説明

生分解性粘土、及びその製造方法

【課題】 生分解性を備えるとともに、優れた作業性、質感を有する白色の手工芸用の粘土を製造する。
【解決手段】 澱粉を主原料とする粘土であって、化工澱粉に、アルギン酸ナトリウムと、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムとを含有させてなる粘土とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として手工芸用の粘土に関し、特に生分解性を有し、かつ、粘土としての品質に優れた生分解性粘土、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から手工芸用の粘土には、優れた作業性や質感、色づけのしやすさなどが求められている。
すなわち、柔らかくて扱いやすく、薄くのばすことができるとともに、型くずれせず、手に付きにくいなどといった優れた作業性を備える粘土は、より自由度の高い作品作りを可能とし、初心者にも扱いやすいものとなる。また、見た目に好ましい印象を与えるものや、触感の良いものなど優れた質感を有する粘土は、作品作りへの応用範囲を拡大するとともに、創作意欲を刺激する。また、手工芸用の粘土を用いて製作した工作物には、色塗りをすることが多いため、粘土の色は、柔軟に色づけを行うことが可能な白や透明感のあるものが好ましい。
【0003】
このような手工芸用の粘土に求められる品質を確保するため、手工芸用の粘土の成分には、一般にポリ酢酸ビニルに代表される分解性の少ない各種合成樹脂系糊料や、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系合成糊料がバインダーとして多用されている。また、増粘剤として、分解性の少ない水溶性セルロースエーテルやその他の化学物質が使用されている。また、手付きを防止するための油脂にも、流動パラフィンなど石油関連製品が使用されている。
このように、従来の手工芸用の粘土は、その品質を向上させるために、合成樹脂等をベースに用いて製造されているため、ほとんど生分解することがないものであった。
【0004】
一方、環境保護の観点からは、手工芸用の粘土についても、合成樹脂や合成糊料、石油関連製品等を使用することなく、生分解可能な素材のみで製造することが望ましい。
しかし、これらの合成樹脂等を一切使用することなく、生分解可能な素材のみで粘土を製造することは、手工芸用の粘土に必要とされる優れた作業性や質感、色づけのしやすさなどを実現することは極めて困難であった。
【0005】
例えば、粘土の主成分を合成樹脂に代えて、小麦やとうもろこしなどの生分解可能な素材を主成分として使用する場合、タンパク質成分は酸化して黄色味を帯びるため、色づけの妨げになってしまう。このため、白色の粘土を製造するためには、タンパク質成分を除去して、澱粉成分のみを使用することが好ましい。
ところが、澱粉を主成分とした場合、そのままでは手工芸用の粘土に必要な粘性や強度を得ることができない。このため、澱粉を主成分として粘土を製造する場合には、例えば特許文献1に記載の手工芸用粘土のように、ポリ酢酸ビニルなどの合成樹脂等を添加して、粘土に粘性や強度を付与する必要があった。
【0006】
このように、粘土に必要な粘性や強度を、合成樹脂などを用いて実現することは、紙粘土など、一見すると最も生分解性がありそうな粘土についても同様に行われており、生分解可能な素材を主成分として合成樹脂等を添加することなく、優れた作業性や質感を備えた高品質な白色の粘土を製造することは極めて困難であった。
したがって、従来は、生分解可能な素材を主成分とした粘土であっても、一般には、合成樹脂等を添加して製造されており、生分解性の高いものではなかった。
【0007】
一方、特許文献2には、鉛筆の製造時に生じるおがくずを主成分として使用し、生分解性の高い粘土を製造することが記載されている。この特許文献2に記載の粘土は、木のリサイクル粘土として環境にやさしく、また軽くて丈夫で、乾くと木と同じように彫ることができるなど優れた特徴を有しており、中小企業優秀新技術・新製品賞など多数の賞を受賞している。
【0008】
【特許文献1】特開2001−31829号公報
【特許文献2】特許第4204208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の粘土は、手工芸用の粘土に適する優れた作業性や質感を備えたものではなかった。
すなわち、特許文献2に記載の粘土は、硬くてなめらかさに乏しく、工芸品の製作中にすぐに乾燥してひび割れしてしまうという問題があった。
また、粘土の色が木の色であるため、自由に色づけを行うことができず、製作する工芸品によっては、用いることができないという問題があった。この点、酸化チタンを含有させて有色の粘土にする工夫もされているが、このように酸化チタンを含有させると粘土の作業性や質感がさらに低下してしまうという問題があった。
【0010】
また、この粘土は、おがくずを主成分としているため、木の湿ったような臭いがし、工芸品を作成した後もその匂いが手から取れにくいという問題があった。手工芸用の粘土の需用者は主婦層に多いため、このような臭いの問題は食事の準備作業などに不都合であり、利用しづらい要因となっていた。
【0011】
このように、手工芸用の粘土には、優れた作業性や質感、色づけのしやすさなどが求められているが、これらの粘土の性質は、従来は合成樹脂などにより実現されており、環境にやさしい生分解性素材を主成分として用いた場合には、これらの粘土の性質を実現することができなかった。
【0012】
本発明者らは、このような手工芸用の粘土に求められる性質を損なうことなく、かつ生分解性の高い粘土を製造するため、長い年月をかけて膨大な素材の組み合わせを実験し、ついに生分解性に優れ、かつ従来の合成樹脂を主成分とした粘土と遜色のない作業性や質感を備えた高品質の手工芸用粘土を製造することに成功した。
【0013】
具体的には、本発明者らは、従来の合成樹脂を主成分とした粘土の各成分に代替し得る生分解素材を探索して、優れた作業性や質感、色づけのしやすさ等を備えた粘土を製造するべく実験を繰り返し、ついに化工澱粉を主成分にし、アルギン酸ナトリウムと、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムとを共に使用することで、優れた作業性や質感を備えた粘土を製造し得ることに成功し、本発明を完成させた。
本発明は、化工澱粉に、アルギン酸ナトリウムと、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムとを配合することにより、生分解性が高く、かつ優れた作業性や質感を備えた白色の手工芸用の生分解性粘土及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の生分解性粘土は、澱粉を主原料とする粘土であって、化工澱粉に、アルギン酸ナトリウムと、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムとを含有させてなることを特徴とする。
また、本発明の生分解性粘土の製造方法は、澱粉を主原料とする粘土の製造方法であって、化工澱粉に、アルギン酸ナトリウムと、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムを混合して攪拌することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、化工澱粉を粘土の主成分にした場合の粘性を、アルギン酸ナトリウムと、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムとを混合することにより調整することで、生分解性が高く、優れた作業性や質感を備えた白色の手工芸用の粘土を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の生分解性粘土と従来の合成樹脂を主成分とした粘土の配合成分の対応関係を示す図である。
【図2】実施例1の粘土の配合成分を示す図である。
【図3】実施例2の粘土の配合成分を示す図である。
【図4】対照材料(セルロース)の生分解性試験結果(CO発生量から計算される生分解度)を示す図である。
【図5】実施例1の粘土の生分解性試験結果(CO発生量から計算される生分解度)を示す図である。
【図6】空試験(ブランク)でのCO発生量を示す図である。
【図7】対照材料(セルロース)のCO発生量を示す図である。
【図8】実施例1の粘土のCO発生量を示す図である。
【図9】対照材料(セルロース)の生分解度を示す図である。
【図10】実施例1の粘土の生分解度を示す図である。
【図11】実施例1及び比較例1の粘土に対する自由形式の評価結果を示す図である。
【図12】実施例1及び比較例1の粘土の作業性、質感、色、臭い、保存安定性の評価内容のまとめを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
粘土は、一般に、バインダー、増粘剤、添加剤、手付き防止剤、界面活性剤、充填剤等の組成物を混合し、攪拌することによって、製造される。
本発明は、これらの組成物によって粘土に付与される性質を、生分解性の高い素材を用いることで、粘土に付与できるかを探求した結果、見出された生分解性素材の組み合わせにより、手工芸用の粘土としての品質に優れた生分解性粘土の製造を可能としたものである。
まず、図1を参照して、本発明の生分解性粘土の配合成分について説明する。同図は、本発明の生分解性粘土と従来の粘土の配合成分の対応関係を示す図である。
【0018】
(バインダー)
バインダーは、粘土の主成分であり、粘土の機械的強度や、固化性、粘着性等を実現するものである。粘土にこのような性質を付与するため、バインダーには、従来は一般にポリ酢酸ビニルなどの合成樹脂が使用されていた。
これに対し、本実施形態では、バインダーとして、化工澱粉を使用している。化工澱粉をバインダーとした場合、粘土の機械的強度や、固化性、粘着性等は、いずれも合成樹脂を使用する場合よりも大きく劣ってしまう。
そこで、本実施形態では、後述するように、増粘剤と充填剤、手付き防止剤等を工夫することによって、これらの劣化する性質を補うことで、合成樹脂を使用した粘土と遜色のない品質の粘土を製造可能にしている。
【0019】
このバインダーに使用する化工澱粉としては、例えばアルファ化澱粉、変性澱粉などを用いることができる。
また、バインダーを糊化して粘土のベースを製造する際、その活性を高めて、ねばりが落ちないようにするために、トレハロースを添加することも好ましい。このように、バインダーを糊化する際にトレハロースを添加することで、一層粘性に優れたベースを製造することが可能である。
【0020】
また、図1に示すように、補助的なバインダーとして、ポリ乳酸又はポリ乳酸エマルジョンを使用することが好ましい。このように補助的なバインダーとして、ポリ乳酸又はポリ乳酸エマルジョンを使用することで、本実施形態の生分解性粘土に、手工芸用の粘土に適した強度を付与することができ、型くずれがしにくく、より一層作業性や保形性に優れた品質の高い粘土を製造することが可能となる。
なお、ポリ乳酸は、とうもろこしなどから製造される生分解性素材であり、従来、粘土に使用されている例を見ない。ポリ乳酸は、合成樹脂に代えて、粘土に強度を付与可能な生分解性素材として、本発明者らにより見出されたものである。
【0021】
なお、ポリ乳酸エマルジョンの可塑剤として、ポリビニルアルコールを微量使用することもできる。ポリビニルアルコールは、粘土の粘性を向上させることが可能な素材であり、例えば生分解率65%で冷温水可溶な部分ケン化型ポリビニルアルコールを微量使用することで、粘土の粘性を向上させると同時に、粘土の強度を高めることが可能である。
【0022】
(増粘剤)
増粘剤は、粘土に粘性を付与する成分であり、従来は、例えば水溶性セルロースエーテル,カルボキシメチルセルロースなど、生分解性の低いセルロース誘導体が使用されていた。
これに対し、本実施形態では、増粘剤として、容易に生分解するアルギン酸ナトリウムを用いている。このアルギン酸ナトリウムは、海藻から抽出したものなどが市販されており、これらを好適に使用することが可能である。
【0023】
本実施形態の粘土の主成分である化工澱粉に、アルギン酸ナトリウムを含有させた場合、粘土の粘性が大きく高まり、良く練って糸を引いた納豆のようなねばねばの状態となる。
この状態では粘性が高すぎて、粘土として使用できないため、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムを添加することで、その粘性を、手工芸用の粘土に適したものに調整する。
このとき、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムを添加することで、粘土のpHを5程度に調整し、アルギン酸ナトリウムと反応させて少しゲル状態とし、粘性を手工芸用の粘土に適したものに調整するとともに、粘土に手付き防止効果を付与することが可能となっている。
【0024】
これによって、化工澱粉を主成分とする粘土に、手工芸用の粘土に適した粘性と、手付き防止効果を与えることができ、優れた作業性と質感を実現することが可能となっている。
さらに、酵素変性澱粉やアルファ化澱粉を補助的な増粘剤として用い、粘土の粘性を微調整することも好ましい。これにより、一層作業性に優れた粘土を実現することも可能である。
なお、酵素変性澱粉や、アルファ化澱粉の種類は、特に限定されない。また、アルファ化澱粉は、界面活性剤や、充填剤として用いることもできる。
【0025】
(手付き防止剤)
手付き防止剤は、粘土のベタ付きを抑制し、その作業性や質感を向上させる成分である。
手付き防止剤として、従来は、例えば、流動パラフィンなど、生分解性の低い素材が使用されていたが、本実施形態では、生分解性の高い植物性の油脂であるひまし油を使用している。ひまし油は、酸化しづらく、黄色味を帯びにくい油脂であるため、白色の粘土の配合成分として適した素材である。
【0026】
本実施形態では、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムを、アルギン酸ナトリウムと反応させて少しゲル状態にすることで、粘土に手付き防止効果を付与しているが、ひまし油を添加することにより、一層優れた手付き防止効果を付与することが可能になっている。
【0027】
(添加剤)
添加剤は、粘土の性質を強化・改善するための配合成分であり、粘土の用途に応じて、様々なものを用いることができる。図1に示すように、この添加剤として、従来はプロピレングリコールやポリエチレングリコール、グリセリンなどが使用されていたが、本実施形態では生分解性の高いグリセリンを使用している。
グリセリンは、粘土に流動性を与え、保水性を向上させる成分である。
【0028】
(界面活性剤)
界面活性剤は、液体の表面張力を減じるとともに、液体間や液体と固体間の界面張力を減じる効果を有する成分であり、粘土の各成分の混合効果を高めるものである。
本実施形態では、界面活性剤として、非イオン系界面活性剤の中で生分解性の高いものや、アルファ化澱粉を使用することが好ましい。非イオン系界面活性剤の中で生分解性の高いものとしては、例えばソルビタンモノオレエートなどを好適に使用することが可能である。
【0029】
(充填剤)
充填剤としては、従来、セルロース粉末、再生パルプ、天然の澱粉などが使用されていた。
本実施形態では、セルロース粉末、コーンスターチ、アルファ化澱粉を使用している。充填剤として、セルロース粉末、コーンスターチを用いることで、粘土の固さを調整することができ、手付き防止効果を付与することができる。また、アルファ化澱粉を用いることで、粘土の粘性を向上させることもできる。
【0030】
さらに、本実施形態では、充填剤として、炭酸カルシウム、特に卵殻由来の炭酸カルシウム(卵殻カルシウム)を使用している。また、炭酸カルシウムに代えて、又は炭酸カルシウムと共に、リン酸カルシウムを用いることもできる。
これらをアルギン酸ナトリウムと共に配合することで、粘土の粘性と手付き防止のバランスをとることができ、優れた作業性と質感を実現することが可能となっている。
なお、卵殻粉末には、炭酸カルシウムのみならず、若干ではあるがリン酸カルシウムも含まれており、これらは、一部アルギン酸ナトリウムと反応してゲル状となる。卵殻粉末を用いることで、炭酸カルシウムのみを使用する場合よりも、アルギン酸ナトリウムに対する炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムの配合量を少量にしても、同様の効果が得られることが、経験上判明している。
【0031】
(防腐防カビ剤)
防腐防カビ剤は、本実施形態の粘土に防腐効果及び防カビ効果を付与する成分である。この防腐防カビ剤としては、例えば有機NSハロゲン系の防腐防カビ剤を使用することができる。
防腐防カビ効果と、生分解性とは相反するものであるため、生分解性の向上の観点からは、防腐防カビ剤を配合しないことが好ましい。
一方、本実施形態の生分解性粘土は、化工澱粉を主成分としているため、防腐防カビ剤を付与しなければ、製作した工作物にカビが生え易く、実用に適したものとはならない。
このため、本実施形態では、実施例において示すように、生分解性をできるだけ損なわず、かつ、カビの発生を抑制し得る最小限の添加量を実験により見出して配合している。
【0032】
なお、水分には水道水を使用しているが、蒸留水など他の水を用いても良い。
さらに、本実施形態の生分解性粘土は、化工澱粉に、アルギン酸ナトリウムと、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムを混合させてなるものであれば、必要に応じてさらにその他の生分解性の高い種々の成分を配合させることも可能である。
【0033】
(製造方法)
次に、本実施形態の生分解性粘土の製造方法について説明する。
本実施形態の生分解性粘土の製造方法は、化工澱粉に、アルギン酸ナトリウムと、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムを混合して攪拌することにより、生分解性が高く、かつ優れた作業性や質感を有する白色の粘土を製造することが可能な方法であれば、特に限定されるものではないが、以下に示すような方法とすることが好ましい。
【0034】
まず、バインダーの化工澱粉(粘土全体の5.0〜7.0重量%)に対して、水(同30.0〜37.0重量%)を加えるとともに、防腐防カビ剤(同0.1〜0.3重量%)を添加して、2〜7分間、60〜80℃にて加熱し、糊化する。また、得られる澱粉糊の活性を高めるため、トレハロースを例えばバインダーの化工澱粉に対して最大30重量%程度添加して糊化することも好ましい。このようにして得られた糊をベースとする。
【0035】
次に、上記のベースを捏和機に入れ、さらに添加剤、増粘剤、充填剤、手付き防止剤、界面活性剤、及び必要に応じてその他の各種成分(原材料)を、攪拌しながら、捏和機の容量に合わせて、所定の割合で順次添加する。
このとき、本実施形態では、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを、充填剤として炭酸カルシウム(又は卵殻粉末)を添加する。さらに、手付き防止剤としてひまし油を、バインダーの補助剤としてポリ乳酸エマルジョンを添加することが好ましい。
【0036】
また、混合物の攪拌にあたり、途中で所定の時間、捏和機における攪拌翼を逆回転させることが好ましい。これによって、粘土を効率よく均一に混合させることができる。
さらに、攪拌翼を逆回転させる前に一度捏和機を停止して、捏和機内壁部分を洗浄し、溶け残った原材料等を除去することが好ましい。これによって、十分に均一で質感のよい粘土を製造することができる。
そして、捏ね上がった粘土の性状や硬さ等の物性を確認して、製造を終了する
【実施例】
【0037】
(実施例1)
次に、図2を参照して、本発明の実施例1について説明する。同図は、本発明の実施例1の生分解性粘土における配合成分を示す図である。
実施例1では、同図の配合成分を同図における番号順に添加して、本発明の生分解性が高く、かつ優れた作業性や質感を有する白色の粘土を製造した。
【0038】
具体的には、化工澱粉 200.0[g](6.11[重量%]),水道水 1160.00[g](35.43[重量%]),防腐防カビ剤 4.0[g](0.12[重量%]),アルファ化澱粉 75.0[g](2.29[重量%]),セルロース粉末 300.0[g](9.16[重量%]),アルギン酸ナトリウム 20.0[g](0.61[重量%]),卵殻粉末 100.0[g](3.05[重量%]),炭酸カルシウム 200.0[g](6.11[重量%]),非イオン系界面活性剤 40.0[g](1.22[重量%]),酵素変性澱粉 540.0[g](16.49[重量%]),ひまし油 185.0[g](5.65[重量%]),コーンスターチ澱粉 100.0[g](3.05[重量%]),ポリ乳酸エマルジョン 350.0[g](10.69[重量%])を捏和機に順次添加して攪拌した。このとき、それぞれの成分を十分に混ざりあうまで攪拌してから、次の成分を添加する。攪拌時間は、各成分ごとに約5分から15分程度である。捏和機としては、ワーナー型ニーダー(容量3L,佐竹化学機械工業株式会社)を使用した。
【0039】
また、この攪拌の途中で一度、捏和機を停止して、ウエスやたわしなどにより捏和機を洗浄した。そして、捏和機内壁に残存した原材料の溶け残りを除去した後、攪拌翼を逆回転させて、5分間攪拌した。その後、再び攪拌翼を順方向に回転させて捏和した。なお、この5分間の逆回転の攪拌は、当該攪拌時間の最後に行っても、途中で行ってもかまわない。
そして、捏ね上がった粘土の性状や硬さ等の物性を確認して、製造を終了した。
【0040】
ここで、本実施形態の生分解性粘土の成分の配合割合は、上記の値に限定されるものではなく、例えば以下のような範囲のものとすることが好ましい。
化工澱粉は、本実施形態の生分解性粘土に、3.0〜10.0重量%配合することが好ましい。化工澱粉の配合割合をこのような範囲のものとすれば、粘土の機械的強度を高く保ちつつ、かつ他の配合成分による効果をより十分に発揮することができる。また、このような観点から配合割合を、5.0〜7.0重量%とすることがより好ましく、5.5〜6.5重量%とすることがさらに好ましい。
【0041】
アルギン酸ナトリウムは、本実施形態の生分解性粘土に、0.1〜3.0重量%配合することが好ましい。アルギン酸ナトリウムの配合割合をこのような範囲のものとすれば、本実施形態の生分解性粘土に高い粘性を付与することができ、炭酸カルシウム又はリン酸カルシウムを併せて配合することにより、粘土の作業性や質感を優れたものとすることができる。また、このような観点から配合割合を、0.2〜1.0重量%とすることがより好ましく、0.3〜0.7重量%とすることがさらに好ましい。
【0042】
炭酸カルシウムは、本実施形態の生分解性粘土に、3.0〜17.0重量%配合することが好ましい。炭酸カルシウムの配合割合をこのような範囲のものとすれば、混合物のpHを5程度に調整するとともに、一部アルギン酸ナトリウムと反応して、粘土をゲル化することで、粘土のベタ付きをなくし、粘土に優れた質感と作業性を付与することが可能となる。また、このような観点から。炭酸カルシウムの配合割合を、4.0〜13.0重量%とすることがより好ましく、5.0〜10.0重量%とすることがさらに好ましい。なお、この炭酸カルシウムの全部又は一部として、卵殻粉末を用いることも好ましい。卵殻粉末を用いる場合は、炭酸カルシウムの含有割合を減らしても、上記効果を得ることが可能なことが経験上判明している。
【0043】
ポリ乳酸エマルジョンは、本実施形態の生分解性粘土に、5.0〜20.0重量%配合することが好ましい。ポリ乳酸エマルジョンの配合割合をこのような範囲のものとすれば、粘土の粘性と強度を向上させることができ、粘土に優れた成形性を付与することができる。また、このような観点からポリ乳酸エマルジョンの配合割合を、8.0〜17.0重量%とすることがより好ましく、10.0〜15.0重量%とすることがさらに好ましい。
【0044】
その他、グリセリンは、0.0〜5.0重量%、アルファ化澱粉は、0.0〜5.0重量%、セルロース粉末は、1.0〜15.0重量%、非イオン系界面活性剤は、1.0〜2.0重量%、酵素変性澱粉は、10.0〜20.0重量、ひまし油は、3.0〜7.0重量%、コーンスターチ澱粉は、1.0〜15.0重量%をそれぞれ配合することが好ましい。
【0045】
なお、以上の配合割合は、上記各成分を使用して生分解性粘土を製造する場合に最適なものであり、配合成分が異なる場合には、各成分の相乗効果により上記割合が最適ではなくなることがある。すなわち、本発明の粘土における各成分の配合割合は、配合する成分の種類により、変動する場合がある。例えば、以下に示す実施例2は、実施例1と比較して粘土の保湿性をより向上させたものであり、その配合割合については、実施例1と異なる部分を有している。
【0046】
(実施例2)
本実施形態の生分解性粘土の変形例について、図3を参照して説明する。同図は、本実施形態の実施例2の生分解性粘土における配合成分を示す図である。
本実施例2は、実施例1に比較して、乾燥しにくい粘土を製造することが可能となっている。
【0047】
また、実施例1では、アルギン酸ナトリウム 20.0[g]に対して、卵殻粉末を100.0[g]と炭酸カルシウムを200.0[g]配合することで、粘土の粘性を手工芸用の粘土に適するものに調整している。一方、本実施例2では、アルギン酸ナトリウム 20.0[g]に対して、卵殻粉末を185.0[g]配合することで、粘土の粘性が手工芸用の粘土に適したものとなっている。
実施例2に示すように、経験上、卵殻粉末を使用することで、炭酸カルシウムを使用する場合よりアルギン酸ナトリウムに対する配合量を少なくしても、粘土の粘性を適切に調整することが可能である。
【0048】
具体的には、化工澱粉 200.0[g](5.80[重量%]),水道水 1160.00[g](33.62[重量%]),防腐防カビ剤 4.0[g](0.12[重量%]),グリセリン 100.0[g](2.90[重量%]),アルファ化澱粉 1.0[g](0.03[重量%]),セルロース粉末 100.0[g](2.90[重量%]),アルギン酸ナトリウム 20.0[g](0.58[重量%]),卵殻粉末 185.0[g](5.36[重量%]),非イオン系界面活性剤 40.0[g](1.16[重量%]),酵素変性澱粉 540.0[g](15.65[重量%]),ひまし油 180.0[g](5.22[重量%]),コーンスターチ澱粉 420.0[g](12.17[重量%]),ポリ乳酸エマルジョン 500.0[g](14.49[重量%])を捏和機に順次添加して攪拌した。このとき、それぞれの成分を十分に混ざりあうまで攪拌してから、次の成分を添加する。攪拌時間は、各成分ごとに約5分から15分程度である。捏和機としては、ワーナー型ニーダー(容量3L,佐竹化学機械工業株式会社)を使用した。
【0049】
また、この攪拌の途中で一度捏和機を停止してウエスやたわしなどにより、捏和機内壁に残存した原材料の溶け残りを除去した後、攪拌翼を逆回転させて、5分間攪拌した。
そして、捏ね上がった粘土の性状や硬さ等の物性を確認して、製造を終了した。
【0050】
ここで、本実施例2においても、化工澱粉及びアルギン酸ナトリウムについては、実施例1とほぼ同様の配合割合とすることが好ましいが、本実施例2では、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムの成分として、卵殻粉末のみを使用しているため、炭酸カルシウムのみを用いる場合に比較して、当該成分の配合割合を少量にすることが可能である。
すなわち、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムの成分として、卵殻粉末のみを使用する場合、アルギン酸ナトリウムに対する配合割合は、実施例1における卵殻粉末及び炭酸カルシウムより少なくても同様の効果を得ることができ、粘土の作業性や質感を優れたものとすることが可能である。また、このような観点から卵殻粉末の配合割合を、3.0〜7.0重量%とすることがより好ましく、4.0〜6.0重量%とすることがさらに好ましい。
【0051】
また、本実施例2において、ポリ乳酸エマルジョンは、7.0〜22.0重量%配合することが好ましい。ポリ乳酸エマルジョンの配合割合をこのような範囲のものとすれば、粘土の粘性と強度を向上させることができ、粘土に優れた成形性を付与することができる。また、このような観点から配合割合を、10.0〜19.0重量%とすることがより好ましく、12.0〜17.0重量%とすることがさらに好ましい。
その他の配合成分の割合については、実施例1と同様の範囲とすることが好ましい。
【0052】
(生分解性粘土の性質の評価)
(1)生分解性の評価
実施例1により製造した粘土の生分解性を以下の方法により評価した。その結果を図4〜図10に示す。
【0053】
(評価方法)
実施例1により製造した粘土の生分解性試験を、財団法人化学物質評価研究機構に依頼し、コンポスト埋設試験を実施することにより、生分解性の評価を行った。具体的には、JISK6953:2000「プラスチック−制御されたコンポスト条件下の好気的究極生分解度及び崩壊度の求め方−発生二酸化炭素量の測定による方法−」にもとづいて、以下の条件で行った。
【0054】
(1)試験材料 実施例1の粘土(冷凍粉砕) TOC(全有機炭素量)44.4%
(2)対照材料 MERCK製 セルロース(微結晶)
(3)コンポスト 群馬県板倉町資源化センター 乾燥固形物50%、揮発性固形物43%、懸濁液のpH9.0
(4)試料調整 供試料を、室温で乾燥させ、乾燥後の試料を試験に供した。
(5)試験用容器容積500mL コンポストの乾燥質量60g、コンポストの水分量50% 試料10g
(6)CO吸収液 2NKOH溶液(100mL2連)
(7)CO測定方法 電位差滴定法
【0055】
(結果)
実施例1により製造した粘土は、第88日目に平均で85.8%の生分解度を示しており、さらに分解する傾向を示している。一方、対照材料(セルロース)の生分解度は、第66日目に平均で75.8%であった。対照材料(セルロース)の生分解度から試験結果は正当であることがわかる。
また、実施例1により製造した粘土は、対照材料(セルロース)と比較して、一定期間経過後には、より早く生分解することが示されており、第88日目近くにおいて生分解度は、まだほぼ一定の上昇傾向を示している。
したがって、実施例1により製造した粘土は、高い生分解性を有していることがわかる。
【0056】
[工芸用粘土としての品質の評価]
実施例1の粘土と、特許文献2に記載の方法で製造され、市販されている粘土(製品名:もくねんさん 北星鉛筆株式会社製。以下、比較例1の粘土と称する。)をそれぞれ用いて、粘土細工の製作歴20〜30年の5名に作品を製作してもらい、それぞれの粘土の品質について、自由形式で評価してもらった。その結果の概要を図11に、評価内容のまとめを図12に示す。
これらの図に示すように、比較例1の粘土は、生分解性素材からなる生分解性粘土ではあるものの、硬くてなめらかさがない上、乾燥しやすく、作品の制作中にひび割れがするなど作業性が悪く、扱いにくいという評価が大半を占めた。また、粘土の色が土色であるため、作品が限定されてしまうという評価もあった。さらに、木の湿った臭いが手につくため、好ましくないという評価もあった。
【0057】
これに対し、実施例1の粘土は、生分解性粘土でありながら、従来の合成樹脂ベースの粘土とかわらない優れた作業性及び質感を有しているとの評価が大半であった。また、粘土の色が白色であるため、自由な作品づくりが可能であるとの評価も多くあった。さらに、臭いがほぼ無臭であるため、好ましいとの評価があった。
【0058】
以上の通り、実施例1の粘土は、高い生分解性を有するのみならず、手工芸用粘土として優れた品質を備えており、熟練者にも満足の得られるものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、手工芸用等の粘土の製造において好適に利用することのできるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉を主原料とする粘土であって、化工澱粉に、アルギン酸ナトリウムと、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムとを含有させてなることを特徴とする生分解性粘土。
【請求項2】
化工澱粉に、さらに少なくともポリ乳酸、ひまし油、又は酵素変性澱粉のいずれかを含有させてなることを特徴とする請求項1記載の生分解性粘土。
【請求項3】
化工澱粉に、アルファ化澱粉と、セルロース粉末と、海藻由来のアルギン酸ナトリウムと、卵殻由来の炭酸カルシウム及びリン酸カルシウムと、界面活性剤と、酵素変性澱粉と、ひまし油と、コーンスターチ澱粉と、ポリ乳酸エマルジョンとを含有させてなることを特徴とする請求項1又は2記載の生分解性粘土。
【請求項4】
澱粉を主原料とする粘土の製造方法であって、化工澱粉に、アルギン酸ナトリウムと、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムを混合して攪拌することを特徴とする生分解性粘土の製造方法。
【請求項5】
化工澱粉に水とトレハロースを混合して加熱した後、グリセリンを加えて攪拌し、ついでアルファ化澱粉と、セルロース粉末と、アルギン酸ナトリウムと、炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムと、界面活性剤と、酵素変性澱粉と、ひまし油と、コーンスターチ澱粉と、ポリ乳酸エマルジョンとを順次混合して攪拌することを特徴とする請求項4記載の生分解性粘土の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−1414(P2011−1414A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143950(P2009−143950)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(504130968)アイボン産業有限会社 (2)
【Fターム(参考)】