説明

生分解性不織布、及び生分解性不織布の製造方法

【課題】 雑草の生長を抑える抑制作用及び病害虫を忌避する忌避作用を有し、圃場に敷設可能な生分解性不織布を提供することを課題とする。
【解決手段】 生分解性不織布1は、遮光性を有する黒色系ウェブ2と、該黒色系ウェブ2の上面に積層され、光反射性を有する白色系ウェブ3とによって構成され、ニードルパンチ加工処理及び熱加工処理を、積層した状態の黒色系ウェブ2及び白色系ウェブ3に適用することにより、繊維同士が絡み合った複数の交絡部4が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性不織布、及び生分解性不織布の製造方法に関するものであり、特に、農作物の栽培される圃場での雑草等の生長を抑制し、かつ病害虫を忌避することが可能な生分解性不織布、及び生分解性不織布の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、露地栽培やハウス栽培(施設栽培)等の各種栽培方法によって、農作物や草花等(以下、「農作物等」と称す)を栽培する場合、該農作物等の生長を阻害する要因となる雑草を圃場から除去したり、果実や葉などに直接的な被害をもたらす病害虫の駆除が行われている。
【0003】
ここで、雑草の防除や病害中の駆除を行う手法は、1)病害虫等に対して抵抗性を有する品種を選択的に使用、または栽培時の管理方法を変更することによって、被害を避ける耕種的防除方法、2)病害虫に対する天敵の動物や昆虫等を圃場内に導入し、生物学的に防除する生物的防除方法、3)雑草や病害虫を熱・光・音・或いはその他の器具を用い、物理的に排除する物理的防除方法、4)化学的に合成された農薬や殺虫剤を圃場に散布する化学的防除方法などに分類することができる。
【0004】
上述した中で、農薬等を用いる化学的防除方法は、合成された農薬等を圃場に散布し、病害虫を殺虫したり、圃場に近づかないようにするものであり、最も一般的、かつ簡易に行われているものである。これにより、ほぼ確実に病害虫等を排除することができ、効果の高い手法の一つである。しかしながら、化学的防除方法が行われた農作物等は、表面に農薬が付着した状態で市場に出荷されるものも多い。そのため、農薬の安全性に疑問を感じている消費者は、農薬使用の農作物等を食べることに強い抵抗を感じることもあった。加えて、農薬の散布中等に、農業従事者が誤って呼吸器内に吸い込む可能性や皮膚に農薬等が直接接触する可能性もあり、農業従事者の健康を損ねる可能性も高かった。さらに、近年の消費者の自然志向や健康志向から、無農薬で栽培された農作物を好む傾向が特に強くなり、可能な限り農薬を使用しないことが望まれている。そのため、化学的防除方法以外の方法(例えば、物理的防除方法)によって、農薬以上の防除効果を得ることができる方法の開発が期待されている。
【0005】
例えば、農作物の部分だけ刳抜孔が設けられたポリエチレン製の黒色のシートを圃場に敷設することが行われる。これにより、圃場に照射される太陽光が黒色のシートによって遮光され、土壌に到達することがない。そのため、土壌から生長しようとする雑草は、太陽光の照射を浴びて光合成を行うことができなくなる。その結果、雑草の生長が抑制され、土壌内に含まれる栄養分は、農作物が全て吸収することができるようになる。これにより、十分な栄養分が農作物に供給されることとなり、農作物の生長が促進される。なお、係る効果と作業者の作業性を良好とするために、白色系の不織布と、黒色系の不織布等を所望の貼着手段を利用し、貼着した二層からなる防草用シートが既に知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、圃場に雑草が多く生長すると、係る場所が病害虫のすみかとなり、病害虫による農作物の被害が大きくなることがある。
【0006】
一方、農作物に対して被害を与える病害虫の特性を利用し、農作物の栽培されるハウス等の施設から病害虫を忌避させる試みも行われている。すなわち、施設栽培を実施するために立設された施設(ハウス)の周囲に、白色系シートを敷設し、日中に照射される太陽光を反射するようにしたものがある。病害虫の大部分は、太陽光線に含まれるある特定の領域の波長(例えば、可視光または紫外光の一部)を好まない特性を有している。そのため、白色系シートによって、当該施設の周囲に照射される太陽光を全反射させることにより、特定領域の波長(忌避波長)を含む光が施設周囲を覆うこととなる。その結果、病害虫はその施設周囲の領域を越えて、施設内に侵入することが制限され、農作物から病害虫を直接的な手法によって遠ざけることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2002−34359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した黒色系及び白色系のシートからなる防草用シート、或いは太陽光を反射させて病害虫を忌避する白色系のシートは、下記に掲げるような問題点を生じることがあった。すなわち、使用される黒色系または白色系のシートは、いずれもポリエチレン製やポリプロピレン製等の比較的安価に形成可能な石油物質から精製される樹脂材料によって形成されていた。これらの樹脂材料を原料とするシートは、一般に耐候性に優れ、かつ軽量の特性を有するものが多く、日常生活の多くの場面で身近に接する機会の多いものである。そして、これらのシートは、素材の安定性が高く、自然環境下で分解するものではなかった。そのため、土壌(地面)に敷設され、風雨に長期間晒された場合であっても、経年変化することがほとんどない。したがって、敷設されたシートが破損や汚れ等によって本来の機能を発揮することができなくなると、該シートを圃場から撤去し、新しいシートを敷設する作業が必要となった。また、圃場から撤去したシートは焼却等によって処分する必要があり、広範な圃場に敷設された大量のシートを処分することは膨大な処理コストが余計にかかる場合もあった。
【0009】
そのため、既設されたシートを撤去及び廃棄する処理を省略し、農業従事者の作業負担を軽減し、かつ自然環境に対する影響の小さいものが求められていた。なお、上述のシートは、圃場に散水される水の浸透性を考慮し、不織布等の透水性の良好なものであることが望まれていた。さらに、上述した防草用シートのように、予め形成した黒色の不織布及び白色の不織布を貼着するものではなく、一の工程で少なくとも二層からなる不織布をシート状に製造する製造技術が望まれていた。
【0010】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、雑草の生長を抑える抑制作用及び病害虫の忌避作用の双方の機能を有するとともに、土壌に敷設した後に重ね貼りが可能で、管理作業を省力化することができる生分解性不織布及び生分解性不織布の製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明にかかる生分解性不織布は、「生分解繊維によって形成され、遮光性を有する黒色系の色彩の綿状の黒色系ウェブと、前記生分解繊維によって形成され、光反射性を有する白色系の色彩の綿状の白色系ウェブとを具備し、前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブを積層し、ニードルパンチ加工処理及び熱加工処理の少なくともいずれか一方によって、前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブを接着し、不織布状に形成して」主に構成されている。
【0012】
したがって、本実施形態の生分解性不織布によれば、生分解性を有する生分解繊維から形成された黒色系ウェブ及び白色系ウェブをニードルパンチ加工または熱加工の少なくともいずれか一方によって、不織布状にして形成されている。なお、生分解繊維は後述するため、ここでは説明を省略する。これにより、主に黒色系ウェブによる遮光性と白色系ウェブによる光反射性を有し、かつ、生分解性により雨水等により分解可能な不織布が形成される。そのため、係る不織布をハウス栽培等が行われるハウスの周囲に敷設することにより、遮光性によって雑草の繁殖を抑え、光反射性によって太陽光を反射し、病害虫を忌避することが可能となる。
【0013】
また、本発明にかかる生分解性不織布は、「生分解繊維、及び前記生分解繊維と比して低融点の性状を有する低融点生分解繊維の少なくとも二種類の繊維を混合して形成され、遮光性を有する黒色系の色彩の綿状の黒色系ウェブと、前記生分解繊維、及び前記低融点生分解繊維の少なくとも二種類の繊維を混合して形成され、光反射性を有する白色系の色彩の綿状の白色系ウェブとを具備し、前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブを積層し、ニードルパンチ加工処理及び熱加工処理の少なくともいずれか一方によって、前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブを接着し、不織布状に形成した」ものから主に構成されている。
【0014】
ここで、生分解繊維とは、例えば、澱粉などから形成されるポリ乳酸を主体とするポリ乳酸系ポリマー或いはポリカプロカクトンを含む素材を繊維状に形成したものが代表的なものである。さらに、その他に、植物の基本骨格をなす細胞壁を構成するセルロースからなるセルロース繊維、カニの甲羅等に多く含まれるキチン・キトサンなどの天然物から抽出された天然物由来の素材などを原料として繊維化したものが例示される。これらは、ポリエチレン樹脂等のような石油由来の生成物と異なり、土壌中で微生物の働きによる酵素分解反応によって、最終的に水や二酸化炭素などの地球環境に対して無害なものに変換することができる。なお、低融点生分解繊維も上述の生分解繊維と同様の素材によって形成され、使用する原料若しくは加工条件によって、生分解繊維よりも融点が低い特性を有するように調製されている。なお、生分解繊維と低融点生分解繊維の融点の差は、特に限定されないが、例えば、30℃〜50℃の範囲に設定することが可能である。
【0015】
また、使用される黒色系ウェブは、太陽光を遮る作用を有するものであり、特に黒色に限定されるものではない。すなわち、濃紺や茶色等の濃色系を呈し、赤外領域、可視領域、及び紫外領域の波長を透過しないような性質を有するものであればよい。一方、白色系ウェブは、照射された太陽光を反射する作用を有するものであり、白色に限定されるものではない。すなわち、薄い黄色等の赤外領域、可視領域、及び紫外領域の波長の大部分を全反射するような性質を有するものであればよい。なお、いずれのウェブも綿状に形成され、互いに積層される前段階では内部に多くの空隙を有している。また、黒色系または白色系の色彩は、生分解繊維及び低融点生分解繊維の双方、または、いずれか一方の繊維に着色され、全体として黒色系または白色系を呈するものであればよい。
【0016】
したがって、本発明の生分解性不織布によれば、融点の異なる少なくとも二種類以上の生分解繊維及び低融点生分解繊維を利用して各々の形成された黒色系ウェブ及び白色系ウェブが積層され、ニードルパンチ処理または熱処理の少なくともいずれか一方によって互いのウェブを接着し、不織布状に形成される。このとき、ニードルパンチ処理や熱処理の過程で各繊維が複雑に絡合ったり、繊維同士が熱溶着した複数の交絡部が形成される。これにより、互いのウェブが接着した状態となる。すなわち、本発明の生分解繊維は、予め不織布状に形成したものを貼着したものではなく、太陽光に対する特性の異なる二種類(遮光性、光反射性)の綿状のウェブをニードルパンチ処理等を行い、不織布状に形成したものである。
【0017】
これにより、例えば、施設栽培が行われる圃場の施設周辺に本発明の生分解性不織布を白色系ウェブの側を上層にして敷設することにより、土壌に対して照射された太陽光は、白色系ウェブの有する光反射性によって反射される。一方、黒色系ウェブの有する遮光性によって、白色系ウェブを透過した太陽光は、係る部位で透過が遮られる。その結果、黒色系ウェブの下方に存在する圃場の土壌へは太陽光が到達することがない。これにより、土壌から生長しようとする農作物等以外の雑草は、光合成を行うことができず、十分に生長することがない。そのため、土壌中の栄養分が雑草に供給されることがなく、農作物等にのみ与えられることとなる。さらに、本発明の生分解性不織布は、光反射性を有する白色系ウェブによって、照射された太陽光の大部分を反射することが行われる。これにより、特定の波長の光を忌避する性質を有する病害虫は、生分解性不織布が敷設された領域内に侵入することがなくなり、その中心付近に設置された施設に到達することがない。これにより、施設内で栽培される農作物等に対し、病害虫が被害を与える可能性が低くなる。
【0018】
さらに、上記作用に加え、黒色系ウェブ及び白色系ウェブは、いずれも生分解性を有する繊維(生分解繊維、低融点生分解繊維)によって構成されている。そのため、土壌に敷設し、所定の期間(例えば、1年ぐらい)を経過した後、上層側に位置する白色系ウェブが、農業従事者の足跡や周囲から飛散したゴミなどによって汚れ、十分な光反射性を備えなくなった場合、或いは下層側に位置する黒色系ウェブが破損し、穴などが穿いて遮光性が損なわれた場合、汚損した生分解性不織布を圃場から撤去することなく、その上から新しい生分解性不織布を敷設することが可能となる。これにより、古い生分解性不織布は、新しい生分解性不織布の下で、土壌中の微生物と接して分解したり、或いは雨水等と接触して加水分解反応により分解する。その結果、水や二酸化炭素等の無害な物質に転換される。そのため、従来の石油由来素材からなるシートのように、使用済みのシートを撤去する作業を農業従事者に課すことがなく、撤去後の処理コストが必要とならない。加えて、水や二酸化炭素などの地球環境に及ぼす影響の少ない物質に分解されるため、自然環境に対する影響も小さい。
【0019】
さらに、本発明にかかる生分解性不織布は、上記構成に加え、「前記黒色系ウェブの使用比率が40%以上、80%以下、前記白色系ウェブの使用比率が20%以上、60%以下で構成される」ものであっても構わない。
【0020】
したがって、本発明の生分解性不織布によれば、黒色系ウェブ及び白色系ウェブの使用比率が上記に示した範囲内で設定されている。ここで、黒色系ウェブの使用比率が高い値の場合、生分解性不織布に示す黒色系ウェブの厚さの比率が増大する。その結果、太陽光を遮光する遮光性を高めることが可能となる。これにより、黒色系ウェブ及び白色系ウェブの使用比率を適宜変更することにより、主に遮光性(遮光率)を任意に変化させることが容易に可能となる。一方、白色系ウェブの使用率が高い値の場合、光反射性を高めることが可能となる。なお、ここで使用比率は、黒色系ウェブ及び白色系ウェブの目付量(g/m)、或いはそれぞれの厚さなどのいずれの値の比であっても構わない。
【0021】
さらに、本発明にかかる生分解性不織布は、上記構成に加え、「遮光率が95%以上、99.999%以下、及び/または、可視・紫外光全反射率が40%以上、80%以下」であっても構わない。
【0022】
したがって、本発明の生分解性不織布によれば、遮光率、及び/または、可視・紫外光全反射率が上記に示した範囲内に設定されている。ここで、遮光率は上述した黒色系ウェブの使用率を変更し、生分解性不織布の全体に対する厚さを増大させるものであっても、或いは黒色系ウェブを形成する際に黒色系の色彩に着色する着色濃度を変化させるものであっても構わない。なお、上記範囲に遮光率(95%以上)を設定することにより、黒色系ウェブ下で生長しようとする雑草の光合成を完全に遮断し、雑草の生長を抑えることが可能となる。一方、病害虫の忌避する特定の波長を有する光は、主に可視光領域及び紫外光領域であることが知られ、ここでは、その全反射率が40%以上、80%以下に設定されている。可視・紫外光全反射率が40%よりも低い場合、病害虫に対する反射した光による忌避作用が十分に奏されず、生分解性不織布の上層側は白色系の色彩に着色した意味をなさない。一方、80%を越える場合、それ以上の高い可視・紫外光全反射率は、80%と病害虫に対する忌避作用はそれほど大きく変化しない。そのため、そのため、上記範囲に数値が設定されることが望ましい。なお、本発明では、上記に示した遮光率及び可視・紫外光全反射率の少なくともいずれか一方の値が、上記範囲に設定されるものであれば構わない。
【0023】
さらに、本発明にかかる生分解性不織布は、上記構成に加え、「目付量が100g/m以上、500g/m以下、及び/または、透水係数が1.0×10−1cm/s以上、6.0×10−1cm/s以下に設定される」ものであっても構わない。
【0024】
したがって、本発明の生分解性不織布によれば、目付量及び透水係数が上記範囲に設定される。ここで、生分解性不織布は、主に屋外に敷設され、また農業従事者がその上を歩くことも想定されるため、ある程度の強度及び厚みが必要となる。そのため、上記範囲に設定されている。なお、目付量が500g/mを越えると、搬送性や圃場に敷設する際の作業性が損なわれる可能性があるため500g/mを越えないようにするものが好ましい。
【0025】
さらに、屋外に設置される場合、雨水等に晒される可能性があるため、本発明の生分解性不織布は良好な「水はけ性」が必要となる。ここで、生分解性不織布は、綿状に形成されたウェブを積層して形成されるものであり、上記透水係数の範囲に設定可能な多数の空隙を内部に有している。そのため、白色系ウェブ上に散水されたとしても、白色系ウェブから黒色系ウェブに係る水が伝搬し、土壌に容易に到達することが可能となる。そのため、農作物等の生長に十分な量の水分を供給することが行える。そのため、生分解性不織布の表面に「水浮き」などの現象が発生することがない。さらに、空隙による良好な通気性により、土壌に対して十分な酸素を供給することも可能となる。さらに、生分解性不織布が微生物等の作用に分解する場合、該透水性によって加水分解反応が活発となり、生分解性を良好し、速やかに土壌に還元することが可能となる。
【0026】
一方、本発明にかかる生分解性不織布の製造方法は、「上記のいずれか一つに記載の生分解性不織布を製造するための生分解性不織布の製造方法であって、生分解繊維、及び前記生分解繊維と比して低融点の性状を有する低融点生分解繊維の少なくとも二種類の繊維を混合し、遮光性を有する黒色系の色彩の綿状の黒色系ウェブを形成する黒色系ウェブ形成工程と、前記生分解繊維、及び前記低融点生分解繊維の少なくとも二種類の繊維を混合し、光反射性を有する白色系の色彩の綿状の白色系ウェブを形成する白色系ウェブ形成工程と、前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブを積層し、複数のニードルを前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブに突き刺し、交絡部を形成するニードルパンチ工程、及び、前記低融点生分解繊維の一部が溶融可能な熱処理温度によって熱処理し、前記繊維が熱溶着した交絡部を形成する熱処理工程の少なくともいずれか一方によって、前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブを接着し、不織布状に形成する不織布形成工程と」を主に具備して構成されている。
【0027】
したがって、本発明の生分解性不織布の製造方法によれば、形成された黒色系ウェブ及び白色系ウェブをニードルパンチ工程及び熱処理工程の少なくともいずれか一方の処理によって、不織布状に形成することが行われる。ここで、ニードルパンチ工程は、複数の針(ニードル)を黒色系ウェブ及び白色系ウェブが積層した状態でウェブ面に複数回に亘って突き刺すことにより、黒色系ウェブの繊維及び白色系ウェブの繊維同士が複雑に絡合い、交絡部が形成される。これにより、両ウェブを接着状態に保持することが可能なものである。一方、熱処理工程は、低融点生分解繊維の一部が溶融可能な熱処理温度で加熱することにより、低融点生分解繊維の一部を溶融し、繊維同士を溶着させた交絡部を形成するものである。これにより、両ウェブを接着状態に保持することが可能となる。
【0028】
ここで、不織布状に形成するニードルパンチ工程及び熱処理工程は、少なくともいずれか一方を行うものであればよい。すなわち、より強固な接着状態を得ようとするならば、ニードルパンチ工程の後に熱処理工程を実施し、ニードル交絡部及び交絡部の双方を有した生分解性不織布を形成することが可能となる。一方、強固な接着状態が必要のない場合は、いずれか一方の工程によって接着状態を形成するものであってもよい。さらに、接着状態を弱くするために、熱処理工程後にニードルパンチ工程を行い、形成された交絡部の一部をニードルによって破壊し、接着性を弱めることも可能となる。
【0029】
さらに、本発明にかかる生分解性不織布の製造方法は、上記構成に加え、「前記ニードルパンチ工程のニードリング打密度は、50回/cm以上、300回/cm以下に設定され、前記熱処理工程の前記熱処理温度は、130℃以上、175℃以下に設定される」ものであっても構わない。
【0030】
したがって、本発明の生分解性不織布の製造方法によれば、ニードリング打密度、及び/または、熱処理温度が上記範囲に設定されている。ここで、ニードリング打密度が50回/cmよりも少ない場合、生分解性不織布は、綿状(ウェブ状)の部分が残り、柔らかく空隙の多い状態になる。一方、300回/cmよりも多い場合、綿状の部分が消失し、堅く空隙の少ない密の状態になる。そのため、50回/cm以上、300回/cm以下にニードリング打密度を設定することにより、圃場に敷設するための適する柔らかさにすることが可能となる。また、熱処理温度を135℃以上、175℃以下に設定することにより、低融点生分解繊維の一部が溶解し、隣り合う繊維等と熱溶着することができる。135℃よりも低い熱処理温度の場合、低融点生分解繊維の溶融が十分に行われず、交絡部の形成が少なくなる。すなわち、黒色系ウェブ及び白色系ウェブの接着が十分になされなくなる。一方、175℃以上よりも高い熱処理温度の場合、低融点生分解繊維の一部だけでなく、生分解繊維の一部も溶融する可能性が高くなり、空隙等の少ない生分解性不織布が形成されることとなる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の効果として、生分解性不織布は、遮光性及び光反射性の双方の効果を有することにより、遮光性及び光反射性によって雑草の生長を抑制し、かつ特定波長の光を忌避する性質を有する病害虫を圃場内への侵入を抑制することができる。さらに、互いに生分解性を呈する繊維を有して形成され、また接着剤等のその他の成分を使用することなく接着されるため、土壌に敷設し、長期間使用した後でも撤去する必要がなく、新たな生分解性不織布を上から重ね貼りすることができる。その結果、撤去作業や撤去後の処理に係るコストを必要とすることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の一実施形態である生分解性不織布1、及び生分解性不織布の製造方法について、図1乃至図5に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の生分解性不織布1の構成を示す斜視図であり、図2は生分解性不織布1の構成を示す正面図であり、図3は生分解性不織布1を(a)露地栽培、(b)施設栽培に適用した一例を示す説明図であり、図4は生分解性不織布1を使用した実施例1による忌避効果を示すグラフであり、図5は生分解性不織布1を使用した実施例2による忌避効果を示すグラフである。
【0033】
本実施形態の生分解性不織布1は、図1及び図2に示すように、遮光性を有する黒色系ウェブ2と、該黒色系ウェブ2の上面に積層され、光反射性を有する白色系ウェブ3とによって構成され、ニードルパンチ加工処理及び熱加工処理を、積層した黒色系ウェブ2及び白色系ウェブ3に実施することにより、互いの繊維同士が絡み合った複数の交絡部4を形成し、これにより不織布のシートとして形成されたものである。
【0034】
さらに、詳細に説明すると、下層側の黒色系ウェブ2は、生分解性を呈するポリ乳酸及び修飾デンプンが9:1の比率で形成された生分解繊維5aと、該生分解繊維5aよりも低融点の特性を有するポリ乳酸のみを主原料としてなる低融点生分解繊維6との二種類の繊維を生分解繊維5a:低融点生分解繊維6=95%:5%の比率で混合し、目付量が150g/mになるように調整されている。なお、本実施形態では、生分解繊維5aのみが黒色の色彩に着色され、低融点生分解繊維6は白色の色彩のものが使用されている。また、生分解繊維5aの融点(Tm)は約160℃のものを使用し、低融点生分解繊維6の融点(Tm)は約140℃のものを使用している。なお、ニードルパンチ加工処理等が実施される前は、綿状の態様を有し、不織布の態様ではない。
【0035】
一方、上層側の白色系ウェブ3は、上述した黒色系ウェブ2と同一のポリ乳酸及び修飾デンプンが9:1の比率で形成された生分解繊維5bと、該生分解繊維5bよりも低融点の特性を有する同じくポリ乳酸のみを主原料としてなる低融点生分解繊維6との二種類の繊維を生分解繊維5b:低融点生分解繊維6=95%:5%の比率で混合し、目付量が200g/mになるように調整されている。なお、本実施形態では、生分解繊維5b及び低融点生分解繊維6の双方が白色の色彩のものが使用されている。また、黒色系ウェブ2と同様に、生分解繊維5bの融点(Tm)は約160℃であり、低融点生分解繊維6の融点(Tm)は約140℃のものを使用している。なお、黒色系ウェブ2と同様に、白色系ウェブ3もニードルパンチ加工処理等の実施される前は、綿状の態様を有し、不織布状の態様を呈するものではない。また、白色系ウェブ3は、通常用いられる無機顔料である「酸化チタン」は、光反射性の特性の問題から混入していない。
【0036】
次に、本実施形態の生分解性不織布1を製造する生分解性不織布の製造方法について説明する。始めに、黒色系ウェブ2及び白色系ウェブ3をそれぞれ形成する(黒色系ウェブ形成工程、白色系ウェブ形成工程)。なお、各ウェブ2,3を形成する手法は、既に周知の技術であるため、ここでは説明を省略する。その後、黒色系ウェブ2に白色系ウェブ3を積層する(ウェブ積層工程)。さらに、その後に、打密度140回/cm、針深度=11mm/9mmにニードリング条件を設定してニードリングを行う(ニードルパンチ工程)。これにより、複数のニードルによって突き抜かれることによって白色系ウェブ3及び黒色系ウェブの各繊維5a,5b,6が相互に絡合った複数の交絡部4がウェブ2,3の間及び中に形成される。これによって、互いのウェブ2,3が接着状態となる。なお、係る工程によって、積層当初のウェブ厚に対し、各層が潰されることとなり、全体の厚みは薄くなる。
【0037】
そして、ニードルパンチ工程によって接着処理されたウェブ積層体(図示しない)を150℃に加熱した加熱炉内に6m/minの速度で投入する(熱処理工程)。これにより、ウェブ積層体が加熱され、黒色系ウェブ2及び白色系ウェブ3に含まれる低融点生分解繊維6(Tm=140℃)の一部が溶ける。その結果、溶けた一部の低融点生分解繊維6は、隣接する繊維5a,5bに付着する。そして、係る状態から冷却されることにより、一度溶けた低融点生分解繊維6は、再び固化する。これにより、ニードルパンチ工程によって形成された交絡部4による接着力に加え、溶着固化した低融点生分解繊維6によってウェブ2,3の接着状態がさらに強固となる。そして、生分解性不織布1がシート状となって形成される。なお、得られた生分解性不織布1は、黒色系ウェブ2の使用比率が約43%、白色系ウェブ3の使用比率が約57%であり、遮光率が99%以上、可視・紫外光全反射率が70%の値を示した。また、全体の目付量は350g/mであり、透水係数が3.0×10−1cm/sの値を示している。
【0038】
上記示したように、本実施形態の生分解性不織布1は、綿状のウェブとして形成された黒色系ウェブ2及び白色系ウェブ3を積層し、ニードルパンチ工程及び熱処理工程の二つの不織布形成工程を経ることによって、不織布状の態様に形成される。なお、接着強度等を勘案し、上述したニードルパンチ工程及び熱処理工程の少なくともいずれか一方を行うものであってもよく、また熱処理加工の後にニードルパンチ工程を実施するものであっても構わない。
【0039】
次に、本実施形態の生分解性不織布1を使用した具体例について、下記実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0040】
エダマメ(農作物等に相当)が露地栽培される圃場に本実施形態の生分解性不織布1を敷設し、その雑草抑制効果及び忌避効果を確認した(図3(a)参照)。具体的には、エダマメが栽培される栽培地7aの周りを囲むように幅2mの生分解性不織布1を敷設し、エダマメの周囲に粘着トラップ(図示しない)を設置した。そして、敷設開始から粘着トラップに捕集される各週毎の病害虫8の誘殺数をカウントするとともに、その周囲の雑草9の状況を観察した。なお、比較対象として、本実施形態の生分解性不織布1を敷設しない状態(通常の状態)で栽培されるエダマメの周囲にも同様に粘着トラップを設置し、併せて病害虫8の誘殺数のカウント及び雑草9の生長状況の観察を行った(比較例)。これにより、生分解性不織布1が敷設された圃場では、栽培地7aの周囲表面の白色系ウェブ3によって、ほとんどの太陽光10が反射される(図3(a)参照)。そして、仮にその一部が白色系ウェブ3を透過しても、その下層に設けられた黒色系ウェブ2によって、太陽光10が完全に遮られ、土壌まで到達しない。
【0041】
そして、上記実施例1によると、図4(a),(b),(c)にそれぞれ示されるように、実施例1(■にて示す:以下同じ)の場合、各病害虫の誘殺数がアブラムシ、アザミウマ類、及びコナジラミ類のいずれの場合においても比較例(□にて示す:以下同じ)と比べて低いことが示される。特に、アブラムシは、いずれの期間においても1または2頭の少ない誘殺数であり、生分解性不織布1の忌避効果が高いことが確認された。また、生分解性不織布1が敷設された箇所からは、雑草が生長することはなく、また、生分解性不織布1の下の土壌からは僅かに雑草の生育が認められた。しかしながら、生分解性不織布1を浮上がらせるような著しい生長をすることはなく、十分な抑草効果があることが確認された。
【実施例2】
【0042】
施設栽培で栽培されるイチゴ(農作物等に相当)のハウス7bの周りを囲むようにして幅2mの生分解性不織布1を敷設し、実施例1と同様にイチゴの周囲に粘着トラップ(図示しない)を設定した(図3(b)参照)。また、同様に比較のために生分解性不織布1の影響を出ない箇所に粘着トラップを設置した(比較例)。
【0043】
これによると、図5(a),(b)にそれぞれ示されるように、実施例2(■にて示す:以下同じ)の場合、各病害虫8の誘殺数がアブラムシ及びアザミウマ類のいずれの場合においても比較例(□にて示す:以下同じ)と比べて低いことが示された。特に、比較例におけるアブラムシの誘殺数は最大で190頭にのぼるケースも観察されたが、生分解性不織布1を敷設した場合、0〜5頭と著しく低い値を示し、同様にアザミウマ類の場合も比較例で150頭の誘殺数が観察されるものが、0〜4頭と著しく低い値を示した。これにより、施設栽培において本実施形態の生分解性不織布1を適用することにより、ハウスへの病害虫の侵入をほぼ完全に防ぐことができることが示された。また、生分解性不織布1の敷設した箇所には、雑草9が生長することがなく、十分な抑草効果を有することが示された。
【0044】
以上示したように、本実施形態の生分解性不織布1によれば、黒色系ウェブ2の遮光性及び白色系ウェブ3の光反射性の双方の機能によって、雑草9の抑制効果及び病害虫8の忌避効果を示すことができる。さらに、生分解性の繊維5a,5b,6を利用して形成されることにより、土壌に敷設した場合であっても、土壌中に存在する微生物によって水及び二酸化炭素などに容易に分解することができる。そのため、従来のポリエチレン製のシートなどのように、古いシートを撤去する必要がなく、上から重ね貼りすることができる。これにより、撤去作業及びそれに要するコスト、かつ焼却等の処分に係るコストを必要とすることがない。
【0045】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0046】
すなわち、本実施形態の生分解性不織布1において、黒色系ウェブ2及び白色系ウェブ3に使用する生分解繊維5a,5b、及び低融点生分解繊維6としてポリ乳酸及び修飾デンプン、またはポリ乳酸のみを主原料とするものを示したがこれに限定されるものではなく、その他の生分解性を有するものであればよい。係る主原料を変更することにより、土壌に敷設してから生分解されるまでの期間を任意に調整することができる。この場合、それぞれの融点も異なる。加えて、個々のウェブ2,3の生分解繊維5a,5bと、低融点生分解繊維6との使用比率も任意のものに設定することができる。さらに、低融点生分解繊維6を含まず、生分解繊維のみから形成し、ニードルパンチ加工によって黒色系ウェブ及び白色系ウェブを接着し、不織布状に形成するものであっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態の生分解性不織布の構成を示す斜視図である。
【図2】生分解性不織布の構成を示す正面図である。
【図3】生分解性不織布を(a)露地栽培、(b)施設栽培に適用した一例を示す説明図である。
【図4】生分解性不織布を使用した忌避効果を示すグラフである。
【図5】生分解性不織布を使用した忌避効果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1 生分解性不織布
2 黒色系ウェブ
3 白色系ウェブ
4 交絡部
5a,5b 生分解繊維
6 低融点生分解繊維
8 病害虫
9 雑草
10 太陽光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解繊維によって形成され、遮光性を有する黒色系の色彩の綿状の黒色系ウェブと、
前記生分解繊維によって形成され、光反射性を有する白色系の色彩の綿状の白色系ウェブとを具備し、
前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブを積層し、ニードルパンチ加工処理及び熱加工処理の少なくともいずれか一方によって、前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブを接着し、不織布状に形成したことを特徴とする生分解性不織布。
【請求項2】
生分解繊維、及び前記生分解繊維と比して低融点の性状を有する低融点生分解繊維の少なくとも二種類の繊維を混合して形成され、遮光性を有する黒色系の色彩の綿状の黒色系ウェブと、
前記生分解繊維、及び前記低融点生分解繊維の少なくとも二種類の繊維を混合して形成され、光反射性を有する白色系の色彩の綿状の白色系ウェブとを具備し、
前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブを積層し、ニードルパンチ加工処理及び熱加工処理の少なくともいずれか一方によって、前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブを接着し、不織布状に形成したことを特徴とする生分解性不織布。
【請求項3】
前記黒色系ウェブの使用比率が40%以上、80%以下、前記白色系ウェブの使用比率が20%以上、60%以下で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の生分解性不織布。
【請求項4】
遮光率が95%以上、99.999%以下、及び/または、可視・紫外光全反射率が40%以上、80%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の生分解性不織布。
【請求項5】
目付量が100g/m以上、500g/m以下、及び/または、透水係数が1.0×10−1cm/s以上、6.0×10−1cm/s以下に設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の生分解性不織布。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5のいずれか一つに記載の生分解性不織布を製造するための生分解性不織布の製造方法であって、
生分解繊維、及び前記生分解繊維と比して低融点の性状を有する低融点生分解繊維の少なくとも二種類の繊維を混合し、遮光性を有する黒色系の色彩の綿状の黒色系ウェブを形成する黒色系ウェブ形成工程と、
前記生分解繊維、及び前記低融点生分解繊維の少なくとも二種類の繊維を混合し、光反射性を有する白色系の色彩の綿状の白色系ウェブを形成する白色系ウェブ形成工程と、
前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブを積層し、複数のニードルを前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブに突き刺し、交絡部を形成するニードルパンチ工程及び前記低融点生分解繊維の一部が溶融可能な熱処理温度によって熱処理し、前記繊維が熱溶着した交絡部を形成する熱処理工程の少なくともいずれか一方によって、前記黒色系ウェブ及び前記白色系ウェブを接着し、不織布状に形成する不織布形成工程と
を具備することを特徴とする生分解性不織布の製造方法。
【請求項7】
前記ニードルパンチ工程によるニードリング打密度は、
50回/cm以上、300回/cm以下に設定され、
前記熱処理工程の前記熱処理温度は、
130℃以上、175℃以下に設定されることを特徴とする請求項6に記載の生分解性不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−312790(P2006−312790A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135238(P2005−135238)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【出願人】(500088634)岐阜アグリフーズ 株式会社 (4)
【出願人】(000106254)サンケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】