説明

生物学的に活性なC末端アルギニン含有ペプチド

本発明はペプトンからの活性なペプチド断片の分離、同定及び特徴付けに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペプトンからの活性なペプチド断片の分離、同定及び特徴付けに関する。
【背景技術】
【0002】
動物及び植物組織の加水分解産物は生細胞数及び組換えタンパク質生成物力価をブーストさせるために原核生物及び真核生物細胞の培養培地にしばしば添加される。よって、多種多様な供給源からのペプトンが、細胞培養増殖、寿命延長及び生産性を亢進させるために細胞培養処方で広く用いられている。しかしながら、治療用タンパク質の生産のための培地添加剤としてのその存在は、その未知の性質のために幾つかのチャレンジを提示する。
【0003】
哺乳動物細胞による治療用タンパク質の生産のための培地添加剤としての動物由来成分の使用は、ウイルス、マイコプラズマ及びプリオン汚染を引き起こしうる(Kallel等, J. Biotechnol. 95:195-204 (2002))。細胞培養培地中における動物由来成分の使用を避ける努力は欧州及び米国双方の規制機関によっても支持されている(Castle及びRoberston, Dev. Biol. Stand. 99:191-196 (1999))。動物の血清は過去数十年で培地から成功裏に除去され、現在使用されている培地の殆どは無タンパク質である(Froud, Dev. Biol. Stand. 99:157-166 (1999))。しかしながら、無タンパク質培地への切換えはしばしば細胞増殖及び生産性の減少を生じる(Lee等, J. Biotechnol. 69:85-93 (1999))。
【0004】
その結果、タンパク質加水分解物(ペプトンとしても知られている)が、それらの幾つかが無タンパク質と考え得るため栄養添加剤として細胞培養培地でしばしば使用される(Burteau等, In Vitro Cell. Dev. Biol. - Anim. 39(7):291-296 (2003))。細胞培養のためのペプトンは典型的には様々な生物学的ベースの出発材料:動物組織、乳誘導産物、微生物又は植物の酵素的消化によって製造される。
ペプトンの一般的効果は細胞増殖の亢進と生産性の増加であり、標準的な培地と同じ製品品質を有する (Jan等, Cytotechnology 16:17-26 (1994);Heidemann等, Cytotechnology 32:157-167 (2000);Sung等, Appl. Microbiol. Biotechnol. 63:527-536 (2004))。幾つかの文献は、ペプトンが遊離アミノ酸、オリゴペプチド、鉄塩、脂質及び微量成分等の物質を含んでいることを示している (Franek等, Biotechnol. Prog. 16:688-692 (2000); Martone等, Bioresour. Technol. 96:383-387 (2005))。ある研究はペプトンの潜在的な役割を調査し、それらが栄養効果を有しうることを示している(Heidemann等, Cytotechnology 32:157-167 (2000))。また、Schlaeger, J. Immunol. Meth. 194:191-199 (1996)は、特定のタンパク質加水分解物が抗アポトーシス特性を示すことを証明している。
【0005】
細胞培養におけるペプトンの効果についての数多くの研究にも拘わらず、その作用機序は尚知られていない。そしてペプトンはたとえ細胞培養プロセスにおいて有益であることが示されていても、その使用には多くの不具合がまたある。先ず、幾つかのペプトンは動物由来であるので、血清の使用の場合と同様の問題に出くわす。また、他の供給源からのペプトンもまた偶発的な薬剤の潜在源でありうる。第二に、ペプトン中の「活性」成分及びその作用機序の不確かさは、細胞培養製造プロセスで使用されるペプトンロットについての品質の指標を持たせることを不可能ではなくとも困難なものにしている。最後に、ペプトンの製造における供給源物質及びプロセスは標準化されておらず又は普遍的に交換可能ではないので、ペプトン自体の性質が単一源の原料である。従って、これらの不具合を解消するためにペプトンをよりよく特徴付ける機会がある。
従って、良好に定まった再現可能な濃度で良好に特定される活性成分を含む「定まった培地」をつくるために、ペプトン中の活性成分の組成を理解し同定することは有益であろう。また、活性なペプトン成分の同定は、細胞増殖及び死の制御と組換えタンパク質発現の良好な制御への窓を開くことになることが期待される。
従って、ペプトン組成物を特徴付けし細胞培養に対するその効果の機構を理解するための努力がなされている。
【0006】
本発明は、動物由来のペプトンPP3の同定可能な成分への、これらの化合物の性質を研究するために高分解能の質量分析法を含む現代的な分析技術を利用することによる分画に基づく。本発明は、アルギニンで終端するジ及びトリペプチドがPP3の増殖及び力価促進活性にある役割を担っているという認識に少なくとも部分的に基づく。
【発明の概要】
【0007】
一態様では、本発明は、式
(X1)X2R
(上式中、X1とX2は同一か異なっていてもよく、独立してアルギニン以外の何れかのアミノ酸からなり;
nは0又は1であり;
Rはアルギニンを表す)
のペプチドであって、ペプトンの生物学的活性を示すペプチドに関する。
【0008】
一実施態様では、ペプチドは、例えばPP3ペプトンのようなペプトンの分画によって得られる。
他の実施態様では、ペプチドが、表1に列挙されたペプチドから選択される。
【0009】
他の実施態様では、ペプチドはトリペプチドである。
更に他の実施態様では、ペプチドは表1に列挙されたペプチドから選択されるトリペプチドである。
ペプトン生物活性は、例えば細胞増殖の促進、細胞密度の促進;生細胞数;及び組換え宿主細胞培養における生産収量の増加からなる群から選択されうる。
【0010】
他の態様では、本発明は上に記載されたジ又はトリペプチドを含有する組成物に関する。
一実施態様では、組成物は細胞培養培地である。
更なる態様では、本発明は、上述のペプチドを含有する細胞培養物に関する。
一実施態様では、細胞培養物は、組換え宿主細胞の培養物であり、ここで組換え宿主細胞は、限定しないでチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞及び大腸菌細胞を含む任意の真核生物又は原核生物宿主でありうる。
宿主細胞によって生産される異種タンパク質は、例えば抗体(抗体断片を含む)又は任意の治療用タンパク質でありうる。
また更なる態様では、本発明は上述の二以上のペプチドの混合物に関する。
【0011】
別の態様では、本発明は、式
(X1)X2R
(上式中、X1とX2は同一か異なっていてもよく、独立してアルギニン以外の何れかのアミノ酸からなり;
nは0又は1であり;
Rはアルギニンを表す)
のペプチドを含み、該ペプチドから本質的になり、又は該ペプチドからなり、
該ペプチドの少なくとも幾らかがペプトン生物学的活性を示す、コンビナトリアルペプチドライブラリーに関する。
【0012】
また他の態様では、本発明は、異種タンパク質の組換え生産方法であって、上記タンパク質をコードする核酸を含む組換え宿主細胞を、上記異種タンパク質の発現に適した条件下で培養培地中で培養することを含み、上記培養培地が請求項1に記載の少なくとも一のペプチドを含む方法に関する。
本発明のこれらのまた他の態様は、実施例を含む次の記載から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例に記載されたPP3の分画及び分析の概略図である。
【図2】C18逆相クロマトグラフィーの結果を示す。
【図3】C18フロースルー(未結合)画分のクロマトグラフィーの結果を示す。「相対的比活性」は画分の等重量の活性をPP3のもので割ったものとして定義される。
【図4A】図4Aは、G15精製物質(画分F3−F7)の比活性が、組換えタンパク質力価(図3A)及び生細胞数(VCC;図3B)の双方を増加させるその能力に関してPP3のものに対して有意に増加したことを示している。
【図4B】図4Bは、G15精製物質(画分F3−F7)の比活性が、組換えタンパク質力価(図3A)及び生細胞数(VCC;図3B)の双方を増加させるその能力に関してPP3のものに対して有意に増加したことを示している。
【図5】G15画分の質量スペクトル分析。上方パネル:画分のMSスキャン。底部パネル:それぞれm/z403.2、389.2及び375.2のms/ms分析。
【図6】Rで終端するインシリコトリペプチドライブラリーにおけるペプチドの周波数分布。X軸:トリペプチドの質量;Y軸:各質量での周波数。
【図7A】VCC及び生成物力価に対するPP3及びXXRペプチドの効果。A.増加濃度のPP3(黒線)又はXXRペプチド(赤線)の添加に応答してバイオアッセイで測定されたVCC。B.増加濃度のPP3(黒線)又はXXRペプチド(赤線)の添加に応答してバイオアッセイで測定された生成物力価。
【図7B】VCC及び生成物力価に対するPP3及びXXRペプチドの効果。A.増加濃度のPP3(黒線)又はXXRペプチド(赤線)の添加に応答してバイオアッセイで測定されたVCC。B.増加濃度のPP3(黒線)又はXXRペプチド(赤線)の添加に応答してバイオアッセイで測定された生成物力価。
【図8】プロテオースペプトン(PP3)ポリペプチド(配列番号1)のウシ成分3のアミノ酸配列。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.定義
特段の定義をしない限り、ここで使用される技術的及び科学的用語は、この発明が属する分野の当業者が通常理解するところと同じ意味を持つ。Singleton等, Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 第2版, J. Wiley & Sons (New York, NY 1994)は、当業者に本出願において使用される用語の多くに対する一般的なガイドを与える。
【0015】
「ペプトン」なる用語は、ここでは最も広い意味で使用され、限定するものではないが、タンパク分解酵素での加水分解によって生産されるブタ、ウシ、及び他の動物の粘膜組織から誘導された加水分解混合物、並びに様々な植物組織からの加水分解物を含む、タンパク質の部分的な加水分解によって得られる水溶性タンパク質誘導体及びその混合物を含む。該用語は、限定するものではないが、ウシミルクに見出される153残基のマイナーな含リン糖タンパク質であるラクトフォリンとも呼ばれるプロテオースペプトンの成分3(PP3)(Sorensen 及びSorensen, J. Dairy Res. 60:535-542 (1993))(SwissProt データバンクにおける受託番号:P80195; GenBank受託番号CAA58309)、及びラクダ(Beg等, FEBS Lett. 216:270-274 (1987))、ラマ(Cantisani等, J. Biochem. Biophys. Methods 21:227-236 (1990))、雌ヒツジ、及びヤギ(Sorensen等, J. Dairy Sci. 80:3176-3181(1997)及びLister等, J. Dairy Res. 81:2111-2115 (1998))のような他の種のミルクに特徴付けられる相同タンパク質を特に含む。現在まで、PP3はヒトの母乳には見出されていない。PP3は例えばDifco Laboratories, Detroit, Michiganのような市販元から入手できる。
【0016】
「ペプチド」なる用語は、一つの酸のカルボキシル基がアミド又は「ペプチド」結合によって他のアミノ基に結合している二以上のアミノ酸を含む化合物を意味する。該定義は、少なくとも二のアミノ酸残基から形成されるペプチド、特にジ及びトリペプチドを特に含む。
【0017】
「タンパク質」とは、鎖長が三次及び/又は四次構造のより高いレベルを生産するのに十分であるアミノ酸の配列を意味する。典型的には、ここでの使用のためのタンパク質は少なくとも約15−20kD、好ましくは少なくとも約20kDの分子量を有するであろう。ここでの定義範囲に含まれるタンパク質の例には、あらゆる哺乳動物のタンパク質、特に治療用及び診断用タンパク質、例えば治療用及び診断用抗体、及び一般には、一又は複数の鎖間及び/又は鎖内ジスルフィド結合を含む多鎖ポリペプチドを含む、一又は複数のジスルフィド結合を含むタンパク質が含まれる。
【0018】
「アミノ酸」又は「アミノ酸残基」なる用語は、修飾され、合成され、又は希なアミノ酸を所望に応じて使用することができるが、典型的には、アラニン(Ala);アルギニン(Arg);アスパラギン(Asn);アスパラギン酸(Asp);システイン(Cys);グルタミン(Gln);グルタミン酸(Glu);グリシン(Gly);ヒスチジン(His);イソロイシン(Ile):ロイシン(Leu);リジン(Lys);メチオニン(Met);フェニルアラニン(Phe);プロリン(Pro);セリン(Ser);スレオニン(Thr);トリプトファン(Trp);チロシン(Tyr);及びバリン(Val)からなる群から選択されるアミノ酸のようなその当該分野で認識された定義を有するアミノ酸を意味する。よって、37CFR1.822(b)(4)に列挙された修飾された及び珍しいアミノ酸もこの定義に含まれ、明示的に出典明示によりここに援用される。アミノ酸は様々なサブグループに分類することができる。よって、アミノ酸は、非極性側鎖を持つもの(例えばAla,Cys,Ile,Leu,Met,Phe,Pro,Val);負に荷電した側鎖を持つもの(例えばAsp,Glu);正に荷電した側鎖を持つもの(例えばArg,His,Lys);あるいは未荷電の極性側鎖を持つもの(例えばAsn,Cys,Gln,Gly,His,Met,Phe,Ser,Thr,Trp,及びTyr)としてグループ化しうる。アミノ酸はまた小アミノ酸(Gly,Ala)、求核性アミノ酸(Ser,His,Thr,Cys)、疎水性アミノ酸(Val,Leu,Ile,Met,Pro)、芳香族アミノ酸(Phe,Tyr,Trp,Asp,Glu)、アミド(Asp,Glu)、及び塩基性アミノ酸(Lys,Arg)としてグループ化しうる。
【0019】
本発明のペプチドに関連して「生物学的活性」又は「ペプトン生物学的活性」なる用語は、限定するものではないが、細胞増殖及び/又は細胞密度及び/又は細胞生存率及び/又は組換え宿主培養における異種ポリペプチドの生産効率を含む、ペプトンが示すことが知られている任意の生物学的活性を意味するものとして使用される。
【0020】
「クロマトグラフィー」なる用語は、混合物の個々の溶質が移動相の影響下で、又は結合及び溶出プロセスにおいて、静止媒体中を移動する速度の差の結果として混合物中の興味ある溶質が混合物中の他の陽子とから分離されるプロセスを意味する。
【0021】
「アフィニティークロマトグラフィー」及び「プロテインアフィニティークロマトグラフィー」なる用語はここでは交換可能に使用され、興味あるタンパク質又は興味ある抗体が生体特異的リガンドに可逆的かつ特異的に結合されるタンパク質分離技術を意味する。好ましくは、生体特異的リガンドはクロマトグラフィー固相材料に共有結合しており、溶液がクロマトグラフィー固相材料に接触すると溶液中の興味あるタンパク質に接近可能である。興味あるタンパク質(例えば抗体、酵素、又はレセプタータンパク質)は、クロマトグラフィー工程中、生体特異的リガンド(例えば抗原、基質、補因子、又はホルモン)に対するその特異的結合親和性を保持している一方、混合物中の他の溶質及び/又はタンパク質はリガンドに有意には又は特異的には結合しない。固定化されたリガンドへの興味あるタンパク質の結合は汚染タンパク質又はタンパク質不純物がクロマトグラフィー媒体を通過することを可能にする一方、興味あるタンパク質は固相材料上の固定化リガンドに特異的に結合されたままである。ついで、特異的に結合した興味あるタンパク質は、低pH、高pH、高塩分、競合リガンド等で固定化リガンドから活性形態で除去され、先にカラムを通過させられた汚染タンパク質又はタンパク質不純物を含まないで溶出バッファーと共にクロマトグラフィーカラムを通過させられる。任意の成分を、例えば抗体のようなそのそれぞれの特異的な結合タンパク質を精製するためのリガンドとして使用することができる。
【0022】
「非アフィニティークロマトグラフィー」及び「非親和性精製」なる用語は、アフィニティークロマトグラフィーが利用されない精製法を意味する。非アフィニティークロマトグラフィーには、興味ある分子(例えばタンパク質、例えば抗体)と固相マトリックスの間の非特異的相互作用に依存するクロマトグラフィー技術が含まれる。
【0023】
「カチオン交換樹脂」は負に荷電した固相を意味し、よってそれは、固相の上又は中を通過する水溶液中のカチオンと交換される遊離のカチオンを有する。固相に結合してカチオン交換樹脂を形成する負に荷電したリガンドは、例えば、カルボキシレート又はスルホネートでありうる。市販のカチオン交換樹脂は、カルボキシ-メチル-セルロース、アガロース上に固定化されたスルホプロピル(SP)(例えば、SP-SEPHAROSE FAST FLOWTM又はSP-SEPHAROSE HIGH PERFORMANCETM、Pharmacia製)及びアガロース上に固定化されたスルホニル(例えば、S-SEPHAROSE FAST FLOWTM、Pharmacia製)を含む。「混合モードイオン交換樹脂」は、カチオン性、アニオン性、及び疎水性部分で共有的に修飾された固相を意味する。市販の混合モードイオン交換樹脂は、弱いカチオン交換基、低濃度のアニオン交換基、及びシリカゲル固相担体マトリックスに結合した疎水性リガンドを含むBAKERBOND ABXTM(J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)である。
ここで用いられる「アニオン交換樹脂」は、正に荷電した固相を意味し、例えばそれに結合した第4級アミノ基等の一又は複数の正荷電リガンドを有する。市販のアニオン交換樹脂は、DEAEセルロース、QAE SEPHADEXTM及びFAST Q SEPHAROSETM(Pharmacia)を含む。
【0024】
B.詳細な記載
ペプトンの分画と分析
本発明は、様々なクロマトグラフィー及び他の分離技術を使用する、活性なペプトン断片の同定に基づく。
ペプトンの分画は、クロマトグラフィー工程の組合せを含む当該分野でよく知られた技術によって実施されうる。ペプトンPP3の分画及び分析の典型的なスキームを図1に示す。このスキームにおける第一工程は、成分をその疎水性特性に基づいて分離するものである逆相HPLC(RPHPLC)である。化合物は高水性移動相中において逆相HPLCカラムに結合し、高有機移動相と共にRPHPLCカラムから溶出される。よって、ペプチドは線形又は非線形勾配の適切な有機溶媒を流すことによって、この技術を使用して分離することができる。
【0025】
ついで、逆相HPLCからのフロースルー画分に、図1に示されるサイズ排除クロマトグラフィーのような更なるクロマトグラフィー分離工程を施すことができる。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、クロマトグラフィーカラム内でこれらの分子が費やす時間に基づく異なった流体力学半径の分子の分別に依存している。分配は、カラムを構成する固定相の体積内で分子が程度の差はあれ時間を費やす結果として生じる。大きな流体力学半径の分子が分離中に早く溶出する;小さい半径の分子は遅く溶出する。SEC樹脂は当該分野でよく知られており、様々な製造者から市販されている。以下の実施例に記載された実験では、SEPHADEXTMG15サイズ排除カラム(Amersham Biosciences)を用いたが、他のサイズ排除カラムも適している。
【0026】
所望される場合、ペプトンは混合モードクロマトグラフィーによってサブ画分されうる。この技術では、固定相は単一のクロマトグラフィーリガンド中に二つの別個の結合ドメインを含む。一般に組み合わせられる分離原理はイオン交換及びRPクロマトグラフィーである。混合モードクロマトグラフィーの利用は、逆相クロマトグラフィー(RPクロマトグラフィー)が構造的に近いペプチドの分離に失敗した場合に一般に必要とされる。現在、数社の製造者が、Hypercarb樹脂(Thermo Scientific)、Oasis(登録商標) HLB樹脂 (Waters Corporation)及びDowex Optipore(登録商標)SD−2樹脂(Dow Chemical Company)を含む、異なった特異性を示す混合モード樹脂を商業的に提供している。OasisソーベントはジビニルベンゼンとN-ビニルピロリドンのコポリマーである。親水性−親油性バランス組成物は、強いRP保持と伝統的なRP樹脂に対して改善された孔の湿潤化を可能にする。従って、極性及び非極性双方の化合物を吸着させることができる。Oasisビーズの平均サイズは、30μmである。Optipore樹脂の組成はOasi樹脂の組成(第3級アミンを含むジビニルベンゼン)と同様であり、それにRP及び弱いアニオン交換吸収剤双方の性質を付与する。粒子の平均サイズは数百μmである。
【0027】
各精製工程では、得られる画分について生物活性を分析することができ、及び/又はその組成を決定するために様々な分析方法を施すことができる。
【0028】
ペプチド活性のアッセイ
生成されたペプトン画分は、実施例に記載された細胞ベースのバイオアッセイを含む既知のバイオアッセイを使用して試験することができる。ペプトン誘導ペプチドの生物活性のアッセイは、典型的には培養培地中に当該ペプチドを含む細胞培養物における様々な培養パラメータの測定に基づく。そのようなパラメータは、例えば細胞密度、生細胞数、生産された異種ポリペプチド(例えば抗体)の生産性を含む。そのようなアッセイは、例えばFranek等, Biotechnol. Prog. 16:688-692 (2000);Franek等, Biotechnol. Prog. 18:155-158 (2002);Franek等, Biotechnol. Prog. 19:169-174 (2003);Franek等, Biotechnol. Prog. 21:96-08 (2005)に開示されている。
【0029】
ペプトン画分の組成の決定
よって、ペプトン及びペプトン画分の組成は質量分析法(MS)、NMR、ICPMS、アミノ酸分析、及び当該分野でよく知られているこれら及び他の技術の様々な組合せによって分析することができる。
質量分析計は、イオン源、質量分析器、イオン検出器、及びデータ獲得ユニットからなる。先ず、ペプチドがイオン源でイオン化される。ついで、イオン化されたペプチドは質量分析器においてその質量対電荷比に従って分離され、別のイオンが検出される。質量分析計は、特にマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI−TOF)及びエレクトロスプレーイオン化(ESI)法の発明以来、タンパク質の分析において広く使用されている。例えばMALDI−TOF及び三重又は四重極−TOF、又はESIと対になったイオントラップ質量分析器を含む幾つかのタイプの質量分析器がある。よって、例えばQ−Tof−2質量分析器は、全質量スペクトル範囲にわたってイオンの同時検出を可能にする直交飛行時間分析器を利用する。更なる詳細については、例えばChemusevich等, J. Mass Spectrom. 36:849-865 (2001)を参照のこと。
【0030】
所望される場合、ペプチド断片とひいてはそれらが誘導されるタンパク質のアミノ酸配列は、当該分野で知られている技術、例えば質量分析法のある種の変形法、又はエドマン分解法によって決定することができる。
【0031】
特定のペプトンの分解産物中に同定されるペプチド断片によって本発明を例証するが、他のペプトンも同様の構造及び機能特性を有するペプチド成分を有することが予想される。
【0032】
コンビナトリアルペプチドライブラリー
コンビナトリアルペプチドライブラリーは当該分野でよく知られており、かかるライブラリーの生成とスクリーニングの方法は標準的なテキスト、例えばCombinatorial Peptide Library Protocols (Methods in Molecular Biology), Shmuel Cabilly編, Humana Press Inc. 1998に記載されている。
【0033】
コンビナトリアルペプチドライブラリーは様々なフォーマットでありうる。例えば、いわゆる「1ビーズ1化合物(one bead one compound)」ライブラリーは何千のビーズを含み、それぞれが単一のライブラリー化合物の複数コピーを担持している(Lam等, Nature, 354, 82-84 (1991))。該ライブラリーは所望の活性についてスクリーニングされ、任意の活性なビーズが単離される。ついで、同定されたビーズに結合した活性な化合物は、一般的な方法、例えばエドマン分解によって特徴付けられる。あるいは、還元的アプローチを用いることができる。他の方法、つまりHoughtenのポジショナルフィクシング法(Bioorg. Med. Chem. Lett., 14, 1947-1951 (2004))では、関連したライブラリーのセットがスクリーニング前に生成される。各ライブラリーは単一のビルディングブロックとして固定された一つの特定の残基を有し残りの残基が完全に無作為化された化合物を含む。異なったライブラリーは固定された位置に異なったビルディングブロックを有している。所望の活性についてこのライブラリーのセットをスクリーニングすることにより、固定残基における最適なビルディングブロックを直接同定することができる。この方法は、一度に一つの残基を最適化して連続して実施されうるか、あるいは全てのライブラリーのセットを同時にスクリーニングして、単一回のスクリーニングから最適なライブラリー化合物を直接同定することを可能にしうる。
【0034】
ここに特に開示されたペプチドを使用して、改善された化学的及び/又は生物学的特性を有する更なるペプチドを同定するためにコンビナトリアルペプチドライブラリーを使用することができる。
【0035】
ペプチド合成
本発明に従って同定されるペプチドは、ペプチド合成の一般的な方法、例えば合成において使用されるアミノ酸モノマーのN末端を保護するためにFmoc(9H−フルオレン−9−イル−メトキシ−カルボニル)又はBoc(tert−ブトキシカルボニル)保護基を使用して、様々な形態で実施することができる固相合成法によって合成することができる。自動合成機は双方の技術に対して市販されているが、固相合成法はまたマニュアルで実施することができる。更なる詳細については、例えばAtherton, E., Sheppard, R.C. (1989).Solid Phase peptide synthesis: a practical approach.Ocford, England: IRL Press.ISBN 0199630674;及びStewart, J.M., Young, J.D. (1984). Solid phase peptide synthesis, 2版, Rockford: Pierce Chemical Company, 91. ISBN 0935940030を参照のこと。
【0036】
ジ−及びトリ−ペプチドの使用
本発明のジ−及びトリ−ペプチドは、抗体を含む組換えポリペプチドの生産に使用される増殖培地の成分として使用することができる。
例えば抗体のような組換えポリペプチドは、様々な真核生物及び原核生物宿主生物中で生産されうる。
【0037】
例えば抗体のようなグリコシル化ポリペプチドの発現に適した宿主細胞は多細胞生物から誘導されうる。無脊椎動物細胞の例には植物及び昆虫細胞が含まれる。例えばスポドプテラ・フルギペルダ(毛虫)、ネッタイシマカ(蚊)、ヒトスジシマカ(蚊)、キイロショウジョウバエ(ショウジョウバエ)、及びカイコのような数多くのバキュロウイルス株及び変異株及び対応する許容される昆虫宿主細胞が同定されている。例えばオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL−1変異体及びカイコNPVのBm−5株など、形質移入のための様々なウイルス株が公に入手でき、かかるウイルスは本発明に従って、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞の形質移入のためにここでウイルスとして使用することができる。綿、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、及びタバコの植物細胞培養物もまた宿主として利用することができる。
【0038】
しかしながら、脊椎動物細胞におけるものが最も興味深く、培養(組織培養)中での脊椎動物細胞の増殖は常套的な手順になった。有用な哺乳動物宿主株化細胞の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS−7,ATCC CRL1651);ヒト胚腎臓株(293又は懸濁培養での増殖のためにサブクローン化された293細胞、Graham等, J. Gen Virol., 36:59 (1977));ハムスター乳児腎細胞(BHK,ATCC CCL10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO, Urlaub及びChasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980));マウスのセルトリ細胞(TM4, Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980));サルの腎細胞(CVI ATCC CCL70);アフリカミドリザルの腎細胞(VERO−76,ATCC CRL−1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA,ATCC CCL2);イヌ腎細胞(MDCK,ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞(BRL3A,ATCC CRL1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL75);ヒト肝細胞(Hep G2,HB8065);マウス乳房腫瘍細胞(MMT060562,ATTC CCL51);TRI細胞(Mother等, Annals N.Y. Acad. Sci., 383:44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌株(HepG2)である。
【0039】
例えば抗体のような組換えポリペプチドはdp12.CHO細胞中で生産することができ、そのCHO−K1 DUX−B11細胞からの生産はEP307247に記載されている。CHO−K1 DUX−B11細胞は、今度はSimonsen, C. C.,及びLevinson, A. D., (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:2495-2499及びUrlaub G., 及びChasin, L., (1980) Proc. Natl. Acad. Sci USA 77:4216-4220に記載された方法に従って、CHO−K1(ATCC番号CCL61 CHO−K1)細胞から得られた。また、他のCHO−K1(dhfr)細胞株が知られており、使用することができる。
【0040】
ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質を生産するために用いられる哺乳動物宿主細胞は種々の培地において培養することができる。市販培地の例としては、ハム(Ham)のF10(シグマ)、最小必須培地((MEM),シグマ)、RPMI−1640(シグマ)及びダルベッコの改良イーグル培地((DMEM),シグマ)が宿主細胞の培養に好適である。また、その全ての開示が出典明示によりここに援用されるHam及びWallace (1979), Meth. in Enz. 58:44, Barnes及びSato (1980), Anal. Biochem. 102:255, 米国特許第4767704号;同4657866号;同4927762号;又は4560655号;国際公開90/03430;国際公開87/00195;米国特許再発行第30985号又は米国特許第5122469号に記載された任意の培地も宿主細胞に対する培地として使用できる。これらの培地はいずれも、ホルモン及び/又は他の成長因子(例えばインスリン、トランスフェリン、又は表皮増殖因子)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、バッファー(例えばHEPES)、ヌクレオシド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシンTM薬)、微量元素(最終濃度がマイクロモル範囲で通常存在する無機化合物として定義される)及びグルコース又は等価なエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含むことができる。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について以前から用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
【0041】
本発明のペプチドは、任意の市販の又は特注の培養培地の成分として、個別に又は様々な組合せとして使用することができる。
【0042】
ここでのペプチドの使用は哺乳動物又は一般には真核生物宿主細胞の培養に限られるものではない。本発明のペプチドはまた原核宿主生物の細胞培養における有用性を見出す。例示的な原核生物宿主生物には、限定されるものではないが、真正細菌, 例えばグラム陰性又はグラム陽性生物、例えば 腸内細菌科、例えば大腸菌属、例えば大腸菌、 エンテロバクター、エルウィニア、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばサルモネラ・チフィリウム、セラチア、例えばセラチア・マルセセンス、及びシゲラ、並びにバチルス、例えばバチルス・スブチリス及びバチルス・リケニフォルミス(例えば1989年4月12日公開のDD266710に開示されたバチルス・リケニフォルミス41P)、 シュードモナス、例えばシュードモナス・エルジノーサ、及びストレプトマイセスが含まれる。一つの好ましい大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC31446)であるが、大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31537)、及び大腸菌W3110(ATCC27325)のような他の株も適している。
【0043】
本発明の更なる詳細は次の非限定的な実施例において提供される。
【実施例】
【0044】
コンビナトリアルライブラリーを使用する生物学的に活性なC末端アルギニン含有トリペプチドの分子同定
材料と方法
TubeSpinバイオアッセイ
TubeSpinバイオアッセイを設計し、1.5×10細胞/mLの初期生細胞密度を使用して5ミリリットル(mL)の作用体積中での細胞増殖及び生産性(それぞれ生細胞密度及び生産した抗体の濃度によって決定)に対する細胞培養培地添加剤の効果を調べた。
【0045】
各培養物を7.15mLの体積で調製し、それから5mLをアッセイチューブに移した。アッセイチューブは、ガスの流れを容易にするために0.2ミクロンの孔径を有する膜を含む特殊なキャップを備えた50mLの遠心チューブである。残った2.15mLを使用して、生細胞密度(標的密度が達成されたことと、細胞が生存していることの双方を確認するため)、オスモル濃度及び代謝データ(pH、グルタミン、グルタミン酸塩、グルコース、乳酸塩、アンモニウム、ナトリウム、カリウム)を測定した。
【0046】
所望される培地添加剤の出発濃度及びオスモル濃度に応じて、その添加剤に対する標的濃度を決定した。このデータから、必要とされる添加剤の体積、最終培養物において生理学的オスモル濃度を達成するために必要とされる塩化ナトリウムの体積、及び7.15mLを達成するのに必要な水の体積を計算する。これらの値を用いて、培地添加剤、塩化ナトリウム、及び水の分取溶液を構成する。
【0047】
ついで、選択的ジェネンテック必須培地(GEM)中の細胞を、GEM2と称される製造品質の培地中に培地交換した。ついで、GEM2中の細胞を各分取チューブに加えて、7.15mL中で述べられた1.5×10細胞/mLを達成した。ついで、各アッセイチューブに5mLを入れ、37℃で4.75日間インキュベートした。
【0048】
インキュベーション期間の終わりに生細胞密度、オスモル濃度、及び代謝プロファイルをもう一度測定し、アッセイ培養物の試料を別個の抗体定量アッセイに送ってその濃度を決定した。
【0049】
C18逆相分取クロマトグラフィー
PP3の20%(w/v)水溶液を調製し、直ぐに使用した。5×5cmのステンレス鋼カラムにWaters分取C18シリカ(125Å孔径;55−105ミクロンの粒径)を充填した。該カラムは、10容量の水中0.02%(w/v)トリフルオロ酢酸(TFA)(バッファーA)で前もって平衡にしておき、60ml/分の流量で操作した。上記PP3溶液の200mLをカラムに充填した。カラムの溶媒コントロールと溶出液モニターは、Unicornソフトウェア(GE Healthcare)によって制御されるAktaクロマトグラフィーシステムを使用して達成した。充填後、カラムを、280nmでの溶出液の吸光度がベースラインに達するまでバッファーAで洗浄する。ついで、カラムを、0.02%のTFAを含む85%(v/v)アセトニトリル(ACN)で洗浄し結合物質を溶出させた。画分の生物学的活性を、バイオアッセイを使用して検査した。
【0050】
G15セファデックス分取クロマトグラフィー
C18からのフロースルー物質をロータリーエバポレーターによって濃縮し、G−15セファデックスカラム(7cm直径×50cm長)で更に分画した。該カラムは充填前に脱イオン水で平衡にし、C18フロースループール全体を充填した。画分を集め、上述のバイオアッセイを使用して活性を検査した。
【0051】
Hypercarb分析クロマトグラフィー
活性な画分の試料を、Hypercarb(グラファイト)カラム(5ミクロン粒径;カラム寸法:0.1mm×50mm)を使用して分析した。使用したバッファーは、バッファーA:水性0.02%TFA;及びバッファーB:85%ACN+0.02%TFAであった。様々な体積(0−10マイクロリットル)を、バッファーAで予め平衡にしておいたカラムに充填し、50%のバッファーBまで線形勾配で25分にわたって操作した。カラムは0.1ml/分の流量で操作した。溶媒コントロールは、ダイオードアレイディテクターを備えたAgilent 1100HPLCとMSDシングル四重極質量分析計を用いて達成した。システム全体はAgilent Chemstationソフトウェアの制御下にあった。
【0052】
質量分析
Q−TOF(Waters Corporation)又はOrbitrap質量分析器(Thermofinnigan)を使用して高分解能質量分析を実施した。機器はスタティックスプレーモードで操作し、質量精度は双方とも<5ppmであることが分かった。スペクトルを使用して精確な質量情報を得、これを使用してペプチドライブラリー情報と相関させた。
【0053】
バイオインフォマティクス
上で検討したようにして決定した質量と相関付けるために必要な質量精度を持つジペプチド及びトリペプチドのインシリコライブラリーを構築した。
【0054】
ペプチド合成
Fmoc固相ペプチド合成法を使用してトリペプチドライブラリーを作製した。該ライブラリーは全ての可能なアルギニン(R)で終端するトリペプチド、つまりXXRを含むように設計した。
【0055】
結果
PP3の分画
PP3分画及び分析のスキームを図1に模式的に示す。
【0056】
C18逆相HPLC
PP3の初期分画を、逆相HPLCを使用して達成した。図2に示すクロマトグラムは、PP3の逆相クロマトグラフィープロファイルを示す。質量の殆ど(初期乾燥重さの〜70%)が殆どの生物活性がそうであるようにカラムを流通する。
C18からのフロースルー画分を濃縮し、サイズ排除クロマトグラフィーのためにG−15セファデックスに充填した。その結果を図3に示す。
【0057】
G15カラムからの画分の生物活性を分析した。G15精製物質(画分F3−F7) の比活性は、組換えタンパク質力価(図4A)及び生細胞数(VCC;図4B)の双方を増大させるその能力についてPP3のものよりも有意に増加していた。
【0058】
G15画分プールに対する質量分析
活性な成分の分子の性質についての情報を得るために質量分析法を使用して活性な画分を分析した。図5は、上述のようにして得られたG15プールの試料から得られた代表的な質量スペクトルを示す。該スペクトルは<500Daの質量の数多くのピークを含んでいる。スペクトルの一つの顕著な特徴は、それらが14の質量単位だけ質量が異なる多くのピークを繰り返して含んでいるという事実であった。また、175.1m/zのピーク(図5)は、正確な質量及び続く元素組成分析によってアルギニンとして同定された。更に、衝突解離(CID)を使用する図5に示されたスペクトルからの3つの質量(403.2,389.2及び375.2m/z;ボックスでマーク)の分析は、<200Daの質量範囲において同様な断片化パターンを明らかにした。これは3つの質量の各々からの175.1m/zでの無傷のアルギニン残基の同定を含んでいた。また、精確な質量測定に基づいて、これらの分子は次の可能なアイデンティティを有するペプチドとして同定された:
403.2Da: EVR;DIR;DLR
389.2Da: LTR;ITR
375.2Da: SIR;SLR;TVR
上記配列中の最初の2のアミノ酸の順序はまた逆にすることもできるであろう。個々のアミノ酸の組合せにおける重複性のため幾つかの可能性が各質量において存在する。
【0059】
アルギニン含有トリペプチドのインシリコライブラリーの作製
ペプトン画分からの質量スペクトルに見られる14の質量単位の反復構造とこれらの分子群におけるC末端アルギニンの存在は、動物組織から生じるPP3中のペプチドの酵素的につくり出される「コンビナトリアルライブラリー」の存在を示唆している。この考えを更に調査するために、我々はC末端アルギニン含有トリペプチドのインシリコライブラリーを作製することを決めた。該ライブラリーは400の可能なペプチドを含み、その質量組成と分布は図6に示すグラフに表す。その分布は、14Daの間隔で反復ピークを有するペプトン画分に見られる14質量単位の差に確かに類似している。
【0060】
実際のXXRコンビナトリアルペプチドライブラリーの構築と分析
C末端アルギニン含有ペプチドがPP3画分に見られる活性の幾つかの原因であるかも知れないという考えを更に探求するために、我々は固相(Fmoc)ペプチド合成法を使用してこれら分子のコンビナトリアルライブラリーを作製した。凍結乾燥したペプチドを含むライブラリーを脱イオン水に溶解させ、溶液のpHをNaOHで〜7.0に調節した。ついで、その溶液を、G−15カラムを使用して脱塩した。ライブラリーの画分を集め、ロータリーエバポレーターによって濃縮させ、質量分析法とバイオアッセイによってアッセイした。質量スペクトル分析はジペプチド及びトリペプチドの双方の存在を明らかにした。混合物中に見出されたジペプチドは、ある割合の失敗したペプチド合成反応から生じたと考えた。
質量分析法は数多くのピークの存在を明らかにしたが、これを上で言及したインシリコライブラリーと比較した。表1はこの画分に見出されたペプチドの質量、アイデンティティ及び相対強度を列挙している。割り当ては<5ppmの誤差の精確な質量測定に基づいている。このリストは、この画分中に存在する全てのペプチドの部分的なリストである。
【0061】
G−15 XXR 画分のバイオアッセイ
上述のようにして調製されたXXRペプチドについてバイオアッセイにおいて活性を調べ、細胞増殖と力価について有意なポジティブな効果を有していることが見出された。
【0062】
まとめ
この実施例で得られた結果は、PP3が<500Daの分子量の活性分子を含むことを示している。これらの分子の幾つかはC末端アルギニン含有トリペプチドとして同定された。これらのペプチドのコンビナトリアルライブラリーは6日のバイオアッセイで生物学的活性を示した。我々は、C末端アルギニン含有トリペプチドがPP3の増殖及び力価促進活性に対して少なくとも部分的に寄与していると結論付けた。
【0063】
ここに例証として記載される本発明は、ここに特に開示されていない要素又は要素群、限定又は限定群がなくとも適切に実施することができる。よって、例えば「含有する(comprising)」、「含む(including)」、「含んでいる(containing)」等の用語は、拡張的にかつ限定しないで読まれなければならない。また、ここで用いられる用語及び表現は、限定ではなく説明の用語として使用されており、示した発明又はその一部の均等物を排除するための用語及び表現の使用を意図するものではないが、様々な変更が請求項記載の発明の範囲内で可能であるものと認められる。よって、本発明は好ましい実施態様及び任意的特徴によって特に開示したが、開示されたここで実施態様化された発明の変更及び変形は当業者によって直ぐになされ得、そのような変更及び変形はここに開示された発明の範囲に入ると考えられることが理解されなければならない。発明は広くかつ上位概念的に記載した。上位概念的開示内に入る狭い種及び下位概念グループの各々がこれらの発明の一部をまた形成する。これは、除去される物質にかかわらず又はそれが特に記載されているかどうかにかかわらず、上位概念から任意の主題事項を除くことを許容する条件又は否定的限定を各発明の上位概念の記載中に含む。また、本発明の特徴又は態様がマーカッシュグループによって記載されている場合、当業者は、発明がマーカッシュグループの任意の個々のメンバー又はメンバーのサブグループによってまた記載されているものと認めるであろう。ここでの方法において示され及び/又は使用される工程は、示され及び/又は述べられたものとは異なる順序で実施することができる。工程は、これらの工程が生じうる順序の単なる例示である。工程は、請求項記載の発明の目標を尚も実施するように望まれる任意の順序で生じうる。
【0064】
ここでの発明の記載から、本発明の概念をその範囲から逸脱しないで実施するために様々な均等物を使用することができることは明らかである。更に、発明は所定の実施態様を特に参照して説明されたが、当業者であれば、発明の精神及び範囲から逸脱しないで形態及び詳細について変更を加えることができることを認識するであろう。記載された実施態様はあらゆる点で例示と考えられ、限定するものではない。また発明はここに記載された特定の実施態様に限定されず、発明の範囲から逸脱しないで多くの均等物、再構成、変更、及び置換が可能であることが理解されなければならない。よって、更なる実施態様が本発明の範囲内であり、次の特許請求の範囲に入る。
【0065】
ここで言及されるあらゆる米国特許及び出願、外国特許及び出願;科学文献;書物;及び刊行物は、各個々の特許又は刊行物が、図面、図及び表を含み全体が記載されているかの如く、特にかつ個々に出典明示によりここに援用されることが示されているものとして、その全体が出典明示によりここに援用される。
【0066】


【特許請求の範囲】
【請求項1】

(X1)X2R
(上式中、X1とX2は同一か異なっていてもよく、独立してアルギニン以外の何れかのアミノ酸からなり;
nは0又は1であり;
Rはアルギニンを表す)
のペプチドであって、ペプトンの生物学的活性を示すペプチド。
【請求項2】
ペプトンの分画によって得られる請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
上記ペプトンがPP3である請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
表1に列挙されたペプチドから選択される請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
トリペプチドである請求項1に記載のペプチド。
【請求項6】
トリペプチドが表1に列挙されたペプチドから選択される請求項5に記載のペプチド。
【請求項7】
上記生物学的活性が、細胞増殖の促進、細胞密度の促進;生細胞数;及び組換え宿主細胞培養における生産収量の増加からなる群から選択される請求項1に記載のペプチド。
【請求項8】
請求項1に記載のペプチドを含有する組成物。
【請求項9】
細胞培養培地である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1に記載のペプチドを含有する細胞培養物。
【請求項11】
組換え宿主細胞の培養物である請求項10に記載の細胞培養物。
【請求項12】
上記宿主細胞が真核生物宿主細胞である請求項11に記載の細胞培養物。
【請求項13】
上記宿主細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である請求項12に記載の細胞培養物。
【請求項14】
上記組換え宿主細胞培養が異種タンパク質を生産する請求項11に記載の細胞培養物。
【請求項15】
上記組換えタンパク質が抗体又は抗体断片である請求項14に記載の細胞培養物。
【請求項16】
請求項1に記載の二以上のペプチドの混合物。
【請求項17】

(X1)X2R
(上式中、X1とX2は同一か異なっていてもよく、独立してアルギニン以外の何れかのアミノ酸からなり;
nは0又は1であり;
Rはアルギニンを表す)
のペプチドを含み、
該ペプチドの少なくとも幾らかがペプトン生物学的活性を示す、コンビナトリアルペプチドライブラリー。
【請求項18】

(X1)X2R
(上式中、X1とX2は同一か異なっていてもよく、独立してアルギニン以外の何れかのアミノ酸からなり;
nは0又は1であり;
Rはアルギニンを表す)
のペプチドから本質的になり、
該ペプチドの少なくとも幾らかがペプトン生物学的活性を示す、請求項17に記載のコンビナトリアルペプチドライブラリー。
【請求項19】

(X1)X2R
(上式中、X1とX2は同一か異なっていてもよく、独立してアルギニン以外の何れかのアミノ酸からなり;
nは0又は1であり;
Rはアルギニンを表す)
のペプチドからなり、
該ペプチドの少なくとも幾らかがペプトン生物学的活性を示す、請求項17に記載のコンビナトリアルペプチドライブラリー。
【請求項20】
異種タンパク質の組換え生産方法であって、上記タンパク質をコードする核酸を含む組換え宿主細胞を、上記異種タンパク質の発現に適した条件下で培養培地中で培養することを含み、上記培養培地が請求項1に記載の少なくとも一のペプチドを含む方法。
【請求項21】
上記宿主細胞が、真核生物宿主細胞である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
上記組換え宿主細胞が原核生物宿主細胞である請求項20に記載の方法。
【請求項23】
上記異種タンパク質が抗体又は抗体断片である請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−538089(P2010−538089A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524183(P2010−524183)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/075403
【国際公開番号】WO2009/033024
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】