説明

生分解性を有する積層体

【課題】紙層に対して良好に生分解性の樹脂層が積層される積層体を効率的に製造できるようにする。
【解決手段】紙層と、その紙層の少なくとも一方の面に形成され、(1)式の脂肪族又は脂環式ジオール単位35〜49.99モル%、(2)式の脂肪族ジカルボン酸単位35〜49.99モル%、及び(3)式の脂肪族オキシカルボン酸単位0.02〜30モル%からなる脂肪族ポリエステル共重合樹脂であって、温度240℃、せん断速度100sec-1 における溶融粘度が1×102 〜1×103 Pa・sである生分解性樹脂を主成分とする樹脂層とを有する。
(1)−O−R1 −O−(R1 は2価の脂肪族炭化水素基又は2価の脂環式炭化水素基)
(2)−OC−R2 −CO−(R2 は直接結合又は2価の脂肪族炭化水素基)
(3)−O−R3 −O−(R3 は2価の脂肪族炭化水素基)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性を有する積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙層に対して樹脂層が積層(ラミネート)されて形成された積層体が、各種の用途に使用されている。例えば、牛乳等の飲料が収容される容器(いわゆる紙パック)や、紙袋や、紙皿等がある。また、紙層に段ボール紙が使用されて、防水性を有する段ボール箱が製造される場合もある。
【0003】
紙層に対して樹脂層が積層された積層体として、現在一般的に市販されているものは、紙層に対してポリエチレン、ポリプロピレン等に代表される合成樹脂層が積層されて形成されている。
そして、かかる積層体は、一般的に、使用後は、焼却処理又は埋め立て処理されている。
しかし、焼却処理の場合は、焼却炉、焼却条件によってはベンゾピレン等の有毒ガス発生の問題がある。
一方、埋め立て処理の場合は、少なくともその合成樹脂の部分が半永久的に原形を留めるため、自然環境への影響があるとともに、埋立地不足の問題がある。
【0004】
このような背景から、焼却しても有害ガスが発生せず、また、埋立処理した場合は自然環境下で炭酸ガスと水に分解する生分解性樹脂を使用した積層体の開発が待たれている。
【0005】
生分解性樹脂としては、澱粉、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、キトサン酢酸セルロ−ス、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
【0006】
ところで、生分解性樹脂を溶融押出法で直接的に紙層の表面に積層する場合、紙への接着力を向上させるためには、溶融樹脂温度をある程度高くすることが必要である。
しかしながら、溶融樹脂温度を高くすると、溶融樹脂の粘度が低下し、口金ダイスから押出される溶融膜(その流れ性)が不均一になったり、冷却ロールからの離脱性(離ロール性)が悪くなって、紙層に一旦接着した樹脂層が紙層から剥離したりして、良好なラミネート(積層)をすることができない。
【0007】
一方、このような理由より、予め成形したポリ乳酸等の生分解性フィルムを接着剤を用いて紙に対して積層するドライラミネート法も行われている。
しかしながら、この方法では工程が多くなり、コスト高である。
【0008】
このため、溶融押出法で直接的に紙層の表面に樹脂を積層する方法であって、上述の欠点を回避した方法が開発されている。
特許文献1には、紙層の一方の面に紙への接着が良く、生分解性を有するテレフタル酸/アジピン酸/1,4ブタンジオールの3成分の脂肪族/芳香族共重合ポリエステル樹脂層と、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート又はデンプン/ポリカプロラクトン混合物からなる生分解性樹脂若しくは前記脂肪族/芳香族共重合ポリエステル樹脂10〜50重量%に対し、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート又はデンプン/ポリカプロラクトン混合物からなる生分解性樹脂90〜50重量%を混練したブレンド樹脂からなるシール層との少なくとも二層を、脂肪族/芳香族共重合ポリエステル樹脂層を紙層側にして共押出法で積層する方法(その方法によって製造される積層包装材料)が開示されている。
【0009】
しかしながら、この方法(この積層体)では、紙層の一方の面に対して少なくとも2層が積層されるため、押出機が2台必要であり、口金ダイスも2層用の特殊なものが必要であり、その積層(積層体の製造)の効率が良くない。
【特許文献1】特開2004−98321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、紙層に対して良好に生分解性の樹脂層が積層される積層体であって、効率的に製造され得るものを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は、紙層と、前記紙層のおもて面の側及び裏面の側のうちの少なくとも一方に形成され、下記(1)式で表される脂肪族又は脂環式ジオール単位35〜49.99モル%、下記(2)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位35〜49.99モル%、及び下記(3)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位0.02〜30モル%からなる脂肪族ポリエステル共重合樹脂であって、温度240℃、せん断速度100sec-1 における溶融粘度が1×102 〜1×103 Pa・sである生分解性樹脂を主成分とする樹脂層とを有する、生分解性を有する積層体である。
(1) −O−R1 −O− (R1 は2価の脂肪族炭化水素基又は2価の脂環式炭 化水素基)
(2) −OC−R2 −CO−(R2 は直接結合又は2価の脂肪族炭化水素基)
(3) −O−R3 −O− (R3 は2価の脂肪族炭化水素基)
【発明の効果】
【0012】
本発明の生分解性を有する積層体では、紙層に対して良好に生分解性の樹脂層が積層され得るとともに、紙層のうちの一方の面の側に対して1層の樹脂が積層されれば足りるため、効率的に製造され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の生分解性を有する積層体は、紙層と、その紙層のおもて面の側及び裏面の側のうちの少なくとも一方に形成された樹脂層とを有する。
【0014】
本発明における紙層に使用する材料は、上質紙、晒クラフト紙、クラフト紙、薄葉紙、純白ロール紙、模造紙、板紙、ボール紙、段ボール紙等であり、紙であれば特に限定されない。その厚み、坪量も、用途に応じて適宜選定して用いることができる。
【0015】
本発明における脂肪族ポリエステル共重合樹脂のうち、上述の(1)式で表される脂肪族又は脂環式ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、又はこれらの混合物が挙げられる。
また、(2)式で表される脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体としては、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸又はこれらの無水物、及びそれらの低級アルコールエステルが好ましく、特には、コハク酸、無水コハク酸、又はこれらの混合物が好ましい。
また、(3)式で表される脂肪族オキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸又はこれらの混合物が挙げられる。これらに光学異性体が存在する場合は、D体、L体、ラセミ体のいずれでもよい。
【0016】
脂肪族又は脂環式ジオールの使用量は、脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体100モルに対し、実質的に等モルであるが、一般には、1〜20モル%過剰に用いられる。
脂肪族オキシカルボン酸の量は、脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体100モルに対し、好ましくは0.5〜60モル、より好ましくは、1.0〜40モルである。
【0017】
脂肪族ポリエステル共重合樹脂の組成比は、(1)式の脂肪族又は脂環式ジオール単位と(2)式の脂肪族ジカルボン酸単位のモル比が、実質的に等しいことが必要である。
(1)式の脂肪族又は脂環式ジオール単位及び(2)式の脂肪族ジカルボン酸単位は、各々35〜49.99モル%、好ましくは37.5〜49.75モル%、より好ましくは40〜49.5モル%、さらに好ましくは45〜49.5モル%である。
また、(3)式の脂肪族オキシカルボン酸単位は、0.02〜30モル%、好ましくは0.5〜25モル%、より好ましくは1.0〜20モル%、さらに好ましくは1.0〜10モル%である。
脂肪族オキシカルボン酸が30モル%を超えると、結晶性が失われて柔らかくなり過ぎて好ましくない。
【0018】
本発明の脂肪族ポリエステル共重合樹脂の温度240℃、せん断速度100sec-1 における溶融粘度は、1×102 〜1×103 Pa・sである。
溶融粘度が1×102 Pa・s未満では、ダイスから押出される溶融膜の流れ性が不均一でラミネート成形が困難であるからである。一方、溶融粘度が1×103 Pa・s以上では、押出機のモータ負荷が大きく高速成形に見合う樹脂の押出量が得られず生産性が低いという問題があるからである。
【0019】
また、本発明の効果を損なわない限り、本発明に使用する脂肪族ポリエステル共重合樹脂に、多価カルボン酸又はその無水物成分を共重合したものでもよい。
【0020】
さらに、本発明の各樹脂には、本発明の効果が損なわれない範囲で他の生分解性樹脂を含有させてもよい。
具体的には、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペートなどが挙げられる。
また、公知の添加剤である酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、プロッキング防止剤等は適宜添加することができる。
【0021】
上述した本発明の積層体は、公知の押出ラミネート成形方法で製造することができる。
樹脂層の厚みは、10μm〜100μmと、その用途によって適宜変更して積層する。
また、押出温度は、樹脂層の厚み、紙質によって変わるが、210℃〜280℃、好ましくは、220℃〜270℃の範囲である。220℃未満では、紙層表面への接着性が弱くなるからである。また、270℃以上では、溶融樹脂のネックインが大きくなったり、熱分解臭で製品に臭いがついたり、冷却ロールからの離脱性が悪くなって、紙層に一旦接着した樹脂層が紙層から剥離する、という問題が発生するからである。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明の具体的な実施例で説明する。なお、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。各実施例及び比較例についての結果は、表1に示してある。
【0023】
<実施例1>
生分解性樹脂として、乳酸1モル%、コハク酸49.5モル%、1,4−ブタンジオール49.5モル%を共重合した樹脂であって、温度240℃、せん断速度100sec-1 における溶融粘度が300Pa・sの脂肪族ポリエステル共重合樹脂を使用した。
その樹脂(温度240℃の状態)を、坪量50g/m2 の晒クラフト紙の表面に対して、厚みが15μmとなるように積層し、生分解性を有する積層体を作成した。
【0024】
<実施例2>
生分解性樹脂として、乳酸1.5モル%、コハク酸49.25モル%、1,4−ブタンジオール49.25モル%を共重合した樹脂であって、温度240℃、せん断速度100sec-1 における溶融粘度が550Pa・sの脂肪族ポリエステル共重合樹脂を使用した。
その樹脂(温度240℃の状態)を、坪量50g/m2 の晒クラフト紙の表面に対して、厚みが15μmとなるように積層し、生分解性を有する積層体を作成した。
【0025】
<比較例1>
生分解性樹脂として、温度240℃、せん断速度100sec-1 における溶融粘度が380Pa・sのポリ乳酸樹脂を使用した。
その樹脂(温度240℃の状態)を、坪量50g/m2 の晒クラフト紙の表面に対して、厚みが15μmとなるように積層し、生分解性を有する積層体を作成した。
【0026】
<比較例2>
生分解性樹脂として、アジピン酸60モル%、テレフタル酸40モル%からなる酸成分50モル%と、1,4−ブタンジオール50モル%を共重合した脂肪族/芳香族共重合ポリエステル樹脂であって、温度240℃、せん断速度100sec-1 における溶融粘度が400Pa・sの脂肪族/芳香族共重合ポリエステル樹脂を使用した。
その樹脂(温度240℃の状態)を、坪量50g/m2 の晒クラフト紙表面に、厚みが15μmとなるように積層し、生分解性を有する積層体を作成した。
【0027】
【表1】

【0028】
以上からも、本発明の積層体は、溶融膜(その流れ性)が均一であり、冷却ロールからの離脱性(離ロール性)も良好であり、紙層との接着性が良好であることが裏付けられる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙層と、
前記紙層のおもて面の側及び裏面の側のうちの少なくとも一方に形成され、
下記(1)式で表される脂肪族又は脂環式ジオール単位35〜49.99モル%、
下記(2)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位35〜49.99モル%、及び
下記(3)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位0.02〜30モル%
からなる脂肪族ポリエステル共重合樹脂であって、温度240℃、せん断速度100sec-1 における溶融粘度が1×102 〜1×103 Pa・sである生分解性樹脂を主成分とする樹脂層と
を有する、生分解性を有する積層体。
(1) −O−R1 −O− (R1 は2価の脂肪族炭化水素基又は2価の脂環式炭 化水素基)
(2) −OC−R2 −CO−(R2 は直接結合又は2価の脂肪族炭化水素基)
(3) −O−R3 −O− (R3 は2価の脂肪族炭化水素基)


【公開番号】特開2006−247876(P2006−247876A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63878(P2005−63878)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(592110808)株式会社吉良紙工 (11)
【Fターム(参考)】