説明

生体関連物質の非特異吸着防止剤

【課題】蛋白質などの非特異吸着性が少ない生分解性のコーム型ポリマーを提供する。
【解決手段】生体関連物質の非特異吸着防止剤は、生分解性部位を有する主鎖と、低非特異吸着性部位を有する側鎖とを有するコーム型ポリマーを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質など生体関連物質の非特異吸着防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、癒着防止材、創傷被覆材、止血材、径皮吸収材、ドラックデリバリーシステムに用いられる基材として、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、ナイロン、ポリ塩化ビニルなどが用いられる。しかし、これらの材料は生体適合性、特に蛋白質などの低非特異吸着性に乏しく、長期の使用によるタンパク質等の生体関連物質の非特異的吸着が問題となっている。
【0003】
タンパク質等の生体関連物質の吸着を防止する方法として、ポリメトキシエチルアクリレートを主成分とするポリマーをコーティングする方法が提案されている(特許文献1、2、3)。しかしながら、ポリメトキシエチルメタクリレートを主成分とするポリマーは粘着性が高いため、体液中の狭雑物が前記ポリマーからなる塗膜に付着しやすく、また、前記塗膜の膜強度や耐水性が不十分であり、さらには、非特異吸着防止効果が不十分である場合がある。
【0004】
また、タンパク質等の生体関連物質の吸着を防止するためのポリマーとして、リン脂質類似構造を有する共重合体が提案されている(特許文献4、5、6)。しかしながら、これらのリン脂質類似構造を有する共重合体は特殊なモノマーを使用するためコストが高く、また、生体関連物質の吸着防止効果が不十分である。
【0005】
一方、加水分解や酵素分解により分解、消失する分解性ポリマーが環境保全や医療用具の材料として用いられている。しかし、一般の分解性ポリマーであるポリ乳酸やポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステルは結晶性及び疎水性が高いため分解時間が非常に長く、特にドラックデリバリーシステムとして利用される場合、生体内の残存が問題となっている。そこで分解性に優れ、生体に害を与えない新しい分解性ポリマーが望まれている。
【0006】
この様な背景の中から、水溶性ポリマーであるポリエチレングリコール等と共重合させることで、結晶性を下げかつ親水性を高めた脂肪族ポリエステルが報告されている。しなしながら、脂肪族ポリエステルの分解では低分子量の酸が多量に生成し、生体組織に悪影響を及ぼす場合がある。
【0007】
また、脂肪族ポリエステルの分解性を利用して、薬物やタンパク質を放出する担体を得ることも報告されている。しかし、これらの重合体の物質透過性は乏しく、内包されたタンパク質が変性、失活してしまう場合がある。
【0008】
このような事情を鑑みて、生体適合性および生分解性を併せ持つポリマーとして、重合性基を側鎖に有するポリホスフェートが特許文献7に提案されているが、当該ポリホスフェートは直鎖型ポリマーであるため、生分解性の制御が困難であり実用的ではない。
【特許文献1】特許第2806510号公報
【特許文献2】特開2001−323030号公報
【特許文献3】特開2002−105136号公報
【特許文献4】特開平9−12904号公報
【特許文献5】特開平9−183819号公報
【特許文献6】特開2000−279512号公報
【特許文献7】特開2004−244603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたものであり、例えば、癒着防止材、創傷被覆材、止血材、経皮吸収材、ドラックデリバリーシステムなどに用いられ、制御された生分解性を有するコーム型ポリマーを含有する生体関連物質の非特異吸着防止剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、この課題を解決するために、特定の組成のコーム型ポリマーが生体への影響が少なく、優れた生分解性を有することを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
本発明の一態様のコーム型ポリマーを含有する生体関連物質の非特異吸着防止剤は、生分解性部位を有する主鎖と、低非特異吸着性部位を有する側鎖とを有する。
【0012】
上記コーム型ポリマーにおいて、前記生分解性部位は、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリビニルアルコール、および多糖類から選ばれる少なくとも1種を含むことができる。この場合、前記ポリエステル類は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリアルキレンサクシネート、ポリアルキレンアジペート、およびポリアルキレンテレフタレートから選ばれる少なくとも1種であることができる。また、この場合、前記多糖類は、キチン、キトサン、およびセルロースから選ばれる少なくとも1種であることができる。
【0013】
上記コーム型ポリマーにおいて、前記低非特異吸着性部位は、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリエーテル類、ポリエチレンオキシド、ポリメタクリロイルホスホコリン、ポリビニルピロリドン、および多糖類から選ばれる少なくとも1種を含むことができる。
【0014】
上記コーム型ポリマーにおいて、前記生分解性部位の数平均分子量が1,000〜500,000であることができる。
【0015】
上記コーム型ポリマーにおいて、前記低非特異吸着性部位の数平均分子量が1,000〜100,000であることができる。
【発明の効果】
【0016】
上記コーム型ポリマーは、上記生分解性部位を有する主鎖および上記低非特異吸着性部位を有する側鎖を含むことにより、非特異吸着性が少なく、制御された生分解性を併せ持つため、生体適合ポリマーとして使用することができる。したがって、例えば、上記コーム型ポリマーは生体適合ポリマーとして、創傷被覆材、癒着防止材、経皮吸収材、止血材、ドラッグデリバリーシステムなどの医療・医薬用途に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る非特異吸着防止剤について、具体的に説明する。
【0018】
1.非特異吸着防止剤
本発明の非特異吸着防止剤は、制御された生分解性と生体関連物質に対する低非特異吸着性を示すコーム型ポリマーを含有し、該コーム型ポリマーは生分解性部位を有する主鎖と低非特異吸着性部位を有する側鎖とを有する。このようなコーム型ポリマーは例えば、特定の組成及び分子量を有する生分解性ポリマーに、低非特異性部位を形成するためのモノマーを重合もしくは結合させることにより製造できる。使用する生分解性ポリマーの組成および分子量を調整することにより、主鎖の分解速度が制御された非特異吸着防止剤を得ることができる。なお、本発明において、生体関連物質とは脂質、タンパク質、糖類、または核酸類をいう。
【0019】
1.1.コーム型ポリマーの構成
コーム型ポリマーは、生分解性部位を有する主鎖と、主鎖より短い低非特異吸着性部位を有する側鎖とを有するコポリマーである。この生分解性主鎖は、所望の適用に依存して、疎水性であってもよいし、または親水性であってもよい。このコーム型ポリマー全体は、鎖のもつれによりポリマーに対して良好な機構的特性を与えるように、溶融状態において十分に高い分子量を有している。従って、このコーム型ポリマー全体の数平均分子量は、1,000〜600,000の範囲であり、より好ましくは20,000〜400,000の範囲であり、およびさらにより好ましくは100,000〜300,000の範囲である。本発明において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の分子量をいう。
【0020】
1.2.コーム型ポリマーの製造方法
このコーム型ポリマーは例えば、あらかじめ重合された低非特異吸着ポリマーを生分解性ポリマーにグラフトすることによって調製され得る。あるいは、生分解性ポリマーの存在下で、低非特異吸着性を示すモノマーおよび当該低非特異吸着性を示すモノマーと共重合可能なモノマーを共重合することによって、コーム型ポリマーを調製してもよい。ここで、得られるコーム型ポリマーにおいて、生分解性ポリマーが生分解性部位となり、低非特異吸着ポリマーが低非特異吸着部位となる。
【0021】
コーム型ポリマーの製造方法には特別の制限はなく、例えば、ラジカル重合、イオン重合、光重合等の公知の方法を用いることができる。また、コーム型ポリマーを製造する際の温度や反応時間は、生分解性ポリマー、低非特異吸着ポリマー、および使用するモノマーの種類に応じて適宜設定することができる。
【0022】
2.生分解性部位
生分解性部位は例えば、ポリエステル類、ポリアミド類、および多糖類から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
生分解性部位の数平均分子量は、1,000〜500,000の範囲であり、より好ましくは10,000〜400,000の範囲であり、およびさらにより好ましくは30,000〜300,000の範囲である。
【0024】
生分解性部位を形成するための生分解性ポリマーは、天然由来のポリマーであってもよいし、または重合されたホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。この生分解性ポリマーは、天然物の精製、抽出による調製、生分解性を示すモノマーの単独重合、もしくは生分解性モノマーと当該生分解性を示すモノマーと共重合可能なモノマーを共重合することによって調製され得る。
【0025】
2.1.生分解性部位の構成
2.1.1.ポリエステル類
ポリエステル類としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリアルキレンサクシネート、ポリアルキレンアジペート、ポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。上記ポリエステル類は、ホモポリマー、2種類以上のコポリマーであってもよい。
【0026】
2.1.2.ポリアミド類
ポリアミド類としては、例えば、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン酸などのホモポリマー、アルキルアジペートとアルキルテレフタレートとのコポリマーなどが挙げられる。
【0027】
2.1.3.多糖類
多糖類としては、例えば、キチン、キトサン、セルロースなどが挙げられる。
【0028】
3.低非特異吸着性ポリマー
低非特異吸着性ポリマーは例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリエーテル類、多糖類であり、数平均分子量は、1,000〜100,000の範囲であり、より好ましくは2,000〜50,000の範囲であり、およびさらにより好ましくは5,000〜30,000の範囲である。低非特異吸着性ポリマーは、天然由来のポリマーであってもよいし、または重合されたホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。この低非特異吸着性ポリマーは例えば、天然物の精製、抽出による調製、あるいは、低非特異吸着性を示すモノマーの単独重合、もしくは低非特異吸着性モノマーと当該低非特異吸着性を示すモノマーと共重合可能なモノマーを共重合することによって調製される。
【0029】
3.1.低非特異吸着性ポリマーの構成
3.1.1.ポリ(メタ)アクリル酸類
ポリ(メタ)アクリル酸類は、1種類または2種以上の(メタ)アクリル酸類モノマーの重合により得ることができる。(メタ)アクリル酸類モノマーとしては、例えば、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ノルマルプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メタクリロイルホスホコリン、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ビニルメチルエーテル、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミドなどの置換または非置換のアクリルアミド類;ヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類;酢酸ビニル、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルなど重合後に加水分解することにより水溶性ポリマーとなるモノマー;N−ビニルアセトアミド、N―ビニルピロリドン、アリルアルコールなどが挙げられる。
【0030】
さらに、上記モノマーにその他のモノマーを共重合することができる。その他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無類マレイン酸、クロトン酸などのカルボキシル基を有するアニオン性モノマー;スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン基を有するアニオン性モノマー;アリルアミン、アミノスチレン、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライド4級塩などの1級〜4級アミノ基を有するカチオン性モノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、スチレンなどの疎水性モノマーなどが挙げられる。
【0031】
3.1.2.ポリエーテル類
ポリエーテル類としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0032】
3.1.3.多糖類
多糖類としては、例えば、グリコゲン、セルロース、イヌリン、マンナンなどのホモ多糖類、グルコマンナンなどのヘテロ多糖類、ヒアルロン酸、コンドロイチン、ヘパリンなどのムコ多糖類などが挙げられる。
【0033】
4.コーム型ポリマーの用途
4.1.医療・医薬適用
コーム型ポリマーは例えば、創傷治癒での適用における縫合糸や手術後の癒着防止のための癒着防止材、創傷および火傷に対する創傷被覆材、一時的止血材用フィルムまたはファブリック、ならびにドラックデリバリーシステム用ビヒクルおよびカプセルに使用できる。
【0034】
コーム型ポリマーは、癒着防止材、創傷被覆材において生体適合性に優れ、浸出液の吸収性、癒着防止性や創傷部保護性を有し、癒着防止や創傷治癒に適した湿潤環境を維持することができる。
【0035】
4.2.ドラックデリバリーシステム
コーム型ポリマーはまた、ドラックデリバリーとしての使用のためにマトリックスに使用できる。コーム型ポリマーで被覆された生分解性ラテックスは、治療剤、予防剤または診断剤の標的化送達のために使用され得る。例えば、コーム型ポリマーまたはコーム型ポリマー混合物から構成される低非特異吸着表面を有するナノ粒子が調製され得る。このようなナノ粒子をカプセル化することにより、長期ドラックデリバリー片が調製され得る。このカプセル化ナノ粒子は、完全にもしくは部分的に調節される量で所望の薬剤成分を表面から分泌することができる。
【0036】
ドラックデリバリーにおける使用について、治療剤または予防剤(例えば、アミノ酸、生理活性ペプチドもしくはタンパク質、炭水化物、糖または多糖類、核酸またはポリ核酸、合成有機化合物または金属)は、当該分野において利用可能な方法を用いてコーム型ポリマーの低非特異吸着性側鎖の末端基を介して接着され得る。
【0037】
コーム型ポリマーは、組込まれた薬剤のレベルを増加させ得る。安定性がより高い薬剤は、共有結合的にまたはイオン結合的にコーム型ポリマーに接着され得る。コーム型ポリマーは、特定の結合部分(例えば抗体)に結合し得る。薬剤を含有するコーム型ポリマーのマトリックスは、経口または非経口にて動物に投与され、薬剤が必要とされる部位に動物にインビボで薬剤を送達し得る。
【0038】
5.実施例
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0039】
5.1.実施例1(ポリ乳酸-g-PEG)
5.1.1.生分解性ポリマーの製造
10Lの攪拌機を備えた円筒型ステンレス製重合容器に、L−ラクタイド380g、イソクエン酸20g、オクタン酸第一スズ0.04g、およびラウリルアルコール0.12gを仕込み、真空で2時間脱気した。窒素ガスで置換した後、200℃/10mmHgで2時間加熱攪拌した。反応終了後、下部取り出し口からポリ乳酸の溶融物を抜き出し、空冷し、ペレタイザーにてカットした。得られたポリ乳酸−イソクエン酸共重合ポリマーは、収量340g、収率85%、数平均分子量(Mn)320,000であった。得られたポリ乳酸−イソクエン酸共重合ポリマーを水洗、洗浄した後の全酸価は、8mgKOH/gであった。得られたポリ乳酸−イソクエン酸共重合ポリマー300gをクロロホルムに溶解させた後、N−ヒドロキシサクシイミド20gと室温で2時間反応させてポリ乳酸−イソクエン酸共重合ポリマーのカルボキシル基を活性エステル化し、得られた反応物を精製し、ベンジルアミン20gを仕込み室温で1時間反応させ、アミノ化ポリ乳酸−イソクエン酸共重合ポリマーを得た。得られたアミノ化ポリ乳酸−イソクエン酸共重合ポリマーは、収量325gであった。
【0040】
5.1.2.低非特異吸着性ポリマーの製造
15Lの攪拌機を備えた円筒型ステンレス製重合容器にジエチレングリコール530gを仕込み、水酸化カリウム2gを加えて溶解させた。窒素置換を行った後、135±5℃でエチレンオキシド1470gを圧入し、付加反応を行った。反応終了後、更に1時間熟成を行い、粗製ポリエチレングリコールを得た。その後、110℃まで冷却し、6.7kPaに真空度が達した後180分間、エチレンオキシド除去工程を行った。次いで、窒素バブリングを行いながら(系中の酸素濃度:0.07%)、85%リン酸を1.2g加え、40±5℃で1時間攪拌して中和を行った。更に、40±5℃で窒素バブリングを行いながら(系中の酸素濃度:0.07%)、キョーワード700(協和化学工業(株)製)、12gを加え1時間攪拌した後、加圧濾過を行った。得られた低非特異吸着性ポリマー(ポリエチレングリコール(PEG))は、収量1930g、数平均分子量(Mn)6,000であった。
【0041】
5.1.3.コーム型ポリマーの製造
10Lの攪拌機を備えた円筒型ステンレス製重合容器に、クロロホルム5,000gおよびアミノ化ポリ乳酸−イソクエン酸共重合ポリマー300gを投入し溶解した。更にあらかじめ蒸留水2,000gに溶解したポリエチレングリコール600gを仕込んだ。窒素置換を行った後攪拌し、テトラブチルアンモニウムクロライド5gを投入し、重合容器を40±5℃で2時間攪拌を行った。反応終了後、多量の蒸留水中に反応液に投入し反応を停止した。析出した型ポリマーを蒸留水にて水洗し、ポリ乳酸-g-PEGを得た。得られたポリ乳酸-g-PEGは、収量720g、数平均分子量(Mn)320,000、グラフト効率98%であった。
【0042】
5.1.4.評価用サンプル作成
ポリ乳酸-g-PEG 10重量部を蒸留水100重量部に溶解することにより、ポリマー溶液を得た。これを3cm角のガラス板にスピンコーターを用いて、300rpmで5秒間、続いて1000rpmで20秒間回転塗布した後、150℃で10分間加熱することにより、塗膜が形成された評価用サンプルを得た。得られた塗膜にはごみ等の異物の付着はみられなかった。また、得られた塗膜を爪でこすったが塗膜剥がれ等の外観変化はなく、強靭な塗膜であった。さらに、このサンプルを25℃の純水中に10時間浸漬したが、膜の剥離や膨潤等の変化はなかった。
【0043】
5.1.5.タンパク質非特異吸着性の評価
評価用サンプルの塗布面を向かい合わせにし、間にシリコンゴム製Oリング(内径25mm,太さ3.5mm)を挟んで外側から2箇所クリップで留めることより、体積約600μL、サンプル面積約4.9cmの密閉空間を有するサンプルキットを作成した。次に、BSA(ウシ血清アルブミン)をリン酸緩衝溶液に1重量%となるように溶解させ、0.22ミクロンフィルタを用いてろ過することにより、BSA溶液を得た。次いで、27ゲージの注射針2本をサンプルキットのOリングを貫通させて、一方を空気穴とし、他方に1ccの注射器を接続してBSA溶液を600μL注入した。常温で2時間放置した後、注射器でBSA溶液を抜き取り、クリップを外してサンプルキットを解体した。解体後の評価用サンプルウェハを1枚ごとに、洗浄液(10mM HEPES pH=7.4/0.005% Tween20)を1mLずつピペットで滴下しては流し、これを5回繰り返すことで洗浄を行った。
【0044】
次に、スピンコーターで回転乾燥させることにより、評価用サンプルウェハ2枚を乾燥させ、その後再度向かい合わせにし、新しいシリコンゴム製Oリングを間に挟んで外側から2箇所クリップで留めることによりサンプルキットを作成した。27ゲージの注射針2本をサンプルキットのOリングを貫通させて、一方を空気穴とし、他方に1ccの注射器を接続して剥離液(2%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液)を600μL注入した。常温で10分静置した後、シリンジで全量抜き取った。Laemniサンプルバッファー(バイオラッド社製)1mLにジチオスレイトール81mgを溶解させた溶液を調製して、この溶液100μLと、先に抜き取った剥離液100μLとを混合し、99℃で2分間加熱して、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)用サンプルとした。SDS−PAGEを行なった後、銀染色を行い、BSAの特徴的なバンドである約66kDa近辺のピーク幅と濃さをデンシトメーターGS−800(バイオラッド社製)で測定し、同一のSDS−PAGEゲルで他のレーンに流した既知の濃度のBSAを標準として、本サンプルのタンパク質吸着量を求めた。本サンプルのタンパク質吸着量は、7.3μg/cmであった。
【0045】
5.1.6.生分解性の評価
無機培地液300mlに馴養汚泥(下水処理場より入手した汚泥とポリビニルアルコール水溶液中で1ヵ月間馴養した汚泥を1:1で混合したもの)を30mgにガラス基板から剥離した評価用サンプルを加え、クーロメーター(大倉電気OM3001A型)を用い、25℃で28日間培養し、生分解に消費された酸素量を測定することにより、本サンプルの生分解率を求めた。本サンプルの生分解率は、98%であった。
【0046】
5.2.実施例2(ポリ乳酸-g-MPC(ポリメタクリロイルホスホコリン))
5.2.1.生分解性ポリマーの製造
実施例1のポリ乳酸−イソクエン酸共重合ポリマーを使用した。
【0047】
5.2.2.低非特異吸着性ポリマーの製造
15Lの攪拌機を備えた肉厚の円筒型ステンレス製重合容器にメタノール7,000gおよびメタクリロイルホスホコリン500gを仕込み、真空で2時間脱気した。窒素ガスで置換した後、過酸化水素20gを仕込み、重合容器を80±5℃で1時間攪拌を行った。重合容器を室温まで冷却した後、多量の蒸留水中に反応液に投入し反応を停止した。反応液をエバポレーションにより濃縮した後、真空乾燥を行い、低非特異吸着性ポリマー(両末端水酸基化ポリメタクリロイルホスホコリン)を得た。得られた両末端水酸基化ポリメタクリロイルホスホコリンは、収量450g、数平均分子量(Mn)4,000であった。
【0048】
5.2.3.コーム型ポリマーの製造
10Lの攪拌機を備えた肉厚の円筒型ステンレス製重合容器に、クロロホルム5,000gおよび実施例1で得られたアミノ化ポリ乳酸−イソクエン酸共重合ポリマー300gを仕込み溶解させた後、あらかじめ蒸留水2,000gに溶解した水酸基化ポリメタクリロイルホスホコリン400gを仕込んだ。窒素置換を行った後、テトララブチルアンモニウムクロライド5gを投入し、重合容器を40±5℃で2時間攪拌を行った。反応終了後、多量の蒸留水中に反応液に投入し反応を停止した。析出した型ポリマーを蒸留水にて水洗し、ポリ乳酸-g-MPCを得た。得られたポリ乳酸-g-MPCは、収量400g、数平均分子量(Mn)303,000、グラフト効率90%であった。
【0049】
5.2.4.評価用サンプル作成
実施例1と同様に評価用サンプルを作成した。
【0050】
5.2.5.非特異吸着性
実施例1と同様に本サンプルのタンパク質吸着量を求めた。本サンプルのタンパク質吸着量は、1.2μg/cmであった。
【0051】
5.2.6.生分解性
実施例1と同様に本サンプルの生分解率を求めた。本サンプルの生分解率は、90%であった。
【0052】
5.3.実施例3(キトサン-g-ポリメタクリロイルホスホコリン(MPC))
5.3.1.生分解性ポリマー
キトサン(β−ポリ−D−グルコサミン)は、北海道曹達(株)製キトサンを使用した。キトサンの数平均分子量(Mn)は、400,000であった。
【0053】
5.3.2.低非特異吸着ポリマーの製造
実施例2の両末端水酸基化ポリメタクリロイルホスホコリンを使用した。
【0054】
5.3.3.コーム型ポリマーの製造
10Lの攪拌機を備えた肉厚の円筒型ステンレス製重合容器に蒸留水5,000gを仕込み、pH5になるまで酢酸を添加した後、キトサン200gおよび水酸基化ポリメタクリロイルホスホコリン300gを仕込み溶解させた。重合容器を50±5℃で2時間攪拌を行った。反応終了後、反応液を取り出しpH7になるまで水酸化ナトリウムを加えた。析出したポリマーをメタノールに溶解した後、蒸留水を加えキトサン-g-MPCを得た。得られたキトサン-g-MPCは、収量450g、数平均分子量(Mn)400,000、グラフト効率98%であった。
【0055】
5.3.4.評価用サンプル作成
実施例1と同様に評価用サンプルを作成した。通常のキトサンは、酢酸等の酸性溶液にのみ溶解するが、本サンプルはpH7の蒸留水に溶解した。
【0056】
5.3.5.非特異吸着性
実施例1と同様に本サンプルのタンパク質吸着量を求めた。本サンプルのタンパク質吸着量は、0.8μg/cmであった。
【0057】
5.3.6.生分解性
実施例1と同様に本サンプルの生分解率を求めた。本サンプルの生分解率は、88%であった。
【0058】
5.4.比較例1(ポリ乳酸)
5.4.1.ポリ乳酸
東洋紡績(株)製のBE−400(ポリ乳酸)数平均分子量(Mn)430,000を使用した。
【0059】
5.4.2.評価用サンプル作成
実施例1と同様に評価用サンプルを作成した。
【0060】
5.4.3.非特異吸着性
実施例1と同様に本サンプルのタンパク質吸着量を求めた。本サンプルのタンパク質吸着量は、122μg/cmであった。
【0061】
5.4.4.生分解性
実施例1と同様に本サンプルの生分解率を求めた。本サンプルの生分解率は、90%であった。
【0062】
5.5.比較例2(キトサン)
5.5.1.キトサン
北海道曹達(株)製のキトサン(β−ポリ−D−グルコサミン)を使用した。
【0063】
5.5.2.評価用サンプル作成
実施例1と同様に評価用サンプルを作成した。
【0064】
5.5.3.非特異吸着性
実施例1と同様に本サンプルのタンパク質吸着量を求めた。本サンプルのタンパク質吸着量は、32μg/cmであった。
【0065】
5.5.4.生分解性
実施例1と同様に本サンプルの生分解率を求めた。本サンプルの生分解率は、59%であった。
【0066】
5.6.比較例3(ポリ乳酸-b-ポリメタクリロイルホスホコリン)
5.6.1.ブロックポリマーの製造
10Lの攪拌機を備えた肉厚の円筒型ステンレス製重合容器に蒸留水5,000gを仕込み、東洋紡績(株)製のBE−400(ポリ乳酸)数平均分子量(Mn)430,000を200gと実施例2に記載の両末端水酸基化ポリメタクリロイルホスホコリン400gを仕込み、硫酸カリウム12gを加えて溶解させた。窒素置換を行った後、重合容器を60±5℃で2時間攪拌を行った。反応終了後、多量のメタノール中に反応液に投入し反応を停止した。析出した型ポリマーを蒸留水に再溶解した後、水酸化ナトリウムにより中和しポリ乳酸-b-ポリメタクリロイルホスホコリンを得た。得られたポリ乳酸-g-ポリメタクリロイルホスホコリンは、収量400g、数平均分子量(Mn)436,000、DSCおよびNMRによりブロック構造はA−B−Aであった。
【0067】
5.6.2.評価用サンプル作成
実施例1と同様に評価用サンプルを作成した。
【0068】
5.6.3.非特異吸着性
実施例1と同様に本サンプルのタンパク質吸着量を求めた。本サンプルのタンパク質吸着量は、15μg/cmであった。
【0069】
5.6.4.生分解性
実施例1と同様に本サンプルの生分解率を求めた。本サンプルの生分解率は、69%であった。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示す結果から、実施例1〜3のコーム型ポリマーを用いた場合、コーム型ではないポリマーを用いた場合(比較例1〜3)と比較して、タンパク質の吸着を大幅に低減することが出来、かつ生分解性を非常に高くすることが出来た。タンパク質の吸着が少ないことは、タンパク質の非特異吸着性が低いことを示している。
【0072】
一方、比較例1においてポリ乳酸を用いた場合、本発明のコーム型ポリマーを用いた場合に比べてタンパク質の非特異吸着が多く、比較例2においてキトサンを用いた場合、タンパク質の非特異吸着が多いうえに、生分解性が劣る。比較例3に示したブロックポリマーは、タンパク質吸着性、生分解性に劣っていた。
【0073】
この結果より、本発明のコーム型ポリマーは、タンパク質の非特異吸着性が低く、かつ生分解性が高いことから、生体への影響が少なく、免疫応答や防御免疫を誘導することなく、生理活性物質や薬剤を体内へ送達できる生体適合ポリマーであることが理解できる。したがって、本発明のコーム型ポリマーは、創傷被覆材、癒着防止材、経皮吸収材などの医療用具、ドラッグデリバリーシステムなどの医薬用途などに好適に用いることができる。
【0074】
上記のように、本発明の特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性部位を有する主鎖と、低非特異吸着性部位を有する側鎖とを有する、コーム型ポリマーを含有する生体関連物質の非特異吸着防止剤。
【請求項2】
前記生分解性部位は、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリビニルアルコール、および多糖類から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1記載の生体関連物質の非特異吸着防止剤。
【請求項3】
前記ポリエステル類は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリアルキレンサクシネート、ポリアルキレンアジペート、およびポリアルキレンテレフタレートから選ばれる少なくとも1種である、請求項2記載の生体関連物質の非特異吸着防止剤。
【請求項4】
前記多糖類は、キチン、キトサン、およびセルロースから選ばれる少なくとも1種である、請求項2記載の生体関連物質の非特異吸着防止剤。
【請求項5】
前記低非特異吸着性部位は、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリエーテル類、ポリエチレンオキシド、ポリメタクリロイルホスホコリン、ポリビニルピロリドン、および多糖類から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1ないし4のいずれかに記載の生体関連物質の非特異吸着防止剤。
【請求項6】
前記生分解性部位の数平均分子量が1,000〜500,000である、請求項1ないし5のいずれかに記載の生体関連物質の非特異吸着防止剤。
【請求項7】
前記低非特異吸着性部位の数平均分子量が1,000〜100,000である、請求項1ないし6のいずれかに記載の生体関連物質の非特異吸着防止剤。

【公開番号】特開2009−227887(P2009−227887A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77301(P2008−77301)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】