説明

生物処理装置

【課題】従来の流動床担体生物処理法と膜分離活性汚泥法の問題点を解決し、高濃度の有機物を含む排水を、処理槽の必要容量を抑え、余剰汚泥除去のための凝集剤を必要とすることなく、浸漬膜の目詰まりを防止して、効率的に処理して高水質の処理水を得る。
【解決手段】有機性排水を、微生物を担持した流動担体を保持する好気性生物処理槽1で処理した後、浮上分離槽2で浮上汚泥と分離水とに分離する。浮上分離槽2の分離水を分離膜浸漬槽3に導入して、この分離水に同伴される汚泥を分離し、分離膜モジュール3Aの透過水を処理水として排出する。浮上分離槽2の浮上汚泥と分離膜浸漬槽3の分離汚泥を好気性生物処理槽1に返送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度の有機物を含む排水から有機物を効率的に除去するための生物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高濃度の有機物を含む排水から生物処理によって有機物を除去する方法として、微生物を付着させた担体を被処理水中で流動させて微生物に有機物を消費ないし吸収させる流動床担体生物処理法が知られている。この方法は、一般的な活性汚泥法と比べて処理槽容積当たりの有機物負荷を高く取ることができ、処理効率に優れる。このような流動床担体生物処理法の具体的手法として、例えば、特開平9−308892号公報には、微生物を担持した流動担体を保持した生物処理槽の流出液を沈殿槽で固液分離して処理水を得る方法が開示されている。
【0003】
また、有機物を含む水を活性汚泥と混合して生物処理した後、分離膜を用いて濾過を行うことで活性汚泥と処理水を分離する膜分離活性汚泥法も広く用いられており、この膜分離活性汚泥法を、生物膜を形成した濾材の充填層を形成した生物膜処理槽と組み合わせた方法として、特開平6−47399号公報には、生物膜処理槽の流出水を浸漬膜型好気性処理槽で処理して膜透過水を処理水として抜き出し、該処理槽内の汚泥を前段の生物膜処理槽に返送する方法が開示されている。
【0004】
なお、特開2002−34585号公報には、回分式活性汚泥処理装置の処理水を浸漬膜分離装置で濾過処理する方法が開示されているが、この特開2002−34585号公報の方法では、浸漬膜分離装置で分離濃縮された汚泥を回分式生物処理装置へ返送することは想定されていない。即ち、この方法で、仮に汚泥を返送するとなると、複数ある回分式生物処理装置のいずれかに返送することになり、交互に返送したとしても、汚泥濃度を均等に保持することは難しく、処理にばらつきが生じ、処理水水質が安定しなくなる。
【特許文献1】特開平9−308892号公報
【特許文献2】特開平6−47399号公報
【特許文献3】特開2002−34585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、流動床担体生物処理法では、微生物が増殖し余剰汚泥として処理水に混じって流出するが、この余剰汚泥はフロック化し難いため、沈降速度が遅く、これを沈殿槽で完全に除去するには大型の沈殿槽を設けるか、大量の凝集剤を用いて強制的に沈降させることが必要となる。
【0006】
一方、膜分離活性汚泥法では、高濃度の有機物を処理しようとする場合、活性汚泥を高濃度に保つことで有機物の分解速度を上げ、かつ清浄な処理水が得られる利点があるが、活性汚泥は付着性を持つため、活性汚泥内に直接浸漬した分離膜に目詰まりを生じやすく、分離膜の洗浄強度及び頻度を増やさねばならないという欠点がある。
【0007】
本発明は上記従来の流動床担体生物処理法と膜分離活性汚泥法の問題点を解決し、高濃度の有機物を含む排水を、処理槽の必要容量を抑え、また、余剰汚泥除去のための凝集剤を必要とすることなく、更には、浸漬膜の目詰まりを防止して効率的に処理して高水質の処理水を得ることができる生物処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の生物処理装置は、有機性排水を受け入れる、微生物を担持した流動担体を保持する好気性生物処理槽と、該好気性生物処理槽の流出水を受け入れ、該流出水を浮上汚泥と分離水とに分離する浮上分離槽と、該浮上分離槽の分離水を受け入れ、該分離水に同伴される汚泥を分離すると共に処理水を排出する分離膜浸漬槽であって、槽内に浸漬された分離膜モジュールと該分離膜モジュールの下方に設けられた散気手段とを備える分離膜浸漬槽と、前記浮上分離槽の浮上汚泥を前記好気性生物処理槽に返送する第1の汚泥返送手段と、前記分離膜浸漬槽の汚泥を前記好気性生物処理槽に返送する第2の汚泥返送手段と、を具備することを特徴とする。
【0009】
請求項2の生物処理装置は、請求項1において、前記第2の汚泥返送手段が、返送ポンプと返送配管とで構成され、前記第1の汚泥返送手段が、該返送配管の吐き出し口から噴射される汚泥により前記浮上汚泥が前記好気性生物処理槽に押し込まれるように構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3の生物処理装置は、請求項1又は2において、前記好気性生物処理槽が第1の好気性生物処理槽と第2の好気性生物処理槽とで構成され、前記浮上分離槽の浮上汚泥と前記分離膜浸漬槽の汚泥は、該第1の好気性生物処理槽に返送され、前記第1の好気性生物処理槽の槽負荷が0.8〜8.0kg−BOD/m・dであることを特徴とする。
【0011】
請求項4の生物処理装置は、請求項3において、前記第2の好気性生物処理槽の実効容量が前記第1の好気性生物処理槽の実効容量の1〜10倍であることを特徴とする。
【0012】
請求項5の生物処理装置は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記分離膜浸漬槽内の汚泥濃度が1,000〜6,000mg/Lで、滞留時間が1〜18時間であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の生物処理装置によれば、高濃度有機性排水を、比較的小容量の装置により、凝集剤を必要とすることなく、また、浸漬膜の目詰まりを防止して、効率的に処理して高水質の処理水を得ることができる。
【0014】
即ち、本発明の生物処理装置では、高濃度の有機性排水に対してまず流動床担体生物処理を行い、その処理水を微細気泡を用いた浮上分離により、効率的に除去し、残った僅かな余剰汚泥を更に後段の分離膜浸漬槽で高度に固液分離する。この分離膜浸漬槽には、予め浮上分離槽で余剰汚泥の大部分を除去した後の比較的低濃度の汚泥が流入するため、膜濾過における目詰まりの問題は少なく、この分離膜浸漬槽内で残留する有機物の分解除去と、浸漬膜による汚泥の膜濾過とを効率的に行うことができる。
【0015】
この分離膜浸漬槽の浸漬膜の透過水として得られる処理水は、精密濾過(MF)膜等を透過した高水質の処理水である。
【0016】
そして、浮上分離槽の分離汚泥と分離膜浸漬槽の分離汚泥を好気性生物処理槽に返送することにより、この好気性生物処理槽において、流動床担体生物処理における分解性の悪い有機物の除去能力を向上させ、これを効率的に分解除去することが可能となる。
【0017】
このようなことから、本発明によれば、比較的小さな水槽と小さな分離膜面積で、かつ分離膜の洗浄強度及び頻度を従来より大幅に低減しつつ、従って運転コストを低減して清浄な処理水を効率的に得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を参照して本発明の生物処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明の生物処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【0020】
図1において、1は好気性生物処理槽であり、内部に微生物を担持した流動担体が保持されており、処理水流出部に設けられたスクリーン1aと、槽内下部に設けられた散気装置1bとを備える。2は微細気泡を用いて余剰汚泥などの浮遊物を浮上させる浮上分離槽(加圧浮上槽)である。3は分離膜浸漬槽であり、内部に分離膜モジュール3Aが浸漬されており、この分離膜モジュール3Aの下方に散気装置3Bが設けられている。5は分離膜浸漬槽3の処理水の一部と外気とを混合して加圧し、浮上分離槽2を微細気泡を大量に含む加圧水を作り出すポンプであり、6は分離膜浸漬槽3の汚泥の一部を用いて浮上分離槽2に浮上した浮上物の固着を防ぎつつ、好気性生物処理槽1に押し戻すためのポンプ6である。7は液面計、8は整流板である。
【0021】
好気性生物処理槽1の形状には特に制限はなく、円筒形、直方体形状などいずれでも良く、内部に澱みを生じさせないためのバッフル板などが設けられていても良い。
【0022】
好気性生物処理槽1に保持される担体は、微生物を固定化させかつ水中を流動する素材よりなり、比重が水と同等で微生物が付着しやすい、例えばスポンジ状の樹脂など、多孔質或いは多くの隙間を有する構造体であることが好ましく、その大きさは、直径ないしは2枚の平行板で挟んだときの最大距離として0.5〜200mmの範囲であることが好ましい。ただし、槽内に保持される担体は、その形状、大きさ、材質等において均一であっても良く、異なるものが混在していても良い。また、好気性生物処理槽1内の担体保持量は、担体を槽内水中におけると同じ状態のまま陸上で乱雑に積んだ際の容積が、好気生物処理槽1の有効容量の10〜60%となるようにすることが好ましい。
【0023】
スクリーン1aは、担体と流出水とを分離するためのものであり、目開きが担体の大きさより小さく、流動する担体から流出水を分離し得るものであれば良く、その形状や材質は特に限定されないが、例えばステンレス製のスクリーン、プラスチック製の網状物などを用いることができる。スクリーン1aの水中部分の表面積は流出水1m/d当り0.5m以上、例えば1〜1.5mとなるようにするのが、水の流出効率の面で好ましい。また、スクリーン1aの担体による目詰まりを防ぐために、必要に応じてスクリーン1a下側に散気管などを設けるなどしてスクリーン1aの表面と平行な向きの水流が十分に当たるようにしても良い。
【0024】
好気性生物処理槽1の槽下部に設けられる散気装置1bは、好気性生物処理槽1の内部全体に必要かつ十分な流動を起こし、かつ微生物に溶存酸素を行き渡らせることができるものであれば良く、その形式や設置数には特に制限はないが、例えば、ディフューザー、エアレーター、孔開き散気管などを用いることができる。
【0025】
好気性生物処理槽1の実効容量(有効容積)は、流入する有機物をBODで表したとき、槽負荷が0.8〜8.0kg−BOD/m・dとなるように設計することが好ましい。槽負荷がこの範囲よりも大きいと十分な有機物除去を行えず、この範囲よりも小さいと徒に装置容量が大きくなり好ましくない。
【0026】
浮上分離槽2の形状は、円筒形、直方体などいずれでもよく、内部に澱みを生じさせないためのバッフル板などがあっても良いが、好気性生物処理槽1に隣接し、好気性生物処理槽1と一体であることが望ましい。この浮上分離槽2内の下部には、ポンプ5で作られた微細気泡を含む加圧水の吐出ノズル5Aが設けられ、上向きに加圧水が放出され槽内で流入水と混合されるように構成されている。
【0027】
ポンプ5は、浮上分離槽2において微細気泡を含む加圧水を発生するための機構であり、吸入側からエゼクターなどを用いて水と一緒に外気を吸い込み、概ね0.5MPa以下で最も微細気泡の発生が多くなる圧力に加圧することで、気泡を微細化させる。吐出量は微細気泡を含む状態で浮上分離槽2の処理水量の1/50〜1/5とすることが好ましい。この吹出量が多過ぎると浮上固形物の見かけの容積が徒に増加し、少な過ぎると十分な浮上分離が行われない。また、ポンプ5は、入口から空気を吸い込むのではなく、吐出側に空気圧縮機などで加圧された空気を押し込んで溶解させ、これを配管または圧力容器内で減圧することにより、微細気泡化するものでもよい。
【0028】
ポンプ5の形式や種類は、上記の吐出圧力が得られ、気泡を含む水を多少のキャビテーションを伴っても送り出し続けることのできるものであれば、形式は特に定めない。ポンプ5の加圧原水には、分離膜浸漬槽3の処理水の一部を用いるか、SS分を含まない井戸水などの水を外部から導入するのが望ましい。
【0029】
このようなポンプ5により吐出ノズル5Aから浮上分離槽2内に放出された加圧水に含まれる微細気泡により、槽内の固形物が捕捉され、捕捉された固形分は、浮力を得て浮上分離槽2内を浮上し、比較的清浄な処理水だけが排出口2Aから後工程へ送られる。一方、浮上した固形分は上部に蓄積するので、分離膜浸漬槽6内の濃縮汚泥を配管6B及びポンプ6により引き抜いて加圧し、定期的にノズル6Aから噴射することで好気性生物処理槽1へ押し戻す。
【0030】
ポンプ6は、浮上分離槽2の浮上固形物の固着を防ぎつつ、これを好気性生物処理槽1に押し戻すために分離膜浸漬槽3の濃縮汚泥の一部を加圧して送り、かつ分離膜浸漬槽3の汚泥濃度を一定に保つために設けられる。このポンプ6の平均吐出量は浮上分離槽2の処理水量の1/10〜3の範囲とすることが好ましい。この吹出量が多過ぎると浮上分離槽の処理水量を徒に増やすこととなり、少な過ぎると浮上固形物を好気性生物処理槽1へ十分に押し戻せず、分離膜浸漬槽3の汚泥濃度も上昇する。ポンプ6による汚泥の返送は、浮上分離槽2や分離膜浸漬槽3の水面高さを一定に保つための均一化を兼ねて、間欠的に行うのが望ましい。ポンプ6の形式は、ノズル6aが必要とする圧力と流量が得られ、汚泥により詰まりなどのトラブルを生じにくい構造であれば特に定めない。
【0031】
ノズル6Aは、浮上分離槽2内の浮上固形物の固着を防ぎ、好気性生物処理槽1へ送り出すために分離膜浸漬槽3の汚泥の一部を噴射するノズルであって、浮上分離槽2の水面上、又は水面直下に1つ以上設けられる。このノズル6Aとしては、汚泥で目詰まりすることなく、かつ汚泥の送り出しに必要な噴射力が得られるものであれば、形式や構造は特に定めず、2つ以上設ける場合は、それぞれが同一のものであっても異なるものであっても良い。
【0032】
このノズル6Aで浮上分離槽2の浮上固形物を分離膜浸漬槽3の濃縮汚泥と共に好気性生物処理槽1へ送り出す際、浮上分離槽2の水面を、浮上固形物を送り出そうとするときのみ上昇させて送り出しの一助としてもよい。
【0033】
なお、浮上固形物が滞留したり固着したりしないよう、図示の如く、好気性生物処理槽1へ向かって水面の面積と水深が徐々に狭まり、浮上固形物のひっかかりのない整流板8を浮上分離槽2に設けることが望ましい。
【0034】
この浮上分離槽2における分離水は、BODが300mg/L程度あっても後工程に特段の問題は発生せず、かえってこのBODを少なくしようとすると好気性生物処理槽1の容積を大きくする必要があるため、好気性生物処理槽1は、前述の槽負荷の範囲において、浮上分離槽2の分離水のBODが150〜600mg/L程度となるように、好気性生物処理槽1の容積を定めることが好ましい。
【0035】
分離膜浸漬槽3の形状には特に制限はなく、円筒形、直方体形状などいずれでも良く、内部に澱みを生じさせないためのバッフル板などが設けられていても良い。分離膜浸漬槽3の実効容積は被処理水(流入水)量に対して滞留時間が2時間以上、例えば5〜10時間で、分離膜モジュール3Aの分離膜部分が十分に水中に浸漬し得る大きさ以上とする。また、槽内の汚泥濃度(MLSS)は概ね6000mg/L以下、例えば3,000〜5,000mg/Lで、分離膜モジュール3Aが高い膜フラックスを維持することができるような汚泥濃度となるように、ポンプ6による汚泥の引き抜き量を調節することが好ましい。
【0036】
分離膜浸漬槽3内に浸漬される分離膜モジュール3Aの分離膜は、MF膜以下の細孔径のものであれば良く、その形状は中空状でも平面状でも良く、材質も特に定めない。分離膜モジュール3Aは、固液分離に関わる部分が槽内水中に完全に浸漬するように配置する。この分離膜モジュール3Aは、必要に応じて下方に設けられた散気装置3Bから散気を行うことで、膜面を振動させて微生物の固着を防いだり、クロスフロー状の流れによって膜フラックスの向上を図ったりしても良い。分離膜モジュール3Aの膜フラックスは特に定めないが、これが最大となるように分離膜浸漬槽3の汚泥濃度を定めることができるため、本来の膜式活性汚泥法に於けるフラックスよりは高くすることができる。例えば、ポリエチレン製の中空糸MF膜の場合、通常の膜式活性汚泥法で汚泥濃度10000mg/Lの条件下で膜フラックス0.25m/dで使用していたものを、後述の実施例に示すように、本発明を適用した装置では汚泥濃度4500mg/Lの条件下で膜フラックス約0.4m/dの高い膜フラックスで処理を行うことができる。
【0037】
分離膜モジュール3Aの下方に設けられる散気装置3Bは、分離膜浸漬槽3の内部全体に必要かつ十分な流動を起こし、かつ微生物に溶存酸素を行き渡らせることができるものであれば良く、その形式や設置数には特に制限はないが、例えば、ディフューザー、エアレーター、孔開き散気管などを用いることができる。この散気は、上述の分離膜モジュール3Aの膜面振動のための散気を兼ねて行っても良く、各々別々に行っても良い。
【0038】
本発明では、分離膜浸漬槽3内の汚泥濃度を低く抑えるために、分離膜浸漬槽3の液(濃縮汚泥)の一部を好気性生物処理槽1へ返送するが、分離膜浸漬槽3の水面は分離膜モジュール3Aの操作圧を一定に保つため、できるだけ変動させないでおくことが好ましく、返送は浮上分離槽2からの放流水が流入している間にのみ行うようにすることが好ましい。
【0039】
また、分離膜モジュール3Aは透過流束を保つために定期的に、例えば0.1重量%次亜塩素酸ソーダなどの薬品で洗浄する必要があるが、本発明では分離膜浸漬槽3内の汚泥濃度が低いことから、透過流束を高めても薬品洗浄の頻度を低く抑えることができ、例えば後述の実施例に示すように、従来法で10000mg/L、膜の透過流束0.25m/dで運転したときと同様に、本発明により、汚泥濃度4500mg/L、膜の透過流束0.4m/dで運転したときも、0.1%次亜塩素酸ソーダによる薬品洗浄頻度は、共に3ヶ月毎で良く、膜の透過流束が長期間維持できる。
【0040】
このような生物処理装置において、原水(有機性排水)は、好気性生物処理槽1に導入されて流動床担体生物処理された後浮上分離槽2で加圧浮上分離され、浮上汚泥はポンプ6からの分離膜浸漬槽3の濃縮汚泥により好気性生物処理槽1に押し込まれて返送される。なお、浮上分離槽2の浮上汚泥は、必要に応じてその一部が系外に排出されても良い。浮上分離槽2の分離水は次いで分離膜浸漬槽3に導入され、槽内の微生物で好気性生物処理された後分離膜モジュール3Aで膜濾過され、膜透過水が処理水として系外へ排出される。分離膜浸漬槽3の槽内汚泥はポンプ6により浮上分離槽2の浮上汚泥と共に好気性生物処理槽1に返送される。この返送汚泥もまた、必要に応じて一部系外へ排出しても良い。
【0041】
図1(a)の生物処理装置によれば、好気性生物処理槽1を経た流動床担体生物処理水を浮上分離槽2で浮上分離することにより、流動床担体生物処理で生じる余剰汚泥の大部分を凝集剤を用いることなく分離することができる。そして、浮上分離槽2の分離水に含まれる僅かな余剰汚泥を分離膜浸漬槽3で膜濾過して分離する。この分離膜浸漬槽3には、予め浮上分離槽2で余剰汚泥の大部分を除去した後の比較的低濃度の汚泥が流入するため、膜濾過における目詰まりの問題は少なく、この分離膜浸漬槽3内で残留する有機物の分解除去と、浸漬膜による汚泥の膜濾過とを効率的に行うことができる。この分離膜浸漬槽3の分離膜モジュール3Aの透過水として得られる処理水は、MF膜等を透過した高水質の処理水である。しかも、本発明では、浮上分離槽2の浮上汚泥と分離膜浸漬槽3の分離汚泥を好気性生物処理槽1に返送することにより、この好気性生物処理槽1における分解性の悪い有機物の除去能力を向上させることができる。このため、好気性生物処理槽1の実効容量は比較的小さなもので足り、この結果、全体の装置容量の低減を図ることができる。
【0042】
図1(a)に示す生物処理装置は、1槽の好気性生物処理槽で一段流動床担体生物処理を行うものであるが、本発明の生物処理装置は、図1(b)に示す如く、好気性生物処理槽を2槽設け、第1の好気性生物処理槽1Aの流出水を第2の好気性生物処理槽1Bに導入して二段流動床担体生物処理を行っても良い。
【0043】
図1(b)において、1Aは第1の好気性生物処理槽であり、内部に微生物を担持した流動担体が保持されており、処理水流出部に設けられたスクリーン1Aaと、槽内下部に設けられた散気装置1Abとを備える。1Bは第2の好気性生物処理槽であり、内部に微生物を担持した流動担体と浮遊活性汚泥とが保持されており、処理水流出部に設けられたスクリーン1Baと、槽内下部に設けられた散気装置1Bbとを備える。その他の構成は図1(a)に示す生物処理装置と同様であり、同一機能を奏する部材に同一符号を付してある。
【0044】
第1,第2好気性生物処理槽1A,1Bの形状、槽内に保持される担体の種類や保持量、スクリーン1Aa,1Baの構成、散気装置1Ab,1Bbの構成については、図1(a)の好気性生物処理槽1と同様である。
【0045】
第1,第2好気性生物処理槽1A,1Bは、基本的には同等の仕様のものが用いられるが、双方で異なる構成を採用しても良い。第1の好気性生物処理槽1Aに後段の浮上分離槽2及び分離膜浸漬槽3からの汚泥が返送される。
【0046】
第1,第2の好気性生物処理槽1A,1Bの実効容量(有効容積)については、第1の好気性生物処理槽1Aの実効容量は流入する有機物をBODで表したとき、槽負荷が0.8〜8.0kg−BOD/m・dとなるように設計することが好ましい。槽負荷がこの範囲よりも大きいと十分な有機物除去を行えず、この範囲よりも小さいと徒に装置容量が大きくなり好ましくない。また、第2の好気性生物処理槽1Bの実効容量は、第1の好気性生物処理槽1Aの実効容量よりも大きいことが好ましく、例えば第1の好気性生物処理槽1Aの実効容量の5〜8倍であることが好ましい。第2の好気性生物処理槽1Bの実効容量がこの範囲よりも小さいと、難分解性の有機物を十分に除去し得ず、この範囲よりも大きいと徒に装置容量が大きくなり好ましい。
【0047】
その他、浮上分離槽2、分離膜浸漬槽3やポンプ5,6等の構成や条件については、図1(a)の生物処理装置と同様である。
【0048】
図1(b)の生物処理装置においても、原水(有機性排水)は、第1の好気性生物処理槽1A及び第2の好気性生物処理槽1Bに順次に導入され、2段流動床担体生物処理された後浮上分離槽2で加圧浮上され、浮上汚泥はポンプ6からの分離膜浸漬槽3の濃縮濃度により第1の好気性生物処理槽1Aに押し込まれて返送される。なお、浮上分離槽2の浮上汚泥は、必要に応じてその一部が系外に排出されても良い。浮上分離槽2の分離水は次いで分離膜浸漬槽3に導入され、槽内の微生物で好気性生物処理された後分離膜モジュール3Aで膜濾過され、膜透過水が処理水として系外へ排出される。分離膜浸漬槽3の槽内汚泥はポンプ6により浮上分離槽2の浮上汚泥と共に第1の好気性生物処理槽1Aに返送される。この返送汚泥もまた、必要に応じて一部系外へ排出しても良い。
【0049】
図1(b)の生物処理装置であっても、第1,第2好気性生物処理槽1A,1Bを経た2段流動床担体生物処理水を浮上分離槽2で浮上分離することにより、流動床担体生物処理で生じる余剰汚泥の大部分を凝集剤を用いることなく分離することができる。そして、浮上分離槽2の分離水に含まれる僅かな余剰汚泥を分離膜浸漬槽3で膜濾過して分離する。この分離膜浸漬槽3には、予め浮上分離槽2で余剰汚泥の大部分を除去した後の比較的低濃度の汚泥が流入するため、膜濾過における目詰まりの問題は少なく、この分離膜浸漬槽3内で残留する有機物の分解除去と、浸漬膜による汚泥の膜濾過とを効率的に行うことができる。この分離膜浸漬槽3の分離膜モジュール3Aの透過水として得られる処理水は、MF膜等を透過した高水質の処理水である。しかも、本発明では、浮上分離槽2の浮上汚泥と分離膜浸漬槽3の分離汚泥を第1の好気性生物処理槽1Aに返送することにより、浮遊汚泥は、第2の好気性生物処理槽1Bに流下し、この第2の好気性生物処理槽1Bにおける分解性の悪い有機物の除去能力を向上させることができる。このため、第2の好気性生物処理槽1Bの実効容量は比較的小さなもので足り、この結果、全体の装置容量の低減を図ることができる。そして、この生物処理装置であれば、二段流動床担体生物処理を行うことにより、より一層良好な水質の処理水を得ることができる。
【0050】
このようなことから、本発明によれば、高濃度の有機物を含む水から有機物を除去するための生物処理装置に関して、汚泥と処理水との分離に大型の沈殿槽や凝集剤を必要とせず、かつ、分離膜の洗浄強度及び頻度が大幅に低減され、運転コストの低減を図ることができる。
【0051】
このような本発明の生物処理装置は、調理ゴミ等の厨芥含有排水や、食品製造排水、酒類製造排水等の有機性排水の生物処理に有効であり、特に、このような有機性排水のうち有機物濃度が2,000mg−BOD/L以上であるような高濃度有機性排水の生物処理に有効である。
【実施例】
【0052】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0053】
実施例1
図1(a)に示す本発明の生物処理装置により、BOD濃度2,000mg/Lの豆腐製造排水の処理を100L/dの流量で行った。各槽の仕様は次の通りである。
好気性生物処理槽1:実効容量=100L
BOD負荷=2kg−BOD/m・d
担体種類=粒径3〜10mmの角型
材質:発泡ポリウレタン
担体保持量=槽有効容量の50%
浮上分離槽2:実効容量=20L
整流板:好気性生物処理槽1へ向って上がり勾配となり、水面の面積と水深とが徐々
に狭まっている形状。
分離膜浸漬槽3:実効容量=30L
滞留時間=7.2時間
分離膜モジュールの膜種=中空糸型ポリエチレン膜
【0054】
浮上分離槽2の浮上汚泥は80L/dの流量で好気性生物処理槽1に返送し、分離水160L/dを分離膜浸漬槽3に導入した。また、分離膜浸漬槽3では槽内汚泥を60L/dの流量で浮上分離槽2を経て好気性生物処理槽1に返送し、膜濾過水100L/dを処理水として取り出した。この分離膜浸漬槽3の汚泥濃度は約4500mg/Lに維持された。
【0055】
その結果、BOD濃度10mg/L以下、SSを含まない高水質処理水を分離膜モジュールの目詰まりを引き起こすことなく、0.4m/dの高い膜フラックスで安定に得ることができた。
【0056】
従来の膜式活性汚泥法に於いて、孔径0.4μmの中空糸型分離膜の薬品洗浄頻度が等しく3ヶ月毎となる場合の分離膜浸漬槽の汚泥濃度(MLSS)と、分離膜モジュールの透過流束との関係は図2に示す通りである。この図からも明らかなように、本発明の生物処理装置によれば、高濃度の有機性排水を処理するにも関わらず、分離膜浸漬槽の汚泥濃度を4500mg/L程度とすることが可能となため、3ヶ月毎の薬品洗浄頻度において、分離膜の透過流束を0.4m/d以上とすることができる。従って、その分だけ従来法より分離膜の面積を減らすことができ、また、そのときの薬品洗浄頻度を従来法と同等以下とすることができることが分かる。
【0057】
比較例1
実施例1において、浮上分離槽を省略し、好気性生物処理槽1の流出水を直接分離膜浸漬槽3に導入したこと以外は同様にして処理を行った。その結果、得られた処理水のBOD濃度は10〜20mg/L、SSは含まれず比較的高水質であったが、分離膜浸漬槽3内の汚泥濃度は25,000mg/Lとなり、3日間の運転により、分離膜モジュールの目詰まりで、膜フラックスは0.1m/d以下に低下し、運転を継続することが困難になった。
【0058】
比較例2
実施例1において、分離膜浸漬槽内の分離膜を省略したこと以外は同様にして処理を行ったところ、得られた処理水のBOD濃度は200〜500mg/L、SSは500〜5000mg/Lで高水質の処理水を得ることができなかった。
【0059】
実施例2
実施例1において、図1(b)に示す如く、好気性生物処理槽として、下記の第1及び第2の好気性生物処理槽1A,1Bを設けて二段流動床担体生物処理を行ったこと以外は同様にして処理を行った。
第1の好気性生物処理槽1A:実効容量=10L
BOD負荷=3kg−BOD/m・d(第2
の好気性生物処理槽と合わせて)
担体種類=粒径3〜10mmの角型
材質:発泡ポリウレタン
担体保持量=槽有効容量の50%
第2の好気性生物処理槽1B:実効容量=57L
担体種類=粒径3〜10mmの角型
材質:発泡ポリウレタン
担体保持量=槽有効容量の50%
【0060】
その結果、実施例1と同様に分離膜浸漬槽3の汚泥濃度は約4500mg/Lに維持され、分離膜モジュールの目詰まりを引き起こすことなく、0.4m/dの高い膜フラックスで安定な運転を行うことができ、SSを含まず、BOD濃度5mg/L以下の非常に高水質の処理水を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の生物処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】膜式活性汚泥法において、孔径0.4μmの中空糸型分離膜の薬品洗浄頻度が等しく3ヶ月毎となる場合の分離膜浸漬槽の汚泥濃度(MLSS)と、分離膜モジュールの透過流束との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1 好気性生物処理槽
1A 第1の好気性生物処理槽
1B 第2の好気性生物処理槽
2 浮上分離槽
3 分離膜浸漬槽
3A 分離膜モジュール
3B 散気装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水を受け入れる、微生物を担持した流動担体を保持する好気性生物処理槽と、
該好気性生物処理槽の流出水を受け入れ、該流出水を浮上汚泥と分離水とに分離する浮上分離槽と、
該浮上分離槽の分離水を受け入れ、該分離水に同伴される汚泥を分離すると共に処理水を排出する分離膜浸漬槽であって、槽内に浸漬された分離膜モジュールと該分離膜モジュールの下方に設けられた散気手段とを備える分離膜浸漬槽と、
前記浮上分離槽の浮上汚泥を前記好気性生物処理槽に返送する第1の汚泥返送手段と、
前記分離膜浸漬槽の汚泥を前記好気性生物処理槽に返送する第2の汚泥返送手段と、
を具備することを特徴とする生物処理装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第2の汚泥返送手段が、返送ポンプと返送配管とで構成され、前記第1の汚泥返送手段が、該返送配管の吐き出し口から噴射される汚泥により前記浮上汚泥が前記好気性生物処理槽に押し込まれるように構成されていることを特徴とする生物処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記好気性生物処理槽が第1の好気性生物処理槽と第2の好気性生物処理槽とで構成され、前記浮上分離槽の浮上汚泥と前記分離膜浸漬槽の汚泥は、該第1の好気性生物処理槽に返送され、前記第1の好気性生物処理槽の槽負荷が0.8〜8.0kg−BOD/m・dであることを特徴とする生物処理装置。
【請求項4】
請求項3において、前記第2の好気性生物処理槽の実効容量が前記第1の好気性生物処理槽の実効容量の1〜10倍であることを特徴とする生物処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記分離膜浸漬槽内の汚泥濃度が1,000〜6,000mg/Lで、滞留時間が1〜18時間であることを特徴とする生物処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−167551(P2006−167551A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361648(P2004−361648)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】