説明

生物サンプルの収集及び誘発放出用デバイス

本発明は、生物サンプルを収集するためのシステムであって、少なくとも一つの開放端を有する容器、前記少なくとも一つの開放端上に、又は該開放端中に適合する閉鎖部、前記閉鎖部に接続される保持要素、及び前記生物サンプルが堆積される固体マトリックス、並びに必要に応じて少なくとも一つの処理剤を含み、前記固体マトリックスは、前記マトリックスの環境の少なくとも一つの物理化学的性質を変化させることによって、前記マトリックスの上に堆積される前記生物サンプルに含まれる生体分子を分解させることなく、少なくとも部分的に液体又は溶解状態に転移可能であることを特徴とする、システムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物サンプルの収集用システム、生物サンプルを収集するための方法、キット、及び生物サンプルを堆積するための固体マトリックスに関する。
【背景技術】
【0002】
長い間、生物材料の分析、特に、組織学及び病理学技術を用いた分析は、病気の診断と治療、食物及び環境分析、並びに法医学調査においてこの上ない重要性を持つものであった。最近の技術的進歩は、多数のさらなる可能性への道を開く、核酸及びタンパク質の分析を促進することによって、このような調査の視野を拡大した。例えば、遺伝子活動は、細胞内のRNA、特に、メッセンジャーRNA(mRNA)を直接分析することによって定量することが可能である。最近の分子生物学的方法、例えば、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイムRT−PCR)、又は遺伝子発現チップ分析による、細胞における転写鋳型(mRNA鋳型)の定量的分析から、例えば、不正に発現される遺伝子の特定が可能となり、そのため、例えば、代謝障害、感染、又は癌の存在の検出が可能となっている。分子生物学的方法、例えば、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)、RFLP(制限断片長多型)、ALFP(増幅断片長多型)、又は配列決定による、細胞由来DNAの分析から、例えば、遺伝的欠陥の検出、又は、HLA(ヒト白血球抗原)型、及び、その他の遺伝子マーカーの決定も可能となっている。ゲノムDNA及びRNAの分析も、感染病原体、例えば、ウィルス、細菌などに対する直接的証拠として使用されている。
【0003】
生物サンプルのある成分、例えば、核酸又はタンパク質が分析可能であることの利点が知られるようになり、その分析そのものがより正確に、より広く利用可能となるにつれて、このような分析は重要性を増し、医学、獣医学の専門分野にとってばかりでなく、他の、広汎な領域、例えば、法医学的試料、製薬製品及び中間産物、食品及び環境試料の分析においても、利用可能なツールとして頻繁に使用されている。これらの領域の多くにおいて、サンプルの分子構造の完全性の維持は重要である。
【0004】
例えば、血液、唾液、又は細胞といった生物サンプルの収集、取り扱い、及び/又は輸送のための、最近の手順では、例えば、セルロース系もしくはコットン系の紙又はスワブ等の固体マトリックスを用いるが、これらは、その構成及びサイズの点で著しく異なっている。
【0005】
頬内又は膣内塗抹のために、セルロース、コットン、又はポリマー線維製の頭部を持つスワブが頻繁に使用される。コットン又は合成線維製頭部を持つスワブ、及び駆出性の紙頭部を持つスワブは、種々の販売業者から入手することが可能である。このようなスワブによって生物サンプルを収集した後、そのスワブは通常乾燥され、保存され、乾燥形状として輸送されるか、又は、保存され、栄養素、抗生物質、又は他の防腐剤を含む媒体に入れて輸送される。
【0006】
スワブから生物サンプルを回収するには、一般に、スワブ支持材料からサンプルを洗い出すことが必要である。このサンプルの洗い出しは、多くの場合、スワブを、溶解試薬と接触させることによって実行されるが、一般に、非効率的、不完全で、面倒である。回収されるサンプルの量を最大とするには、スワブ頭部の支持材料を、先ず、そのシャフトから分離する必要がある。スワブのタイプにもよるが、これの実行は、手で、せん刀、メス、もしくは剃刀の刃で切ることによって、又は、折り曲げもしくは駆出によって行われる。切断を含む分離プロセスには、交差汚染を避けるために、切断デバイスを十分に清浄化し、滅菌するか、又は各使用後に廃棄する必要がある。交差汚染は、全ての分析法に共通の問題点であるが、特に、核酸分析が予定されるサンプルについて作業する場合、殊に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの増幅プロセスを用いる場合、問題となる。最悪の場合、交差汚染は、分析結果の歪曲、場合によっては完全な誤読を招く可能性がある。切断プロセスはさらに、オペレーターに対する傷害という重大なリスクを表徴する、なぜなら、傷は、外来の、感染の可能性のある物質の取り込みをもたらす可能性があるからである。
【0007】
駆出性スワブの場合、該スワブの頭部は、スワブシャフトを曲げるか、シャフトを加圧することによってシャフトから分離されるが、これは、費用のかかる選択肢である。
【0008】
いずれのタイプのスワブも、生物サンプルを担持する、分離されたスワブ頭部は、スワブ軸から分離後、サンプル管の中に必ず留まるという点で共通である。次に、この分離されたスワブ頭部は、輸送及び/又は保存液を吸収し、管中の利用可能体積を減らし、最小量の液体によるサンプルの効率的回収を妨げる。多くの場合、極小量のサンプル、多くの場合、例えば、ナノグラム桁のサンプルに関わるのであるから、サンプルについては、どんな僅かな損失も、過剰な希釈もできるだけ避けることが望ましい。
【0009】
血液などの、他の生物サンプルは、一般に、処理もしくは未処理の、紙又はカードを用いて、収集及び保存される。処理用紙は、通常、病原体を不活性化し、微生物の増殖及びDNA分解を阻止する、いくつかの異なる薬剤によって処理される。標的生体分子を分離するためには、乾燥されたサンプル試料を担持する用紙から、紙又はカードの小片をパンチして切り出すことが必要である。このプロセスは、交差汚染を避けるために、各パンチ動作後、パンチングデバイスの清浄化及び滅菌を必要とする。ディスポーザブルパンチング装置が市販されているが、大げさで、高価である。さらに、小重量のパンチ紙は、静電気及び通常の空気運動と相俟って、このパンチの操作、及びサンプル調製容器の底部への移送を困難にする。
【0010】
さらに、標的生体分子の最適収率のためには、支持材料を、生物サンプルを回収するためのプロセスに導入するまえに、小片に切り分ける必要がある。この切断プロセスは、面倒で、自動化することが困難であり、交差汚染の他の潜在原因、及びオペレーター傷害の危険性を表徴する。支持材料を切り分けなければ、回収生物サンプルの収率の低下、及びサンプルの分析などの、下流応用における感度の損失がもたらされる。
【0011】
固体マトリックスを回収試薬(通常は溶融試薬)中に移した後、標的生体分子が、通常、固相支持体から溶出される。固体マトリックスからの、標的生体分子の溶出は、非効率的で、厄介であり、かつ、固体マトリックス上における、ある割合の生体分子の保留による損失を被る。溶出は、化学的、物理的、又は酵素的、又はそれらの組み合わせによって実行することが可能である。標的生体分子のさらなる単離には、生体分子を含む液体から、固体マトリックスを分離することが必要である。これは、ピペットによる液体の摘出、又は固体マトリックスの摘出によって実行される。両プロセスとも非効率的で、大量の溶媒を使用しない限り、サンプル試料の損失を招く可能性がある。これらのプロセスも自動化が難しい。なぜなら、固体マトリックスは、液体処理システムに干渉する可能性があるからである。さらに、容器から血液スポット又はスワブを高い信頼度で取り出すことを可能とする、自動化システムを設計することは難しい。もう一つの問題点は、固体マトリックスの中に捕捉されたまま残る液体の量である。この液体は、標的生体分子を含んでいるのであるから、それを固体マトリックスと共に排除することは、収率及び感度の低下を招く。
【0012】
血液カード又はスワブの形状を取る、いくつかの、異なる個体マトリックスが、例えば、セルロース、コットン、Dacron(登録商標)、又はその他のポリマー線維製の頭部を持つスワブが知られ、市販されている。さらに、いくつかの回収及び精製法が選択される。しかしながら、生物サンプルの収集、保存、安定化、及び精製のための標準手順及びシステムが不足している。このために、ある所定の、支持材料とサンプル調製法の組み合わせについて収率及びパフォーマンスを最適なものとするには、たくさんの最適化作業を実行することが必要となる。
【0013】
WO 01/60517には、核酸を安定化するための溶液、及び核酸に結合することが可能な固相を含む、サンプル、好ましくは血液を受容するためのレセクプタクルを用いた、血液サンプルの採取法について記載されている。サンプルは、一旦容器に移されると、引き続き、反復洗浄により固相から取り出すことが必要になる。さらに、サンプルの収集には、液体サンプルを、その供給源から低圧に置かれるレセプタクルに移すために、カニューレの使用が必要とする。このことは、例えば、幼児の指先穿刺もしくは踵穿刺からの血液等の少量のサンプルに対して、及びカニュールを通じては簡単に移すことができないサンプルに対して、レセプタクルを使用することを妨げ、例えば、唾液、尿、又は脳脊髄液の場合はかろうじて可能であるが、サンプルドナーにとっては若干の不快を伴う。さらにこの容器は、固体又は半固体サンプルには適切ではない。なぜなら、固体又は半固体サンプルは、固相の存在下では安定液と十分に混ざらないからである。
【0014】
EP 819 696 A2には、生物サンプルから核酸を単離する方法が記載され、カオトロピック物質と共にサンプルと混ぜ合わせられる、核酸結合固相、好ましくはシリカの使用を提案する。本方法は、先ず、溶液から、核酸を結合させた固相を単離し、次いで、該固相から核酸を単離するために、多数回の洗浄、乾燥、及び溶出工程を必要とする。さらに、大量すぎるシリカは飽和性となる可能性があり、そのため、シリカがある一定量を超えると、サンプルからそれ以上の核酸が得られない可能性がある。
【0015】
WO 02/072870 A2には、遺伝子材料を保存するための方法及びデバイスが記載されている。デバイスの頭部部分は、遺伝子材料を吸着するための固体マトリックス、及び遺伝子材料を分解から保護する保存機構から構成される。しかしながら、このデバイスは、液体サンプルのためにのみ使用することが可能である。さらに、遺伝子材料の分析を実行するには、固体マトリックスはより小さな部分に分割されなければならず、これは、材料の損失及びオペレーターの危険を招く。
【0016】
US 2006/0099567及びUS 2005/0276728は、生物サンプルのための保存デバイスであって、サンプルプレートにおいてサンプルを十分にコートする、溶解可能であるか、又は解離可能なマトリックス材料を含むデバイスを提案する。このマトリックス材料コーティングは、サンプルと共に乾燥され、次いで、サンプル回収のために再水和される。提案のシステムは、特に、高処理システムでの使用が意図される。しかしながら、生物サンプルは、先ず、従来技術を用いて収集されるのであるから、それからすると、提案のシステムは、サンプルの収集、及び収集デバイスからのサンプルの回収に関連する前述の問題点に応えるものではない。加えて、これらの公報は、カオトロピック塩の存在下にマトリックス材料を溶解する手段を備えたサンプルシステムを提供する利点については沈黙する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の一目的は、従来技術の公知の欠点を克服することである。
【0018】
本発明の他の目的は、従来技術の公知のサンプル回収と比較して、生物サンプルを、サンプル収集に使用されるデバイスから、より簡単に、より速やかに収集、回収することを可能とすることである。
【0019】
また、本発明の目的は、大量の溶媒の使用を要することなく、サンプル収集に使用されるデバイスから生物サンプルを回収するに際し、生物サンプルの損失を軽減することでもある。
【0020】
さらに、本発明の目的は、収集デバイスから生物サンプルを回収するに際し、切断及び/又はパンチングデバイスの使用を避けることでもある。
【0021】
本発明の他の目的は、生物サンプルを収集及び操作するためのシステムであって、ある範囲の、種々のタイプの生物サンプルに適用することが可能なシステムを提供することである。
【0022】
本発明のさらに別の目的は、自動化プロセスと適合する、生物サンプルの収集及び操作システムを提供することである。
【0023】
本発明のさらに別の目的は、統合型サンプル採取又は収集及び保存デバイス、並びにそのような統合型デバイスを使用するか、又はさらに操作する方法を提供することである。
【0024】
本発明のさらに別の目的は、前記生物サンプルに含まれる生体分子を実質的に変性させることなく、サンプル採取デバイスを溶解又は液化するための方法を提供することである。
【0025】
本発明のさらに別の目的は、サンプル採取デバイスを溶解又は液化するための方法であって、水分子と前記生物サンプル中に含まれる生体分子との相互作用が、前記生物サンプルに含まれる生体分子を実質的に変性させることなく、修飾される方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
現存する技術から生じる問題点の解決、及びそれらの欠点の少なくとも一部の克服への寄与は、本発明では、生物サンプルを収集するためのシステムであって:
少なくとも一つの開放端を有する容器、
前記少なくとも一つの開放端中に、又は該開放端上に適合する閉鎖部、
前記閉鎖部に接続される保持要素、及び
前記生物サンプルが堆積される固体マトリックスを含み、
前記固体マトリックスの材料が、少なくとも一つのカオトロピック物質、及び必要に応じて、少なくとも一つの高イオン強度溶液の存在下で、該マトリックスの環境の少なくとも一つの物理化学的性質が変化することによって、前記生物サンプル中に含まれる生体分子を実質的に分解させることなく、少なくとも部分的に、液体に転移可能であるか、又は、溶解可能であることを特徴とする、システムによってなされる。好ましくは、固体マトリックスは、前記生物サンプルの直接収集のために使用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0027】
生物サンプルは、任意の生物学的供給源から収集されたサンプルであってよいが、好ましくは、任意の、ヒト、動物、及び植物材料の生物サンプルである。本発明では、生物サンプルは、一般に、ただし限定的ではないが、細胞非含有、及び細胞含有サンプル材料、血漿、体液、例えば、血液、痰、唾液、尿、脳脊髄液、精液、血清の外、細胞、白血球分画、crusta phlogistica(バフィーコート)、大便、ぬぐい液(スワブ)、吸引物、任意の種類の組織サンプル、組織断片及び器官、ワクチン、遊離又は結合核酸、又は核酸含有細胞を含む食物又は環境サンプル、植物、植物抽出物及び植物部分、細菌、ウィルス、酵母、及び他の真菌類、又は、それらからの抽出物、他の真核細胞及び前核細胞、特に、全ての可能な組織サンプル、組織断片、器官、全体生物、及び個別細胞と考えられる。好ましい生物サンプルとしては、生物サンプル、例えば、任意の体液、例えば、血液、唾液、尿、精液、痰、又は脳脊髄液、上皮細胞、スメア、細菌、ウィルス、ワクチン、極細針吸引物、バイオプシー、法医学サンプル、単離細胞、真菌、又は真菌の部分又は抽出物、植物、又は植物の部分又は抽出物が挙げられる。
【0028】
直接収集とは、前記マトリックスが、生物サンプル収集の際、直接使用されるという事実を表現することと理解される。そのような使用の非限定的例は、例えば、口腔内部の粘膜などを擦ることによって、前記生物サンプルと密接に接触すると考えられる、いわゆるスワブであろう。一方、非直接的収集は、生物サンプルの収集には別の収集デバイスが用いられ、次に、該収集デバイスによって、生物サンプルが、本発明によるマトリックス上に配置される場合と考えられ、例えば、前記収集デバイスからマトリックス上に生物サンプルが洗い出されるような例である。このことはさらに、特別の目的に適合しなければならないマトリックス材料の選択にも影響を及ぼす。言うまでもなく、選択基準は、生体適合性(例えば、非毒性、体液に対する安定性、サンプル採取条件下における安定性)、滅菌し易いこと、長期安定性であろう。
【0029】
生体分子とは、当該技術分野において通常の技能を有する当業者が直ちに理解するように、生物液中に存在する有機分子、例えば、核酸、タンパク質、酵素などである。
【0030】
好ましい実施態様では、生物サンプルは、タンパク及び/又は核酸、又は複数の核酸を含む。「核酸」という用語は、本明細書では最も広い意味で用いられ、全ての可能な供給源から得られる、リボ核酸(RNA)及びデオキシリボ核酸(DNA)であって、全ての長さと形態、例えば、2本鎖、1本鎖、環状、直鎖、又は分枝鎖形状のものを含む。全てのサブユニット及びサブタイプ、例えば、モノマーヌクレオチド、オリゴマー、プラスミド、ウィルス及び細菌の核酸の外、動物及び植物細胞、又は他の真核細胞又は前核細胞由来のゲノム又は非ゲノムDNA及びRNA、処理及び未処理形状のメッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA(tRNA)、ヘテロ核RNA(hn−RNA)、リボソームRNA(rRNA)、相補的DNA(cDNA)、ゲノムDNA(gDNA)、siRNA、miRNAの外、他の全ての、考えることが可能な核酸も含まれる。
【0031】
水の分子と、前記生物サンプル中に含まれる生体分子との相互作用の変化は、水と生体分子、好ましくは核酸、との相互作用、例えば、水和シェルの形成や水分子と前記生物サンプル中に含まれる生体分子との他のいかなる水素結合構造の形成、といった相互作用が、いかなるものであれ、それを低減するか、又は完全に破壊するものと理解される。驚くべきことに、水の分子と生体分子との相互作用の、前記変化は、本発明の方法において、実に、より高い収率を、すなわちよりよい性能をもたらすことが見出された。好ましくは、水分子と生体分子との相互作用に関する前記変化が、本発明のシステムとともに提供される化学手段、例えば、化学物質、例えば、複数の、カオトロピック物質又は塩(これらは、まとめて、又は個別にカオトロープと呼ばれる)、等とともに固体顆粒などによって、又は当該化学物質等からなる固体顆粒などによって、その内側が被覆されているか、又は、あらかじめ充填されているチューブ(例えば、Vacuctainer(登録商標))によって実行される。さらに、化学物質は、液状又はゲル状で、例えば、あらかじめ充填したチューブ(例えば、Vacutainer(登録商標))に提供することが好ましい。本発明において、実質的に分解無しにとは、好ましくは、固体マトリックスが、固体状態から、溶解又は液体状態に少なくとも部分的に転移されるときにも、生体分子が、実質的に損傷を受けず、構成成分に分解されないことを意味することが意図される。しかしながら、この用語はさらに、固体マトリックスが、固体状態から、溶解又は液体状態に少なくとも部分的に転移されるときにも、生物サンプルの少なくとも一つの成分が、実質的に損傷を受けず、構成成分に分解されないことを意味する場合もある。
【0032】
少なくとも一つの開放端を有する容器は、一方では、水分子と、前記生物サンプルに含まれる生体分子との相互作用の変化を可能にしながら、収集のために、かつ必要に応じて、処理及び/操作のために好適な、任意の形状を取ることが可能である。この容器は、例えば、バイアル、チューブ、カップ、ボール、フラスコ、ジャー、又は瓶の形状を取ることが可能である。この容器はディポーザブルであってもよい、すなわち、一度きり使用が可能であるか、又は、好ましくは適切な洗浄化及び/又は滅菌の後で再使用することが可能である。この容器は、本発明によるシステムに含まれる物質及び試料に対し、特に、それと接触する可能性のある試薬又は組成物に対し、好ましくは、少なくとも部分的に不活性な、プラスチック又はガラスなどの材料によって少なくとも部分的に製造されることが好ましい。容器材料は、生体分子、特に核酸、例えば、前記生物サンプルに含まれる生体分子間における水和シェルの形成、又は、他のいかなる水素結合構造体といった生体分子、の操作、単離及び/又は処理のために使用される可能性のある添加剤もしくは物質に対し、ならびにサンプルそれ自体及び/又はその構成成分に対し、少なくとも部分的に不活性であるのが好ましく、且つ、例えば、本発明によるデバイスの固体マトリックスが融解する温度、又は、滅菌温度まで加熱可能であるのが好ましい。容器材料はさらに、通常使用、例えば、可能な加熱、冷却、凍結、滅菌、輸送、保存、又はその他のプロセスにおいて、それが、ヒト、又はデバイス、例えば、自動化、又は半自動化デバイス、特に高処理デバイスにおいて操作される場合、好ましくは、非破損的である。さらに、容器は、望むなら再使用を、好ましくは、適切な洗浄及び/又は滅菌後に、再使用を可能とする材料から作製される。
【0033】
さらに、容器材料は、その中に安定化される生物サンプルの保存を助ける薬剤、例えば、抗菌剤、抗真菌剤、又は、安定化されるサンプル、又はその成分の分解を抑制する阻害剤、例えば、リボヌクレアーゼ、を含むことも考えられ、これらの薬剤は、液体、又は生物サンプル、又はその両方と接触すると、放出可能である。
【0034】
容器には、該容器を少なくとも部分的に閉鎖するために、前記少なくとも一つの開放端の上に、又はその中に閉鎖部が設けられる。可能な閉鎖部の例は、当業者には公知であるが、例えば、キャップ、ネジ式閉鎖部、ストッパーなどがある。閉鎖部は、ディスポーザブルでも、再使用可能であってもよい。
【0035】
保持要素は、この閉鎖部に対し接続されるが、その接続は、好ましくは、閉鎖部が、容器の少なくとも一つの開放端の上に又はその中に合致したとき、保持要素が、容器の中に延長するように行われる。本発明の、少なくとも一つの固体マトリックスは、又は、本発明による固体マトリックス及び保持要素は、閉鎖部から取り外し可能であることが好ましい。さらに、本発明による保持要素は、恒久的に閉鎖部に取り付けられ、各新規の使用毎に、新鮮な固体マトリックスが、保持要素に新たに塗布されるようにすることも可能である。本発明による保持要素は、柔軟性を有していても、剛性を有していてもよいが、剛性であるのが好ましい。本発明において、剛性であるとは、ある程度の柔軟性も存在しており、そのため、例えば、デバイスを使用するヒトによって、弱い力が加えられると、保持要素は僅かに曲げるか、又は撓めることが可能であるが、力がもはや加えられなくなると、該保持要素は、回復し、実質的に元の形状を保持することが可能となることを意味すると理解される。
【0036】
本発明によれば、好ましくは、保持要素は、チップ、カップ、紙カード又はシート付きの軸形状であり、好ましくは、チップ付き軸形状である。本発明では、ホールダーは、1個又は複数個のサンプルウェルを含むサンプルプレート形状ではないのが好ましい。
【0037】
保持要素が、チップ付き軸形状である場合、固体マトリックスは、当業者によって適切と考えられる、いずれの要素、又はいずれの方法によって保持要素に付着されていてもよい。本発明によれば、好ましくは、保持要素は、非機械的に脱離可能な方法で、チップ手段を介して固体マトリックスに付着される。「非機械的に脱離可能」という用語は、保持要素が、非機械的要素、例えば、物理化学的性質を変えることによって固体マトリックスから解離することが可能であることを意味する。しかしながら、機械的要素も、例えば、引っ張ること、捩じること、切断すること、パンチすること、又は折り曲げることも、固体マトリックスから保持要素を少なくとも部分的に解離するための、代替又は二次的手段として排除されるものではない。
【0038】
保持要素は、固体マトリックスの局所加熱又は冷却のためのデバイスを含んでいることが可能である。当該デバイスは、例えば、保持要素の中を貫通し、固体マトリックス領域まで、固体マトリックスに接触することなく、延びる開口部であって、例えば、加熱を生じる電流もしくは加熱物質、又は、例えば、冷却液及び/又は寒剤といった冷却流体等の冷却物質、を運ぶ開口部である。さらに、保持要素は、該保持要素の中を貫通し、固体マトリックス領域まで延び、さらに固体マトリックスに対しても開放する開口を含むことも可能である。このような開口は、液体を加えるため、例えば、固体マトリックスに液体を通すために使用されることが可能であり、それは、固体マトリックスの洗浄、冷却、又は、少なくとも部分的な液体状態もしくは溶解状態への転移を引き起こさせるために使用され、それによって、少なくとも部分的に生物サンプルもしくはその少なくとも一つの成分を放出する。
【0039】
保持要素は、その目的のために適切なものであるならばいずれの材料であってもよいが、好ましくは、固体マトリックスの固体状態から液体状態への転移を達成するもしくは補佐する試薬と反応しない材料である。保持要素の材料(単数もしくは複数)は、生物サンプルを含む液相又は溶解状態を吸収しないことが好ましい。保持要素のための好ましい材料は、ポリプロピレン、ポリエチレン、又はポリウレタンなどのプラスチック類、金属類、木材、カード、又は、生物サンプルを含む、液相又は溶解状態の固体マトリックスを吸収することがないように処理されたカードである。
【0040】
生物サンプルが堆積される固体マトリックスは、生物サンプルの収集に適切なものであるならば、どのような形態又は形状を持ってもよい。本発明によるデバイスの好ましい実施態様では、固体マトリックスは、円形又は楕円形の球、バルブ(球根)、メッシュ、スティック、織布バルブ、紙、カード、粒子、ビーズ、ロッド、プラグ、又はフィルターの形状を取る。
【0041】
本発明による、保持要素及び固体マトリックスを含むユニットは、当業者によって適切と考えられる、どのような形状を取ってもよい。本発明では、固体マトリックスが、保持要素によって保持されること、及び本発明による保持要素及び固体マトリックスを含むユニットが棒状の形状であることが好ましい。本発明におい、棒状とは、例えば、引き延ばされた、実質的に円筒形状であり、ロッドの直径は、その全長にそって均一である必要はない延長形を意味すると理解される。保持要素及び固体マトリックスを含む棒状ユニットは、比較的に短い第1部分、及び第1部分よりも長い第2部分を含み、第1部分の平均直径は、第2部分の平均直径よりも大きいことが好ましい。第2部分の直径は、好ましくは、0.1mm(ミリメートル)から10mmの範囲、より好ましくは、0.5mmから8mmの範囲、さらに好ましくは、1mmから5mmの範囲、さらに好ましくは1.5mmから4mmの範囲、もっとも好ましくは2mmから4mmの範囲にある。第1部分の平均直径は、好ましくは、第2部分の直径よりも大きく、1.5から20倍の範囲内、好ましくは2から15倍の範囲内、より好ましくは2から12倍の範囲内、さらに好ましくは2から10倍の範囲内にある。本発明の好ましい様相では、ユニットの第2部分は保持要素であり、ユニットの第1部分は固体マトリックスである。
【0042】
好ましい実施態様では、本発明による保持要素及び固体マトリックスを含むユニットは、スワブ、紙、又はカードの形状を取る。スワブは、例えば、頬内、鼻腔内、咽頭、眼球、子宮頸部、肛門、総排泄腔用、又はその他のスワブであってもよい。
【0043】
本発明によるシステムでは、生物サンプルが堆積される固体マトリックスの材料が、該マトリックスの環境の、少なくとも一つの物理化学的性質が変えられた場合、収集された生物サンプルを、好ましくは少なくとも一つのカオトロープの存在下に、該マトリックス上の生体分子を実質的に分解することなく、少なくとも部分的に放出するために、固体状態から溶解又は液体状態に少なくとも部分的に転移可能である。この「固体状態」という用語は、固体マトリックスの1つの物理状態を意味すると理解される。一方、本発明における固体マトリックスの溶解又は液体状態は、溶液、分散液、縣濁液、乳液、又は溶融物の形状を取ってもよい。本発明において、「少なくとも部分的に転移可能」という用語は、本発明の方法に含まれる固体マトリックスの少なくとも一部、好ましくは、大部分、もっとも好ましくは全てが、固体状態から溶解又は液体状態に転移可能であることを意味すると理解される。本発明によれば、少なくとも一つの物理化学的性質を変えることは、前記液相又は溶解状態への転移を少なくとも部分的に誘発することが好ましく、好ましくは少なくとも10重量%まで、より好ましくは少なくとも50重量%の量まで、さらに好ましくは75重量%の量まで、もっとも好ましくは完全な転移を誘発することが好ましい。固体状態から溶解又は液体状態への転移は、分散、乳化、縣濁、溶解、又は溶融の形状を取ることが好ましく、好ましくは分散、溶解、又は溶融の形状を取り、本発明では、少なくとも一つの物理化学的性質を変えることによって起こることが好ましい。
【0044】
本発明にしたがって、実質的に分解させることなく、とは、好ましくは、固体マトリックスが、固体状態から溶解又は液体状態に少なくとも部分的に転移される場合にも、生物サンプルに含まれる全ての生体分子は実質的に損傷を受けずに残存し、構成成分に分解されないことを意味すると理解される。しかしながら、これは、固体マトリックスが、固体状態から溶解又は液体状態に少なくとも部分的に転移される場合にも、生物サンプル中の少なくとも一つの成分が、実質的に損傷を受けずに残存し、構成成分に分解されないことを意味する場合もある。
【0045】
変化によって、マトリックスの固体状態の少なくとも一部を、溶解又は液体状態へ転移させる物理化学的性質とは、例えば、該固体マトリックスを、それを少なくとも部分的に溶解する液体と接触させること、又は、固体マトリックスを、該マトリックスの、液体又は溶解状態への転移を強化又は誘発する試薬、又は、該強化又は誘発する、少なくとも一つの成分を含む組成物と接触させること、又は、固体マトリックスを、該マトリックスが融解する温度又は圧に曝すことを含む。これらの物理化学的性質は、単独で作用を発揮してもよいし、又は、互いに、又は他の性質と組み合わさって作用を発揮してもよく、これらは、変化すると、固体マトリックスの、液体又は溶解状態への転移を実行、触媒し、又は他の任意のやり方で増進する。
【0046】
本発明によれば、固体マトリックスは、生物サンプルを収集するために採用される収集条件下では、少なくとも部分的に固体であることが好ましく、好ましくは実質的に固体であること、より好ましくは完全に固体であることが好ましい。これは、特に、サンプルが直接その供給源において収集される場合、好ましい。収集条件は、サンプルを生きている生物から収集する場合、例えば、ヒト、動物、又は植物からサンプルを収集する場合、生理的条件であってもよい。生理的条件とは、一般に、物理化学的性質の典型的条件、例えば、温度、pH、電解質濃度、酵素又は他の成分の存在であって、その生物の中に、特に、収集されるその生物の部分の中に、天然状態において存在する、酵素又は他の成分の存在、と定義される。したがって、健康なヒトにおいては、例えば、生理的温度は、変動するが、一般に、36℃から38℃の範囲にある。これらの温度は、病気のヒトでは、数度変動させて、例えば、44℃の高さ、又は30℃の低さに変わることがある。ヒトにおける生理的pHは、一般に7.4と考えられているが、このpHは、生体における位置にしたがって変動する場合がある。したがって、例えば、胃のpHは、一般に、1.5から3の範囲にある。
【0047】
固体状態及び液体状態のいずれにおいても、固体マトリックスは、システムの保護、及びシステム寿命の延長のための特別包装の必要をできるだけ回避するために、温度及び湿度の環境条件において、保存安定性であるのが好ましい。システムが滅菌的でなければならない場合、システムの滅菌性、特に、固体マトリックスの滅菌性を維持することが好ましいが、そのために必要であれば、いずれの包装を使用してもよい。
【0048】
本発明によれば、固体マトリックスを生物サンプルに直接接触させることによって、好ましくは、固体マトリックスを用いて、生物サンプルをその供給源から直接収集すること(直接収集を参照)によって、生物サンプルを該固体マトリックスに付加することが特に好ましい。本発明では、生物サンプルを、固体マトリックスに注がないことが好ましい。
【0049】
少なくとも一つの固体マトリックスの固体状態から溶解又は液体状態への転移は、好ましくは、少なくとも一つのカオトロープの存在下で、好ましくは、生物サンプルを担う固体マトリックスの、安定化、輸送、もしくは保存のうちの少なくとも一つの進行中に、又は、例えば、固体マトリックスから生体分子を精製する、生物サンプルの処理中に、起こることが好ましい。生物サンプルは、固体マトリックスの上で乾燥しないと有利である。したがって、例えば、生物サンプルを安定化するために適用される、好ましくは安定液の形状を取る安定材料は、それ自体が、固体マトリックスの少なくとも部分的な溶解を実行又は強化して、該サンプルもしくは少なくともその構成成分を放出させてもよく、又は、固体マトリックスの溶解を実行又は強化し、サンプルもしくは少なくともその構成成分を放出させる薬剤を含んでもよい。固体マトリックスの、この、少なくとも部分的な溶解は、生物サンプルを含む固体マトリックスが、サンプルの安定化、輸送、操作、又は保存の際、安定材料、好ましくは安定液と接触する間に起こってもよい。
【0050】
もう一つの可能性は、好ましくは液状であるが、必ずしもそうでなくともよい、固体マトリックスの溶解を招くかもしくは強化する薬剤が、標的生体分子の分析、又は単離及び/もしくは精製等のために、生物サンプルもしくはその構成成分の処理中に、例えば、その単離及び/もしくは調製中にさらに適用されることである。生物サンプルと接触する固体マトリックスの、安定化、輸送、処理、及び保存の内の少なくとも一つの進行中に、温度を上げるか下げること、好ましくは上げることも可能である。これによって、融解可能な固体マトリックスを、本発明による生物サンプルを実質的に分解させることなく、少なくとも部分的に、固体状態から液体状態に転移させること、好ましくは、少なくとも部分的に、生物サンプル又はその成分を放出させることが可能と考えられる。
【0051】
本発明によるシステムの好ましい一実施態様では、固体マトリックスの材料は、少なくとも一つの溶媒に対し少なくとも部分的に可溶である。この実施態様によれば、固体マトリックスは、好ましくは、収集された生物サンプルを少なくとも部分的に放出するために、少なくとも部分的に可溶であり、完全に可溶であることが好ましい。この実施態様では、マトリックス環境の物理化学的性質の変化は、溶媒の添加からなる。
【0052】
本発明の一様相では、固体マトリックスは、試薬として、少なくとも一つの有機溶媒によって少なくとも部分的に溶解させることが可能である。この場合、固体マトリックスは、好ましくは、少なくとも一つの有機溶媒によって少なくとも部分的に溶解することが可能なポリマー、好ましくは、少なくとも一つのカルボン酸含有モノマーを含むポリマー類;少なくとも一つのカルボン酸基含有モノマー、及び少なくとも一つのエチレン不飽和モノマーを含むポリマー類;少なくとも一つの酸性基、及び少なくとも一つのエチレン不飽和基を含む、少なくとも一つのモノマーを含むポリマー類;少なくとも一つの環系、好ましくは、少なくとも一つのヘテロ原子を含む少なくとも一つの環、好ましくは酸素含有環、を含むモノマーを含むポリマー類;少なくとも一つのエステル基を含むポリマー;から選ばれるポリマー類である。好ましいポリマーの例としては、イソプロパノールに可溶な、酸性ポリメタクリレート類;アセトンに可溶な、セルロースアセテートフタレート;ジクロロメタンに十分可溶で、アセトンにきわめて可溶な、酢酸ビニルなどのクロトン酸コポリマー類;90%エタノールに十分可溶なポリビニルアセテートフタレート;又は、アセトンに十分可溶なヒドロキシプロピルメチルセルロース−アセテートである。
【0053】
本発明によるシステムの一様相では、固体マトリックスの材料は、好ましくは少なくとも一つのカオトロープの存在下、温度の上昇によって少なくとも部分的に融解可能な材料である。
【0054】
固体マトリックスは、生物サンプルの収集温度においては固体であると有利である。サンプルを、生きているヒト又は動物から収集しなければならない場合、固体マトリックスは、生理的温度において固体であることが好ましく、該固体マトリックスは、生理的温度を上回る温度で、好ましくは45℃を超える温度において、好ましくは45℃から95℃の範囲内の温度において、より好ましくは45℃から85℃の範囲の温度において、さらに好ましくは45℃から75℃の範囲の温度において、もっとも好ましくは45℃から65℃の範囲の温度において、液体状態に転移することが好ましい。生物サンプルは、損傷されず、分解されることなく放出されることが好ましい。したがって、固体マトリックスは、生物サンプル、及びその成分が破壊されず、分解されない温度において融解可能であることが好ましい。サンプルを死んだヒト又は動物から、又は植物、菌、又は環境から収集する場合、固体マトリックスは、サンプル収集温度において固体である限り、より低い温度で融解することも可能である。固体マトリックスは、シャープな融解点を有することが好ましい、すなわち、固体マトリックスは、狭い温度範囲において、好ましくは5℃未満の温度範囲において、より好ましくは4℃未満の温度範囲において、さらに好ましくは3℃未満の温度範囲において、もっとも好ましくは2℃未満の温度範囲において融解することが好ましい。
【0055】
本発明において融解可能な固体マトリックスとして適切な材料は、例えば、生理的温度において固体である油脂、例えば、ココアバター、又はパーム油脂である。別の好ましい、本発明による融解可能固体マトリックスは、45℃を超える融解点を持ち、通常の周囲温においてプラスチック構造を有するワックスである。適切なワックスは、動物及び/又は昆虫ワックス、例えば、蜜蝋であってもよい。カイガラムシ coccus ceriferusによって生産される支那ワックス、ラックカイガラムシ coccus laccaから得られるシェラックワックス、抹香鯨の頭蓋腔及び脂肪塊から得られる鯨油、及び羊の皮脂腺から得られるラノリン(ウールワックス)が例として挙げられる。適切な植物ワックスの例としては、ヤマモモ潅木のベリー表面から得られるヤマモモワックス、メキシコ産潅木Euphorbia cerifera及びE. antisyphiliticaから得られるcandelissaワックス、Carnauba Palm, Castor carnauba palmの葉から得られるカルナウバワックス、ヒマシ油、触媒的に水素添加したヒマシ油、エスパルトグラスからの紙生産時の副産物としてのエスパルトワックス、日本ろう、Rhus及びToxicodendron種のベリーから得られる木蝋(真正ワックスではない)、ホホバ低木の種を搾って得たホホバ油、鯨油の置換体、ブラジル産羽毛棕櫚から得られるオーリキュリーワックス、及び米糠から得られる米糠油である。本発明では、鉱油、例えば、セレシンワックス、亜炭及び褐炭から抽出されるモンタンワックス、亜炭層に見いだされる鉱物蝋、及びピートワックスも、融解可能な固体マトリックスとして好適である。本発明において、固体マトリックスとして好適な、もう一つの材料グループは、高分子量アルカン炭化水素、例えば、パラフィン、すなわち、典型的融解点を47℃と65℃の間に持つ、無臭、無味の石油ワックスである。さらに好適なものとして、合成ワックス、例えば、ポリエチレンを原料とするポリエチレンワックス、フィッシャー−トロプシュワックス、又は、化学的修飾ワックス−通常、エステル化又はサポニン化、置換アミドワックス、及びα−オレフィン重合体がある。さらに別の、可能な固体マトリックスとしては、モノテルペン類、例えば、タイム油の中に見出され、好ましい芳香及び強力な消毒性を持ち、48−52℃の融解点を有する白色結晶物質として抽出されるチモール、又は、カンフェン、すなわち、51−52℃の融解点を有する二環モノテルペンがある。もう一つの、融解可能な固体マトリックスグループは、糖、すなわち水性分解緩衝液と組み合わせたスクロースを含む。さらに別の、可能な固体マトリックスとしては、融解点が65℃未満の、低融解点アガロースがある。
【0056】
本発明によるシステムの別の実施態様では、固体マトリックスの材料は、好ましくは少なくとも一つのカオトロープの存在下に、収集生物サンプルを少なくとも部分的に放出するために、好ましくは可溶性、好ましくは完全な可能性の、少なくとも一つの試薬を加えることによって、液体又は溶解状態に少なくとも部分的に転移させることが可能である。この実施態様では、マトリックス環境の物理化学的性質の変化は、溶媒の添加、かつ、必要に応じて、試薬(単数もしくは複数)、酵素(単数もしくは複数)、酸(単数もしくは複数)、及び塩基(単数もしくは複数)から選ばれる少なくとも一つの化合物を添加することからなってもよい。さらに、環境の物理化学的性質の変化は、試薬、及び必要に応じて溶媒から選ばれる、少なくとも一つの化合物の添加からなってもよい。
【0057】
試薬は、必要に応じて一つ以上の液体の存在下に、少なくとも一つのキレート剤又はその塩(単数もしくは複数)、酵素(単数もしくは複数)、酸(単数もしくは複数)、及び塩基(単数もしくは複数)を含んでもよい。
【0058】
したがって、固体マトリックスは、好ましくは少なくとも一つのカオトロープの存在下に、それが溶解する液体にそれを接触させること、固体マトリックスの溶解を実行し、触媒し、又は他のやり方で強化する試薬もしくは組成物と該マトリックスを接触させること、の内の少なくとも一つによって溶解させることが可能である。さらに、例えば、固体マトリックスは、溶解しない液体に接触させ、次いで、さらに試薬又は組成物と接触させることによって少なくとも部分的に溶解可能とすることも考えられる。さらに、固体マトリックスは、先ず、試薬又は組成物に接触させ、次いで、液体に接触させることも可能である。この試薬又は組成物は、固体形状を取っても、液体形状を取ってもよい。「液体形状」という用語は、少なくとも一つの溶媒、又は、当業者によって適切と考えられるいかなる可能な溶媒もしくは混合溶媒によって溶解させた少なくとも一つの溶液、又は、所望の操作温度において液体である試薬もしくは組成物、及び同様に溶融物、を意味すると理解される。
【0059】
本発明の一様相では、固体マトリックスは、好ましくは少なくとも一つのカオトロープの存在下に、試薬としての少なくとも一つの有機溶媒によって、少なくとも部分的に溶解することが可能である。この場合、固体マトリックスは、好ましくはポリマー、好ましくは、少なくとも一つのカルボン酸含有モノマーを含むポリマー;少なくとも一つのカルボン酸基含有モノマー、及び少なくとも一つのエチレン不飽和モノマーを含むポリマー;少なくとも一つの酸性基及び少なくとも一つのエチレン不飽和基を含む、少なくとも一つのモノマーを含むポリマー;少なくとも一つの環システム、好ましくは、少なくとも一つの酸素含有環である、少なくとも一つのヘテロ原子を含む少なくとも一つの環を含む、モノマーを含むポリマー;少なくとも一つのエステル基を含むポリマーから選ばれるポリマーである。好ましいポリマーの例は、イソプロパノールに可溶な、酸性ポリメタクリレート類;アセトンに可溶な、セルロースアセテートフタレート;ジクロロメタンに十分可溶で、アセトンにきわめて可溶な、酢酸ビニルなどのクロトン酸コポリマー類;90%エタノールに十分可溶なポリビニルアセテートフタレート;又は、アセトンに十分可溶なヒドロキシプロピルメチルセルロース−アセテートである。
【0060】
本発明では、試薬は、少なくとも一つのキレート剤、又はその塩を含んでもよい。したがって、固体マトリックスは、一つの溶媒もしくは必要に応じて上に定義した一つの以上の液体の存在下に、試薬としての、少なくとも一つのキレート剤もしくはその塩の助けを借りて、液体又は溶解状態へ少なくとも部分的に転移することが可能である。本発明による適切なキレート剤は、少なくとも、2、3、4、5、6、7、又は8個の配位部位、好ましくは2から6個、より好ましくは4から6個の結合部位を含む。
【0061】
試薬は、少なくとも一つのイオン強度及び/又はカオトロピック安定剤、好ましくは少なくとも一つのカオトロピック塩を含んでもよく、それらは好ましくは、有機溶媒又は無機溶媒の溶液の形で含まれ、その好ましい有機溶媒は、溶媒として上記で例示したものであり、無機溶媒として好ましいのは水である。さらに、固体マトリックスは、試薬としての、少なくとも一つのカオトロピック物質(カオトロープ)の存在下、必要に応じて少なくとも一つの高イオン強度液の存在下に、少なくとも部分的に液体又は溶解状態に転移することが好ましい。溶液のイオン強度Iは、溶液中に存在する全てのイオンの濃度の関数である。濃度をモルで表すと、
【0062】
【数1】

上式において、合計は、全てのイオンBについて求める。ZBは、イオンBの電荷数である(例えば、IUPAC Compendium of Chemical Terminalogy、電子版、 HYPERLINK "http://goldbook.iupac.org/I03180.html" http://goldbook.iupac.org/I03180.htmlを参照されたい)。
【0063】
高イオン強度溶液は、当業者には公知であり、0.1から50、好ましくは5〜30、特に好ましくは7〜24の範囲のイオン強度を持つ。カオトロピック物質は、US−5,234,809及び他の関連特許から知られ、米国特許慣例にしたがって、これらの文書を引用により本明細書に含める。カオトロープとは、分子構造、特に、非共有的力、例えば、水素結合、塩架橋、及び疎水作用によって形成される分子構造の分離を招く薬剤である。カオトロープとしては、グアニジニウム塩が好ましく、その場合、クアニジニウムイソチオシアネート、又はグアニジニウム塩酸塩が特に好ましい。好ましくは、この少なくとも一つのカオトロープは、溶液中に、好ましくは水溶液中に、0.01〜15(mol/l)の範囲の濃度において、好ましくは1から6M(mol/l)、より好ましくは、2から5.9Mの範囲、さらに好ましくは3から5.8Mの範囲、もっとも好ましくは4から5.7Mの範囲で存在する。したがって、本発明による方法のこの様相では、固体マトリックスを、水構造の破壊を実行するか、触媒するか、もしくはその他のやり方で強化する物質もしくは組成物と接触させることによって、少なくとも部分的に液体又は溶解状態に転移させることが可能である。
【0064】
本発明によれば、さらに別の様相では、固体マトリックスが、好ましくは少なくとも一つのカオトロープの存在下に、少なくとも一つの酵素と接触させることによって、少なくとも部分的に液体又は溶解状態に転移させることも想定可能である。したがって、固体マトリックスは、少なくとも一つの酵素の存在下に、固体状態から、溶解又は液体状態に少なくとも部分的に転移することが可能な、少なくとも一つの物質を含んでもよい。
【0065】
この酵素は、プロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、グリカナーゼ、キチナーゼ、リゾチーム、リパーゼ、エステラーゼ、ペクチナーゼ、ペクトリアーゼ、アガラーゼからなる群から選ばれる少なくとも一つの酵素であることが好ましく、これは、単独で存在してもよいし、又は、少なくとも一つの、他の酵素、試薬、酸もしくは塩基と組み合わせられて存在してもよい。
【0066】
本発明によれば、固体マトリックスは、ペプチド、エステル、ポリサッカリド及びセルロース、及び/又はそれらの少なくとも一つの誘導体を含むことが好ましい。これらの好ましい材料は、固体マトリックスが、少なくとも一つの酵素の存在下に、溶解又は液体状態に転移する場合、特に有利である。これらの材料はさらに、少なくとももう一つの他の物理化学的性質が変化する時に、溶解するか、もしくは少なくとも部分的に液体もしくは溶解状態に転移可能であることが好ましい。好ましい固体マトリックスの例としては、プロテアーゼによって分解が可能な、ペプチド結合によって連結される物質;エステラーゼ及び/又はpHを変えることによって分解が可能なエステル結合によって連結される物質;ポリサッカリド分解酵素、例えば、アミラーゼ、キチナーゼ、セルラーゼ、又はその他の酵素もしくは試薬によって分解が可能なグリコシド結合によって連結されるポリサッカリド、がある。
【0067】
本発明における好ましい固体マトリックスは、コットン原料材料を含むか、もしくはコットン原材料を含む表面を有する。本発明による「コットン」とは、好ましくは、セルロースからなる天然ポリマー、好ましくは1から4個のグリコシド結合を介して接続される、100〜10,000個のβ−D−グルコース分子から構成されるポリサッカリドを意味する。本発明において、セルロースは、水溶液には不溶であるが、該ポリマーをβ−D−グルコースに分解することによって可溶化する。この分解は、好ましくは、酵素セルラーゼによって、例えば、Novozyme又はSigmaから市販されるセルラーゼによって仲介される。
【0068】
本発明によるさらに好ましい固体マトリックスは、でん粉原料材料を含むか、でん粉原料材料を含む表面を有する。本発明による「でん粉」とは、好ましくは、二つの重合炭水化物(ポリサッカリド)の組み合わせ、好ましくはアミロースとアミロペクチンの組み合わせを意味する。本発明によるでん粉は水に不溶である。でん粉は、好ましくはアミラーゼと呼ばれ、でん粉ポリサッカリドの「アルファ−グルコース」成分間のグリコシド結合を破断することが可能な酵素によって触媒される、加水分解によって消化することが可能である。次に、得られた糖類は、例えば、マルターゼなどのさらに別の酵素によって処理することが可能である。
【0069】
本発明において、もう一つの好ましい固体マトリックスは、ポリエステル原料材料を含むか、又はポリエステル原料材料を含む表面を有する。このポリエステル原料材料は、エステラーゼ又はリパーゼとインキュベートすることによって可溶化する。
【0070】
本発明において、さらに別の固体マトリックスは、キチンもしくはキチン誘導体を原料とする材料を含むか、又はキチンもしくはキチン誘導体を原料とする材料を含む表面を有する。本発明による「キチン」とは、好ましくは、β−1,4方式で連結される、アセチルグルコサミン、特にN−アセチル−D−グルコース−2−アミン単位、から構築される材料を意味する。キチンは、例えば、Bacillus sp. PI−7Sから得られるリゾチーム又はキチナーゼと共に酵素的にインキュベートすることによって消化することが可能である。
【0071】
本発明において、固体マトリックスのもう一つの好ましい様相では、少なくとも一つの、ジ−、オリゴ−、又はポリペプチド材料を含むか、又は少なくとも一つの、ジ−、オリゴ−、又はポリペプチド材料を含む表面を有していてもよい。このペプチド原料材料は、プロテアーゼ、例えば、プロテイナーゼKとインキュベートすることによって分解及び可溶化する。プロテイナーゼKは、脂肪族、芳香族、又は疎水性アミノ酸のカルボキシル側においてペプチド結合を切断する、内部分解性プロテアーゼである。固体マトリックスの原料又は表面に応じて、他のプロテアーゼ、例えば、コラゲナーゼ、プラスミン、スブチリシンを使用してもよい。
【0072】
固体マトリックスはさらに、少なくとも一つのペクチンもしくはその誘導体を含むか、又は少なくとも一つのペクチンもしくはその誘導体を含む表面を有していてもよい。ペクチンは、ランダムにアセチル化及びメチル化することが可能な、α−(α−(1,4)−ポリガラクツロン酸バックボーンを主に含むと理解される。ペクチン原料材料は、ペクチナーゼ及び/又はペクトリアーゼとインキュベートすることによって分解し、可溶化する。ペクチナーゼは、ペクチン及び他のガラクツロナンにおける、1−4−α−D−ガラクトシズロン結合のランダムな加水分解を触媒する。ペクトリアーゼは、(1,4)−α−D−ガラクツロナンメチルエステルの排除的切断を触媒し、その非還元末端に、4−デオキシ−6−O−メチル−α−D−ガラクト−4−エヌロノシル基を有するオリゴサッカリドを生成する。
【0073】
本発明において、さらに別の好ましい固体マトリックスは、寒天もしくはアガロース、又はその誘導体を含むか、又は寒天もしくはアガロース、又はその誘導体を含む表面を有する。寒天原料材料は、アガラーゼ(アガロース3−グリカノヒドロラーゼ)とインキュベートすることによって可溶化する。
【0074】
本発明のシステムの別の様相によれば、固体マトリックスが構成される材料は、好ましくは、少なくとも一つのカオトロピック物質、及び必要に応じて少なくとも一つの高イオン強度溶液の存在下に、その環境pHを変えることによって、溶解又は液体状態に転移可能な、少なくとも一つの物質を含む。固体マトリックスは、7以外のpHにおいて、好ましくは1から6の範囲内のpHにおいて、好ましくは2から6の範囲内、より好ましくは3からの6の範囲内、さらに好ましくは4から6の範囲内、さらに好ましくは5から6の範囲内、又は、8から14の範囲のpHにおいて、好ましくは8から13の範囲内で、より好ましくは8から12の範囲内、さらに好ましくは8から11の範囲内、さらに好ましくは8から10の範囲内、再びより好ましくは8から9の範囲内で少なくとも部分的に可溶であることが好ましい。したがって、7以外のpHにおいて可溶状態に少なくとも部分的に転移可能な固体マトリックスの材料は、固体マトリックスの液体もしくは溶解状態への転移を誘発及び/又は触媒する試薬との接触を通じ、該試薬のpHを介して、液体もしくは溶解状態へ少なくとも部分的に転移可能である。好ましい実施態様では、固体マトリックスは、酸性媒体には不溶であり、中性及び/又は塩基性媒体には可溶である。別の実施態様では、固体マトリックスは、塩基性媒体には不溶であり、中性及び/又は酸性媒体には可溶である。さらに別の実施態様では、固体マトリックスは、中性又は生理的pH媒体には不溶であるが、酸性及び/又は塩基性pHでは可溶である。酸又は塩基の存在によって、例えば、H3+又はOH-イオンの濃度によって誘発される、数多くのpH依存性反応が、当業者には公知である。
【0075】
pH依存的に溶解もしくは液体状態に転移可能な、適切な固体マトリックスは、例えば、第1pH範囲では少なくとも30秒安定であるか、ほぼ安定であり、異なるpH範囲では溶解する、メタ安定物質である。本発明において、この種の好ましい材料は、例えば、製剤のカプセル封入及び放出、好ましくは遅延放出に関して既に公知の材料等のポリマーである。本発明において、固体マトリックスとして好適なポリマーは、好ましくは、エチレン不飽和モノマー、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、酢酸ビニル、及びそれらの誘導体もしくは塩を含むコポリマー類、及び天然ポリマー、例えば、セルロース又はその誘導体もしくは塩を含むコポリマー類である。好ましいのは、二つ以上の上記モノマーを含むコポリマー類であり、例えば、二つ以上のエチレン不飽和モノマー及び/又はその誘導体もしくは塩を含むコポリマー類;二つ以上の天然ポリマー及び/又はその誘導体又は塩を含むコポリマー類;少なくとも一つのエチレン不飽和モノマー及び/又は少なくとも一つのその誘導体もしくは塩と、少なくとも一つの天然ポリマー及び/又はその誘導体もしくは塩とを含むコポリマー類;である。特に好ましいのは、メタクリル酸及びメチルメタクリレートのモル比が1:1又は1:2のコポリマー類であり、例えば、それぞれ、放出pHが6.0であるEudragit(登録商標)L100又は放出pHが7.0であるEudragit(登録商標)S100の商品名で販売されるポリマー(Rohm GmbH)であり、メタクリル酸及びエチルアクリレートのモル比が1:1のコポリマーであり、例えば、放出pH5.5であるEudragit(登録商標)L100−55の商品名で販売されるポリマー(Rohm GmbH)であり、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートであり、例えば、放出pHが鎖のサイズに応じて変動し、例えば、放出pH5.0(HPMCAS−LF)、放出pH5.5(HPMCAS−MF)又は放出pH7.0(HPMCAS−HF)である、商品名Aqoat(登録商標)で市販されるポリマー(ShinEtsu Synthapharm)であり、セルロースアセテートフタレートなどのセルロース誘導体であり、例えば、放出pHが6.2から6.5の範囲内である商品名Aquateric(登録商標)で市販されるセルロース誘導体(FMC Corp)、酢酸ビニルとメタクリル酸の比が9:1であるコポリマー類であり、商品名Kollicoat(登録商標)VACの下に市販される、放出pHが5.8−6.0の範囲であるポリマー(BASF)であり、又は、ポリビニルアセテートフタレートなどのポリビニル誘導体であり、例えば、商品名Sureteric(登録商標)で市販され、放出pHが4.5−5.5の範囲であるポリマー(Colorcon Ltd.)である。放出pHとは、上述のポリマーが溶解を開始するpHである。放出pHにおける溶解は速やかな過程ではないから、放出pHが、唾液pHより低くとも(pH6からpH8)、前記材料をスワブ用に使用可能であると考えられる。放出pHよりも低いpHでは、ポリマーは実質的に不溶である。
【0076】
本発明のさらに他の様相では、マトリックス材料の、固体状態から溶解もしくは液体状態への少なくとも部分的な転移に対し、酸及び塩基両方によって触媒されるように反応が作用することも可能である。例えば、固体マトリックスが、アミド及び/又はエステル結合を含む場合、アミド類及びエステル類等の酸もしくは塩基触媒性加水分解を利用することが可能である。さらに、でん粉及びセルロースなどの多くのポリサッカリドは、水に不溶である。しかしながら、セルロースもでん粉も、酸性及び塩基性加水分解によって、水溶性のモノ−及びオリゴサッカリドに分解可能である。したがって、中性pHから酸性もしくは塩基性pHへのpH変化によって、でん粉又はセルロースの溶解がもたらされる。
【0077】
pHは、好ましくは、適切な緩衝系を利用して調節される。所望のpH範囲に適切で、必要に応じて生物サンプルと適合する、緩衝系については、当業者には公知である。
【0078】
本発明のシステム、特に、保持要素及び固体マトリックスを含むユニットは、当業者に適切とおもわれるものであれば、いずれの方法によって調製してもよい。可能な、ある方法は、先ず本発明による保持要素を準備すること、これは必要に応じて本発明による閉鎖部に接続される、次いで、固体マトリックスを、該保持要素に付着すること、である。保持要素に対する固体マトリックスの付着は、例えば、本発明による保持要素に対する、固体マトリックスを含む溶液もしくは液体の少なくとも1回の適用、次いで、該固体マトリックスからの溶媒の蒸発、及び/又はその乾燥の形式で行われ、実質的に乾燥した及び/又は固体の、好ましくは固体の、固体マトリックスを得ることであってもよく、その際、適用及び/又は乾燥は、必要に応じて、例えば、任意のサイズ又は形の固体マトリックスを得るよう、所望の回数だけ繰り返してもよい。固体マトリックスが溶融可能な固体マトリックスである場合、保持要素に対する固体マトリックスの適用は、該固体マトリックスが液体、半液体、又は軟化及び/もしくは変形可能となる温度において実行し、次いで、該溶融可能固体マトリックスが固体となる温度に冷却してもよい。さらに、保持要素に対する固体マトリックスの適用は、例えば、所望のサイズ又は形状の固体マトリックスを実現するために、支持体、鋳型、型、又は金型の内の少なくとも一つの助けを借りて実行することも可能である。さらに、固体形状の固体マトリックスを、保持要素と接触させ、該要素に結合することも考慮の対象とされる。この場合、固体マトリックスは、例えば先ず、支持体、鋳型、型もしくは金型の内の少なくとも一つに対し、例えば、溶液、液体もしくは半液体の状態で、又は軟化及び/もしくは変形可能材料として適用される。次に、固体マトリックスは、上述の方法によって、実質的に乾燥及び/又は固体形状に、好ましくは固体形状に変えられる。次に、この固体マトリックス及び保持要素は、好ましくは、互いに接触させられ、好ましくは共に結合され、本発明によるデバイスを形成する。固体マトリックスの相互結合は、好ましくは、固体マトリックスと保持要素との間に化学的結合が形成されることがないように、物理的相互結合である。しかしながら、固体マトリックスと保持要素との間に化学的結合が形成されること、又は、保持要素に対する固体マトリックスの結合を改善もしくは促進するために、接着剤又はその他の結合所剤を使用することも考慮の対象とされる。接着剤もしくは他の結合助剤を使用する場合、生物サンプル、又は生物サンプルを含む溶液もしくは液体のいかなる部分とも反応せず、又は、いかなる部分も吸収もしない接着剤もしくは他の結合助剤を選択することが好ましい。この場合、接着剤又は他の結合助剤は、固体マトリックスを液体もしくは溶解状態へ転移させる試薬とは反応しないこと、又は、固体マトリックスの液体もしくは溶解状態への転移を阻止しないことが好ましい。
【0079】
さらに、本発明によるシステムは、生物サンプル中の生体分子を分解させることなく、固体マトリックス材料を、液体もしくは溶解状態に少なくとも部分的に転移させるための、少なくとも一つの要素をさらに含むことが可能である。
【0080】
固体マトリックス材料を、液体又は溶解状態に少なくとも部分的に転移させるための、少なくとも一つの他の前記要素は、例えば、固体マトリックスを少なくとも部分的に溶解もしくは分解させることによって、生物サンプルを少なくとも部分的に放出するのを補佐もしくは誘発する、少なくとも一つの放出助剤を含んでいてもよく、例えばそれは、前述のpH、イオン強度もしくは温度を変える薬剤、又は少なくとも一つの酵素、もしくは少なくとも二つのそれらの組み合わせである。
【0081】
好ましくは、生体分子を分解させず(disintegrated)、損傷させずもしくは分解させず(degraded)、又はその他のやり方でその後の処理において不利となる変化をもたらすことなく、生体分子の放出を可能とする、前述の試薬もしくは組成物、又は当業者が適切と考える、それらの任意の組み合わせを用いて、固体マトリックスを溶解もしくは液体状態に転移可能とすることは特に好ましい。
【0082】
もちろん、固体マトリックスの材料を、液体もしくは溶解状態に少なくとも部分的に転移する、前述の方法の内の任意のものを組み合わせることも可能である。したがって、例えば、固体マトリックスが溶解する溶媒に固体マトリックスを接触させること、及び必要に応じて上昇温度又は下降温度において、試薬、酵素、pH修飾剤、もしくは固体マトリックスの溶解を強化する他の要素と、固体マトリックスとを接触させること、の内の少なくとも一つによって固体マトリックスを溶解することが可能である。さらに、例えば、固体マトリックスが溶解しない溶媒に固体マトリックスを接触させること、次いで、必要に応じて上昇温度又は下降温度において、試薬、酵素、pH修飾剤、もしくは別要素とさらに接触させることによって少なくとも部分的に溶解させることも考慮の対象とされる。さらに、固体マトリックスを、先ず、試薬、酵素、pH修飾剤、もしくは別要素と接触させ、次いで、必要に応じて上昇温度又は下降温度において溶媒と接触させることも可能である。試薬、酵素、pH修飾剤、又は別要素は、固体形状でも、液体形状であってもよい。「液体形状」という用語は、少なくとも一つの溶媒、考えられる限りの、任意の溶媒、又は当業者に適切とおもわれるそれらの混合溶媒に溶解した少なくとも一つの溶液、又は、所望の動作温度において液体である試薬もしくは組成物、及び溶融物を意味すると理解される。
【0083】
前述の目的の解決に寄与するものとして、生物サンプルを収集するためのシステムであって:
少なくとも一つの開放端を有する容器、
前記少なくとも一つの開放端中に、又は該開放端上に適合する閉鎖部、
前記閉鎖部に接続される保持要素、
前記生物サンプルが堆積される固体マトリックス、及び
少なくとも一つの処理剤を含み、
前記固体マトリックスの材料は、好ましくは、少なくとも一つのカオトロピック物質、及び必要に応じて少なくとも一つの高イオン強度溶液の存在下に、前記マトリックスの環境の少なくとも一つの物理化学的性質を変えることによって、前記生物サンプルに含まれる生体分子を実質的に分解させることなく、液体もしくは溶解状態に少なくとも部分的に転移可能であることを特徴とする、システムも提供される。
【0084】
生物サンプル、容器、閉鎖部、保持要素、及び固体マトリックスに関しては、容器、閉鎖部、保持要素、及び固体マトリックスに関して上に示した詳細が、ここにも適用される。
【0085】
本発明による少なくとも一つの処理剤は、好ましくは、固体マトリックス、又は生物サンプルもしくは生物サンプルの少なくとも一つの構成成分を処理するのに役立つ薬剤、又は、生物サンプルもしくはその少なくとも一つの構成成分、例えば、一つの細胞もしくは複数の細胞あるいはその成分、核酸もしくはタンパク質の完全性を維持するのに役立つ成分である。「固体マトリックスの処理」とは、好ましくは、固体マトリックス材料の、液体もしくは溶解状態への転移と理解される。「生物サンプルもしくはその少なくとも一つの構成成分の処理」とは、好ましくは、例えば、保存、分析、もしくはその他の操作のために、生物サンプルもしくはその構成成分を処理、調製、又は準備的処理及び/もしくは調製と理解される。この処理剤は、例えば、生物サンプルの安定化、操作、もしくは処理に関する薬剤、又は、固体マトリックスの性質、もしくは固体マトリックスの液体もしくは溶解状態の性質に影響を及ぼす薬剤であってもよい。この少なくとも一つの処理剤は、好ましくは、イオン強度及び/もしくはカオトロピック安定剤、温度修飾剤及び酵素、細胞の安定剤、細胞成分の安定剤、核酸の安定剤、タンパクの安定剤、巨大分子の安定剤、組織の安定剤、分解剤、核酸及び/もしくはタンパク質の分解を抑制する抑制剤、巨大分子を損傷する剤の抑制を実行可能な抑制剤、及び、プロテアーゼ、リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、又は生物サンプル及び/もしくはその構成成分の分解反応をもたらす他の酵素の活性に対抗するか、あるいは該活性を抑える修飾剤、からなる群から選ばれる。他の可能な処理剤は、タンパク修飾剤、例えば、少なくとも一つのアセチル化剤、ハロゲン化剤、ヌクレオチド、核酸類縁体、アミノ酸又はアミノ酸類縁体、カルボジイミド又はイミド、ハロアセテート、ハロアセタミド、アセチルサルチル酸、又は無水酸であってもよい。さらに、他の処理剤も、例えば、イオン性もしくは非イオン性洗浄剤、還元剤、例えば、2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、アスコルビン酸、抗微生物剤、キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、及び処理剤として使用されるもの以外の緩衝物質、例えば、HEPES又はMOPSも考慮の対象とされる。
【0086】
前述の目的に対する一つの解決はさらに、生物サンプルの収集法であって、生物サンプルを、固体マトリックス(この固体マトリックスは、少なくとも一つの開放端を有する少なくとも一つの容器の上に、又は容器の中に適合する閉鎖部に接続される保持要素に接続されている)に接触させること、及び前記マトリックスの上に堆積される生物サンプルを分解させることなく、該マトリックスの環境の、少なくとも一つの物理化学的性質を変化させることによって、該固体マトリックスを液体もしくは溶解状態に転移させること、を含む方法によって実現される。
【0087】
本発明において、生物サンプルの固体マトリックスへの接触は、好ましくは、唾液、血液、脳脊髄液、尿、もしくは他の体液、又は、生きているもしくは死んだ生物から、特に、ヒトもしくは動物から得られた、上皮細胞などの細胞の単離体、からなる生物サンプルを、該固体マトリックスと接触させることによって起こる。
【0088】
本発明において、生物サンプルと固体マトリックスとの接触は、好ましくは、サンプルをその自然環境から取り出すのと同時に、又は取り出した直後に起こる。「取り出した直後」という用語は、生物サンプルが、好ましくは、その自然環境から取り出されてから2時間以内、好ましくは、取り出されてから1時間以内、より好ましくは、取り出されてから30分以内、もっとも好ましくは取り出されてから10分以内に、デバイスと接触させられることを示す。接触が、サンプルをその自然環境から取り出すのと同時に起こる場合、サンプルは、本発明による固体マトリックスとの接触によって、その自然環境から取り出されることが好ましい。生物サンプルの、固体マトリックスとの接触が、サンプルがその自然環境から取り出された後に起こる場合、サンプルの、その自然環境からの抽出、及びサンプルの固体マトリックスとの接触の間に経過する時間が、10時間未満、好ましくは、2時間未満、より好ましくは1時間未満、さらに好ましくは30分未満、さらに好ましくは10分未満、もっとも好ましくは1分未満である。しかしながら、本発明によるデバイスは、その自然環境から、より長い期間をかけて取り出されるサンプルに対しても使用が可能であることを明示的に排除するものではない。本発明にしたがって使用することが可能なサンプルは、特に、法医学事例作業サンプルを含む。
【0089】
接触は、サンプルの種類に関して当業者によって適切と判断される限り、いずれの要素によって行ってもよい。したがって、例えば、サンプルが、体液、例えば、唾液、尿、汗、血液、精液などのサンプルである場合、又は、デバイスによる接触、擦過、もしくは摩擦によって収集されるサンプル、例えば、上皮細胞もしくは塗抹標本である場合、サンプルをその自然環境から直接取り出すために、接触は、単に、デバイスを用いることによって実行することが可能である。多くの液体サンプルにおいて、該液体を吸収することが可能な固体マトリックスが好まれる。他のタイプのサンプル、例えば、極細針吸引サンプルもしくは組織サンプル、例えば、生検の形を取るサンプルもしくは血液サンプルにおいては、先ず、生物サンプルを本発明によるデバイスに接触させる前に、種々の収集要素、例えば、針又はカニューレを用いるか、又は、サンプルを切ることによってサンプルを収集することが必要とされる場合がある。
【0090】
本発明によれば、生物サンプルは、該生物サンプルに固体マトリックスを直接接触させることによって、好ましくは、固体マトリックスを用いてその供給源から生物サンプルを直接収集することによって、固体マトリックスに対して付着される。生物サンプルは、好ましくは、本発明による固体マトリックスに対して注がれない。
【0091】
本発明によれば、生物サンプルは、固体マトリックスの上では乾燥しないことが好ましい。
【0092】
固体マトリックス材料の液体もしくは溶解状態への少なくとも部分的転移は、マトリックス環境の少なくとも一つの物理化学的性質を変化させることによって起こる。本発明による、固体マトリックス材料の液体もしくは溶解状態への少なくとも部分的転移は、固体マトリックスからの生物サンプルの少なくとも部分的放出をもたらす。
更なる詳細は前述されている。
【0093】
少なくとも一つの物理化学的性質を変えることによって、固体マトリックス材料の液体もしくは溶解状態への、好ましくは、少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも50重量%、さらに好ましくは少なくとも75重量%の、もっとも好ましくは完全な、転移が誘発される。この主旨において変更が可能で、好ましい物理化学的性質は、本発明のシステムに関連して前述したものである。
【0094】
変化させる少なくとも一つの物理化学的性質は、少なくとも一つの溶媒の添加、温度の上昇、少なくとも一つの試薬の添加、少なくとも一つの酵素の添加、及びpHの変化からなる群から選ばれる、少なくとも一つの、物理化学的性質の変化である。したがって、例えば、少なくとも一つの溶媒の添加は、好ましくは、溶媒に対する固体マトリックスの少なくとも部分的な溶解を引き起こし;温度の上昇は、好ましくは、固体マトリックスの少なくとも部分的な融解を引き起こし;少なくとも一つの試薬及び/もしくは少なくとも一つの酵素の添加、及び/又はpHの変化は、固体マトリックスの少なくとも部分的な液状化又は溶解を引き起こす。本発明において好ましい、溶媒、温度、試薬、酵素、及びpH値は、本発明によるシステムに関連して前述したものである。
【0095】
本発明の方法においては、固体マトリックスの液体もしくは溶解状態への少なくとも部分的転移は、酵素(単数もしくは複数)、溶媒(単数もしくは複数)、酸(単数もしくは複数)もしくは塩基(単数もしくは複数)、試薬(単数もしくは複数)から選ばれる、少なくとも一つの成分の添加によって実行されることが特に好ましい。
【0096】
本発明では、前述の物理化学的性質の変化の、任意の組み合わせを適用することが可能である。したがって、前述の物理化学的性質の内の一つを超えるものを実質的に同時に変えることによって、例えば、pHの増減及び/もしくは少なくとも一つの溶媒、試薬及び/もしくは酵素の添加と実質的に同時に、温度を上昇又は下降させることによって、生物サンプルの放出を誘発することも考慮の対象とされる。
【0097】
本発明による方法は、好ましくは、安定剤を加えることによって、生物サンプル又はその少なくとも一つの構成成分の安定化を含むことも考慮の対象とされる。安定剤、及び生物試料の安定化の他の要素は、当該技術分野に熟練した当業者には周知である。さらに、安定剤は、本発明による固体マトリックスの液体もしくは溶解状態への転移を、実行又は支持することも可能である。生物サンプルもしくはその少なくとも一つの構成成分の安定化は、好ましくは、できるだけ早く、収集中又は収集後に行われ、好ましくは、本発明による固体マトリックスの液体もしくは溶解状態への転移前、又は転移中であるが、さらに想定可能なものとして転移後にも行われる。
【0098】
さらに、本発明による方法は、本発明による固体マトリックスと接触した生物サンプル材料を輸送する工程をさらに含むことが可能である。生物サンプルを、本発明による固体マトリックスと接触させた後輸送しなければならない場合、該固体マトリックスは、輸送中少なくとも一つの物理化学的性質を変化させることによって、固体状態から液体もしくは溶解状態に少なくとも部分的に転移させることが可能である。ここでは輸送は、サンプル供給源から、該サンプルを分析及び/又は保存することが可能であるか、又はその他のやり方で調製又は処理することが可能な場所への輸送であってもよい。したがって、輸送は、例えば、単純に、患者から、同じ又は近くの部屋の作業ステーションへの輸送であってもよい。さらに、輸送は、サンプル供給源から、サンプルの収集後、数時間又は数日の−ただし好ましくは24時間未満であるが−遅延及び/又は旅行を要する、中央の分析及び/又は保存施設への輸送であってもよい。
【0099】
さらに、本発明による方法は、生物サンプルから一つ以上の生物成分を単離する工程をさらに含むことが可能である。生物サンプルからの一つ以上の生物構成成分の単離は、固体マトリックス材料の液体もしくは溶解状態への転移の際に、又は転移後に起こってもよいが、好ましくは、固体マトリックス材料の、液体もしくは溶解状態への転移後に起こる。さらに、当業者に公知の全ての単離及び精製技術は、生物サンプルの単離及び/又は精製のために、本発明において考慮の対象とされる。例えば、核酸の単離は、好ましくは、固体マトリックス材料の液体もしくは溶解状態への転移後に起こり、その際、サンプルは、好ましくは固体マトリックスから放出され、好ましくはビーズ膜又はシリカ膜利用技術によって、分解試薬で処理される。これらの方法は、例えば、自動化又は半自動化システム、好ましくは高処理システムにおいて自動化することが特に容易である。
【0100】
本発明による固体マトリックスの、固体状態から液体もしくは溶解状態への少なくとも部分的転移、及び生物サンプルのそれが接触した固体マトリックスからの少なくとも部分的放出は、好ましくは、生物サンプルを担持する固体マトリックスの安定化、輸送、及び保存の内の少なくとも一つの最中か、又は、本発明の方法にしたがって収集される生物サンプルの処理及び/又は精製中に、好ましくは、安定化又は輸送時に、より好ましくは輸送時に行われる。これは、効率と時間の節約という観点から、本発明による方法の特別の利点を表す。
【0101】
前述の組み合わせ及び好ましい実施態様のいずれにおいても、固体マトリックスが、少なくとも一つのカオトロピック物質と、必要に応じて少なくとも一つの高イオン強度溶液の存在下に、液体もしくは溶解状態に少なくとも部分的に転移されることが特に好ましい。
【0102】
本発明はさらに、本発明による少なくとも一つのシステムを含むキットに関する。本発明によるこのキットは、例えば、医学又は獣医学施設の内部及び外部の両方において、又は戸外で、例えば、病院で、医師の手術室で、薬局で、仕事場で、家庭で、法執行機関で、科学捜査で、環境サンプル収集で、食品サンプル収集で、植物サンプル収集で使用されるため、携帯可能となるように工夫されてもよいが、しかし必ずしもそうである必要はない。キットはさらに、広汎な生物サンプルを安定化及び/もしくは処理するために、ならびに/又は本発明によるデバイスの固体マトリックスを、固体状態から液体状態に転移させるために、好適な一つ以上の組成物を含んでもよい。さらに、キットは、特定のサンプル、又は特定種類のサンプルのための特別組成物を含むことも可能である。携帯キットはさらに、好ましくは、キットを運ぶのに好適なキャリヤー、及び必要に応じて、キットを、特にサンプルを含むキットを、加熱又は冷却することが可能な、一つ以上の携帯デバイスを含む。本発明によるキットはさらに、好ましくは、該キットを使用するための案内を含む。さらに、キットは、追加の構成を含んでいてもよく、例えば、法執行機関、遺伝関係の確立、もしくは現場試験における、法的な目的を満足するために必要な構成を含んでいてもよい。このような構成としては、テープもしくはその他の不正開封防止シーリング要素、及び/又は法的文書が挙げられる。
【0103】
本発明によるシステム及び/又はキットは、自動化システムもしくは半自動化システム、又は、例えば、高処理システムであってもよい、少なくとも部分的自動化システムと適合的である。この少なくとも部分的自動化システムは、生物サンプルの保存、回収、処理、精製、及び分析の内の少なくともひとつに関していてもよい。
【0104】
本発明の特別の利点は、それが、多数の生物サンプルの効率的、高速の、再現可能な収集−特に低いサンプル損失下に−、安定化、処理、及び/又は分析を可能とすることである。
【0105】
本発明の実施態様及び局面は、もちろん、当業者にとって、本発明の目的を達成するのに好適と考えられる任意のやり方で互いに組み合わせることが可能である。
【0106】
本発明はさらに、下記の非限定的図面及び実施例によって具体的に説明される。
図面の簡単な説明
図1は、閉鎖される保持要素及び固体マトリックスを含む、種々の形状:
a)円形頭部;
b)楕円形頭部;
c)球根状頭部;
d)紙片;
e)乳頭状頭部;
f)液体又は固体を含む中空ロッドを備える楕円形頭部;
g)ロッド及び固体マトリックスを貫通する閉鎖回路つき;
のロッド様ユニットを示す。
図2は、固体マトリックスに開放する中空ロッド形状を持つ保持要素を含む、種々の形態;
a)基本構造;
b)中空ロッドを貫流する流体を有する基本構造;
のロッド様ユニットを示す。
【0107】
図1の実施態様は、本発明によるシステム1の好ましい形状を表す。固体マトリックス3は、ロッド形状を持つ保持要素4に対し、該ロッドの先端5において付着する。ロッドは、実質が詰まっていても、中空であってもよく、中空の場合、頭部の固体マトリックス3に対して閉鎖される。
【0108】
図1f)は、保持要素として中空ロッドを有するシステムを示す。中空ロッドは、例えば冷却又は加熱のため、かつ、必要に応じて、流体7の貯留槽として活動するため、流体7の流入を可能とするよう、頭部の反対側のロッドにおいて比較的大きな開口6を有する。
【0109】
図1g)は、他の実施態様であって、例えば、冷却剤もしくは加熱剤の流通のため、又は、頭部の固体マトリックス3を加温するための電流通電のため、固体マトリックス3に対して閉鎖される回路9が、ロッドによって、又は、ロッドを通じて設けられる実施態様を示す。
【0110】
図2a)及び2b)に描く、さらに別の態様は、頭部の固体マトリックス3に対して開放される、保持要素としての中空ロッドを示す。中空ロッドの中に設けられるキャビティ8は、例えば、放出助剤を提供することによって、固体マトリックス3の、固体状態から液体もしくは溶解状態への転移を実行又は補佐するために使用可能である。
【0111】
図2b)は、流体7、例えば冷却剤もしくは放出助剤が、ロッドを通過し、頭部に少なくとも流入する、好ましくは頭部を貫通する流れを示す。
【実施例】
【0112】
(実施例1)
カオトロピック溶液を利用した、可溶性頬内スワブからのDNA抽出
綿球形状の酢酸セルロース線維を、ヒトのドナーから頬内スワブを採取するのに用いた。綿球を、二つの等しい大きさの小片(A及びB)に切断し、異なる手順を用いてDNAを抽出した。
【0113】
手順1
酢酸セルロース綿球のA部分は、800μlのAVL緩衝液(QIAGEN製のグアニジニウム塩を含む高塩緩衝液)中に穏やかに攪拌しながら室温で5分間溶解させた。この縣濁液560μlを、2mlのマイクロ遠心管に移し、この縣濁液を含む管に560μlのエタノールを加えた。混合は、渦巻き攪拌によって実行し、サンプルを、膜を備えたカラムに移した(QIAGEN製のQIAamp Mini Spinカラム)。カラムを、8,000rpmで1分間遠心し、核酸を膜に結合させた。カラムを、第1回目、500μlのAW1緩衝液(QIAGEN製のグアニジニウム塩及びエタノール含有緩衝液)で洗浄し、次いで、8000rpmで1分間遠心した。次に、カラムを、第2回目、500μlのAW2緩衝液(QIAGEN製のエタノール含有緩衝液)で洗浄し、次いで、8000rpmで1分遠心した。乾燥工程では、カラムを、新しい収集管に移し、14,000rpmで3分遠心した。溶出のために、150μlのAE緩衝液(QIAGEN製の低塩溶出緩衝液)を、乾燥させた膜に投下し、次いで、14,000rpmで1分間遠心した。
【0114】
溶出液におけるゲノムDNAを、リアルタイムPCRを用いて定量した。手順1における平均収量は、DNA 8.7ngであった。
【0115】
手順2
酢酸セルロース綿球のB部分は、800μlのAVL水性緩衝液(QIAGEN製のグアニジニウム塩を含む高塩緩衝液)に、穏やかに攪拌しながら室温で5分間溶解させた。この縣濁液400μlを、2mlのマイクロ遠心管に移し、この縣濁液を含む管に、720μlの脱イオン水、及び20μlのプロテイナーゼK(QIAGEN製)を加えた。混合は、渦巻き攪拌によって実行し、サンプルを、56℃で10分間インキュベートした。さらに別の456μlのAVL緩衝液(QIAGEN製)、及び800μlのエタノールを加え、混合を渦巻き攪拌によって実行した。次に、サンプルを、カラムに移した(QIAGEN製のQIAamp(登録商標)Mini Spinカラム)。カラムを8,000rpmで1分間遠心し、核酸を膜に結合させた。カラムを、第1回目、500μlのAW1緩衝液(QIAGEN製)で洗浄し、次いで、8000rpmで1分間遠心した。次に、カラムを、第2回目、500μlのAW2緩衝液(QIAGEN製)で洗浄し、次いで、8000rpmで1分間遠心した。乾燥工程では、カラムを、新しい収集管に移し、14,000rpmで3分間遠心した。溶出のために、150μlのAE緩衝液(QIAGEN製の低塩溶出緩衝液)を乾燥させた膜に投下し、次いで14,000rpmで1分間遠心した。
【0116】
溶出液におけるゲノムDNAを、リアルタイムPCRを用いて定量した。手順2における平均収量は、DNA 50.9ngであった。
【0117】
(実施例2)
種々の緩衝液におけるセルロースアセテートフタレートの可溶性
種々の緩衝液におけるセルロースアセテートフタレート(CAP)の可溶性を調べた。
【0118】
50mg(±1mg)のCAPを、2mlのマイクロ遠心管に移した。1mlの緩衝液を加えた。この管を閉鎖し、内容物を混ぜ合わせるために、10秒間パルス渦巻き攪拌した。次に、管を、室温において30時間観察した。
【0119】
使用した緩衝液は、ATL(細菌用分解緩衝液)、AVL(分解緩衝液)、MTL(分解及び結合緩衝液)、ML(分解及び結合緩衝液)、及びRLT(分解緩衝液)であった。これらは全て、QIAGENから市販される緩衝液である。
結果は以下の表1において示されている。
【0120】
【表1】

【0121】
(実施例3)
カオトロピック液による、融解可能なスワブからのDNA抽出
パラフィン製頭部を有するスワブ(Paraplast−XTRA、融解点52℃、McCormick Scientific)を用いて、HeLa細胞からサンプルを採取した。スワブを、カオトロピック塩の添加又は無添加下に、種々の溶液において70℃で融解させた。DNAは、QIAamp DNA(QIAGEN)技法を用いて抽出した。
【0122】
手順
単層として増殖させたHeLa細胞を、PBSで2度洗浄した。スクレーパー形状のParaplast−XTRA製頭部を持つスワブを用いて細胞サンプルを採取した。このスワブの頭部を、2mlのマイクロ遠心管において、カオトロピック塩添加又は無添加の、種々の試薬(表2、試薬組成)500μlに溶解した。スワブ頭部の融解は、穏やかな攪拌下に72℃で10分インキュベーションすることによって実現した。フルスピード(14,000rpm)で1分間遠心後、パラプラストは、液体溶液の上に固体層を形成した。液体溶液400μlを回収し、新しい2mlマイクロ遠心管に移した。
【0123】
20μlのプロテイナーゼKの添加、及び56℃で10分のインキュベーション後、200μlのエタノール(99.5%)を加えた。混合は、渦巻き攪拌によって実行し、サンプルを、膜を備えたカラムに移した(QIAamp Mini Spinカラム、QIAGENから購入)。カラムを、8,000rpmで1分間遠心し、核酸を膜に結合させた。カラムを、第1回目、500μlの洗浄緩衝液AW1(QIAamp DNA、QIAGEN)で洗浄し、次いで、8000rpmで1分間遠心した。カラムを、第2回目、500μlの洗浄緩衝液AW2(QIAamp DNA、QIAGEN)で洗浄し、次いで、8000rpmで1分間遠心した。乾燥工程では、カラムを、新しい収集管に移し、14,000rpmで1分間遠心した。溶出のために、100μlの水性緩衝液AE(QIAamp DNA、QIAGEN)を、乾燥させた膜に投下し、次いで、10,000rpmで1分間遠心した。
【0124】
DNA全体の完全性及びサイズを、アガロースゲル電気泳動によって分析した。10μlの溶出液を、4μlの負荷緩衝液(50%グリセロール及びブロムフェノールブルーを含む)と混ぜ合わせた。サンプルを、1x TBE緩衝液に溶解した1%アガロースゲルに加えた。電気泳動は、電気泳動チェンバーのcm長当たり約2ボルト下に150分動作させた。DNAは、臭化エチジウム染色によって可視化した(図面実験3)。PCRの成績は、ABI配列検出システムABI PRISM 7700において、定量的、リアルタイムPCRによって分析した(表2、CT値、及び3回試行における2回の独立抽出から得られる標準偏差)。QuantiTect Probe PCRキット(QIAGEN)使用による、鋳型として2μlサンプルを有する25μlアッセイは、ヒトのβ−アクチン遺伝子のエキソン3内の、294 bp断片の増幅用プライマー及びプローブを含んでいた(forward primer: 5'-TCA CCC ACA CTG TGC CCA TCT ACG A-3’、reverseprimer:5’-CAG CGG AAC CGC TCA TTG CCA ATG G-3’、フ゜ローフ゛5’-(FAM)ATG CCC TCC CCC ATG CCA TCC TGC GT(BHQ)-3')。
【0125】
カオトロピック塩を含む溶液内で融解させたスワブ頭部から抽出したDNAは、高分子量で、約23kbの断片長を持ち、アガロースゲルにおいて明瞭なバンドとして泳動した(図面実験3、1−5列)。これらのDNAサンプルは、リアルタイムPCRによって増幅することが可能であり、27から29の範囲のCT値が得られた(表2、AからC)。
【0126】
一方、スワブ頭部を、カオトロピック塩無添加の溶液中で融解させ、前述の方法で単離した場合、DNAは見られなかった(図面実験3、6及び7列)。この結果と一致して、リアルタイムPCRにおけるCT値は、試薬液Dの場合6から7サイクル遅く、あるいは、試薬液Eの場合、増幅はまったく起こらなかった(表2)
【0127】
【表2】

【0128】
図面実験3:図3参照
試薬A(1)、B(2および4)、C(3および5)、D(6)、並びにE(7)中に溶融したパラプラストスワブからの溶出液に関するアガロースゲル電気泳動。M:ラムダHind III分子量マーカー
【0129】
(実施例4)
カオトロピック液による可溶性スワブからの核酸抽出
酢酸セルロース製頭部を持つスワブを、唾液及び種々のウィルス及び細菌病原体の混合物で含浸した。スワブを、アセトンか、又はカオトロピック剤含有緩衝液(AVL緩衝液、QIAGEN)に溶解した。QIAampウィルスRNA(QIAGEN)手順を用いて核酸を抽出した。
【0130】
手順
Chlamydia trachomatis、及びA型肝炎ウィルス(HAV)を含む病原体混合物を調製した。5mlの唾液を、50ml管に収集した。唾液の100μl分液、及び病原体混合物の40μl分液を、酢酸セルローススワブに含浸させた。スワブを、3mlのアセトン、又は3mlのAVL緩衝液のいずれかを含む15ml管に移した。3回転倒させた後、サンプルを室温で24時間保存した。保存後、560μlのエタノール(99.5%)を700μlのサンプルに加えた。混合は、渦巻き攪拌によって実行し、630μlサンプルを、膜を備えたカラムに移した(QIAGEN製のQIAamp Mini Spinカラム)。カラムを、8,000rpmで1分間遠心し、核酸を膜に結合させた。残りのサンプルを、QIAamp Mini Spinカラムに移し、カラムを、8,000rpmで1分間遠心した。カラムを、第1回目、500μlの洗浄緩衝液AW1(QIAGEN)で洗浄し、次いで、8000rpmで1分間遠心した。カラムを、第2回目、500μlの洗浄緩衝液AW2(QIAGEN)で洗浄し、次いで、8000rpmで1分遠心した。乾燥工程では、カラムを、新しい収集管に移し、14,000rpmで3分遠心した。溶出のために、100μlの水性緩衝液AVE(QIAGEN)を、乾燥させた膜に投下した。1分間のインキュベーション後、10,000rpmで1分間遠心した。
【0131】
抽出核酸のPCR上の振る舞いを、種々のリアルタイムPCRにおいて分析した。
溶解スワブから抽出されたChlamydia trachomatis−DNAは、メーカーの記載する通り、ABI配列検出システムABI PRISM 7900に接続したartus C.trachomatis TM PCRキット(QIAGEN)を用いて分析した。
溶解スワブから抽出したHAV−RNAは、メーカーの記載する通り、Rocheから支給されたLight Cycler 1.0に納めたartus HAV LC RT−PCRキット(QIAGEN)を用いて分析した。
【0132】
サンプルは全て、アセトンにも、AVLにも1時間以内に溶解した。平均CT値、及びそれぞれ3重に抽出した4サンプルの標準偏差を表3に示す。C.trachomatis標的DNAのCT値は、アセトンに溶解させたものに比べると、AVL緩衝液に溶解させたサンプルではより低かった(デルタCT=−2.70)。PCR反応に加えた内部コントロールのCT値は等しかった。これは、PCRの抑制が、アセトンサンプルの標的CT値がより高いことの理由ではないことを示す。
C.trachomatisデータと同様に、artus HAV LC RT−PCRにおいても、CT値は、アセトンサンプルに比べ、AVLに溶解させたサンプルにおいてより低かった(デルタCT=−1.87)。
【0133】
【表3】

【図1a)】

【図1b)】

【図1c)】

【図1d)】

【図1e)】

【図1f)】

【図1g)】

【図2a)】

【図2b)】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物供給源から生物サンプルを直接収集するためのシステムであって:
少なくとも一つの開放端を有する容器、
前記少なくとも一つの開放端上に、又は該開放端中に適合する閉鎖部、
前記閉鎖部に接続される保持要素、及び
前記生物サンプルが堆積される固体マトリックスを含み、
前記固体マトリックスの材料が、少なくとも部分的に液体に又は溶解状態に転移可能であることを特徴とする、システム。
【請求項2】
前記容器が、少なくとも一つのカオトロピック物質、及び必要に応じて少なくとも一つの高イオン強度物質を、さらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記固体マトリックスの材料が、少なくとも一つの溶媒に対し少なくとも部分的に可溶であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記固体マトリックスの材料が、温度を上げることによって少なくとも部分的に溶融可能であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記固体マトリックスの材料が、少なくとも一つの試薬を加えることによって、少なくとも部分的に液体または溶解状態へ転移可能であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記固体マトリックスの材料が、少なくとも一つの酵素を加えることによって、少なくとも部分的に液体又は溶解状態に転移可能であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記固体マトリックスの材料が、pHを変化させることによって、少なくとも部分的に液体又は溶解状態に転移可能であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
生物サンプルを収集するためのシステムであって:
少なくとも一つの開放端を有する容器、
前記少なくとも一つの開放端上に、又は該開放端中に適合する閉鎖部、
前記閉鎖部に接続される保持要素、
前記生物サンプルが堆積される固体マトリックス、及び、
少なくとも一つの処理剤を含み、
前記固体マトリックスの材料は、前記マトリックスの環境の少なくとも一つの物理化学的性質を変化させることによって、前記マトリックスの上に堆積される前記生物サンプルに含まれる生体分子を分解させることなく、少なくとも部分的に液体又は溶解状態に転移可能であることを特徴とする、システム。
【請求項9】
少なくとも一つのカオトロピック物質、及び必要に応じて少なくとも一つの高イオン強度物質を、さらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記固体マトリックスの前記材料を、固体状態から少なくとも部分的に液体又は溶解状態へ転移させるための、少なくとも一つの要素をさらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
生物サンプルを収集するための方法であって、少なくとも一つの開放端を有する、少なくとも一つの容器の上、又は該容器の中に適合する閉鎖部に接続される保持要素に接続される固体マトリックスに対し、生物サンプルを接触させることを含み、前記固体マトリックスが、前記マトリックスの環境の少なくとも一つの物理化学的性質を変化させることによって、前記マトリックスの上に堆積される生物サンプルを分解させることなく、固体状態から少なくとも部分的に液体又は溶解状態に転移可能である、方法。
【請求項12】
前記方法が、少なくとも一つのカオトロピック物質の存在下、及び/又は、必要に応じて、少なくとも一つの高イオン強度物質の存在下に実行されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記固体マトリックスの液体又は溶解状態への、前記少なくとも部分的転移が、酵素(単数もしくは複数)、溶媒(単数もしくは複数)、酸(単数もしくは複数)又は塩基(単数もしくは複数)、試薬(単数もしくは複数)から選ばれる、少なくとも一つの成分の添加によって実行されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の、少なくとも一つのシステムを含むキット。
【請求項15】
請求項8に記載の、少なくとも一つのシステムを含むキット。

【公表番号】特表2010−515039(P2010−515039A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543469(P2009−543469)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/064563
【国際公開番号】WO2008/080932
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(509180935)プレアナリティクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【Fターム(参考)】