説明

生物脱臭方法、生物脱臭システム

【課題】悪臭漏れ及び脱臭性能の経時的な低下を防止することができ、しかもコスト性にも優れた生物脱臭システムを提供すること。
【解決手段】本発明の生物脱臭システム10は、循環散水運転方式の生物脱臭装置11と脱窒装置12と有機物供給装置13と制御装置14とを備える。制御装置14はポンプ49を制御することにより、有機物供給装置13から供給される有機物Oの量を調整し、循環水W2に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を2500ppm以下の値に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝化作用を有する微生物によりアンモニアを硝酸等に変えて脱臭する生物脱臭方法、生物脱臭システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機性廃棄物の堆肥化プラント、下水処理場、畜舎、食品加工工場等において発生する悪臭ガス(例えば、アンモニアガス)を、微生物を利用して生物学的に脱臭する生物脱臭装置を備えた生物脱臭システムがよく知られている。一般的にこの種の生物脱臭システムにおける生物脱臭装置は、アンモニアガスが導入される容器を備えており、その容器内には脱臭用微生物を担持させた充填担体が充填されている。容器内に導入されたアンモニアガスは、充填担体を通過する際に脱臭用微生物の作用(硝化作用)により脱臭された後、排気ダクトを介して容器外に排出されるようになっている。また、充填担体の上部には散水器が配設されており、その散水器から充填担体に対して水を散水することで、脱臭用微生物の活性が維持されるようになっている。
【0003】
このような生物脱臭装置には、水を掛け捨てにする非循環散水方式と、容器内に溜まった水を捨てずに回収して散水用水として再利用する循環散水方式とがある。しかしながら、前者の非循環散水方式はコスト性や環境性の点で難点があるため、現在では後者の循環散水方式のほうが望ましいと考えられている。ただし、循環散水方式を採用した場合、微生物の硝化作用によりアンモニアから生成された硝酸や亜硝酸が散水用水に蓄積するため、そのまま使用していると次第にその濃度を増していく。そして、このような高濃度の硝酸、亜硝酸を含む散水用水が散水されると、脱臭用微生物の活性が低下し、長期にわたって脱臭性能が維持されなくなる。
【0004】
そこで、上記の欠点を解消しうる循環散水方式の生物脱臭装置として、例えば、散水用水のイオン濃度に従って新水を補給して希釈し、散水用水のイオン濃度を適正濃度まで下げて散水を行う技術が従来提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−42353号公報(図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来技術の場合、散水用水のイオン濃度を適正濃度まで下げるためには大量の新水を補給する必要があり、それに伴って生物脱臭装置の運転中に大量の廃水が生じてしまう。ゆえに、廃水処理費と水代とがかかり、ランニングコストが高くなるという問題がある。また、大掛かりな廃水処理設備などが別途必要になり、設備コストも高くなるという問題もある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、悪臭漏れ及び脱臭性能の経時的な低下を防止することができ、しかもコスト性にも優れた生物脱臭方法、生物脱臭システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、硝化作用を有する微生物によりアンモニアを硝酸及び/または亜硝酸に変えて脱臭する循環散水運転方式の生物脱臭装置と、前記生物脱臭装置とは別体で設けられ、脱窒作用を有する微生物により硝酸及び/または亜硝酸を窒素に変える脱窒装置と、前記脱窒作用を有する微生物の養分となる有機物を前記脱窒装置に供給する有機物供給装置とを備え、前記生物脱臭装置と前記脱窒装置との間を循環水が循環するように構成された生物脱臭システムを用いた生物脱臭方法において、前記循環水に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を2500ppm以下の値に維持する制御を行うことを特徴とする生物脱臭方法をその要旨とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、脱窒装置において脱窒作用を有する微生物により、硝酸及び/または亜硝酸を窒素に変えるとともに、制御を行うことにより、循環水に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度が2500ppm以下の値に維持される。その結果、生物脱臭装置における微生物の活性が維持され、脱臭性能の経時的な低下が防止される。また、本発明によれば、循環水を廃出する必要がないクローズ系のシステムを実現することが可能となり、従来技術の場合のような大量の新水の補給が不要となる。そのため、従来技術に比較して水代がかからなくなることに加え、廃水処理費もかからなくなることから、ランニングコストを低く抑えることができる。しかも、大掛かりな廃水処理設備などが別途必要にならないので、設備コストを低く抑えることができる。
ここで「循環水に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素」とは、通常は循環水にてイオンとして含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素(即ち硝酸イオン及び亜硝酸イオン)のことを意味する。本発明において硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を2500ppm以下の値に維持する理由は、生物脱臭装置における微生物の活性を維持するためである。前記濃度は、好ましくは0ppm以上1500ppm以下の値、より好ましくは100ppm以上1000ppm以下の値、最も好ましくは300ppm以上700ppm以下の値に維持されることがよい。
【0009】
本発明において硝化作用を有する微生物としては、例えば、Nitrosomonas、Nitrosococcus等の硝化細菌が用いられ、脱窒作用を有する微生物としては、Alcaligenes、denitrificans等の脱窒細菌が用いられる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記有機物供給装置から供給される有機物の量を調整することにより、前記循環水に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を2500ppm以下の値に維持する制御を行うことをその要旨とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によると、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度制御を、有機物供給装置から供給される有機物量の調整といった比較的簡単な手法により行うことができる。ここで用いる有機物としては、脱窒作用を有する微生物の養分となりうるものであれば特に限定されず、例えば、エタノールやメタノール等のアルコール類、グルコース等の糖類、クエン酸等の有機酸などが使用可能である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記有機物供給装置から供給される有機物の量を調整することにより、前記脱窒装置から排出される前記循環水の生物化学的酸素要求量を100ppm以下の値に維持する制御を行うことをその要旨とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によると、循環水の生物化学的酸素要求量の制御を、有機物供給装置から供給される有機物量の調整といった比較的簡単な手法により行うことができる。また、このような制御を行うことで、脱窒装置に有機物が過剰に供給されることが防止される。その結果、脱窒装置から生物脱臭装置に有機物が流入しにくくなり、生物脱臭装置における微生物に悪影響を及ぼして硝化作用が低減するといった問題も回避される。また、有機物を必要な量だけ供給できることから、有機物の消費量を低減することができ、システムのランニングコストを抑えることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記脱窒装置は、前記脱窒作用を有する微生物を担持するための担体を含んで構成されるとともに、前記担体は、セラミック多孔質体に骨成分またはリン酸カルシウムを含ませた粒状物質であることをその要旨とする。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、担体に含まれる骨成分またはリン酸カルシウムは、脱窒作用を有する微生物との親和性が高いため、微生物を活性化させる能力に優れており、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の低減に貢献できる。また、脱窒装置において微生物を活性化させる能力が高いため、微生物を担持するための担体の充填量を少なくすることが可能となり、脱窒装置の小型化を実現することができる。本発明で用いるセラミック多孔質体は、シリカ及びアルミナのうちの少なくとも一方を主要成分とすると、脱窒作用の向上に有効である。また、骨成分としては、牛、馬、羊、鶏などの獣類、魚類等の骨成分や骨リン酸を使用することができる。なお、骨リン酸は、牛の骨を酸で溶かし、水酸化カルシウムで中和した後にろ過することにより得られるものであり、肥料としても用いられる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、硝化作用を有する微生物によりアンモニアを硝酸及び/または亜硝酸に変えて脱臭する循環散水運転方式の生物脱臭装置と、前記生物脱臭装置とは別体で設けられ、脱窒作用を有する微生物により硝酸及び/または亜硝酸を窒素に変える脱窒装置と、前記脱窒作用を有する微生物の養分となる有機物を前記脱窒装置に供給する有機物供給装置とを備え、前記生物脱臭装置と前記脱窒装置との間を循環水が循環するように構成された生物脱臭システムにおいて、前記有機物供給装置から供給される有機物の量を調整する供給量調整手段と、前記循環水に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を2500ppm以下の値に維持し、かつ、前記脱窒装置から排出される前記循環水の生物化学的酸素要求量を100ppm以下の値に維持すべく、前記供給量調整手段を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする生物脱臭システムをその要旨とする。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、制御手段が供給量調整手段を制御することにより、有機物供給装置から供給される有機物の量が人手によらず自動的に調整される。この有機物の供給量を調整することにより、循環水に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度が2500ppm以下の値に維持されるとともに、循環水の生物化学的酸素要求量が100ppm以下の値に維持される。その結果、生物脱臭装置における微生物の活性が維持され、脱臭性能の経時的な低下が防止される。また、本発明によれば、循環水を廃出する必要がないクローズ系のシステムを実現することが可能となり、従来技術の場合のような大量の新水の補給が不要となる。そのため、従来技術に比べて水代がかからなくなることに加え、廃水処理費もかからなくなる。以上の結果、ランニングコストを低く抑えることができる。しかも、大掛かりな廃水処理設備などが別途必要にならないので、設備コストを低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上詳述したように請求項1〜4に記載の発明によれば、悪臭漏れ及び脱臭性能の経時的な低下を防止することができ、しかもコスト性にも優れた生物脱臭方法を提供することができる。また、請求項5に記載の発明によれば、悪臭漏れ及び脱臭性能の経時的な低下を防止することができ、しかもコスト性にも優れた生物脱臭システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図5に基づき詳細に説明する。
【0020】
図1に示されるように、本実施形態の生物脱臭システム10は、有機性廃棄物の堆肥化プラントが排出する悪臭ガス、つまりアンモニアガスを多く含む悪臭ガスを脱臭処理するためのシステムであり、循環散水運転方式の生物脱臭装置11と脱窒装置12と有機物供給装置13と制御装置14とを備える。
【0021】
生物脱臭装置11は、硝化作用を有する微生物によりアンモニアを硝酸及び/または亜硝酸に変えて脱臭する装置であり、脱窒装置12は、脱窒作用を有する微生物により硝酸及び/または亜硝酸を窒素に変える装置である。また、有機物供給装置13は、脱窒作用を有する微生物の養分となる有機物を脱窒装置12に供給する装置であり、制御装置14は、有機物供給装置13から脱窒装置12に供給する有機物の量を調整するための装置である。
【0022】
生物脱臭装置11は縦長円筒形状をした脱臭槽15を備えており、その脱臭槽15内の略中央部には担体保持部17が形成されている。この担体保持部17には、脱臭用微生物である硝化細菌を担持させた充填担体18が充填されている。本実施形態では、多数の細孔を有するセラミック多孔質体の粒子の集合体を充填担体18として用いている。このセラミック多孔質体の粒子の平均粒径は1mm〜100mm程度に設定可能であり、ここでは1mm〜5mm程度とされている。セラミック多孔質体は表面積が大きいため、アンモニアの吸着や微生物の繁殖、活性化に貢献する。
【0023】
また、生物脱臭装置11における担体保持部17のすぐ下方はガス導入室19となっていて、そのガス導入室19には、図示しない堆肥化プラントに通じるガス導入ダクト20が連結されている。ガス導入ダクト20の途上には、堆肥化プラントが発生するアンモニアガスG1を脱臭槽15のガス導入室19に圧送するためのファン21が配設されている。ガス導入室19の下方には、散水された水が貯留される貯水槽22が設けられている。一方、担体保持部17の上側の領域は散水室23となっていて、その散水室23の内部には充填担体18に水を撒くための複数の散水ノズル(図示略)が設置されている。散水室23には排気ダクト25が接続されており、その排気ダクト25を介して脱臭処理済みガスG2が外部に放出されるようになっている。
【0024】
この生物脱臭装置11は脱臭槽15の外部に散水配管31を備えている。散水配管31の始端(下端)は貯水槽22に接続される一方、散水配管31の終端(上端)は脱臭槽15の散水室23に接続されている。このような散水配管31の終端に複数の散水ノズルが取り付けられている。散水配管31の途上には、散水配管31内の散水用水W1をその始端側から終端側へと圧送するためのポンプ32が設けられている。従って、ポンプ32を作動させると、貯水槽22の水Wが散水用水W1として回収されるとともに、各々の散水ノズルから充填担体18へ向けて散水用水W1が散水されるようになっている。即ち、本実施形態の生物脱臭装置11は、脱臭槽15内に溜まった水Wを捨てずに回収し、散水配管31を経て循環供給させることで、散水用水W1として再利用する循環散水運転方式を採用している。
【0025】
このように構成された循環散水運転方式の生物脱臭装置11の基本的動作について説明する。
【0026】
ガス導入ダクト20を経てガス導入室19に導入された悪臭ガスG1は、脱臭槽15内を上方に向けて進行する。充填担体18においては硝化細菌が繁殖しているため、悪臭ガスG1が充填担体18を通過する際には、臭気成分であるアンモニアが酸化分解されて無臭化される。無臭化された脱臭処理済みガスG2は、散水室23を通り抜けて排気ダクト25から外部に放出される。つまり、この生物脱臭装置11において、悪臭ガスG1に含まれる臭気成分であるアンモニアは、硝化細菌により硝酸イオン(NO3−)または亜硝酸イオン(NO2−)となって散水された水の中に存在したり、散水された水の中に溶解したりする。このように硝酸イオンや亜硝酸イオン等を含有する水は、充填担体18から落下して貯水槽22にて貯留される。よって、貯水槽22の水Wは硝酸イオン等を含んだものとなっている。なお、貯水槽22の水Wは、硝酸イオン及び亜硝酸イオンのほかに例えばアンモニウムイオン(NH4+)やアンモニアなどを含有する。
【0027】
ポンプ32が作動されると、貯水槽22の水Wが散水用水W1として回収されるとともに、散水配管31を経て各々の散水ノズルに到る。そして、各々の散水ノズルから散水された散水用水W1は、落下して充填担体18に降り掛かる。その結果、硝化細菌の活性が維持される。充填担体18への散水は所定間隔ごと、例えば1時間〜5時間ごとに行われる。
【0028】
ところで、高濃度の硝酸イオン等を含む水W1が充填担体18に散水されると、充填担体18の脱臭用微生物の活性が低下し、脱臭能力が維持されなくなる。そのため、脱窒装置12を使用して脱窒(硝酸や亜硝酸を窒素ガスに還元)することを行い、散水用水W1に含まれる硝酸イオン及び亜硝酸イオン(即ち硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素)の濃度の上昇を抑えるようにしている。
【0029】
次に、生物脱臭装置11に別体で設けられた付帯設備である脱窒装置12の構成を説明する。
【0030】
脱窒装置12は縦長円筒形状をした脱窒槽41を備えており、その脱窒槽41の略中央には担体保持部42が形成されている。この担体保持部42には、微生物である脱窒細菌を担持させた充填担体43が充填されている。本実施形態では、多数の細孔を有するセラミック多孔質体に骨成分またはリン酸カルシウムを含ませた粒状物質の集合体を充填担体として用いている。
【0031】
具体的には、鋳物工場から排出された廃鋳物砂と骨リン酸の粉末と水とを適宜配合し、それらを混合した混合材料を加圧して成形体を成形する。そして、その成形体を焼成することで多孔質化した多孔質焼結体の粒子の集合体を充填担体43として用いている。多孔質焼結体の粒子の平均粒径は、0.5mm〜30mm程度に設定可能であり、ここでは、より好ましい範囲である1mm〜10mmに設定されている。なお、この原料となる廃鋳物砂は、シリカ及びアルミナを主要成分として含み、マグネシア、酸化鉄や炭素質粉末粒子などの物質も含む。熱処理を行うと、廃鋳物砂に含まれる有機物質が消失し、その消失跡が細孔となる。このように細孔が形成されると、多孔質体となることで表面積が増加し、微生物の繁殖、活性化に貢献する。また、骨リン酸は、リン酸カルシウムを主要成分とし、微生物との親和性が高いため、その微生物を活性化でき、微生物を利用した硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の低減に貢献する。
【0032】
脱窒装置12の脱窒槽41は、生物脱臭装置11の貯水槽22に配管45,46を介して接続されており、貯水槽22に貯留された水Wが循環水W2として脱窒槽41と貯水槽22との間を循環するように構成されている。詳しくは、配管45の始端(下端)は貯水槽22に接続される一方、配管45の終端(上端)は脱窒槽41の上部に接続されている。この配管45の途上には、配管45内の水をその始端側から終端側へと圧送するためのポンプ47が設けられている。従って、ポンプ47を作動させると、貯水槽22の水Wが吸い上げられて脱窒槽41に供給される。そして、その循環水W2は充填担体43を通ってろ過され、その際に循環水W2に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素が充填担体43の微生物の作用により脱窒されて窒素ガスに還元される。
【0033】
また、配管46の始端は脱窒槽41の下部に接続され、配管46の終端は貯水槽22に接続されており、脱窒槽41で脱窒処理が施された循環水W2が配管46を介して貯水槽22に戻されるようになっている。
【0034】
さらに、脱窒装置12には、有機物供給用配管48を介して有機物供給装置13が接続されている。この配管48の途上にはポンプ49が設けられており、該ポンプ49を作動することで、有機物供給装置13から脱窒装置12に有機物Oが供給される。脱窒装置12において、脱窒細菌の栄養となる有機物Oが供給されると、脱窒細菌が活性化されて脱窒能力が維持される。本実施形態では、有機物供給装置13が供給する有機物Oとしてメタノールを用いている。
【0035】
制御装置14は、CPU、ROM、RAM、入出力ポート等からなる周知のコンピュータを中心に構成されている。この制御装置14は、循環水W2に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度と生物化学的酸素要求量(BOD)とに基づいてポンプ49を制御することで、有機物供給装置13から脱窒装置12に供給する有機物の量を調整する。
【0036】
貯水槽22には、循環水W2に含まれる硝酸イオン及び亜硝酸イオンの濃度を測定するためのセンサ(具体的には、電気伝導度を計測する周知のセンサ)50が設けられている。制御装置14はそのセンサ50の検出信号を取り込み、該検出信号に基づいて硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を算出する。また、脱窒装置12の出口付近、すなわち配管46の始端付近には、化学的酸素要求量(COD)を測定するための周知のセンサ51が設けられている。制御装置14は、そのセンサ51の検出信号を取り込み、該検出信号に基づいてCODを求める。また、制御装置14にはCODからBODの値に換算するためのテーブルデータが予め記憶されており、制御装置14は、そのテーブルデータを用いてBODの値を算出する。
【0037】
制御装置14は、循環水W2に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度が2500ppm以下の値となるようポンプ49の駆動を制御し、供給する有機物の量を調整する。また、制御装置14は、循環水W2のBODが100ppm以下の値となるようポンプ49の駆動を制御し、供給する有機物の量を調整する。なお、ポンプ49の駆動を制御する具体的態様としては、ポンプ49を駆動する時間を増減させる制御などを例示することができる。
[実施例1]
【0038】
次に、上記実施形態をさらに具体化した実施例1について説明する。
【0039】
生物脱臭装置11において、セラミック多孔質体の粒子を脱臭槽15の担体保持部17に12リットル充填した。そして、ガス導入ダクト20におけるアンモニアガス濃度(即ち入口アンモニア濃度)を40ppmに設定し、生物脱臭装置11の運転を行った。この場合において、LV値(空塔線速度)を0.06m/s、SV値(空間速度)を600h−1にそれぞれ設定した。
【0040】
一方、脱窒装置12において、鋳物工場から排出された廃鋳物砂(80体積%)と骨リン酸(20体積%)の粉末との混合材料を焼成して多孔質化したセラミック多孔質体の粒子を脱窒槽41の担体保持部42に1リットル充填した。また、充填担体43に土壌から抽出したAlcaligens族の脱窒細菌を担持させた。具体的には、脱窒細菌を液体培地を用い、25℃で一晩振とう培養した液中に担体を投入し、2時間放置後に取り出して使用するといった担持法を用いた。そして、ろ過速度を5m/dに設定し脱窒装置12の運転を行った。また、有機物供給装置13には、有機物Oとしてメタノール10%溶液を充填し、所定量の有機物Oを脱窒装置12に1日毎供給した。
【0041】
そして、所定の日数が経過した後に貯水槽22中の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度と、排気ダクト25を通過する脱臭処理済みガスG2に含まれるアンモニアガス濃度(即ち出口アンモニア濃度)と、脱窒装置12から排出される循環水W2に含まれる生物化学的酸素要求量(即ち出口BOD濃度)とを測定した。
【0042】
その結果を図2の表、及び図3〜図5のグラフに示す。図2及び図3に示されるように、本実施例1では、貯水槽22中の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を500ppmを中心としたほぼ一定の値(340ppm〜680ppm)に維持することができた。また、図2及び図4に示されるように、出口アンモニア濃度も1ppm以下となり、安定した脱臭能力を得ることができた。つまり、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度の増加を抑えることで、アンモニアの揮発が防止されるとともに、硝化細菌が活性化されて、アンモニアガスの漏れを防ぐことができた。さらに、図2及び図5に示されるように、脱窒装置12出口のBOD濃度も100ppm以下の値に維持されており、有機物が生物脱臭装置11内に流入しないよう必要量だけ供給されていることが確認された。
[比較例1]
【0043】
比較例1では、脱窒装置12への有機物の供給量を調整せずに(つまり制御装置14による制御を全く行うことなく)、有機物を一定量供給(過剰供給)し続けた。それ以外の条件は実施例1と同じとした。この比較例1では、脱窒装置12に大量の有機物が供給されることから、BOD濃度が急激に上昇した(図4参照)。つまり、脱窒装置12内で有機物が分解されずに生物脱臭装置11側に流入してしまうため、硝化細菌に悪影響を及ぼし、脱臭能力が低下した。また、脱窒装置12における脱窒が急激に起こったことで、貯水槽22中のpHが高くなり、アンモニアが急激に揮発して出口アンモニア濃度が高くなった(図5参照)。このことから、脱窒装置12出口のBOD濃度を100ppm以下の値に維持する必要があることが確認された。なお、比較例1の測定は、生物脱臭装置11内にて脱臭ができなくなったので、途中(25日目)でシステムの運転を中止した。
[比較例2]
【0044】
比較例2では、脱窒装置12において充填担体43を充填せずに、脱窒を行わない状態にした。また、生物脱臭装置11の運転状態は実施例1と同じとした。図3及び図4に示されるように、この比較例2では、測定を開始して所定期間(この例では開始から60日の期間)においては、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度が2500ppmよりも低く、出口アンモニア濃度が1ppm以下となり、生物脱臭装置11の脱臭能力が安定していた。しかし、所定期間が経過すると、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度が上昇して2500ppmを超えることがわかり、それゆえ生物脱臭装置11の脱臭能力低下によって出口アンモニア濃度が1ppmを超えてしまうこともわかった。このことから、生物脱臭装置11の脱臭能力を保つためには、貯水槽22の水Wに含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を2500ppm以下に維持する必要があることが確認された。
【0045】
さて、以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0046】
(1)脱窒装置12において循環水W2の脱窒が行われることで、循環水W2に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度が2500ppm以下の値に維持される。その結果、生物脱臭装置11における硝化細菌の活性が維持されることで脱臭性能の経時的な低下が防止されるとともに、散水時のアンモニアの揮発量が減ることで脱臭槽15外への悪臭漏れが防止される。
【0047】
(2)本実施形態の生物脱臭システム10は、循環水W2を廃出する必要がないクローズ系の構成となり、従来技術の場合のような大量の新水の補給が不要となる。そのため、従来技術に比較して水代がかからなくなることに加え、廃水処理費もかからなくなることから、ランニングコストを低く抑えることができる。しかも、大掛かりな廃水処理設備などが別途必要にならないので、設備コストを低く抑えることができる。また、廃水処理設備を設けなくてよいため、生物脱臭システム10を設置する際の自由度が増す。
【0048】
(3)制御装置14がポンプ49の駆動を制御することで、有機物供給装置13から供給される有機物Oの量が人手によらず自動的に調整され、脱窒装置12に有機物Oが過剰に供給されることが防止される。このため、循環水W2に含まれる生物化学的酸素要求量(BOD)が100ppm以下の値に維持される。その結果、生物脱臭装置11に有機物Oが流入し、生物脱臭装置11における微生物に悪影響を及ぼし、微生物による硝化作用が低減するといった問題を回避することができる。また、有機物Oを必要な量だけ供給できることから、有機物Oの消費量が低減され、ランニングコストを抑えることができる。
【0049】
(4)脱窒装置12の充填担体43に含まれる骨リン酸は、脱窒作用を有する微生物との親和性が高いため、微生物を活性化させることができ、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の低減に貢献できる。また、脱窒装置12において微生物を活性化させる能力が高いため、充填担体43を小さくすることが可能となり、付帯設備である脱窒装置12の小型化を実現することができ、システム全体の大型化を回避することができる。
【0050】
(5)鋳物工場から廃棄される廃鋳物砂を充填担体43の原料として有効利用しているので、充填担体43の低コスト化を図ることができる。
【0051】
なお、本発明の実施形態等は以下のように変更してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、供給量調整手段としてポンプ49を用いるものであったが、これに限定されるものではない。例えば、配管48の途中に電磁弁を設け、電磁弁の開閉動作により有機物Oの供給量を調整してもよい。
【0053】
・上記実施形態では、有機物供給装置13から供給される有機物Oの量を調整することによりBODの値を100ppmに維持するものであったが、これに限定されるものではない。例えば、配管46の途中にBODの低減装置(具体的には、循環水W2に酸素を送り込みバブリングすることでBODの値を下げる低減装置)を設けてもよい。但し、この構成では、過剰な有機物Oが脱窒装置12に供給されることになるため、上記実施形態のように、有機物Oの供給量を調整する構成の方が、有機物Oの消費コストを抑えることができ、実用上好ましいものとなる。
【0054】
・上記実施例1のように、貯水槽22中の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を500ppmを中心としたほぼ一定の値に維持することができれば、BODの値は必ず100ppm以下の値となる。この場合、BODの値を監視する必要はなく、センサ51を省略することが可能となる。
【0055】
・上記実施形態では、循環水W2に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を検出するためのセンサ50は貯水槽22に設けるものであったが、これに限定されるものではなく、例えば配管45の途上に設けてもよい。
【0056】
・制御装置14は、ポンプ49の駆動を制御して有機物Oの供給量を調整するものであったが、ポンプ49以外に、ポンプ32,47やファンの駆動21など、システム全体を統括的に制御するよう構成してもよい。
【0057】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態等によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0058】
(1)前記循環水の電気伝導度をセンサで検出し、その電気伝導度に基づいて算出した硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を2500ppm以下の値に維持することを特徴とする請求項2に記載の生物脱臭方法。
【0059】
(2)前記脱窒装置から排出される循環水の化学的酸素要求量をセンサで検出し、その化学的酸素要求量に基づいて算出した生物化学的酸素要求量を100ppm以下の値に維持することを特徴とする請求項3に記載の生物脱臭方法。
【0060】
(3)前記セラミック多孔質体は、シリカ及びアルミナのうちの少なくとも一方を主要成分として含むことを特徴とする請求項4に記載の生物脱臭方法。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明を具体化した実施形態の生物脱臭システムを示す概略図。
【図2】実施例1及び比較例1,2における測定結果を示す表。
【図3】実施例1及び比較例1,2における硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素濃度の変化を示すグラフ。
【図4】実施例1及び比較例1,2におけるアンモニア濃度の変化を示すグラフ。
【図5】実施例1及び比較例1,2におけるBOD濃度の変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0062】
10…生物脱臭システム
11…生物脱臭装置
12…脱窒装置
13…有機物供給装置
14…制御手段としての制御装置
43…充填担体
49…供給量調整手段としてのポンプ
O…有機物
W2…循環水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝化作用を有する微生物によりアンモニアを硝酸及び/または亜硝酸に変えて脱臭する循環散水運転方式の生物脱臭装置と、前記生物脱臭装置とは別体で設けられ、脱窒作用を有する微生物により硝酸及び/または亜硝酸を窒素に変える脱窒装置と、前記脱窒作用を有する微生物の養分となる有機物を前記脱窒装置に供給する有機物供給装置とを備え、前記生物脱臭装置と前記脱窒装置との間を循環水が循環するように構成された生物脱臭システムを用いた生物脱臭方法において、
前記循環水に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を2500ppm以下の値に維持する制御を行うことを特徴とする生物脱臭方法。
【請求項2】
前記有機物供給装置から供給される有機物の量を調整することにより、前記循環水に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を2500ppm以下の値に維持する制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の生物脱臭方法。
【請求項3】
前記有機物供給装置から供給される有機物の量を調整することにより、前記脱窒装置から排出される前記循環水の生物化学的酸素要求量を100ppm以下の値に維持する制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の生物脱臭方法。
【請求項4】
前記脱窒装置は、前記脱窒作用を有する微生物を担持するための担体を含んで構成されるとともに、前記担体は、セラミック多孔質体に骨成分またはリン酸カルシウムを含ませた粒状物質であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の生物脱臭方法。
【請求項5】
硝化作用を有する微生物によりアンモニアを硝酸及び/または亜硝酸に変えて脱臭する循環散水運転方式の生物脱臭装置と、前記生物脱臭装置とは別体で設けられ、脱窒作用を有する微生物により硝酸及び/または亜硝酸を窒素に変える脱窒装置と、前記脱窒作用を有する微生物の養分となる有機物を前記脱窒装置に供給する有機物供給装置とを備え、前記生物脱臭装置と前記脱窒装置との間を循環水が循環するように構成された生物脱臭システムにおいて、
前記有機物供給装置から供給される有機物の量を調整する供給量調整手段と、
前記循環水に含まれる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度を2500ppm以下の値に維持し、かつ、前記脱窒装置から排出される前記循環水の生物化学的酸素要求量を100ppm以下の値に維持すべく、前記供給量調整手段を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする生物脱臭システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−35028(P2006−35028A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215622(P2004−215622)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】