用する。具体的には、2つのフィルタの周波数応答(MTF: Modulation Transfer Function)を周波数空間で積算し、これを逆フーリエ変換したフィルタを適用することになる。
【0052】
なお、撮像された画像に輝度のばらつき等がほとんど無い場合には、当該補正処理は必ずしも行われなくてもよい。
【0053】
次に、特徴点の抽出(S132)が行われる。ここで、「特徴点」とは、撮像された複数の画像の間で、静脈画像が回転したり位置が移動したりする場合でも、静脈パターンの決まった位置に出現する点のことを言う。すなわち、位置・角度がシフトしても静脈パターンに対する相対位置が変化しない点である。
【0054】
本実施形態では、前述のようにセンサーと指との位置関係は固定ではないことから、静脈パターンの特徴量を算出するためには、その中心位置(基準となる位置)を求めたいという要求がある。この中心位置となる点が特徴点である。これらの要求を満たす手法の一例として、本実施形態における特徴点抽出及び特徴量抽出では、SIFT(Scale Invariant Feature Transform)が採用される。以下に、SIFTを用いて特徴点抽出及び特徴量抽出を行なう際の方法について説明する。
【0055】
特徴点の抽出(S132)の処理においては、まず、ノイズを取り除き、安定した特徴点を得るために、静脈画像にガウスフィルタを適用して平均化処理を行う。そして、ある周波数以上の成分をカットする処理を行う。また、ガウスフィルタを適用した画像の二次微分を算出し、その極値を特徴点候補とする。さらに、ノイズに由来する特徴点を取り除くために、極値の絶対値が所定の閾値以上の点のみを特徴点として採用する。上記において、特徴点候補を得るために二次微分を算出しているのは、均一な領域ではなく、変化があるエッジ部を画像から抽出するためである。また、撮影において斜めから光源照射がなされたときにおいて、一定の傾きで変化する領域が画像に生ずることがあるが、このような領域を特徴点候補としないためである。二次微分の算出は、具体的には、静脈画像とガウス導関数の畳み込み積分により行われる。
【0056】
図5は、特徴点の一例を示す図である。図5には、撮像された静脈画像を部分的に拡大した図(図の斜線部)と、その静脈の分岐点において特定された特徴点が示されている。特徴点は、輝度勾配の二次微分の極値の場所が選択されるので、輝度の変化量が大きな箇所が選択されることになる。また、二次微分の極値の場所は、一次微分の変化量が極大となる場所であるから、周囲に比べて曲率(すなわり曲がり方)が大きい点が選択される。よって、静脈の分岐点や血管内部も特徴点として選択されることになる。すなわち、静脈とそうでない場所とを分ける場所が特徴点として自動的に選択されることになる。
【0057】
次に、特徴量の抽出が行われる(S133)。特徴量の抽出は、上記の処理において得られたそれぞれの特徴点に対して以下の処理を行うことにより行われる。まず、特徴点周辺の輝度勾配を算出する。
【0058】
図6は、得られた輝度勾配の一例を示す図である。図6には、特徴点を中心とした複数のマス目(本実施形態では、8×8のマス目)が示されている。そして、各マス目における輝度勾配がベクトル量として示されている。
【0059】
次に、図6のように得られた輝度勾配についてヒストグラムを作成する。そして、最も頻度の高い方向を特徴量の基準方向とする。
【0060】
図7は、輝度勾配のヒストグラムの一例を示す図である。図7の横軸は、全方向(360度)を所定数の方向に分割した場合の各方向を表し(図7の場合は36方向に分割した場合を表す)、縦軸は各方向における輝度の大きさhを表す。すなわち、図7では、36方向のヒストグラムが示されている。そして、「peak」と記載した方向の値が最も高くなっている。よって、この方向が特徴量の基準方向となる。
【0061】
次に、特徴点を中心として、前述の処理で選択された基準方向に合わせて、再度8×8のマス目を作成する。そして、この8×8のマス目を4×4のマス目に対応させ、この4×4のマス目毎の輝度勾配について、マス目ごとに8方向のベクトルに分解する。
【0062】
図8は、基準方向に座標軸を合わせたときの輝度勾配の一例を示す図である。図8の左図においては、太矢印の方向が前述の基準方向であり、基準方向に方向を合わせた8×8のマス目を再作成し輝度勾配を求め直したものである。また、図8の右図は、この8×8のマス目を4×4のマス目に対応させ、マス目毎に輝度勾配を8方向のベクトルに分解したものである。
【0063】
ここでは、8方向のベクトルに分解しているので、0°、45°、90°、135°、180°、225°、270°、及び、315°のそれぞれの方向についてベクトルのスカラー量が得られる。また、4×4のマス目のそれぞれについて、これらのスカラー量が得られていることになるため、4×4×8=128次元のスカラー量を得ることができることになる。本実施形態において、特徴点における特徴量は、これら複数次元のスカラー量である。
【0064】
図9に、本実施形態で静脈パターンから特徴量を抽出する動作について説明する図を示す。図9の上側の図は人差し指〜小指の各指について別個に撮像された指静脈パターン画像を表し、下側の図はそれぞれの指について抽出された特徴量のデータを表す。なお、登録時において必ずしも4本の指が撮像されなくてもよく、例えば、3本の指について撮像されるのであってもよく、両手の指であってもよい。
【0065】
指静脈画像の撮像により、図9の上側の図に示されるような各指についての静脈パターン画像が得られる。そして、それぞれの指静脈パターン画像から特徴点が抽出される。図の静脈画像中に複数表示されている白丸が、抽出された特徴点である。これらの特徴点についてそれぞれ特徴量が抽出される。例えば、人差し指の画像から、U1〜Unのn個の特徴量が抽出され、中指の画像から、V1〜Vmのm個の特徴量が抽出される。それぞれの特徴量は上述のような128次元のスカラー量で表される。各指の画像から抽出される全ての特徴量は、その指毎の特徴量群として定義され、図9下側のようにデータ化される。
【0066】
データ化された特徴量群は、登録対象者のID及び指IDとセットにしてRAM14に保存される。例えば、或る登録対象者Aの人差し指について、図9に示されるように(U1〜Un)のn個の特徴量が抽出された場合、特徴量群[ID−A人差し指(U1〜Un)]等として、登録対象者毎に指IDに対応付けて登録される。本明細書では、登録対象者毎に指IDに対応付けて登録された全ての特徴量データを「登録特徴量」と称する。
【0067】
===識別動作について===
識別動作は、登録対象者(ユーザー)毎に指IDに対応付けて登録されている特徴量(登録特徴量)と、識別対象者の静脈パターン画像から抽出される特徴量とを照合して、登録されているいずれかの登録対象者と識別対象者とが同一人物であるか否かを判定する処理である。
【0068】
静脈識別装置1は、通常時の使用場面(例えば、図2でドアに施錠しているとき)においては、識別モードの状態で待機している。この状態において、トリガセンサー40が静脈識別装置1へ識別対象者の指が接近するのを検知すると、以下のような識別動作が開始される。
【0069】
<識別動作の流れ>
図10に、識別動作のフローを示す。識別動作はS501〜S509の各処理を演算部10が実行することによって行なわれる。
【0070】
初めに、登録動作におけるS101と同様に、撮像パラメータの調整が行なわれる(S501)。すなわち、センサー部から入力されてくる指(静脈)の画像をもとに、演算部10によって撮像パラメータが調整され、最も良好な画質で撮像可能なパラメータが設定される。
【0071】
撮像パラメータの調整後、識別対象者の指静脈画像の撮像が行われる(S502)。静脈画像の撮像は、識別対象者がドア(図2参照)を開こうとしてドアノブを握ったタイミングで行なわれる。このとき、光源部30から700nm〜900nmの波長帯を多く含む近赤外線を照射しながらセンサー部20を用いて1回の撮像が行なわれる。本実施形態では、位置不変・回転不変な特性を有する特徴量を用いて識別を行なう。したがって、識別時における指の位置・方向は、登録時における指の位置・方向とずれていてもよい。つまり、ユーザーは撮像の際に指の位置合わせ等の細かい調整をする必要がなく、ユーザーにとって利便性の高いものとなっている。
【0072】
また、撮像される指の範囲は、登録動作時よりも狭くすることができる。通常の場合、指の静脈パターンの一部分を撮像しただけでも、個人の識別を行なう際に必要な数の特徴量を抽出することが可能だからである。登録動作において、登録対象者毎に複数の指についての静脈パターンを撮像し、それぞれの指(例えば、人差し指〜小指までの4本分の指)について特徴量群が抽出されている(前述の登録特徴量)。そのため、識別動作においては、そのうちの一部に対応する範囲(例えば、人差し指及び中指の一部)から抽出される識別対象者の特徴量を登録特徴量と照合を行うことができる。このとき、識別対象者の或る指の静脈パターンの一部とその指に隣り合う指の静脈パターンの一部とが同時に撮像されることが望ましい。隣り合う複数の指(例えば、人差し指及び中指)から抽出される特徴量を用いて識別動作を行う方が、一本の指のみから抽出される特徴量を用いて識別動作を行う場合よりも、ノイズ等の影響が小さくなるため、識別の精度を高くすることができる。詳細は後述する。
【0073】
次に、撮像された識別対象者の静脈画像から特徴量の抽出が行われる(S503)。特徴量の抽出は登録動作時(S103)と同様にして行なうことができ、1つの静脈画像から複数の特徴量(特徴量群)が抽出される。例えば、識別対象者の静脈パターンを表す特徴量としてW1〜Wpが抽出され、RAM14に一時的に保存される。なお、識別動作における指静脈パターンの撮像(S502)では不特定の指が撮像されるため、抽出された特徴量がそれぞれどの指の静脈パターンから抽出されたものであるかを判断することはできない。つまり、S503の段階では、上述の特徴量W1〜Wpは指の情報を含まないデータである。
【0074】
抽出された特徴量群が適正なものである場合、すなわち、静脈識別を行なうのに十分な数の特徴量を抽出することができていれば(S504)、抽出された当該特徴量についての照合処理(S505)が行なわれる。なお、S504は登録動作におけるS104と同様にして行うことができる。
【0075】
照合処理(S505)では、抽出された識別対象者の指静脈パターンの特徴量に基づいて、該識別対象者のスコアが算出される。
【0076】
まず、識別動作において抽出された識別対象者の特徴量と、登録動作において指IDに対応付けて登録されている登録対象者の特徴量(登録特徴量)との間で、類似する特徴量の有無が判断される。そして、識別対象者の特徴量と類似する登録特徴量が存在した場合は、当該登録特徴量に対応付けられた指IDに応じて、識別対象者の指ごとのスコアが加算される。この指毎のスコアから識別対象者のスコアが算出される。照合処理(S505)の詳細は後で説明する。
【0077】
この方法では、識別対象者の特徴量と登録特徴量との間で、類似する特徴量の数に応じてスコアが増加される。したがって、識別対象者の静脈パターンと、登録されたユーザー(登録対象者)のうちのいずれかの静脈パターンとが類似しているほど、スコアが高い値となる。
【0078】
そして、照合処理の結果として得られた識別対象者のスコアと所定の閾値とが比較される(S506)。上述のように、スコアが高いほど、識別対象者の静脈パターンと、登録対象者の静脈パターンとの類似度が高いので、閾値の値を適当に設定することにより、個人の識別を精度良く行なうことができる。
【0079】
演算部10は、識別対象者のスコアが所定の閾値よりも大きい場合(S506がYes)には、識別対象者と登録対象者とが一致すると判定する(S507)。一方、識別対象者のスコアが所定の閾値よりも小さい場合(S506がNo)には、識別対象者と登録対象者とが一致しないと判定する(S508)。
【0080】
判定結果は制御対象50に送信され(S509)、その結果に従った制御がなされる。例えば、図2Aのように制御対象50がドアの電子錠である場合には、識別対象者と登録対象者とが一致すると判定されれば開錠され、識別対象者と登録対象者とが一致しないと判定されれば開錠されない。
【0081】
<照合処理(S505)の詳細>
照合処理(S505)の詳細について説明する。図11に、照合処理のフローを示す。照合処理は、演算部10によってS551〜S556の各処理を実行することにより行なわれる。なお、以下では、特徴量抽出処理(S503)において、識別対象者の指静脈パターンから(W1〜Wp)のp個の特徴量が抽出されているものとして説明を行なう。
【0082】
はじめに、識別対象者の特徴量群に含まれるp個の特徴量(W1〜Wp)について、第j番目(j=1,2,3…)の特徴量Wjが選択される(S551)。例えば、照合処理の開始時点では、まず第1番目の特徴量W1が選択される。
【0083】
次に、前述の登録特徴量の中に、Wjと類似する特徴量があるか否かについて判断される(S552)。特徴量の「類似」は、比較する2つの特徴量ベクトル間におけるユークリッド距離を算出し、算出されたユークリッド距離とあらかじめ設定してある所定の閾値とを比較することによって判断することができる。これらの距離の値が所定の閾値よりも小さい場合には、両者のベクトルが近いことを示すので2つの特徴量は類似度が高いと判定することができる。
【0084】
例えば、S551で選択された特徴量W1と、登録特徴量として登録されている登録対象者Aの人差し指に対応付けられた或る特徴量Ul(ID−A人差し指(Ul))との間で、それぞれユークリッド距離が算出される。W1とUlとの間のユークリッド距離が所定の閾値よりも小さい場合、W1とUlとは類似する特徴量であると判断される。また、W1とUlとが非類似であった場合は、登録対象者Aの人差し指に対応付けられた次の特徴量U2(ID−A人差し指(U2))との間で、類否(類似するか否か)が判断される。そして、登録対象者Aの人差し指に対応付けられた特徴量(ID−A人差し指(U1〜Un)の中に類似する特徴量がない場合は、次に登録対象者Aの中指に対応付けられた特徴量(ID−A中指(V1〜Vm)との類否が判断される。
【0085】
このようにして、選択された識別対象者の各特徴量と登録特徴量との間で順次類否判断が行なわれる。
【0086】
なお、ここでは、ユークリッド距離に基づいて類似判断を行なうこととしたが、市街地距離やマハラノビスの距離に基づいて類似判断を行なうこととしてもよい。
【0087】
選択されたWjについて、類似する特徴量が登録特徴量の中に見つかった場合は(S552がYes)、その登録特徴量に対応付けられた指IDに応じて、識別対象者の指毎にスコアを増加する(S553)。例えば、上述の例において選択された特徴量W1が、登録特徴量中の或る登録対象者Aの人差し指に対応付けられた特徴量Ulと類似すると判断された場合は、識別対象者の人差し指のスコアが1ポイント加算される。なお、加算されるポイントは調整可能であり、例えば特徴量が類似する場合に、その指について2ポイントずつ加算されるようにしてもよい。
【0088】
選択された識別対象者の特徴量Wjが、登録特徴量中のいずれの登録対象者のいずれの指の特徴量にも類似しなかった場合は(S552がNo)、識別対象者のいずれの指のスコアも加算されない。
【0089】
そして、次の特徴量(j+1番目の特徴量Wj+1)が存在する場合は(S554がNo)、該特徴量Wj+1について上述の(S551〜S553)の処理が繰り返される(S554)。
【0090】
次の特徴量がない場合(S554がYes)、識別対象者の指毎のスコアから識別対象者のスコアが算出される(S555)。スコアを算出する際は、S554までの工程で識別対象者の各指について算出されたスコアのうち隣り合う複数の指のスコアの合計値を算出し、該合計値が最大となる指の組み合わせが、識別対象者のスコアとして算出される。例えば、隣り合う2本の指のスコアの合計値から識別対象者のスコアを算出する場合は、人差し指と中指のスコアの合計、中指と薬指のスコアの合計、薬指と小指のスコアの合計が算出され、この中で最大となる値が識別対象者のスコアとされる。
【0091】
そして、算出された識別対象者のスコアが出力され(S556)、この値と前述の閾値を比較することにより(S506)、識別対象者がユーザー(登録者)であるか否かの判断がなされる。
【0092】
<識別動作の具体例>
識別動作の流れについて、具体例を用いて説明する。図12A〜図12Cは識別対象者Xの指静脈パターンを用いて識別動作を行う例について説明する図である。なお、本例では、登録特徴量として、登録対象者A〜Cの3人分の指静脈データ(ID−A〜ID−C)が登録されているものとする。該指静脈データは、それぞれ人差し指〜薬指の4種類の指IDに対応付けて登録された特徴量である。例えば、登録対象者Aについての該指静脈データとして[ID−A人差し指(U1〜Un)]、[ID−A中指(V1〜Vm)]等、登録対象者毎に人差し指〜薬指の各指に対応付けられた特徴量データが登録されている。
【0093】
本例では、識別対象者Xの指静脈パターン画像が撮像される際に(S502)、図12Aのセンサー部20の斜線部で表される範囲で撮像が行なわれたものとする。図では、識別対象者Xの中指が他の指よりも大きく撮像され、人差し指及び薬指の一部が撮像されている。この撮像範囲に含まれる識別対象者Xの指静脈パターンについて、前述の方法によって特徴量(W1〜Wp)が抽出される(S503)。
【0094】
次に、照合処理(S505)において、登録特徴量中の各特徴量と、抽出された識別対象者Xの各特徴量(W1〜Wp)との類否が判断される。登録特徴量中に類似する特徴量がある場合には、当該特徴量に対応付けられた指IDに応じて、識別対象者の指のスコアが増加される。そして、増加されたスコアを指毎に合計することで、図12Bのように指毎のスコアが算出される。
【0095】
まず、識別対象者Xの各特徴量(W1〜Wp)について、登録対象者Aの人差し指に対応付けられた特徴量U1〜Un([ID−A人差し指(U1)]〜[ID−A人差し指(Un)])までが順に照合される。登録対象者Aの人差し指に対応付けられた登録特徴量との照合の結果、識別対象者Xの特徴量(W1〜Wp)のうち14点が類似したとする。この場合、識別対象者Xの指スコアとして、人差し指のスコアが14ポイント加算される(図12Bの斜線で表される棒グラフ)。
【0096】
次に登録対象者Aの中指に対応付けられた特徴量[ID−A中指(V1〜Vm)]との照合が行なわれ、中指のスコアが5と算出される。同様にして、薬指のスコアが10、小指のスコアが13と算出される。この指スコアが、識別対象者Xと登録対象者Aとの照合結果となる。
【0097】
同様にして、識別対象者Xの各特徴量と、登録対象者Bの登録特徴量(ID−B人差し指)〜(ID−B小指)とが順次照合さる。登録対象者Bの登録特徴量(ID−B)との照合の結果、人差し指のスコアが16、中指のスコアが34、薬指のスコアが17、小指のスコアが7と算出される(図12Bの黒塗りで表される棒グラフ)。
【0098】
また、登録対象者Cの登録特徴量(ID−C)との照合の結果、人差し指のスコアが11、中指のスコアが4、薬指のスコアが10、小指のスコアが11と算出される(図12Bの白塗りで表される棒グラフ)。
【0099】
次に、識別対象者Xの指毎に算出されたスコアのうち、隣り合う2本の指のスコアの合計値を算出する。例えば、図12BのID−Bの場合、人差し指と中指との合計スコアは50(=16+34)である。また、中指と薬指との合計スコアは51(=34+17)、薬指と小指との合計スコアは24(=17+7)である。
【0100】
このうち、合計スコアが最大となる組み合わせが識別対象者Xのスコア候補として選択される。上述の例においては、図12Cに示されるように、中指と薬指との合計スコアである51が、登録対象者Bの登録特徴量(ID−B)との照合から算出される識別対象者Xのスコア候補となる(図12Cの黒塗りで表される棒グラフ)。同様に、登録対象者Aの登録特徴量(ID−A)と照合した結果による識別対象者Xのスコア候補は23(=10+13)であり(図12Cの斜線で表される棒グラフ)、登録対象者Cの登録特徴量(ID−C)と照合した結果による識別対象者Xのスコア候補は21(=10+11)である(図12Cの白塗りで表される棒グラフ)。
【0101】
これらの候補のうち、ID−Bとの照合で得られたスコア(51)が最大であるので、このスコアが識別対象者Xの合計スコアとなる。
【0102】
そして、識別対象者Xのスコア(51)と所定の閾値との大小関係が比較され(S506)、識別の許否が判断される。例えば、本例において閾値が40に設定されているとすると、識別対象者Xのスコア(51)>閾値(40)であるため、識別が許可される(S507)。なお、この場合、識別対象者Xは登録対象者Bと同一人物であると判断されることになる。閾値の設定は、あらかじめ実験を行なうことにより、最適な値が決定される。
【0103】
また、識別対象者Xのスコアとして、隣り合う3本の指の合計値を算出してもよい。3本指の合計とした場合、ID−Aとの照合結果によるスコアの最大値は29(=14+5+10)となる。同様に、ID−Bとの照合の結果は67(=16+34+17)、ID−Cとの照合の結果は25(=11+4+10)となる。このうち、ID−Bとの照合で得られたスコア(67)が最大であるので、結局、このスコアが識別対象者Xの合計スコアとなる。閾値を適当に調整することで、上述の場合と同様に、識別対象者Xは登録対象者Bと同一人物であると判断することができる。
【0104】
図13A〜図13Cは、識別対象者Yの指静脈パターンを用いて識別動作を行う例について説明する図である。基本的な流れは、上述の例と同様である。
【0105】
本例では、識別対象者Yの指静脈パターン画像が撮像される際に(S502)、図13Aに示されるように、識別対象者Yの人差し指及び中指が撮像範囲に含まれている。すなわち、人差し指及び中指の静脈パターンの一部から識別対象者Yの特徴量が抽出される。
【0106】
次に、上述の例と同様に、識別対象者Yの各特徴量が登録対象者A〜Cの登録特徴量と照合される。登録対象者Aの人差し指に対応付けられた登録特徴量との照合の結果、図13Bに示されるように、識別対象者Yの指スコアとして、人差し指のスコアが24、中指のスコアが23、薬指のスコアが10、小指のスコアが9と算出される(図13Bの斜線で表される棒グラフ)。この指スコアが、識別対象者Yと登録対象者Aとの照合結果となる。また、識別対象者Yの各特徴量が登録対象者B及びCの登録特徴量と照合され、その結果図13Bの黒塗りで表される棒グラフ(ID−B)、及び、白塗りで表される棒グラフ(ID−C)の指スコアが算出される。
【0107】
そして、識別対象者Xの指毎に算出されたスコアのうち、隣り合う2本の指のスコアの合計値が算出され、ID−Aとの照合で得られたスコア45(=23+22)が最大であるので(図13B)、このスコアが識別対象者Xの合計スコアとなる。
【0108】
算出されたスコアと閾値を比較して、閾値識別対象者Yのスコア(45)>閾値(40)となるため、識別が許可される(S507)。なお、この場合、識別対象者Xは登録対象者Aと同一人物であると判断されることになる。
【0109】
このように、隣り合う複数の指スコアを考慮することによって、精度良く指静脈識別を行うことが可能となる。
【0110】
隣り合う複数の指のスコアを考慮するのは、偶然に発生するミスマッチ(本来合致するはずのない特徴量が誤って類似と判定されること)の影響を小さくするためである。例えば、図13Bで登録対象者B(ID−B)の登録特徴量との照合によって得られる識別対象者Yの人差し指についての指スコアは20である。一方で、識別対象者Yと登録対象者Bは非同一人物であることがわかっているので、このスコアは偶然発生したノイズ等の影響によって算出されたものと考えられる。
【0111】
仮に、指1本分のスコアのみを用いて識別を行なう場合、図13Bに示されるように、登録対象者Aとの照合による識別対象者Yのスコアは23(ID−A人差し指)となる。また、登録対象者Bとの照合によるスコアは20(ID−B人差し指)、登録対象者Cとの照合によるスコアは13(ID−C薬指)となる(図13B参照)。この場合、閾値の設定によっては(例えば閾値=19と設定されていた場合)、登録対象者Aだけでなく、登録対象者Bとの関係でも、識別対象者Yの識別が許可されてしまい、誤識別が発生する。
【0112】
これに対して、本実施形態のように、隣り合う複数の指のスコアを考慮すると、当該複数の指の全てにおいてミスマッチが生じる可能性は極めて低くなる。これにより、偶然のミスマッチによる影響を相対的に小さくすることができるので、精度良く識別を行なうことが可能となる。
【0113】
また、隣り合う指のデータを用いることが重要である。例えば、4本の指スコアのうち、最大となる2本の指についての指スコアの合計を識別対象者のスコアとして扱うとすると、識別の精度が悪くなる。上述のようなミスマッチによって発生したデータを積極的に採用することになるためである。
【0114】
また、考慮するべき(隣り合う)指の数は撮像範囲に応じて決定される。例えば、図12や図13のような撮像を行なう場合、人差し指〜小指の4本についての指スコアの合計を識別対象者のスコアとして扱うとすると、識別の精度が悪くなる。撮像範囲外となる小指について算出される指スコアは信頼できるものとはいえないため、小指のスコアを考慮することにより、かえって識別精度が低下してしまう。従って、図12や図13に示されるような撮像範囲の場合、隣り合う2本または3本の指についてのみ考慮するものとする。なお、考慮する指の数は、撮像部の面積(撮像可能な面積)等を考慮して決定することができる。
【0115】
<まとめ>
本実施形態では、識別動作において、識別対象者の静脈パターンを、位置・方向によらずに撮像して得られる画像から、当該静脈パターンを特徴付ける複数の特徴量を抽出する。そして、指の種類を表す指IDに対応付けて登録されている登録特徴量と、抽出された該識別対象者の各特徴量とを照合する。照合の結果、該識別対象者の特徴量と登録特徴量が類似する場合は、その登録特徴量に対応付けられた指IDに応じて、該識別対象者の指毎にスコアを算出する。算出された指毎のスコアから、隣り合う複数の指のスコアを組み合わせた場合に最大となる値を識別対象者のスコアとし、所定の閾値とを比較することにより、静脈識別を行なう。
【0116】
この方法によれば、撮像範囲外となる指や互いに隣り合わない指について生じるミスマッチ分が、最終的な識別対象者のスコアに反映されにくい。さらに、ノイズ等に起因すると考えられる特徴量の影響が相対的に小さくなるため、高精度な識別を実現することができる。また、撮像時における位置合わせやガイドの設置等も不要であるため、ユーザーにとっても利便性が高い。
【0117】
したがって、撮像した指の画像を用いて個人の識別を行なう生体識別装置において、識別時の指の位置や方向によらず、精度の高い識別を行なうことが可能となる。
【0118】
===その他の実施形態===
一実施形態としての静脈識別装置を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0119】
<生体識別装置について>
上述の実施形態において、生体識別装置の例として静脈パターンを用いて識別を行なう静脈識別装置1を挙げて説明しているが、この限りではなく、静脈パターン以外の人間の生体パターンを捉えて識別を行なう装置であってもよい。例えば、指の指紋等の画像を用いて個人の識別を行なうことも可能である。
【0120】
<SIFT特徴量について>
上述の実施形態において、特徴点の抽出及び特徴量の抽出を行なう際の手法としてSIFT特徴量を用いた例について説明しているが、この限りではない。例えば、SURF(Speeded Up Robust Features)、GLOH(Gradient Location and Orientation Histogram)等の手法を用いることとしてもよい。
【符号の説明】
【0121】
1 静脈識別装置、
10 演算部、12 CPU、14 RAM、16 EEPROM、
20 センサー部、
30 光源部、
40 トリガセンサー、
50 制御対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指の生体パターンを撮像する撮像部と、
登録対象者の生体パターンを特徴付ける登録対象者の特徴量と、指の種類を表す指IDとを対応付けて登録する登録部と、
演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記撮像部を用いて識別対象者の指の生体パターンを撮像して得られる画像から、前記識別対象者の特徴量を複数抽出し、
前記登録部に登録されている登録対象者の特徴量と、前記識別対象者の特徴量とが類似するか否かを判断し、
前記識別対象者の特徴量と類似すると判断された前記登録対象者の特徴量に対応付けられた指IDに応じて、前記識別対象者の指毎のスコアを算出し、
前記識別対象者の隣り合う複数の指のスコアの組み合わせに基づいて、前記識別対象者が前記登録対象者であるか否かを識別する、
生体識別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の生体識別装置であって、
前記撮像部は、前記識別対象者の1本の指の生体パターンの少なくとも一部と、前記1本の指に隣り合う指の生体パターンの少なくとも一部とを撮像することを特徴とする、生体識別装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の生体識別装置であって、
前記演算部は、
前記識別対象者の隣り合う複数の指のスコアの合計値を算出し、
前記スコアの合計値のうち最大の値が所定の閾値よりも大きい場合に、前記識別対象者が前記登録対象者であると識別することを特徴とする、生体識別装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の生体識別装置であって、
前記演算部は、
前記撮像部を用いて登録対象者の指の生体パターンを撮像して得られる画像から、前記登録対象者の特徴量を抽出し、
前記登録対象者の特徴量と前記登録対象者の指IDとを対応付けて前記登録特徴量として前記登録部に登録させることを特徴とする、生体識別装置。
【請求項5】
請求項4に記載の生体識別装置であって、
前記識別対象者の指の生体パターンよりも、
前記登録対象者の指の生体パターンの方が、前記撮像部によって撮像される領域が大きいことを特徴とする、生体識別装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の生体識別装置であって、
前記特徴量が、SIFT(Scale Invariant Feature Transform)を用いて抽出されることを特徴とする、生体識別装置。
【請求項7】
識別対象者の指の生体パターンを撮像して得られる画像から、前記識別対象者の指の生体パターンを特徴付ける識別対象者の特徴量を複数抽出することと、
指の種類を表す指IDに対応付けて登録されている登録対象者の特徴量と、前記識別対象者の特徴量とが類似するか否かを判断することと、
前記識別対象者の特徴量と類似すると判断された前記登録対象者の特徴量に対応付けられた指IDに応じて、前記識別対象者の指毎のスコアを算出することと、
前記識別対象者の隣り合う複数の指のスコアの組み合わせに基づいて前記識別対象者が前記登録対象者であるか否かを識別することと、
を有する生体識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−252644(P2012−252644A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126502(P2011−126502)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】