生物学的流体中の分析物の測定中に誤用されたセンサーを決定するシステムおよび方法
【課題】流体中の分析物を正確に測定するシステムおよび方法
【解決手段】生物学的流体の医学的に重要な成分の濃度を測定するために適した誤用されたセンサーを検出する方法であって、(a)交流成分を含む信号をセンサーに印加する工程、(b)信号に対する交流応答を測定する工程、および(c)交流応答を用いてセンサーが誤用されているかどうかを決定する工程を含み、前記工程(a)、(b)および(c)が生物学的流体をセンサーに適用する前に実行されてなる誤用されたセンサーを検出する方法。
【解決手段】生物学的流体の医学的に重要な成分の濃度を測定するために適した誤用されたセンサーを検出する方法であって、(a)交流成分を含む信号をセンサーに印加する工程、(b)信号に対する交流応答を測定する工程、および(c)交流応答を用いてセンサーが誤用されているかどうかを決定する工程を含み、前記工程(a)、(b)および(c)が生物学的流体をセンサーに適用する前に実行されてなる誤用されたセンサーを検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は2003年6月20日出願の米国仮出願番号60/480298の利益を主張する。本願の内容は本書中の参照によりここに取り入れてある。
[技術分野]
本発明は流体中の分析物の濃度を測定するのに用いるための測定方法および装置に関する。詳細には本発明は、独占的ではないが、血液中のグルコースの濃度を測定するために用いられる方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の濃度、特に他の混在する物質の存在下での濃度を測定することは、多くの分野、特に医学診断の分野で、重要である。たとえば、血液などの体液中のグルコースの測定は糖尿病の効果的な治療には欠かせない。
【0003】
糖尿病の治療は典型的には二つの型のインシュリン治療、即ち基礎的なものと、食事時のものとを含む。基礎的なインシュリンとは、連続的な、たとえば、一定時間毎に放出されるインシュリンで、就寝前に取られることが多いものを言う。食事時のインシュリン療法は、砂糖および炭水化物の新陳代謝を含む種々の要因によって起こされる血液グルコースの変動を調節するためにより即効性の高いインシュリンを追加投与するものである。血液グルコースの変動を正しく調節するためには血液中のグルコースの濃度を正確に測定することを必要とする。そうしないと、盲目および四肢の循環の喪失を含む、極度の合併症を併発することがあり、究極的にはそのために糖尿病患者が自分の指、手、足などを使う能力を奪われるようになることがある。
【0004】
たとえば、グルコースなどの、血液試料中の分析物の濃度を測定するための多数の方法が知られている。そのような方法は典型的には光学的な方法と電気化学的な方法との二つのカテゴリの一つに入る。光学的な方法は、一般に、試薬中のスペクトルの動きを観察するための反射率または吸収率分光学を含む。そのような動きは分析物の濃度を示す変色を生成する化学反応によって起される。電気化学的な方法は一般に二者択一的に、分析物の濃度を示すアンペア計または電量計の応答を含む。たとえば、それらの全体をここに取り入れてある、コロンブス(Columbus)の特許文献1、ペース(Pace)の特許文献2、コロンブス(Columbus)の特許文献3、マグリ(Muggli)の特許文献4、リルジャ(Lilja)らの特許文献5、スズミンスキー(Szuminsky)らの特許文献6、ナンカイ(Nnkai)らの特許文献7、スズミンスキー(Szuminsky)らの特許文献8、ホワイト(White)の特許文献9、ディーボルド(Diebold)らの特許文献10、ポールマン(Pollmann)らの特許文献11、カーター(Carter)らの特許文献12、ヒル(Hill)らの特許文献13、ヒル(Hill)らの特許文献14、クリスモア(Crismore)らの特許文献15、フジワラ(Fujiwara)らの特許文献16、プリーデル(Priedel)らの特許文献17、およびシー(Shieh)の特許文献18を参照。
【0005】
血中の化学薬品の濃度を測定する電気化学的方法の重要な制限事項は、分析物の分散および試薬の種々の活性成分の交絡変数の影響である。たとえば、血液試料の形状および状態は、その上に信号対濃度のマッピング機能が基くものに厳密に相当するものでなければならない。
【0006】
血液試料の形状は試験装置の試料受け入れ部分によって典型的に制御される。たとえば、血液グルコース計の場合には、血液試料は典型的に計器内に挿入される使い捨ての試験片に載せられる。試験片は試料の形状を定める試料室(毛細管充填空間)を持つことができる。或いは、試料形状の効果は効果的に無限の試料のサイズを確かめることによって制限されることが出来る。たとえば、分析物を測定するために用いられる電極は試験片の血液滴が実質的に全方向に電極を越えて延びるように十分間隔を詰めておく。しかし、試料によって測定電極の妥当な補償範囲を確保することは、正確な試験結果を達成する上で重要な要素である。このことは、過去には、特に毛細管充填空間の使用について問題となる事項であった。
【0007】
血液グルコースの測定の正確さに対する制限の他の例としては、血液の組成または状態の変動(測定されている対象物以外のもの)が含まれる。たとえば、ヘマトクリット(赤血球の濃度)の変動,または血液中の他の化学物質の濃度の変動も、血液試料の信号生成に影響を及ぼすことがある。血液試料の温度の変化もまた血液化学の測定上の交絡変数の別の例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4233029号明細書
【特許文献2】米国特許第4225410号明細書
【特許文献3】米国特許第4323536号明細書
【特許文献4】米国特許第4008448号明細書
【特許文献5】米国特許第4654197号明細書
【特許文献6】米国特許第5108564号明細書
【特許文献7】米国特許第5120420号明細書
【特許文献8】米国特許第5128015号明細書
【特許文献9】米国特許第5243516号明細書
【特許文献10】米国特許第5437999号明細書
【特許文献11】米国特許第5288636号明細書
【特許文献12】米国特許第5628890号明細書
【特許文献13】米国特許第5682884号明細書
【特許文献14】米国特許第5727548号明細書
【特許文献15】米国特許第5997817号明細書
【特許文献16】米国特許第6004441号明細書
【特許文献17】米国特許第4919770号明細書
【特許文献18】米国特許第6054039号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それゆえ、温度、ヘマトクリット、および血液中の他の化学物質の濃度の変動を含む交絡変数の存在下であっても、血液グルコースを正確に測定するシステムおよび方法が必要とされた。また、試料による測定電極の、特に毛細管充填装置の、妥当な補償範囲を確保するシステムおよび方法も必要とされている。同様に、流体中の分析物を正確に測定するシステムおよび方法も必要とされている。本発明の目的は、そのようなシステムおよび方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つの実施形態では、a)センサーに対して交流成分を持った信号を適用し、b)信号に対する交流応答を測定し、そしてc)センサーが誤用されているかどうかを決定する交流応答を用いる工程からなる、生物学的流体の医学的に有用な成分の濃度を測定するようにした、誤用されたセンサーを検知する方法が示される。
【0011】
本発明のもう一つの実施形態では、a)生物学的流体試料をセンサー上に載せ、b)生物学的流体に第1信号を適用し、c)第1信号に対する電流応答を測定し、d)工程c)を少なくとも1回繰り返し、e)電流応答データを用いて規格化されたコットレル・フェイルセーフ率を計算し、f)交流の成分を持った第2信号を生物学的流体に適用し、g)第2信号に対する交流応答を測定し、そして規格化されたコットレル・フェイルセーフ率と交流応答とを組合わせてセンサーが誤用されたかどうかの指示を作り出す工程からなる、センサー上に載せられた生物学的流体の医学的に有用な構成要素の濃度を測定するための誤用されたセンサーを検知する方法が開示される。
【0012】
本発明のさらにもう一つの実施形態では、a)生物学的流体試料をセンサー上に載せ、b)生物学的流体に第1信号を適用し、c)第1信号に対する電流応答を測定し、d)工程c)を少なくとも1回繰り返し、e)電流応答データを合計し、f)電流応答データから最後の電流応答を同定し、g)第1の所定の定数を最後の電流応答と組合わせることによって低い方のしきい値を決定し、h)第2の所定の定数を最後の電流応答と組合わせることによって高い方のしきい値を決定し、そしてもし合計された電流応答データが低い方のしきい値よりも低いか、または高い方のしきい値よりも高い場合はセンサーが誤用されたと決定する工程からなる、センサー上に載せられた生物学的流体の医学的に有用な成分の濃度を測定するための誤用されたセンサーを検知する方法が開示される。
【0013】
本発明のまた別の実施形態では、a)交流成分を持った第1試験信号を試験試料に適用し、b)第1試験信号に対する第1位相角応答を測定し、c)交流成分を持った第2試験信号を試験試料に適用し、d)第2試験信号に対する第2位相角応答を測定し、そしてe)第1位相角応答、第2位相角応答および既定のコットレル・フェイルセーフ率に基づいて不良状態値を決定する工程からなる血液グルコースの濃度試験での誤用センサーを示す不良状態を決定する方法が開示される。
【0014】
本発明を添付の図面を参照して、実施例のみによって、さらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるシステムおよび方法において用いるのに適した、直列に適用された交流構成要素および直流構成要素を持った、第1実施形態の励起信号の図である。
【図2】本発明によるシステムおよび方法において用いるのに適した、同時に適用された交流構成要素および直流構成要素を持った、第2実施形態の励起信号の図である。
【図3】本発明の第1実施形態の試験片を図示する。
【図4】実施例1の試験に利用された励起信号の図である。
【図5】相関係数r2(グルコース対直流)対潜伏期無しの実施例1の試験のための読取時間の図である。
【図6】相関係数r2(グルコース対直流)対変動潜伏期の実施例1の試験のための読取時間の図である。
【図7】交流容認対実施例2の試験のためのヘマトクリットの図である。
【図8】無補正の直流対実施例2の試験のためのグルコースの図である。
【図9】予測されたグルコース応答対実施例2の試験のための実際のグルコース応答の図である。
【図10】実施例3の試験に利用された励起信号の図である。
【図11】交流位相角対実施例3の試験のための参照グルコースの図である。
【図12】予測されたグルコース応答対実施例3の試験のための実際のグルコース応答の図である。
【図13】実施例4の試験で利用された励起信号の図である。
【図14】交流容認対実施例4の試験のためのヘマトクリット(温度でパラメータ的に表示したもの)の図である。
【図15】無補正の直流応答対実施例4の試験のための実際のグルコースの図である。
【図16】予測されたグルコース応答対実施例4の試験のための実際のグルコース応答の図である。
【図17A】本発明の第2実施形態の試験片を示す。
【図17B】本発明の第2実施形態の試験片を示す。
【図18】実施例5の試験での温度とヘマトクリットとの3つの組合わせに対する、読取時間が変化するに連れて直流応答とグルコースレベルとのあいだに生じる相関係数r2をパラメータ的に示す図である。
【図19】実施例5の試験に利用された励起信号の図である。
【図20】実施例5の試験において温度がパラメータ的に変化するに連れて生じる交流容認対ヘマトクリットの図である。
【図21】実施例5の試験において温度がパラメータ的に変化するに連れて生じる交流容認位相角対ヘマトクリットの図である。
【図22】無補正の直流応答対実施例5の試験のための実際のグルコースの図である。
【図23】予測されたグルコース応答対実施例5の試験のための実際のグルコース応答の図である。
【図24】実施例6の試験に利用された励起信号の図である。
【図25】実施例6の試験でのヘマトクリットに対して策定したヘマトクリットと直流応答電流との相関係数r2の図である。
【図26】交流容認位相角対実施例6の試験のためのヘマトクリットとの図である。
【図27】無補正の直流応答対実施例6の試験のための実際のグルコースの図である。
【図28】補正された直流応答対実施例6の1.1秒合計試験時間の実際のグルコースの図である。
【図29】補正された直流応答対実施例6の1.5秒合計試験時間の実際のグルコースの図である。
【図30】補正された直流応答対実施例6の1.9秒合計試験時間の実際のグルコースの図である。
【図31】実施例8の試験装置において使用された毛細管充填チャンネルの高さおよび幅を詳述した表、並びに毛細管充填スペースの凸および凹の試料流の先頭の模式図である。
【図32A】凹型の流の先頭が先行技術の用量充足電極に遭遇する場合の斜行測定結果の電位を示す試験片の模式平面図である。
【図32B】凹型の流の先頭が先行技術の用量充足電極に遭遇する場合の斜行測定結果の電位を示す試験片の模式平面図である。
【図32C】凹型の流の先頭が先行技術の用量充足電極に遭遇する場合の斜行測定結果の電位を示す試験片の模式平面図である。
【図33】測定電極から独立した一対の垂直用量充足電極を持った本発明の試験片の模式平面図である。
【図34A】それぞれ凸および凹の流の先頭を持った試料を含む図33の試験片の模式平面図である。
【図34B】それぞれ凸および凹の流の先頭を持った試料を含む図33の試験片の模式平面図である。
【図35A】測定電極から独立した一対の並列の用量充足電極を持った本発明の試験片の模式平面図である。
【図35B】測定電極から独立した一対の並列の用量充足電極を持った本発明の試験片の模式平面図である。
【図36】電極が試料で覆われている時の電極ギャップのあいだを通信する電界線を模式的に示す図35の試験片の模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の原理の理解を促進するために、図面に示した実施形態を参照し、そしてその実施形態を説明するために特別の言語を用いる。それにも関らず、発明の範囲を限定することは意図されていないことが理解されるであろう。発明に関する当業者にとって通常生じるような、図示した装置の変更および改変、および発明の原理のさらなる適用は保護されることが望まれる。特に、発明は血液グルコース計について論じてはあるが、発明は他の分析物および他の形式の試料を測定する装置についても使用可能なことが考えられている。そのような択一的な実施形態は、当業者にとって自明な本書で考察された実施形態に対して一定の応用を要する。
【0017】
「電気化学的なバイオセンサーに関する装置および方法」と題する米国仮出願(一連番号60/480243、2003年6月20日提出)および「分析物センサーに関する装置および方法」と題する米国仮出願(一連番号60/480397、2003年6月20日提出)の全開示事項は、それらの全体を参照によってここに取り入れてある。
【0018】
本発明によるシステムおよび方法は流体中の分析物の正確な測定が可能にする。特に、エラーを生じるような干渉物の存在にも関わらず、分析物の測定が正確な状態に留まる。たとえば、本発明による血液グルコース計は、試料の温度およびヘマトクリットレベルの変動によって典型的に生じるエラー無しに血液グルコースの濃度を測定する。血液グルコースの正確な測定は、盲目、循環の喪失、その他糖尿病での血液グルコースの不適当な調整というような不都合の防止にとって高い価値がある。本発明によるシステムおよび方法の追加の利点は、測定が一層迅速に、そして一層少量の試料容量で可能なため、糖尿病の人が自分の血液グルコースを測定することが一層便利になることである。同様に、血液、尿、または他の生物学的流体中の分析物の正確で迅速な測定は広い範囲の医学的状態に対して改善された診断および治療を提供する。
【0019】
電気化学的血液グルコース計は典型的には(しかし始終ではなく)試薬の存在下で血液試料の電気化学的応答を測定することが理解される。この試薬はグルコースと反応してそうでなければ血液中に存在しない電荷キャリアを生成する。その結果、所定の信号の存在下での血液の電気化学的応答は主として血液グルコースの濃度に依存することが意図される。第2に、しかし、所定の信号に対する血液の電気化学的応答はヘマトクリットおよび温度を含む他の要素に依存する。たとえば、血液グルコースの測定についてのヘマトクリットの交絡影響を論じ、またそれらの全体を参照によりここに取り入れてある、米国特許第5243516号明細書、米国特許第5288636号明細書、米国特許第5352351号明細書、米国特許第5385846号明細書および米国特許第5508171号明細書を参照されたい。さらに、ある他の化学物質は、たとえば、尿酸、ビリルビン、および酸素を含む血液試料を通して電荷キャリアの転移に影響を与え、これによってグルコースの測定にエラーを起こすことがある。
【0020】
本発明による血液グルコースを測定する好ましい実施形態のシステムおよび方法は、血液試料の(そこから受容および位相角が引き出されることがある)インピーダンスに対する種々の要素の貢献からの信号依存性を用いることによって一般的に作用する。血液試料のインピーダンスに対する種々の要素の貢献は、適用される信号の関数であるから、交絡要素の影響(即ち、測定が求められる要素以外のもの)は多重信号に対する血液試料のインピーダンスを測定することによって大きく減少させることが出来る。グルコースに依存する反応も主としてキャパシタンスに貢献するが、特に、交絡要素の影響(主として温度とヘマトクリットとであるが、酸素のような化学的干渉物も含む)が、主として試料の抵抗性に貢献する。それゆえ、交絡要素は血液試料の交流励起に対するインピーダンスを、単独でまたは直流励起と組合わせて、測定することによって、除去することが出来る。そこで交流信号のインピーダンス(またはアドミタンスおよび位相情報から派生したインピーダンス)を用いて干渉物の影響に対する直流信号または交流派生キャパシタンスを補正する。
【0021】
十分に高い交流周波数での測定は試料のインピーダンスの容量分に対して比較的不感性であるが、低周波数の(直流を含む)測定は試料のインピーダンスの抵抗と容量の両成分に対して(周波数は低くなって)感度が次第に高くなる。インピーダンスの抵抗および容量の成分はより多数の周波数でインピーダンスを測定することによってより良く隔離することが出来る。しかし、計器のコストと複雑さが、測定数および生成させる必要がある周波数の数が増大するにつれて増大する。それゆえ、現在好ましい実施形態では、インピーダンスは10周波数より大きい値で、しかし好ましくは2から10周波数のあいだで、最も好ましくは2から5周波数のあいだで測定する。
【0022】
本書中で使用されるとおり、「交流成分を有する信号」という語句は、幾らかの交流電位(電圧)部分を持った信号を言う。たとえば、信号は100パーセント交流電位(電圧)と直流部分無しでも良く、信号は時間によって分離された交流と直流との部分を持っても良く、または信号は直流が相殺された(交流と直流とが重なった)交流であっても良い。
【0023】
連続的な交流および直流信号での試料測定
図1は直流励起と4つの周波数の交流励起が用いられた、一般に100で示される、本発明によるシステムおよび方法での使用に適した励起信号の好ましい実施形態を示す。図1はまた、励起が適当な試薬と混合された全血液の試料に適用されたときの励起に対する典型的な応答も示している。その応答は一般に102で示されている。比較的高い周波数信号が、時間101から開始して適用される。好ましい実施形態では周波数は約10kHzから約20kHzまでのあいだであり、そして約12.4mVから約56.6mVのあいだの増幅度を持っている。図1の例では20kHzの周波数が用いられている。当業者であれば、これらの値はセル形状および特定の細胞化学などの種々のパラメータに対して最適化可能なことを理解するであろう。
【0024】
時間110では、試験片は計器に挿入されていて、グルコース計内への試験片の挿入に対するいくつかの可能な応答が示される。試験片はまた、励起信号100の開始前に(即ち、時間101より前に)も挿入され得ることが理解できる。しかし、試験片自体は小片の適性に対するコントロールとして試験されるのが有利である。それえゆえ、励起信号100が試験片の挿入より前に開始されることが望ましい。たとえば、もし試験片が事前に投与されるか、または環境湿度のためのいずれかのために試験片が湿っている場合、112で示されるような、比較的大きな漏電電流が生じ得る。もし試験片が事前投与されて大体または完全に乾燥されたならば、114で示したように、中間での漏電電流が生じ得る。試験片の挿入が、116で示したように、試験電極のあいだで予想された電荷キャリアが無いために漏洩電流が無いかまたは無視できる程度になることが理想的である。所定のしきい値水準より高い測定電流の漏洩の場合には、エラーの通知が表示されて試験が続くことを防止することが好ましい。
【0025】
一度適当な試験片が挿入されれば、使用者は時間120で示したように小片を投与する。血液試料が電極を覆っているあいだは、グルコースが試薬と反応して接触領域が最大まで増大するので、電流応答は急速に増大する。応答電流が安定した状態に達すると、その状態はこの周波数での試料のインピーダンスを表示する。一度この測定が実施され、試験計によって記録されれば、励起周波数は時間130で示したように、好ましい実施形態では約10kHzまで落ち込む。試験計によって別の測定も実施されて記録され、そして好ましい実施形態では周波数は140で示したように約2kHzまで落ち込む。第3の測定が実施され、この周波数で試験計によって記録される。第4の測定が、好ましい実施形態では150で示したように約1kHzで実施される。好ましい実施形態では、測定は規則的な間隔(たとえば、1サイクル当り10点)で行なわれる。安定した状態の応答は電流または電圧として(好ましくは大きさと相との双方で)測定されれば良く、またインピーダンスおよび/またはアドミタンスがそこから計算できることが理解される。本明細書および請求項は、択一的に交流応答電流をインピーダンスまたはアドミタンス(大きさおよび/または位相)、抵抗、導電性、電流または電荷として、また、直流応答電流を電流、電荷、抵抗または導電性と参照するが、当業者であれば、これらの指標が相互変換可能であって、どの指標が用いられているのかを説明する測定および補正計算を調節することのみが必要なことであると認めるであろう。好ましい実施形態では、試験計は電圧を一つの電極に対して適用し、そして他の電極での電流応答を測定して、交流および直流応答を得る。
【0026】
ある別の実施形態では、測定はより少ないか、またはより多い頻度で行われる。好ましくは、測定は、少なくとも二つの交流周波数で、少なくとも1次数程度を離して実施される。もし二つ以上の交流周波数が用いられるならば、最高および最低の周波数を少なくとも1次数程度離しておくことが好ましい。
【0027】
交流信号には、たとえば、正弦波、台形、三角形、正方形、およびろ過された正方形を含む、多様な波形が使用され得る。現在好ましい実施形態では、交流信号は正弦波に近い、ろ過された四角波形を持っている。この波形は方形波生成器および一つまたはそれ以上のフィルターを用いて、真正弦波よりも一層経済的に発生させることができる。
【0028】
一度、全部で4つの交流測定がされると、160で示したように、信号は好ましくは短時間にゼロ増幅度まで減少させられる。その後170で示すように直流の励起が始められる。直流励起の増幅度は、結果として得られる応答または応答の健強性を最大にするために、使用されている試薬に基づいて有利に選択される。たとえば、フェリシアナイドが2アンペア計システムで用いられている場合、直流の増幅度は好ましくは約300mVとする。もう一つの例では、ニトロソアニリン誘導体が2アンペア計システムで用いられている場合、直流の増幅度は好ましくは約500〜550mVとする。またこれに代わる方法として、もし第3の参照電極が用いられているならば、直流増幅度はフェリシアナイドに対しては好ましくは600mV(対銀/塩化銀参照電極)、またニトロソアニリン誘導体に対しては40〜100mV(対銀/塩化銀参照電極)とする。直流励起中は、測定は好ましくは100pts/秒の速度で行われる。反応が作用電極の隣の反応していないグルコースの拡散によって制限されるため、電流応答は凋落曲線を辿る。結果として得られる安定状態の増幅度(測定されたかまたは計画された)を用いて、先行技術において公知のように、試料のグルコース予測を決定する。次に、後段で一層詳細に説明するように、干渉物の影響を補償するために交流信号に対する試料のインピーダンスを用いて、血液中のグルコースの濃度により緊密に相当する補正された予測が決定される。
【0029】
本発明による方法はまた、他の分析物および他の流体の濃度を測定するためにも使用することが出来る。たとえば、本発明による方法は尿、唾液、脊髄液、などの医学的に重要な分析物の濃度を測定するためにも使用され得る。同様に、試薬を適切に選択することによって、本発明による方法を、たとえば、乳酸、ヒドロキシ酪酸などの濃度を測定するために適応させることが出来る。
【0030】
同時に印加された直流および交流信号での試料測定
適用された直流および交流成分の少なくともいくつかを同時に適用することが可能であることが理解される。図2は、一般的に200で示した、交流および直流の成分のいくつかが同時に適用されて、図1に相当するように番号をつけた、相当する事象(たとえば、信号200は時間201に開始され、そして小片は時間210に挿入されるなど)を持った、本発明によるシステムおよび方法で使用するのに適した励起信号を示している。信号100の場合でのように、信号200は約10〜20kHzの周波数と約12.4〜56.6mVの増幅度とを持っている。しかし、時間220で示されたように、小片が投与された後は、270で示されたように、直流オフセットは重複する。典型的な交流および直流応答は図2に示す。交流および直流の応答は同時に測定され、そして算術的に解析されて、インピーダンス(アドミタンスの大きさおよび位相)およびアンペア計または電量計の応答を測定するために使用される。
【0031】
本発明によって血液グルコースを測定するシステムは、有利には先行技術のシステムで用いたものと一般的に同様の、ロッシュ・ディアグノスティクスから市販されているような、また、全体がここに組み入れられる米国特許第6270637号明細書および米国特許第5989917号明細書に記載されているような、血液グルコース計と試験片とを用いる。これらの試験片は試験のために血液試料が受領されて、またそれを通じて励起信号が提供されて測定がされる、試料セルを持った装置を提供する。当業者は、これらの試験片および計器は血液中のグルコースの測定用に有利に用いられるが、本発明を実施する場合には他の装置を、他の分析物または他の生物学的流体の測定用に有利に用いられることを理解するであろう。
【0032】
上述したような、交流および直流の成分を持った信号を生成して測定する電気回路を追加することにより、そしてまた後段に一層詳細に述べるように、交流測定を用いて直流測定を補正するようにプログラムすることによって、そのような公知の計器から適当なグルコース計を適応することができる。試験片の特定の形状および化学物質が、グルコースの濃度、ヘマトクリット、および温度と、試料のインピーダンスとの関係に変化を生ぜしめる。こうして、所与の組み合わせの試験片の形状および化学物質を較正し、そして相当するアルゴリズムで計器をプログラムしなければならない。本発明はどのような順序および組み合わせの励起信号の適用をも包含する。たとえば、本発明は、可能な順列のいくつかを挙げるだけで、1)交流のみ、2)交流次いで直流、3)交流、次に直流、次に交流、4)直流次に交流、そして5)直流を補正した交流の適用を包含する。
【0033】
直流測定の干渉物の影響を補正する複素交流インピーダンス測定データの使用法を下記の一連の例によって有意に説明する。これらの例は、試験試料において分析物の濃度を測定する場合に本発明の原理がどのように正確さと試験速度との向上を促進することが出来るかを示している。下記の例は血液グルコース測定についてヘマトクリットと温度との干渉の影響を補正することに対応しているが、当業者は本発明の教示事項が血液グルコース測定および他の分析物の測定において共に干渉物の影響を補正するために同等に有用であることを認めるであろう。その上、本明細書および請求項は「ヘマトクリット値を測定する」および「温度を測定する」などの工程について述べている。ヘマトクリット値を例として用いるためには、このような記述は実際のヘマトクリット値を測定するだけでなく、ヘマトクリット補正係数対いくつかの名目的な点も含むことを意図している。換言すれば、本プロセスは試料のヘマトクリット値と等しい数には実際には決して到達しないが、その代わり試料のヘマトクリットが一定量だけ名目的な値から相違することを測定する。両者の概念は「ヘマトクリット値を測定する」というような記述によって保護されることを意図している。
【0034】
実施例1:直流のみの測定における投与反応調査
実施例1で行われた測定は図3A〜Bに示して一般的に300で示す試験片を用いて達成された。試験片300は、参照のため本書に組み入れられる、米国特許第5997817号明細書に記述されている、比較的厚い膜試薬と作用電極および対極を含む毛細管充填スペースを含んでいる。試験片300はロッシュ・ディアグノスティクス・コーポレーション(インディアナポリス、インディアナ州)からコンフォート・カーブ(登録商標)の商品名で市販されている。使用されたフェリシアン化物の試薬は表1および表2に記述された組成物を持っていた。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
測定では、血液試料を試験片300に適用し、そして図4に示した励起電位を電極に印加した。励起は2kHzの40mVrms(56.56mVピーク)交流信号を試料適用後0秒から約4.5秒までのあいだ印加し、次いでその後300mVの直流信号をかけることからなった。しかし、この実施例の計算のためには、直流の測定データだけを分析した。
【0038】
最小の直流励起時間を決定するためには、「用量応答」調査を行ったが、そこではグリコール化された(グルコースを無くした)血液を別々の部分標本に分割して、制御されたレベルのグルコースを加えて5つの異なった既知のレベルの血液試料中のグルコースを得た。それから、二つのパラメータが変化したとき、得られた直流電流のプロフィルを調べた。第1のパラメータは潜伏期の時間、あるいは試験片300に適用された血液試料の検出時と試験片300に直流電位を印加した時とのあいだの時間であった。変化させるべき第2のパラメータは読み取り時間、あるいは直流電位の印加後得られた電流の測定時までの時間であった。試験片に適用された血液試料の検出から濃度測定計算に用いた最後の測定時までの時間の長さが「合計試験時間」である。それゆえ、この調査では、「インキュベーション時間」と「読み取り時間」との合計が「合計試験時間」となる。この調査の結果を図5と図6とに示す。
【0039】
図5では、直流応答をインキュベーション時間なしで測定した(読み取り時間=合計試験時間)。図5は相関係数r2対読み取り時間をプロットしている。見られるように、相関関係は1.0秒以内に0.95を超過する。図6では、直流応答を変化するインキュベーション時間で測定した。インキュベーション時間が設けられているときは(例えインキュベーション時間が2秒という短い時間であっても)r2の値は直流電位の適用後0.5秒またはそれ以内に0.99を超えるまで上昇した。
【0040】
しかし、消費者グルコース試験装置でのそのような早い試験時間の実施に対する障害は、血液試料から試料中の血液セルの存在からの干渉レベルの血液試料への変化である。ヘマトクリット(セル対プラズマからなる血液試料の容量の百分率)は個人毎に変わる。そのような測定でのヘマトクリットの干渉の影響はきわめて複雑である。しかし、実施例1の試験では、全ての試料が同一のヘマトクリットのレベルを含んでいた。異なったグルコースレベルでの可変のヘマトクリットの影響がない場合は、相関関係の数字ではヘマトクリットの項は相殺される。
【0041】
実施例2:毛細管血液試料の交流と直流との組み合わせ測定
実施例2で行われた測定も図3A〜Bに示す一般的に300で示した試験片を用いて達成された。上記のように、試験片300は、参照のため本書に含めてある、米国特許第5997817号明細書に記述されている、比較的厚いフィルム試薬および作用電極および対極を含む毛細管充填スペースを含んでいる。
【0042】
測定では、種々の指ステイックのドナーから得た毛細管血液試料を試験片300に適用し、図4に示した励起電位を電極に印加した。励起は2kHzの40mVrms交流信号を試料適用後0秒から約4.5秒までのあいだに印加し、次いでその後300mVの直流信号を印加することからなった。
【0043】
実施例2では、試料の交流応答はアドミタンス(インピーダンスの逆)として引き出された。アドミタンス応答は温度依存方法での試料のヘマトクリットレベルに比例する。アドミタンス、ヘマトクリット、および試験温度の関係を図7に示す。図7に作表したアドミタンスに用いられたデータは、図4に示した励起の交流部分のあいだに各試料に対してしされた最後のアドミタンスである。
【0044】
このデータの回帰分析はアドミタンス、ヘマトクリット、および温度を下記の式にしたがって関連付けることを可能にする。
【0045】
【数1】
【0046】
血液ヘマトクリットを予測するこの関係を用いることは、計器中のセンサーおよび測定されたアドミタンスによって報告された試験温度データを用いることによって達成される。式1中、c0、c1およびc2は定数、dTは「名目」(たとえば、24℃)として定義された中心からの温度のずれ、そしてHestは同様の「名目」値からのヘマトクリットの予想されたずれである。現在の目的には、実際のヘマトクリット値は必要ではなく、そして比例しているが、しかし名目ヘマトクリットの周りに中心を持った応答を作り出すことが一般的に好ましい。こうして、70%ヘマトクリットに対しては、42%の名目値からのずれは28%となるが、逆に20%ヘマトクリットに対してはその同一の名目値からのずれは22%となるであろう。
【0047】
式1を用いてヘマトクリットレベルを推定するために交流アドミタンス測定を用いることによって、推定ヘマトクリット、温度および直流応答を組み合わせて下記のように直流応答でのヘマトクリット干渉を補正することによって、直流グルコース応答の正確さを大きく向上させることができる。
【0048】
【数2】
ここで、DCは印加された直流信号に対する測定されたグルコース電流応答であり、PREDはヘマトクリットと温度の効果に対する補正された、補償された(予測された)グルコース応答である。式2の定数(a0,hct1,hct2,tau1,tau2,a1,hct3,hct4,tau3およびtau4)は、先行技術において知られているように、回帰分析を用いて決定することが出来る。
【0049】
図8は温度が変化する際の(交流測定データを無視した)毛細管血管試料のすべての非補償型の5.5秒直流グルコース応答を示す。理解されるように、温度とヘマトクリットとが変化するに連れて直流の応答に広範な変化がある。図9は試料の実際の血液グルコースレベル対予測された応答の相関関係を式2を用いて示す。理解できるように、直流応答が交流応答のデータを用いてヘマトクリットレベルに対して補償されるときは、0.9404から0.9605までのr2の値が5.5秒の合計試験時間で達成される。
【0050】
実施例3:血液グルコースレベルとヘマトクリットを予測するための交流位相角の使用
実施例3で行われた測定も図3A〜Bに示して一般的に300で示す試験片を用いて達成された。上記のように、試験片300は、参照のため本書に含めてある、米国特許第5997817号明細書に記述されている、比較的厚いフィルム試薬および作用電極および対極を含む毛細管充填スペースを含んでいる。毛細管血液試料からのヘマトクリットレベルは30〜50%のあいだでのみ変わるので、20〜70%の範囲のヘマトクリット範囲を持ったスパイクした静脈血をこの実施例3のために用いた。5つのレベルのグルコース、温度(14、21、27、36および42℃)およびヘマトクリット(20、30、45,60および70%)を独立して変化させて、125の試料で共分散調査をした。
【0051】
測定では、血液試料を試験片300に適用し、図10に示した励起電位を電極に印加した。励起は2kHzの交流信号を約4.1秒、1kHzの交流信号を約0.1秒、および200Hzの信号を約0.1秒からなった。3つの交流信号のすべては56.56mVピークの増幅度を持っていた。この実施例には直流の励起は用いなかった。合計試験時間は試料適用時から4.3秒であった。
【0052】
交流応答のもう一つの構成成分、位相角(この実施例3では200Hzのような、特に低い周波数)もまた、この試験片および試薬の場合の試料グルコースレベルの関数である。この関係については、図11に示してあるが、そこでは3つの試験周波数の各々に対する交流位相角対参照グルコースレベルがプロットされている。3つの周波数の各々に対する回帰分析は2kHzで0.9114、1kHzで0.9354、そして200Hzで0.9635の交流位相角対参照グルコースレベルr2相関関係値を生成する。それゆえ、本発明はグルコースレベルを測定するために交流位相角を用いることを理解する。測定された位相角を生成する交流励起周波数は好ましくは2kHzまたはそれ以下、一層好ましくは1kHzまたはそれ以下、そして最も好ましくは200Hzまたはそれ以下であるが、直流励起は含まない。
【0053】
200Hz位相角応答と血液グルコースレベルとのあいだの線形化された関係は下記の通りである。
【0054】
【数3】
ここでPeffが、グルコースと比例する有効位相、用語Γおよびγは定数であり、Фは測定された交流位相角である。
【0055】
上記の実施例1で用いた温度およびヘマトクリットを補償することと同一の手法を用いて(式1および2を参照)下記のように予測アルゴリズムを生成した。
【0056】
【数4】
【0057】
得られた補償された(予測された)応答PRED対125の血液試料(各々は8つの試験片で試験された)を図12に示す。すべての温度とすべてのヘマトクリットが結合された、PRED応答対既知のグルコースレベルのr2相関関係は0.9870である。この実施例3は血液グルコース測定の精度を減少させる干渉物を補償するための交流測定の値も再度示している。現存する市販のセンサーを用いて、本発明は0.9870の全体r2で4.3秒の合計試験時間を得る。
【0058】
交流位相角測定が温度変化の影響を殆ど受けないヘマトクリットレベルを生成することができることも決定した。125の試料についての他の共分散調査(5つのグルコース濃度、5つのヘマトクリット濃度および5つの温度)では、20kHz、10kHz、2kHz、1kHz、および直流の励起プロフィルを用いて試料の各々を試験した。種々の周波数での交流位相角を直線回帰を用いてグルコース、ヘマトクリットおよび温度に関係付けて、4つの交流周波数の各々で下記の式の係数を決定した。
【0059】
【数5】
ここでGluが既知のグルコース濃度であり、HCTは既知のヘマトクリット濃度であり、そして温度は既知の温度である。
【0060】
決定された係数は、20kHzおよび10kHzでは、これらの周波数では式から温度を削除して、温度係数(c3)は本質的にゼロであることを表した。さらに、グルコース濃度(c1)は交流周波数の全てで本質的にゼロである。なぜならば、上記で説明したように、高い周波数の交流インピーダンス測定はグルコースレベルによって大きく影響されないので、干渉物のレベルを測定するために有用であるからである。それゆえ、ヘマトクリットレベルは温度およびグルコースレベルとは関係なく、交流位相角測定のみを用いて決定することができることが判った。好ましい実施形態では、ヘマトクリットは4つ全ての測定された周波数からの位相角データを用いて測定することが出来る。
【0061】
【数6】
【0062】
当業者は、係数はどのような特定の試験片構造に対しても、また試薬化学物質に対しても、経験的に決定できることを認めるであろう。それゆえ、本発明は、測定を、交流位相角測定だけを用いて、少なくとも一つの交流周波数で、より好ましくは少なくとも2つの交流周波数で、そして最も好ましくは少なくとも4つの交流周波数で、ヘマトクリットを推定するように用いることができる。
【0063】
実施例4:ニトロソアニリン試薬を用いた交流と直流との組み合わせ測定
実施例4で行われた測定は図3A〜Bに示す一般的に300で示した試験片を用いて達成された。上記のように、試験片300は、参照のため本書に含めてある米国特許第5997817号明細書の比較的厚いフィルム試薬および作用電極および対極を含む毛細管充填スペースを含んでいる。しかし、試験片は、異なった試薬を用いたため、米国特許第5997817号明細書に記述したものからは変更された。使用したニトロソアニリンは表3および表4に記載した組成を有していた。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
この実施例4のためのグルコース・バイオセンサーの製造方法は、試薬の製造以外は全ての点で米国特許第5997817号明細書に開示されたものと同一である。好ましい実施形態のニトロソアニリン試薬の製造のプロトコルは下記の通りである。
【0067】
工程1:1.54gのリン酸水素2カリウム(無水)を43.5gの脱イオン水に加えることによって緩衝溶液を調製する。リン酸カリウムが溶解するまで混合する。
【0068】
工程2:工程1から得た溶液に1.14gのリン酸2水素カリウムを加えて溶解するまで混合する。
【0069】
工程3:工程2から得た溶液に0.59gの琥珀酸2ナトリウム(6水酸化)を加えて溶解するまで混合する。
【0070】
工程4:工程3から得た溶液のpHが6.7+/−0.1であることを確かめる。調整は必要ない。
【0071】
工程5:工程4から得た溶液の5gの部分標本を作成し、これに113キロユニット(DCIPアッセイによる)のキノプロテイン・グルコース・デヒドロギナーゼのアポエンザイムを加える(EC#:1.1.99.17)。これは約0.1646gである。たんぱく質が溶解するまでゆっくり混合する。
【0072】
工程6:工程5から得た溶液に、4.2ミリグラムのPQQを加えて、2時間以上混合し、機能性酵素を提供するためにPQQとアポエンザイムとが再連結できるようにする。
【0073】
工程7:工程4から得た溶液に、0.66gのメデイエーターである前駆物質である、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)−3−メトキシ−4−ニトロソアニリン(塩化水素)(BM31.1144)を加える。溶解するまで混合する(この溶液は緑がかった黒い色になる)。
【0074】
工程8:工程7から得た溶液のpHを測定して、pHを目標である7.0+/−0.1まで調整する。通常、これは1.197gの5N水酸化カリウムで達成される。特定量の水酸化カリウムは所望のpHに達するのに必要に応じて変わるので、一般に1.197gからの質量のずれを、これもこの工程で加えられる3.309gの部分標本の脱イオン水から調整する。
【0075】
工程9:ローターの刃が露出せず、また溶液が溢れ出ないような、十分な深さの容器中で、約600rpmの速度で(ロータリー・ミキサーおよびブレード・インペラーを用いて)混合された、44.57gの脱イオン水の上に、0.047gをゆっくり散布することによって、ナトロソル250M(アクアロンから発売)の溶液を調製する。ナトロソルが完全に溶解するまで混合する。
【0076】
工程10:工程9から得た溶液の表面上に0.54gのアビセルRC−591P(FMSから発売)をゆっくりと散布し、先に進む前に60分以上、約600rpmの速度で混合し懸濁液を調製する。
【0077】
工程11:工程10から得たけん濁液に、0.81gの300kDaの平均分子量の酸化ポリエチレンを混合しながら徐々に加えて、先に進む前に60分以上混合を続ける。
【0078】
工程12:工程11から得たけん濁液に、工程8から得た溶液をゆっくりと、混合しながら加える。混合速度を400rpmに落とす。
【0079】
工程13:工程12から得た試薬に、1.89gのトレハロースを加えて15分以上混合を続ける。
【0080】
工程14:工程13から得た試薬に、32.7mgのトリトンX−100(ロッシュ・ディアグノスティクスから発売)を加えて、混合を続ける。
【0081】
工程15:工程14から得た試薬に、工程6から得た酵素溶液を加える。30分以上混合する。この時点で試薬は完成する。室温で、湿った試薬質量は24時間使用が受容できると考えられる。
【0082】
スパイクした静脈血を用いた。5つのレベルのグルコース、4つの温度(19、23、32および38℃)および5つのレベルのヘマトクリット(20、30、45、60および70%)を独立に変化させて、100試料での共分散調査を作成した。グルコース、温度、およびヘマトクリットの各々の独特の組み合わせに対して16の試験片300を試験した。血液試料を試験片300に適用し、そして図13に示した励起電位を電極に印加した。励起は3.2kHz交流信号を約4.0秒、2.13kHz交流信号を約0.1秒、1.07kHz交流信号を約0.1秒、200Hz交流信号を約0.1秒、25Hzの交流信号を約0.1秒、次いで550mVの直流信号を約1.0秒から成っている。4つの信号全ては56.56mVピークの増幅度を持っていた。合計試験時間は試料適用時間から5.5秒であった。
【0083】
この実施例4では、試料の交流応答はアドミタンス(インピーダンスの逆)として引き出された。アドミタンス応答は温度依存の方法で試料のヘマトクリットレベルに比例する。アドミタンス、ヘマトクリット、および試験温度の関係を図14に示す。実施例2の試験片構造と比較すると、グルコースに対する温度とヘマトクリットの直角度はこの実施例4ではあまり強くなかった、それゆえ相互積の項(TxHCT)を図14で用いたアドミタンス回帰式に加えた。図14で作表したアドミタンス用に用いたデータは図13に示した励起の3.2kHzの交流部分のあいだに各試料に対してなされた最後のアドミタンス測定である。
【0084】
このデータの回帰分析は、アドミタンス、ヘマトクリット、および温度が下記の式にしたがって関係付けられるようにする。
【0085】
【数7】
【0086】
3.2kHzで行ったアドミタンス測定はこの試験システムに対するヘマクリットと最も良く相関関係付けられていると決定された。この関係を用いて血液へマクリットを予測することは、計器中の温度センサーによって報告された試験温度データおよび測定されたアドミタンスを用いて達成される。式7では、c0、c1、c2、およびc3は定数であり、dTは「名目」(たとえば、24℃)と定義された、温度の中央からのずれであり、そしてHestはヘマトクリットの同様の「名目」値からの予測されたずれである。現在の目的には、実際のヘマトクリット値は必要でなく、比例的ではあるが名目のヘマトクリットの周りに集中する応答を生成するのが一般に好ましい。それゆえ、70%のヘマトクリットに対しては、42%の名目値からのずれ28%となるが、これは逆には20%のヘマトクリットに対しては同名目値からのずれは−22%となる。
【0087】
式7を用いてヘマトクリットレベルを予測する交流アドミタンス測定を用いることによって、直流グルコース応答の精度も、推定されたヘマトクリット、温度および直流応答を組み合わせて下記のように(上記の式2と同一)直流応答のヘマトクリット干渉を補正することによって、大幅に向上させることが出来る。
【0088】
【数8】
【0089】
式8の定数は、先行技術において知られているように、回帰分析を用いて決定することが出来る。
【0090】
図15は、ヘマトクリットと温度とが変化するときの(交流測定データを無視して)全ての血液試料の無補正の5.5秒の第2直流グルコース応答を示す。理解されるように、温度とヘマトクリットとが変化するに連れて直流応答に大幅の変化が起こる。図16は試料の実際の血液グルコースレベル対予測された応答の相関関係を図8を用いて示す。理解できるように、交流応答データを用いて直流応答がヘマトクリットレベルに対して補償されたときは、5.5秒の合計試験時間で0.9818の全体r2値が達成される。これは、実施例1〜3で用いられたよりも異なった試薬クラスで高い精度と速い試験時間とを達成する際に、本発明の適用可能性があることを証明するものである。
【0091】
実施例5:0.397μlの試料を用いた交流と直流とを組み合わせた測定
本発明の測定方法は他の試験片の設計でも同様に有用であることが判った。図17A〜Bに示した、一般的に1700で示す試験片の設計を用いて、実施例5を行った。図17Aについて述べると、試験片1700は、50nmの導電性の(金)層を(たとえば、スパッタリングまたは真空蒸着によって)被覆した350μm厚のポリエステル(好ましい実施形態では、これはデュポン社から発売されているメリネックス329である)の半透明片から形成された底部の箔層1702から成っている。次に電極と接続トレースとを、示したように、レーザー切除工法により導電性の層に型付けし、作用電極、対極および用量充足電極(以下に一層詳細に記述する)を形成する。レーザー切除加工はクロム石英マスクを通過するエキシマレーザーによって行われる。マスクパターンはフィールドの他の部品が通過できるようにして、レーザー・フィールドの部品を反射させて、レーザー光線によって接触された表面から排出された金の上にパターンを作り出す。
【0092】
バイオセンサーのための電極を作成する際のレーザー切除技術の使用例は米国特許出願一連番号09/866030、「連続カバーレイ・チャンネルを持ったレーザー切除電極を持ったバイオセンサー」、2001年5月25日出願、および米国特許出願一連番号09/411940、「パターン化されたラミネートおよび電極のためのレーザー規定の特徴」と題され、1999年10月4日出願に記述されている。両開示は参照により本書に取り入れてある。
【0093】
底部の箔層1702は次に、電極上に伸びている領域内に、きわめて薄い試薬フィルムの形状の試薬層1704を被覆する。この方法は、図17に「試薬層」と標識される範囲に底部の箔層1702を横切る幅約7.2ミリメートルの」細片を置くものである。本実施例では、この領域は、20μm未満の厚さの乾燥試薬を残して、1平方メートルにつき50グラムの湿被覆重量で被覆される。試薬ストライプは従来インライン乾燥システムで乾燥されるが、そこでは名目空気温度は110℃である。加工速度は一分当り名目で30〜38メートルであって、試薬のレオロジーに依存する。
【0094】
材料は、底部の箔層1702の場合は、電極パターンがリールの長さと直交するように、連続したリールで加工される。一度底部の箔層1702が試薬で被覆されると、スペーサーが細く切られてオープンリール式への工程に載せられ、底部の箔層1702上に置かれる。背部および腹部の両方の表面に25μmのPSA(疎水性の接着剤)を被覆した100μmポリエステル(好ましい実施形態では、これはデュポン社から発売されているメリネックス329である)から形成された二つのスペーサー1706が、スペーサー1706が1.5mm間隔をおいて、また作用電極、対極および用量充足電極がこの隙間内に中心に置かれるように、底部の箔層1702に適用される。腹部の表面に親水性のフィルムを被覆した100μmのポリエステルから形成された頂部の箔層1708(米国特許第5997817号明細書に記載された工程を用いて)をスペーサー1706上に載せた。好ましい実施形態では、親水性のフィルムにはヴィテルとロダペックスの界面活性剤を10ミクロンの名目厚さで被覆する。頂部の箔層1708はオープンリール式の工程を用いて積層した。次にセンサーは得られた材料のリールから細断および切断によって製造された。
【0095】
それゆえ、スペーサー1706の1.5mmの隙間は底部の箔層1702と頂部の箔層1708とのあいだの毛細管充填空間を形成する。スペーサー1706上の疎水性の接着剤は、試験試料がスペーサー1706の下の試薬へ流れ込むことを防止して、これによって試験室の容量を規定する。試験片1700は5mm幅で、スペーサー1706と導電性層との組合せた高さは0.15mmであるから、試料受け入れ室の容量は次のとおりである。
【0096】
【数9】
【0097】
図17Bに示したように、試料適用口1710および用量充足電極からの距離は1.765mmである。作用電極、対極および用量充足電極を十分カバーするために必要とする試料の容量(即ち、測定に必要な最小試料容量)は次のとおりである。
【0098】
【数10】
【0099】
試験片1700の試薬組成を表5および表6に示す。
【0100】
【表5】
【0101】
【表6】
【0102】
好ましい実施形態のニトロソアニリン試薬の調製のプロトコルは下記の通りである。
【0103】
工程1:1.654gのリン酸水素2カリウム(三水和)を31.394gの脱イオン水に加えることによって緩衝溶液を作成する。リン酸カリウムが溶解するまで混合する。
【0104】
工程2:工程1から得た溶液に0.941gのリン酸2水素カリウムを加えて溶解するまで混合する。
【0105】
工程3:工程2から得た溶液に0.285gの琥珀酸2ナトリウム(6水酸化)を加えて溶解するまで混合する。
【0106】
工程4:工程3から得た溶液のpHが6.8+/−0.1であることを確かめる。調整は必要ない。
【0107】
工程5:工程4から得た溶液の4.68gの部分標本を作成し、これに229キロユニット(DCIPアッセイによる)の「キノプロテイン・グルコース・デヒドロギナーゼのアポエンザイムを加える(EC#:1.1.99.17)。これは約0.3321gである。たんぱく質が溶解するまでゆっくり混合する。
【0108】
工程6:工程5から得た溶液に、9.3ミリグラムのPQQを加えて、2時間以上混合し、機能性酵素を提供するためにPQQとアポエンザイムとが再連結できるようにする。
【0109】
工程7:0.772gのトレハロースを1.218gの脱イオン水に溶解することによって溶液を作成する。
【0110】
工程8:酵素の再連結の後、工程7から得た溶液を工程6からの溶液に加えて、30分以上混合を続ける。
【0111】
工程9:工程4から得た溶液に、0.690gのメデイエーターである前駆物質BM31.1144を加える。溶解するまで混合する(この溶液は緑がかった黒い色になる)。
【0112】
工程10:工程9から得た溶液のpHを測定して、pHを目標である7.0+/−0.1まで調整する。通常、これは1.006gの5N水酸化カリウムで達成される。特定量の水酸化カリウムは所望のpHに達するのに必要に応じて変わるので、一般に1.006gからの質量のずれを、この工程で加えられる、3.767gの部分標本の脱イオン水から調整する。
【0113】
工程11:ローターの刃が露出せず、また溶液が溢れ出ないような、十分な深さの容器中で、約600rpmの速度で(ロータリー・ミキサーおよびブレード・インペラーを用いて)混合された、56.191gの脱イオン水の上に、0.350gをゆっくり散布することによって、ナトロソル250M(アクアロンから発売)の溶液を調製する。ナトロソルが溶解するにつれて、混合速度を1.2〜1.4krpmに上げる必要がある。ナトロソルが完全に溶解するまで混合する。得られたマトリックスはきわめて粘性が高く、これは期待される。
【0114】
工程12:工程11から得た溶液に、0.350gのカルボキシメチルセルロース7HF(アクアロンから発売)を徐々に加える。ポリマーが溶解するまで混合する。
【0115】
工程13:工程13から得たけん濁液に、1.01gの300kDa平均分子量の酸化ポリエチレンを混合しながら徐々に加えて、先に進む前に60分以上混合を続ける。
【0116】
工程14:工程13から得たけん濁液に、工程10から得た溶液を混合しながらゆっくりと加える。
【0117】
工程15:工程14から得た試薬に、34.2mgのトリトンX−100(ロッシュ・ディアグノスティクスから発売)を加えて、混合を続ける。
【0118】
工程16:工程15から得た試薬に、工程8から得た酵素溶液を加える。30分以上混合する。この時点で試薬は完成する。室温で、湿試薬質量は24時間使用が受容できると考えられる。
【0119】
図18に示した測定結果は温度とヘマトクリットとの3つの組み合わせに対する読み取り時間が変化する際の直流電流の応答とグルコース・レベルとの相関係数r2を示す。これらの結果は試験に対して1秒という速さで健全な直流の応答が予想出来るはずであることを示している。しかし、当業者は、温度とヘマトクリットレベルとの干渉の影響のためにセンサーの精度(相関関係)に望ましくない変化があることを認め、本発明の組み合わせた交流と直流との測定法は一層緊密に相関関係のある結果を生成すると示唆する。
【0120】
図18で得られた有望な結果に基づいて、試験片1700に印加された図19の励起信号を用いてさらなる試験を設計した。励起は約1.8秒印加した10kHzの交流信号と、約0.2秒印加した20kHzの交流信号と、約0.2秒印加した1Hzの交流信号と、約0.5秒印加した直流信号とからなった。交流信号は12.7mVの増幅度を持っていたのに対し、直流信号は550mVの増幅度を持っていた。合計試験時間は3.0秒であった。
【0121】
5つのグルコースレベル(40,120,200,400,600)、5つのヘマトクリットレベル(20,30,45,60,70%)および5つの温度(12,18,24,32,44℃)を表すスパイクされた静脈血試料を用いた共分散調査を設計し、125の分離した組み合わせになった。以前の実施例でのように、アドミタンス、温度およびヘマトクリットの関係を調べてプロットした(図20は20kHzでのアドミタンス対温度が変化するときのヘマトクリットを示す)、そしてアドミタンスは温度依存の方法でヘマトクリットに直線的に関係していることが確認された。しかし、追加の発見は、交流応答の位相角は温度とは独立した方法でヘマトクリットと相関関係になっていることであった。20kHz交流応答の位相角を図21のヘマトクリットに対してプロットした。10kHzで測定した位相角に対する結果は同様であった。それゆえ、血液試料のヘマトクリットは次の位相角情報のみを用いて確実に推定することができる。
【0122】
【数11】
【0123】
この実施例5で用いた試験片に対しては、位相角とヘマトクリットとの相関関係は高い周波数で良好であった。このため、c2定数はゼロに近づき、またHestは10kHzと20kHzのデータのみを用いて確実に予測することが出来る。しかし、低い周波数を使用すると、Hest関数の小片から小片への変化性を僅かに向上させることが出来る。それゆえ、本発明は、好ましくは少なくとも一つの交流周波数で、一層好ましくは少なくとも二つの交流周波数で、そして最も好ましくは少なくとも4つの交流周波数でなされた交流位相角測定だけを用いてヘマトクリットを推定するように用いることが出来る。
【0124】
ヘマトクリットは交流応答データだけを用いて測定することが出来るため、また我々は図20からアドミタンスはヘマトクリットと温度とに直線的に関係していることを知っているから、今では下記のように交流応答だけを用いて分析されている試料の温度を測定することが出来る。
【0125】
【数12】
ここで、b0、b1、b2およびb3は定数である。交流応答データからのヘマトクリットと温度との推定は、より多いかまたはより少ない周波数測定でしても良く、またこの実施例に選ばれたものよりも異なった周波数でも良い。最も健全な結果を生むような特定の周波数は試験片の形状および寸法によって決定される。それゆえ、本発明は、好ましくは少なくとも一つの交流周波数で、一層好ましくは少なくとも二つの交流周波数でそして最も好ましくは少なくとも4つの交流周波数でなされた交流応答測定だけを用いて試験試料温度を推定するように用いることが出来る。
【0126】
当業者は、(交流応答によって)試験されている試料の温度の直接測定をすることは試料の温度を推定するための先行技術の方法よりも大幅な改良であることを認めるであろう。典型的には、試験片が計器に挿入される所の近辺の試験計にサーミスタを配置する。サーミスタは実際の試料から離れた所の温度を測定しているために、それは真の試料温度のおおよその予測であるに過ぎない。さらに、もし(たとえば、蒸発によって)試料の温度が変化しているならば、試験計の温度慣性、そしてサーミスタ自体も、計器に取り付けされたサーミスタが試験されている試料の真の温度を正確に反映することを妨げるであろう。対照的に、本発明の温度推定は試験されている試料の中で(即ち、試験されている試料が試薬と反応する反応範囲の中で)行われる測定から引き出されるので、測定場所から離れている試料によって出されるエラーを除去する。加えて、本発明の温度推定は温度推定を用いて補正されるグルコース測定データに時間的に非常に近く収集されたデータを用いてされるため、さらに正確さが向上する。このことは先行技術の方法よりも大きく改善されていることを表す。
【0127】
血液グルコース測定の干渉物の影響を補正するこの実施例5の方法の有効性の証明として、非補償型の直流応答対既知のグルコース濃度を、グルコース、温度およびヘマトクリットの125の組み合わせ全てに対して図22にプロットした(このデータをプロットする際、交流測定は無視した)。当業者によって認められるように、このデータはヘマトクリットと温度とに関して膨大な変化を表している。
【0128】
前に論じたように、直流グルコース応答の正確さは、下記のように推定ヘマクリット、温度、および直流応答を組み合わせて直流応答でのヘマトクリットと温度の干渉を補正することによって大きく改善出来る。
【0129】
【数13】
【0130】
式13の定数は当業において知られているように回帰分析を用いて測定することができる。それゆえ、本発明は交流位相角応答を用いることによってヘマトクリットを推定することが出来るようにする(式11)。推定されたヘマトクリットと測定された交流アドミタンスとを用いて推定温度を決定することが出来る(式12)。最後に、推定ヘマトクリットと推定温度とを測定された直流応答で用いて予測されたグルコース濃度を得ることが出来る(式13)。
【0131】
上記の方法論を図22にプロットした試験データに適用して、我々は図23に示した予測グルコース対直流応答を得る。このデータは20〜70%に亘るヘマトクリットレベルと12℃〜44℃に亘る温度とを持った125の共分散サンプルを表す。このような干渉レベルの広い変化をもってしても、本発明の測定方法は3.0秒の合計試験時間を使用して、0.9874の全体r2相関関係を生成した。
【0132】
実施例6:0.397μl試料を用いた交流と直流との同時測定
合計試験時間を減少するために、直流実施例5に対して上に記したものと同じ試験片1700と試薬とを用いて、図24に示した励起プロフィルを利用した。実施例5に関して上述したように、20kHzと10kHzでの位相角はヘマトクリット推定と最も緊密に相関関係となっていることが決定された。それゆえ、合計試験時間を減少するために実施例6では励起の交流部分をこれら2つの周波数に制限するように決定された。合計試験時間をさらに減少するために、10kHzの交流励起を直流信号と同時に印加した(即ち、直流をオフセットした交流信号)、この理論は、この組み合わせモードは直流電流、交流位相および交流アドミタンスに対して同時の結果の収集ができるようにし、可能な最も速い結果を与えることを可能にするものである。それゆえ、20kHzの信号が0.9秒間印加された。その後、0.1秒の間隔の後、10kHzと直流信号とが1.0秒同時に印加された。
【0133】
この実施例6に対しては、7つのグルコースレベルと7つのヘマトクリットレベルを表す49のスパイクした静脈血試料が試験された。直流電流と血液ヘマトクリットとのあいだの相関係数r2を次に3つの直流測定時間で試験した。即ち、試料適用後1.1秒、1.5秒、および1.9秒である。これらの相関関係は図25にヘマトクリットレベルに対してプロットした。これらの結果の全ては比較できるが、相関関係は一般的に1.1秒で最も悪く、1.5秒で一般に最良であった。しかし、最小の相関係数は0.99を超える。
【0134】
図26はヘマトクリットレベルに対してプロットした20kHzでの位相角を示す。これらの2組のデータのあいだの相関関係は大変良く、それゆえヘマトクリットを推定するためには10kHzデータは不要であると決定された。それゆえ、ヘマトクリットは20kHz位相角から単独で下記のように推定することができる。
【0135】
【数14】
【0136】
図27は読み取り時間が1.1秒、1.5秒、および1.9秒のあいだで変化したときの全ての測定されたヘマトクリットレベルに対する直流電流応答対グルコースレベルを示す。驚くほどではなく、1.1秒での直流電流が1.5秒での直流電流よりも大きく、それは1.9秒での直流電流よりも大きい。当業者は、ヘマトクリットレベルは特に高いグルコース濃度において、直流電流に大きな影響を持っていることを認めるであろう。
【0137】
上記で考察したように、直流グルコース応答の正確さはヘマトクリットによって起こされる干渉を次のように補償することによって大きく向上させることができる。
【0138】
【数15】
【0139】
式15は温度補償項を含んでいないことに注目すべきである。これは、温度変化はこの実施例6の試験には含まれなかったので、試験項はHest項と組み合わせて10kHzと20kHzのアドミタンス値を用いて含めることが出来たことを前の実施例から合理的に推測出来るからである。ヘマトクリットは20kHz位相角測定データだけを用いて確実に推定することが出来るから、ヘマトクリット補償された予測されたグルコース応答は、この位相角情報と測定された直流応答とだけを用いて決定することが出来る。補償された直流応答対1.1秒で読み取られた(1.1秒の合計試験時間を表す)直流のみに対するグルコースレベルを図28に示す。このデータは1.1秒の合計試験時間で0.9947の全体r2相関関係を示す。
【0140】
1.5秒の直流読み取りに対するものと同一のデータが、1.5秒の合計試験時間に対する0.9932の全体r2相関関係を示して図29に示されている。1.9秒の直流読み取りに対するものと同一のデータが、1.9秒の合計試験時間に対する0.9922の全体r2相関関係を示して図30に示されている。驚くべきことに、r2相関関係はより長い試験時間で実際にわずかに減少した。これに関わらず、3つ全ての補償されたデータセットに対する相関係数は、20%から60%までに亘る全部で7つのヘマトクリットが組み合わされた場合、0.99を超え、これは、グルコース測定試験を行うためにセンサーが0.4マイクロリットル未満の血液を必要とする場合に、向上した正確さとともに、1.1秒もの速い血液グルコース試験を生じる本発明の適用可能性を証明している。
【0141】
実施例7:誤用されたセンサーを検知する交流位相角の使用
特に試験システムが非専門的な最終使用者によって使用される場合には、特別措置の品質管理を分析物測定工程に設けるために、投与を誤った(二重投与など)、以前に使用された、または劣化酵素を有する(湿気の多すぎる環境に保存されていたため、古すぎるなど)のセンサー(試験片)を検出することが望ましい。これらの状態は総称して「誤用されたセンサー」と呼ばれる。誤用されたセンサーが試験計に挿入された場合、分析物測定工程を中止するような試験を考案する(または試験結果は正確ではないと少なくとも使用者に警告する)ことが望まれる。
【0142】
血液グルコース分析を行う場合には、試験計は、血液試料が試薬化学物質と反応を続ける際に典型的にいくつかの連続的な電流測定をする。当業において良く知られているように、この応答電流はコットレル電流として知られており、反応が進むに連れてそれは衰退の形を辿る。我々はコットレルフェイルセーフ率(CFR)を次のように定義する。
【0143】
信頼システムでのバイオセンサーのコットレル応答は次の式によって得られる:
【数16】
ここで、n=グルコース分子当り自由化された電子
F=ファラデイの定数
A=作用電極の表面積
t=励起の適用時から経過した時間
D=分散係数
C=グルコース濃度
α=共因子依存定数
【0144】
この式のパラメータの全ては、グルコース濃度と時間以外は、通常センサーに対する定数である。それゆえ、我々は規格化されたコットレルフェイルセーフ率(NCFR)を、次のように定義する。
【0145】
【数17】
【0146】
この式の時間項は知られており、またセンサー測定のための定数であるので、比率は常に同一の試料時間と間隔とを持ったコットレル曲線に対する定数を生じる。それゆえ、センサー電流の合計を最後のセンサー電流で割った値はグルコース濃度から独立した定数を生じるはずである。この関係を好ましい実施形態で用いて潜在的に欠陥のあるバイオセンサーの応答を検知する。
【0147】
センサー測定中に得た電流の全てを合計することによって、センサーのコットレル応答をチェックする、電流合計フェイルセーフを考案することができる。最終的な電流が取得されると、それに二つの定数(それは製造時に計器内に取り付けてあるか、より好ましくは、別のコードキー、またはセンサー自体にコードされた情報などによって、各ロットのセンサーと共に計器に供給される)を乗じる。これらの定数は許容可能なNCFR値に対する上限および下限のしきい値を表す。
【0148】
最終電流を乗じた定数の二つの積はバイオセンサー電流の合計と比較される。電流の合計は二つの積のあいだに該当すべきであり、これによって上記の比率がプラスまたはマイナス許容値で満たされたことを示す。
【0149】
それゆえ、好ましい実施形態は、単一の直流ブロックがある場合、次のチェックを行う。
【0150】
【数18】
ここで、Cu=コードキーからの上位の定数
C1=コードキーから下位の定数
Im=最終バイオセンサー電流
【0151】
いくつかの実施形態は測定順序の中に二つの直流ブロックを含むことがあるために、修正されたコットレルフェイルセーフ率(MCFR)を次のように公式化することができる。
【0152】
【数19】
ここで、w1、w2=重量測定定数(たとえば、コードキーからの)
NCFR1,NCFR2=直流ブロック1と2それぞれのための規格化されたコットレルフェイルセーフ率
【0153】
それゆえ、好ましい実施形態は、二つの直流ブロックがある場合、次のチェックを行う。
【0154】
【数20】
ここで、Cu=コードキーからの上限定数
CL=コード・キーからの下限定数
Im1,Im2=直流ブロック1と2との最終バイオセンサー電流
【0155】
NCFR(およびMCFR)はヘマトクリットと相関関係がある。上に実施例3で示したように、交流位相角もまたヘマトクリットと相関関係がある。したがって、交流位相角とNCFRとは互いに相関関係にあることになる。この関係はセンサーが誤用されていない場合に限って成立する。相関関係は誤用されたセンサーに対しては低下する。
【0156】
それゆえ、誤用センサーが使用されているかどうかを示すFAILSAFE計算を生成するための、測定位相角(ラジアン)データを分析する式を設計することが可能になる。好ましい実施形態では、寄生的抵抗などによって起こされたエラーに対して一層健全な試験を行うために二つの別の周波数で測定した位相角(ラジアン)間の差異を用いることが選択された。逆正接関数を適用して二つの母集団を異なった漸近線へ動かすようにすると、次のFAILSAFE式を生成する。
【0157】
【数21】
ここで1000=スケーリング因子
NCFR=コットレル・フェイルセーフ率
fs0=直線回帰インターセプト
fs1=直線回帰スロープ
Φ10kHz=10kHzでの位相角(ラジアン)
Φ20kHz=20kHzでの位相角(ラジアン)
【0158】
式21を用いて、ゼロを超えるFAILSAFE値は非誤用のセンサーを示すのに対し、ゼロ未満のFAILSAFE値は誤用されたセンサーを示すように、インターセプト項Fs0を選択することが出来る。当業者は、異なったインターセプトを選ぶことによって反対の結果を得ることが出来ることを認めるであろう。
【0159】
用量充足電極の使用
上記したように、正確な試料測定は試料による測定電極の適切な被覆を必要とすることが認められた。先行技術では試料容量の不十分さを検知するために種々の方法が用いられてきた。たとえば、インデイアナ州、インデイアナポリスのロッシュ・ディアグノスティクス・コーポレーションによって販売されたアキュチェック(Accu-Check、登録商標)アドヴァンテージ(Advantage、登録商標)グルコース試験計は、もし単一対の測定電極によって非コトレリアン電流減衰が検出された場合、試料容量の不充分さの可能性があることを使用者に警告した。使用者は定められた割り当て時間以内に試験片を再投与するように促された。
【0160】
近年、極度に少量の試料容量のみの要求を通して苦痛を最小にするように設計された血液穿刺装置に関して用いられた毛細管充填装置の使用のために、不十分な試料サイズがある可能性が強調されてきた。もし不充分な量の試料が毛細管充填空間内に引き込まれれば、測定電極が適切にカバーされず、測定の正確さが損なわれる可能性がある。不十分な試料に関連した問題を克服するためには、測定電極から下流に追加の電極を配置する、または作用電極の下流に副素子を、上流に主素子を持った単一の対極を配置する、または測定電極から上流と下流との両方に配置した指示器電極(作用電極および対極を超えて試料の流れの進行を、または下流で離れての試料の到着をそれぞれ追認可能にする)などの、種々の先行技術の解決法が提案されて来た。これらの解決法の各々と関連した問題は、それらは上流または駆る湯の指示電極と連通する、一方または他方の測定電極対を組み入れて、偏向した試験結果を回避するために充分な容量の試料の存在を査定する。
【0161】
これらの先行技術の設計解決法にも関わらず、装置が試料充足の誤解釈をする傾向がある故障モードが存続する。本発明は、そのような誤った結論は、主として不均一な流頭の分岐性と結びついた、測定電極対(共平面または対抗形状)の下流の部材と投与検出電極とのあいだの距離に関係していると結論した。異常な(不均一な)流頭を持った毛細管充填スペースを横断する試料は測定電極と指示電極とのあいだの回路を閉じて、システムに偏光した測定結果を避けるように十分な試料が存在すると誤って知らせることがある。
【0162】
試験片毛細管充填スペースの組成および/または製作に用いられた多くの要素はそのような不規則な流頭の動作に影響を与える。これらの要素は次の事項を含む。
【0163】
・毛細管充填スペースを形成する異なる壁の表面エネルギーのあいだの不等性。
・試験片製造設備での材料または製品の汚れ。
・毛細管充填スペースの壁を形成する単一の要素からの汚染物質の意図しない導入(その一例はリリースライナーが使用されている製造工程に一般的な剥離剤(典型的にはシリコン)。
・積層工程で使用された接着剤(または汚染された接着剤)の疎水性の性質。
・毛細管充填スペースの壁の不等な表面の粗さ。
・寸法アスペクト比率。
・毛細管充填スペース内の汚染されたメッシュ材料。
・毛細管充填スペース内のメッシュ材料に対する界面活性剤の不均質な適用。
【0164】
本発明によって決定された先行技術の用量充足方法論のもう一つの問題は、上流または下流の投与検出電極と電気的に連通している利用可能な一つまたは他の測定電極の使用に関する。このような構成において、測定範囲(測定電極の上またはあいだの面積)の化学量論は測定範囲内にある関心のある分析物の測定をする以前の投与検出/用量充足試験サイクルのあいだに乱される。試料のマトリックスが仕様の点で極端に変わるに連れて、これらの試料の充填性も変化して、試料の型のあいだにタイミング差を生じる。そのような誤ったタイミングルーチンは不精度および拡大した全体のシステムエラー・メトリックスの追加の原因として作用する。
【0165】
これらの障害の一つまたはそれ以上を解決しようとすると、典型的には、1)一層複雑な製造工程(各々が追加の汚染の性質をもたらす追加の工程)、2)追加の原材料の品質管理工程、3)疎水性と親水性の樹脂の混合物を有する積層複合材などの一層高コストの原材料、および否定的に衝撃を与える製造コスト、および4)労働集約型のメッシュおよび/または毛細管壁の界面活性剤の被覆へと帰着する。
【0166】
実施例8:毛細管充填スペース内の流体の流頭動作の決定
毛細管充填スペースを用いた試験片に用量充足を適切に示すような電極システムを設計するために、試料が毛細管充填スペースを通過するときの試料の先端での流頭の形状を調べるために実験を行った。二枚の透明なポリカーボネートのシートを両面接着性のテープで貼り合わせたものからなる試験用具を用いた。そこでは両面テープのチャンネルを切断することによって毛細管充填スペースを形成した。ポリカーボネートの上部および下部シートの使用によって、試料の流頭が毛細管充填スペースを通って流れるときにそれがビデオテープ録画されるようにした。
【0167】
具体的には、試験装置はレーザーカットされた1mmの厚さのレクサン(登録商標)ポリカーボネートシート(イギリス国、ウエスリー、スインドン エスエヌ5 7イーエックスのキャデラック・プラスティックス・リミテッド(Cadillac Plastics Ltds.)から入手した)ものを用いて積層した。上部および底部のポリカーボネート・シートは両面接着テープ(#200MP高性能アクリル性接着剤、ミネソタ州、セントポールのスリーエム コーポレーションから入手)を用いて張り合わせた。毛細管チャンネルは両面テープを所要の幅の開口部になるようにレーザー切断することによって規定した。0.05μm,0.125μm,0.225μmの厚さのテープを用いて所要のチャンネル高さを得た。試験装置の毛細管スペースの寸法は図31に表示した。
【0168】
上部および下部のポリカーボネートの部品を、再現可能な製作を確保するために特注された治具を用いてレーザー切断した接着テープで積層した。各々の試験装置に対して、上部ポリカーボネート・シート内に予めカットされた開口部と接着テープ要素とによって毛細管チャンネルへの入り口を定める流体受け入れ範囲を形成した。3つのチャンネルの高さの各々に対して、0.5mm,1.00mm,1.5mm,2.00mm,3.00mm,および4.00mmのチャンネル幅を作成した。全ての装置に対する毛細管チャンネルの長さは50mmであった。18の装置形式の各々を28構築した。組み立てられた装置は、ドイツ連邦共和国、ドルトムントのワイドマン プラスティックス テクノロジー(Weidman Plastics Technology)によってプラズマ処理された。下記のプラズマ処理条件を用いた。
【0169】
プロセッサ:マイクロウエーブ・プラズマ・プロセッサ400
超短波電力:600W
ガス:O2
圧力:0.39ミリバール
ガス流:150ml/分
時間:10分
前処理時の表面エネルギー:<38mN/m
後処理時の表面エネルギー:72mN/m
プラズマ処理された装置を使用していないときは2〜8℃で保存した。装置は使用には最低1時間室温に均衡させた。
【0170】
試験装置の各々に45%のヘマトクリット値を持った一定量の静脈血を投与した。流れおよび流頭の動作を、後日の分析のためにビデオテープに取り込んだ。毛細管充填チャンネルの相対的寸法が流頭の動作を決定付けると決定された。図31の破線の左の装置(装置A2,A4,B2,B4,B5,C2,C4,C5)は凸型の流頭動作になったが、破線の右の装置(装置A6,A8,A11,B6,B8,B11,C6,C8,C11)は凹型の流頭動作を表した。凹凸両方の流頭の動作を図31に模式的に示す。このデータは、毛細管充填スペースの高さと幅とのアスペクト比が、試料の流頭が凸であるか凹であるかを決定する要素であることを示している。
【0171】
用量充足電極の使用、続き
毛細管充填スペースの凹型の流頭に関連する問題を図32A〜Cに示す。図面の各々において、試験片は作用電極3200、参照電極3202、および測定電極3200または3202の一つと関連して作用する下流用量充足電極3204を含んでいる。上に論じた測定電極の一つに関連して用量充足電極3204の使用と関連した測定範囲の化学量論の問題に加えて、図32A〜Cは凹型を表している試料流頭もまた、偏向した測定結果を起こすことを示している。各図において、試料の動きの方向は矢印で示した。図32Aにおいて、毛細管壁に隣接した試料の部分は用量充足電極3204に達していて、これによって、この電極と、用量充足測定をするために試験計によってモニターされている測定電極対の一つとのあいだの直流回路を電気的に完成させている。試験計は、このとき測定を行うのに十分な試料があると結論するけれども、試料は明らかにやっとのことで参照電極3202に到達したのであって、このとき得られた測定結果は大きく偏向することになるであろう。
【0172】
同様に、図32Bも用量充足電極3204が接触させられた(測定が始まったことを示して)状態を示すが、しかし参照電極3202は部分的にのみ試料によってカバーされているだけである。このとき試料は参照電極3202に到達したけれども、参照電極3202は試料によって完全にカバーされたのではない。それゆえ、このとき得られた測定結果は部分的に偏向しているであろう。それゆえ、図32A〜Bに示した状況は両方とも用量充足に対して偽陽性を示すことになり、これによって測定試験結果を偏向するのである。参照電極3202が試料によって完全にカバーされている図32Cに示した状況の場合のみが測定範囲の毛細管充填の程度のために偏向が無いであろう。
【0173】
本発明は用量充足決定をするとき測定電極の一つと用量充足電極とを対にする先行技術に関連した化学量論の問題を解決する。図33に示したように、本発明は測定電極から下流に位置した用量充足電極の独立した対を持った試験片を認識する。試験片は一般に3300として示され、そして対極3302と作用電極3304からなる測定電極対を含む。電極は当業において知られ、そして上段に記述したように多層の試験片の構成で適当な基板の上に形成されてよい。試験片の多層の形状は、これもまた当業において知られているように毛細管充填スペース3306の形成をもたらす。毛細管充填スペース3306の中に、そして測定電極3302および3304から(試料の流れの方向に関係して)下流に、用量充足作用電極3308と用量充足対極3310とが形成されて、一緒になって用量充足電極対を形成する。
【0174】
試験片3300が試験計に挿入されると、試験計はいつ試料が毛細管充填スペースの範囲へ移動したのかを決定するために用量充足電極3308と3310とのあいだの導電通路を継続的にチェックする。一度試料がこのレベルに達すると、試験計は、測定電極が試料で覆われ、そして試料測定のシーケンスが始まったことを結論付けるようにプログラムされる。先行技術の設計で必要とされたのとは異なって、図33の試験片の設計を用いて用量充足試験をしているあいだに測定電極3302と3304との何れにも電圧も電流を印加することを要しないことが判るであろう。それゆえ、測定範囲にある関心のある分析物の測定をする前に用量充足試験サイクルのあいだ、測定範囲の化学量論は乱されない。このことは先行技術の用量充足試験方法に対し、著しい改善を示すものである。
【0175】
図34Aに示したように、毛細管充填スペース3306を充填しているあいだに凸状の流頭を表す試料を生成するように毛細管充填スペースが設計されているときは、用量充足を判断するためには試験片3300もまた望ましい。図示されているように、測定電極3302および3304の上の測定範囲は凸状の流頭が用量充足電極対3308、3310に達すると試料で覆われる。しかし、試験片のデザイン3300は、もし毛細管充填スペース3306が、試料が充填されているあいだに凹型の流頭を表すことを許容するならば、図34Bに示すように、理想的な結果を出す。図示されているように、凹型の流頭の周縁の端部は測定範囲が完全に試料で覆われる前に用量充足電極対3308、3310に達する。直流または低周波励起(下段でより詳細に説明する)で、用量充足電極対3308、3310はそれらが両者とも流頭の端部によって接触されると直ちに試料充足を示す。それゆえ、図33の試験片に示された用量充足電極のデザインは毛細管スペース3306を充填している試料が凸状の流頭を表すときに最も良く作用する。
【0176】
用量充足電極3308、3310は毛細管充填スペース3306内のそれらの最長軸を毛細管充填スペース3306の長軸に対して垂直に向けさせていることが理解されるであろう。そのような電極は本書では「垂直用量充足電極」と言う。択一的な用量充足電極の配置を図35A〜Bに示す。図35Aに示すように、本発明はまた、測定電極から下流に位置した用量充足電極の独立した対を持った試験片を包括するが、そこでは用量充足電極は毛細管充填スペース内のそれらの最長の軸を細管充填スペースの長軸と平行に向けさせている。そのような電極は本書では「平行用量充足電極」と言う。図35の試験片は一般に3500として示され、そして対抗電極3502と作用電極3504とからなる測定電極対を含む。電極は当業において知られており、また上述したように、適当な基板の上に多層試験片の攻勢で形成されればよい。試験片の多層形状は、これもまた当業において知られているように、毛細管充填スペース3506の形成を提供する。毛細管充填スペース3506の中に、そして測定電極3502と3504から(試料の流れの方向に関して)下流方向に、用量充足作用電極3508と用量充足対抗電極3510とが形成され、共に平行用量充足電極対を形成している。
【0177】
試験片3500が試験計に挿入されると、試験計は、何時試料が毛細管充填スペースのこの範囲へ移動したのかを決定するために用量充足作用電極3508と3510とのあいだの導電通路を継続的にチェックする。一度試料がこのレベルに到達すると、試験計は、測定電極が試料で覆われたので試料測定シーケンスを開始してよいと結論するようにプログラムされる。試験片3300でのように(そして先行技術の設計で要求されたものとは異なって)、図35の試験片のデザインを用いた用量充足試験のあいだに測定電極3502と3504の何れかに電圧または電流を印加する必要はないことが判るであろう。それゆえ、測定範囲にある関心のある分析物の測定をする以前の用量充足試験サイクル中には測定範囲の化学量論は乱されない。これは先行技術の用量充足試験方法論よりも著しい改善を表している。
【0178】
用量充足電極が比較的高い周波数の交流励起信号で活性化された場合には試験片3500の平行用量充足電極で一層改善された作動が実現される。用量充足励起信号として比較的高い周波数の交流信号が用いられた場合は、用量充足電極3508,3510は著しいエッジ効果を表すが、そこでは空隙に沿った電極エッジが試料流体で覆われたときに限って励起信号が電極間の空隙を越える。試験片3500を拡大したサイズで図36に示す(毛細管充填スペース3506内にある電極部分を、小片から計器の電極パッドが可視である)。一対の用量充足電極3508,3510の一つが交流信号で励起されると、信号の大多数は一つの電極の上平坦面から他の電極の上平坦面へと言うよりは寧ろ一つの電極エッジから他の電極のエッジへ移動する(エッジが試料で覆われている場合)。これらのエッジからエッジへの電気通信経路は電界ライン3602として模式的に図36に示される。
【0179】
より高い交流周波数は用量充足電極からの最良のエッジ・オンリーの感度を生成する。好ましい実施形態では、10kHzの9mVms(+/−12.7mV頂点間)励起信号を用いて用量充足電極の一つを励起した。用量充足電極3508,3510のエッジ間のギャップ幅GWは好ましくは100〜300μm、より好ましくは150〜260μm、最も好ましくは255μmである。より小さいギャップ幅GWは、そのエッジが少なくとも部分的に試料で覆われている用量充足電極のあいだに伝送される信号の量を増大させる。しかし、信号伝送経路のキャパシタンスは減少するギャップ幅と共に増大する。
【0180】
図35および36図の平行用量充足電極のデザインの利点は、交流励起で用いた場合、試料が少なくとも電極間隙に沿ったエッジの一部をカバーするまで電極間に実質的に電気通信がないことである。それゆえ、図35Aの凹型流頭を表している試料は、例示された試料が用量充足電極3508,3510の両方に接触してはいるが間隙に沿った電極のエッジには接触していない場合には、用量充足電極のあいだにはなんら顕著な電気通信を生成しないのである。それゆえ、試験計は試料が実際に間隙に沿った電極のエッジのあいだの用量充足電極を架橋するまで用量充足の結論を出さない。このことは、凹型流頭の最後部が用量充足電極3508,3510へ到達後のみに初めて起こるので、その時点で試料は測定電極上の測定範囲を完全にカバーしたのである。図35Bに見られるように、凸状の試料流頭は流頭が用量充足電極に到達すると直ちに用量充足電極3508,3510を活性化する(その時点で試料は測定電極上の測定範囲を完全にカバーしたのである。)。
【0181】
図35および図36に示した平衡容量充足電極についてのもう一つの利点は、電極間に伝送された信号の量が試料によってカバーされている空隙の量に比例することである。それゆえ、試験計に適当なしきい値を使用することによって、試料が容量充足電極の間隙エッジの所定の部分をカバーするまで用量充足の結論を保留することが出来る。その上、用量充足信号の分析をすれば、所望ならば、試験計によってなされた各測定に対して毛細管充填スペースの充填の百分率を試験計に記録させることも出来る。
【0182】
電極形状自体は特に凸型の流頭の場合に適当な試料を検出することにおいて以前の実施形態に勝る利点を明示しているが、試料の検出に対して交流応答の使用で直流応答に勝るさらなる改善が達成されることが見いだされた。直流応答はたとえば、温度、ヘマトクリットおよび分析物(たとえば、グルコース)の変化に対して敏感であるという問題を持っている。十分高い周波数での交流応答は分析物の濃度の変化に対して強くすることが出来る。さらに、そのような毛細管充填装置での十分高い周波数で発生させた交流応答は主として試料によって満たされる電極エッジ間の平行なの間隙の量によって制限される。それゆえ、凸型の流頭に対しては、流頭のトローフが試料充足電極の平行のエッジ内へ実際に侵入するまで僅かまたは無の交流応答(この場合はアドミタンス)が感知される。さらに、しきい値のキャリブレーション(ないしは、較正)によって、センサーは、試験の開始前に充填されるべき平行の空隙をより多く要求して、アドミタンスに対するより高いしきい値をもって、有利と見做されるように、多少なりとも敏感にすることが出来る。
【0183】
現存の装置のさらなる制限は、センサーの毛細管スペースを充填するために必要とされる時間の量を見分けるための電極形状の無能力である。この制限は用量充足電極と測定電極との相互依存関係を持つことによって起こされている。これは独立した用量充足電極のさらなる利点である。好ましい実施形態では、信号は投与に先立って先ず測定電極を横切って印加される。応答が見られると、直ちに電位がスイッチオフされて、第2の信号が用量充足電極を横切って印加され、その時間のあいだ、システムは信号に対する応答を監視し(電極カバレッジを示し)、また第1の事象(いつ測定電極で応答が見られたか)と第2の事象(いつ用量充足電極で応答が見られたか)とのあいだの時間をマークする。非常に長い間隔で誤った結果が出る場合には、その中で受容できる結果が得られるような、そしてその外側ではフェイルセーフがトリガーされるような、しきい値を設定して応答を防止するか、または最低限使用者に潜在的な不正確さについて警告することが可能である。投与時と許容できると考えられる十分な試料の検出時とのあいだのタイムラグの大きさは特定のセンサーのデザインおよび化学物質に依存する。択一的には、何時、試料が最初にセンサーにかけられたのかを検出するために、独立した1対の用量検出電極(図示せず)を測定電極から上流に追加すればよい。
【0184】
上記の事象の何れかまたは両方の検出のために直流信号を用いることも出来るが、好ましい実施形態は十分に高い周波数での交流信号を用いて、測定電極での電気化学的応答を不必要に乱すことを避け、また流頭の不規則性に関して健全な検出を与えるようにする。
【0185】
全ての刊行物、先行出願、および本書中に引用したその他の書類は、各々が参照のため個々に取り入れて完全に示されるように、その全体を参照のためここに取り入れた。
【0186】
発明は図面および前記の記述に詳細に例示しそして記述したが、記述事項は例示的と考えられるべきであって、性格上限定的でない。好ましい実施形態だけを、また好ましい実施形態を作りまたは使用する方法をさらに説明する上に役立つと見做される一定の他の実施形態を示した。本発明の精神の範囲内に入る全ての変更および修正が保護されることを望むものである。
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は2003年6月20日出願の米国仮出願番号60/480298の利益を主張する。本願の内容は本書中の参照によりここに取り入れてある。
[技術分野]
本発明は流体中の分析物の濃度を測定するのに用いるための測定方法および装置に関する。詳細には本発明は、独占的ではないが、血液中のグルコースの濃度を測定するために用いられる方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の濃度、特に他の混在する物質の存在下での濃度を測定することは、多くの分野、特に医学診断の分野で、重要である。たとえば、血液などの体液中のグルコースの測定は糖尿病の効果的な治療には欠かせない。
【0003】
糖尿病の治療は典型的には二つの型のインシュリン治療、即ち基礎的なものと、食事時のものとを含む。基礎的なインシュリンとは、連続的な、たとえば、一定時間毎に放出されるインシュリンで、就寝前に取られることが多いものを言う。食事時のインシュリン療法は、砂糖および炭水化物の新陳代謝を含む種々の要因によって起こされる血液グルコースの変動を調節するためにより即効性の高いインシュリンを追加投与するものである。血液グルコースの変動を正しく調節するためには血液中のグルコースの濃度を正確に測定することを必要とする。そうしないと、盲目および四肢の循環の喪失を含む、極度の合併症を併発することがあり、究極的にはそのために糖尿病患者が自分の指、手、足などを使う能力を奪われるようになることがある。
【0004】
たとえば、グルコースなどの、血液試料中の分析物の濃度を測定するための多数の方法が知られている。そのような方法は典型的には光学的な方法と電気化学的な方法との二つのカテゴリの一つに入る。光学的な方法は、一般に、試薬中のスペクトルの動きを観察するための反射率または吸収率分光学を含む。そのような動きは分析物の濃度を示す変色を生成する化学反応によって起される。電気化学的な方法は一般に二者択一的に、分析物の濃度を示すアンペア計または電量計の応答を含む。たとえば、それらの全体をここに取り入れてある、コロンブス(Columbus)の特許文献1、ペース(Pace)の特許文献2、コロンブス(Columbus)の特許文献3、マグリ(Muggli)の特許文献4、リルジャ(Lilja)らの特許文献5、スズミンスキー(Szuminsky)らの特許文献6、ナンカイ(Nnkai)らの特許文献7、スズミンスキー(Szuminsky)らの特許文献8、ホワイト(White)の特許文献9、ディーボルド(Diebold)らの特許文献10、ポールマン(Pollmann)らの特許文献11、カーター(Carter)らの特許文献12、ヒル(Hill)らの特許文献13、ヒル(Hill)らの特許文献14、クリスモア(Crismore)らの特許文献15、フジワラ(Fujiwara)らの特許文献16、プリーデル(Priedel)らの特許文献17、およびシー(Shieh)の特許文献18を参照。
【0005】
血中の化学薬品の濃度を測定する電気化学的方法の重要な制限事項は、分析物の分散および試薬の種々の活性成分の交絡変数の影響である。たとえば、血液試料の形状および状態は、その上に信号対濃度のマッピング機能が基くものに厳密に相当するものでなければならない。
【0006】
血液試料の形状は試験装置の試料受け入れ部分によって典型的に制御される。たとえば、血液グルコース計の場合には、血液試料は典型的に計器内に挿入される使い捨ての試験片に載せられる。試験片は試料の形状を定める試料室(毛細管充填空間)を持つことができる。或いは、試料形状の効果は効果的に無限の試料のサイズを確かめることによって制限されることが出来る。たとえば、分析物を測定するために用いられる電極は試験片の血液滴が実質的に全方向に電極を越えて延びるように十分間隔を詰めておく。しかし、試料によって測定電極の妥当な補償範囲を確保することは、正確な試験結果を達成する上で重要な要素である。このことは、過去には、特に毛細管充填空間の使用について問題となる事項であった。
【0007】
血液グルコースの測定の正確さに対する制限の他の例としては、血液の組成または状態の変動(測定されている対象物以外のもの)が含まれる。たとえば、ヘマトクリット(赤血球の濃度)の変動,または血液中の他の化学物質の濃度の変動も、血液試料の信号生成に影響を及ぼすことがある。血液試料の温度の変化もまた血液化学の測定上の交絡変数の別の例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4233029号明細書
【特許文献2】米国特許第4225410号明細書
【特許文献3】米国特許第4323536号明細書
【特許文献4】米国特許第4008448号明細書
【特許文献5】米国特許第4654197号明細書
【特許文献6】米国特許第5108564号明細書
【特許文献7】米国特許第5120420号明細書
【特許文献8】米国特許第5128015号明細書
【特許文献9】米国特許第5243516号明細書
【特許文献10】米国特許第5437999号明細書
【特許文献11】米国特許第5288636号明細書
【特許文献12】米国特許第5628890号明細書
【特許文献13】米国特許第5682884号明細書
【特許文献14】米国特許第5727548号明細書
【特許文献15】米国特許第5997817号明細書
【特許文献16】米国特許第6004441号明細書
【特許文献17】米国特許第4919770号明細書
【特許文献18】米国特許第6054039号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それゆえ、温度、ヘマトクリット、および血液中の他の化学物質の濃度の変動を含む交絡変数の存在下であっても、血液グルコースを正確に測定するシステムおよび方法が必要とされた。また、試料による測定電極の、特に毛細管充填装置の、妥当な補償範囲を確保するシステムおよび方法も必要とされている。同様に、流体中の分析物を正確に測定するシステムおよび方法も必要とされている。本発明の目的は、そのようなシステムおよび方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つの実施形態では、a)センサーに対して交流成分を持った信号を適用し、b)信号に対する交流応答を測定し、そしてc)センサーが誤用されているかどうかを決定する交流応答を用いる工程からなる、生物学的流体の医学的に有用な成分の濃度を測定するようにした、誤用されたセンサーを検知する方法が示される。
【0011】
本発明のもう一つの実施形態では、a)生物学的流体試料をセンサー上に載せ、b)生物学的流体に第1信号を適用し、c)第1信号に対する電流応答を測定し、d)工程c)を少なくとも1回繰り返し、e)電流応答データを用いて規格化されたコットレル・フェイルセーフ率を計算し、f)交流の成分を持った第2信号を生物学的流体に適用し、g)第2信号に対する交流応答を測定し、そして規格化されたコットレル・フェイルセーフ率と交流応答とを組合わせてセンサーが誤用されたかどうかの指示を作り出す工程からなる、センサー上に載せられた生物学的流体の医学的に有用な構成要素の濃度を測定するための誤用されたセンサーを検知する方法が開示される。
【0012】
本発明のさらにもう一つの実施形態では、a)生物学的流体試料をセンサー上に載せ、b)生物学的流体に第1信号を適用し、c)第1信号に対する電流応答を測定し、d)工程c)を少なくとも1回繰り返し、e)電流応答データを合計し、f)電流応答データから最後の電流応答を同定し、g)第1の所定の定数を最後の電流応答と組合わせることによって低い方のしきい値を決定し、h)第2の所定の定数を最後の電流応答と組合わせることによって高い方のしきい値を決定し、そしてもし合計された電流応答データが低い方のしきい値よりも低いか、または高い方のしきい値よりも高い場合はセンサーが誤用されたと決定する工程からなる、センサー上に載せられた生物学的流体の医学的に有用な成分の濃度を測定するための誤用されたセンサーを検知する方法が開示される。
【0013】
本発明のまた別の実施形態では、a)交流成分を持った第1試験信号を試験試料に適用し、b)第1試験信号に対する第1位相角応答を測定し、c)交流成分を持った第2試験信号を試験試料に適用し、d)第2試験信号に対する第2位相角応答を測定し、そしてe)第1位相角応答、第2位相角応答および既定のコットレル・フェイルセーフ率に基づいて不良状態値を決定する工程からなる血液グルコースの濃度試験での誤用センサーを示す不良状態を決定する方法が開示される。
【0014】
本発明を添付の図面を参照して、実施例のみによって、さらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるシステムおよび方法において用いるのに適した、直列に適用された交流構成要素および直流構成要素を持った、第1実施形態の励起信号の図である。
【図2】本発明によるシステムおよび方法において用いるのに適した、同時に適用された交流構成要素および直流構成要素を持った、第2実施形態の励起信号の図である。
【図3】本発明の第1実施形態の試験片を図示する。
【図4】実施例1の試験に利用された励起信号の図である。
【図5】相関係数r2(グルコース対直流)対潜伏期無しの実施例1の試験のための読取時間の図である。
【図6】相関係数r2(グルコース対直流)対変動潜伏期の実施例1の試験のための読取時間の図である。
【図7】交流容認対実施例2の試験のためのヘマトクリットの図である。
【図8】無補正の直流対実施例2の試験のためのグルコースの図である。
【図9】予測されたグルコース応答対実施例2の試験のための実際のグルコース応答の図である。
【図10】実施例3の試験に利用された励起信号の図である。
【図11】交流位相角対実施例3の試験のための参照グルコースの図である。
【図12】予測されたグルコース応答対実施例3の試験のための実際のグルコース応答の図である。
【図13】実施例4の試験で利用された励起信号の図である。
【図14】交流容認対実施例4の試験のためのヘマトクリット(温度でパラメータ的に表示したもの)の図である。
【図15】無補正の直流応答対実施例4の試験のための実際のグルコースの図である。
【図16】予測されたグルコース応答対実施例4の試験のための実際のグルコース応答の図である。
【図17A】本発明の第2実施形態の試験片を示す。
【図17B】本発明の第2実施形態の試験片を示す。
【図18】実施例5の試験での温度とヘマトクリットとの3つの組合わせに対する、読取時間が変化するに連れて直流応答とグルコースレベルとのあいだに生じる相関係数r2をパラメータ的に示す図である。
【図19】実施例5の試験に利用された励起信号の図である。
【図20】実施例5の試験において温度がパラメータ的に変化するに連れて生じる交流容認対ヘマトクリットの図である。
【図21】実施例5の試験において温度がパラメータ的に変化するに連れて生じる交流容認位相角対ヘマトクリットの図である。
【図22】無補正の直流応答対実施例5の試験のための実際のグルコースの図である。
【図23】予測されたグルコース応答対実施例5の試験のための実際のグルコース応答の図である。
【図24】実施例6の試験に利用された励起信号の図である。
【図25】実施例6の試験でのヘマトクリットに対して策定したヘマトクリットと直流応答電流との相関係数r2の図である。
【図26】交流容認位相角対実施例6の試験のためのヘマトクリットとの図である。
【図27】無補正の直流応答対実施例6の試験のための実際のグルコースの図である。
【図28】補正された直流応答対実施例6の1.1秒合計試験時間の実際のグルコースの図である。
【図29】補正された直流応答対実施例6の1.5秒合計試験時間の実際のグルコースの図である。
【図30】補正された直流応答対実施例6の1.9秒合計試験時間の実際のグルコースの図である。
【図31】実施例8の試験装置において使用された毛細管充填チャンネルの高さおよび幅を詳述した表、並びに毛細管充填スペースの凸および凹の試料流の先頭の模式図である。
【図32A】凹型の流の先頭が先行技術の用量充足電極に遭遇する場合の斜行測定結果の電位を示す試験片の模式平面図である。
【図32B】凹型の流の先頭が先行技術の用量充足電極に遭遇する場合の斜行測定結果の電位を示す試験片の模式平面図である。
【図32C】凹型の流の先頭が先行技術の用量充足電極に遭遇する場合の斜行測定結果の電位を示す試験片の模式平面図である。
【図33】測定電極から独立した一対の垂直用量充足電極を持った本発明の試験片の模式平面図である。
【図34A】それぞれ凸および凹の流の先頭を持った試料を含む図33の試験片の模式平面図である。
【図34B】それぞれ凸および凹の流の先頭を持った試料を含む図33の試験片の模式平面図である。
【図35A】測定電極から独立した一対の並列の用量充足電極を持った本発明の試験片の模式平面図である。
【図35B】測定電極から独立した一対の並列の用量充足電極を持った本発明の試験片の模式平面図である。
【図36】電極が試料で覆われている時の電極ギャップのあいだを通信する電界線を模式的に示す図35の試験片の模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の原理の理解を促進するために、図面に示した実施形態を参照し、そしてその実施形態を説明するために特別の言語を用いる。それにも関らず、発明の範囲を限定することは意図されていないことが理解されるであろう。発明に関する当業者にとって通常生じるような、図示した装置の変更および改変、および発明の原理のさらなる適用は保護されることが望まれる。特に、発明は血液グルコース計について論じてはあるが、発明は他の分析物および他の形式の試料を測定する装置についても使用可能なことが考えられている。そのような択一的な実施形態は、当業者にとって自明な本書で考察された実施形態に対して一定の応用を要する。
【0017】
「電気化学的なバイオセンサーに関する装置および方法」と題する米国仮出願(一連番号60/480243、2003年6月20日提出)および「分析物センサーに関する装置および方法」と題する米国仮出願(一連番号60/480397、2003年6月20日提出)の全開示事項は、それらの全体を参照によってここに取り入れてある。
【0018】
本発明によるシステムおよび方法は流体中の分析物の正確な測定が可能にする。特に、エラーを生じるような干渉物の存在にも関わらず、分析物の測定が正確な状態に留まる。たとえば、本発明による血液グルコース計は、試料の温度およびヘマトクリットレベルの変動によって典型的に生じるエラー無しに血液グルコースの濃度を測定する。血液グルコースの正確な測定は、盲目、循環の喪失、その他糖尿病での血液グルコースの不適当な調整というような不都合の防止にとって高い価値がある。本発明によるシステムおよび方法の追加の利点は、測定が一層迅速に、そして一層少量の試料容量で可能なため、糖尿病の人が自分の血液グルコースを測定することが一層便利になることである。同様に、血液、尿、または他の生物学的流体中の分析物の正確で迅速な測定は広い範囲の医学的状態に対して改善された診断および治療を提供する。
【0019】
電気化学的血液グルコース計は典型的には(しかし始終ではなく)試薬の存在下で血液試料の電気化学的応答を測定することが理解される。この試薬はグルコースと反応してそうでなければ血液中に存在しない電荷キャリアを生成する。その結果、所定の信号の存在下での血液の電気化学的応答は主として血液グルコースの濃度に依存することが意図される。第2に、しかし、所定の信号に対する血液の電気化学的応答はヘマトクリットおよび温度を含む他の要素に依存する。たとえば、血液グルコースの測定についてのヘマトクリットの交絡影響を論じ、またそれらの全体を参照によりここに取り入れてある、米国特許第5243516号明細書、米国特許第5288636号明細書、米国特許第5352351号明細書、米国特許第5385846号明細書および米国特許第5508171号明細書を参照されたい。さらに、ある他の化学物質は、たとえば、尿酸、ビリルビン、および酸素を含む血液試料を通して電荷キャリアの転移に影響を与え、これによってグルコースの測定にエラーを起こすことがある。
【0020】
本発明による血液グルコースを測定する好ましい実施形態のシステムおよび方法は、血液試料の(そこから受容および位相角が引き出されることがある)インピーダンスに対する種々の要素の貢献からの信号依存性を用いることによって一般的に作用する。血液試料のインピーダンスに対する種々の要素の貢献は、適用される信号の関数であるから、交絡要素の影響(即ち、測定が求められる要素以外のもの)は多重信号に対する血液試料のインピーダンスを測定することによって大きく減少させることが出来る。グルコースに依存する反応も主としてキャパシタンスに貢献するが、特に、交絡要素の影響(主として温度とヘマトクリットとであるが、酸素のような化学的干渉物も含む)が、主として試料の抵抗性に貢献する。それゆえ、交絡要素は血液試料の交流励起に対するインピーダンスを、単独でまたは直流励起と組合わせて、測定することによって、除去することが出来る。そこで交流信号のインピーダンス(またはアドミタンスおよび位相情報から派生したインピーダンス)を用いて干渉物の影響に対する直流信号または交流派生キャパシタンスを補正する。
【0021】
十分に高い交流周波数での測定は試料のインピーダンスの容量分に対して比較的不感性であるが、低周波数の(直流を含む)測定は試料のインピーダンスの抵抗と容量の両成分に対して(周波数は低くなって)感度が次第に高くなる。インピーダンスの抵抗および容量の成分はより多数の周波数でインピーダンスを測定することによってより良く隔離することが出来る。しかし、計器のコストと複雑さが、測定数および生成させる必要がある周波数の数が増大するにつれて増大する。それゆえ、現在好ましい実施形態では、インピーダンスは10周波数より大きい値で、しかし好ましくは2から10周波数のあいだで、最も好ましくは2から5周波数のあいだで測定する。
【0022】
本書中で使用されるとおり、「交流成分を有する信号」という語句は、幾らかの交流電位(電圧)部分を持った信号を言う。たとえば、信号は100パーセント交流電位(電圧)と直流部分無しでも良く、信号は時間によって分離された交流と直流との部分を持っても良く、または信号は直流が相殺された(交流と直流とが重なった)交流であっても良い。
【0023】
連続的な交流および直流信号での試料測定
図1は直流励起と4つの周波数の交流励起が用いられた、一般に100で示される、本発明によるシステムおよび方法での使用に適した励起信号の好ましい実施形態を示す。図1はまた、励起が適当な試薬と混合された全血液の試料に適用されたときの励起に対する典型的な応答も示している。その応答は一般に102で示されている。比較的高い周波数信号が、時間101から開始して適用される。好ましい実施形態では周波数は約10kHzから約20kHzまでのあいだであり、そして約12.4mVから約56.6mVのあいだの増幅度を持っている。図1の例では20kHzの周波数が用いられている。当業者であれば、これらの値はセル形状および特定の細胞化学などの種々のパラメータに対して最適化可能なことを理解するであろう。
【0024】
時間110では、試験片は計器に挿入されていて、グルコース計内への試験片の挿入に対するいくつかの可能な応答が示される。試験片はまた、励起信号100の開始前に(即ち、時間101より前に)も挿入され得ることが理解できる。しかし、試験片自体は小片の適性に対するコントロールとして試験されるのが有利である。それえゆえ、励起信号100が試験片の挿入より前に開始されることが望ましい。たとえば、もし試験片が事前に投与されるか、または環境湿度のためのいずれかのために試験片が湿っている場合、112で示されるような、比較的大きな漏電電流が生じ得る。もし試験片が事前投与されて大体または完全に乾燥されたならば、114で示したように、中間での漏電電流が生じ得る。試験片の挿入が、116で示したように、試験電極のあいだで予想された電荷キャリアが無いために漏洩電流が無いかまたは無視できる程度になることが理想的である。所定のしきい値水準より高い測定電流の漏洩の場合には、エラーの通知が表示されて試験が続くことを防止することが好ましい。
【0025】
一度適当な試験片が挿入されれば、使用者は時間120で示したように小片を投与する。血液試料が電極を覆っているあいだは、グルコースが試薬と反応して接触領域が最大まで増大するので、電流応答は急速に増大する。応答電流が安定した状態に達すると、その状態はこの周波数での試料のインピーダンスを表示する。一度この測定が実施され、試験計によって記録されれば、励起周波数は時間130で示したように、好ましい実施形態では約10kHzまで落ち込む。試験計によって別の測定も実施されて記録され、そして好ましい実施形態では周波数は140で示したように約2kHzまで落ち込む。第3の測定が実施され、この周波数で試験計によって記録される。第4の測定が、好ましい実施形態では150で示したように約1kHzで実施される。好ましい実施形態では、測定は規則的な間隔(たとえば、1サイクル当り10点)で行なわれる。安定した状態の応答は電流または電圧として(好ましくは大きさと相との双方で)測定されれば良く、またインピーダンスおよび/またはアドミタンスがそこから計算できることが理解される。本明細書および請求項は、択一的に交流応答電流をインピーダンスまたはアドミタンス(大きさおよび/または位相)、抵抗、導電性、電流または電荷として、また、直流応答電流を電流、電荷、抵抗または導電性と参照するが、当業者であれば、これらの指標が相互変換可能であって、どの指標が用いられているのかを説明する測定および補正計算を調節することのみが必要なことであると認めるであろう。好ましい実施形態では、試験計は電圧を一つの電極に対して適用し、そして他の電極での電流応答を測定して、交流および直流応答を得る。
【0026】
ある別の実施形態では、測定はより少ないか、またはより多い頻度で行われる。好ましくは、測定は、少なくとも二つの交流周波数で、少なくとも1次数程度を離して実施される。もし二つ以上の交流周波数が用いられるならば、最高および最低の周波数を少なくとも1次数程度離しておくことが好ましい。
【0027】
交流信号には、たとえば、正弦波、台形、三角形、正方形、およびろ過された正方形を含む、多様な波形が使用され得る。現在好ましい実施形態では、交流信号は正弦波に近い、ろ過された四角波形を持っている。この波形は方形波生成器および一つまたはそれ以上のフィルターを用いて、真正弦波よりも一層経済的に発生させることができる。
【0028】
一度、全部で4つの交流測定がされると、160で示したように、信号は好ましくは短時間にゼロ増幅度まで減少させられる。その後170で示すように直流の励起が始められる。直流励起の増幅度は、結果として得られる応答または応答の健強性を最大にするために、使用されている試薬に基づいて有利に選択される。たとえば、フェリシアナイドが2アンペア計システムで用いられている場合、直流の増幅度は好ましくは約300mVとする。もう一つの例では、ニトロソアニリン誘導体が2アンペア計システムで用いられている場合、直流の増幅度は好ましくは約500〜550mVとする。またこれに代わる方法として、もし第3の参照電極が用いられているならば、直流増幅度はフェリシアナイドに対しては好ましくは600mV(対銀/塩化銀参照電極)、またニトロソアニリン誘導体に対しては40〜100mV(対銀/塩化銀参照電極)とする。直流励起中は、測定は好ましくは100pts/秒の速度で行われる。反応が作用電極の隣の反応していないグルコースの拡散によって制限されるため、電流応答は凋落曲線を辿る。結果として得られる安定状態の増幅度(測定されたかまたは計画された)を用いて、先行技術において公知のように、試料のグルコース予測を決定する。次に、後段で一層詳細に説明するように、干渉物の影響を補償するために交流信号に対する試料のインピーダンスを用いて、血液中のグルコースの濃度により緊密に相当する補正された予測が決定される。
【0029】
本発明による方法はまた、他の分析物および他の流体の濃度を測定するためにも使用することが出来る。たとえば、本発明による方法は尿、唾液、脊髄液、などの医学的に重要な分析物の濃度を測定するためにも使用され得る。同様に、試薬を適切に選択することによって、本発明による方法を、たとえば、乳酸、ヒドロキシ酪酸などの濃度を測定するために適応させることが出来る。
【0030】
同時に印加された直流および交流信号での試料測定
適用された直流および交流成分の少なくともいくつかを同時に適用することが可能であることが理解される。図2は、一般的に200で示した、交流および直流の成分のいくつかが同時に適用されて、図1に相当するように番号をつけた、相当する事象(たとえば、信号200は時間201に開始され、そして小片は時間210に挿入されるなど)を持った、本発明によるシステムおよび方法で使用するのに適した励起信号を示している。信号100の場合でのように、信号200は約10〜20kHzの周波数と約12.4〜56.6mVの増幅度とを持っている。しかし、時間220で示されたように、小片が投与された後は、270で示されたように、直流オフセットは重複する。典型的な交流および直流応答は図2に示す。交流および直流の応答は同時に測定され、そして算術的に解析されて、インピーダンス(アドミタンスの大きさおよび位相)およびアンペア計または電量計の応答を測定するために使用される。
【0031】
本発明によって血液グルコースを測定するシステムは、有利には先行技術のシステムで用いたものと一般的に同様の、ロッシュ・ディアグノスティクスから市販されているような、また、全体がここに組み入れられる米国特許第6270637号明細書および米国特許第5989917号明細書に記載されているような、血液グルコース計と試験片とを用いる。これらの試験片は試験のために血液試料が受領されて、またそれを通じて励起信号が提供されて測定がされる、試料セルを持った装置を提供する。当業者は、これらの試験片および計器は血液中のグルコースの測定用に有利に用いられるが、本発明を実施する場合には他の装置を、他の分析物または他の生物学的流体の測定用に有利に用いられることを理解するであろう。
【0032】
上述したような、交流および直流の成分を持った信号を生成して測定する電気回路を追加することにより、そしてまた後段に一層詳細に述べるように、交流測定を用いて直流測定を補正するようにプログラムすることによって、そのような公知の計器から適当なグルコース計を適応することができる。試験片の特定の形状および化学物質が、グルコースの濃度、ヘマトクリット、および温度と、試料のインピーダンスとの関係に変化を生ぜしめる。こうして、所与の組み合わせの試験片の形状および化学物質を較正し、そして相当するアルゴリズムで計器をプログラムしなければならない。本発明はどのような順序および組み合わせの励起信号の適用をも包含する。たとえば、本発明は、可能な順列のいくつかを挙げるだけで、1)交流のみ、2)交流次いで直流、3)交流、次に直流、次に交流、4)直流次に交流、そして5)直流を補正した交流の適用を包含する。
【0033】
直流測定の干渉物の影響を補正する複素交流インピーダンス測定データの使用法を下記の一連の例によって有意に説明する。これらの例は、試験試料において分析物の濃度を測定する場合に本発明の原理がどのように正確さと試験速度との向上を促進することが出来るかを示している。下記の例は血液グルコース測定についてヘマトクリットと温度との干渉の影響を補正することに対応しているが、当業者は本発明の教示事項が血液グルコース測定および他の分析物の測定において共に干渉物の影響を補正するために同等に有用であることを認めるであろう。その上、本明細書および請求項は「ヘマトクリット値を測定する」および「温度を測定する」などの工程について述べている。ヘマトクリット値を例として用いるためには、このような記述は実際のヘマトクリット値を測定するだけでなく、ヘマトクリット補正係数対いくつかの名目的な点も含むことを意図している。換言すれば、本プロセスは試料のヘマトクリット値と等しい数には実際には決して到達しないが、その代わり試料のヘマトクリットが一定量だけ名目的な値から相違することを測定する。両者の概念は「ヘマトクリット値を測定する」というような記述によって保護されることを意図している。
【0034】
実施例1:直流のみの測定における投与反応調査
実施例1で行われた測定は図3A〜Bに示して一般的に300で示す試験片を用いて達成された。試験片300は、参照のため本書に組み入れられる、米国特許第5997817号明細書に記述されている、比較的厚い膜試薬と作用電極および対極を含む毛細管充填スペースを含んでいる。試験片300はロッシュ・ディアグノスティクス・コーポレーション(インディアナポリス、インディアナ州)からコンフォート・カーブ(登録商標)の商品名で市販されている。使用されたフェリシアン化物の試薬は表1および表2に記述された組成物を持っていた。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
測定では、血液試料を試験片300に適用し、そして図4に示した励起電位を電極に印加した。励起は2kHzの40mVrms(56.56mVピーク)交流信号を試料適用後0秒から約4.5秒までのあいだ印加し、次いでその後300mVの直流信号をかけることからなった。しかし、この実施例の計算のためには、直流の測定データだけを分析した。
【0038】
最小の直流励起時間を決定するためには、「用量応答」調査を行ったが、そこではグリコール化された(グルコースを無くした)血液を別々の部分標本に分割して、制御されたレベルのグルコースを加えて5つの異なった既知のレベルの血液試料中のグルコースを得た。それから、二つのパラメータが変化したとき、得られた直流電流のプロフィルを調べた。第1のパラメータは潜伏期の時間、あるいは試験片300に適用された血液試料の検出時と試験片300に直流電位を印加した時とのあいだの時間であった。変化させるべき第2のパラメータは読み取り時間、あるいは直流電位の印加後得られた電流の測定時までの時間であった。試験片に適用された血液試料の検出から濃度測定計算に用いた最後の測定時までの時間の長さが「合計試験時間」である。それゆえ、この調査では、「インキュベーション時間」と「読み取り時間」との合計が「合計試験時間」となる。この調査の結果を図5と図6とに示す。
【0039】
図5では、直流応答をインキュベーション時間なしで測定した(読み取り時間=合計試験時間)。図5は相関係数r2対読み取り時間をプロットしている。見られるように、相関関係は1.0秒以内に0.95を超過する。図6では、直流応答を変化するインキュベーション時間で測定した。インキュベーション時間が設けられているときは(例えインキュベーション時間が2秒という短い時間であっても)r2の値は直流電位の適用後0.5秒またはそれ以内に0.99を超えるまで上昇した。
【0040】
しかし、消費者グルコース試験装置でのそのような早い試験時間の実施に対する障害は、血液試料から試料中の血液セルの存在からの干渉レベルの血液試料への変化である。ヘマトクリット(セル対プラズマからなる血液試料の容量の百分率)は個人毎に変わる。そのような測定でのヘマトクリットの干渉の影響はきわめて複雑である。しかし、実施例1の試験では、全ての試料が同一のヘマトクリットのレベルを含んでいた。異なったグルコースレベルでの可変のヘマトクリットの影響がない場合は、相関関係の数字ではヘマトクリットの項は相殺される。
【0041】
実施例2:毛細管血液試料の交流と直流との組み合わせ測定
実施例2で行われた測定も図3A〜Bに示す一般的に300で示した試験片を用いて達成された。上記のように、試験片300は、参照のため本書に含めてある、米国特許第5997817号明細書に記述されている、比較的厚いフィルム試薬および作用電極および対極を含む毛細管充填スペースを含んでいる。
【0042】
測定では、種々の指ステイックのドナーから得た毛細管血液試料を試験片300に適用し、図4に示した励起電位を電極に印加した。励起は2kHzの40mVrms交流信号を試料適用後0秒から約4.5秒までのあいだに印加し、次いでその後300mVの直流信号を印加することからなった。
【0043】
実施例2では、試料の交流応答はアドミタンス(インピーダンスの逆)として引き出された。アドミタンス応答は温度依存方法での試料のヘマトクリットレベルに比例する。アドミタンス、ヘマトクリット、および試験温度の関係を図7に示す。図7に作表したアドミタンスに用いられたデータは、図4に示した励起の交流部分のあいだに各試料に対してしされた最後のアドミタンスである。
【0044】
このデータの回帰分析はアドミタンス、ヘマトクリット、および温度を下記の式にしたがって関連付けることを可能にする。
【0045】
【数1】
【0046】
血液ヘマトクリットを予測するこの関係を用いることは、計器中のセンサーおよび測定されたアドミタンスによって報告された試験温度データを用いることによって達成される。式1中、c0、c1およびc2は定数、dTは「名目」(たとえば、24℃)として定義された中心からの温度のずれ、そしてHestは同様の「名目」値からのヘマトクリットの予想されたずれである。現在の目的には、実際のヘマトクリット値は必要ではなく、そして比例しているが、しかし名目ヘマトクリットの周りに中心を持った応答を作り出すことが一般的に好ましい。こうして、70%ヘマトクリットに対しては、42%の名目値からのずれは28%となるが、逆に20%ヘマトクリットに対してはその同一の名目値からのずれは22%となるであろう。
【0047】
式1を用いてヘマトクリットレベルを推定するために交流アドミタンス測定を用いることによって、推定ヘマトクリット、温度および直流応答を組み合わせて下記のように直流応答でのヘマトクリット干渉を補正することによって、直流グルコース応答の正確さを大きく向上させることができる。
【0048】
【数2】
ここで、DCは印加された直流信号に対する測定されたグルコース電流応答であり、PREDはヘマトクリットと温度の効果に対する補正された、補償された(予測された)グルコース応答である。式2の定数(a0,hct1,hct2,tau1,tau2,a1,hct3,hct4,tau3およびtau4)は、先行技術において知られているように、回帰分析を用いて決定することが出来る。
【0049】
図8は温度が変化する際の(交流測定データを無視した)毛細管血管試料のすべての非補償型の5.5秒直流グルコース応答を示す。理解されるように、温度とヘマトクリットとが変化するに連れて直流の応答に広範な変化がある。図9は試料の実際の血液グルコースレベル対予測された応答の相関関係を式2を用いて示す。理解できるように、直流応答が交流応答のデータを用いてヘマトクリットレベルに対して補償されるときは、0.9404から0.9605までのr2の値が5.5秒の合計試験時間で達成される。
【0050】
実施例3:血液グルコースレベルとヘマトクリットを予測するための交流位相角の使用
実施例3で行われた測定も図3A〜Bに示して一般的に300で示す試験片を用いて達成された。上記のように、試験片300は、参照のため本書に含めてある、米国特許第5997817号明細書に記述されている、比較的厚いフィルム試薬および作用電極および対極を含む毛細管充填スペースを含んでいる。毛細管血液試料からのヘマトクリットレベルは30〜50%のあいだでのみ変わるので、20〜70%の範囲のヘマトクリット範囲を持ったスパイクした静脈血をこの実施例3のために用いた。5つのレベルのグルコース、温度(14、21、27、36および42℃)およびヘマトクリット(20、30、45,60および70%)を独立して変化させて、125の試料で共分散調査をした。
【0051】
測定では、血液試料を試験片300に適用し、図10に示した励起電位を電極に印加した。励起は2kHzの交流信号を約4.1秒、1kHzの交流信号を約0.1秒、および200Hzの信号を約0.1秒からなった。3つの交流信号のすべては56.56mVピークの増幅度を持っていた。この実施例には直流の励起は用いなかった。合計試験時間は試料適用時から4.3秒であった。
【0052】
交流応答のもう一つの構成成分、位相角(この実施例3では200Hzのような、特に低い周波数)もまた、この試験片および試薬の場合の試料グルコースレベルの関数である。この関係については、図11に示してあるが、そこでは3つの試験周波数の各々に対する交流位相角対参照グルコースレベルがプロットされている。3つの周波数の各々に対する回帰分析は2kHzで0.9114、1kHzで0.9354、そして200Hzで0.9635の交流位相角対参照グルコースレベルr2相関関係値を生成する。それゆえ、本発明はグルコースレベルを測定するために交流位相角を用いることを理解する。測定された位相角を生成する交流励起周波数は好ましくは2kHzまたはそれ以下、一層好ましくは1kHzまたはそれ以下、そして最も好ましくは200Hzまたはそれ以下であるが、直流励起は含まない。
【0053】
200Hz位相角応答と血液グルコースレベルとのあいだの線形化された関係は下記の通りである。
【0054】
【数3】
ここでPeffが、グルコースと比例する有効位相、用語Γおよびγは定数であり、Фは測定された交流位相角である。
【0055】
上記の実施例1で用いた温度およびヘマトクリットを補償することと同一の手法を用いて(式1および2を参照)下記のように予測アルゴリズムを生成した。
【0056】
【数4】
【0057】
得られた補償された(予測された)応答PRED対125の血液試料(各々は8つの試験片で試験された)を図12に示す。すべての温度とすべてのヘマトクリットが結合された、PRED応答対既知のグルコースレベルのr2相関関係は0.9870である。この実施例3は血液グルコース測定の精度を減少させる干渉物を補償するための交流測定の値も再度示している。現存する市販のセンサーを用いて、本発明は0.9870の全体r2で4.3秒の合計試験時間を得る。
【0058】
交流位相角測定が温度変化の影響を殆ど受けないヘマトクリットレベルを生成することができることも決定した。125の試料についての他の共分散調査(5つのグルコース濃度、5つのヘマトクリット濃度および5つの温度)では、20kHz、10kHz、2kHz、1kHz、および直流の励起プロフィルを用いて試料の各々を試験した。種々の周波数での交流位相角を直線回帰を用いてグルコース、ヘマトクリットおよび温度に関係付けて、4つの交流周波数の各々で下記の式の係数を決定した。
【0059】
【数5】
ここでGluが既知のグルコース濃度であり、HCTは既知のヘマトクリット濃度であり、そして温度は既知の温度である。
【0060】
決定された係数は、20kHzおよび10kHzでは、これらの周波数では式から温度を削除して、温度係数(c3)は本質的にゼロであることを表した。さらに、グルコース濃度(c1)は交流周波数の全てで本質的にゼロである。なぜならば、上記で説明したように、高い周波数の交流インピーダンス測定はグルコースレベルによって大きく影響されないので、干渉物のレベルを測定するために有用であるからである。それゆえ、ヘマトクリットレベルは温度およびグルコースレベルとは関係なく、交流位相角測定のみを用いて決定することができることが判った。好ましい実施形態では、ヘマトクリットは4つ全ての測定された周波数からの位相角データを用いて測定することが出来る。
【0061】
【数6】
【0062】
当業者は、係数はどのような特定の試験片構造に対しても、また試薬化学物質に対しても、経験的に決定できることを認めるであろう。それゆえ、本発明は、測定を、交流位相角測定だけを用いて、少なくとも一つの交流周波数で、より好ましくは少なくとも2つの交流周波数で、そして最も好ましくは少なくとも4つの交流周波数で、ヘマトクリットを推定するように用いることができる。
【0063】
実施例4:ニトロソアニリン試薬を用いた交流と直流との組み合わせ測定
実施例4で行われた測定は図3A〜Bに示す一般的に300で示した試験片を用いて達成された。上記のように、試験片300は、参照のため本書に含めてある米国特許第5997817号明細書の比較的厚いフィルム試薬および作用電極および対極を含む毛細管充填スペースを含んでいる。しかし、試験片は、異なった試薬を用いたため、米国特許第5997817号明細書に記述したものからは変更された。使用したニトロソアニリンは表3および表4に記載した組成を有していた。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
この実施例4のためのグルコース・バイオセンサーの製造方法は、試薬の製造以外は全ての点で米国特許第5997817号明細書に開示されたものと同一である。好ましい実施形態のニトロソアニリン試薬の製造のプロトコルは下記の通りである。
【0067】
工程1:1.54gのリン酸水素2カリウム(無水)を43.5gの脱イオン水に加えることによって緩衝溶液を調製する。リン酸カリウムが溶解するまで混合する。
【0068】
工程2:工程1から得た溶液に1.14gのリン酸2水素カリウムを加えて溶解するまで混合する。
【0069】
工程3:工程2から得た溶液に0.59gの琥珀酸2ナトリウム(6水酸化)を加えて溶解するまで混合する。
【0070】
工程4:工程3から得た溶液のpHが6.7+/−0.1であることを確かめる。調整は必要ない。
【0071】
工程5:工程4から得た溶液の5gの部分標本を作成し、これに113キロユニット(DCIPアッセイによる)のキノプロテイン・グルコース・デヒドロギナーゼのアポエンザイムを加える(EC#:1.1.99.17)。これは約0.1646gである。たんぱく質が溶解するまでゆっくり混合する。
【0072】
工程6:工程5から得た溶液に、4.2ミリグラムのPQQを加えて、2時間以上混合し、機能性酵素を提供するためにPQQとアポエンザイムとが再連結できるようにする。
【0073】
工程7:工程4から得た溶液に、0.66gのメデイエーターである前駆物質である、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)−3−メトキシ−4−ニトロソアニリン(塩化水素)(BM31.1144)を加える。溶解するまで混合する(この溶液は緑がかった黒い色になる)。
【0074】
工程8:工程7から得た溶液のpHを測定して、pHを目標である7.0+/−0.1まで調整する。通常、これは1.197gの5N水酸化カリウムで達成される。特定量の水酸化カリウムは所望のpHに達するのに必要に応じて変わるので、一般に1.197gからの質量のずれを、これもこの工程で加えられる3.309gの部分標本の脱イオン水から調整する。
【0075】
工程9:ローターの刃が露出せず、また溶液が溢れ出ないような、十分な深さの容器中で、約600rpmの速度で(ロータリー・ミキサーおよびブレード・インペラーを用いて)混合された、44.57gの脱イオン水の上に、0.047gをゆっくり散布することによって、ナトロソル250M(アクアロンから発売)の溶液を調製する。ナトロソルが完全に溶解するまで混合する。
【0076】
工程10:工程9から得た溶液の表面上に0.54gのアビセルRC−591P(FMSから発売)をゆっくりと散布し、先に進む前に60分以上、約600rpmの速度で混合し懸濁液を調製する。
【0077】
工程11:工程10から得たけん濁液に、0.81gの300kDaの平均分子量の酸化ポリエチレンを混合しながら徐々に加えて、先に進む前に60分以上混合を続ける。
【0078】
工程12:工程11から得たけん濁液に、工程8から得た溶液をゆっくりと、混合しながら加える。混合速度を400rpmに落とす。
【0079】
工程13:工程12から得た試薬に、1.89gのトレハロースを加えて15分以上混合を続ける。
【0080】
工程14:工程13から得た試薬に、32.7mgのトリトンX−100(ロッシュ・ディアグノスティクスから発売)を加えて、混合を続ける。
【0081】
工程15:工程14から得た試薬に、工程6から得た酵素溶液を加える。30分以上混合する。この時点で試薬は完成する。室温で、湿った試薬質量は24時間使用が受容できると考えられる。
【0082】
スパイクした静脈血を用いた。5つのレベルのグルコース、4つの温度(19、23、32および38℃)および5つのレベルのヘマトクリット(20、30、45、60および70%)を独立に変化させて、100試料での共分散調査を作成した。グルコース、温度、およびヘマトクリットの各々の独特の組み合わせに対して16の試験片300を試験した。血液試料を試験片300に適用し、そして図13に示した励起電位を電極に印加した。励起は3.2kHz交流信号を約4.0秒、2.13kHz交流信号を約0.1秒、1.07kHz交流信号を約0.1秒、200Hz交流信号を約0.1秒、25Hzの交流信号を約0.1秒、次いで550mVの直流信号を約1.0秒から成っている。4つの信号全ては56.56mVピークの増幅度を持っていた。合計試験時間は試料適用時間から5.5秒であった。
【0083】
この実施例4では、試料の交流応答はアドミタンス(インピーダンスの逆)として引き出された。アドミタンス応答は温度依存の方法で試料のヘマトクリットレベルに比例する。アドミタンス、ヘマトクリット、および試験温度の関係を図14に示す。実施例2の試験片構造と比較すると、グルコースに対する温度とヘマトクリットの直角度はこの実施例4ではあまり強くなかった、それゆえ相互積の項(TxHCT)を図14で用いたアドミタンス回帰式に加えた。図14で作表したアドミタンス用に用いたデータは図13に示した励起の3.2kHzの交流部分のあいだに各試料に対してなされた最後のアドミタンス測定である。
【0084】
このデータの回帰分析は、アドミタンス、ヘマトクリット、および温度が下記の式にしたがって関係付けられるようにする。
【0085】
【数7】
【0086】
3.2kHzで行ったアドミタンス測定はこの試験システムに対するヘマクリットと最も良く相関関係付けられていると決定された。この関係を用いて血液へマクリットを予測することは、計器中の温度センサーによって報告された試験温度データおよび測定されたアドミタンスを用いて達成される。式7では、c0、c1、c2、およびc3は定数であり、dTは「名目」(たとえば、24℃)と定義された、温度の中央からのずれであり、そしてHestはヘマトクリットの同様の「名目」値からの予測されたずれである。現在の目的には、実際のヘマトクリット値は必要でなく、比例的ではあるが名目のヘマトクリットの周りに集中する応答を生成するのが一般に好ましい。それゆえ、70%のヘマトクリットに対しては、42%の名目値からのずれ28%となるが、これは逆には20%のヘマトクリットに対しては同名目値からのずれは−22%となる。
【0087】
式7を用いてヘマトクリットレベルを予測する交流アドミタンス測定を用いることによって、直流グルコース応答の精度も、推定されたヘマトクリット、温度および直流応答を組み合わせて下記のように(上記の式2と同一)直流応答のヘマトクリット干渉を補正することによって、大幅に向上させることが出来る。
【0088】
【数8】
【0089】
式8の定数は、先行技術において知られているように、回帰分析を用いて決定することが出来る。
【0090】
図15は、ヘマトクリットと温度とが変化するときの(交流測定データを無視して)全ての血液試料の無補正の5.5秒の第2直流グルコース応答を示す。理解されるように、温度とヘマトクリットとが変化するに連れて直流応答に大幅の変化が起こる。図16は試料の実際の血液グルコースレベル対予測された応答の相関関係を図8を用いて示す。理解できるように、交流応答データを用いて直流応答がヘマトクリットレベルに対して補償されたときは、5.5秒の合計試験時間で0.9818の全体r2値が達成される。これは、実施例1〜3で用いられたよりも異なった試薬クラスで高い精度と速い試験時間とを達成する際に、本発明の適用可能性があることを証明するものである。
【0091】
実施例5:0.397μlの試料を用いた交流と直流とを組み合わせた測定
本発明の測定方法は他の試験片の設計でも同様に有用であることが判った。図17A〜Bに示した、一般的に1700で示す試験片の設計を用いて、実施例5を行った。図17Aについて述べると、試験片1700は、50nmの導電性の(金)層を(たとえば、スパッタリングまたは真空蒸着によって)被覆した350μm厚のポリエステル(好ましい実施形態では、これはデュポン社から発売されているメリネックス329である)の半透明片から形成された底部の箔層1702から成っている。次に電極と接続トレースとを、示したように、レーザー切除工法により導電性の層に型付けし、作用電極、対極および用量充足電極(以下に一層詳細に記述する)を形成する。レーザー切除加工はクロム石英マスクを通過するエキシマレーザーによって行われる。マスクパターンはフィールドの他の部品が通過できるようにして、レーザー・フィールドの部品を反射させて、レーザー光線によって接触された表面から排出された金の上にパターンを作り出す。
【0092】
バイオセンサーのための電極を作成する際のレーザー切除技術の使用例は米国特許出願一連番号09/866030、「連続カバーレイ・チャンネルを持ったレーザー切除電極を持ったバイオセンサー」、2001年5月25日出願、および米国特許出願一連番号09/411940、「パターン化されたラミネートおよび電極のためのレーザー規定の特徴」と題され、1999年10月4日出願に記述されている。両開示は参照により本書に取り入れてある。
【0093】
底部の箔層1702は次に、電極上に伸びている領域内に、きわめて薄い試薬フィルムの形状の試薬層1704を被覆する。この方法は、図17に「試薬層」と標識される範囲に底部の箔層1702を横切る幅約7.2ミリメートルの」細片を置くものである。本実施例では、この領域は、20μm未満の厚さの乾燥試薬を残して、1平方メートルにつき50グラムの湿被覆重量で被覆される。試薬ストライプは従来インライン乾燥システムで乾燥されるが、そこでは名目空気温度は110℃である。加工速度は一分当り名目で30〜38メートルであって、試薬のレオロジーに依存する。
【0094】
材料は、底部の箔層1702の場合は、電極パターンがリールの長さと直交するように、連続したリールで加工される。一度底部の箔層1702が試薬で被覆されると、スペーサーが細く切られてオープンリール式への工程に載せられ、底部の箔層1702上に置かれる。背部および腹部の両方の表面に25μmのPSA(疎水性の接着剤)を被覆した100μmポリエステル(好ましい実施形態では、これはデュポン社から発売されているメリネックス329である)から形成された二つのスペーサー1706が、スペーサー1706が1.5mm間隔をおいて、また作用電極、対極および用量充足電極がこの隙間内に中心に置かれるように、底部の箔層1702に適用される。腹部の表面に親水性のフィルムを被覆した100μmのポリエステルから形成された頂部の箔層1708(米国特許第5997817号明細書に記載された工程を用いて)をスペーサー1706上に載せた。好ましい実施形態では、親水性のフィルムにはヴィテルとロダペックスの界面活性剤を10ミクロンの名目厚さで被覆する。頂部の箔層1708はオープンリール式の工程を用いて積層した。次にセンサーは得られた材料のリールから細断および切断によって製造された。
【0095】
それゆえ、スペーサー1706の1.5mmの隙間は底部の箔層1702と頂部の箔層1708とのあいだの毛細管充填空間を形成する。スペーサー1706上の疎水性の接着剤は、試験試料がスペーサー1706の下の試薬へ流れ込むことを防止して、これによって試験室の容量を規定する。試験片1700は5mm幅で、スペーサー1706と導電性層との組合せた高さは0.15mmであるから、試料受け入れ室の容量は次のとおりである。
【0096】
【数9】
【0097】
図17Bに示したように、試料適用口1710および用量充足電極からの距離は1.765mmである。作用電極、対極および用量充足電極を十分カバーするために必要とする試料の容量(即ち、測定に必要な最小試料容量)は次のとおりである。
【0098】
【数10】
【0099】
試験片1700の試薬組成を表5および表6に示す。
【0100】
【表5】
【0101】
【表6】
【0102】
好ましい実施形態のニトロソアニリン試薬の調製のプロトコルは下記の通りである。
【0103】
工程1:1.654gのリン酸水素2カリウム(三水和)を31.394gの脱イオン水に加えることによって緩衝溶液を作成する。リン酸カリウムが溶解するまで混合する。
【0104】
工程2:工程1から得た溶液に0.941gのリン酸2水素カリウムを加えて溶解するまで混合する。
【0105】
工程3:工程2から得た溶液に0.285gの琥珀酸2ナトリウム(6水酸化)を加えて溶解するまで混合する。
【0106】
工程4:工程3から得た溶液のpHが6.8+/−0.1であることを確かめる。調整は必要ない。
【0107】
工程5:工程4から得た溶液の4.68gの部分標本を作成し、これに229キロユニット(DCIPアッセイによる)の「キノプロテイン・グルコース・デヒドロギナーゼのアポエンザイムを加える(EC#:1.1.99.17)。これは約0.3321gである。たんぱく質が溶解するまでゆっくり混合する。
【0108】
工程6:工程5から得た溶液に、9.3ミリグラムのPQQを加えて、2時間以上混合し、機能性酵素を提供するためにPQQとアポエンザイムとが再連結できるようにする。
【0109】
工程7:0.772gのトレハロースを1.218gの脱イオン水に溶解することによって溶液を作成する。
【0110】
工程8:酵素の再連結の後、工程7から得た溶液を工程6からの溶液に加えて、30分以上混合を続ける。
【0111】
工程9:工程4から得た溶液に、0.690gのメデイエーターである前駆物質BM31.1144を加える。溶解するまで混合する(この溶液は緑がかった黒い色になる)。
【0112】
工程10:工程9から得た溶液のpHを測定して、pHを目標である7.0+/−0.1まで調整する。通常、これは1.006gの5N水酸化カリウムで達成される。特定量の水酸化カリウムは所望のpHに達するのに必要に応じて変わるので、一般に1.006gからの質量のずれを、この工程で加えられる、3.767gの部分標本の脱イオン水から調整する。
【0113】
工程11:ローターの刃が露出せず、また溶液が溢れ出ないような、十分な深さの容器中で、約600rpmの速度で(ロータリー・ミキサーおよびブレード・インペラーを用いて)混合された、56.191gの脱イオン水の上に、0.350gをゆっくり散布することによって、ナトロソル250M(アクアロンから発売)の溶液を調製する。ナトロソルが溶解するにつれて、混合速度を1.2〜1.4krpmに上げる必要がある。ナトロソルが完全に溶解するまで混合する。得られたマトリックスはきわめて粘性が高く、これは期待される。
【0114】
工程12:工程11から得た溶液に、0.350gのカルボキシメチルセルロース7HF(アクアロンから発売)を徐々に加える。ポリマーが溶解するまで混合する。
【0115】
工程13:工程13から得たけん濁液に、1.01gの300kDa平均分子量の酸化ポリエチレンを混合しながら徐々に加えて、先に進む前に60分以上混合を続ける。
【0116】
工程14:工程13から得たけん濁液に、工程10から得た溶液を混合しながらゆっくりと加える。
【0117】
工程15:工程14から得た試薬に、34.2mgのトリトンX−100(ロッシュ・ディアグノスティクスから発売)を加えて、混合を続ける。
【0118】
工程16:工程15から得た試薬に、工程8から得た酵素溶液を加える。30分以上混合する。この時点で試薬は完成する。室温で、湿試薬質量は24時間使用が受容できると考えられる。
【0119】
図18に示した測定結果は温度とヘマトクリットとの3つの組み合わせに対する読み取り時間が変化する際の直流電流の応答とグルコース・レベルとの相関係数r2を示す。これらの結果は試験に対して1秒という速さで健全な直流の応答が予想出来るはずであることを示している。しかし、当業者は、温度とヘマトクリットレベルとの干渉の影響のためにセンサーの精度(相関関係)に望ましくない変化があることを認め、本発明の組み合わせた交流と直流との測定法は一層緊密に相関関係のある結果を生成すると示唆する。
【0120】
図18で得られた有望な結果に基づいて、試験片1700に印加された図19の励起信号を用いてさらなる試験を設計した。励起は約1.8秒印加した10kHzの交流信号と、約0.2秒印加した20kHzの交流信号と、約0.2秒印加した1Hzの交流信号と、約0.5秒印加した直流信号とからなった。交流信号は12.7mVの増幅度を持っていたのに対し、直流信号は550mVの増幅度を持っていた。合計試験時間は3.0秒であった。
【0121】
5つのグルコースレベル(40,120,200,400,600)、5つのヘマトクリットレベル(20,30,45,60,70%)および5つの温度(12,18,24,32,44℃)を表すスパイクされた静脈血試料を用いた共分散調査を設計し、125の分離した組み合わせになった。以前の実施例でのように、アドミタンス、温度およびヘマトクリットの関係を調べてプロットした(図20は20kHzでのアドミタンス対温度が変化するときのヘマトクリットを示す)、そしてアドミタンスは温度依存の方法でヘマトクリットに直線的に関係していることが確認された。しかし、追加の発見は、交流応答の位相角は温度とは独立した方法でヘマトクリットと相関関係になっていることであった。20kHz交流応答の位相角を図21のヘマトクリットに対してプロットした。10kHzで測定した位相角に対する結果は同様であった。それゆえ、血液試料のヘマトクリットは次の位相角情報のみを用いて確実に推定することができる。
【0122】
【数11】
【0123】
この実施例5で用いた試験片に対しては、位相角とヘマトクリットとの相関関係は高い周波数で良好であった。このため、c2定数はゼロに近づき、またHestは10kHzと20kHzのデータのみを用いて確実に予測することが出来る。しかし、低い周波数を使用すると、Hest関数の小片から小片への変化性を僅かに向上させることが出来る。それゆえ、本発明は、好ましくは少なくとも一つの交流周波数で、一層好ましくは少なくとも二つの交流周波数で、そして最も好ましくは少なくとも4つの交流周波数でなされた交流位相角測定だけを用いてヘマトクリットを推定するように用いることが出来る。
【0124】
ヘマトクリットは交流応答データだけを用いて測定することが出来るため、また我々は図20からアドミタンスはヘマトクリットと温度とに直線的に関係していることを知っているから、今では下記のように交流応答だけを用いて分析されている試料の温度を測定することが出来る。
【0125】
【数12】
ここで、b0、b1、b2およびb3は定数である。交流応答データからのヘマトクリットと温度との推定は、より多いかまたはより少ない周波数測定でしても良く、またこの実施例に選ばれたものよりも異なった周波数でも良い。最も健全な結果を生むような特定の周波数は試験片の形状および寸法によって決定される。それゆえ、本発明は、好ましくは少なくとも一つの交流周波数で、一層好ましくは少なくとも二つの交流周波数でそして最も好ましくは少なくとも4つの交流周波数でなされた交流応答測定だけを用いて試験試料温度を推定するように用いることが出来る。
【0126】
当業者は、(交流応答によって)試験されている試料の温度の直接測定をすることは試料の温度を推定するための先行技術の方法よりも大幅な改良であることを認めるであろう。典型的には、試験片が計器に挿入される所の近辺の試験計にサーミスタを配置する。サーミスタは実際の試料から離れた所の温度を測定しているために、それは真の試料温度のおおよその予測であるに過ぎない。さらに、もし(たとえば、蒸発によって)試料の温度が変化しているならば、試験計の温度慣性、そしてサーミスタ自体も、計器に取り付けされたサーミスタが試験されている試料の真の温度を正確に反映することを妨げるであろう。対照的に、本発明の温度推定は試験されている試料の中で(即ち、試験されている試料が試薬と反応する反応範囲の中で)行われる測定から引き出されるので、測定場所から離れている試料によって出されるエラーを除去する。加えて、本発明の温度推定は温度推定を用いて補正されるグルコース測定データに時間的に非常に近く収集されたデータを用いてされるため、さらに正確さが向上する。このことは先行技術の方法よりも大きく改善されていることを表す。
【0127】
血液グルコース測定の干渉物の影響を補正するこの実施例5の方法の有効性の証明として、非補償型の直流応答対既知のグルコース濃度を、グルコース、温度およびヘマトクリットの125の組み合わせ全てに対して図22にプロットした(このデータをプロットする際、交流測定は無視した)。当業者によって認められるように、このデータはヘマトクリットと温度とに関して膨大な変化を表している。
【0128】
前に論じたように、直流グルコース応答の正確さは、下記のように推定ヘマクリット、温度、および直流応答を組み合わせて直流応答でのヘマトクリットと温度の干渉を補正することによって大きく改善出来る。
【0129】
【数13】
【0130】
式13の定数は当業において知られているように回帰分析を用いて測定することができる。それゆえ、本発明は交流位相角応答を用いることによってヘマトクリットを推定することが出来るようにする(式11)。推定されたヘマトクリットと測定された交流アドミタンスとを用いて推定温度を決定することが出来る(式12)。最後に、推定ヘマトクリットと推定温度とを測定された直流応答で用いて予測されたグルコース濃度を得ることが出来る(式13)。
【0131】
上記の方法論を図22にプロットした試験データに適用して、我々は図23に示した予測グルコース対直流応答を得る。このデータは20〜70%に亘るヘマトクリットレベルと12℃〜44℃に亘る温度とを持った125の共分散サンプルを表す。このような干渉レベルの広い変化をもってしても、本発明の測定方法は3.0秒の合計試験時間を使用して、0.9874の全体r2相関関係を生成した。
【0132】
実施例6:0.397μl試料を用いた交流と直流との同時測定
合計試験時間を減少するために、直流実施例5に対して上に記したものと同じ試験片1700と試薬とを用いて、図24に示した励起プロフィルを利用した。実施例5に関して上述したように、20kHzと10kHzでの位相角はヘマトクリット推定と最も緊密に相関関係となっていることが決定された。それゆえ、合計試験時間を減少するために実施例6では励起の交流部分をこれら2つの周波数に制限するように決定された。合計試験時間をさらに減少するために、10kHzの交流励起を直流信号と同時に印加した(即ち、直流をオフセットした交流信号)、この理論は、この組み合わせモードは直流電流、交流位相および交流アドミタンスに対して同時の結果の収集ができるようにし、可能な最も速い結果を与えることを可能にするものである。それゆえ、20kHzの信号が0.9秒間印加された。その後、0.1秒の間隔の後、10kHzと直流信号とが1.0秒同時に印加された。
【0133】
この実施例6に対しては、7つのグルコースレベルと7つのヘマトクリットレベルを表す49のスパイクした静脈血試料が試験された。直流電流と血液ヘマトクリットとのあいだの相関係数r2を次に3つの直流測定時間で試験した。即ち、試料適用後1.1秒、1.5秒、および1.9秒である。これらの相関関係は図25にヘマトクリットレベルに対してプロットした。これらの結果の全ては比較できるが、相関関係は一般的に1.1秒で最も悪く、1.5秒で一般に最良であった。しかし、最小の相関係数は0.99を超える。
【0134】
図26はヘマトクリットレベルに対してプロットした20kHzでの位相角を示す。これらの2組のデータのあいだの相関関係は大変良く、それゆえヘマトクリットを推定するためには10kHzデータは不要であると決定された。それゆえ、ヘマトクリットは20kHz位相角から単独で下記のように推定することができる。
【0135】
【数14】
【0136】
図27は読み取り時間が1.1秒、1.5秒、および1.9秒のあいだで変化したときの全ての測定されたヘマトクリットレベルに対する直流電流応答対グルコースレベルを示す。驚くほどではなく、1.1秒での直流電流が1.5秒での直流電流よりも大きく、それは1.9秒での直流電流よりも大きい。当業者は、ヘマトクリットレベルは特に高いグルコース濃度において、直流電流に大きな影響を持っていることを認めるであろう。
【0137】
上記で考察したように、直流グルコース応答の正確さはヘマトクリットによって起こされる干渉を次のように補償することによって大きく向上させることができる。
【0138】
【数15】
【0139】
式15は温度補償項を含んでいないことに注目すべきである。これは、温度変化はこの実施例6の試験には含まれなかったので、試験項はHest項と組み合わせて10kHzと20kHzのアドミタンス値を用いて含めることが出来たことを前の実施例から合理的に推測出来るからである。ヘマトクリットは20kHz位相角測定データだけを用いて確実に推定することが出来るから、ヘマトクリット補償された予測されたグルコース応答は、この位相角情報と測定された直流応答とだけを用いて決定することが出来る。補償された直流応答対1.1秒で読み取られた(1.1秒の合計試験時間を表す)直流のみに対するグルコースレベルを図28に示す。このデータは1.1秒の合計試験時間で0.9947の全体r2相関関係を示す。
【0140】
1.5秒の直流読み取りに対するものと同一のデータが、1.5秒の合計試験時間に対する0.9932の全体r2相関関係を示して図29に示されている。1.9秒の直流読み取りに対するものと同一のデータが、1.9秒の合計試験時間に対する0.9922の全体r2相関関係を示して図30に示されている。驚くべきことに、r2相関関係はより長い試験時間で実際にわずかに減少した。これに関わらず、3つ全ての補償されたデータセットに対する相関係数は、20%から60%までに亘る全部で7つのヘマトクリットが組み合わされた場合、0.99を超え、これは、グルコース測定試験を行うためにセンサーが0.4マイクロリットル未満の血液を必要とする場合に、向上した正確さとともに、1.1秒もの速い血液グルコース試験を生じる本発明の適用可能性を証明している。
【0141】
実施例7:誤用されたセンサーを検知する交流位相角の使用
特に試験システムが非専門的な最終使用者によって使用される場合には、特別措置の品質管理を分析物測定工程に設けるために、投与を誤った(二重投与など)、以前に使用された、または劣化酵素を有する(湿気の多すぎる環境に保存されていたため、古すぎるなど)のセンサー(試験片)を検出することが望ましい。これらの状態は総称して「誤用されたセンサー」と呼ばれる。誤用されたセンサーが試験計に挿入された場合、分析物測定工程を中止するような試験を考案する(または試験結果は正確ではないと少なくとも使用者に警告する)ことが望まれる。
【0142】
血液グルコース分析を行う場合には、試験計は、血液試料が試薬化学物質と反応を続ける際に典型的にいくつかの連続的な電流測定をする。当業において良く知られているように、この応答電流はコットレル電流として知られており、反応が進むに連れてそれは衰退の形を辿る。我々はコットレルフェイルセーフ率(CFR)を次のように定義する。
【0143】
信頼システムでのバイオセンサーのコットレル応答は次の式によって得られる:
【数16】
ここで、n=グルコース分子当り自由化された電子
F=ファラデイの定数
A=作用電極の表面積
t=励起の適用時から経過した時間
D=分散係数
C=グルコース濃度
α=共因子依存定数
【0144】
この式のパラメータの全ては、グルコース濃度と時間以外は、通常センサーに対する定数である。それゆえ、我々は規格化されたコットレルフェイルセーフ率(NCFR)を、次のように定義する。
【0145】
【数17】
【0146】
この式の時間項は知られており、またセンサー測定のための定数であるので、比率は常に同一の試料時間と間隔とを持ったコットレル曲線に対する定数を生じる。それゆえ、センサー電流の合計を最後のセンサー電流で割った値はグルコース濃度から独立した定数を生じるはずである。この関係を好ましい実施形態で用いて潜在的に欠陥のあるバイオセンサーの応答を検知する。
【0147】
センサー測定中に得た電流の全てを合計することによって、センサーのコットレル応答をチェックする、電流合計フェイルセーフを考案することができる。最終的な電流が取得されると、それに二つの定数(それは製造時に計器内に取り付けてあるか、より好ましくは、別のコードキー、またはセンサー自体にコードされた情報などによって、各ロットのセンサーと共に計器に供給される)を乗じる。これらの定数は許容可能なNCFR値に対する上限および下限のしきい値を表す。
【0148】
最終電流を乗じた定数の二つの積はバイオセンサー電流の合計と比較される。電流の合計は二つの積のあいだに該当すべきであり、これによって上記の比率がプラスまたはマイナス許容値で満たされたことを示す。
【0149】
それゆえ、好ましい実施形態は、単一の直流ブロックがある場合、次のチェックを行う。
【0150】
【数18】
ここで、Cu=コードキーからの上位の定数
C1=コードキーから下位の定数
Im=最終バイオセンサー電流
【0151】
いくつかの実施形態は測定順序の中に二つの直流ブロックを含むことがあるために、修正されたコットレルフェイルセーフ率(MCFR)を次のように公式化することができる。
【0152】
【数19】
ここで、w1、w2=重量測定定数(たとえば、コードキーからの)
NCFR1,NCFR2=直流ブロック1と2それぞれのための規格化されたコットレルフェイルセーフ率
【0153】
それゆえ、好ましい実施形態は、二つの直流ブロックがある場合、次のチェックを行う。
【0154】
【数20】
ここで、Cu=コードキーからの上限定数
CL=コード・キーからの下限定数
Im1,Im2=直流ブロック1と2との最終バイオセンサー電流
【0155】
NCFR(およびMCFR)はヘマトクリットと相関関係がある。上に実施例3で示したように、交流位相角もまたヘマトクリットと相関関係がある。したがって、交流位相角とNCFRとは互いに相関関係にあることになる。この関係はセンサーが誤用されていない場合に限って成立する。相関関係は誤用されたセンサーに対しては低下する。
【0156】
それゆえ、誤用センサーが使用されているかどうかを示すFAILSAFE計算を生成するための、測定位相角(ラジアン)データを分析する式を設計することが可能になる。好ましい実施形態では、寄生的抵抗などによって起こされたエラーに対して一層健全な試験を行うために二つの別の周波数で測定した位相角(ラジアン)間の差異を用いることが選択された。逆正接関数を適用して二つの母集団を異なった漸近線へ動かすようにすると、次のFAILSAFE式を生成する。
【0157】
【数21】
ここで1000=スケーリング因子
NCFR=コットレル・フェイルセーフ率
fs0=直線回帰インターセプト
fs1=直線回帰スロープ
Φ10kHz=10kHzでの位相角(ラジアン)
Φ20kHz=20kHzでの位相角(ラジアン)
【0158】
式21を用いて、ゼロを超えるFAILSAFE値は非誤用のセンサーを示すのに対し、ゼロ未満のFAILSAFE値は誤用されたセンサーを示すように、インターセプト項Fs0を選択することが出来る。当業者は、異なったインターセプトを選ぶことによって反対の結果を得ることが出来ることを認めるであろう。
【0159】
用量充足電極の使用
上記したように、正確な試料測定は試料による測定電極の適切な被覆を必要とすることが認められた。先行技術では試料容量の不十分さを検知するために種々の方法が用いられてきた。たとえば、インデイアナ州、インデイアナポリスのロッシュ・ディアグノスティクス・コーポレーションによって販売されたアキュチェック(Accu-Check、登録商標)アドヴァンテージ(Advantage、登録商標)グルコース試験計は、もし単一対の測定電極によって非コトレリアン電流減衰が検出された場合、試料容量の不充分さの可能性があることを使用者に警告した。使用者は定められた割り当て時間以内に試験片を再投与するように促された。
【0160】
近年、極度に少量の試料容量のみの要求を通して苦痛を最小にするように設計された血液穿刺装置に関して用いられた毛細管充填装置の使用のために、不十分な試料サイズがある可能性が強調されてきた。もし不充分な量の試料が毛細管充填空間内に引き込まれれば、測定電極が適切にカバーされず、測定の正確さが損なわれる可能性がある。不十分な試料に関連した問題を克服するためには、測定電極から下流に追加の電極を配置する、または作用電極の下流に副素子を、上流に主素子を持った単一の対極を配置する、または測定電極から上流と下流との両方に配置した指示器電極(作用電極および対極を超えて試料の流れの進行を、または下流で離れての試料の到着をそれぞれ追認可能にする)などの、種々の先行技術の解決法が提案されて来た。これらの解決法の各々と関連した問題は、それらは上流または駆る湯の指示電極と連通する、一方または他方の測定電極対を組み入れて、偏向した試験結果を回避するために充分な容量の試料の存在を査定する。
【0161】
これらの先行技術の設計解決法にも関わらず、装置が試料充足の誤解釈をする傾向がある故障モードが存続する。本発明は、そのような誤った結論は、主として不均一な流頭の分岐性と結びついた、測定電極対(共平面または対抗形状)の下流の部材と投与検出電極とのあいだの距離に関係していると結論した。異常な(不均一な)流頭を持った毛細管充填スペースを横断する試料は測定電極と指示電極とのあいだの回路を閉じて、システムに偏光した測定結果を避けるように十分な試料が存在すると誤って知らせることがある。
【0162】
試験片毛細管充填スペースの組成および/または製作に用いられた多くの要素はそのような不規則な流頭の動作に影響を与える。これらの要素は次の事項を含む。
【0163】
・毛細管充填スペースを形成する異なる壁の表面エネルギーのあいだの不等性。
・試験片製造設備での材料または製品の汚れ。
・毛細管充填スペースの壁を形成する単一の要素からの汚染物質の意図しない導入(その一例はリリースライナーが使用されている製造工程に一般的な剥離剤(典型的にはシリコン)。
・積層工程で使用された接着剤(または汚染された接着剤)の疎水性の性質。
・毛細管充填スペースの壁の不等な表面の粗さ。
・寸法アスペクト比率。
・毛細管充填スペース内の汚染されたメッシュ材料。
・毛細管充填スペース内のメッシュ材料に対する界面活性剤の不均質な適用。
【0164】
本発明によって決定された先行技術の用量充足方法論のもう一つの問題は、上流または下流の投与検出電極と電気的に連通している利用可能な一つまたは他の測定電極の使用に関する。このような構成において、測定範囲(測定電極の上またはあいだの面積)の化学量論は測定範囲内にある関心のある分析物の測定をする以前の投与検出/用量充足試験サイクルのあいだに乱される。試料のマトリックスが仕様の点で極端に変わるに連れて、これらの試料の充填性も変化して、試料の型のあいだにタイミング差を生じる。そのような誤ったタイミングルーチンは不精度および拡大した全体のシステムエラー・メトリックスの追加の原因として作用する。
【0165】
これらの障害の一つまたはそれ以上を解決しようとすると、典型的には、1)一層複雑な製造工程(各々が追加の汚染の性質をもたらす追加の工程)、2)追加の原材料の品質管理工程、3)疎水性と親水性の樹脂の混合物を有する積層複合材などの一層高コストの原材料、および否定的に衝撃を与える製造コスト、および4)労働集約型のメッシュおよび/または毛細管壁の界面活性剤の被覆へと帰着する。
【0166】
実施例8:毛細管充填スペース内の流体の流頭動作の決定
毛細管充填スペースを用いた試験片に用量充足を適切に示すような電極システムを設計するために、試料が毛細管充填スペースを通過するときの試料の先端での流頭の形状を調べるために実験を行った。二枚の透明なポリカーボネートのシートを両面接着性のテープで貼り合わせたものからなる試験用具を用いた。そこでは両面テープのチャンネルを切断することによって毛細管充填スペースを形成した。ポリカーボネートの上部および下部シートの使用によって、試料の流頭が毛細管充填スペースを通って流れるときにそれがビデオテープ録画されるようにした。
【0167】
具体的には、試験装置はレーザーカットされた1mmの厚さのレクサン(登録商標)ポリカーボネートシート(イギリス国、ウエスリー、スインドン エスエヌ5 7イーエックスのキャデラック・プラスティックス・リミテッド(Cadillac Plastics Ltds.)から入手した)ものを用いて積層した。上部および底部のポリカーボネート・シートは両面接着テープ(#200MP高性能アクリル性接着剤、ミネソタ州、セントポールのスリーエム コーポレーションから入手)を用いて張り合わせた。毛細管チャンネルは両面テープを所要の幅の開口部になるようにレーザー切断することによって規定した。0.05μm,0.125μm,0.225μmの厚さのテープを用いて所要のチャンネル高さを得た。試験装置の毛細管スペースの寸法は図31に表示した。
【0168】
上部および下部のポリカーボネートの部品を、再現可能な製作を確保するために特注された治具を用いてレーザー切断した接着テープで積層した。各々の試験装置に対して、上部ポリカーボネート・シート内に予めカットされた開口部と接着テープ要素とによって毛細管チャンネルへの入り口を定める流体受け入れ範囲を形成した。3つのチャンネルの高さの各々に対して、0.5mm,1.00mm,1.5mm,2.00mm,3.00mm,および4.00mmのチャンネル幅を作成した。全ての装置に対する毛細管チャンネルの長さは50mmであった。18の装置形式の各々を28構築した。組み立てられた装置は、ドイツ連邦共和国、ドルトムントのワイドマン プラスティックス テクノロジー(Weidman Plastics Technology)によってプラズマ処理された。下記のプラズマ処理条件を用いた。
【0169】
プロセッサ:マイクロウエーブ・プラズマ・プロセッサ400
超短波電力:600W
ガス:O2
圧力:0.39ミリバール
ガス流:150ml/分
時間:10分
前処理時の表面エネルギー:<38mN/m
後処理時の表面エネルギー:72mN/m
プラズマ処理された装置を使用していないときは2〜8℃で保存した。装置は使用には最低1時間室温に均衡させた。
【0170】
試験装置の各々に45%のヘマトクリット値を持った一定量の静脈血を投与した。流れおよび流頭の動作を、後日の分析のためにビデオテープに取り込んだ。毛細管充填チャンネルの相対的寸法が流頭の動作を決定付けると決定された。図31の破線の左の装置(装置A2,A4,B2,B4,B5,C2,C4,C5)は凸型の流頭動作になったが、破線の右の装置(装置A6,A8,A11,B6,B8,B11,C6,C8,C11)は凹型の流頭動作を表した。凹凸両方の流頭の動作を図31に模式的に示す。このデータは、毛細管充填スペースの高さと幅とのアスペクト比が、試料の流頭が凸であるか凹であるかを決定する要素であることを示している。
【0171】
用量充足電極の使用、続き
毛細管充填スペースの凹型の流頭に関連する問題を図32A〜Cに示す。図面の各々において、試験片は作用電極3200、参照電極3202、および測定電極3200または3202の一つと関連して作用する下流用量充足電極3204を含んでいる。上に論じた測定電極の一つに関連して用量充足電極3204の使用と関連した測定範囲の化学量論の問題に加えて、図32A〜Cは凹型を表している試料流頭もまた、偏向した測定結果を起こすことを示している。各図において、試料の動きの方向は矢印で示した。図32Aにおいて、毛細管壁に隣接した試料の部分は用量充足電極3204に達していて、これによって、この電極と、用量充足測定をするために試験計によってモニターされている測定電極対の一つとのあいだの直流回路を電気的に完成させている。試験計は、このとき測定を行うのに十分な試料があると結論するけれども、試料は明らかにやっとのことで参照電極3202に到達したのであって、このとき得られた測定結果は大きく偏向することになるであろう。
【0172】
同様に、図32Bも用量充足電極3204が接触させられた(測定が始まったことを示して)状態を示すが、しかし参照電極3202は部分的にのみ試料によってカバーされているだけである。このとき試料は参照電極3202に到達したけれども、参照電極3202は試料によって完全にカバーされたのではない。それゆえ、このとき得られた測定結果は部分的に偏向しているであろう。それゆえ、図32A〜Bに示した状況は両方とも用量充足に対して偽陽性を示すことになり、これによって測定試験結果を偏向するのである。参照電極3202が試料によって完全にカバーされている図32Cに示した状況の場合のみが測定範囲の毛細管充填の程度のために偏向が無いであろう。
【0173】
本発明は用量充足決定をするとき測定電極の一つと用量充足電極とを対にする先行技術に関連した化学量論の問題を解決する。図33に示したように、本発明は測定電極から下流に位置した用量充足電極の独立した対を持った試験片を認識する。試験片は一般に3300として示され、そして対極3302と作用電極3304からなる測定電極対を含む。電極は当業において知られ、そして上段に記述したように多層の試験片の構成で適当な基板の上に形成されてよい。試験片の多層の形状は、これもまた当業において知られているように毛細管充填スペース3306の形成をもたらす。毛細管充填スペース3306の中に、そして測定電極3302および3304から(試料の流れの方向に関係して)下流に、用量充足作用電極3308と用量充足対極3310とが形成されて、一緒になって用量充足電極対を形成する。
【0174】
試験片3300が試験計に挿入されると、試験計はいつ試料が毛細管充填スペースの範囲へ移動したのかを決定するために用量充足電極3308と3310とのあいだの導電通路を継続的にチェックする。一度試料がこのレベルに達すると、試験計は、測定電極が試料で覆われ、そして試料測定のシーケンスが始まったことを結論付けるようにプログラムされる。先行技術の設計で必要とされたのとは異なって、図33の試験片の設計を用いて用量充足試験をしているあいだに測定電極3302と3304との何れにも電圧も電流を印加することを要しないことが判るであろう。それゆえ、測定範囲にある関心のある分析物の測定をする前に用量充足試験サイクルのあいだ、測定範囲の化学量論は乱されない。このことは先行技術の用量充足試験方法に対し、著しい改善を示すものである。
【0175】
図34Aに示したように、毛細管充填スペース3306を充填しているあいだに凸状の流頭を表す試料を生成するように毛細管充填スペースが設計されているときは、用量充足を判断するためには試験片3300もまた望ましい。図示されているように、測定電極3302および3304の上の測定範囲は凸状の流頭が用量充足電極対3308、3310に達すると試料で覆われる。しかし、試験片のデザイン3300は、もし毛細管充填スペース3306が、試料が充填されているあいだに凹型の流頭を表すことを許容するならば、図34Bに示すように、理想的な結果を出す。図示されているように、凹型の流頭の周縁の端部は測定範囲が完全に試料で覆われる前に用量充足電極対3308、3310に達する。直流または低周波励起(下段でより詳細に説明する)で、用量充足電極対3308、3310はそれらが両者とも流頭の端部によって接触されると直ちに試料充足を示す。それゆえ、図33の試験片に示された用量充足電極のデザインは毛細管スペース3306を充填している試料が凸状の流頭を表すときに最も良く作用する。
【0176】
用量充足電極3308、3310は毛細管充填スペース3306内のそれらの最長軸を毛細管充填スペース3306の長軸に対して垂直に向けさせていることが理解されるであろう。そのような電極は本書では「垂直用量充足電極」と言う。択一的な用量充足電極の配置を図35A〜Bに示す。図35Aに示すように、本発明はまた、測定電極から下流に位置した用量充足電極の独立した対を持った試験片を包括するが、そこでは用量充足電極は毛細管充填スペース内のそれらの最長の軸を細管充填スペースの長軸と平行に向けさせている。そのような電極は本書では「平行用量充足電極」と言う。図35の試験片は一般に3500として示され、そして対抗電極3502と作用電極3504とからなる測定電極対を含む。電極は当業において知られており、また上述したように、適当な基板の上に多層試験片の攻勢で形成されればよい。試験片の多層形状は、これもまた当業において知られているように、毛細管充填スペース3506の形成を提供する。毛細管充填スペース3506の中に、そして測定電極3502と3504から(試料の流れの方向に関して)下流方向に、用量充足作用電極3508と用量充足対抗電極3510とが形成され、共に平行用量充足電極対を形成している。
【0177】
試験片3500が試験計に挿入されると、試験計は、何時試料が毛細管充填スペースのこの範囲へ移動したのかを決定するために用量充足作用電極3508と3510とのあいだの導電通路を継続的にチェックする。一度試料がこのレベルに到達すると、試験計は、測定電極が試料で覆われたので試料測定シーケンスを開始してよいと結論するようにプログラムされる。試験片3300でのように(そして先行技術の設計で要求されたものとは異なって)、図35の試験片のデザインを用いた用量充足試験のあいだに測定電極3502と3504の何れかに電圧または電流を印加する必要はないことが判るであろう。それゆえ、測定範囲にある関心のある分析物の測定をする以前の用量充足試験サイクル中には測定範囲の化学量論は乱されない。これは先行技術の用量充足試験方法論よりも著しい改善を表している。
【0178】
用量充足電極が比較的高い周波数の交流励起信号で活性化された場合には試験片3500の平行用量充足電極で一層改善された作動が実現される。用量充足励起信号として比較的高い周波数の交流信号が用いられた場合は、用量充足電極3508,3510は著しいエッジ効果を表すが、そこでは空隙に沿った電極エッジが試料流体で覆われたときに限って励起信号が電極間の空隙を越える。試験片3500を拡大したサイズで図36に示す(毛細管充填スペース3506内にある電極部分を、小片から計器の電極パッドが可視である)。一対の用量充足電極3508,3510の一つが交流信号で励起されると、信号の大多数は一つの電極の上平坦面から他の電極の上平坦面へと言うよりは寧ろ一つの電極エッジから他の電極のエッジへ移動する(エッジが試料で覆われている場合)。これらのエッジからエッジへの電気通信経路は電界ライン3602として模式的に図36に示される。
【0179】
より高い交流周波数は用量充足電極からの最良のエッジ・オンリーの感度を生成する。好ましい実施形態では、10kHzの9mVms(+/−12.7mV頂点間)励起信号を用いて用量充足電極の一つを励起した。用量充足電極3508,3510のエッジ間のギャップ幅GWは好ましくは100〜300μm、より好ましくは150〜260μm、最も好ましくは255μmである。より小さいギャップ幅GWは、そのエッジが少なくとも部分的に試料で覆われている用量充足電極のあいだに伝送される信号の量を増大させる。しかし、信号伝送経路のキャパシタンスは減少するギャップ幅と共に増大する。
【0180】
図35および36図の平行用量充足電極のデザインの利点は、交流励起で用いた場合、試料が少なくとも電極間隙に沿ったエッジの一部をカバーするまで電極間に実質的に電気通信がないことである。それゆえ、図35Aの凹型流頭を表している試料は、例示された試料が用量充足電極3508,3510の両方に接触してはいるが間隙に沿った電極のエッジには接触していない場合には、用量充足電極のあいだにはなんら顕著な電気通信を生成しないのである。それゆえ、試験計は試料が実際に間隙に沿った電極のエッジのあいだの用量充足電極を架橋するまで用量充足の結論を出さない。このことは、凹型流頭の最後部が用量充足電極3508,3510へ到達後のみに初めて起こるので、その時点で試料は測定電極上の測定範囲を完全にカバーしたのである。図35Bに見られるように、凸状の試料流頭は流頭が用量充足電極に到達すると直ちに用量充足電極3508,3510を活性化する(その時点で試料は測定電極上の測定範囲を完全にカバーしたのである。)。
【0181】
図35および図36に示した平衡容量充足電極についてのもう一つの利点は、電極間に伝送された信号の量が試料によってカバーされている空隙の量に比例することである。それゆえ、試験計に適当なしきい値を使用することによって、試料が容量充足電極の間隙エッジの所定の部分をカバーするまで用量充足の結論を保留することが出来る。その上、用量充足信号の分析をすれば、所望ならば、試験計によってなされた各測定に対して毛細管充填スペースの充填の百分率を試験計に記録させることも出来る。
【0182】
電極形状自体は特に凸型の流頭の場合に適当な試料を検出することにおいて以前の実施形態に勝る利点を明示しているが、試料の検出に対して交流応答の使用で直流応答に勝るさらなる改善が達成されることが見いだされた。直流応答はたとえば、温度、ヘマトクリットおよび分析物(たとえば、グルコース)の変化に対して敏感であるという問題を持っている。十分高い周波数での交流応答は分析物の濃度の変化に対して強くすることが出来る。さらに、そのような毛細管充填装置での十分高い周波数で発生させた交流応答は主として試料によって満たされる電極エッジ間の平行なの間隙の量によって制限される。それゆえ、凸型の流頭に対しては、流頭のトローフが試料充足電極の平行のエッジ内へ実際に侵入するまで僅かまたは無の交流応答(この場合はアドミタンス)が感知される。さらに、しきい値のキャリブレーション(ないしは、較正)によって、センサーは、試験の開始前に充填されるべき平行の空隙をより多く要求して、アドミタンスに対するより高いしきい値をもって、有利と見做されるように、多少なりとも敏感にすることが出来る。
【0183】
現存の装置のさらなる制限は、センサーの毛細管スペースを充填するために必要とされる時間の量を見分けるための電極形状の無能力である。この制限は用量充足電極と測定電極との相互依存関係を持つことによって起こされている。これは独立した用量充足電極のさらなる利点である。好ましい実施形態では、信号は投与に先立って先ず測定電極を横切って印加される。応答が見られると、直ちに電位がスイッチオフされて、第2の信号が用量充足電極を横切って印加され、その時間のあいだ、システムは信号に対する応答を監視し(電極カバレッジを示し)、また第1の事象(いつ測定電極で応答が見られたか)と第2の事象(いつ用量充足電極で応答が見られたか)とのあいだの時間をマークする。非常に長い間隔で誤った結果が出る場合には、その中で受容できる結果が得られるような、そしてその外側ではフェイルセーフがトリガーされるような、しきい値を設定して応答を防止するか、または最低限使用者に潜在的な不正確さについて警告することが可能である。投与時と許容できると考えられる十分な試料の検出時とのあいだのタイムラグの大きさは特定のセンサーのデザインおよび化学物質に依存する。択一的には、何時、試料が最初にセンサーにかけられたのかを検出するために、独立した1対の用量検出電極(図示せず)を測定電極から上流に追加すればよい。
【0184】
上記の事象の何れかまたは両方の検出のために直流信号を用いることも出来るが、好ましい実施形態は十分に高い周波数での交流信号を用いて、測定電極での電気化学的応答を不必要に乱すことを避け、また流頭の不規則性に関して健全な検出を与えるようにする。
【0185】
全ての刊行物、先行出願、および本書中に引用したその他の書類は、各々が参照のため個々に取り入れて完全に示されるように、その全体を参照のためここに取り入れた。
【0186】
発明は図面および前記の記述に詳細に例示しそして記述したが、記述事項は例示的と考えられるべきであって、性格上限定的でない。好ましい実施形態だけを、また好ましい実施形態を作りまたは使用する方法をさらに説明する上に役立つと見做される一定の他の実施形態を示した。本発明の精神の範囲内に入る全ての変更および修正が保護されることを望むものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的流体の医学的に重要な成分の濃度を測定するために適した誤用されたセンサーを検出する方法であって、
(a)交流成分を含む信号をセンサーに印加する工程、
(b)信号に対する交流応答を測定する工程、および
(c)交流応答を用いてセンサーが誤用されているかどうかを決定する工程
を含み、
前記工程(a)、(b)および(c)が生物学的流体をセンサーに適用する前に実行されてなる
誤用されたセンサーを検出する方法。
【請求項2】
生物学的流体の医学的に重要な成分の濃度を測定するために適した誤用されたセンサーを検出する方法であって、
(a)交流成分を含む信号をセンサーに印加する工程、
(b)信号に対する交流応答を測定する工程、および
(c)交流応答を用いてセンサーが誤用されているかどうかを決定する工程
を含む誤用されたセンサーを検出する方法であって、
(i)生物学的流体の試料をセンサーの上に載せる工程、
(ii)第1信号を生物学的流体に印加する工程、
(iii)第1信号に対する電流応答を測定する工程、
(iv)少なくとも1回、工程(iii)を反復する工程、
(v)電流応答データを用いて規格化されたコットレル・フェイルセーフ率を計算する工程をさらに含み、
前記工程(c)が、工程(a)より前に、規格化されたコットレル・フェイルセーフ率と前記工程(b)の交流応答とを組み合わせることを含み、
センサーが誤用されたかどうかを表示する
誤用されたセンサーを検出する方法。
【請求項3】
第1信号が交流信号である請求項2記載の方法。
【請求項4】
交流成分を含む信号の交流成分が1キロヘルツ以上で20キロヘルツ以下の周波数を持つ請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
交流成分を含む信号が異なる周波数を有してなる請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記工程(v)が、FAILSAFEをつぎの式によって算出する工程を含んでおり、
ILSAFE=1000×arctan[NCFR/(fs0+fs1(Ф1−Ф2))]
ここに、
1000がスケーリング係数であり、
NCFRが規格化されたコットレル・フェイルセーフ率であり、
fs0が定数であり、
fs1が定数であり、
Ф1が第1周波数での位相角(ラジアン)であり、
Ф2が第2周波数での位相角(ラジアン)であり、
ゼロ未満のFAILSAFEの値は誤用されたセンサーを示し、ゼロより上のFAILSAFEの値は誤用されていないセンサーを示す
ことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
血液グルコース濃度試験において誤用されたセンサーを示す不良状態を決定する方法であって、
(a)交流成分を含む第1試験信号を試験試料に適用する工程、
(b)第1試験信号に対する第1位相角応答を測定する工程、
(c)交流成分を含む第2試験信号を試験試料に適用する工程、
(d)第2試験信号に対する第2位相角応答を測定する工程、および
(e)第1位相角応答、第2位相角応答、および所定のコットレル・フェイルセーフ率に基づいて不良状態値を決定する工程
を含む不良状態を決定する方法。
【請求項8】
工程(e)が、
arctan[CFR/(fs0+fs1(ФA−ФB))]
ここで、
CFR=コットレル・フェイルセーフ率
fs0=定数
fs1=定数
ФA=第1位相角(ラジアン)応答
ФB=第2位相角(ラジアン)応答
を少なくとも部分的に評価することに基づいて行われる請求項7記載の方法。
【請求項9】
(f)試験信号を試験試料に適用する工程、
(g)少なくとも二つの電流応答を測定する工程、および
(h)電流応答と最終的電流応答との合計に基づいて所定のコットレル・フェイルセーフ率を決定する工程をさらに含む請求項7または8記載の方法。
【請求項1】
生物学的流体の医学的に重要な成分の濃度を測定するために適した誤用されたセンサーを検出する方法であって、
(a)交流成分を含む信号をセンサーに印加する工程、
(b)信号に対する交流応答を測定する工程、および
(c)交流応答を用いてセンサーが誤用されているかどうかを決定する工程
を含み、
前記工程(a)、(b)および(c)が生物学的流体をセンサーに適用する前に実行されてなる
誤用されたセンサーを検出する方法。
【請求項2】
生物学的流体の医学的に重要な成分の濃度を測定するために適した誤用されたセンサーを検出する方法であって、
(a)交流成分を含む信号をセンサーに印加する工程、
(b)信号に対する交流応答を測定する工程、および
(c)交流応答を用いてセンサーが誤用されているかどうかを決定する工程
を含む誤用されたセンサーを検出する方法であって、
(i)生物学的流体の試料をセンサーの上に載せる工程、
(ii)第1信号を生物学的流体に印加する工程、
(iii)第1信号に対する電流応答を測定する工程、
(iv)少なくとも1回、工程(iii)を反復する工程、
(v)電流応答データを用いて規格化されたコットレル・フェイルセーフ率を計算する工程をさらに含み、
前記工程(c)が、工程(a)より前に、規格化されたコットレル・フェイルセーフ率と前記工程(b)の交流応答とを組み合わせることを含み、
センサーが誤用されたかどうかを表示する
誤用されたセンサーを検出する方法。
【請求項3】
第1信号が交流信号である請求項2記載の方法。
【請求項4】
交流成分を含む信号の交流成分が1キロヘルツ以上で20キロヘルツ以下の周波数を持つ請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
交流成分を含む信号が異なる周波数を有してなる請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記工程(v)が、FAILSAFEをつぎの式によって算出する工程を含んでおり、
ILSAFE=1000×arctan[NCFR/(fs0+fs1(Ф1−Ф2))]
ここに、
1000がスケーリング係数であり、
NCFRが規格化されたコットレル・フェイルセーフ率であり、
fs0が定数であり、
fs1が定数であり、
Ф1が第1周波数での位相角(ラジアン)であり、
Ф2が第2周波数での位相角(ラジアン)であり、
ゼロ未満のFAILSAFEの値は誤用されたセンサーを示し、ゼロより上のFAILSAFEの値は誤用されていないセンサーを示す
ことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
血液グルコース濃度試験において誤用されたセンサーを示す不良状態を決定する方法であって、
(a)交流成分を含む第1試験信号を試験試料に適用する工程、
(b)第1試験信号に対する第1位相角応答を測定する工程、
(c)交流成分を含む第2試験信号を試験試料に適用する工程、
(d)第2試験信号に対する第2位相角応答を測定する工程、および
(e)第1位相角応答、第2位相角応答、および所定のコットレル・フェイルセーフ率に基づいて不良状態値を決定する工程
を含む不良状態を決定する方法。
【請求項8】
工程(e)が、
arctan[CFR/(fs0+fs1(ФA−ФB))]
ここで、
CFR=コットレル・フェイルセーフ率
fs0=定数
fs1=定数
ФA=第1位相角(ラジアン)応答
ФB=第2位相角(ラジアン)応答
を少なくとも部分的に評価することに基づいて行われる請求項7記載の方法。
【請求項9】
(f)試験信号を試験試料に適用する工程、
(g)少なくとも二つの電流応答を測定する工程、および
(h)電流応答と最終的電流応答との合計に基づいて所定のコットレル・フェイルセーフ率を決定する工程をさらに含む請求項7または8記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32A】
【図32B】
【図32C】
【図33】
【図34A】
【図34B】
【図35A】
【図35B】
【図36】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32A】
【図32B】
【図32C】
【図33】
【図34A】
【図34B】
【図35A】
【図35B】
【図36】
【公開番号】特開2010−78614(P2010−78614A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282032(P2009−282032)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【分割の表示】特願2006−517447(P2006−517447)の分割
【原出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【分割の表示】特願2006−517447(P2006−517447)の分割
【原出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】
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