説明

生化学反応カートリッジの検査方法および検査装置と生化学処理装置

【課題】生化学反応カートリッジの流路の詰まりや、流体の漏れの原因となる不具合などの異常の有無を、簡単に精度良く検査できるようにする。
【解決手段】生化学反応カートリッジ1の2つのノズル入口3e,3mにポンプノズル17e,18mを挿入し、チューブ21,22を介して電動シリンジポンプ15,16にそれぞれ接続する。電動シリンジポンプ15,16を作動させてノズル入口3eからノズル3mに向かう空気の流れを生じさせたときの圧力変化を、圧力センサ23,24により測定する。そして、圧力センサ23,24のそれぞれの測定値を、予め求められている、正常な経路内の流体の流れに伴う圧力変化値と比較して、異常の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の細胞、微生物、染色体、核酸等のサンプルを抗原抗体反応や核酸ハイブリダイゼーション反応等の生化学反応を利用して検出するための生化学反応カートリッジの検査方法および検査装置と生化学処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液等の検体を分析する分析装置には、抗原抗体反応を利用した免疫学的な方法や、核酸ハイブリダイゼーションを利用する方法がある。免疫学的な方法の一例では、被検出物質と特異的に結合する抗体または抗原等のタンパク質をプローブとして用い、微粒子、ビーズ、またはガラス板等の固相表面に固定して、検体中の被検出物質との抗原抗体反応を行わせる。核酸ハイブリダイゼーションを利用する方法の一例では、一本鎖の核酸をプローブとして用い、微粒子、ビーズ、ガラス板等の固相表面に固定して、検体中の被検出物質と核酸ハイブリダイゼーションを行わせる。これらの方法は、酵素、蛍光物質、または発光性物質等の、検知感度の高い標識物質を担持した特異的な相互作用を有する標識化物質である標識化抗体、標識化抗原、または標識化核酸等を用いる。そして、抗原抗体化合物またはハイブリダイズされた二本鎖の核酸を検出して、被検出物質(ターゲット)の有無の検出やその定量を行う。
【0003】
これらの技術を発展させたものとして、例えば特許文献1には、互いに異なる塩基配列を有する多数のDNA(デオキシリボ核酸)プローブを、基板上にアレイ状に並べた、いわゆるDNAアレイが開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、多種類のタンパク質をメンブレンフィルタ上に並べ、DNAアレイと同様な構成のタンパク質アレイを作製する方法が開示されている。このように、DNAアレイやタンパク質アレイ等を用いることによって、極めて多数の項目の検査を一度に行うことが可能になってきている。
【0005】
また、様々な検体分析における、検体による汚染の軽減、反応の効率化、装置の小型化、作業の簡便化等の目的で、内部で生化学反応を行わせる使い捨て可能な生化学反応カートリッジが提案されている。例えば、特許文献2においては、DNAアレイを含む生化学反応カートリッジ内に複数のチャンバを配設する構成が開示されている。この生化学反応カートリッジによると、圧力差を利用して溶液を各チャンバへ移動させることにより、検体中のDNAの抽出、増幅、またはハイブリダイゼーション等の反応を内部で行わせることが可能である。
【0006】
そして、このような生化学反応カートリッジ内に外部から溶液を注入する方法としては、外部の電動シリンジポンプや真空ポンプを利用する方法がある。また、生化学反応カートリッジ内部で溶液を移動する方法としては、圧力差以外にも、重力や毛細管現象や電気泳動を利用する方法が知られている。さらに、生化学反応カートリッジの内部に配設できる小型のマイクロポンプとして、特許文献2にはダイアフラムポンプ、特許文献3には発熱素子を利用したポンプ、特許文献4には圧電素子を利用したポンプがそれぞれ開示されている。
【0007】
一方、特許文献5には、生化学反応カートリッジではないが、試験管状の容器から液体サンプルを吸引して、試験管状または皿状の反応容器に分注する装置が開示されている。この分注装置では、液体サンプルを吸引する動作の終了後であって、液体サンプルを吐出する動作を開始する前の所定のタイミングにおいて、サンプルプローブとポンプを結ぶ管路内の圧力が測定される。そして測定圧力が所定の圧力値よりも低いときに、サンプルプローブの詰まりと判別される。
【0008】
また、特許文献6には、特許文献5と同様な分注装置において、チューブ内のサンプルプローブ側に位置する第1の点と、チューブ内の分注シリンジ側に位置する第2の点との圧力差を測定する分注装置が開示されている。この圧力差に基づいて、サンプルプローブ内が閉塞状態であるか否かが判断される。
【特許文献1】米国特許第5445934号明細書
【特許文献2】特表平11−509094号公報
【特許文献3】特許第2832117号明細書
【特許文献4】特開2000−274375号公報
【特許文献5】特開平11−083868号公報
【特許文献6】特開2001−242182号公報
【非特許文献1】アンジェリカ ロイキング(Angelika Lueking)他5名、「プロテイン マイクロアレイズ フォー ジーン エクスプレッション アンド アンチボディ スクリーニング(Protein Microarrays for Gene Expression and Antibody Screening)」、アナリティカル バイオケミストリー(Analytical Biochemistry) Vol.270(1)、アカデミック プレス(Academic Press)、1999年5月15日、p.103〜111
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
生化学反応カートリッジでは、流路の詰まりや流体の漏れなどの異常があると、液体の移動が正しく行われず、反応に大きな影響を及ぼす。しかしながら、従来の生化学反応カートリッジは、流路の詰まりの有無や、生化学反応カートリッジ全体における、流体の漏れの原因となる亀裂、穴、剥がれ等の不具合の有無を簡単に検査できる構造にはなっていない。特許文献5,6には、試験管状の容器と容器の間を移動するプローブを有する分注装置における詰まり検知の方法が開示されている。しかし、小型の生化学反応カートリッジ内の微細な流路の詰まりや流体の漏れを容易に検知するための検査装置は、従来実現していない。
【0010】
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものであり、生化学反応カートリッジの流路の詰まりや、流体の漏れの原因となる不具合などの異常の有無を簡単に精度良く検査する検査方法および検査装置と生化学処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複数の流路と、流路に連通する複数の流体出入口とを有し、流体出入口を除いて流路が実質的に密閉されている生化学反応カートリッジの検査方法において、複数の流体出入口のうちの少なくとも1つを流入用、他の流体出入口のうちの少なくとも1つを流出用として設定し、流入用として設定された流体出入口を1つの管路と接続し、流出用として設定された流体出入口を他の管路と接続し、かつ、流入用または流出用として設定されていない流体出入口を封止するステップと、流入用として設定された流体出入口に接続された管路から、流出用として設定された流体出入口に接続された他の管路まで連通する経路内に、流体を流れさせるステップと、流体が経路内を流れる際の、流入用として設定された流体出入口に接続された管路内の圧力または圧力変化または管路からの流体の流入量、および/または流出用として設定された流体出入口に接続された他の管路内の圧力または圧力変化または他の管路への流体の流出量を測定するステップと、測定された圧力または圧力変化または流入量または流出量を、予め求められている、正常な経路内の流体の流れに伴う圧力または圧力変化または流入量または流出量と比較して、異常の有無を判定するステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明は、複数の流路と、流路に連通する複数の流体出入口とを有し、流体出入口を除いて流路が実質的に密閉されている生化学反応カートリッジのための検査装置において、複数の流体出入口をそれぞれ独立して選択的に開放または封止するバルブ機構と、各々が、バルブ機構により開放された流体出入口の少なくとも1つに接続可能な、複数の管路と、複数の管路のうちの少なくとも1つに接続されている少なくとも1つの圧力センサまたは流量センサと、バルブ機構により開放された流体出入口のうちの少なくとも1つに接続された1つの管路から、バルブ機構により開放された他の流体出入口に接続された他の管路に至る流体の流れを生じさせるように、ポンプを作動させることができ、かつ、流体の流れを生じさせた際に圧力センサまたは流量センサにより測定された圧力または圧力変化または流量を、予め求められている、正常な経路内の流体の流れに伴う圧力または圧力変化または流量と比較して、異常の有無を判定する制御部と、を有することをもう1つの特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、生化学反応カートリッジ内の微細な流路やチャンバに、詰まりや、漏れの原因となる不具合を、容易に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
図1,2には、本発明の一実施形態における生化学反応カートリッジ1の検査装置が概略的に示されている。図1は生化学反応カートリッジ1が装着されていない状態、図2は生化学反応カートリッジ1が装着された状態を示している。
【0016】
本実施形態の検査装置は、ベース13上に、生化学反応カートリッジ1が載置されるテーブル14を有している。テーブル14の両側には、電動シリンジポンプ15,16と、チューブ(管路)21,22を介して電動シリンジポンプ15,16とそれぞれ連通しているノズルブロック19,20がそれぞれ配置されている。ノズルブロック19,20は、電動シリンジポンプ15,16によって空気を排出または吸引するための出入口であり、それぞれ10個ずつのポンプノズル17a〜17j,18k〜18tを有している。さらに、ノズルブロック19,20内には、図示しない複数の公知の電動切換バルブ(バルブ機構)が配置されている。チューブ21,22にはそれぞれ圧力センサ23,24が接続されている。電動シリンジポンプ15,16と、ノズルブロック19,20内の電動切換バルブと、圧力センサ23,24は制御部25に接続されている。
【0017】
電動切換バルブは、制御部25に制御されて、各ポンプノズル17a〜17j,18k〜18tの電動シリンジポンプ15,16への接続を独立して制御する。すなわち、複数のポンプノズル17a〜17j,18k〜18tのうちの選択されたものだけを電動シリンジポンプ15,16に連通させた状態と、すべてを電動シリンジポンプ15,16に連通させた状態と、すべてを閉じた状態とを、任意に切り換えられる。
【0018】
ノズルブロック19,20は、図示しないレバーの操作によって、テーブル14に向かって互いに近接するように、図1の矢印方向に移動可能である。それによって、ノズルブロック19,20のポンプノズル17a〜17j,18k〜18tは、テーブル14上の生化学反応カートリッジ1の、後述するノズル入口3a〜3tに対して、挿入(図2参照)および脱出可能である。
【0019】
次に、この検査装置の検査対象となる生化学反応カートリッジ1の一例について、図3,4を参照して詳細に説明する。本実施形態の生化学反応カートリッジ1は、血液等の液体状の検体が注入されて、内部で、DNAの抽出および増幅、ハイブリダイゼーション反応、蛍光標識付きの検体DNAおよび蛍光標識の洗浄などの工程が行われる。各工程の詳細については後述する。
【0020】
生化学反応カートリッジ1の本体(筐体)は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂から構成されている。これらは透明または半透明であるが、生化学反応カートリッジ1内の反応物についての光学的な測定を必要としない場合は、透明な材質でなくてもよい。
【0021】
図3に示すように、生化学反応カートリッジ1の上部には、注射器等を用いて血液等の検体を注入するための検体入口(流体出入口)2aが設けられ、ゴムキャップ2により封止されている。また、生化学反応カートリッジ1の一方の側面には、内部の溶液を移動させるためにノズルを挿入して加圧または減圧を行うための複数のノズル入口(流体出入口)3a〜3jが設けられ、ゴムキャップ3により封止されている。なお、他方の側面にもノズル入口3k〜3tが設けられている。
【0022】
図4は生化学反応カートリッジ1の平面断面図を示している。前記したように片側の側面には10個のノズル入口3a〜3jが設けられ、反対側の側面にも10個のノズル入口3k〜3tが設けられている。各ノズル入口3a〜3tのほとんどは、空気が流れる空気流路4a〜4tを介して、溶液を貯蔵する場所または反応を起こす場所であるチャンバ5a〜5tにそれぞれ連通している。つまり、ノズル入口3a〜3jは流路4a〜4jを介してチャンバ5a〜5jに連通している。反対側のノズル入口3k,3l,3m,3o,3r,3tは、それぞれ流路4k,4l,4m,4o,4r,4tを介してチャンバ5k,5l,5m,5o,5r,5tに連通している。ただし、本実施形態では、ノズル入口3n,3p,3q,3sはチャンバに連通しておらず予備になっており、使用されない。
【0023】
検体入口2aはチャンバ7に連通し、チャンバ7は流路6a,6b,6c,6kを介してチャンバ5a,5b,5c,5kに連通しているとともに、流路10を介してチャンバ8に連通している。チャンバ8は流路6g,6oを介してチャンバ5g,5oに連通しているとともに、流路11を介してチャンバ9に連通している。チャンバ9は流路6h,6i,6j,6r,6tを介してチャンバ5h,5i,5j,5r,5tに連通している。また、流路10は流路6d,6e,6f,6l,6mを介してチャンバ5d,5e,5f,5l,5mに連通している。
【0024】
チャンバ9の底面には角孔が開けられ、この角孔に、DNAマイクロアレイ12が、プローブ面を上にして貼り付けられている。DNAマイクロアレイ12は、1平方インチ(約645mm2)程度の大きさを持つガラス板の固相表面に、数十〜数十万種類の異なるDNAプローブが高密度に並べられたものである。本実施形態では、このDNAマイクロアレイ12を用いて、検体中のDNAとハイブリダイゼーション反応を行わせることによって、一度に数多くの遺伝子を検査できる。これらのDNAプローブはマトリックス状に規則正しく並べられており、それぞれのDNAプローブのアドレス(何行・何列と示される位置)を、情報として容易に取り出すことができる。なお、検査の対象となる遺伝子としては、感染症ウィルス、細菌、疾患関連遺伝子、各個人の遺伝子多型等がある。
【0025】
本実施形態では、図3,4に示す生化学反応カートリッジ1を、図1に示す検査装置に装着して(図2参照)、生化学反応カートリッジ1の流路の詰まりや、流体の漏れの原因となる不具合などの異常の有無を検査する。この検査方法のフローチャートが、図5に示されている。なお、ここで説明するのは、生化学反応カートリッジ1のうち、ノズル入口3eからノズル入口3mに至る流路の異常の検査を行う例である。
【0026】
以下に示す例では、ノズル入口3eを流入用の流体出入口として設定し、ノズル入口3mを流出用の流体出入口として設定し、ノズル入口3eに接続されるチューブ21が1つの管路、ノズル入口3mに接続されるチューブ22が他の管路ということになる。しかし、これらは、便宜上このような呼び方をしているに過ぎず、このような設定に限定されるわけではない。検査のたびに、流入用の流体出入口と流出用の流体出入口は、多数のノズル入口3a〜3tの中から任意に選択され、例えば、チューブ22が1つの管路になってチューブ21が他の管路になる場合もあり得る。したがって、1つの検査が終わると、流入用の流体出入口、流出用の流体出入口、1つの管路、および他の管路の設定はリセットされる。また、検査を行わない場合には、このような呼び方をする意義はない。
【0027】
まず、作業者が、図1に示す検査装置のテーブル14上に生化学反応カートリッジ1を置く。そして、作業者が、図示しないレバーを操作することにより、ノズルブロック19,20を図1の矢印方向に移動させる。すると、図2に示すように、ポンプノズル17a〜17j,18k〜18tが、生化学反応カートリッジ1の両側部のノズル入口3a〜3tに、ゴムキャップ3を貫通して挿入される(ステップS1)。
【0028】
それから、ノズルブロック19の電動切換バルブを作動させて、ノズル17eのみが電動シリンジポンプ15に対して連通するようにする。また、ノズルブロック20の電動切換バルブを作動させて、ノズル18mのみが電動シリンジポンプ16に対して連通するようにする(ステップS2)。
【0029】
次に、電動シリンジポンプ15のピストンを図2の矢印方向に動かして圧力を発生させる(ステップS3)。このとき、電動シリンジポンプ16は、ピストンが動かないように固定しておく。このように電動シリンジポンプ15を作動させることによって詰まりや漏れが無ければ、流体(例えば空気)の大部分が以下の経路を流れる。すなわち、圧力および流体は、まずチューブ21、ノズルブロック19のノズル17e、ノズル入口3e、流路4e、チャンバ5e、および流路6eを伝わる。そして、流体は、流路10の、流路6eと流路6mの間の部分を流れ、さらに流路6m、チャンバ5m、流路4m、ノズル入口3m、およびノズルブロック20のノズル18mを介して、チューブ22に至る。上記の流路以外の連通した流路にも、圧力の上昇に応じて流体の流れは生じる。生化学反応カートリッジ1内は連通しているので、詰まりや漏れが無ければ、電動シリンジポンプ15の作動によって生化学反応カートリッジ1内は全て一様に圧力上昇するはずである。このことを確認するために、本実施形態では、圧力センサ23によって、流入側のチューブ21内の圧力上昇を測定するとともに、圧力センサ24によって、流出側のチューブ22内の圧力上昇を測定する(ステップS4)。そして、圧力センサ23,24によって測定された圧力上昇が、所定の範囲内に入っていれば、ノズル入口3eからノズル入口3mに至る経路内に異常が無いとみなす。
【0030】
例えば本実施形態では、異常が無い場合には、電動シリンジポンプ15を5秒間作動させることによって、ピストンが10mm移動し、経路内が全て2kPaだけ圧力が上昇するように設定されている。ここで、例えば許容誤差を±0.4kPaとすると、許容できる最小値PAが1.6kPa、最大値PBが2.4kPaと設定される。そして、圧力センサ23,24によって測定された圧力上昇値P23,P24が、1.6〜2.4kPaの範囲内に入っているかどうかを調べる(ステップS5)。そして、圧力センサ23,24の圧力上昇値P23,P24がいずれも1.6〜2.4kPaの範囲内にある場合には、正常と判断して、図示しない表示手段に「正常」を表す表示を行う(ステップS6)。そして、ノズル入口3eからノズル入口3mに至る流路の検査を終了する。
【0031】
圧力センサ23,24の圧力上昇値P23,P24の少なくとも一方が1.6〜2.4kPaの範囲外であった場合には、圧力センサ23,24のそれぞれの圧力上昇値P23,P24について検討する。すなわち、圧力センサ23が測定した圧力上昇値P23を最大値PBと比較し、圧力センサ24が測定した圧力上昇値P24を最小値PAと比較する(ステップS7)。そして、圧力センサ23が測定した圧力上昇値P23が最大値PBよりも大きく、かつ、圧力センサ24が測定した圧力上昇値P24が最小値PAよりも小さい場合には、流路内に詰まりが生じていると判断する。圧力センサ23の圧力上昇値P23は流体の流路内への流入量を表し、圧力センサ24の圧力上昇値P24は流体の流路からの流出量を表しており、流入量よりも流出量が少ない場合には、流路の詰まりによって流れが阻害されたと思われるからである。そして、図示しない表示手段に「詰まり」を表す表示を行う(ステップS8)。
【0032】
ステップS5,S7において「正常」とも「詰まり」とも判断されなかった場合には、圧力センサ23,24が測定した圧力上昇値P23,P24を最小値PAと比較する(ステップS9)。そして、圧力センサ23,24が測定した圧力上昇値P23,P24がいずれも最小値PAよりも小さい場合には、流路内に漏れが生じていると判断する。これは、圧力センサ23,24の測定によって求められた流入量および流出量が、本来の流体の流入量(電動シリンジポンプ15によって送り込まれた流体の量)よりも小さいからである。ノズル入口3eからノズル入口3mに至る流路内には流体の流れを遮断する部分は存在しないため、ノズル入口3eからノズル入口3mに至る流路のどこに漏れが生じても、圧力センサ23,24が測定した圧力上昇値P23,P24がいずれも小さくなる。そこで、図示しない表示手段に「漏れ」を表す表示を行う(ステップS10)。なお、ステップS9における漏れの検知に当たっては、最小値PAとは別に、漏れ検知のための基準値PC(例えば1.0kPa)を設定し、ステップS9において、圧力センサ23,24が測定した圧力上昇値P23,P24を基準値PCと比較してもよい。また、漏れの検知に関しては、電動シリンジポンプ15を作動させた後の、一瞬のみの圧力センサ23,24の値を求めるのではなく、ある期間(例えば1秒間)の測定値の変動を求めると効果的である。すなわち、その期間中に流体(例えば空気)の漏れが進行して圧力が低下するので、例えば1秒の間に圧力が低下したか低下しなかったかを確認すると、漏れの判断がより容易にできる。
【0033】
ステップS5,S7,S9において、「正常」とも「詰まり」とも「漏れ」とも判断されなかった場合には、「その他の異常」として、図示しない表示手段に表示する(ステップS11)。
【0034】
以上説明したように、本実施形態では、圧力センサ23,24の検知した圧力上昇値P23,P24がいずれも所定の範囲(例えば1.6〜2.4kPa)内であれば、生化学反応カートリッジ1が正常であると判断できる。一方、圧力上昇値P23,P24の少なくとも一方がその範囲外であれば、生化学反応カートリッジ1が異常であると判断できる。また、圧力センサ23の測定した圧力上昇値P23が大きく、圧力センサ24が測定した圧力上昇値P24が小さい場合には、「詰まり」と判断でき、圧力センサ23,24が測定した圧力上昇値P23,P24がいずれも小さい場合には、「漏れ」と判断できる。
【0035】
なお、前記した例では、便宜上、異常の判定のためのステップS5,S7,S9を別々に行うように説明したが、実際にはこれらのステップS5,S7,S9は実質的に同時に行われることが好ましい。
【0036】
前記したステップS5,S7,S9によって異常と判定された場合には、生化学反応カートリッジ1は不良と判断されて廃棄される。しかし、ステップS5において正常と判定された場合には、その生化学反応カートリッジの、他の流路の検査を行う。すなわち、流入用の流体出入口、流出用の流体出入口、1つの管路、および他の管路の設定はリセットし、新たに設定し直すことになる。例えば、ノズル入口3gを流入用の流体出入口として設定し、ノズル入口3oを流出用の流体出入口として設定し、ノズル入口3gに接続されるチューブ21を1つの管路とし、ノズル入口3oに接続されるチューブ22を他の管路とすることができる。この場合、図6に示すように、ノズルブロック19,20の電動切換バルブを作動させて、ノズル17gのみが電動シリンジポンプ15に対して連通し、ノズル18oのみが電動シリンジポンプ16に対して連通するようにする。そして、前記したステップS3〜S11を行って、ノズル入口3gからノズル入口3oに至る流路の検査を行う。同様に、生化学反応カートリッジ1の全ての流路に対して同様な検査を行ってもよい。しかし、例えば洗浄液のみが流れる流路等を除いて、主要な流路に関してのみ検査を行ってもよい。
【0037】
以上説明した流路の検査は、生化学反応カートリッジ1の製造時の出荷前検査として行ってもよいが、生化学反応カートリッジ1を用いて生化学反応を行う際の直前の検査として行ってもよい。
【0038】
本実施形態では、検査を行う際に流路に流す流体として空気を用いており、検査用の特別の流体を用意する必要がない。しかし、生化学反応カートリッジ1およびその生化学反応カートリッジ1内で行われる生化学反応に悪影響を与えない限り、別の気体または液体を用いてもよい。
【0039】
さらに、本実施形態の検査装置を、生化学反応カートリッジ1に生化学反応を行わせる生化学処理装置としての機能も兼ね備えたものにすることもできる。そのような構成について、以下に詳細に説明する。
【0040】
生化学処理装置としても機能する検査装置は、図示しないが、テーブル14の周囲に、電磁石と2つのペルチェ素子が配置されている。電磁石は、生化学反応カートリッジ1内に電磁力を作用させるためのものであり、2つのペルチェ素子は、生化学反応カートリッジ1の温度を制御するものである。具体的には、一方のペルチェ素子は、後述するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によるDNA増幅時に温度制御するためのものである。他方のペルチェ素子は、後述する、増幅した検体のDNAとDNAプローブ32とのハイブリダイゼーション時に温度制御するとともに、ハイブリダイゼーションしなかった検体DNAの洗浄時に温度制御するためのものである。
【0041】
生化学反応カートリッジ1の各チャンバ5a〜5tには、検体の処理を行うための様々な液体が、上部あるいはノズル入口3から注入される。その一例を示すと、チャンバ5aには、抗凝固剤であるEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含む細胞を溶解する第1の溶解剤が、チャンバ5bには、界面活性剤等のタンパク質変性剤を含む第2の溶解剤がそれぞれ収容される。チャンバ5cには、DNAが吸着するシリカコーティングされた磁性体粒子が収容される。チャンバ5l、チャンバ5mには、DNAの抽出の際にDNAの精製を行うために用いられる第1、第2の抽出洗浄剤がそれぞれ収容される。チャンバ5dには、DNAを磁性体粒子から溶出する低濃度塩のバッファからなる溶出液が収容される。チャンバ5gには、PCRに必要な薬剤、すなわち、プライマ、ポリメラーゼ、dNTP溶液、バッファ、蛍光剤を含むCy3−dUTP(アマシャム バイオサイエンス株式会社製の蛍光標識)等の混合液が収容される。チャンバ5h,5jには、ハイブリダイゼーションしなかった蛍光物質(蛍光標識)付きの検体DNAと蛍光物質(蛍光標識)とを洗浄するための界面活性剤を含む洗浄剤が収容される。チャンバ5iには、DNAマイクロアレイ12を含むチャンバ9内を乾燥させるためのアルコールが収容される。
【0042】
なお、チャンバ5eは血液のDNA以外の塵埃を溜めるためのチャンバである。チャンバ5fは、チャンバ5l,5mからの第1、第2の抽出洗浄剤の廃液を溜めるためのチャンバである。チャンバ5rは第1、第2の洗浄剤の廃液を溜めるためのチャンバである。チャンバ5k,5o,5tは、溶液がノズル入口に流れ込まないようにするために設けられたブランクのチャンバである。
【0043】
本実施形態では、この生化学反応カートリッジ1に血液等の液体状の検体を注入して、前記した検査装置(図1参照)にセットする。そして、生化学反応カートリッジ1の内部で、DNA等の抽出および増幅を行わせ、増幅された検体DNAと生化学反応カートリッジ1の内部にあるDNAマイクロアレイ12のDNAプローブとの間で、ハイブリダイゼーションを行わせる。一方、ハイブリダイゼーションしなかった蛍光物質(蛍光標識)付きの検体DNAと蛍光物質(蛍光標識)の洗浄を行うことができる。
【0044】
この検査装置および生化学反応カートリッジ1を用いて、本実施形態において検体の生化学反応を生化学反応カートリッジ1内にて生じさせる方法について具体的に説明する。
【0045】
まず、作業者が、検体である血液を収容した注射器の針(図示せず)を、生化学反応カートリッジ1の検体入口2aを塞いでいるゴムキャップ2を貫通させて、注射器内の血液を検体入口2aからチャンバ7に注入する。そして、作業者は生化学反応カートリッジ1をテーブル14上に置く。さらに、作業者が、前記したステップS1と同様に、図示しないレバーを操作して、ノズルブロック19,20を図1の矢印の方向に移動させる。すると、ポンプノズル17a〜17j,18k〜18tが、生化学反応カートリッジ1の両側部のノズル入口3a〜3tに、ゴムキャップ3を貫通して挿入される。
【0046】
作業者が、図示しない入力部から実験開始の命令を入力すると処理が始まる。図7は生化学反応およびその後処理の手順を説明するフローチャートである。
【0047】
まず、ステップS21で、制御部25が、ポンプノズル17a〜17j,18k〜18tを制御してノズル入口3a,3kのみを開にし、電動シリンジポンプ15から空気を噴出し、電動シリンジポンプ16から空気を吸引する。それによって、チャンバ5a内の第1の溶血剤を、血液の入ったチャンバ7に流し込む。このように、ノズル入口3aにポンプノズル17aを挿入して空気を噴出して加圧し、ノズル入口3kにポンプノズル18kを挿入して空気を吸引して減圧することによって、チャンバ5a内の第1の溶解剤が血液の入ったチャンバ7内に流れ込む。
【0048】
本実施形態では、空気の供給および吸引のタイミングをずらすことによって、各チャンバへの加圧および減圧を制御してカートリッジ1内の溶液を円滑に流すことができる。さらに、電動シリンジポンプ16による空気の吸引を、電動シリンジポンプ15からの空気の噴出開始時からリニアに増加させるなどの細かな制御を行って、溶液をより円滑に流すことも可能である。例えば、溶解剤の粘性や流路の抵抗にもよるが、ステップS21において、電動シリンジポンプ19からの空気の吸引を、電動シリンジポンプ18からの空気の噴出を開始してから10〜200ミリ秒後に開始するように制御する。それによると、流れる溶液の先頭で溶液が飛び出すことがなく、溶液が円滑に流れる。これは、以下の各工程における溶液の移動についても同様である。
【0049】
また、電動シリンジポンプ15,16を用いて空気の供給を容易に制御しつつ、ノズル入口3a,3oのみを開にして、電動シリンジポンプ15,16によって空気の噴出および吸引を交互に繰り返す。こうして、チャンバ7の溶液を流路10に流し、その後に戻す動作を繰り返して攪拌を行う。あるいは、電動シリンジポンプ16から空気を連続して噴出することによって、気泡を発生させながら攪拌を行う。このようにして、第1の溶解剤の流動および撹拌の工程(ステップS21)を行う。
【0050】
次に、ステップS22において、第2の溶解剤の流動および撹拌の工程を行う。すなわち、ノズル入口3b,3kのみを開にして、ステップS21と同様の原理でチャンバ5b内の第2の溶解剤をチャンバ7に流し込む。そして、ステップS21と同様の攪拌を行う。
【0051】
ステップS23において、磁性体粒子の流動および撹拌の工程を行う。すなわち、ノズル入口3c,3kのみを開にして、ステップS21,S22と同様の原理でチャンバ5c内の磁性体粒子をチャンバ7に流し込む。そして、ステップS21と同様の攪拌を行う。このステップS23によって、ステップS21,S22において細胞が溶解して得られたDNAが磁性体粒子に付着する。
【0052】
ステップS24において、磁性体粒子およびDNAの捕捉工程を行う。すなわち、電磁石をオンにし、ノズル入口3e,3kのみを開にし、電動シリンジポンプ16から空気を噴出し、電動シリンジポンプ15から空気を吸引して、チャンバ7内の溶液をチャンバ5eに移動させる。この移動の際に、磁性体粒子およびDNAを、流路10の電磁石の上方位置で捕捉する。なお、電動シリンジポンプ15,16による空気の吸引および噴出を交互に繰り返して、溶液をチャンバ7と5eの間を2回往復させることにより、DNAの捕捉効率を向上させている。さらに往復回数を増やせば、捕捉効率を一層高めることができる。ただし、処理時間が余分に掛かることになる。
【0053】
このように、ステップS21〜S24にて、幅1〜2mm程度で高さ0.2〜1mm程度の小さい流路10上で、流動状態のDNAを、磁性体粒子を利用して極めて効率良く捕捉する。なお、仮に、捕捉ターゲット物質がDNAではなく、RNAまたはタンパク質の場合にも同様に効率の良い捕捉が行える。
【0054】
ステップS25において、第1の抽出洗浄液により洗浄した後に磁性体粒子およびDNAを捕捉する工程を行う。すなわち、電磁石をオフにし、ノズル入口3f,3lのみを開とする。そして、電動シリンジポンプ16から空気を噴出し、電動シリンジポンプ15から空気を吸引して、チャンバ5l内の第1の抽出洗浄液をチャンバ5fに移動させる。この際に、ステップS24で捕捉された磁性体粒子およびDNAが、抽出洗浄液と共に移動して洗浄が行われる。さらに、電磁石をオンにして、ステップS24と同様の原理で磁性体粒子およびDNAと抽出洗浄液とをチャンバ5l内とチャンバ5fの間を2回往復させる。それによって、洗浄された磁性体粒子およびDNAを流路10の電磁石の上方位置に回収し、第1の抽出洗浄液をチャンバ5lに戻す。
【0055】
ステップS26において、第2の抽出洗浄液により洗浄した後に磁性体粒子およびDNAを捕捉する工程を行う。ここでは、ノズル入口3f,3mのみを開いてステップS25と同様の工程を行う。すなわち、チャンバ5m内の第2の抽出洗浄液と、磁性体粒子およびDNAとを移動させて、磁性体粒子およびDNAをさらに洗浄してから電磁石14の上方位置に回収し、第2の抽出洗浄液をチャンバ5mに戻す。
【0056】
ステップS27において、電磁石14をオンにしたまま、ノズル入口3d,3oのみを開にし、電動シリンジポンプ15から空気を噴出し、電動シリンジポンプ16から空気を吸引する。それによって、チャンバ5d内の溶出液をチャンバ8に移動させる。この溶出液の作用によって、磁性体粒子とDNAが分離し、DNAのみが溶出液とともにチャンバ8に移動し、磁性体粒子は流路10内に残る。
【0057】
次に、ステップS28において、溶出されたDNAの増幅工程を行う。すなわち、ノズル入口3g,3oのみを開にし、電動シリンジポンプ15から空気を噴出し、電動シリンジポンプ16から空気を吸引する。それによって、チャンバ5g内のPCR用薬剤(例えば、プライマ、ポリメラーゼ、dNTP溶液、バッファ、蛍光標識等の混合液)をチャンバ8に流し込む。さらに、ノズル入口3g,3tのみを開にし、電動シリンジポンプ15,16による空気の噴出および吸引を交互に繰り返し、チャンバ8の溶液を流路11に流して、その後に戻す動作を繰り返して攪拌を行う。そして、ペルチェ素子を制御して、チャンバ8内の溶液を96℃の温度に10分保持した後に、96℃・10秒、55℃・10秒、72℃・1分のサイクルを30回繰り返してPCRを行い、溶出されたDNAを増幅する。
【0058】
ステップS29で、ハイブリダイゼーション工程を行う。すなわち、ノズル入口3g,3tのみを開にし、電動シリンジポンプ15から空気を噴出し、電動シリンジポンプ16から空気を吸引して、チャンバ8内の溶液をチャンバ9に移動させる。さらに、ペルチェ素子を制御して、チャンバ9内の溶液を45℃で2時間保持し、ハイブリダイゼーションを行わせる。この時、電動シリンジポンプ15,16による空気の噴出および吸引を交互に繰り返して、チャンバ9内の溶液を流路6tに移動し、その後に戻す動作を繰り返して攪拌を行いながら、ハイブリダイゼーションを進める。
【0059】
ステップS30において、第1の洗浄液による洗浄工程を行う。すなわち、ステップS29と同様に45℃に保持したまま、今度はノズル入口3h、3rのみを開にし、電動シリンジポンプ15から空気を噴出し、電動シリンジポンプ16から空気を吸引する。それによって、チャンバ9内の溶液をチャンバ5rに移動させるとともに、チャンバ5h内の第1の洗浄液を、チャンバ9を通してチャンバ5rに流し込む。このように、ノズル入口3hにポンプノズル17hを挿入し空気を噴出して加圧し、ノズル入口3rにポンプノズル18rを挿入し空気を吸引して減圧することによって、チャンバ5h内の第1の洗浄液が、チャンバ9を通してチャンバ5r内に流れ込む。電動シリンジポンプ15,16の吸引および噴出を交互に繰り返して、この溶液をチャンバ5h,9,5rの間を2回往復させ、最後にチャンバ5hに戻す。このようにして、ハイブリダイゼーションしなかった蛍光標識付きの検体DNAと蛍光標識とが洗浄される。
【0060】
ステップS31において、第2の洗浄液による洗浄工程を行う。すなわち、ステップS29,S30と同様に45℃に保持したまま、ノズル入口3j、3rのみを開いて、ステップS30と同様の工程を行う。すなわち、チャンバ5j内の第2の洗浄液を、チャンバ9を通してチャンバ5rに流し込んでDNAの洗浄をさらに行い、最後に溶液をチャンバ5jに戻す。
【0061】
ステップS32で、アルコールの流動および乾燥の工程を行う。すなわち、ノズル入口3i,3rのみを開にし、電動シリンジポンプ15から空気を噴出し、電動シリンジポンプ16から空気を吸引して、チャンバ5i内のアルコールを、チャンバ9を通してチャンバ5rに移動させる。その後に、ノズル入口3i,3tのみを開にし、電動シリンジポンプ15から空気を噴出し、電動シリンジポンプ16から空気を吸引してチャンバ9内を乾燥させる。
【0062】
以上述べたステップS21〜S32によって、検体の生化学反応(例えばDNAのハイブリダイゼーション)を生化学反応カートリッジ1内で行わせることができる。
【0063】
なお、本実施形態では、ノズル入口3a〜3tがカートリッジ1の2つの面、つまり両側部に集中して設けられている。そのため、電動シリンジポンプ15,16、電動切換バルブ、ポンプノズル17a〜17j,18k〜18tを内蔵したノズルブロック19,20等の形状や配置を単純化することができる。さらに、必要なチャンバや流路を確保しながら、ノズルブロック19,20により生化学反応カートリッジ1を同時に挟み込むという単純な動作だけで、ポンプノズル17a〜17j,18k〜18tをノズル入口3a〜3tに挿入できる。それによって、ノズルブロック19,20の構成も簡単にすることができる。また、ノズル入口3a〜3tを全て同じ高さに直線的に並ぶように配置することによって、ノズル入口3a〜3tに接続される流路4a〜4tの高さは全て同じになり、流路4a〜4tの作製が容易になる。
【0064】
以上説明した処理工程(ステップS21〜S32)の後に、作業者が図示しないレバーを操作して、ノズルブロック19,20を生化学反応カートリッジ1から離れる方向に移動させる。それによって、ポンプノズル17a〜17j,18k〜18tが生化学反応カートリッジ1のノズル入口3a〜3tから外れる。そして、DNAマイクロアレイ12に捕捉された、ハイブリダイゼーションされたDNAを、図示しない蛍光検出ユニットによって検出する(ステップS33)。
【0065】
以上説明した通り、本実施形態の生化学反応カートリッジ1は、検体の注入口と、検体が入るチャンバと、試薬が入ったチャンバと、検体・試薬の混合液・反応液が流れるチャンバと、流路と、複数のノズル入口とを有する。ノズル入口はチャンバに連通しており、ノズル入口とチャンバの間の流路には空気が存在している。ノズル入口3a〜3tに加圧または減圧を行うノズル17a〜17j,18k〜18tが挿入され、このノズル17a〜17j,18k〜18tによって空気が加圧または減圧されると、検体や試薬が各チャンバ間を移動する。その結果、生化学反応カートリッジ1の内部で一連の生化学反応が行われる。前記したように蛍光物質が標識されているDNAを検体として用いると、生化学反応の結果は蛍光の強度を検出することで求められる。
【0066】
本実施形態では、前記した検査装置が、生化学反応装置としても機能する。逆に言うと、本実施形態によると、生化学反応カートリッジ1が装着される生化学反応装置に、従来存在しなかった、流路の異常の検査装置を含ませることが可能になっている。特に、電動シリンジポンプ15,16、チューブ21,22、ノズルブロック19,20、ポンプノズル17a〜17j,18k〜18t、電動切換バルブ、および制御部25は、流路の異常の検査と生化学反応とに共通に用いることができる。従って、装置の簡略化、省スペース化、および低コスト化の効果が極めて大きい。また、異常の検査と生化学反応とを同一装置で続けて行うことができるため、作業が容易になるとともに、作業時間の短縮が図れる。
【0067】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態の検査装置について説明する。図8に示すように、本実施形態の検査装置には、チューブ21に1つの圧力センサ23のみが配置され、圧力センサ24は省略されているが、それ以外の構成は全て第1の実施形態と同様である。
【0068】
本実施形態における生化学反応カートリッジ1の異常検査方法について、図9のフローチャートを参照して説明する。ここでは、ノズル入口3dからノズル入口3lに至る流路の検査を行う例について述べる。まず、ノズルブロック19,20のポンプノズル17a〜17j,18k〜18tを、生化学反応カートリッジ1の両側部のノズル入口3a〜3tに、ゴムキャップ3を貫通させて挿入する(ステップS41)。次に、ノズルブロック19,20の電動切換バルブを作動させて、ノズル17dとノズル18lのみが電動シリンジポンプ15,16にそれぞれ連通するようにする(ステップS42)。
【0069】
次に、電動シリンジポンプ16のピストンを図8の矢印方向に動かして負圧を発生させる(ステップS43)。このとき、電動シリンジポンプ15は、ピストンが動かないように固定しておく。このように電動シリンジポンプ16を作動させることによって、詰まりや漏れが無ければ、流体(例えば空気)の大部分は以下の経路を通って吸引される。この流路とは、チューブ21、ノズル17d、ノズル入口3d、流路4d、チャンバ5d、流路6d、流路10の、流路6dと流路6lの間の部分、流路6l、チャンバ5l、流路4l、ノズル入口3l、ノズル18l、チューブ22である。この流路以外の連通した流路にも、圧力の降下に応じて流体の流れは生じる。生化学反応カートリッジ1内は連通しているので、詰まりや漏れが無ければ、電動シリンジポンプ16の作動によって生化学反応カートリッジ1内は全て一様に圧力降下するはずである。このことを確認するために、本実施形態では、圧力センサ23によって、流入側のチューブ21内の圧力降下を測定する(ステップS44)。そして、圧力センサ23によって測定された圧力降下が、所定の範囲内に入っていれば、ノズル入口3dからノズル入口3lに至る経路内に異常が無いとみなす。
【0070】
例えば本実施形態では、異常が無い場合には、電動シリンジポンプ15を5秒間作動させることによって、ピストンが10mm移動し、経路内が全て2kPaだけ圧力が降下するように設定されている。ここで、例えば許容誤差を0.4kPaとすると、許容できる最小値PAが1.6kPaと設定される。そして、圧力センサ23によって測定された圧力降下値P23が、1.6kPa以上になっているかどうかを調べる(ステップS45)。圧力センサ23の圧力降下値P23が1.6kPa以上である場合には、正常と判断して、図示しない表示手段に「正常」を表す表示を行う(ステップS46)。そして、ノズル入口3dからノズル入口3lに至る流路の検査を終了する。
【0071】
圧力センサ23の圧力降下値P23が1.6kPaより小さい場合には、流路内の詰まり、または流体の漏れの原因となる亀裂や穴のような不具合などの異常が発生していると判断し、図示しない表示手段に「異常」を表す表示を行う(ステップS47)。なお、電動シリンジポンプ16を作動させた後の、一瞬のみの圧力センサ23の値を求めるのではなく、ある期間(例えば1秒間)の測定値の変動を求めると、特に漏れの原因となる亀裂や穴などの不具合の検知に効果的である。すなわち、その期間中に流体(例えば空気)が流路内に流入するため、圧力が上昇するので、例えば1秒の間に圧力が上昇したか上昇しなかったかを確認すると、漏れの原因となる不具合の検知がより容易にできる。
【0072】
本実施形態では、ステップS42において、電動シリンジポンプ16を作動させて流路内を減圧している。この方法によると、生化学反応カートリッジ1内に何らかの流体を収容している場合に、仮に生化学反応カートリッジ1内に流体の漏れの原因となる亀裂や穴などの不具合が生じていても、収容している流体が検査時に外部に漏れることがないという利点がある。
【0073】
しかし、第1の実施形態と同様に、流路内を加圧する場合にも、本実施形態のように1個の圧力センサ23のみによって異常の検査を行うことができる。
【0074】
なお、第1の実施形態のように2個の圧力センサ23,24を用い、かつ第2の実施形態のように流路内を減圧して検査を行うようにすることもできる。
【0075】
また、以上の第1の実施形態、第2の実施形態とも、生化学反応カートリッジ1がチャンバを有しているが、チャンバを有さない生化学反応カートリッジを用いることもできる。その場合でも、前記したのと同様の方法で、生化学反応カートリッジ内部の流路の詰まりや、流体の漏れの原因となる不具合などの異常の有無を検査することが可能である。
【0076】
さらに、いずれの実施形態も圧力センサを用いて圧力あるいは圧力の変化を測定しているが、流量センサを用いて流量を測定しても良い。
【0077】
前記の実施形態では、検査すべき生化学反応カートリッジの流路において実際に測定された圧力または圧力変化(あるいは流入量または流出量)を、予め求められている、正常な流体の流れに伴う圧力または圧力変化(あるいは流入量または流出量)と比較した。この比較対象となる、正常な流体の流れに伴う圧力または圧力変化(あるいは流入量または流出量)は、計算によって求めた理論値であってもよいが、異常がないことが予め判っている生化学反応カートリッジを用いて実験的に求めた実験値であってもよい。また、異常の判定においては、これらを比較した際に、両者が一致する場合のみを異常なしとしてもよいが、前記した実施形態のように、ある程度の誤差を許容して、上限値と下限値を設定し、その範囲内に入るものを異常なしと判定してもよい。許容される誤差の範囲に関しては、使用者がその都度任意に設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第1の実施形態の生化学反応カートリッジの検査装置の、生化学反応カートリッジが装着されていない状態の模式的平面図である。
【図2】図1に示す生化学反応カートリッジの検査装置の、生化学反応カートリッジが装着された状態の模式的平面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態において用いられる生化学反応カートリッジの斜視図である。
【図4】図3に示す生化学反応カートリッジの平面断面図である。
【図5】図1,2に示す検査装置による生化学反応カートリッジの検査方法のフローチャートである。
【図6】図1に示す生化学反応カートリッジの検査装置の、生化学反応カートリッジの他の流路の検査を行う状態を示す模式的平面図である。
【図7】図1,2に示す検査装置を生化学反応処理装置として機能させる際の処理方法のフローチャートである。
【図8】本発明の第2の実施形態の生化学反応カートリッジの検査装置の、生化学反応カートリッジが装着された状態の模式的平面図である。
【図9】図8に示す検査装置による生化学反応カートリッジの検査方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0079】
1 生化学反応カートリッジ
2a 検体入口(流体出入口)
3a〜3t ノズル入口(流体出入口)
4a〜4t,6a〜6t,10,11 流路
5a〜5t,7,8,9 チャンバ
15,16 電動シリンジポンプ
21,22 チューブ(管路)
23,24 圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流路と、該流路に連通する複数の流体出入口とを有し、前記流体出入口を除いて前記流路が実質的に密閉されている生化学反応カートリッジの検査方法であって、
前記複数の流体出入口のうちの少なくとも1つを流入用、他の前記流体出入口のうちの少なくとも1つを流出用として設定し、流入用として設定された前記流体出入口を1つの管路と接続し、流出用として設定された前記流体出入口を他の管路と接続し、かつ、流入用または流出用として設定されていない前記流体出入口を封止するステップと、
流入用として設定された前記流体出入口に接続された前記管路から、流出用として設定された前記流体出入口に接続された前記他の管路まで連通する経路内に、流体を流れさせるステップと、
前記流体が前記経路内を流れる際の、流入用として設定された前記流体出入口に接続された前記管路内の圧力または圧力変化または前記管路からの前記流体の流入量、および/または流出用として設定された前記流体出入口に接続された前記他の管路内の圧力または圧力変化または前記他の管路への前記流体の流出量を測定するステップと、
測定された圧力または圧力変化または流入量または流出量を、予め求められている、正常な前記経路内の前記流体の流れに伴う圧力または圧力変化または流入量または流出量と比較して、異常の有無を判定するステップと
を含む、生化学反応カートリッジの検査方法。
【請求項2】
前記経路内に流体を流れさせるステップは、流入用として設定された前記流体出入口に接続された前記管路から前記流体を加圧して流すステップであり、
前記異常の有無を判定するステップは、測定された圧力または圧力上昇または流入量または流出量を、予め求められている、正常な前記経路内の前記流体の流れに伴う圧力または圧力上昇または流入量または流出量と比較するステップである、
請求項1に記載の生化学反応カートリッジの検査方法。
【請求項3】
前記経路内に流体を流れさせるステップは、流入用として設定された前記流体出入口に接続された前記管路に接続されたポンプにより前記流体を加圧するステップを含む、請求項2に記載の生化学反応カートリッジの検査方法。
【請求項4】
前記経路内に流体を流れさせるステップは、流出用として設定された前記流体出入口に接続された前記他の管路から前記流体を吸引するステップであり、
前記異常の有無を判定するステップは、測定された圧力または圧力降下または流入量または流出量を、予め求められている、正常な前記経路内の前記流体の流れに伴う圧力または圧力降下または流入量または流出量と比較するステップである、
請求項1に記載の生化学反応カートリッジの検査方法。
【請求項5】
前記経路内に流体を流れさせるステップは、流出用として設定された前記流体出入口に接続された前記他の管路に接続されたポンプにより負圧を発生させるステップを含む、請求項4に記載の生化学反応カートリッジの検査方法。
【請求項6】
前記ポンプは、前記生化学反応カートリッジにて生化学反応を生じさせるために前記生化学反応カートリッジ内部で流体を移動させるための正圧または負圧を発生させるものである、請求項3または5に記載の生化学反応カートリッジの検査方法。
【請求項7】
前記経路内に流れさせる前記流体は空気である、請求項1から6のいずれか1項に記載の生化学反応カートリッジの検査方法。
【請求項8】
複数の流路と、該流路に連通する複数の流体出入口とを有し、前記流体出入口を除いて前記流路が実質的に密閉されている生化学反応カートリッジのための検査装置であって、
前記複数の流体出入口をそれぞれ独立して選択的に開放または封止するバルブ機構と、
各々が、前記バルブ機構により開放された前記流体出入口の少なくとも1つに接続可能な、複数の管路と、
前記複数の管路のうちの少なくとも1つに接続されている少なくとも1つの圧力センサまたは流量センサと、
前記バルブ機構により開放された前記流体出入口のうちの少なくとも1つに接続された1つの管路から、前記バルブ機構により開放された他の前記流体出入口に接続された他の管路に至る流体の流れを生じさせるように、前記ポンプを作動させることができ、かつ、前記流体の流れを生じさせた際に前記圧力センサまたは流量センサにより測定された圧力または圧力変化または流量を、予め求められている、正常な前記経路内の前記流体の流れに伴う圧力または圧力変化または流量と比較して、異常の有無を判定する制御部と
を有する、生化学反応カートリッジの検査装置。
【請求項9】
2つの前記圧力センサまたは流量センサが、前記1つの管路と前記他の管路にそれぞれ接続されており、
前記制御部は、前記ポンプの作動により前記流体が流れる際に2つの前記圧力センサまたは流量センサによりそれぞれ測定された圧力または圧力変化または流量を、予め求められている、正常な前記経路内の前記流体の流れに伴う圧力または圧力変化または流量とそれぞれ比較して、異常の有無を判定するものである
請求項8に記載の生化学反応カートリッジの検査装置。
【請求項10】
前記ポンプは、前記1つの管路から前記流体に加圧するものであり、
前記制御部は、前記ポンプの作動により前記流体が流れる際に前記圧力センサまたは流量センサにより測定された圧力または圧力上昇または流量を、予め求められている、正常な前記経路内の前記流体の流れに伴う圧力または圧力上昇または流量と比較して、異常の有無を判定するものである
請求項8または9に記載の生化学反応カートリッジの検査装置。
【請求項11】
前記ポンプは、前記他の管路から前記流体を吸引するものであり、
前記制御部は、前記ポンプの作動により前記流体が流れる際に前記圧力センサまたは流量センサにより測定された圧力または圧力降下または流量を、予め求められている、正常な前記経路内の前記流体の流れに伴う圧力または圧力降下または流量と比較して、異常の有無を判定するものである
請求項8または9に記載の生化学反応カートリッジの検査装置。
【請求項12】
複数の流路と、該流路に連通する複数の流体出入口とを有し、前記流体出入口を除いて前記流路が実質的に密閉されている生化学反応カートリッジ内で、生化学反応を起こさせるための生化学処理装置であって、
請求項8から11のいずれか1項に記載の生化学反応カートリッジの検査装置を含み、
前記ポンプは、前記生化学反応カートリッジを検査するために、前記1つの管路から前記他の管路に至る経路内を加圧または減圧することができ、かつ、前記生化学反応を生じさせるために前記生化学反応カートリッジ内部で流体を移動させるための正圧または負圧を発生させ得るものである、
生化学処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−139096(P2008−139096A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323953(P2006−323953)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】