説明

生活習慣病改善食品および生活習慣病治療薬

【課題】 本発明は、経口投与を主な手段とする生活習慣病改善治療にかかわり生活習慣病を改善する食品および経口投与を含む高血圧症治療薬を提供する
【解決手段】 生活習慣病改善食品および生活習慣病治療薬において、ビタミンB群に属する水溶性ビタミンの一種であるビオチンを含有する。本発明に係る生活習慣病改善食品は、副作用が少なく簡便な経口摂取法で用いることができることから、生活習慣病予防のための健康食品、高血圧症の人のための機能性食品、糖尿病、リウマチ、アトピー性皮膚炎の改善等の様々な分野に適用できる。また本発明によって得られる高血圧症治療薬は、腹腔内投与や長期経口摂取による治療法を用いて、高血圧症が原因で引き起こされる病気に幅広く用いることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口投与を主な手段とする高血圧改善治療に関り、生活習慣病を改善する食品および経口投与を含む生活習慣病治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
本態性高血圧の成因としては、遺伝、運動不足、ストレス、肥満など様々なものが考えられているが、その中でも高インスリン血症、インスリン抵抗性が主な成因とされている。この高インスリン血症、インスリン抵抗性治療薬として副作用が少なく、簡便な形態で利用できる治療薬が望まれている。
【0003】
ビオチンは、ビタミンB群に属する水溶性ビタミンの一種であり、哺乳類動物において4つのカルボキシラーゼの補酵素として働いていることは現在広く知られている。この意味で、副作用がなく、過摂取による弊害も心配ない。尚、これらのホロカルボキシラ−ゼ(ビオチン結合カルボキシラーゼ)は、脂肪酸合成(アセチルCoAカルボキシラ−ゼ)、糖新生とエネルギー代謝(ピルビン酸カルボキシラ−ゼ)、分岐鎖アミノ酸代謝と奇数鎖脂肪酸代謝(プロピオニルCoAカルボキシラ−ゼ)、ロイシン分解(β-メチルクロトニルCoAカルボキシラ−ゼ)において重要な役割を果たしている。これらの反応への関与については、現在その作用機序はよく解明され、ビオチンの直接的な生理作用として理解されている。
【0004】
通常ビオチンは、3つの再利用サイクル、((1):腸管から吸収されたビオチンの細胞‐血液間再利用サイクル、(2)細胞内での再利用サイクル、(3)腎臓での再利用サイクル)によって体内循環され、さらに腸内細菌からも供給されるため、一般的には欠乏症は発症しないものと認識されてきた。
【0005】
しかし、生体を取り巻く種々の環境因子による腸内細菌叢の変化や、ビオチンの生体内消費量の異常増加が引き金となり、潜在性欠乏状態に陥るケースが確認されている。実際に、血清ビオチン濃度の低下は、糖尿病、リウマチ等の成人病患者やアトピー性皮膚炎患者で観察され、また薬理量のビオチンを内服させることにより症状の改善が認められたことから、ビオチンが医療面において効果を発揮することが示された。
【0006】
糖尿病に対するビオチンの効果は、ヒトでの臨床的研究をはじめ、いくつかの実験動物でも確認されている。しかし糖尿病改善の作用機序となると確定的な結論にまで至った報告は全くない。
【0007】
1970年にDeodhar等は、ビオチンがこれまでの直接的作用のほかに、高インスリン血症、インスリン抵抗性に関わるインスリン分泌や糖輸送系にも関与している可能性のあることを見出し、Coggeshall等は、薬理的量のビオチン投与によってインスリン依存型糖尿病患者の絶食時血糖の低下が見られことを報告した。またReddi等は、インスリン非依存型糖尿病マウス(kkマウス)に2-4mg/kg diet のビオチンを8週間投与することにより、耐糖能の低下が認められたことを報告した。
【0008】
しかし、これらの糖尿病に対するビオチンの改善効果も、インスリン分泌にはなんら影響は見られず、また、これらの試験的な知見以降、この分野での研究は報告されていない。
【非特許文献1】前橋賢等: 診断と治療、80(8)、(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように従来の技術では、生活習慣病改善食品および生活習慣病治療薬、特に、高血圧症において、高インスリン血症、インスリン抵抗性に対して副作用が少なく、簡便な形態で利用できる治療薬がないという問題があった。
【0010】
本発明は、ビタミンB群に属する水溶性ビタミンの一種であり、体内で補酵素として働いているビオチンを含んだ健康食品ならびに治療薬により、副作用が少なく、簡便な形態で利用できる生活習慣病改善食品および生活習慣病治療薬を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、生理活性物質を食品中に強化した健康食品において、ビタミンB群に属する水溶性ビタミンの1種であるビオチンを一定量以上添加したことを特徴とする生活習慣病改善食品が得られる。
【0012】
また本発明は、前記の生活習慣病改善食品において、前記生活習慣病は、高血圧症であることを特徴とする生活習慣病改善食品を提供する。
【0013】
また本発明は、前記の生活習慣病改善食品において、前記生活習慣病はリュウマチ、糖尿病等の成人病乃至アトピー性皮膚炎の内1つあるいは複数であることを特徴とする生活習慣病改善食品を提供する。
【0014】
また本発明は、前記生活習慣病改善食品において、ビオチンの含有量は、1回当たりの摂取量において、体重200グラムあたり0.5ミリグラム以下であることを特徴とする前記記載の内の1つの生活習慣病改善食品を提供する。
【0015】
また本発明は、高血圧症治療薬においてビオチンを含み経口摂取することを特徴とする生活習慣病治療薬を提供する。
【0016】
また本発明は、高血圧症治療薬においてビオチンを含み腹腔内投与することを特徴とする生活習慣病治療薬を提供する。
【発明の効果】
【0017】

本発明によれば、ビオチンを生活習慣病改善食品および生活習慣病治療薬に含有したので常時摂取がし易く、副作用も心配がないという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
発明者等はこれまで、ビオチン欠乏ラットにおけるグルコース応答性インスリン分泌を経口糖負荷試験により検討し、ビオチンが血漿インスリン濃度に何らかの影響を与えていること、単離膵還流による検討からビオチン欠乏でない通常のラットでもインスリン分泌増強作用を持つことを見出している。
【0020】
また糖尿病発症初期の糖尿病モデルラットであるOLETFラットに高ビオチン含有食を給餌することにより耐糖能障害を改善することを観察し、ビオチンによって糖尿病の発症が遅延する可能性を見出し、さらに低インスリン血症へと移行したOLETFラットに薬理的量のビオチンを長期摂取させると、インスリンの分泌の改善を伴わずに高血糖が改善される
こと、また糖尿病モデルラットであるSTZラットにおいて、ビオチンの腹腔内投与により下肢筋肉での糖取り込みが増加することを見出している。
【0021】
またインスリン非依存型を呈したOLETFラットに長期的にビオチン水を投与することにより、経口糖負荷試験でインスリン分泌量の減少、血糖値の減少を確認し、耐糖能が改善したことを確認した。長期ビオチン投与終了後に下肢還流を行った結果、下肢筋肉でコントロール群に比較して糖取り込みが増大し、それはCM(粗膜画分)GLUT4(インスリン依存性グルコーストランスポーター)タンパク質の増加に起因しているものであることが確認された。しかしトランスロケーションの評価として細胞膜(PM)および細胞内膜(IM)に分けてGLUT4量を検討したが差は見られなかった。
【0022】
また本態性高血圧とともにインスリン抵抗性を示すSHRSP(stroke-prone spontaneously hypertensive rat:脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット)を用いてビオチン投与後に下肢還流を行った結果、コントロールに比較して糖取り込みが増大することを確認したが、骨格筋のCM GLUT4タンパク質量に変化が見られず、ビオチンによるインスリン抵抗性改善の作用期序の確固たる解明には至っていない。
【0023】
ビオチンは上記以外にも、ヒストンをビオチン化して転写や複製に関わることが示唆されている。ビオチンが遺伝子発現に関わるものとしてはグルコキナーゼ、ホスホエノ−ルピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)などがあり、仮説的に遺伝子に及ぼすビオチンの影響はcGMPによって媒介されると考えられている。cGMPはRNAやタンパク質合成を促進することが知られており、またビオチンがグアニル酸シクラーゼの活性化を介してcGMP量を増大させることが小腸、肝臓、心臓、腎臓などの組織で観察されている。
【0024】
一方、NO(一酸化窒素)は可溶型グアニル酸シクラーゼを標的にしてcGMPを増加させることで血管弛緩作用をもたらすことが知られている。そのため、SHRSPにビオチン水を長期投与することにより、血圧の上昇抑制作用を確認がなされ、新たなビオチンの生理作用の可能性が示唆されている。本態性高血圧の成因には遺伝、運動不足、肥満など様々な因子があるが、中でもインスリン抵抗性、高インスリン血症が主なものであるものと考えられている。SHRSPは高インスリン血症、高中性脂肪血症、高血圧を示しヒトのインスリン抵抗性症候群とよく類似した代謝異常を示す動物である。
【0025】
本発明では、発明の実施例の示唆としてSHRSPを用いてビオチンが高血圧に与える影響を示し、さらに作用期序の解明を行う。この作用期序の解明により、本発明による高血圧症改善食品および高血圧症治療薬の効果がいっそう明らかになるものである。
【0026】
図1は本発明の実施の効果を説明するためのビオチンの長期投与が血圧に与える影響を示す図である。実験動物と実験方法は以下の通りである。
(実験動物)
自家繁殖を行っているSHRSP/Izm, WKY/Izm, および船橋農場より購入したWistar/Slc(以後、Wistarと略)の雄4週令を用いた。動物は室温23℃、室温50±5%、朝8時点灯、夜8時消灯の12時間明暗サイクルに設定された部屋で飼育した。
(実験方法)
各動物種を最高血圧によりコントロール群(蒸留水摂取)とビオチン群(3.3mgビオチン/L摂取)の2群(各群6匹)に分け、8週間の実験期間の間、毎週体重、最高血圧の測定(詳細は、以下に示した)を行なった。同時に、飲水量を測定した。飼料には固形飼料のF-2(船橋農場)を与えた。
〜血圧測定〜
ラット・マウス用無加温型非観血式血圧計MODEL MK2000(MUROMACHI KIKAI CO.LTD.)を用いて週に一回、正午に測定を行った。この機械は観血式血圧計と心拍数、最高血圧
において相関が得られており、信頼性の高い血圧計である。最高血圧値は3つの測定値が10mmHg以内になった中間値を選択した。排便の前後、興奮前後の値は除外した。
図1より下記の結果が判る。SHRSPにおいて実験開始2週目より、コントロ−ル群では高血圧領域に入ったがビオチン群では3週目から入っている。このことからビオチンにより高血圧発症が遅延することが確認できる。また実験開始2週目以降、ビオチン群でコントロ−ル群と比較して血圧が15〜20mmHg低下しており、血圧上昇がビオチン摂取により抑えられることが確認できる。またWKYおよびWistarでは実験期間中、血圧上昇は認められず、正常血圧を示している。これらの動物ではビオチン投与による血圧の変化は見られていない。
【0027】
図2は本発明の実施の効果を説明するための高齢SHRSPにおけるビオチン長期投与の影響を示す図である。実験動物と実験方法は以下の通りである。
(実験動物)
SHRSP雄10週齢を用いて前記実験と同様に飼育した。
(実験方法)
血圧にてコントロ−ル群(control)、ビオチン群(biotin)、0.9%食塩水群(SA)、0.9%食塩水+ビオチン群(SA+biotin)の4群に分け(各群5匹)血圧、体重、生存率の検討を行なった。(血圧は、実験開始前、および終了時に測定した)
図2より下記のことが判る。血圧変化においては、8週間目においてSA群で血圧が有意ではないものの上昇する傾向にあり、またビオチン添加群において、それぞれのコントロ−ル群と比較して低下している傾向が見らるが、各群間で有意な差は認められていない。体重はSA群でコントロ−ル群と比較して実験開始8週目で有意に低下(脳卒中発症のため)しており、また生存率は実験開始5週目の時点で60%にまで低下していた。一方、control群は実験開始7週目で体重の低下が確認され、8週目において生存率が80%となった。これらの現象はbiotin群およびSA+biotin群では観察されなかったことから、ビオチン長期摂取により脳卒中および死亡率が低下することが示される。これより、脳卒中の発症および死亡率が減少したこと、並びに図1の結果と合わせると、ビオチン摂取により血圧が減少し、その後に続く症状の発症を抑制したことが判る。
【0028】
以上の説明でビオチンの長期投与による血圧上昇抑制効果を述べたが、次に、ビオチンの単回投与で血圧にどのような影響を与えるか、さらにその作用が何を介してもたらされるのか、作用機序を説明する。図3は本発明の実施の効果を説明するためのビオチン単回投与が血圧に及ぼす影響を示す図で、特に腹腔内投与が血圧に及ぼす影響を示す図である。実験動物と実験方法は以下の通りである。
(実験動物)
SHRSP雄8週齢以上(体重200g以上)を用いて図1の実験と同様に飼育した。
(実験方法)
午前8:30から0時間の血圧を測定し、個別ケ−ジに入れた。実験の間は、自由摂食、自由飲水とした。生理食塩水に溶解したビオチン溶液(0.05, 0.5, 5mg/mL)を1mL腹腔内投与し、投与後2, 4, 6, 8, 10, 24, 48時間目の血圧を測定した。
【0029】
図3より下記のことが判る。5mgビオチン投与群では、コントロ−ルと比較して2時間目で有意に血圧が減少し、その血圧降下作用は10時間目まで続いている。また、0.5mgでは、4時間目から10時間にかけて、0.05mgでは、8時間目においてコントロ−ル群に比べて低くなり、血圧降下作用が確認された。0.5mgと5mgでは大きな差は見られなかったことから0.5mgを超える量を投与しても、それ以上の降下作用は期待できないことが判る。
【0030】
図4は本発明の実施の効果を説明するためのビオチンの経口投与が血圧に及ぼす影響を示す図である。実社会において応用するためには経口投与が最も有効な手段であることから、経口投与による血圧変動の確認は重要な実験である。実験動物と実験方法は以下の通
りである。
(実験動物)
SHRSP雄8週齢以上を用いた。(各群18匹)
(実験方法)
午前8:30に0時間目の最高血圧を測定し、蒸留水に溶解したビオチン溶液(0.5mg/0.5mL)0.5mLを経口投与後、0.5, 1, 2, 4, 6, 8, 10, 24時間目の血圧を測定した。なおケ−ジは集団ケ−ジにいれ、実験期間の間は自由摂食、自由飲水とした。
【0031】
図4より下記のことが判る。ビオチンの経口投与後、コントロ−ルと比較して4時間目においてのみ有意な血圧の減少が示されている。この条件では、腹腔内投与のような顕著な血圧降下作用は見られない。投与法の特性上、経口投与は消化管という関門があるので腹腔内投与と同量投与しても実際それと同じ量が入る可能性が少ないということ、また個別ケ-ジではなかったので本来の作用が見えにくくなっていた可能性も考えられる(1ケ−ジに3匹入れた)。
【0032】
次に、ビオチンが血圧に与える作用機序の説明を行う。
これまででビオチンの長期的投与、また腹腔内単回投与でも有意な血圧降下作用を説明した。ラットの組織ホモジナイズを用いた解析によって、ビオチンは可溶型グアニル酸シクラ−ゼを活性化することにより、cGMP量を増大させることが報告されている。このグアニル酸シクラ−ゼを活性化してcGMP量を上げる経路は、血管拡張因子であるNOと同様であり、ビオチンがこの経路を通して血管拡張に関わっている可能性は高いと考えられる。
【0033】
また、ビオチンが不足することで起こるといわれる、掌せき膿ほう症では鎖骨や助骨に肥大性変化が起こると伴に、狭心症を併発することがあるという。ビオチン欠乏による糖、アミノ酸、脂肪の代謝異常による原因ではないかとの推定のもと、それを防ぐ目的で、ビオチン欠乏ラットにビオチンを100μg腹腔内投与して心電図の変化を観察した結果、ビオチン欠乏ラットでは心筋梗塞様の心電図が確認され、ビオチン投与1時間後には、ペアフィ−ド群の心電図と同様になり、ビオチンによって虚血状態が改善されたことを示したとの、発明者等の実験協力者からの報告がある。このことからもビオチンによって、血管拡張が起こり心電図の改善が生ずることが示唆される。
【0034】
以降では、in vivoの系でNO阻害剤およびグアニル酸シクラ−ゼ阻害剤を用いて、ビオチンの血圧降下作用に及ぼす影響を説明し、作用機序の説明と本発明の産業上での利用可能性を説明する。
【0035】
ビオチンの作用が、NOを介したグアニル酸シクラ−ゼ活性に依存するものなのか否かを確認するために、NO阻害剤との同時投与を行なう。NO阻害剤には、様々な種類が存在する。
L-NAME(NG-nitro-L-arginine methylester), L-NNA(NG-nitro-L-arginine), L-NMMA(NG-monomethyl -L-arginine)の3種がよく知られており、L-NAME, L-NNAはNO合成酵素阻害によるNO産生の抑制とともに活性酸素の産生も抑制する。しかしL-NMMAはNO合成酵素のNO産生のみを特異的に阻害する。またL-NMMAは生体内にも存在しており、代謝速度が早く、腎不全患者で増加しているという報告もある。この阻害剤はin vitroの系で用いられることが多く、NOのみの作用を検討したい場合に用いられる。またL-NAMEは多くのin vivoの系で用いられており、体内でL-NNAに代謝されその濃度が上昇することによって血圧が上昇する。そこでこのL-NAMEを用いてNO合成酵素阻害剤と同時投与によるビオチンの血圧変動を検討し、作用機序の解明と説明を行なう。
【0036】
図5は本発明の作用機序を説明するためのNO合成酵素阻害剤と同時投与での検討を示す図である。実験動物と実験方法は以下の通りである。
(実験動物)
SHRSP雄10週齢(230g以上)を用いた。
(実験方法)
午前8:30に0時間目の血圧を測定後、L-NAME(7.5mg/0.5mL生理食塩水)を前投与(前投与物)し、その15分後にビオチン0.5mg/mL生理食塩水1.0mLを投与した。対照群として、食塩水0.5mL前投与し、その15分後に同様にビオチンあるいは生理食塩水を投与する群を設けた。投与物を投与した時点を0時間とし、その後2, 4, 6時間目まで血圧測定を行なった。各ラットは個別ケ−ジに入れ、実験時間の間は自由摂食、自由飲水とした。投与方法はすべて、腹腔内投与とした。実験条件を表1に示す。
(実験条件)
【0037】
【表1】

【0038】
L-NAME-biotin L-NAME 7.5mgビオチン0.5mg n=5
図5より下記のことが判る。L-NAME群では、2時間目でcontrol群に比較して有意な血圧上昇が見られる。しかしL-NAME+biotin群では、L-NAME群のような血圧上昇が見られず、またbiotin群と同様に血圧降下作用を示していることから、ビオチンの血圧降下作用が、NOを介さずにグアニル酸シクラ−ゼ活性化・cGMP量増加、という経路に起因する可能性が示唆されている。予備検討の段階で、L-NAMEは高濃度投与すると、顕著な心拍数の減少、体温の低下、やがては血圧も異常低値を示し、死亡してしまうことが観察された。これは、血管が収縮しすぎてしまうことによる血流量の減少、すなわち末梢への虚血状態が続くことが原因であると考えられる。今回の実験では濃度は心拍数がやや減少するものの、6時間までには血圧が初期の値に戻る条件で行なっている。L-NAMEと同様にNO合成酵素阻害剤であるL-NMMAを静脈内投与して観血式血圧測定法にて平均血圧および心拍数を測定した報告でも、心拍数の低下、および血圧値の上昇が確認されている。心拍数が減少する理由として、血圧上昇による代償性反応であるとされている。
【0039】
上記において、ビオチンがより直接的に関わり、cGMP量を増加させている要因と考えられ、可溶型グアニル酸シクラ−ゼに対する検討を、本酵素の阻害剤を用いて行なってきた。LY83583、ODQ、メチレンブル−などはグアニル酸シクラーゼ阻害剤として知られ、それぞれ特性がある。LY83583は、アデニル酸シクラ−ゼ阻害作用も併せ持ち、メチレンブル−は、NO合成酵素活性の阻害作用、カリウムチャネルの阻害作用、活性酸素種の産生作用など、可溶型グアニル酸シクラ−ゼ阻害作用以外の作用を併せ持つことが知られている。ODQは特異的で不可逆的な可溶型グアニル酸シクラ-ゼの阻害剤であり、この阻害剤を用いて、より直接的にビオチンの作用機序を解明する。
【0040】
図6は本発明の作用機序を説明するためのグアニル酸シクラーゼ阻害剤と同時投与での検討を示す図である。実験動物と実験方法は以下の通りである。
(実験動物)
SHRSP雄16週齢以上で、脳卒中を呈していないラットを選択して実験に用いた。
(実験試薬)
ODQ:1H-(1,2,4)oxadiazole(4,3-α)quinoxalin-1-one(cayman chemical:和光純薬)は
、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させ、ストック溶液とした。そして最終濃度が15%DMSOとなるように食塩水で希釈して投与溶液とした。(投与量は1mLとした)ODQの対照としては、DMSO15%含有する生理食塩水を用いた。
(実験方法)
以下の表2のように4群を設け、午前8:30に0時間目の血圧を測定後、前投与物を投与した。その15分後に投与物を投与し、そこから2, 4時間後の血圧測定を行なった。各ラットは個別ケ−ジに入れ、実験時間の間は自由摂食、自由飲水とした。また投与物はすべて皮下投与した。
【0041】
【表2】

図6より下記のことが判る。ODQ+SA群では、DMSO+SA群と比較して2, 4時間目の血圧値が減少しており、理論上の作用とは異なる結果となった。予備検討段階で、ODQの投与後、10分以内ならば血圧上昇が見られ、その後は、徐々に血圧が低下していくことが確認された。in vivoの検討においてODQは、eNOSの発現を誘導するという報告があり、ODQによって強力にグアニル酸シクラーゼを阻害されることから、それを補おうとNO合成が高まり、血圧が降下していくものと考えられる。またODQ+ビオチン群においては、DMSO+ビオチン群のような血圧降下作用が消失しており、ビオチンの持つ血圧降下作用がグアニル酸シクラーゼを介していること示している。
【0042】
以上により下記のごとき本発明の効果が明らかとなり、食品に含まれている生理活性物質であり、食品中に強化した場合においても製品の安全性を損なわずに、生活習慣病の発症を抑えることが出来ることが明確となった。
【0043】
(1)ビオチンの長期経口摂取により、収縮期血圧は高血圧領域に入る6週齢時から、すなわち実験開始2週目からコントロール群と比較して有意に低下しておりビオチン摂取によって血圧上昇抑制効果が見られた。この現象は正常血圧であるWistarおよびWKYでは見られなかった。
【0044】
(2)経口投与(腹腔内投与)実験において、0.05, 0.5, 5mgのビオチンを腹腔内投与したところ、コントロ−ル群と比較して有意な血圧降下が見られた。一方、0.5mgビオチンの経口投与実験においても、投与後4時間目に有意に血圧が低下している。腹腔内投与法と比較して経口投与法は末梢へビオチン移行に時間が必要であるためである。これは、療養としての経口投与および治療としての腹腔内投与共に有効であることを示している。
【0045】
(3)ビオチンの持つ、血圧降下作用の作用機序をNO合成酵素阻害剤のL-NAME、およびグアニル酸シクラーゼ阻害剤であるODQを用いて検討した。その結果、ビオチンの血圧降下作用は、L-NAMEと同時投与によっても消失することなく、またODQと同時投与でその作用が消失することが確認出来ている。以上のことから、ビオチンの持つ血圧降下作用はNOを介さず、グアニル酸シクラーゼの活性化を伴うことが示され、副作用等に対して大変安全であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る高血圧症改善食品は、副作用が少なく簡便な経口摂取法で用いることができることから、生活習慣病予防のための健康食品、高血圧症の人のための機能性食品、糖尿病、リウマチ、アトピー性皮膚炎の改善等の様々な分野に適用できる。
【0047】
また本発明によって得られる高血圧症治療薬は、腹腔内投与や長期経口摂取
による治療法を用いて、高血圧症が原因で引き起こされる病気に幅広く用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ビオチン摂取の血圧変化に与える影響を示す図。
【図2】ビオチン摂取による血圧変化、体重変化および生存率を示す図。
【図3】ビオチン腹腔内投与による収縮期血圧低下作用を示す図。
【図4】ビオチン経口投与による血圧変動を示す図。
【図5】L-NAMEと同時投与での血圧変動を示す図。
【図6】ODQ と同時投与での血圧変動を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性物質を食品中に強化した健康食品において、ビタミンB群に属する水溶性ビタミンの1種であるビオチンを一定量以上添加したことを特徴とする生活習慣病改善食品。
【請求項2】
請求項1記載の生活習慣病改善食品において、前記生活習慣病は、高血圧症であることを特徴とする請求項1記載の生活習慣病改善食品。
【請求項3】
請求項1記載の生活習慣病改善食品において、前記生活習慣病はリュウマチ、糖尿病等の成人病乃至アトピー性皮膚炎の内1つあるいは複数であることを特徴とする請求項1記載の生活習慣病改善食品。
【請求項4】
請求項1記載の生活習慣病改善食品において、ビオチンの含有量は、1回当たりの摂取量において、体重200グラムあたり0.5ミリグラム以下であることを特徴とする特許請求項1乃至3記載の内1つの生活習慣病改善食品。
【請求項5】
高血圧症治療薬においてビオチンを含み経口摂取することを特徴とする生活習慣病治療薬。
【請求項6】
高血圧症治療薬においてビオチンを含み腹腔内投与することを特徴とする生活習慣病治療薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−89392(P2006−89392A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274346(P2004−274346)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月25日 日本ビタミン学会発行の「ビタミン 第78巻 第3号」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】