説明

生分解性カイロ包材用不織布

【課題】 毛羽立ち防止性と肌触りの柔軟性に優れ、かつ使用後はほぼ完全に生分解されるため廃棄処理が容易で自然環境をそこなうことのない生分解性カイロ包材用不織布を提供すること。
【解決手段】 脂肪族ポリエステル長繊維からなる部分熱圧着された不織布であって、該不織布の部分熱圧着率が5%以上20%以下であることを特徴とする生分解性カイロ包材用不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用後にほぼ完全に分解されて廃棄処理が容易である生分解性カイロ包材用不織布に関し、特に柔軟性と表面毛羽防止性を両立し、かつカイロ製袋時のホットタック性にも優れた生分解性カイロ包材用不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨てカイロは、空気中で発熱する発熱体組成物を、不織布または紙にポリエチレン等のフィルムをラミネートした包材につつんだものであり、使用時に該発熱体組成物を空気中の酸素と反応させて熱を発生させ、人体に接触させて用いられる。上記フィルムには有孔フィルムや微孔フィルムが用いられるが、無孔フィルムを不織布にラミネートし、その後、孔あけ加工を施して通気性を持たせる場合もある。該使い捨てカイロは、人体に接触させて使用するため、フィルム単体で使用すると、フィルムが硬いために、フィルム特有の貼り付く触感やゴワゴワする肌触り等を防ぐために不織布にフィルムをラミネートして用いられている。このような構成とすることにより、人体と接する面に布的な柔らかな触感を持たせることができ、さらに袋が裂けるのを防ぐことができる。
【0003】
また、近年地球環境保護のもと、資源のリサイクルおよびダイオキシン問題等が盛んに指摘されており、使い捨てカイロにおいても地球に優しい有効利用方法や廃棄方法が求められてきている。例えば、特許文献1には使用後の発熱体組成物を肥料として用いることが開示されている。しかしながら、包材はそのまま廃棄せねばならず地球環境保護の観点からは未だ充分といえるものではなかった。
【0004】
更に特許文献2には、紙や天然繊維不織布とポリ乳酸フィルムを用いた使い捨てカイロが開示されている。この方法によれば、紙や天然繊維及びポリ乳酸フィルムが生分解性をしめすので、環境負荷の低減は可能となるものの紙や天然繊維不織布を表面に使用するために、使用時の揉み等により破れたり、繊維が脱落したり、表面が著しく毛羽立ったりと実使用時の強度面に問題があった。
【0005】
またポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織布などが検討され、一部は実用化されつつある。しかし、上述の実用化されつつあるポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織布は、剛直であり、柔軟性に劣るため、使い捨てカイロのような人体に触れるような用途においては、風合いおよび肌触りが悪く、粗硬感があるという問題を有している。そこで、特許文献3には、人体に触れるような用途にポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織布を用いるために屈曲加工を施すことが開示され、この様な加工による柔軟化処理なしでは、柔軟で肌触りの良い不織布は得られなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−137273号公報
【特許文献2】特開2003−250830号公報
【特許文献3】特開2002−105829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、柔軟で肌触りの良さと表面毛羽防止性を両立し、しかも使用後はほぼ完全に分解されるため廃棄処理が容易で自然環境を損なうことのない生分解性カイロ包材用不織布およびこれを用いた使い捨てカイロを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決するため、種々検討した結果、柔軟で肌触りの良い触感と表面の毛羽防止性とを両立させ、かつ使い捨てカイロ包材用不織布として充分な製袋特性を得るためには、脂肪族ポリエステル系重合体の結晶構造、特に再結晶化温度と、不織布の部分熱圧着率および熱圧着部の形状及びピッチを特定することが有効であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)脂肪族ポリエステル長繊維からなる部分熱圧着された不織布であって、該不織布の部分熱圧着率が5%以上20%以下であることを特徴とする生分解性カイロ包材用不織布。
【0010】
(2)脂肪族ポリエステルが、D−乳酸の重合体、L−乳酸の重合体、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、およびD−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体からなる群から選ばれる重合体、または前記重合体から選ばれる二種以上のブレンド体であることを特徴とする上記1項に記載の生分解性カイロ包材用不織布。
【0011】
(3)部分熱圧着率が5%以上10%以下であることを特徴とする上記1または2項に記載の生分解性カイロ包材用不織布。
【0012】
(4)個々の熱圧着部の面積が1mm2以下で、かつ熱圧着部パターンの縦方向のピッチ間隔(mm)と横方向のピッチ間隔(mm)の積が10mm2以下であることを特徴とする上記1〜3項のいずれか一項に記載の生分解性カイロ包材用不織布。
【0013】
(5)熱圧着部と異なるパターンで、非結合性の凹凸部を有していることを特徴とする上記1〜4項のいずれか一項に記載の生分解性カイロ包材用不織布。
【0014】
(6)繊維径が0.1〜6μmの細い繊維および繊維径が5〜18μmの太い繊維からなることを特徴とする上記1〜5項のいずれか一項に記載の生分解性カイロ包材用不織布。
【0015】
(7)繊維径が0.1〜6μmの細い繊維からなる不織布および繊維径が5〜18μmの太い繊維からなる不織布が積層されてなる上記6項に記載の生分解性カイロ包材用不織布。
【0016】
(8)上記1〜7項のいずれか一項に記載の生分解性カイロ包材用不織布を少なくとも一面に用いた使い捨てカイロ。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、柔軟で肌触りの良い触感をもちつつ、使用時の揉みによっても破れたり、毛羽立ったりすることがなく、更に使用後は生分解性をもつため、環境への負荷を低減することのできる、使い捨てカイロを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明について以下具体的に説明する。
本発明のカイロ包材用不織布に用いる長繊維不織布を構成する脂肪族ポリエステルの繊維は、以下の熱可塑性樹脂からなる繊維が挙げられる。例えば、ポリグリコール酸やポリ乳酸のようなポリ(α−ヒドロキシ酸)またはこれらを主たる繰り返し単位要素とする共重合体が挙げられる。また、ポリ(ε−カプロラクトン)およびポリ(β−プロピオラクトン)のようなポリ(ω−ヒドロシキアルカノエート)が挙げられる。さらに、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシカプロレート、ポリ−3−ヒドロキシヘプタノエート、およびポリ−3−ヒドロキシオクタノエートのようなポリ(β−ポリヒドロシキアルカノエート)ならびにこれらを構成する繰り返し単位要素とポリ−3−ヒドロキシバリレートやポリ−4−ヒドロキシブチレートを構成する繰り返し単位要素との共重合体が挙げられる。また、グリコールとジカルボン酸との縮重合体からなるポリアルキレンジカルボキシレート、例えば、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケートおよびポリネオペンチルオキサレート等、またはこれらを構成する繰り返し単位要素とするポリアルキレンジカルボシキレート共重合体が挙げられる。さらに、これらのようなここに生分解性を有する各重合体を複数種選択し、これらをブレンドしたものを適用することも出来る。
【0019】
本発明においては、生分解性、紡糸性および実用性等の点から、以上の中で特に、ポリ乳酸系重合体が好適に使用できる。ポリ乳酸系重合体としては、ポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体およびD−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体からなる群から選ばれるいずれかの重合体あるいはこれらのブレンド体が好ましい。中でも特に、融点が100℃以上である重合体が好適に使用できる。ここで、乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体である場合におけるヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸およびヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの内、グリコール酸およびヒドロキシカプロン酸が好ましい。
【0020】
なお、上記のポリ乳酸重合体の分子量には特に制限は無いが、その分子量が低下すると紡糸が困難となるか、たとえ紡糸が可能であっても得られる繊維の強度が低下する。また、分子量が高くなると加工性が低下し紡糸が困難となる傾向を示す。これらの点を考慮すると、好ましい重量平均分子量は、10000〜1000000の範囲から選ばれる。重量平均分子量の範囲30000〜500000が特に好ましい。重合度を高めるために少量のジイソシアネートやテトラカルボン酸二無水物などで鎖延長したものでも良い。
【0021】
また、ポリ乳酸系重合体には、結晶核剤が添加されていても良い。結晶核剤としては、タルク、酸化チタン、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムおよびカーボン等が挙げられる。このような結晶核剤を添加すると、ポリ乳酸系重合体の結晶化が促進されて、耐熱性や機械的強度が向上する。また、ポリ乳酸系重合体を紡糸する際に、紡糸・冷却工程における糸条間の融着(ブロッキング)を防止できる。
【0022】
上記の理由により、ポリ乳酸系長繊維の結晶化度は、10%〜40%の範囲にあることが好ましい。この範囲の結晶化度を達成するためには、ポリ乳酸系重合体に対する結晶核剤の添加量は、0.1質量%〜3.0質量%、より好ましくは0.5質量%〜2.0質量%である。なお、ここでいう結晶化度とは、粉末化した長繊維(不織布)を広角X線回折パターンにより、ルーランド法により求めたものである。繊維の結晶化度が10%未満であると、耐熱性や機械的強度の向上効果が小さい。結晶化度が40%を超えると繊維としての柔軟性に欠け、紡糸性に劣るばかりでなく、コンポスト化処理時の分解速度も著しく遅くなることがある。
【0023】
また、上記結晶核剤以外に、ポリ乳酸系重合体は可塑剤により可塑化されやすいことから、適度の風合いと柔軟性を得るために、可塑剤を含有させても良い。可塑剤として、ジ−n−オクチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジベンジンルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレートおよびジウンデシルフタレート等のフタル酸誘導体、ジイソオクチルフタレート等のイソフタル酸誘導体、ジ−n−ブチルアジペートおよびジオクチルアジペート等のアジピン酸誘導体、ジ−n−ブチルマレート等のマレイン誘導体、トリ−n−ブチルシトレート等のクエン酸誘導体、モノブチルイタコネート等のイタコン酸誘導体、ブチルオレート等のオレイン酸誘導体、グリセリンモノリシルレート等のリシノール酸誘導体、トリクレジルフォスフェートおよびトリキシレニルフォスフェート等のリン酸エステル等の低分子化合物、トリアセチン(グリセリントリアセテート)等の酢酸誘導体、並びに重合度2〜10程度の乳酸オリゴマー、ポリエチレンアジペートおよびポリアクリレート等の高分子可塑剤等が挙げられる。上記可塑剤の内、好ましい可塑剤として、トリアセチンおよび重合度2〜10の乳酸オリゴマー等が挙げられる。可塑剤含有量はポリ乳酸系重合体に対し1質量%〜35質量%が好ましく、より好ましくは5質量%〜15質量%である。
【0024】
更に、顔料、艶消し剤、着色剤および難燃剤などの各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて添加することができる。また、上記のような熱可塑性脂肪族ポリエステルからなる繊維は、顔料などをあらかじめ練りこんだポリマーを紡糸した繊維であることが好ましい。このような原着繊維を用いると、繊維に予め顔料が含まれているため、後加工による染色が不要になり、染色による熱劣化がなくなり、また工程数も減るため低コスト化が図れる。更に、繊維化した後の染色では着色しにくい脂肪族ポリエステル繊維についても良好な着色が得られる。
【0025】
本発明のカイロ包材用不織布に用いる脂肪族ポリエステルの繊維形態は、特に限定されるものではなく、脂肪族ポリエステルを単独で用いたものでも良いし、2種以上の脂肪族ポリエステルを用いた複合繊維でも良い。また、繊維の横断面形状は、通常の丸断面の他にも、中空断面、異形断面、並列型複合断面、多層型複合断面、芯鞘型複合断面および分割型複合断面など、その目的と用途に応じて任意の繊維断面形状を選択することが出来る。
【0026】
本発明のカイロ包材用不織布に用いる長繊維不織布は、目付が好ましくは20g/m2〜100g/m2であり、さらに好ましくは30g/m2〜80g/m2であり、特に好ましくは40g/m2〜70g/m2である。目付が上記の範囲にあると、得られるカイロ包材用不織布は柔軟性に優れ、肌触りの触感に優れると共に、使い捨てカイロとして使用される際に充分な強度が得られる。
【0027】
本発明のカイロ包材用不織布に用いる長繊維不織布は、平均繊維径が好ましくは7μm〜30μm、さらに好ましくは10μm〜28μm、特に好ましくは12μm〜18μmである。平均繊維径が7μm未満では、繊維単糸強力が低下し、触ったときにフィブリル化し、表面の毛羽や繊維くずの付着が生じる。さらに、強度が低く使用時に破れが発生し、更に紡糸性にも劣る。平均繊維径が30μmを超えると、強度は強くなるが触ったときにざらざらとした風合いとなる。
【0028】
本発明のカイロ包材用不織布に用いる長繊維不織布は同一繊維径の単層でもよいが、繊維径の異なる2種類以上の繊維が複合されたものでも良い。繊維径は生分解性に関与し、平均繊維径が細いと分解が早く、繊維径が太いと分解速度が遅くなる。繊維径の異なる繊維を複合することにより、分解速度を任意に制御することができる。さらに、分解の初期においては、繊維径の細い繊維が分解を開始し、一方太い繊維はカイロ包材用不織布の強度を保持する役割を担う。分解の中期では太い繊維も徐々に分解を始め、やがてすべて分解するという過程をとる。
【0029】
本発明の長繊維不織布は繊維径が0.1〜6μmの細い脂肪族ポリエステル繊維と、繊維径が5〜18μmの太い脂肪族ポリエステル繊維が複合されていることが好ましい。複合方法としては、混繊または積層、複合紡糸等のいずれでもよい。繊維径が0.1μmより細いと初期の分解開始が早すぎ、繊維径が18μmより太いと充分な生分解性が得られない。さらに、繊維径が5〜18μmの脂肪族ポリエステル長繊維不織布と、繊維径が0.1〜6μmの脂肪族ポリエステル繊維からなる不織布が積層されていても良い。特に繊維径が0.1〜6μmの細い脂肪族ポリエステル繊維からなる不織布層の両面に、繊維径が5〜18μmの太い脂肪族ポリエステル長繊維不織布が積層され、熱融着により接合された構造は生分解性と強度を両立する点で好ましい。さらに、カイロ包材としては、内部の発熱性組成物の粉漏れ防止性および隠蔽性も必要となるが、繊維径の細い繊維層と太い繊維層の積層構造であることにより、粉漏れ防止性および隠蔽性が向上し、実用上好ましい。
【0030】
本発明のカイロ包材用不織布に用いる長繊維不織布の平均見掛け密度は柔軟性、及び使い捨てカイロの熱効率即ち良好な熱伝導性・保温性に関係し、0.1g/cm3〜0.3g/cm3であることが好ましい。平均見掛け密度が0.1g/cm3未満では柔らかな風合いとなり、人体への肌触り、触感は良いが、繊維間隙が大きくなり、熱の伝導性が過大となり、使い捨てカイロとなった場合、急激に発熱し、充分な発熱時間が得られない。一方0.3g/cm3を超えると高密度構造となり、柔軟性が不足し、ペーパーライクな風合いとなり、更に熱伝導性が低いため、使い捨てカイロとして、暖かくなりにくいものとなる。
【0031】
以下に本発明のカイロ包材用不織布に用いる長繊維不織布の製造方法の代表例を説明する。
本発明のカイロ包材用不織布に用いる長繊維不織布は、いわゆるスパンボンド法にて効率よく製造することが出来る。すなわち、上述のポリ乳酸系重合体を加熱溶融して紡糸口金から吐出させ、得られた紡出糸条を従来公知の冷却装置を用いて冷却し、その後、エアーサッカーなどの吸引装置にて牽引細化する。引き続き、吸引装置から排出された糸条群を開繊させた後、スクリーンからなるコンベアのごとき移動堆積装置上に堆積させてウエブとする。 次いで、この移動堆積装置上に形成されたウエブに、加熱されたエンボスロールまたは超音波融着装置などの部分熱圧着装置を用いて部分的に熱圧着を施すことにより、長繊維スパンボンド不織布を得ることができる。
【0032】
紡出糸条としては、3500m/分〜6000m/分の高速で牽引細化することが好ましい。牽引細化する際に牽引速度が3500m/分未満では、重合体の配向結晶化が進まず、得られる長繊維不織布の機械的特性が低下したり、湿熱収縮率が大きくなったりする。牽引速度が6000m/分を超えると、紡糸性が急激に悪化して糸切れを起こすことがある。
【0033】
本発明のカイロ包材用不織布に用いる長繊維不織布を部分熱圧着した場合、長繊維不織布を構成する繊維間隙を小さくすることができ、柔軟な風合いを保ったまま、揉みなどが加わっても、充分な表面毛羽立ち防止性を両立させることに効果的である。部分熱圧着は、上記方法にて不織布全体に均等に分散された融着部分を形成させる。部分熱圧着率は、長繊維不織布全体に対して熱圧着部分の面積率で表し、部分熱圧着率が5%〜20%であり、好ましくは5%〜10%である。部分熱圧着率が5%未満では、柔軟性は良いが、揉み等により表面に毛羽が立ち、更に強度も充分でない。部分熱圧着率が20%を超えると、表面の毛羽防止性には優れるが、風合いが硬く、肌触りの悪いものとなる。
【0034】
本発明のカイロ包材用不織布の部分熱圧着部分は、個々の熱圧着部の面積が0.09〜1mm2の範囲にあるが好ましく、かつ熱圧着部パターンの縦方向のピッチ(mm)と横方向のピッチ(mm)の積の値が0.45〜10mm2の範囲であることが好ましい。
【0035】
個々の熱圧着部の面積が1mm2を超えると、表面の毛羽立ち防止性は向上するが、肌触りがざらざらと悪いものとなる。また1mm2以下であって、熱圧着部のパターンのピッチの縦方向と横方向の積の値が10mm2より大きくなると、表面の肌触りは柔らかいものとなるが、揉み等により容易に毛羽立ち、使い捨てカイロ包材としては表面強度に問題があるものとなる。
【0036】
一方、熱圧着部の面積が0.09mm2より小さいと、充分な熱圧着が得られず、不織布が充分な強度を示さない。さらに、熱圧着ロールの凸部が非常に小さい面積となり、熱圧着部に圧力集中が起き、孔が開くなど、製造が困難である。縦方向のピッチと横方向のピッチの積が0.45mm2より小さいと、熱圧着ロールの彫刻が非常に精密なものとなり、製造上、精度の管理が困難となる。
【0037】
従って、使い捨てカイロ包材用不織布として、充分な肌触りの柔らかさと、表面の毛羽立ち防止性を両立させるためには、上記の部分熱圧着面積とパターンのピッチであることが好ましい。
【0038】
本発明のカイロ包材用不織布に用いる長繊維不織布の製造において肝要な点は、特定された部分熱圧着率及び面積、パターンを満足することにあり、所謂点状圧着区域の形状には何ら限定されるものではない。
【0039】
また、本発明のカイロ包材用不織布は繊維同士が非結合性である凹凸賦型部を有していると好ましい。シート表面に凹凸賦型が施されることにより、腰が弱くなり、表面の毛羽防止性を損なうことなく、柔軟性が向上し、肌触りの良いものとなる。
【0040】
凹凸賦型部とは、熱圧着部のパターンとは異なる非結合性の凹部と、反対面に凸部を形成していることをいう。不織布は点在する部分的熱圧着部によって表裏一体化されているが、その他の部分は繊維自体のソフトな触感を有する。凹あるいは凸変形を付与する方法は、例えば表面に凹、凸あるいは凹凸模様を有し、両方が丁度かん合するようになったロール間、または、一方の表面に凹または凸模様を持つロールと可撓性ロール間で押し付けたり、あるいは板間で処理するのが一般的であるが、特殊な方法として狭小な隙間のロール間で布を一定割合で強制的にオーバーフィードさせ、小ジワ状の型付けをする方法もある。
【0041】
凹または凸型付けの条件で特に注意する点は、処理時の温度と布にかかる圧力である。処理時の温度は常温でもよいが、必要に応じて加温して可塑化し型付けしやすくしたり、形態の安定性をつける目的で繊維の結合やセットが生じない範囲で温度を上げて処理しても良い。処理時の圧力は温度によっても異なるが、型付けが充分行われる圧力に設定することは当然である。なお、この型付けを行うことで圧縮された部分の繊維断面の変形が起こるが、この部分的変形効果により、より柔軟さを出すため、さらに高圧の処理をすることも有効である。もちろん圧縮部での繊維の仮固定や熱圧着が起こらないよう十分注意する必要がある。本発明の好ましい態様として、片面の凸部が、反対面では凹部を形成していることが好ましい。すなわち、例えば、片面には凹部は連続している場合、他面では同部位が凸部となるよう、他域より突き出た状態にすることが好ましい。
【0042】
本発明のカイロ包材用不織布は降温時結晶化温度(Tc)が観察され、更にその温度が100℃以下であることが好ましい。ここで、降温時結晶化温度とは、示差走査熱量計(DSC)により、降温速度10℃/minで測定した結晶化温度である。Tcは特に限定されるものではないが、肌触りの柔軟性、カイロ製袋時のホットタック性の観点から、100℃以下が好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に本発明を実施例および比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0044】
測定方法及び評価方法は下記の通りである。
(1)目付(g/m2
JIS L−1906に規定の方法で、縦20cm×横25cmの試験片を試料の幅1m当たり3箇採取して重量を測定し、その平均値を単位面積当たりの質量に換算して求める。
【0045】
(2)厚み
JIS L−1906に規定の方法で荷重10kPaの厚みを測定する。尚、平均見掛け密度(g/cm3)は目付と厚みから次式で計算される。
平均見掛け密度(g/cm3)=(目付g/m2)/((厚みmm)×1000)
【0046】
(3)平均繊維径(μm)
1cm角の試験片をサンプリングして電子顕微鏡で写真を撮影し、その各写真より単糸繊維径を各20点つづ測定し、その総平均値から平均繊維径を算出した。ここで、平均繊維径とは、真円の単糸繊維の場合は該単糸繊維の直径を言い、異形断面繊維の場合は該単糸繊維断面の断面積から真円だった場合の単糸繊維直径に換算した値とする。
【0047】
(4)部分熱圧着率(%)
1cm角の試験片をサンプリングして電子顕微鏡で写真を撮影し、その各写真より熱圧着部の面積を各20点づつ測定し、その総平均値を熱圧着部の面積とした。また熱圧着部のパターンのピッチを縦方向及び横方向において測定した。それらの値より、不織布の単位面積当たりに占める熱圧着面積の比率を部分熱圧着率として算出した。
【0048】
(5)降温時結晶化温度(Tc)
示差熱走査熱量計(DSC:TAインスツルメント社製DSC2920)により降温速度10℃/minにて測定した。
【0049】
(6)表面毛羽防止性
不織布表面の反エンボス面に50ミクロンのポリエチレン(LLDPE)フィルムをラミネートした後、当業者周知の方法により針ロールで穿孔(約6%)し、使い捨てカイロ用包材とした。得られたカイロ用包材を上被層とし、下被層には無孔フィルムをラミネートした不織布を用い、フィルム面を内側に重ね合わせ、その中に発熱体組成物を充填し、周囲をヒートシールして使い捨てカイロを作製する。作製した使い捨てカイロを手で100回揉み、表面の毛羽の状態を目視にて判定した。
【0050】
○:カイロ表面に毛羽立ちがみられない。
△:カイロ表面に毛羽立ちがみられる。
×:カイロ表面が激しく毛羽立っている。
【0051】
(7)肌触りの柔らかさ
前述の表面毛羽防止性評価と同様に使い捨てカイロを作製し、表面の肌触りの柔らかさを官能評価した。
【0052】
◎:肌触りが非常に柔らかい
○:肌触りが柔らかい
△:肌触りがやや硬く、ややゴワゴワする。
×:肌触りが硬く、ゴワゴワする。
【0053】
(8)生分解性
不織布を5cm×5cmの矩形に夫々裁断して試料となし、各試料を市販の家庭用コンポスト(生ゴミイーター;松下電工社製)内に載置して、室温下で生分解速度を目視観察し、30日後の試料形状で評価した。
【0054】
○:試料片が砕片化した。
×:試料の外観変化がみられなかった。
【0055】
(実施例1〜3)
65mmの押出し機を用い、融点が170℃、MFR値が10g/10分のポリ乳酸(D体/L体の共重合比(モル比)=1.3/98.7)熱可塑性樹脂を押出し温度215℃にて押出し、1540ホールの紡糸口金を用いてフィラメント群を紡出し、これを高速気流牽引装置を使用して牽引し、移動する吸引装置の付いた金網製ウエブコンベアに受けてウエブを形成した。なお、MFR値は「熱可塑性プラスチックの流れ試験方法」JIS K−7210の表1の条件4(試験温度190℃、試験荷重21.18N)に準じて測定を行って求めた値である。
【0056】
得られたウエブを搬送し、彫刻ロールと平滑ロールを組み合わせた熱圧着ロールにて490N(50kg)/cmの線圧力で部分熱圧着することにより、長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0057】
この不織布の生分解性を評価した。また、この不織布を用いて、前述の方法で使い捨てカイロを作製し、表面毛羽防止性及び肌触りの柔らかさを評価した。それらの結果を表2に示す。
【0058】
(実施例4)
長繊維スパンボンド不織布の部分熱圧着後に非結合性の凹凸賦型を行ったことを除いて、実施例1と同様にカイロ包材用不織布を得た。得られたカイロ包材用不織布を実施例1と同様に評価した。その結果を表1及び表2に併せて示す。
【0059】
なお凹凸賦型は、一辺0.9mm、線幅0.1mmの連続線状のハニカム形状柄(亀甲凹柄)(押付け面積率12.5%、柄ピッチ縦2.8mm、横3.2mm、深さ0.7mm)のエンボスロール(100℃)と表面硬度50度(JIS-A硬度)のゴムロールとの間に通し、線圧980N(100Kg)/cmで柄を押付けることにより行った。亀甲周辺が押付けられ繊維同士が非結合性の凹部となり、中央部が盛り上がり凸部となった非常に柔軟な不織布が得られた。
【表1】

【表2】

【0060】
実施例1〜4のカイロ包材用不織布を用いて作製した使い捨てカイロは、いずれも肌触りが柔軟でかつ毛羽立ち防止性が良好であった。
【0061】
また、実施例1〜4のカイロ包材用不織布の反エンボス面に50ミクロンのポリ乳酸フィルムをラミネートした後、公知の方法により針ロールで穿孔(約6%)し、使い捨てカイロ用包材とした。得られたカイロ用包材を上被層とし、下被層には無孔ポリ乳酸フィルムをラミネートした不織布を用い、フィルム面を内側に重ね合わせ、その中に発熱体組成物を充填し、周囲をヒートシールして使い捨てカイロを作製した。生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステル繊維からなる不織布及びフィルムにて形成されていた為、土壌中に廃棄すると速やかに完全に分解しており、廃棄処理の必要のないものであった。
【0062】
(比較例1および2)
個々の熱圧着部の面積及び熱圧着部のパターンのピッチを変えて、部分熱圧着率を異なった不織布としたことを除いて、実施例1と同様にカイロ包材用不織布を得た。得られたカイロ包材用不織布を実施例1と同様に評価した。その結果を表1および表2に併せて示す。
表からもわかるとおり、得られたカイロ包材用不織布は、部分熱圧着率が大きいため、カイロとしたときに、風合いが硬く肌触りの悪いものであった。
【0063】
(比較例3)
融点が256℃、[η]=0.71のポリエチレンテフタレート熱可塑性樹脂を、押出温度300℃にて押出し、1540ホールの紡糸口金を用いてフィラメント群を紡出し、これを高速気流牽引装置を使用して牽引し、それ以降は実施例1と同様にウエブを作成し長繊維スパンボンド不織布を得た。尚、[η]は極限粘度であり、極限粘度[η]は、次の定義式に基づいて求められる値である。
[η]=lim(ηr−1)
C→0
式中、ηrは、純度98%以上のo−クロロフェノールに溶解したポリエチレンテフタレート溶液の35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶剤自体の粘度で割った値であり、相対粘度として定義されているものである。また、Cは、上記溶液100ml中のグラム単位による溶質の質量値である。
【0064】
得られた長繊維スパンボンド不織布を用いて、実施例1と同様にカイロ包材用不織布を得た。得られたカイロ包材用不織布を実施例1と同様に評価した。その結果を表1および表2に併せて示す。本比較例は構成繊維として生分解性のないポリエチレンテレフタレートを用いた為、土壌面で分解することが無く、使用後には廃棄処理が必要となった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のカイロ包材用不織布は、肌触りが良好でかつ毛羽立ち防止性に優れ、しかも使用後はほぼ完全に分解されるため廃棄処理が容易で自然環境を損なうことがない。従って、使い捨てカイロに好適に使用することができる。また、温湿布剤やお灸用具などにも使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル長繊維からなる部分熱圧着された不織布であって、該不織布の部分熱圧着率が5%以上20%以下であることを特徴とする生分解性カイロ包材用不織布。
【請求項2】
脂肪族ポリエステルが、D−乳酸の重合体、L−乳酸の重合体、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、およびD−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体からなる群から選ばれる重合体、または前記重合体から選ばれる二種以上のブレンド体であることを特徴とする請求項1に記載の生分解性カイロ包材用不織布。
【請求項3】
部分熱圧着率が5%以上10%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の生分解性カイロ包材用不織布。
【請求項4】
個々の熱圧着部の面積が1mm2以下で、かつ熱圧着部パターンの縦方向のピッチ間隔(mm)と横方向のピッチ間隔(mm)の積が10mm2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の生分解性カイロ包材用不織布。
【請求項5】
部分熱圧着と異なるパターンで、非結合性の凹凸部を有している事を特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の生分解性カイロ包材用不織布。
【請求項6】
繊維径が0.1〜6μmの細い繊維および繊維径が5〜18μmの太い繊維からなることを特徴とする請求項1〜5いずれか一項に記載の生分解性カイロ包材用不織布。
【請求項7】
繊維径が0.1〜6μmの細い繊維からなる不織布および繊維径が5〜18μmの太い繊維からなる不織布が積層されてなる請求項6に記載の生分解性カイロ包材用不織布。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の生分解性カイロ包材用不織布を少なくとも一面に用いた使い捨てカイロ。

【公開番号】特開2006−333936(P2006−333936A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159283(P2005−159283)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】