説明

生物処理方法及び生物処理装置

【課題】酸素溶解効率が低下することを抑制しつつ使用動力を低減させ得る生物処理方法ならびに生物処理装置を提供することにある。
【解決手段】被処理水と好気性微生物とを含む槽内水を生物処理槽に収容させた状態で、散気装置から前記槽内水中に気泡を放出させて散気を実施することにより、前記気泡の放出方向に前記槽内水を流動させて生物処理槽内に循環流を形成させつつ生物処理を実施する生物処理方法であって、前記循環流の流動方向に気泡を放出させて散気を実施する循環流工程を実施し、生物処理槽内に形成されている循環流に対向する方向への気泡の放出により該循環流とは異なる方向に槽内水を流動させて新たなる循環流を形成させる循環流変更工程を前記循環流工程後に実施することを特徴とする生物処理方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物処理槽の槽内水中に散気を実施して生物処理を実施する生物処理方法と、生物処理槽と散気装置とを有する生物処理装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
下水や工場排水などに含まれている有機物を微生物によって無機化させたり、脱リン、脱窒素させたりする生物処理方法が従来広く用いられている。
この生物処理は、通常、好気性微生物や嫌気性微生物を、処理対象となる排水(以下「被処理水」ともいう)とともに槽(以下「生物処理槽」ともいう)に収容し、槽内に収容されている槽内水に被処理水と微生物との混合相を形成させて実施されている。
【0003】
そして、この生物処理槽は、収容する微生物を高活性な状態に維持すべく槽内環境が調整されており、例えば、好気性微生物を用いた生物処理が実施される生物処理槽においては、散気体を有する散気装置により空気などの酸素を含有する気体を槽内水中に散気することが行われており被処理水に酸素を溶存させることが行われている。
【0004】
このような生物処理においては、従来、効率の向上が求められており、生物処理槽内に汚泥(微生物)濃度や溶存酸素濃度の偏りが形成されて処理効率が低下するのを防止すべく、生物処理槽内の槽内水を攪拌装置などで攪拌することが行われたりしている。
さらには、この生物処理槽内の攪拌を散気装置による気泡の放出によって実施することも行われており、下記特許文献1には、生物処理槽底部で気泡を発生させて、該気泡の浮上に同伴させて槽内水に上昇流を形成させることで生物処理槽内に循環流を形成させる生物処理方法が記載されている。
この特許文献1に記載されているような、散気装置から槽内水中に気泡を放出させることにより気泡の放出方向に槽内水を流動させて生物処理槽内に循環流を形成させる生物処理方法は、散気装置から発生させた気泡の浮力を槽内水の攪拌動力として利用することから、例えば、攪拌装置を用いて槽内水の攪拌をするような場合のごとく特別な動力を必要とせず生物処理に要する動力を削減し得る。
一方で、攪拌装置を用いる場合などに比べると酸素の溶解効率を向上させることが困難であるという問題を有している。
【0005】
すなわち、従来の生物処理方法ならびに生物処理装置においては、酸素溶解効率が低下することを抑制しつつ動力の低減を図ることが困難であるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−271586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、酸素溶解効率が低下することを抑制しつつ使用動力を低減させ得る生物処理方法ならびに生物処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、散気装置から槽内水中に気泡を放出させることにより気泡の放出方向に槽内水を流動させて生物処理槽内に循環流を形成させると気泡が循環流とともに移動することから気泡が該気泡を取り巻く槽内水に同伴された状態で水面まで移動されることで酸素溶解効率の向上が困難となっていることを見出して本発明の完成に至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、被処理水と好気性微生物とを含む槽内水を生物処理槽に収容させた状態で、散気装置から前記槽内水中に気泡を放出させて散気を実施することにより、前記気泡の放出方向に前記槽内水を流動させて生物処理槽内に循環流を形成させつつ生物処理を実施する生物処理方法であって、
前記循環流の流動方向に気泡を放出させて散気を実施する循環流工程を実施し、生物処理槽内に形成されている循環流に対向する方向への気泡の放出により該循環流とは異なる方向に槽内水を流動させて新たなる循環流を形成させる循環流変更工程を前記循環流工程後に実施することを特徴とする生物処理方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記課題を解決すべく、被処理水と好気性微生物とを含む槽内水が収容される生物処理槽と、該生物処理槽内に収容された前記槽内水中に気泡が放出されて散気が実施される散気装置とを有し、しかも、前記気泡の放出によって前記槽内水が流動され、生物処理槽内に循環流が形成されて生物処理が実施される生物処理装置であって、前記循環流の流動方向に気泡を放出させて散気を実施する循環流工程を実施し、生物処理槽内に形成されている循環流に対向する方向への気泡の放出により該循環流とは異なる方向に槽内水を流動させて新たなる循環流を形成させる循環流変更工程を前記循環流工程後に実施させ得るように前記散気装置が備えられており、生物処理槽内における前記気泡の発生状態を制御する散気制御機構がさらに備えられていることを特徴とする生物処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
循環流に同伴されて気泡が流動される場合には、気泡と該気泡を取り巻く槽内水との移動速度差が小さく、気泡が放出された形状に近い形状で水面まで搬送され、しかも、気泡を取り巻く槽内水の更新が速やかに行われないため、気液界面における酸素濃度差が小さくなってしまうおそれがある。
一方で、本発明によれば循環流変更工程において循環流に対向する方向に気泡が放出されることから、気泡表面の槽内水を積極的に更新し、気液界面における酸素濃度差を大きく維持できる。また、気泡が大きな場合は気泡の形状を乱して気液界面の面積を増大させることも可能となりうる。
また、このことにより気泡内部の気体を活発に流動させることができる。
さらに、循環流変更工程の間においては、循環流工程で気泡が放出されてから水面に到達するまでの時間よりも長い間気泡を槽内水中に存在させうる。
したがって、従来の生物処理装置を用いた従来の生物処理方法に比べて酸素溶解効率を向上させうる。
【0012】
しかも、本発明によれば、気泡の放出によって生物処理槽内に循環流が形成されることから攪拌のための動力などを低減させることができる。
すなわち、酸素溶解効率が低下することを抑制しつつ使用動力を低減させ得る生物処理方法ならびに生物処理装置を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】生物処理装置を示す斜視図。
【図2a】第一循環流工程における同生物処理装置を側面方向から見た断面図。
【図2b】第一循環流工程における同生物処理装置を上方向から見た平面図。
【図3】循環流変更工程における同生物処理装置を側面方向から見た断面図。
【図4】第二循環流工程における同生物処理装置を側面方向から見た断面図。
【図5】他の生物処理装置を示す斜視図。
【図6a】第一循環流工程における同生物処理装置を上方向から見た平面図。
【図6b】第二循環流工程における同生物処理装置を上方向から見た平面図。
【図6c】第三循環流工程における同生物処理装置を上方向から見た平面図。
【図6d】第四循環流工程における同生物処理装置を上方向から見た平面図。
【図7a】他の同生物処理装置を側面方向から見た断面図(第一循環流工程)。
【図7b】他の同生物処理装置を側面方向から見た断面図(循環流変更工程)。
【図7c】他の同生物処理装置を側面方向から見た断面図(第二循環流工程)。
【図8】他の同生物処理装置を側面方向から見た断面図。
【図9】他の同生物処理装置を側面方向から見た断面図。
【図10】他の同生物処理装置を側面方向から見た断面図。
【図11】他の同生物処理装置を側面方向から見た断面図。
【図12】他の同生物処理装置を側面方向から見た断面図。
【図13】酸素移動効率の測定装置を示す平面図ならびに側面図。
【図14】酸素移動効率測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)説明する。
【0015】
(第一実施形態)
まず、本発明の第一実施形態の生物処理装置について説明する。
図1は、本発明の生物処理方法を実施するための生物処理装置を表す概略斜視図であり、10は、アンモニアなどの無機成分や有機成分といった処理対象物質を含有する被処理水が好気性微生物とともに含有された槽内水Fが収容されている生物処理槽を表しており、11は、前記槽内水Fを貯留するための槽本体部である。
【0016】
この槽本体部11は、槽底12が略平坦に形成されており、この槽底12から上方に立設された側壁13が四面に配されて内部に略直方体形状の収容スペースが形成されている。
また、槽本体部11の収容スペースの上面に相当する部分は、四つの側壁13の上端縁により画定された矩形の開口領域が形成されており、該開口領域は、生物処理装置の運転時には開放状態または覆蓋(図示せず)等で覆われた状態とされる。
【0017】
20は、槽底12に配されたメンブレン散気装置を表しており、該メンブレン散気装置20は、その全長が槽本体部11の側壁13の長さよりもわずかに短い帯状に形成されており、散気を実施するための通気孔が形成された弾性体膜24を備えている。
また、このメンブレン散気装置20は、供給された気体を前記弾性体膜24の通気孔から上方に向けて放出し得るように前記弾性体膜24を上面側に配して槽底12に配置されている。
さらに、このメンブレン散気装置20は、前記帯状形状の略全面から気泡を放出し得るように、その上面側の略全面が前記弾性体膜24で形成されている。
【0018】
本実施形態の生物処理装置には、前記メンブレン散気装置20が2台備えられており、該二台の内の一台のメンブレン散気装置20a(以下「第一メンブレン散気装置20a」ともいう)は、前記槽本体部11をなす四つの側壁13の内の一つの側壁13aに沿って槽底12に配置されており、残りの一台のメンブレン散気装置20b(以下「第二メンブレン散気装置20b」ともいう)は、前記側壁13aに対向する位置に配されている側壁13bに沿って配されている。
【0019】
すなわち、本実施形態の生物処理装置には、後述する加圧空気の供給系統により加圧空気が供給されて前記第一メンブレン散気装置20aによって散気が実施される領域A1a(以下「第一散気領域A1a」ともいう)と、第二メンブレン散気装置20aによって散気が実施される領域A1b(以下「第二散気領域A1b」ともいう)との二つの散気領域が、互いに対向する二つの側壁に沿って延在された状態で設けられている。
【0020】
21は、前記メンブレン散気装置20への加圧空気の供給系統を構成する本管であり、該本管21は、ブロアなどの送風機(図示せず)により圧送された空気を流通させるべく本実施形態の生物処理装置に備えられている。
前記本管21は、前記槽本体部11の側壁13の上端部と略同一高さに位置し、槽本体部11の上部開口領域の側方を槽本体部11の一側壁に略平行して水平方向に延在されて配されている。
【0021】
22は、前記本管21とともにメンブレン散気装置20への加圧空気の供給系統を構成するライザー管であり、本実施形態の生物処理装置においては、前記第一メンブレン散気装置20aに空気を供給するためのライザー管22a(以下「第一ライザー管22a」ともいう)と、前記第二メンブレン散気装置20bに空気を供給するためのライザー管22b(以下「第二ライザー管22b」ともいう)との2本のライザー22a、22bが備えられている。
これらのライザー管22a、22bは、送風機から供給される加圧空気を散気装置20に供給すべく一端側が前記本管21に接続されており、他端側が前記メンブレン散気装置20a、20bに接続されている。
また、それぞれのライザー管22a、22bには、空気の流通が可能な開放状態と空気の流通が不可能な閉止状態とに切り替え可能な電磁弁B0a、B0bが備えられている。
【0022】
30は、前記電磁弁B0a、B0bの開放状態と閉止状態とを切り替えることにより、前記メンブレン散気装置20a、20bへの加圧空気の供給、停止を制御して、生物処理槽内における気泡の発生状態を制御するための散気制御機構である。
31は、この電磁弁B0a、B0bとともに、前記散気制御機構30を構成するタイマー制御装置であり、該タイマー制御装置31は、所定時間ごとに前記電磁弁B0a、B0bの開閉状態を切り替える切り替え信号を発信可能とされている。
前記散気制御機構30には、前記タイマー制御装置31から電磁弁B0a、B0bへの信号を伝達するための信号線SLがさらに備えられている。
【0023】
なお、ここでは詳述しないが本実施形態の生物処理には、本発明の効果を損ねない範囲において、従来公知の生物処理装置に用いられている構成を上記構成に加えて採用することができる。
【0024】
次いで、上記のような生物処理装置を用いた生物処理方法について説明する。
本実施形態の生物処理においては、前記タイマー制御装置31によって電磁弁B0a、B0bを操作し、前記メンブレン散気装置20a、20bからの散気の状態を制御することにより、生物処理槽内の槽内水Fの流動状態を変化させて、異なる2通りの循環流を形成させて生物処理を実施する。
【0025】
より詳しくは、前記異なる2通りの循環流の内、一循環流を生物処理槽内に形成させ、該循環流の流動方向に気泡を放出させて散気しつつ生物処理を実施する第一循環流工程と、他循環流を生物処理槽内に形成させ、該循環流の流動方向に気泡を放出させて散気しつつ生物処理を実施する第二循環流工程とを実施する。
さらに、本実施形態の生物処理方法においては、前記第一循環流工程と第二循環流工程との間に、生物処理槽内の循環流を、第一循環流工程での循環状態から第二循環流工程での循環状態へと変化させる循環流変更工程を実施する。
さらに、本実施形態の生物処理方法においては、この第二循環流工程を実施した後に、生物処理槽内の循環流を、第二循環流工程での循環状態から再び第一循環流工程での循環状態に戻すべく変化させる循環流変更工程を実施する。
このようにして、第一循環流工程、循環流変更工程、第二循環流工程、循環流変更工程を1セットとしたサイクル運転を実施する。
【0026】
本実施形態の生物処理方法においては、循環流工程と循環流変更工程とを繰り返して実施するサイクル運転を前記散気制御機構30によって実施する。
【0027】
この生物処理方法について、図を参照しつつより具体的に説明する。
図2aは、図1に示す生物処理装置を図中の矢印“X1”の示す方向に見た状態を模式的に示した断面図である。
また、図2bは、図1に示す生物処理装置を図中の矢印“X2”の示す方向に見た状態を模式的に示した平面図である。
この図2a、図2bは、第一循環流工程の様子を示したものであり図2a中の破線矢印“R”は、槽内水Fの循環方向(循環流)を表している。
また、図2aにおける“AB”は気泡を表している。
図2bにおける実線矢印は、水面H側の槽内水Fの流動方向を表し、破線矢印は、槽底12側の槽内水Fの流動方向を表している。
また、図2bにおける“U”で示される領域には上昇流が形成されており、“D”で示される領域には下降流が形成されていることを表している。
さらに、図中において他の図と同一の符号が用いられている箇所については、他の図と同様に構成されていることを示している。
【0028】
この第一循環流工程は、前記タイマー制御装置31からの信号によって、第一ライザー管22aに設けられた電磁弁B0aを開放状態とし、第二ライザー管22bに設けられた電磁弁B0bを閉止状態とすることにより、2台のメンブレン散気体20a、20bの内の、第一メンブレン散気装置20aから気泡を上方に向けて放出させ、第二メンブレン散気装置20bからは散気させないようにして実施される。
すなわち、第一メンブレン散気装置20aからの気泡の放出圧力ならびに放出後の気泡の浮力によって、第一メンブレン散気装置20aの上方の槽内水Fを上方に向けて流動させるとともに散気を停止している第二メンブレン散気装置20b側から槽内水を誘引する。
このことにより第二メンブレン散気装置20bの上方に下降流を形成させて生物処理槽内に循環流Rを形成させる。
【0029】
本実施形態の生物処理方法に用いる生物処理装置には、前記第一メンブレン散気装置20aによって散気が実施される第一散気領域A1aと、第二メンブレン散気装置20aによって散気が実施される第二散気領域A1bとが、互いに対向する二つの側壁に沿って延在する帯状に設けられていることから、この第一循環流工程においては、生物処理槽10の一方の側壁13a側で上昇し、前記側壁13aに対向する側壁13b側で下降する循環流Rが形成される。
このことにより槽内水Fを攪拌し、微生物などが凝集して形成されたフロックなどが槽底12に沈降したりすることを防止するとともに第一メンブレン散気装置20a上方の溶存酸素濃度の高い槽内水を生物処理槽10全体わたって均一に行き渡らせることができる。
さらに、攪拌装置などを用いることなく生物処理槽10内の槽内水Fの攪拌を実施させ得ることから槽内水を流動させるために攪拌装置などが用いられている他の生物処理方法に比べて使用動力を低減させ得る。
【0030】
この図2a、図2bに例示されている散気状態で実施されていた第一循環流工程の後に、図3にて例示されている散気状態で循環流変更工程を実施する。
この図3は、図2aと同方向に見た生物処理装置の状態を模式的に示した断面図である。
この図3に例示の循環流変更工程は、前記タイマー制御装置31から信号を発信させて、電磁弁B0a、B0bを制御し、第一循環流工程で散気を実施させていた第一メンブレン散気装置20aの散気を停止させるとともに、第一循環流工程で散気を停止させていた第二メンブレン散気装置20bからの散気を実施させることで開始される。
【0031】
循環流変更工程開始直後は、慣性によって槽内水Fが流動し続けることから第一循環流工程における循環流Rが残存しており、第二メンブレン散気装置20bからの散気を実施して、この循環流Rに対向する方向に気泡を放出させる。
この第二メンブレン散気装置20bからの気泡の放出を継続して実施することにより循環流Rの勢いを徐々に減衰させ、やがて、第二メンブレン散気装置20bの上方に上昇流を形成させて前記第一循環流工程における循環流Rとは循環方向が逆転している新たなる循環流R’を形成させる。
その後、この新たに形成された循環流R’で生物処理槽10内を攪拌しつつ生物処理を実施する第二循環流工程(図4)に移行する。
【0032】
この循環流変更工程では、第二メンブレン散気装置20bから放出された気泡は放出圧力により一旦気泡が上方に移動するものの、第一循環流工程における循環流Rの水流に押し戻される形で槽底12に沿って移動し、散気を停止している第一メンブレン散気装置20aの上方あたりから上昇し始め水面へと移動することとなる。
したがって、放出直後の気泡のうち、気泡径の大きなものは、放出圧力と循環流Rの水流との相反する力によってその外形が変形されて気液界面の面積が大きな気泡となる。
さらに気泡径の大きな気泡はその運動量も大きいため、変形や上昇に伴い槽内水Fの流速を大きく変化させることができる。
槽内水の流速が大きくなることにより、気泡と槽内水との相対速度が上昇し、気液界面における槽内水の更新がさらに積極的に行われるため、界面における酸素濃度差が高い状態が維持されやすく、酸素の移動効率はより向上する。
また、気泡径の小さなものは、放出後、下降流によって水槽底部に長時間滞留するため、直上に上昇する場合よりも槽内水F中の滞留時間が長いばかりでなく、水圧の高い槽底12に長く滞留する。
このようなことから、酸素の溶解効率を向上させることができる。
【0033】
前記第二循環流工程で循環流R’を形成させつつ生物処理を実施することにより、動力の低減を図りつつ槽内水Fを攪拌して、生物処理槽内の微生物濃度、あるいは、溶存酸素濃度を均質化させ得る点については第一循環流工程と同様である。
【0034】
この第二循環流工程後には、再び、生物処理槽内の循環流の状態を第二循環流工程の循環状態から第一循環流工程の循環状態に変化させる循環流変更工程を実施する。
このときの循環流変更工程の実施方法については、タイマー制御装置31から信号を発信させて、生物処理槽内の気泡の発生状態を制御する。
この点においては、第一循環流工程後、第二循環流工程前に実施する循環流変更工程と同様である。
すなわち、タイマー制御装置31で電磁弁B0a、B0bの開閉を切り替えて、第一メンブレン散気装置20aと第二メンブレン散気装置20bとの散気状態を変更して循環流変更工程を実施する。
【0035】
以上のように、第一循環流工程、循環流変更工程、第二循環流工程、循環流変更工程の順に工程を実施し、以降、これらの工程を繰り返して実施する。
なお、循環流工程の実施時間や、循環流変更工程の実施時間(循環流の変更に要する時間)については、特に限定されるものではないが、槽内水量が60〜400m3で、散気空気体積1.2〜8.0m3/h程度の生物処理装置であれば、通常、各循環流工程の実施時間をそれぞれ3.0〜4.5min、循環流変更工程の実施時間を1〜30秒とすることができる。
【0036】
このように第一循環流工程と、該第一循環流工程とは循環流の向きが逆転している第二循環流工程とを繰り返して実施する生物処理方法は、制御も単純であり、簡便な方法で、酸素溶解効率の低下抑制と動力低減との両立を図りうる。
【0037】
(第二実施形態)
次いで、図5を参照しつつ第二実施形態について説明する。
図5は、この第二実施形態の生物処理装置を表す概略斜視図であり、第一実施形態の生物処理装置を説明すべく参照した図1と同じ構成については同一の符号で表されている。
【0038】
すなわち、前記10は、アンモニアなどの無機成分や有機成分といった処理対象物質を含有する被処理水が好気性微生物とともに含有された槽内水Fが収容されている生物処理槽を表しており、11は、前記槽内水Fを貯留するための槽本体部である。
【0039】
この槽本体部11は、槽底12が略平坦に形成されており、この槽底12から上方に立設された側壁13が四面に配されて内部に略直方体形状の収容スペースが形成されている。
また、槽本体部11の収容スペースの上面に相当する部分は、四つの側壁13の上端縁により画定された矩形の開口領域が形成されており、該開口領域は、生物処理装置の運転時には開放状態または覆蓋(図示せず)等で覆われた状態とされる。
【0040】
20’は、槽底12に配された多孔性散気装置を表しており、該多孔性散気装置20’には、高密度ポリエチレン等の硬質樹脂粒子の焼結体、セラミック粒子焼結体、金属粒子焼結体など多孔質材で形成された円筒状散気体25が用いられている。
前記円筒状散気体25は、その外表面全体から気泡を放出させ得るように形成されており、円筒形状の長さ方向を水平に配した状態で前記多孔性散気装置20’に備えられている。
【0041】
21は、ブロアなどの送風機(図示せず)により圧送された空気が流通される本管であり、該本管21は、前記槽本体部11の側壁13の上端部と略同一高さに位置し、槽本体部11の上部開口領域の側方を槽本体部11の一側壁に略平行して水平方向に延在されて配されている。
22は、前記本管21から分岐したライザー管であり、23は、本管21からライザー管22を通じて導入される加圧空気を円筒状散気体25に分配すべくライザー管22に接続されたヘッダー管である。
【0042】
本実施形態の生物処理装置においては、前記ライザー管22には、本管21から分岐して槽本体部11の一側壁上縁部にいたる略水平に配置された区間(以下、「第一水平区間22x」ともいう)、この第一水平区間22xに続いて槽本体部11の一側壁の内壁面に沿って槽底12に向かって垂直に下降する区間(以下、「垂直区間22y」ともいう)、この垂直区間22yに続いて槽底12に沿って略水平配置された区間(以下、「第二水平区間22z」ともいう)が形成されている。
そして、第一水平区間22xと垂直区間22yとの交点が槽本体部11の一側壁の上端略中央部に位置しており、垂直区間22yと第二水平区間22zとの交点が槽本体部11の一側壁の下端略中央部に位置している。
さらに、第二水平区間22zにおいては、ライザー管22は、垂直区間22yが配されている側壁と対峙する側壁の下端略中央部に向けて延在されている。
すなわち、垂直区間22yにおけるライザー管22は、生物処理槽の一側壁下端部から、該側壁に対向する側壁の下端部にかけて槽底12の略中央部を通って延在されている。
【0043】
本実施形態の生物処理装置においては、合計8本のヘッダー管23が備えられており、該ヘッダー管23は、一端部が前記ライザー管22の前記第二水平区間22zに接続されている。
そして、このヘッダー管23は、前記第二水平区間22zに対して直交方向に延在され、しかも、その先端部を生物処理槽10の側壁13近傍まで到達させており、左右に対をなす状態で前記第二水平区間22zに接続されている。
すなわち、前記ライザー管22における第二水平区間22zには、生物処理槽10において対向する一対の側壁13の内の一方の側壁13a近傍にまで延在されている4本のヘッダー管23と、他方の側壁13b近傍にまで延在されている4本のヘッダー管23とが左右に対をなした状態で接続されており、該ヘッダー管23が左右から接続された接続箇所が4箇所形成されている。
【0044】
本実施形態の生物処理装置においては、各ヘッダー管23の先端側(側壁13a、13b寄りの位置)に、4本の円筒状散気体25が接続されている。
したがって、前記第一実施形態の生物処理装置においては、対向する側壁13a、13bのそれぞれに単一のメンブレン散気装置20が配されていたが、この第二実施形態の生物処理装置には、合計16個の円筒状散気体25が側壁13a、13bに沿って配置されており、しかも、一つのヘッダー管23に接続された4個の円筒状散気体25が、側壁13a、13bに沿って4箇所ずつ配置された状態となっている。
すなわち、本実施形態の生物処理装置には、一本のヘッダー管23に空気を供給することにより4本の円筒状散気体25から散気散気される散気領域が側壁13a、13bに沿って4箇所ずつ、合計8箇所(図中、A21〜A28)形成されている。
【0045】
また、本実施形態の生物処理装置においては、これらの円筒状散気体25での散気を制御するための開閉弁が複数設けられており、前記ライザー管22と前記ヘッダー管23との接続箇所近傍において気体の流通を制御して各散気領域A21〜A28の散気を個別に制御し得るように電磁弁B21〜B28が各ヘッダー管23に設けられている。
【0046】
30は、前記電磁弁B21〜B28の開放状態と閉止状態とを切り替えることにより、前記多孔性散気装置20’への加圧空気の供給、停止を制御して、生物処理槽内における気泡の発生状態を制御するための散気制御機構である。
31は、前記電磁弁B21〜B28とともに前記散気制御機構30を構成するタイマー制御装置であり、該タイマー制御装置31は、所定時間ごとに電磁弁B21〜B28の開閉状態を切り替える切り替え信号を発信可能とされている。
前記散気制御機構30には、前記タイマー制御装置31から電磁弁B21〜B28への信号を伝達するための信号線SLがさらに備えられている。
【0047】
なお、ここでは詳述しないが本実施形態の生物処理には、本発明の効果を損ねない範囲において、従来公知の生物処理装置に用いられている構成を上記構成に加えて採用することができる。
【0048】
次いで、このような生物処理装置を用いた生物処理方法について説明する。
この第二実施形態の生物処理装置は、上記のごとく構成されているため、例えば、散気制御機構30によって、8個の電磁弁B21〜B28の内、一方の側壁13a側の4個の電磁弁B21〜B24と、他方の側壁13b側の4個の電磁弁B25〜B28とを開放状態と閉止状態とに切り替えることにより、前記第一実施形態にて例示の生物処理方法と同様に、循環流工程と循環流変更とを交互に実施させることができる。
【0049】
さらに、この第二実施形態の生物処理装置は、以下のような第一実施形態とは異なる生物処理方法を採用することも可能である。
この第一実施形態とは異なる生物処理方法について図6a〜図6dを参照しつつ説明する。
この生物処理方法においては、4通りに循環流を生物処理槽内に形成させる。
すなわち、4回の循環流工程と4回の循環流変更工程とを1セットとしたサイクル運転を実施する。
【0050】
図6a〜図6dは、この4回の循環流工程をそれぞれ表しており、図5に示す生物処理装置を図中の矢印“Y1”の示す方向に見た状態を模式的に示した平面図である。
図中の実線矢印は、水面H側の槽内水Fの流動方向を表し、破線矢印は、槽底12側の槽内水Fの流動方向を表している。
また、図中の“U”で示される領域には上昇流が形成されており、“D”で示される領域には下降流が形成されていることを表している。
【0051】
より詳しくは、まず一方の側壁13aに沿って配置されている4つの散気領域(A21〜A24)の内の半分の2つの散気領域A21、A22からのみ散気を実施させるべく、前記散気制御機構30で、この領域に配置された多孔性散気装置20に空気を供給するヘッダー管23の電磁弁B21、B22を開放状態とし、他の電磁弁B23〜B28を閉止状態とする。
このことにより、生物処理槽10の一角部分に上昇流が形成され、他の3つの角部に下降流が形成される状態となるように循環流を形成させて、該循環流が形成された状態で第一の循環流工程を実施する(図6a)。
【0052】
次に、前記タイマー制御装置31で電磁弁を操作して、同じく側壁13aに沿って配置されている残り半分の散気領域A23、A24から散気を開始させるとともに、前記第一の循環流工程で散気が行われていた散気領域A21、A22からの散気を停止させて、第一の循環流工程で上昇流が形成されていた角部に隣接する角部に上昇流を形成させて該上昇流にともなう循環流を形成させる第一の循環流変更工程を実施する。
【0053】
この第一の循環流変更工程では、第一の循環流工程で下降流が形成されていた箇所において、特に円筒状散気体25の上面側から上方に向けて放出する気泡の浮力などにより循環流の状態が変化されることとなる。
したがって、気液界面の面積が大きな気泡を形成させうる点、気泡の内部の空気を激しく流動させうる点、槽内水F中の滞留時間を長期化させうる点などの効果は、第一実施形態で例示の循環流変更工程と同様である。
【0054】
次いで、この第一の循環流変更工程によって、形成される循環流に前記散気領域A23、A24からの散気を実施することで第二の循環流工程を実施する(図6b)。
【0055】
さらに、この第二の循環流工程で散気が実施されている散気領域A23、A24に対向する2つの散気領域A25、A26から散気を開始させるとともに、前記第二の循環流工程で散気が行われていた散気領域A23、A24からの散気を停止させて、第二の循環流工程で上昇流が形成されていた角部に隣接する角部に上昇流を形成させて循環流を形成させる第二の循環流変更工程を実施する。
【0056】
そして、この第二の循環流変更工程によって、形成される循環流に前記散気領域A25、A26からの散気を実施することで第三の循環流工程を実施する(図6c)。
【0057】
次に、この第三の循環流工程で散気が実施されている散気領域A25、A26とともに側壁13bに沿って配置されている残りの2つの散気領域A27、A28から散気を開始させるとともに、前記第三の循環流工程で散気が行われていた散気領域A25、A26からの散気を停止させて、第三の循環流工程で上昇流が形成されていた角部に隣接する角部に上昇流を形成させて新たな循環流を形成させる第三の循環流変更工程を実施する。
【0058】
そして、この第三の循環流変更工程によって、形成される循環流に前記散気領域A27、A28からの散気を実施することで第四の循環流工程を実施する(図6d)。
【0059】
最後に、再び、第一の循環流工程と同じ散気状態となるようにして第四の循環流変更工程を実施する。
以上のように、生物処理槽10の槽本体部11の四隅を順番に廻る状態に上昇流が発生されるようにして循環流工程と循環流変更工程とを交互に実施させることにより、生物処理槽内の隅々にまで循環流による攪拌作用を波及させることができる。
【0060】
また、この第一乃至第四の循環流変更工程では、循環流工程で下降流が形成されていた箇所において、特に円筒状散気体25の上面側から上方に向けて放出する気泡の浮力などにより循環流の状態が変化されることとなる。
したがって、気液界面の面積が大きな気泡を形成させうる点、気泡の内部の空気を激しく流動させうる点、槽内水F中の滞留時間を長期化させうる点などの効果は、第一実施形態で例示の循環流変更工程と同様に発揮され得る。
また、循環流を形成させつつ生物処理を実施することにより、動力の低減を図りつつ槽内水Fを攪拌して、生物処理槽内の微生物濃度、あるいは、溶存酸素濃度を均質化させ得る点についても第一実施形態と同様である。
【0061】
(第三実施形態)
次いで、図7a〜図7cを参照しつつ第三の実施形態について説明する。
図7a〜図7cは、生物処理装置を側面方向から見た様子を示す概略断面図である。
この第三実施形態の生物処理装置は、槽底12における散気装置20の配置、ならびに、生物処理槽10内に仕切り14が設けられている点を除いて、第一実施形態、第二実施形態と同様に形成されている。
【0062】
前記仕切り14は、長さが槽内水Fの水深よりも短くなるよう形成された円筒形状を有し、その両端が開口端とされている。
そして、本実施形態の生物処理装置には、前記仕切り14がその長さ方向を垂直方向に配して上下に開口端を位置させた状態で槽本体11中央部に備えられている。
しかも、前記仕切り14は、その下端部を槽底12よりも上方に位置させ、上端部を水面Hよりも下方に位置させて槽本体11中央部に備えられている。
【0063】
本実施形態の生物処理装置には、前記仕切り14の中空領域の下方に位置する槽底12中央部に配置され、しかも、上方に向けて気泡を放出させ得るように配置された散気装置20m(以下「中央散気装置20m」ともいう)と、該中央散気装置20mの周囲を取り囲むように環状に配置され、しかも、上方に向けて気泡を放出させ得るように配置されたた散気装置20n(以下「環状散気装置20n」ともいう)とが備えられている。
また、前記中央散気装置20mは、上方に向けて気泡を放出させた際に気泡の殆どを前記仕切り14内を通過させて浮上させ得るように配置されており、前記環状散気装置20nは、上方に向けて気泡を放出させた際に気泡の殆どを前記仕切り14外を通過させて浮上させ得るように配置されている。
【0064】
そして、前記散気制御機構30は、前記中央散気装置20mから散気が実施される状態と、前記環状散気装置20nから散気が実施される状態とを切り替える制御を実施可能な状態に形成されている。
【0065】
この生物処理装置を用いた生物処理方法については、循環流と、該循環流とは逆転する方向に槽内水Fが流動する循環流とを生物処理槽10内に交互に形成させ得るように循環流工程と循環流変更工程とを散気制御機構30によって切り替えて実施する点において第一実施形態の生物処理方法と同様である。
【0066】
より詳しくは、前記異なる2通りの循環流の内、前記仕切り14内に上昇流が形成され、前記仕切り14の周囲に下降流が形成された状態となる循環流を生物処理槽内に形成させた状態で、該循環流Rの流動方向に気泡を放出させて散気しつつ生物処理を実施する第一循環流工程(図7a)と、前記仕切り14内に下降流が形成され、前記仕切り14の周囲に上昇流が形成された状態となる循環流R’を生物処理槽内に形成させた状態で、該循環流R’の流動方向に気泡を放出させて散気しつつ生物処理を実施する第二循環流工程(図7c)とを実施する。
【0067】
さらに、この第三実施形態の生物処理方法においては、前記第一循環流工程と第二循環流工程との間に、生物処理槽内の循環流を、第一循環流工程での循環状態から第二循環流工程での循環状態へと変化させる循環流変更工程(図7b)を実施する。
【0068】
第二循環流工程を実施した後に、生物処理槽内の循環流を、第二循環流工程での循環状態から再び第一循環流工程での循環状態に戻すべく変化させる循環流変更工程を実施する点、ならびに、第一循環流工程、循環流変更工程、第二循環流工程、循環流変更工程を1セットとしたサイクル運転を実施する点は、第一実施形態の生物処理方法と同様である。
【0069】
なお、この第三実施形態の生物処理方法は、前記仕切り14を用いることなく、同様に散気装置20を配置して、同様の散気状態となるように散気制御機構30で制御を実施することにより、上記と同様に、第一循環流工程、循環流変更工程、第二循環流工程、循環流変更工程を1セットとしたサイクル運転を実施させることができるが、上昇流と下降流とを互いに分離させた状態で形成させることができそれぞれの流動状態が相殺されてしまうことを抑制させ得る点において仕切り14を用いた態様とすることが好ましい。
【0070】
この第三実施形態の生物処理方法においても、気液界面の面積が大きな気泡を形成させうる点、気泡の内部の空気を激しく流動させうる点、槽内水F中の滞留時間を長期化させうる点などの効果は、これまでの実施形態で例示の循環流変更工程と同様に発揮され得る。
また、循環流を形成させつつ生物処理を実施することにより、動力の低減を図りつつ槽内水Fを攪拌して、生物処理槽内の微生物濃度、あるいは、溶存酸素濃度を均質化させ得る点についてもこれまでの実施形態と同様に発揮され得る。
【0071】
(第四実施形態)
さらに、本発明の第四実施形態について図8を参照しつつ説明する。
図8は、生物処理装置を側面方向から見た様子を示す概略断面図である。
この第四実施形態の生物処理装置は、水と空気とを誘引して気液混合状態で生物処理槽内に噴射する散気装置20j(以下「噴射式散気装置20j」ともいう)が用いられている点以外は、第一実施形態の生物処理装置とほぼ同様に構成されている。
【0072】
この噴射式散気装置20jは、前記噴射によって槽内水Fを流動させて、生物処理槽内に循環流を形成させるべく互いに対向する側壁13の槽底12側にその噴射方向を対向させて設けられている。
すなわち、対向する側壁13の内の一方の側壁13a側の噴射式散気装置20jは、槽底12に沿って略水平方向に気泡を発生させ得るように設けられており、他方の側壁13b側の噴射式散気装置20jも、槽底12に沿って略水平方向に気泡を発生させ得るように設けられている。
【0073】
さらに、第四実施形態の生物処理装置には、前記対向する側壁の内の一方の側壁13a側の噴射式散気装置20jから気泡を放出させる散気状態と、他方の側壁13b側の噴射式散気装置20jから気泡を放出させる散気状態とが切り替えられる散気制御機構30が設けられている。
【0074】
この第四実施形態の生物処理装置を用いた生物処理方法では、第一実施形態の生物処理装置においては、下降流に対向するように気泡を発生させていたのに対して、槽底12に沿って水平に流動する槽内水Fに対向するように気泡を放出させる点が異なっているのみで、実質、第一実施形態において例示した生物処理方法と同様に循環流工程と循環流変更工程とのサイクル運転が実施される。
【0075】
したがって、気液界面の面積が大きな気泡を形成させうる点、気泡の内部の空気を激しく流動させうる点、槽内水F中の滞留時間を長期化させうる点などの効果は、これまでの実施形態で例示の循環流変更工程と同様に発揮され得る。
また、循環流を形成させつつ生物処理を実施することにより、動力の低減を図りつつ槽内水Fを攪拌して、生物処理槽内の微生物濃度、あるいは、溶存酸素濃度を均質化させ得る点についてもこれまでの実施形態と同様に発揮され得る。
【0076】
(第五実施形態)
さらに、本発明の第五実施形態について図9を参照しつつ説明する。
図9は、生物処理装置を側面方向から見た様子を示す概略断面図である。
この第五実施形態の生物処理装置は、水と空気とを誘引して気液混合状態で生物処理槽内に噴射する散気装置(噴射式散気装置20j)が用いられている点においては、第四実施形態の生物処理装置と同様である。
【0077】
この第五実施形態の噴射式散気装置20jは、対向する側壁の内の一方の側壁13a側のみに設けられており、しかも、槽底12側と水面H側との両方に向けて気泡を放出させてそれぞれの場合で循環流を形成させ得るように前記側壁13aに対して回動可能な状態で取り付けられており、しかも、側壁13aの高さ方向中間位置取り付けられている。
【0078】
そして、この第五実施形態の生物処理装置における散気制御機構30は、前記噴射式散気装置20jを槽底12側に向けて散気する状態と、水面H側に向けて散気する状態とを切り替えるべく噴射式散気装置20jを回動させる回動機構(図示せず)を有している。
【0079】
この第五実施形態の生物処理装置もこれまでの実施形態と同様に酸素溶解効率が低下することを抑制しつつ槽内水を流動させるための動力を低減させ得るという効果を奏するのみならず用いる散気装置の数を減少させることができ、生物処理槽の部品点数を減少させて設備を簡素化させることができる。
【0080】
なお、上記第一乃至第五実施形態においては、生物処理槽内に形成させる複数の循環流の内、一循環流を形成させる際には、他循環流を形成させるための散気を停止させる場合を例示しているが、例えば、生物処理槽を側面から見た概略断面図である図10に示すように、他循環流を形成させるための散気を、一循環流を形成させるための散気での気泡発生量に対して、十分気泡発生量を低減させた状態で実施させることも可能である。
【0081】
また、上記第五実施形態においては、水と空気とを誘引して気液混合状態で生物処理槽内に噴射する散気装置を用いる場合を例に説明したが、例えば、生物処理槽を側面から見た概略断面図である図11に示すように、槽底12において、例えば、メンブレン散気装置や多孔性散気装置をその配置を移動可能状態となるように生物処理装置を構成させることで、第五実施形態にて例示の生物処理装置と同様の効果を発揮させることができる。
【0082】
さらには、生物処理槽を側面から見た概略断面図である図12に示すように、平板状に形成された誘導板40を備えた散気装置により槽底12から、対向する側壁の内の一方の側壁13a側と他方の側壁13b側とに気泡を誘導させる場合も同様である。
すなわち、槽底12中央部に気泡発生部41を配置し、前記誘導板40をその平面方向が水平方向となるように前記気泡発生部41の上方側に設け、しかも、その傾斜方向を切り替えて一方の側壁13a側と他方の側壁13b側とに気泡を誘導可能な状態となるように中心軸周りに回動自在となるように誘導板40を配置した散気装置20pを用いる場合も、上記第五実施形態の生物処理装置と同様の効果を得ることができる。
【0083】
なお、本発明は、生物処理装置ならびに生物処理方法を上記例示に限定するものではなく、生物処理装置ならびに生物処理方法にかかる従来公知の技術を本発明の効果を損ねない範囲において採用し、上記例示の生物処理装置ならびに生物処理方法に各種の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0084】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
(酸素移動効率の測定設備)
槽内水への酸素移動効率(OTE)を測定すべく、図13に示すような水槽と散気装置とを用いた測定を実施した。
図13左は、水槽を上面側から底面側に見た様子を示す平面図であり、図13右は、水槽を上面側から底面側に見た様子を示す側面図である。
この水槽は、底面が一辺2mの正方形で深さが約5mの四角柱状の収容スペースを有し4.7m深さとなるように水が貯留されている。
また、水槽の底部には、樹脂粒子焼結体が用いられた4つの多孔性散気装置(散気装置1〜4)が配置されている。
【0086】
なお、4つの多孔性散気装置は、それぞれが一辺1mの正方形の角部に位置する状態となるように配置されており、しかも、この4つの多孔性散気装置を結んで形成される正方形のそれぞれの辺が、水槽底面の正方形の4つの辺に対して50cm隔たった状態で平行となるようにして槽底面から20cm上方位置に配置されている。
この水槽中には、さらに槽内の水の流速を測定するための流速計と、溶存酸素濃度を測定するための3台の溶存酸素濃度計(DO計1〜3)が配置されている。
前記流速計は、水平方向の位置が4つの多孔性散気装置を結んで形成される正方形の一辺の中点に位置し、垂直方向の位置が水槽底面から1.5m上方位置となるように配置されている。
また、3台の溶存酸素濃度計は、水平方向の位置がいずれも槽中央部に位置し、垂直方向の位置が水面から90cm、2m25cm、4m50cm深さとなるように配置されている。
【0087】
(実施例1)
正方形をなす状態に配置された4つの散気装置の内、前記流速計が位置する辺の両端に配置された2つの多孔性散気装置(散気装置1、2)と、この辺に対向する辺の両端に配置された2つの多孔性散気装置(散気装置3、4)とから交互に散気を実施して、散気装置1、2側に上昇流が形成され、散気装置3、4側に下降流が形成されている循環流に対して散気装置1、2から気泡の放出を行う第一循環流工程と、この循環流に対して散気装置3、4から気泡を放出させるとともに散気装置1、2からの気泡の放出を停止させて循環流の向きを逆転させる循環流変更工程と、散気装置3、4側に上昇流が形成され、散気装置1、2側に下降流が形成されている循環流に対して散気装置3、4から気泡の放出を行う第二循環流工程と、この循環流に対して散気装置1、2から気泡を放出させるとともに散気装置3、4からの気泡の放出を停止させて循環流の向きを逆転させる循環流変更工程とをサイクル運転させた際の酸素移動効率(OTE)を溶存酸素濃度計による測定値などから計算により求めた。
【0088】
より具体的には、散気装置1、2、ならびに、散気装置3、4を、それぞれの一回の散気時間が3分ずつとなるように交互に運転させて上記サイクル運転を実施した。
なお、散気量については、333L/min(20m3/h)、400L/min(24m3/h)の二通りで実施した。
【0089】
(実施例2)
散気装置1、2、ならびに、散気装置3、4を、それぞれの一回の散気時間を1分ずつとした以外は実施例1と同様にサイクル運転を実施し酸素移動効率を測定した。
【0090】
(比較例)
散気装置1、2からの散気を連続して実施し、散気装置1、2側に上昇流が形成され、散気装置3、4側に下降流が形成されている循環流のみを槽内に形成させて散気を実施した点以外は実施例と同様にして酸素移動効率の測定を実施した。
【0091】
これら実施例、比較例において測定された散気量(送風量)と酸素移動効率(OTE)との関係を図14のグラフに示す。
この図14に示されているように実施例1、2に示した方法では酸素移動効率が向上されており、酸素の溶解効率に優れた散気が実施されていることがわかる。
しかも、槽内の攪拌のための動力を低減させうることから生物処理における使用動力を低減させ得ることもわかる。
【符号の説明】
【0092】
10 生物処理槽
11 槽本体部
12 槽底
13 側壁
20 散気装置
21 本管
22 ライザー管
23 ヘッダー管
24 弾性体膜
25 円筒状散気体
30 散気制御機構
31 タイマー制御装置
40 誘導板
41 気泡発生部
F 槽内水
H 水面
R 循環流
SL 信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水と好気性微生物とを含む槽内水を生物処理槽に収容させた状態で、散気装置から前記槽内水中に気泡を放出させて散気を実施することにより、前記気泡の放出方向に前記槽内水を流動させて生物処理槽内に循環流を形成させつつ生物処理を実施する生物処理方法であって、
前記循環流の流動方向に気泡を放出させて散気を実施する循環流工程を実施し、生物処理槽内に形成されている循環流に対向する方向への気泡の放出により該循環流とは異なる方向に槽内水を流動させて新たなる循環流を形成させる循環流変更工程を前記循環流工程後に実施することを特徴とする生物処理方法。
【請求項2】
前記循環流と、該循環流とは逆転方向に槽内水が流動する循環流とを前記生物処理槽内に交互に形成させ得るように前記循環流工程と前記循環流変更工程とを実施する請求項1記載の生物処理方法。
【請求項3】
被処理水と好気性微生物とを含む槽内水が収容される生物処理槽と、該生物処理槽内に収容された前記槽内水中に気泡が放出されて散気が実施される散気装置とを有し、しかも、前記気泡の放出によって前記槽内水が流動され、生物処理槽内に循環流が形成されて生物処理が実施される生物処理装置であって、
前記循環流の流動方向に気泡を放出させて散気を実施する循環流工程を実施し、生物処理槽内に形成されている循環流に対向する方向への気泡の放出により該循環流とは異なる方向に槽内水を流動させて新たなる循環流を形成させる循環流変更工程を前記循環流工程後に実施させ得るように前記散気装置が備えられており、生物処理槽内における前記気泡の発生状態を制御する散気制御機構がさらに備えられていることを特徴とする生物処理装置。
【請求項4】
生物処理槽底部の複数の領域から上方に向けて気泡を放出させ得るように前記散気装置が前記生物処理槽底部に複数設けられており、前記複数の領域の内の一領域の散気装置は、気泡の放出により循環流を形成させ得るように配置されており、他領域の散気装置は、前記循環流の下降流が形成される箇所に配置され、気泡の放出により前記一領域からの気泡の放出による循環流とは異なる循環流を形成させ得るように配置されており、前記一領域に設けられた散気装置による循環流の形成と、前記他領域に設けられた散気装置による循環流の形成との切り替えを実施する散気制御機構が備えられている請求項3記載の生物処理装置。
【請求項5】
前記一領域が生物処理槽の壁面に沿って延在する帯状に形成され、前記他領域が前記壁面と対向する壁面に沿って延在する帯状に形成されるように前記散気装置が配置されている請求項4記載の生物処理装置。
【請求項6】
前記一領域が生物処理槽底部の中央部に形成され、前記他領域が前記一領域の周りを周回する環状に形成された状態となるように前記散気装置が設けられている請求項4記載の生物処理装置。
【請求項7】
少なくとも気泡が二方向に向けて放出され、槽内水の流動方向が異なる循環流が前記二方向への気泡の放出によりそれぞれ生物処理槽内に形成され、しかも、前記二方向の内の一方向が、他方向への気泡の放出により形成される循環流に対向する方向となる二方向に向けて気泡が放出されるように散気装置が備えられている請求項3記載の生物処理装置。
【請求項8】
前記一方向に向けた気泡の放出が実施される散気装置と、前記他方向に向けた気泡の放出が実施される散気装置とを含む少なくとも二台の散気装置が備えられている請求項7記載の生物処理装置。
【請求項9】
前記一方向と前記他方向とに方向を切り替えて気泡を放出可能な少なくとも一台の散気装置が備えられている請求項7記載の生物処理装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−152747(P2012−152747A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89137(P2012−89137)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【分割の表示】特願2007−258730(P2007−258730)の分割
【原出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】