説明

生物学的又は化学的試料の評価

調査している液体試料による酸素のようなガス状分析物の消費又は放出をモニタする方法は、実質的にガス不透過性を有する材料からなる細長く狭い管(12)を有し、かつ該管の長さの一部分に沿って測定励起放射及び測定発光放射を少なくとも部分的に透過させるキュベット(1)を設ける過程を有する。管(12)の断面積は1mm2未満である。試料(15)をキュベット(1)内にロードすると、該試料は、ガス状分析物に対して感受性を有する管(12)内のプローブと接触し、かつこの液体は少なくとも1つの表面と、関連するヘッドスペース(16)とを有する。キュベット、試料及びプローブは目標測定温度において平衡状態にある。励起放射は、キュベットを測定温度に維持しつつ、ヘッドスペース(16)から遠い位置にある管(12)のサンプリング区域に照射する。発せられた放射を測定しかつ分析して、ガス状分析物の試料による消費又は放出を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料によるO2の消費又はCO2の放出のような、液体試料によるガス状分析物の消費又は放出の評価に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素分子及び生物学的化学的試料による酸素摂取の速さを定量化することは、分析における重要な仕事である。酸素摂取(又は放出)の速度は、細胞/生物の生存能、代謝状態、及び、薬品/エフェクタの作用、疾病又は病理的過程のような内因性及び外因性刺激により起こる変化のバイオマーカーとして有用な場合がある。また、多くの酸素依存性酵素及び化学反応は酸素の消費によってモニタすることができ、それによって対応する酵素、それらの基質、生成物及び活性のモジュレータ(即ち、阻害剤又は活性剤)の定量化を可能にする。
【0003】
生物学的液体試料における酸素の消費は、ビルトインされた圧力センサを有する閉じたテストバイアル内に置いた試料のヘッドスペースの圧力変化を測定することにより定量化することができる(米国特許第5232839号)。この方法は、いくつかの用途について感度及び正確性を欠き、かつ酸素にとって試料のヘッドスペースが大容積であること及び環境/ヘッドスペースの酸素の試料内への急速な逆拡散によって時間のかかるものであると思われる。また、この方法は非常に小さい試料について適用することが困難であると思われる。
【0004】
米国特許第5371016号及び米国特許6080574号明細書には、試料の無菌状態及び微生物の発育を測定するために、試料を加え、密封しかつモニタするバイアルを蛍光利用の酸素センサにビルトインしたバイアル/管を用いて作動する光学システムが記載されている。
【0005】
国際公開WO98/15645には、ルミネッセンス利用の固体酸素センサを用いて、溶解酸素の勾配を測定することによって、生きた微生物を含む生物学的試料を評価する微生物学的方法が記載されている。
【0006】
米国特許第5,882,922号明細書には、試料の酸素消費を測定するために、ウェルを使用し、該ウェルが各ウェルの底部に塗布した固体酸素センサ被膜又は各試料に加えた可溶性酸素プローブを有するシステムが記載されている。
【0007】
ヨーロッパ特許EP1465730号明細書には、小さい生物学的試料、特に細胞を含むものによる酸素の消費を測定するための密封可能な2部品型マイクロチャンバ装置が記載されている。
【0008】
別の重要なガス状代謝物質は、生きている生物が放出する代謝作用による主要な生成物の1つである二酸化炭素(CO2)である。また、アンモニアが、ある微生物及び生物学的過程によって相当量生成される。酸素センシングと同様に、これらの分析物を測定するための多数の光学化学プローブ及びセンサが文献に記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、小さい生物学的又は化学的試料において、O2だけでなくCO2、又はアンモニアのようなガス状代謝物質の低レベルでの消費又は放出を測定する改良技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、標本によるガス状分析物の消費又は放出をモニタする方法であって、
ガス不透過性を有しかつ少なくとも部分的に測定励起放射及び発光放射を通過させる細長く狭い管からなり、該管が2mm未満の断面積を有するキュベットを設ける過程と、
前記ガス状分析物に対する感受性を有するプローブを含む前記キュベット内に、調査対象の標本をロードする過程と、
前記管のサンプリング区域に励起放射を照射し、かつ前記サンプリング区域からの発光放射を測定する過程と、
前記発光放射を分析して、前記ガス状分析物の前記標本による消費又は放出を決定する過程とからなる方法が提供される。
【0011】
ある実施例では、前記キュベットが1.0mm未満の断面積を有する。
別の実施例では、前記標本が前記キュベット管内に少なくとも10mmのカラム長さまで導入される。
更に別の実施例では、前記カラム長さが20mm〜100mmの範囲内にある。
ある実施例では、前記カラム長さが20mm〜50mmの範囲内にある。
【0012】
別の実施例では、前記標本が液体試料内に含まれる。
【0013】
更に別の実施例では、前記方法が、前記キュベット及び標本がモニタの際に目標測定温度において平衡状態にあるように温度を制御する過程を含む。
ある実施例では、目標温度に1分以内に到達するように、温度が制御される。
別の実施例では、測定の際に+/−0.5℃より高い精度で温度が維持される。
更に別の実施例では、前記目標温度が目標持続時間に亘って維持され、かつ連続する測定相について異なる目標温度に向けて温度勾配を実質的に発生させる。
【0014】
ある実施例では、前記キュベットが両端で開放され、かつ前記標本を、毛細管作用により前記キュベット管を上昇するように槽に浸すことによって前記キュベット内にロードする。
別の実施例では、前記キュベットが両端で開放され、前記標本を前記キュベット内に吸引によりロードする。
更に別の実施例では、前記サンプリング区域が前記標本の表面間の中間位置にある。
【0015】
ある実施例では、前記キュベットを、その下端を支持具で封栓して、実質的に垂直な向きに維持する。
別の実施例では、前記キュベットが水平な向きに保持される。
更に別の実施例では、前記キュベットが一方の端部で封止される。
ある実施例では、前記サンプリング区域が前記キュベットの封止した端部に隣接している。
【0016】
別の実施例では、複数のキュベットがカローセルに支持され、前記カローセルを測定の前又はその際に回転させる。
【0017】
更に別の実施例では、前記プローブが前記標本と共に導入される。
【0018】
ある実施例では、前記プローブを前記標本に、又は前記標本を含む試料液体に溶解させる。
別の実施例では、前記プローブが、前記標本をロードする前に前記キュベットに含まれている。
更に別の実施例では、前記プローブが、前記サンプリング区域において前記キュベット管の内面の少なくとも一部分を被覆する。
ある実施例では、前記プローブが前記キュベット内に微粒子の形態で存在する。
【0019】
別の実施例では、前記方法が、前記キュベット内にバリアを設けて、前記標本又は該標本を含む試料液体と環境との間における拡散を低減させ又は防止する過程を更に含む。
【0020】
更に別の実施例では、前記標本が液体であり又は液体試料に含まれ、前記バリアが前記標本又は前記液体試料の表面に接する液体からなる。
【0021】
ある実施例では、前記障壁がオイル又はゲルからなる。
別の実施例では、前記プローブが蛍光又はリン光を利用したプローブである。
更に別の実施例では、前記プローブが酸素感受性を有する。
【0022】
ある実施例では、前記プローブがプラチナ(II)−ポルフィリン色素又は蛍光ルテニウム(II)−錯体を利用したものである。
別の実施例では、前記プローブが、可溶性を有する酸素感受性フォトルミネッセント色素若しくはその巨大分子共役体、又は酸素感受性色素を含浸させた高分子微粒子の懸濁液からなる。
更に別の実施例では、前記プローブが、前記キュベット管の内面に塗布された固体の酸素感受性フォトルミネッセント被膜からなる。
【0023】
ある実施例では、前記標本が酸素依存性酵素又は酵素系及びその基質からなる。
【0024】
別の実施例では、酵素活性を決定する。
更に別の実施例では、酵素基質の濃度を決定する。
ある実施例では、前記標本に存在する又はそれに加えた化合物による酵素の阻害又は活性化を決定する。
【0025】
別の実施例では、前記標本が細胞からなる。
更に別の実施例では、前記標本をエフェクタで処理し、かつこのような処理により生じる細胞呼吸の変化を評価する。
【0026】
ある実施例では、前記標本が小型水生生物からなる。
別の実施例では、前記生物をエフェクタで処理し、かつそのような処理により生じるそれらの呼吸の変化を分析する。
更に別の実施例では、前記エフェクタが薬剤、化学化合物、生物化合物、自然産物/抽出物、又は環境試料である。
【0027】
本発明の別の側面によれば、標本によるガス状分析物の消費又は放出をモニタするための装置であって、実質的にガス不透過性を有しかつ少なくとも部分的に測定励起放射及び発光放射を通過させる細長く狭い管からなり、前記管の断面積が2mm未満であるキュベットを備える装置が提供される。
【0028】
ある実施例では、前記装置が更に、調査している標本を前記キュベット内にロードするための手段を備える。
【0029】
別の実施例では、前記装置が、前記管のサンプリング区域に励起放射を照射しかつ前記サンプリング区域からの発光放射を測定するための手段と、前記発光放射を分析して、ガス状分析物の前記標本による消費又は放出を決定するための手段とを更に備える。
【0030】
更に別の実施例では、前記キュベット管が1.0mm未満の断面積及び少なくとも10mmの長さをを有する。
【0031】
ある実施例では、前記装置が、チャンバと、前記キュベット及び標本がモニタの際に目標測定温度において平衡状態にあるように温度を制御するための温度コントローラとを備える。
【0032】
別の実施例では、前記目標温度に1分以内に到達するように温度が制御される。
更に別の実施例では、測定の際に+/−0.5℃より高い精度で温度が維持される。
ある実施例では、前記目標温度が目標持続時間に亘って維持され、かつ連続する測定相について異なる目標温度に向けて温度勾配を発生させる。
【0033】
別の実施例では、前記キュベットが両端で開放され、前記装置が槽を更に備え、前記標本を、前記キュベット管を毛細管作用により上昇するように前記槽に浸すことによって、前記キュベットにロードできるようにした。
【0034】
更に別の実施例では、前記装置が、前記キュベットを垂直な向きに、該キュベットの下端が封栓された状態で支持するための支持具を備える。
ある実施例では、前記装置が前記キュベットを水平な向きに支持するための支持具を備える。
【0035】
別の実施例では、前記キュベットが一方の端部で封止されている。
【0036】
更に別の実施例では、前記装置が、複数のキュベットを支持するためのカローセルと、前記カローセルを回転させるための駆動手段とを備える。
【0037】
ある実施例では、前記プローブが前記キュベット管の内面の少なくとも一部分を被覆する。
【0038】
本発明の別の側面によれば、標本によるガス状分析物の消費又は放出をモニタする方法であって、
ガス不透過性を有しかつ少なくとも部分的に測定励起放射及び発光放射を通過させる細長く狭い管からなり、該管が2mm未満の断面積を有するキュベットを設ける過程と、
前記キュベット内に調査対象の標本をロードし、前記キュベット又は前記標本が前記ガス状分析物に対する感受性を有するプローブを含む過程と、
前記管のサンプリング区域に励起放射を照射し、かつ前記サンプリング区域からの発光放射を測定する過程と、
前記発光放射を分析して、前記ガス状分析物の前記標本による消費又は放出を決定する過程とからなる方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明は、添付図面を参照しつつ、実施例として以下に記載される幾つかの実施態様の詳細な説明からより明確に理解することができる。
図1はキュベット1を示し、かつ図2は、生物学的試料の呼吸の分析のために多数のキュベット1を組み込んだシステム10を示している。システム10は、垂直軸の周りに回転するキュベット1のリング(平面視したとき)を保持するカローセル3を備える。蛍光検出器5が、システムの制御ハードウエア及びインタフェース装置6と連結されている。図2は、励起放射及び発光放射のための経路11を示している。カローセル3及び検出器5はサーマルチャンバ7内に配置され、その中には、測定の際にチャンバ7内の目標平衡温度を維持するために電気ヒータ/クーラ8が設けられている。
【0040】
キュベット1は、内径が約1mmで長さが50mmの狭く長い管12を備える。管12は、高さ6mm及び内径5mmの上部ネック13を有する。ネック13には栓が設けられている。管12は下端14が封止されている。また、キュベット1は、標本を入れる液体試料15を有する。本明細書では、用語「標本」は、ガス状分析物を消費し又は放出する活性種を意味する。前記標本は液体試料又はキャリア内に含ませることができる。
【0041】
また前記試料は、その中に組み込まれた分析物感受性プローブを含むことができる。前記プローブは、管12の底部に近接しかつ前記試料の表面及びヘッドスペース16から遠い位置にある測定部位15において検出器5により励起及び発光双方が検出される蛍光反応を生成する。前記検出器は、発光波長から励起波長を分離するためのフィルタを備える。この実施例では、これらの波長が480nmと650nmである。
【0042】
一般に、前記キュベット管は、少なくとも10mm、好ましくは20mm〜100mmの範囲、及び最も好ましくは20mm〜50mmの範囲の試料/プローブカラム即ち柱状部を可能にする長さを有する。前記キュベットの管部分は、最大2mmの断面積を有する。
【0043】
前記キュベットは、ガス不透過性又は良好なガスバリア特性を有する材料で形成され、従ってキュベットの壁を越えて試料との間でガス状分析物が拡散することは防止される。前記キュベットに好ましい材料は、ガラスのような完全なガス不透過性の材料である。然しながら、良好なガスバリア特性を有するポリマ材料(例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリアミド)もまた、このデバイス又はその測定/サンプル室の製造に用いることができる。
【0044】
システム10は、酵素、生きた細胞又は小型生物を含むような生物学的又は化学的液体試料において酸素のようなガス状分析物(別の実施例では、例えば二酸化炭素又はアンモニア)の消費/放出を検出するためのものである。
【0045】
図3を参照すると、キュベット30は、ホルダ32上に水平に支持されたガス不透過性ガラスからなる両端開放の管状本体31を有する。管31内には試料/プローブ混合物33が示されており、かつこの図面にはヘッドスペース34、35が示されている。
【0046】
図4に示すように、その開放された下端を支持具36に接触させた、一連のキュベット30を支持するホルダ32からなるアセンブリ40を設けることができる。図3及び図4双方には、試料カラムの両端の中央にある測定部位で蛍光を測定するための蛍光検出器36が示されている。
【0047】
前記プローブは、測定部位における光学的信号の測定を可能にするように、前記デバイスに組み込まれ、又は前記試料に加えられる。この測定部位は通常、前記キュベット管の長さの前記ヘッドスペースから最も遠い部分である。前記キュベットの一端が封止されている実施例(例えば、キュベット1)の場合には、測定部位はキュベットの下部に又はそれに近接して配置される。両端が開放しているデバイス(例えば、キュベット30)の場合には、測定部が試料区域の中央に配置される。
【0048】
このようなキュベットによって、試料によるガス状分析物の消費又は放出の速度を表わす、前記キュベットのこの部分におけるガス状分析物のクエンチ蛍光検出による消費又は放出をモニタするための簡単で感受性を有する正確な手段が提供される。前記キュベットの形態は、ヘッドスペース(即ち、雰囲気)から前記試料への酸素雰囲気の流入又は前記試料により生成されるCO2又はアンモニアのヘッドスペース/雰囲気への流出を効果的に防止するのに役立つ。従って、ヘッドスペースから比較的離れた位置にある試料の部分における分析物の濃度の局所的変化を測定することによって、非常に少量の分析物の放出/消費が測定される。ガス状分析物の消費の測定のために、前記分析物は試料中に溶解させることによって開始され、かつ測定の際に消費される。一例は溶解酸素である。ガス状分析物(二酸化炭素のような)の放出の測定には、開始する分析物を必要としないが、測定が進むにつれて、それは前記試料により放出され、かつそのような放出の程度が測定される。
【0049】
キュベットの露出した表面積が試料の容積に関して大きいことによって、前記システムは、所望の測定温度に急速に到達しかつ維持することが可能である。測定温度は1つ又は多数であってよく、測定は、平衡状態になった後の各相において行われる。
【0050】
いくつかの実施例におけるプローブは、リン光Pt−ポルフィリン若しくはルテニウム(II)の蛍光錯体に基づく酸素感受性プローブ、又はこれら酸素感受性色素の近い誘導体若しくは類似体である。その例には、Pt−コプロポルフィリン(PtCP)又は塩化ルテニウム(II)ジフェニルフェナントロリン(Ru(dpph)Cl)のような親水性色素、これら色素の巨大分子キャリヤを有する共役体からなる水溶性酸素プローブが含まれる。固体重合膜コーティング又は疎水性酸素感受性色素を含浸させた微粒子を同様に用いることができる。これら全ての酸素感受性材料は、空気飽和濃度(テスト試料は通常、この範囲での溶解酸素レベルを呼吸実験の開始時に有する)において酸素分子による受け入れ可能な程度のクエンチングを示し、都合の良いスペクトル特性及び崩壊時間の長い発光を有し、時間分割蛍光検出及び/又は寿命の測定を容易にしている。
【0051】
好ましいプローブの中で、可溶性酸素感受性プローブは、リン光金属ポルフィリン又はルテニウム錯体を利用している。これらの酸素センシングの専門家に周知のプローブは、例えばPtCP−BSA及びRu(dpph)−BSA共役体とすることができる。これらのプローブは、テスト試料を混合することによって溶液体で微少量でキュベットに組み込むことができ、ここでテスト試料はキュベットにロードされる。同様に、微粒子を利用した酸素感受性プローブをキュベット又は試料に組み込むことができる。別の実施例では、固体酸素感受性重合コーティング(例えば、ポリスチレン中のPt−オクタエチルポルフィン又はPt−テトラキス−(ペンタフルオロフェニル)ポルフィン)をキュベット管の測定部位の内面に塗布することができる。これによって前記システムは、試料内の溶解酸素のレベル及びその経時的変化を局所的に感知することができる。
【0052】
CO2及びアンモニアのようなガス状分析物を感知するために、CO2の放出による生じる試料溶液の酸性化又はアンモニアの放出により生じるアルカリ化に対する反応を生成する蛍光pH感応性プローブ及び指示薬を用いることができる。遊離、抱合又は固定化体のヒドロキシピレンポリスルホネート、フルオレスセイン、pH感応性Eu(III)錯体のような蛍光pH指示薬をプローブとして用いることができる。特定のpH感応性プローブ/指示薬の選択は、分析物、指示薬pKa、試料媒体、使用する検出システムの条件により、又は特定の用途により決定される。
【0053】
試料をキャピラリキュベット内に物理的にロードするので、ヘッドスペースからの酸素雰囲気は、光学的測定を実行する試料の部分から離れた位置にある試料の縁端部の非常に小さい面積を通してのみ試料内に拡散することができる。同様に、試料により生成されるCO2及びアンモニアは、ヘッドスペースに逃げ込む前に長いカラムの液体の中を拡散しなければならない。
【0054】
前記キュベットの光学的特性によって、蛍光信号の測定が可能である。一端を封止したキャピラリキュベットを用いたシステムの場合には、このような光学的測定が、ヘッドスペースの部分から離れた位置にあるデバイスの下側部分で行われる。この場合、試料のこれらの部分との間におけるガス状分析物の拡散は、液体試料内の長く狭い通路が拡散のバリアとして作用することによって、むしろ制限されかつ遅くなる。毛細管における試料の混合も大幅に減少し、試料内にガス状分析物の局所勾配を形成しかつ維持することを助けている。
【0055】
その結果、例えば酸素勾配が試料内に形成されるとき、ヘッドスペースからの酸素雰囲気は、光学的測定が行われるキュベットの遠い部分に容易にアクセスすることができない。これによって、さもなければ同様の用途のために開発された従来のデバイスでは、少しでも可能な場合でも、検出することがより困難である、液体試料内での低レベルの酸素消費に関連する非常に小さい酸素勾配の検出が可能になる。
【0056】
キュベットが両端で封止されていない実施例の場合には、光学的測定が、ヘッドスペースに接する両方の部位から離れた位置にあるサンプル室の中央部分で行われる。このようなデバイスの場合、テスト試料のローディングは、毛細管作用又は吸引等による簡単な手段で行われる。試料を毛細管内にロードした後、デバイスの一方又は双方の端部を封栓してデバイス内における試料の転位を回避し、又は毛細管を水平に配置することができる。
【0057】
試料の容積は、キュベットの管状部分の相当な長さを占めるように選択され、一般に約20〜50mmである。この特定の寸法のキュベット1及び30の場合には、5〜30μlの試料容積を使用するが、これは特に他の寸法を有するキュベットの場合に変化させることができる。一方の端部を封止したキュベットの場合、テスト試料をローディング部分に追加した後に回転を作用させて、試料をキュベットの底部に持って行きかつそこから気泡を除くことを容易にすることができる。
【0058】
酸素の消費(例えば、酵素反応、生きている細胞及び生物の呼吸及び代謝活動)に関連する化学的及び生物学的過程の大部分は、殆どの酸素感受性プローブ及び材料がそうであるように、高い温度依存性を有する。このことは、CO2及びアンモニアの放出及びセンシングについても当てはまる。従って、光学的測定の際にキュベット及びテスト試料の温度を厳密に制御することが重要であり、これは測定チャンバのアクティブかつ正確な温度制御により+/−0.5℃の許容誤差まで行われる。前記デバイスの毛細管形状及び小容積の試料によって、アッセイ全体に亘ってそれらの温度を急速に平衡状態にすること及び一定の目標温度に維持することが容易である。デバイス内での効率的な温度制御及び熱変化によって、高品質の実験データが得られる。安定した基線信号、低光学的ノイズ、プローブからの光学的信号の非常に小さい変化の正確かつ信頼性のある検出はこのようにして実現され、これによって、試料内で形成される非常に小さい酸素勾配を検出する能力が実現される。これによって、酸素の消費又はCO2及びアンモニアの放出の測定に基づく再現性、急速性及び感度に優れたアッセイが得られる。
【0059】
前記キュベットの毛細管形状は、対流及び/又は自然な撹拌(例えば、多数のデバイスを取り扱う際又は測定する際)による液体試料の受動混合を低減させる働きをする。前記キュベット内での試料とヘッドスペースとの接触面積が小さいことも、測定の際に少量の液体試料の蒸発を防止する。また、これによって、試料がこぼれることが防止され、従って汚染の危険性が低減する。他方、少量の試料内の分析物感受性プローブ及びセンサは高い感度が得られる蛍光を用いて、信頼性をもって評価することができる。
【0060】
キュベット1の拡大したネックによって、その管状(又は「毛細管」)部分への試料のローディングが容易になり、かつ前記栓によってキュベットの内容物がこぼれること、及び高温や実験の延長における試料の蒸発が防止される。
【0061】
システム10の使用には、次の主な工程が含まれる。
・前記キュベット、分析物感受性センサ/プローブ、テスト試料及び分析のための適当な蛍光検出器を準備すること。
・測定部位を含む各キュベットの相当な部分を試料が充填するように、前記プローブ及びテスト試料をキュベット内に配置すること。
・ロードしたキュベットを前記チャンバ内に配置し、それらを所望の目標温度で平衡状態にし、かつヘッドスペース領域から離れた位置にあるキュベット内のサンプル室の部分からプローブ蛍光信号を一定温度で測定すること。
・信号の変化を経時的に決定し、かつこれに基づいて、テスト試料による分析物の消費若しくは放出の速度、又は分析物の消費若しくは放出に関する他のパラメータを評価すること。
【0062】
前記方法は、例えば、テスト試料の酸素消費速度及び生物学的活性、及び薬剤/エフェクタでの処理のような様々な外因性及び内因性の刺激に反応したそれらの変化を評価することを可能にする。酸素依存性細胞、酵素又は小型生物を含む試料は、様々な毒物で処理し、かつそのようなアッセイで分析して、これら毒物が生物の呼吸又は試料の酸素消費に及ぼす衝撃を決定することができる。
【0063】
酸素プローブ信号の蛍光又はリン光測定は、迅速な(即ち、定常状態)又は時間分割強度測定を用いて行うことができる。マイクロ秒時間分割蛍光は、特に複合生物学的試料及び化合物ライブラリを用いて作業する場合に、光学的干渉(光の散乱、細胞の自己蛍光、試料に添加される蛍光性化合物)が低減されるので、好ましい検出モードである。これによって、プローブ/センサ信号を検出する際に、より高い信号対ノイズ比が得られる。べつの実施例では、蛍光の寿命を利用した酸素センシングメソドロジーを、時間領域又は位相領域測定のいずれかを用いて適用することができる。また、蛍光イメージングを適用することができ、それによってデバイス内の酸素の分布及びその各部分における消費速度に関するより詳細な情報が得られる。
【0064】
テスト試料におけるガス状分析物の消費又は放出の測定は、経時的なプローブ信号の周期的測定を用いて、通常キネティックモードで行われる。測定の時間フレーム及び頻度は、特定のタイプの試料及び用途に基づいて選択される。キネティックモードは、テスト試料における酸素レベル及びその変化の細かい時間プロフィル、即ちより多くの情報が得られるので、好ましい。同時に、類似の(標準的な)条件下で行われる十分に確立されたアッセイのために、試料を含むデバイスからの2点(アッセイの始点及び終点)での読み出し又は終点信号の読み出しでさえ用いることができる。
【0065】
単測定実験では、テスト試料を有する単一又は多数のキュベットを用いることができる。例えば、多数のキュベットを用いて、酸素消費の並行分析を行うことができる。これは、試料中の溶解酸素の、それをデバイス内に置いた時点における初期濃度が空気飽和レベル(温度及び化学組成によって200〜250μM)に近いのに対して、生物学的酸素消費は一般にむしろ遅いプロセスであることによって、促進される。その結果、相当な時間(数分から数時間)が、このような試料における検出可能な酸素勾配を実現するのに必要である。この場合、多数のデバイス及び試料を周期的に並行して測定することができ、かつ次に、対応する信号のプロファイル及び酸素勾配が再構成される。そのようなデバイス及び測定フォーマットを用いて、試料による酸素消費の絶対的速度の正確な定量化が、試料が完全には封止されずかつヘッドスペースの領域で雰囲気と接しているにも拘わらず、可能である。同時に、酸素消費の相対的速度及びその変化の評価はより分かり易い。この場合、テスト試料について測定した信号変化は、前記アッセイにも含まれる、又は別個の実験で分析される制御試料(例えば、処理した試料対未処理の試料)のそれに関連している。
【0066】
前記システムは、非常に少量の試料を分析し、かつ非常に低速度での酸素の消費又は二酸化炭素の放出を検出するのに非常に効率的である。これは、高い感度が得られ、かつまた使用するのが非常に簡単で便利である。
【0067】
必要な場合には、キュベット内で分析されている試料との間におけるガス状分析物の拡散を、鉱物オイルの層を水質試料上部に設けて、分析物のヘッドスペースとの間での逆拡散のための追加のバリアを作成することによって、更に低減させることができる。これは多くの場合に、アッセイの性能についていくつかの改善が得られることになる。
【0068】
より一般的にいえば、生物学的試料における酸素摂取をモニタするためのシステムは、以下のいくつか又は全てを備える。
・蛍光を利用した分析物感受性プローブを用いた生物学的又は化学的液体試料によるガス状分析物の消費又は放出を測定するためのキュベットの組(廃棄可能又は再使用可能)。
・多数のデバイスにテスト試料及びプローブを供給し、試料の調製及び分析の際に必要な取り扱いを容易にし、かつまたそれらを所定の位置に整合させて光学的測定を可能にするホルダユニット。
・ホルダに配置された各デバイスからの、特に試料のヘッドスペース領域から遠い位置にあるキュベット内の試料のある部分からの蛍光信号を測定し、かつアッセイの際にキュベットの連続的又は並行測定を行う検出ユニット。
・前記システム内の効率的な熱交換、ホルダにあるデバイスの急速な温度の平衡状態、及び測定時における一定温度の維持又は制御されて変化する温度プロファイルが得られる温度制御ユニット。
・必要な場合には、前記ホルダを動かしかつ/又は光学的位置合わせを変化させて、前記ホルダにおける各デバイスの測定を可能にする機械的かつ光学的構成要素。
・全体としてシステムの操作を制御する追加のハードウエア、及び外部からの制御及びデータの分析のためのソフトウエア。
【0069】
前記システムは多くの様々な用途に用いることができる。これらの用途には、細胞及び細胞下成分(例えば、ミトコンドリア分画、オルガネラ)の測定、様々な酸素依存性酵素及び結合された酵素系の活性及び阻害の測定、酵素基質及び代謝物の定量化、デバイス内部に適合するとすれば、小型水生生物による酸素摂取の測定が含まれる。他の用途には、細胞/生物の生存能の酸素呼吸による評価、自然抽出物、いくつかの成分の混合物、環境試料のようなより複合的な試料だけでなく様々な化学的及び生物学的化合物のテスト細胞/生物への作用、又は様々な試料の相互の比較が含まれる。
【0070】
更に、呼吸実験の際にデバイス内における効率的な温度制御及び熱交換によって、1つの実験で、いくつかの異なる温度における試料の酸素摂取の相対速度を決定することが可能になる。これによって、化学的又は生物学的試料のより詳細な評価を得ることができる。同様に、本発明のシステムを、テスト試料によるCO2又はアンモニアの放出の速度の測定(発生する場合には、適用可能かつ測定可能)に適用することによっても、化学的及び生物学的試料の評価の有用な方法が提供される。
【0071】
いくつかの用途について以下の実施例で説明するが、これらは本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0072】
実施例1:デバイスの調製及び水溶性リン光酸素プローブを用いた呼吸実験の準備
キュベット1を使用し、かつ各毛細管の上部に、試料貯留槽(〜50μlの液体を収容する)として機能しかつ測定実験の際に前記キュベットを封栓するために使用される(毛細管に栓が設けられる)プラスチック製のネックが取り付けられる。
【0073】
呼吸実験を行うために、テスト試料を標準的マイクロタイタープレートのウェルにピペットで50μlの一定分量で分注し、かつ5μlのリン光酸素プローブ(タイプA65N、Luxcel Biosciences、50μlストック水溶液)と混合した。この試料20μlを前記キュベットの広い部分にピペットで分注した。次に前記キュベットをLightCycler(登録商標)チャンバのカローセルに置いて、遠心分離器で〜10秒間5000rpmで回転させて、前記試料をキュベットの底部に持ってきた。その後、前記カローセルをLightCycler読み取り装置内に挿入し、かつ試料を有する毛細管からの蛍光信号を、650nm発光フィルタを用いて読み取った。温度(通常37℃)、実験時間(30〜120分以上)、試料の数(1〜40)及びそれらの位置のような主要な器具の設定を、器具のソフトウエアを用いて設定した。
【0074】
実験が完了した後、測定した各毛細管のプローブ蛍光信号のプロファイルを分析して、前記試料による酸素消費の速度を表わす経時的な信号の増加の割合を決定した。これらのデバイスによって、テスト試料による低レベルの酸素消費の高感度の検出が可能であった。
【0075】
実施例2:デバイスの調製及び固体リン光酸素プローブを用いた呼吸実験の準備
固体酸素センサを埋め込んだデバイスの製造及びその利用のために、LightCycler及び実施例1のキュベットを使用した。前記キュベットの底部をポリマ酸素感受性リン光被膜で予め被覆した。この被膜「カクテル」は、1mgのプラチナ(II)−オクタエチルポルフィン色素(PtOEP)をポリスチレン(M.W.230000)10%の酢酸エチル溶液1mlに溶解させることにより調製した。このカクテル2μlを各キュベットの底部にパスツールピペットを用いて塗布し、乾燥させた。溶媒の蒸発後、酸素に対して強いリン光性及び感度(空気飽和水質試料の脱酸素時に2〜3倍の信号増強)を示す薄膜からなる被膜が形成された。これらのリン光酸素センサを有するキュベットを、可溶性酸素プローブ(実施例1を参照)を用いたそれと同様にして、呼吸実験に用いた。
【0076】
実施例3.微粒子を利用した酸素プローブを用いたデバイスの調製
実施例1において説明したキュベットを有するLightCyclerシステムを用いたが、この実施例では、微粒子を利用したリン光酸素感受性プローブを各キュベットに組み込んだ。前記プローブは3.3μm単分散粒子(1.5%w/w)の水性懸濁液からなり、ジビニルベンゼンで架橋しかつPtOEK色素でドープしたポリスチレンで作製した。PtOEP溶液中の前記微粒子をクロロホルム(10mg/ml)中で24時間インキュベートし、かつ次にそれらをイソプロパノールで、数回エタノールで、かつ最後に水で洗浄することにより、含浸処理を行った。この微粒子の懸濁液を小容量(2〜3μl)ずつ前記キャピラリキュベットにパスツールピペットを用いて分配しかつ乾燥させた。別の実施例では、液体プローブを有するキュベットを封栓しかつ次に使用するまで保管した。
【0077】
このようなキュベットに試料を添加した時、前記微粒子はLightCycler読み取り装置により検出可能なリン光信号を生成し、前記試料における酸素の減少に対する信号反応を指示した。空気飽和溶液から脱酸素溶液に変化した時、約2倍のリン光の増加が観察された。微粒子を利用した酸素プローブを用いたデバイスは、水溶性酸素プローブ(実施例1を参照)を用いたそれと同様にして、呼吸実験において用いることができる。
【0078】
実施例4.2つの開放端部を有するデバイスを用いた呼吸実験の準備
約0.5mmの内径及び130mmの長さを有するガラス製マイクロキャピラリの形態をなすデバイスを製造した。次に、このようなキャピラリキュベットに、5μMのA65N酸素感受性プローブを含むテスト試料をロードした。これは、前記毛細管を試料溶液内に浸すことにより行われ、前記試料がキャピラリ長さの約50〜70mmを充填する(必要な場合には、吸引マイクロピペットで補助し、内部の試料容積が約10μlである)と、前記毛細管を取り出し、かつ図1cで示したそれに類似する特別なホルダに配置した。このホルダは前記毛細管を垂直位置に保持し、かつまたその下端を封栓して、試料の漏れを防止する。次に、前記キャピラリデバイスを有するホルダを蛍光測定装置Cary Eclipse(登録商標)のサンプル室に配置した。前記キュベットからの蛍光を、励起ビームが水平面に収束しかつ前記キュベットに底部から約20〜30mmの高さで、即ち試料区域の真中で入射するように535nmの励起及び650nmの発光を用いてモニタした。測定したプローブ蛍光の変化は、試料による酸素消費の速度と相関していた。
【0079】
実施例5.2つの開放端部を有するデバイスを用いた呼吸実験の準備
実施例4に類似の実験を行ったが、この実施例では、約0.25mmの内径を有するキュベットを用いた(試料容積5〜10μlを要求)。酸素プローブを含むテスト試料で前記キュベット(約50〜100mmの長さ)を充填した後、前記キュベットを特別なホルダに水平に、その端部を封栓することなく固定した。次に、励起ビームを垂直面に収束させるLS−50B蛍光測定装置を用いて、試料区域の中央部分(ローディング端部から〜30mm離れている)からの蛍光を測定した。測定したプローブ蛍光の変化は、前記試料による酸素消費の速度と相関していた。
【0080】
実施例6:小型生物の呼吸のモニタリング
実施例1で記載したようにデバイス及び呼吸実験を設定し、少数の塩水エビ・アルテミアサリーナ(小型水生動物、大きさ〜1mm)からなる試料を海水での試験生物として用いた。実験用のアルテミアを準備するために、卵を人工海水中で48時間〜25℃で連続照明下で孵化させ、かつ30℃の人工海水中で行われる呼吸実験のために用いた。
【0081】
図5は、〜30μl試料中ただ1匹のアルテニアの酸素呼吸が前記キャピラリシステムを用いて容易に検出可能なことを示している。別の実験では、動物を様々な化合物(化学物質及び環境毒物)で予め処理し、かつそれらの呼吸の変化を分析した。前記実験により、処理していない制御動物に関する試験動物の呼吸の減少及び増加双方の検出、用量−反応曲線、及び様々なエフェクタに対するEC50の決定が得られた。オイルシールを有する384ウェルプレートのような代替の呼吸フォーマット又はLuxcel Biosciencesが製造する低容積の密封可能なマイクロプレートを用いることでは、ただ1匹の動物の呼吸を検出すること(同様の試料容積を使用)は不可能であった。これらフォーマットの感度は、低レベルの呼吸の検出には好適ではなく、信頼性ある評価のためには、多数の動物が必要であった。
【0082】
実施例7:酵素活性の測定
実施例1において記載したように呼吸システム及び実験を準備したが、100mMのグルコース(基質)を含むリン酸緩衝食塩水、pH7.0からなる試料を用い、これに異なる濃度のグルコースオキシダーゼ酵素を加えた。これらの試料を毛細管内に配置し、かつLightCycler装置で1時間25℃でモニタして、酵素なしの制御試料を含む各試料について前記プローブからのリン光信号の勾配を得た。動物による酸素摂取速度を表わす前記勾配は、次のように計算される。
勾配=(I2−I1)/(t2−t1)
ここで、I1及びI2は時間位置t1及びt2における蛍光強度である。得られたグラフ(図6)は、この方法によって非常に低レベルの酵素活性(約5ng/mlまで)をモニタできることを示している。蛍光プレート読み取り装置で標準的な96ウェルプレートで行われた類似の実験は、相当低い感度及びデータのより大きな変化を示した。
【0083】
別の実験では、リン酸緩衝食塩水pH7.0に固定濃度のグルコースオキシダーゼ酵素を含む試料に、異なる濃度のグルコース(0.01〜100mMの範囲)を加え、ガラス製毛細管を有する呼吸システムで分析して、用量−反応曲線を作成した。この使用によって、グルコース標準セットにより生成される較正を用いて、未知の試料におけるグルコースのような酵素基質の定量化が可能である。
【0084】
別の実験では、3.3mMのMgCl、1.3mMのNADP、1.6U/mlのグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、アッセイ緩衝液として3.3mMのグルコース−6−リン酸、及び5μMの水溶性酸素プローブを含む100mMのK−リン酸pH7.4を用いて、チトクロムP450アイソエンザイムのミクロゾーム分画の活性及び阻害を測定した。対応する基質(そのKmに近い比較的高い濃度で使用)の存在下で、これらの酵素的調整法の働きを溶解酸素の消費によりモニタすることが高い感度及び再現性をもって可能であった。このアッセイにより測定した酸素消費の速度は、試料における酵素の量に相関していた。同様にして、特にCYP450アイソエンザイム(別の実験で最適化した一定濃度で使用)による様々な基質の代謝の速度の測定が首尾良く行われた。化学成分による様々なCYP450アイソエンザイムの阻害の測定も同様に行われた。
【0085】
実施例8.追加のオイルシールのアッセイ感度への影響
一定の酵素濃度、50mMのグルコース濃度及び20μlの試料容積を用いて、実施例7で説明したようにグルコースオキシダーゼを用いた実験を行った。多数のキュベットに重鉱油を5、10及び15μlの分量で、それらが試料の上部を覆うように加え、試料を有する残りのキュベットには油が含まれないようにし、この状態で酸素消費の測定をLightCycler装置で30℃で行った。図7は、オイルシールを有する試料について、酸素消費の初期速度(蛍光信号の初期勾配)がオイルなしの試料に類似するように現れることを示している。他方、オイルシールは、試料がより大きな酸素勾配(より高い最大信号)を形成しかつフック効果がより目立たない呼吸プロファイルを生成するように、アッセイの性能を改善することが分かる。前記アッセイは、加えたオイルの量に大きく依存しておらず、様々な容積のオイルを有する試料から実質的に等しい結果が得られた。
【0086】
実施例9.異なる温度における酸素呼吸の測定
実施例4に記載したように実験を行ったが、M16成長培地及び試験生物としてマウス胚を用いた。測定は、それぞれに20μlの媒体、5μMの可溶性酸素プローブ及び鉱物オイルシール(10μl)中に10個の胚(胚盤胞期4日目)を入れたガラス製キュベットで行った。LightCycler装置をプログラムして、試料の蛍光測定を次のように、即ち30℃で30分、次に34℃で30分、37℃で30分及び40℃で30分行った。胚のない媒体(空気飽和溶液)及びグルコースオキシダーゼ/グルコースで脱酸素化した媒体を含む試料を制御試料として含めた。測定した蛍光信号のプロファイルを処理して、蛍光信号の対応する勾配に基づいて各温度における酸素消費の相対速度を決定した。胚は40℃で最大速度の酸素呼吸を生成し、37℃では僅かにだけ減少するが、34℃及び30℃ではそれぞれ50%未満及び20%未満まで非常に大きく減少することが決定された。
【0087】
実施例10.CO2の放出の測定
100mMの尿素、0.1μMのフルオレスセイン(pH感応性プローブ)及び少量のウレアーゼ酵素(ローディング前に添加)を含む低モル濃度の緩衝液pH6からなるテスト試料を用いて、実施例6に記載したように実験を行った。このような試料は、キュベットに配置すると、酵素反応においてアンモニアの放出に応答したものである、測定可能に増加したプローブの蛍光を発生した。
【0088】
本発明は上述した実施例に限定されるものでなく、その構成及び詳細において様々に変化させることができる。例えば、前記キュベットはその断面形状を丸いもの以外に、正方形又は長方形の様にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】酸素濃度プローブ及びテスト試料を有する一端を封止した測定キュベットの概略図である。
【図2】図1の多数のキュベットを組み込んだ分析システムを模式的に示す正面図である。
【図3】封止していないキュベットを用いた本発明の別の分析システムを示す図である。
【図4】封止していないキュベットを用いた本発明の別の分析システムを示す図である。
【図5】異なる数の小型水生生物(アルテミアサリーナ)について水質試料を含むキャピラリ装置からのリン光信号の、呼吸活性及び酸素摂取の速度を表すプロファイルである。
【図6】酸素消費の速度(リン光信号の勾配)とテスト試料中のグルコースオキシダーゼ酵素の濃度との関係を示す較正グラフである。
【図7】可溶性酸素プローブを有するキャピラリキュベット内で測定した、グルコースオキシダーゼ酵素及びグルコースを含む試料の呼吸プロファイルへのオイルシールの追加の影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本によるガス状分析物の消費又は放出をモニタする方法であって、
ガス不透過性を有しかつ少なくとも部分的に測定励起放射及び発光放射を通過させる細長く狭い管からなり、該管が2mm2未満の断面積を有するキュベットを設ける過程と、
前記ガス状分析物に対する感受性を有するプローブを含む前記キュベット内に、調査対象の標本をロードする過程と、
前記管のサンプリング区域に励起放射を照射し、かつ前記サンプリング区域からの発光放射を測定する過程と、
前記発光放射を分析して、前記ガス状分析物の前記標本による消費又は放出を決定する過程とからなる方法。
【請求項2】
前記キュベットの断面積が1.0mm2未満である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標本を前記キュベット管内に少なくとも10mmのカラム長さまで導入する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記カラム長さが20mm〜100mmの範囲内である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記カラム長さが20mm〜50mmの範囲内である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記標本が液体試料内に含まれている請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記キュベット及び標本がモニタの際に目標測定温度において平衡状態にあるように温度を制御する過程を含む請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記目標温度に1分以内に到達するように温度を制御する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
測定時に+/−0.5℃より高い精度で温度を維持する請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記目標温度が目標持続時間に亘って維持され、かつ連続する測定相について異なる目標温度に向けて温度勾配を発生させる請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記キュベットが両端で開放され、かつ前記標本を、毛細管作用により前記キュベット管を上昇するように槽に浸すことによって前記キュベット内にロードする請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記キュベットが両端で開放され、かつ前記標本を前記キュベット内に吸引によってロードする請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記サンプリング区域が前記標本の表面間の中間位置にある請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記キュベットを、その下端を支持具で封栓して、垂直な向きに維持する請求項1乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記キュベットを水平な向きに保持する請求項1乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記キュベットを一方の端部で封止する請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記サンプリング区域が前記キュベットの封止した前記端部に隣接する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
複数のキュベットがカローセルに支持され、前記カローセルを測定の前又はその際に回転させる請求項1乃至17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記プローブを前記標本と共に導入する請求項1乃至18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記プローブを前記標本に又は前記標本を含む試料液体に溶解させる請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記プローブが前記標本をロードする前に前記キュベットに含まれている請求項1乃至18のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記プローブが、前記サンプリング区域にある前記キュベット管の内面の少なくとも一部分を被覆する請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記プローブが前記キュベット内に粒子の形で存在する請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記キュベット内にバリアを設けて、前記標本又は該標本を含む試料液体と環境との間における拡散を低減させ又は防止する過程を更に含む請求項1乃至23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記標本が液体であり又は液体試料に含まれ、前記バリアが前記標本又は前記液体試料の表面に接する液体からなる請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記バリアがオイル又はゲルからなる請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記プローブが蛍光又はリン光を利用したプローブである請求項1乃至26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記プローブが酸素感受性を有する請求項1乃至27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記プローブがプラチナ(II)−ポルフィリン色素又は蛍光性ルテニウム(II)−錯体に基づくものである請求項1乃至28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記プローブが可溶性を有する酸素感受性フォトルミネッセント色素若しくはその巨大分子共役体、又は酸素感受性色素を含浸させた高分子微粒子の懸濁液からなる請求項27乃至29に記載の方法。
【請求項31】
前記プローブが、前記キュベット管の内面に塗布された固体の酸素感受性フォトルミネッセント被膜からなる請求項27乃至29のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記標本が酸素依存性酵素若しくは酵素系及びその基質からなる請求項1乃至31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
酵素活性を決定する請求項32に記載の方法。
【請求項34】
酵素基質の濃度を決定する請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記標本に存在する又はそれに加えられた化合物による前記酵素の阻害又は活性化を測定する請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
前記標本が細胞からなる請求項1乃至35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記標本をエフェクタで処理し、かつこのような処理により生じる細胞呼吸の変化を評価する請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記標本が小型水生生物からなる請求項1乃至37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
前記生物をエフェクタで処理し、かつそのような処理により生じるそれらの呼吸の変化を分析する請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記エフェクタが薬剤、化学化合物、生物化合物、自然産物/抽出物、又は環境試料である請求項39に記載の方法。
【請求項41】
標本によるガス状分析物の消費又は放出をモニタするための装置であって、ガス不透過性を有しかつ少なくとも部分的に測定励起放射及び発光放射を通過させる細長く狭い管からなり、前記管の断面積が2mm2未満であるキュベットを備える装置。
【請求項42】
調査対象の標本を前記キュベット内にロードするための手段を更に備える請求項41に記載の装置。
【請求項43】
前記管のサンプリング区域に励起放射を照射しかつ前記サンプリング区域からの発光放射を測定するための手段と、前記発光放射を分析して、ガス状分析物の前記標本による消費又は放出を決定するための手段とを更に備える請求項41又は42に記載の装置。
【請求項44】
前記キュベットが1.0mm2未満の断面積及び少なくとも10mmの長さを有する請求項41乃至43のいずれかに記載の装置。
【請求項45】
チャンバと、前記キュベット及び標本がモニタの際に目標測定温度において平衡状態にあるように温度を制御するための温度コントローラとを備える請求項41乃至43のいずれかに記載の装置。
【請求項46】
前記目標温度に1分以内に到達するように前記温度を制御する請求項45に記載の装置。
【請求項47】
前記温度を測定の際に+/−0.5℃より高い精度で維持する請求項45又は46に記載の装置。
【請求項48】
前記目標温度が目標持続時間に亘って維持され、かつ連続する測定相について異なる目標温度に向けて温度勾配を発生させる請求項41乃至47のいずれかに記載の装置。
【請求項49】
前記キュベットが両端で開放され、前記装置が槽を更に備え、前記標本を、前記キュベット管を毛細管作用により上昇するように前記槽に浸すことによって、前記キュベットにロードできるようにした請求項41乃至48のいずれかに記載の装置。
【請求項50】
前記キュベットを垂直な向きに、該キュベットの下端が封栓された状態で支持するための支持具を備える請求項48又は49に記載の装置。
【請求項51】
前記キュベットを水平な向きに支持するための支持具を備える請求項41乃至49のいずれかに記載の装置。
【請求項52】
前記キュベットが一方の端部で封止されている請求項41乃至48のいずれかに記載の装置。
【請求項53】
複数のキュベットを支持するためのカローセルと、前記カローセルを回転させるための駆動手段とを備える請求項41乃至52のいずれかに記載の装置。
【請求項54】
プローブが前記キュベット管の内面の少なくとも一部分を被覆する請求項41乃至53のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−536140(P2008−536140A)
【公表日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−506045(P2008−506045)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【国際出願番号】PCT/IE2006/000028
【国際公開番号】WO2006/109282
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(505338224)ラクセル・バイオサイエンシズ・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】