説明

生体関連物質の分析方法および分析装置

【課題】従来は不可能であった生体関連物質の分析を、迅速かつ正確に行うことができる方法および装置を提供すること。
【解決手段】溶液中の特定の生体関連物質を分析する方法であって、イオン交換体に試料溶液を通液し、被測定物質をイオン交換体に吸着せしめるステップと、該イオン交換体に接触させた少なくとも一対の電極間に所定の周波数の交流電圧または交流電流を印加し、該電極間の応答電流または応答電圧を測定することにより電気化学的特性値を得るステップと、該電気化学的特性値を、予め標準試料溶液について求められた電気化学的特性値と比較することにより、該生体関連物質の分析を行うステップと、を含むことを特徴とする分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料溶液中に含まれる生体関連物質を分析する方法および装置に関するものであり、特に微生物、細胞、アミノ酸、タンパク質、核酸、糖類、酵素、補酵素、ビタミンまたは生理活性物質を簡便かつ迅速に分析可能な方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体中に存在する化学物質の計測方法として、有機機能物質(センシング物質)によって修飾した電極の交流特性を利用する方法が特許文献1に開示されている。電極の修飾に用いるセンシング物質として、外部環境からの物理的、化学的刺激に応じて特性が変化する物質や、計測すべき化学物質と特異的に結合あるいは反応する、天然または人工の物質を選択することにより、外部環境の物理化学的な環境条件に応じて、または特定の化学物質と結合することにより生じる物理化学的な性質、例えば電荷の発生による静電容量の変化や、様々な機構に基づく導電性の変化が生じれば、この変化は、電極の交流特性の変化を検出することにより検知することが可能となる。この原理に基づく測定方法は操作が簡便であり、検出部の構造も単純かつ小型化が可能である。
【0003】
また液体中に存在する微生物数の計測方法として、微生物含有の液体が収容された容器内に電極を配置し、電極に交流電圧を印加して微生物に電界作用を付与し、電極間のインピーダンスを測定して微生物を計数する方法が特許文献2に開示されている。特許文献2に記載の方法は、電界作用を付与された微生物が泳動することにより生じるインピーダンス変化の検出に基づいており、薬剤や特別な装置を必要とすることなく、自動測定が可能でメンテナンスフリーであるという利点を有する。
【0004】
【特許文献1】特開平1−142454号公報
【特許文献2】特開2000−125846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、溶液中に含まれる生体関連物質を分析する方法として、交流を印加した際の電気化学的特性値の変化を観測する方法が一般に知られている。しかしながら前者の例では、電極の表面修飾にコストがかさむことがある。また後者の例では、試料液に含まれる共存物質の組成により特性が大きく影響を受けることがある。
【0006】
そこで本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、従来は不可能であった生体関連物質の分析を、迅速かつ正確に行うことができる方法および装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、溶液中の特定の生体関連物質を分析する方法であって、イオン交換体に試料溶液を通液し、被測定物質をイオン交換体に吸着せしめるステップと、該イオン交換体に接触させた少なくとも一対の電極間に所定の周波数の交流電圧または交流電流を印加し、該電極間の応答電流または応答電圧を測定することにより電気化学的特性値を得るステップと、該電気化学的特性値を、予め標準試料溶液について求められた電気化学的特性値と比較することにより、該生体関連物質の分析を行うステップと、を含むことを特徴とする分析方法が提供される。
イオン交換体の電気化学的特性は吸着物質により変化する。この変化をイオン交換体に接触させた少なくとも一対の電極に交流電圧または交流電流を印加し、電極間の応答電流または応答電圧を測定することにより観測する。得られた電気化学的特性値を、予め測定された標準試料溶液のそれと比較することで、生体関連物質の分析が可能となる。
この方法において、イオン交換体に生体関連物質を吸着させるとともに、所定の周波数の交流電圧または交流電圧を印加することにより、従来不可能であった生体関連物質の分析を、迅速かつ正確に行うことができる。
【0008】
上記分析方法において、イオン交換体に試料溶液を通液し、被測定物質をイオン交換体に吸着せしめる上記ステップと、イオン交換体に接触させた少なくとも一対の電極間に所定の周波数の交流電圧または交流電流を印加する上記ステップとの間に、前記イオン交換体を純水により洗浄するステップを含めることができる。
分析試料溶液を通液した後に純水で洗浄するため、試料溶液中に含まれる共存物質の影響を小さくすることができる。
【0009】
上記分析方法において、上記イオン交換体を、複数のマクロポアが接合し、前記マクロポア同士の接合部にメソポアが形成されている連続気泡構造を有する有機多孔質イオン交換体とすることができる。
前記有機多孔質イオン交換体を用いることにより、生体関連物質の吸着が速やかに行えるため測定にかかる時間が短縮される。また前記有機多孔質イオン交換体はスポンジ状の膜またはブロックであることから取り扱い易く、測定後はこの有機多孔質イオン交換体のみを交換すればよいため、修飾した電極を用いる従来技術の課題が解決される。
【0010】
上記分析方法において、上記有機多孔質イオン交換体を、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に半径が0.01μm以上100μm以下のメソポアを有する連続気泡構造を有し、全細孔容積が1ml/g以上50ml/g以下とすることができる。
【0011】
上記分析方法において、上記イオン交換体を強塩基性陰イオン交換体とすることができる。
【0012】
上記分析方法において、比較を行う上記電気化学的特性値として、インピーダンス、アドミタンス、電圧と電流の位相差、および複数の周波数における測定値について等価回路を用いたフィッティングを行い得られるパラメータの、少なくとも1つを用いることができる。
【0013】
上記分析方法において、上記被測定物質は、微生物、細胞、アミノ酸、タンパク質、核酸、糖類、酵素、補酵素、ビタミン、または生理活性物質である。
本発明はイオン交換体を用いており、解離基であるアミノ基またはカルボキシル基を有するこれらの物質を選択的に吸着せしめることが可能である。
【0014】
上記分析方法において、上記電極間に印加する交流の周波数を100Hz以上1MHz以下とすることができる。
100Hz未満では吸着せしめた物質による特徴的な差異が得られにくく、また、測定に家庭用交流電源のノイズが乗り易いという問題がある。また、1MHzを超えると測定セルと測定部間をつなぐリード線由来の電気的特性が測定に乗り易く、正確な測定が困難になるためである。より好ましい測定範囲は500Hz以上500kHz以下である。
【0015】
上記分析方法において、上記通液を、1つの試料溶液について、少なくとも2点の異なるpH値で行い、それぞれについて電気化学的特性値を求めることができる。
生体関連物質のイオン交換体への吸着挙動は試料溶液のpHにより異なることが知られており(例えば日野哲雄他、農化、第35巻、第8号、778ページ)、従って複数のpH点で測定を行い、その結果を同様の手順で標準試料溶液について行った結果と比較することにより、より精度の高い分析が可能となる。
【0016】
上記分析方法において、上記通液を、1つの試料溶液について、物理的および/または化学的性質の異なる複数のイオン交換体に行い、それぞれについて電気化学的特性値を求めることができる。
生体関連物質のイオン交換体への吸着挙動はイオン交換体の種類により異なることが知られており(例えば日野哲雄他、農化、第35巻、第8号、773ページ)、従って複数のpH点で測定を行い、その結果を同様の手順で標準試料溶液について行った結果と比較することにより、より精度の高い分析が可能となる。
【0017】
本発明によれば、溶液中の特定の生体関連物質を分析する装置であって、液体を導入することができ、内部に少なくとも一対の電極を備えた測定セルと、前記測定セル内を純水で洗浄する機能を備え、前記電極間に挟まれたイオン交換体と、前記測定セル中の前記電極間に交流電圧または交流電流を印加する交流発生部と、前記電極間の電流または電圧を測定する測定部と、前記測定部で得られた測定値より電気化学的特性値を求め、予め標準試料溶液について求められた電気化学的特性値と比較することにより、前記生体関連物質の分析を行う演算部と、前記標準試料溶液について求められた電気化学的特性値を記憶する記憶部と、を備えることを特徴とする分析装置が提供される。
【0018】
上記分析装置は、上記測定部に電圧と電流の位相差を検出する位相測定回路を含むことができる。
【0019】
上記分析装置において、上記イオン交換体を、複数のマクロポアが接合し、前記マクロポア同士の接合部にメソポアが形成されている連続気泡構造を有する有機多孔質イオン交換体とすることができる。
【0020】
上記分析装置において、上記有機多孔質イオン交換体を、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に半径が0.01μm以上100μm以下のメソポアを有する連続気泡構造を有し、全細孔容積が1ml/g以上50ml/g以下とすることができる。
【0021】
上記分析装置において、上記測定セル中の上記イオン交換体を脱着可能な構造とすることができる。
【0022】
上記分析装置において、上記イオン交換体は、物理的および/または化学的性質の異なる複数のイオン交換体を含んでもよい。
【0023】
上記分析装置において、上記複数のイオン交換体は、一対の電極に対して並列して配置される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、生体関連物質を迅速かつ正確に分析することができる方法および装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図面を参照しつつ、本発明による交流分析型センサを用いる生体関連物質の分析方法および分析装置の好適な実施形態について説明する。
本発明において、分析とは、特定の物質の存在を同定および/または定量することをいう。
本発明の一実施形態による測定セルを図1に示す。測定セル容器3は絶縁性の材質であり、溶液の通液入口5および通液出口4を備え、内部に少なくとも一対の電極2とそれに挟まれたイオン交換体1が存在し、電極へ交流電圧または交流電流を印加するためのリード線6が設けられていればよい。溶液の通液入口5および通液出口4は、純水洗浄にも用いられる。
【0026】
本発明のイオン交換体は、イオン交換機能を有する膜またはブロックとすることができる。これにより、取り扱い易く、かつ容易に取り外し、交換することができる。複数の試料を分析する場合、測定セル中のイオン交換体を試料溶液ごとに交換することができるため、電極を洗浄する必要がなく、それにより迅速な測定が可能となる。また、イオン交換体は使い捨て可能であるため、正確な分析が可能となる。
【0027】
電極の材質として、例えば白金、チタン、ステンレス、酸化金属、半導体などの、導電性および耐食性に優れた物質が挙げられ、白金または白金をコーティングした金属が特に好ましい。形状は板状、メッシュ状など特に制約は無いが、対向する電極方向に通液する構造の場合にはメッシュ状が好ましい。
【0028】
本発明の一実施形態において、電極に挟まれたイオン交換体は、物理的および/または化学的性質の異なる複数のイオン交換体の膜またはブロックとすることができる。これらのイオン交換体は一対の電極に対して並列して配置される。イオン交換体が膜である場合、一対の電極間に、複数の膜が平面方向に並んで、重ならないように並置される。これらのイオン交換体は、互いに接触していても、分離されていてもよい。また、物理的性質の異なるイオン交換体とは例えば孔径、形状の違いであり、化学的性質の異なるイオン交換体とはイオン交換基の種類、イオン交換容量等の違いのことを指す。
【0029】
本発明の一実施形態において、測定セルは、測定容器内の少なくとも2対の電極と、それらの各々に挟まれ、物理的および/または化学的性質の異なるイオン交換体を備える構成であってもよい。これらの電極とイオン交換体は、互いに接触していても、分離されていてもよい。
上記構成とすることにより、試料溶液は複数のイオン交換体に同時に吸着させ、各々の電気化学的特性値を分析することができるため、迅速かつ正確な分析が可能となる。
【0030】
被測定物質を吸着せしめたイオン交換体は、純水により洗浄した後に交流分析型センサを用いて交流測定を行うことが好ましい。洗浄が不十分な場合、イオン交換体に吸着されなかった試料溶液中の不純物の影響を受けるためである。洗浄に用いる水としてはイオン交換水、蒸留水等、水中の不純物が除去された水を用いることができる。洗浄が十分に行われたことを確認する方法としては、洗浄水の電気伝導率が所定の数値以下となったことを確認する方法や、洗浄→測定を繰り返し行い測定値の変化が認められなくなったことを確認する方法が用いられる。前者の場合、洗浄が十分に行われたことを確認する電気伝導率としては2mS/m以下、より好ましくは0.2mS/m以下を設定することが出来る。
【0031】
本発明の一実施形態において、分析対象としている生体関連物質とは、溶液中に存在するもので、一般に細菌、真菌、放線菌、リケッチア、マイコプラズマ、ウィルスとして分類されているいわゆる微生物学の対象となっている生物のほか、原生動物や原虫のうち小型のもの、生物体の幼生、分離または培養した動植物細胞のほか、生命体を構成している要素あるいは生物が産生する物質であるアミノ酸、タンパク質、核酸、糖類、酵素、精子、血球などや、生物に対して生理作用ないしは薬理作用を発現する、ビタミン等の物質単体および化合物群である。これらの物質は、解離基であるアミノ基またはカルボキシル基を有する。
【0032】
被測定物質が微生物、細胞等の細胞膜または細胞壁を有する物質の場合、イオン交換体として強塩基性陰イオン交換体を用いることにより、分析精度を高めることが可能である。これは強塩基性陰イオン交換体表面において細胞膜または細胞壁が溶解し、細胞内部の物質がイオン交換体に吸着することにより、特異的な分析が可能となるためである。
【0033】
本発明の一実施形態において、1つの試料溶液について、物理的および/または化学的性質の異なる少なくとも2つのイオン交換体に通液を行い、それぞれについて電気化学的特性値を求めることにより、分析精度を高めることが可能である。これは被測定物質のイオン交換体への吸着挙動は、イオン交換体の物理的および/または化学的性質により異なることに基づく。物理的性質の異なるイオン交換体とは例えば孔径、形状の違いであり、化学的性質の異なるイオン交換体とはイオン交換基の種類、イオン交換容量等の違いのことを指す。
【0034】
本発明の一実施形態において、1つの試料溶液について、少なくとも2点の異なるpH値で通液を行い、それぞれについて電気化学的特性値を求めることにより、分析精度を高めることが可能である。これは、被測定物質のイオン交換体への吸着挙動が試料溶液のpHにより異なることに基づく。すなわち、あるpH値を有する試料溶液について測定を行った後、酸、アルカリ、あるいは緩衝溶液を添加することにより異なるpHに調整された試料溶液についても同様の測定を行うことにより、異なるpH値でのイオン交換体への吸着挙動の差異を観測することが可能となる。また同様の効果を得る方法として、被測定物質が吸着したイオン交換体に所定のpH溶液(緩衝溶液が好ましい)を通液させた後に測定を行う方法、あるいは、イオン交換体を挟む電極間に直流電圧を印加し電気泳動現象を利用してイオン交換体に吸着した被測定物質を移動せしめた後に測定を行う方法を用いてもよい。
【0035】
イオン交換体としては、イオン交換性を有するものであれば特に制限されず、強酸性の陽イオン交換体、弱酸性の陽イオン交換体、強塩基性のイオン交換体、弱塩基性のイオン交換体のいずれでもよい。また、イオン交換体層の形状としては、特に制限されず、例えば、粒状のイオン交換体を充填したものであっても、あるいは、有機多孔質イオン交換体を、イオン交換体層が形成されるように充填したものであってもよい。有機多孔質イオン交換体は、イオン交換体層全体が繋がっているので、イオンの移動が速く、吸着イオンが変化した時に応答が速く、また、イオン移動がイオン交換体層全体に亘って平均的に行われる。そのため、イオン交換体層が、有機多孔質イオン交換体の成形体の充填物であることが、測定の精度が高くなる点で好ましい。また、イオン交換体の初期イオン形は、処理対象イオン種によって適宜選択すればよい。
【0036】
イオン交換体が、粒状のイオン交換体の場合について説明する。粒状のイオン交換体のイオン交換基の種類及びイオン交換基が導入されている基材の種類は、特に制限されない。粒状のイオン交換体の平均粒径は、好ましくは0.01mm以上1mm以下、特に好ましくは0.05mm以上0.2mm以下であり、粒状のイオン交換体のイオン交換容量は、好ましくは0.1mg当量/g乾燥イオン交換体以上5mg当量/g乾燥イオン交換体以下、特に好ましくは0.1mg当量/g乾燥イオン交換体以上4mg当量/g乾燥イオン交換体以下である。粒状のイオン交換体の平均粒径又はイオン交換容量が、上記範囲にあることにより、測定の精度が高くなる。粒状のイオン交換体の平均粒径が、0.01mm未満だと、通液抵抗が大きくなり易く、また、1mmを超えると、溶液とイオン交換体の接触効率が悪くなり易く、迅速な応答が得難くなる。また、粒状のイオン交換体のイオン交換容量が、0.1mg当量/g乾燥イオン交換体未満だと、溶液中の生体関連物質の捕捉が不十分となり易く、また、5mg当量/g乾燥イオン交換体を超えると、電気化学的測定値の変化が緩慢となり易い。
【0037】
イオン交換体が、有機多孔質イオン交換体の場合について説明する。有機多孔質イオン交換体は、複数のマクロポアが接合し、マクロポア同士の接合部にメソポアが形成されている連続気泡構造を有しており、連続気泡構造の内壁に、イオン交換基が導入されている。連続気泡構造のメソポアは、接合するマクロポア同士の共通の開口であり、有機多孔質内に液体を流せば、マクロポアとメソポアで形成される気泡内が流路となる。マクロポア同士の重なりは、1個のマクロポアで1〜12個、多くのものは3〜10個であるので、連続気泡構造は3次元網目構造である。連続気泡構造を形成する骨格部分の材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。ポリマー材料はポリマー材料を構成する全構成単位に対して、5モル%以上の架橋構造単位を含むことが好ましい。架橋構造単位が5モル%未満であると、機械的強度が不足してしまう。
【0038】
有機多孔質体イオン交換体のイオン交換基の種類及びイオン交換基が導入されている基材の種類は、特に制限されない。有機多孔質イオン交換体の基材としては、種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリビニルベンジルクロライド等のスチレン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化オレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー;スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体等が挙げられる。これらのポリマーは、単独のモノマーを重合させて得られるホモポリマーでも、複数のモノマーを重合させて得られるコポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、イオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さから、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0039】
有機多孔質イオン交換体は、半径が0.01μm以上100μm以下のメソポアを有する連続気泡構造を有し、全細孔容積が1ml/g以上50ml/g以下であることが好ましい。
すなわち、有機多孔質イオン交換体は、メソポアの半径および全細孔容積のいずれもが上記範囲内にあることが好ましい。このような有機多孔質イオン交換体は、生体関連物質を効率良く吸着できる。
また、有機多孔質イオン交換体は、細孔分布曲線の主ピークにおける半値幅を主ピークの半径で除した値が0.5以下であることがさらに好ましい。このような構成により、有機多孔質イオン交換体は、生体関連物質を効率良く吸着できる。
以下、各パラメータについて説明する。
【0040】
有機多孔質イオン交換体の連続気泡構造に形成されているメソポアの平均半径は、好ましくは、0.01μm以上100μm以下であり、より好ましくは0.01μm以上50μm以下、特に好ましくは0.1μm以上10μm以下である。メソポアの平均半径が上記範囲内である場合、イオン交換効率が向上する。メソポアの平均半径は、水銀圧入法により有機多孔質イオン交換体の細孔分布曲線を測定することにより求められる。本明細書において、メソポアの半径とは、細孔分布曲線のピークの半径をいう。
【0041】
有機多孔質イオン交換体の全細孔容積は、好ましくは1ml/g以上50ml/g以下、特に好ましくは2ml/g以上30ml/g以下であり、有機多孔質イオン交換体のイオン交換容量は、好ましくは0.1mg当量/g乾燥イオン交換体以上5mg当量/g乾燥イオン交換体以下、特に好ましくは0.1mg当量/g乾燥イオン交換体以上4mg当量/g乾燥イオン交換体以下である。有機多孔質イオン交換体の全細孔容積又はイオン交換容量が、上記範囲にあることにより、測定の精度が高くなる。有機多孔質イオン交換体の全細孔容積が、1ml/g未満だと、通液抵抗が大きくなり易く、また、50ml/gを超えると、溶液とイオン交換体の接触効率が悪くなり易く、迅速な応答が得難くなる。また、有機多孔質イオン交換体のイオン交換容量が、0.1当量/g乾燥イオン交換体未満だと、溶液中の生体関連物質の捕捉が不十分となり易く、また、5mg当量/g乾燥イオン交換体を超えると、電気化学的測定値の変化が緩慢となり易い。有機多孔質イオン交換体の全細孔容積は、水銀圧入法により有機多孔質イオン交換体の細孔分布曲線を測定することにより求められる。
【0042】
有機多孔質イオン交換体の細孔分布曲線のピークにおける半値幅をこのピークの半径で除した値は、0.5以下である。上記範囲内である場合、溶液とイオン交換体の良好な接触効率が得られるとともに、良好なイオン交換率を実現できる。
【0043】
有機多孔質体の製造方法の一例を以下に示す。有機多孔質体は、イオン交換基を有さない油溶性モノマー、界面活性剤及び水を混合し、更に必要に応じて重合開始剤を混合し、油中水滴型エマルジョンを調製し、これを重合させて製造される。
【0044】
イオン交換基を有さない油溶性モノマーとは、カルボン酸基、スルホン酸基等のイオン交換基を有さず、水に対する溶解性が低い、親油性のモノマーを指す。これらモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ジビニルベンゼン、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらモノマーは、1種単独又は2種以上の組み合わせであってもよい。ただし、本発明の一実施形態においては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋性モノマーを少なくとも油溶性モノマーの一成分として選択し、その含有量を全油溶性モノマー中、1モル%以上90モル%以下、好ましくは3モル%以上80モル%以下とすることが、後の工程でイオン交換基量を多く導入するに際して必要な機械的強度が得られる点で好ましい。
【0045】
界面活性剤は、イオン交換基を有さない油溶性モノマーと水とを混合した際に、油中水滴型(W/O)エマルジョンを形成できるものであれば、特に制限はなく、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の非イオン界面活性剤;オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤が挙げられる。これら界面活性剤は、1種単独または2種類以上の組み合わせであってもよい。なお、油中水滴型エマルジョンとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルジョンを言う。界面活性剤の添加量は、油溶性モノマーの種類および目的とするエマルジョン粒子(マクロポア)の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2〜70%の範囲で選択される。
【0046】
重合開始剤としては、熱及び光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は水溶性であっても油溶性であっても良く、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム−酸性亜硫酸ナトリウム、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。ただし、場合によっては、開始剤を添加しなくても加熱のみや光照射のみで重合が進行する系もあるため、そのような系では開始剤の添加は不要である。
【0047】
イオン交換基を有さない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び重合開始剤を混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、特に制限はなく、各成分を一括して一度に混合する方法、油溶性モノマー、界面活性剤及び油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法等が挙げられる。必要に応じて公知の沈殿剤を混合してもよい。
【0048】
エマルジョンを形成させるための混合装置としては、被処理物を混合容器に入れ、混合容器を傾斜させた状態で公転軸の周りに公転させながら自転させることで、被処理物を攪拌混合する、所謂遊星式攪拌装置と称されるものが挙げられる。この遊星式攪拌装置は、例えば、特開平6-71110号公報や特開平11−104404号公報等に開示されているような装置である。本装置の原理は、混合容器を公転させながら自転させることにより、その遠心力作用を利用して被処理物中の比重の重い成分を外側に移動させ攪拌すると共に、混入する気体をその反対方向に押し出して脱泡するものである。更に、容器は公転しながら自転しているため、容器内の被処理物にらせん状に流れ(渦流)が発生し、攪拌作用を高める。装置の運転は、大気圧下で行われても良いが、脱泡を短時間で完全に行うために、減圧下で行われることが好ましい。
【0049】
また、混合条件は、目的のエマルジョン粒径や分布を得ることができる公転及び自転回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。好ましい公転回転数は、回転させる容器の大きさや形状にもよるが、約500〜2000回転/分である。また、好ましい自転回転数は、公転回転数の1/3前後の回転数である。攪拌時間も内容物の性状や容器の形状、大きさによって大きく変動するが、一般に0.5〜30分、好ましくは1〜20分の間で設定する。更に、用いられる容器の形状は、底面直径に対し、充填物の高さが0.5〜5となるよう、充填物を収容可能な形状が好ましい。なお、上記油溶性成分と水溶性成分の混合比は、質量比で(油溶性成分)/(水溶性成分)=2/98〜50/50、好ましくは5/95〜30/70の範囲で任意に設定される。
【0050】
このようにして得られた油中水滴型エマルジョンの重合には、モノマーの種類、開始剤系により様々な条件が選択される。例えば、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、30〜100℃で1〜48時間加熱重合させればよく、開始剤として過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム−酸性亜硫酸ナトリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、0〜30℃で1〜48時間重合させればよい。重合終了後、内容物を取り出し、必要であれば、未反応モノマーと界面活性剤除去を目的で、イソプロパノール等の溶剤で抽出して有機多孔質体を得る。すなわち、油中水滴型エマルジョンのうち、油分が重合して骨格構造を形成し、水滴部分が気泡部を形成することになる。
【0051】
このようにして得た有機多孔質体に、イオン交換基を導入し、有機多孔質イオン交換体を得る。前記有機多孔質体に、イオン交換基を導入する方法としては、特に制限はなく、高分子反応やグラフト重合等の公知の方法を用いることができる。例えば、スルホン酸基を導入する方法としては、有機多孔質体がスチレン−ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロ硫酸や濃硫酸、発煙硫酸を用いてスルホン化する方法、有機多孔質体にラジカル開始基や連鎖移動基を導入し、スチレンスルホン酸ナトリウムやアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸をグラフト重合する方法、同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換によりスルホン酸基を導入する方法等が挙げられる。なお、導入するイオン交換基としては、カルボン酸基、イミノジ酢酸基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基等のカチオン交換基;四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等のアニオン交換基;ベタイン、スルホベタイン等の両性イオン交換基が挙げられる。上記複合多孔質イオン交換体を構成する緻密層と多孔質ポリマーには、極性が同一のイオン交換基を導入しても、極性が異種のイオン交換基を導入してもよい。
【0052】
イオン交換体は、通液方向に対して平行方向のイオン交換体の長さ、すなわち、厚みが、全範囲に亘って一定であれば、形状は特に制限されず、また、イオン交換体の厚みは、特に制限されないが、実用上好ましくは0.1mm以上50mm以下、特に好ましくは1mm以上10mm以下である。
【0053】
交流特性の測定には例えばインピーダンスメーターを用いることが可能である。測定方法およびその解析方法は、例えば電気化学会編、電気化学測定マニュアル基礎編、丸善株式会社、2002に詳述されている。広範囲の周波数領域にわたる測定を行い得られた複素インピーダンスプロットの例を図2に示す(実施例1)。プロットには低周波数領域における直線部分と、高周波数領域における半円が認められる。測定値は等価回路(電気化学反応系を電気化学に置き換えたモデル)で解析することができる。図6には、図5に示す等価回路でフィッティングを行った結果を併せて図示してある。
【0054】
等価回路モデル
Rsol:溶液抵抗
Rct:電荷移動抵抗
W:Warburg Impedance(拡散抵抗)
CPE:Constant Phase Element(電気二重層容量成分)
【0055】
測定値はイオン交換体に吸着された物質の種類および濃度により変化することから、インピーダンス、アドミタンス、電位と電流の位相差、または等価回路解析を行い得られたパラメータ値(溶液抵抗・電荷移動抵抗など)を、標準試料液のそれと比較することにより分析することが可能となる。
【0056】
測定装置のブロック図の一例を図10に示す。交流発生部11にて発生させた交流電圧または交流電流は測定セル10内の電極に印加され、その時観測される応答電流または応答電圧を測定部12が測定する。測定部12により測定された値は演算部13に出力され、演算部13では電気化学的特性値を算出した後に、記憶部14に予め記憶された標準試料溶液のそれと比較することにより分析する。演算部13にはコンピューターを好適に用いることができる。
【0057】
本発明による測定回路ブロック図の一例を図11に示す。測定セル30内の電極間電流は電流−電圧変換回路40により電圧値へ変換され、温度補正回路41を通過した後、ピーク検出回路42および位相検出回路44に入力され、ピーク検出回路42では電圧のピーク値を、位相検出回路44では測定セル30に印加された電圧との位相差を検出し、得られた信号はそれぞれ、ロー・パス・フィルター43および45、マルチプレクサー46およびアナログ−デジタル変換回路47を通して演算部48に入力される。演算部へはこの他、交流信号発生部33からの信号や電気伝導率計31からの信号を取り込むことも可能である。演算部48では取り込まれた信号を解析し、記憶部51にメモリーされた標準液の測定データと比較を行い、試料液の分析値を算出し、表示部50や記憶部51へと出力する。また演算部51は測定セル30へ印加する交流の制御を行うことも可能であり、交流信号の発生指示を受けた交流信号発生部33ではダイレクト・デジタル・シンセサイザー54およびマルチプライアー55により所定の周波数を有する交流信号を発生させた後、ドライバー57により測定セル30へ交流を印加する。測定回路の要所には外部環境由来のノイズあるいは内部発生ノイズによる影響を抑制するためロー・パス・フィルター56を挿入することが好ましい。
【0058】
ここで等価回路モデルについて説明する。等価回路とは電気化学反応系を電気回路に置き換えたモデルであり、もっとも単純な等価回路の一つを図12に示す。このモデルでは溶液は溶液抵抗Rsolで表し、電極界面は電荷移動抵抗Rctと電気二重層容量Cdlの並列で表す。Rctは界面を通るファラデー電流、Cdlは非ファラデー電流(二重層の充放電電流)に関係するとされている。この等価回路に基づくインピーダンスZは次式で表され(jは虚数、fは交流周波数)、
【数1】

またナイキストプロットは図13となる。図13で半円の直径は電荷移動抵抗Rct、高周波数側で実軸と交わる交点は溶液抵抗Rsolを表す。また頂点の周波数fmは電気二重層容量Cdlと、
【数2】

の関係がある。従って測定結果を式(1)および式(2)でフィッティングさせることにより、等価回路のパラメータを求めることが可能である。
【0059】
しかしながら等価回路は通常、現実の系より単純化され過ぎているため、フィッティングがうまく行かない場合が多い。従って本発明では図5に示す等価回路を用いた。
【0060】
実施例のナイキストプロットからも明らかな通り、本発明による系では低周波数領域においてプロットが直線状に伸びる様子が観測された。これは拡散が比較的遅い系において特異的に見られる軌跡であり(電気化学会編、電気化学測定マニュアル基礎編、100〜101ページ、2002年)、等価回路ではワールブルグインピーダンスWを用いて表されることが知られている。ワールブルグインピーダンスWは式(3)および式(4)より表され、
【数3】

【数4】

インピーダンスZは式(5)のようになる。
【数5】

ここで、DとDは電荷移動反応に関与する酸化体(O)/還元体(R)の拡散係数、CとCは酸化体(O)/還元体(R)のバルク濃度、Rは気体定数、Tは温度、Fはファラデー定数、ωは角速度、nは反応種1個当たりに交換される電子数を表す。
【0061】
また本発明による系では、高周波数領域において観測される半円が虚軸方向に潰れた形をしている。このような場合にはコンスタントフェーズエレメント(CPE)を含む等価回路でフィッティングを行うと良いことが知られている(等価回路を用いた電気化学インピーダンスの解釈、東陽テクニカ技術資料)。CPEは容量性半円の歪を表現するためのパラメータで、CPE定数TおよびCPE指数pからなり、
【数6】

で構成される。式(6)において容量性挙動はp=0〜1の値を取り、p=1の場合には容量性半円は真円となり、式6においてTはCdlと等価となる。この様な半円の歪は電極表面の不均一性や凸凹により説明されているが、その本質的な原因に関する議論は現在も続けられている。
【0062】
以上、ワールブルグインピーダンスWとコンスタントフェーズエレメントCPEを含む等価回路として、本発明の実施例において使用した等価回路を図5に示す。後述する通り、実施例はこの等価回路を用いてフィッティング可能であるが、その物理的/化学的現象の解釈については今後の研究課題である。また等価回路はあくまでも測定データのフィッティングに合わせて仮定したモデルであり、物理的/化学的現象の解明が進んだ結果、より精密なモデルが得られるようになれば、それらを用いることが好ましいことは言うまでも無い。
【実施例】
【0063】
(有機多孔質陽イオン交換体の製造)
スチレン19.24g、ジビニルベンゼン1.01g、ソルビタンモノオレート2.25gおよびアゾビスイソブチロニトリル0.05gを混合し、均一に溶解させた。次に当該スチレン/ジビニルベンゼン/ソルビタンモノオレート/アゾビスイソブチロニトリル混合物を180gの純水に添加し、遊星式攪拌装置である真空攪拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて13.3kPaの減圧下、底面直径と充填物の高さの比が1:1、公転回転数1800回転/分、自転回転数600回転/分で2.5分間攪拌し、油中水滴型エマルジョンを得た。乳化終了後、系を窒素で十分置換した後密封し、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノールで18時間ソックスレー抽出し、未反応モノマー、水およびソルビタンモノオレートを除去した後、85℃で一昼夜減圧乾燥した。このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を3モル%含有した有機多孔質体の内部構造を、SEMにより観察した結果、当該有機多孔質体は連続気泡構造を有しており、マクロポアおよびメソポアの大きさが均一であることがわかった。また、水銀圧入法により当該有機多孔質体の細孔分布曲線を測定したところ、細孔分布曲線のピークの半径Rは6.6μm、ピークの半値幅(W)は2.8μm、半値幅をピークの半径で除した値(W/R)は0.42であった。なお、当該有機多孔質体の全細孔容積は、8.4ml/gであった。また、マクロボイドの有無を確認するため、上記有機多孔質体を切断し、目視にて内部の状態を観察したが、マクロボイドは全くなかった。
【0064】
製造した当該有機多孔質体を切断して5.9gを分取し、ジクロロエタン800mlを加え60℃で30分加熱した後、室温まで冷却し、クロロ硫酸30.1gを徐々に加え、室温で24時間反応させた。その後、酢酸を加え、多量の水中に反応物を投入し、水洗して多孔質陽イオン交換体を得た。この多孔質陽イオン交換体の陽イオン交換容量は、乾燥多孔質体換算で4.8mg当量/gであった。当該有機多孔質陽イオン交換体の内部構造は、連続気泡構造を有しており、絶乾状態のサンプルを用いて、水銀圧入法により求めた細孔分布曲線のピークの半径Rは6.7μm、ピークの半値幅(W)は2.7μm、半値幅をピークの半径で除した値(W/R)は0.40であった。また、全細孔容積は、8.5ml/gであった。
【0065】
(有機多孔質陰イオン交換体の製造)
p−クロロメチルスチレン16.20g、ジビニルべンゼン4.05g、ソルビタンモノオレート2.25gおよびアゾビスイソブチロニトリル0.26gを混合し、均一に溶解させた。次に当該スチレン/ジビニルベンゼン/ソルビタンモノオレート/アゾビスイソブチロニトリル混合物を180gの純水に添加し、遊星式攪拌装置である真空攪拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて13.3kPaの減圧下、底面直径と充填物の高さの比が1:1、公転回転数1800回転/分、自転回転数600回転/分で5分間攪拌し、油中水滴型エマルジョンを得た。乳化終了後、系を窒素で十分置換した後密封し、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノールで18時間ソックスレー抽出し、未反応モノマー、水およびソルビタンモノオレートを除去した後、85℃で一昼夜減圧乾燥した。このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を3モル%含有した有機多孔質体の内部構造を、SEMにより観察した結果、当該有機多孔質体は連続気泡構造を有しており、マクロポアおよびメソポアの大きさが均一であることがわかった。また、水銀圧入法により当該有機多孔質体の細孔分布曲線を測定したところ、細孔分布曲線のピークの半径Rは4.5μm、ピークの半値幅(W)は2.0μm、半値幅をピークの半径で除した値(W/R)は0.44であった。なお、当該有機多孔質体の全細孔容積は7.0ml/gであった。また、マクロボイドの有無を確認するため、上記有機多孔質体を切断し、目視にて内部の状態を観察したが、マクロボイドは全くなかった。
製造した当該有機多孔質体を切断して6.0gを分取し、ジオキサン800mlを加え60℃で30分加熱した後、室温まで冷却し、トリメチルアミン30%水溶液61.0gを添加した後昇温し、40℃で24時間反応させた。反応終了後、多量の水中に反応物を投入し、水洗して多孔質陰イオン交換体を得た。この多孔質陰イオン交換体の陰イオン交換容量は、乾燥多孔質体換算で2.9mg当量/gであった。この湿潤状態の有機多孔質陰イオン交換体を60℃にて72時間減圧乾燥し、絶乾状態としたが、乾燥の過程でクラックは生じなかった。上記有機多孔質陰イオン交換体の内部構造は、連続気泡構造を有しており、絶乾状態のサンプルを用いて、水銀圧入法により求めた細孔分布曲線のピークの半径Rは4.6μm、ピークの半値幅(W)は2.0μm、半値幅をピークの半径で除した値(W/R)は0.43であった。また、全細孔容積は7.0ml/gであった。
【0066】
(実施例1)
有機多孔質陰イオン交換体(φ10×2mm)に0.5Mのグリシン溶液およびフェニルアラニン溶液をそれぞれ5mL通液した後に純水で洗浄し、電気伝導率計の値が変化しないことを確認した後、イオン交換体のインピーダンス特性を両端に配した白金電極を用いて測定した結果を図2〜4に示す。図2は横軸にインピーダンスの実数部、縦軸に虚数部をプロットしたもの(ナイキストプロット)、図3と図4はそれぞれ横軸に周波数、縦軸にインピーダンスの絶対値または電圧と電流の位相差をプロットしたものである(Bodeプロット)。測定は電気化学測定システム12528WB型(東陽テクニカ)を用い、振幅電圧5mV、周波数領域1Hz以上300kHz以下で行っている。図中、OHと標記されたプロットは、試料を通液する前のOH型の陰イオン交換体の測定値である。
【0067】
図2より明らかな通り、電気化学的特性は吸着されたアミノ酸の種類によって大きく異なり、高周波数領域にて観測される半円の大きさは、OH型、グリシン吸着、フェニルアラニン吸着の順に大きくなる。また図3より明らかな通り、10kHz以上の周波数領域ではインピーダンスの絶対値に大きな差が認められ、また図4より明らかな通り、位相差が大きくなる極大点(容量成分が最大となる点)はOH型、グリシン吸着、フェニルアラニン吸着の順に低周波数側へシフトする様子が観測される。
【0068】
また、グリシンを吸着させた測定結果について、図5に示す等価回路を用いフィッティングを行った結果を図6に示す。フィッティングにはScribner Associates Inc.製の電気化学インピーダンス解析ソフトウェアであるZ.View Version 2.9Bを用いた。図5より明らかな通り、等価回路を用いたフィッティングの結果は良好であり、この時、解析値としてRsol=28Ω、Rct=1811Ωが得られた。OH型およびフェニルアラニンを吸着させたものについても解析した結果を表1にまとめる。
【0069】
【表1】

【0070】
以上の結果より、OH型の有機多孔質陰イオン交換体に吸着させたアミノ酸の種類により、高周波数領域でのインピーダンス、電圧と電流の位相差、等価回路を用いたフィッティング解析結果のいずれを用いても、両者を識別して分析可能であることは明らかである。
【0071】
(実施例2)
OH型に調製された有機多孔質陰イオン交換体(φ10×2mm)に10mM(#1)、50mM(#2)、90mM(#3)のフェニルアラニン溶液を5mL通液した後に純水で洗浄し、電気伝導率計の値が変化しないことを確認した後、イオン交換体のインピーダンス特性を両端に配した白金電極を用いて測定した結果を図7a〜9aに示す。図7aは横軸にインピーダンスの実数部、縦軸に虚数部をプロットしたもの(ナイキストプロット)、図8aと図9aはそれぞれ横軸に周波数、縦軸にインピーダンスの絶対値または電圧と電流の位相差をプロットしたものである(Bodeプロット)。測定は電気化学測定システム12528WB型(東陽テクニカ)を用い、振幅電圧5mV、周波数領域1Hz以上300kHz以下で行っている。図8aから明らかな通り、高周波数領域ではインピーダンス|Z|の値がフェニルアラニン濃度に応じて変化する。そこで交流周波数119kHzにおける全インピーダンス|Z|をフェニルアラニン濃度に対してプロットし、これを指数関数でフィッティングを行い検量線とした例を図8bに示す。また、図9aから明らかな通り、位相差θは1kHz以上の領域でフェニルアラニン濃度に応じて変化する。そこで交流周波数48kHzにおける位相差θをフェニルアラニン濃度に対してプロットし、これを一次関数でフィッティングを行い検量線とした例を図9bに示す。また図7aの測定結果について、図5に示す等価回路を用いフィッティングを行い得たRctの値を表2にまとめ、フェニルアラニン濃度に対してプロットしこれを指数関数でフィッティングを行い検量線とした例を図7bに示す。
【0072】
【表2】

【0073】
濃度未知のフェニルアラニン水溶液について前述の方法で測定を行い図7b、図8b、図9bの検量線に従い濃度を算出した結果、および、当該試料液を高速アミノ酸分析装置(日立製作所製・L−8500型)を用い分析を行った結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
表3の結果より、OH型の有機多孔質陰イオン交換体に吸着したフェニルアラニンの吸着量を、任意周波数におけるインピーダンス、電圧と電流の位相差、さらには等価回路を用いたフィッティング解析結果のいずれを用いても分析可能であることは明らかである。
【0076】
(実施例3)
有機多孔質陽イオン交換体(H型)および有機多孔質陰イオン交換体(OH型)について、10mMのグリシン溶液(純水溶解)を20mL通液する前後にインピーダンス測定を行い、図5に示す等価回路を用いて解析した結果、得られたRsol値(溶液抵抗)を表4(有機多孔質陽イオン交換体)および表5(有機多孔質陰イオン交換体)に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
純水に溶解したグリシン溶液を通液した有機多孔質陽イオン交換体では、Rsolの値は通液前後で変化が認められなかった。一方、有機多孔質陰イオン交換体では大きく変化しており、複数の性質の異なるイオン交換体について測定を行うことにより、分析精度を高めることが可能であることは明らかである。
【0080】
(実施例4)
実施例3において、pH12に調整された10mMのグリシン溶液を有機多孔質陰イオン交換体に通液し測定を行った結果を表6に示す。
【0081】
【表6】

【0082】
表5と表6の比較により、グリシンを吸着させた有機多孔質陰イオン交換体のRsolの挙動は異なり、複数のpH点での測定を行うことにより、分析精度を高めることが可能であることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の測定セルの一例を示す図である。
【図2】陰イオン有機多孔質イオン交換体を用いた測定例(ナイキストプロット)である。
【図3】陰イオン有機多孔質イオン交換体を用いた測定例(Bodeプロット・インピーダンス)である。
【図4】陰イオン有機多孔質イオン交換体を用いた測定例(Bodeプロット・電圧と電流の位相差)である。
【図5】解析に用いた等価回路の一例である。
【図6】等価回路によるフィッティングの例である。
【図7】7aは、フェニルアラニンの吸着量依存性を示す測定例(ナイキストプロット)である。7bはフェニルアラニンの濃度に対する電荷移動抵抗値を示すグラフである。
【図8】8aは、フェニルアラニンの吸着量依存性を示す測定例(Bodeプロット・インピーダンス)である。8bは、フェニルアラニンの濃度に対するインピーダンスの値を示すグラフである。
【図9】9aは、フェニルアラニンの吸着量依存性を示す測定例(Bodeプロット・電圧と電流の位相差)である。9bは、フェニルアラニンの濃度に対する位相差θを示すグラフである。
【図10】測定装置のブロック図の一例である。
【図11】交流発生部および測定部の回路ブロック図の一例である。
【図12】本発明の等価回路の一例を示す図である。
【図13】図12の等価回路に基づくインピーダンスのナイキストプロットである。
【符号の説明】
【0084】
1 イオン交換体
2 電極
3 測定セル容器
4 通液出口
5 通液入口
6 リード線
10 測定セル
11 交流発生部
12 測定部
13 演算部
14 記憶部
15 入力部
16 出力部
17 流体制御部
18 試料溶液タンク
19 純水タンク
20 pH調整液タンク
21 電気伝導率計
30 測定セル
31 電気伝導率計
32 測定部
33 交流信号発生部
34 通液ライン
40 電流−電圧変換回路
41 温度補正回路
42 ピーク検出回路
43・45・56 ロー・パス・フィルター
44 位相検出回路
46 マルチプレクサー
47 アナログ−デジタル変換回路
48 演算部
49 入力部
50 表示部
51 記憶部
52 外部入出力部
53 クロック回路
54 ダイレクト・デジタル・シンセサイザー
55 マルチプライアー
57 ドライバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中の特定の生体関連物質を分析する方法であって、
イオン交換体に試料溶液を通液し、被測定物質をイオン交換体に吸着せしめるステップと、
該イオン交換体に接触させた少なくとも一対の電極間に所定の周波数の交流電圧または交流電流を印加し、該電極間の応答電流または応答電圧を測定することにより電気化学的特性値を得るステップと、
該電気化学的特性値を、予め標準試料溶液について求められた電気化学的特性値と比較することにより、該生体関連物質の分析を行うステップと、を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項2】
イオン交換体に試料溶液を通液し、被測定物質をイオン交換体に吸着せしめる前記ステップと、イオン交換体に接触させた少なくとも一対の電極間に所定の周波数の交流電圧または交流電流を印加する前記ステップとの間に、該イオン交換体を純水により洗浄するステップを含むことを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項3】
前記イオン交換体が、複数のマクロポアが接合し、該マクロポア同士の接合部にメソポアが形成されている連続気泡構造を有する有機多孔質イオン交換体であることを特徴とする請求項1または2記載の分析方法。
【請求項4】
前記有機多孔質イオン交換体が、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に半径が0.01μm以上100μm以下のメソポアを有する連続気泡構造を有し、全細孔容積が1ml/g以上50ml/g以下であることを特徴とする請求項3記載の分析方法。
【請求項5】
前記イオン交換体が強塩基性陰イオン交換体であることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項6】
比較を行う前記電気化学的特性値として、インピーダンス、アドミタンス、電圧と電流の位相差、および複数の周波数における測定値について等価回路を用いたフィッティングを行い得られるパラメータの、少なくとも1つを用いることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項7】
前記被測定物質が、微生物、細胞、アミノ酸、タンパク質、核酸、糖類、酵素、補酵素、ビタミン、または生理活性物質であることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項8】
前記電極間に印加する交流の前記所定の周波数が100Hz以上1MHz以下であることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項9】
イオン交換体に試料溶液を通液する前記ステップが、1つの試料溶液について、少なくとも2点の異なるpH値で行われ、それぞれについて電気化学的特性値を求めるステップを含むことを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項10】
イオン交換体に試料溶液を通液する前記ステップが、1つの試料溶液について、物理的および/または化学的性質の異なる複数のイオン交換体に対して行われ、それぞれについて電気化学的特性値を求めるステップを含むことを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項11】
溶液中の特定の生体関連物質を分析する装置であって、
液体を導入することができ、内部に少なくとも一対の電極を備えた測定セルと、
該測定セル内を純水で洗浄する機能を備え、該電極間に挟まれたイオン交換体と、
該測定セル中の該電極間に交流電圧または交流電流を印加する交流発生部と、
該電極間の電流または電圧を測定する測定部と、
該測定部で得られた測定値より電気化学的特性値を求め、予め標準試料溶液について求められた電気化学的特性値と比較することにより、該生体関連物質の分析を行う演算部と、
該標準試料溶液について求められた電気化学的特性値を記憶する記憶部と、を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項12】
前記測定部に電圧と電流の位相差を検出する位相測定回路を含むことを特徴とする請求項11記載の分析装置。
【請求項13】
前記イオン交換体が、複数のマクロポアが接合し、該マクロポア同士の接合部にメソポアが形成されている連続気泡構造を有する有機多孔質イオン交換体であることを特徴とする請求項11記載の分析装置。
【請求項14】
前記有機多孔質イオン交換体が、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に半径が0.01μm以上100μm以下のメソポアを有する連続気泡構造を有し、全細孔容積が1ml/g以上50ml/g以下であることを特徴とする請求項13記載の分析装置。
【請求項15】
前記測定セル中の前記イオン交換体が脱着可能な構造であることを特徴とする請求項11記載の分析装置。
【請求項16】
前記イオン交換体が、物理的および/または化学的性質の異なる複数のイオン交換体を含むことを特徴とする請求項11記載の分析装置。
【請求項17】
前記複数のイオン交換体が、一対の電極に対して並列して配置されることを特徴とする請求項16記載の分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2008−76227(P2008−76227A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255737(P2006−255737)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第0分冊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月29日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)秋季第67回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第0分冊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年9月8日 社団法人 電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.106 No.227」に発表
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】