生体適合性器具とこれを生体に接合する為の接着剤
【課題】感染症防止用として、満足できる接着強度と生体親和性を得るための、カテーテルや歯科用インプラント等の生体適合性器具及び生体と材料の界面接合用接着剤の改良方法を提供する。
【解決手段】生体適合性器具は、その接合部位の表面が、セラミックス、金属又は、高分子により構成されており、更に、生体適合性器具の生体への接着に用いる接着剤が、蒸留水、金属イオンを含む蒸留水又は緩衝溶液からなる溶媒に溶解したタンパク質、グリコサミノグリカン、ポリアミノ酸、ポリオールの1種又は2種以上の組み合わせからなる生分解性高分子を接着成分とし、電子吸引基によってジカルボン酸又はトリカルボン酸のカルボキシル基を2つ又は3つ修飾した有機酸誘導体を硬化成分とする。
【解決手段】生体適合性器具は、その接合部位の表面が、セラミックス、金属又は、高分子により構成されており、更に、生体適合性器具の生体への接着に用いる接着剤が、蒸留水、金属イオンを含む蒸留水又は緩衝溶液からなる溶媒に溶解したタンパク質、グリコサミノグリカン、ポリアミノ酸、ポリオールの1種又は2種以上の組み合わせからなる生分解性高分子を接着成分とし、電子吸引基によってジカルボン酸又はトリカルボン酸のカルボキシル基を2つ又は3つ修飾した有機酸誘導体を硬化成分とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体と界面接合用接着剤により接合される生体適合性器具とこれを生体に接合する為の界面接合用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の体腔内等に薬液等を注入したり、排泄物や内容物等を除去したりするためのカテーテルや歯科用インプラント等の生体適合性器具の素材には、人体に対する安全性の観点から、生体組織に対して不活性なシリコーンゴム、ポリウレタンまたはCoCr合金、ステンレス等の材料が一般に用いられている。しかし、このような材料からなる生体適合性器具は生体組織に対して不活性であることから、装着状態下で生体適合性器具と生体組織との間に隙間ができ、特に、長期にわたり体内に留置する場合、この隙間を通して細菌等が侵入し易く、感染症を引き起こすことがある。
【0003】
このようなカテーテルあるいは歯科用インプラント等の生体適合性器具の留置による感染症は、生体適合性器具と生体組織との適合性を高めることにより、生体適合性器具と生体組織の密着性を高め、その発生を抑えることができると考えられ、これらの生体適合性器具の表面に生体適合性に優れる材料を被覆することがこれまで種々試みられている。例えば、特許文献1に開示されているように、体外からの菌等の侵入を防止するため、経皮部にセラミックスのような生体親和性の高い材料からなる部材を被覆することにより、生体組織との密着性の向上を計っている。一方、特許文献2には、炭素を構成元素として含む高分子材料より構成され、表面の少なくとも一部がイオン衝撃により改質されてなる細胞接着性材料が記載されている。特許文献3には、孔内に生体組織が侵入でき、確実な固定を得ることができる熱可塑性樹脂よりなる多孔質体が記載されている。また特許文献4には、炭素を構成元素として含む高分子材料より構成され、表面の少なくとも一部がイオン衝撃により改質されてなる骨及び/又は筋膜に接着性を有する材料が記載されている。
【0004】
ところが、セラミックスを被覆あるいは表面処理を施した高分子材料は、生体親和性は高いが、生体組織との接着に時間がかかるため、セラミックスと生体間との結合形成までに細菌感染を起こしやすいという問題がある。そのため、フィブリン糊により生体適合性器具を生体と接着させる手法が、特許文献5、6に記載されている。さらに、特許文献7には組織接着性材料として、セルロースまたはセルロース誘導体が記載され、特許文献8には、生体組織接着性、生体適合性に優れる反応性多糖誘導体が記載されている。さらに、非特許文献1には、合成接着剤であるHistoacryl(登録商標)が記載されている。また、特許文献9には、固定化された細胞接着性蛋白質が記載されている。また、発明者らはこれまでに生体組織間を接合する固体-液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料を出願している。(特許文献10)
【0005】
【特許文献1】特開昭63−46171号公報
【特許文献2】特開平5-49689号公報
【特許文献3】特開平9−294811号公報
【特許文献4】特開2002−315821号公報
【特許文献5】特開2004−89361号公報
【特許文献6】特開2006−230639号公報
【特許文献7】特開平8−266618号公報
【特許文献8】特開2006−334007号公報
【特許文献9】特開平5−285217号公報
【特許文献10】特開2006−346049号公報
【非特許文献1】Anaesthesia, 62, 966-974 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、接着剤としては、各種のものが開発されていたが、今までに満足できる接着強度および生体親和性を併せ持つことが出来なかったので、本発明は、生体適合性器具の改良によりこれを達成しようとしたものである。。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1は、生体と材料の界面接合用接着剤により接合される生体適合性器具であって、その接合部位の表面が、セラミックス、金属又は、高分子にて構成されてなることを特徴とする。
【0008】
発明2は、発明1の生体適合性器具において、セラミックスがハイドロキシアパタイト、酸化チタン、アミノ基導入ハイドロキシアパタイト、アミノ基導入酸化チタンであることを特徴とする。
【0009】
発明3は、発明2の生体適合性器具において、酸化チタンがシリコーンに固定化されてなることを特徴とする生体適合性器具。
【0010】
発明4は、発明3の生体適合性器具において、酸化チタン固定化シリコーンがアミノ化ナノ酸化チタン固定化シリコーンであることを特徴とする生体適合性器具。
【0011】
発明5は、発明1の生体適合性器具において、金属が、CoCr合金、アミノ基導入CoCr合金、SUS316Lステンレス、アミノ基導入SUS316Lステンレスであることを特徴とする生体適合性器具。
【0012】
発明6は、発明1の生体適合性器具において、高分子が、アミノ基導入シリコーン、アミノ基導入ポリウレタン、アミノ基導入ポリプロピレンまたはアミノ基導入ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする生体適合性器具。
【0013】
発明7は、発明1から6のいずれかの生体適合性器具の生体への接着に用いる接着剤であって、蒸留水、金属イオンを含む蒸留水又は緩衝溶液からなる溶媒に溶解した生分解性高分子を接着成分とし、電子吸引基によってジカルボン酸又はトリカルボン酸のカルボキシル基を2つ又は3つ修飾した有機酸誘導体を硬化成分とすることを特徴とする。
【0014】
発明8は、発明7の接着剤において、生分解性高分子がタンパク質、グリコサミノグリカン、ポリアミノ酸、ポリオールの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする。
【0015】
発明9は、発明8の接着剤において、タンパク質が、コラーゲン、アテロコラーゲン、アルカリ処理コラーゲン、メチル化コラーゲン、ゼラチン、ヒト血液由来アルブミン、ヒト遺伝子組み換えアルブミン、卵白アルブミン、ケラチン、グロブリン、フィブリノーゲン、キチン、キトサン、ヘモグロビン、カゼインの1種又は2種以上の組み合わせであること を特徴とする。
【0016】
発明10は、発明8の接着剤において、そのグリコサミノグリカンが、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする。
【0017】
発明11は、発明7〜10のいずれかの接着剤において、金属イオンが、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅、銀、セレン、モリブデン、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする。
【0018】
発明12は、発明7〜11のいずれかの接着剤において、緩衝液が、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩の1種又は2種以上の組み合わせからなることを特徴とする。
【0019】
発明13は、発明7〜12のいずれかの接着剤において、前記有機酸誘導体が固体であることを特徴とする。
【0020】
発明14は、発明7〜13のいずれかの接着剤において、電子吸引基がスクシンイミジル、スルホスクシンイミジル、マレイミジル、フタルイミジル、イミダゾールイル、ニトロフェニル、トレジル又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする。
【0021】
発明15は、発明7〜13のいずれかの接着剤において、ジカルボン酸又はトリカルボン酸が、酒石酸又はクエン酸回路に存在するリンゴ酸、オキサル酢酸、クエン酸、cis−アコニット酸、又は2−ケトグルタル酸又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明1〜6のように生体適合性器具を構成することで、前記各種の接着剤のいずれにおいても、接着強度および生体親和性を向上し、感染症の予防をより確実に行えるようにするものであった。
さらに、発明7から15に示す接着剤は、前記本発明の構成の生体適合性器具を生体に接合するのに適した接着剤であり、接着強度および生体親和性を他の接着剤に比べて高くすることができたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に使用される生分解性高分子は、タンパク質、グリコサミノグリカン、ポリアミノ酸、ポリオールの1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0024】
また、タンパク質は、コラーゲン(数10種類のタイプによらない)、アテロコラーゲン(数10種類のタイプによらない)、アルカリ処理コラーゲン(数10種類のタイプによらない)、メチル化コラーゲン(数10種類のタイプによらない)、ゼラチン、ヒト血液由来アルブミン、ヒト遺伝子組み換えアルブミン、アルブミンフラグメント、ケラチン、ヘモグロビン、カゼイン、グロブリン、フィブリノーゲン、キチン、キトサン、ヘモグロビン、カゼイン等アミノ基を有する高分子が含まれる群より選択されるタンパク質の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0025】
また、グリコサミノグリカンには、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。これらのグリコサミノグリカンは、分子量及び由来する生物によらない。
【0026】
また、その他の生分解性高分子として、キトサン(脱アセチル化度、分子量によらない)、ポリアミノ酸(アミノ酸の種類、分子量によらない)、ポリアルコール(種類、分子量によらない)が挙げられる。
【0027】
また、接着成分を作製するための溶媒としては、蒸留水、生分解性高分子と静電的相互作用及びキレート効果によって相互作用する金属イオンを含む水溶液、又は緩衝溶液が用いられる。これらの溶媒は、有機溶媒ではないので、生体組織に対し、高い毒性を示さず、また、これらを使用することにより、接着剤を付着させた周囲の生体組織を浸透圧、pHの変化により壊死させないようにすることができる。ただし、蒸留水は、接着効果に影響は無いが生体組織との浸透圧の違いにより、周辺組織の細胞が破壊することがあるので使用上注意を要する。緩衝溶液を使うことによりpHを6〜8の間で変化させることが可能となり、硬化速度の制御が可能になる。
【0028】
また、金属イオンを含む水溶液の金属イオンは、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅、銀、セレン、モリブデン、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムの1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。金属イオンを含む水溶液は、これらの金属イオンの硫酸塩、硝酸塩、塩化物塩(市販品)を0.01〜1Mになるように水に溶解することにより調製できる。この溶液に生分解性高分子を溶解する。
【0029】
また、緩衝溶液は、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。緩衝溶液としては、炭酸水素ナトリウム緩衝溶液、ホウ酸緩衝溶液、リン酸緩衝溶液等が挙げられる。また、緩衝溶液を調製する際に用いる無機塩の濃度範囲は0.01M〜10.0Mを用いることができる。
【0030】
本発明における硬化成分として用いる粉末状の有機酸誘導体は、ジ又はトリカルボン酸を電子吸引基、例えば、スクシンイミジル、スルホスクシンイミジル、マレイミジル、フタルイミジル、イミダゾールイル、ニトロフェニル、トレジル又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせと合成反応させ、活性エステルを導入したものである。
【0031】
ジカルボン酸又はトリカルボン酸は、酒石酸又はクエン酸回路に存在するリンゴ酸、オキサル酢酸、クエン酸、cis-アコニット酸、2−ケトグルタル酸又はこれらの誘導体が好ましいが、その他のジ又はトリカルボン酸、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリト酸、メリト酸などでもよい。
【0032】
本発明において硬化成分として用いる有機酸誘導体は、固体であることが好ましい。有機酸誘導体は、ジ又はトリカルボン酸の有機溶媒溶液に、縮合剤、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、又は、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の存在下で、電子吸引基となる分子、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミドを加え、反応させ、副生成物であるウレアを含む粗生成物を得る。
【0033】
その後、反応溶媒をエバポレーターにより減圧留去することによりペースト状の粗生成物を得る。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー等により分離精製する。さらにシリカゲルクロマトグラフィーのフラクションを減圧留去、再結晶によって精製する。これにより粒度分布が10〜100μm程度の粉末状の白色結晶が得られる。得られる電子吸引基によってジカルボン酸のカルボキシル基を2つ、又はトリカルボン酸のカルボキシル基を2つ又は3つ修飾した有機酸誘導体は、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)及び元素分析により純度95%以上のものである。
【0034】
かかる反応物は、例えば、ジ又はトリカルボン酸0.001〜10重量%に対し、電子吸引基として、N-ヒドロキシスクシンイミド、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド、又はこれらの誘導体を0.001〜10重量%、縮合剤として、カルボジイミド(EDC)を0.001〜20重量%、残部有機溶媒、合計100重量%の割合で用い、反応温度0〜100℃、より好ましくは、0℃〜50℃、反応時間1〜48時間の適宜の条件を選択して得られる。
【0035】
蒸留水、生分解性高分子と静電的相互作用及びキレート効果によって相互作用する金属イオンを含む水溶液、又は緩衝溶液からなる溶媒に溶解した生分解性高分子の溶液に、上記の反応により得られた粉末状の有機酸誘導体を分散させ、接着成分と粉末状の硬化成分を混合することにより、生分解性高分子中のアミノ基と有機酸誘導体のスクシンイミジルエステル基が反応してアミド結合を形成することにより架橋体が生じることにより生体組織−材料間接合用接着剤が得られる。
【0036】
接着成分(生分解性高分子)と硬化成分(有機酸誘導体)の割合は、蒸留水、金属イオンを含む水溶液、又は緩衝溶液からなる溶媒中の接着成分の濃度0.01〜80重量%程度に対し、硬化成分の濃度範囲は0.01〜100mMが望ましい。溶媒中の接着成分のより好ましい濃度範囲は、3〜60重量%である。また、接着成分に対する硬化成分のより好ましい濃度範囲は0.05〜10mM程度である。
【0037】
なお、両者の配合に際しては、上記濃度範囲となる硬化成分を使用する直前に、上記濃度範囲である接着成分に直接添加するか、その逆とし、混合溶液が均一になるように攪拌して混合するのが好ましい。
【0038】
なお、本発明の本発明の接着剤は当該用途に適用後は生体内で分解し、6ヶ月以内に生体内で吸収、消失する特性があり、体内に異物として残存することがない。また、硬化成分及び接着成分の濃度が高いと分解時間は長くなるが、濃度を増減させることにより、体内での分解時間を1ヶ月〜6ヶ月に制御することができる。
【0039】
また、本発明の生体適合性器具の接着剤との接合部位の表面材料は、セラミックス、金属、高分子であることが好ましい。セラミックスは、ハイドロキシアパタイト、酸化チタン、アミノ基導入ハイドロキシアパタイト、アミノ基導入酸化チタンであることが好ましく、金属が、CoCr合金、アミノ基導入CoCr合金、SUS316Lステンレス、アミノ基導入SUS316Lステンレスであることが好ましく、高分子が、アミノ基導入シリコーン、アミノ基導入ポリウレタン、アミノ基導入ポリプロピレンまたはアミノ基導入ポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。
また、少なくとも接着箇所の表面には、酸化チタン(アミノ化ナノ酸化チタン(AmNanoTiO2))固定化シリコーンが設けられている。
器具の材質そのものをこの酸化チタン固定化シリコーンにて構成することも可能であるが、主材料を別のものとして、酸化チタン固定化シリコーンを表面にコーティングすることも可能であり、コーティングすることにより、器具の材質を、その果たすべき機能に適合したものとすることが容易になる。
塗布方法としては、カルボキシル基を導入したシリコーンとアミノ基を導入した酸化チタンあるいはハイドロキシアパタイトを化学的に縮合反応をすることにより得ることができる。
【0040】
酸化チタン固定化シリコーンとして、具体的にはシランカップリング剤を用いてアミノ基を導入した酸化チタン粒子のようなものが適用可能である。
【0041】
生体適合性器具の接合部位表面を修飾する、セラミックス、金属、高分子の形状は、ナノ・マイクロ粒子状、フロック状、フィルム状、シート状、不織布状、スポンジ状、チューブ状等があげられる。粒子状の材料は化学的あるいは物理的に固定されているものが好ましい。材料は、反応性官能基を少なくとも2個有する試薬と反応が可能であればいかなる材料であってもよい。また、これらの材料は反応性官能基を少なくとも2個有する試薬との反応を可能にするために、アミノ基、水酸基等を導入する前処理を行ってもよい。
【0042】
接着剤の塗布位置としては、カテーテル、歯科用インプラント等の生体適合性器具の皮下に留置された部分であれば任意の位置でよい。好ましくは、皮膚表面に近い皮下組織内の位置で血管内に入らない位置がよい。
【0043】
前記器具の長さの範囲としては、1〜10mmが好ましく、あらかじめ接着剤を塗布した生体適合性器具を接着して用いる際は、生体適合性器具外周上に厚さ0.1〜5mm,巾1〜10mmの帯状になるように塗布して接着するのが好ましいが、用いる生体適合性器具の留置部位、サイズによって適時選択すれば良い。
【実施例1】
【0044】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。
<生体組織−材料間接合用接着剤の調製及び接着力測定評価>
酒石酸から合成した架橋剤(TAD)は、酒石酸のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(5重量%)中に氷冷下にて、N−ヒドロキシスクシンイミドと縮合剤としてEDCを加え、1時間攪拌し、その後、室温にて2時間攪拌を行った。N−ヒドロキシスクシンイミドは、酒石酸の2.1等量分、EDCは、2.2等量分加えた。続いて、反応系の溶媒であるDMFを減圧留去した。得られた残渣をアセトン−n−へキサンの混合溶液を用いて、再結晶により精製を行い、酒石酸の2つのカルボキシル基が、それぞれN−ヒドロキシスクシンイミドに修飾されたTADを得た。
【0045】
生体組織−材料間接合用接着剤を下記のようにして調製した。生分解性高分子として、ヒト由来血清のアルブミン(シグマアルドリッチジャパン(株)製A1653)を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH6.0)に42重量%となるように溶解した。このアルブミン溶液800mgに対し、粉末状のTADを硬化成分として0.2mmol添加し、25℃にて約10秒間攪拌し硬化前の混合溶液を得た。
【0046】
生体組織のモデル物質として、コラーゲンケーシング(新田ゼラチン(株)製、組成:コラーゲン44重量%、セルロース18重量%、グリセリン15重量%、植物性油脂3重量%、カルボキシメチルセルロース2重量%)を、生体適合性器具のモデル物質としてシランカップリング剤によりアミノ基を導入した酸化チタン(アミノ化ナノ酸化チタン(AmNanoTiO2))固定化シリコーンを使用した。コラーゲンケーシングおよびAmNanoTiO2固定化シリコーンは、直径1cmの円形状に成型し、円柱状のプラスチックロッド(直径1cm、高さ2cm)にそれぞれ貼り合わせて接着強度測定を行った。AmNanoTiO2固定化シリコーンの代わりに未処理シリコーンについても評価した。
【0047】
AmNanoTiO2固定化シリコーンあるいはシリコーンを貼り付けた接着面に厚さが均一になるように硬化前の混合溶液を塗布し、その上にコラーゲンケーシングを貼り付けたプラスチックロッドをその塗布面に重ね合わせた。50gの加重をかけて37℃で1〜30分間反応後、引っ張り試験機(英弘精機(株)製TA-XT2i)により接着強度を測定した。測定は25℃、測定スピード0.1mm/sで行った。
【0048】
表1は、SiliconeあるいはAmNanoTiO2-Siliconeとコラーゲンケーシング間の接合において、開発した接着剤の接着時間と強度の関係である。図1のグラフはこの測定値に基づくものである。接着時間と接着強度の関係を示すグラフである。接着時間は、約10分で最大強度に達した。シリコーンよりもAmNanoTiO2固定化シリコーンを用いることにより高い接着強度が得られることが明らかとなった。
【表1】
【実施例2】
【0049】
実施例1と同様に接着剤を調製し、接着強度を測定した。但し、TADの添加量を0.05−0.5mmolとした。
【0050】
表2は、SiliconeあるいはAmNanoTiO2-Siliconeとコラーゲンケーシング間の接合において開発した接着剤のTAD添加量と強度の関係である。図2のグラフはこの測定値に基づくものである。TAD添加量と接着強度の関係を示すグラフである。AmNanoTiO2シリコーンを用いた場合、接着強度は、0.3mmolで最も高くなることが明らかとなった。
【表2】
【実施例3】
【0051】
実施例1と同様に接着剤を調製し、接着強度を測定した。但し、ヒト由来血清のアルブミン濃度を42重量%、TADの添加量を0.15mmolとした。
【0052】
生体組織として、Wisterラットの背部皮膚(1cm x 2cm)を生体適合性器具のモデル物質としてAmNanoTiO2固定化シリコーン(1cm x 2cm)を使用した。AmNanoTiO2固定化シリコーンの1cm x 1cm部分に硬化前の接着剤混合溶液を塗布し、その上にWisterラットの背部皮膚をその接着剤塗布面に重ね合わせた。50gの加重をかけて37℃で10分後、引っ張り試験機(英弘精機(株)製TA-XT2i)により接着強度を測定した。測定は25℃、測定スピード0.1mm/sで行った。
[比較例1]
【0053】
市販接着剤としてゼラチン−レゾルシノール溶液及びホルムアルデヒド−グルタールアルデヒド溶液の2液からなるゼラチン糊(E.H.S.社(フランス)製、商品名 GRFグルー)を用い、実施例3と同様の試験片および条件により接着強度を測定した。
【0054】
表3は、実施例3および比較例1のAmNanoTiO2固定化シリコーンとWisterラット皮膚間の接合において開発した接着剤および市販接着剤の接着時間と強度の関係である。図3のグラフはこの測定値に基づくものである。接着強度は、開発した接着剤を用いた方が市販接着剤より高いことが明らかとなった。
【表3】
【実施例4】
【0055】
実施例1と同様に接着剤を調製した。但し、TADの添加量を0.2mmolとした。生体組織のモデル物質として、コラーゲンケーシングを、生体適合性器具のモデル物質として長さが100μmあるいは300μmのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維にAmNanoTiO2固定化した複合繊維を固定化しフロック加工を施したシリコーン(F-AmNanoTiO2固定化シリコーン)を使用した。コラーゲンケーシングおよびF-AmNanoTiO2固定化シリコーンは、直径1cmの円形状に成型し、円柱状のプラスチックロッド(直径1cm、高さ2cm)にそれぞれ貼り合わせて実施例1と同様の条件で接着強度測定を行った。
【0056】
表4は、実施例4のF-AmNanoTiO2固定化シリコーン(繊維長100μmあるいは300μm)とコラーゲンケーシング間の接合において開発した接着剤の接着時間と強度の関係である。図4のグラフはこの測定値に基づくものである。繊維長が100μmの時には、ヒト由来血清のアルブミンが低濃度の時に高い接着強度を示し、繊維長が300μmの時には、ヒト由来血清のアルブミンが濃度増加に伴い、接着強度が増加することが明らかとなった。
【表4】
【実施例5】
【0057】
<マウス皮下での生体親和性評価>
実施例1と同様に接着剤を調製した。ただし、ヒト由来血清のアルブミンの濃度を42重量%、TADの添加量を0.15mmolとした。直径10mm、厚さ0.5mmの円盤状に成形したAmNanoTiO2固定化シリコーンに接着剤を塗布し、7週齢のWisterラット背部皮下に移植し、14日目の組織反応を観察した。
[比較例2]
比較例1と同様のGRFグルーを実験例5と同形のAmNanoTiO2固定化シリコーンに接着剤を塗布し、7週齢のWisterラット背部皮下に移植し、14日目の組織反応を観察した。
【0058】
図5〜10に示すように、開発した接着剤は、市販接着剤と比較して生体親和性が高いことが、外観および組織的観察により明らかとなった。
【実施例6】
【0059】
<マウス皮膚に対する接着性評価>
実施例1と同様に接着剤を調製した。ただし、ヒト由来血清のアルブミンの濃度を38重量%、TADの添加量を0.1あるいは0.2mmolとした。片面10x10mm部分にフロック加工AmNanoTiO2(繊維長100μm)を施した縦10mm、長さ20mmの短冊状のシリコーンのAmNanoTiO2固定化部分に接着剤を塗布し、7週齢のWisterラット背部皮下に移植して3、7、14日後の皮膚とF-AmNanoTiO2固定化シリコーンとの接着強度を引っ張り試験機(英弘精機(株)製TA-XT2i)により測定した。測定は25℃、測定スピード0.1mm/sで行った。接着剤を使用しない条件でも評価した。
[比較例3]
比較例1と同様のGRFグルーを実験例6と同形のF-AmNanoTiO2固定化シリコーンに塗布し、7週齢のWisterラット背部皮下に移植し、3、7、14日後の皮膚とシリコーンとの接着強度を測定した。
【0060】
表5は、実施例6のF-AmNanoTiO2固定化シリコーンと皮膚との接着強度の関係である。図11のグラフはこの測定値に基づくものである。市販接着剤では、徐々に接着強度が減少したが、開発した接着剤(TAD0.1mmol)を使用することにより、移植初期(3日)から終期(14日)において強度が保たれることが明らかとなった。
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の生体組織−材料間接合用接着剤は、例えば、皮膚とカテーテルの接着、歯科用インプラントと歯周組織との接合に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1のAmNanoTiO2固定化シリコーンあるいはシリコーンとコラーゲンケーシング間の接合において、開発した接着剤の接着時間と強度の関係を示すグラフである。
【図2】実施例2のAmNanoTiO2固定化シリコーンとコラーゲンケーシング間の接合において開発した接着剤のTAD添加量と強度の関係を示すグラフである。
【図3】実施例3および比較例1のAmNanoTiO2固定化シリコーンとWisterラット皮膚間の接合において開発した接着剤および市販接着剤の接着時間と強度の関係を示すグラフである。
【図4】実施例4のF-AmNanoTiO2固定化シリコーン(繊維長100μmあるいは300μm)とコラーゲンケーシング間の接合において開発した接着剤の接着時間と強度の関係を示すグラフである。
【図5】AmNanoTiO2固定化シリコーンをラット皮膚に接着させ、14日後の組織反応の外観(炎症反応なし)
【図6】AmNanoTiO2固定化シリコーンに市販接着剤を塗布後、ラット皮膚に接着させ、14日後の組織反応の外観(強い炎症反応)
【図7】AmNanoTiO2固定化シリコーンに開発した接着剤(42重量%、TADの添加量を0.15mmol)を塗布後、ラット皮膚に接着させ、14日後の組織反応の外観(炎症反応なし)
【図8】AmNanoTiO2固定化シリコーンをラット皮膚に接着させ、14日後の組織ヘマトキシリン−エオジン染色像(炎症細胞浸潤は見られない。)
【図9】AmNanoTiO2固定化シリコーンに市販接着剤を塗布後、ラット皮膚に接着させ、14日後の組織のヘマトキシリン−エオジン染色像(炎症細胞浸潤は見られ、カプセル化反応も起こっている。)
【図10】AmNanoTiO2固定化シリコーンに開発した接着剤(42重量%、TADの添加量を0.15mmol)を塗布後、ラット皮膚に接着させ、14日後の組織のヘマトキシリン−エオジン染色像(炎症細胞浸潤は見られず、細胞により接着剤が貪食されつつある。
【図11】実施例6のF-AmNanoTiO2固定化シリコーンと皮膚との接着強度の関係を示すグラフ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体と界面接合用接着剤により接合される生体適合性器具とこれを生体に接合する為の界面接合用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の体腔内等に薬液等を注入したり、排泄物や内容物等を除去したりするためのカテーテルや歯科用インプラント等の生体適合性器具の素材には、人体に対する安全性の観点から、生体組織に対して不活性なシリコーンゴム、ポリウレタンまたはCoCr合金、ステンレス等の材料が一般に用いられている。しかし、このような材料からなる生体適合性器具は生体組織に対して不活性であることから、装着状態下で生体適合性器具と生体組織との間に隙間ができ、特に、長期にわたり体内に留置する場合、この隙間を通して細菌等が侵入し易く、感染症を引き起こすことがある。
【0003】
このようなカテーテルあるいは歯科用インプラント等の生体適合性器具の留置による感染症は、生体適合性器具と生体組織との適合性を高めることにより、生体適合性器具と生体組織の密着性を高め、その発生を抑えることができると考えられ、これらの生体適合性器具の表面に生体適合性に優れる材料を被覆することがこれまで種々試みられている。例えば、特許文献1に開示されているように、体外からの菌等の侵入を防止するため、経皮部にセラミックスのような生体親和性の高い材料からなる部材を被覆することにより、生体組織との密着性の向上を計っている。一方、特許文献2には、炭素を構成元素として含む高分子材料より構成され、表面の少なくとも一部がイオン衝撃により改質されてなる細胞接着性材料が記載されている。特許文献3には、孔内に生体組織が侵入でき、確実な固定を得ることができる熱可塑性樹脂よりなる多孔質体が記載されている。また特許文献4には、炭素を構成元素として含む高分子材料より構成され、表面の少なくとも一部がイオン衝撃により改質されてなる骨及び/又は筋膜に接着性を有する材料が記載されている。
【0004】
ところが、セラミックスを被覆あるいは表面処理を施した高分子材料は、生体親和性は高いが、生体組織との接着に時間がかかるため、セラミックスと生体間との結合形成までに細菌感染を起こしやすいという問題がある。そのため、フィブリン糊により生体適合性器具を生体と接着させる手法が、特許文献5、6に記載されている。さらに、特許文献7には組織接着性材料として、セルロースまたはセルロース誘導体が記載され、特許文献8には、生体組織接着性、生体適合性に優れる反応性多糖誘導体が記載されている。さらに、非特許文献1には、合成接着剤であるHistoacryl(登録商標)が記載されている。また、特許文献9には、固定化された細胞接着性蛋白質が記載されている。また、発明者らはこれまでに生体組織間を接合する固体-液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料を出願している。(特許文献10)
【0005】
【特許文献1】特開昭63−46171号公報
【特許文献2】特開平5-49689号公報
【特許文献3】特開平9−294811号公報
【特許文献4】特開2002−315821号公報
【特許文献5】特開2004−89361号公報
【特許文献6】特開2006−230639号公報
【特許文献7】特開平8−266618号公報
【特許文献8】特開2006−334007号公報
【特許文献9】特開平5−285217号公報
【特許文献10】特開2006−346049号公報
【非特許文献1】Anaesthesia, 62, 966-974 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、接着剤としては、各種のものが開発されていたが、今までに満足できる接着強度および生体親和性を併せ持つことが出来なかったので、本発明は、生体適合性器具の改良によりこれを達成しようとしたものである。。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1は、生体と材料の界面接合用接着剤により接合される生体適合性器具であって、その接合部位の表面が、セラミックス、金属又は、高分子にて構成されてなることを特徴とする。
【0008】
発明2は、発明1の生体適合性器具において、セラミックスがハイドロキシアパタイト、酸化チタン、アミノ基導入ハイドロキシアパタイト、アミノ基導入酸化チタンであることを特徴とする。
【0009】
発明3は、発明2の生体適合性器具において、酸化チタンがシリコーンに固定化されてなることを特徴とする生体適合性器具。
【0010】
発明4は、発明3の生体適合性器具において、酸化チタン固定化シリコーンがアミノ化ナノ酸化チタン固定化シリコーンであることを特徴とする生体適合性器具。
【0011】
発明5は、発明1の生体適合性器具において、金属が、CoCr合金、アミノ基導入CoCr合金、SUS316Lステンレス、アミノ基導入SUS316Lステンレスであることを特徴とする生体適合性器具。
【0012】
発明6は、発明1の生体適合性器具において、高分子が、アミノ基導入シリコーン、アミノ基導入ポリウレタン、アミノ基導入ポリプロピレンまたはアミノ基導入ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする生体適合性器具。
【0013】
発明7は、発明1から6のいずれかの生体適合性器具の生体への接着に用いる接着剤であって、蒸留水、金属イオンを含む蒸留水又は緩衝溶液からなる溶媒に溶解した生分解性高分子を接着成分とし、電子吸引基によってジカルボン酸又はトリカルボン酸のカルボキシル基を2つ又は3つ修飾した有機酸誘導体を硬化成分とすることを特徴とする。
【0014】
発明8は、発明7の接着剤において、生分解性高分子がタンパク質、グリコサミノグリカン、ポリアミノ酸、ポリオールの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする。
【0015】
発明9は、発明8の接着剤において、タンパク質が、コラーゲン、アテロコラーゲン、アルカリ処理コラーゲン、メチル化コラーゲン、ゼラチン、ヒト血液由来アルブミン、ヒト遺伝子組み換えアルブミン、卵白アルブミン、ケラチン、グロブリン、フィブリノーゲン、キチン、キトサン、ヘモグロビン、カゼインの1種又は2種以上の組み合わせであること を特徴とする。
【0016】
発明10は、発明8の接着剤において、そのグリコサミノグリカンが、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする。
【0017】
発明11は、発明7〜10のいずれかの接着剤において、金属イオンが、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅、銀、セレン、モリブデン、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする。
【0018】
発明12は、発明7〜11のいずれかの接着剤において、緩衝液が、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩の1種又は2種以上の組み合わせからなることを特徴とする。
【0019】
発明13は、発明7〜12のいずれかの接着剤において、前記有機酸誘導体が固体であることを特徴とする。
【0020】
発明14は、発明7〜13のいずれかの接着剤において、電子吸引基がスクシンイミジル、スルホスクシンイミジル、マレイミジル、フタルイミジル、イミダゾールイル、ニトロフェニル、トレジル又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする。
【0021】
発明15は、発明7〜13のいずれかの接着剤において、ジカルボン酸又はトリカルボン酸が、酒石酸又はクエン酸回路に存在するリンゴ酸、オキサル酢酸、クエン酸、cis−アコニット酸、又は2−ケトグルタル酸又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明1〜6のように生体適合性器具を構成することで、前記各種の接着剤のいずれにおいても、接着強度および生体親和性を向上し、感染症の予防をより確実に行えるようにするものであった。
さらに、発明7から15に示す接着剤は、前記本発明の構成の生体適合性器具を生体に接合するのに適した接着剤であり、接着強度および生体親和性を他の接着剤に比べて高くすることができたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に使用される生分解性高分子は、タンパク質、グリコサミノグリカン、ポリアミノ酸、ポリオールの1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0024】
また、タンパク質は、コラーゲン(数10種類のタイプによらない)、アテロコラーゲン(数10種類のタイプによらない)、アルカリ処理コラーゲン(数10種類のタイプによらない)、メチル化コラーゲン(数10種類のタイプによらない)、ゼラチン、ヒト血液由来アルブミン、ヒト遺伝子組み換えアルブミン、アルブミンフラグメント、ケラチン、ヘモグロビン、カゼイン、グロブリン、フィブリノーゲン、キチン、キトサン、ヘモグロビン、カゼイン等アミノ基を有する高分子が含まれる群より選択されるタンパク質の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0025】
また、グリコサミノグリカンには、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。これらのグリコサミノグリカンは、分子量及び由来する生物によらない。
【0026】
また、その他の生分解性高分子として、キトサン(脱アセチル化度、分子量によらない)、ポリアミノ酸(アミノ酸の種類、分子量によらない)、ポリアルコール(種類、分子量によらない)が挙げられる。
【0027】
また、接着成分を作製するための溶媒としては、蒸留水、生分解性高分子と静電的相互作用及びキレート効果によって相互作用する金属イオンを含む水溶液、又は緩衝溶液が用いられる。これらの溶媒は、有機溶媒ではないので、生体組織に対し、高い毒性を示さず、また、これらを使用することにより、接着剤を付着させた周囲の生体組織を浸透圧、pHの変化により壊死させないようにすることができる。ただし、蒸留水は、接着効果に影響は無いが生体組織との浸透圧の違いにより、周辺組織の細胞が破壊することがあるので使用上注意を要する。緩衝溶液を使うことによりpHを6〜8の間で変化させることが可能となり、硬化速度の制御が可能になる。
【0028】
また、金属イオンを含む水溶液の金属イオンは、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅、銀、セレン、モリブデン、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムの1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。金属イオンを含む水溶液は、これらの金属イオンの硫酸塩、硝酸塩、塩化物塩(市販品)を0.01〜1Mになるように水に溶解することにより調製できる。この溶液に生分解性高分子を溶解する。
【0029】
また、緩衝溶液は、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。緩衝溶液としては、炭酸水素ナトリウム緩衝溶液、ホウ酸緩衝溶液、リン酸緩衝溶液等が挙げられる。また、緩衝溶液を調製する際に用いる無機塩の濃度範囲は0.01M〜10.0Mを用いることができる。
【0030】
本発明における硬化成分として用いる粉末状の有機酸誘導体は、ジ又はトリカルボン酸を電子吸引基、例えば、スクシンイミジル、スルホスクシンイミジル、マレイミジル、フタルイミジル、イミダゾールイル、ニトロフェニル、トレジル又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせと合成反応させ、活性エステルを導入したものである。
【0031】
ジカルボン酸又はトリカルボン酸は、酒石酸又はクエン酸回路に存在するリンゴ酸、オキサル酢酸、クエン酸、cis-アコニット酸、2−ケトグルタル酸又はこれらの誘導体が好ましいが、その他のジ又はトリカルボン酸、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリト酸、メリト酸などでもよい。
【0032】
本発明において硬化成分として用いる有機酸誘導体は、固体であることが好ましい。有機酸誘導体は、ジ又はトリカルボン酸の有機溶媒溶液に、縮合剤、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、又は、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の存在下で、電子吸引基となる分子、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミドを加え、反応させ、副生成物であるウレアを含む粗生成物を得る。
【0033】
その後、反応溶媒をエバポレーターにより減圧留去することによりペースト状の粗生成物を得る。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー等により分離精製する。さらにシリカゲルクロマトグラフィーのフラクションを減圧留去、再結晶によって精製する。これにより粒度分布が10〜100μm程度の粉末状の白色結晶が得られる。得られる電子吸引基によってジカルボン酸のカルボキシル基を2つ、又はトリカルボン酸のカルボキシル基を2つ又は3つ修飾した有機酸誘導体は、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)及び元素分析により純度95%以上のものである。
【0034】
かかる反応物は、例えば、ジ又はトリカルボン酸0.001〜10重量%に対し、電子吸引基として、N-ヒドロキシスクシンイミド、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド、又はこれらの誘導体を0.001〜10重量%、縮合剤として、カルボジイミド(EDC)を0.001〜20重量%、残部有機溶媒、合計100重量%の割合で用い、反応温度0〜100℃、より好ましくは、0℃〜50℃、反応時間1〜48時間の適宜の条件を選択して得られる。
【0035】
蒸留水、生分解性高分子と静電的相互作用及びキレート効果によって相互作用する金属イオンを含む水溶液、又は緩衝溶液からなる溶媒に溶解した生分解性高分子の溶液に、上記の反応により得られた粉末状の有機酸誘導体を分散させ、接着成分と粉末状の硬化成分を混合することにより、生分解性高分子中のアミノ基と有機酸誘導体のスクシンイミジルエステル基が反応してアミド結合を形成することにより架橋体が生じることにより生体組織−材料間接合用接着剤が得られる。
【0036】
接着成分(生分解性高分子)と硬化成分(有機酸誘導体)の割合は、蒸留水、金属イオンを含む水溶液、又は緩衝溶液からなる溶媒中の接着成分の濃度0.01〜80重量%程度に対し、硬化成分の濃度範囲は0.01〜100mMが望ましい。溶媒中の接着成分のより好ましい濃度範囲は、3〜60重量%である。また、接着成分に対する硬化成分のより好ましい濃度範囲は0.05〜10mM程度である。
【0037】
なお、両者の配合に際しては、上記濃度範囲となる硬化成分を使用する直前に、上記濃度範囲である接着成分に直接添加するか、その逆とし、混合溶液が均一になるように攪拌して混合するのが好ましい。
【0038】
なお、本発明の本発明の接着剤は当該用途に適用後は生体内で分解し、6ヶ月以内に生体内で吸収、消失する特性があり、体内に異物として残存することがない。また、硬化成分及び接着成分の濃度が高いと分解時間は長くなるが、濃度を増減させることにより、体内での分解時間を1ヶ月〜6ヶ月に制御することができる。
【0039】
また、本発明の生体適合性器具の接着剤との接合部位の表面材料は、セラミックス、金属、高分子であることが好ましい。セラミックスは、ハイドロキシアパタイト、酸化チタン、アミノ基導入ハイドロキシアパタイト、アミノ基導入酸化チタンであることが好ましく、金属が、CoCr合金、アミノ基導入CoCr合金、SUS316Lステンレス、アミノ基導入SUS316Lステンレスであることが好ましく、高分子が、アミノ基導入シリコーン、アミノ基導入ポリウレタン、アミノ基導入ポリプロピレンまたはアミノ基導入ポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。
また、少なくとも接着箇所の表面には、酸化チタン(アミノ化ナノ酸化チタン(AmNanoTiO2))固定化シリコーンが設けられている。
器具の材質そのものをこの酸化チタン固定化シリコーンにて構成することも可能であるが、主材料を別のものとして、酸化チタン固定化シリコーンを表面にコーティングすることも可能であり、コーティングすることにより、器具の材質を、その果たすべき機能に適合したものとすることが容易になる。
塗布方法としては、カルボキシル基を導入したシリコーンとアミノ基を導入した酸化チタンあるいはハイドロキシアパタイトを化学的に縮合反応をすることにより得ることができる。
【0040】
酸化チタン固定化シリコーンとして、具体的にはシランカップリング剤を用いてアミノ基を導入した酸化チタン粒子のようなものが適用可能である。
【0041】
生体適合性器具の接合部位表面を修飾する、セラミックス、金属、高分子の形状は、ナノ・マイクロ粒子状、フロック状、フィルム状、シート状、不織布状、スポンジ状、チューブ状等があげられる。粒子状の材料は化学的あるいは物理的に固定されているものが好ましい。材料は、反応性官能基を少なくとも2個有する試薬と反応が可能であればいかなる材料であってもよい。また、これらの材料は反応性官能基を少なくとも2個有する試薬との反応を可能にするために、アミノ基、水酸基等を導入する前処理を行ってもよい。
【0042】
接着剤の塗布位置としては、カテーテル、歯科用インプラント等の生体適合性器具の皮下に留置された部分であれば任意の位置でよい。好ましくは、皮膚表面に近い皮下組織内の位置で血管内に入らない位置がよい。
【0043】
前記器具の長さの範囲としては、1〜10mmが好ましく、あらかじめ接着剤を塗布した生体適合性器具を接着して用いる際は、生体適合性器具外周上に厚さ0.1〜5mm,巾1〜10mmの帯状になるように塗布して接着するのが好ましいが、用いる生体適合性器具の留置部位、サイズによって適時選択すれば良い。
【実施例1】
【0044】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。
<生体組織−材料間接合用接着剤の調製及び接着力測定評価>
酒石酸から合成した架橋剤(TAD)は、酒石酸のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(5重量%)中に氷冷下にて、N−ヒドロキシスクシンイミドと縮合剤としてEDCを加え、1時間攪拌し、その後、室温にて2時間攪拌を行った。N−ヒドロキシスクシンイミドは、酒石酸の2.1等量分、EDCは、2.2等量分加えた。続いて、反応系の溶媒であるDMFを減圧留去した。得られた残渣をアセトン−n−へキサンの混合溶液を用いて、再結晶により精製を行い、酒石酸の2つのカルボキシル基が、それぞれN−ヒドロキシスクシンイミドに修飾されたTADを得た。
【0045】
生体組織−材料間接合用接着剤を下記のようにして調製した。生分解性高分子として、ヒト由来血清のアルブミン(シグマアルドリッチジャパン(株)製A1653)を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH6.0)に42重量%となるように溶解した。このアルブミン溶液800mgに対し、粉末状のTADを硬化成分として0.2mmol添加し、25℃にて約10秒間攪拌し硬化前の混合溶液を得た。
【0046】
生体組織のモデル物質として、コラーゲンケーシング(新田ゼラチン(株)製、組成:コラーゲン44重量%、セルロース18重量%、グリセリン15重量%、植物性油脂3重量%、カルボキシメチルセルロース2重量%)を、生体適合性器具のモデル物質としてシランカップリング剤によりアミノ基を導入した酸化チタン(アミノ化ナノ酸化チタン(AmNanoTiO2))固定化シリコーンを使用した。コラーゲンケーシングおよびAmNanoTiO2固定化シリコーンは、直径1cmの円形状に成型し、円柱状のプラスチックロッド(直径1cm、高さ2cm)にそれぞれ貼り合わせて接着強度測定を行った。AmNanoTiO2固定化シリコーンの代わりに未処理シリコーンについても評価した。
【0047】
AmNanoTiO2固定化シリコーンあるいはシリコーンを貼り付けた接着面に厚さが均一になるように硬化前の混合溶液を塗布し、その上にコラーゲンケーシングを貼り付けたプラスチックロッドをその塗布面に重ね合わせた。50gの加重をかけて37℃で1〜30分間反応後、引っ張り試験機(英弘精機(株)製TA-XT2i)により接着強度を測定した。測定は25℃、測定スピード0.1mm/sで行った。
【0048】
表1は、SiliconeあるいはAmNanoTiO2-Siliconeとコラーゲンケーシング間の接合において、開発した接着剤の接着時間と強度の関係である。図1のグラフはこの測定値に基づくものである。接着時間と接着強度の関係を示すグラフである。接着時間は、約10分で最大強度に達した。シリコーンよりもAmNanoTiO2固定化シリコーンを用いることにより高い接着強度が得られることが明らかとなった。
【表1】
【実施例2】
【0049】
実施例1と同様に接着剤を調製し、接着強度を測定した。但し、TADの添加量を0.05−0.5mmolとした。
【0050】
表2は、SiliconeあるいはAmNanoTiO2-Siliconeとコラーゲンケーシング間の接合において開発した接着剤のTAD添加量と強度の関係である。図2のグラフはこの測定値に基づくものである。TAD添加量と接着強度の関係を示すグラフである。AmNanoTiO2シリコーンを用いた場合、接着強度は、0.3mmolで最も高くなることが明らかとなった。
【表2】
【実施例3】
【0051】
実施例1と同様に接着剤を調製し、接着強度を測定した。但し、ヒト由来血清のアルブミン濃度を42重量%、TADの添加量を0.15mmolとした。
【0052】
生体組織として、Wisterラットの背部皮膚(1cm x 2cm)を生体適合性器具のモデル物質としてAmNanoTiO2固定化シリコーン(1cm x 2cm)を使用した。AmNanoTiO2固定化シリコーンの1cm x 1cm部分に硬化前の接着剤混合溶液を塗布し、その上にWisterラットの背部皮膚をその接着剤塗布面に重ね合わせた。50gの加重をかけて37℃で10分後、引っ張り試験機(英弘精機(株)製TA-XT2i)により接着強度を測定した。測定は25℃、測定スピード0.1mm/sで行った。
[比較例1]
【0053】
市販接着剤としてゼラチン−レゾルシノール溶液及びホルムアルデヒド−グルタールアルデヒド溶液の2液からなるゼラチン糊(E.H.S.社(フランス)製、商品名 GRFグルー)を用い、実施例3と同様の試験片および条件により接着強度を測定した。
【0054】
表3は、実施例3および比較例1のAmNanoTiO2固定化シリコーンとWisterラット皮膚間の接合において開発した接着剤および市販接着剤の接着時間と強度の関係である。図3のグラフはこの測定値に基づくものである。接着強度は、開発した接着剤を用いた方が市販接着剤より高いことが明らかとなった。
【表3】
【実施例4】
【0055】
実施例1と同様に接着剤を調製した。但し、TADの添加量を0.2mmolとした。生体組織のモデル物質として、コラーゲンケーシングを、生体適合性器具のモデル物質として長さが100μmあるいは300μmのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維にAmNanoTiO2固定化した複合繊維を固定化しフロック加工を施したシリコーン(F-AmNanoTiO2固定化シリコーン)を使用した。コラーゲンケーシングおよびF-AmNanoTiO2固定化シリコーンは、直径1cmの円形状に成型し、円柱状のプラスチックロッド(直径1cm、高さ2cm)にそれぞれ貼り合わせて実施例1と同様の条件で接着強度測定を行った。
【0056】
表4は、実施例4のF-AmNanoTiO2固定化シリコーン(繊維長100μmあるいは300μm)とコラーゲンケーシング間の接合において開発した接着剤の接着時間と強度の関係である。図4のグラフはこの測定値に基づくものである。繊維長が100μmの時には、ヒト由来血清のアルブミンが低濃度の時に高い接着強度を示し、繊維長が300μmの時には、ヒト由来血清のアルブミンが濃度増加に伴い、接着強度が増加することが明らかとなった。
【表4】
【実施例5】
【0057】
<マウス皮下での生体親和性評価>
実施例1と同様に接着剤を調製した。ただし、ヒト由来血清のアルブミンの濃度を42重量%、TADの添加量を0.15mmolとした。直径10mm、厚さ0.5mmの円盤状に成形したAmNanoTiO2固定化シリコーンに接着剤を塗布し、7週齢のWisterラット背部皮下に移植し、14日目の組織反応を観察した。
[比較例2]
比較例1と同様のGRFグルーを実験例5と同形のAmNanoTiO2固定化シリコーンに接着剤を塗布し、7週齢のWisterラット背部皮下に移植し、14日目の組織反応を観察した。
【0058】
図5〜10に示すように、開発した接着剤は、市販接着剤と比較して生体親和性が高いことが、外観および組織的観察により明らかとなった。
【実施例6】
【0059】
<マウス皮膚に対する接着性評価>
実施例1と同様に接着剤を調製した。ただし、ヒト由来血清のアルブミンの濃度を38重量%、TADの添加量を0.1あるいは0.2mmolとした。片面10x10mm部分にフロック加工AmNanoTiO2(繊維長100μm)を施した縦10mm、長さ20mmの短冊状のシリコーンのAmNanoTiO2固定化部分に接着剤を塗布し、7週齢のWisterラット背部皮下に移植して3、7、14日後の皮膚とF-AmNanoTiO2固定化シリコーンとの接着強度を引っ張り試験機(英弘精機(株)製TA-XT2i)により測定した。測定は25℃、測定スピード0.1mm/sで行った。接着剤を使用しない条件でも評価した。
[比較例3]
比較例1と同様のGRFグルーを実験例6と同形のF-AmNanoTiO2固定化シリコーンに塗布し、7週齢のWisterラット背部皮下に移植し、3、7、14日後の皮膚とシリコーンとの接着強度を測定した。
【0060】
表5は、実施例6のF-AmNanoTiO2固定化シリコーンと皮膚との接着強度の関係である。図11のグラフはこの測定値に基づくものである。市販接着剤では、徐々に接着強度が減少したが、開発した接着剤(TAD0.1mmol)を使用することにより、移植初期(3日)から終期(14日)において強度が保たれることが明らかとなった。
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の生体組織−材料間接合用接着剤は、例えば、皮膚とカテーテルの接着、歯科用インプラントと歯周組織との接合に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1のAmNanoTiO2固定化シリコーンあるいはシリコーンとコラーゲンケーシング間の接合において、開発した接着剤の接着時間と強度の関係を示すグラフである。
【図2】実施例2のAmNanoTiO2固定化シリコーンとコラーゲンケーシング間の接合において開発した接着剤のTAD添加量と強度の関係を示すグラフである。
【図3】実施例3および比較例1のAmNanoTiO2固定化シリコーンとWisterラット皮膚間の接合において開発した接着剤および市販接着剤の接着時間と強度の関係を示すグラフである。
【図4】実施例4のF-AmNanoTiO2固定化シリコーン(繊維長100μmあるいは300μm)とコラーゲンケーシング間の接合において開発した接着剤の接着時間と強度の関係を示すグラフである。
【図5】AmNanoTiO2固定化シリコーンをラット皮膚に接着させ、14日後の組織反応の外観(炎症反応なし)
【図6】AmNanoTiO2固定化シリコーンに市販接着剤を塗布後、ラット皮膚に接着させ、14日後の組織反応の外観(強い炎症反応)
【図7】AmNanoTiO2固定化シリコーンに開発した接着剤(42重量%、TADの添加量を0.15mmol)を塗布後、ラット皮膚に接着させ、14日後の組織反応の外観(炎症反応なし)
【図8】AmNanoTiO2固定化シリコーンをラット皮膚に接着させ、14日後の組織ヘマトキシリン−エオジン染色像(炎症細胞浸潤は見られない。)
【図9】AmNanoTiO2固定化シリコーンに市販接着剤を塗布後、ラット皮膚に接着させ、14日後の組織のヘマトキシリン−エオジン染色像(炎症細胞浸潤は見られ、カプセル化反応も起こっている。)
【図10】AmNanoTiO2固定化シリコーンに開発した接着剤(42重量%、TADの添加量を0.15mmol)を塗布後、ラット皮膚に接着させ、14日後の組織のヘマトキシリン−エオジン染色像(炎症細胞浸潤は見られず、細胞により接着剤が貪食されつつある。
【図11】実施例6のF-AmNanoTiO2固定化シリコーンと皮膚との接着強度の関係を示すグラフ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体と材料の界面接合用接着剤により接合される生体適合性器具であって、少なくともその接合部位の表面が、セラミックス、金属又は、高分子にて構成されていることを特徴とする生体適合性器具。
【請求項2】
請求項1に記載の生体適合性器具において、セラミックスがハイドロキシアパタイト、酸化チタン、アミノ基導入ハイドロキシアパタイト、アミノ基導入酸化チタンであることを特徴とする生体適合性器具。
【請求項3】
請求項2に記載の生体適合性器具において酸化チタンがシリコーンに固定化されてなることを特徴とする生体適合性器具。
【請求項4】
請求項3に記載の生体適合性器具において前記酸化チタン固定化シリコーンがアミノ化ナノ酸化チタン固定化シリコーンであることを特徴とする生体適合性器具。
【請求項5】
請求項1に記載の生体適合性器具において、金属が、CoCr合金、アミノ基導入CoCr合金、SUS316Lステンレス、アミノ基導入SUS316Lステンレスであることを特徴とする生体適合性器具。
【請求項6】
請求項1に記載の生体適合性器具において、高分子が、アミノ基導入シリコーン、アミノ基導入ポリウレタン、アミノ基導入ポリプロピレンまたはアミノ基導入ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする生体適合性器具。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の生体適合性器具の生体への接着に用いる接着剤であって、蒸留水、金属イオンを含む蒸留水又は緩衝溶液からなる溶媒に溶解した生分解性高分子を接着成分とし、電子吸引基によってジカルボン酸又はトリカルボン酸のカルボキシル基を2つ又は3つ修飾した有機酸誘導体を硬化成分とすることを特徴とする接着剤。
【請求項8】
請求項7の接着剤において、生分解性高分子がタンパク質、グリコサミノグリカン、ポリアミノ酸、ポリオールの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする接着剤。
【請求項9】
請求項8に記載の接着剤において、タンパク質が、コラーゲン、アテロコラーゲン、アルカリ処理コラーゲン、メチル化コラーゲン、ゼラチン、ヒト血液由来アルブミン、ヒト遺伝子組み換えアルブミン、卵白アルブミン、ケラチン、グロブリン、フィブリノーゲン、キチン、キトサン、ヘモグロビン、カゼインの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする接着剤。
【請求項10】
請求項8に記載の接着剤において、そのグリコサミノグリカンが、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする接着剤。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載の接着剤において、金属イオンが、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅、銀、セレン、モリブデン、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれかに記載の接着剤において、緩衝液が、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩の1種又は2種以上の組み合わせからなることを特徴とする接着剤。
【請求項13】
請求項7〜12のいずれかに記載の接着剤において、前記有機酸誘導体が固体であることを特徴とする接着剤。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれかに記載の接着剤において、電子吸引基がスクシンイミジル、スルホスクシンイミジル、マレイミジル、フタルイミジル、イミダゾールイル、ニトロフェニル、トレジル又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする接着剤。
【請求項15】
請求項7〜13のいずれかに記載の接着剤において、ジカルボン酸又はトリカルボン酸が、酒石酸又はクエン酸回路に存在するリンゴ酸、オキサル酢酸、クエン酸、cis−アコニット酸、又は2−ケトグルタル酸又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする接着剤。
【請求項1】
生体と材料の界面接合用接着剤により接合される生体適合性器具であって、少なくともその接合部位の表面が、セラミックス、金属又は、高分子にて構成されていることを特徴とする生体適合性器具。
【請求項2】
請求項1に記載の生体適合性器具において、セラミックスがハイドロキシアパタイト、酸化チタン、アミノ基導入ハイドロキシアパタイト、アミノ基導入酸化チタンであることを特徴とする生体適合性器具。
【請求項3】
請求項2に記載の生体適合性器具において酸化チタンがシリコーンに固定化されてなることを特徴とする生体適合性器具。
【請求項4】
請求項3に記載の生体適合性器具において前記酸化チタン固定化シリコーンがアミノ化ナノ酸化チタン固定化シリコーンであることを特徴とする生体適合性器具。
【請求項5】
請求項1に記載の生体適合性器具において、金属が、CoCr合金、アミノ基導入CoCr合金、SUS316Lステンレス、アミノ基導入SUS316Lステンレスであることを特徴とする生体適合性器具。
【請求項6】
請求項1に記載の生体適合性器具において、高分子が、アミノ基導入シリコーン、アミノ基導入ポリウレタン、アミノ基導入ポリプロピレンまたはアミノ基導入ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする生体適合性器具。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の生体適合性器具の生体への接着に用いる接着剤であって、蒸留水、金属イオンを含む蒸留水又は緩衝溶液からなる溶媒に溶解した生分解性高分子を接着成分とし、電子吸引基によってジカルボン酸又はトリカルボン酸のカルボキシル基を2つ又は3つ修飾した有機酸誘導体を硬化成分とすることを特徴とする接着剤。
【請求項8】
請求項7の接着剤において、生分解性高分子がタンパク質、グリコサミノグリカン、ポリアミノ酸、ポリオールの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする接着剤。
【請求項9】
請求項8に記載の接着剤において、タンパク質が、コラーゲン、アテロコラーゲン、アルカリ処理コラーゲン、メチル化コラーゲン、ゼラチン、ヒト血液由来アルブミン、ヒト遺伝子組み換えアルブミン、卵白アルブミン、ケラチン、グロブリン、フィブリノーゲン、キチン、キトサン、ヘモグロビン、カゼインの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする接着剤。
【請求項10】
請求項8に記載の接着剤において、そのグリコサミノグリカンが、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする接着剤。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載の接着剤において、金属イオンが、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅、銀、セレン、モリブデン、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれかに記載の接着剤において、緩衝液が、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩の1種又は2種以上の組み合わせからなることを特徴とする接着剤。
【請求項13】
請求項7〜12のいずれかに記載の接着剤において、前記有機酸誘導体が固体であることを特徴とする接着剤。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれかに記載の接着剤において、電子吸引基がスクシンイミジル、スルホスクシンイミジル、マレイミジル、フタルイミジル、イミダゾールイル、ニトロフェニル、トレジル又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする接着剤。
【請求項15】
請求項7〜13のいずれかに記載の接着剤において、ジカルボン酸又はトリカルボン酸が、酒石酸又はクエン酸回路に存在するリンゴ酸、オキサル酢酸、クエン酸、cis−アコニット酸、又は2−ケトグルタル酸又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする接着剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−291401(P2009−291401A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147810(P2008−147810)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、ナノテク・先端部材実用化研究開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、ナノテク・先端部材実用化研究開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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