説明

生物戦剤を分解するための酵母生体触媒

本開示は、酵母生体触媒および生物戦剤を解毒するために酵母生体触媒を使用する方法に関する。一部の実施形態において、酵母生体触媒は、プレプロリーダー配列に作動可能に連結された、ファージ溶解素をコードする核酸、その核酸に作動可能に連結された発現制御配列および生体有効量の(例えば、解毒するのに十分な)ファージ溶解素を含み得る。酵母生体触媒としては、Saccharomyces cerevisiaeの操作された株が挙げられ得る。ファージ溶解素は、PlyGおよびPlyPHからなる群より選択され得る。生物戦剤を解毒する方法は、解毒を可能にする条件下で、生物戦剤と酵母生体触媒とを接触させる工程を包含し得る。一部の実施形態にしたがって、解毒を可能にする条件はファージ溶解素の発現および分泌を可能にする条件を含み得る。一部の実施形態において、解毒を可能にする条件は胞子の発芽を可能にする条件を含み得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2007年1月9日に出願された、出願番号第60/884,068号、表題「Yeast Biocatalysts for Degradation of Biowarfare Agents」の、仮特許出願の利益を主張する。この内容は、参考としてその全体が本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
一部の実施形態による、本開示は、生物戦剤(biowarfare agent)に関連するバイオハザードを緩和および/または排除し得る酵母生体触媒に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
米国に対する生物学的テロ事件の脅威が想定される。世界貿易センターに対する攻撃に始まる2001年9月以来、それに続く、米国郵便制度を介した炭疽の計画的なばら撒き、ならびにテロとの継続戦争およびイラクに対する軍事行動は、米国の大陸内の生物学的テロリズムの可能性を最前線にもたらした。さらに、選択される標的が一般市民の「ソフト」な標的または象徴的な建造物もしくは組織のいずれかであるという可能性は、明らかな起こり得ることである。最もあり得るテロリストの生物学的兵器は、以下が挙げられるが、これらに限定されない:(i)細菌(例えば、Bacillus anthracis、Yersinia pestis、Francisella tularensis、Brucella種、Burkholderia mallei、Salmonella種、Shigella種、Vibrio choleraeおよびEscherichia coli O157:H7);(ii)ウイルス(例えば、フィロウイルス(例えば、エボラ、マルブルク)、アレナウイルス属(例えば、ラッサ、Machupo)、アルファウイルス属(例えば、ベネズエラウマ脳炎、東部ウマ脳炎、西部ウマ脳炎))および(iii)毒素(例えば、ボツリヌス、ブドウ球菌エンテロトキシン、リシンおよびウェルチ菌イプシロン毒素)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
要旨
したがって、生物学的テロの脅威(例えば、液体または固体表面(建造物)において)を解毒する新規な薬剤が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一部の実施形態にしたがって、本開示は、生物戦剤を解毒するための酵母生体触媒に関する。解毒は、生物戦剤の毒性特性においてあらゆる低減を含み得る。一部の実施形態において、このことは、生物戦剤を分解、殺菌、殺傷および/または排除することを含み得る。生物戦剤を解毒するための酵母生体触媒は、プレプロリーダー配列(prepro leader sequence)に作動可能に連結された、ファージ溶解素をコードする核酸、その核酸に作動可能に連結された発現制御配列および生体有効量の(bioeffective amount)(例えば、解毒するのに十分な)ファージ溶解素を含み得る。酵母生体触媒としては、Saccharomyces cerevisiaeの操作された株が挙げられ得る。一部の実施形態において、酵母生体触媒は、任意の溶解素および/または任意の他の殺菌性タンパク質を含み得、これらとしては、例えば、ブドウ球菌のAtlA、ブドウ球菌のAtlE(60)、バチルス属のPlyB(58)、連鎖球菌のPlyC(59)、バチルス属のPlyG、バチルス属のPlyPH(48)、エルジニア属のペスティシン(pesticin)(61)が挙げられ得る。
【0006】
一部の実施形態において、本開示は、生物戦剤を解毒する方法に関する。例えば、生物戦剤を解毒する方法は、解毒を可能にする条件下で、生物戦剤と酵母生体触媒とを接触させる工程を包含し得る。一部の実施形態にしたがって、解毒を可能にする条件は、ファージ溶解素の発現および分泌を可能にする条件を含み得る。一部の実施形態において、解毒を可能にする条件は、胞子の発芽を可能にする条件を含み得る。例えば、生物戦剤の胞子を解毒する方法は、胞子とアラニンを有する増殖培地(例えば、完全培地または複合培地)とを接触させる工程を包含し得る。
【0007】
一部の実施形態において、本開示は、生物戦剤を解毒するための組成物を提供し、この組成物は、酵母生体触媒、細菌増殖培地およびアラニンを含む。一部の実施形態にしたがって、生物戦剤を解毒するための組成物は、酵母生体触媒の増殖培地(例えば、消費培地(spent media))を含み得る。このような培地は、緩衝剤および/またはプロテイナーゼインヒビターを含み得る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明
一部の実施形態にしたがって、本開示は、1つ以上のファージ溶解素を使用する生物学的な除染システムおよび方法に関する。
【0009】
疾病管理予防センター(Center for Disease Control)(CDC)は、Bacillus anthracis(炭疽)、Yersinia pestis(ペスト)およびFrancisella tularensis(ツラレミア)を、バイオテロリスト(bioterrorist)の攻撃に使用される可能性が最も高い、カテゴリーAの細菌病原体として列挙している。カテゴリーAの細菌病原体は、高優先度かつ危険性の高い因子として定義される。なぜなら、これらは、:(i)個人から個人へと容易に伝播または伝染し得;(ii)高い死亡率をもたらし、かつ重大な公共衛生の影響の可能性を有し;(iii)大衆のパニックおよび社会の混乱を引き起こし得、そして;(iv)公共衛生の準備に特別な措置を必要とする、からである。これらの3つの細菌病原体の中でも、B.anthracisは、選択される可能性が最も高いバイオテロリストの兵器とみなされている(1、2)。
【0010】
B.anthracisは、動物およびヒトの、好気性、グラム陽性、胞子形成性、非運動性の病原体であり、栄養細胞(vegetative cell)または胞子のいずれかとして2つの状態で存在し得る。複製形態である栄養細胞は、宿主の外ではほとんど生き残れない。対照的に、飢餓状態下で形成され、かつ感染性形態である胞子は、数年にわたって休眠状態で生存し得、化学的および物理的傷害に対して極めて抵抗性である(3、4)。胞子は、アミノ酸および栄養素に富んだ条件下で発芽する(例えば、血液および組織に遭遇した胞子)(5)。発芽時に、毒素(pX02ビルレンスプラスミドにコードされた致死性の毒素および水腫毒素(edema toxin))が放出され、出血、水腫、壊死および敗血症をもたらし、最終的に臓器不全および死をもたらす(6、7)。B.anthracisへの吸入、皮膚または胃腸(GI)曝露によって引き起こされる「自然に発生する」炭疽は、米国においては極めて稀である。例えば、20世紀中、米国において吸入炭疽はほんの18症例しか存在せず、その大半は、ヤギの毛の紡績(goat hair mill)または羊毛の紡績(wool mill)の従業員のような特化したリスク群において生じたか、または実験室の人員の偶発的な汚染によって生じた(2)。同様に、B.anthracisに汚染された肉の摂取によって生じたGI炭疽のほんの単離された症例が、米国で報告された(8、9)。それにもかかわらず、最近の世界の出来事およびテロリストの脅威は、選択される可能性が最も高いバイオテロリストの兵器とみなされている炭疽の曝露のリスクを劇的に増大させた(1、2)。このことは、米国郵便制度においてバイオテロリストがB.anthracisの胞子を放出させた(これは、皮膚炭疽および吸入炭疽の18件の確認された症例を引き起こした)2001年の秋に特に明らかであった(10)。B.anthracis物質は、高い胞子濃度、均一な粒子サイズ、低い静電荷を有し、凝集を低減するように処理されていた。これらの特徴は、この物質が「兵器の等級(weapon grade)」であり、熟練した科学者によって生成された可能性が最も高いことを示していた。症例の総数は比較的少ないが、吸入炭疽に伴う死亡率は45%であり、適切な抗菌治療を受けていたとしても、毒血症の症状を示す患者は全て死亡した(10)。広範な(major)炭疽バイオテロリストの攻撃の影響の可能性は実質的である;主要な都市の風上からの50kgの胞子のエアロゾル化放出は、220,000人を殺傷または通常の生活をおくれなく(incapacitate)し得る(3)。この脅威と組み合わせて、操作された抗生物質(ペニシリンおよびテトラサイクリン)耐性株(これらは、以前のソ連で生成されたことが報告されている)を計画的に放出する可能性がある(11)。
【0011】
B.anthracisの除染。B.anthracis胞子の除染のための既存の方法は難しい。これらの胞子は、その厚いタンパク質様の被覆、低い含水率および/または不溶性の胞子タンパク質に起因して、一般的に熱、乾燥、照射、圧力および化学薬品に耐性である(12、13)。したがって、アルコール、フェノール、イオン性洗剤および非イオン性洗剤、酸およびアルカリのような消毒薬は、限定された効果を有する(4)。胞子の不活化に有用性を示している薬剤としては、二酸化塩素、エチレンオキシド、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、過酸化水素および臭化メチレンが挙げられる(14)。これらの薬剤は、大規模な除染に関しては有利であり得るが、これらは、材料の適合性、換気の要件および毒性に伴う課題を有する。例えば、二酸化塩素は、胞子の外側の被覆(outer coat)を酸化し、それによって胞子の発芽を防止し、そして、2001年の炭疽の攻撃後、除染剤(decontaminant)として使用された。しかしながら、二酸化塩素は、不安定、腐食性であり、使用のために特定の条件を必要とする。ワシントンのThe Hart Senate officeの建物は、二酸化塩素ガスを使用しての除染において、14〜20百万ドルの出費でそれが最終的に効くまで4回の試みを必要とし;Brentwood郵便施設の除染処理は、一年間の計画の遂行、2,000ポンドの化学薬品、75%の相対湿度、75°の温度、そして1億ドルの出費を必要とした(http://groups.msn.com/AAEA/anthrax.msnw)。したがって、無毒性であり、除染の「天然」の方法を利用するストラテジが必要とされる。
【0012】
B.anthracisのファージおよび溶解素。本開示のいくつかの実施形態にしたがって、溶解素のようなファージ由来の酵素の使用が、B.anthracisの排除のための天然かつ特異的なアプローチを提供し得る(15〜17)。B.anthracisのファージは、B.anthracisの同定のために、CDCおよび種々の公衆衛生の研究所によって標準的な臨床診断ツールとして現在使用されている(2)。溶菌性ファージγは、特にこの方法に適している。なぜなら、これは、B.anthracisに特異的であり、かつ広範な株感受性を有するからである(19)。最近の研究において、γファージは、パキスタン、カナダ、アルゼンチン、イングランド、米国および南アフリカのような多様な地理的な場所から収集された51個のB.anthracis株のうち、49個に感染し溶解することができた(20)。あらゆる特定の作用の機構に限定されることなく、γファージは、細胞壁のペプチドグリカン成分を加水分解し、子孫ファージの放出をもたらすPlyG溶解素を産生することによってB.anthracisを溶解し得る。このPlyG酵素が、単離および精製され、そして強力な抗炭疽殺菌剤(bactericidal agent)として機能することが示された(21)。1mlの対数期の細胞に添加した、ほんの2Uの上記酵素(およそ2μgのタンパク質と等しい)は、20秒以内に生存度の17,000分の一の低下、そして2分以内にほぼ滅菌(生存度の10分の1の低減)を引き起こした。この酵素は、莢膜に包まれていない(non−capsulated)株または莢膜に包まれた(capsulated)株のいずれにも等しく良く効き、このことは、莢膜がPlyGの細胞壁への接近をブロックしないことを示していた。この酵素は、種々の媒体(増殖培地、リン酸緩衝液、ヒトの血液)においてその致死的な効果を発揮し得、世界中で単離された種々のクローン性の型に由来する10種のB.anthracis株に対して活性だった。PlyG溶解素はまた、発芽する胞子を標的にすることができ、そして潜在的に致死的なバチルス属の腹腔内感染モデルからBALB/cマウスを救出することができた。重要なことは、ノボビオシンおよびストレプトマイシンのような抗生物質とは対照的に、反復したPlyG曝露の後でさえも、自然発生のPlyG耐性変異体は得られなかった(<5×10−9の頻度)。このことは、PlyG耐性変異体の生成はめったになく、必須の細胞壁成分、ペプチドグリカンをこの溶解素が標的にすることにおそらく起因することを示した。なぜPlyGのような溶菌酵素が抗菌剤ほど有効であるかについての理由は不明だが、子孫ファージを放出し、そして増殖するために細胞壁を迅速に溶解するように、数百万年にわたるそれらの進化と選択とに起因し得る。溶菌性ファージは、実質的に全ての既知の細菌種から同定されているので、対応する溶菌酵素は、病原性細菌の処置のために多大な可能性を提供する(16、17)。例えば、抗菌剤としての溶菌酵素の有用性は、Enterococcus faecalis、Enterococcus faeciumおよびStreptococcus pneumoniaeについて実証されている(15、22、23)。
【0013】
一部の実施形態にしたがって、本開示の酵母生体触媒は、生物戦剤に加えてか、または生物戦剤の代わりに化学兵器(例えば、O−エチルS−[2−ジイソプロピルアミノエチル]メチルホスホノチオレート)を生分解(biodegrade)および/または解毒し得る。したがって、2006年11月30日に出願され、表題「Differentially Fluorescent Yeast Biosensors for the Detection and Biodegradation of Chemical Agents」の国際(PCT)特許出願第PCT/US2006/045761号の開示は、その全体が参考として本明細書に援用される。
【0014】
一部の実施形態において、周囲の環境への機能的なファージ溶菌酵素(例えば、PlyG)の分泌および蓄積は、細胞溶解によってB.anthracisを除染し得る強力な殺菌条件を生成し得る。酵母Saccharomyces cerevisiaeは、精製された酵素処方物および細菌生体触媒と比較して多くの潜在的な利点を提供するので、この開発のために選択され得る。なぜなら、酵母は:(i)堅牢であり、過酷な環境に耐性であり;(ii)極端に安価で、容易に生成および維持することができ;(iii)Saccharomyces Genome Deletion Project(Stanford)によって利用可能な膨大な変異体によって遺伝的に十分に明らかにされており;(iv)機能的な機能的な異種タンパク質を有効に分泌し得(24、25);(v)非病原性であり、かつ(vi)安定で、容易に凍結乾燥され、10年間の貯蔵の後に良好な生存率を示し(26、27)、大量生産および備蓄を可能にするからである。加えて、酵母は、必要なとき、適切な増殖培地に送達された場合に増殖し得、抗菌剤を継続的に分泌し、無制限の供給を提供する。抗炭疽酵母生体触媒は、実施例1に示されるようにファージ溶解素PlyGを分泌する酵母株を生成することによって作製され得る。PlyGをコードする遺伝子は、酵母内での発現のためにコドン最適化(codon optimize)され得、酵母分泌経路を介して溶解素を誘導するプレプロリーダー配列に融合され得る。過剰分泌の表現型を示すS.cerevisiae株が、外部の培地内の酵素の量を亢進させるために利用される。実施例2は、酵母がB.anthracisを除染し得る機能的な酵素を産生するか否かを決定するために実行され得る試験を示す。その後、炭疽菌胞子が生成され得、これらの胞子を殺傷する酵母生体触媒の有用性が、胞子発芽因子(spore germinating agent)と組み合わせて分析され得る。
【0015】
一部の実施形態において、酵母生体触媒は、B.anthracisおよび1つ以上の他の生物戦剤を緩和および/または不活化し得る。例えば、酵母は、所望される各々の細菌標的または予想される標的に対する溶菌酵素を含み得る。しかしながら、グラム陰性細菌病原体を標的にするために、溶解素が内側のペプチドグリカン細胞壁に接近できるようにするために、外膜透過剤(outer−membrane permeabilizer)と組み合わせて、溶解素を送達することが望ましいか、またはそれが必要とされ得る。ウイルスまたは毒素を除染する酵母生体触媒に関して、酵母は、抗ウイルス酵素または複数の毒素を標的にする共通の酵素を分泌するように改変され得る。
【0016】
酵母生体触媒は、一部の実施形態にしたがってヒトに対し安全であり得る。例えば、酵母は、調理および発酵産業でそれらの慣例的な使用により示されるように、非病原性であり得、使用者にほとんど脅威を与え得ないか、または全く脅威を与え得ない。
【0017】
一部の実施形態において、酵母生体触媒は、その使用が意図された場所へ(例えば、旅客用航空機で)容易に輸送され得る。一度、その使用が意図された場所において、生体触媒はその場で増幅され得、所望または必要とされるだけの量の生体触媒を生成し得る。酵母触媒は、例えば、重量および/または容積を最小化するために乾燥状態で保存され得る。乾燥酵母生体触媒は、一部の実施形態において、粉末化された増殖培地を含み得る。例えば、乾燥酵母生体触媒は、単に水を添加することによる再構成を可能にするように処方され得る。
【0018】
あらゆる機構に制限されることなく、酵母生体触媒は、「天然」のストラテジを使用してB.anthracisを殺傷しうる。たとえそうでも、除染が完了した後に、酵母を除去および/または殺傷することが望ましいかまたは必要とされ得る。一部の実施形態にしたがって、このことは、特定の栄養素または他の化学薬品を厳密に要求するように酵母を操作することによって達成され得る。本開示の酵母生体触媒は、細菌生体触媒よりも広いスペクトルの環境条件(例えば、温度)で動作し得る。一部の実施形態において、酵母生体触媒(例えば、凍結乾燥調製物)は、10年間の貯蔵期間後に最大25%または25%超の生存率を示し得る。
【実施例】
【0019】
本開示の一部の特定の実施形態が、以下の実施例を少なくとも部分的に参照することによって理解され得る。これらの実施例は、本開示の全ての局面をその全体で代表するとは意図されていない。バリエーションは、当業者に明らかである。以下の実施例1〜3は予測的である。
【0020】
実施例1:抗炭疽酵素PlyGを分泌し得るS.cerevisiae株の生成
過剰分泌の表現型を示す酵母変異体株は、γファージのplyg遺伝子(溶解性PlyG酵素をコードする)を過剰発現するように遺伝子操作され得る。plyg遺伝子は、酵母での効率的な発現を確実にするようにコドン最適化され得、分泌経路を介して酵素を誘導するようにコンセンサスリーダーペプチドに融合され得る。PlyG酵素が酵素溶解産物中に、そして細胞外培地に分泌タンパク質として存在することを実証するためにSDS−PAGEを実行し得る。
【0021】
細胞全体の酵母生体触媒は、生物戦剤を除染するために使用され得る、安価、安定、独立型(self−contained)の生物学的システムを提供し得る。S.cerevisiaeは、これらの研究のために特に適切であり得る。なぜなら、同酵母は、遺伝学的に扱いやすく、タンパク質の異種発現に広範に使用され(29)、そして他の微生物よりも一般的により堅牢でかつ「頑丈」からである。S.cerevisiaeは、凍結乾燥(freeze−drying)および保存に続く10年間の貯蔵期間の後に約10〜25%の生存率を示す(26−28)。したがって、このことは、調製物の物流上の負担(logistical burden)、備蓄および多様な条件での使用を軽減し得る。酵素処方物および化学的な除染溶液とは対照的に、生きている酵母は、固定量ではなく、必要とされる場合に増幅され得る。
【0022】
B.anthracisを、実施例1のための標的として選択した。なぜなら、(a)それは、カテゴリーAのバイオテロリストの病原体であり、(b)最近、アメリカ大陸の土壌でバイオテロリストの兵器として使用されており、(c)選択される可能性が最も高い生物戦兵器として分類される、からである(1、2)。広い宿主範囲のγファージ由来のPlyG溶菌酵素は、B.anthracisを除染するために酵母によって分泌され得る殺傷成分として使用され得る。PlyGをコードする遺伝子は、ゴルジ装置および分泌経路を介してそのタンパク質を標的にする合成プレプロリーダー配列に融合され得る。合成配列を使用しての異種タンパク質の分泌は、最大140μg/mlの機能的な分泌タンパク質をもたらした(25、30)。外部の培地への異種タンパク質の亢進された放出を示すS.cerevisiae過剰分泌変異体株は、例えば、PlyG分泌を最大化するために使用され得る(31)。外部の培地へ機能的な異種タンパク質を分泌するS.cerevisiaeの能力は、十分に確立されている(32〜36)。
【0023】
シグナル分泌プレプロペプチド−plyg融合物の構築。シグナル分泌プレプロペプチド−plyg融合物を構築し得、そして酵母での発現のためにコドン最適化し得る。酵母GAL1Oプロモーターの転写制御下にあるplyg融合遺伝子を含む酵母発現プラスミドが構築され得、そして超分泌(super−secreting)S.cerevisiae変異体株へ形質転換され得る。組換えS.cerevisiae細胞によるPlyGの産生は、SDS−PAGE分析によって酵素溶解産物および外部の培地においてアッセイされ得る。
【0024】
酵母の分泌系は、タンパク質を折り畳み、タンパク分解処理し(proteolytically process)、グリコシル化し、そして分泌する能力を有する。例えば、S.cerevisiaeは、最大100μg/mlでα接合因子を分泌する(35)。分泌は、タンパク質をゴルジ装置および分泌経路へ標的にし得るプレプロリーダー配列によって媒介される。α因子プレプロリーダーは、古典的なリーダーであり、酵母および他の種において多くのタンパク質の分泌に使用されてきた(32〜34)。設計された合成リーダー配列は、有用性および異種タンパク質の増大した分泌も示している(37)。合成プレプロリーダー配列MKVLIVLLAIFAALPLALA−QPVINTTVGSAAEGSLDKR−EAは、分泌経路を介してPlyGを誘導するために使用され得る(25);最初のダッシュは、推定上のシグナル切断部位を表し、そして二番目のダッシュは、成熟タンパク質の正しいプロセシングのためのKex2p切断部位を表す。スペーサーペプチドが、融合タンパク質のKex2pプロセシングを最適化するために、リーダー配列と遺伝子との間に存在し得る(38)。このリーダー配列は、PlyG溶解素をコードする遺伝子(Genbank #AF536823)に融合され得る。PlyGは、673アミノ酸および約27000(M 27KDa)の予想質量の比較的小さなタンパク質である。コドン使用図示分析器(graphical codon usage analyzer)(www.gcua.de)を使用したリーダー配列とplyg遺伝子との分析は、この融合配列が多くのまれにしか使用されないS.cerevisiaeのコドンを含むことを示している。したがって、このプレプロリーダー−plyg配列は、酵母内での効率的な発現を確実にするためにコドン最適化され得る。コドンおよびmRNAの構造上の最適化および生成は、Bio S&T Incによって実行され得る。プレプロリーダー−plyg融合物は、クローニングを簡単にするために、それぞれ5’末端および3’末端に制限エンドヌクレアーゼ部位EcoRIおよびBglIIを取り込むように設計され得る。加えて、好ましい酵母翻訳開始配列
【0025】
【化1】

は、リーダーペプチドのATG(太字)開始コドンの直前に配置され得る(39)。
【0026】
酵母PlyG発現プラスミドの構築。プレプロリーダー−plyg融合遺伝子は、標準的な分子生物学技術(40)を使用してE.coli/S.cerevisiae発現ベクターpESC−URA(Stratagene)のEcoRI部位とBglII部位とに一方向的に(directionally)クローニングされ得、pPLYG−URAを生成し得る。pESC−URAプラスミドは、酵母2μ起点およびS.cerevisiaeでの増殖および選択のためのURA3栄養要求マーカー遺伝子、ColE1起点およびE.coliでの増殖および選択のためのβ−ラクタマーゼ遺伝子、S.cerevisiaeでの発現の抑制(デキストロース)または誘導(ガラクトース)のためのGAL10制御可能プロモーター、ならびにGAL10プロモーターの下流の転写終結配列を含む。EcoRI部位およびBglII部位へのクローニングは、誘導された発現および分泌タンパク質とB.anthracis殺傷との相関を可能にする誘導性GAL10プロモーターの転写制御下にplygを置く(実施例2)。さらに、翻訳開始シグナルおよび非常に強力なGAL10プロモーターからの発現の最適化(41)は、産生されるPlyG溶解素の量が律速因子ではないことを確実にするはずである。クローニングおよび増殖(propagation)を、E.coli XL1−Blue MRF’(Stratagene)で実行し得る。診断的な制限エンドヌクレアーゼ消化およびアガロースゲル電気泳動を、正しいクローンが選択されたことを確かめるために使用し得る。融合遺伝子の配列は、デオキシ色素ターミネーター配列決定によって確かめられ得る。
【0027】
S.cerevisiaeの形質転換。plyg遺伝子を、S.cerevisiaeの染色体に安定的に組込み、安定な酵母生体触媒を生成し得るが、plygのエピソーム発現が、抗生物戦剤活性を有するのに十分であり得る。S.cerevisiae変異体株(MATa his3D1 leu2DO lys2DO ura3DO DMNN10)(ATCC4013604)が、これらの研究に使用され得る。この変異体株は、MNN10(細胞壁のマンノタンパク質の生合成の原因であるマンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子)が欠失している。MNN10変異体は、培地への分泌タンパク質の放出に影響を与え得るマンノタンパク質の細胞壁含量の変化におそらく起因して、異種タンパク質を分泌する能力の増大を示す(31)。このS.cerevisiae変異体株を、酢酸リチウム(LiAc)形質転換手順(42)を使用してpPLYG−URAおよび空のコントロールベクターpESC−URAで形質転換し得る。簡潔に述べると、一晩の定常期培養物を、200μg/mlジェネティシンを補充した300ml YPD(2%バクトペプトン(bacto−peptone)、1%酵母抽出物、2%デキストロース[グルコース]、pH5.8)に接種し得、0.5のOD600が達成されるまで30℃で増殖され得る。この培養物を、50ml TE緩衝液で洗浄し得、1.5mlの新鮮に調製した1×TE/LiAc溶液(10mM Tris−HCl、1mM EDTA、0.1M LiAc、pH7.5)に再度懸濁し得る。酵母コンピテント細胞(0.1ml)を、プラスミド(0.1μg)およびニシン精巣キャリアDNA(0.1mg)に添加し得、そして追加の0.6ml TE/LiAc+40%PEG溶液を添加し得る。30℃での30分間のインキュベーション後、70μlのDMSOを添加し得、この混合物に、42℃で15分間、熱ショックを与え得る。この混合物をペレットにし得、0.5mlのTEで再懸濁し得る。この混合物を、ウラシルを欠く合成ドロップアウト(synthetic dropout)(SD)デキストロース寒天培地(Clontech)に蒔き得(100μl)、コロニーが出現するまで(通常2〜4日)30℃でインキュベートし得る。10〜10/μgDNAの形質転換効率が代表的に取得される。
【0028】
PlyG酵素を産生する組換え酵母の能力は、SDS−PAGEによって酵素溶解産物および培養物の上清を用いて評価され得る。酵素溶解産物は、PlyGが発現されていることを確かめるために最初に分析され得る。次に、培養物の上清が、このタンパク質が培養物の上清中に存在し、組換え酵母によって分泌されていることを実証するために分析される。機能的、活性なPlyGの存在が、例えば、実施例2に記載されるように実証され得る。
【0029】
酵素溶解産物は、プラスミドpPLYG−URA(PlyG+)または空のコントロールプラスミドpESC−URA(PlyG−)を保持する酵母細胞から調製され得る。S.cerevisiae PlyG+およびPlyG−(コントロール)細胞を、約0.5のOD600が達成されるまで、2%ガラクトースを含むSD培地(SDgal、pGAL10誘導条件)において37℃で増殖させる。培養物を、遠心分離によって回収し得、酵素溶解産物を、室温(RT)で20分間、Y−MER透析可能溶解緩衝液(Pierce Biotechnology)で細胞をインキュベートし、24,000×gで15分間、遠心分離することによって調製し得る。総タンパク質をBradford試薬を使用して測定し得、等量の酵母溶解産物をSDS−PAGEによって分離し得、PlyGの存在について分析し得る。陽性コントロールとして、精製PlyGを同時に分析し得る。PlyGは、先に記載されたように、PlyG発現ベクターを保持するE.coli細胞から精製され得る(21)。簡潔に述べると、洗浄した細胞をクロロホルムを用いて溶解し得、粗製のPlyGを取得し得る。PlyGを、HiTrap Q Sepharose XLカラム(Amersham)を通過させ、Mono S HR 5/5カラムに結合させ、1M NaClを含む線形勾配で溶出させ得る。SDS−PAGEは、細菌から精製されたPlyG(M 27KDa)よりもわずかに大きい(これは、プロセシングされていないプレプロリーダーペプチドの存在に起因する)サイズで、pPLYG−URAプラスミドを保持する酵母細胞から調製されたPlyGの存在を示すことが期待される。
【0030】
培養物の上清を、分泌されたPlyGの存在について分析し得る。S.cerevisiae PlyG+およびPlyG−酵母細胞を、24〜36時間、または約2.0のOD600が達成されるまで、先に記載されたように最小培地において増殖させ得る。細胞を含まない培養物の上清は、遠心分離、そして培養物を0.25μmフィルターに通過させることによって調製され得る。次に、細胞外(分泌された)タンパク質は、例えば、限外濾過によって培養物の上清から濃縮される。タンパク質は、SDS−PAGEによって分離され得、銀染色によって視覚化され得る。酵母は多くのタンパク質を分泌せず、そして窒素ベースの最小酵母培地(minimal yeast nitrogen based media)(複合培地と比較して多くのタンパク質を欠く)が組換え酵母を増殖させるために使用され得るので、PlyGの存在は目に見えることが期待される。同様のストラテジを使用して、Parekhら(25、30)は、培養物の上清において最大140μg/mlの分泌された活性なウシ膵トリプシンインヒビターを検出した。PlyGタンパク質は、例えば、実施例2に記載される機能の研究のために、細菌培養物からのPlyGの精製と同様なストラテジを使用して、濃縮した酵母上清から精製され得る。
【0031】
組換え酵母によって分泌されるPlyGの量が最適以下であるかまたは最適以下であり得ることが決定され得る。分泌されるタンパク質の量を最大化するために、タンパク質を分泌する能力の亢進が実証された特異的な酵母変異体が使用され得る(31)。超分泌(super secreting)表現型を示す他の変異体(36)が使用され得る。Saccharomycesゲノムプロジェクトは、酵母の6,200個のオープンリーディングフレームのうちの95%を成功裏に欠失させ、豊富な情報および変異体を提供した。したがって、他の実施形態において、他の酵母変異体および/または代替的なプレプロリーダー分泌ペプチドが、PlyG(または他の溶解素)の分泌を最大化するために利用され得る(24)。
【0032】
酵母2μプラスミドからのPlyGタンパク質のエピソーム発現が、この実施例で使用され得る。
【0033】
他の実施形態において、plyg遺伝子(または他の溶解素の遺伝子)は、酵母ゲノムに安定に組み込まれ得る。このような安定な組込みは、選択圧の不在下であっても多くの世代にわたって挿入されたDNA配列を維持する、安定なクローン性の酵母集団をもたらし得る(30、44)。組み込まれたコピーの数は、酵母ゲノムにおける標的部位の数に比例し得る(51)ので、複数コピーの組み込まれたDNAを保持する酵母細胞は、挿入配列が複数コピー中に存在する場合に生成され得る。したがって、PlyGをコードする遺伝子は、相同組換えによってリボソームDNA(rDNA)遺伝子座(これは、第XII染色体上にタンデムで反復する約140コピーの9.1kbの単位を包含する)に対して標的にされ得る(52)。rDNA遺伝子座を標的にすることによって、ホスホグリセレートキナーゼ(PGK)が、1細胞あたり100〜200コピーで組み込まれ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーターから発現させた場合、可溶性タンパク質全体のうちの約50%に相当した(44)。GAPDHプロモーターは、PlyG発現を駆動するために使用され得る。なぜなら、それは、強力かつ構成的に発現されるからである(30、44、53、54)。最適な発現シグナルの使用、酵母ゲノムへの複数コピーのPlyGをコードする遺伝子の組込み、および選択圧の不在下でさえもplyg遺伝子を維持する安定な酵母株の生成は、研究室の外で機能し得る効率的な酵母生体触媒を生成する。
【0034】
実施例2:酵母生体触媒が、B.anthracisを効率的かつ迅速に殺傷する機能的なPlyGを分泌することの確認
精製PlyGおよびS.cerevisiae培養物の上清を、植物性に(vegetatively)増殖するB.anthracisとともにインキュベートし得る。有毒な選択された因子(virulent select agent)を使用することによる安全性および規制上の問題を排除するために、弱毒化したB.anthracis Sterne 34F2株を使用し得る。B.anthracisを除染する分泌されたPlyG酵素を含む培養物の上清の機能性を、位相差顕微鏡法、600nmの光学濃度(OD600)での分光光度測定およびコロニー形成能力(CFU)によって分析し得る。殺傷の速度論を、最初の接触から細菌の生存度の喪失までの時間を測定することによって評価し得る。培養培地中で十分な機能的な量のPlyGを生成するのに必要とされるインキュベーション時間が測定され得る。
【0035】
広い宿主範囲のB.anthracisのγファージに由来するPlyG溶菌酵素は、B.anthracisを除染する殺傷成分として使用され得る。PlyGのようなファージ溶菌酵素は、新たに形成された子孫ファージを放出するために細菌細胞壁を迅速かつ効率的に溶解するように数百万年にわたって進化してきた。この酵素は、全ての細菌に一般的なペプチドグリカン成分を加水分解することによって細胞壁を標的にする。ほんの2μgのPlyGは、2分間のインキュベーションの後に、細胞の生存度に10分の1の低減を引き起こし得る(21)。重要なことに、PlyGは、多様な世界中の場所から収集された分離菌に対して機能し、広い株活性(strain activity)を示す。PlyGの広い株活性は予期されなかったわけではない。なぜなら、それは、ラフ(rough)な株およびスムーズ(smooth)な(被包性の)株の両方を含むほとんど全てのB.anthracis分離菌を溶解するγファージに由来するからである。
【0036】
pPLYG−URAを保持する組換え酵母細胞は、B.anthracisを効率的かつ迅速に殺傷し得る機能的なPlyGを分泌し得る。
【0037】
B.anthracisを殺傷する分泌されたPlyGの能力を分析し得る。実施例1から得られた精製PlyGおよびPlyG+ S.cerevisiae由来の細胞を含まない培養物の上清を、植物性に増殖するB.anthracisとともにインキュベートし得る。有毒な選択された因子を使用することによる安全性および規制上の問題を排除するために、弱毒化したB.anthracis Sterne 34F2株を使用し得る。B.anthracisを殺傷する分泌されたPlyG酵素を含む上清の機能性を、位相差顕微鏡法、分光光度測定(OD600)およびコロニー形成能力(CFU)によって分析し得る。殺傷の速度論を、最初の接触から細菌の生存度の喪失までの時間を測定することによって評価し得る。殺傷を媒介する、培養培地中で十分な量の機能的なPlyGを生成するのに必要とされるインキュベーション時間が測定され得る。
【0038】
B.anthracis殺傷アッセイ。増殖性(vegetative)B.anthracisを殺傷する酵母PlyG+培養物の上清および精製PlyG(酵母培養物の上清から調製した)の能力を、(i)分泌されたPlyGが機能的に活性であることを実証するために、および/または(ii)組換え酵母が、B.anthracisを殺傷するのに十分な量で機能的なPlyGを分泌することを実証するために、評価し得る。弱毒化したB.anthracis Sterne 34F2株(Colorado Serum company Cat#19102)は、これらの実験に使用し得る。
【0039】
有毒なB.anthracis株は、感染に必要とされる2つのビルレンスプラスミドを保持する;pXO1(これは、3つからなる体外毒素(防御抗原、水腫因子(edema factor)および致死因子)の合成を制御する)およびpX02(これは、ポリ−D−グルタミン酸莢膜の合成の原因となる)。B.anthracis Sterne 34F2株は、pX02被包プラスミドを欠き、インビトロ研究のための毒性の少ない代替物として一般的に使用される(45〜47)。
【0040】
細胞を含まない培養物の上清は、組換えPlyG+およびPlyG−酵母から調製され得る。酵母培養物とは反対に、細胞を含まない上清は、B.anthracisのみに起因するOD600およびCFUの変化を測定するために、B.anthracis殺傷アッセイにおいて使用され得る。S.cerevisiae PlyG+およびPlyG−細胞は、約24時間にわたってかまたは培養物が飽和するまで、37℃で2%ガラクトースを含有するSD培地(SDgal、pGAL10誘導条件)で増殖され得る。この培養培地は、中性近くのpHに培養物を維持するために、100mM HEPES pH7.5を使用して緩衝化され得る。酵母細胞は、2,500×gで10分間遠心分離することによって収集され得る。そして得られた上清を、0.25μmフィルターを通過させ、PlyG+およびPlyG−の細胞を含まない上清を生成し得る。B.anthracis Sterneを、0.6のOD600までBrain Heart Infusion(BHI)培地で増殖させ得る。
【0041】
指数増殖する栄養細胞を、4つの等しいアリコートに分割し得、4,000×gで10分間遠心分離することによって回収し得る。得られたペレットを、以下を使用して再懸濁し得る:
(i)PlyG−の細胞を含まない上清(陰性コントロール);
(ii)細菌培養物から調製した、2μg/mlの精製PlyGを含む、PlyG−の細胞を含まない上清(実施例1、陽性コントロール)。この陽性コントロールは、「消費された(spent)」酵母培養物の上清において機能する精製PlyGの能力を実証する。等量の2μg/mlの細菌の精製PlyGは、B.anthracis生存度において20秒以内に17,000分の1の低下、そして2分で10分の1の低下を引き起こした(17、21);
(iii)酵母培養物の上清(実施例1)から調製された、2μg/mlの精製された分泌PlyGを含むPlyG−細胞を含まない上清。これは、酵母PlyGの活性を実証する;または
(iv)PlyG+細胞を含まない上清(これは、「消費された」培地において機能する酵母酵素の能力を実証する)。
【0042】
培養物のOD600および細胞の生存度を、時間0と30分間にわたって5分間隔で測定し得、どの程度迅速に酵母精製PlyG、および分泌されたPlyGを含む培養物の上清がB.anthracisを溶解し得るかを決定し得る。細胞の生存度を、BHI寒天平板上に連続希釈したB.anthracis細胞(および、したがってPlyG酵素)を蒔き(plate out)、そして37℃での24〜48時間の増殖後にコロニー形成単位(CFU)をカウントすることによって測定し得る。位相差顕微鏡法もまた、細胞形態学における特徴の変化を探すために利用され得る。線状細胞から杆体様の形態への表現型の外観における変化、そして細胞質の物質の喪失に起因する「ゴースト」細胞の形成(細胞溶解)が、予想される(21)。これらの結果は、以下のことを実証することが期待される:(i)酵母培養物の上清から精製されたPlyGが機能的であり、B.anthracisを溶解し得る;(ii)処理されていない酵母培養物の上清が、B.anthracisを溶解するのに十分な量で、分泌されたPlyGを含む、そして(iii)PlyG+の上清がB.anthracisを迅速に溶解し得る。
【0043】
PlyGがB.anthracisを溶解し得る速度は、生体触媒の効率の重要な構成要素である。周囲の培地中に殺傷を媒介するのに十分な量の分泌PlyGを生成するのに必要な時間はまた、生体触媒の効率についての必須の考慮事項である。したがって、S.cerevisiae PlyG+およびPlyG−の細胞は、0.8のOD600まで37°Cでの緩衝化SDgalで増殖され得る。酵母細胞を、遠心分離(10分間、2,500×g)によって収集し得、等しい容積のリン酸緩衝化生理食塩水で洗浄し得、そして新鮮な培地に再懸濁し得る。培養物の上清のアリコートを、30分の間隔で機能的なPlyGについてアッセイし得る。先に記載したように、細胞を含まない培養物の上清を収集し得、そして指数増殖する増殖性B.anthracisとともにインキュベートし得る。機能的なPlyG+の上清を生成するのに必要な時間は、PlyGを欠く上清と比較したB.anthracisのOD600および細胞の生存度の変化によって評価され得る。B.anthracisの生存度が、培地中のPlyGの蓄積に起因して時間が増加するにつれて低下することが期待される。
【0044】
外部の培地へ機能的な異種タンパク質を分泌するためにS.cerevisiaeを使用することは、十分に確立されている(32〜36)。種々の哺乳動物タンパク質は、50μg/mlおよび200μg/mlとの間のレベルで酵母から分泌されている(35)。PlyGは大型のタンパク質ではなく(M 27KDa)、極めて有効な溶解素であるので、分泌効率は、B.anthracis殺傷を媒介するのに十分なPlyGを生成することが期待される。PlyG溶解素は、細菌増殖培地において機能的であり、一部血中で活性であり、そして致死的なバチルス属感染からマウスを救出し得る(17、21)。このことは、PlyGがかなり安定であることを示唆する。
【0045】
酵母培地(例えば、消費された培地)は、溶解素の機能を妨害する1つ以上の細胞外プロテアーゼまたは他の物質(例えば、老廃物)を含み得る。例えば、消費された培地のpHは、約4〜約5であり得る。したがって、一部の実施形態において、培地は、溶解素の機能を改善するために処理され得る。このことは、プロテアーゼを除去すること、1つ以上のプロテアーゼインヒビターを添加すること、および/または100mM HEPES緩衝液(pH7.5)でのSDgalを補充することが挙げられ得る。
【0046】
あるいは、pH値および温度の範囲にわたって活性を示す種々のB.anthracis溶解素が利用され得る。例えば、PlyPHは、4という低いpHおよび10という高いpHで活性を示すB.anthracis溶菌酵素である。PlyPHはまた、4℃および60℃、そして比較的高い塩濃度(150mM)で完全な活性を維持する(48)。
【0047】
実施例3:B.anthracisの胞子を除染する酵母生体触媒の有効性の評価
胞子の発芽を補助する条件下で機能する酵母生体触媒の能力を分析し得る。
【0048】
胞子は、生物戦/バイオテロリストの攻撃に使用され得る感染性かつ兵器化された形態である(1〜3)。B.anthracisの胞子は、飢餓状態下で形成され、物理的および化学的な傷害に対して極めて耐性である(4)。胞子は、ヒト宿主内で遭遇される、アミノ酸および栄養素に富んだ条件下で発芽する。発芽時に、出血、水腫および壊死を引き起こす毒素(致死性の毒素および水腫毒素)が放出され得る。吸入症状としては、発熱および悪寒、倦怠、咳、悪心および胸部の不快感が挙げられる;処置されない感染したヒトのうちの99%が死亡する。
【0049】
細菌胞子の除染は、難しい処理であり得る。洗剤、アルコールおよびフェノールのような大半の消毒薬は、胞子に対して有効ではない。PlyGは、栄養細胞および発芽している胞子を溶解するが、しかしながら、胞子は、PlyGに誘導された溶解に対して耐性であり得る。なぜなら、ペプチドグリカン細胞壁は、厚いタンパク質様の外側の胞子の被覆によって保護されているからである(17、21)。胞子を標的にし、そしてこの制限を克服するために、酵母生体触媒は、胞子の発芽を誘発するアミノ酸または栄養素とともに送達され得る。胞子は、L−アラニンのようなアミノ酸の存在によって迅速に発芽するように誘導され得る(49、50)。したがって、B.anthracisの胞子を除染する酵母生体触媒の効率および実行可能性は、胞子発芽因子と組み合わせて送達された場合に分析され得る。
【0050】
B.anthracis Stemeの胞子が生成され得る。新鮮な培地、およびL−アラニンの存在下での培養物の上清(消費された培地)において発芽する胞子の能力が分析され得る。胞子発芽因子と組み合わせて使用された場合にB.anthracisの胞子を殺傷する酵母PlyG+生体触媒の能力が分析され得る。
【0051】
B.anthracisの胞子の生成。単一のB.anthracis Sterneのコロニーを、激しく振とうしながら37℃で0.5%グリセロールを補充したBHI培地で一晩増殖させ得る。胞子は、栄養飢餓の条件下で形成され得る。したがって、胞子は、一晩培養物を最小培地(0.5mM MgCl.6HO、0.01mM MnCl.4HO、0.05mM FeCl.6HO、0.05mM ZnCl、0.2mM CaCl.6H0、13mM KHPO、26mM KHPO、20μg/mlグルタミン、1mg/ml酸性カゼイン加水分解産物、1mg/ml酵素性のカゼイン加水分解産物、0.4mg/ml酵素性の酵母抽出物および0.6mg/mlグリセロール)で1:10に希釈し、振とうしながら37℃でインキュベートすることによって生成され得る(49、50)。48時間後、位相差顕微鏡法が、屈折性の胞子の存在を示すために使用され得る。より大きな栄養細胞(1〜8μmの長さ、1〜1.5μmの幅)と比較すると、胞子は小さく(1μm)、そして「明るい相(phase bright)」である;培養物は、>90%の胞子から構成されると期待される。培養物を、1,500×gで30分間遠心分離し得、無菌dHOで3回洗浄し得、そして1mlのdHOに再懸濁し得る。65℃で30分間インキュベーション(増殖性形態のみを殺傷する)した後、胞子を、dHOで4回洗浄し得、ペレットの最上層を各洗浄ごとに捨て得る。位相差顕微鏡法を使用して、得られた懸濁物は、最小の増殖性の残骸を含む>95%胞子から構成されることが期待される。胞子は、血球計算板を使用することおよび37℃でBHI寒天上での増殖の後にコロニーカウンティングによって計数され得る。胞子は、必要とされるまで室温で貯蔵され得る。
【0052】
胞子の発芽。胞子は、飢餓状態下で形成させ得るが、栄養素およびアミノ酸が豊富な条件下で発芽し得る。特に、B.anthracisの胞子は、アミノ酸L−アラニンを補充した培地で容易かつ迅速に発芽される(47、49、50)。酵母生体触媒と適合性の条件下で胞子の発芽の効率を決定するために、1×10個のB.anthracisの胞子を、以下のいずれかにRTで再懸濁し得る:(i)50mM HEPES(pH7.5)で緩衝化した新鮮なSDgal;(ii)100mM L−アラニンを補充した、新鮮な緩衝化SDgal;(iii)飽和した野生型酵母培養物から調製された、細胞を含まない緩衝化SDgal培地(「消費された」)、および(iv)100mM L−アラニンを補充した、飽和した野生型酵母培養物から調製された、細胞を含まない緩衝化SDgal培地(「消費された」)。発芽の効率は、位相差顕微鏡法、OD450nmでの吸光度の変化、および30分間、65度での熱処理後のCFU(発芽している胞子のみが熱感受性であり得るが、発芽していない胞子は耐性であり得る)によってモニタリングされ得る。胞子の発芽は、分析される全ての条件下で明らかであるが、L−アラニンを補充した培地中で最大であることが期待される。必要とされる場合、消費された培地を、発芽を増強する血清のような他の因子で補充し得る(45)。最適な条件下で、>95%の発芽が、15分以内に取得されうる(49)。
【0053】
胞子殺傷アッセイ。B.anthracisの胞子を殺傷する酵母生体触媒の能力は、上記で決定される胞子の発芽条件下で決定され得る。1×10個のB.anthracisの胞子を、必要とされる場合、L−アラニンを補充した、緩衝化された細胞を含まないPlyG+の上清またはPlyG−の上清のいずれかで再懸濁され得る。発芽している胞子を溶解する酵母PlyG+の上清の能力を、コントロールの上清と比較し得る。最初の接触から細胞の生存度の喪失までの時間は、連続希釈したB.anthracisを蒔き、37℃でBHI寒天培地上での24〜48時間の増殖後に、CFUを測定することによって評価され得る。
【0054】
除染は、効率的な胞子の発芽によって増強され得る。発芽因子を補充した最小(SDgal)培地を、胞子の発芽を誘導するために使用し得る。胞子の発芽は、栄養素の利用可能性によって誘発されうるので、例えば、染色体に組み込まれた溶解素遺伝子を有する生体触媒を含む複合培地が使用され得る。増殖および選択は、YPDのような複合培地(これは、胞子の発芽により助けとなり得る)中の抗生物質耐性マーカー(例えば、ジェネティシン)によって媒介され得る。
【0055】
参考文献
以下の文書の各々は、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【0056】
【化2】

【0057】
【化3】

【0058】
【化4】

【0059】
【化5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物戦剤を解毒するための酵母生体触媒であって、該酵母生体触媒は:
プレプロリーダー配列に作動可能に連結されたファージ溶解素をコードする核酸;
該核酸に作動可能に連結された発現制御配列;および
生体有効量の該ファージ溶解素を含み、
ここで、該酵母は、Saccharomyces cerevisiaeであり、該ファージ溶解素は、生物戦剤を実行可能に解毒し、該溶解素は、PlyGおよびPlyPHからなる群より選択され、そして該生物戦剤は、Bacillus anthracisの胞子である、酵母生体触媒。
【請求項2】
生物戦剤を解毒するための組成物であって、該組成物は:
酵母生体触媒
細菌増殖培地;および
アラニンを含み、
該酵母生体触媒は:
プレプロリーダー配列に作動可能に連結されたファージ溶解素をコードする核酸;
該核酸に作動可能に連結された発現制御配列;および
生体有効量の該ファージ溶解素を含み、
ここで、該酵母は、Saccharomyces cerevisiaeであり、該ファージ溶解素は、生物戦剤を実行可能に解毒し、該溶解素は、PlyGおよびPlyPHからなる群より選択され、そして該生物戦剤は、Bacillus anthracisの胞子である、
組成物。
【請求項3】
生物戦剤を解毒する方法であって、該方法は:
解毒を可能にする条件下で、生物戦剤と酵母生体触媒とを接触させる工程を包含し、ここで、該生物戦剤はBacillus anthracisの胞子であり、
該酵母触媒は、Saccharomyces cerevisiaeであり、該酵母触媒は:
プレプロリーダー配列に作動可能に連結されたファージ溶解素をコードする核酸;
該核酸に作動可能に連結された発現制御配列;および
生体有効量の該ファージ溶解素を有し、ここで、該ファージ溶解素は、生物戦剤を実行可能に解毒し、該溶解素は、PlyGおよびPlyPHからなる群より選択される、方法。
【請求項4】
前記Bacillus anthracisの胞子とアラニンを有する増殖培地とを接触させる工程をさらに包含し、ここで該アラニンを有する増殖培地は胞子の発芽を可能にする、請求項3に記載の生物戦剤を解毒する方法。

【公表番号】特表2010−515692(P2010−515692A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545004(P2009−545004)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/050378
【国際公開番号】WO2008/134090
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(508159374)ギルド アソシエイツ, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】